説明

多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効評価方法、疾患予測方法及び多型検出用試薬キット

【課題】ABCG2遺伝子の多型検出用プローブを提供する。
【解決手段】ABCG2遺伝子の多型検出用プローブを、特定な配列からなる塩基配列において301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的で且つ少なくとも80%以上の同一性を有し311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド等を含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多型検出用プローブ、多型検出方法、薬効評価方法、疾患予測方法及び多型検出用試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高尿酸血症の治療標的分子としては、尿酸の再吸収トランスポーターであるUrateトランスポーター(URAT1/SLC22A12)や、グルコーストランスポーター9(GLIT9/SLC22A12)が知られていた。
近年、BCRP(breast cancer resistance protein)とも呼ばれているABCG2(ATP-binding cassette sub-family G member 2)遺伝子が、高容量性の排尿トランスポーターをコードしていることが明らかになった。
【0003】
また、ABCG2遺伝子の多型の存在が、痛風の発症リスクの増加に関連することが示唆され、ABCG2遺伝子は痛風の主要な病因遺伝子であることが明らかになった(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
さらに、ABCG2遺伝子の多型の存在が、胎盤におけるタンパク発現異常と関連があることも示唆されており(例えば、非特許文献2参照)、ABCG2遺伝子の多型を短時間に低コストで簡便に測定する方法が待ち望まれている。
【0005】
遺伝子の多型を測定する方法としては、測定したい塩基を含む部分を増幅するよう設計されたプライマーを用いてPCRを行い、当該特定塩基における変異の有無で切断の有無が分かれるような制限酵素で切断し、その後電気泳動で切断されたかどうかを検出するという方法(PCR−RFLP法)が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
また、変異を含む領域をPCR法で増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて塩基配列の変異を解析する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、PCR−RFLP法では、PCR反応後に増幅産物を取り出して制限酵素処理を行う必要がある。そのため、増幅産物が次の反応系に混入する恐れがあり、これに起因して偽陽性、偽陰性の結果が得られてしまう場合がある。また、PCR終了後、制限酵素で処理を行い、その後電気泳動を行うため、検出までに必要な時間も非常に長くなってしまう場合がある。さらに、操作が複雑なため、自動化が困難である。
そのため、ABCG2遺伝子多型検出のためのさらなる技術開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−119291号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】実験医学 2010年、第28巻、第8号、p.1285−1289
【非特許文献2】Drug.Metab.Dispos.,2005年、第33巻、第1号、p.94−101
【非特許文献3】Genet.Mol.Res.、2010年、第9巻、第1号、p.34−40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ABCG2遺伝子の多型を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いる多型検出方法を提供することを課題とする。また、本発明は、当該検出方法を用いた薬効評価方法や疾患予測方法を提供することを課題とする。さらに本発明は、当該検出用プローブを用いた多型検出用試薬キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むABCG2遺伝子の多型検出用プローブ。
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2’)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P3)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P3’)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
<2> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された311番目の塩基が、5’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置し、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された251番目の塩基が、5’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置し、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された152番目の塩基が、3’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置する<1>記載の多型検出用プローブ。
<3> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された311番目の塩基が、5’末端に位置し、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された251番目の塩基が5’末端に位置し、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された152番目の塩基が3’末端に位置する<1>又は<2>に記載のABCG2遺伝子の多型検出用プローブ。
<4> 前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少又は増加する、<1>〜<3>のいずれか記載の多型検出用プローブ。
<5> 前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する、<1>〜<4>のいずれか記載の多型検出用プローブ。
<6> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が11〜40であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が18〜40であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜40である、<1>〜<5>のいずれか記載の多型検出用プローブ。
<7> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が11〜28であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が20〜30であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が15〜30である、<1>〜<6>のいずれかに記載の多型検出用プローブ。
<8> 前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が14〜18であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が22〜26であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が18〜22である、<1>〜<7>のいずれか記載の多型検出用プローブ。
<9> 融解曲線分析用のプローブである、<1>〜<8>のいずれか記載の多型検出用プローブ。
<10> <1>〜<9>のいずれか記載の多型検出用プローブを用いるABCG2遺伝子の多型検出方法。
<11> <1>〜<9>のいずれか記載の前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる少なくとも2種の多型検出用プローブを用いる<10>記載の多型検出方法。
<12> (I)<1>〜<9>のいずれか記載の多型検出用プローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定することと、(IV)前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、ABCG2遺伝子における多型の存在を検出することと、を含む、<10>又は<11>記載の多型検出方法。
<13> さらに、前記(I)のハイブリッドを得る前または前記(I)ハイブリッドを得ることと同時に核酸を増幅することを含む、<12>記載の多型検出方法。
<14> <10>〜<13>のいずれか記載の多型検出方法により、ABCG2遺伝子における多型を検出することと、検出された多型の有無に基づいて、薬剤に対する耐性または薬剤の薬効を判定することと、を含む、薬剤の薬効判定方法。
<15> <10>〜<13>のいずれか記載の多型検出方法により、ABCG2遺伝子の多型を検出することと、検出された多型の有無に基づいて、疾患の罹患リスクを予測する疾患予測方法。
<16> <1>〜<9>のいずれか記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用試薬キット。
<17> 配列番号1に示す塩基配列において、前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセット、配列番号2に示す塩基配列において、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセット、又は配列番号3に示す塩基配列において、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットのいずれかのプライマーセットの少なくとも一つをさらに含む、<16>記載の多型検出用試薬キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ABCG2遺伝子の多型を、高い感度で、簡便に検出することを可能にする多型検出用プローブ、これを用いる多型検出方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該検出方法を用いた薬効評価方法や疾患予測方法を提供することができる。さらに本発明によれば、当該検出用プローブを用いた多型検出用試薬キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)核酸混合物の融解曲線、及び(B)微分融解曲線の一例を示す図である。
【図2】(A)及び(B)は、本発明の実施例1−1にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図3】本発明の実施例1−2にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図4】(A)〜(H)は、本発明の実施例2にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図5】(A)〜(C)は、本発明の実施例3にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図6】(A)〜(C)は、本発明の実施例4にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図7】(A)〜(C)は、本発明の実施例4にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図8】(A)及び(B)は、本発明の比較例1にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図9】本発明の比較例1にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図10】(A)〜(H)は、本発明の比較例2にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【図11】(A)〜(C)は、本発明の比較例3にかかる多型検出用プローブを用いて得られた融解曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のプローブは、P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むABCG2遺伝子の多型検出用プローブである。
【0015】
本発明によれば、ABCG2遺伝子の多型を高い感度で簡便に検出することができる。
【0016】
ABCG2遺伝子の塩基配列は、GeneID:9429、GenBankアクセッションNo.000004(バージョン:000004.11)に該当する配列のうち89011415番目の塩基〜89080010番目の塩基の配列に相当する。本明細書では、当該89011415番目の塩基〜89080010番目の塩基の配列を「ABCG2遺伝子の塩基配列」とする。
【0017】
本明細書において、検出対象である試料中の一本鎖核酸、多型検出用プローブ又はプライマーは個々の配列に関して、これら互いの相補的な関係に基づいて記述された事項は、特に断らない限り、それぞれの配列と、各配列に対して相補的な配列とについても適用される。各配列に対して相補的な当該配列について本発明の事項を適用する際には、当該相補的な配列が認識する配列は、当業者にとっての技術常識の範囲内で、対応する本明細書に記載された配列に相補的な配列に、明細書全体を読み替えるものとする。
【0018】
本明細書において、「Tm値」とは、二本鎖核酸が解離する温度(解離温度:Tm)であって、一般に、260nmにおける吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。即ち、二本鎖核酸、例えば、二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。Tm値は、この現象に基づき設定される。
本発明において、オリゴヌクレオチドの配列に関して「3’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の3’末端を1番目として数える。同様に「5’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の5’末端を1番目として数える。
【0019】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0020】
<多型検出用プローブ>
本発明の多型検出用プローブ(以下、単に「プローブ」ともいう)は、下記、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチド(以下、単に「蛍光標識オリゴヌクレオチド」ともいう)を含む。
【0021】
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2’)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P3)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P3’)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【0022】
かかる特定の蛍光標識オリゴヌクレオチドの少なくとも1種を含むことで、ABCG2遺伝子の多型を高い感度で、簡便に検出することができる。
【0023】
配列番号1に示す塩基配列は、ABCG2遺伝子の塩基配列の一部であって、ABCG2遺伝子の1番目〜68595番目の塩基のうち、18597番目〜19196番目の601塩基に対応するものである。
ABCG遺伝子の野生型では、配列番号1に示す塩基配列の301番目に対応する塩基は、G(グアニン)であるが、変異型においてはA(アデニン)に変異している。
また、野生型のABCG2遺伝子では、ABCG2トランスポーターのアミノ酸配列のうち、12番目のアミノ酸はバリン(Val)であるが、変異型のABCG2遺伝子では、メチオニン(Met)である(以下、「V12M変異」と称する。)。
【0024】
また前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいて、「311番目の塩基に対応する塩基」とは、配列番号1に示す塩基配列における311番目の塩基G(グアニン)に対する相補的な塩基C(シトシン)である。
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された相補的な塩基Cが5’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することができる。また、5’末端に存在することができる。これにより、例えば、多型検出感度がより向上する。また、P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドを生産性よく得ることができる。
【0025】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列の301番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。この塩基は、野生型であればG、変異型ではAである。
【0026】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長は11〜50であることを要する。塩基長が10以下や、51以上である場合には、ABCG2遺伝子多型の検出感度が低下する。また、前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長としては、多型検出感度の観点より、11〜40、11〜28、又は14〜18としうる。
また前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、例えばP1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがその相補鎖(標的配列)と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を、所望の値に調整することができる。
【0027】
本発明の前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、311番目の塩基がグアニンである以外は、配列番号1に示す塩基配列に相補的な配列に対して相同性を有する。
具体的には、本発明の前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列に対して、80%以上の同一性を示す。
【0028】
また、検出感度の観点より、85%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、96%以上の同一性、97%以上の同一性、98%以上の同一性又は99%以上の同一性を示してもよい。
本発明の前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、配列番号1に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1に相補的な配列とを比較した際の同一性が80%未満である場合には、変異型のABCG2遺伝子を含む試料核酸に対する検出感度が低くなる。
【0029】
本発明の前記P1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、311番目の塩基がグアニンである以外は、配列番号1と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0030】
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001) に記載の方法等に従って行うことができる。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。典型的なストリンジェントな条件とは、例えば、カリウム濃度は約25mM〜約50mM、及びマグネシウム濃度は約1.0mM〜約5.0mM中において、ハイブリダイゼーションを行う条件があげられる。本発明の条件の1例としてTris−HCl(pH8.6)、25mMのKCl、及び1.5mMのMgCl中においてハイブリダイゼーションを行う条件が、挙げられるが、これに限定されるものではない。その他、ストリンジェントな条件としては、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載されている。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。当業者は、ハイブリダイゼーション反応や、ハイブリダイゼーション反応液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。
【0031】
以下に本発明におけるP1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表1に示すが、本発明はこれらに限定されない。
なお、表1では、配列番号1の301番目の塩基に対応する塩基を大文字で表記し、当該配列番号1の301番目の塩基に対応する塩基がC、T、A又はGの場合であるオリゴヌクレオチドと、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を合わせて示した。
ここでTm値は、Meltcalc 99 free(http://www.meltcalc.com/)を用い、設定条件:Oligoconc[μM]0.2、Na eq.[mM]50の条件で算出した。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明において、P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズした場合のTm値(表1におけるTm(mt(A)))と、配列番号1の301番目の塩基に対応する塩基のみが非相補的なDNAとハイブリダイズした場合のTm値(表1におけるTm(WT(G)))との差は、例えば1.0℃以上、2.0℃以上、又は3.0℃以上等にすることができる。前記Tm値の差が4.0℃以上であることで、例えば、配列番号1における301番目の塩基の変異をより高感度に検出することができる。
【0034】
配列番号2に示す塩基配列は、ABCG2遺伝子の塩基配列の一部であって、ABCG2遺伝子の1番目〜68595番目の塩基のうち26821番目〜27300番目の480塩基に対応するものである。
ABCG2遺伝子の野生型では、配列番号2に示す塩基配列の234番目に対応する塩基は、C(シトシン)であるが、変異型においてはT(チミン)に変異している。
また、野生型のABCG2遺伝子では、ABCG2トランスポーターのアミノ酸配列のうち、126番目のアミノ酸はグルタミン(Gln)であるが、変異型のABCG2遺伝子では、終止コドン(X)である(以下、「Q126X変異」と称する。)。
【0035】
また前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいて、「251番目の塩基に対応する塩基」とは、配列番号2に示す塩基配列における251番目の塩基G(グアニン)に対する相補的な塩基C(シトシン)である。
前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された相補的な塩基Cが5’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することができる。また、5’末端に存在することができる。これにより、例えば、多型検出感度がより向上する。また、P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドを生産性よく得ることができる。
【0036】
前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列の234番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。この塩基は、野生型であればC、変異型ではTである。
【0037】
前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長は18〜50であることを要する。前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が、17以下や、51以上である場合には、多型検出感度が低下する。また、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長は、多型検出感度の観点より、18〜40、20〜30、又は22〜26としうる
また前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、例えばP2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがその標的配列と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を、所望の値に調整することができる。
【0038】
本発明の前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、251番目の塩基がグアニンである以外は、配列番号2に示す塩基配列に相補的な配列に対して相同性を有する。
具体的には、本発明の前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列に対して、80%以上の同一性を示す。
【0039】
また、検出感度の観点より、85%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、96%以上の同一性、97%以上の同一性、98%以上の同一性又は99%以上の同一性を示してもよい。
本発明の前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、配列番号2に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2に相補的な配列とを比較した際の同一性が80%未満である場合には、変異型のABCG2遺伝子を含む試料核酸に対する検出感度が低くなる。
【0040】
本発明の前記P2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。なお、ハイブリダイゼーションを行う方法、及びストリンジェントな条件については、前記P1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドと同様の方法、及び同様の条件で行えばよい。
【0041】
以下に本発明におけるP2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表2に示すが、本発明はこれらに限定されない。
なお、表2では、配列番号2の234番目の塩基に対応する塩基を、下線を付した大文字で表記し、当該配列番号2の234番目の塩基に対応する塩基がA、G、T又はCの場合であるオリゴヌクレオチドと、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を合わせて示した。Tm値は、上記と同様にして算出した。また、下線を付していない大文字で表記された塩基は、配列番号2の245番目のWに対応する塩基を示す。
【0042】
【表2】

【0043】
本発明において、P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが相補的な塩基配列を有するDNAとハイブリダイズした場合のTm値(表2におけるTm(mt(T)))と、配列番号2における234番目の塩基に対応する塩基のみが非相補的なオリゴヌクレオチドとハイブリダイズした場合のTm値(表2におけるTm(WT(C)))との差は、1.0℃以上、2.0℃以上、3.0℃以上にすることができる。前記Tm値の差が4.0℃以上であることで、例えば、配列番号2における234番目の塩基の変異をより高感度に検出することができる。
【0044】
配列番号3に示す塩基配列は、ABCG2遺伝子の塩基配列の一部であって、ABCG2遺伝子の1番目〜68595番目の塩基のうち27528番目〜27868番目の341塩基に対応するものである。
ABCG2遺伝子の野生型では、配列番号3に示す塩基配列の161番目に対応する塩基は、C(シトシン)であるが、変異型においてはA(アデニン)に変異している。
また、野生型のABCG2遺伝子では、ABCG2トランスポーターのアミノ酸配列のうち、141番目アミノ酸はグルタミン(Gln)であるが、変異型のABCG2遺伝子では、リシン(Lys)である(以下、「Q141K変異」と称する。)。
【0045】
また前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいて、「152番目の塩基に対応する塩基」とは、配列番号3に示す塩基配列における152番目の塩基G(グアニン)に対する相補的な塩基C(シトシン)である。
前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおいては、この蛍光標識された相補的な塩基Cが3’末端から数えて1〜3番目のいずれかの位置に存在することができる。また、3’末端に存在することができる。これにより、例えば、多型検出感度がより向上する。また、P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドを生産性よく得ることができる。
【0046】
前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列の161番目の塩基における多型を検出することができるプローブである。この塩基は、野生型であればC、変異型ではAである。
【0047】
前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長は10〜50であることを要する。前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長は10〜40、15〜30、又は18〜22としうる。この範囲の塩基長により、例えば、多型検出感度がより向上する。
また前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長を変化させることで、例えばP3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがその標的配列と形成するハイブリッドの解離温度であるTm値を、所望の値に調整することができる。
【0048】
本発明の前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、152番目の塩基がグアニンである以外は、配列番号3に示す塩基配列に相補的な配列に対して相同性を有する。
具体的には、本発明の前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列に対して、80%以上の同一性を示す。
【0049】
また、検出感度の観点より、85%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、96%以上の同一性、97%以上の同一性、98%以上の同一性又は99%以上の同一性を示してもよい。
本発明の前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、配列番号3に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3に相補的な配列とを比較した際の同一性が80%未満である場合には、変異型のABCG2遺伝子を含む試料核酸に対する検出感度が低くなる。
【0050】
本発明の前記P3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。なお、ハイブリダイゼーションを行う方法、及びストリンジェントな条件については、前記P1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドと同様の方法、及び同様の条件で行えばよい。
【0051】
以下に本発明におけるP3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドにおける塩基配列の一例を表3に示すが、本発明はこれらに限定されない。
なお、表3では、配列番号3の161番目の塩基に対応する塩基を大文字で表記し、当該配列番号3の161番目に対応する塩基がT、G及びA、Cの場合であるオリゴヌクレオチドと、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドのTm値を合わせて示した。Tm値は、上記と同様にして算出した。
【0052】
【表3】

【0053】
本発明において、P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドが相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズした場合のTm値(表3におけるTm(mt(A)))と、配列番号3における161番目の塩基に対応する塩基のみが非相補的なDNAとハイブリダイズした場合のTm値(表3におけるTm(WT(C)))との差は、例えば1.0℃以上、2.0℃以上、又は3.0℃以上等にすることができる。前記Tm値の差が4.0℃以上であることで、例えば、配列番号3における161番目の塩基の変異をより高感度に検出することができる。
【0054】
本発明における前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’のいずれかの蛍光標識オリゴヌクレオチドに塩基が挿入、欠失又は置換した蛍光標識オリゴヌクレオチドも包含される。
当該塩基が挿入、欠失又は置換した蛍光標識オリゴヌクレオチドは、前記P1〜P3のいずれかの蛍光標識オリゴヌクレオチドと同等程度の作用を示せばよく、塩基が挿入、欠失又は置換されている場合、その挿入、欠失又は置換の位置は、特に限定されない。挿入、欠失又は置換した塩基の数としては1塩基又は2塩基以上が挙げられ、例えば1塩基から10塩基、1塩基から5塩基等が挙げられる。
【0055】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)するかまたは増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドとすることができる。その中でも標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する蛍光標識オリゴヌクレオチドとすることができる。このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般的に、グアニン消光プローブと呼ばれており、いわゆるQ Probeとして知られている。中でも、オリゴヌクレオチドを3'末端もしくは5'末端がCとなるように設計し、その末端のCが、Gに近づくと発光が弱くなるように蛍光色素で標識化されたオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0056】
なお、Q Probeを用いた検出方法以外にも、公知の検出様式を適用してもよい。このような検出様式としては、Taq−man Probe法、Hybridization Probe法、Moleculer Beacon法又はMGB Probe法などを挙げることができる。
【0057】
前記蛍光色素としては、特に制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等があげられる。これらの蛍光色素の市販品としては、例えば、Pacific Blue、BODIPY FL、FluorePrime、Fluoredite、FAM、Cy3およびCy5、TAMRA等が挙げられる。
蛍光標識オリゴヌクレオチドの検出条件は特に制限されず、使用する蛍光色素により適宜決定できる。例えば、Pacific Blueは、検出波長445nm〜480nm、TAMRAは、検出波長585nm〜700nm、BODIPY FLは、検出波長520nm〜555nmで検出できる。
このような蛍光色素を有するプローブを使用すれば、それぞれの蛍光シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合は、通常の方法、例えば特開2002−119291号公報等に記載の方法に従って行うことができる。
【0058】
また前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、例えば、3'末端にリン酸基が付加されてもよい。蛍光標識オリゴヌクレオチドの3'末端にリン酸基を付加させておくことにより、プローブ自体が遺伝子増幅反応によって伸長することを十分に抑制できる。後述するように、変異の有無を検出するDNA(標的DNA)は、PCR等の遺伝子増幅法によって調製することができる。その際、3'末端にリン酸基が付加された蛍光標識オリゴヌクレオチドを用いることで、これを増幅反応の反応液中に共存させることができる。
すなわち、蛍光標識オリゴヌクレオチドの3'末端にリン酸基を付加させておくことで、プローブ自体が遺伝子増幅反応によって伸長することを十分に抑制できる。また、3'末端に前述のような標識化物質(蛍光色素)を付加することによっても、同様の効果が得られる。
【0059】
上記塩基配列を有し、5’末端または3’末端のCが蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの具体例を以下に示す(大文字の塩基は変異点を示し、Pはリン酸基を示す。また、Pacific Blue、FL及びTAMRAは、それぞれ前記蛍光色素を示す。)。ただし、本発明における蛍光標識オリゴヌクレオチドは以下のものに限定されない。
【0060】
【表4】

【0061】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドはABCG2遺伝子における多型、特にV12M変異、Q126X変異又はQ141K変異を検出する多型検出用プローブとして使用することができる。
また、ABCG2遺伝子多型検出用プローブは、融解曲線分析用のプローブとして使用することができる。
【0062】
なお、本発明に係る前記P1〜P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成方法として知られている公知の方法、例えば特開2002−119291号公報等に記載の方法に従って作製することができる。
【0063】
<多型検出方法>
多型の検出方法は、前記蛍光標識ヌクレオチドを用いてABCG2遺伝子の多型を検出する方法であれば、特に制限されない。前記蛍光標識ヌクレオチドを用いる多型検出方法の一例として、Tm解析を利用した多型検出方法について、以下に説明する。
【0064】
本発明の多型検出方法は、ABCG2遺伝子における多型の検出方法であって、下記工程(I)〜(IV)を含むことを特徴とする。なお、本発明の多型検出方法は、前記蛍光検出用プローブを使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、以下の記載に制限されない。
(I)前記多型検出用プローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズしてハイブリッドを得ること。
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること。
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定すること。
(IV)前記Tm値に基づいて、ABCG2遺伝子における多型の存在を検出すること。
【0065】
また、本発明にかかる検出方法は、上記工程(I)〜(IV)の他に、下記工程(V)を含んでいてもよい。
(V)前記多型の存在に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、多型を有する一本鎖核酸の存在比を検出すること。
また、本発明においては、上記工程(I)〜(IV)又は上記工程(I)〜(V)に加えて、さらに、工程(I)のハイブリッドを得る前又は工程(I)のハイブリッドを得ることと同時に、核酸を増幅することを含んでいてもよい。
【0066】
なお、(III)でTm値を測定することには、ハイブリッドの解離温度を評価することだけでなく、ハイブリット形成体の融解時に温度に応じて変動する蛍光シグナルの微分値の大きさを評価することを含む。微分値の大きさにより、多型を有する塩基配列(DNA)の存在比を評価することができる。
【0067】
本発明において、試料中の核酸は、一本鎖核酸でもよいし二本鎖核酸であってもよい。前記核酸が二本鎖核酸の場合は、例えば、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることに先立って、加熱により前記試料中の二本鎖核酸を融解(解離)させて一本鎖核酸とすることができる。二本鎖核酸を一本鎖核酸に解離することによって、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズが可能となる。
【0068】
本発明において、検出対象である試料に含まれる核酸は、例えば、生体試料に元来含まれる核酸でもよいが、検出精度が向上できることから、生体試料に元来含まれている核酸を鋳型としてPCR等によりABCG2遺伝子の変異した部位を含む領域を増幅させた増幅産物であることが挙げられる。増幅産物の長さは、特に制限されないが、例えば、50mer〜1000mer、又は80mer〜200merにすることができる。また、試料中の核酸は、例えば、生体試料由来のRNA(トータルRNA、mRNA等)からRT−PCR(Reverse Transcription PCR)により合成したcDNAであってもよい。
【0069】
本発明において、前記試料中の核酸に対する、本発明の多型検出用プローブの添加割合(モル比)は特に制限されない。試料中のDNAに対して例えば1倍以下が挙げられる。また、十分な検出シグナル確保の観点より、前記試料中の核酸に対する、本発明の多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、0.1倍以下としうる。
ここで、試料中の核酸とは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象核酸と前記多型が発生していない非検出対象核酸との合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。なお、試料中の核酸における前記検出対象核酸の割合は、通常、不明であるが、結果的に、前記多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して10倍以下としうる。また、前記多型検出用プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して、5倍以下、又は3倍以下としうる。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.001倍以上、0.01倍以上、又は0.1倍以上としうる。
【0070】
前記DNAに対する本発明のプローブの添加割合は、例えば、二本鎖核酸に対するモル比でもよいし、一本鎖核酸に対するモル比でもよい。
【0071】
本発明において、Tm値を決定するための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から260nmの吸光度測定により行うこともできるが、前記多型検出用プローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであって、一本鎖DNAと前記多型検出用プローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルを測定することができる。このため、前記多型検出用プローブとして、前述の蛍光標識オリゴヌクレオチドを使用することができる。前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとしては、例えば、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチド、または標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドが挙げられる。
前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成している際には蛍光シグナルを示さないか、蛍光シグナルが弱いが、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルを示すようになるか、蛍光シグナルが増加する。
また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成することによって蛍光シグナルを示し、加熱によりプローブが解離すると蛍光シグナルが減少(消失)する。したがって、この蛍光標識に基づく蛍光シグナルの変化を蛍光標識特有の条件(蛍光波長等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定を行うことができる。
【0072】
次に、本発明の多型検出方法について、蛍光色素に基づくシグナルの変化を検出する方法について具体的例を挙げて説明する。なお、本発明の多型検出方法は、前記多型検出用プローブを使用すること自体が特徴であり、その他の工程や条件については何ら制限されない。
【0073】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸を含む試料としては、核酸、特にABCG2遺伝子を含んでいればよく、特に制限されない。例えば、大腸や肺等の組織、白血球細胞等の血球、全血、血漿、喀痰、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、尿、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものを挙げられる。なお、試料の採取方法、核酸を含む試料の調製方法等は、制限されず、いずれも従来公知の方法が採用できる。また、鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、あるいは該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。
例えば、全血を試料とする場合、全血からのゲノムDNAの単離は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、市販のゲノムDNA単離キット(商品名GFX Genomic Blood DNA Purification kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等が使用できる。
【0074】
以下に本発明の多型検出方法において使用できる一本鎖核酸の塩基配列の例を示す。なお、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0075】
前記配列番号1に示す塩基配列の301番目の塩基における多型を検出するための一本鎖核酸としては、以下の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1種の一本鎖核酸を用いることができる。
【0076】
【表5】

【0077】
さらに、前記配列番号2に示す塩基配列の234番目の塩基における多型を検出するための一本鎖核酸としては、以下の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1種の一本鎖核酸を用いることができる。
【0078】
【表6】

【0079】
さらに、前記配列番号3に示す塩基配列の161番目の塩基における多型を検出するための一本鎖核酸としては、以下の塩基配列からなる群から選択される少なくとも1種の一本鎖核酸を用いることができる。
【0080】
【表7】

【0081】
次に、単離したゲノムDNAを含む試料に、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む多型検出用プローブを添加する。
前記多型検出用プローブは、単離したゲノムDNAを含む液体試料に添加してもよいし、適当な溶媒中でゲノムDNAと混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl、MgSO、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものが挙げられる。
【0082】
前記多型検出用プローブの添加のタイミングは、特に制限されず、例えば、後述するPCR等の増幅処理を行う場合、増幅処理の後に、PCR増幅産物に対して添加してもよいし、増幅処理前に添加してもよい。
このようにPCR等による増幅処理前に前記検出用プローブを添加する場合は、例えば、前述のように、その3'末端に、蛍光色素を付加したり、リン酸基を付加したりすることができる。
【0083】
核酸増幅の方法としては、例えばポリメラーゼを用いる方法等が挙げられる。その例としては、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、本発明プローブの存在下で増幅を行うことができる。用いるプローブ及びポリメラーゼに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTm値を解析するだけで多型を評価できるので、反応終了後増幅産物を取り扱う必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要がなく、自動化も容易である。
【0084】
またPCR法に用いるDNAポリメラーゼとしては、通常用いられるDNAポリメラーゼを特に制限なく用いることができる。例えば、GeneTaq(ニッポンジーン社製)、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、Taq ポリメラーゼ等を挙げることができる。
ポリメラーゼの使用量としては、通常用いられている濃度であれば特に制限はない。例えば、Taqポリメラーゼを用いる場合、例えば、反応溶液量50μlに対して0.01U〜100Uの濃度とすることができる。これにより、ABCG2遺伝子多型の検出感度が高まるなどの傾向がある。
【0085】
またPCR法は、通常用いられる条件を適宜選択することで行うことができる。
なお、増幅の際、リアルタイムPCRによって増幅をモニタリングし、試料に含まれるDNA(検出対象配列)のコピー数を調べることもできる。すなわち、PCRによるDNA(検出対象配列)の増幅に従ってハイブリッドを形成するプローブの割合が増えるので蛍光強度が変動する。これをモニタリングすることで、試料に含まれる検出対象配列(正常DNAまたは変異DNA)のコピー数や存在比を検出することができる。
【0086】
本発明の多形検出方法においては、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドと、試料中の一本鎖核酸とを接触させて、両者をハイブリダイズさせる。試料中の一本鎖核酸は、例えば、上記のようにして得られたPCR増幅産物を解離することで調製することができる。
【0087】
前記PCR増幅産物の解離(解離工程)における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されない。例えば、85℃〜95℃である。加熱時間も特に制限されない。加熱時間は、例えば1秒〜10分、又は1秒〜5分としうる。
【0088】
また、解離した一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリダイズは、例えば、前記解離工程の後、前記解離工程における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、40℃〜50℃である。
【0089】
ハイブリダイズ工程の反応液における各組成の体積や濃度は、特に制限されない。具体例としては、前記反応液におけるDNAの濃度は、例えば、0.01μM〜1μM、又は0.1μM〜0.5μMとしうる。前記蛍光標識オリゴヌクレオチドの濃度は、例えば、前記DNAに対する添加割合を満たす範囲であり、例えば、0.001μM〜10μM、又は0.001μM〜1μMとしうる。
【0090】
そして、得られた前記一本鎖DNAと前記蛍光標識オリゴヌクレオチドとのハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光シグナルの変動を測定する。例えば、Q Probeを使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、解離した状態に比べて蛍光強度が減少(または消光)する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0091】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃、又は25℃〜70℃としうる。終了温度は、例えば、40℃〜105℃としうる。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.1℃/秒〜20℃/秒、又は0.3℃/秒〜5℃/秒としうる。
【0092】
次に、前記シグナルの変動を解析してTm値として決定する。具体的には、得られた蛍光強度から各温度における微分値(−d蛍光強度/dt)を算出し、最も低い値を示す温度をTm値として決定できる。また、単位時間当たりの蛍光強度増加量(蛍光強度増加量/t)が最も高い点をTm値として決定することもできる。なお、標識化プローブとして、消光プローブではなく、ハイブリッド形成によりシグナル強度が増加するプローブを使用した場合には、反対に、蛍光強度の減少量を測定すればよい。
【0093】
また、本発明においては、前述のように、ハイブリッドを加熱して、温度上昇に伴う蛍光シグナル変動(好ましくは蛍光強度の増加)を測定するが、この方法に代えて、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動の測定を行ってもよい。すなわち、前記プローブを添加した試料の温度を降下させてハイブリッドを形成する際の前記温度降下に伴う蛍光シグナル変動を測定してもよい。
【0094】
具体例として、Q Probeを使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が大きいが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記加熱した試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。
他方、ハイブリッド形成によりシグナルが増加する標識化プローブを使用した場合、前記プローブを試料に添加した際には、前記プローブは解離状態にあるため蛍光強度が小さい(または消光)が、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光強度が増加するようになる。したがって、例えば、前記試料の温度を徐々に降下して、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0095】
本発明の多型検出方法においては、目的とする塩基を含む領域を増幅可能であれば、増幅する方法としては特に制限されず、例えば、既述のPCR法を用いることができる。
目的とする塩基を含む領域は、前記配列番号1に示す塩基配列における301番目の塩基を含む塩基配列又は前記配列番号2に示す塩基配列における234番目の塩基を含む塩基配列又は前記配列番号3に示す塩基配列における141番目の塩基を含む塩基配列で、それぞれ塩基長50〜500の領域、50〜300の領域、又は50〜200の領域が挙げられる。
【0096】
PCR法に適用するプライマーは、本発明の多型検出用プローブがハイブリダイゼーションできる領域が増幅できるものであれば特に制限されず、配列番号1で示される塩基配列から、当業者であれば適宜設計することができる。プライマーの長さ及びTm値は、12mer〜40mer及び40℃〜70℃、又は16mer〜30mer及び55℃〜60℃にすることができる。
また、プライマーセットの各プライマーの長さは同一でなくてもよいが、両プライマーのTm値はほぼ同一(又は、Tm値の両プライマーでの差が5℃以内)にすることができる。
【0097】
以下に本発明の多型検出方法において、本発明の多型検出用プローブがハイブリダイズする領域を含む塩基配列の増幅に使用できるプライマーの例を示す。なお、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0098】
前記配列番号1に示す塩基配列の301番目の塩基における多型を検出するためのプライマーとしては、下記P4又はP5で表されるオリゴヌクレオチドのうち少なくともいずれか一方であればよい。
(P4)配列番号1に示す塩基配列において、198〜230番目の塩基を含む塩基長33〜50の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P4のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号1に示す塩基配列において198〜230番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長33〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P4のオリゴヌクレオチドとしては、前記P4のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
(P5)配列番号1に示す塩基配列において、332〜353番目の塩基を含む塩基長22〜50の塩基配列に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P5のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号1に示す塩基配列において332〜3553番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長22〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P5のオリゴヌクレオチドとしては、前記P5のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0099】
以下に、本発明の多型検出方法における前記配列番号1に示す塩基配列における301番目の塩基を含む領域の増幅に使用できるプライマーの一例を示す。
【0100】
【表8】

【0101】
また、前記配列番号1に示す塩基配列の301番目の塩基における多型を検出するためには、前記P4及びP5で表される各オリゴヌクレオチドを、一対のプライマーセットとして用いることができる。
【0102】
前記配列番号2に示す塩基配列の234番目の塩基における多型を検出するためのプライマーとしては、下記P6又はP7で表されるオリゴヌクレオチドのうち少なくともいずれか一方であればよい。
(P6)配列番号2に示す塩基配列において、132〜157番目の塩基を含む塩基長26〜50の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P6のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号2に示す塩基配列において132〜157番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長26〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P6のオリゴヌクレオチドとしては、前記P6のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
(P7)配列番号2に示す塩基配列において、268〜295番目の塩基を含む塩基長28〜50の塩基配列に相補的な配列対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P7のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号2に示す塩基配列において268〜295番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長28〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P7のオリゴヌクレオチドとしては、前記P7のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0103】
以下に、本発明の多型検出方法における前記配列番号2に示す塩基配列における234番目の塩基を含む領域の増幅に使用できるプライマーの一例を示す。
【0104】
【表9】

【0105】
また、前記配列番号2に示す塩基配列の234番目の塩基における多型を検出するためには、前記P6及びP7で表される各オリゴヌクレオチドを、一対のプライマーセットとして用いることができる。
【0106】
前記配列番号3に示す塩基配列の161番目の塩基における多型を検出するためのプライマーとしては、下記P8又はP9で表されるオリゴヌクレオチドのうち少なくともいずれか一方であればよい。
(P8)配列番号3に示す塩基配列において、121〜145番目の塩基を含む塩基長25〜50の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P8のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号3に示す塩基配列において121〜145番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長25〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P8のオリゴヌクレオチドとしては、前記P8のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
(P9)配列番号3に示す塩基配列において、214〜235番目の塩基を含む塩基長22〜50の塩基配列に相補的な配列対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。また、前記P9のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号3に示す塩基配列において214〜235番目の塩基に対応する塩基を含む塩基長22〜50の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよい。前記P9のオリゴヌクレオチドとしては、前記P9のオリゴヌクレオチドの塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0107】
以下に、本発明の多型検出方法における前記配列番号3に示す塩基配列における161番目の塩基を含む領域の増幅に使用できるプライマーの一例を示す。
【0108】
【表10】

【0109】
また、前記配列番号3に示す塩基配列の161番目の塩基における多型を検出するためには、前記P8及びP9で表される各オリゴヌクレオチドを、一対のプライマーセットとして用いることができる。
【0110】
ハイブリダイゼーションを行う方法についてはプローブの項において記載した方法に従えばよく、ストリンジェントな条件についてもプローブの項において記載の条件と同様の条件を適用することができる。また、同一性の範囲や、挿入、欠失又は置換についても、プローブの項に記載したものと同様の範囲を適用することができる。
【0111】
なお、本発明の多型検出方法においては、本発明の多型検出用プローブとして、前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる蛍光標識オリゴヌクレオチドの2種以上を併用してもよい。これによりABCG2遺伝子の多型を同時、且つ簡便に検出することができる。
また、前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる蛍光標識オリゴヌクレオチドの2種以上を併用し、V12M変異、Q126X変異及びQ141K変異からなる群より選ばれる少なくとも2種の変異を検出することで、例えば、ABCG2遺伝子に由来するABCG2トランスポーターの機能をより精度よく予測することができる。例えば、前記P1と前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドの組み合わせ、前記P2と前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドの組み合わせ等が組合せとしては挙げられ、前記P2と前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドの組み合わせが挙げられる。
【0112】
<薬効判定方法>
本発明の薬効判定方法は、上述した多型検出方法によりABCG2遺伝子の多型を検出すること、及び、前記検出結果に基づいて薬剤に対する耐性又は薬剤の薬効を判定することを含む。
本発明のABCG2遺伝子の多型検出方法によれば、ABCG2遺伝子の変異の有無と種類とを検出することができ、特にV12M変異、Q126X変異又はQ141K変異を高い感度で簡便に検出することができる。
これにより多型の有無や変異配列と正常配列の存在比に基づいて薬剤に対する耐性や薬剤の薬効を判定することができる。そして、本発明の薬効判定方法は、変異の有無や変異配列の存在比に基づいて、薬剤の投与量の増加、他の治療薬への変更等への切り替え等の疾病の治療方針を決定するのに有用である。
また、判定対象となる薬剤としては、具体的には、痛風治療薬、高尿酸血症治療薬等が挙げられ、特に痛風治療薬及び高尿酸血症治療薬が挙げられる。
【0113】
<疾患予測方法>
本発明の疾患予測方法は、上述した多型検出方法によりABCG2遺伝子の多型を検出すること、及び、前記検出結果に基づいて疾患の罹患リスクを予測することを含む。
本発明のABCG2遺伝子の多型検出方法によれば、ABCG2遺伝子の変異の有無と種類とを検出することができ、特にV12M変異、Q126X変異又はQ141K変異を高い感度で簡便に検出することができる。
そのため、本発明によれば、検出された多型の有無に基づき、疾患の罹患リスクを予測することができる。ABCG2遺伝子型の組み合わせと疾患の発症リスクなどについては、具体的には、実験医学 2010年、第28巻、第8号、p.1285−1289、
British Journal of Clinical PharmacologyVolume 64, Issue 5, Article first published online: 17 MAY 2007等に記載の内容を参照することにより予測を行うことが可能である。
また、予測対象となる疾患としては、具体的には、痛風、高尿酸血症、ポルフィリン症等が挙げられ、特に痛風及び高尿酸血症が挙げられる。
【0114】
<多型検出用試薬キット>
本発明の多型検出用試薬キットは、前記配列番号1に示す塩基配列における301番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブ、前記配列番号2に示す塩基配列における234番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブ又は前記配列番号3に示す塩基配列における161番目の塩基の変異を検出可能な多型検出用プローブの少なくとも1種を含むものである。これにより、本発明の多型検出用試薬キットはABCG2遺伝子の多型を検出可能である。
【0115】
また、本発明における多型検出用試薬キットは、2種以上の前記蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むものであってもよい。
多型検出用プローブとして2種以上の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含む場合、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドは混合された状態で含まれていても、別個に含まれていてもよい。
【0116】
2種以上の前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは発光波長が互いに異なる蛍光色素で標識化されていてもよい。
このように蛍光色素の種類を変えることで、同じ反応系であっても、それぞれの蛍光標識オリゴヌクレオチドについての検出を同時に行うことも可能になる。
【0117】
また、本発明における多型検出用試薬キットは、上述の検出対象となるABCG2遺伝子多型を含む配列を増幅可能なプライマーをさらに含んでいてもよい。これにより、本発明における多型検出用試薬キットは、精度よくABCG2遺伝子の多型の検出を行うことができる。
なお、多型検出用試薬キットに含まれ得るプローブ及びプライマーについては、前述した事項をそのまま適用することができる。
【0118】
本発明にかかる多型検出用試薬キットは、配列番号1に示す塩基配列の301番目の塩基における多型を検出する試薬(301検出試薬)を含んでいてもよい。試薬としては、前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、P4及びP5で表されるプライマーからなる群のうち少なくとも一つとが挙げられる。
本発明にかかる多型検出用試薬キットは、配列番号2に示す塩基配列の234番目の塩基における多型を検出する試薬(234検出試薬)を含んでいてもよい。試薬としては、前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、P6及びP7で表されるプライマーからなる群のうち少なくとも一つとが挙げられる。
本発明にかかる多型検出用試薬キットは、配列番号3に示す塩基配列の161番目の塩基における多型を検出する試薬(161検出試薬)を含んでいてもよい。試薬としては、前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドと、P8及びP9で表されるプライマーからなる群のうち少なくとも一つとが挙げられる。
本発明にかかる多型検出用試薬キットは、前記301検出試薬、前記234検出試薬又は前記161検出試薬を一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0119】
また、前記P1の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、具体的には、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドで構成されてもよい。
前記P2の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、具体的には、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び配列番号17で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドで構成されてもよい。
前記P3の蛍光標識オリゴヌクレオチドは、具体的には、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22及び配列番号23で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドで構成されてもよい。
【0120】
本発明における検出用試薬キットは、前記プローブ及び前記プライマーの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類、特にDNAポリメラーゼを用いる増幅のためのプライマーをさらに含んでいてもよい。
また、プローブ、プライマー及びその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
なお、「別個に収容」とは、各試薬が非接触状態を維持できるように区分けされたものであればよく、必ずしも独立して取り扱い可能な個別の容器に収容される必要はない。
多型部位を含む配列(プローブがハイブリダイズする領域)を増幅可能なプライマーセットを含むことで、例えば、より高感度に多型を検出することができる。
【0121】
さらに本発明の多型検出用試薬キットは、前記多型検出用プローブを使用して、検出対象である核酸を含む試料について微分融解曲線を作成し、そのTm値解析を行って、ABCG2遺伝子における多型を検出することが記載された取扱い説明書、又は検出用試薬キットに含まれる若しくは追加的に含むことが可能な各種の試薬について記載された使用説明書を含むことができる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
<実施例1>
実施例1−1:一本鎖核酸とプローブとのTm解析
全自動SNPs検査装置IS−5310(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と下記表11に記載した処方の検査用試薬を用いて、Tm解析を行った。
【0124】
【表11】

【0125】
Tm解析は、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃から75℃まで温度を上昇させ、この間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。励起波長を365nm〜415nmとし、測定波長を445nm〜480nmとして、蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。
【0126】
その結果、野生型(配列番号1の301番目の塩基がG)と、変異型(V12M、配列番号1の301番目の塩基がA)との両方のピークを検出できることが確認できた。野生型のTm値は49℃であり、変異型のTm値は56℃であった。
図2に、Tm解析により得られた野生型(A)及び変異型(B)のグラフを示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0127】
実施例1−2:ヒトゲノムとプローブとのTm解析
変異の検出対象試料としてヒトゲノム(Roche社製)を用いて、PCR及びTm解析を行った。なお、当該ヒトゲノムは、全血から常法により精製し、1μl(100cp/μl)の量で用いた。
全自動SNPs検査装置IS−5310(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と下記表12に記載した処方の検査用試薬を用いて、PCR及びTm解析を行った。
PCRは、95℃で60秒処理した後、95℃で1秒及び60℃で30秒を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
またTm解析は、PCRの後、95℃で1分、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃から75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。なお、励起波長を365nm〜415nmとし、測定波長を445nm〜480nmとして、蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。
【0128】
【表12】

【0129】
その結果、検出対象試料として全血から精製したヒトゲノムを用いた場合にも、野生型(配列番号1の301番目の塩基がG)と、変異型(V12M、配列番号1の301番目の塩基がA)との両方のピークを検出できることが確認できた。Tm値は47℃及び52℃であった。Tm解析により得られたグラフを図3に示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0130】
また上記記載のプローブ、プライマー及び一本鎖核酸の詳細を以下に示した。なお、プローブにおけるPは3’末端がリン酸化されていることを示す。
【0131】
【表13】

【0132】
<実施例2>
実施例1−1において、一本鎖核酸とプローブを下記表14に記載のものに変更したこと及び、Tm解析における励起波長を420nm〜485nmとし、測定波長を520nm〜555nmとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして、Tm解析を行った。
【0133】
【表14】

【0134】
上記記載のプローブ及び一本鎖核酸の詳細を以下に示した。
【0135】
【表15】

【0136】
その結果、野生型(配列番号2の234番目の塩基がG)1及び2と、変異型(Q126X、配列番号2の234番目の塩基がC)1及び2との両方のピークを検出できることが確認できた。さらに、ヒトゲノムタイプの野生型の一本鎖核酸と変異型の一本鎖核酸とを1:1で混合した混合型1〜4を用いた場合にも、ピークを検出できることが確認できた。
野生型1及び野生型2のTm値はいずれも50℃であり、変異型1及び変異型2のTm値はいずれも57℃であった。
また、混合型1のTm値は50℃と56℃であり、混合型2のTm値は50℃と56℃であり、混合型3のTm値は48℃と56℃であり、混合型4のTm値は49℃と57℃であった。
図4にTm解析により得られた野生型1(A)、野生型2(C)、変異型1(B)、変異型2(D)、混合型1(E)、混合型2(F)、混合型3(G)及び混合型4(H)のグラフをそれぞれ示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0137】
<実施例3>
実施例1−1において、一本鎖核酸とプローブを下記表16に記載のものに変更したこと及び、Tm解析における励起波長を520nm〜555nmとし、測定波長を585nm〜700nmとしたこと以外は、実施例1−1と同様にして、Tm解析を行った。
【0138】
【表16】

【0139】
上記記載のプローブ及び一本鎖核酸の詳細を以下に示した。
【0140】
【表17】

【0141】
その結果、野生型(配列番号3の161番目の塩基がC)と、変異型(Q141K、配列番号2の161番目の塩基がA)との両方のピークを検出できることが確認できた。さらに、ヒトゲノムタイプの野生型の一本鎖核酸と変異型の一本鎖核酸とを1:1で混合した混合型を用いた場合にも、ピークを検出できることが確認できた。
野生型のTm値は56℃であり、変異型のTm値は64℃であり、混合型のTm値は55℃と63℃であった。
図5にTm解析により得られた野生型(A)、変異型(B)及び混合型(C)のグラフを示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0142】
<実施例4>
全自動SNPs検査装置IS−5310(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と下記表18に記載した処方の検査用試薬を用いて、Tm解析を行った。
【0143】
【表18】

【0144】
上記記載のプライマー及びプローブの詳細を以下に示した。
【0145】
【表19】

【0146】
Tm解析条件は、95℃で1分処理した後、95℃で1秒及び60℃で30秒を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。その後、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃から60℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。なお、励起波長および測定波長はそれぞれ365nm〜415nmおよび445nm〜480nm(Pacific Blue)、420nm〜485nmおよび520nm〜555nm(BODIPY FL)、520nm〜555nmおよび585nm〜700nm(TAMRA)で、蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。
【0147】
鋳型としては、全血と精製ゲノム(2000コピー/test)とを、それぞれ用いた。なお、全血の調整方法は、以下の通りである。
全血10μlを70μlの希釈液1に加え、よく混合した後、この混合液10μlを70μlの希釈液2に加える。この混合液17μlを95℃10分で加熱すると4μlの前処理済全血が得られる。これを1testあたりの鋳型として使用した。
【0148】
【表20】

【0149】
【表21】

【0150】
その結果、鋳型として全血を用いた場合及び精製ヒトゲノムを用いた場合のいずれも、V12M変異、Q126X変異及びQ141K変異の全てのピークを確認することができた。
全血の場合も、精製ヒトゲノムの場合も、V12M変異はTm値が47℃と52℃であり、Q126X変異はTm値が45℃であり、Q141K変異はTm値が50℃であった。
図6にTm解析により得られた全血(V12M変異)(A)、全血(Q126X変異)(B)及び全血(Q141K変異)(C)のグラフを示し、図7に精製ヒトゲノム(V12M変異)(A)、精製ヒトゲノム(Q126X変異)(B)及び精製ヒトゲノム(Q141K変異)(C)のグラフを示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0151】
<比較例1>
プローブと一本鎖核酸とを以下のものに変更した以外は、実施例1−1と同様にして、Tm解析を行った。
【0152】
【表22】

【0153】
上記記載のプローブ及び一本鎖核酸の詳細は、下記表23に記載の通りである。
【0154】
【表23】

【0155】
その結果、野生型(配列番号1の301番目の塩基がG)と、変異型(V12M、配列番号1の301番目の塩基がA)との両方のピークを検出できることが確認できた。野生型のTm値は49℃であり、変異型のTm値は57℃であった。
図8にTm解析により得られた野生型(A)及び変異型(B)のグラフを示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0156】
また、プローブを、5PB-ABCG2 V12M-A-R1から、5PB-ABCG2 V12M-A-FIに変更した以外は、実施例1−2と同様の方法により、ヒトゲノムとプローブとのTm解析を行った。
【0157】
その結果、検出対象試料として全血から精製したヒトゲノムを用いた場合には、変異型のTm値は55℃と検出できたものの、野生型のTm値を検出することができなかった。
Tm解析により得られたグラフを図9に示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0158】
<比較例2>
実施例2において、プローブを、5FL-ABCG2 Q126X-T-RIから、3FL-ABCG2 Q126X-T-R2に変更した以外は、実施例2と同様にして、Tm解析を行った。
【0159】
上記記載のプローブの詳細を以下に示した。
【0160】
【表24】

【0161】
その結果、野生型1及び2と、変異型2、混合型1〜4では、ピークを検出することが確認できた。一方、変異型1では野生型のTm値周辺に擬似ピークが確認され、混合型と誤認してしまう可能性が示唆された。
野生型1のTm値は52℃、野生型2のTm値は49℃、変異型1のTm値は57℃、変異型2のTm値はいずれも56℃、混合型1のTm値は51℃と57℃、混合型2のTm値は49℃と56℃、混合型3のTm値は51℃と56℃、混合型4のTm値は50℃と57℃であった。
図10にTm解析により得られた野生型1(A)、野生型2(C)、変異型1(B)、変異型2(D)、混合型1(E)、混合型2(F)、混合型3(G)及び混合型4(H)のグラフをそれぞれ示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0162】
<比較例3>
実施例3において、プローブを、3T-ABCG2-mt-R1から、5T-ABCG2-mt-R2に変更した以外は、実施例3と同様にして、Tm解析を行った。
【0163】
上記記載のプローブの詳細を以下に示した。
【0164】
【表25】

【0165】
その結果、野生型(配列番号3の161番目の塩基がC)、変異型(Q141K、配列番号2の161番目の塩基がA)、混合型のいずれにおいてもピークを確認することはできなかった。
図11にTm解析により得られた野生型(A)、変異型(B)及び混合型(C)のグラフを示す。なお、縦軸は蛍光強度の温度微分値を表し、横軸は温度をそれぞれ表す。
【0166】
以上から、本発明の多型検出用プローブを用いることで、ABCG2遺伝子の多型のうち、V12M変異、Q126X変異及びQ141K変異を高い頻度で検出することができ、1試薬を用いて同時に複数の多型を簡便に検出することができ、さらに、ABCG2遺伝子の多型を、全血を精製することなく、直接簡便に検出することができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる少なくとも1種の蛍光標識オリゴヌクレオチドを含むABCG2遺伝子の多型検出用プローブ。
(P1)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P1’)配列番号1に示す塩基配列において、301番目〜311番目の塩基を含む塩基長11〜50の塩基配列に相補的な配列であり、311番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号1と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、311番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P2’)配列番号2に示す塩基配列において、234番目〜251番目の塩基を含む塩基長18〜50の塩基配列に相補的な配列であり、251番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号2と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、251番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、
(P3)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3に相補的な配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有し、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド、及び
(P3’)配列番号3に示す塩基配列において、152番目〜161番目の塩基を含む塩基長10〜50の塩基配列に相補的な配列であり、152番目の塩基に対応する塩基がグアニンである以外は配列番号3と同一の塩基を有する配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、152番目の塩基に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された311番目の塩基が、5’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置し、
前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された251番目の塩基が、5’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置し、
前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された152番目の塩基が、3’末端から数えて1〜3番目のいずれかに位置する請求項1に記載の多型検出用プローブ。
【請求項3】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された311番目の塩基が、5’末端に位置し、
前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された251番目の塩基が5’末端に位置し、
前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの蛍光色素で標識された152番目の塩基が3’末端に位置する請求項1または請求項2に記載のABCG2遺伝子の多型検出用プローブ。
【請求項4】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少または増加する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項5】
前記蛍光標識オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項6】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が11〜40であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が18〜40であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜40である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項7】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が11〜28であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が20〜30であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が15〜30である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項8】
前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が14〜18であり、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が22〜26であり、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドの塩基長が18〜22である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項9】
融解曲線分析用のプローブである、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを用いるABCG2遺伝子の多型検出方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の前記P1、P1’、P2、P2’、P3及びP3’からなる群より選ばれる少なくとも2種の多型検出用プローブを用いるABCG2遺伝子の多型検出方法。
【請求項12】
(I)請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチド及び前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッドを得ることと、
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定することと、
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定することと、
(IV)前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、ABCG2遺伝子における多型の存在を検出することと、
を含む、請求項10又は請求項11に記載の多型検出方法。
【請求項13】
さらに、前記(I)のハイブリッドを得る前または前記(I)ハイブリッドを得ることと同時に核酸を増幅することを含む、請求項12に記載の多型検出方法。
【請求項14】
請求項10〜請求項13のいずれか1項に記載の多型検出方法により、ABCG2遺伝子における多型を検出することと、
検出された多型の有無に基づいて、薬剤に対する耐性または薬剤の薬効を判定することと、
を含む、薬剤の薬効判定方法。
【請求項15】
請求項10〜請求項13のいずれか1項に記載の多型検出方法により、ABCG2遺伝子の多型を検出することと、
検出された多型の有無に基づいて、疾患の罹患リスクを予測する疾患予測方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用試薬キット。
【請求項17】
配列番号1に示す塩基配列において、前記P1又はP1’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセット、
配列番号2に示す塩基配列において、前記P2又はP2’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセット、又は
配列番号3に示す塩基配列において、前記P3又はP3’の蛍光標識オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を増幅可能なプライマーセット
のいずれかのプライマーセットの少なくとも一つをさらに含む、請求項16に記載の多型検出用試薬キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−244990(P2012−244990A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82390(P2012−82390)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】