説明

外来複合体サブユニットタンパク質を高発現させる方法

【課題】2以上の外来複合体サブユニットタンパク質の生産効率を同時に上昇させる方法であって、なおかつ、それら生産された外来複合体サブユニットがその複合体の天然構造と同様の立体構造の複合体を形成する方法を提供する。
【解決手段】プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が特定の配列で示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたDNA構築物を用いる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来複合体サブユニットタンパク質を高発現させるために用いることのできるDNA構築物や、該DNA構築物の製造方法や、該DNA構築物を含む組換えベクターや、該組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体や、外来複合体サブユニットタンパク質の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
原核生物や真核生物由来のタンパク質をコードする外来遺伝子を、遺伝子組換え技術を用いて宿主に導入して発現させ、外来タンパク質を生産させる試みは広く行われている。
【0003】
多くのタンパク質は、遺伝子組換え技術が開発される以前は、その供給源となる材料が限られることが多いため、ほとんど純粋な形で得られることは少なく、ほとんど研究対象となることが無かった。しかし、遺伝子組換え技術の開発で、例えば大腸菌を用いて、多くの微生物の酵素タンパク質や高等生物由来のホルモンタンパク質や酵素タンパク質の発現が可能となり、多くのタンパク質が不純物の少ない状態で大量に得られるようになった。
【0004】
そして、既に多くのタンパク質は、この遺伝子組換え技術を利用して、大腸菌だけでなく、様々な細菌細胞或いは真核生物由来の細胞を宿主として生産されるようになっており、試薬、医薬品或いは工業用酵素として製品化されている。しかしながら、大腸菌を宿主とした外来タンパク質の生産は、他の細菌細胞や真核生物由来の細胞を宿主として生産する場合に較べてタンパク質の生産に必要なプロセス(転写、翻訳)の知識が蓄積されているため、現在でも最も広く使用されている。そして、転写、翻訳、タンパク質の折りたたみ過程の基本的な知識の最近の進展は、大腸菌を利用した外来タンパク質の発現、生産をさらに有用なものにしている。
【0005】
大腸菌を用いて外来タンパク質を生産する利点は、宿主である大腸菌が特に生育が早いこと、安価な基質を含んだ培養液で高い生産性が得られること、更にこれまで多くの研究成果が蓄積されており、その結果、その豊富な遺伝学的知識から、多くのクローニングベクターとそのクローニングベクターを維持、管理する変異型大腸菌が数多く開発されていることが挙げられる。しかし、このような大腸菌とクローニングベクターを用いても、転写、翻訳がスムーズに進行し、菌体内に蓄積されるタンパク質が、目的とする分子量を持ったタンパク質として得られるかどうかの保証は必ずしもないのが現状である。このため、大腸菌を用いて外来タンパク質を生産する様々な改良がなされているというのが現状である。
【0006】
ここで大腸菌を宿主として、組換えタンパク質を生産させるためには、少なくとも、大腸菌細胞中の転写、翻訳装置を利用できるような機能配列が適切な位置関係で配置されたベクターを用いる必要がある。その簡単な説明図を、図1に示した。図1中、プロモーターとは、RNAポリメラーゼが認識する遺伝子上の構造である。オペレーターは、レプレッサーが結合する部位であり、一般にリプレッサータンパク質が結合しているとこの遺伝子の転写は抑制される。転写開始点とは、転写の際、mRNAの転写の開始点である。SDとは、リボゾームが認識し、翻訳が開始するために必要なシャイン・ダルガーノ(SD)構造である。ATGは、mRNAがタンパク質に翻訳される際の最初のメチオニンをコードする開始コドンを示す。STOPは、タンパク質の翻訳が終了する終止コドンである。即ち、転写調節領域であるプロモーター配列及びオペレーター配列や、転写後にリボゾーム結合部位となるシャイン・ダルガーノ(SD)配列や、SD配列の直後に存在する翻訳開始コドンであるATG を少なくとも有し、ATG下流には、目的外来タンパク質をコードする遺伝子を配置する。
【0007】
大腸菌を用いて外来蛋白質を効率よく発現、生産する方法として、強力なプロモーターを用いる方法がよく知られている。しかし、強力なプロモーターを用いる方法は、プロモーター下流に配置された目的遺伝子の転写量の増大には効果があるが、この目的遺伝子がコードするタンパク質の翻訳量の増大を保証するものではない。
【0008】
ポストゲノム時代の一翼を担う研究手法として期待されているプロテオミクス研究では、ゲノムにコードされている全タンパク質の高発現化が必須であるが、現状では生産効率の良いタンパク質のみを端から分析しているだけであり、ゲノム上に連続してコードされる、複合体を形成する2以上のサブユニットタンパク質等の発現効率が低いタンパク質は、プロテオミクス研究から取り残されている。というのも、通常の生産効率の良いタンパク質は、そのタンパク質をコードする遺伝子の上流に強力なプロモーターを連結するなどして、その遺伝子の転写量を増大することによって、そのタンパク質の発現量も増大することが多いが、ゲノム上に連続してコードされる、複合体を形成する2以上のサブユニットタンパク質の場合、それら2以上の遺伝子の上流に強力なプロモーターを連結してそれら遺伝子の転写量を増大しても、それらのサブユニットタンパク質の生成は十分には上昇しない場合が多いという問題があるからである。
【0009】
複合体を形成する複数のサブユニットタンパク質を発現させる方法としては、各々のサブユニットタンパク質をコードする遺伝子を別々の組換体で発現させ、得られたサブユニットタンパク質を試験管内で混合して複合体タンパク質構造を完成させる方法がある(非特許文献1)。しかし、試験管内の混合で作製されたサブユニットタンパク質は、複合体を形成しない場合や、複合体を形成する場合であっても、その複合体の天然構造とは異なる立体構造をとる場合が多く、実用上問題があった。また、複数のサブユニットタンパク質を発現させる他の方法としては、従来どおり、各サブユニットタンパク質をコードする遺伝子が並んだ天然の遺伝子領域を単独の組換体に組み込んで同時発現させる方法があるが、各遺伝子の発現効率に偏りがあり、また、全体として発現効率が低い。複数のサブユニットタンパク質を発現させる他の方法としてさらに、複数の異なるサブユニットから成る膜タンパク質を合成する方法であって、最も疎水性の高いサブユニットを導入した発現ベクター、その他のサブユニットを導入した発現ベクター及び細胞膜断片並びに任意にアミノ酸以外の機能成分を含有する無細胞反応液中でこれら発現ベクターを発現させることから成り、該最も疎水性の高いサブユニットを導入した発現ベクターがバクテリアのP450上流の非翻訳領域、最も疎水性の高いサブユニットをコードする配列及び任意に選択マーカー配列を5’側から順に挿入した発現ベクターであることを特徴とする膜タンパク質の合成方法が知られている(特許文献1)。しかし、この合成方法は、疎水性の高い膜タンパク質複合体の発現・生産をターゲットに特化した方法であり、特許文献1における方法(細胞膜断片を懸濁させた無細胞系でのタンパク質の生産方法)では、水溶性のタンパク質の生産を行うことができないか、仮に行うことが可能であったとしても、生産効率が著しく低いことが予想される。以上のことから分かるように、2以上の外来複合体サブユニットタンパク質(該タンパク質が水溶性、疎水性のいずれかを問わない)の生産効率を同時に上昇させる方法であって、なおかつ、それら生産された外来複合体サブユニットがその複合体の天然構造と同様の立体構造の複合体を形成する方法は、これまで知られていなかった。
【0010】
一方、単一のタンパク質をコードする遺伝子を過剰生産させる方法としては、その遺伝子を有するベクターとして、その遺伝子の直前に所定のリーダー配列(リーダーORF:第1シストロン)を、リーダー配列の終止コドンの一部の塩基配列と、その遺伝子の開始コドンの一部の塩基配列が重複するように配置したベクターを用いる方法が知られている(特許文献2)。この特許文献2では、リーダー配列(リーダーORF)として、大腸菌lacZ遺伝子の最初の15塩基から始まる全長36塩基のリーダー配列を用いている。しかし、特許文献2で用いられているリーダー配列(リーダーORF)を、単一のタンパク質をコードする遺伝子ではなく、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列に適用することは知られていなかった。
【0011】
【特許文献1】特開2005−295914号公報
【特許文献2】特開2001−321181号公報
【非特許文献1】FEMS MICROBIOLOGY Letters 216 (2002), 179-183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、2以上の外来複合体サブユニットタンパク質の生産効率を同時に上昇させる方法であって、なおかつ、それら生産された外来複合体サブユニットがその複合体の天然構造と同様の立体構造の複合体を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたDNA構築物を用いることによって、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、(1)プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたことを特徴とするDNA構築物や、(2)リーダー配列が以下の(a)〜(e)のいずれかのヌクレオチドであることを特徴とする上記(1)に記載のDNA構築物:(a)配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるヌクレオチド、(b)配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、若しくは付加されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド、(c)配列番号3に示されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチドであって該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド、(d)配列番号4に示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド、(e)配列番号4に示されたアミノ酸配列において、1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド、や、(3)外来遺伝子配列の開始コドンがATGであり、リーダー配列の終止コドンがTGAであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のDNA構築物や、(4)ヌクレオチドの開始コドンがATGであり、終止コドンがTGAであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載のDNA構築物や、(5)リーダー配列の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とで重複しているヌクレオチド配列が、A又はATGAであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のDNA構築物や、(6)プロモーター配列が、テトラサイクリン耐性遺伝子プロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター誘導体、トリプトファン生合成系オペロンプロモーター、ファージT7RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージT3RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージSP6RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、低温感受性プロモーター、ファージλPLプロモーター、アルカリフォスファターゼ遺伝子プロモーター、及びアラビノースプロモーターからなる群から選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のDNA構築物や、(7)プロモーター配列が、tetプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、trpプロモーター、PT7プロモーター、PT3プロモーター、PSP6プロモーター、PcspAプロモーター、λPLプロモーター、phoAプロモーター、及びaraBADプロモーターから選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のDNA構築物や、(8)外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子が、Pyrococcus furiosus由来のtrpA遺伝子及びtrpB遺伝子であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のDNA構築物に関する。
【0015】
また本発明は、(9)プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部が制限酵素認識部位と重複しているベクターに、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列を、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複するように挿入する工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のDNA構築物の製造方法に関する。
【0016】
さらに本発明は、(10)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のDNA構築物を含むことを特徴とする組換えベクターや、(11)pαβOV8であることを特徴とする上記(10)に記載の組換えベクターに関する。
【0017】
また本発明は、(12)上記(10)又は(11)に記載の組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られることを特徴とする形質転換体や、(13)宿主細胞が細菌であることを特徴とする上記(12)に記載の形質転換体や、(14)細菌がエシェリヒア属に属する細菌であることを特徴とする上記(13)に記載の形質転換体に関する。
【0018】
さらに本発明は、(15)上記(12)〜(14)のいずれかに記載の形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の発現方法に関する。
【0019】
また本発明は、(16)上記(12)〜(14)のいずれかに記載の形質転換体を培養する工程と、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程を含むことを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の製造方法に関する。
【0020】
さらに本発明は、(17)上記(16)に記載の外来複合体サブユニットタンパク質の製造方法により得られた外来複合体サブユニットタンパク質を被検物質と接触させる工程と、被検物質を接触させた外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質のスクリーニング法に関する。
【0021】
また本発明は、(18)上記(10)に記載の組換えベクターにおいて、2以上の外来遺伝子配列に変異が導入された組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成に関与する部位を特定する方法に関する。
【0022】
さらに本発明は、(19)プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする1以上の外来遺伝子配列と、被検タンパク質をコードする1以上の被検外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、1以上の外来遺伝子配列及び1以上の被検外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたDNA構築物を含む組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質と複合体を形成するタンパク質のスクリーニング法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のDNA構築物や組換えベクターや形質転換体を用いることによって、2以上の外来複合体サブユニットタンパク質の生産効率を同時にかつ低コストで上昇させることができる。また、本発明のDNA構築物等を用いることによって得られた2以上の外来複合体サブユニットタンパク質は、天然構造と同様の立体構造の複合体を形成する。そのため、本発明を利用することによって、従来の方法ではタンパクレベルで十分には発現させることができなかった2以上の外来複合体サブユニットタンパク質を、天然構造と同様の複合体を形成した状態で得ることが可能となり、ポストゲノムの研究の障害となっている、機能未知の複合体サブユニットタンパク質の解析に極めて有用な手法を提供することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のDNA構築物としては、プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されている限り特に制限されず、かかるDNA構築物を用いることによって、発現効率の低い、2以上の外来複合体サブユニットタンパク質の生産効率を同時に上昇させることが可能となり、なおかつ、それら生産された外来複合体サブユニットはその複合体の天然構造と同様の立体構造の複合体を形成し得る。
【0025】
上記リーダー配列(リーダーORF)としては、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、該リーダー配列を含まないDNA構築物を用いる場合に比べて、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子の翻訳効率が上昇している限り特に制限されない。リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列であると、本明細書の実施例で用いたリーダー配列と同様の効果が得られると考えられる。このことは、特開2001−321181号公報とJ. Biochem. 132 (2002), 63-70との比較において、リーダー配列のN末端側から6番目から11番目のアミノ酸配列にかかわらず、リーダー配列の3’末端の終止コドンと外来遺伝子配列の開始コドンとが重複しているかどうかで外来遺伝子の発現効率が顕著に変化していることからも支持される。
本発明における好ましいリーダー配列としては、以下の(a)〜(e)のいずれかのヌクレオチドを例示することができる。
(a)配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるヌクレオチド
(b)配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、若しくは付加されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
(c)配列番号3に示されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチドであって該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
(d)配列番号4に示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド
(e)配列番号4に示されたアミノ酸配列において、1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
さらに好ましいリーダー配列(リーダーORF)としては、(a)配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるヌクレオチドや、(d)配列番号4に示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチドや、上記(b)及び上記(c)のヌクレオチドにおいて、配列番号3に示されるヌクレオチド配列に対して80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するヌクレオチドや、上記(e)のヌクレオチドにおいて、配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチドや、上記(b)及び上記(c)のヌクレオチドにおいて、欠失等されたヌクレオチドの個数の上限が、12個、好ましくは9個、より好ましくは6個、さらに好ましくは3個、より好ましくは2個であるヌクレオチドや、上記(e)のヌクレオチドにおいて、欠失等されたアミノ酸の個数の上限が4個、好ましくは3個、より好ましくは2個であるアミノ酸配列をコードするヌクレオチドを例示することができ、さらに好ましくは、(a)配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるヌクレオチドや、(d)配列番号4に示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチドを例示することができる。
【0026】
上記ヌクレオチドにおける「ストリジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、60%以上、70%以上若しくは80%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0027】
本発明におけるリーダー配列(リーダーORF)の全長のアミノ酸数としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、全長のアミノ酸数があまり多いと翻訳効率の上昇があまり得られず、一方、リーダー配列(リーダーORF)内に1又は2以上の制限酵素サイトが存在すると、DNA構築物の構築が容易になることから、5〜50アミノ酸であることが好ましく、5〜35アミノ酸であることがより好ましく、5〜20アミノ酸であることがさらに好ましく、7〜15アミノ酸であることがさらにより好ましく、9〜13アミノ酸であることがよりさらに好ましい。
【0028】
上記本発明のDNA構築物におけるプロモーター配列としては、DNA構築物の使用態様等に応じて適宜選択することができるが、例えばDNA構築物をエシェリヒア属に属する細菌に導入して外来複合体サブユニットタンパク質を製造する場合は、宿主である細菌で機能し得るプロモーターを用いることができ、この場合具体的には、テトラサイクリン耐性遺伝子プロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター誘導体、トリプトファン生合成系オペロンプロモーター、ファージT7RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージT3RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージSP6RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、低温感受性プロモーター、ファージλPLプロモーター、アルカリフォスファターゼ遺伝子プロモーター、及びアラビノースプロモーターからなる群から選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列を例示することができ、tetプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、trpプロモーター、PT7プロモーター、PT3プロモーター、PSP6プロモーター、PcspAプロモーター、λPLプロモーター、phoAプロモーター、及びaraBADプロモーターから選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列を好ましく例示することができ、tacプロモーター等の高発現のプロモーターの配列をより好ましく例示することができる。
【0029】
上記本発明のDNA構築物における外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列としては、それらの遺伝子配列がコードするタンパク質同士が適当な条件下で複合体を形成する遺伝子配列であれば特に制限はないが、水溶性外来複合体サブユニットタンパク質の場合に、本発明の利益をより多く享受することができる。本発明のDNA構築物における複合体としては、1つ又は2つ以上のαサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のβサブユニットタンパク質とが組み合わされた複合体や、1つ又は2つ以上のαサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のβサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のγサブユニットタンパク質とが組み合わされた複合体や、1つ又は2つ以上のαサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のβサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のγサブユニットタンパク質と、1つ又は2つ以上のδサブユニットタンパク質とが組み合わされた複合体等を例示することができる。上記1つのαサブユニットタンパク質と1つのβサブユニットタンパク質とからなる複合体を形成する複合体サブユニットタンパク質としては、トリプトファン合成酵素(trpAとtrpB)やアントラニル酸合成酵素(trpEとtrpD)等を例示することができる。
【0030】
上記本発明のDNA構築物における外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列における、2以上の外来遺伝子配列の配置としては、それらの遺伝子配列がコードするタンパク質同士が適当な条件下で複合体を形成する配置であれば特に制限されず、その2以上の外来遺伝子配列の採取源と同種の野生型の生物のゲノム上における配置と同じであってもよいし、前述の野生型の生物のゲノム上における配置とは異なる配置であってもよいが、本発明のDNA構築物において2以上の外来遺伝子配列の間があまり離れすぎていると下流の遺伝子の翻訳効率が低下する場合があるので、2以上の外来遺伝子配列の間は、52塩基以内とすることが好ましく、21塩基以内とすることがより好ましく、9塩基以内とすることがさらに好ましく、3塩基とすることがさらにより好ましく、上流側のORFの3’末端側の1塩基又は4塩基を、該ORFに次いで下流に存在するORFの5’末端側の1塩基又は4塩基と重複させることが最も好ましい。
【0031】
上記外来遺伝子配列の由来は、本発明のDNA構築物を宿主細胞に導入した場合に産生され得るタンパク質をコードしている限り特に制限されず、例えばエシェリヒア属に属する細菌を宿主細胞として用いる場合は、エシェリヒア属に属する細菌以外の生物由来の遺伝子を例示することができ、該生物としては、哺乳動物等の動物や、高等植物等の植物や、細菌等の微生物を例示することができる。外来遺伝子配列の入手方法は特に制限されず、GenBankやDDBJ等のデータベースの配列情報に基づいてプライマーを設計し、該プライマーを用いたPCR等により入手することができる。例えば超好熱菌Pyrococcus furiosus由来のtrpA遺伝子及びtrpB遺伝子の配列は、DDBJのアクセッションナンバーAB080770に登録されており、この配列情報に基づいてこれらの遺伝子の配列を単離することができる。
【0032】
また、上記本発明のDNA構築物におけるリーダー配列の位置としては、リーダー配列がプロモーター配列の下流に配置され、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されていれば特に制限はされず、リーダー配列の3’末端の終止コドンを含む4ヌクレオチドと、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンを含む4ヌクレオチドとが重複して配置されている場合(以下、本明細書において、「4ヌクレオチドが重複して配置されている場合」ということがある。)や、リーダー配列の3’末端の終止コドンの一部である1ヌクレオチドと、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの一部である1ヌクレオチドとが重複して配置されている場合(以下、本明細書において、「1ヌクレオチドが重複して配置されている場合」ということがある。)を好ましく例示することができる。
【0033】
4ヌクレオチドが重複して配置されている場合として、より具体的には、リーダー配列の3’末端の終止コドン(TGA)を含む「ATGA」と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドン(ATG)を含む「ATGA」とが重複して配置されている場合や、リーダー配列の3’末端の終止コドン(TAA)を含む「ATAA」と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドン(ATA)を含む「ATAA」が重複して配置されている場合を好ましく例示することができ、中でも「ATGA」が重複して配置されている場合をより好ましく例示することができる。また、1ヌクレオチドが重複して配置されている場合として、より具体的には、リーダー配列の3’末端の終止コドン(TGAやTAA)の一部である最後の「A」と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドン(ATGやATA)の一部である最初の「A」が重複して配置されている場合や、リーダー配列の3’末端の終止コドン(TAG)の一部である「G」と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドン(GTG)の一部である最初の「G」が重複して配置されている場合を好ましく例示することができ、中でも「TGA」の最後の「A」と、「ATG」の最初の「A」が重複している場合をより好ましく例示することができる。
【0034】
重なりが「ATGA」の場合には、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の第2コドンの最初のヌクレオチドがAに限定されるため、もともとのタンパク質の第2コドンの最初のヌクレオチドがAのものか、あるいは、第2コドンの最初のヌクレオチドをAに変え、結果的に第2アミノ酸が変化してもそのタンパク質の活性や、生物活性に影響ないものを利用することができる。ここで、このDNA構築物を使用する場合は、第2コドンの最初のヌクレオチドがAとなるため、第2アミノ酸は、Ile、Met、Thr、Asn、Lys、Arg及びSerのいずれかに限定される。
【0035】
本発明のDNA構築物の製造方法としては、特に制限されず、公知の遺伝子組み換え技術等を用いることができるが、プロモーター配列と、リーダー配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、リーダー配列がプロモーター配列の下流に配置され、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部が制限酵素認識部位と重複しているベクターに、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列を、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複するように挿入する工程を含む方法や、プロモーター配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有するDNA構築物に、N末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするリーダー配列を、プロモーター配列の下流であって、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複するように挿入する工程を含む方法や、プロモーター配列と、リーダー配列のうちの上流側の一部とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、リーダー配列のうちの上流側の一部がプロモーター配列の下流に配置されたベクターに、リーダー配列のうちの下流側の一部と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複するように挿入する工程を含む方法等を例示することができる。なお、これらの工程において「挿入する工程」とは、結果として挿入された配列が得られる限り、例えばPCR法による部位特異的変異法等を用いた場合など、挿入以外の方法によって改変する場合も便宜上含まれる。
【0036】
本発明の組換えベクターは、本発明のDNA構築物が発現又は機能するように、上記の本発明のDNA構築物を含むことを特徴としており、後述の宿主に導入したときに、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子がそれぞれ発現することができる。本発明の組換えベクターは、2以上の目的外来遺伝子を発現できるものであれば特に限定されないが、2以上の目的外来遺伝子配列と複製及び制御に関する情報を担持した遺伝子配列とを構成要素とする。前記構成要素は宿主が原核細胞か、あるいは真核細胞かによって選択することができ、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー、ori領域等を公知の方法によって組合せて使用すればよい。本発明の組換えベクターの作製に用いうるベクターとしては特に制限されず、当業者であれば適宜宿主の種類を考慮して選択することができ、複製及び制御に関する情報を担持した遺伝子配列を遺伝子工学的に導入したものを用いてもよいし、予め前記遺伝子配列が導入された市販品(例えばpUC18やpUC19)を用いてもよい。目的外来遺伝子配列をベクターに挿入して組換えベクターを作製する方法は、目的外来遺伝子配列の5’側と3’側に制限酵素認識配列をPCR法により付加し、目的外来遺伝子とベクターとを当該制限酵素で処理した後ライゲーションする方法やトポイソメラーゼを利用した方法などを挙げることができるが、これらに限定されず、当業者であれば公知技術に基づいて容易に選択し、実行することができる。本発明の組換えベクターとして、具体的にはpαβOV8を好ましく例示することができる。
【0037】
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られるものである。形質転換は、公知の手段を応用することができ、例えばレプリコンとして、プラスミド、染色体、ウイルス等を利用して宿主の形質転換を行うことができる。より好ましい系としては、遺伝子の安定性を考慮するならば、染色体内へのインテグレート法があげられるが、簡便には核外遺伝子を用いた自律複製系を利用すればよい。本発明の組換えベクターを宿主に導入するには、エレクトロポレーション法、塩化カルシウム法、カチオン性脂質法、酢酸リチウム法等を用いることができ、当業者であれば公知の技術から組換えベクターと宿主細胞の組合せを考慮して適宜選択することができる。本発明で用いられる宿主細胞は、目的外来遺伝子を発現できるものであれば特に限定されないが、エシェリヒア属に属する細菌や枯草菌等の細菌:酵母:哺乳動物細胞:昆虫細胞などを例示することができるが、生育が早く、安価な培地で高い生産性が得られることから細菌を好ましく例示することができ、エシェリヒア属に属する細菌をより好ましく例示することができ、エシェリヒア・コリをさらに好ましく例示することができる。
【0038】
本発明の外来複合体サブユニットタンパク質の発現方法は、上記本発明の形質転換体を培養する工程を含んでいる限り特に制限されないが、本発明の形質転換体を培養する工程に加えて、該工程により得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程をさらに含んでいることが好ましい。前述の「培養物」とは、培養細胞又はその破砕物や、培養上清等を含むものを意味する。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0039】
本発明の形質転換体を培養する培地は、宿主細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体を培養し得る培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。前述の培地に用い得る炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を例示することができる。前述の培地に用い得る窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物や、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等の窒素源を含む物質を例示することができる。前述の培地に用い得る無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を例示することができる。
【0040】
形質転換体の培養条件は、当業者であれば、用いる形質転換体の種類等により適宜適当な条件を選択することができる。例えば、形質転換体の作製に用いる宿主細胞がエシェリヒア・コリ等の場合は、37℃前後、pH7前後、及び、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下で培養することができる。培地のpHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。
【0041】
形質転換体の培養に伴って産生される目的外来複合体サブユニットタンパク質が、形質転換体の細胞内に蓄積される場合には、ホモジナイザー処理などを施して、形質転換体の細胞を破砕することにより、目的外来複合体サブユニットタンパク質を採取することができる。一方、目的外来複合体サブユニットタンパク質が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養により得られた培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により形質転換体の細胞を除去した後、硫安沈澱による抽出等により前述の培養物中から目的外来複合体サブユニットタンパク質を採取し、必要に応じてさらに各種クロマトグラフィー等を用いて単離精製することができる。
【0042】
本発明の外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質のスクリーニング法は、本発明の形質転換体を培養することにより得られた外来複合体サブユニットタンパク質を被検物質と接触させる工程と、被検物質を接触させた外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする。このようなスクリーニング法によって、外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質を簡便にスクリーニングすることができる。
【0043】
上述の、本発明の形質転換体を培養することにより得られた外来複合体サブユニットタンパク質を被検物質と接触させる工程としては、被検物質を接触させること以外については、それら外来複合体サブユニットタンパク質が天然構造の複合体を形成し得る条件下で被検物質を接触させる限り特に制限されない。
【0044】
また、上述の、被検物質を接触させた外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程としては、被検物質を接触させた外来複合体サブユニットタンパク質が形成する複合体(以下、「被検複合体」ともいう)の立体構造と、それら外来複合体サブユニットタンパク質が形成する天然構造の複合体(以下、「天然複合体」ともいう)の立体構造とを比較して評価する限り特に制限されない。複合体の構造を比較する方法は特に制限されず、NMR等により解析された立体構造を視覚的に比較して異同を評価してもよいし、複合体の活性を生化学的に解析することによって、複合体の構造の異同を間接的に評価してもよい。複合体の構造の異同を間接的に評価する方法として、具体的には、被検複合体及び天然複合体について、天然複合体が有するいずれかの活性を測定し、被検複合体において、天然複合体が有するその活性が10%以上、好ましくは5%以上低下又は消失している場合は、被検複合体と天然複合体は立体構造が異なると判定し、被検複合体において、天然複合体が有するその活性が90%以上、好ましくは95%以上保持されている場合は、被検複合体と天然複合体は立体構造が同様であると判定することができる。
【0045】
被検物質を接触させない外来複合体サブユニットタンパク質が形成する複合体(以下、「対照複合体」ともいう)よりも被検複合体の立体構造が天然複合体の立体構造に近い場合(例えば被検複合体の上記活性の値が、対照複合体よりも天然複合体のその活性の値に近い場合)、該被検複合体に用いた被検物質は、外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質であると判定し、被検複合体よりも対照複合体の立体構造が天然複合体の立体構造に近い場合(例えば対照複合体の上記活性の値が、被検複合体よりも天然複合体のその活性の値に近い場合)、該被検複合体に用いた被検物質は、外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成阻害物質であると判定する。
【0046】
また、本発明の外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成に関与する部位を特定する方法は、上記本発明の組換えベクターにおいて、2以上の外来遺伝子配列に変異が導入された組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有する限り特に制限されない。このような方法により、本発明における外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成に関与する部位を簡便に特定することができる。
【0047】
上述の、本発明の組換えベクターにおいて、2以上の外来遺伝子配列に変異が導入された組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程としては特に制限されず、部位特異的変異法等の公知の手段を用いることによって、2以上の外来遺伝子配列に容易に変異を導入し得る。また、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程についても特に制限されず、前述したような回収方法を用いることができる。回収した外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程についても特に制限されず、立体構造を評価する方法としては、上述の外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質のスクリーニング法と同様の方法及び判定基準を採用することができる。
【0048】
本発明の外来複合体サブユニットタンパク質と複合体を形成するタンパク質のスクリーニング法は、プロモーター配列と、リーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする1以上の外来遺伝子配列と、被検タンパク質をコードする1以上の被検外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、リーダー配列がプロモーター配列の下流に配置され、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、1以上の外来遺伝子配列及び1以上の被検外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたDNA構築物を含む組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする。このような方法により、本発明の外来複合体サブユニットタンパク質と複合体を形成するタンパク質を簡便にスクリーニングすることができる。上記DNA構築物、組換えベクター、形質転換体、タンパク質の回収方法、並びに、立体構造の評価方法及び基準等については、前述の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質のスクリーニング法等と同様である。
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
[外来複合体サブユニットタンパク質をコードする遺伝子の単離]
超好熱菌Pyrococcus furiosusから、常法に従ってゲノムDNAを単離し、そのゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行うことによって、P. furiosusのtrpA遺伝子及びtrpB遺伝子の単離を試みた。P. furiosusのtrpBAコード領域の塩基配列は公知であり、DDBJのアクセッションナンバーAB080770に登録されている。trpBAコード領域の塩基配列を配列番号5に示し、trpBのアミノ酸配列を配列番号6に示し、trpAのアミノ酸配列を配列番号7に示す。配列番号6のアミノ酸配列は、配列番号5の塩基番号69〜1235の塩基配列に対応しており、配列番号7のアミノ酸配列は、配列番号5の塩基番号1228〜1974の塩基配列に対応している。このことから分かるように、天然のP. furiosusのtrpBコード領域の3’末端の8塩基とtrpAコード領域の5’末端の8塩基は重複している。
【0051】
trpA遺伝子の単離用プライマーとしては、PUF−AN(5’−GACTGACTCATATGTTTAAGGATGGTTCT−3’:配列番号8)とPUF−AP(5’−AAAACTGCAAGTTAGATCCCTAAAAGTTC−3’:配列番号9)を用い、trpB遺伝子の単離用プライマーとしては、PFU−BN(5’−GACTGACTCATATGTGGTTTGGTGAGTTT−3’:配列番号10)とPFU−BP(5’−AAAACTGCAGTTAAACATTTCCACTC−3’:配列番号11)を用いた。PUF−ANとPFU−BNは、それぞれtrpA及びtrpBのコーディング領域の5’末端に、新たにNdeIサイトを付加するように設計されており、PUF−APとPFU−BPは、それぞれtrpA及びtrpBのコーディング領域の3’末端に、新たにPstIサイトを付加するように設計されている。PCRの条件は、94℃30秒、55℃60秒、72℃60秒を30サイクル行った。
【0052】
それぞれのPCRによって得られたPCR産物をそれぞれ、pTV119Ndeベクター[pTV119(タカラ酒造社製)ベクターにNdeIサイトを加えたプラスミド]のNdeIサイトとPstIサイトの間に組み込んだ。そのプラスミドでE.coli JM109(recA1 supE44 endA1 hsdR17 gyrA96 relA1 thi△(lac-proAB)F’[traD36 proAB+ lacIq lacZDM15])を形質転換し、得られた形質転換体を培養した。培養した菌体からプラスミドを採取し、採取したプラスミドの配列をDNAシークエンサー ABIモデル373A及びモデル377(Perkin Elmer社製)を用いて決定した。配列を決定したプラスミドのうち、trpA遺伝子を含むプラスミドをpαTV119Ndeと命名し、trpB遺伝子を含むプラスミドをpβTV119Ndeと命名した。pαTV119Nde及びpβTV119NdeにおけるtrpA遺伝子及びtrpB遺伝子の塩基配列は、P. furiosusのゲノム上のそれらの塩基配列と一致することが確認された。
【実施例2】
【0053】
[pα1974及びpβ1837の構築]
実施例1で得られたpαTV119NdeやpβTV119NdeのtrpA遺伝子やtrpB遺伝子の直前にリーダー配列(リーダーORF)を導入するために、以下の方法により、trpB遺伝子をpUC18上のlacZコーディング領域の下流に組み込み、trpA遺伝子をpUC19上のlacZコーディング領域の下流に組み込んだ。
【0054】
pβTV119Nde上のtrpBコーディング領域を含む1.2KbのDNA断片をNdeI処理して切り出し、切り出したNdeI断片をKlenowフラグメントで平滑化し、それをさらにPstI処理して得られたDNA断片を、pUC18のSmaIサイトとPstIサイトの間に組み込んだ。得られたプラスミドをpβ181と命名した。同様に、pαTV119Nde上のtrpAコーディング領域を含む0.8KbのDNA断片をNdeI処理して切り出し、切り出したNdeI断片をKlenowフラグメントで平滑化し、それをさらにSacI処理(SacIサイトはPstIサイトから33塩基下流に位置している)して得られたDNA断片を、pUC19のSmaIサイトとSacIサイトの間に組み込んだ。得られたプラスミドをpα197と命名した。
【0055】
pβ181におけるlacZコーディング領域の3’末端側からtrpBの開始コドンにかけての配列や、pα197におけるlacZコーディング領域の3’末端側からtrpAの開始コドンにかけての配列を改変することによって、pβ181やpα197におけるlacZコーディング領域の3’末端側に制限酵素サイトを付加してリーダー配列を完成させると共に、そのリーダー配列の3’末端の終止コドン(TGA)の最後の「A」と、pβ181におけるtrpBの開始コドン(ATG)やpα197におけるtrpAの開始コドン(ATG)の最初の「A」とを重複させた。具体的には、それぞれpβ181又はpα197をテンプレートとした以下のようなPCRを行うことによって、pβ181とpα197に対してオリゴヌクレオチド特異的な改変を行った。
【0056】
trpA遺伝子の上流へのリーダーORF導入用プライマーとしては、PFA−1(5’−GAAAGCTTAAGGAGCTCTTGATGTTTAAGGATGGTTCTCTAAGGC−3’:配列番号12)とPFA−2(5’−ACAATCCAGAAGGCCTCTCTC−3’:配列番号13)を用い、trpB遺伝子の上流へのリーダーORF導入用プライマーとしては、PFB−1(5’−AAGAATTCTGTAAGGAGCTCTTGATGTGGTTTGGTGAGTTTGGAGG−3’:配列番号14)とPFB−2(5’−CCGTGAACTAGATCTTCTCTC−3’:配列番号15)を用いた。PFA−1やPFB−1は、新たにEcoRIサイト(PFB−1)あるいはHindIIIサイト(PFA−1)や、変異型プラスミドをスクリーニングするための新たなSacIサイトや、リボソーム結合配列や、重複配列(リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、trpA又はtrpBの開始コドンの全部又は一部との重複配列)を導入するように設計されており、PFA−2はtrpAコーディング領域における唯一のStuIサイトの周辺のテンプレートに対して相補的であり、PFB−2はtrpBコーディング領域における唯一のBglIIサイトの周辺のテンプレートに対して相補的であるように設計されている。PCRの条件は、94℃30秒、60℃30秒、72℃10秒を30サイクル行った。
【0057】
PFA−1及びPFA−2を用いたPCRにより得られたPCR産物をHindIII及びStuI処理した後、pα197のHindIIIサイトとStuIサイトの間に挿入し、trpA遺伝子を有するpα1974を得た。また、PFB−1及びPFB−2を用いたPCRにより得られたPCR産物をEcoRI及びBglII処理した後、pβ181のEcoRIサイトとBglIIサイトの間に挿入し、trpB遺伝子を有するpβ1837を得た。pα1974とpβ1837において修飾された部分の塩基配列はDNAシークエンサー ABIモデル373A及びモデル377(Perkin Elmer社製)を用いて確認した。pα1974及びpβ1837におけるリーダー配列の塩基配は、FEMS MICROBIOLOGY Letters 216 (2002), 179-183に記載されているとおりである。
また、pβTV119NdeにおけるtrpBの開始コドン及びその上流付近の配列、やpβ1837におけるtrpBの開始コドン及びその上流のリーダー配列、並びに、pαTV119NdeにおけるtrpAの開始コドン及びその上流付近の配列や、pα1974におけるtrpAの開始コドン及びその上流のリーダー配列を図2に示す。
【実施例3】
【0058】
[pαβOV8の構築]
上記実施例2で作製したpβ1837上のtrpBコード領域のすぐ下流側にあるSphIサイトとさらに下流にあるScaIサイトの間に、trpAコード領域を挿入することを試みた。trpAコード領域は、上記実施例2で作製したpα1974から切り出すことが考えられたが、pα1974のtrpAコード領域の下流にはScaIサイトは存在したが、Sph1サイトは存在しなかったため、trpAコード領域のすぐ上流に存在するHindIIIサイトを、オリゴヌクレオチドによる部位指定変異によって、SphIサイトに改変した。改変したpα1974をSphI及びScaI処理し、trpA遺伝子のコード領域を含むDNA断片を切り出した。このDNA断片を、pβ1837上のtrpBコード領域のすぐ下流側にあるSphIサイトとさらに下流にあるScaIサイトの間に挿入し、リーダー配列の下流にtrpBコード領域、次いでtrpAコード領域を有するプラスミドpαβを作製した。
【0059】
上記実施例1で述べたように、天然のP. furiosusのtrpBコード領域の3’末端の8塩基とtrpAコード領域の5’末端の8塩基は重複しているが、前述のpαβ上のtrpBコード領域とtrpAコード領域とは離れて配置されており、天然型のtrpBA配列とは異なる。pαβ上のtrpBコード領域とtrpAコード領域の位置関係を、天然のtrpBAと同様に8塩基重複させるために、以下の操作を行った。
【0060】
P. furiosusの公知のtrpBAの配列情報に基づいてtrpBAを含むDNA断片を入手した。このDNA断片をAflIIとStuIで処理し、trpBとtrpAの重複配列を含むAflII−StuI断片(430bp)を切り出した。一方、pαβもAflIIとStuIで処理し、trpBとtrpAの間の配列を含むAflII−StuI断片(490bp)を切り出した。AflII−StuI断片(490bp)を切り出したpαβに、天然のtrpBA由来のAflII−StuI断片(430bp)を組み込んだ。そのプラスミドでE.coli JM109を形質転換し、得られた形質転換体を培養した。培養した菌体からプラスミドを採取し、採取したプラスミドの配列をDNAシークエンサー ABIモデル373A及びモデル377(Perkin Elmer社製)を用いて決定した。配列を決定したプラスミドのうち、天然のtrpBコード領域とtrpAコード領域の位置関係を持つプラスミドをpαβOV8と命名した。pαβOV8のリーダー配列のヌクレオチド配列を配列番号3に示し、該リーダー配列のアミノ酸配列を配列番号4に示す。また、該リーダー配列の最初の15ヌクレオチドの配列を配列番号1に示し、その15ヌクレオチドの配列がコードする5アミノ酸の配列を配列番号2に示す。
【実施例4】
【0061】
[pαβOV8の発現解析]
pαβOV8を保持するE.coli JM109を、アンピシリンナトリウム塩(100μg/ml)とisopropyl 1−thio−β−D−galactoside(0.1mM、0.5mM、又は1.1mM)を含むYT培地200ml中で37℃20時間培養した。培養液を遠心分離して菌体を回収し、回収した菌体を生理食塩水で洗浄した後、50mmol/lのリン酸カリウム緩衝液(pH7.8)に懸濁して、該懸濁液中で超音波処理することにより菌体を破壊した。超音波処理としては、氷中、ミクロチップを使って中程度の出力で5分間、50%間欠運転(約2秒間照射しては約2秒間休止する)を行った。菌体を破壊して得られた無細胞抽出液を70℃で30分加熱した後12000×gで15分間遠心し、その上清(熱処理された抽出物)を得た。また、上述の無細胞抽出液を加熱せずに12000×gで15分間遠心し、その上清(未加熱の抽出物)を得た。得られたこれらの抽出物をSDS−PAGEにそれぞれ0.8mg/laneずつロードし、電気泳動を行った。その結果を図3に示す。この結果から、トリプトファン合成酵素のβサブユニットであるTrpBと、αサブユニットであるTrpAがほぼ等モル生産されていることが分かった。trpBAオペロンを通常の方法で発現させた場合、3’側に配置されたtrpAの発現産物は、5’側に配置されたtrpBの発現産物よりも少なくなる傾向を考慮すると、本発明のDNA構築物を用いることによって、2以上の外来複合体サブユニットタンパク質の生産効率を同時に上昇させることができることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】大腸菌細胞中での発現に必要な一般的な遺伝子を示す図である。
【図2】pβTV119NdeにおけるtrpBの開始コドン及びその上流付近の配列、やpβ1837におけるtrpBの開始コドン及びその上流のリーダー配列、並びに、pαTV119NdeにおけるtrpAの開始コドン及びその上流付近の配列や、pα1974におけるtrpAの開始コドン及びその上流のリーダー配列を示す図である。
【図3】本発明の形質転換体の抽出物を電気泳動した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたことを特徴とするDNA構築物。
【請求項2】
リーダー配列が以下の(a)〜(e)のいずれかのヌクレオチドであることを特徴とする請求項1に記載のDNA構築物。
(a)配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるヌクレオチド
(b)配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、若しくは付加されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
(c)配列番号3に示されたヌクレオチド配列からなるヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチドであって該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
(d)配列番号4に示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド
(e)配列番号4に示されたアミノ酸配列において、1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチドであって、該ヌクレオチドがコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、該ヌクレオチドの3’末端のコドンが終止コドンに対応しており、かつ2以上の外来遺伝子の翻訳効率を上昇させる活性を有するヌクレオチド
【請求項3】
外来遺伝子配列の開始コドンがATGであり、リーダー配列の終止コドンがTGAであることを特徴とする請求項1又は2に記載のDNA構築物。
【請求項4】
ヌクレオチドの開始コドンがATGであり、終止コドンがTGAであることを特徴とする請求項2又は3に記載のDNA構築物。
【請求項5】
リーダー配列の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とで重複しているヌクレオチド配列が、A又はATGAであることを特徴とする請求項1又は2に記載のDNA構築物。
【請求項6】
プロモーター配列が、テトラサイクリン耐性遺伝子プロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター、ラクトース資化性オペロンプロモーター誘導体、トリプトファン生合成系オペロンプロモーター、ファージT7RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージT3RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、ファージSP6RNAポリメラーゼ特異的プロモーター、低温感受性プロモーター、ファージλPLプロモーター、アルカリフォスファターゼ遺伝子プロモーター、及びアラビノースプロモーターからなる群から選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のDNA構築物。
【請求項7】
プロモーター配列が、tetプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、trpプロモーター、PT7プロモーター、PT3プロモーター、PSP6プロモーター、PcspAプロモーター、λPLプロモーター、phoAプロモーター、及びaraBADプロモーターから選ばれる1種又は2種以上のプロモーターの配列であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のDNA構築物。
【請求項8】
外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子が、Pyrococcus furiosus由来のtrpA遺伝子及びtrpB遺伝子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のDNA構築物。
【請求項9】
プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部が制限酵素認識部位と重複しているベクターに、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする2以上の外来遺伝子配列を、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、2以上の外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複するように挿入する工程を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のDNA構築物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のDNA構築物を含むことを特徴とする組換えベクター。
【請求項11】
pαβOV8であることを特徴とする請求項10に記載の組換えベクター。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られることを特徴とする形質転換体。
【請求項13】
宿主細胞が細菌であることを特徴とする請求項12に記載の形質転換体。
【請求項14】
細菌がエシェリヒア属に属する細菌であることを特徴とする請求項13に記載の形質転換体。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の発現方法。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれかに記載の形質転換体を培養する工程と、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程を含むことを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の外来複合体サブユニットタンパク質の製造方法により得られた外来複合体サブユニットタンパク質を被検物質と接触させる工程と、被検物質を接触させた外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成促進物質又は複合体形成阻害物質のスクリーニング法。
【請求項18】
請求項10に記載の組換えベクターにおいて、2以上の外来遺伝子配列に変異が導入された組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、得られた培養物から外来複合体サブユニットタンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質の複合体形成に関与する部位を特定する方法。
【請求項19】
プロモーター配列と、該プロモーター配列の下流に配置されたリーダー配列と、外来複合体サブユニットタンパク質をコードする1以上の外来遺伝子配列と、被検タンパク質をコードする1以上の被検外来遺伝子配列とを有し、リーダー配列がコードするアミノ酸配列のN末端側の1番目から5番目までの配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、さらに、リーダー配列の3’末端の終止コドンの全部又は一部と、1以上の外来遺伝子配列及び1以上の被検外来遺伝子配列のうち最も上流に位置する外来遺伝子配列の開始コドンの全部又は一部とが重複して配置されたDNA構築物を含む組換えベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体を培養する工程と、外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質を回収する工程と、回収した外来複合体サブユニットタンパク質及び被検タンパク質の立体構造を評価する工程を有することを特徴とする外来複合体サブユニットタンパク質と複合体を形成するタンパク質のスクリーニング法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−237075(P2008−237075A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80625(P2007−80625)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【Fターム(参考)】