説明

多孔質フィルム

【課題】透過性能及び機械的強度に優れると共に、高温での耐破膜性に優れる多孔質フィルム、該多孔質フィルムからなる非水電解質電池用セパレータ、及び該非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池を提供すること。
【解決手段】少なくともポリオレフィン樹脂とスチレンブタジエン共重合体とが架橋してなる架橋物を含有する多孔質フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物を架橋してなる多孔質フィルム、該多孔質フィルムからなる非水電解質電池用セパレータ、及び該非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどの軽金属を電極とする非水電解液電池は、エネルギー密度が高く自己放電も少ないため、電子機器の高性能化、小型化などを背景として利用範囲を大きく広げてきている。このような非水電解液電池の電極としては帯状の正極、負極、及びセパレータを積層し巻回して構成することにより、広い有効電極面積を確保した渦巻状巻回体が用いられている。
【0003】
セパレータは、基本的には両極の短絡を防止するとともに、その微多孔構造によりイオンを透過させて電池反応を可能とするものであるが、誤接続などにより異常電流が発生した場合に電池内部温度の上昇に伴い樹脂が熱変形して微多孔を塞ぎ電池反応を停止させる、いわゆるシャットダウン機能(SD機能)を有するものが安全性向上の観点から採用されている。このようなSD機能を有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン製微多孔膜やポリエチレンとポリプロピレンとの多層構造の微多孔膜などが知られている。
【0004】
しかしながら、昨今のリチウムイオン二次電池などの進歩により、上記シャットダウン機能のみならず、耐熱的な要素、すなわち、シャットダウン後にさらに温度が上昇した時に、セパレータ自身が溶融破膜(メルトダウン)、又は可塑化され破断する状態が起こり得ることを考慮すると、より高い温度で対応できることが望まれている。特に、高容量化された電池や電池内部抵抗の低減がすすむと、発熱が大きくなる要素が増すため、ますます重要である。また、電解液をゲル状にしたポリマー電池は、近年安全性が高まっているためシャントダウン機能を必ずしも必要としないが、耐熱性に関してはより重要度が増している。
【0005】
上記問題に対してはシャットダウン温度と破膜温度の差が大きく、また、破膜温度が高いほど、高温特性が良好で安全性の高い電池用セパレータになりうると考えられる。例えば、低融点ポリエチレンと高融点ポリプロピレンからなる単膜を積層化することにより、高強度かつ優れた高温特性を有する微孔性多孔膜を製造する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、積層化のためセパレータの内部抵抗が高くなり、高出力用途など高性能電池に対するセパレータとしては不向きである。
【0006】
また、超高分子量ポリエチレン、低分子量ポリエチレン、及びポリプロピレンを含有するポリオレフィン組成物からなる微多孔膜を製造する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、急激に温度が上昇する場合には、大部分を占めるポリエチレンが容易に溶融するため破断しやすくなり危険性が大きい。
【0007】
そこで、高出力用途など高性能電池に対応すべく、従来のポリプロピレン含有セパレータを越える耐熱性が有する多孔質フィルムとして、架橋構造を有するポリオレフィン系多孔質フィルムが提案されている。例えば、耐熱性を改善することを目的として、ポリオレフィンとポリイソプレンとが架橋してなる架橋物を含有する多孔質フィルムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、ポリイソプレン等のジエン系ポリマーは、溶解・混練時において他の樹脂成分との分散性が良好とは言えず、また、脱溶媒処理工程において溶出する恐れがあり、得られる多孔質フィルムの透過性能や機械的強度などの諸特性の制御が難しかった。また、架橋後の多孔質フィルムの空気中(酸素存在下)での高温処理条件下での耐酸化分解性などについても改善の余地があった。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−308866号公報
【特許文献2】特開平10−298325号公報
【特許文献3】特開2002−164033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、透過性能及び機械的強度に優れると共に、高温での耐破膜性に優れる多孔質フィルム、該多孔質フィルムからなる非水電解質電池用セパレータ、及び該非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物を架橋してなる多孔質フィルムにおいて、架橋成分としてスチレンブタジエン共重合体を用いることにより上記目的を達成できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明の多孔質フィルムは、少なくともポリオレフィン樹脂とスチレンブタジエン共重合体とが架橋してなる架橋物を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の多孔質フィルムによると、架橋成分としてスチレンブタジエン共重合体を用いているため、実施例の結果が示すように耐熱性が格段に向上しており、シャットダウン機能も両立させることができる。スチレンブタジエン共重合体は、ブタジエン成分を含むため他の樹脂との分散性及び相溶性が良好となることから、均一な膜形成にも有利となり、またスチレン成分により耐熱性が向上したと考えられる。
【0013】
前記ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量50万を超える超高分子量ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。前記超高分子量ポリオレフィン樹脂を使用することで、分子配向や分子鎖の絡み合いが良好になって膜強度が上昇し、架橋反応もより好適に行うことができる。また、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンである場合、延伸配向性と架橋性がより優れたものとなる。
【0014】
本発明の多孔質フィルムは、さらに、重量平均分子量50万以下のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマーおよびグラフトコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂成分を1〜50重量%含有することが好ましい。これら樹脂成分を特定量使用することにより架橋構造が形成し易くなり、低温でシャットダウン機能を発現できるようになる。
【0015】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、上記多孔質フィルムからなるため、透過性能および機械的強度に優れると共に、高温での耐破膜性に優れ、特に高性能電池に好適に使用することができる。従って、このような非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池は、特に安全性に優れた高性能電池であり、種々の用途に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の多孔質フィルムは、少なくともポリオレフィン樹脂とスチレンブタジエン共重合体とが架橋してなる架橋物を含有する。この架橋物は延伸配向された状態で架橋してなるものが好ましい。延伸配向することにより高強度化、高弾性率化できると共に、架橋構造により耐熱性が良好になる。当該架橋物は、例えば、ポリオレフィン樹脂とスチレンブタジエン共重合体とを含有する樹脂組成物からなる延伸配向多孔質体を、酸素、オゾン、酸素化合物等の存在下で加熱架橋すること等で得ることができる。架橋反応により耐熱性(ゲル分率)を向上させることができる。このため、本発明における多孔質フィルムには、部分的に残存するポリオレフィン樹脂やスチレンブタジエン共重合体などを同時に含有してもよい。
【0017】
スチレンブタジエン共重合体中のスチレン含有量は、二重結合の量などを考慮して、10〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜50重量%である。スチレンブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体など何れのタイプの共重合体でもよいが、架橋による耐熱性の向上とシャットダウン機能の発現を両立させ、混練時における分散性を向上させる観点から、ブロック共重合体が好ましい。また、スチレンブタジエン共重合体は、各種市販品を使用してもよい。
【0018】
多孔質フィルム中のスチレンブタジエン共重合体の含有量は、得られる多孔質フィルムの耐熱性やセパレータとしての特性を維持する観点から、0.5〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40重量%、特に好ましくは1〜35重量%である。
【0019】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブテンなどのポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリルモノマー共重合体などの変性ポリオレフィン樹脂などがあげられる。これらの中で、多孔質フィルムの機械的強度を高くできる観点から、重量平均分子量50万を超える超高分子量ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましく、重量平均分子量50万を超える超高分子量ポリエチレン樹脂を用いることがより好ましい。また、重量平均分子量は100万以上であることがより好ましく、特に好ましくは150万以上である。これらポリオレフィン樹脂は、単独又は2種類以上を混同して使用してよい。
【0020】
多孔質フィルム中のポリオレフィン樹脂の含有量は、製膜した膜の機械的強度や他の成分とのバランスを考慮すると、5〜98重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜80重量%である。
【0021】
また、本発明の多孔質フィルムには、重量平均分子量50万以下のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマーおよびグラフトコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂成分を添加してもよい。これら樹脂成分を添加することにより低温でシャットダウン機能を発現させることができる。
【0022】
重量平均分子量50万以下のポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリルモノマー共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの変性ポリオレフィン樹脂があげられる。
【0023】
熱可塑性エラストマーとしてはポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系、塩ビ系、ポリエステル系、ポリアミド系、及びポリウレタン系などの熱可塑性エラストマー(ただし前記スチレンブタジエン共重合体を除く)があげられる。これら熱可塑性エラストマーのうち、二重結合を有するものを架橋成分として用いてもよい。
【0024】
グラフトコポリマーとしては、ポリオレフィン鎖を有するものであれば特に制限されず、例えば、主鎖にポリオレフィン、側鎖にポリオレフィンとは非相溶性のビニル系ポリマーなどを有するグラフトコポリマーがあげられる。グラフト成分としては、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキシアルキレン類が好ましい。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
これらの中でも重量平均分子量50万以下のポリオレフィン樹脂、特に低融点のポリエチレンや、結晶性を有するポリオレフィン系エラストマー、溶融温度の低いポリメタクリル類を側鎖に有するグラフトコポリマーなどが、低いシャットダウン温度をもたらす点で好ましい。
【0026】
前記樹脂成分の配合量は、多孔質フィルム中に1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜45重量%であり、特に好ましくは5〜40重量%である。該配合量の下限は、十分なSD温度を得る観点から1重量%以上であり、その上限は、十分な空孔率を有し、電池用セパレータとしての多孔質フィルムの特性を維持する観点から50重量%以下である。
【0027】
なお、前記樹脂組成物中には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、耐電防止剤、造核剤等の添加物を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0028】
次に、本発明による多孔質フィルムの製造方法について説明する。
【0029】
本発明による多孔質フィルムの製造には、乾式製膜法、湿式製膜法など公知の方法を利用することができる。例えば、前記成分を含む樹脂組成物を溶媒と混合し、混練、加熱溶融した後、冷却してゲル化(固化)させシート状に成形した後、圧延し、一軸方向以上に延伸し、溶媒を加熱除去することにより製造することができる。
【0030】
該溶媒としては、例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、沸点がこれらに対応する鉱油留分などがあげられ、流動パラフィンなどの脂環式炭化水素を多く含む不揮発性溶媒が好ましい。
【0031】
また、溶媒の配合量は一概に決定できないが、樹脂濃度が5〜30重量%となる量を配合することが好ましく、より好ましくは樹脂濃度が10〜30重量%となる量であり、特に好ましくは樹脂濃度が10〜25重量%となる量である。樹脂の配合量は、得られる多孔質フィルムの強度を向上させる観点から5重量%以上が好ましく、また、ポリオレフィンを十分に溶媒に溶解させて伸び切り状態近くまで混練することができ、ポリマー鎖の十分な絡み合いを得る観点から30重量%以下が好ましい。
【0032】
樹脂組成物と溶媒の混合物を混練し、シート状に成形する工程は、公知の方法により行うことができる。例えば、バンバリーミキサー、ニーダなどを用いてバッチ式で混練し、次に、冷却された金属板に混合物を挟み込み、冷却して急冷結晶化によりシート状に成形する方法、又はTダイなどを取り付けた押出機などを用いてシート状に成形する方法などがあげられる。なお、混練は、適当な温度条件下であればよいが、好ましくは100〜200℃である。
【0033】
このようにして得られるシート状成形物の厚みは特に限定されないが、3〜20mmが好ましく、更にヒートプレスなどの圧延処理を行って0.5〜3mmの厚みにしてもよい。その際、ヒートプレスの前にシートをゲル化させるための冷却工程を行ってもよい。圧延処理の温度は100〜140℃が好ましい。また、冷却工程の温度は、0℃以下が好ましく、より好ましくは−10℃以下である。
【0034】
前記シート状成形物の延伸処理の方式としては、特に限定されるものではなく、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法またはこれらの方法の組み合わせであってもよく、公知の延伸方式も適用することができる。二軸延伸の場合、縦横同時延伸または逐次延伸のいずれでもよい。膜の均一性、強度の観点から、なかでも同時二軸延伸にて製膜するのが好ましい。延伸処理の温度は、100〜140℃であることが好ましい。
【0035】
脱溶媒処理は、シート状成形物から溶媒を除去して多孔質構造を形成させる工程であり、溶媒除去が出来れば特に方法は限定されないが、例えば、シート状成形物を溶媒で洗浄して残留する溶媒を除去することにより行うことができる。
【0036】
溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などの易揮発性溶媒があげられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。かかる溶媒を用いた洗浄方法は特に限定されず、例えば、シート状成形物を溶媒中に浸漬して溶媒を抽出する方法、溶媒をシート状成形物にシャワーする方法などがあげられる。
【0037】
これらの公知の方法によって前記樹脂組成物を製膜して多孔質フィルムを得た後、収縮率抑制のため熱処理を行うのが好ましい。その際、一回で熱処理する一段式熱処理法でも、又は最初に低温でまず熱処理し、その後さらに高温での熱処理を行う多段式熱処理法でもよく、あるいは昇温しながら熱処理する昇温式熱処理法でもよい。但し、通気度等の多孔質フィルムの元の諸特性を損なうことなく処理することが望ましい。一段式熱処理の場合には、多孔質フィルムの組成にもよるが、40〜140℃が好ましい。また、低温から熱処理を開始し、その後、処理温度を上げていくと、多孔質フィルムの架橋とともに耐熱性がしだいに向上していくので、加熱によって通気度等の元の諸特性を損なうことなく高温に暴露することができる。そのため、諸特性を損なわずに、短時間で熱処理を完了するためには、多段式又は昇温式熱処理法が好ましい。
【0038】
多段式熱処理法の最初の熱処理温度としては、多孔質フィルムの組成にもよるが、40〜90℃が好ましく、2段目の熱処理温度としては、90〜140℃が好ましい。
【0039】
前記熱処理工程あるいはその前後において、耐熱性向上のために、スチレンブタジエン共重合体の二重結合部分の架橋を行うことが好ましい。その際には、熱、紫外線、電子線、酸、又は塩基等よりなる群から選ばれる1種以上を用いて架橋処理を施し、スチレンブタジエン共重合体の二重結合を全部又は一部消失させる。これらの架橋処理を施すことによって、多孔質フィルムの高温での耐熱性がより大きく向上する。
【0040】
これらの中では、熱、紫外線を用いる架橋処理が、多孔質フィルムの構造安定性の点で望ましい。これらの架橋処理を施すことによって上記多孔質フィルムが高強度化される。また、高温時の耐破膜性も大きく向上する。多孔質フィルムの高強度化、耐破膜性の向上の点からは、架橋処理によるゲル分率は5%以上が好ましく、より好ましくは20%以上である。ゲル分率が5%未満では、十分な架橋構造が取れず、高強度化、あるいは耐破膜性向上はあまり期待できない。このゲル分率の調整は、二重結合を有する重合体の配合量、架橋処理条件により、任意に調整することができる。
【0041】
本発明における架橋反応の機構は複雑であり、必ずしも明確ではないが、多孔質フィルムの耐熱性向上の理由は以下のように推定される。まず、酸素等の作用で生じたポリマーラジカルがC=C二重結合に付加し、その際に、スチレンブタジエン共重合体同士、又はスチレンブタジエン共重合体とポリオレフィン樹脂との間で架橋反応が起こり、構造が三次元化するためと考えられる。
【0042】
本発明の多孔質フィルムの厚みとしては1〜60μm、好ましくは5〜50μmである。その空孔率は、20〜80%が好ましく、25〜75%がより好ましい。その通気度としては、例えばJIS P8117に準拠した方法で50〜1000秒/100cc、好ましくは100〜900秒/100ccである。そのシャットダウン温度としては150℃以下、好ましくは140℃以下である。その機械的強度は、例えば、突き刺し強度にて100gf以上が好ましく、150gf以上がより好ましい。なお、該突き刺し強度の測定方法は、後述の実施例に記載の方法があげられる。
【0043】
本発明の多孔質フィルムは、透過性能及び機械的強度に優れると共に、特に高温での耐破膜性に優れるものである。該多孔質フィルムを非水電解質電池用セパレータとして使用することにより、非水電解質電池の様々な大きさや用途に対してより安全性を向上させることができる。
【0044】
本発明の多孔質フィルムは従来のセパレータと同様に、正極と負極の間に介在せしめた状態で用いて電池を組み立てることができる。この際の正極、負極、電池ケース、電解液等の材質やこれら構成要素の配置構造も何ら格別なことは要求されず、従来と同様で良く、例えば特開昭63−205048号公報に示される通りであってよい。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例、比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、各種特性については、下記要領にて測定を行なった。
【0046】
(重量平均分子量)
ウォーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフ[GPC−150C]を用い、溶媒にo−ジクロロベンゼンを、また、カラムとして昭和電工(株)製の[Shodex−80M]を用いて135℃で測定した。デー夕処理は、TRC社製データ収集システムを用いて行なった。分子量はポリスチレンを基準として算出した。
【0047】
(フィルム厚)
1/10000 デジタルダイヤル式膜厚測定器により測定した。
【0048】
(空孔率)
多孔質フィルムの単位面積Sあたりの重さW、平均厚みt、及び密度dを下記式に代入して求める。
空孔率(%)=〔1−(10×W/S/t/d)〕×100
【0049】
(通気度)
JIS P8117に準拠して測定した。
【0050】
(収縮率)
40mm×60mmに切り取った多孔質フィルムをブランクとし、また該多孔質フィルムを120℃の恒温乾燥機中に1時間保持し、取りだした後の多孔質フィルムの面積を測定し、下記式により算出した。
面積収縮率R(%)=〔(S−S)/S〕×100(S:ブランクの面積、S:加熱後の多孔質フィルムの面積)
【0051】
(針刺強度)
カトーテック(株)製圧縮試験機「KES−G5」を用いて、室温(25℃)で針刺試験を行った。得られた荷重変位曲線から最大荷重を読みとり、針刺強度とした。針は直径1mm、先端の曲率半径0.5mmのものを用い、2cm/secの速度で突刺しを行った。
【0052】
(シャットダウン温度)
25mmφの筒状の試験室を有し、試験室が密閉可能なSUS製のセルを用い、下部電極はφ20mm、上部電極は10mmφの白金板(厚さ1.0mm)を使用した。24mmφに打ち抜いた測定試料を電解質に浸漬して電解質を含浸し、電極間に挟み、セルにセットした。電極はセルに設けられたばねにて一定の面圧がかかるようにした。電解質はプロピレンカーボネートとジメトキシエタンを容量比で1:1の割合で混合した溶媒に、ホウフッ化リチウムを1.0mol/Lの濃度になるように溶解したものを用いた。このセルに熱伝対温度計と、抵抗計を接続して温度と抵抗を測定できるようにし、180℃恒温器中へ投入し、温度と抵抗を測定した。100〜150℃の平均昇温速度は10℃/分であった。この測定により、抵抗が100Ω・cmに達した時の温度をシャットダウン温度とした。
【0053】
(ゲル分率の測定)
10cm×10cmに切り出した多孔質フィルムを折りたたんで、5cm×10cmの金属メッシュに挟み込み、5cm×5cm角のサンプルとした。このサンプルの初期重量を測定し、100mLのm−キシレン(沸点139℃)中に浸漬して昇温し、5時間キシレンを沸騰させ、取り出し後、乾燥させて重量変化からゲル分率Rを測定した。なお、ゲル分率の結果によって、架橋構造が形成されていることを確認できる。
R(%)=100×P/P(P:初期重量、P:沸騰キシレン処理後重量)
【0054】
(耐熱破膜試験)
14cm角に切り出した多孔質フィルムを所定の破膜試験用冶具(外枠10cm角、内枠7cm角切り抜き)に全周囲クリップで固定した後、160℃の乾燥機内に投入し、多孔質フィルムが破膜するまでの時間[min]を計測した。
【0055】
実施例1
スチレンブタジエン共重合体(JSR製、TR2601K、スチレン含量30重量%)5重量%、変性ポリオレフィン樹脂(融点135℃、日本ポリエチレン製、ADTEX DH0200)28.5重量%、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン66.5重量%からなる樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、160℃で小型ニーダーを用いて約60分溶解混練りした。その後、これらの混練物を0℃に冷却された金属板に挟み込みシート状にして急冷した。該急冷シート状樹脂を、115℃でシート厚が0.4〜0.5mmになるまでヒートプレスし、さらに同シート厚みを維持したまま20℃でプレス成型を行った。次に120℃、10mm/secの速度で同時に縦横4.0×4.0倍に二軸延伸し、ヘプタンを使用して脱溶媒処理を行った。その後、得られた延伸フィルムを空気中で85℃×12時間熱処理し、ついで126℃で3時間熱処理して多孔質フィルムを得た。
【0056】
実施例2
スチレンブタジエン共重合体(JSR製、TR2601K、スチレン含量30重量%)10重量%、変性ポリオレフィン樹脂(融点135℃、日本ポリエチレン製、ADTEX DH0200)27重量%、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン63重量%からなる樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、160℃で小型ニーダーを用いて約60分溶解混練りした。その後、実施例1と同様の方法で製膜し、得られた延伸フィルムを空気中で85℃×12時間熱処理し、ついで124℃で3時間熱処理して多孔質フィルムを得た。
【0057】
実施例3
スチレンブタジエン共重合体(JSR製、TR2601K、スチレン含量30重量%)5重量%、変性ポリオレフィン樹脂(融点135℃、日本ポリエチレン製、ADTEX DH0200)28.5重量%、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン66.5重量%からなる樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、160℃で小型ニーダーを用いて約60分溶解混練りした。その後、実施例1と同様の方法で製膜し、得られた延伸フィルムを開始剤ベンゾフェノン1gを含むメタノール溶液1000ml中にディッピングした。その後、延伸フィルムに紫外線を照射して架橋させ、空気中で85℃×12時間熱処理し、ついで126℃で3時間熱処理して多孔質フィルムを得た。
【0058】
比較例1
変性ポリオレフィン樹脂(融点135℃、日本ポリエチレン製、ADTEX DH0200)30重量%、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレン70重量%からなる樹脂組成物15重量部と流動パラフィン85重量部とをスラリー状に均一に混合し、160℃で小型ニーダーを用いて約60分溶解混練りした。その後、実施例1と同様の方法で製膜し、得られた延伸フィルムを空気中で85℃×12時間熱処理し、ついで128℃で3時間熱処理して多孔質フィルムを得た。
【0059】
実施例及び比較例で得られた多孔質フィルムを上記の方法で評価した結果を表1に示す。
【表1】

【0060】
表1の結果が示すように、実施例1及び2の多孔質フィルムは、シャットダウン温度を維持するとともに、気体透過性能に優れ、ゲル分率が高く、高温での耐破膜性に優れることがわかる。また、実施例3の多孔質フィルムは、架橋構造が高度に発達しており、ゲル分率が非常に高く、高温での耐破膜性に非常に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリオレフィン樹脂とスチレンブタジエン共重合体とが架橋してなる架橋物を含有する多孔質フィルム。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量50万を超える超高分子量ポリオレフィン樹脂である請求項1記載の多孔質フィルム。
【請求項3】
さらに、重量平均分子量50万以下のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマーおよびグラフトコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂成分を1〜50重量%含有する請求項1又は2記載の多孔質フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質フィルムからなる非水電解質電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項4記載の非水電解質電池用セパレータを備えた非水電解質電池。

【公開番号】特開2008−115264(P2008−115264A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299121(P2006−299121)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】