説明

多価アルコールの水素化分解物の製造方法

【課題】特定の触媒を用いて、多価アルコールからその水素化分解物を選択性よく、かつ効率的に製造する方法、及び上記反応に用いる多価アルコールの水素化分解触媒を提供する。
【解決手段】(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒及び(B)レニウム成分を含む触媒の存在下に、多価アルコールと水素とを接触させる、多価アルコールの水素化分解物の製造方法、及び多価アルコールの水素化分解触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の触媒を用い、多価アルコールからその水素化分解物を選択性よく製造する方法、及び上記反応に用いる多価アルコールの水素化分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
C3アルコール類は様々な工業原料等として有用である。中でもジオール類はポリマー原料や溶剤として広く使用されている。また特に1,3−プロパンジオール(以下、1,3−PDと略記することがある。)は、ポリエステル及びポリウレタンの原料として注目を集めており、近年効率的で、安価な製造方法の開発が求められている。
従来、1,3−PDを製造する方法としては、(1)エチレンオキシドをヒドロホルミル化して3−ヒドロキシプロパナールを合成した後、水素化させて1,3−PDを合成する方法、(2)アクロレインを水素化させ3−ヒドロキシプロパナールを合成した後、水素化させて1,3−PDを合成する方法が知られている。
しかしながら、これらの方法で得られた1,3−PDは、2段階で製造されること、及び熱的に不安定な3−ヒドロキシプロパナールを中間体としているため、1,3−PD収率の低下を引き起こすことによりコストが高くなるという問題があった。これらのことから、1,3−PDの低コスト製造法の開発が望まれていた。
【0003】
一方、多価アルコール、例えばグリセリンを用いて1段階で1,2−プロパンジオール(以下、1,2−PDと略記することがある。)及び1,3−PDへ転化させるグリセリンの水素化分解法が知られている。例えば、タングステン酸及び周期表(短周期型)VIII族金属成分を含有する均一系触媒を用いた方法(例えば、特許文献1参照)、白金族金属錯体及びアニオン源からなる均一系触媒を用いた方法(例えば、特許文献2参照)、タングステン酸及びロジウムを含有する触媒を用いた方法が開示されている(例えば、文献3参照)。しかしながら、これらの方法は、均一系白金族金属触媒や高価なロジウム触媒(例えば、非特許文献2参照)、または有機溶媒を使用していることから工業的或いは経済的に実施し難いという問題があった。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,642,394号明細書
【特許文献2】特表2001−510816号公報
【非特許文献1】Green Chem., 645, 6, (2005)
【非特許文献2】触媒 vol49、No6、p438-441(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、多価アルコールからその水素化分解物を選択性よく製造する方法、及び上記反応に用いる多価アルコールの水素化分解触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、多価アルコールの水素化分解触媒として、白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分及びレニウム成分を含む触媒を用いることにより、前記目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒及び(B)レニウム成分を含む触媒の存在下に、多価アルコールと水素とを接触させる、多価アルコールの水素化分解物の製造方法、
(2)(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒と(B)レニウム成分を含む触媒とを組み合わせてなる、多価アルコールの水素化分解触媒、及び
(3)(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分と(B)レニウム成分を1つの担体に担持してなる、多価アルコールの水素化分解触媒、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の触媒を用い、多価アルコールからその水素化分解物、特にグリセリンからジオール類や1,3−PDを選択性よく、かつ効率的に製造する方法、及び上記反応に用いる多価アルコールの水素化分解触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の多価アルコールの水素化分解物の製造方法においては、水素化分解触媒の存在下に、多価アルコールと水素とを接触させて、該多価アルコールを水素化分解する。
多価アルコールとしては、炭素数2〜60の脂肪族又は脂環式多価アルコールを挙げることができ、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、各種プロパンジオール、各種ジプロパンジオール、各種トリプロパンジオール、各種ブタンジオール、各種ジブタンジオール、各種ペンタンジオール、各種ペンタントリオール、各種ヘキサンジオール、各種ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、各種シクロヘキサンジオール、各種シクロヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、さらにはソルビトールやマンニトールなどの糖アルコール等を例示することができる。これらの中では、工業的観点から、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール、マンニトールが好ましく、多価アルコールの水酸基数2〜6の化合物がより好ましく、水酸基数2〜3が更に好ましく、特にグリセリンが好ましい。
また、本発明における多価アルコールの水素化分解物とは、多価アルコールに水素を作用させて、水酸基を分解させて得られたものであり、例えばグリセリンの水素化分解物は、C3ジオール(分子内の水酸基:2つ)、C3モノオール(分子内の水酸基:1つ)である。
前記水素化分解触媒としては、(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分〔以下、“(A)金属成分”と称することがある。〕を含む触媒、及び(B)レニウム成分を含む触媒が用いられる。本発明の水素化分解物の製造方法において“(A)金属成分を含む触媒及び(B)レニウム成分を含む触媒”とは、後述する説明からも明確なように、(A)金属成分及び(B)レニウム成分を共に含む触媒をもまた意味する。
すなわち(A)金属成分を含む触媒と(B)レニウム成分を含む触媒とを組み合せて別々に用いてもよく、(A)金属成分と(B)レニウム成分とを1つの担体に担持したような触媒であってもよい。より具体的には、本願実施例1〜4及び6,7のように(A)金属成分を担体に担持した触媒として用い、(B)レニウム成分は特定化合物として(A)金属成分とは別に直接反応溶液に加えてもよく、実施例5のように(A)金属成分と(B)レニウム成分とを共にアルミナに担持させた触媒でもよい。
【0009】
本発明において、(A)金属成分は白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分であり、このうちIUPAC形式による周期律表で10族に分類される白金、パラジウムがより好ましく、特に白金が化学的安定性の点から最も好ましい。(A)金属成分は、錯体触媒又は固体触媒として用いられることが好ましく、固体触媒として用いられることがより好ましく、特に(A)金属成分を担体に担持した固体触媒として用いられることが最も好ましい。
当該水素化分解触媒における(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を担持する担体としては、特に制限はないが、例えば、Studies in Surface and Catalysis,1−25,vol51,1989に記載されているようなものを用いることができる。例えば、炭素(活性炭)、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアや、ゼオライト等のシリカーアルミナの複合酸化物を用いることができる。これらの担体の中では、特に炭素またはアルミナが望ましい。(A)金属成分の担持量は、触媒活性の点から、担体と担持された(A)金属成分との合計量に基づき、通常0.10〜30質量%程度、好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは2〜10質量%である。
この(A)金属成分の白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分の使用量は、多価アルコールの種類などに応じて、適宣選定されるが、転化率や選択性などの観点から、多価アルコール1gに対し、白金、パラジウム及びルテニウムの金属として、0.0001g以上が好ましく、より好ましくは0.001〜0.5g、さらに好ましくは0.01〜0.2gである。
当該水素化分解触媒において、前記(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる金属成分と併用される(B)レニウム成分は、触媒として過レニウム酸、過レニウム酸アンモニウム、又は過レニウム酸カリウム等の過レニウム酸塩(特にアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)、二酸化レニウム,三酸化レニウム,三酸化二レニウム,七酸化二レニウム等の酸化レニウム及びメチルトリオキソレニウム等を用いることができるが、これらの中で特に過レニウム酸が好ましい。また実施例にあるように(A)金属成分を担持した担体に過レニウム酸塩の水溶液を添加し、乾燥焼成するなどして、(A)金属成分とレニウム成分とを1つの担体上に担持したものも用いることができる。
(A)金属成分を担持した触媒、及び(A)金属成分と(B)レニウム成分を1つの同一担体上に担持した触媒は、市販のものを用いてもよく、また沈殿法、イオン交換法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、混練法など通常採用されている公知の方法にて担体上に金属成分を担持することで調製できる。
【0010】
当該水素化分解触媒において、前記(A)金属成分と併用される(B)レニウム成分は、前記したように過レニウム酸やその塩、或いは金属酸化物のように多様な化合物が使用できるが、これらレニウム化合物から、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その使用量は、転化率や選択性の観点から、金属としてのレニウム(Re)と(A)の白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分との質量比〔Re/(A)の金属成分〕が0.01〜100、好ましくは0.05〜50、より好ましくは0.1〜30である。なお、本発明において最も好ましい(A)金属成分と(B)レニウム成分を含む触媒の態様は、(A)金属成分を炭素またはアルミナ等の担体に担持した固体触媒として用い、且つ(B)レニウム成分を過レニウム酸又はその塩として用いることである。もう一つの好ましい態様としては、(A)金属成分及び(B)レニウム成分を1つの担体に担持して用いることである。
【0011】
本発明の多価アルコールの水素化分解物の製造方法においては、製造工程簡略化の観点から、反応溶媒を用いないことが好ましいが、反応溶媒を用いて、多価アルコールの水素化分解を行うことができる。
反応溶媒としては、プロトン性溶媒が好ましく、例えば水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコールなどの中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの中では、反応性の観点から、水を含有するものが好ましい。
反応溶媒の使用量は、多価アルコールの含有量が1質量%以上の溶液になるように選ぶことが好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上の溶液となるように選ぶことが最も好ましい。
本発明の方法において、原料となる水素ガスは、そのままあるいは窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスで希釈して用いることができる。
【0012】
反応条件については、特に制限はなく、使用する多価アルコールや触媒の種類などに応じて適宣選定されるが、水素圧は、通常常温で30MPa以下が好ましく、0.1〜10MPaがより好ましい。反応温度は、通常80℃以上で水素化分解を実施することができるが、多価アルコールの水素化分解による転化率及び分解生成物の選択性などの観点から、80〜240℃の範囲が好ましく、100〜240℃の範囲がより好ましく、特に120〜200℃の範囲が好ましい。
水素化分解反応は、回分式及び連続式のいずれも採用することができる。また、反応装置としては特に制限はなく、オートクレーブなどの加圧可能な装置や、固定床流通式の装置などを用いることができる。
【0013】
本発明の多価アルコールの水素化分解物の製造方法においては、多価アルコールとしてグリセリンを用いることが好ましい。このグリセリンを用いることにより、水素化分解物として、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール及び2−プロパノールなどの混合物を得ることができる。
本発明はまた、(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒と(B)レニウム成分を含む触媒とを組み合わせてなる、多価アルコールの水素化分解触媒、及び(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分と(B)レニウム成分を1つの担体に担持してなる、多価アルコールの水素化分解触媒、をも提供する。
【実施例】
【0014】
実施例1
攪拌機付きの500mLのチタン製オートクレーブに、5質量%Pt/C4g、HReO4(80質量%水溶液)7.5g(0.024mol)、グリセリン12g、水120gを加え、水素置換した。その後、水素を3MPaまで導入した後、加熱し、160℃にて3時間反応させた。その結果、グリセリン転化率モル49%、選択性は1,3−PD19モル%、1,2−PD22モル%、1−プロパノール35モル%、2−プロパノール9モル%であった。なお、ここでPt/C4gとは、活性炭に白金を担持した固体触媒と、担持固体触媒の反応系内の質量を意味し、以下の記載も同様に解釈する。
反応終了溶液中に溶解していたPt分は1ppm未満、Re分は83ppmであった。
結果を表1に示す。
なお、反応終了溶液は濾過後、1H−NMRにて分析し、生成物を定量した。またガス分はガスバッグに捕集した後、ガスクロマトグラフィーにて分析し、生成物を定量した。
1H−NMR(溶液)
バリアン社製 Mercury400
内標:トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム
・ガスクロマトグラフィ−(低級炭化水素ガス)
カラム:PorapakQ、2.1m×3.2mmφ、80−100メッシュ
検出器:FID
インジェクション温度:200℃
ディテクター温度:200℃
He流量:60mL/min.
・ガスクロマトグラフィー(CO、CO2ガス)
カラム:モレキュラーシーブ5A
検出器:FID(カラムと検出器間にメタナイザ−を装着)
インジェクション温度:80℃
ディテクター温度:80℃
He流量:60mL/min.
【0015】
実施例2〜4及び比較例1〜3
表1に示した条件にて、実施例1と同様に反応を実施した。
結果を表1に示す。
実施例5
(触媒調製)
市販の5%質量Pt/Al236.0gに、4.4質量%過レニウム酸アンモニウム水溶液10mLを用いて蒸発乾固法にて担持した後、130℃にて3時間乾燥した。さらに空気流通下500℃で3時間焼成した。
(反応)
攪拌機付きの500mLのチタン製オートクレーブに、前記で調製した触媒4g、グリセリン12g、水120gを加え、水素置換した。その後、水素を3MPaまで導入した後、加熱し、160℃にて3時間反応させた。その結果、グリセリン転化率16%、選択性は1,3−PD24モル%、1,2−PD26モル%、1−プロパノール27モル%、2−プロパノール9モル%であった。反応終了溶液中に溶解していたPt分は1ppm未満、Re分は2ppm未満であった。
【0016】
【表1】

【0017】
実施例6及び7
実施例1において白金による5質量%Pt/C4gの替わりに、実施例6においてはルテニウムによる5質量%Ru/C4g、実施例7においてはパラジウムによる5質量%Pd/C4gを用いた他は実施例1と同様に反応を実施した。実施例6及び7では、比較例に比べてジオールの生成が顕著であった。
結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の多価アルコールの水素化分解生成物の製造方法は、多価アルコールからその水素化分解物、特にグリセリンからジオール類や1,3−プロパンジオールを選択性よく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒及び(B)レニウム成分を含む触媒の存在下に、多価アルコールと水素とを接触させる、多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項2】
(A)金属成分がパラジウム及び白金から選ばれる金属成分である請求項1に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項3】
(B)レニウム成分が、過レニウム酸及びその塩、酸化レニウム、並びにメチルトリオキソレニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項4】
(A)金属成分を含む触媒が固体触媒である請求項1〜3いずれかに記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項5】
反応溶媒としてプロトン性溶媒を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項6】
プロトン性溶媒が水を含有する請求項5に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項7】
多価アルコールが水酸基数2〜6の化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項8】
多価アルコールがグリセリンである請求項1〜7のいずれかに記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項9】
(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む触媒と(B)レニウム成分を含む触媒とを組み合わせてなる、多価アルコールの水素化分解触媒。
【請求項10】
(A)白金、パラジウム及びルテニウムから選ばれる少なくとも1種の金属成分と(B)レニウム成分を1つの担体に担持してなる、多価アルコールの水素化分解触媒。

【公開番号】特開2008−163000(P2008−163000A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293461(P2007−293461)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】