説明

外形加工方法

【課題】製品基板の製品としての信頼性を低下させることなく、加工能率を向上させることができる、外形加工方法を提供する。
【解決手段】製品基板2の仕上げ面Sに交差するスルーホール(空洞部)1が存在する場合は、仕上げ面Sとスルーホール1とが交差する2個の交差部の内、右回転のドリル7がスルーホール1から製品基板2に切り込む側になる交差部Dに干渉する逃げ穴8を加工する。その後、左回転のルータビット5の移動方向Cを、逃げ穴8側からスルーホール1に進入する方向として、仕上げ面Sを加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具を用いてワーク(例えば、プリント基板)の外形を形成する外形加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板を加工する場合、製品となるプリント基板(以下、「製品基板」という。)が複数含まれる大きいプリント基板(以下、「母基板」という。)の状態で穴明け加工および穴明け後のメッキ加工を行なった後、母基板から製品基板を切り出す(外形加工)ようにしている。このようにすると、穴明け加工工程および穴明け加工後のめっき工程における段取り時間を短縮することができる。
【0003】
製品基板の信頼性を向上させるため、穴明け加工時および外形加工時に発生する切粉は工具の周辺に配置された集塵装置により加工部周辺から除去される(特許文献1)。
【0004】
多層プリント基板において絶縁物の上下に配置されたパターン層を電気的に接続する場合、スルーホール(貫通穴)を形成し、めっき処理をすることによりスルーホールの内部にめっき層を形成して電気的に接続する。
【0005】
図2は、従来の外形加工時における製品基板の平面図であり、図中の矢印Tは回転工具の回転方向を、矢印Cは切削方向(回転工具の移動方向)を示している。
【0006】
母基板3から切り出される製品基板2の外周(外形)には、外周に開口するスルーホール1(図示の場合半円形状)が配置されている。めっき層4が形成されたスルーホール1を外形加工用の回転工具(直径1〜2mmのものが多用されている。以下、「ルータビット5」という。)で切削すると、めっき層4の一部がはがれることが多い(以下、はがれためっき層を「バリ6」という)。バリ6とスルーホール1端部のめっき層4との接続は強固なものではない。したがって、バリ6の多くは加工の際に集塵装置により吸引されるが、一部は加工後もめっき層4に接続されたままになる。バリ6は導電性であるため、バリ6が何らかの原因で製品基板2から離れると、離れたバリ6が製品基板2の端子間を短絡させてしまう場合がある。バリ6は、ルータビット5が基板側からスルーホール1に進入する側(抜ける側)の交差部に発生し、スルーホール1から基板側に進入する側の交差部には発生しない。そこで、従来は、いわゆる反転加工を行っていた。
【0007】
図3は、反転加工の加工手順を示す図である。
【0008】
同図(a)に示すように、先ず、製品基板2の外形(図中1点鎖線で示す紙面と垂直な面。以下、「仕上げ面S」という。)に対してオフセットがgである面(以下、「一次加工面F」という。)を加工する。なお、一次加工面Fを加工する場合は、製品基板2の一部を母基板3に接続させておき、母基板3を表裏反転させる際に製品基板2が母基板3から外れないようにしておく。
【0009】
次に、同図(b)に示すように、母基板3を表裏反転させ、ルータビット5の移動方向を同じにして仕上げ面Sを加工する。一次加工面Fが形成された母基板3を表裏反転すると、一次加工で発生したバリ6はルータビット5がスルーホール1から基板側に進入する側に配置されるので、同図(c)に示すように、仕上げ面Sを形成する際に製品基板2から除去される。仕上げ加工の場合も、ルータビット5が製品基板2側からスルーホール1に進入側にはバリ6が発生する場合があるが、オフセットgを小さく(例えば、0.05mm)しておけば、発生するバリ6の大きさは微小である。したがって、発生したバリ6が製品基板2から外れたとしても製品基板2の製品としての信頼性を低下させることはほとんどない。
【0010】
なお、ここではルータビット5が右回転(正回転)用である場合について説明したが、ルータビット5が左回転(逆回転)用であっても、バリ6が発生する位置はルータビット5が母基板3からスルーホール1に抜ける側である。
【0011】
【特許文献1】特開平3−178707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、反転加工を行う場合、加工テーブルから母基板を取り外す工程、母基板を反転させる工程、反転させた母基板を加工テーブル取り付ける工程が必要になるので、段取り時間が長くなる。また、母基板の取り付けミスにより加工不良が発生するおそれがある。
【0013】
本発明の目的は、製品基板の製品としての信頼性を低下させることなく、加工能率を向上させることができる、外形加工方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は(例えば図1参照)、回転工具(5)による切削加工によりワーク(2)の外周面(S)を形成する外形加工方法において、形成される前記ワークの外周面(S)に交差する空洞部(1)が存在する場合は、前記回転工具(5)が前記ワークに対して移動して前記ワークの外周面を形成する際における前記空洞部(1)の前記回転工具の移動方向(C)上流側の交差部(D)に、前記形成されるワークの外周面(S)に干渉するように穴明け手段(7)により逃げ穴(8)を加工し、
その後、前記回転工具(5)の刃の回転方向(T)を前記形成されるワークの外周面(S)に対して該回転工具の移動方向(C)に順ずるようにした状態で、該回転工具(5)を前記逃げ穴(8)から前記空洞部(1)に向かって進入するように移動して、前記ワークの外周面を形成することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記穴明け手段がドリル(7)であり、前記逃げ穴(8)を加工する際の該ドリルの刃の回転方向(U)が前記回転工具(5)の刃の回転方向(T)と逆である。
【0016】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、製品基板の製品としての信頼性を低下させることなく、加工能率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明の加工手順を示す説明図であり、(a)はドリルによる穴明け工程を、(b)は外形加工工程を、それぞれ示している。
【0020】
母基板3には、スルーホール1が加工されており、このスルーホール1の内周面にはめっき層4が形成されている。ドリルおよびルータビット5を回転させるプリント基板加工機のスピンドルは、正転および逆転が可能である。
【0021】
一般に、ドリルは右回転用のものが多いので、ここでは右回転用のドリル7と、左回転用のルータビット5が準備されている。なお、ルータビット5の場合、右回転用および左回転用のいずれもが容易に入手可能である。
【0022】
工程1.ドリル7により逃げ穴8を加工する。
ドリル7が右回転用であるので、同図(a)に示すように、逃げ穴8が仕上げ面Sとスルーホール1の交差部Dに干渉するようにドリル7の軸線を位置決めし、母基板3に逃げ穴8を加工する。ドリル7は交差部D近傍においてスルーホール1側から母基板3に向けて切り込むのでバリ6は発生しない。なお、スルーホール1の直径が例えば0.8mmである場合、ドリルの直径を0.8mm、逃げ穴8が仕上げ面Sに干渉する距離kを0.025mm程度とすればよい。すなわち、仕上げ面SをX方向、仕上げ面Sに垂直な方向をY方向とし、交差部D(ここでは、めっき4の厚さは無視する)を原点とすると、例えば、ドリル7の軸線Oを、(0,0.375)に定める。なお、この場合、ドリル7の軸線OのX座標は、−0.1〜0.1(好ましくは−0.05〜0.05)にしても実用上差し支えない。
【0023】
工程2.ルータビット5により仕上げ面S(外形)を加工する。
ルータビット5の回転方向Tを形成されるワーク2の仕上げ面Sに対して該ルータビット5の移動方向Cに順ずるように設定して、逃げ穴8が加工された交差部Dにおいてルータビット5がスルーホール1に進入するようにして加工する。すなわち、同図(b)に示すように、左回転のルータビット5を右方向に移動させて仕上げ面Sを加工する。ルータビット5がスルーホール1に進入する際、この部分のめっき層4はすでに除去されているので、交差部Dにバリ6が発生することはない。また、交差部E近傍ではルータビット5の刃がスルーホール1側から母基板3に進入するので、バリ6は発生しない。
【0024】
なお、この実施例では深さ方向にk=0.025mm削除するようにしたが、この寸法についても、実用上問題のない範囲で大きくあるいは小さくすることができる。
【0025】
また、ドリル7の直径あるいはルータビット5の直径も実用上問題のない範囲で変更することができる。
【0026】
また、左回転用のドリル7を使用する場合には、逃げ穴8を図1(a)における交差部E側に加工し、ルータビット5を右回転用とすると共に、ルータビット5の移動方向を右から左方向にすればよい。
【0027】
また、ルータビット5に代えてワーク2を移動させても良い。また、逃げ穴8の加工は、外形加工工程と同じプリント基板加工機を用いることができるため、ドリルによることが好ましいが、必ずしもそれに限るものではなく、レーザ加工機等の他の穴明け手段により加工してもよい。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、母基板3を反転する必要がないので、加工能率を向上させることができる。しかも、従来の反転加工と異なり、バリ6が全く発生しないので、製品基板2の信頼性をさらに向上させることができる。
【0029】
本発明者は、母基板3が板厚0.5mmのガラスエポキシ樹脂基板である場合、従来は重ね枚数として2枚が限度であったのに対し、本発明の場合は重ね枚数を4〜5枚としてもバリ6が発生せず、加工能率を大幅に向上できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の加工手順を示す説明図である。
【図2】従来の外形加工時における製品基板の平面図である。
【図3】従来の反転加工の加工手順を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 スルーホール(空洞部)
5 ルータビット(回転工具)
7 ドリル(穴明け手段)
8 逃げ穴
D 交差部
S 仕上げ面(外周面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具による切削加工によりワークの外周面を形成する外形加工方法において、
形成される前記ワークの外周面に交差する空洞部が存在する場合は、
前記回転工具が前記ワークに対して移動して前記ワークの外周面を形成する際における前記空洞部の前記回転工具の移動方向上流側の交差部に、前記形成されるワークの外周面に干渉するように穴明け手段により逃げ穴を加工し、
その後、前記回転工具の刃の回転方向を前記形成されるワークの外周面に対して該回転工具の移動方向に順ずるようにした状態で、該回転工具を前記逃げ穴から前記空洞部に向かって進入するように移動して、前記ワークの外周面を形成する、
ことを特徴とする外形加工方法。
【請求項2】
前記穴明け手段がドリルであり、前記逃げ穴を加工する際の該ドリルの刃の回転方向が前記回転工具の刃の回転方向と逆である、
請求項1記載の外形加工方法。
【請求項3】
前記空洞部の内周面にメッキが施されている、
請求項1又は請求項2記載の外形加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−80457(P2008−80457A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264361(P2006−264361)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】