説明

多孔性フィルム

【課題】吸水性および耐熱性に優れ、非水電解質電池のセパレータとして有用な多孔性フィルムを提供する。
【解決手段】(A)ポリエチレン系樹脂組成物 100質量部、および(B)吸水性フィラー 5〜200質量部を含む吸水性樹脂組成物からなる多孔性フィルムであって、ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、(A−1)下記(i)〜(iv)の特性を有するエチレン系重合体99〜60質量%、(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、(iii)110℃における結晶化度(Xc110)が10〜60%である、および(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1g/10分以上10g/10分未満である、および、(A−2)酸変性樹脂1〜40質量%を含み、ここで成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計が100質量%であり、吸水性フィラー(B)は、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有する、ここでD99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う、ところの多孔性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸水性および耐熱性に優れた多孔性フィルムに関する。特に、非水電解質電池用のセパレータとして好適に使用できる多孔性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池等の非水電解質一次電池やリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、非水溶媒に電解質を溶解した非水電解質を含み、電池の外部から内部への水分の浸入等によって電池内に水が存在すると劣化を生じる。なお、本明細書では、非水電解質一次電池と非水電解質二次電池をまとめて「非水電解質電池」という。
【0003】
そこで、本発明者は、非水電解質電池等において吸水材として使用され得る、吸水性に優れたフィルムに関する出願を先に行った(特願2007−196438)。上記吸水性フィルムは、ポリエチレン系樹脂組成物と特定の粒子径の吸水性フィラーを含む。上記ポリエチレン系樹脂組成物は、特定の物性を有するエチレン系重合体と酸変性樹脂とを含み、その結果得られるフィルムは、吸水性と共に耐熱性に優れ、かつ樹脂組成物と吸水性フィラーとの混和性向上により製膜性にも優れる。
【0004】
しかし、上記フィルムを非水電解質電池において吸水材として使用するとき、下記の点でさらに改善の余地がある。すなわち、非水電解質電池において生じる、水による不具合は、正極と負極との間で特に生じる。また、近年の電子機器の小型化に伴い、非水電解質電池の小型化、大容量化が求められている。
【0005】
一方、非水電解質電池の正極と負極との間には、セパレータが配置されている。これは、正極と負極とを隔離して短絡を防ぎ、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保するための重要な部品である。また、セパレータは、電池が通常の使用環境として想定される範囲内の温度では、セパレータ材料が熱溶融して電極間のイオン移動を遮断することがないように、耐熱性を必要とする。
【0006】
そこで、上記吸水性フィルムがセパレータとしても機能することができるならば、さらに有利である。
【0007】
電池用セパレータとして好適に使用できるフィルムとして、熱可塑性樹脂と充填材を含む多孔性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。このフィルムは、電解液の分解によって発生して電池性能を低下させ得るところのCO、CO、CHおよびCの1以上のガスを吸着することができるものであり、充填材として、カーボンブラックおよび炭酸カルシウムが使用されている。しかし、カーボンブラックおよび炭酸カルシウムは吸水機能が不十分である。また、カーボンブラックは導電性を有するので、セパレータ材に充填された場合、短絡による電池の故障を招く恐れがある。また、特許文献1には、熱可塑性樹脂と充填材との混和性を改善すべく酸変性樹脂を配合することについては何ら記載されていない。
【特許文献1】特開2004−139933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、先の吸水性フィルムは膜厚が均一で外観も良好である(ブツ等の欠陥がない)ので、それを延伸することによって均一な膜厚および良好な外観を有する多孔性フィルムが得られること、および得られた多孔性フィルムは、電極間に配置されると、吸水材として機能するだけでなく、セパレータとしても機能することができ、したがって、電池の小型化、大容量化の要求も損なわないことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)ポリエチレン系樹脂組成物 100質量部、および
(B)吸水性フィラー 5〜200質量部
を含む吸水性樹脂組成物からなる多孔性フィルムであって、ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、
(A−1)下記(i)〜(iv)の特性を有するエチレン系重合体99〜60質量%、
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化度(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1g/10分以上10g/10分未満である
および、
(A−2)酸変性樹脂1〜40質量%
を含み、ここで成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計が100質量%である、吸水性フィラー(B)は、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有する、ここでD99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う、ところの多孔性フィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔性フィルムは、膜厚が均一で外観も良好であり(ブツ等の欠陥がない)、かつ吸水性および耐熱性に優れる。したがって、非水電解質電池の電極間に配置されると、吸水材兼セパレータとして機能することができ、電池の小型化、大容量化の点において非常に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多孔性フィルムは、(A)ポリエチレン系樹脂組成物および(B)吸水性フィラーを特定量で含む吸水性樹脂組成物からなるフィルムを多孔性にしたものである。
【0012】
(A)ポリエチレン系樹脂組成物
ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、エチレン系重合体(A−1)および酸変性樹脂(A−2)を含む。
【0013】
(A−1)エチレン系重合体
エチレン系重合体は、十分な耐熱性およびフィラーとの十分な混和性を有するように、下記(i)〜(iv)を満たすことが必要である。
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化度(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1g/10分以上10g/10分未満である。
【0014】
上記ピークトップ融点(Tm)が110℃より低いと、耐熱性が不充分になる場合がある。上記ピークトップ融点(Tm)は、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上である。
【0015】
また、上記融解熱量(ΔH)が90J/g未満であると、耐熱性が不充分になる場合があり、180J/gを超えるとフィラーとの混和性が不十分になり、製膜性に劣る場合がある。上記融解熱量(ΔH)は、好ましくは100〜170J/gである。
【0016】
また、上記結晶化度(Xc110)が10%未満では耐熱性が不充分になる場合があり、60%を超えるとフィラーとの混和性が不十分になり、製膜性に劣る場合がある。上記結晶化度(Xc110)は、好ましくは15〜45%である。なお、110℃における結晶化度とは、DSC融解曲線における融解熱量ΔH全体に対する110℃以上での融解熱量の割合を意味する。
【0017】
さらに、上記MFRが10g/10分以上では、ポリエチレン系樹脂組成物(A)と吸水性フィラー(B)との混和性が不充分になる場合や、フィルム製膜時の引落性が低下する場合があり、0.1g/10分未満では、フィルムの肉厚調整が困難になる場合がある。上記MFRは、好ましくは0.2〜7g/10分、最も好ましくは0.5〜5g/10分である。
【0018】
なお、本明細書において、DSC融解曲線は、特に断らない限り、TA Instruments(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社)のDSC Q1000型を使用し、試料を190℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で190℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる曲線である。
【0019】
本発明におけるエチレン系重合体は、上記(i)〜(iv)の要件を満たすものであれば特に制限されない。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンとα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等)とのコポリマーが挙げられる。酢酸ビニル、メチルアクリレート、エチルアクリレートなどをコモノマーとするエチレンコポリマーは、コモノマーによる結晶性低下が大きいため、上記(i)〜(iv)の要件を満たすことが難しい。
【0020】
エチレン系重合体は、1種を単独で、または2種以上を任意に配合した混合物として使用することが出来る。混合物として使用する場合には、混合物全体が上記要件(i)〜(iv)を満たすようにすればよい。
【0021】
(A−2)酸変性樹脂
酸変性樹脂は、疎水性であるエチレン系重合体(A−1)と親水性である吸水性フィラー(B)との混和性を改良して吸水性フィラーの分散を促進し、製膜したときにフィルムにブツなどの欠点が発生しないようにするための成分である。
【0022】
本発明に使用する酸変性樹脂は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された樹脂であれば何でも良い。不飽和カルボン酸の例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が挙げられ、その誘導体の例としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等のエステルおよび無水物が挙げられる。上記樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル(VA)共重合体、エチレン−エチルアクリレート(EA)共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体などのエチレン系重合体、プロピレン系重合体、スチレン系エラストマーが挙げられる。エチレン系重合体(A−1)との混和性の点から、上記樹脂がエチレン系重合体であるものが最も好ましい。
【0023】
酸変性樹脂は、好ましくは0.1〜10g/10分のMFR(190℃、21.18N)を有する。さらに好ましくは、0.2〜7g/10分、最も好ましくは0.5〜5g/10分である。MFRが上記上限より高いと、フィルム製膜時の引落性が低下する場合がある。MFRが上記下限より低いと、フィルムの肉厚調整が困難になる場合がある。
【0024】
酸変性樹脂の具体例としては、三井化学(株)製のアドマー(商品名)、日本ポリオレフィン(株)製のアドテックス(商品名)、クロンプトン社製のポリボンド(商品名)および住友化学(株)製のボンドファースト(商品名)が挙げられる。
【0025】
酸変性樹脂は、単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、エチレン系重合体(A−1)99〜60質量%および酸変性樹脂(A−2)1〜40質量%を含む。より好ましくは、エチレン系重合体(A−1)97〜70質量%および酸変性樹脂(A−2)3〜30質量%であり、更に好ましくは、エチレン系重合体(A−1)95〜80質量%および酸変性樹脂(A−2)5〜20質量%である。酸変性樹脂(A−2)が少ない(すなわち、エチレン系重合体(A−1)が多い)と、吸水性フィラー(B)の分散が不充分になり、製膜の際に目脂が多く発生したり、得られるフィルムにブツなどの欠点が発生し易くなったりする。一方、酸変性樹脂(A−2)が多い(すなわち、エチレン系重合体(A−1)が少ない)と、酸変性樹脂と吸水性フィラーとの相互作用が非常に強くなり、吸水性樹脂組成物の製造時の混練負荷や製膜時の押出負荷が高くなる場合がある。また、得られるフィルムの引張伸びが低下する場合がある。
【0027】
(B)吸水性フィラー
吸水性フィラーは、吸水性を有し、溶剤に溶出しない安定的なものであればどのようなものでも良い。例えば、硫酸マグネシウム、酸化アルミニウム、シリカゲル、石灰、焼成ハイドロタルサイトおよびモレキュラーシーブが挙げられ、これらを、単独で、または2種以上の組み合わせで使用することができる。中でも、モレキュラーシーブが好ましく、特定の細孔径、例えば1.0nm以下、好ましくは0.5nm以下の細孔径を有するモレキュラーシーブが特に好ましい。細孔径が1.0nmより大きいと、水だけでなく、電解液も吸着する場合がある。上記細孔径の下限は、水とともにCOやCOガスをも吸着する点で、好ましくは0.30nmである。このような細孔径を有するモレキュラーシーブの具体例として、モレキュラーシーブ4Aおよび5Aが挙げられる。
【0028】
吸水性フィラーは、ポリエチレン系樹脂組成物に良好に分散されてブツなどの欠点のない均一なフィルムが得られるように、制御された粒子径分布を有するものが使用される。すなわち、本発明で使用される吸水性フィラーは、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有し、ここでD99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う。D99は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。また、D50は、好ましくは0.01〜15μm、より好ましくは0.1〜10μmである。上記上限を超えるような粒子の粗いフィラーは、製膜したときに、フィルムの欠点や異物となる場合がある。また、粒子の細か過ぎるフィラーは、凝集してフィルムの欠点や異物になったり、凝集しなかった場合には多量の空気を抱き込んで吸水性樹脂組成物製造の際の溶融混練作業性を悪くしたりする場合がある。粒子径分布を制御するには、大きな粒子を生成してそれを粉砕、分級する方法、及び最初から細かい粒子を生成して分球する方法がある。粒子径分布を上記範囲内に制御出来るならどちらの方法でも良く、特に限定はされないが、押出負荷および製膜性の観点から、細かい粒子を最初から生成する方法がより好ましい。
【0029】
本発明にかかる吸水性樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂組成物(A)100質量部に対して吸水性フィラー(B)を5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは15〜120質量部の量で含む。吸水性フィラー(B)の配合量が上記下限未満の場合には、充分な吸水機能が得られず、上記上限を超えると、製膜性が低下する場合がある。
【0030】
本発明にかかる吸水性樹脂組成物は、上記成分の他に、必要に応じて、スリップ剤、リン系、フェノール系、硫黄系などの酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの耐候剤、銅害防止剤、芳香族リン酸金属塩系、ゲルオール系などの造核剤、グリセリン脂肪酸モノエステルなどの帯電防止剤、着色剤、芳香剤、抗菌剤、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク、金属水和物などのフィラー、グリセリン脂肪酸エステル系、パラフィンオイル、フタル酸系、エステル系などの可塑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0031】
上記スリップ剤は、吸水性樹脂組成物の製造時の溶融混練作業性を向上させ、また製膜時のダイカスや目脂などの発生を回避することが出来る。スリップ剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、シリコンガム、シリコンオイルなどが挙げられる。スリップ剤の添加量は、ポリエチレン系樹脂組成物(A)100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。
【0032】
本発明にかかる吸水性樹脂組成物は、上記成分(A−1)、(A−2)および(B)ならびに所望により任意の添加剤を溶融混練することにより得ることが出来る。溶融混練は、二軸押出機、バンバリーミキサーなどの慣用の装置を使用して行うことができる。混練温度は、製膜時の吸湿発泡トラブルを回避するため、フィルム製膜温度よりも高くすることが好ましい。得られた組成物は、造粒機によってペレット化した後、Tダイ等を使用する通常の製膜に付することができるが、その場合には、ペレット化を、ホットカット法などの水を介在させない方法で行うことが好ましい。また真空ベントを設けたり、ギヤポンプ等を介したりしても良い。更に、ペレット化することなく、直接製膜に付する方法、例えば、溶融混練して得られた組成物をそのままギヤポンプ等を介してTダイに送って製膜する方法を使用することもできる。
【0033】
本発明の多孔性フィルムは、上記で得られたフィルムに多孔性を付与することにより得られる。多孔性を付与する方法は特に制限されず、例えば下記が挙げられる。
1.吸水性樹脂組成物に化学発泡剤をあらかじめ配合しておき、フィルム状にした後、適切な温度で発泡剤を分解する。
2.フィルムに超臨界流体の二酸化炭素などを含浸させた後、気化させる。
3.吸水性樹脂組成物に可塑剤等をあらかじめ配合しておき、フィルム状にした後、可塑剤を適切な方法で抽出する。
4.フィルムを適切な温度で延伸して、結晶と非晶との界面や樹脂とフィラーとの界面でミクロボイドを発生させる。
5.切削刃、針等によりフィルムに機械的に孔を開ける。
【0034】
中でも、上記4および5の方法は、追加の物質を必要としないので不必要な吸着が制限されるという点で好ましい。また、多孔性を付与する前の本発明におけるフィルムは膜厚が均一で外観も良好である(ブツ等の欠陥がない)ので、それを延伸することにより均一な膜厚および良好な外観を有する多孔性フィルムが得られる点から、上記4の方法が特に好ましい。延伸倍率は、吸収性フィラーの種類と配合量により適宜調節されるが、通常は縦、横それぞれ1.1〜8倍、好ましくは1.2〜5倍程度である。延伸温度は、フィルムのベースであるエチレン系重合体(A−1)の特性により適宜調節されるが、多孔性を付与する目的から、通常の延伸条件よりは低めの温度が好ましい。具体的には、延伸温度におけるエチレン系重合体(A−1)の結晶化度が70%以下であるように選択される。
【0035】
こうして得られる本発明の多孔性フィルムは、外観が良好で穴開き等の欠陥もないので短絡の恐れがなく、厚さも均一であるため、各セルでの起電力のバラツキがない。また、十分な吸水性および耐熱性を有する。したがって、非水電解質電池におけるセパレータとして有利に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜5および比較例1〜12
表1に示す配合量(質量部)の成分をドライブレンドし、(株)日本製鋼所の二軸押出機TEX28により溶融混練して吸水性樹脂組成物を得た後、そのままギヤポンプを介し、東芝機械(株)製のTダイを用いて製膜して、膜厚100μmのフィルム(a)を得た。製造条件は以下の通りである。
二軸押出機出口樹脂温度 220℃(真空ベント使用)
ギヤポンプ出口樹脂温度 220℃
Tダイ出口樹脂温度 220℃
チルロール温度 40℃
引取速度 6m/分
次いで、上記で得られたフィルム(a)について、東洋精機製作所(株)のテーブル型試験用延伸装置を使用して表1に記載の延伸温度で縦、横それぞれ1.6倍に延伸して、膜厚40μmの多孔性フィルム(b)を得た。得られた多孔性フィルム(b)を、露点温度−50℃以下にしたガス置換型グローブボックス(アズワン株式会社のSG−1000)の中に保管した。下記(1)〜(6)の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(1)フィルム外観
製膜後のフィルム(a)および延伸後のフィルム(b)の各々について、A4サイズに裁断したもの5枚を目視で観察し、以下の基準で判定した。なお、以下の基準におけるブツの数は、5枚のフィルムにおける合計数である。
○:直径0.1mm以上のブツがない。
△:直径0.5mm以上のブツはないが、直径0.1mm〜0.5mm未満のブツが1〜10個ある。
×:直径0.5mm以上のブツが1以上ある。
【0039】
(2)膜厚安定性
製膜後のフィルム(a)および延伸後のフィルム(b)の各々について、フィルム幅の中心付近をマシン方向に2cm毎に20個所の膜厚を測定し、その標準偏差が1.5μm以下を「○」、1.5μmを超えて3.0μm以下を「△」、3.0μmを超えるものを「×」とした。
【0040】
(3)溶剤中の水分吸収能力
ジメチルカーボネート(DMC)/ジエチルカーボネート(DEC)/エチレンカーボネート(EC)=1/1/1(容積比)に水を極少量混合し、試験液とした。この試験液中の水分量をカールフィッシャー容量滴定装置(平沼産業株式会社のAQ-300)により測定した(初期の水分量)。次いで、この試験液30g中に450cmのフィルム(b)を浸漬し、25℃×48時間保管後の試験液中の水分量を同様に測定した。なお、以上の操作を、アイ・エイ・シー株式会社のエアードライヤーQD20−75により露点温度−50℃以下にしたガス置換型グローブボックス(アズワン株式会社のSG−1000)中で25℃で行った。
【0041】
(4)大気中の水分吸収能力
内容積400cmの透明防湿袋に6000cmのフィルム(b)と上記グローブボックス中で状態調節した神栄株式会社のハンディタイプ温湿度計Hygropalm1を入れてヒートシールにより封止し、封止直後(初期)および25℃×15分後の絶対湿度を測定した。測定は25℃で行った。
【0042】
(5)透気度
フィルム(b)の透気度を旭精工(株)の王研式透気度試験機を使用して測定した。上記透気度は、その値が小さいほど、多孔性が大きいことを示す。
【0043】
(6)耐熱性
株式会社東洋精機製作所のHG−100型ヒートシール試験機を用い、80〜130℃の所定のシール温度でフィルム(b)をその縦延伸方向がT字剥離試験の引張方向になるように融着した(3秒間、圧力0.2MPa)。次いで、T字剥離試験を、株式会社東洋精機製作所のAE−CT型引張試験機を使用し、引剥幅25mm、引剥速度100mm/分、引剥角度180°で行った。より高いシール温度まで○判定になるものが耐熱性の良いフィルムである。
○:全くあるいは殆ど融着していない(引剥強度<0.1N/25mm)
△:僅かに融着している(引剥強度0.1〜2.0N/25mm)
×:融着している(引剥強度>2.0N/25mm)
【0044】
使用した材料は以下の通りである。
成分(A−1)のための材料:
KF271:日本ポリエチレン(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=127℃、ΔH=127J/g、Xc110=26%、Xc120=23%、MFR=2.4g/10分、密度913kg/m
SP2040:プライムポリマー(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=117℃、ΔH=147J/g、Xc110=28%、MFR=4.0g/10分、密度920kg/m
UF240:日本ポリエチレン(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=123℃、ΔH=136J/g、Xc110=47%、MFR=2.1g/10分、密度920kg/m
SP2520:プライムポリマー(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=121℃、ΔH=154J/g、Xc110=38%、Xc120=19%、MFR=1.7g/10分、密度928kg/m
【0045】
成分(A−1)の比較のための材料:
F−730NV:プライムポリマー(株)製、プロピレンランダムコポリマー、Tm=139℃、Xc120=66%、MFR=7g/10分
SP4530:プライムポリマー(株)製、高密度ポリエチレン、Tm=132℃、ΔH=185J/g、Xc110=80%、Xc120=72%、MFR=2.8g/10分、密度942kg/m
KS571:日本ポリエチレン(株)製、超低密度ポリエチレン、Tm=96℃、ΔH=110J/g、Xc110=0%、MFR=12.0g/10分、密度907kg/m
KF360:日本ポリエチレン(株)製、超低密度ポリエチレン、Tm=111℃、ΔH=92J/g、Xc110=5%、MFR=3.5g/10分、密度898kg/m
20200J:プライムポリマー(株)製、直鎖状低密度ポリエチレン、Tm=120℃、ΔH=137J/g、Xc110=43%、MFR=18.5g/10分、密度918kg/m
【0046】
成分(A−2)のための材料:
アドマーXE070:三井化学(株)製、無水マレイン酸変性エチレン系重合体、MFR=3 g/10分
【0047】
成分(B)のための材料:
モレキュラーシーブ4A:ユニオン昭和(株)製のモレキュラーシーブ4Aパウダー、細孔径=0.35nm、D99=9.9μm、D50=2.5μm
モレキュラーシーブ5A:ユニオン昭和(株)製のモレキュラーシーブ5Aパウダー、細孔径=0.42nm、D99=9.9μm、D50=2.5μm
硫酸マグネシウム:馬居化成工業(株)製の乾燥硫酸マグネシウムSN−00、D99=118μm、D50=24μm
カーボンブラック:電気化学工業株式会社製、D99=2.1μm(凝集体としての値)、D50=0.5μm(凝集体としての値)
炭酸カルシウム:備北粉化工業(株)製のソフトン1800、D99=17μm、D50=2.8μm
【0048】
その他の材料:
LBT−77:堺化学工業(株)製のポリエチレンワックス
【0049】
なお、上記F−730NVおよびSP4530については、DSC測定を、230℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱するという温度プログラムを使用して行った。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、実施例1〜5の本発明の多孔性フィルムは外観、膜厚安定性および吸水性に優れ、透気度もあり、かつ耐熱性も電池のセパレータ用として十分である。なお、非水電解質電池は、安全機構の一つとして、電池が100〜130℃の高温に曝されるとセパレータの材料が熱溶融して孔を塞ぎ、電極間のイオンのやり取りを止める(シャットダウン)という機構を有する。したがって、セパレータは、100℃までは熱溶融しない耐熱性を必要とする。
【0052】
一方、成分(A−1)としてプロピレン系重合体を使用した比較例1およびΔHおよびXc110が高過ぎるものを使用した比較例2では、製膜の段階で吸水性フィラーの分散が不充分でフィルム(a)に細かいブツが残り、膜厚安定性も悪く、したがって上手く延伸することが出来ず、多孔性フィルム(b)が得られなかった。成分(A−1)として、Tmおよび/またはXc110が低過ぎるものを使用した比較例3および4のフィルムは、耐熱性に劣り、電池のセパレータ用として不充分である。成分(A−1)として、MFRが高すぎるものを使用した比較例5では、吸水性フィラーの分散が不充分でフィルム(a)に細かいブツが残り、膜厚安定性も悪く、したがって上手く延伸することが出来ず、多孔性フィルム(b)が得られなかった。
【0053】
成分(A−2)の量が多すぎる比較例6では、製膜時に押出負荷が非常に高く、吐出量が不安定になり、フィルム(a)の膜厚安定性に劣った。その結果、上手く延伸することが出来ず、多孔性フィルム(b)を得られなかった。成分(A−2)を使用しなかった比較例7では、吸水性フィラーの分散が不充分で製膜時に目脂が発生し、フィルム(a)に細かいブツが残り、膜厚安定性も不十分であった。したがって、延伸後のフィルム(b)の外観および膜厚安定性も不十分であった。
【0054】
吸水性フィラー(B)の量が多すぎる比較例8では、フィルム(a)の膜厚が極端に不安定であり、上手く延伸することが出来ず、多孔性フィルム(b)が得られなかった。吸水性フィラー(B)の量が少なすぎる比較例9のフィルムは、吸水機能に劣る。また、透気度の値からみて多孔性が付与されておらず、セパレータとしては使用出来ない。吸水性フィラー(B)として粒子径の粗いものを使用した比較例10では、フィルム(a)にブツが非常に多くあり、膜厚安定性も不十分であり、したがって上手く延伸することが出来ず、多孔性フィルム(b)が得られなかった。吸水性フィラー(B)の代わりにカーボンブラック(比較例11)または炭酸カルシウム(比較例12)を使用したフィルムは、吸水機能に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレン系樹脂組成物 100質量部、および
(B)吸水性フィラー 5〜200質量部
を含む吸水性樹脂組成物からなる多孔性フィルムであって、
ポリエチレン系樹脂組成物(A)は、
(A−1)下記(i)〜(iv)の特性を有するエチレン系重合体99〜60質量%、
(i)DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が110℃以上である、
(ii)DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が90〜180J/gである、
(iii)110℃における結晶化度(Xc110)が10〜60%である、および
(iv)MFR(190℃、21.18N)が0.1g/10分以上10g/10分未満である
および、
(A−2)酸変性樹脂1〜40質量%
を含み、ここで成分(A−1)と成分(A−2)の量の合計が100質量%であり、
吸水性フィラー(B)は、30μm以下の粒子径(D99)および20μm以下の粒子径(D50)を有する、ここでD99およびD50はそれぞれ、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%および50質量%になる点における粒子径を言う、
ところの多孔性フィルム。
【請求項2】
(B)吸水性フィラーが、細孔径1.0nm以下のモレキュラーシーブである請求項1に記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
少なくとも一軸方向に1.1〜8倍延伸することにより多孔性を付与された請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の多孔性フィルムを吸水材として有する非水電解質電池。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の多孔性フィルムをセパレータとして有する非水電解質電池。

【公開番号】特開2009−256404(P2009−256404A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104001(P2008−104001)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】