説明

多孔性素材の紫外線処理方法及び処置装置

【課題】多孔性素材の表面のみならず細孔内も効率的に紫外線処理する方法及び処理装置を提供する。
【解決手段】 微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で前記多孔性素材の裏面から吸引することにより、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填する充填工程と、前記充填工程後、前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質する改質工程とを有する多孔性素材の紫外線処理方法。 反応室100内に配管20から微量の酸素を含む混合ガスを導入し、多孔性支持体32により多孔性素材1を支持し、かつ多孔性素材1の裏面から混合ガスを吸引した後、多孔性素材1に紫外線ランプ10から紫外線を照射し、多孔性素材1の細孔内を改質する多孔性素材の紫外線方処理方法および処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性素材を紫外線処理する方法及び処理装置に関し、特に多孔性プラスチックフィルムの表面及び細孔内を紫外線処理する方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、ガラス、セラミックス、金属、半導体等の疎水性表面を親水化する方法として、紫外線処理が用いられることがある。これは紫外線により表面の異物を除去する効果と、紫外線照射により被処理物表面の化学結合が切れ、そこに親水性を示す官能基が生成されることによる。
【0003】
一方多孔性素材は電池のセパレーターや、フィルター、気体分離、再生医療の培地等様々な分野で使用されており今後も多くの多孔性素材が使用されると予想される。
【0004】
しかしながら多孔性素材の表面だけではなく細孔内も親水化処理する必要がある場合、従来提案されている表面処理方法は被処理物の表面のみを改質する方法が大半である。数少ない報告の中で特許文献1(特開2007−302806号公報)は大気下でプラズマ処理によって細孔内を処理しようという試みを行っている。今後、多孔質細孔内処理を目的とした更に多くの処理方法及び、処理装置が必要になると考えられる。
【特許文献1】特開2007−302806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、多孔性素材の表面のみならず細孔内も効率的に紫外線照射により改質するする方法及び処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、多孔性素材を紫外線処理する方法において、微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で前記多孔性素材の裏面から吸引することにより、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填する充填工程と、前記充填工程後、前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質する改質工程とを有する多孔性素材の紫外線処理方法である。
請求項2に記載の発明は、多孔性素材を紫外線処理する方法において、微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に吹き付け、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填する充填工程と、前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質する改質工程とを有する多孔性素材の紫外線処理方法である。
請求項3に記載の発明は、反応室と、前記反応室内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するガス導入手段と、前記反応室内で多孔性素材を支持するとともに前記多孔性素材の裏面から前記混合ガスを吸引する支持手段と、前記多孔性素材に紫外線を照射する紫外線処理手段とを備え、前記ガス導入手段により導入された混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で前記支持手段によって前記多孔性素材の裏面から吸引し、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填した後、前記紫外線処理手段によって前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質するように構成したことを特徴とする多孔性素材の紫外線処理装置である。
請求項4に記載の発明は、反応室と、前記反応室内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するとともに多孔性素材に前記混合ガスを吹き付けるガス吹付け手段と、前記反応室内で多孔性素材を支持する支持手段と、前記多孔性素材に紫外線を照射する紫外線処理手段とを備え、前記ガス吹付け手段により前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填した後、前記紫外線処理手段によって前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質するように構成したことを特徴とする多孔性素材の紫外線処理装置である。
請求項5に記載の発明は、前記支持手段が、前記多孔性素材を搬送する機能を兼ね備え、前記多孔性素材を前記反応室に連続的に搬送しながら、前記紫外線処理を行うように構成したことを特徴とする請求項3または4に記載の紫外線処理装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔性素材の紫外線処理方法及び処理装置によれば、多孔性素材の表面のみならず細孔内も効率的に改質することができる。特に本発明の紫外線処理を受けたプラスチック微多孔膜は、表面のみならず細孔内も親水化されており、電池用セパレーター、各種フィルター、各種機能性素材の担体等として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[1] 多孔性素材
本発明の紫外線処理方法を適用できる多孔性素材の材質は特に制限されず、例えば各々多孔性を有するプラスチック、ガラス、セラミックス、金属、半導体等が挙げられる。多孔性素材の形状も特に制限されないが、フィルム状又は板状であるのが好ましい。中でも多孔性プラスチックフィルムが好ましい。多孔性プラスチックフィルムとしては、熱可塑性樹脂微多孔膜、熱可塑性樹脂不織布等が挙げられる。これら微多孔膜又は不織布を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(PO)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド等が挙げられる。
ここで本発明でいう多孔性素材とは、空孔率が30〜80%の範囲内であって、且つ、JIS P8117で測定される透気度が5秒〜2000秒の範囲のものをさす。
【0009】
[2] 紫外線処理方法及び処理装置
本発明の方法では、(a) 微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で多孔性素材の裏面から吸引することにより、混合ガスを多孔性素材の細孔内に充填し(充填工程)、多孔性素材に紫外線照射区域を通過させ、細孔内を改質するか(改質工程)、(b) 混合ガスを所定の流量で多孔性素材に吹き付け、混合ガスを多孔性素材の細孔内に充填し(充填工程)、多孔性素材に紫外線照射区域を通過させ、細孔内を改質するか(改質工程)、のいずれかの方法が採用される。
【0010】
[3]紫外線源
本発明において紫外線源は十分な効果が得られるものであれば特に限定はしない。
【0011】
[4]混合ガス
混合ガスは多孔性素材の材質に応じて適宜選択するが、通常の紫外線照射処理においてパージガスとして使用される窒素を主成分とするものが好ましい。窒素ガス以外の不活性ガスを用いても良いがコストの面で不利である。また酸素量も適宜選択するが、あまり混合しすぎると紫外線照射により酸素からオゾンへ変化する際に紫外線がエネルギーを奪われてしまい十分な紫外線処理ができなくなる。従って酸素の混合率は1vol%〜15vol%程度が最適である。
【0012】
[5]処理時間
処理時間は、所望の特性を得られれば特に限定はしないが処理時間があまり短いと十分な効果が得られない。
【0013】
以下フィルム状の多孔性素材を紫外線処理する場合を例にとり、図面を参照して詳細に説明する。図1は、フィルム状の多孔性素材1をプラズマ処理する装置の一例を示す概略図である。この例では、フィルム状の多孔性素材1をバッチ式に紫外線処理する。この装置は、反応室100と、反応室100内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するガス導入手段としての管20と、反応室100内で多孔性素材1を支持するとともに多孔性素材1の裏面から混合ガスを吸引する支持手段としての板状の多孔性支持体32と、多孔性素材1に紫外線を照射する紫外線処理手段としての紫外線ランプ10とを備える。多孔性支持体32は、厚さ方向及び多孔性素材1に接する面方向に連通する細孔を有し、配管33を介して減圧手段34と接続され、多孔性素材1の裏面から混合ガスを吸引することができる。また、試料台31は、多孔性支持体32をさらに支持する機能を有する。混合ガスは、流量コントローラ21によって流量が調節される。
【0014】
フィルム状の多孔性素材1を多孔性支持体32上に固定し、流量コントローラ21により流量を調節しながら反応室100内に混合ガスを導入し、紫外線ランプ10を点灯させる。多孔性素材1は多孔性支持体32上に固定され、かつ減圧手段34によって多孔性素材1および多孔性支持体32を介して混合ガスを吸引するようにしているので、混合ガスが多孔性素材1中を通過することができる。そのため多孔性素材1の全表面及び細孔内に微量の酸素が導入でき、紫外線処理を施すことにより、細孔内に酸素由来の官能基が生成し、改質される。なお前述のように、混合ガスを所定の流量で多孔性素材に吹き付け、混合ガスを多孔性素材の細孔内に充填することもできる。この形態では、図1において、図示しない吹付け手段を別途反応室内に設定し、混合ガスを多孔性素材1の表面に吹き付けるようにしてもよい。いずれの形態においても、反応室100内の空気を除去し、また、反応室内への空気の侵入を防ぎ、反応室100内の酸素量、水分量をコントロールすることが好ましい。混合ガスの流量は、例えば10〜200 lsmである。混合ガスの流量は、例えば多孔質素材1の裏面からの混合ガス吸引量により調整することもできる。また、明確に図示していないが、反応室100は、混合ガス以外のガスが混入しないように気密状態を保てるように構成されていてもよい。ただし、反応室100内に混合ガスを過剰に導入する場合には、この限りではない。
【0015】
図2は、ロール状のフィルム状の多孔性素材1を紫外線処理する装置の例を示す概略図である。図2において、この装置は、反応室100と、反応室100内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するガス導入手段としての管20と、多孔性素材1に紫外線を照射する紫外線処理手段としての紫外線ランプ10を備えていることは図1と同様であるが、多孔性素材1のロールの巻き出し機構35、巻き取り機構36を備えており、反応室内100に多孔性素材1を連続的に搬送し、紫外線処理を行うことができる。搬送手段としては、多孔質ロール37が用いられ、反応室100内の紫外線ランプ10にほぼ対向する位置に設置されている。多孔質ロール37は、配管33を介して真空ポンプのような減圧手段34と連結されており多孔性素材1の裏面を吸引しながら回転し、多孔性素材1を搬送することができる。また、明確に図示していないが、図1と同様に、反応室100は、混合ガス以外のガスが混入しないように気密状態を保てるように構成されていてもよい。ただし、反応室100内に混合ガスを過剰に導入する場合には、この限りではない。
【0016】
巻き取り速度(多孔性素材1の搬送速度)は混合ガスの流量と改質速度によって変化するが、概ね1m/min〜200m/minぐらいが適当である。
【0017】
以上のような紫外線処理方法および装置により、多孔性素材1の表面のみならず細孔内を処理することができる。ポリオレフィン系(PO)の微多孔膜を処理した場合、カルボキシル基、カルボニル基等の含酸素官能基を導入でき、親水性が向上する。特に本発明の紫外線照射処理を受けたPO微多孔膜は、電池用セパレーター、各種フィルター、各種機能性素材の担体等として有用である。
【0018】
紫外線は深さ方向全体にわたり、照射することができる。したがって、細孔内に酸素を含む混合ガスを充填させることにより、深さ方向すべてにわたって細孔内を親水性に改質することが可能となる。
【実施例】
【0019】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
図1に示すバッチ式装置を用いて、大気圧下でポリエチレン(PE)微多孔膜[商品名:セティーラ、東燃化学(株)製、10cm×10cm、厚さ:30μm、空孔率60%、透気度(JIS P8117)100秒]を紫外線処理した。処理区域の多孔性支持体でできた試料台30上に、PE微多孔膜1を固定した。処理区域に酸素3%混合乾燥窒素ガスを供給しながら紫外線ランプ10(岩崎電気社製:UEEX503)を点灯させた。多孔性支持体32に接続したポンプ(減圧手段34)で吸引しながら、3分間照射した。混合ガスの流量は、100 lsmとした。
【0021】
紫外線処理を施したPE微多孔膜1の両面について、純水に対する接触角(以下特段の断りがない限り、単に「水接触角」という)を測定したところ、上面(紫外線ランプ10側の面)では40°であり、下面(多孔性支持体32側の面)では50°であった。なお測定機としては、協和界面科学株式会社製の接触角計を用いた。PE微多孔膜の初期接触角は120°なので、細孔内を抜けて裏面まで処理されたといえる。
【0022】
実施例2
PE微多孔膜の裏面からの吸引を行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして、大気圧下でPE微多孔膜を紫外線処理した。このとき、混合ガスの流量を200 lsmとし、混合ガスをPE微多孔膜に吹き付けるようにした。得られたPE微多孔膜の両面の水接触角を測定したところ、上面では40°であり、下面では70°であった。下面まで効果的に紫外線処理されていることが分かった。
【0023】
比較例1
混合ガスを用いずにアルゴンガスのみを用いた以外は実施例1と同様にして、PE微多孔膜を紫外線処理した。得られたPE微多孔膜の両面の水接触角を測定したところ、上面では110°であったが、下面では114°であった。紫外線処理したPE微多孔膜の両面について酸素由来の官能基が導入されず、接触角が下がらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】フィルム状の多孔性素材をプラズマ処理する装置の一例を示す概略図である。
【図2】ロール状のフィルム状の多孔性素材を紫外線処理する装置の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 多孔性素材、10 紫外線ランプ、20 ガス導入手段としての管、32 多孔性支持体、34 減圧手段、37 多孔質ロール、100 反応室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性素材を紫外線処理する方法において、微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で前記多孔性素材の裏面から吸引することにより、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填する充填工程と、前記充填工程後、前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質する改質工程とを有する多孔性素材の紫外線処理方法。
【請求項2】
多孔性素材を紫外線処理する方法において、微量の酸素を含む混合ガスを、前記多孔性素材に吹き付け、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填する充填工程と、前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質する改質工程とを有する多孔性素材の紫外線処理方法。
【請求項3】
反応室と、前記反応室内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するガス導入手段と、前記反応室内で多孔性素材を支持するとともに前記多孔性素材の裏面から前記混合ガスを吸引する支持手段と、前記多孔性素材に紫外線を照射する紫外線処理手段とを備え、前記ガス導入手段により導入された混合ガスを、前記多孔性素材に接触させた状態で前記支持手段によって前記多孔性素材の裏面から吸引し、前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填した後、前記紫外線処理手段によって前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質するように構成したことを特徴とする多孔性素材の紫外線処理装置。
【請求項4】
反応室と、前記反応室内に微量の酸素を含む混合ガスを導入するとともに多孔性素材に前記混合ガスを吹き付けるガス吹付け手段と、前記反応室内で多孔性素材を支持する支持手段と、前記多孔性素材に紫外線を照射する紫外線処理手段とを備え、前記ガス吹付け手段により前記混合ガスを前記多孔性素材の細孔内に充填した後、前記紫外線処理手段によって前記多孔性素材に紫外線処理を施し、前記細孔内を改質するように構成したことを特徴とする多孔性素材の紫外線処理装置。
【請求項5】
前記支持手段が、前記多孔性素材を搬送する機能を兼ね備え、前記多孔性素材を前記反応室に連続的に搬送しながら、前記紫外線処理を行うように構成したことを特徴とする請求項3または4に記載の紫外線処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195786(P2009−195786A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38313(P2008−38313)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】