説明

多モードデータのクラスタ化

【課題】 本発明の目的は、試料に関する情報をより迅速に取得する方法及び装置を供することである。
【解決手段】 様々な種類の情報を取得する複数の検出器からの情報が結合されることで、試料の1つ以上の特性が、単一の種類の検出器からの単一の種類の情報を用いるよりも効率的に決定される。一部の実施例では、情報は様々な検出器から同時に収集される。それによりデータ取得時間が顕著に減少しうる。一部の実施例では、試料上の各異なる点からの情報は、第1型の検出器からの情報に基づいてまとめられ、かつ、これらの点に関連する第2型の検出器からの情報が結合される。それにより、前記第1型の検出器によって決定された共通の組成を有する領域の1つのスペクトルが前記第2型の検出器から生成される。一部の実施例では、データ収集は適合可能である。つまりデータは、所望の特性を所望の信頼性で決定されるのに十分なデータが収集されたか否かを判断するため、収集中に解析される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の特定を決定する様々な分析モードにより取得されるデータの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物分析システム−たとえばFEI社から市販されているQumscan及びMLA−は、鉱物試料を分析するため、長年にわたって用いられてきた。鉱山に存在する鉱物の種類及び相対的品質を決定するため、小さな顆粒状の試料が鋳型中のエポキシ内で固定され、かつ、その鋳型は真空チャンバ内に設けられる。電子ビームが試料へ向けて案内され、かつ、エネルギー分散X線分光(EDS)と呼ばれる手法では、電子ビームに応答して試料から放出されるX線のエネルギーが測定され、スペクトルを構成するようにヒストグラムでプロットされる。測定されたスペクトルは、どの元素及び鉱物が存在するのかを決定するため、様々な元素の既知のスペクトルと比較されてよい。図1は、エポキシ母体104内に埋め込まれた顆粒102を有する典型的な試料100を図示している。
【0003】
X線スペクトルを蓄積するにはかなりの時間が必要になる。1次ビーム中の電子が試料に衝突するとき、電子は様々な機構によってエネルギーを失う。一のエネルギー損失機構は、内殻電子への電子のエネルギーの移行を含む。その移行の結果、内殻電子は、原子から引き出されうる。その後、外殻電子は内殻へ落ち込み、特性X線が放出されうる。特性X線のエネルギーは、内殻電子と外殻電子との間でのエネルギー差によって決定される。内殻及び外殻のエネルギーは元素に固有なので、X線のエネルギーもまた、そのX線を放出する物質に固有である。各異なるエネルギーでのX線の数がグラフ上にプロットされるとき、特性スペクトル−たとえば図2に図示されたパイライトのスペクトル−が得られる。スペクトル中のピークは、X線の起源となった電子の本来の殻と最終状態の殻に対応させて命名される。図2は、硫黄のKαピーク、鉄のKαピーク、及び鉄のKβピークを表している。
【0004】
多くの1次電子は、識別可能なスペクトルを生成するのに十分なX線を発生させるように試料に衝突する。全ての入射電子が内殻電子を弾き出す訳ではなく、異なる内殻電子が引き出されることもありうる。このときギャップは異なる外殻電子によって満たされる。X線検出器の立体角は相対的に小さいので、相対的にわずかな数の放出されたX線しか検出されない。特定のエネルギーの検出可能なX線の放出を引き起こす入射電子の確率は多くの因子に依存する。多くの因子には、試料の元素組成、入射電子のエネルギー、電子ビーム、試料表面、及び検出器の幾何学的関係、特定内殻電子が1次ビーム電子のエネルギーを吸収する可能性、並びに、特定の外殻電子が内殻内の空孔に落ち込む可能性が含まれる。
【0005】
しかも電子のエネルギー測定は、どのような測定であっても固有の誤差を有する。よって単一の値での電子遷移に対応するピークを示すスペクトルではなく、ピークは、複数の値の範囲にわたって広がる。様々な元素の様々な遷移からのピークは重なりうるので、多数のX線が、そのピークの位置をより厳密に定めるように収集される。典型的には数百万個のX線−各々は「量子」と呼ばれる−が、最も重要なピークが十分な信頼性をもって特定できる信頼性を有するスペクトルを生成するように検出される。特許文献1は、わずかな数−たとえば千個のX線−を用いて十分な信頼性を有するように元素を決定することを可能にするアルゴリズムについて記載している。
【0006】
電子ビームが試料表面に衝突するときには、特性X線付近の他の放出も検出される。バックグラウンド放射線又は制動放射は、広範囲の周波数にわたって広がるX線を有し、かつ、特性X線のピークを妨害する恐れがある。2次電子、オージェ電子、弾性及び非弾性の前方及び後方散乱電子、並びに光が、1次電子ビームの衝突の際に放出され、かつ、表面像の生成又は表面の他の特性の決定に用いられ得る。後方散乱電子は一般的に、固体検出器によって検出される。固体検出器内では、各後方散乱電子が電子−正孔対を生成することで、各後方散乱電子の信号は増幅される。後方散乱電子の検出器は、ビームを走査することによって像を生成するのに用いられる。このとき各像点の輝度は、1次ビームが試料全体にわたって移動する際、その試料上での対応する点で検出される後方散乱電子の数によって決定される。
【0007】
電子の後方散乱は、表面中の元素の原子数、並びに、表面、1次ビーム、及び検出器の幾何学的関係に依存する。従って後方散乱電子像は外形に関する情報を示す。外形に関する情報とはつまり、様々な組成の領域間の境界、及び、表面起伏に関する情報である。後方散乱電子像を取得するには、各異なる特性を有する地点間で十分なコントラストを生成するため、各地点で十分な数の電子を収集することだけが必要となる。よって後方散乱電子像の取得は、各地点での完全なスペクトルをまとめるのに十分な数のX線の取得よりも遙かに速い。また後方散乱される電子の確率は、特定の周波数の特性X線の放出を引き起こす電子の確率よりも大きい。単一の滞在地点で十分な後方散乱電子像データを取得するには一般的に、1μsec未満の時間がかかる。他方単一の滞在地点で分析可能なスペクトルを得るのに十分なX線を取得するには一般的に、1msecよりも長い時間がかかる。
【0008】
MLAシステムを動作させる一のモードでは、最初に像が、後方散乱電子検出器を用いて取得され、その後像は、コントラストから同一の元素組成を有するように見える領域を識別するように処理される。続いてビームは、各識別された領域の中心に位置づけられ、その領域を代表するX線スペクトルを収集するように、その中心位置に長い時間滞在する。後方散乱で市検出器の走査中に発生するX線は用いられない。
【0009】
「スペクトル立方体」(試料の2次元マップであって、各地点での物質の組成が立方体の第3次元を与えるもの)を生成する「高速マッピング」モードを有するシステムが存在する一方で、「高速マップ」は依然として、画素に存在する種類及び量を決定するのに十分なX線を収集するのに、各滞在地点で十分な時間を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0144922号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、試料に関する情報をより迅速に取得する方法及び装置を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の方法は、第1モダリティを用いて第1像を生成する手順、第2モダリティを用いて第2像を生成する手順、及び、前記第1像からの情報と前記第2像からの情報とを結合して第3像を生成する手順を有する。好適実施例では、前記第1像からの情報は、試料の組成情報で、かつ、前記第2像からの情報は、試料表面の起伏及び/又は外形情報である。一部の実施例では、前記第1像と前記第2像は、試料全体にわたって光子ビーム又は荷電粒子ビームを走査することによって得られる。前記第1モダリティと前記第2モダリティにおいて用いられる検出器の統合時間は同一であってもよいし、又はそれぞれ異なってもよい。一部の実施例では、一のモダリティの優れた分解能は、他のモダリティの分解能を改善するのに用いられる。一部の実施例では、一のモダリティの迅速な取得時間は、他のモダリティからの情報をまとめて、結合することで、より迅速に情報を提供するのに用いられる。一部の実施例では、一のモダリティからの情報は、第2モダリティの分析を改善するのに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】EDS分析システムにおいて観察される典型的な試料である。
【図2】パイライトのX線スペクトルを表している。このスペクトルは鉄と硫黄を含む。
【図3】各異なる統合時間を有する2つのモダリティからのデータが結合される方法のフローチャートである。
【図4】図3の手順を表している。
【図5】各異なる分解能を有する2つのモダリティからのデータを結合して、低分解能モダリティから生成される像の分解能を改善する方法のフローチャートである。
【図6】図5の手順を表している。
【図7】第1型の測定の特性を用いて、第2型の測定結果を改善する方法のフローチャートである。
【図8】図7の手順を表している。
【図9】後方散乱電子検出器の情報からの局所的な表面の起伏に関する情報を利用して、組成データの定量化を改善する本発明の実施例の手順を表している。
【図10】図9の手順を表している。
【図11】本発明の一部の実施例を十すするのに有用な典型的なハードウエアを表している。
【図12】本発明の一部の実施例で用いられ得る典型的な走査パターンを表している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適実施例によると、各異なる分析モダリティからのデータが、試料の特性を決定するように結合される。ビームは一般的に、試料表面へ向けて案内される。そのビームの衝突によって表面から発生する放出が検出される。1次ビームはたとえば、電子、イオン、光子(たとえばレーザービーム又はX線)、又は原子を有してよい。ビームは一般的に、試料上のある地点に集束される。その地点は、試料全体にわたって走査される。あるモダリティでは、ビームは、集束されずに平行でよく、かつ/あるいは、走査される代わりに静止してもよい。
【0015】
1次ビームに応じて、放出され、後方散乱され、又は、試料を透過する粒子(本願では光子及び散乱1次粒子を含むものとして用いられる)が検出される。試料からの様々な放出−たとえばX線、後方散乱電子、2次電子、オージェ電子、透過電子、又は光子−が、様々な解析モダリティにおいて検出される。本発明は、特定の解析手法に限定されない。
【0016】
様々なモダリティは、試料の特性に関する様々な情報−たとえば外形に関する情報、組成に関する情報、表面起伏に関する情報、又は化学状態に関する情報−を供しうる。
【0017】
一部の実施例では、各異なる検出器は、1本のビームによって同時に発生する各異なる種類の放出を検出することで、多モードデータを同期した状態で同時に取得する。たとえば後方散乱電子データは、X線データと同時に取得されてよい。このときX線は、スペクトル立方体を生成するように、後方散乱電子像中の正しい位置に設定される。一部の実施例では、各異なる解析モダリティは、各異なる時間での各異なるビームにより発生する放出を検出する手順を有する。
【0018】
各異なるモダリティは、各異なる取得速度又は各異なる分解能を有してよい。一のモダリティ−より感度の高いモダリティ又はより分解能の高いモダリティ−からの情報は、他のモダリティからの情報を補うのに用いられる。それにより他のモダリティの取得時間の減少又は他のモダリティの分解能の向上が実現する。たとえば一部の実施例は、より感度の高い検出器からのデータを解析して、そのデータを用いて複数の滞在地点をまとめることで、感度の低い検出器の不十分な情報を結合/平均化/統合する。後方散乱電子の検出器の像は、同様な外観を有することで同様の特性を有する蓋然性のある試料上の領域を発見するのに用いられてよい。たとえば同一の外観を有する領域は、同一の位相又は元素を有してよい。同様の外観の領域からの複数のX線スペクトルが結合されることで、1つの画素からの個々のスペクトルよりも多くの光子を含む結合スペクトルが生成されてよい。続いてこれらの高品質スペクトルは、試料中に存在する物質の種類及び相対的な品質を決定するために解析されてよい。複数の地点からのスペクトルを結合することによって、場合によっては粒子/位相の位置を再アクセスする必要がなくなるので、過去のデータ立方体を処理しながら、処理は続けて試料の他の部分を画像化してよい。
【0019】
本発明の一部の実施例は、従来技術よりも効率的なスペクトル立方体の取得を可能にする。電子ビームは、試料へ向けて案内され、各異なる特性−たとえば各異なる鉱物組成−を有する領域にわたって走査される。第1検出器は、たとえば後方散乱電子を検出することによって、外形又は表面の起伏に関する情報を供してよい。その一方で第2検出器は、たとえば特性X線を検出することによって、組成に関する情報を供する。1000×1000の後方散乱電子検出器の像は、完全なスペクトル立方体が、各画素位置での識別可能なスペクトルで満たされうるよりもはるかに速く取得されうる。像取得時間の差異は桁違いでありうる。たとえば個々の滞在地点の後方散乱電子強度値は約1μsecで取得されうる。個々の滞在地点について十分なX線量子を取得するには1〜10msecが必要となると考えられる。従って、1000×1000画素の像については、外形を決定する後方散乱電子のデータは約1secで取得され得るが、X線検出器からの組成情報の取得には約15分〜2,3時間がかかると考えられる。よってX線データは、後方散乱電子検出器からのデータよりも約104倍希薄であり得る。3次元像については、像を取得するのに要する時間は対応して長くなる。たとえば角度を-70°から+70°まで1°ずつ増やしながら断層X線写真を生成するのは、単一の2次元像を取得するよりも約140倍長い時間を必要とする。本発明の利点は、3次元の画像化にとっては対応して有利となる。
【0020】
一部の実施例では、各異なる検出器が、各異なる期間及び試料表面上の各異なる地点にわたって各対応する信号を統合してよい。たとえばビームは個々の滞在地点に位置づけられたまま、第1検出器−たとえば後方散乱電子検出器−が信号を収集してよい。検出器は、滞在期間中に収集される信号を統合する。ビームが次の滞在地点に移動する準備ができたとき、第1検出器からの統合された信号値が記憶され、統合器はリセットされ、かつ、統合は次の滞在地点で新たに開始される。第2検出器−たとえばX線検出器−は、ビームが次の滞在地点へ移動する際にX線信号を統合し、かつ、複数の滞在地点からなる群にわたって信号を統合する。よって、試料からの各異なる信号が同一のビームから発生しているとしても、2つの検出器の統合期間は異なる。係る実施例では、信号が生成される領域が2つの検出器で異なる。つまり統合時間の短い検出器についての信号が生成される領域は一般的には、統合時間の長い検出器についての信号が生成される領域の一部である。
【0021】
追加のモダリティは、同一の化学組成の領域の決定、又は、滞在地点が同一の化学組成を有する領域に属するという確信の向上に用いられてよい。たとえばカソードルミネッセンス−試料と電子ビームとの衝突の際に特性周波数を有する光子が放出される現象−が、同一の組成を有する領域の決定又は後方散乱電子のデータの改善に用いられてよい。試料に関する情報はまた、既知の試料の組成情報から推定されてもよい。たとえば2つの元素が化合物を構成し、かつ、前記2つの元素のうちの一がX線分析によって容易に検出される場合、検出されにくい元素の領域の大きさは、その元素が化合物を構成する元素とともに広がると推定されうる。
【0022】
一部の実施例では、処理は調節可能である。つまり解析用に十分なデータが取得されたか否かを判断するため、データが取得される際に、そのデータ取得が調節される。たとえばビームが迅速に走査される高速マッピングの状況では、システムは、十分な情報が検出されたと判断されるまで、繰り返し領域を走査しうる。たとえば重なるピークを有する元素は一般的に、固有のX線ピークを有する元素よりも、互いのピークを差異化するのに多くの光子を必要とする。解析が容易に識別可能な元素を有する場合、そのシステムが収集する光子は少なくてよい。解析が一の元素を有し、その一の元素が他の元素のピークと重なることが知られているピークを有する場合、その領域は複数回走査される、さらなるX線が収集されることで、ピークを差異化するように改善された信号対雑音比が与えられる。よって一部の実施例は、データが収集される際、そのデータの解析に基づいて収集されるデータの量を調節する。さらなるX線が収集されることで、さらなる後方散乱電子も収集され、かつ、領域の境界を精緻化するのに用いられてよい。X線情報はまた、後方散乱電子像中では同様の外観を有するが異なる組成を有する領域を差異化することによって、形状を精緻化するのに用いられてもよい。
【0023】
試料の地点へマッピングされたデータの組は「像」と呼ばれる。「像」は、試料の視覚上の外観を表示するものに限定されず、観察可能なように表示された情報に限定されるわけではない。たとえばコンピュータ内に記憶され、かつ試料上の地点についての組成又は化学状態を有するデータ表は、ディスプレイスクリーン上の試料の写真であるから「像」である。3次元マップを表すデータ組もまた「像」の定義に含まれる。
【0024】
図3は本発明の方法の手順を表している。図4は図3の手順を表している。像400は、たとえば図1に図示されたような鋳型の一部を有して、エポキシ406によって取り囲まれた相対的に均一な領域404を有する試料402を表している。手順302では、集束電子ビームが、試料表面上の滞在地点へ向けて案内される。電子ビームは一般的に、1μm未満のスポットサイズに集束され、好適には100nm未満のスポットサイズに集束される。
【0025】
像410は、試料402上の典型的な走査パターン412を表している。走査パターンは、ビームが案内される一連の滞在地点を有する。走査パターン412は2次の曲がりくねったパターンである。この2次の曲がりくねったパターンは、4つの大きな矢印414A-414Dに沿って前後に動く大きく曲がりくねったパターンと、4つの大きな矢印414A-414Dの各々の範囲内で上下する小さく曲がりくねったパターンを有する。つまり小さく曲がりくねったパターンは、大きく曲がりくねったパターンの範囲内で入れ子構造になっている。水平線及び垂直線のグリッドは、各独立した滞在地点416を有する。後方散乱電子の情報は、各滞在地点について統合及び記憶される。交互に配置された明るい領域と暗い領域は、X線データが統合される滞在地点群418を有する。他の種類の走査パターン−たとえば連続フラクタル空間によって定義される走査パターン又はヒルベルト若しくはムーア曲線のような面充填曲線−も用いられてよい。図12は、ヒルベルト曲線1202Aと1202Bの例及びムーア曲線1202Cの例を図示している。線1204は走査線を有する。速い検出器−たとえば後方散乱電子検出器−からの個々の画素についてのデータは、走査線1204に沿った各滞在地点で統合される。遅い検出器からの個々の画素についてのデータは、複数の滞在地点を有する四角形1206内部で統合される。走査パターンは2次元パターンに限定されない。
【0026】
各異なる統合時間を有する複数の検出器が用いられてよい。最速の検出器(つまり最短の統合時間を有する検出器)は、最低レベルのフラクタル又は他のパターンで統合して、最高の分解能を与える。後続の遅い検出器は、後続の高いレベルのパターンで統合して、後続の低い分解能を与える。つまり、各異なるスケール因子に対応する滞在地点の各異なるサイズの群は、各異なる統合時間を与える。
【0027】
手順304では、表面から放出される後方散乱電子は、後方散乱電子検出器によって検出される。ビームが滞在地点に設定されたまま、この後方散乱電子検出器は検出された信号を統合する。ビームが走査において次の滞在地点へ移動する前に、現在の滞在地点からの統合された後方散乱電子信号は、手順308において記憶される。手順306では、1次電子に応じて表面から放出されるX線が検出され、そのX線のエネルギーは、分光計−たとえばエネルギー分散X線分光計−によって測定される。後方散乱電子及びX線は、同時に検出されることが好ましい。X線信号もまた、ビームが滞在地点に設定されたまま統合される。しかし好適実施例では、X線信号は、複数の滞在地点からなる群にわたって継続して統合される。統合は完了せず、値は、滞在地点の終点では記憶されない。
【0028】
判定ブロック310において、ビームが、X線信号を統合する滞在地点の群内のすべての滞在地点で走査されないと判断される場合、X線検出器について統合が継続され、かつ、電子ビームは、手順312では、走査において次の滞在地点へ案内される。判定ブロック310において、ビームが、X線信号を統合する滞在地点の群内のすべての滞在地点で走査されたと判断される場合、手順314では、統合は中止され、かつ、画素群についての統合されたX線情報が記憶される。
【0029】
判定ブロック320において、試料の走査が完了していないと判断される場合、つまり、試料中の全ての滞在地点の群が走査されていない場合、電子ビームは、手順302で、次の滞在地点へ案内され、かつ、データ収集処理が継続される。このとき、各滞在地点からの後方散乱電子の情報は記憶され、滞在地点の各群からのX線情報も記憶される。
【0030】
判定ブロック320において、試料の走査が完了したと判断される場合、後方散乱電子のデータは、手順322において、試料の像420を生成するのに用いられる。像420中の各画素の輝度は、各滞在地点416で統合される後方散乱電子の数によって決定される。手順324では、滞在地点の群418の各々にわたって統合されるX線データスペクトルは、滞在地点の各群418の組成を決定するように解析される。像420と像422との比較から分かるように、X線像の各画素は、後方散乱電子像中の複数の画素に対応する。その理由は、解析可能なスペクトルを生成するために多くのX線を有するという要件は、広い領域にわたる統合を必要とするからである。手順324では、1つの画素に対応する滞在地点の各群のX線スペクトルは、滞在地点に存在する元素を決定するように解析される。
【0031】
手順326では、後方散乱電子像が、同様な特性を有する試料の領域の外形を決定するように解析される。像430は、後方散乱電子像内に共通のグレイレベルを共有し、かつ、同一物質で構成されると推定される領域の周辺に描かれた境界432を有する。手順324では、後方散乱電子像中の共通のグレイレベルの領域は、X線像422中の大きな画素と相関し、かつ、後方散乱電子マップ中の対応する画素は、X線マップ中の対応する画素のスペクトルによって決定される物質に割り当てられる。像440は、X線マップによって決定された補間された試料の組成マップを有する。この補間された試料の組成マップは、同様の後方散乱電子像特性を有する領域は、同一物質で構成されていると推定することによって決定された。
【0032】
図3及び図4は、如何にして第1手法の低い分解能が、第2手法の高い分解能によって改善されうるのかを表している。よって図3及び図4の方法では、一の種類の検出器−後方散乱電子検出器−の高分解能が、他の種類の検出器−X線検出器−へ「移行」されることで、第2検出器−後方散乱電子検出器−の高分解能で、低分解能である第1検出器−EDS検出器−からの組成情報が供される。図3及び図4の方法では、2つの検出器の統合時間が異なるとしても、情報は複数の検出器によって同時に取得される。一の検出器は外形に関する情報を与え、他の検出器は組成に関する情報を与える。他の実施例では、情報は順次取得されてよく、かつ/あるいは、統合時間は両検出器で同一であってよい。任意で、粒子402内部のすべての領域からのX線を合わせることによって、十分なX線が、より迅速なスペクトルを生成するように、又は高い信頼性での解析が可能なスペクトルを生成するように収集されうる。同一物質を有するように、後方散乱電子によって決定される滞在地点から検出されるX線を合わせることで、組成を決定するのに十分なX線を取得するのに必要な時間が大幅に減少する。1次電子ビーム、後方散乱電子検出器、及びX線検出器によって例示されたが、本発明は、如何なる特定の1次ビーム、2次粒子、又はエネルギー検出にも限定されない。
【0033】
解析手法の空間分解能は、1次ビームと試料との間での相互作用体積、つまり1次ビームによる衝突の際に検出可能な粒子が放出される体積、に部分的に依存する。この相互作用体積は、1次ビームのサイズ及びエネルギー、粒子が散乱されて徐々にエネルギーを失う際の試料内部での1次ビームの粒子の経路、並びに、試料内部から放出される粒子を検出する能力に依存する。典型的な1次ビームの経路がどの程度深くて広いのか、及び、後方散乱電子又はX線が、試料の特定の深さから放出される可能性が、統計的に決定されてよい。たとえば2次電子及びオージェ電子は、試料内部の深いところから放出されるほど十分なエネルギーを有していないため、後方散乱電子又は特性X線の相互作用体積よりも小さな相互作用体積を有する。
【0034】
図5は、本発明の他の態様を表すフローチャートである。図6A-図6Eは、図5の方法を表している。図5及び図6A-図6Eに図示された方法では、高分解能の検出器からの情報は、低分解能の検出器の分解能を「鮮明にする」すなわち改善するのに用いられる。記載された実施例では、外形に関する情報を供する高分解能の検出器からの情報は、組成情報を供する検出器の分解能を改善するのに用いられる。この実施例では、複数の検出器は、試料を同時に測定してもよいし、又は順次測定してもよい。同時に測定することで、厳密な像登録手法の必要性が減少する。複数の検出器の統合時間は同一であってもよいし、又はそれぞれ異なってもよい。つまり複数の検出器は、同一期間にわたる情報を取得してもよいし、又は、異なる期間にわたる情報を取得してもよい。たとえば、各異なる検出器から検出された粒子についてのビームの相互作用体積はそれぞれ異なる、又は、検出器は、それぞれ異なるサイズの誘導ビームを用いるので、検出器の分解能はそれぞれ異なってよい。一部の実施例では、ビームが位相界面又は同一の特性が変化する境界を走査する際、高分解能モダリティは、その境界をより正確に特定する。高分解能モダリティの境界がより厳密に特定されればされるほど、低分解能モダリティからの像に組み込まれることで、低分解能モダリティによって測定される特性の変化をより正確に特定することが可能となる。
【0035】
手順502では、電子ビーム602が2つの物質、第1物質606と第2物質608を有する試料604へ向けて案内される。第1物質606と第2物質608は界面すなわち境界610によって隔てられている。電子ビーム602は、各滞在地点での後方散乱電子612及びX線614の放出を引き起こす。後方散乱電子は基本的に相互作用体積616に由来する一方で、X線はより大きな相互作用体積618から放出される。X線の相互作用体積618は相互作用体積616よりも大きい。その理由は、X線は試料材料とそれほど強い相互作用を起こさないので、試料中のある深さで発生する後方散乱電子が表面から放出される確率は、同じ深さで発生したX線が表面から放出される確率よりも低いからである。図6Bは、ビーム602が境界610に接近することで、高分解能モダリティの小さな相互作用体積616が完全に物質606内部に存在する一方で、低分解能モダリティの大きな相互作用体積は物質606と物質608の内部に存在する結果、信号が両方の特性を有していることを示している。
【0036】
手順504では、後方散乱電子は後方散乱電子検出器によって検出される。手順506では、X線は、1次ビームの衝突に応じて放出されるX線のエネルギーを測定するX線検出器−たとえば1つ以上のシリコンドリフト検出器−によって検出される。判定ブロック510が、走査は完了していないと判断した場合、1次電子ビームは、手順512において、次の滞在地点へ向けて走査され、さらなるX線及び後方散乱電子が収集される。図6Bに図示されているように、電子ビーム602が、境界610から離れた試料604上の位置に衝突するときには、後方散乱電子及びX線信号はいずれも物質606のみを表す。ビーム602が境界610に接近することで、相互作用体積は、境界の両側の物質を含んでしまうことで、信号がぼやける。
【0037】
図6Cは後方散乱電子検出器からの信号620を表す。第1物質606は、第2物質608よりも多くの電子を後方散乱する。1次ビーム602が境界610へ向かって移動することで、後方散乱電子の信号強度は、領域624にわたって、専ら第1物質606を表すものから、専ら第2物質608を表すものへ変化する。領域624は一般的に、相互作用体積616の幅に等しい。後方散乱電子の相互作用体積616は相対的に小さいので、境界は相対的に鋭く、その境界の位置は相対的に高い分解能で決定されうる。
【0038】
図6Dは、第1物質606に固有な第1X線エネルギーを表すX線信号640、及び、第2物質608に固有な第2X線エネルギーを表すX線信号642を表す。電子ビーム602が第1物質606の領域にわたって移動することで、第1物質606に対応する信号640は一定の大きさを有し、信号642は、制動放射のノイズのレベルとなる。電子ビーム602が境界610に接近することで、第1物質606を表すX線信号640は、ノイズレベルに向かって減少し始める一方で、第2物質608を表すX線信号642は、ノイズレベルから顕著な信号まで増大し始める。両信号が存在する領域の幅644は、X線を放出する相互作用体積にほぼ等しい。図6Dと図6Cとの比較から明らかなように、X線信号の相互作用体積は、後方散乱電子信号の相互作用体積よりも大きいので、幅644は幅642よりも広い。そのため組成に関するX線データの位置分解能は低くなる。
【0039】
手順514では、境界層が、両解析モダリティ−つまり後方散乱電子信号620及びX線信号640と642−において特定される。手順516では、高い位置分解能の後方散乱電子信号の境界層の幅は、低い分解能の信号−つまりX線信号−の遷移領域に適用される。図6Eは、第1物質606を表す修正された組成X線データ650及び第2物質608を表す修正された組成X線データ652を表す。X線組成データは、高分解能の遷移領域の後方散乱電子のデータと結合されることによって修正され、後方散乱電子信号の遷移領域624の長さを有するX線データの遷移領域654が供される。結合された信号は、後方散乱電子検出器の高い位置分解能を有する試料の組成を表す。境界610が鋭くない場合、つまり、組成が長さにわたって徐々に変化する場合、後方散乱電子像もまた緩やかな変化を示す。X線像も同様である。
【0040】
一のモダリティを用いて第2センサからの情報を明確にするとき、像のデコンボリューションが、たとえば主成分解析のような手法を用いて実行されることが好ましい。第1像を明確にするのは、デコンボリューションカーネルが第2像から得られるデコンボリューション手法に基づくことが好ましい。同時に取得される像は既に完全に位置合わせされているので、端部の位置は既知である。
【0041】
図7は、図8A-図8Dに表されているように、本発明の他の態様の処理を表している。図7及び図8A-図8Dは、像が2つの解析モダリティを用いて取得されるシステムを表している。前記2つの解析モダリティとは、情報を迅速に取得する第1モダリティと、情報をゆっくりと取得する第2モダリティである。第1モダリティは、共通の特性を有する複数の地点を決定するのに用いられる。続いてこれらの地点からの第2モダリティからの情報が、第3像を生成するように結合される。個々の地点を評価するのに長い統合時間を必要とする第2モダリティは、その地点を評価するのに十分な時間、各地点に滞在する必要がない。評価情報は、第1モダリティによってまとめられた複数の地点から蓄積される。従ってビームは、第1モダリティと相性のよい速度で走査されてよく、かつ、第2モダリティ用に各滞在地点から十分な情報を収集するように速度を落とさなくてよい。
【0042】
たとえば第1検出器−たとえば後方散乱電子検出器又は2次電子検出器−は、高速走査中、同様の外観の領域の外形を決定しうる一方で、第2検出器は、同時に(又は順次)、各滞在地点から組成情報(たとえばX線量子)を収集する。各外形内部でのすべての滞在地点からの組成情報は、第3像の外形内部の組成を決定するように結合される。電子ビームは、後方散乱電子像又は2次電子像を生成するのに十分な滞在時間を供してよいが、個々の滞在地点の組成を決定するのに十分なX線量子を収集するには不十分な滞在時間である。
【0043】
図8Aは、典型的には3つの明確に分離した領域802A、802B、及び802Cを含む、たとえば図1に図示されたような充填物の一部を含む試料800を表している。手順702では、電子ビームは、エポキシ母体中にわずかな物質を含む試料800の表面へ向けて案内される。手順704では、表面から放出された後方散乱電子が、後方散乱電子検出器によって検出される。手順706では、1次電子に応答して表面から放出されるX線が検出され、かつ、そのエネルギーが、エネルギー分散X線検出器によって測定される。好適実施例では、後方散乱電子及びX線は同時に検出される。ただし後方散乱電子及びX線は順次取得されてもよいし、あるいは、一部のデータが同時又は順次取得されてもよい。
【0044】
判定ブロック708において、試料中のすべての地点が走査されなかったと判断された場合、電子ビームは、手順710において、次の滞在地点へ移動し、さらなる後方散乱電子及びX線が、その滞在地点で収集される。走査は、試料表面の所望の部分まで続けられる。このときX線及び後方散乱電子は各地点で収集される。
【0045】
走査終了後、往訪散乱電子のデータは、手順716において試料の像を生成するのに用いられる。図8Aは、試料の後方散乱電子像810を表している。手順718では、後方散乱電子像は、同様の特性を有する試料の領域の外形を決定するように解析される。たとえば図8Aは、明確に分離した領域802A、802B、及び802Cを表している。明確に分離した領域802A、802B、及び802Cは、後方散乱電子像上で観察可能である。なぜなら各領域は、グレイレベル及びモフォロジーに基づいて区別されるからである。図8Bは、領域802A、802B、及び802C内で収集されたX線量子を表す記号(”x”、”o”、及び”+”)を示している。ビームが、領域802A、802B、及び802Cの間のエポキシ領域にわたって走査された際に収集されたX線量子は示されていない。よって、領域の組成を決定するため、各滞在地点で十分な量子を収集する必要はない。なぜなら複数の滞在地点からの量子が結合されるからである。各記号”x”、”o”、及び”+”は、複数のX線量子からなる群に対応する。複数のX線量子は、スペクトルを有するが、そのスペクトルが有するX線量子の数は、滞在地点での組成の正確な解析を行うには不十分である。
【0046】
手順720では、ビームが領域802A、802B、及び802Cの各々の内部での滞在地点に設定されたまま収集されるX線が、単一のスペクトルを生成するように結合される。その結合されたスペクトルが手順722で解析される。判定ブロック724は、試料中に存在する物質を決定するのに十分なX線が蓄積されたか否かを判断する。各異なる物質のX線スペクトルにおいて一部のピークが重なるので、所望の信頼性の程度に存在する物質を決定することを可能にする前に、一部の物質には、より厳密なスペクトル、つまりより多くのX線が検出されることが求められる。判定ブロック724において、十分なX線が収集されたと判断された場合、領域802A、802B、及び802Cの各々内の地点は、手順722において決定された組成に割り当てられ、解析は完了する。図8Cは試料の外挿された組成マップを表している。この外挿された組成マップは、同様の電子像特性を有する領域が同一の物質で構成されていると仮定すること、及び、領域内での各地点から収集されるX線を結合してその領域のスペクトルを決定することによって、決定された。図8Dは、後方散乱電子像からの情報とX線の組成情報とを結合する像を表している。図8Dの結合像では、組成を示すために各領域内に描かれた単一の記号が、各領域内部の滞在地点の結合スペクトルによって決定される。結合データは第3像を生成する。それにより、第1の後方散乱電子像と第2の単一滞在地点の分解能のX線像が結合される。
【0047】
後方散乱電子解析によって共通の物質を有すると決定された、滞在地点から検出されたX線を結合することによって、組成を決定するために十分なX線を取得するのに必要な時間が大きく減少し、かつ、より多くのX線量子が供されることで、より信頼性の高いスペクトルが生成される。後方散乱電子像によって同一の相又は元素を有すると決定された領域からの10〜100のスペクトルが加えられて1つにされてよい。スペクトルの結合は場合によっては、1次ビームによる領域の再走査を不要にすることで、ビームによる試料の様々な部分の走査が可能になる。同時に過去に走査された領域は、スペクトル立方体を生成するように処理される。
【0048】
判断ブロック724が、収集されたXは、存在する物質を決定するのに不十分であると判断した場合、電子ビームは、再度試料へ向けて案内され、さらなるX線が収集される。電子ビームは試料全体にわたって走査され、又は、さらなるX線の収集が必要な領域内だけ走査されてよい。あるいはその代わりに電子ビームは、さらなるX線を蓄積するため、領域の中心の1点に案内されてもよい。試料上の平坦な領域からX線を収集することは望ましい。なぜなら丘(hill)や谷(valley)のような構造がX線信号を歪めてしまう恐れがあるからである。後方散乱電子検出器は、表面の起伏に関する情報を供してよい。表面の起伏に関する情報は、試料を表すさらなる特性X線を蓄積するため、平坦な領域にビームを設定するのに用いられてよい。さらなる走査が、さらなるX線を得るために行われるので、後方散乱電子像もまた各対追加の走査で精緻化されうる。領域を再画像化することで、信号対雑音比が改善する。後方散乱電子像上の領域の境界は、さらなる走査によってより厳密になる。共通の組成のさらなる領域も現れる。この処理は、十分な信頼性を有する組成マップが供されるのに十分なX線が検出されるまで繰り返される。その後その処理は完了する。
【0049】
上述した実施例は、2次元データの収集及び結合について説明しているが、本発明は、3次元情報を生成する複数のモダリティからのデータを結合するのにも適している。図3-図10で説明した2次元の場合のように、第1モダリティを用いて生成された像は、第3像を生成するために、第2モダリティを用いて生成された像と結合されてよい。一のモダリティの高い分解能又は高いスループットは、第2モダリティの分解能又はスループットを改善するのに用いられてよい。
【0050】
一の実施例では、3次元の電子断層撮像が、透過電子を用いた3次元像の生成に用いられる。図8A-図8Dに図示された2次元の表面の起伏を決定する代わりに、3次元の表面の起伏が、第1モダリティを用いることによって決定される。組成情報は第2モダリティによって得られる。たとえば一連の電子像が、試料の3次元組成マップを決定するように収集される際に、X線が同時に収集されてよい。試料は、傾きを増大させながら−典型的には-70°から1°ずつ正の方向に増大させながら+70°まで変化させる−動かされる。透過電子像が各傾きで得られる。ビームが、複数の傾き角で試料を横切ることで、3次元の表面の起伏を決定する透過電子が検出されるだけではなく、物質の組成を決定する試料からのX線も同時に収集されうる。ビームは、表面の起伏情報を得るのに十分な速度であるが、滞在地点での組成を決定するためにその滞在地点で十分なX線を収集するには速すぎる速度で試料を走査する。電子像からの表面の起伏情報を利用して3次元内の滞在地点をまとめ、かつ、そのまとめられた地点からの情報を結合することによって、信頼性のある解析のための十分な組成情報が利用可能となる。3次元像を取得するための時間が増えるので、本発明の利点は、3次元においてはさらに大きくなる。本発明によって供される3次元組成マップを生成するのに必要な時間の減少は、2次元における時間の節約よりもはるかに大きい。その理由は、滞在地点の数が、一連の傾きにおける傾きの数を乗じることによって得られるからである。
【0051】
一部の実施例では、表面の起伏又は他の情報は、非走査手法−たとえば平行ビームを用いて明視野像、エネルギー損失像、又は回折像を生成する透過電子断層撮像−によって得られてよい。他方組成情報はある速度で得られる。その速度は、物質を評価するために各滞在地点で十分な情報を得るには速すぎるが、滞在地点が表面の起伏情報に基づいてまとめられるときに、各群の組成を決定するための十分な情報が存在するように、各滞在地点で十分な情報を得るような速度である。
【0052】
規格化されたX線スペクトルを一致させることで、どの元素が試料中に存在するのかに関する定性的な情報が与えられるが、これらの元素に関する相対的に定量的な情報は与えられない。X線ピークの相対的なサイズは、存在する原子数だけではなく、元素の特性及び他の因子にも依存する。たとえばある元素が大量に存在しても、特定の元素の遷移が相対的に低い確率であるために、その遷移に対応するX線ピークは低くなる。
【0053】
X線ピークの高さに影響を及ぼす因子には、試料中の元素の原子数、試料中に発生したX線が試料表面に到達する前に吸収される確率、及び、X線が試料中の原子と反応して蛍光を起こす、つまり各異なるエネルギーの光子を放出する確率が含まれる。これらの因子は、原子番号(「Z」)、吸収(「A」)、及び蛍光(「F」)から「ZAF因子」と呼ばれる。試料表面と検出器とがなす角−「射出角」と呼ばれる−は吸収と蛍光に影響を及ぼす。よって試料表面の一部が傾く場合、その角度は、より厳密な定量的解析を実現するため、ZAF因子を調節するように決定される必要がある。
【0054】
本発明の他の態様によると、後方散乱電子検出器は、試料の一部の射出角を決定するのに用いられ、かつ、射出角は、ZAF計算を調節することで、試料中の物質の相対量をより正確に決定するのに用いられる。後方散乱電子検出器は、後方散乱電子の非対称パターンを検出することによって−たとえば軸外し検出器を用いることによって、又は、非対称的に後方散乱電子を検出することが可能な区分化された検出器を用いることによって−表面の起伏情報を供することができる。表面の起伏情報は、各滞在地点で決定されることが好ましい。それにより局所射出角の補正が各滞在地点で計算されうる。従来技術では、試料表面の大域傾斜角が様々な既知の手法によって測定され、かつ、単一の大域射出角は、試料全体に用いられた。各滞在地点で局所射出角を決定することによって、より正確な補正が可能となる。他の実施例では、各滞在地点で射出角を決定するのではなく、滞在地点の群について1つの射出角が用いられてもよい。たとえば走査パターン−たとえば図4に図示されたようなもの−が用いられるとき、1回のX線検出器の統合時間中にX線が収集される滞在地点の群について1つの射出角が決定されてよい。
【0055】
図9は、X線検出器からの情報の解析において後方散乱電子検出器からの情報を用いる処理のフローチャートを表している。図10は図9の手順を表している。手順902では、電子ビームが試料全体にわたって走査される。手順904では、1次電子ビーム軸に対して非対称的に後方散乱する電子を検出できるように、後方散乱電子は、区分化された後方散乱電子検出器又は複数の軸外し検出器を用いることによって検出される。図10は、後方散乱電子が、検出器の一の面よりも他の面により多く衝突するときに検出可能な区分化された後方散乱電子検出器を表している。手順906では、1つ以上のX線検出器を用いることによって、X線が検出され、かつ、エネルギーが測定される。X線スペクトル1004(図10)は、複数のシリコンドリフト検出器によって測定されるX線のエネルギーからまとめられることが好ましい。像1006は、後方散乱電子検出器1002からのグレイスケール情報のみを用いることによって試料上の特徴部位を表している。つまり検出器のすべてのセグメントからの後方散乱電子が結合されている。像1008は、後方散乱電子検出器1002からの表面の起伏情報を用いて同一の特徴部位を表している。つまり各異なる扇形からの信号が、試料の局所的な傾きに比例する信号を生成するように処理される。係る信号は一般的には、(A-B)/(A+B)型の関数−つまり規格化された差分型関数−である。手順908では、バックグラウンド補正がX線スペクトルに適用され、かつ、特性ピークが、存在する元素を決定するように特定される。手順910では、後方散乱電子検出器からの強度及び表面の起伏に関する情報が、X線検出器からのスペクトル情報に結合されることで、試料中に見いだされる元素の相対量を決定するように局所的な射出角の補正によるZAF解析が実行される。
【0056】
本明細書で説明した手法は、後方散乱電子検出器及びEDSに限定されるものではない。上記手法は、任意の検出器の対で利用可能である。像を生成するのに用いることのできる他の解析モダリティには、エネルギー損失分光(EELS)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、波長分散分光(WDS)、カソードルミネッセンス、ステージ電流測定、及び2次電子検出が含まれる。X線蛍光システムもまた、試料からのX線を発生させるのに用いられてよい。
【0057】
一般的に用いられる2種類のモダリティには、高信号対雑音比の検出器−たとえば後方散乱電子検出器又は2次電子検出器−及び高信号対雑音比の検出器−X線検出器又はカソードルミネッセンス検出器−が含まれる。低信号対雑音比の検出器からの情報は一般的に、高信号対雑音比の検出器によって同様の組成を有すると決定された領域内の複数の地点からのデータを結合することによってまとめられる。
【0058】
図11は、本発明の実施例を実施するのに適したX線検出器1140を備えた走査電子ビームシステム1100を表している。システム1100には、電源及び制御ユニット1145と共に走査電子顕微鏡1141が供されている。電子ビーム1132は、陰極1153と陽極1154との間に電圧を印加することによって、陰極1153から放出される。電子ビーム1132は、収束レンズ1156及び対物レンズ1158によって微細なスポットに集束される。電子ビーム1132は、偏向コイル1160によって、試料上を2次元的に走査される。偏向コイルは、ビームをX軸及びY軸に沿って偏向させうる。それによりそのビームは、単純なパターン又は複雑なパターン−たとえばラスタスキャン、曲がりくねった走査、又はヒルベルトスキャン−で試料表面に沿って走査されうる。偏向装置は磁気的又は静電的であってよい。収束レンズ1156、対物レンズ1158、及び偏向コイル1160の動作は、電源及び制御ユニット1145によって制御される。
【0059】
システム制御装置1133は、走査型電子ビームシステム1100の様々な部分の動作を制御する。真空チャンバ1110は、真空制御装置1134の制御下で、イオンポンプ1168及びメカニカルブースターポンプ1169によって排気される。
【0060】
電子ビーム1132は、下部真空チャンバ1110内部の可動式XYステージ1104上に設けられている試料1102上に集束される。電子ビーム中の電子が試料1102に衝突するとき、その試料は、エネルギーがその試料中の元素と相関するX線を発生させる。試料の元素組成に固有なエネルギーを有するX線1172は、電子ビーム入射領域付近で生成される。放出されたX線はX線検出器1140−好適にはシリコンドリフト型のエネルギー分散型検出器−によって収集される。ただし検出されたX線のエネルギーに比例する振幅を有する信号を発生させる他の種類の検出器が用いられてもよい。後方散乱電子は、後方散乱電子検出器1142−好適には区分化されたシリコンドリフト検出器−によって検出される。
【0061】
検出器1140からの出力は、処理装置1120によって増幅及び記憶され、選択されたエネルギー及びエネルギー分解能並びに好適には10-20eV/チャネルのチャネル幅(エネルギー範囲)で、特定の期間検出されたX線の合計数を分類する。処理装置1120はたとえば、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルゲートアレイ、又は、任意のアナログ若しくはデジタル計数器を有してよい。処理装置1120は、コンピュータプロセッサ、プログラマブルゲートアレイ、又は、他のデジタル若しくはアナログ処理手段;ユーザーインターフェース手段(たとえばキーボード又はコンピュータマウス);データ及び実行可能な命令を記憶するプログラムメモリ1122;データ入出力と実行可能なコンピュータプログラムコードにおいて実施される実行可能なソフトウエア命令用のインターフェース手段;並びに、ビデオ回路1192による多変量スペクトル解析の結果を表示するディスプレイ1144を有してよい。
【0062】
処理装置1120は、標準的な研究室のパーソナルコンピュータの一部であってよく、典型的にはコンピュータ可読媒体と結合する。揮発性媒体と不揮発性媒体、取り外し可能媒体と取り外し不可能な媒体を含むコンピュータ可読媒体は、処理装置1120によってアクセス可能な任意の利用可能な媒体であってよい。
【0063】
上述のように得られたX線スペクトルは、メモリ1122の一部−たとえば測定されたスペクトルメモリ部分1123−に記憶されてよい。データテンプレートメモリ部分1124は、データテンプレート−たとえば元素の既知スペクトルであり、実施例によっては物質の既知の回折パターン−を記憶する。重み付け因子部分はデータテンプレートと結合することで、測定スペクトルを近似する計算されたスペクトルが生成される。重み付け因子は、データテンプレートに対応する元素の試料中での豊富さと相関する。処理装置1120は、上述の方法を用いて、測定パターンと、データテンプレート及び重み付け因子の結合との差異を表す誤差の値を最小化する。
【符号の説明】
【0064】
100 試料
102 顆粒
104 エポキシ母体
400 像
402 試料
404 領域
406 エポキシ
410 像
412 走査パターン
414 矢印
416 滞在地点
418 滞在地点群
420 像
422 像
430 像
432 境界
440 像
602 電子ビーム
604 試料
606 第1物質
608 第2物質
610 境界
612 後方散乱電子
614 X線
616 電子ビームの相互作用体積
618 X線の相互作用体積
620 後方散乱電子検出器からの信号
624 領域
640 X線信号
642 X線信号
644 領域の幅
650 X線信号
652 X線信号
654 領域の幅
800 試料
802 領域
810 試料の後方散乱電子像
1002 像
1004 スペクトル
1006 像
1008 像
1100 走査電子ビームシステム
1140 X線検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の特性を決定する方法であって:
前記試料の領域にわたって走査されたビームに応じて前記試料から放出される第1型の放射線を、第1検出器を用いて検出する手順;
前記試料の領域にわたって走査されたビームに応じて前記試料から放出される第2型の放射線を、スペクトル情報を測定する第2検出器を用いて検出する手順;
前記第1型の放射線を用いて、前記試料の走査された領域を、複数の領域に分割する手順であって、前記複数の領域の各々は共通の特性を有する、手順;及び、
前記第1型の放射線を用いることによって、共通の特性を有すると判断された前記領域のうちの少なくとも1つの内部の複数の地点から放出される前記第2型の放射線を結合して、前記領域内の物質の結合スペクトルを生成する手順;
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1型の放射線が後方散乱電子又は2次電子を有し、かつ、
前記第2型の放射線が光子を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1型の放射線を、第1検出器を用いて検出する手順、及び、前記第2型の放射線を、スペクトル情報を測定する第2検出器を用いて検出する手順は、ビームが前記試料にわたって走査される際に、前記第1型の放射線と前記第2型の放射線を同時に検出する手順を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1型の放射線を、第1検出器を用いて検出する手順、及び、前記第2型の放射線を、スペクトル情報を測定する第2検出器を用いて検出する手順は、前記ビームの連続する走査において、前記第1型の放射線と前記第2型の放射線を検出する手順を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料の走査された領域を複数の領域に分割する手順が、前記走査された領域を、同様のコントラストを有する複数の領域に分割する手順を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1検出器が、個々の滞在地点にわたって信号を統合し、かつ、
前記第2検出器が、複数の滞在地点にわたって信号を統合する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1検出器と前記第2検出器は、各異なる期間にわたって、前記走査パターン中に信号を統合する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1型の放射線が、第1速度で取得され、かつ、
前記第2型の放射線が、前記第1速度よりも遅い第2速度で取得される、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1型の放射線が、後方散乱電子を検出することでコントラスト情報を供し、かつ、
前記第2型の放射線が、X線を検出することで前記試料の組成情報を決定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1検出器によって決定される局所射出角が、前記第2検出器からの情報を補正して、前記試料に関する相対的で定量的な組成情報を決定するのに用いられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2検出器が、エネルギー損失分光(EELS)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、波長分散分光(WDS)、カソードルミネッセンス、ステージ電流測定、及び2次電子検出を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1検出器が、第1分解能で共通の組成を有する前記試料の領域を決定し、
前記第2検出器が、前記第1分解能よりも低い第2分解能で前記し領域の組成を決定し、かつ、
システムが、前記第2検出器による情報を用いて、前記第1検出器より決定された領域の組成を決定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1検出器が、前記第2検出器の相互作用体積よりも小さな第1相互作用体積から放出される放射線を検出する請求項1に記載の方法であって、
境界を有する前記試料の領域の特性を決定する手順を有し、
前記境界の位置は前記第1検出器によって決定され、
前記境界のいずれかの面での領域の特性は前記第2検出器によって決定される、
方法。
【請求項14】
前記第2検出器が、解析するのに十分な放射線を検出しなかった場合、前記ビームが前記試料を再度走査する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
試料へ向けて案内される1次ビーム源;
前記1次ビームの衝突によって前記試料から放出される第1放射線を検出する第1検出器;
前記1次ビームの衝突によって前記試料から放出される第2放射線を検出する第2検出器;及び、
請求項1乃至14のいずれかに記載の方法を実行するコンピュータの命令を有するプログラムメモリ;
を有するビームシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19900(P2013−19900A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155780(P2012−155780)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】