説明

外面メッキ金属管用管端栓及び外面メッキ金属管の製造方法

【課題】高い生産性を維持しながら外面のみを確実にメッキでき、危険を伴う作業を必要とせずに、製造コストの上昇を可及的抑制できる外面メッキ金属管用管端栓及び外面メッキ金属管の製造方法を提供する。
【解決手段】外面のみに溶融亜鉛メッキ層を有する外面メッキ鋼管を製造する際に、メッキ素材である鋼管の二つの管端部に、鋼管との接触面にローレット切り加工により形成される凹凸部を備える外面メッキ鋼管用管端栓を、凹凸部が鋼管内面に当接するようにして、装着することにより鋼管の内部への溶融亜鉛の流入を防止してから、溶融亜鉛メッキを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外面のみに例えば溶融亜鉛メッキ層といった溶融金属メッキ層を有する外面メッキ金属管を製造する際に用いられる外面メッキ金属管用管端栓と、これを用いる外面メッキ金属管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水道管や、ガス、蒸気さらには油等の配管に用いられる金属管(例えば鋼管からなる水道管)には、主に、内部を流れる液体に対する耐食性が優れることと、安価であることとの2点が、要求される。このような金属管として、外面および内面の両面に、Zn、Al、Sn、Pb、あるいはこれらの合金からなる溶融メッキを施した鋼管がある。しかし、例えば、両面メッキを施した鋼管を水道管として用いると、近年の水道水に対する塩素処理の強化によって内面の防食性が不足し、赤水や白濁が発生することがある。
【0003】
このため、内面に、タールエポキシや塩化ビニル等の有機被覆を施されるとともに外面にはZn、Al、Sn、Pb、あるいはこれらの合金からなるメッキを施された鋼管が用いられるようになってきた。
【0004】
この鋼管の素管は、一般的に、(1)素管内面面取り→(2)高温硫酸酸洗→(3)乾燥→(4)両端面に管端栓嵌合→(5)フラックス処理→(6)乾燥→(7)メッキ浴浸漬→(8)水冷→(9)管端栓抜取り→(10)検査→(11)一次防錆→(12)管端処理→(13)梱包という工程により、製造される。
【0005】
すなわち、鋼管の内面はメッキしないために、鋼管の両端部に管端栓を嵌合して鋼管内部を密閉してから、メッキ浴に浸漬して金属メッキ(以降の説明では「溶融亜鉛メッキ」を例にとる)を行い、溶融亜鉛メッキ後にこの管端栓を外す必要がある。
【0006】
この際、図1に示すように、鋼管の外面のみに溶融亜鉛メッキを施す前工程として、鋼管の両端部へ取り付けた栓と鋼管とを点付け溶接により接続していた。この理由は、このような点付け溶接を行わずに管端栓を鋼管に嵌合しただけの状態で溶融亜鉛メッキ浴に鋼管を浸漬して溶融亜鉛メッキを行うと、溶融亜鉛メッキ浴の温度は約465〜485℃であるので浸漬された鋼管の内部における膨張した空気の圧力によって、溶融亜鉛メッキ槽内で鋼管から管端栓が外れてしまい、鋼管の内面への溶融亜鉛の浸入による品質不良が発生するからである。
【0007】
また、鋼管の外面のみに溶融亜鉛メッキを施した後に鋼管の両端部に装着した管端栓を取り外すには、点付け溶接部をグラインダーにより切断し、さらにこの切断部の補修を行う必要があった。このため、鋼管に装着した管端栓を点付け溶接する従来の技術は、生産性が低いうえに製造歩留りも悪く、さらには危険を伴う作業を行う必要があり、その早急な改善が要請されていた。
【0008】
そこで、図2に示すように、鋼管と管端栓との点付け溶接の代替として、管端栓と鋼管の内面とを接着剤により接合することも検討された。しかし、溶融亜鉛槽に浸漬させ鋼管の外面側のみ溶融亜鉛メッキを施す際に接着剤の成分が鋼管の内面に分解して飛散し、製品使用時の品質面に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0009】
特許文献1には、メッキの素材である鋼管の管端部にネジによって堅固に管端栓を装着することが開示されている。
【特許文献1】特開昭50−91532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1により開示された発明によれば、確かに上述した問題は解決されるが、鋼管の内面に雌ネジ部を形成するとともに管端栓の外面に雄ネジ部を形成する必要があり、製造コストの大幅な上昇は否めない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内面に異物のない鋼管外面への溶融亜鉛メッキを施す際に、鋼管と接触する部分にローレット加工した管端栓を使用して鋼管の内部の密閉を行ってから溶融金属メッキを行うことにより、点付け溶接を行わなくとも溶融亜鉛メッキ槽内で管端栓が鋼管から外れることを防止できるという技術思想に基づくものである。
【0012】
本発明は、外面のみに溶融金属メッキ層を有する外面メッキ金属管を製造する際にメッキ素材である金属管の管端部に装着されて使用される管端栓であって、金属管との接触面に、ローレット切り加工により形成される凹凸部を備えることを特徴とする外面メッキ金属管用管端栓である。
【0013】
別の観点からは、本発明は、外面のみに溶融金属メッキ層を有する外面メッキ金属管を製造する際に、メッキ素材である金属管の二つの管端部に、上述した本発明に係る外面メッキ金属管用管端栓を装着してこの金属管の内部への溶融金属の流入を防止してから、溶融金属メッキを行うことを特徴とする外面メッキ金属管の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高い生産性を維持しながら外面のみを確実にメッキでき、危険を伴う作業を必要とせずに、製造コストの上昇を可及的抑制できる外面メッキ金属管用管端栓及びこれを用いた外面メッキ金属管の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る外面メッキ金属管用管端栓及び外面メッキ金属管の製造方法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら説明する。なお、以降の説明ではメッキが溶融亜鉛メッキであるとともに金属管が鋼管である場合を例にとるが、本発明がこれらに限定されるものではないことは言うまでもなく、本発明は溶融亜鉛以外の他の溶融金属メッキや、鋼管以外の他の金属管についても、同様に適用可能である。
【0016】
本実施の形態の外面溶融亜鉛メッキ鋼管用管端栓は、外面のみに溶融亜鉛メッキ層を有する外面溶融亜鉛メッキ鋼管を製造する際に、メッキ素材である鋼管の管端部に装着されて使用される管端栓である。この管端栓の寸法等は、メッキ素材である鋼管の管端部の寸法に応じて適宜設定すればよく、後述するローレット切り加工部を有する点以外は公知の管端栓と同じである。
【0017】
本実施の形態の外面溶融亜鉛メッキ鋼管用管端栓は、めっき素材である鋼管との接触面となる位置に、ローレット切り加工により形成される凹凸部を備える。
本発明において「ローレット切り加工」とは、平板状工具又はロール状回転工具を用いて、管端栓の外面の所定の範囲に微細な凹凸形状を形成する加工を意味し、このローレット切り加工により管端栓の外面には、例えば菱形や梨子地の微少な傷(凹凸)が付与され、これにより鋼管内面との間における滑り摩擦抵抗が増加する。例えば、本発明では、表面に規則的に配列された微細な突起又は突起状切れ刃を有する平板状工具、もしくはロール状工具を管端栓の表面に押し付け、平板状工具の場合にはこれを一方向へ移動させることにより管端栓を工具面上で相対的に転動させ、一方、ロール状工具の場合にはこれを回転させることにより管端栓を工具面上で相対的に転動させ、工具面上の突起又は切れ刃を管端栓の表面に圧入又は切り込み、その凹凸形状を転写し又は管端栓の表層部を掘り起こし、管端栓の表面に所望の凹凸構造を形成する。このローレット切り加工により、管端栓の表面には微少な凹凸形状が形成されるので、管端栓の表面の滑り摩擦抵抗が増加する。
【0018】
本実施の形態では、ローレット切り加工による微細な凹凸形状は、例えば、ピッチ20mm、幅6mm、表面からの深さ0.1mm以上とし、外面の所定の範囲(外面の平坦部20〜30mm幅)に20mm幅の範囲でアヤ目加工(格子形状)を施すものとした。ピッチは、例えば約10mmと細めであると摩擦抵抗力が不足し、溶融亜鉛槽内での膨張した空気の圧力が摩擦抵抗を上回ってしまい、鋼管から管端栓が外れてしまうことがあるので、中目(20mm幅)以上とすることが望ましい。また、ピッチが30mmを超えると、やはり鋼管から管端栓が外れてしまうことがあるので、30mm以下とすることが望ましい。同様の観点から、幅は5mm以上10mm以下であることが望ましく、深さは5mm以上であることが望ましい。
【0019】
図3には、本実施の形態のローレット切り加工を行った管端栓(ローレット加工栓という)と、このローレット切り加工を行わない管端栓(従来栓という)とを、鋼管の管端部に嵌合した場合の押し抜き荷重(N)の実測値を比較して、グラフで示す。すなわち、図3のグラフは、ローレット加工栓と従来栓とについて、鋼管内面との摩擦力を比較して示す。
【0020】
図3にグラフで示すように、従来栓では押し抜き荷重が4700〜10200(N)であるのに対し、ローレット加工栓は押し抜き荷重が9700〜11700(N)と大きく、さらにそのバラツキも小さいことがわかる。
【0021】
この理由は、ローレット加工栓の場合には、ローレット切り加工により形成される凹凸部を備えることから管端栓の表面の滑り摩擦抵抗が増加するというだけではなく、ローレット切り加工により形成される凹凸部と鋼管外面との間に不可避的に形成される隙間から、溶融亜鉛メッキ槽内において鋼管内部の膨張した空気が排出されることから鋼管内部の圧力の上昇が抑制されるため、鋼管から管端栓がより外れ難くなる。
【0022】
つまり、本発明の作用効果は、ローレット切り加工のみならず、滑り摩擦抵抗を増加することができるとともに、鋼管内面との間に不可避的に隙間が形成される加工であれば、同様の作用効果を生じるのであり、このような加工手段として、バイト、砥石(グラインダー)又は硬質ブラシを用いた加工を例示することができる。
【0023】
また、本発明は、管端栓が外れ易い直径60.5mm(50A)以上の鋼管に対して特に有効である。
図4は、本実施の形態のローレット加工栓の寸法の一例を示す説明図である。同図に示すように、本実施の形態では、管端栓の先端部から軸方向へ8〜20mmの距離となる範囲(ハッチング部)の外面に、ローレット切り加工による凹凸部を形成した。
【0024】
このように、本実施の形態により、外面のみに溶融亜鉛メッキ層を有する外面メッキ鋼管を製造する際に、メッキ素材である鋼管の二つの管端部に、鋼管との接触面にローレット切り加工により形成される凹凸部を備える外面メッキ鋼管用管端栓を、凹凸部が鋼管内面に当接するようにして、装着することにより鋼管の内部への溶融亜鉛の流入を防止してから、溶融亜鉛メッキを行うことにより、鋼管内面の摩擦力が向上すること、さらに、鋼管内部の膨張した空気を排出できることの二つの相乗的効果により、メッキ時に鋼管から管端栓が外れることを確実に防止できるとともに、高い生産性を維持しながら、外面のみを確実にメッキできる。このため、危険を伴う作業を必要とせずに、製造コストの上昇を可及的抑制することができる。
【実施例】
【0025】
さらに、本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
外面にローレット切り加工を行った本発明に係る管端栓と、有機系樹脂の接着剤により鋼管の内面に接着する比較例に係る管端栓とを、鋼管の管端部に装着し、この鋼管に溶融亜鉛メッキを行った。そして、溶融亜鉛槽ないにおける栓外れの状況と、鋼管内面への接着剤の分散及び飛散の状況とを、目視により評価した。結果を表1にまとめて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から本発明の効果が明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】鋼管と管端栓とが点付け溶接により接続される状況を示す説明図である。
【図2】鋼管と管端栓とが接着剤により接続される状況を示す説明図である。
【図3】ローレット加工栓と、従来栓とを、鋼管の管端部に嵌合した場合の押し抜き荷重(N)の実測値を比較して示すグラフである。
【図4】ローレット加工栓の寸法の一例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面のみに溶融金属メッキ層を有する外面メッキ金属管を製造する際にメッキ素材である金属管の管端部に装着されて使用される管端栓であって、前記金属管との接触面に、ローレット切り加工により形成される凹凸部を備えることを特徴とする外面メッキ金属管用管端栓。
【請求項2】
外面のみに溶融金属メッキ層を有する外面メッキ金属管を製造する際に、メッキ素材である金属管の二つの管端部に、請求項1に記載された外面メッキ金属管用管端栓を装着して該金属管の内部への溶融金属の流入を防止してから、溶融金属メッキを行うことを特徴とする外面メッキ金属管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−202131(P2008−202131A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42365(P2007−42365)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】