説明

多出力スイッチング電源装置

【課題】スイッチング動作に応じて生じるサージ電圧を抑制することができる多出力スイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】一次側巻線Lpと複数個の二次側巻線Lsとを有する高周波トランス1と、直流電源3からの直流電力をオンオフするスイッチ2と、スイッチ2を駆動制御する制御IC10とを備える。そして、制御IC10でスイッチ2をオンオフ制御することで、高周波トランス1の二次側巻線Lsに接続した負荷9にそれぞれ直流電力を供給する。このとき、制御IC10の電力は、直流電源3から降圧手段11を介して供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング動作に応じて生じるサージ電圧を抑制する機能を持ち、複数の負荷へ電力を供給する多出力スイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の多出力スイッチング電源装置の回路構成である。
この図5に示すように、従来の多出力スイッチング電源装置は、多出力の高周波トランス101の一次側巻線Lpにスイッチ102を直列に接続し、その直列接続回路に直流電源103により直流電圧を印加する。なお、直流電圧を印加する直流電源の代わりに、交流電源と整流器とを組み合わせて使用する場合もある。
【0003】
高周波トランス101の一次側巻線Lpには、スナバ抵抗104、スナバコンデンサ105及びスナバダイオード106からなるスナバ回路を並列に接続する。ここでスナバ回路は、スイッチ102がオン(導通状態)の間に一次側巻線Lpの漏れインダクタンスに蓄えたエネルギーを、スイッチ102がオフ(遮断状態)の瞬間にスナバダイオード106で還流させ、スイッチ102に大きな電圧サージが加わることを防止するものである。スナバダイオード106で還流した電流はスナバコンデンサ105を充電し、そのコンデンサ105の電荷をスナバ抵抗104で放電する。
【0004】
高周波トランス101の複数の二次側巻線Lsには、それぞれ還流ダイオード107と平滑コンデンサ108を直列接続し、スイッチ102がオフの間に平滑コンデンサ108を充電する。そして、この平滑コンデンサ108から負荷109に電力を供給する。
多出力フライバック式電源装置では、二次側の出力電圧を所望の電圧に制御するために、スイッチ102のデューティー比を制御する制御IC110を設ける。この制御IC110の電力は、二次側出力の1つから供給するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、図5に示すように、高周波トランス101の二次側巻線の1つをドライバ巻線Lsdとし、このドライバ巻線Lsdの一端を、還流ダイオード107dを介して制御IC110の正極側電源端子に接続し、他端を制御IC110の負極側電源端子に直接接続する。このとき、ドライバ巻線Lsdのダイオード接続側とは反対側は、高周波トランス101の一次側巻線Lpと共通のラインに接続している。そして、還流ダイオード107のカソード側とドライバ巻線Lsdの他端との間に平滑コンデンサ108dを介挿する。これにより、ドライバ巻線Lsdを制御IC110専用の出力とし、制御IC110に電力を供給する。
【0006】
なお、特に図示しないが、制御IC110への電力供給は通常以下の手順で行う。
先ず、電圧レギュレータを介して、直流電源103から起動用の電力を供給する。次に、制御IC110により、フライバックコンバータを起動する。そして、フライバックコンバータ起動後は、専用の制御IC110への電力供給用出力から制御IC110へ電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−350370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、制御IC110の消費電力は、通常、他の二次側出力が電力を供給する負荷に比べて1/10程度と非常に小さい。そのため、上記従来の構成の多出力スイッチング電源装置にあっては、制御IC110につながる還流ダイオード107dでサージ電圧が生じ、高周波の伝導ノイズや放射ノイズが発生する可能性がある。以下、その理由について説明する。
【0009】
多出力スイッチング電源装置では、励磁インダクタンスの電流が、スイッチ102のターンオフの瞬間に各出力に分流する。ターンオフの瞬間に分流する電流の値は、各出力の漏れインダクタンスが小さいほど多くなる。また、ターンオフの期間にその電流はそれぞれの出力電圧に応じて減少し、減少の傾きは電圧が高い出力ほど大きくなる(一次側に巻き数比換算した値で比較した場合)。
【0010】
図6は、二次側の出力を二つ持つフライバックコンバータにおけるターンオフ時の等価回路である。ただし、一次側の漏れインダクタンスは無く、ターンオフ直後に電流が二次側に転流するものとする。ここで、L1,L2は出力側の漏れインダクタンス、V1,V2は出力電圧で、いずれも巻き数比で一次側に換算した値とする。
この等価回路では、ターンオフの直前に励磁インダクタンスLmに電流Imが流れていたとすると、各出力に流れる電流iD1,iD2のターンオフ直後の値ID1,ID2は次式となる。
【0011】
D1=Im・L2/(L1+L2) ………(1)
D2=Im・L1/(L1+L2) ………(2)
これより、ターンオフ直後は、漏れインダクタンスの小さい出力へ多くの電流が転流することが分かる。
【0012】
また、ターンオフ時の二次側の電流iD1,iD2の傾きdiD1/dt,diD2/dtは次式となる。
diD1/dt={V1/L1+Lm/L1・(V1−V2)/L2}/{Lm(1/Lm+1/L1+1/L2)} ………(3)
diD2/dt={V2/L2+Lm/L2・(V2−V1)/L1}/{Lm(1/Lm+1/L1+1/L2)} ………(4)
これより、二次側の出力電圧V1とV2とが等しい場合は漏れインダクタンスが小さい方の出力の電流の傾きが大きくなり、漏れインダクタンスL1とL2とが等しい場合は出力電圧の大きい出力の方が電流の傾きが大きくなることが分かる。
【0013】
ここで、各出力の電圧は、平滑コンデンサの充電と放電の割合で決まるため、消費電力の小さい制御IC110用の平滑コンデンサ108dでは放電が少なく、他の平滑コンデンサに比べて電圧が高くなる。
つまり、制御IC110の電源につながる出力はスイッチ102がオフすると急速に電流が減衰してゼロになる。電流が急速にゼロに向かって変化すると、還流ダイオードが逆回復動作時に流れる逆向きの電流が多くなり、それに伴って還流ダイオード107dには大きなサージ電圧が生じる。
【0014】
よって、図5に示すような従来の構成では、消費電力の小さい制御IC110につながる還流ダイオード107dでサージ電圧が生じ、これが高周波の伝導ノイズや放射ノイズの原因となって、所定の規格値を満足できなくなる可能性がある。
なお、他の出力においても消費電力が極端に小さい場合には、同様の動作になるものの、電圧レギュレーションも大幅に悪化することになる。このため、抵抗負荷を追加し消費電力を増やすことで電圧レギュレーションを改善される処置が取られ、結果的に消費電力が極端に小さい出力は構成されにくい。
【0015】
しかしながら、制御ICは一般的に幅広い電圧範囲で動作することから、電圧レギュレーションの精度は求められていない。この結果として制御IC用電源の消費電力が極端に小さくなることが多いことが、他の出力に比べて大きな放射ノイズを発生する原因となる。
そこで、本発明は、スイッチング動作に応じて生じるサージ電圧を抑制することができる多出力スイッチング電源装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1に係る多出力スイッチング電源装置は、一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、前記制御回路の電力を、前記直流電源から供給することを特徴としている。
【0017】
また、請求項2に係る多出力スイッチング電源装置は、一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、前記制御回路の電力を、前記負荷を接続した前記二次側巻線から供給することを特徴としている。
【0018】
さらに、請求項3に係る多出力スイッチング電源装置は、一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、前記制御回路の電力を、漏れインダクタンスが他の二次側巻線の漏れインダクタンスより大きい二次側巻線から供給することを特徴としている。
【0019】
さらに、請求項4に係る多出力スイッチング電源装置は、請求項3に係る発明において、前記制御回路に電力を供給する前記二次側巻線と直列に、リアクトルが接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係る発明によれば、消費電力の小さい制御回路に、一次側の直流電源から電力を供給するので、制御回路専用の二次側巻線から電力を供給する場合と比較して、還流ダイオードの逆回復サージ電圧が発生するのを防止することができる。その結果、流出する高周波ノイズを抑制することができる。
また、請求項2に係る発明によれば、制御回路に、他の負荷に電力を供給している平滑コンデンサから電力を供給するので、消費電力が小さいことで発生していた還流ダイオードの逆回復サージ電圧を抑制することができる。その結果、流出する高周波ノイズを抑制することができる。またこのとき、上記負荷を、単純に損失を発生させるためだけの負荷抵抗として、二次側巻線の一つを制御回路専用の出力とすれば、他の出力との絶縁性能を損ねることがない。
【0021】
さらに、上記において、制御回路の電力をシリーズレギュレータ等の降圧手段を介して供給すれば、還流ダイオードの逆回復サージ電圧を無くしてノイズを抑制することができると共に、所望の電力を制御回路に供給することができる。このとき、制御回路の駆動電圧に近い出力電圧を選択すれば、降圧手段の損失を低減することができる。
また、請求項3に係る発明によれば、制御回路に電力を供給する二次側巻線の漏れインダクタンスを増加することができるので、平滑コンデンサを充電する際の電流変化を遅くし、還流ダイオードの逆回復サージ電圧を抑制することができる。その結果、流出する高周波ノイズを抑制することができる。
【0022】
さらに、請求項4に係る発明によれば、制御回路に電力を供給する二次側巻線に直列にリアクトルを接続するので、簡易な構成で当該二次側巻線の漏れインダクタンスを増加することができる。また、リアクトル自体では損失が無いため、シリーズレギュレータや負荷抵抗等を用いる場合と比べて高効率化を望める。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す回路図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示す回路図である。
【図3】第2の実施形態の変形例を示す回路図である。
【図4】本発明の第3の実施形態を示す回路図である。
【図5】従来例を示す回路図である。
【図6】従来例の課題を説明するための等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
(構成)
図1は、本発明をフライバックコンバータに適用した場合の一実施形態を示す回路図である。
【0025】
図中、符号1は多出力の高周波トランスである。高周波トランス1は、一次側巻線Lpと、複数の二次側巻線Lsとを有する。一次側巻線Lpにはスイッチ2を直列に接続し、この直列接続回路に直流電源3より直流電圧を印加する。
直流電源3は、入力直流電源3aと、入力直流電源3aに接続された正極側ライン及び負極側ライン間に接続した平滑コンデンサ3bとから構成する。
【0026】
そして、高周波トランス1の一次側巻線Lpの一端は、直接正極側ラインに接続し、他端は、スイッチ2を介して負極側ラインに接続している。ここで、スイッチ2は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET等のスイッチング素子を適用する。スイッチ2には、これと逆並列にフリーホイリングダイオード2aを接続する。また、スイッチ2は、そのゲートに後述する制御回路としての制御IC10を接続し、この制御IC10によってスイッチ2をパルス幅変調(PWM)制御する。このようにして、制御IC10は、スイッチ2をスイッチング制御(オンオフ制御)する。
【0027】
さらに、正極側ラインにおける平滑コンデンサ3bと一次側巻線Lpとの間と、一次側巻線Lpとスイッチ2との間とに、サージ電圧の発生を抑制するRCDスナバ回路を介挿する。このRCDスナバ回路は、それぞれ一端が正極側ラインに接続されたスナバ抵抗4及びスナバコンデンサ5の並列回路と、これらスナバ抵抗4及びスナバコンデンサ5の他端にカソードが接続され、一次側巻線Lp及びスイッチ2間にアノードが接続されたスナバダイオード6とで構成する。
【0028】
高周波トランス1の二次側には、n個(nは2以上の整数)の二次側巻線Lsを設ける。そして、各二次側巻線Lsの一端に、それぞれ還流ダイオード7のアノードを接続し、この還流ダイオード7のカソードと二次側巻線Lsの他端との間に平滑コンデンサ8を接続する。また、平滑コンデンサ8と並列に負荷9を接続する。すなわち、二次側巻線Lsから出力される電圧を、平滑コンデンサ8で平滑して二次側出力電圧を出力し、これを負荷9に供給する。
【0029】
制御IC10は、一対の直流電源入力端子tdp及びtdnと、パルス幅変調信号出力端子tpとを備える。パルス幅変調信号出力端子tpは、スイッチ2のゲートに接続する。そして、直流電源入力端子tdpは降圧手段11を介して正極側ラインに接続し、直流電源入力端子tdnは負極側ラインに接続する。また、制御IC10と並列に平滑コンデンサ8aを接続する。
【0030】
つまり、本実施形態では、制御IC10の電力を、一次側の直流電源3から降圧手段11を介して供給することで、図5に示す従来装置のような制御IC専用の二次側出力を削除する。これは、制御IC10へ電力を供給する二次側巻線は、他の負荷9へ電力を供給する二次側巻線Lsとは異なり、一次側と絶縁する必要が無いために適用可能となるものである。
【0031】
ここで、降圧手段11としては、例えば、シリーズレギュレータを適用する。シリーズレギュレータでは内部抵抗がリニアに変化して所望の電圧を作り出すため、図5に示す従来装置のように還流ダイオード107dによる逆回復サージ電圧は無く、ノイズの発生を抑制することができる。
【0032】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
直流電源3から出力される直流電圧は、高周波トランス1の一次側巻線Lp及びスイッチ2の直列接続回路に入力される。
この状態で、スイッチ2のゲートに制御IC10からパルス幅変調(PWM)信号を供給することにより、高周波トランス1でエネルギーの蓄積及び放出を繰り返す。すなわち、スイッチ2がオン状態(導通状態)となると、高周波トランス1の一次側巻線Lpに直流電源電圧が印加する。そして、スイッチ2がオン状態を継続する間、高周波トランス1の一次側巻線Lpに流れる一次側電流が増加し、高周波トランス1にエネルギーが蓄積される。
【0033】
次に、スイッチ2をオフ状態(遮断状態)とすると、高周波トランス1の二次側に起電力が発生し、還流ダイオード7及び平滑コンデンサ8を介して二次側電流が流れる。そして、還流ダイオード7の導通によって平滑コンデンサ8の端子電圧が上記起電力と略等しくなり、この電圧は高周波トランス1の二次側電流を減少させる方向に作用する。このため、スイッチ2のオフ状態を継続している間に、高周波トランス1に蓄えられたエネルギーが平滑コンデンサ8に放出され、最終的に負荷9に供給される。
【0034】
以上のスイッチ2のオンオフ制御を繰り返すことにより、高周波トランス1の二次側巻線Lsに接続した負荷9にそれぞれ直流電力が供給される。
ところで、制御IC10の消費電力は、各負荷9に比べて1/10程度と非常に小さい。そのため、図5に示すように、制御IC110の電力を二次側出力の1つから供給する構成では、消費電力の小さい制御IC110につながる還流ダイオード107dでサージ電圧が生じ、高周波の伝導ノイズや放射ノイズが発生する。
【0035】
これに対して、本実施形態では、ノイズ源となる制御IC10専用の二次側出力を削除し、代わりに、制御IC10の電力を一次側の直流電源3から降圧手段11を介して供給する。そのため、スイッチング動作に応じて生じる逆回復サージ電圧を無くすことができ、上記ノイズの発生を低減することができる。したがって、ノイズ対策部品を付加する必要がなくなり、小型化及び低コスト化を実現することができる。
【0036】
(効果)
このように、上記第1の実施形態では、消費電力の小さい制御IC用に、一次側の直流電源から電力を供給する。そのため、制御IC専用の二次側巻線から電力を供給する場合と比較して、還流ダイオードの逆回復サージ電圧が発生するのを防止することができ、流出する高周波ノイズを抑制することができる。
また、このとき、制御ICの電力をシリーズレギュレータ等の降圧手段を介して供給するので、還流ダイオードの逆回復サージ電圧を無くしてノイズを抑制することができると共に、所望の電力を制御ICに供給することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、制御IC10の電力を、一次側の直流電源3から供給しているのに対し、二次側の消費電力の多い負荷9に電力を供給する平滑コンデンサ8から供給するようにしたものである。
【0038】
(構成)
図2は、本発明の第2の実施形態を示す回路図である。
この図2に示す多出力スイッチング電源装置は、制御IC10の電力を、消費電力の多い負荷が接続された二次側出力から供給するようにしたことを除いては、図1に示す多出力スイッチング電源装置と同様の構成を有する。そのため、ここでは構成の異なる部分を中心に説明する。
図2に示すように、高周波トランス1は、複数の二次側巻線Ls1〜Lsnを有する。ここで、二次側巻線Lsnの負極側ライン(二次側巻線Lsnのダイオード接続側とは反対側のライン)は、一次側の負極側ラインに接続されており、この二次側出力は一次側との絶縁が不要な構成となっている。また、二次側の各負荷のうち負荷9nの消費電力が最も大きいものとする。
【0039】
そこで、制御IC10の直流電源入力端子tdpを、降圧手段11を介して負荷9nに電力を供給する平滑コンデンサ8nの一端に接続し、直流電源入力端子tdnを平滑コンデンサ8nの他端に接続する。また、制御IC10と並列に平滑コンデンサ8aを接続する。
つまり、本実施形態では、制御IC10の電力を、負荷9nを接続した二次側巻線Lsnから降圧手段11を介して供給する。換言すると、消費電力の多い負荷9nへの電力供給と制御IC10への電力供給とを、共通の平滑コンデンサ8nから行う。
【0040】
ただし、このとき、制御IC10と兼用とする二次側出力には、一次側との絶縁が不要な出力でなければならない制約がある。
なお、制御IC10の駆動電圧と二次側出力電圧とがほぼ等しい場合には、降圧手段11としてシリーズレギュレータを適用する代わりに、ダイオードを適用することもできる。
【0041】
(動作)
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
スイッチ2のオンオフ制御を繰り返すことにより、高周波トランス1の二次側巻線Lsに接続した負荷9にそれぞれ直流電力を供給する基本動作については、上述した第1の実施形態と同様である。
本実施形態では、制御IC10に電力を、従来装置のように制御IC10専用の二次側出力(平滑コンデンサ8d)から供給する代わりに、消費電力の多い負荷9nに電力を供給する二次側出力(平滑コンデンサ8n)から降圧手段11を介して供給する。
【0042】
このように、消費電力の多い負荷9nと制御IC10とに、共通の平滑コンデンサ8nから電力を供給することで、制御IC10の消費電力が小さいことで生じる還流ダイオード7nの逆回復サージ電圧を抑制することができる。
また、降圧手段11として、シリーズレギュレータを用いる場合であっても、上述した第1の実施形態に比べると降圧比を大幅に小さくできることから、シリーズレギュレータの損失を減らすことができる。これは、シリーズレギュレータの変換ロスは、シリーズレギュレータの入力電圧と出力電圧との差に比例するためである。
【0043】
(効果)
このように、上記第2の実施形態では、制御IC用に、他の負荷に電力を供給している平滑コンデンサから電力を供給するため、制御ICの消費電力が小さいことで発生する還流ダイオードの逆回復サージ電圧を抑制することができる。その結果、流出する高周波ノイズを抑制することができる。
また、制御ICの電力をシリーズレギュレータ等の降圧手段を介して供給するので、還流ダイオードの逆回復サージ電圧を無くしてノイズを抑制することができると共に、所望の電力を制御ICに供給することができる。このとき、制御ICの駆動電圧に近い二次側出力電圧を選択すれば、シリーズレギュレータの損失をより低減することができる。
【0044】
(変形例)
なお、上記第2の実施形態においては、一次側との絶縁が不要な出力が存在しない場合には、図2の負荷9nを、単純に損失を発生させるためだけの負荷抵抗とし、制御IC10専用の出力としてもよい。
【0045】
すなわち、図3に示すように、制御IC10の直流電源入力端子tdpを、平滑コンデンサ8nの一端に接続し、直流電源入力端子tdnを平滑コンデンサ8nの他端に接続する。そして、図2における負荷9nの代わりに、平滑コンデンサ8nと並列に負荷抵抗12を接続する。ここで、負荷抵抗12の大きさは、制御IC10の消費電力の10倍程度を目安として決定する。なお、図2における降圧手段11及び平滑コンデンサ8aは削除する。
【0046】
このように、負荷9nを負荷抵抗12として、二次側巻線の一つであるLsnを制御IC専用の出力とすることで、他の出力との絶縁性能を損ねることが無い。
なお、先にも示したとおり、制御IC10の起動時には直流電源3から電力を供給する必要があり、その場合、分圧抵抗により分圧させて、制御IC10の駆動電圧を作るのが一般的である。負荷抵抗12がある場合、分圧抵抗と負荷抵抗12で分圧させるため、負荷抵抗12の損失が増加すると分圧抵抗の損失も増加する。ただし、前記のシリーズレギュレータが不要になること(電圧を巻き数比で調節できるため)、及び分圧抵抗による損失は起動の瞬間だけであることから、第1の実施形態と比べると全体の損失を低減することができる。
【0047】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、制御IC10専用の二次側出力を設けると共に、その二次側巻線にリアクトルを接続するようにしたものである。
【0048】
(構成)
図4は、本発明の第3の実施形態を示す回路図である。
この図4に示す多出力スイッチング電源装置は、負荷抵抗12を削除しリアクトル13を取り付けたことを除いては、図3に示す多出力スイッチング電源装置と同様の構成を有する。そのため、ここでは構成の異なる部分を中心に説明する。
すなわち、図4に示すように、制御IC10専用の平滑コンデンサ8nから制御IC10に電力を供給するものとする。このとき、二次側巻線Lsnと直列にリアクトル13を接続する。これは、制御IC10に電力を供給する二次側巻線Lsnの漏れインダクタンスを増加することと等価である。
したがって、ここでは二次側巻線Lsnと直列にリアクトル13を接続しているが、二次側巻線Lsnを、漏れインダクタンスが大きくなるように設計することでも対応可能である。
【0049】
(動作)
次に、第3の実施形態の動作について説明する。
スイッチ2のオンオフ制御を繰り返すことにより、高周波トランス1の二次側巻線Lsに接続した負荷9にそれぞれ直流電力を供給する基本動作については、上述した第1の実施形態と同様である。
本実施形態では、制御IC10に電力を、従来装置と同様に制御IC10専用の二次側出力(ここでは平滑コンデンサ8n)から供給する。ただし、その際、二次側巻線Lsnの漏れインダクタンスを増加して他の二次側巻線の漏れインダクタンスより大きくするために、二次側巻線Lsnと直列にリアクトル13を接続する。
【0050】
上記(1)及び(2)式に示すように、ターンオフ直後の電流は、漏れインダクタンスの小さい出力へ多くの電流が転流する特性があることから、二次側巻線Lsnの漏れインダクタンスを増加することで、ターンオフ直後に二次側巻線Lsnに分流する電流を減少させることができる。
また、上記(3)及び(4)式に示すように、ターンオフ時の二次側の電流の傾きは、漏れインダクタンスが小さい方が大きくなる特性があることから、二次側巻線Lsnの漏れインダクタンスを増加することで、ターンオフ中に減少する二次側巻線Lsnの電流の傾きを小さくすることができる。
【0051】
したがって、制御IC10の電力を、漏れインダクタンスが他の二次側巻線の漏れインダクタンスより大きい二次側巻線から供給することにより、制御IC10の消費電力が小さいことで発生する還流ダイオード7nの逆回復サージ電圧を抑制することができる。
【0052】
(効果)
このように、上記第3の実施形態では、制御ICに電力を供給する二次側巻線の漏れインダクタンスを増加することができるので、平滑コンデンサを充電する際の電流変化を遅くし、還流ダイオードの逆回復サージ電圧を抑制することができる。その結果、流出する高周波ノイズを抑制することができる。
【0053】
また、制御ICに電力を供給する二次側巻線に直列にリアクトルを接続するので、簡易な構成で当該二次側巻線の漏れインダクタンスを増加することができる。また、リアクトル自体では損失が無いため、シリーズレギュレータや負荷抵抗等を用いる場合と比べて高効率化を望める。
【符号の説明】
【0054】
1…高周波トランス、2…スイッチ、3…直流電源、4…スナバ抵抗、5…スナバコンデンサ、6…スナバダイオード、7…還流ダイオード、8…平滑コンデンサ、9…負荷、10…制御IC(制御回路)、11…降圧手段(シリーズレギュレータ)、12…負荷抵抗、13…リアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、
前記制御回路の電力を、前記直流電源から供給することを特徴とする多出力スイッチング電源装置。
【請求項2】
一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、
前記制御回路の電力を、前記負荷を接続した二次側巻線から供給することを特徴とする多出力スイッチング電源装置。
【請求項3】
一次側巻線と複数個の二次側巻線とを有するトランスと、前記一次側巻線を励磁するための直流電源と、当該直流電源により前記一次側巻線に流れる励磁電流をスイッチング制御するスイッチング素子と、該スイッチング素子を駆動制御する制御回路と、を備え、前記二次側巻線から複数個の負荷に電力を供給する多出力スイッチング電源装置であって、
前記制御回路の電力を、漏れインダクタンスが他の二次側巻線の漏れインダクタンスより大きい二次側巻線から供給することを特徴とする多出力スイッチング電源装置。
【請求項4】
前記制御回路に電力を供給する前記二次側巻線と直列に、リアクトルが接続されていることを特徴とする請求項3に記載の多出力スイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−61953(P2011−61953A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208137(P2009−208137)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】