多孔質フィルターカートリッジ
【課題】コンタミネーションを起こし難く、コスト面で有利にして破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる多孔質フィルターカートリッジを提供する。
【解決手段】底部中央に排出用開口29が形成された有底筒状のキャップ5の内側で、多孔質フィルターが底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、キャップ5の底部に排出用開口29を中心として放射状に多孔質フィルターを支持する複数のリブ35,37,39が立設され、複数のリブのうち少なくともいずれかは、排出用開口29の中央部で排出用開口29を跨いで連結され、この連結されたリブの連結部43の頂面に多孔質フィルター側へ突起する凸状面41を形成した。
【解決手段】底部中央に排出用開口29が形成された有底筒状のキャップ5の内側で、多孔質フィルターが底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、キャップ5の底部に排出用開口29を中心として放射状に多孔質フィルターを支持する複数のリブ35,37,39が立設され、複数のリブのうち少なくともいずれかは、排出用開口29の中央部で排出用開口29を跨いで連結され、この連結されたリブの連結部43の頂面に多孔質フィルター側へ突起する凸状面41を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルターが有底筒体キャップの底部に保持された多孔質フィルターカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質フィルターは、液体の濾過や液体内の特定物質の分離精製を目的に、実験室や工場などの研究、分析用途に広く使用されている。この多孔質フィルターは、例えば、液体の通路を有する2つの部材の間に多孔質フィルターを挟持させること等により、液体の通路の途中に保持された状態で使用される。また、この種の多孔質フィルターは、一般に精密な実験や測定などに用いられることから、清浄なものが求められ、一回の使用で交換される使用形態が通常である。そのため、液体を通過させることのできる状態で多孔質フィルターを保持したカートリッジにしておくことが、清浄性の点や利便性の点で都合がよい。
【0003】
一般に、多孔質膜を利用して液の濾過、抽出を行うカートリッジは、その多孔質膜中を液通過させるために液圧(ポンプや重力による加圧や遠心分離機による遠心力による加圧)または圧縮気体により液を加圧する必要がある。その際に、多孔質膜を通過した後の濾過液をスムーズに排出することは、液の損失を防止するばかりか、多孔質膜に血液、細胞等から核酸等を吸着、その後の工程で回収するような場合は、その工程で洗浄液での洗浄工程、回収液による回収工程等、液を切り替えて行う工程がある場合に、前段の液残りを減少させることができる、純度の高い核酸抽出が可能となる。また、濾過液がスムーズに流れない場合は、フィルターの膜破れによる著しい性能悪化が予想される。濾過抽出工程においても、部分的な濾過不具合が発生した場合には、濾過面積が減少し、期待した能力が発揮できない場合もある。
ところで、従来の多孔質フィルターカートリッジの一例として、例えば次のようなものがある。特許文献1には、多孔質フィルターを載せるリブを中心から同心円状に円周方向に沿って複数配置した構成が記載されている。リブはカートリッジの内側ハウジング面に粗いメッシュ状に形成されている。また、特許文献2には、多孔質フィルターを支持する膜支持部に充填剤を組み込んだ構成が記載されている。さらに、特許文献3には、多孔質フィルターを支持する膜支持部に多孔質サポート材を組み込んだ構成が記載されている。
【特許文献1】米国特許第5792354号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0012982号明細書
【特許文献3】米国特許第6586585号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、中央排出経路に対して液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難い。
また、上記特許文献2に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、圧力抵抗が高くなるために、液使用量を多く必要とするとともに、液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難い。
さらに、上記特許文献3に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、上記特許文献2と同様に圧力抵抗が高くなるため、液使用量を多く必要とするとともに、液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難く、コストアップに繋がる。
加えて、上記特許文献1、2、3に開示された従来のいずれの多孔質フィルターカートリッジにおいても、圧力を掛けながら液体を通流させるので、その圧力によって多孔質フィルターが破損する虞がある。
特に、核酸を抽出するための多孔質フィルターカートリッジにおいては、少量検体から高純度の核酸を高濃度で回収することが望まれている。また、細胞等からの核酸に対しては、検体が多孔質膜に詰まりやすく、そのため、濾過面積を広くすることが必要とされている。しかし、リブの数や面積を減らすとフィルターへの応力集中が生じやすくなり、フィルターの破損に繋がることになる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、コンタミネーションを起こし難く、コスト面で有利にして破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる多孔質フィルターカートリッジを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 底部中央に排出用開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に前記排出用開口を中心として放射状に前記多孔質フィルターを支持する複数のリブが立設され、
前記複数のリブのうち少なくともいずれかは、前記排出用開口の中央部で該排出用開口を跨いで連結され、該連結されたリブの連結部の頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する凸状面が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【0006】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの連結部に凸状面が形成されていることで、リブの頂面と多孔質フィルターとの接触面が減少し、フィルターの濾過面積を広げることができる。
【0007】
(2) (1)記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する複数の凸部が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【0008】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの頂面に複数の凸部を形成することで、リブの頂面と多孔質フィルターとの接触面が減少し、フィルターの濾過面積を広げることができる。
【0009】
(3) (1)または(2)記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面の角部が曲面状に面取り加工されている多孔質フィルターカートリッジ。
【0010】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの頂面の角部が面取り加工されることで、多孔質フィルターとの接触時に応力集中が生じにくくなり、多孔質フィルターが破れる等の損傷が生じにくくなる。
【0011】
(4) (1)〜(3)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面は、前記多孔質フィルターが前記排出用開口に向けて凹形状となるように、前記キャップの底部からの高さを径方向に応じて異なる高さに設定された多孔質フィルターカートリッジ。
【0012】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターが排出用開口に向けて凹形状となるようにリブの高さが設定されることで、フィルターの液通流時の最後には、フィルターの中央部に液が集まるようになり、液残りが生じにくく効率的な通流動作が可能となる。また、カートリッジ内を負圧するバックブローの際に、多孔質フィルターが浮き上がることを防止できる。
【0013】
(5) (1)〜(4)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に、該キャップ中心からの半径方向長さの異なるリブがそれぞれ混在配置された多孔質フィルターカートリッジ。
【0014】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、放射状に形成したリブは、外周側ほど周方向のリブ間隔が長くなるが、半径方向の長さの短いリブをリブ同士の間に配置することで、内周側から外周側にかけて均等なリブの配置密度にすることができる。
【0015】
(6) (1)〜(5)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターと前記キャップとがインサート成形によって一体成形された多孔質フィルターカートリッジ。
【0016】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、キャップと多孔質フィルターとの密着性を高め、かつ簡単に一体化することができる。
【0017】
(7) (1)〜(6)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜を含む多孔質フィルターカートリッジ。
【0018】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターカートリッジに試料液を注入し、多孔質フィルターカットリッジに圧力を印加することで試料液を多孔質フィルターに通過させることで、多孔質フィルターに核酸を吸着させることができ、その後、洗浄液および溶出液を注入して、多孔質フィルターに吸着した核酸を抽出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多孔質フィルターカートリッジによれば、コンタミネーションを起こし難く、コスト面で有利にして破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの外観斜視図、図2は図1の多孔質フィルターカートリッジの分解斜視図である。
図1、図2に示すように、実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1は、主に、バレル3と、キャップ5と、多孔質フィルター7とからなる。
バレル3は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル等のインサート射出成形可能な樹脂材料を用いて形成され、円筒形状の上部の注入口19には蓋体21がヒンジ部材23を介して連結されている。バレル3単体は、大径側筒部11と小径側筒部13とを有し、小径側筒部13の下側にキャップ側融着部17が形成されている。
【0021】
キャップ5は、バレル2と同様に、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル等のインサート射出成形可能な樹脂材料を用いて有底の円筒形状に形成されている。キャップ5は、筒部25にバレル3のキャップ側融着部17が挿入されて固定される。その固定方法については後述する。筒部25の底部にはリブ27が形成されており、リブ27の中央部には排出用の開口29が形成されている。この開口29からノズル31が延出して形成されている。
【0022】
このキャップ5の内側には多孔質フィルター7がリブ27の頂面に載置された状態で保持される。なお、リブ27の頂面の角部は、リブの角を丸めた曲面状として形成され、リブに接触する多孔質フィルター7の亀裂発生を防止している。
【0023】
多孔質フィルター7は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネイト等の多孔質膜を用いて、キャップ5の内径と略同一の直径に形成された円形の膜部材である。
【0024】
多孔質フィルター7は、無数の微細な孔を有し、液体を濾過、分離精製(吸着)して核酸等を採取する、有機高分子からなる多孔質膜である。その厚さは10〜500μmが好適に使用できる。また、多孔質膜が核酸吸着性多孔質膜である場合には、例えば、アセチルセルロースの表面鹸化物からなる多孔質膜が好適であり、鹸化率は5%以上であることが好適である。アセチルセルロースとしては、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースの何れでもよいが、特にトリアセチルセルロースが望ましい。また、核酸吸着性多孔質膜には、最小孔径が0.22μm以上、最大孔径と最小孔径の比が2以上、空隙率が50〜95%、バブルポイントが9.8〜980kPa(0.1〜10kg/cm2)、圧力損失が0.1〜100kPa、核酸吸着量が多孔質膜1mg当たり0.1μg以上の多孔質膜が好適である。ここで、圧力損失とは、水を通過させるのに必要な多孔質膜の厚さ100μm当たりの最低圧力である。
【0025】
図3は図1の多孔質フィルターカートリッジに適用したキャップ単体の平面図、図4は図3のキャップのI−I線断面図、図5は図3のキャップの一部破断外観斜視図である。
図3、図4、図5に示すように、キャップ5の内側底部のリブ27は、底部を中心として放射状に形成され、排出用の開口29の中央部でこの開口29を跨いで連結された複数(図示例では6個)の交差状リブ35と、交差状リブ35同士の間で、円周方向に等間隔(中心角が均等)で配置され、径方向の長さの異なる2種類の補助リブ37,39とを有する。補助リブ37のキャップ中央側先端は、開口29の内径よりさらに内側に突出した長さに形成され、補助リブ39のキャップ中央側先端は、開口29の内径より外側になる長さに形成されている。また、交差状リブ35同士の間に補助リブ37が配置され、さらに交差状リブ35と補助リブ37との間にそれぞれ補助リブ39が配置されている。キャップ5の底面は開口29に向けて傾斜したテーパ面45で形成されており、交差状リブ35,補助リブ37,39は、このテーパ面45から多孔質フィルター側へ立設されている。そして、キャップ5中央における交差状リブ35の連結部43の多孔質フィルター側では、多孔質フィルター側へ湾曲して突起する凸状面41が形成されている。
【0026】
交差状リブ35、補助リブ37,39は、例えば0.2mmの厚さ寸法T1を有する板形状に形成されて、頂面が筒部25からキャップ中央に向けて下がり傾斜したテーパ状をなす。
【0027】
そして、連結部43は、図4に示すように、交差状リブ35が交差する開口29上の中央部に配置されて、交差状リブ35と連結した円柱形状に形成されている。連結部43は、交差状リブ35の厚さ寸法T1よりも大きい外径寸法L1を有する。
【0028】
ここで、図6に図1の多孔質フィルターカートリッジの使用例を説明する断面図、図7に多孔質フィルターを組み付けた多孔質フィルターカートリッジの作用を説明する断面図を示した。
図6に示す上記構成の多孔質フィルターカートリッジ1の使用形態としては、次のようになる。ここでは一例として核酸抽出処理に用いる場合を説明する。まず、核酸を含む試料溶液として、検体として採血された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液などの体液、あるいは植物(又はその一部)、動物(又はその一部)など、或いはそれらの溶解物及びホモジネートなどの生物材料から調製された溶液を用意する。これらの溶液を、細胞膜を溶解して核酸を可溶化する試薬を含む水溶液で処理する。これにより細胞膜及び核膜が溶解されて、核酸が水溶液内に分散する。例えば、試料が全血の場合、塩酸グアニジン、Triton−X100、プロテアーゼK(SIGMA製)を添加した状態で、60℃で10分インキュベートすることによって赤血球の除去、各種タンパク質の除去、白血球の溶解及び核膜の溶解がなされる。
【0029】
このように核酸が分散した水溶液中に、水溶性有機溶媒、例えばエタノールを添加して試料溶液100ができあがる。この試料溶液100を、バレル3の注入口19からノズル31の先端の排出口29へ向けて圧力を掛けつつ通流させる。こうすると、試料溶液100中の核酸が多孔質フィルター7に吸着される。
【0030】
上記の圧力を加えて試料溶液100を通過させる加圧方式では、遠心力により試料溶液100を通過させる遠心分離方式に比べ、試料溶液100が多孔質フィルター7の周縁部へ向けてより流れようとするが、多孔質フィルター7の周縁部は、インサート成形されたキャップ側融着部17とキャップ5の筒部25との間で圧縮された状態で保持されているので、試料溶液100が多孔質フィルター7の側部(外周のエッジ部分)へ回り込むことはない。したがって、試料溶液100内の核酸は、多孔質フィルター7のうち、キャップ側融着部17の端部に囲まれた内側の部分にのみ吸着されることになる。
【0031】
次に、核酸洗浄バッファ溶液を、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口19からノズル31の開口29に向けて圧力をかけながら通流させる。核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター7に吸着した核酸は脱着させないが、不純物は脱着させる組成を有するものであり、主剤と緩衝剤、及び必要に応じて界面活性剤を含む水溶液からなる。主剤としては、エタノール、Tris及びTriton−X100を含む溶液が好ましい。この操作により、多孔質フィルター7から核酸以外の不純物が除去される。
【0032】
このとき、核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター7のうち、試料溶液100が通流した部分、すなわちキャップ側融着部17の端部に囲まれた部分に十分通流するので、不純物が多孔質フィルター7の周縁部に残ることなく除去される。
【0033】
次に、精製蒸留水又はTEバッファ等を注入口19からノズル31の開口29に向けて圧力を掛けながら通流させて、核酸を多孔質フィルター7から流し出し、流し出した核酸を含む溶液を回収する。
【0034】
図7に示すように、多孔質フィルターカートリッジ1は、キャップ5に多孔質フィルター7が組み付けられた際、多孔質フィルター7は、その中央部が連結部43の凸状面41に点接触に近い状態で接する。これにより、多孔質フィルター7と凸状面41との間に空間47が形成され、この空間47により多孔質フィルター7と連結部43頂面との接触面積が減少し、濾過面積を広くすることができる。その結果、空間47を通じて溶液の抜けを良好にすることができる。これにより、コンタミネーションを起こし難くでき、別途にフィルター保持用の部材を用いる必要もなく、しかも、高い圧力をかけても多孔質フィルター7を破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる。
【0035】
また、本実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1によれば、連結部43の外径寸法L1が交差状リブ35の厚さ寸法T1よりも大きいために、多孔質フィルター7は、キャップ中央において交差状リブ35よりも大きい外径の連結部43で支持されることで、安定した濾過、抽出処理を行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1によれば、多孔質フィルター7は、交差状リブ35と、複数の補助リブ37,39とによって均等に支持されるために、多孔質フィルター7に応力集中を発生させることなく、破損を防止して安定的に支持することができる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの第2実施形態について説明する。
本実施形態の多孔質フィルターカートリッジは、第1実施形態における多孔質フィルターカートリッジの交差状リブ35と補助リブ37,39の形状が異なっている他は、同様の構成である。
図8に本実施形態におけるキャップの図5に相当する一部破断外観斜視図、図9に同じく図4に相当するキャップのI−I線断面図を示した。
【0038】
図8に示すように、本実施形態のキャップ5は、交差状リブ35の頂面と、補助リブ37,39の頂面とに、多孔質フィルター側に突起する複数の凸部49を有する。凸部49は、交差状リブ35と、補助リブ37,39の頂面のリブ厚みより小さい突出寸法で形成され、各凸部49は滑らかな曲線状に形成されている。図示例では各リブの頂面に蒲鉾形の凸部49を形成しているが、これに限らず、例えばsin波等の連続したうねりを有する曲面としてもよい。
【0039】
本実施形態の構成によれば、キャップ5に多孔質フィルター7が組み付けられた際、多孔質フィルター7は、その中央部が連結部43の凸状面41に点接触に近い状態で接するとともに、各リブ35,37,39の頂面の凸部49に点接触に近い状態で接するために、多孔質フィルター7と各リブ35,37,39の頂面との間に、多数の空間51が形成される。
これにより、これら複数の空間51および連結部43の凸状面41により形成される空間(図7に示す空間47)を通じて液の抜けを良好にすることができる。
【0040】
<キャップの製造方法>
次に、多孔質フィルターカートリッジ1のキャップ5の製造方法について説明する。
図10は多孔質フィルターカートリッジのキャップ5に対する製造工程を(a)〜(d)に段階的に示した一部断面説明図である。
【0041】
図10(a)に示すように、キャップ製造用金型であるピン501は、ロッド503にスライド移動自在に支持された第1治具505に固定されている。このピン501は、樹脂材料を供給するランナ511が内部に形成され、先端部のゲートから樹脂材料を射出する構成となっている。図11にピン501の先端部の拡大斜視図を示した。第2治具507は、ピン501の先端部付近をスライド移動自在に支持している。第3治具509は、キャップ製造用金型501との間にキャビティを形成するカップ502を保持し、第2治具507に対して進退自在に設けられている。
【0042】
まず、図10(b)に示すように、第2治具507と第3治具509とを第2治具507側に移動させ、ピン501の先端部が被せられたカップ502内のキャビティにピン501のゲートから樹脂材料を射出する。
【0043】
そして、カップ502内の樹脂材料が所定時間経過後に冷却・固化された後に、図10(c)に示すように、第3治具509を第2治具507から退行していくことで、ピン501の先端部に、成形されたキャップ5が装着されたままとなる。
【0044】
そして、図10(d)に示すように、第2治具507が第3治具509に向けて移動することで、ピン501の先端部で成形されたキャップ5が離脱して、取り出されることとなる。
【0045】
ここで、図10に示したピン501の詳細構造について説明する。
図11に示すように、ピン501は、円錐状突部513の円周方向に、交差状リブ35を成形するための凹部515と、補助リブ37,39を成形するための凹部517,519とが配列されており、円錐状突部513の中央部には、連結部43を成形するための孔部521が設けられている。孔部521の内周面は円弧状であることにより、連結部43が円柱状に成形される。
【0046】
連結部43の形状は、図11に示すピン501に基づく形状に限らず、適宜な変更が可能である。例えば、連結部43の外周面を交差状リブ35の面からラウンド状に丸めたりすることが図12に示すピン501Aによって可能となる。つまり、図12のピン501Aの孔部523は、内周側の角部がラウンド状に丸められ、成形される交差状リブ35の面と連結部43の外周面が滑らかな曲面で連結される。
【0047】
<多孔質フィルターカートリッジ製造方法>
次に、キャップ5が備えた多孔質フィルターカートリッジの製造方法について説明する。
図13は多孔質フィルターカートリッジの製造工程を(a)〜(e)の各段階毎で示した工程説明図である。なお、本図は製造工程を概念的に表した図であり、多孔質フィルターカートリッジの形状は模式的に示してある。
図13において、(a)は多孔質フィルター挿入時、(b)はインサート時、(c)は型閉じ時の状態、(d)は樹脂射出時、(e)は射出完了時の状態をそれぞれ示している。
【0048】
まず、図13(a)に示すように、多孔質フィルター7をキャップ5の底部に形成したリブ27上に挿入してインサート部材を用意する。多孔質フィルター7は、自動機の吸着パッド601によって吸着保持されている状態で、キャップ5の筒部25内に挿入される。挿入された多孔質フィルター7は、リブ27上に浮き上がることなく平坦に載置される。
【0049】
図13(b)に示すように、上記のインサート部材を射出成形型(キャップ側金型)603に形成されたキャビティ605内に装填する。
【0050】
次に、図13(c)に示すように、インサート部材を設置したキャップ側金型603に、射出成形型(バレル側金型)607を組み合わせて型閉じを行う。
【0051】
バレル側金型607は、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口19に相当する位置に、円柱状のコアピン609を備えている。コアピン609は、両金型603,607を閉じたときに、コアピン609の先端部が多孔質フィルター7の上面に当接して、キャップ5との間で多孔質フィルター7を挟みこむようになっている。このとき、多孔質フィルター7は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度に、所定の厚さまで圧縮される。換言すれば、コアピン609は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度の厚さまで多孔質フィルター7を圧縮するように、その長さが調節されている。また、バレル側金型607は、樹脂Jを射出するためのゲート611を備えており、キャビティ605に樹脂Jを射出可能となっている。
【0052】
次に、図13(d)に示すように、キャップ側金型603とバレル側金型607とインサート部材によって形成されたキャビティ605に、溶融した樹脂Jをゲート611から射出する。このとき、キャビティ611内に充填された樹脂Jの射出圧力によって、多孔質フィルター7の周縁部が押し潰される。換言すれば、多孔質フィルター7の周縁部が好適に押し潰される程度の射出圧力をかけて、溶融した樹脂Jをキャビティ611に射出する。
【0053】
そして、図13(e)に示すように、樹脂Jの射出が完了し、樹脂Jが冷えて硬化してバレル3が形成されたら、型開きを行い、多孔質フィルターカートリッジ1を取り出す。ここで、多孔質フィルター7の周縁部は、射出成形されたバレル3とキャップ5とに挟まれて挟持され、キャップ5のリブ27上に固定される。
【0054】
<核酸抽出>
以下、核酸抽出装置による抽出動作と具体的な材料等を詳細に説明する。
図14は核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図、図15は抽出動作の工程を(a)〜(g)で表した説明図である。
【0055】
核酸抽出装置701は、多孔質フィルターカートリッジ1に対して昇降移動する移動ヘッド703を備える。移動ヘッド703は、電磁弁705を介してエアポンプ707に接続されている。また、加圧ノズル709と電磁弁705とを接続する配管711の途中には、圧力センサ713が介装されており、配管711内の圧力を測定し、測定結果は制御部715に転送される。
【0056】
核酸抽出装置701に用いられる多孔質フィルターカートリッジ1は、多孔質フィルター7が核酸吸着性多孔質膜となる。これにより、核酸吸着性多孔質膜を収容した多孔質フィルターカートリッジ1に試料液を注入し、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口側より加圧して試料液を多孔質フィルター7を通過させることで、核酸を核酸吸着性多孔質膜に吸着させ、その後、洗浄液及び溶出液を注入して、核酸を洗浄・溶出させることで、所定の容器717に核酸を回収することができる。
【0057】
より具体的には、核酸抽出装置701は、基本的に図15(a)〜(g)に示すような抽出工程に基づいて核酸の抽出を行う。なお、以下の説明では、適宜図14を参照する。
【0058】
まず、図15の(a)工程で、廃液容器731上に位置するカートリッジ1に溶解処理された核酸を含む試料液Sを注入する。溶解処理された試料液Sをピペット等によってカートリッジ1に順次注入する。カートリッジ1の直上に加圧ノズル709を配置させ、移動ヘッド703の加圧ノズル709を下降移動させて、加圧ノズル709の先端外周面をカートリッジ1に密着させる。
【0059】
次に、(b)工程で、カートリッジ1に加圧エアを導入して加圧する。制御部715の指令により、電磁弁バルブ705が閉状態でエアポンプ707が駆動され、電磁弁705が開作動される。そして、加圧ノズル709を通してカートリッジ1にエアポンプ707からの加圧エアが所定量供給される。これにより、核酸吸着性多孔膜7を通して試料液Sを通過させ、この核酸吸着性多孔膜7に核酸を吸着させる。通過した液状成分は廃液容器731に排出する。
【0060】
次に、(c)工程でカートリッジ1に洗浄液Wを分注し、(d)工程でカートリッジ1に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜7に核酸を保持したままその他の不純物の洗浄除去を行い、通過した洗浄液Wを廃液容器731に排出する。この(c)工程及び(d)工程は複数回繰り返してもよい。
【0061】
その後、(e)工程でカートリッジ1の下方の廃液容器731を回収容器733に交換してから、(f)工程でカートリッジ1に回収液Rを分注し、(g)工程でカートリッジ1に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜7と核酸の結合力を弱め、吸着されている核酸を離脱させて、核酸を含む回収液Rを回収容器733に排出し回収する。そして、カートリッジ1及び廃液容器731は装置より取り出されて廃棄される。回収容器733は液回収後に必要に応じて蓋体を閉じられる。
【0062】
<多孔質フィルターの材料>
次に、上記の多孔質フィルターカートリッジ1の多孔質フィルター7が備える核酸吸着性固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔膜)について詳細に説明する。
ここでいう核酸吸着性固相は、シリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有するものとすることができる。さらに、固相は、有機高分子を含有するものであってもよい。有機高分子は、多糖構造を有する有機高分子であることが好ましい。また、有機高分子は、アセチルセルロースであってもよい。さらに、有機高分子は、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子とすることもできる。有機高分子は、再生セルロースであってもよい。これらについて、以下に詳細に説明する。
【0063】
上記多孔質フィルター7に内有する核酸吸着性固相は、基本的には核酸が通過可能な多孔性であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0064】
上記多孔質フィルター7に内有する核酸吸着性固相は、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する多孔性固相が好ましい。これは、多孔性固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。好ましくは、核酸吸着性多孔性固相は、親水基を有する多孔性固相であり、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相の親水基同士が引き合うようになると推定される。
【0065】
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、オキシエチレン基等を挙げることができる。好ましくは水酸基である。
【0066】
ここで、親水基を有する多孔性固相とは、多孔性固相を形成する材料自体が、親水性基を有する多孔性固相、または多孔性固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した多孔性固相を意味する。多孔性固相を形成する材料は有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相等を、使用することができるが、加工の容易性から、多孔性固相を形成する材料は有機高分子等の有機材料を用いることが好ましい。
【0067】
親水基を有する材料の多孔性固相としては、水酸基を有する有機材料の多孔性固相を挙げることができる。水酸基を有する有機材料の多孔性固相としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等で、形成された多孔性固相を挙げることができるが、特に多糖構造を有する有機材料の多孔性固相を好ましく使用することができる。
【0068】
水酸基を有する有機材料の多孔性固相として、好ましくは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物から成る有機高分子の多孔性固相を使用することができる。アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。
【0069】
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
【0070】
更に好ましい、水酸基を有する有機材料としては、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が挙げられる。アセチルセルロースの表面鹸化物とは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理したものであり、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物も好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することである。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比(質量比)は、99:1〜1:99であることが好ましい。更に好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比は、90:10〜50:50であることである。この場合、鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができる。核酸の分離効率をあげるためには、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロースの場合には、鹸化率(表面鹸化率)が約5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、水酸基を有する有機高分子の表面積を大きくするために、アセチルセルロースの多孔性固相を鹸化処理することが好ましい。この場合、多孔性固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよいが、裏非対称性の多孔性膜を好ましく使用することができる。
【0071】
鹸化処理とは、アセチルセルロースを鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触したアセチルセルロースの部分に、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作成された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMR、IR又はXPSにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
【0072】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を多孔性固相に結合することができる。
有機材料の多孔性固相にグラフトポリマー鎖を結合する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、多孔性固相を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
【0073】
まず、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に多孔性固相と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と、多孔性固相の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。多孔性固相と反応する官能基としては、多孔性固相の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
【0074】
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシル基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
【0075】
多孔性固相を基点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖を形成させる方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱等の方法で基材表面上に活性種を与え、多孔性固相と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって多孔性固相と結合させる方法を指す。
【0076】
基材に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば、親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
【0077】
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーを特に好ましく用いることができる。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
【0078】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができるが、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
【0079】
また、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0080】
親水基を有する無機材料である多孔性固相としては、前述のようにシリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する多孔性固相を挙げることができる。シリカ化合物を含有する多孔性固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
【0081】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
【0082】
多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
【0083】
親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、上記、親水基を持たない有機材料の多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法において、記載した親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
【0084】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができる。
【0085】
また、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロース、またはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0086】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、若しくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を加工して作製した多孔性固相を挙げることができる。
【0087】
上記の、核酸吸着性多孔性膜は、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかの形態をとることができ、溶液が内部を通過可能であり、厚さが10μm〜500μmである。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。洗浄がし易い点で、厚さが薄いほど好ましい。
【0088】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、最小孔径が0.22μm以上である。さらに好ましくは、最小孔径が0.5μm以上である。また、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いることが好ましい。これにより、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難い。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。
【0089】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、空隙率が50〜95%である。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2(9.8〜980kPa)である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2(19.6〜392kPa)である。
【0090】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。これにより、過圧時に均一な圧力が得られる。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
【0091】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
【0092】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
【0093】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、一辺が5mmの正方形の多孔性膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに、1時間以内では溶解しないが48時間以内に溶解するセルロース誘導体が、好ましい。また、一辺が5mmの正方形の多孔質膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに1時間以内に溶解するが、ジクロロメタン5mLに浸漬したときには24時間以内に溶解しないセルロース誘導体がさらに好ましい。
【0094】
核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を一方の面から他方の面へと通過させることが、液を多孔性膜へ均一に接触させることができる点で、好ましい。核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を核酸吸着性多孔性膜の孔径が大きい側から小さい側に通過させることが、目詰まりし難い点で好ましい。
【0095】
核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜を通過させる場合の流速は、液の多孔性膜への適切な接触時間を得るために、膜の面積cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の多孔性膜への接触時間が短すぎると十分な核酸抽出効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、上記流速は、膜の面積cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
【0096】
また、使用する溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、1枚であってもよいが、複数枚を使用することもできる。複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、同一のものであっても、異なるものであって良い。
【0097】
複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材料の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸吸着性多孔性膜との組合せであっても良い。例えば、ガラスフィルターと再生セルロースの多孔性膜との組合せを挙げることができる。また、複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸非吸着性多孔性膜との組合せであってもよい、例えば、ガラスフィルターと、ナイロンまたはポリスルホンの多孔性膜との組合せを挙げることができる。核酸抽出に用いる膜は、一般に数十μm〜数百μmと非常に薄い膜であるため、膜を保持するために、膜の下面に多孔質のサポートを併用する場合があり、この場合には、膜+サポートの組み合わせで膜強度を高めることができる。
【実施例1】
【0098】
次に、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの効果を確認した結果を説明する。
<破損試験>
実施例1は、交差状リブが6本で連結部に凸状面が形成され、キャップの排出用開口の直径2mmの多孔質フィルターカートリッジであり、比較例1は実施例1に対してリブの連結部に凸状面が形成されていない多孔質フィルターカートリッジ、比較例2は、交差状リブを形成しない多孔質フィルターカートリッジである。これらのカートリッジを、遠心分離機(株式会社トミー精工 製 MX−300)により、回転速度を段階的に変化させて(8000rpm、15000rpm)多孔質フィルターの破損状態を調べた。その試験結果を表1に示す。各試験の結果は、10回の測定に対して破損が生じなかった回数を示している。つまり、分母が全測定回数、分子が破損なしであった回数である。
【0099】
【表1】
【0100】
表1により明らかなように、交差状リブを形成しない比較例2では多孔質フィルターが破損した。これに対して、交差状リブを有して連結部に湾曲状の凸部を有する実施例1は、両方の回転速度で破損しなかった。しかし、比較例1では15000rpmの高速回転時に多孔質フィルターに破損が認められた。また、比較例2では、いずれの回転速度でも破損が認められた。
【0101】
本発明に係る多孔質フィルターカートリッジでは、前述した各実施形態の形状の他、適宜、変形や改良等が可能である。
例えば、図16に示すように、連結部43の頂面が平坦状とされた構成であっても、多孔質フィルターへの負荷圧力が低い場合には十分に実用に供することができる。また、図17(a),(b)に示すように、交差状リブがなく、補助リブのみで構成した場合でも、リブ同士の間隔が狭くなっているので、多孔質フィルターに係る圧力を分散でき、破損防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの外観斜視図である。
【図2】図1の多孔質フィルターカートリッジの分解斜視図である。
【図3】多孔質フィルターカートリッジに適用したキャップ単体の平面図である。
【図4】図3のキャップのI−I線断面図である。
【図5】図3のキャップの一部破断外観斜視図である。
【図6】図1の多孔質フィルターカートリッジの使用例を説明する断面図である。
【図7】多孔質フィルターを組み付けた多孔質フィルターカートリッジの作用を説明する断面図である。
【図8】他の実施形態におけるキャップの図5に相当する一部破断外観斜視図である。
【図9】他の実施形態の多孔質フィルターカートリッジの図4に相当するキャップのI−I線断面図である。
【図10】本発明の多孔質フィルターカートリッジにおけるキャップの製造工程を(a)〜(d)に段階的に示した一部断面説明図である。
【図11】ピンの先端部の拡大斜視図である。
【図12】他の構成のピンの先端部の拡大斜視図である。
【図13】多孔質フィルターカートリッジの製造工程を(a)〜(e)の各段階毎で示した工程説明図である。
【図14】核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図である。
【図15】核酸抽出動作の工程を(a)〜(g)で表した説明図である。
【図16】連結部の頂面が平坦状にされたキャップの断面図である。
【図17】交差状リブのないキャップの平面図(a)と一部断面斜視図(b)である。
【符号の説明】
【0103】
1 多孔質フィルターカートリッジ
3 バレル
5 キャップ
7 多孔質フィルター
19 注入口
27 リブ
29 排出口
35 交差状リブ
37 補助リブ
39 補助リブ
41 凸状面
43 連結部
49 凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルターが有底筒体キャップの底部に保持された多孔質フィルターカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質フィルターは、液体の濾過や液体内の特定物質の分離精製を目的に、実験室や工場などの研究、分析用途に広く使用されている。この多孔質フィルターは、例えば、液体の通路を有する2つの部材の間に多孔質フィルターを挟持させること等により、液体の通路の途中に保持された状態で使用される。また、この種の多孔質フィルターは、一般に精密な実験や測定などに用いられることから、清浄なものが求められ、一回の使用で交換される使用形態が通常である。そのため、液体を通過させることのできる状態で多孔質フィルターを保持したカートリッジにしておくことが、清浄性の点や利便性の点で都合がよい。
【0003】
一般に、多孔質膜を利用して液の濾過、抽出を行うカートリッジは、その多孔質膜中を液通過させるために液圧(ポンプや重力による加圧や遠心分離機による遠心力による加圧)または圧縮気体により液を加圧する必要がある。その際に、多孔質膜を通過した後の濾過液をスムーズに排出することは、液の損失を防止するばかりか、多孔質膜に血液、細胞等から核酸等を吸着、その後の工程で回収するような場合は、その工程で洗浄液での洗浄工程、回収液による回収工程等、液を切り替えて行う工程がある場合に、前段の液残りを減少させることができる、純度の高い核酸抽出が可能となる。また、濾過液がスムーズに流れない場合は、フィルターの膜破れによる著しい性能悪化が予想される。濾過抽出工程においても、部分的な濾過不具合が発生した場合には、濾過面積が減少し、期待した能力が発揮できない場合もある。
ところで、従来の多孔質フィルターカートリッジの一例として、例えば次のようなものがある。特許文献1には、多孔質フィルターを載せるリブを中心から同心円状に円周方向に沿って複数配置した構成が記載されている。リブはカートリッジの内側ハウジング面に粗いメッシュ状に形成されている。また、特許文献2には、多孔質フィルターを支持する膜支持部に充填剤を組み込んだ構成が記載されている。さらに、特許文献3には、多孔質フィルターを支持する膜支持部に多孔質サポート材を組み込んだ構成が記載されている。
【特許文献1】米国特許第5792354号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0012982号明細書
【特許文献3】米国特許第6586585号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、中央排出経路に対して液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難い。
また、上記特許文献2に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、圧力抵抗が高くなるために、液使用量を多く必要とするとともに、液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難い。
さらに、上記特許文献3に開示された従来の多孔質フィルターカートリッジでは、上記特許文献2と同様に圧力抵抗が高くなるため、液使用量を多く必要とするとともに、液残りが生じやすいために、コンタミネーションが起きて効率の良い測定を行い難く、コストアップに繋がる。
加えて、上記特許文献1、2、3に開示された従来のいずれの多孔質フィルターカートリッジにおいても、圧力を掛けながら液体を通流させるので、その圧力によって多孔質フィルターが破損する虞がある。
特に、核酸を抽出するための多孔質フィルターカートリッジにおいては、少量検体から高純度の核酸を高濃度で回収することが望まれている。また、細胞等からの核酸に対しては、検体が多孔質膜に詰まりやすく、そのため、濾過面積を広くすることが必要とされている。しかし、リブの数や面積を減らすとフィルターへの応力集中が生じやすくなり、フィルターの破損に繋がることになる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、コンタミネーションを起こし難く、コスト面で有利にして破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる多孔質フィルターカートリッジを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 底部中央に排出用開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に前記排出用開口を中心として放射状に前記多孔質フィルターを支持する複数のリブが立設され、
前記複数のリブのうち少なくともいずれかは、前記排出用開口の中央部で該排出用開口を跨いで連結され、該連結されたリブの連結部の頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する凸状面が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【0006】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの連結部に凸状面が形成されていることで、リブの頂面と多孔質フィルターとの接触面が減少し、フィルターの濾過面積を広げることができる。
【0007】
(2) (1)記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する複数の凸部が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【0008】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの頂面に複数の凸部を形成することで、リブの頂面と多孔質フィルターとの接触面が減少し、フィルターの濾過面積を広げることができる。
【0009】
(3) (1)または(2)記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面の角部が曲面状に面取り加工されている多孔質フィルターカートリッジ。
【0010】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、リブの頂面の角部が面取り加工されることで、多孔質フィルターとの接触時に応力集中が生じにくくなり、多孔質フィルターが破れる等の損傷が生じにくくなる。
【0011】
(4) (1)〜(3)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面は、前記多孔質フィルターが前記排出用開口に向けて凹形状となるように、前記キャップの底部からの高さを径方向に応じて異なる高さに設定された多孔質フィルターカートリッジ。
【0012】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターが排出用開口に向けて凹形状となるようにリブの高さが設定されることで、フィルターの液通流時の最後には、フィルターの中央部に液が集まるようになり、液残りが生じにくく効率的な通流動作が可能となる。また、カートリッジ内を負圧するバックブローの際に、多孔質フィルターが浮き上がることを防止できる。
【0013】
(5) (1)〜(4)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に、該キャップ中心からの半径方向長さの異なるリブがそれぞれ混在配置された多孔質フィルターカートリッジ。
【0014】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、放射状に形成したリブは、外周側ほど周方向のリブ間隔が長くなるが、半径方向の長さの短いリブをリブ同士の間に配置することで、内周側から外周側にかけて均等なリブの配置密度にすることができる。
【0015】
(6) (1)〜(5)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターと前記キャップとがインサート成形によって一体成形された多孔質フィルターカートリッジ。
【0016】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、キャップと多孔質フィルターとの密着性を高め、かつ簡単に一体化することができる。
【0017】
(7) (1)〜(6)のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜を含む多孔質フィルターカートリッジ。
【0018】
この多孔質フィルターカートリッジによれば、多孔質フィルターカートリッジに試料液を注入し、多孔質フィルターカットリッジに圧力を印加することで試料液を多孔質フィルターに通過させることで、多孔質フィルターに核酸を吸着させることができ、その後、洗浄液および溶出液を注入して、多孔質フィルターに吸着した核酸を抽出することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多孔質フィルターカートリッジによれば、コンタミネーションを起こし難く、コスト面で有利にして破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの外観斜視図、図2は図1の多孔質フィルターカートリッジの分解斜視図である。
図1、図2に示すように、実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1は、主に、バレル3と、キャップ5と、多孔質フィルター7とからなる。
バレル3は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル等のインサート射出成形可能な樹脂材料を用いて形成され、円筒形状の上部の注入口19には蓋体21がヒンジ部材23を介して連結されている。バレル3単体は、大径側筒部11と小径側筒部13とを有し、小径側筒部13の下側にキャップ側融着部17が形成されている。
【0021】
キャップ5は、バレル2と同様に、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリ塩化ビニル等のインサート射出成形可能な樹脂材料を用いて有底の円筒形状に形成されている。キャップ5は、筒部25にバレル3のキャップ側融着部17が挿入されて固定される。その固定方法については後述する。筒部25の底部にはリブ27が形成されており、リブ27の中央部には排出用の開口29が形成されている。この開口29からノズル31が延出して形成されている。
【0022】
このキャップ5の内側には多孔質フィルター7がリブ27の頂面に載置された状態で保持される。なお、リブ27の頂面の角部は、リブの角を丸めた曲面状として形成され、リブに接触する多孔質フィルター7の亀裂発生を防止している。
【0023】
多孔質フィルター7は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネイト等の多孔質膜を用いて、キャップ5の内径と略同一の直径に形成された円形の膜部材である。
【0024】
多孔質フィルター7は、無数の微細な孔を有し、液体を濾過、分離精製(吸着)して核酸等を採取する、有機高分子からなる多孔質膜である。その厚さは10〜500μmが好適に使用できる。また、多孔質膜が核酸吸着性多孔質膜である場合には、例えば、アセチルセルロースの表面鹸化物からなる多孔質膜が好適であり、鹸化率は5%以上であることが好適である。アセチルセルロースとしては、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースの何れでもよいが、特にトリアセチルセルロースが望ましい。また、核酸吸着性多孔質膜には、最小孔径が0.22μm以上、最大孔径と最小孔径の比が2以上、空隙率が50〜95%、バブルポイントが9.8〜980kPa(0.1〜10kg/cm2)、圧力損失が0.1〜100kPa、核酸吸着量が多孔質膜1mg当たり0.1μg以上の多孔質膜が好適である。ここで、圧力損失とは、水を通過させるのに必要な多孔質膜の厚さ100μm当たりの最低圧力である。
【0025】
図3は図1の多孔質フィルターカートリッジに適用したキャップ単体の平面図、図4は図3のキャップのI−I線断面図、図5は図3のキャップの一部破断外観斜視図である。
図3、図4、図5に示すように、キャップ5の内側底部のリブ27は、底部を中心として放射状に形成され、排出用の開口29の中央部でこの開口29を跨いで連結された複数(図示例では6個)の交差状リブ35と、交差状リブ35同士の間で、円周方向に等間隔(中心角が均等)で配置され、径方向の長さの異なる2種類の補助リブ37,39とを有する。補助リブ37のキャップ中央側先端は、開口29の内径よりさらに内側に突出した長さに形成され、補助リブ39のキャップ中央側先端は、開口29の内径より外側になる長さに形成されている。また、交差状リブ35同士の間に補助リブ37が配置され、さらに交差状リブ35と補助リブ37との間にそれぞれ補助リブ39が配置されている。キャップ5の底面は開口29に向けて傾斜したテーパ面45で形成されており、交差状リブ35,補助リブ37,39は、このテーパ面45から多孔質フィルター側へ立設されている。そして、キャップ5中央における交差状リブ35の連結部43の多孔質フィルター側では、多孔質フィルター側へ湾曲して突起する凸状面41が形成されている。
【0026】
交差状リブ35、補助リブ37,39は、例えば0.2mmの厚さ寸法T1を有する板形状に形成されて、頂面が筒部25からキャップ中央に向けて下がり傾斜したテーパ状をなす。
【0027】
そして、連結部43は、図4に示すように、交差状リブ35が交差する開口29上の中央部に配置されて、交差状リブ35と連結した円柱形状に形成されている。連結部43は、交差状リブ35の厚さ寸法T1よりも大きい外径寸法L1を有する。
【0028】
ここで、図6に図1の多孔質フィルターカートリッジの使用例を説明する断面図、図7に多孔質フィルターを組み付けた多孔質フィルターカートリッジの作用を説明する断面図を示した。
図6に示す上記構成の多孔質フィルターカートリッジ1の使用形態としては、次のようになる。ここでは一例として核酸抽出処理に用いる場合を説明する。まず、核酸を含む試料溶液として、検体として採血された全血、血漿、血清、尿、便、精液、唾液などの体液、あるいは植物(又はその一部)、動物(又はその一部)など、或いはそれらの溶解物及びホモジネートなどの生物材料から調製された溶液を用意する。これらの溶液を、細胞膜を溶解して核酸を可溶化する試薬を含む水溶液で処理する。これにより細胞膜及び核膜が溶解されて、核酸が水溶液内に分散する。例えば、試料が全血の場合、塩酸グアニジン、Triton−X100、プロテアーゼK(SIGMA製)を添加した状態で、60℃で10分インキュベートすることによって赤血球の除去、各種タンパク質の除去、白血球の溶解及び核膜の溶解がなされる。
【0029】
このように核酸が分散した水溶液中に、水溶性有機溶媒、例えばエタノールを添加して試料溶液100ができあがる。この試料溶液100を、バレル3の注入口19からノズル31の先端の排出口29へ向けて圧力を掛けつつ通流させる。こうすると、試料溶液100中の核酸が多孔質フィルター7に吸着される。
【0030】
上記の圧力を加えて試料溶液100を通過させる加圧方式では、遠心力により試料溶液100を通過させる遠心分離方式に比べ、試料溶液100が多孔質フィルター7の周縁部へ向けてより流れようとするが、多孔質フィルター7の周縁部は、インサート成形されたキャップ側融着部17とキャップ5の筒部25との間で圧縮された状態で保持されているので、試料溶液100が多孔質フィルター7の側部(外周のエッジ部分)へ回り込むことはない。したがって、試料溶液100内の核酸は、多孔質フィルター7のうち、キャップ側融着部17の端部に囲まれた内側の部分にのみ吸着されることになる。
【0031】
次に、核酸洗浄バッファ溶液を、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口19からノズル31の開口29に向けて圧力をかけながら通流させる。核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター7に吸着した核酸は脱着させないが、不純物は脱着させる組成を有するものであり、主剤と緩衝剤、及び必要に応じて界面活性剤を含む水溶液からなる。主剤としては、エタノール、Tris及びTriton−X100を含む溶液が好ましい。この操作により、多孔質フィルター7から核酸以外の不純物が除去される。
【0032】
このとき、核酸洗浄バッファ溶液は、多孔質フィルター7のうち、試料溶液100が通流した部分、すなわちキャップ側融着部17の端部に囲まれた部分に十分通流するので、不純物が多孔質フィルター7の周縁部に残ることなく除去される。
【0033】
次に、精製蒸留水又はTEバッファ等を注入口19からノズル31の開口29に向けて圧力を掛けながら通流させて、核酸を多孔質フィルター7から流し出し、流し出した核酸を含む溶液を回収する。
【0034】
図7に示すように、多孔質フィルターカートリッジ1は、キャップ5に多孔質フィルター7が組み付けられた際、多孔質フィルター7は、その中央部が連結部43の凸状面41に点接触に近い状態で接する。これにより、多孔質フィルター7と凸状面41との間に空間47が形成され、この空間47により多孔質フィルター7と連結部43頂面との接触面積が減少し、濾過面積を広くすることができる。その結果、空間47を通じて溶液の抜けを良好にすることができる。これにより、コンタミネーションを起こし難くでき、別途にフィルター保持用の部材を用いる必要もなく、しかも、高い圧力をかけても多孔質フィルター7を破損することなく効率の良い濾過、抽出処理を行うことができる。
【0035】
また、本実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1によれば、連結部43の外径寸法L1が交差状リブ35の厚さ寸法T1よりも大きいために、多孔質フィルター7は、キャップ中央において交差状リブ35よりも大きい外径の連結部43で支持されることで、安定した濾過、抽出処理を行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の多孔質フィルターカートリッジ1によれば、多孔質フィルター7は、交差状リブ35と、複数の補助リブ37,39とによって均等に支持されるために、多孔質フィルター7に応力集中を発生させることなく、破損を防止して安定的に支持することができる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの第2実施形態について説明する。
本実施形態の多孔質フィルターカートリッジは、第1実施形態における多孔質フィルターカートリッジの交差状リブ35と補助リブ37,39の形状が異なっている他は、同様の構成である。
図8に本実施形態におけるキャップの図5に相当する一部破断外観斜視図、図9に同じく図4に相当するキャップのI−I線断面図を示した。
【0038】
図8に示すように、本実施形態のキャップ5は、交差状リブ35の頂面と、補助リブ37,39の頂面とに、多孔質フィルター側に突起する複数の凸部49を有する。凸部49は、交差状リブ35と、補助リブ37,39の頂面のリブ厚みより小さい突出寸法で形成され、各凸部49は滑らかな曲線状に形成されている。図示例では各リブの頂面に蒲鉾形の凸部49を形成しているが、これに限らず、例えばsin波等の連続したうねりを有する曲面としてもよい。
【0039】
本実施形態の構成によれば、キャップ5に多孔質フィルター7が組み付けられた際、多孔質フィルター7は、その中央部が連結部43の凸状面41に点接触に近い状態で接するとともに、各リブ35,37,39の頂面の凸部49に点接触に近い状態で接するために、多孔質フィルター7と各リブ35,37,39の頂面との間に、多数の空間51が形成される。
これにより、これら複数の空間51および連結部43の凸状面41により形成される空間(図7に示す空間47)を通じて液の抜けを良好にすることができる。
【0040】
<キャップの製造方法>
次に、多孔質フィルターカートリッジ1のキャップ5の製造方法について説明する。
図10は多孔質フィルターカートリッジのキャップ5に対する製造工程を(a)〜(d)に段階的に示した一部断面説明図である。
【0041】
図10(a)に示すように、キャップ製造用金型であるピン501は、ロッド503にスライド移動自在に支持された第1治具505に固定されている。このピン501は、樹脂材料を供給するランナ511が内部に形成され、先端部のゲートから樹脂材料を射出する構成となっている。図11にピン501の先端部の拡大斜視図を示した。第2治具507は、ピン501の先端部付近をスライド移動自在に支持している。第3治具509は、キャップ製造用金型501との間にキャビティを形成するカップ502を保持し、第2治具507に対して進退自在に設けられている。
【0042】
まず、図10(b)に示すように、第2治具507と第3治具509とを第2治具507側に移動させ、ピン501の先端部が被せられたカップ502内のキャビティにピン501のゲートから樹脂材料を射出する。
【0043】
そして、カップ502内の樹脂材料が所定時間経過後に冷却・固化された後に、図10(c)に示すように、第3治具509を第2治具507から退行していくことで、ピン501の先端部に、成形されたキャップ5が装着されたままとなる。
【0044】
そして、図10(d)に示すように、第2治具507が第3治具509に向けて移動することで、ピン501の先端部で成形されたキャップ5が離脱して、取り出されることとなる。
【0045】
ここで、図10に示したピン501の詳細構造について説明する。
図11に示すように、ピン501は、円錐状突部513の円周方向に、交差状リブ35を成形するための凹部515と、補助リブ37,39を成形するための凹部517,519とが配列されており、円錐状突部513の中央部には、連結部43を成形するための孔部521が設けられている。孔部521の内周面は円弧状であることにより、連結部43が円柱状に成形される。
【0046】
連結部43の形状は、図11に示すピン501に基づく形状に限らず、適宜な変更が可能である。例えば、連結部43の外周面を交差状リブ35の面からラウンド状に丸めたりすることが図12に示すピン501Aによって可能となる。つまり、図12のピン501Aの孔部523は、内周側の角部がラウンド状に丸められ、成形される交差状リブ35の面と連結部43の外周面が滑らかな曲面で連結される。
【0047】
<多孔質フィルターカートリッジ製造方法>
次に、キャップ5が備えた多孔質フィルターカートリッジの製造方法について説明する。
図13は多孔質フィルターカートリッジの製造工程を(a)〜(e)の各段階毎で示した工程説明図である。なお、本図は製造工程を概念的に表した図であり、多孔質フィルターカートリッジの形状は模式的に示してある。
図13において、(a)は多孔質フィルター挿入時、(b)はインサート時、(c)は型閉じ時の状態、(d)は樹脂射出時、(e)は射出完了時の状態をそれぞれ示している。
【0048】
まず、図13(a)に示すように、多孔質フィルター7をキャップ5の底部に形成したリブ27上に挿入してインサート部材を用意する。多孔質フィルター7は、自動機の吸着パッド601によって吸着保持されている状態で、キャップ5の筒部25内に挿入される。挿入された多孔質フィルター7は、リブ27上に浮き上がることなく平坦に載置される。
【0049】
図13(b)に示すように、上記のインサート部材を射出成形型(キャップ側金型)603に形成されたキャビティ605内に装填する。
【0050】
次に、図13(c)に示すように、インサート部材を設置したキャップ側金型603に、射出成形型(バレル側金型)607を組み合わせて型閉じを行う。
【0051】
バレル側金型607は、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口19に相当する位置に、円柱状のコアピン609を備えている。コアピン609は、両金型603,607を閉じたときに、コアピン609の先端部が多孔質フィルター7の上面に当接して、キャップ5との間で多孔質フィルター7を挟みこむようになっている。このとき、多孔質フィルター7は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度に、所定の厚さまで圧縮される。換言すれば、コアピン609は、次工程で射出する樹脂Jが漏れない程度の厚さまで多孔質フィルター7を圧縮するように、その長さが調節されている。また、バレル側金型607は、樹脂Jを射出するためのゲート611を備えており、キャビティ605に樹脂Jを射出可能となっている。
【0052】
次に、図13(d)に示すように、キャップ側金型603とバレル側金型607とインサート部材によって形成されたキャビティ605に、溶融した樹脂Jをゲート611から射出する。このとき、キャビティ611内に充填された樹脂Jの射出圧力によって、多孔質フィルター7の周縁部が押し潰される。換言すれば、多孔質フィルター7の周縁部が好適に押し潰される程度の射出圧力をかけて、溶融した樹脂Jをキャビティ611に射出する。
【0053】
そして、図13(e)に示すように、樹脂Jの射出が完了し、樹脂Jが冷えて硬化してバレル3が形成されたら、型開きを行い、多孔質フィルターカートリッジ1を取り出す。ここで、多孔質フィルター7の周縁部は、射出成形されたバレル3とキャップ5とに挟まれて挟持され、キャップ5のリブ27上に固定される。
【0054】
<核酸抽出>
以下、核酸抽出装置による抽出動作と具体的な材料等を詳細に説明する。
図14は核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図、図15は抽出動作の工程を(a)〜(g)で表した説明図である。
【0055】
核酸抽出装置701は、多孔質フィルターカートリッジ1に対して昇降移動する移動ヘッド703を備える。移動ヘッド703は、電磁弁705を介してエアポンプ707に接続されている。また、加圧ノズル709と電磁弁705とを接続する配管711の途中には、圧力センサ713が介装されており、配管711内の圧力を測定し、測定結果は制御部715に転送される。
【0056】
核酸抽出装置701に用いられる多孔質フィルターカートリッジ1は、多孔質フィルター7が核酸吸着性多孔質膜となる。これにより、核酸吸着性多孔質膜を収容した多孔質フィルターカートリッジ1に試料液を注入し、多孔質フィルターカートリッジ1の注入口側より加圧して試料液を多孔質フィルター7を通過させることで、核酸を核酸吸着性多孔質膜に吸着させ、その後、洗浄液及び溶出液を注入して、核酸を洗浄・溶出させることで、所定の容器717に核酸を回収することができる。
【0057】
より具体的には、核酸抽出装置701は、基本的に図15(a)〜(g)に示すような抽出工程に基づいて核酸の抽出を行う。なお、以下の説明では、適宜図14を参照する。
【0058】
まず、図15の(a)工程で、廃液容器731上に位置するカートリッジ1に溶解処理された核酸を含む試料液Sを注入する。溶解処理された試料液Sをピペット等によってカートリッジ1に順次注入する。カートリッジ1の直上に加圧ノズル709を配置させ、移動ヘッド703の加圧ノズル709を下降移動させて、加圧ノズル709の先端外周面をカートリッジ1に密着させる。
【0059】
次に、(b)工程で、カートリッジ1に加圧エアを導入して加圧する。制御部715の指令により、電磁弁バルブ705が閉状態でエアポンプ707が駆動され、電磁弁705が開作動される。そして、加圧ノズル709を通してカートリッジ1にエアポンプ707からの加圧エアが所定量供給される。これにより、核酸吸着性多孔膜7を通して試料液Sを通過させ、この核酸吸着性多孔膜7に核酸を吸着させる。通過した液状成分は廃液容器731に排出する。
【0060】
次に、(c)工程でカートリッジ1に洗浄液Wを分注し、(d)工程でカートリッジ1に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜7に核酸を保持したままその他の不純物の洗浄除去を行い、通過した洗浄液Wを廃液容器731に排出する。この(c)工程及び(d)工程は複数回繰り返してもよい。
【0061】
その後、(e)工程でカートリッジ1の下方の廃液容器731を回収容器733に交換してから、(f)工程でカートリッジ1に回収液Rを分注し、(g)工程でカートリッジ1に加圧エアを導入して加圧し、核酸吸着性多孔膜7と核酸の結合力を弱め、吸着されている核酸を離脱させて、核酸を含む回収液Rを回収容器733に排出し回収する。そして、カートリッジ1及び廃液容器731は装置より取り出されて廃棄される。回収容器733は液回収後に必要に応じて蓋体を閉じられる。
【0062】
<多孔質フィルターの材料>
次に、上記の多孔質フィルターカートリッジ1の多孔質フィルター7が備える核酸吸着性固相(ここでは一例として核酸吸着性多孔膜)について詳細に説明する。
ここでいう核酸吸着性固相は、シリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有するものとすることができる。さらに、固相は、有機高分子を含有するものであってもよい。有機高分子は、多糖構造を有する有機高分子であることが好ましい。また、有機高分子は、アセチルセルロースであってもよい。さらに、有機高分子は、アセチルセルロースまたはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理した有機高分子とすることもできる。有機高分子は、再生セルロースであってもよい。これらについて、以下に詳細に説明する。
【0063】
上記多孔質フィルター7に内有する核酸吸着性固相は、基本的には核酸が通過可能な多孔性であり、その表面は試料液中の核酸を化学的結合力で吸着する特性を有し、洗浄液による洗浄時にはその吸着を保持し、回収液による回収時に核酸の吸着力を弱めて離すように構成されてなる。
【0064】
上記多孔質フィルター7に内有する核酸吸着性固相は、イオン結合が実質的に関与しない相互作用で核酸が吸着する多孔性固相が好ましい。これは、多孔性固相側の使用条件で「イオン化」していないことを意味し、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相が引き合うようになると推定される。これにより分離性能に優れ、しかも洗浄効率よく、核酸を単離精製することができる。好ましくは、核酸吸着性多孔性固相は、親水基を有する多孔性固相であり、環境の極性を変化させることで、核酸と多孔性固相の親水基同士が引き合うようになると推定される。
【0065】
親水基とは、水との相互作用を持つことができる有極性の基(原子団)を指し、核酸の吸着に関与する全ての基(原子団)が当てはまる。親水基としては、水との相互作用の強さが中程度のもの(化学大事典、共立出版株式会社発行、「親水基」の項の「あまり親水性の強くない基」参照)が良く、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、オキシエチレン基等を挙げることができる。好ましくは水酸基である。
【0066】
ここで、親水基を有する多孔性固相とは、多孔性固相を形成する材料自体が、親水性基を有する多孔性固相、または多孔性固相を形成する材料を処理またはコーティングすることによって親水基を導入した多孔性固相を意味する。多孔性固相を形成する材料は有機物、無機物のいずれでも良い。例えば、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する有機材料である多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相、多孔性固相を形成する材料自体が親水基を有する無機材料である多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相を処理して親水基を導入した多孔性固相、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に対し親水基を有する材料でコーティングして親水基を導入した多孔性固相等を、使用することができるが、加工の容易性から、多孔性固相を形成する材料は有機高分子等の有機材料を用いることが好ましい。
【0067】
親水基を有する材料の多孔性固相としては、水酸基を有する有機材料の多孔性固相を挙げることができる。水酸基を有する有機材料の多孔性固相としては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等で、形成された多孔性固相を挙げることができるが、特に多糖構造を有する有機材料の多孔性固相を好ましく使用することができる。
【0068】
水酸基を有する有機材料の多孔性固相として、好ましくは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物から成る有機高分子の多孔性固相を使用することができる。アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物として、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。
【0069】
特にトリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合物を好ましく使用することができる。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースの混合比(質量比)は、99:1〜1:99である事が好ましく、90:10〜50:50である事がより好ましい。
【0070】
更に好ましい、水酸基を有する有機材料としては、特開2003−128691号公報に記載の、アセチルセルロースの表面鹸化物が挙げられる。アセチルセルロースの表面鹸化物とは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理したものであり、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物、ジアセチルセルロースとモノアセチルセルロース混合物の鹸化物も好ましく使用することができる。より好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の鹸化物を使用することである。トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比(質量比)は、99:1〜1:99であることが好ましい。更に好ましくは、トリアセチルセルロースとジアセチルセルロース混合物の混合比は、90:10〜50:50であることである。この場合、鹸化処理の程度(鹸化率)で固相表面の水酸基の量(密度)をコントロールすることができる。核酸の分離効率をあげるためには、水酸基の量(密度)が多い方が好ましい。例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロースの場合には、鹸化率(表面鹸化率)が約5%以上であることが好ましく、10%以上であることが更に好ましい。また、水酸基を有する有機高分子の表面積を大きくするために、アセチルセルロースの多孔性固相を鹸化処理することが好ましい。この場合、多孔性固相は、表裏対称性の多孔性膜であってもよいが、裏非対称性の多孔性膜を好ましく使用することができる。
【0071】
鹸化処理とは、アセチルセルロースを鹸化処理液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)に接触させることを言う。これにより、鹸化処理液に接触したアセチルセルロースの部分に、再生セルロースとなり水酸基が導入される。こうして作成された再生セルロースは、本来のセルロースとは、結晶状態等の点で異なっている。
又、鹸化率を変えるには、水酸化ナトリウムの濃度を変えて鹸化処理を行えば良い。鹸化率は、NMR、IR又はXPSにより、容易に測定することができる(例えば、カルボニル基のピーク減少の程度で定めることができる)。
【0072】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法として、ポリマー鎖内または側鎖に親水基を有すグラフトポリマー鎖を多孔性固相に結合することができる。
有機材料の多孔性固相にグラフトポリマー鎖を結合する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、多孔性固相を起点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させグラフトポリマー鎖とする2つの方法がある。
【0073】
まず、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる方法においては、ポリマーの末端または側鎖に多孔性固相と反応する官能基を有するポリマーを使用し、この官能基と、多孔性固相の官能基とを化学反応させることでグラフトさせることができる。多孔性固相と反応する官能基としては、多孔性固相の官能基と反応し得るものであれば特に限定はないが、例えば、アルコキシシランのようなシランカップリング基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エポキシ基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等を挙げることができる。
【0074】
ポリマーの末端、または側鎖に反応性官能基を有するポリマーとして特に有用な化合物は、トリアルコキシシリル基をポリマー末端に有するポリマー、アミノ基をポリマー末端に有するポリマー、カルボキシル基をポリマー末端に有するポリマー、エポキシ基をポリマー末端に有するポリマー、イソシアネート基をポリマー末端に有するポリマーが挙げられる。この時に使用されるポリマーとしては、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、具体的には、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン等を挙げることができる。
【0075】
多孔性固相を基点として重合可能な二重結合を有する化合物を重合させ、グラフトポリマー鎖を形成させる方法は、一般的には表面グラフト重合と呼ばれる。表面グラフト重合法とは、プラズマ照射、光照射、加熱等の方法で基材表面上に活性種を与え、多孔性固相と接するように配置された重合可能な二重結合を有する化合物を重合によって多孔性固相と結合させる方法を指す。
【0076】
基材に結合しているグラフトポリマー鎖を形成するのに有用な化合物は、重合可能な二重結合を有しており、核酸の吸着に関与する親水基を有するという、2つの特性を兼ね備えていることが必要である。これらの化合物としては、分子内に二重結合を有していれば、親水基を有するポリマー、オリゴマー、モノマーのいずれの化合物をも用いることができる。特に有用な化合物は親水基を有するモノマーである。
【0077】
特に有用な親水基を有するモノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等の水酸性基含有モノマーを特に好ましく用いることができる。また、アクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー、若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩も好ましく用いることができる。
【0078】
親水基を持たない有機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができるが、多糖構造を有するポリマーが好ましい。
【0079】
また、親水基を持たない有機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0080】
親水基を有する無機材料である多孔性固相としては、前述のようにシリカ若しくはその誘導体、珪藻土、又はアルミナを含有する多孔性固相を挙げることができる。シリカ化合物を含有する多孔性固相としては、ガラスフィルターを挙げることができる。また、特許公報第3058342号に記載されているような、多孔質のシリカ薄膜を挙げることができる。この多孔質のシリカ薄膜とは、二分子膜形成能を有するカチオン型の両親媒性物質の展開液を基板上に展開した後、基板上の液膜から溶媒を除去することによって両親媒性物質の多層二分子膜薄膜を調整し、シリカ化合物を含有する溶液に多層二分子膜薄膜を接触させ、次いで前記多層二分子膜薄膜を抽出除去することで作製することができる。
【0081】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する方法としては、多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法と、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する2つの方法がある。
【0082】
多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合にて付着させる場合は、グラフトポリマー鎖の末端の官能基と反応する官能基を無機材料に導入し、そこにグラフトポリマーを化学結合させる。また、分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを使用して、多孔性固相を起点として、グラフトポリマー鎖を重合する場合は、二重結合を有する化合物を重合する際の起点となる官能基を無機材料に導入する。
【0083】
親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーとしては、上記、親水基を持たない有機材料の多孔性固相とグラフトポリマー鎖とを化学結合させる方法において、記載した親水性基を持つグラフトポリマー、および分子内に二重結合を有している親水基を有するモノマーを好ましく使用することができる。
【0084】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相に親水基を導入する別の方法として、親水基を有する材料をコーティングすることができる。コーティングに使用する材料は、核酸の吸着に関与する親水基を有するものであれば特に限定はないが、作業の容易さから有機材料のポリマーが好ましい。ポリマーとしては、ポリヒドロキシエチルアクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタアクリル酸及びそれらの塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリオキシエチレン、アセチルセルロース、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物等を挙げることができる。
【0085】
また、親水基を持たない無機材料の多孔性固相に、アセチルセルロースまたは、アセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物をコーティングした後に、コーティングしたアセチルセルロース、またはアセチル価の異なるアセチルセルロースの混合物を鹸化処理することもできる。この場合、鹸化率が約5%以上であることが好ましい。さらには、鹸化率が約10%以上であることが好ましい。
【0086】
親水基を持たない無機材料の多孔性固相としては、アルミニウム等の金属、ガラス、セメント、陶磁器等のセラミックス、若しくはニューセラミックス、シリコン、活性炭等を加工して作製した多孔性固相を挙げることができる。
【0087】
上記の、核酸吸着性多孔性膜は、多孔膜、不織布、或いは織物のいずれかの形態をとることができ、溶液が内部を通過可能であり、厚さが10μm〜500μmである。さらに好ましくは、厚さが50μm〜250μmである。洗浄がし易い点で、厚さが薄いほど好ましい。
【0088】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、最小孔径が0.22μm以上である。さらに好ましくは、最小孔径が0.5μm以上である。また、最大孔径と最小孔径の比が2以上である多孔性膜を用いることが好ましい。これにより、核酸が吸着するのに十分な表面積が得られるとともに、目詰まりし難い。さらに好ましくは、最大孔径と最小孔径の比が5以上である。
【0089】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、空隙率が50〜95%である。さらに好ましくは、空隙率が65〜80%である。また、バブルポイントが、0.1〜10kgf/cm2(9.8〜980kPa)である事が好ましい。さらに好ましくは、バブルポイントが、0.2〜4kgf/cm2(19.6〜392kPa)である。
【0090】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、圧力損失が、0.1〜100kPaである事が好ましい。これにより、過圧時に均一な圧力が得られる。さらに好ましくは、圧力損失が、0.5〜50kPaである。ここで、圧力損失とは、膜の厚さ100μmあたり、水を通過させるのに必要な最低圧力である。
【0091】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で1〜5000mLであることが好ましい。さらに好ましくは、25℃で1kg/cm2(98kPa)の圧力で水を通過させたときの透水量が、膜1cm2あたり1分間で5〜1000mLである。
【0092】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.1μg以上である事が好ましい。さらに好ましくは、多孔性膜1mgあたりの核酸の吸着量が0.9μg以上である。
【0093】
上記の、溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、一辺が5mmの正方形の多孔性膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに、1時間以内では溶解しないが48時間以内に溶解するセルロース誘導体が、好ましい。また、一辺が5mmの正方形の多孔質膜をトリフルオロ酢酸5mLに浸漬したときに1時間以内に溶解するが、ジクロロメタン5mLに浸漬したときには24時間以内に溶解しないセルロース誘導体がさらに好ましい。
【0094】
核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を一方の面から他方の面へと通過させることが、液を多孔性膜へ均一に接触させることができる点で、好ましい。核酸吸着性多孔性膜中を、核酸を含む試料溶液を通過させる場合、試料溶液を核酸吸着性多孔性膜の孔径が大きい側から小さい側に通過させることが、目詰まりし難い点で好ましい。
【0095】
核酸を含む試料溶液を核酸吸着性多孔性膜を通過させる場合の流速は、液の多孔性膜への適切な接触時間を得るために、膜の面積cm2あたり、2〜1500μL/secである事が好ましい。液の多孔性膜への接触時間が短すぎると十分な核酸抽出効果が得られず、長すぎると操作性の点から好ましくない。さらに、上記流速は、膜の面積cm2あたり、5〜700μL/secである事が好ましい。
【0096】
また、使用する溶液が内部を通過可能な核酸吸着性多孔性膜は、1枚であってもよいが、複数枚を使用することもできる。複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、同一のものであっても、異なるものであって良い。
【0097】
複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材料の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸吸着性多孔性膜との組合せであっても良い。例えば、ガラスフィルターと再生セルロースの多孔性膜との組合せを挙げることができる。また、複数枚の核酸吸着性多孔性膜は、無機材の核酸吸着性多孔性膜と有機材料の核酸非吸着性多孔性膜との組合せであってもよい、例えば、ガラスフィルターと、ナイロンまたはポリスルホンの多孔性膜との組合せを挙げることができる。核酸抽出に用いる膜は、一般に数十μm〜数百μmと非常に薄い膜であるため、膜を保持するために、膜の下面に多孔質のサポートを併用する場合があり、この場合には、膜+サポートの組み合わせで膜強度を高めることができる。
【実施例1】
【0098】
次に、本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの効果を確認した結果を説明する。
<破損試験>
実施例1は、交差状リブが6本で連結部に凸状面が形成され、キャップの排出用開口の直径2mmの多孔質フィルターカートリッジであり、比較例1は実施例1に対してリブの連結部に凸状面が形成されていない多孔質フィルターカートリッジ、比較例2は、交差状リブを形成しない多孔質フィルターカートリッジである。これらのカートリッジを、遠心分離機(株式会社トミー精工 製 MX−300)により、回転速度を段階的に変化させて(8000rpm、15000rpm)多孔質フィルターの破損状態を調べた。その試験結果を表1に示す。各試験の結果は、10回の測定に対して破損が生じなかった回数を示している。つまり、分母が全測定回数、分子が破損なしであった回数である。
【0099】
【表1】
【0100】
表1により明らかなように、交差状リブを形成しない比較例2では多孔質フィルターが破損した。これに対して、交差状リブを有して連結部に湾曲状の凸部を有する実施例1は、両方の回転速度で破損しなかった。しかし、比較例1では15000rpmの高速回転時に多孔質フィルターに破損が認められた。また、比較例2では、いずれの回転速度でも破損が認められた。
【0101】
本発明に係る多孔質フィルターカートリッジでは、前述した各実施形態の形状の他、適宜、変形や改良等が可能である。
例えば、図16に示すように、連結部43の頂面が平坦状とされた構成であっても、多孔質フィルターへの負荷圧力が低い場合には十分に実用に供することができる。また、図17(a),(b)に示すように、交差状リブがなく、補助リブのみで構成した場合でも、リブ同士の間隔が狭くなっているので、多孔質フィルターに係る圧力を分散でき、破損防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る多孔質フィルターカートリッジの外観斜視図である。
【図2】図1の多孔質フィルターカートリッジの分解斜視図である。
【図3】多孔質フィルターカートリッジに適用したキャップ単体の平面図である。
【図4】図3のキャップのI−I線断面図である。
【図5】図3のキャップの一部破断外観斜視図である。
【図6】図1の多孔質フィルターカートリッジの使用例を説明する断面図である。
【図7】多孔質フィルターを組み付けた多孔質フィルターカートリッジの作用を説明する断面図である。
【図8】他の実施形態におけるキャップの図5に相当する一部破断外観斜視図である。
【図9】他の実施形態の多孔質フィルターカートリッジの図4に相当するキャップのI−I線断面図である。
【図10】本発明の多孔質フィルターカートリッジにおけるキャップの製造工程を(a)〜(d)に段階的に示した一部断面説明図である。
【図11】ピンの先端部の拡大斜視図である。
【図12】他の構成のピンの先端部の拡大斜視図である。
【図13】多孔質フィルターカートリッジの製造工程を(a)〜(e)の各段階毎で示した工程説明図である。
【図14】核酸抽出を行う装置構成の概略ブロック図である。
【図15】核酸抽出動作の工程を(a)〜(g)で表した説明図である。
【図16】連結部の頂面が平坦状にされたキャップの断面図である。
【図17】交差状リブのないキャップの平面図(a)と一部断面斜視図(b)である。
【符号の説明】
【0103】
1 多孔質フィルターカートリッジ
3 バレル
5 キャップ
7 多孔質フィルター
19 注入口
27 リブ
29 排出口
35 交差状リブ
37 補助リブ
39 補助リブ
41 凸状面
43 連結部
49 凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部中央に排出用開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に前記排出用開口を中心として放射状に前記多孔質フィルターを支持する複数のリブが立設され、
前記複数のリブのうち少なくともいずれかは、前記排出用開口の中央部で該排出用開口を跨いで連結され、該連結されたリブの連結部の頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する凸状面が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する複数の凸部が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面の角部が曲面状に面取り加工されている多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面は、前記多孔質フィルターが前記排出用開口に向けて凹形状となるように、前記キャップの底部からの高さを径方向に応じて異なる高さに設定された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に、該キャップ中心からの半径方向長さの異なるリブがそれぞれ混在配置された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターと前記キャップとがインサート成形によって一体成形された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜を含む多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項1】
底部中央に排出用開口が形成された有底筒状のキャップの内側で、多孔質フィルターが前記底部に保持された多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に前記排出用開口を中心として放射状に前記多孔質フィルターを支持する複数のリブが立設され、
前記複数のリブのうち少なくともいずれかは、前記排出用開口の中央部で該排出用開口を跨いで連結され、該連結されたリブの連結部の頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する凸状面が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの頂面に前記多孔質フィルター側へ突起する複数の凸部が形成された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面の角部が曲面状に面取り加工されている多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記リブの前記多孔質フィルターと接触する頂面は、前記多孔質フィルターが前記排出用開口に向けて凹形状となるように、前記キャップの底部からの高さを径方向に応じて異なる高さに設定された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記キャップの底部に、該キャップ中心からの半径方向長さの異なるリブがそれぞれ混在配置された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターと前記キャップとがインサート成形によって一体成形された多孔質フィルターカートリッジ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の多孔質フィルターカートリッジであって、
前記多孔質フィルターが、核酸吸着性多孔質膜を含む多孔質フィルターカートリッジ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−172454(P2009−172454A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10604(P2008−10604)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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