説明

多孔体の製造方法

【課題】不均一故障を回避しつつ、寸法が均一の孔を有する多孔フィルムを製造する。
【解決手段】第1エリア21では、乾燥空気400との接触により、ポリマーフィルム26の表面26aに付着し、不均一故障を誘発する水分が蒸発する。第2エリア22では、溶液33の塗布により、表面26aには溶液33からなる塗布膜62が形成する。第3エリア23では、湿潤空気401との接触により、露出面62aでは略一様に結露が生じ、露出面62aに水滴65が形成する。湿潤空気401との接触により、水滴65は略一様に成長し、塗布膜62に潜り込む。第4エリア24では、乾燥空気402との接触により、水滴65が水蒸気27となる。水滴65を鋳型として、孔を有する多孔フィルム15を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターン構造を有する多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、それら分野に用いられるフィルムに対しては、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
フィルムの微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
上記以外のフィルムの微細パターニングとして、溶液を支持体上に塗布し、湿った空気を塗布膜にあてて、多孔フィルムをつくる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この多孔フィルムの製造方法の概略について簡単に説明する。まず、ポリマーが疎水性溶剤に溶解する溶液を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、温度、露点や溶剤の凝縮点などが所定条件の範囲になるように調節された湿潤空気を、塗布膜の表面のうち露出する面(以下、露出面と称する)にあてて、塗布膜に含まれる溶剤の蒸発を行いつつ、結露により露出面に水滴を形成させ、成長させる。このとき、露出面上の水滴は、その寸法を維持したまま、或いは成長をしながら、塗布膜に潜り込む。最後に、溶剤が十分に除去された塗布膜に乾燥空気をあてて、水滴を蒸発させる。この方法によれば、塗布膜に潜り込んでいた水滴の蒸発により、水滴の跡が孔となって塗布膜に残留する結果、水滴を鋳型として、多孔フィルムを得ることができる。
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の方法を用いて多孔フィルムを製造した場合において、孔の寸法にばらつきが生じる故障(以下、不均一故障と称する)が多発した。発明者は、鋭意検討の結果、支持体に含まれる水分の存在に起因して、不均一故障が発生することを突き止めた。
【0006】
本発明は、不均一故障の発生を抑えつつ、多孔フィルム等の多孔体を製造する多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多孔体の製造方法は、ポリマーが疎水性溶剤に溶解する溶液の塗布により、塗布膜を支持体上に形成する塗布工程と、前記塗布膜の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、前記塗布膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として、前記塗布膜に孔を形成する乾燥工程と、前記溶液の塗布が行われる前の前記支持体を湿度50%RH以下の環境下に置く低湿度工程とを有することを特徴とする。
【0008】
前記低湿度工程では、前記支持体の温度を40℃以上にすることが好ましい。また、前記低湿度工程と前記塗布工程との間で、前記支持体を湿度50%RH以下の環境下に置く塗布準備工程を行うことが好ましい。更に、前記低湿度工程または前記塗布準備工程の完了から60秒以内に前記塗布工程を行うことが好ましい。加えて、前記水滴形成工程では、前記塗布膜に湿潤空気をあて、結露により前記塗布膜の表面に水滴を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔体の製造方法によれば、塗布膜が形成される前の支持体を湿度50%RH以下の環境下に置くため、支持体に残留する水分量を不均一故障が起こらない程度にまで低減することができる。したがって、本発明によれば、寸法が均一の孔を有する多孔体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(多孔フィルム製造工程)
図1に示すように、多孔フィルム製造工程10は、低湿度工程11と、塗布工程12と、水滴形成工程13と、乾燥工程14とを有する。多孔フィルム製造工程10により、ポリマーが疎水性溶剤に溶解する溶液から多孔フィルム15を得ることができる。
【0011】
図2(a)に示すように、多孔フィルム15の表面には、非常に多くの孔15aが密に形成される。孔15aは、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム15上に配列する。孔15aは、略一定の形状及びサイズであり、規則的に配列する。そして、孔15aは、図4(b)及び図4(c)に示すように、多孔フィルム15の両表面を突き抜けるように形成される場合もあるし、(d)の多孔フィルム16のように片面側に窪み16aとして形成される場合もある。孔15aや窪み16aの配列は、水滴の疎密の度合いや大きさ、形成する液滴の種類、乾燥速度、溶液の固形分濃度、水滴成長度合いに対する溶剤の蒸発のタイミング等によって異なるものとなる。本発明により製造される多孔フィルム15の形態は特に限定されるものではないが、例えば、多孔フィルム15の厚みTH1が0.05μm以上100μm以下、孔15aの径D1が0.05μm以上100μm以下、隣接する孔15aの中心間距離P1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルムを製造する場合に特に効果がある。
【0012】
ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定寸法の孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や6方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0013】
図3に示すように、多孔フィルム製造設備20は、図示しない仕切り板により、第1エリア21〜第4エリア24に区切られる。各エリア21〜24にはローラ25a〜25fが設けられ、支持体として用いられるポリマーフィルム26は各ローラ25a〜25fに掛け渡される。図示しない駆動部により、ローラ25fは回転駆動する。ローラ25fの回転駆動により、ポリマーフィルム26は、ローラ25a〜25fにより案内されながら、第1エリア21〜第4エリア24を順次通過する。
【0014】
ポリマーフィルム26の形成材料としては、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔フィルム製造工程10(図1参照)における耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、セルロースアシレート等のポリマーや、ガラス、ステンレス、その他金属等の無機材料等であってもよい。また、支持体としては、フィルムに限らず、板状のものや曲面を有するものでもよい。なお、無機材料や有機材料のコーティング、プラズマ処理や、その他の表面処理が施された表面を有する支持体を用いてもよい。
【0015】
(第1エリア)
第1エリア21には乾燥空気供給機31が設けられる。乾燥空気供給機31は、乾いた空気(以下、乾燥空気と称する)400を送り出す送風口31aと、乾燥空気400を吸引する吸引口31bと、図示しない送風コントローラとを有する。送風口31a及び吸引口31bは、第1エリア21を通過するポリマーフィルム26の表面26aと対向するように、乾燥空気供給機31に設けられる。送風コントローラは、図示しない制御部の制御の下、送風口31aから送り出される乾燥空気400の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0016】
(第2エリア)
第2エリア22には塗布ダイ32が設けられる。塗布ダイ32は、図示しない配管を介して、溶液33を貯留するストックタンク(図示しない)と接続する。塗布ダイ32は溶液33を吐出する吐出口を有する。塗布ダイ32は、吐出口が表面26aと近接して対向するように配される。
【0017】
(第3エリア)
第3エリア23には、湿潤空気供給機41〜43がポリマーフィルム26の走行方向に沿って並べられる。湿潤空気供給機41〜43は、乾燥空気供給機31と同様の構造を有する。湿潤空気供給機41に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口41aから送り出される湿った空気(以下、湿潤空気と称する)401の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。同様にして、湿潤空気供給機42、43に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口42a、43aから送り出される湿潤空気401の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。なお、後述する塗布膜上に形成された水滴を一様に成長させる目的から、湿潤空気供給機42、43は、湿潤空気供給機41のすぐ下流側に配されることが好ましい。
【0018】
(第4エリア)
第4エリア24には、乾燥空気供給機51〜54がポリマーフィルム26の走行方向に沿って並べられる。乾燥空気供給機51〜54は乾燥空気供給機31と同様の構造を有する。乾燥空気供給機51に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口51aから送り出される乾燥空気402の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。同様にして、乾燥空気供給機52〜54に設けられた送風コントローラは、それぞれ、図示しない制御部の制御の下、各送風口52a〜54aから送り出される乾燥空気402の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
【0019】
次に、本発明の作用について説明する。図3に示すように、ローラ25fは回転駆動し、ポリマーフィルム26は第1エリア21〜第4エリア24を順次通過する。第1エリア21では、乾燥空気供給機31はポリマーフィルム26の表面26aに乾燥空気400をあてる。乾燥空気400との接触により、ポリマーフィルム26の表面26aに付着する水分60が蒸発する(図4(a)参照)。
【0020】
図示しないストックタンクから溶液33が塗布ダイ32へ送液される。溶液33は、塗布ダイ32に送られる前に、予めろ過されることが好ましい。これにより多孔フィルム15への異物混入を防止することができる。ろ過は複数回実施することが好ましい。例えばろ過を2回実施するときには、上流側のろ過装置(図示しない)には、多孔フィルム15の孔の径よりも大きな絶対ろ過精度(絶対ろ過孔径)をもつフィルタが備えられ、下流側のろ過装置(図示しない)には、多孔フィルム15の空隙よりも小さな絶対ろ過精度をもつフィルタが備えられることが好ましい。
【0021】
第2エリア22では、塗布ダイ32が、第2エリア22を通過するポリマーフィルム26の表面26aに向けて溶液33を吐出口から吐出する。吐出した溶液33は、表面26a上にて塗布膜62となる(図4(b)参照)。
【0022】
第3エリア23では、湿潤空気供給機41が、塗布膜62の露出面62a全体に湿潤空気401を均一にあてる。湿潤空気401との接触により、塗布膜62に含まれる溶剤64は蒸発し、露出面62aでは略一様に結露が生じ、露出面62aに水滴65が形成する(図5(a)及び図5(b)参照)。引き続いて、湿潤空気供給機42、43は塗布膜62の露出面62a全体に湿潤空気401を均一にあてる。湿潤空気401との接触により、塗布膜62に含まれる溶剤64は蒸発し、水滴65は所望の寸法となるまで略一様に成長しながら、塗布膜62に潜り込む(図5(c)参照)。
【0023】
第4エリア24では、乾燥空気供給機51〜54が塗布膜62の露出面62aに乾燥空気402をあてる。乾燥空気402との接触により、水滴65が水蒸気67となる結果(図5(d)参照)、孔を有する多孔フィルム15を得ることができる。なお、塗布膜62の中に溶剤64が残留している場合には、水滴65とともに、溶剤64を蒸発させてもよい。
【0024】
塗布工程12(図4(b)参照)において、水分60が残留する表面26a上に塗布膜62を形成すると、水分60の存在に起因して、水滴形成工程13(図5(b)及び図5(c)参照)にて形成した水滴65の寸法にばらつきが生じてしまう。
【0025】
本発明では、ポリマーフィルム26の表面26a上に塗布膜62を形成する前に、表面26aに乾燥空気400をあてるため、塗布膜62の形成前に、表面26aに付着する水分60の量を、不均一故障が起こらない程度にまで低減することができる。したがって、本発明によれば、ポリマーフィルム26の表面26aに付着する水分60と塗布膜62に並ぶ水滴との相互作用によって誘発される不均一故障を抑えつつ、寸法が略均一の孔を有する多孔フィルム15を製造することができる。
【0026】
以下、各工程における好ましい実施態様及び条件等について説明する。
【0027】
(低湿度工程)
第1エリア21(図3参照)では、図4(a)に示すように、ポリマーフィルム26の表面26aに付着する水分60の除去を行う。なお、表面26aに付着する水分60のみならず、ポリマーフィルム26の内部に存在する水分60を除去してもよいし、ポリマーフィルム26の内部に存在する水分60のみを除去してもよい。また、ポリマーフィルム26からの水分60の除去は、ポリマーフィルム26における水分60の残留量が不均一故障を誘発しない程度となるまで行えばよい。したがって、塗布工程12前のポリマーフィルム26から全ての水分60を除去せずに、ポリマーフィルム26に残留する水分60のうち一部を除去してもよい。乾燥空気400の湿度はできるだけ低いことが好ましく、例えば、50%RH以下であることが好ましく、40%RH以下であることがより好ましい。乾燥空気400の温度はできるだけ高いことが好ましく、例えば、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。低湿度工程11完了後から塗布工程12を開始するまでの間において、ポリマーフィルム26の温度を所定の範囲、例えば上記範囲に保持することが好ましい。
【0028】
上記実施形態では、第1エリア21において、乾燥空気400をポリマーフィルム26にあててポリマーフィルム26から水分60を除去したが、本発明はこれに限られず、ポリマーフィルム26の温度を、40℃以上120℃以下の範囲内に調節することにより、ポリマーフィルム26から水分60を除去してもよい。例えば、ポリマーフィルム26の走行路近傍に配されるヒータ71を用いて、ポリマーフィルム26の温度が所定の範囲内となるようにポリマーフィルム26を加熱してもよいし、ローラ52aに伝熱媒体流路を設け、この伝熱媒体流路に所望の温度に調節された伝熱媒体を送って、巡回させてもよいし、これらの組み合わせでもよい。更に、上記方法に代えて、或いは上記方法との組み合わせで、真空ポンプなどを用いて、ポリマーフィルム26を減圧環境下におく減圧工程を行ってもよい。
【0029】
(塗布準備工程)
なお、低湿度工程11の後、不均一故障を誘発する水分60がポリマーフィルム26に付着することを防ぐために、低湿度工程11と塗布工程12との間で、湿度50%RH以下の環境下に置く塗布準備工程を行うことが好ましい。また、低湿度工程11または塗布準備工程の完了から60秒以内に塗布工程12を行うことが好ましい。
【0030】
(塗布工程)
形成直後の塗布膜62の厚みは、0.01mm以上1mm以下の範囲で一定であることが好ましい。塗布膜62の厚みが0.01mm以上1mm以下の範囲であっても、厚みにばらつきが生じていると、寸法が均一な水滴を形成することができない場合がある。そして、塗布膜62の厚みが0.01mm未満であると、塗布膜62の厚みを均一に形成することができない。また、塗布膜62の厚みが1mmを超えると、溶剤の蒸発に要する時間が長くなりすぎて生産効率が悪くなる。
【0031】
(水滴形成工程)
第3エリア23(図3参照)では、図5(a)〜図5(c)に示すように、露出面62a上にて水滴65の核形成及び核成長を行う。水滴65の核形成及び核成長の進行度は、湿潤空気401の露点TD1と露出面62aの温度TSとの差ΔTw(=TD1−TS)により調節することができる。水滴65の核形成を行うためには、ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上20℃以下であることがより好ましい。水滴65の核成長を行うためには、ΔTwは0℃以上20℃以下であることが好ましく、1℃以上10℃以下であることがより好ましい。なお、上記実施形態では、湿潤空気供給機41からの湿潤空気401を用いて水滴65の核形成を行い、湿潤空気供給機42〜43からの湿潤空気401を用いて水滴65の核成長を行ったが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給機41〜42からの湿潤空気401を用いて水滴65の核形成を行い、湿潤空気供給機43からの湿潤空気401を用いて水滴65の核成長を行ってもよい。
【0032】
また、水滴65を鋳型とする目的から、塗布膜62を構成する溶剤の流動性が低下する程度に、溶剤を蒸発することが好ましい。このため、溶剤の凝縮点TR1は、塗布膜62の露出面62aの温度TSより低いことが好ましい。
【0033】
第3エリア23における塗布膜62の露出面62aの温度TSは−10℃以上25℃以下であることが好ましい。湿潤空気401の露点TD1は10℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気401の温度TA1は10℃以上30℃以下であることが好ましい。溶剤の凝縮点TR1は、10℃以下であることが好ましい。
【0034】
(乾燥工程)
第4エリア24(図3参照)では、水滴65の蒸発を行うため、露出面62aの温度TSと乾燥空気402の露点TD2との差ΔTw(=TD2−TS)は0℃以下であることが好ましく、−30℃以上−5℃以下であることがより好ましい。乾燥工程14における露出面62aの温度TSは10℃以上40℃以下であることが好ましい。乾燥空気402の露点TD2は10℃以下であることが好ましい。乾燥空気402の温度TA2は10℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0035】
上記実施形態では、塗布ダイ32を用いて溶液33をポリマーフィルム26に塗布したが、本発明はこれに限られず、その他公知の塗布方法であってもよい。
【0036】
本発明における多孔体とは、表面に孔又は窪みを有する物体を指す。したがって、本発明における多孔体は、ポリマーフィルム26から剥がされた多孔フィルム15のみならず、表面26aに多孔フィルム15を有するポリマーフィルム26をも含む。多孔フィルム15のみを最終製品とする場合には、多孔フィルム15とポリマーフィルム26とを分離するための分離装置を、第4エリア24の下流側に設けてもよい。多孔フィルム15とポリマーフィルム26とを分離する方法としては、ポリマーフィルム26から多孔フィルム15を剥ぎ取る方法の他、ポリマーフィルム26を溶剤により溶解する方法等がある。更に、第4エリア24と分離装置との間にカット装置を設け、多孔フィルム15をポリマーフィルム26と共に切断してもよいし、分離装置よりも下流側にカット装置を設け、ポリマーフィルム26から分離された多孔フィルム15を切断してもよい。また、表面に多孔フィルム15を有するポリマーフィルム26を最終製品とする場合には、表面に多孔フィルム15を有するポリマーフィルム26を所定のサイズに切断するカット装置を、第4エリア24の下流側に設けてもよい。
【0037】
上記実施形態では、湿潤空気401を塗布膜62にあてて、結露により水滴65を露出面62aに形成したが、本発明はこれに限られず、インクジェットユニットを用いて、露出面62aに水滴を形成してもよい。インクジェットユニットは、インクジェットヘッド、ヘッド駆動部、コントローラを備え、一般的なインクジェットプリンタと同様な構造となっている。但し、インクの代わりに、多孔フィルムにおける孔の鋳型となる水滴を形成するため水が用いられる点で、一般的なインクジェットプリンタとは異なっている。インクジェットユニットにおける吐出方式は、ライン吐出方式、シリアル吐出方式の何れでもよい。
【0038】
(溶液)
本発明の多孔フィルムは、ポリマーが溶剤に溶解する溶液を用いる。溶液におけるポリマーの濃度は、塗布膜62が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。ポリマーの濃度が0.01質量%未満であると、多孔フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、ポリマーの濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液の粘性が増大するため、塗布膜62の形成が困難となるため、好ましくない。
【0039】
溶液の粘度は、1×10−4Pa・s以上1×10−1Pa・s以下であることが好ましい。溶液の粘度が1×10−1Pa・sを超えると、溶液の低い流動性に起因し、塗布膜における水滴の配列が起こりにくくなる結果、孔の形成ピッチにばらつきが生じる点で好ましくなく、溶液の粘度が1×10−4Pa・s未満であると、溶液の高い流動性に起因して、形成した水滴が連結する結果、孔の寸法にばらつきが生じる点で好ましくない。
【0040】
(ポリマー)
多孔フィルムの原料となるポリマーは、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0041】
(溶剤)
溶液を調製するための溶剤としては、疎水性であって、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。また、疎水性溶剤にアルコールやケトン類の親水性溶剤を添加することが好ましい。親水性溶剤の添加量は、20重量%以下であることが好ましい。
【0042】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0043】
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0044】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0045】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5であることが好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0046】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0047】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0048】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0049】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0051】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0052】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0053】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0054】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0055】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0056】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0057】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0058】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0059】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0060】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0061】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0062】
なお、溶液に、界面活性剤、可塑剤、酸化防止剤やその他の添加剤を添加してもよい。界面活性剤としては、例えば、ポリアクリルアミド等の両親媒性化合物がある。その他の両親媒性化合物としては、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、親油性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つもの、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。親油性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。親油性側鎖は、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。両親媒性化合物としては、市販される多くの界面活性剤のような単量体の他に、二量体や三量体等のオリゴマー、高分子化合物を用いることができる。
【実施例】
【0063】
(実験1〜実験8)
実験1〜実験8では、図1及び図3に示すように、多孔フィルム製造設備20において、各工程11〜12を行い、溶液33から多孔フィルム15を製造した。実験1〜実験8における各条件、すなわち低湿度工程11におけるポリマーフィルム26の雰囲気の湿度Hu1、低湿度工程11におけるポリマーフィルム26の温度T1、塗布準備工程におけるポリマーフィルム26の雰囲気の湿度Hu2、及び低湿度工程11完了後から塗布工程12開始までの時間P2は、表1に示す値であった。なお、実験8では、低湿度工程11、塗布準備工程を行わずに、ポリマーフィルム26を湿度70%RHの環境下に200秒間置き、その後塗布工程12を行った。
【0064】
得られた多孔フィルムにおける孔の径のばらつきを以下基準で評価した。変動係数は、多孔フィルムに形成した孔の径を測定し、径の標準偏差をX、径の平均値をYとするときに、X/Yで表される。
A:変動係数が5%未満であった。
B:変動係数が5%以上10%未満であった。
C:変動係数が10%以上15%未満であった。
D:変動係数が15%以上であった。
【0065】
表1に、実験1〜8における各パラメータHu1,T1,Hu2、P2、及び評価結果を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実験1〜8より、本発明により、孔の径のばらつきが小さい多孔フィルムを製造できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】多孔フィルムの製造工程を示す説明図である。
【図2】多孔フィルムの概要を示す説明図である。(a)は本発明に係る多孔フィルムの平面図、(b)は(a)のb−b線に沿う断面図、(c)は(a)のc−c線に沿う断面図であり、(d)は別の実施形態である多孔フィルムの断面図である。
【図3】多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図4】(a)は水分除去工程の概要を示す説明図であり、(b)は塗布工程の概要を示す説明図である。
【図5】(a)は水滴形成工程にて、塗布膜の露出面に湿潤空気をあてる様子を示し、(b)は湿潤空気との接触により、塗布膜から溶剤が蒸発し、露出面に水滴が形成する様子を示し、(c)は塗布膜から溶剤が蒸発し、露出面に形成した水滴が成長しながら、塗布膜にもぐりこむ様子を示す説明図である。(d)は、塗布膜と乾燥空気との接触により水滴が蒸発する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
10 多孔フィルム製造工程
11 低湿度工程
12 塗布工程
13 水滴形成工程
14 乾燥工程
15、16 多孔フィルム
15a、16a 孔
26 ポリマーフィルム
62 塗布膜
62a 露出面
64 溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーが疎水性溶剤に溶解する溶液の塗布により、塗布膜を支持体上に形成する塗布工程と、
前記塗布膜の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、
前記塗布膜を乾燥し、前記水滴を鋳型として、前記塗布膜に孔を形成する乾燥工程と、
前記溶液の塗布が行われる前の前記支持体を湿度50%RH以下の環境下に置く低湿度工程とを有することを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記低湿度工程では、前記支持体の温度を40℃以上にすることを特徴とする請求項1記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記低湿度工程と前記塗布工程との間で、前記支持体を湿度50%RH以下の環境下に置く塗布準備工程を行うことを特徴とする請求項1または2記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記低湿度工程または前記塗布準備工程の完了から60秒以内に前記塗布工程を行うことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記水滴形成工程では、前記塗布膜に湿潤空気をあて、結露により前記塗布膜の表面に水滴を形成することを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の多孔体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−77174(P2010−77174A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243642(P2008−243642)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】