説明

外部制御式粘性流体継手装置及び車両用冷却ファン装置

【課題】 制御部の耐久性、信頼性を増大し、且つ、駆動側回転体から従動側回転体への伝達トルクを好適に制御することができる外部制御式粘性流体継手装置及び車両用冷却ファン装置を提供する。
【解決手段】 外部制御式粘性流体継手装置は、ハウジング11と、ハウジングに回転可能に支持されたボディ12と、ボディと同軸に配置されてこれに回転可能に支持された出力軸13と、ハウジングに対し直線移動可能に設けられた仕切り板14と、仕切り板の変位に応じて貯蔵するシリコンオイル43の液面43aの高さが変更されるオイル貯蔵室42と、オイル貯蔵室に貯蔵されたシリコンオイルの液面の高さに応じたオイル貯蔵室からのシリコンオイルの供給量に応じて、ボディから出力軸への伝達トルクが変更されるトルク伝達部41と、オイル戻し路26と、ハウジングに固定され、外部信号に基づき仕切り板を変位させる電磁ソレノイド15及びECU16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部制御式粘性流体継手装置及び車両用冷却ファン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粘性流体継手装置として種々のものが提案されている。例えば、特許文献1の粘性流体継手装置は、駆動軸(1)に固定された駆動側回転体(7)を挟み込むようにして構成されるケース(2)及びカバー(3)により形成される作動側空間(14)と、カバーに設けられた油の貯蔵室(6)とから構成される。この粘性流体継手装置は、カバー前面に固定された空気温度感応式バイメタル(10)を前面空気温度(ラジエータ通過風温度)により変形させ、これにより弁部材(8)を動作させて貯蔵室からトルク伝達部(4)へとつながる油の供給孔(5−1)の開度を変化させることで、伝達トルクを制御しファン回転数を変化させる。
【0003】
ところで、この粘性流体継手装置では、前面空気温度による空気温度感応式バイメタルの変形によって伝達トルクが制御されるため、所要の応答性が得られないことがある。そして、例えばファン回転数が、実際に必要な風量に対し応答遅れや過剰供給を生じて制御されてしまう。
【0004】
そこで、近年では、空気温度感応式バイメタルに代えて、永久磁石、電磁コイルから構成される制御部を設け、この制御部に対して外部からラジエータ水温(エンジン冷却液の温度)、油温、エンジン回転数等の信号(外部信号)を入力し、制御部により弁部材を動作させて油の供給孔の開度、即ち伝達トルクを制御する外部制御式粘性流体継手装置が提案されている。例えば特許文献2の外部制御式粘性流体継手装置は、空気温度感応式バイメタルを廃止し、電磁石で軸心周りの周方向に弁部材を駆動して油の供給孔の開度を制御するものである。また、特許文献3の外部制御式粘性流体継手装置は、空気温度感応式バイメタルを廃止し、電磁石で上下方向に弁部材を駆動して油の供給孔の開度を制御するものである。
【特許文献1】特許第3582739号公報(第1図)
【特許文献2】特許第3479675号公報
【特許文献3】特開2004−162911号公報
【特許文献4】特開2005−3131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2、3の外部制御式粘性流体継手装置は、既存の粘性流体継手装置の構造を利用することから、信号を伝える制御部等を回転体に設置する必要がある。従って、制御部に対し外力が加えられる分、制御部の耐久性・信頼性を低減させてしまう。
【0006】
一方、粘性流体を使用せず、電磁クラッチによる外部制御にて伝達トルクを制御する機構も提案されている(例えば特許文献4など)。しかしながら、この機構では構造が複雑化してシステムとして大掛かりなものとなり、加えてファン回転数を必要風量に対しリニアに制御することが難しい。
【0007】
本発明の目的は、制御部の耐久性、信頼性を増大し、且つ、駆動側回転体から従動側回転体への伝達トルクを好適に制御することができる外部制御式粘性流体継手装置及び車両用冷却ファン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持された駆動側回転体と、前記駆動側回転体と同軸に配置されて該駆動側回転体に回転可能に支持された従動側回転体と、流体の液面の高さが変更可能に該流体を貯蔵する流体貯蔵室と、前記駆動側回転体と、前記従動側回転体との間に形成され、前記流体貯蔵室に貯蔵された流体の液面の高さに応じた該流体貯蔵室からの流体の供給量に応じて、前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクが変更されるトルク伝達部と、前記駆動側回転体又は前記従動側回転体に形成され、前記トルク伝達部に供給された流体を前記流体貯蔵室に戻す流体戻し路と、外部信号に基づき、前記流体貯蔵室の液面の高さを調節する制御部とを備えたことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、前記ハウジングに対し直線移動可能に設けられた仕切部材を有し、前記流体貯蔵室は、前記ハウジングと前記仕切部材との間に形成され、前記制御部は、前記仕切部材を変位させることにより前記流体貯蔵室の液面の高さを調節するものであることを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、前記トルク伝達部は、前記流体貯蔵室からの流体の供給量に応じて前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクが変更される複数の作動部からなり、前記複数の作動部は、軸方向に直列に並べられていることを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、前記駆動側回転体又は前記従動側回転体には、前記複数の作動部をそれぞれ前記流体戻し路に連通する複数の流体回収路が形成されていることを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、前記従動側回転体又は前記ハウジングには、放熱フィンが設けられていることを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の外部制御式粘性流体継手装置を備えた車両用冷却ファン装置であることを要旨とする。
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、外部信号に基づき、前記制御部により流体貯蔵室に貯蔵された流体の液面の高さが変更される。そして、この貯蔵された流体の液面の高さに応じて、前記流体貯蔵室から前記トルク伝達部への流体の供給量がリニアに変更される。この流体の供給量に応じて、前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクが変更される。そして、前記トルク伝達部に供給された流体は、前記流体戻し路により前記流体貯蔵室に戻される。つまり、流体貯蔵室に貯蔵される流体の液面の高さは、外部信号に基づき前記制御部により制御されており、前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクは、前記流体貯蔵室に貯蔵された流体の液面の高さに応じた前記トルク伝達部への流体の供給量のリニアな変更によって好適に制御される。特に、前記流体貯蔵室の一部を固定側である前記ハウジングにて形成し、更に前記制御部を前記ハウジングに固定すれば、該制御部の耐久性、信頼性が増大される。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、仕切部材の変位を制御することで、流体貯蔵室の容積変化によって該流体貯蔵室に貯蔵された流体の液面の高さを変更することができ、仕切部材の変位をリニアに制御すれば、それに応じてトルク伝達部への流体の供給量をリニアに変更することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、前記トルク伝達部における前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクは、前記複数の作動部における全ての伝達トルクを併せたものになるため、例えば同様の作動部を単独で備えるトルク伝達部に比べてそのトルク伝達能力が増大される。また、これら複数の作動部は、軸方向に直列に並べられることで、径方向への大型化が解消され、より小型化が可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、前記各作動部に対応して該作動部を前記流体戻し路に連通する流体回収路が形成されていることで、流体の回収性が向上される。これにより、前記トルク伝達部(作動部)に残留する流体によって前記従動側回転体が連れ回りすることが防止され、意図せぬ作動音の発生も抑制される。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、本装置の作動による発熱は、前記放熱フィンによる大気中への放熱によって冷却される。
請求項6に記載の発明によれば、所要の冷却性に応じて伝達トルクを好適に制御可能な車両用冷却ファン装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、請求項1乃至6に記載の発明では、制御部の耐久性、信頼性を増大し、且つ、駆動側回転体から従動側回転体への伝達トルクを好適に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、例えば自動車などの車両用冷却ファン装置に適用される外部制御式粘性流体継手装置を示す断面図である。図1では、その上下方向を鉛直方向に一致させて描画している。同図に示されるように、この外部制御式粘性流体継手装置は、内燃機関としての車載エンジン上に固定されるハウジング11と、駆動側回転体としてのボディ12と、従動側回転体としての出力軸13と、仕切部材としての仕切り板14と、制御部を構成する電磁ソレノイド15及び電子制御装置(以下、「ECU」という)16とを備えている。
【0020】
前記ハウジング11は、段差11aを有する段付き円筒状に形成されており、一側及び他側(図1の左側及び右側)にそれぞれ第1筒部21及び第2筒部22を備えている。第1筒部21の内径は、第2筒部22の内径よりも小さく設定されている。そして、上記ハウジング11には、第1筒部21において前記ボディ12が回転可能に支持されている。
【0021】
すなわち、前記ボディ12は、前記第1筒部21の内径よりも小さい外径を有する円筒状に形成されており、その軸方向中間部において、第1筒部21の開口端部に設けられたベアリング31を介して前記ハウジング11に回転可能に支持されている。また、このボディ12は、その軸方向他側(図1の右側であって、第2筒部22側)端部において、前記段差11aの内周側に設けられたオイルシール32により前記ハウジング11に液密的に支持されている。なお、上記ボディ12は、軸方向他側の端面が段差11aよりも若干、第2筒部22側に突出する態様で前記ハウジング11に支持されている。
【0022】
前記ボディ12は、その軸方向中間部を境に一側(図1の左側)に拡開されており、一側及び他側にそれぞれ第1内周面23及び第2内周面24を形成している。第1内周面23の内径が第2内周面24の内径よりも大きく設定されていることはいうまでもない。そして、上記第2内周面24には、軸方向に所定間隔をおいて径方向内側に突設された複数(本実施形態では7個)の円環状の内向フランジ25が形成されている。
【0023】
また、上記ボディ12には、第2内周面24近傍の第1内周面23から径方向外側に凹設され、更にその先端から軸方向と平行に凹設されて前記第2筒部22側に開口する流体戻し路としてのオイル戻し路26が形成されている。そして、上記ボディ12には、各隣接する内向フランジ25間において、前記第2内周面24から径方向外側に凹設されて前記オイル戻し路26に連通する複数(本実施形態では6個)の流体回収路としてのオイル回収路27が形成されている。
【0024】
なお、上記ボディ12の軸方向中間部には、前記第1筒部21の外径よりも大きい内径を有して径方向外側に有底円筒状に突設されたプーリ12aが一体形成されている。上記プーリ12aの底壁部は、前記ベアリング31よりも軸方向一側(図1の左側)に離隔配置されている。ボディ12は、このプーリ12aに掛けられるベルト(図示略)を介してエンジンの回転(駆動力)が伝達されることでその軸線(ベアリング31)周りに回転駆動される。
【0025】
上記ボディ12には、前記出力軸13が回転可能に支持されている。すなわち、前記出力軸13は、前記第2内周面24の内径よりも小さい外径を有する円柱状のシャフト28と、前記ボディ12(第1内周面23)から軸方向に突出する同シャフト28の先端に一体形成されたロータ29とを有している。そして、この出力軸13は、シャフト28の軸方向中間部において、第1内周面23側の開口端部に設けられたベアリング33を介して前記ボディ12に回転可能に支持されている。上記出力軸13は、ボディ12と同軸で配置・支持されている。また、この出力軸13は、前記オイル戻し路26と前記ベアリング33との間の軸方向の位置で、前記第1内周面23の内周側に設けられたオイルシール34により前記ボディ12に液密的に支持されている。なお、上記出力軸13は、軸方向他側(図1の右側)端面が前記ボディ12の軸方向他側端面と面一になるように同ボディ12に支持されている。
【0026】
前記シャフト28には、前記ボディ12の各隣接する内向フランジ25の中央部において、径方向外側に突設された複数(本実施形態では6個)の円環状の外向フランジ30が形成されている。そして、上記ボディ12と出力軸13との間には、これら内向フランジ25及び外向フランジ30によってトルク伝達部41が形成されている。このトルク伝達部41は、段差11aよりも若干、第2筒部22側で開口している。図2に拡大して示したように、上記トルク伝達部41は、各隣接する内向フランジ25の両対向面及び当該内向フランジ25に挟まれる外向フランジ30の外壁面等により形成される作動部41aが軸方向に直列に複数(本実施形態では6個)並べられて構成されている。上記ボディ12から出力軸13への伝達トルクは、後述の態様でトルク伝達部41(各作動部41a)に供給されるシリコンオイルの供給量に応じて変更される。そして、上記出力軸13は、上記ボディ12からの伝達トルクに応じた回転数で回転駆動される。なお、前記オイル回収路27は、各作動部41aごとに配設されて、供給されたシリコンオイルの円滑な回収が図られている。
【0027】
前記第2筒部22の開口端部の内周側にはオイルシール35が設けられており、同オイルシール35には前記仕切り板14が液密的に装着されている。上記仕切り板14は、前記オイルシール35の内径と同等の外径を有する円盤状に形成されており、前記第2筒部22(オイルシール35)に沿ってボディ12等の軸方向に移動可能に設けられている。この仕切り板14は、前記ボディ12等を支持するハウジング11との間で流体貯蔵室としてのオイル貯蔵室42を形成しており、同オイル貯蔵室42には流体としてのシリコンオイル43が貯蔵されている。そして、前記第2筒部22の鉛直方向上側には、上下方向に貫通して上記オイル貯蔵室42を大気に開放する大気孔11bが形成されている。このシリコンオイル43の液面43aの高さは、前記仕切り板14の変位(軸方向への移動)に基づき前記オイル貯蔵室42の容積が変化することで変更される。
【0028】
なお、前記トルク伝達部41及びオイル戻し路26は、前記オイル貯蔵室42に連通しており、同オイル貯蔵室42に貯蔵されるシリコンオイル43の液面43aの高さに応じてトルク伝達部41に供給されるシリコンオイルの供給量が変更される。このシリコンオイルは、上記液面43aの高さに応じてオイル貯蔵室42からトルク伝達部41に直接供給されるため、その供給量のリニアな変更が可能となっている。従って、上記ボディ12から出力軸13への伝達トルクも、リニアな変更が可能となっている。そして、前記トルク伝達部41(各作動部41a)に供給されたシリコンオイルは、前記オイル戻し路26等を介してオイル貯蔵室42に戻される。上記オイル貯蔵室42に貯蔵されるシリコンオイル43は、前記オイルシール32によってベアリング31側への浸入が遮断されることはいうまでもない。同様に、トルク伝達部41に供給されたシリコンオイルは、前記オイルシール34によってベアリング33側への浸入が遮断される。
【0029】
前記電磁ソレノイド15は、図示しないブラケットを介して前記ハウジング11に固定されており、前記ECU16からの駆動信号に基づいて駆動制御される。これにより、上記電磁ソレノイド15は、その可動片15aを出没させて、同可動片15aの先端に固着された仕切り板14を変位させる。
【0030】
前記ECU16は、図示しないブラケットを介して前記ハウジング11に固定されている。このECU16は、デジタルコンピュータを主体に構成されており、各種外部信号(例えば、エンジン回転数、エンジン冷却液の温度、エンジンオイルの油温等を表す外部からの入力信号)に基づいて前記電磁ソレノイド15に駆動信号を出力し、同電磁ソレノイド15を駆動制御する。なお、この電磁ソレノイド15の駆動によって前記仕切り板14が変位され、前述の態様で前記トルク伝達部41における前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクが変更される。
【0031】
ここで、前記出力軸13のロータ29には、ラジエータコアに対向する態様で冷却ファン(図示略)が固着される。この冷却ファンは、前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクに応じたファン回転数で回転駆動され、同回転数に応じた送風量でラジエータコア、即ちエンジン冷却液を冷却する。つまり、冷却ファンの回転によって冷却性能が得られる。
【0032】
また、前記ボディ12には、前記プーリ12aよりも軸方向一側(図1の左側)に放熱フィン44が設けられている。従って、本装置の作動による発熱(トルク伝達部41におけるシリコンオイルの発熱)は、主として前記放熱フィン44及び前記ハウジング11による大気中への放熱によって冷却される。
【0033】
次に、前記ECU16により制御される前記仕切り板14の位置と、伝達トルク及びこれに対応するファン回転数との関係について説明する。まず、図1で示したように、上記仕切り板14がトルク伝達部41等から最も離隔される、前記オイルシール35の一端の位置にあり、同仕切り板14等の形成するオイル貯蔵室42の容積が最大に設定されているとする。このとき、前記液面43aの高さは、未だトルク伝達部41の高さに達せず、同トルク伝達部41に供給されるシリコンオイルは皆無である。従って、前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクも皆無であり、これに対応してファン回転数も最小(零)となる。
【0034】
さて、前記電磁ソレノイド15の駆動により前記仕切り板14がトルク伝達部41等に近付くように同仕切り板14を変位させ、図3で示したように、このときの容積変化に対応して前記液面43aの高さを前記トルク伝達部41の中間の高さに設定する。このとき、前記トルク伝達部41には、液面43aの高さに応じた供給量のシリコンオイル供給され、前記ボディ12から前記出力軸13へとトルクが伝達される。
【0035】
そして、前記電磁ソレノイド15の更なる駆動により、前記仕切り板14がトルク伝達部41等に最も近付くように前記オイルシール35の他端まで同仕切り板14を変位させ、図4で示したように、このときの容積変化に対応して前記液面43aの高さを前記トルク伝達部41及び前記オイル戻し路26等の全体がシリコンオイル43に浸る高さに設定する。このとき、前記トルク伝達部41には、最大供給量のシリコンオイルが供給され、前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクも最大となって、これに対応してファン回転数も最大となる。
【0036】
このように、図1に示した状態から図4に示した状態までの範囲で前記仕切り板14を変位させることで、前記液面43aの高さに応じて前記トルク伝達部41へのシリコンオイルの供給量(ボディ12から出力軸13への伝達トルク)がリニアに変更され、ファン回転数もリニアに変更される。前記ECU16は、各種外部信号に基づいて、上述の態様でシリコンオイルの供給量を制御することでファン回転数を制御し、冷却液の温度をフィードバック制御する。
【0037】
ここで、図1に示した状態から図4に示した状態までの範囲で前記仕切り板14を各種態様で前記オイルシール35の一端から他端まで変位させたときのファン回転数等の推移を、図5を併せ参照して説明する。なお、図5は、前記仕切り板14を各種態様で変位させたときの冷却液の温度とファン回転数との関係、即ち感温特性を示すグラフである。同図では、ファン回転数が最小(最小値N1)となる図1に示した状態を状態(I)として、ファン回転数が最大(最大値N2)となる図4に示した状態を状態(III)としてそれぞれ図示している。また、ファン回転数がこれらの中間(最小値N1〜最大値N2の中間値)となる状態(図3参照)を状態(II)として図示している。
【0038】
例えば、図1に示した状態から図4に示した状態までの範囲で前記仕切り板14を変位させる際、中間の状態(図3に示した状態)が短時間になるように同仕切り板14を早く移動させたとする。この場合、ファン回転数も短時間で最小値N1から最大値N2へと推移するため、状態(II)は短時間になる。そして、図5(a)に示したように、冷却液の温度は、概ね2段階のファン回転数(最小値N1、最大値N2)によって制御される。
【0039】
また、図1に示した状態から図4に示した状態までの範囲で前記仕切り板14を変位させる際、中間の状態(図3に示した状態)が長時間になるように同仕切り板14をゆっくり移動させたとする。この場合、ファン回転数も長時間をかけて最小値N1から最大値N2へと推移するため、状態(II)は長時間になる。そして、図5(b)に示したように、冷却液の温度は、2段階のファン回転数(最小値N1、最大値N2)による制御に加え、状態(II)においてリニア(無段階)に推移するファン回転数によっても制御される。
【0040】
さらに、図1に示した状態から図4に示した状態までの範囲で前記仕切り板14を変位させる際、中間の状態(図3に示した状態)で一時的に止めるように同仕切り板14を移動させたとする。この場合、ファン回転数は、最小値N1から最大値N2へと推移する間に一時的にこれらの中間値N3(N1<N3<N2)に保持される。そして、図5(c)に示したように、冷却液の温度は、概ね3段階のファン回転数(最小値N1、中間値N3、最大値N2)によって制御される。
【0041】
次に、本実施形態の動作について、図6に模式的に示したフローチャートに従って総括的に説明する。まず、S(ステップ)11において、ECU16は各種外部信号に基づき目標とする冷却液の温度(水温)を設定する。そして、ECU16はこの水温に応じて前記電磁ソレノイド15を駆動し(S12)、前記トルク伝達部41にシリコンオイルを供給する(S13)。これにより、前記トルク伝達部41に供給されたシリコンオイルを介して前記ボディ12から前記出力軸13へとトルクが伝達され(S14)、同出力軸13が回転する(S15)。これに伴い、出力軸13(ロータ29)に固着された冷却ファンが回転し(S16)、冷却液が空冷されて水温が低下する(S17)。
【0042】
この水温の低下はECU16にフィードバックされ(S18)、S11において新たに目標とする水温の設定に供される。すなわち、冷却液の水温が低下すると、ECU16は新たに目標とする水温の設定によって前述のシリコンオイルの供給量を制限し、前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクを減少させてファン回転数が低下するように冷却ファンを回転させる(S11〜S16)。
【0043】
なお、S14におけるトルク伝達は、エンジンの回転(駆動力)がベルトを介してボディ12に伝達されることによる、ボディ12の回転を駆動源とするものである(S21〜S23)。また、S14のトルク伝達においてトルク伝達部41に供給されたシリコンオイルは、オイル戻し路26等を介して前記オイル貯蔵室42に戻され(S24〜S25)、S13におけるシリコンオイルの供給に供される。
【0044】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、前記仕切り板14の変位は、各種外部信号に基づき前記電磁ソレノイド15及びECU16により制御されており、同仕切り板14の変位に伴う、前記オイル貯蔵室42に貯蔵されたシリコンオイル43の液面43aの高さに応じた前記トルク伝達部41へのシリコンオイルの供給量のリニアな変更によって、前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクを好適に制御することができる。そして、外部信号としてエンジン冷却液の温度を直接監視した伝達トルクの制御によって、所要の冷却性に対し冷却ファンのファン回転数を好適に制御することができる。
【0045】
特に、前記オイル貯蔵室42の一部(第2筒部22の内周面等)を固定側である前記ハウジング11にて形成し、更に電磁ソレノイド15及びECU16を実質的にハウジング11に固定したことで、これら電磁ソレノイド15等の耐久性、信頼性を増大することができる。
【0046】
また、例えば電磁クラッチによる外部制御にて伝達トルクを制御する機構に比べ、構造を簡易化し、システム全体として小規模化することができる。
(2)本実施形態では、前記トルク伝達部41における前記ボディ12から前記出力軸13への伝達トルクは、複数の作動部41aにおける全ての伝達トルクを併せたものになるため、例えば同様の作動部を単独で備えるトルク伝達部に比べてそのトルク伝達能力を増大することができる。また、これら複数の作動部41aは、軸方向に直列に並べられることで、径方向への大型化を解消することができ、より小型化が可能となる。
【0047】
(3)本実施形態では、前記各作動部41aに対応して同作動部41aを前記オイル戻し路26に連通するオイル回収路27が形成されていることで、シリコンオイルの回収性を向上することができる。これにより、前記トルク伝達部41(作動部41a)に残留するシリコンオイルによって前記出力軸13が連れ回りすることを防止でき、意図せぬ作動音の発生も抑制することができる。
【0048】
(4)本装置の作動による発熱を、前記放熱フィン44及び前記ハウジング11による大気中への放熱によって冷却することができる。そして、シリコンオイルの劣化防止を図ることができる。
【0049】
(5)本実施形態では、所要の冷却性に応じて伝達トルクを好適に制御可能な車両用冷却ファン装置を提供することができる。
(6)本実施形態では、例えば特許文献1の粘性流体継手装置に対し、入力側及び出力側の配置が逆になる構造とし、入力側(出力軸13に対する駆動側)となるボディ12に、出力軸13を内包するケース及びカバーとしての形状と、エンジンからの動力を受ける形状(プーリ12a)とを一体的に設けたことで、部品点数を削減することができる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、トルク伝達に係る流体は、適宜のオイルや水などであってもよい。
【0051】
・前記実施形態において、前記第2筒部22は、仕切り板14の直線移動の方向(ボディ12等の軸方向)への移動可能範囲で同方向に一定断面を有する形状であれば円筒状でなくてもよい。
【0052】
・前記実施形態において、前記仕切り板14の移動方向は、ボディ12等の軸方向に一致させる必要はない。例えば、上記仕切り板14の直線移動の方向を所定方向に設定したとすれば、仕切り板14の移動可能範囲で同方向に前記第2筒部22が一定断面を有する形状とすればよい。
【0053】
・前記実施形態において、前記第2筒部22は、軸方向に一定断面を有する形状であれば円筒状でなくてもよい。
・前記実施形態において、冷却液の温度は、4段階以上のファン回転数で制御してもよい。
【0054】
・前記実施形態において、電磁ソレノイド15に代えてシリンダを採用してもよい。この場合、ECU16によるシリンダ内の圧力制御によって、前記仕切り板14を変位させればよい。
【0055】
・前記実施形態において、電磁ソレノイド15及びECU16は、実質的にハウジング11に固定されるのであれば、ブラケットの有無に関わらずエンジン上やその他の適宜位置に固定してもよい。
【0056】
・前記実施形態において、各種外部信号として、トランスミッションオイルの油温、車両速度、エアコンディショナの作動状態等を表す外部からの入力信号を採用してもよい。
・前記実施形態においては、車両用冷却ファン装置に本発明を適用したが、それ以外の適宜の装置に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態を示す断面図。
【図2】同実施形態を示す拡大図。
【図3】同実施形態を示す断面図。
【図4】同実施形態を示す断面図。
【図5】(a)(b)(c)は、冷却液の温度とファン回転数との関係を示すグラフ。
【図6】同実施形態の動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0058】
11…ハウジング、12…駆動側回転体としてのボディ、13…従動側回転体としての出力軸、14…仕切部材としての仕切り板、15…制御部を構成する電磁ソレノイド、16…制御部を構成するECU、26…流体戻し路としてのオイル戻し路、27…流体回収路としてのオイル回収路、41…トルク伝達部、41a…作動部、42…流体貯蔵室としてのオイル貯蔵室、43…流体貯蔵室に貯蔵される流体としてのシリコンオイル、43a…液面、44…放熱フィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転可能に支持された駆動側回転体と、
前記駆動側回転体と同軸に配置されて該駆動側回転体に回転可能に支持された従動側回転体と、
流体の液面の高さが変更可能に該流体を貯蔵する流体貯蔵室と、
前記駆動側回転体と、前記従動側回転体との間に形成され、前記流体貯蔵室に貯蔵された流体の液面の高さに応じた該流体貯蔵室からの流体の供給量に応じて、前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクが変更されるトルク伝達部と、
前記駆動側回転体又は前記従動側回転体に形成され、前記トルク伝達部に供給された流体を前記流体貯蔵室に戻す流体戻し路と、
外部信号に基づき、前記流体貯蔵室の液面の高さを調節する制御部とを備えたことを特徴とする外部制御式粘性流体継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、
前記ハウジングに対し直線移動可能に設けられた仕切部材を有し、
前記流体貯蔵室は、前記ハウジングと前記仕切部材との間に形成され、
前記制御部は、前記仕切部材を変位させることにより前記流体貯蔵室の液面の高さを調節するものであることを特徴とする外部制御式粘性流体継手装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、
前記トルク伝達部は、前記流体貯蔵室からの流体の供給量に応じて前記駆動側回転体から前記従動側回転体への伝達トルクが変更される複数の作動部からなり、
前記複数の作動部は、軸方向に直列に並べられていることを特徴とする外部制御式粘性流体継手装置。
【請求項4】
請求項3に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、
前記駆動側回転体又は前記従動側回転体には、前記複数の作動部をそれぞれ前記流体戻し路に連通する複数の流体回収路が形成されていることを特徴とする外部制御式粘性流体継手装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の外部制御式粘性流体継手装置において、
前記従動側回転体又は前記ハウジングには、放熱フィンが設けられていることを特徴とする外部制御式粘性流体継手装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の外部制御式粘性流体継手装置を備えたことを特徴とする車両用冷却ファン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−266489(P2006−266489A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90022(P2005−90022)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】