説明

多孔質フィルターカートリッジ及びその製造方法

【課題】自動機を用いたハンドリングにより薄膜をキャップ部材内に挿入・固定するに際し、特殊な装置を用いずに、ハンドリング起因による薄膜の浮き上がりが防止される多孔質フィルターカートリッジ及びその製造方法を得る。
【解決手段】底部13の中央に開口15が形成された有底筒状のキャップ11の内側で、多孔質フィルター25が底部13に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、キャップ11の内周面29の底部13側で、この内周面29の周上の一部に、キャップ11の内側に突出して多孔質フィルター25の外周端25bを屈曲させる凸状リブ31を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルターが有底筒体キャップの底部に保持された多孔質フィルターカートリッジ及びその製造方法に関し、特に、多孔質フィルターの浮き上がりを防止した製造を可能にする改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質フィルターは、液体の濾過や、液体内の特定物質の分離精製のために、実験室や工場などにおいて広く使用されている。そして、このような目的で多孔質フィルターを利用するときには、液体が通る通路の途中に多孔質フィルターを保持する必要がある。この保持方法として、一般には、液体が通る通路を有する2つの部材の間に多孔質フィルターを挟持して保持する方法等が用いられる。
【0003】
このような多孔質フィルターは、一般に精密な実験や測定などに用いられることから清浄なものが求められ、一度使用されたら交換されることが通常である。そのため、液体を通流できる状態で、多孔質フィルターを保持したカートリッジにしておくことが清浄性の点や、使用上の便利さの点で都合がよい。
【0004】
従来から、濾過、抽出用のカートリッジにおける多孔質フィルターの保持については、特許文献1に記載されるように超音波溶着、接着剤、レーザーによる熱溶着、ネジなどが一般的に用いられている。
【0005】
ところが、このような多孔質フィルターカートリッジの場合、2つの成形品を組み合わせた後に超音波溶着等を行って成形品同士を接合するため、専用設備(超音波溶着機等)が必要となり、設備費用が高くなるとともに、成形品間の密着強度が低くなることがあり、接合面又は融着面に隙間が生じ、多孔質フィルターを通るべき液体が、多孔質膜の側部に回り込んでしまう虞があった。そこで、2つの成形品をインサート成形によって一体的に得る方法が提案されている。
【0006】
インサート成形による多孔質フィルターカートリッジの製造では、図16(a)に示すように、自動機の吸着パッド1などによって多孔質フィルター3を吸着保持し、一方の成形品であるキャップ5の内側に挿入する。図16(b)に示したキャップ5の底部5aの位置で、吸着パッド1の吸着を解除し、多孔質フィルター3を底部5aに残したまま吸着パッド1を上昇させ、多孔質フィルター3をキャップ5内の所定位置に載置する。その後、不図示の金型内に挿入されたキャップ5と、不図示のフィルター挟持部材とによって形成されたキャビティに、溶融した樹脂を射出することで、多孔質フィルター3の外周縁を樹脂に埋入固定した多孔質フィルターカートリッジが得られた。
【0007】
【特許文献1】特開2006−88659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、インサート成形によって得られる多孔質フィルターカートリッジにおいて、多孔質フィルターは自動機の吸着パッドのような手段により真空吸引等によりハンドリングされる。この工程において吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローにより、薄い膜である多孔質フィルター3が図16(c)に示すように、浮き上がることが発生した。多孔質フィルターが浮き上がった状態で固定を行った場合には多孔質フィルターに位置ズレや、折れ曲がりが発生し、抽出に必要な性能を著しく悪化させ、多孔質フィルターカートリッジ自体が使用できなくなる。また、血液からRNA核酸抽出を行う場合や、非常に微量の核酸を抽出する場合には薄膜を重ねる必要もあり、この場合、ハンドリングによって多孔質フィルターをキャップ部材内の所定位置に高精度に固定することが特に重要となる。これらの事情から、多孔質フィルターをキャップ部材内に挿入・固定するに際し、浮き上がりが防止でき、安定的な挿入が行える多孔質フィルターカートリッジの要請があった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、自動機を用いたハンドリングにより薄膜をキャップ部材内に挿入・固定するに際し、特殊な装置を用いずに、ハンドリング起因による薄膜の浮き上がりが防止される多孔質フィルターカートリッジ及びその製造方法を提供し、もって、多孔質フィルターカートリッジ製造時における薄膜の安定的な挿入を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 底部中央に開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面の底部側で、該内周面の周上の一部に、前記キャップの内側に突出して前記多孔質フィルターの外周端を屈曲させる凸状リブを設けたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0010】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターが自動機の吸着パッドなどにより吸着保持されてキャップ状部材に挿入されると、多孔質フィルターの外周端が凸状リブに対応する部分で屈曲し、その屈曲による反力で多孔質フィルターが内周面から半径方向内側へ押し付けられて固定される。これにより、真空、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによっても、多孔質フィルターが浮き上がらなくなる。
【0011】
(2) (1)項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記凸状リブは、前記キャップの内周面の周上の少なくとも3箇所に配設されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0012】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、凸状リブが1箇所や2箇所の場合では得られないキャップの円筒中心軸と多孔質フィルター中心とのセンタ合わせ作用が得られ、多孔質フィルターが偏り無くキャップと同軸に配置可能となる。また、凸状リブの数が多すぎると多孔質フィルターの受ける反力が過剰となり、その結果、皺の生じることもあるが、3箇所であれば、保持作用の発現と皺防止との相関が必要十分条件となる。
【0013】
(3) (1)項又は(2)項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面が、前記開口に向かって徐々に縮径するテーパ面で形成され、
前記凸状リブが、前記キャップの内周面に平行で、かつ該キャップの円筒中心軸に沿って延設されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0014】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、複数の凸状リブの突出先端に内接する仮想円の半径が、底部に向かって徐々に縮径するテーパとなり、多孔質フィルターの挿入に伴い、凸状リブに外周端が接触することによる屈曲が徐々に発生し、外力の急激な印加による多孔質フィルター全領域への歪みの伝搬が抑止され、多孔質フィルターに皺が生じ難くなる。
【0015】
(4) (1)項〜(3)項のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップが円形筒状で、かつ前記多孔質フィルターが円形であり、
前記凸状リブの前記キャップ内周面からの突出高さが、前記多孔質フィルターの直径の0.25%〜1.5%の範囲であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0016】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、凸状リブの突出高さが多孔質フィルターの直径の0.25%以下となった場合の屈曲量不足が生じることなく、1.5%以上となった場合の過剰な屈曲による皺や折れの発生が防止される。
【0017】
(5) (1)項〜(4)項のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記凸状リブの周方向の幅が、前記キャップの内周面全周長の1%〜4.5%の範囲であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0018】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、凸状リブの周方向の幅がキャップの内周面全周長の1%以下となった場合の屈曲量不足が生じることなく、4.5%以上となった場合の外周端の皺や折れが生じない。
【0019】
(6) 底部中央に開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面の底部側で、該内周面の周上の一部に、前記キャップの内側に突出する凸状リブが設けられ、
前記キャップの底部に、前記内周面から前記キャップの内側に突出して前記多孔質フィルターの下面外周縁を載置する円環状の座面が形成され、
前記凸状リブの前記底部側の下端部に、前記多孔質フィルターの外周端を挿入する切欠が形成されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0020】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、凸状リブによって外周端の屈曲されて挿入された多孔質フィルターが、底部において外周端が切欠に一致すると、弾性復元力によって外周端が切欠に進入し、外周端が殆ど屈曲しない係止状態にて、多孔質フィルターの浮き上がりが阻止されることとなる。
【0021】
(7) (6)項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記切欠が、下方に向かって前記内壁面へ接近する傾斜面を有することを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0022】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターの外周端が下方に向かって内壁面へ接近する方向の傾斜面に押し付けられることで、外周端が傾斜面から下方へ押さえつけられる反力を受け、多孔質フィルターの浮き上がりが、少ない屈曲量にて防止可能となる。
【0023】
(8) (7)項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記切欠が、前記傾斜面と、該傾斜面と前記座面との間に形成され前記多孔質フィルターの外径と略同一内径で形成されるとともに前記多孔質フィルターの厚み分の高さを有する嵌入空間とからなることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0024】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターの外周端が嵌入空間に配置されつつ、傾斜面の起点部分によって上側への浮き上がりが抑止され、多孔質フィルターの浮き上がりが屈曲の無い状態で防止される。これにより、多孔質フィルターを屈曲させることによる皺発生の可能性を除去しながら、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによる多孔質フィルターの浮き上がりを防止できる。
【0025】
(9) (1)項〜(8)項のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが複数枚重ねられて前記キャップの内側に保持されていることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0026】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、試料液に対する濾過能力が高まり、例えば、血液からのRNA核酸の抽出、或いは非常に微小の核酸の抽出が可能となる。
【0027】
(10) (1)項〜(9)項のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【0028】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、核酸吸着性多孔質膜を収容した多孔質フィルターカートリッジに試料液を注入し、多孔質フィルターカートリッジの排出側より吸引して試料液を通過させることで、核酸を核酸吸着性多孔質膜に吸着し、その後、洗浄液及び溶出液を注入して、核酸を洗浄・溶出させることができる。
【0029】
(11) 前記キャップ及び前記多孔質フィルターを射出成形型のキャビティ内に挿入した後、前記キャビティ内に成形材料を射出することで、前記キャップと前記多孔質フィルターとを密着させる多孔質フィルターカートリッジの製造方法であって、
(1)項〜(10)項のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジの、前記凸状リブを、前記成形材料の射出によって該成形材料内に埋入することを特徴とする多孔質フィルターカートリッジの製造方法。
【0030】
この多孔質フィルターカートリッジの製造方法によれば、凸状リブと、凸状リブによって屈曲された多孔質フィルターの外周端屈曲部分とが共に成形材料内に埋入され、多孔質フィルターの浮き上がり防止手段とそれにより生じた変形部位が全て成形材内部に隠蔽されることとなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る多孔質フィルターカートリッジによれば、キャップの内周面の底部側で、内周面の周上の一部に、キャップの内側に突出して多孔質フィルターの外周端を屈曲させる凸状リブを設けたので、多孔質フィルターを自動機の吸着パッドなどにより吸着保持してキャップ状部材に挿入すると、多孔質フィルターの外周端が凸状リブに対応する部分で屈曲し、その屈曲による反力で多孔質フィルターが内周面から半径方向内側へ押し付けられて固定される。これにより、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによっても、多孔質フィルターが浮き上がらなくなり、キャップ部材内でズレや、折れ曲がりを発生させることなく、多孔質フィルターをキャップ部材内の所定位置に確実に挿入・固定できる。この結果、特殊な装置を用いずに、多孔質フィルターカートリッジ製造時における多孔質フィルターの安定的な挿入を可能にし、抽出に必要な最良の性能を常に付与することができる。
【0032】
本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの製造方法によれば、キャップ及び多孔質フィルターを射出成形型のキャビティ内に挿入した後、キャビティ内に成形材料を射出することで、キャップと多孔質フィルターとを密着させる多孔質フィルターカートリッジの製造方法であって、多孔質フィルターカートリッジの、凸状リブを、成形材料の射出によって成形材料内に埋入されるので、凸状リブと、凸状リブによって屈曲された多孔質フィルターの外周端屈曲部分とが共に成形材料内に埋入されることとなる。これにより、多孔質フィルターの浮き上がり防止手段とそれにより生じた変形部位が全て成形材内部に隠蔽でき、これら部位が製品外部へ表出することによる製品使用時での抽出性能への影響を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジ及びその製造方法の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る多孔質フィルターカートリッジにおける多孔質フィルター挿入前のキャップの一部分を切り欠いた斜視図、図2は図1の要部拡大図、図3は凸状リブの配設例を(a),(b)に表した平面図、図4は底部に多孔質フィルターが載置されたキャップの図1のA−A断面視を(a)、そのB部拡大図を(b)に表した説明図である。
【0034】
本実施の形態による多孔質フィルターカートリッジ100(完成品としては図5参照)は、図1に示すキャップ11をインサート成形して得られる。キャップ11は、中央に開口15が形成された底部13と、この底部13の下面から延出するノズル17と、ノズル17とは反対側に向かって底部13の外周に沿って筒状に延出するキャップ側融着部19とから構成されている。ノズル17の先端には排出口21が形成されており、底部13の開口15と連通している。キャップ側融着部19は、後記するバレル35(図5参照)のバレル側融着部35aと外接して融着する。
【0035】
キャップ11の底部13には、底面13aの外周に沿って、底面13aよりも一段高くなった座面(挟持面)23が環状に形成されている。挟持面23は、多孔質フィルター25の周縁部25aと当接する面であり、平坦に形成されている。底面13aは、挟持面23側から開口15側に向かうほど低くなるように傾斜しており、液体が排出され易くなっている。また、底面13aには、例えば6本の放射壁27が放射状に形成されている。放射壁27は、底面13aから突出しており、底面13aの傾斜角度よりゆるい角度で、挟持面23側から開口15側に向かうほど低くなるように傾斜している。
【0036】
このキャップ11の内側には多孔質フィルター25が底部13の挟持面23に載置された状態で保持される。キャップ11の内周面29の少なくとも底部13側には、この内周面29の周上の一部に、キャップ11の内側に突出して多孔質フィルター25の外周端25bを屈曲させる複数の凸状リブ31が設けられている。なお、凸状リブ31の角部は、リブの角を丸めた曲面状として形成され、リブに接触する多孔質フィルター25の亀裂発生を防止している。
【0037】
キャップ11の内周面29は、開口15に向かって徐々に縮径するテーパ面で形成されている。このテーパ面の最小径は、多孔質フィルター25の外径Dと略一致している。また、凸状リブ31は、キャップ11の内周面29に平行で、かつキャップ11の円筒中心軸に沿って延設されている。これにより、複数の凸状リブ31の突出先端31a(図2参照)に内接する仮想円33の半径が、底部13に向かって徐々に縮径するテーパとなり、多孔質フィルター25の挿入に伴い、凸状リブ31に外周端25bが接触することによる屈曲が徐々に発生する。したがって、外力の急激な印加による多孔質フィルター25全領域への歪みの伝搬が抑止され、多孔質フィルター25に皺が生じ難くなっている。
【0038】
図3(a)に示すように、凸状リブ31は、キャップ11の内周面29の周上の少なくとも3箇所に配設されることが好ましい。これにより、凸状リブ31が1箇所や2箇所の場合では得られないキャップ11の円筒中心軸と多孔質フィルター25中心とのセンタ合わせ作用が得られ、多孔質フィルター25が偏り無くキャップ11と同軸に配置可能となる。また、凸状リブ31の数が多すぎると多孔質フィルター25の受ける反力が過剰となり、その結果、皺の生じることもあるが、3箇所であれば、保持作用の発現と皺防止との相関が必要十分条件となる。後述の実施例でも明らかとなるように、凸状リブ31の数は6箇所であっても皺の生じないことが確認されている。
【0039】
また、後述の実施例でも明らかとなるように、凸状リブ31を設けることで、多孔質フィルター25の安定挿入が可能となることが分かるが、特に、凸状リブ31の凸寸法t及び幅wに関しては、多孔質フィルター25への変形、亀裂を起さない領域の存在することが知見された。具体的には核酸抽出に用いる鹸化処理したアセチルセルロースのφ7の多孔質フィルター25では、幅wが0.2から1mm(キャップ11の内周面全周長の1%〜4.5%)、凸量tは0.02〜0.1mm(多孔質フィルター31の直径Dの0.25%〜1.5%)の範囲が最適である。ただし、本寸法は使用膜の種類、径、厚み等により変化するものである。
【0040】
このような寸法範囲とすることで、凸状リブ31の突出高さが多孔質フィルター25の直径Dの0.25%以下となった場合の屈曲量不足が生じることなく、1.5%以上となった場合の過剰な屈曲による皺や折れの発生が防止される。また、凸状リブ31の周方向の幅wがキャップ11の内周面全周長の1%以下となった場合の屈曲量不足が生じることなく、4.5%以上となった場合の外周端の皺や折れが生じない。
【0041】
このように、凸状リブ31を備えたキャップ11では、多孔質フィルター25が自動機の吸着パッドなどにより吸着保持されて挿入されると、図4に示すように、多孔質フィルター25の外周端25bが凸状リブ31に対応する部分で屈曲する。すなわち、多孔質フィルター25の外径が、屈曲部において、凸状リブ31の突出先端31aに内接する最小仮想円33の半径Dcと等しくなる。そして、その屈曲による反力Fで多孔質フィルター25が内周面29から半径方向内側へ押し付けられて固定される。これにより、真空、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによっても、多孔質フィルター25が浮き上がらなくなる。
【0042】
次に、上記のように構成された多孔質フィルターカートリッジ100の使用方法の一例について説明する。
図5は本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの使用状況を表す縦断面図である。
まず、核酸を含む試料溶液として、検体として採血された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液などの体液、あるいは植物(又はその一部)、動物(又はその一部)など、或いはそれらの溶解物及びホモジネートなどの生物材料から調製された溶液を用意する。これらの溶液を、細胞膜を溶解して核酸を可溶化する試薬を含む水溶液で処理する。これにより細胞膜及び核膜が溶解されて、核酸が水溶液内に分散する。例えば、試料が全血の場合、塩酸グアニジン、Triton−X100、プロテアーゼK(SIGMA製)を添加した状態で、60℃で10分インキュベートすることによって赤血球の除去、各種タンパク質の除去、白血球の溶解及び核膜の溶解がなされる。
【0043】
このように核酸が分散した水溶液中に、水溶性有機溶媒、例えばエタノールを添加して試料溶液36ができあがる。この試料溶液36を、バレル35の後端側開口37からノズル17の先端の排出口21へ向けて圧力を掛けつつ通流させる。こうすると、試料溶液36中の核酸が多孔質フィルター25に吸着される。
【0044】
上記した圧力を加えて試料溶液36を通過させる加圧方式では、遠心力により試料溶液36を通過させる遠心分離方式に比べ、試料溶液36が多孔質フィルター25の周縁部25aへ向けてより流れようとするが、多孔質フィルター25の周縁部25aは、射出成形されたバレル側融着部35aの開口縁部35bと挟持面23とで圧縮されて保持されているので、試料溶液36が多孔質フィルター25の側部(外周のエッジ部分)へ回り込むことはない。したがって、試料溶液36内の核酸は、多孔質フィルター25のうち、バレル側融着部35aの端部に囲まれた内側の部分にのみ吸着されることになる。
【0045】
次に、核酸洗浄バッファ溶液を、多孔質フィルターカートリッジ100の後端側開口37からノズル17の排出口21に向けて圧力をかけながら通流させる。核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター25に吸着した核酸は脱着させないが、不純物は脱着させる組成を有するものであり、主剤と緩衝剤、及び必要に応じて界面活性剤を含む水溶液からなる。主剤としては、エタノール、Tris及びTriton−X100を含む溶液が好ましい。この操作により、多孔質フィルター25から核酸以外の不純物が除去される。
【0046】
このとき、核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター25のうち、前記試料溶液36が通流した部分、すなわちバレル側融着部35aの端部に囲まれた部分に十分通流するので、不純物が多孔質フィルター25の周縁部25aに残ることなく除去される。
【0047】
次に、精製蒸留水又はTEバッファ等を後端側開口37から排出口21に向けて圧力を掛けながら通流させて、核酸を多孔質フィルター25から脱着させて流し出し、流れ出た核酸を含む溶液を回収する。このとき、核酸を多孔質フィルター25に吸着させるときと同様、精製蒸留水などは、多孔質フィルター25のうち、バレル側融着部35aの端部に囲まれた核酸が吸着している部分に十分通流するので、多孔質フィルター25の周縁部25aに核酸が残ることなく、十分に脱着される。
【0048】
このように、多孔質フィルターカートリッジ100では、核酸を分散させた試料溶液36や、核酸洗浄バッファ、精製蒸留水などを通流させるときに、多孔質フィルター25の側部に試料溶液36等が回り込むことがないので、核酸が多孔質フィルター25に吸着されずに排出されたり、核酸を回収した溶液中に不純物が混入したりすることがなく、核酸の回収効率も高い。また、多孔質フィルターカートリッジ100を濾過に使用した場合には、多孔質フィルター25の側部に液体が回り込むことがないので、濾過後の液体中への不純物の混入が少なくなる。
【0049】
次に、多孔質フィルターカートリッジ100の製造方法について説明する。
図6は本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの製造手順を(a)〜(e)で表した説明図、図7は多孔質フィルターの枚数毎に異なる吸引圧力と時間との相関を表したグラフである。
図6において、(a)は多孔質フィルター挿入時、(b)はインサート時、(c)は型閉じ時の状態、(d)は樹脂射出時、(e)は射出完了時の状態をそれぞれ示している。
先ず、図6(a)に示すように、多孔質フィルター25をキャップ11の底部13に挿入してインサート部材39を用意する。多孔質フィルター25は、自動機の吸着パッド41によって吸着保持した状態で、キャップ11の開口15へ向かって挿入する。挿入された多孔質フィルター25は、キャップ11内に設けられた凸状リブ31によって外周端25bの一部分が屈曲し、上記の作用によって、浮き上がることなく底部13に設置される。
【0050】
吸着パッド41は、図7に示すように、所定の負圧Pにて多孔質フィルター25を吸着保持し、底部13に到達したt1のタイミングで大気開放され、t2後に大気圧となって吸着保持が解除される。なお、吸着パッド41は、同時に複数枚の多孔質フィルター25を吸着可能としている。この場合、例えば2枚の多孔質フィルター25の吸着解除では、大気開放後に正圧が加えられt3(t2<t3)後に吸着保持が解除されて上昇され、3枚の多孔質フィルター25の吸着解除では、大気開放後に正圧が加えられt4(t3<t4)後に吸着保持が解除されて上昇される。このように多孔質フィルター25が複数枚重ねられてキャップ11の内側に保持されることで、試料液に対する濾過能力が高まり、例えば、血液からのRNA核酸の抽出、或いは非常に微小の核酸の抽出が可能となる。
【0051】
そして、図6(b)に示すように、このインサート部材39を射出成形型(キャップ側金型)43に形成されたキャビティ45内に装填する。なお、予めインサート部材39をキャビティ45内に作製しておいてもよい。また、インサート部材39の作製及びインサート部材39の設置は、公知の組み立てロボットなどを用いて行うことが好ましい。
【0052】
次に、図6(c)に示すように、インサート部材39を設置したキャップ側金型43に、射出成形型(バレル側金型)47を組み合わせて型閉じを行う。
【0053】
バレル側金型47は、多孔質フィルターカートリッジ100の中空部49(図5参照)に相当する位置に、円柱状のコアピン51を備えている。コアピン51は、両金型43,47を閉じたときに、コアピン11の先端部53が多孔質フィルター25の上面に当接して、キャップ11の挟持面23との間で多孔質フィルター25を挟みこむようになっている。このとき、多孔質フィルター25は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度に、所定の厚さまで圧縮される。換言すれば、コアピン51は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度の厚さまで多孔質フィルター25を圧縮するように、その長さが調節されている。また、バレル側金型47は、樹脂Jを射出するためのゲート55を備えており、キャビティ45に樹脂Jを射出可能となっている。
【0054】
次に、図6(d)に示すように、キャップ側金型43とバレル側金型47とインサート部材39によって形成されたキャビティ45に、溶融した樹脂Jを、ゲート55から射出する。このとき、キャビティ45内に充填された樹脂Jの射出圧力によって、多孔質フィルター25の周縁部が押し潰される。換言すれば、多孔質フィルター25の周縁部が好適に押し潰される程度の射出圧力をかけて、溶融した樹脂Jをキャビティに射出する。
【0055】
そして、図6(e)に示すように、樹脂Jの射出が完了し、樹脂Jが冷えて硬化してバレル35の部分が形成されたら、射出成形機(図示せず)を操作して型開きを行い、多孔質フィルターカートリッジ100を取り出す。ここで、多孔質フィルター25の周縁部25aは、射出成形されたバレル側融着部35aの開口縁部35b(図5参照)とキャップ11の挟持面23に挟まれて挟持され、キャップ11の底部13において圧縮されて保持される。また、キャップ側融着部19の内周面19aは、射出時の樹脂Jの熱により溶融し、バレル側融着部35aの外周面35cと一体化する。
【0056】
上記の製造方法においては、キャップ11の成形後1時間以内に、キャビティ45内にキャップ11(インサート部材39)をインサートし、樹脂Jを射出してバレル35の成形を行うことが好ましく、キャップ成形後1分以内がさらに好ましい。有機高分子での成形においては、作製された成形品は、成形終了直後から収縮が起きることが知られている。したがって、本発明においても、キャップ成形終了からキャップ11をキャビティ45内へインサートするまでの時間を短くした場合には、キャップ成形終了から長時間経って収縮が完全に終わってしまったキャップ11をインサートする場合に比して、キャップ11とバレル35との融着面の密着強度が増加する。
【0057】
具体的には、同一の製造条件、金型、成形機で実施する場合において、キャップ成形後1時間以内にキャップ11をインサートした場合には、キャップ成形後1日放置して完全に収縮が終わったキャップ11をインサートした場合よりも、作製された多孔質膜カートリッジの融着面での密着強度が20%増加した。さらに、キャップ成形後1分以内のものは密着強度が50%増加した。
【0058】
なお、前記のように、キャップ成形後、短時間にキャップ11をキャビティ45内にインサートするためには、2台の成形機を隣接させて配置し、1台目の成形機でキャップ11を成形し、キャップ11の成形終了直後に、2台目の成形機にキャップ11をインサートして多孔質フィルターカートリッジ100を成形することが好ましい。また、ダイスライド等の成形のように、金型を工夫し、キャップ成形後、直ちにインサートするようにしてもよい。
【0059】
このように、多孔質フィルターカートリッジ100の製造方法では、キャップ11及び多孔質フィルター25を射出成形型のキャビティ45内に挿入した後、キャビティ45内に樹脂Jを射出することで、キャップ11と多孔質フィルター25とを密着させ、凸状リブ31を、樹脂Jの射出によって樹脂Jに埋入する。したがって、凸状リブ31と、この凸状リブ31によって屈曲された多孔質フィルター25の外周端屈曲部分とが共に樹脂Jに埋入され、多孔質フィルター25の浮き上がり防止手段とそれにより生じた変形部位が全て樹脂J内部に隠蔽されることとなる。これにより、浮き上がり防止手段や変形部位が製品外部へ表出することによる製品使用時での抽出性能への影響を防止することができる。
【0060】
次に、凸状リブ31に切欠を設けた変形例について説明する。
図8は切欠を有した凸状リブの変形例1を表す説明図、図9は切欠に嵌入空間を設けた変形例2の説明図である。
キャップ11に設けられる凸状リブ31は、図8(a)に示すように、底部13側となる下端部に、多孔質フィルター25の外周端25bを挿入する切欠57が形成されてもよい。このような構成によれば、凸状リブ31によって外周端25bの屈曲されて挿入された多孔質フィルター25が、底部13において外周端25bが切欠57に一致すると、弾性復元力によって外周端25bが切欠57に進入し、外周端25bが殆ど屈曲しない係止状態にて、多孔質フィルター25の浮き上がりが阻止されることとなる。
【0061】
そして、切欠57は、図8(b)に示すように、複数の切欠59を鋸刃状に形成したものであってもよく、この場合には、多孔質フィルター25をより容易にかつ確実に保持させることができる。
【0062】
また、図9(a)に示すように、切欠61は、下方に向かって内周面29へ接近する傾斜面63を有することが好ましい。このような傾斜面63を備えることで、多孔質フィルター25の外周端25bが、傾斜面63から下方へ押さえつけられる反力を受け、多孔質フィルター25の浮き上がりが、少ない屈曲量にて防止可能となる。
【0063】
さらに、切欠65は、図9(b)に示すように、傾斜面63と、この傾斜面63と挟持面23との間に形成される嵌入空間67を有することが好ましい。嵌入空間67は、多孔質フィルター25の外径Dと略同一内径で形成されるとともに、多孔質フィルター25の厚みT分の高さを有する。このような嵌入空間67を、傾斜面63を有する切欠65に設けた構成とすれば、多孔質フィルター25の外周端25bが嵌入空間67に配置されつつ、傾斜面63の起点部分によって上側への浮き上がりが抑止され、多孔質フィルター25の浮き上がりが屈曲の無い状態で防止される。これにより、多孔質フィルター25を屈曲させることによる皺発生の可能性を除去しながら、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによる多孔質フィルター25の浮き上がりを防止することができる。
【0064】
また、上記の構成は、構造的なものとしたが、多孔質フィルター25を浮き上がり無く設置する方法として、図10,図11に示すように、吸着パッド41による吸着圧力を制御する方法が挙げられる。
図10は碗状に反らした多孔質フィルターの保持状態を表す説明図、図11は碗状に反らした多孔質フィルターの底部への載置状況を表した説明図である。
すなわち、図10(a)に示すように、通常、吸着パッド41が多孔質フィルター25を吸着保持する負圧をP0とした場合、さらに低圧P1で吸着することにより、多孔質フィルター25を、図10(b)に示すように、下面が湾曲面となるように変形させて吸着保持する。
【0065】
この状態で、図11(a)に示すように、多孔質フィルター25の外周端25bが底部13の挟持面23に当接するまで吸着パッド41を下降させ、外周端25bが挟持面23に当接したなら、吸着パッド41の圧力を大気圧若しくは正圧として吸着パッド41を上昇させる。これにより、多孔質フィルター25は、図11(b)に示すように、吸着パッド41から吸着保持が解除されると同時に、弾性復元力によって水平となり、縮径されていた外径が元の外径Dに拡径されることとなる。このような吸着パッド41の圧力制御による方法によれば、所定の位置で始めて多孔質フィルター25の外周端25bが凸状リブ31に当たることとなるので、多孔質フィルター25が最深部で設置され易くなる効果がある。
【0066】
上記した多孔質フィルターカートリッジ100によれば、キャップ11の内周面29の底部13側で、内周面29の周上の一部に、キャップ11の内側に突出して多孔質フィルター25の外周端25bを屈曲させる凸状リブ31を設けたので、多孔質フィルター25を自動機の吸着パッド41などにより吸着保持してキャップ11に挿入すると、多孔質フィルター25の外周端25bが凸状リブ31に対応する部分で屈曲し、その屈曲による反力で多孔質フィルター25が内周面29から半径方向内側へ押し付けられて固定される。
【0067】
これにより、吸引解除時に生じる真空破壊、吸引OFF時のバックブローによっても、多孔質フィルター25が浮き上がらなくなり、キャップ11内でズレや、折れ曲がりを発生させることなく、多孔質フィルター25をキャップ11の所定位置に確実に挿入・固定できる。この結果、特殊な装置を用いずに、多孔質フィルターカートリッジ100の製造時における多孔質フィルター25の安定的な挿入を可能にし、抽出に必要な最良の性能を常に付与することができる。
【0068】
この他、多孔質フィルター25を浮き上がり無くキャップ11の底部13に設置する構成としては、以下の変形例3,変形例4の構成が挙げられる。
図12はリテーナによって多孔質フィルターが固定される変形例3の分解斜視図、図13は多孔質フィルターを2部材で挟持する変形例4の分解斜視図である。
すなわち、図12に示す変形例3の構成では、キャップ11の内周面29に、所定の拡径力で嵌入する環状のリテーナ69を用いて、多孔質フィルター25を底部13に保持する。リテーナ69は、多孔質フィルター25の設置と同時に、不図示の挿入手段によって縮径保持を解除し、弾性復帰力による拡径作用により、内周面29に固定される。これにより、多孔質フィルター25は、挟持面23とリテーナ69とによって周縁部25aが上下から挟持されて、浮き上がりが防止される。
【0069】
また、図13に示す変形例4の構成では、下端に、キャップ11の内周面29に嵌入する嵌合筒部71aを備えた別体のバレル71を用いる。バレル71が、キャップ11に挿入されることで、嵌合筒部71aの先端71bと挟持面23とで多孔質フィルター25の周縁部25aが上下から挟持されて、多孔質フィルター25の浮き上がりが防止される。
上述した各変形例の構成では、金型構造が若干煩雑化するが、スライド機構を用いて形成することができる。
【0070】
以下、核酸抽出装置による抽出動作と具体的な材料等を詳細に説明する。
図14は核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図、図15は抽出動作の工程図を(a)〜(g)で表した説明図である。
核酸抽出装置73は、多孔質フィルターカートリッジ100に対して昇降移動する移動ヘッド75を備える。移動ヘッド75は、電磁弁77を介してエアポンプ79に接続されている。また、加圧ノズル81と電磁弁77を接続する配管83の途中には、圧力センサ85が介装されており、配管83内の圧力を測定し、測定結果は制御部87に入力される。
【0071】
核酸抽出装置73に用いられる多孔質フィルターカートリッジ100は、多孔質フィルター25が核酸吸着性多孔質膜となる。これにより、核酸吸着性多孔質膜を収容した多孔質フィルターカートリッジ100に試料液を注入し、多孔質フィルターカートリッジ100の排出口21側より吸引して試料液を通過させることで、核酸を核酸吸着性多孔質膜に吸着し、その後、洗浄液及び溶出液を注入して、核酸を洗浄・溶出させることができる。
【0072】
核酸抽出装置73は、基本的に図15(a)〜(g)に示すような抽出工程によって核酸の抽出を行う。
先ず、図15の(a)工程で、廃液容器91上に位置するカートリッジ100に溶解処理された核酸を含む試料液Sを注入する。溶解処理された試料液Sをピペット等によってカートリッジ100に順次注入する。カートリッジ100の直上に加圧ノズル81を配置させ、移動ヘッド85の加圧ノズル81を下降移動させて、加圧ノズル81の先端外周面をカートリッジ100に密着させる。
【0073】
次に(b)工程で、カートリッジ100に加圧エアを導入して加圧する。制御部87の指令により、開閉バルブ77が閉状態でエアポンプ79が駆動され、開閉バルブ77が開作動される。そして、加圧ノズル81を通して1番目のカートリッジ100にエアポンプ79からの加圧エアが所定量供給される。これにより、核酸吸着性多孔膜25を通して試料液Sを通過させ、この核酸吸着性多孔膜25に核酸を吸着させ、通過した液状成分は廃液容器91に排出する。
【0074】
次に、(c)工程でカートリッジ100に洗浄液Wを自動分注し、(d)工程でカートリッジ100に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜25に核酸を保持したままその他の不純物の洗浄除去を行い、通過した洗浄液Wを廃液容器91に排出する。この(c)工程及び(d)工程は複数回繰り返してもよい。
【0075】
その後、(e)工程でカートリッジ100の下方の廃液容器91を回収容器93に交換してから、(f)工程でカートリッジ100に回収液Rを自動分注し、(g)工程でカートリッジ100に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜25と核酸の結合力を弱め、吸着されている核酸を離脱させて、核酸を含む回収液Rを回収容器93に排出し回収する。そして、カートリッジ100及び廃液容器91はカートリッジホルダ及び容器ホルダより取り出されて廃棄される。一方、回収容器93は容器ホルダより取り出され、必要に応じて蓋がされて、次の核酸分析処理等が施される。
【0076】
次に、上記のカートリッジ100が備える核酸吸着性固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔膜)25について詳細に説明する。
ここでいう核酸吸着性固相は、シリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有するものとすることができる。さらに、固相は、有機高分子を含有するものであってもよい。有機高分子は、多糖構造を有する有機高分子であることが好ましい。また、有機高分子は、アセチルセルロースであってもよい。さらに、有機高分子は、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子とすることもできる。有機高分子は、再生セルロースであってもよい。これらについて、以下に詳細に説明する。
【0077】
上記カートリッジ100に内有する核酸吸着性固相25は、基本的には核酸が通過可能な多孔性であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0078】
上記核酸抽出カートリッジ100に内有する核酸吸着性固相25は、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する多孔性固相が好ましい。これは、多孔性固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。好ましくは、核酸吸着性多孔性固相は、親水基を有する多孔性固相であり、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相の親水基同士が引き合うようになると推定される。
【0079】
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、オキシエチレン基等を挙げることができる。好ましくは水酸基である。
【0080】
ここで、親水基を有する多孔性固相とは、多孔性固相を形成する材料自体が、親水性基を有する多孔性固相、または多孔性固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した多孔性固相を意味する。多孔性固相を形成する材料は有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相等を、使用することができるが、加工の容易性から、多孔性固相を形成する材料は有機高分子等の有機材料を用いることが好ましい。
【0081】
親水基を有する材料の多孔性固相としては、水酸基を有する有機材料の多孔性固相を挙げることができる。水酸基を有する有機材料の多孔性固相としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等で、形成された多孔性固相を挙げることができるが、特に多糖構造を有する有機材料の多孔性固相を好ましく使用することができる。
【0082】
水酸基を有する有機材料の多孔性固相として、好ましくは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物から成る有機高分子の多孔性固相を使用することができる。アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物を好ましく使用する事ができる。
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
【0083】
更に好ましい、水酸基を有する有機材料としては、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が挙げられる。アセチルセルロースの表面鹸化物とは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理したものであり、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物も好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することである。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比(質量比)は、99:1〜1:99であることが好ましい。更に好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比は、90:10〜50:50であることである。この場合、鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができる。核酸の分離効率をあげるためには、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロースの場合には、鹸化率(表面鹸化率)が約5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、水酸基を有する有機高分子の表面積を大きくするために、アセチルセルロースの多孔性固相を鹸化処理することが好ましい。この場合、多孔性固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよいが、裏非対称性の多孔性膜を好ましく使用することができる。
【0084】
鹸化処理とは、アセチルセルロースを鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触したアセチルセルロースの部分に、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作成された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMR、IR又はXPSにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
【0085】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を多孔性固相に結合することができる。
有機材料の多孔性固相にグラフトポリマー鎖を結合する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、多孔性固相を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
【0086】
まず、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に多孔性固相と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と、多孔性固相の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。多孔性固相と反応する官能基としては、多孔性固相の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
【0087】
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシル基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
【0088】
多孔性固相を基点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖を形成させる方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱等の方法で基材表面上に活性種を与え、多孔性固相と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって多孔性固相と結合させる方法を指す。
基材に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば、親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーを特に好ましく用いることができる。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
【0089】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができるが、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
【0090】
また、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0091】
親水基を有する無機材料である多孔性固相としては、前述のようにシリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する多孔性固相を挙げることができる。シリカ化合物を含有する多孔性固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
【0092】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
【0093】
親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、上記、親水基を持たない有機材料の多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法において、記載した親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
【0094】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができる。
【0095】
また、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コ−ティングしたアセチルセルロ−スまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0096】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、若しくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を加工して作製した多孔性固相を挙げることができる。
【0097】
上記の、核酸吸着性多孔性膜は、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかの形態をとることができ、溶液が内部を通過可能であり、厚さが10μm〜500μmである。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。洗浄がし易い点で、厚さが薄いほど好ましい。
【0098】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、最小孔径が0.22μm以上である。さらに好ましくは、最小孔径が0.5μm以上である。また、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いる事が好ましい。これにより、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難い。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。
【0099】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、空隙率が50〜95%である。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2(9.8〜980kPa)である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2(19.6〜392kPa)である。
【0100】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。これにより、過圧時に均一な圧力が得られる。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
【0101】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
【0102】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
【0103】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、一辺が5mmの正方形の多孔性膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに、1時間以内では溶解しないが48時間以内に溶解するセルロース誘導体が、好ましい。また、一辺が5mmの正方形の多孔質膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに1時間以内に溶解するが、ジクロロメタン5mLに浸漬したときには24時間以内に溶解しないセルロース誘導体がさらに好ましい。
【0104】
核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を一方の面から他方の面へと通過させることが、液を多孔性膜へ均一に接触させることができる点で、好ましい。核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を核酸吸着性多孔性膜の孔径が大きい側から小さい側に通過させることが、目詰まりし難い点で好ましい。
【0105】
核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜を通過させる場合の流速は、液の多孔性膜への適切な接触時間を得るために、膜の面積cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の多孔性膜への接触時間が短すぎると十分な核酸抽出効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、上記流速は、膜の面積cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
【0106】
また、使用する溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、1枚であってもよいが、複数枚を使用することもできる。複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、同一のものであっても、異なるものであって良い。
【0107】
複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材料の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸吸着性多孔性膜との組合せであっても良い。例えば、ガラスフィルターと再生セルロースの多孔性膜との組合せを挙げることができる。また、複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸非吸着性多孔性膜との組合せであってもよい、例えば、ガラスフィルターと、ナイロンまたはポリスルホンの多孔性膜との組合せを挙げることができる。核酸抽出に用いる膜は、一般に数十μm〜数百μmと非常に薄い膜であるため、膜を保持するために、膜の下面に多孔質のサポートを併用する場合があり、この場合には、膜+サポートの組み合わせで膜強度を高めることができる。
【0108】
次に、試料溶液について簡単に説明する。
<核酸を含む試料溶液>
核酸を含む試料溶液は、核酸安定化剤、カオトロピック塩、界面活性剤、緩衝剤、消泡剤およびタンパク質分解酵素の中から選ばれる少なくとも一つを含む前処理液を核酸可溶化試薬として用いて処理することにより得られ、特に好ましくは水溶性有機溶媒を添加して得られた溶液である。
【0109】
(検体)
本発明において使用できる検体は、核酸を含むものであれば特に制限はなく、例えば診断分野においては、採取された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液等の体液、動物(若しくはその一部)などの生体由来化合物、又は植物(若しくはその一部)、細菌、ウイルスなどの生物材料が対象となり、これらをそのままあるいはこれらの溶解物若しくはホモジネートなどを試料として用いる。
【0110】
「試料」とは、核酸を含む任意の試料を意味する。具体的には、上記検体において記載したものが挙げられる。試料溶液中の核酸の種類は1種類でも2種類以上であってもよい。前記核酸分離精製方法に供される個々の核酸の長さは特に限定されず、例えば、数bp〜数Mbpの任意の長さの核酸であってもよい。取り扱い上の観点からは、核酸の長さは一般的には、数bp〜数百kbp程度であることが好ましい。
【0111】
本発明において「核酸」は一本鎖または二本鎖の、DNAまたはRNAのいずれでもよく、また、分子量の制限も無い。
【0112】
検体は、細胞膜および核膜等を溶解して核酸を水溶液内に分散して、核酸を含む試料溶液を得ることが好ましい。
上述した核酸抽出装置により被処理対象カートリッジの有無を確認し、被処理対象カートリッジとして判別されたカートリッジに対する核酸抽出を行った結果を以下に説明する。
(1)核酸分離精製容器の作成
内径7mm、核酸吸着用の固相を収容する、カートリッジ(核酸精製用容器)をポリプロピレンで作成する。
【0113】
(2)核酸分離精製ユニット
核酸吸着性多孔膜として、アセチルセルロ−スの多孔膜を使用し、上記(1)で作成した核酸精製カートリッジの核酸吸着性多孔膜収納部に収容する。多孔膜の平均孔径は2μmのものを使用する。
【0114】
(3)DNA可溶化試薬及び洗浄液の調製
表1に示す処方のDNA可溶化試薬及び洗浄液を調製する。
【0115】
【表1】


【0116】
(4)核酸精製操作
λDNA(クロンテック社製)をTEバッファー100μlに5μg溶解させ、これをDNA水溶液とした。これに、表1に示した処方のDNA可溶化試薬100μlを添加して、攪拌した。
攪拌後、表2に示す各種濃度エタノール800μlを添加して攪拌した。その後、上記のよう処理した核酸含有試薬の核酸粒子を動的光散乱光度計(DLS7000)にて粒子径を測定した。その測定結果を表3に示す。
【0117】
【表2】


【0118】
【表3】


【0119】
測定後、上記の様に処理した核酸含有試料を、上記(1)及び(2)で作成したアチルセルロ−スの混合物から成る有機高分子の核酸吸着性多孔膜を有するカートリッジに注入し、続いて該カートリッジに加圧エア供給機構を結合して加圧エアを供給してカートリッジ内を加圧状態にし、注入した核酸含有試料を含む試料溶液を核酸吸着性多孔膜に通過させることで核酸吸着性多孔膜に接触させ、カートリッジから排出する。続いて、カートリッジに表1に示す洗浄液を注入し、上記と同様に加圧エア供給機構から加圧エアを供給して加圧し、注入した洗浄液を核酸吸着性多孔膜に通過させて排出し、洗浄する。続いて、カートリッジに回収液を注入し、上記と同様に加圧エア供給機構から加圧エアを供給して加圧し、注入した回収液を核酸吸着性多孔膜に通過させて排出し、この液を回収容器に回収する。
【0120】
(5)DNAの分離精製の確認
回収液の260nm吸収スペクトルを測定してDNAの収量を求めた。その測定結果を表4に示す。また、その時の液体通過時間を表5に示す。
【0121】
【表4】


【0122】
【表5】


【0123】
なお、上記実施形態では、特定物質回収装置は核酸抽出装置として説明したが、カートリッジを蛋白を抽出する蛋白抽出カートリッジとすることにより、蛋白抽出装置とすることもできる。
【実施例】
【0124】
次に、上記した実施の形態による構成の凸状リブ31を、本数、リブ幅、リブ凸量を変えて実際に製作し、吸着パッドにより20回の挿入を行ったときの膜挿入成功率と、膜の状態を外観チェックした結果を表に示す。
【0125】
【表6】

【0126】
表6から分かるように、実施例1、2、3、4、5、7、8、10は、膜挿入成功率100%で膜状態も良好であった。
また、実施例6は、微小膜亀裂が1回発生したが、膜挿入成功率100%であったため、評価は許容範囲であった。
実施例9は、微小膜亀裂が1回発生したが、膜挿入成功率100%であったため、評価は許容範囲であった。
比較例1は、膜状態は良好であったが、膜挿入成功率75%(5回NG ) であったため、評価は不可であった。
比較例2は、膜挿入成功率100%であったが、リブ部でしわ発生(3回) があり、評価は不可であった。
比較例3は、膜状態は良好であったが、膜挿入成功率60%(8回NG )であったため、評価は不可であった。
比較例4は、膜挿入成功率100%であったが、膜亀裂が2回発生したため、評価は不可であった。
比較例5は、膜挿入成功率100%であったが、リブ部でしわ発生(10回) があり、評価は不可であった。
【0127】
以上の結果から、リブ幅wは、0.2から1mm(キャップ11の内周面全周長の1%〜4.5%)、凸量tは、0.02〜0.1mm(多孔質フィルター31の直径Dの0.25%〜1.5%)の範囲が最適であることが知見できた。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る多孔質フィルターカートリッジにおける多孔質フィルター挿入前のキャップの一部分を切り欠いた斜視図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】凸状リブの配設例を(a)(b)に表した平面図である。
【図4】底部に多孔質フィルターが載置されたキャップの図1のA−A断面視を(a)、そのB部拡大図を(b)に表した説明図である。
【図5】本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの使用状況を表す縦断面図である。
【図6】本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの製造手順を(a)〜(e)で表した説明図である。
【図7】多孔質フィルターの枚数毎に異なる吸引圧力と時間との相関を表したグラフである。
【図8】切欠を有した凸状リブの変形例1を表す説明図である。
【図9】切欠に嵌入空間を設けた変形例2の説明図である。
【図10】碗状に反らした多孔質フィルターの保持状態を表す説明図である。
【図11】碗状に反らした多孔質フィルターの底部への載置状況を表した説明図である。
【図12】リテーナによって多孔質フィルターが固定される変形例3の分解斜視図である。
【図13】多孔質フィルターを2部材で挟持する変形例4の分解斜視図である。
【図14】核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図である。
【図15】抽出動作の工程図を(a)〜(g)で表した説明図である。
【図16】従来の多孔質フィルターカートリッジにおける多孔質フィルターの挿入手順を表す説明図である。
【符号の説明】
【0129】
11 キャップ
13 底部
15 開口
23 挟持面(座面)
25 多孔質フィルター
25a 周縁部(下面外周縁)
25b 外周端
29 内周面
31 凸状リブ
43 キャップ側金型(射出成形型)
45 キャビティ
47 バレル側金型(射出成形型)
57,61,65 切欠
63 傾斜面
67 嵌入空間
100 多孔質フィルターカートリッジ
D 多孔質フィルターの直径
J 樹脂(成形材料)
T 多孔質フィルターの厚み
t 突出高さ
w 凸状リブの周方向の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部中央に開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面の底部側で、該内周面の周上の一部に、前記キャップの内側に突出して前記多孔質フィルターの外周端を屈曲させる凸状リブを設けたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記凸状リブは、前記キャップの内周面の周上の少なくとも3箇所に配設されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面が、前記開口に向かって徐々に縮径するテーパ面で形成され、
前記凸状リブが、前記キャップの内周面に平行で、かつ該キャップの円筒中心軸に沿って延設されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップが円形筒状で、かつ前記多孔質フィルターが円形であり、
前記凸状リブの前記キャップ内周面からの突出高さが、前記多孔質フィルターの直径の0.25%〜1.5%の範囲であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記凸状リブの周方向の幅が、前記キャップの内周面全周長の1%〜4.5%の範囲であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項6】
底部中央に開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの内周面の底部側で、該内周面の周上の一部に、前記キャップの内側に突出する凸状リブが設けられ、
前記キャップの底部に、前記内周面から前記キャップの内側に突出して前記多孔質フィルターの下面外周縁を載置する円環状の座面が形成され、
前記凸状リブの前記底部側の下端部に、前記多孔質フィルターの外周端を挿入する切欠が形成されたことを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項7】
請求項6記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記切欠が、下方に向かって前記内壁面へ接近する傾斜面を有することを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項8】
請求項7記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記切欠が、前記傾斜面と、該傾斜面と前記座面との間に形成され前記多孔質フィルターの外径と略同一内径で形成されるとともに前記多孔質フィルターの厚み分の高さを有する嵌入空間とからなることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが複数枚重ねられて前記キャップの内側に保持されていることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜であることを特徴とする多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項11】
前記キャップ及び前記多孔質フィルターを射出成形型のキャビティ内に挿入した後、前記キャビティ内に成形材料を射出することで、前記キャップと前記多孔質フィルターとを密着させる多孔質フィルターカートリッジの製造方法であって、
請求項1〜請求項10のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジの、前記凸状リブを、前記成形材料の射出によって該成形材料内に埋入することを特徴とする多孔質フィルターカートリッジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−86893(P2008−86893A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269812(P2006−269812)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】