説明

外観品質の優れた光学フィルム

【課題】外観欠点が少なく、かつ、光弾性係数の絶対値が小さい、液晶表示装置等に組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な、光学特性に優れた光学フィルムを提供すること。
【解決手段】アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出しすることにより製膜された光学フィルムであって、
前記原料組成物中の各成分の含有量が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、
前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより製膜された光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出法により形成された、外観欠点が少なく、液晶表示装置等に組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な、光学特性に優れた光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より画像を鮮明にみたいという要求が高まっている。そこで、単なる透明材料ではなく、より高度な光学特性が付与された光学材料が求められている。
このような高度な光学特性の一つに複屈折性がある。一般に、高分子は分子主鎖方向とそれに垂直な方向とでは屈折率が異なるため、複屈折を生じる。用途によっては、この複屈折を厳密にコントロールすることが求められている。例えば、液晶の偏光板に用いられる保護フィルムの場合は、全光線透過率が同じであっても、複屈折がより小さい高分子材料成形体が必要とされる。代表的なものとしては、トリアセチルセルロースからなるフィルムがある。一方、この複屈折を利用することにより、直線偏光を円偏光に変えたり(1/4波長板等)、液晶が持つ複屈折を補償する(位相差フィルム等の光学補償フィルム等)ことが可能となる。このような複屈折性光学材料としてはポリカーボネートがよく知られている。
また、最近では液晶ディスプレイが大型化し、それに伴い位相差フィルム等の高分子光学素子の大型化も必要である。しかし、光学素子を大型化すると、外力の偏りが生じるため、光学素子が外力による複屈折変化の生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じ、コントラストが不均一となるという問題点がある。
外力による複屈折変化の生じやすさは光弾性係数によって表されるが、前述のポリカーボネートは、光弾性係数が大きいため、これらに代わる光弾性係数の小さい複屈折性光学材料が切望されている。光弾性係数の絶対値が小さい材料としてはメタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)やアモルファスポリオレフィン(APO)が知られているが(非特許文献1参照)、これらの材料は光弾性係数の絶対値は満足のいくものではない。
【0003】
このような要望に応じ、本発明者らは先に、光弾性係数の絶対値が小さく、透明性等の他の光学特性にも優れた材料として、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物を見出している(特許文献1)。この樹脂組成物を用いて製膜した光学フィルムには、光学的に透明であることの他に、着色や変色が少ないこと、点状或いはスジ状等の外観欠陥が少ないこと等が更に求められる。
しかし、樹脂又は樹脂組成物を溶融押出法でフィルムに成形する場合、押出機内にて樹脂又は樹脂組成物が劣化し、フィルムが着色や変色する、或いは、光学的に透明フィルムが得られないといった問題がある。さらに架橋生成物等に起因するゲルや、焼け樹脂に起因する褐色或いは黒い点状等の外観欠陥が発生したり、樹脂分解ガスに起因する発泡が発生したり、メヤニ等に起因するダイライン等のスジ状欠陥が発生する等、外観不良が発生するといった問題がある。アクリル系樹脂とスチレン系樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物を成形加工した場合にも、この熱可塑性樹脂組成物が本来有する優れた光学特性を充分発揮することが出来なかった。
溶融押出により成形した樹脂フィルムの着色や変色等の問題を解決する方法として、N−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体とスチレン・アクリロニトリル共重合体とからなる樹脂組成物にフェノール系酸化防止剤とりん系酸化防止剤を添加する方法(特許文献2)、スチレン系樹脂と結晶性熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物に酸化防止剤を添加する方法(特許文献3)、スピロビインダン構造を繰り返し単位中に含むポリマーに炭素ラジカル捕捉剤を添加する方法(特許文献4)が開示されている。
また、押出機内で架橋ゲルが発生するのは、せん断応力により生成したポリマーラジカルが再結合するためであるとして、滑剤を添加したり、低圧縮比スクリューを使用したりすることにより、架橋ゲルの発生を抑制する方法も試みられている。その他、発生したゲルを溶融押出製膜する際のせん断速度を一定値以上にして破砕し微細化することでフィルム外観を向上させる方法(特許文献5)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/043356号パンフレット
【特許文献2】特開2006−45368号公報
【特許文献3】特開2001−131308号公報
【特許文献4】特開2006−219612号公報
【特許文献5】特開2003−311813号公報
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献2及び3に開示された方法のように、樹脂又は樹脂組成物に上記の酸化防止剤を添加すると、得られる樹脂フィルムの光弾性係数が大きく変化してしまうため、光弾性係数の絶対値が小さくなるように調製するためには酸化防止剤を多量に用いることができない。従って、得られる光学フィルムは液晶表示装置等に用いられるような外観欠陥の少ないフィルムとしては必ずしも満足できるものではない。
また、上記文献5に記載された方法は架橋ゲルの発生を根本から抑制するものではなく、滑剤のフィルム表面への滲み出しや発生した微細ゲルによるフィルム表面荒れに起因する外観欠陥の発生が避けられず、光学用途としては必ずしも満足できるものではない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、溶融押出法により形成された、外観欠点が少なく、かつ、光弾性係数の絶対値が小さい、液晶表示装置等に組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な、光学特性に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者の研究によれば、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂とを含む熱可塑性樹脂組成物を溶融製膜した際に発生する外観欠陥の主たる原因は、溶融押出時の加熱とせん断応力により局部過熱に晒されたポリマーに発生した炭素ラジカルであり、発生した炭素ラジカルがゲル状物や分解揮発分となってフィルム外観欠点になることが判明した。
【0008】
上記知見に基づいて本発明者らは、外観欠点が少なく、かつ、光弾性係数の絶対値が小さい、光学特性に優れた光学フィルムを溶融押出法にて形成する方法について鋭意検討を行った結果、アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物中の各成分の含有量を特定範囲に調整し、その原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、単軸押出機の原料投入口からTダイ出口までの溶融樹脂温度を原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより、着色や透明性の低下を伴うことなく、外観欠点の少ない、光学特性に優れた光学フィルムが得られることを見出し本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出しすることにより製膜された光学フィルムであって、
前記原料組成物中の各成分の含有量が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、
前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより製膜された光学フィルム。
[2]
前記単軸押出機はベント部及びポリマーフィルターを備えた押出機である、上記[1]記載の光学フィルム。
[3]
前記ポリマーフィルターの濾過精度が20μm未満である、上記[2]記載の光学フィルム。
[4]
前記ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)を、前記熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して0.05質量部以上0.5質量部以下含む、上記[1]〜[3]のいずれか記載の光学フィルム。
[5]
前記ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)は、分子中にアクリレート基及びフェノール性水酸基を有する、下記一般式(1)で表される化合物である、上記[1]〜[4]のいずれか記載の光学フィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
[6]
前記スチレン系樹脂(A−2)は、無水マレイン酸含量が0.1〜50質量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である、上記[1]〜[5]のいずれか記載の光学フィルム。
[7]
前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の含有量の合計が熱可塑性樹脂組成物(A)全体に対して80質量%以上であり、前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の質量比((A−1)/(A−2))が20/80〜80/20である、上記[1]〜[6]のいずれか記載の光学フィルム。
[8]
ガラス転移温度が120℃以上200℃以下、膜厚が20μm以上300μm以下であり、かつ、100μm以上の外観欠点が10個/m2未満である、上記[1]〜[7]のいずれか記載の光学フィルム。
[9]
光弾性係数が−4×10-12〜4×10-12/Paである、上記[1]〜[8]のいずれか記載の光学フィルム。
[10]
黄色度ΔYI値が1.5以下であり、ヘイズ値が0.5%以下である、上記[1]〜[9]のいずれか記載の光学フィルム。
[11]
上記[1]〜[10]のいずれか記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。
[12]
上記[1]〜[10]のいずれか記載の光学フィルムからなる位相差フィルム。
[13]
アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出しすることにより製膜する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
前記原料組成物中の各成分の含有量が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、
前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより製膜する工程を含む光学フィルムの製造方法。
[14]
前記単軸押出機は濾過精度が20μm未満であるポリマーフィルターを備えた押出機である、上記[13]記載の光学フィルムの製造方法。
[15]
前記光学フィルムは、ガラス転移温度が120℃以上200℃以下、膜厚が20μm以上300μm以下であり、かつ、100μm以上の外観欠点が10個/m2未満である、上記[13]又は[14]記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外観欠点が少なく、かつ、光弾性係数の絶対値が小さい、液晶表示装置等に組み込んだ場合に優れた表示品質を発現することが可能な、光学特性に優れた光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態の光学フィルムは、アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出することにより製膜された光学フィルムであって、前記原料組成物中の各成分の割合が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することによって製膜された光学フィルムである。
【0015】
まず、熱可塑性樹脂組成物(A)について説明する。熱可塑性樹脂組成物(A)は、アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む。
【0016】
本実施の形態において、アクリル系樹脂(A−1)とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体を含む単量体を重合して得られる重合体である。
【0017】
アクリル系樹脂(A−1)の具体例としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル、より選ばれる1種以上の単量体を重合したものが挙げられる。また、アクリル系樹脂(A−1)には、上記化合物と共重合可能なその他の単量体との共重合体も含まれる。
【0018】
中でも、耐候性と透明性に優れ、さらに、重合反応速度が比較的速く高分子量のポリマーが得られる傾向にあるため、メタクリル酸メチルの単独重合体、又は、メタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が好ましい。
【0019】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体としては、メタクリル酸メチル以外のメタリル酸アルキルエステル類;アクリル酸アルキルエステル類;スチレン及びo−メチルスチレン,p−メチルスチレン,2,4−ジメチルスチレン,エチルスチレン,p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン類;α−メチルスチレン,α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0020】
また、これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特に、アクリル酸アルキルエステル類は、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られる共重合体の成形加工時の流動性が高くなる傾向にあるため好ましい。
【0021】
アクリル酸アルキルエステル類としては、特に、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、それを少量メタクリル酸メチルと共重合させるだけでも成形加工時の流動性の著しい改良効果が得られる傾向にあるため好ましい。
【0022】
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上14質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
また、アクリル系樹脂(A−1)には、上述したように、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体と、他の単量体成分を共重合したものも含まれるが、このような他の単量体成分の含量(共重合割合)は、アクリル系樹脂(A−1)に対して50質量%未満であることが好ましい。
【0024】
アクリル系樹脂(A−1)の重量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。重量平均分子量のより好ましい範囲は7万〜15万である。ここで、重量平均分子量は、GPC(東ソー社製)を用い、展開液をクロロホルムとしてポリスチレン換算により求めた値を意味する。
【0025】
本実施の形態においては、アクリル系樹脂(A−1)として、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いることができる。また、本実施の形態においては、アイソタクチックポリメタクリル酸アルキルエステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸アルキルエステルを同時に用いることもできる。
【0026】
アクリル系樹脂(A−1)を製造する方法としては、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合により製造するのが好ましい。
【0027】
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0028】
重合反応に用いられる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
【0029】
特に、90℃以上の高温下で重合を行う場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ、用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等が好ましく、具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。
【0030】
これらの開始剤は、好ましくは0.005〜5質量%の濃度範囲で用いられる。
【0031】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、一般的なラジカル重合において用いられる任意のものを使用することができ、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂(A−1)の重合度が上記の好適な範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0032】
アクリル系樹脂(A−1)の製造方法としては、例えば、特公昭63−1964号公報等に記載されている方法等を用いることができる。
【0033】
本実施の形態においては、アクリル系樹脂(A−1)として耐熱アクリル系樹脂を用いることができる。耐熱アクリル系樹脂とは、芳香族ビニル系単量体と(メタ)アクリル系単量体を単量体成分として含む重合体を言い、好ましくは(メタ)アクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上の重合体である。
【0034】
ここで、芳香族ビニル系単量体とは、芳香族炭化水素の側鎖にビニル基が結合している単量体を言い、(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの誘導体を言う。
【0035】
(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0036】
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等が挙げられる。上記の中でも、重合反応速度が速く、機械的強度に優れた高分子量ポリマーが得られる傾向にあるため、スチレンが好ましい。
【0037】
本実施の形態において、耐熱アクリル系樹脂としては、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び下記一般式(4)で表される化合物単位を含む共重合体(以下、耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)という。)が、均一なランダム共重合体が得られやすく、高品質の安定したポリマーとなる傾向にあるため好ましい。
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、XはO又はN−Rを示す。Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基である。)
【0040】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。上記の中でも、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0041】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等が挙げられる。上記の中でも、スチレンが好ましい。
【0042】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)の第三の単量体成分である一般式(4)で表される単位のうち、XがOであるものとしては、無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物に由来する単位が挙げられる。上記の中でも、無水マレイン酸は安価に原料入手が可能であり、他の単量体成分との共重合が比較的容易であるため、無水マレイン酸に由来する単位が好ましい。また、XがN−Rであるものとしては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体に由来する単位が挙げられる。
【0043】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)を構成する単量体単位の共重合割合は、耐熱性、光弾性係数の観点から、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上90質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が5質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0044】
より好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上83質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が12質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が5質量%以上18質量%以下である。
【0045】
さらに好ましくは、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位が50質量%以上78質量%以下、芳香族ビニル化合物単位が16質量%以上40質量%以下、上記一般式(4)で表される化合物単位が6質量%以上15質量%以下である。
【0046】
また、上記一般式(4)で表される化合物単位の共重合割合に対する芳香族ビニル化合物単位の割合(芳香族ビニル化合物単量体単位の共重合割合/一般式(4)で表される化合物単位の共重合割合)が1倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0047】
特に好ましい耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)としては、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)が挙げられ、特に、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜90質量%、無水マレイン酸単位が3〜20質量%、スチレン単位が7〜40質量%であり、かつ、無水マレイン酸単位の共重合割合に対するスチレン単位の共重合割合(スチレン単位/無水マレイン酸単位)が1〜3倍であるものが耐熱性、光弾性係数の観点から好ましい。共重合体中の各単位の割合は、より好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜90質量%、無水マレイン酸単位が5〜19質量%、スチレン単位が10〜40質量%であり、さらに好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が50〜88質量%、無水マレイン酸単位が6〜15質量%、スチレン単位が16〜40質量%である。
【0048】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)を製造する方法としては、ラジカル開始剤を使用した塊状重合が適しているが、溶液重合、乳化重合を用いることも可能である。
【0049】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)の重合には、ラウロイルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイドを適用することが好ましい。
【0050】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)の好ましい重合方法としては、例えば、特公昭63−1964号公報に記載の方法が挙げられる。
【0051】
メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−1−1)のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、光学フィルムの強度の観点から10g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0052】
また、耐熱アクリル系樹脂の別の好適な例として、メタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位、及び6員環構造の酸無水物単位を含む3元以上の共重合体(以下、耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)という。)が挙げられる。この耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)は、耐熱性に優れると共に、得られる成形体のレタデーション設計が容易となる傾向にあることから光学材料に適している。
【0053】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステル及び第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物の具体例、並びに、その好ましい共重合割合は、上述の耐熱アクリル系樹脂(A−1−1)と同様である。
【0054】
また、耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)の第三の単量体成分である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体、及び必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による分子内環化反応を行わせることにより形成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が形成される。
【0055】
6員環構造の酸無水物単位を形成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
【0056】
耐熱アクリル系樹脂(A−1−2)は、特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0057】
本実施の形態においてスチレン系樹脂(A−2)とは、少なくともスチレン系単量体を単量体成分として含む重合体をいう。
【0058】
ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいい、例えば、スチレンの他、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等のビニル芳香族化合物単量体が挙げられ、上記の中でも、スチレンが好ましい。
【0059】
また、スチレン系樹脂(A−2)には、スチレン系単量体成分と他の単量体成分とを共重合したものも含まれる。共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンが挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0060】
このような他の単量体成分の含量(共重合割合)は、スチレン系樹脂(A−2)に対して50質量%未満であることが好ましい。
【0061】
スチレン系樹脂(A−2)としては、特に、スチレン−無水マレイン酸共重合体が、耐熱性を有し、かつ、光学フィルムの透明性や耐折強度等の特性が良好となる傾向にあるため好ましい。特に、アクリル系樹脂(A−1)としてメタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体を用いる場合に、スチレン系樹脂(A−2)としてスチレン−無水マレイン酸共重合体を用いるのが好ましい。
【0062】
スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2)において、共重合体中の無水マレイン酸含量は0.1〜50質量%であることが好ましい。共重合体中の無水マレイン酸含量の、より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸含量が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下であると透明性に優れる傾向にある。
【0063】
スチレン系樹脂(A−2)としては、組成、分子量等が異なる2種以上のものを併用することができる。スチレン系樹脂(A−2)を製造する方法としては、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化又は溶液重合方法等を挙げることができる。
【0064】
また、スチレン系樹脂においては、共役ジエン、スチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0065】
本実施の形態においては、熱可塑性樹脂組成物(A)はアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)を含み、熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)の割合(質量部)やこれらの質量比を調整することにより、光学フィルムの光弾性係数を制御することができる。
【0066】
熱可塑性樹脂組成物(A)におけるアクリル系樹脂(A−1)の割合は、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましい。スチレン系樹脂(A−2)の割合は、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましい。
【0067】
また、熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の含有量の合計は、熱可塑性樹脂組成物(A)全体に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0068】
さらに、熱可塑性樹脂組成物(A)におけるアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の質量比((A−1)/(A−2))は、アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)の種類にも依存するが、20/80〜80/20であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。
【0069】
また、熱可塑性樹脂組成物(A)には、アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)以外の重合体を混合することもできる。混合することができる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの重合体の含有量は、光弾性係数の観点から、熱可塑性樹脂組成物(A)に対して、20質量%以下であることが好ましい。
【0070】
さらに、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)においては、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)は相溶することが好ましい。相溶は、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂の組成(共重合組成を含む)、配合比率、混練温度、混練圧力、冷却温度、冷却速度等を適宜選択することにより実現できる。相溶(missible)については、『高性能ポリマーアロイ』(高分子学会編集、平成3年丸善株式会社発行)に詳しい記載がある。アクリル系樹脂(A−1)、スチレン系樹脂(A−2)が相溶すると、アクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)とを含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含む原料組成物を成形することにより得られる光学フィルムの全光線透過率が良好となる傾向にある。
【0071】
さらに、熱可塑性樹脂組成物(A)には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。このような添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸,ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;その他の酸化防止剤;紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤、その他添加剤、或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0072】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくは、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0073】
紫外線吸収剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して、紫外線吸収剤が0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.1〜1.5質量部以下である。
【0074】
次に、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)について説明する。本実施の形態の光学フィルムに含まれるポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)は、熱可塑性樹脂組成物(A)の成形加工工程等における熱劣化による異物の発生等を抑制する酸化防止剤であり、熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲で配合されることが好ましく、0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で配合されることがより好ましい。
【0075】
ここで、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)の配合量が0.05質量部未満である場合には、原料組成物の溶融製膜時における熱安定性が乏しくなり異物の発生を十分に抑制できない場合があり、一方、配合量が0.5質量部を超える場合には、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤そのものが揮発分として多く析出してしまい、得られる光学フィルムの表面凹凸の原因となりフィルムの外観品質を低下させる場合がある。
【0076】
熱安定剤として一般的に知られているフェノール系酸化防止剤は、空気中の酸素が溶融樹脂に発生したポリマー炭素ラジカルに付加して生成するカルボキシラジカル(COO-)を捕捉するのに対して、本実施の形態のポリマー炭素ラジカル捕捉剤は、成形加工時に分子鎖の切断や水素引き抜き反応等により発生するポリマー炭素ラジカルそのものを直接捕捉することができる。ポリマー炭素ラジカル捕捉剤としては、分子内にアクリレート基を有する化合物が好ましく、分子内にアクリレート基及びフェノール性水酸基を有する化合物がより好ましい。分子内にアクリレート基を有するポリマー炭素ラジカル捕捉剤は、ゲル化防止効果がより顕著となる傾向にあり、さらに、熱可塑性樹脂組成物(A)中に多く添加してもその光弾性係数を大きく変化させるおそれが少ない。
【0077】
分子内にアクリレート基を有するポリマー炭素ラジカル捕捉剤としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
【0078】
【化3】

【0079】
(一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1〜8にアルキル基を示す。)
【0080】
一般式(1)におけるR1で示される炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環構造を有しているものでもよい。また、R2及びR3は、好ましくは、4級炭素を含む「*−(CH3)2−R’」で表される構造(*は芳香環への連結部位を示し、R’は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)である。
【0081】
R2は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基又はt−オクチル基である。R3は、より好ましくはt−ブチル基、t−アミル基である。
【0082】
上記一般式(1)で表される化合物として、市販のものではSumilizer GM(一般式(2))、Sumilizer GS(一般式(3))(共に商品名、住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0083】
【化4】

【0084】
【化5】

【0085】
これらのポリマー炭素ラジカル捕捉剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0086】
本実施の形態の光学フィルムには、上記ポリマー炭素ラジカル捕捉剤以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、他の酸化防止剤が添加されていてもよい。そのような他の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やりん系酸化防止剤を挙げることができ、これらの酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、チオジエチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド)、ジエチル((3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル)メチル)ホスフェート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート)、ヘキサメチレン−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0088】
また、フェノール系酸化防止剤としては市販のフェノール系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス3114(Irganox 3114:1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガノックス3790(Irganox 3790:1,3,5−トリス((4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(現チバ・ジャパン株式会社)製)、アデカスタブAO−80(アデカスタブAO−80:3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、アデカ株式会社製)、イルガノックス3125(Irganox 3125、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、スミライザーBHT(Sumilizer BHT、住友化学製)、シアノックス1790(Cyanox 1790、サイテック製)、スミライザーGA−80(Sumilizer GA−80、住友化学製)、ビタミンE(エーザイ製)等が挙げられる。
【0089】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジホスファイト、テトラキス(2,4−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ジ−t−ブチル−m−クレジル−ホスフォナイト等が挙げられる。
【0090】
また、リン系酸化防止剤としては市販のリン系酸化防止剤を使用してもよく、このような市販のリン系酸化防止剤としては、例えばイルガフォス168(Irgafos 168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガフォス12(Irgafos 12:トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、イルガフォス38(Irgafos 38:ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜りん酸、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)、アデカスタブ329K(ADK STAB 329K、旭電化製)、アデカスタブPEP36(ADK STAB PEP36、旭電化製)、アデカスタブPEP−8(ADK STAB PEP−8、旭電化製)、Sandstab P−EPQ(クラリアント製)、ウェストン618(Weston 618、GE製)、ウェストン619G(Weston 619G、GE製)、ウルトラノックス626(Ultranox 626、GE製)、スミライザーGP(Sumilizer GP:6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン)、住友化学製)等が挙げられる。
【0091】
本実施の形態の光学フィルムは、上述したアクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を特定の割合で含む原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、単軸押出機の原料投入口からTダイ出口までの溶融樹脂温度を原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより得ることができる。
【0092】
原料組成物中の各成分の含有量は、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、好ましくは(A−1)25〜60質量部、(A−2)75〜40質量部、(B)0.05〜0.3質量部であり、より好ましくは(A−1)25〜50質量部、(A−2)75〜50質量部、(B)0.1〜0.3質量部である。
【0093】
(A−1)の含有量が20質量部未満であると、光弾性係数が大きくなる傾向にあり、80質量部を超えると、ガラス転移温度が低くなる傾向にある。また、(A−2)の含有量が20質量部未満であると、耐熱性が不足するだけでなく、位相差を発現しにくくなる傾向にあり、80質量部を超えると光弾性係数が大きくなる傾向にある。さらに、(B)の含有量が、0.05質量部未満であると、溶融加工時の熱劣化を抑制できなくなる傾向にあり、0.5質量部を超えると、溶融加工時の揮発成分が多くなり、かえってフィルム表面に付着する等して外観欠点が悪化するおそれがある。
【0094】
本実施の形態の光学フィルムを製膜するための溶融押出法は、バリアフライト型スクリューを備えた単軸押出機を用いて溶融押出がなされるので、原料組成物に過度のせん断が加わらず、溶融樹脂温度を低く保つことができる。また、押出機及びTダイの設定温度を、溶融樹脂温度が原料組成物のガラス転移温度+150℃未満になるように低い温度を保持して溶融押出することにより、炭素ラジカルが発生しづらくなり、ゲル状物や分解物の生成が抑制され、外観欠点の少ない光学フィルムを得ることが可能となる。
【0095】
押出機として二軸押出機を用いた場合には、単軸押出機よりもせん断力が強いので溶融樹脂温度が高くなり易く、せん断による劣化も起こり易くなる。また押出機シリンダー内が飢餓充填で運転されるために、高温の溶融樹脂と空気が接触することによる酸化劣化やゲル化も起こしやすくなり、光学フィルムの外観欠点が増大する傾向にある。
【0096】
また、溶融押出しの際の溶融樹脂温度が、原料組成物のガラス転移温度+150℃以上であると、樹脂の劣化による着色と、得られるフィルムの透明性が低下し易くなる。そのため、溶融押出しの際の溶融樹脂温度は、原料組成物のガラス転移温度+150℃未満であることが好ましく、ガラス転移温度+140℃未満であることがより好ましく、ガラス転移温度+130℃未満であることが更に好ましい。
【0097】
溶融押出法に用いる単軸押出機は揮発分除去手段、即ち、ベント部を備えていることが好ましく、ベント部の数は1個でも複数個でもいずれでもよい。溶融押出時のベント部の圧力は930〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲が好ましく、800〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲がより好ましい。圧力が930hPaを超えると、溶融押出時に発生する揮発分の除去が不十分となり、得られるフィルムの透明性が低下する傾向にあり、1.33hPa未満であると工業的な実施が困難となる傾向にある。
【0098】
また、溶融押出法に用いる単軸押出機は、濾過精度が20μm未満であるポリマーフィルターを備えていることが好ましい。当該ポリマーフィルターを備えることによって、溶融押出時に発生するゲル状物や異物を高精度に除去することができ、外観欠点のより少ない光学フィルムを得ることができる。
【0099】
本実施の形態の光学フィルムのガラス転移温度は、好ましくは120℃以上200℃以下であり、より好ましくは125℃以上150℃以下である。ガラス転移温度が120℃未満であると、光学フィルムとして液晶表示装置等に用いられる際の耐熱耐久性評価において寸法変化を起こすおそれがあり、ガラス転移温度が200℃を超えると、溶融押出法によるフィルム製膜において溶融樹脂温度が高くなり過ぎるため、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤が揮発してしまい樹脂の熱劣化を起こし易くなる。
【0100】
ここで、ガラス転移温度には各種の測定方法があるが、本実施の形態においては示差走査熱量計(DSC)によってASTM−D−3418に準拠した中点法で求めた温度と定義する。
【0101】
本実施の形態の光学フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上300μm以下であり、より好ましくは25μm以上250μm以下である。
【0102】
本実施の形態の光学フィルムは、100μm以上の外観欠点が10個/m2未満であることが好ましい。100μm以上の外観欠点が10個/m2以上であると、光学フィルムとして液晶表示装置等に用いられる際に、表示品質を低下させるおそれがある。現在要求されている表示品質を満たすためには、外観欠点が5個/m2未満であることがより好ましく、1個/m2未満であることが更に好ましい。
【0103】
ここで、外観欠点の数とは、例えばマイクロスコープを用いた透過法で、架橋ゲルに起因する長径が100μm以上の外観欠点をカウントし、単位面積当りに換算して算出する方法等によって求めることができる。
【0104】
本実施の形態の光学フィルムは、23℃における未延伸時の光弾性係数が−4×10-12/Pa〜4×10-12/Pa未満であるものが好ましい。光弾性係数が上記範囲内であれば、外力による複屈折の変化が少ないため、これを大型の液晶表示装置等に使用した場合にコントラストや画面の均一性に優れる傾向にある。光弾性係数の値は、−3.0×10-12/Pa〜3.0×10-12/Paであることがより好ましく、−2.0×10-12/Pa〜2.0×10-12/Paであることが更に好ましい。
【0105】
ここで、光弾性係数とは、外力による複屈折の変化の生じ易さを表す係数で、下式により定義される。
CR[/Pa]=Δn/σR Δn=nx−ny
(式中、CR:光弾性係数、σR:伸張応力[Pa]、Δn:応力付加時の複屈折、nx:伸張方向と平行な方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0106】
光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途において設計された複屈折の変化が小さいことを意味する。
【0107】
本実施の形態の光学フィルムの黄色度ΔYI値は、1.5以下であることが好ましい。ΔYI値が1.5を超えると、黄色味が強くなり表示画面のコントラストが低下する場合がある。
【0108】
ここで、黄色度ΔYIとは、フィルムの黄色の着色度合い、すなわち着色を示す値であり、JIS T7105によって定義され、以下の式によって求められる。
黄色度差ΔYI=YI−YI0
ここで、ΔYI=黄色度差、YI=成形体の黄色度、I0=空気の黄色度である。
【0109】
本実施の形態の光学フィルムのヘイズは、0.5%以下であることが好ましい。ヘイズが0.5%を超えると表示画面のコントラストが低下する場合がある。フィルムのΔYIやヘイズの値は、製膜条件やポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)の配合量によって調整できる。
【0110】
ここで、ヘイズとは、フィルムの透明性を示す値であり、ASTM D1003によって定義される。
【0111】
本実施の形態の光学フィルムは、必要に応じて、未延伸フィルムを機械的流れ方向(MD)に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向(TD)に横一軸延伸することができる。また、ロール延伸又はテンター延伸による一軸延伸法、ロール延伸とテンター延伸の組み合わせによる逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって延伸フィルムとすることができる。最終的な延伸倍率は得られたフィルムの熱収縮率より判断することができる。延伸倍率は少なくともどちらか一方向に1%以上300%以下であることが好ましく、10%以上200%以下であることがさらに好ましい。この範囲に設計することにより、複屈折、強度の観点で好ましい位相差フィルムや偏光板保護フィルムが得られる。
【0112】
延伸倍率は、得られた延伸フィルムをガラス転移温度よりも20℃以上高い温度で収縮させ以下の関係式から延伸倍率を決定できる。また、ガラス転移温度はDSC法や粘弾性法により求めることができる。
延伸倍率(%)=[(収縮前の長さ/収縮後の長さ)−1]×100
【0113】
本実施の形態の光学フィルムは、外観欠点が少なく、かつ、光弾性係数の絶対値が小さく光学特性に優れているため、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のフレキシブルディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム;1/4波長板、1/2波長板等の位相差フィルム;視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム;ディスプレイ前面板;ディスプレイ基板;ソフトレンズ等に好適に用いることができる。
【0114】
本実施の形態の光学フィルムには、必要に応じて、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明するが、本実施の形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
[測定方法]
本明細書中の各物性等の測定及び評価方法は次の通りである。
(1)複屈折、光弾性係数の測定
Macromolecules 2004,37,1062−1066に詳細が記載された複屈折測定装置を用いた。レーザー光の経路にフィルムの引っ張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は20%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度:6mm/分)、試験片幅は7mmで測定を行った。複屈折のΔnと伸張応力(σR)の関係から、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きを算出し光弾性係数(CR)を求めた。
【0116】
(2)ΔYIの測定
スガ試験機株式会社 多光源分光測定計 MSC−5N−GV5(JISZ8722−C条件の装置)を使用して、JIS T7105(プラスチックの光学的特性試験方法)に準拠し、以下の式を用いて黄色度ΔY
Iを測定した。ΔYIは、成形体の黄変色の度合いを示し、この値が小さいほど、着色が小さいことを示す。
黄色度差ΔYI=YI−YI0
ΔYI=黄色度差
YI=成形したフィルムの黄色度
YI0=空気の黄色度
【0117】
(3)ヘイズの測定
フィルムのヘイズ値をASTM D1003に準拠し測定した。
【0118】
(4)フィルムの外観欠点の個数評価
得られた光学フィルムを200mm×250mmに切り取ったサンプルを10枚作製し、各サンプルをマイクロスコープを用いた透過法によって、ゲル状物や異物の長径が100μm以上の外観欠点をカウントし、単位面積1m2当りに換算した。得られた結果をもとに以下の評価基準で評価した。
◎ : 外観欠点個数が3個/m2未満である。
○ : 外観欠点個数が10個/m2未満である。
× : 外観欠点個数が10個/m2以上である。
××: 外観欠点個数が50個/m2以上である。
【0119】
(5)ガラス転移温度の測定
得られたフィルム約10mgを30℃より昇温速度20℃/分にて窒素フローの条件で、パーキンエルマー社製DSC−7型を用いて行った。ガラス転移温度はASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。
【0120】
(6)スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸含有量の測定
試料となるスチレン−無水マレイン酸共重合体を重クロロホルムに溶解し、日本電子製1H−NMR(JNM ECA−500)を用い、周波数500MHz、室温にてNMR測定を行なった。測定結果より、スチレン単位中のベンゼン環のプロトンピーク(7ppm付近)と無水マレイン酸単位中のアルキル基のプロトンピーク(1〜3ppm付近)の面積比から、試料中のスチレン単位と無水マレイン酸単位のモル比を求めた。得られたモル比とそれぞれのモノマー単位の質量比(スチレン単位:無水マレイン酸単位=104:98)から、スチレン−無水マレイン酸共重合体中の無水マレイン酸の含量を求めた。
【0121】
[原料組成物]
(1)アクリル系樹脂(A−1)
(1−1)メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(A−1−1)
メタクリル酸メチル89.2質量部、アクリル酸メチル5.8質量部、及びキシレン5質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.0294質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.115質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10Lの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(A−1−1)のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体の、NMRにより測定したアクリル酸メチル含量は6.0質量%、重量平均分子量は14.5万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は1.0g/分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−5.2×10-12/Paであった。
【0122】
(1−2)メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(A−1−2)
メタクリル酸メチル93.2質量部、アクリル酸メチル2.3質量部、及びキシレン3.3質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,3−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.12質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10Lの密閉耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯層に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去した。さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体(A−1−2)のペレットを得た。
得られたメタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体の、NMRにより測定したアクリル酸メチル含量は2.0%、重量平均分子量は10.2万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−4.5×10-12/Paであった。
【0123】
(1−3)メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−3)
特公昭63−1964号公報に記載の方法で、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を得た。得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体(A−1−3)の、NMRにより測定した組成は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、重量平均分子量は12.2万、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフロー値は1.6g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、−2.9×10-12/Paであった。
【0124】
(2)スチレン系樹脂(A−2)
(2−1)スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部の比率で合計100質量部を準備した(ただし、両者は混合しない)。メチルアルコール5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液とした。0.95kg/hr.の速度で連続して内容積4Lのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
一方、70℃に加熱した無水マレイン酸を、第2調合液として0.10kg/hr.の速度で同一重合機へ供給し、111℃で重合を行った。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、スチレン−無水マレイン酸共重合体(A−2−1)のペレットを得た。
得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体は無色透明で、NMRによる組成分析の結果、そのスチレン含量は85質量%、無水マレイン酸含量15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフローレート値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.1×10-12/Paであった。
【0125】
(2−2)スチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%、エチルベンゼン20質量%を調合液とし、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いた。この調合液を1L/hr.の速度で連続して、内容積2Lの攪拌機付きの完全混合重合器へ供給し、136℃で重合を行った。
固形分49%を含有する重合液を連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出した。
得られたスチレン−メタクリル酸共重合体(A−2−2)は無色透明で、NMRによる組成分析の結果、スチレン含量92質量%、メタクリル酸含量8質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8kg荷重のメルトフローレート値は5.2g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.8×10-12/Paであった。
【0126】
(3)シクロオレフィン系樹脂(COP)
比較のため、シクロオレフィン系樹脂(日本ゼオン株式会社製 Zeonor1420R)を用いた。
【0127】
(4)ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)
アクリレート基及びフェノール性水酸基を有するポリマー炭素ラジカル捕捉剤である住友化学(株)社製スミライザーGS(融点(Tm):≧115℃)を用いた。
【0128】
(5)その他の酸化防止剤
(5−1)フェノール系酸化防止剤:IRGANOX1076(C−1)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製IRGANOX1076(融点(Tm):50−55℃)を用いた。
【0129】
(5−2)ラクトン系酸化防止剤(C−2)
ラクトン系酸化防止剤であるチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)HP−136(融点(Tm):99℃及び124℃)を用いた。
【0130】
[実施例1〜5、比較例1〜7]
表1に記載の配合比の原料組成物を、50mmφ、L/D=32、バリアフライト型スクリューを有するベント部付の単軸押出機に仕込んだ。ベント口から13hPa(10mmHg)にて吸引しながら溶融混錬を行い、ギアポンプを用いて、濾過精度10μmのリーフディスクフィルターに通し、巾400mmのTダイより押出成形することにより実施例1〜5、比較例1〜7の未延伸フィルムを得た。スクリュー回転数、シリンダー設定温度、Tダイ設定温度を調整することで、原料投入口からTダイ出口までの溶融樹脂温度が原料組成物のガラス転移温度+150℃未満になるように押出成形した。得られた光学フィルムの膜厚は130〜150μmであった。
各光学フィルムのフィルム特性(ガラス転移温度、光弾性係数、ΔYI、ヘイズ、外観欠点の個数)を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
原料組成物中の各成分の含有量が特定範囲に調整され、かつ、溶融樹脂温度をガラス転移温度+150℃未満に維持して単軸押出機を用いて押出成形した実施例1〜5の光学フィルムは、光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、成形加工時の熱履歴を受けているにもかかわらず、黄変(着色)や透明性の低下がなく、外観欠点個数も著しく少ないものであった。
一方、比較例1の光学フィルムはアクリル系樹脂の含有量が多すぎるため、ガラス転移温度が低く耐熱性に劣り、さらに、光弾性係数の絶対値も大きかった。また、比較例2の光学フィルムはスチレン系樹脂の代わりに、シクロオレフィン系樹脂を用いているため、透明性に顕著に劣っていた。
また、比較例3の光学フィルムはポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)の含有量が多すぎることにより、押出成形時のロール汚れに起因して外観欠点の多いフィルムとなった。
ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)ではなく、その他の酸化防止剤を配合した比較例4及び5では、成形加工時の異物発生抑制が十分ではなく、得られたフィルムの外観欠点個数は満足できるものが得られなかった。
溶融押出しの際の溶融樹脂温度が原料組成物のガラス転移温度+150℃を超えている比較例6においては、得られたフィルムが発泡し、さらに、黄変(着色)が生じた。さらに、押出機として二軸押出機を用いた比較例7は、外観欠点個数が増大し、光学フィルムとしての特性を十分に満足するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルムとして用いることができ、特に、高い複屈折性と低い光弾性係数が要求される偏光板保護フィルムや位相差フィルムとしての産業上利用可能性を有する。
とりわけ、本発明の光学フィルムは、テレビ、パソコン、携帯電話、カ−ナビゲ−ション、医療機器、産業機器等の各種ディスプレイに用いられるIPSモ−ドの液晶表示装置の画質向上に有用である。
また、本発明の光学フィルムは、偏光板と貼合して円偏光板とすることにより、反射型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置の内部反射を低減することができ有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出しすることにより製膜された光学フィルムであって、
前記原料組成物中の各成分の含有量が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、
前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより製膜された光学フィルム。
【請求項2】
前記単軸押出機はベント部及びポリマーフィルターを備えた押出機である、請求項1記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーフィルターの濾過精度が20μm未満である、請求項2記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)を、前記熱可塑性樹脂組成物(A)100質量部に対して0.05質量部以上0.5質量部以下含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)は、分子中にアクリレート基及びフェノール性水酸基を有する、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の光学フィルム。
【化1】

(一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【請求項6】
前記スチレン系樹脂(A−2)は、無水マレイン酸含量が0.1〜50質量%であるスチレン−無水マレイン酸共重合体である、請求項1〜5のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の含有量の合計が熱可塑性樹脂組成物(A)全体に対して80質量%以上であり、前記熱可塑性樹脂組成物(A)中のアクリル系樹脂(A−1)とスチレン系樹脂(A−2)の質量比((A−1)/(A−2))が20/80〜80/20である、請求項1〜6のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項8】
ガラス転移温度が120℃以上200℃以下、膜厚が20μm以上300μm以下であり、かつ、100μm以上の外観欠点が10個/m2未満である、請求項1〜7のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項9】
光弾性係数が−4×10-12〜4×10-12/Paである、請求項1〜8のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項10】
黄色度ΔYI値が1.5以下であり、ヘイズ値が0.5%以下である、請求項1〜9のいずれか1項記載の光学フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項記載の光学フィルムからなる位相差フィルム。
【請求項13】
アクリル系樹脂(A−1)及びスチレン系樹脂(A−2)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)と、ポリマー炭素ラジカル捕捉剤(B)と、を含む原料組成物を溶融押出しすることにより製膜する工程を含む光学フィルムの製造方法であって、
前記原料組成物中の各成分の含有量が、(A−1)20〜80質量部、(A−2)80〜20質量部、(B)0.05〜0.5質量部であり、
前記原料組成物を、Tダイを備えた単軸押出機を用いて、前記単軸押出機の原料投入口から前記Tダイ出口までの溶融樹脂温度を前記原料組成物のガラス転移温度+150℃未満に維持して溶融押出することにより製膜する工程を含む光学フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記単軸押出機は濾過精度が20μm未満であるポリマーフィルターを備えた押出機である、請求項13記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記光学フィルムは、ガラス転移温度が120℃以上200℃以下、膜厚が20μm以上300μm以下であり、かつ、100μm以上の外観欠点が10個/m2未満である、請求項13又は14記載の光学フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−279787(P2009−279787A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132152(P2008−132152)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】