説明

外用非水系ゲル製剤

本発明は、ヒドロキシプロピルセルロース、アルコール及び薬物を含有する外用非水系ゲル製剤であって、前記アルコールは、炭素数1〜4の1価アルコールを必須成分とし、その質量割合が含有する全アルコールの質量基準で最大、且つ外用非水系ゲル製剤の質量基準で60質量%以上である、外用非水系ゲル製剤を提供する。本発明の外用非水系ゲル製剤によれば、含有する薬物の保存安定性を図ることが可能であるのみならず、皮膚等に適用する際の使用感をも向上させることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用非水系ゲル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚等に適用するための薬物含有ゲル状製剤として、水を含有する外用水系ゲル製剤や、水以外のアルコール等の成分を含有する外用非水系ゲル製剤が知られている。外用非水系ゲル製剤は、構成成分であるアルコールが、薬物や、基剤となる水溶性高分子(ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)に対して優れた溶解性・膨潤性を発揮するために注目されており、例えば、以下の特許文献1に記載の組成が提案されている。
【特許文献1】特開2002−338453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の製剤は、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等を基剤としており、製剤の70質量%以上の多価アルコールを含有させることで、防腐性、ゲル及び薬物の安定性の向上を図っているが、製剤を皮膚等に適用する際の使用感に劣っているとの問題点があった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、含有する薬物の保存安定性を図ることが可能であるのみならず、皮膚等に適用する際の使用感に優れた外用非水系ゲル製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、外用非水系ゲル製剤に含まれるアルコールに着目し検討を重ねたところ、含有するアルコールの価数、炭素数並びに含有割合を所定の範囲内にした外用非水系ゲル製剤が特異的に使用感を向上させ、薬物の保存安定性をも高めることができるとの知見を得、この知見に基づき発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、ヒドロキシプロピルセルロース、アルコール及び薬物を含有する外用非水系ゲル製剤であって、上記アルコールは、炭素数1〜4の1価アルコールを必須成分とし、その質量割合が含有する全アルコールの質量基準で最大、且つ外用非水系ゲル製剤の質量基準で60質量%以上であることを特徴とする外用非水系ゲル製剤を提供するものである。
【0007】
本発明の外用非水系ゲル製剤において特徴的な点は、アルコールとして炭素数1〜4の1価アルコールを必須成分とし、その含有割合を全アルコール中最大にして、更に外用非水系ゲル製剤を基準とした含有量を60質量%以上としたことである。また、ゲル製剤の基剤としてヒドロキシプロピルセルロースを用いたことも特徴である。このように、ゲル製剤の基剤を特定のポリマーとした上で、含有するアルコールの価数、炭素数並びに含有割合を所定の範囲内にしたため、薬物の保存安定性を図ることが可能になるのみならず、皮膚等に適用する際の使用感(例えば、べたつき、のび、乾き、よれ)も向上させることが可能となった。
【0008】
このような効果は、炭素数1〜4の1価アルコールの質量割合を、含有する全アルコールの70〜100質量%にしたときに一層顕著になり、実質的に水を含有させないことにより、薬物の保存安定性を特に向上できる。
【0009】
上記組成の外用非水系ゲル製剤の薬物として特に好適なものは、イブプロフェンピコノールである。イブプロフェンピコノールを含有するゲル製剤は、にきび用治療剤として有効であるが、上記組成を採用することにより、経時的に分解しやすいイブプロフェンピコノールが長期間安定化するため、長期間保持した後も安定した薬効を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の外用非水系ゲル製剤によれば、含有する薬物の保存安定性を図ることが可能であるのみならず、皮膚等に適用する際の使用感をも向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ゲル製剤におけるイブプロフェンピコノールの対初期残存率を示す図である。
【図2】図2は、ゲル製剤の使用感の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の外用非水系ゲル製剤が含有する成分(以下場合により「構成成分」という。)、外用非水系ゲル製剤の物性(外観、粘度等)、外用非水系ゲル製剤の製造方法について、その好適な実施形態を以下に説明する。
【0013】
外用非水系ゲル製剤は、ゲルの基材となるヒドロキシプロピルセルロースを含んでおり、このヒドロキシプロピルセルロースは必須成分である炭素数1〜4の1価アルコールによりゲル化する必要がある。
【0014】
このようなヒドロキシプロピルセルロースとしては、グルコース環に導入されるヒドロキシプロピル基の量(モル置換度:以下「MS」と記載する。)が0.5〜5.0のものが好ましく、アルコールによるゲル化に使用する点から1.0〜3.5のものが更に好ましい。
【0015】
ヒドロキシプロピルセルロースとしてはまた、2質量%水溶液としたときの粘度が6.0〜4000mPa・sとなるものが好ましく、150〜4000mPa・sとなるものがより好ましい。ここで、2質量%水溶液の粘度はB型粘度計を用いて20℃にて測定した値を意味する。
【0016】
ヒドロキシプロピルセルロースは、1種のみを用いてもよいが、MS値又は2質量%水溶液の粘度等が異なるものを2種又はそれ以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
構成成分である炭素数1〜4の1価アルコールは、分岐型、直鎖型のいずれでもよく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が例示できる。ヒドロキシプロピルセルロースのゲル化性能と薬物の溶解性、更には使用感の観点からは、1価アルコールの炭素数は2〜3が好ましい。特に好適なものは、エタノール、イソプロパノールである。なお、1価アルコールの炭素数が5以上である場合は、ヒドロキシプロピルセルロースのゲル化性能が低下し、ゲルとしての好適な結果が得られない。
【0018】
炭素数1〜4の1価アルコールは、その質量割合が、含有する全アルコールの質量基準(アルコールの合計質量基準)で最大でなければならない。このような条件にすることにより、べたつき、のび、乾き、よれ等の使用感を充分なものとすることができる。同様の観点から、炭素数1〜4の1価のアルコールは、その質量割合が、外用非水系ゲル製剤の質量基準(外用非水系ゲル製剤の全質量基準)で60質量%以上でなければならない。
【0019】
含有する全アルコールの質量基準での炭素数1〜4の1価アルコールの割合は、70〜100質量%が好ましく、80〜90質量%がより好ましい。一方、外用非水系ゲル製剤の質量基準での炭素数1〜4の1価アルコールの割合は、その上限が95質量%が好ましく、85質量%がより好ましく、75質量%が更に好ましい。下限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、75質量%が更に好ましい。なお、上述の上限と下限はいずれも組み合わせることができる。
【0020】
本発明の外用非水系ゲル製剤においては、上記要件を満たす限りにおいて、他のアルコールを含有してもよい。このような他のアルコールとしては、炭素数5以上の1価アルコール、多価アルコールが挙げられる。
【0021】
構成成分としての薬剤の種類は任意であるが、本発明の構成において安定的に存在しうる薬剤を用いることが好ましい。このような薬剤としては、イブプロフェンピコノールが挙げられる。イブプロフェンピコノールはゲル製剤中で水と接触することにより、経時的に分解することを本発明者らは見出しているが、本発明の構成にすることにより分解が防止され長期間の保存安定性が担保される。
【0022】
薬剤としては、イブプロフェンピコノール以外にも、例えば、アスコルビン酸グリコール等のビタミンC誘導体、レチノール等のビタミンA誘導体、酢酸トコフェロール等のビタミンE誘導体等のような薬剤を、単独で、或いは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
外用非水系ゲル製剤には上記構成成分に加えて、防腐剤、油状成分、抗酸化剤、香料等の補助成分を添加してもよい。
【0024】
防腐剤としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、チモール、クロルクレゾール、オルトフェニルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、ビオニン、フェノキシエタノール等を用いることができる。
【0025】
油状成分は使用感を更に向上するために用いることができ、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、フタル酸ジエチル、乳酸ミリスチル、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸セチル、乳酸セチル等のエステル類、2−ヘキシルデカノール、オレイルアルコール、2−オクチルドデカノール等の高級アルコール、スクワラン、流動パラフィン等の炭化水素、ユーカリ油、ハッカ油、オリーブ油、アボガド油、ホホバ油等の油脂、その他ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クロタミトン等が適用できる。なお、油状成分であってもアルコールに属するものは、炭素数1〜4の1価アルコールの質量割合を算出するときの、アルコールとして取り扱う。
【0026】
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、エリソルビン酸、dl−α−トコフェロールが挙げられる。
【0027】
外用非水系ゲル製剤の全質量基準で、ヒドロキシプロピルセルロースの質量割合は、0.5〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。炭素数1〜4の1価アルコールの質量割合は上述のとおりである。薬物については、外用非水系ゲル製剤の全質量基準で、0.1〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。防腐剤、油状成分、抗酸化剤及び香料の質量割合は、それぞれ、外用非水系ゲル製剤の全質量基準で、0.01〜0.5質量%、0.5〜10質量%、0.1〜2質量%、0.01〜2質量%が好ましい。
【0028】
以上説明した外用非水系ゲル製剤は実質的に水を含有しないことが好適である。薬物の安定性に関する点から水を含有させない方が好ましいが、この安定性に影響を及ぼさない程度の少量であれば許容できる。したがって、「実質的に水を含有しない」とは、水を含有しないか、含有しても薬物の安定性に影響を及ぼさない程度の量であることを意味する。
【0029】
外用非水系ゲル製剤は、構成成分である薬物及び必要により添加する補助成分を、構成成分であるアルコールに溶解した後、構成成分であるヒドロキシプロピルセルロースに混合することにより製造することができる。
【0030】
外用非水系ゲル製剤は、全体として透明であることが好ましく、その粘度はB型粘度計を用い20℃の条件で測定したときに、1000〜15000mPa・sであることが好ましい。外用非水系ゲル製剤は、含有するアルコールの揮発を防止するために密閉可能な容器に収容して保管することが好ましい。
【0031】
外用非水系ゲル製剤は、皮膚等に塗布して用いることができ、含有する製剤の種類にしたがって適用部位を変えることができる。また、含有する製剤の種類にしたがって、粘度や収容容器の種類などを変えることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における製剤構成成分の質量%は製剤の全質量を基準としたものである。
【0033】
(実施例1)
イブプロフェンピコノール3質量%、セバシン酸ジエチル1質量%、エタノール78質量%、1,3−ブチレングリコール15質量%を均一に攪拌混合した後、ヒドロキシプロピルセルロース3質量%を攪拌しながら加え、膨潤させて透明な外用非水系ゲル製剤を得た。この組成において、含有するアルコール(エタノール及び1,3−ブチレングリコール)に占めるエタノール(炭素数1〜4の1価アルコール)の質量割合は83.9%であった。また、この外用非水系ゲル製剤は実質的に水を含有していなかった。
【0034】
(実施例2)
イブプロフェンピコノール3質量%、スクワラン3質量%、エタノール91質量%、ジブチルヒドロキシトルエン0.5質量%を均一に攪拌混合した後、ヒドロキシプロピルセルロース2.5質量%を攪拌しながら加え、膨潤させて透明な外用非水系ゲル製剤を得た。この組成において、含有するアルコールに占めるエタノール(炭素数1〜4の1価アルコール)の質量割合は100%であった。また、この外用非水系ゲル製剤は実質的に水を含有していなかった。
【0035】
(実施例3)
イブプロフェンピコノール5質量%、オレイルアルコール5質量%、2−エチルヘキサン酸セチル5質量%、イソプロパノール78質量%、1,3−ブチレングリコール20質量%を均一に攪拌混合した後、ヒドロキシプロピルセルロース5質量%を攪拌しながら加え、膨潤させて透明な外用非水系ゲル製剤を得た。この組成において、含有するアルコール(オレイルアルコール、イソプロパノール及び1,3−ブチレングリコール)に占めるイソプロパノール(炭素数1〜4の1価アルコール)の質量割合は70.6%であった。また、この外用非水系ゲル製剤は実質的に水を含有していなかった。
【0036】
(比較例1:水系ゲル製剤)
イブプロフェンピコノール3質量%、セバシン酸ジエチル1質量%、イソプロパノール40質量%、1,3−ブチレングリコール20質量%、精製水34.8質量%を均一に攪拌混合した後、カルボキシビニルポリマー1質量%を攪拌しながら加えた後、ジエタノールアミン0.2質量%を加え、透明なゲル製剤を得た。
【0037】
(比較例2:多価アルコール系ゲル製剤)
イブプロフェンピコノール3質量%、セバシン酸ジエチル1質量%、ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール400)50質量%、1,3−ブチレングリコール44.5質量%を均一に攪拌混合した後、ヒドロキシプロピルセルロース1.5質量%を攪拌しながら加えた後、膨潤させて、透明なゲル製剤を得た。この組成において、含有するアルコールに占める炭素数1〜4の1価アルコールの質量割合は0%であった。また、このゲル製剤は実質的に水を含有していなかった。
【0038】
[保存安定性試験]
3質量%又は5質量%のイブプロフェンピコノールを含有する外用非水系ゲル製剤(実施例1〜3)と、水系ゲル製剤(比較例1)とを、40℃又は50℃にて保存し、ゲル製剤中の薬物含量を経時的に3ヶ月後まで測定した。イブプロフェンピコノールの初期値を100%としたときの、対初期残存率を表1及び図1(実施例1及び比較例1のみ)に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
[使用感の評価]
3質量%イブプロフェンピコノールを含有する外用非水系ゲル製剤(実施例1)と、3質量%イブプロフェンピコノールを含有する多価アルコール系ゲル製剤(比較例2)について、使用感を比較した。
【0041】
被験者の手甲に下記A)、B)の試験試料を適量塗布し、以下の「使用感の評価内容」について回答してもらった(被験者:20名)。結果を表2及び図2に示した。
A)3%イブプロフェンピコノール外用非水系ゲル製剤(実施例1)
B)3%イブプロフェンピコノール多価アルコール系ゲル製剤(比較例2)
使用感の評価内容:「べたつき、のび、乾き、よれ、全体の好み」について、AとBのどちらが優れているか、あるいは同程度かを、各被験者が評価した。
【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルセルロース、アルコール及び薬物を含有する外用非水系ゲル製剤であって、
前記アルコールは、炭素数1〜4の1価アルコールを必須成分とし、その質量割合が含有する全アルコールの質量基準で最大、且つ外用非水系ゲル製剤の質量基準で60質量%以上である、外用非水系ゲル製剤。
【請求項2】
炭素数1〜4の1価アルコールの質量割合が、含有する全アルコールの70〜100質量%である、請求項1に記載の外用非水系ゲル製剤。
【請求項3】
実質的に水を含有しない、請求項1又は2に記載の外用非水系ゲル製剤。
【請求項4】
前記薬物がイブプロフェンピコノールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の外用非水系ゲル製剤。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/063207
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516665(P2005−516665)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019424
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】