説明

多孔質ポリマーの製造方法

【課題】
より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}、多孔質ポリマーを得る方法を提供することである。
【解決手段】
細孔形成剤(PG)を溶解しない溶剤(Sv1)に、ポリマー(P)を溶解させてポリマー溶液(PS)を得る工程(1)、
ポリマー溶液(PS)に細孔形成剤(PG)を分散させてスラリー(SL)を得る工程(2)、
スラリー(SL)を溶剤透過性密閉容器(V)に入れ、これを、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解できる溶剤(Sv2)の中に浸漬して、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶剤(Sv2)に溶出させる工程(3)を含むことを特徴とする多孔質ポリマーの製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリマーの製造方法に関する。さらに詳しくは生体組織足場材として好適な多孔質ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
100〜500μmのパラフィン粒子の入ったテフロン容器{「テフロン」はイー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニーの登録商標である。}に、ポリ乳酸のピリジン溶液を滴下してスラリーを得た後、ピリジンを減圧留去してディスクを調製し、このディスクをヘキサンに浸し、パラフィンを溶出して、多孔質ポリ乳酸を得る方法{特許文献1の実施例1};砂糖粒子の入ったテフロン容器に、ポリ乳酸のテトラハイドロフラン溶液を滴下してスラリーを得た後、容器ごと冷却凍結して、これを蒸留水に浸すことにより、テトラハイドロフラン及び砂糖粒子を溶出して、多孔質ポリ乳酸を得る方法{特許文献1の実施例2};並びに100〜500μmのパラフィン粒子の入ったテフロン容器に、ポリ乳酸の混合溶液(ジオキサン/メタノール又はピリジン)を滴下してスラリーを得た後、容器ごと冷却凍結して、これをヘキサンに浸すことにより、混合溶液及びパラフィン粒子を溶出して、多孔質ポリ乳酸を得る方法{特許文献1の実施例3、4}が知られている。
【特許文献1】米国特許第6,673,285号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の製造方法では、製造時間及びエネルギーを膨大に消費するという問題がある。
すなわち、本発明の目的は、より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}、多孔質ポリマーを得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の多孔質ポリマーの製造方法の特徴は、細孔形成剤(PG)を溶解しない溶剤(Sv1)に、ポリマー(P)を溶解させてポリマー溶液(PS)を得る工程(1)、
ポリマー溶液(PS)に細孔形成剤(PG)を分散させてスラリー(SL)を得る工程(2)、
スラリー(SL)を溶剤透過性密閉容器(V)に入れ、これを、ポリマー(P)を溶解せず溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解する溶剤(Sv2)の中に浸漬して、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶剤(Sv2)に溶出させて多孔質ポリマーを得る工程(3)を含む点を要旨とする。
【0005】
ポリマー(P)は、生分解性ポリマーが好ましく、さらに好ましくはポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン及びポリヒドロキシ酪酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0006】
溶剤(Sv1)は、テトラヒドロフラン、ピリジン、ジオキサン、メタノール、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N,−ジメチルメタンアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0007】
溶剤(Sv2)は、水、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン及び石油エーテルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0008】
細孔形成剤(PG)は、ハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属、硝酸アルカリ金属塩、硝酸アルカリ土類金属塩、硝酸アンモニウム塩、硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩、硫酸アンモニウム塩、りん酸アルカリ金属塩、りん酸アンモニウム塩、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アンモニウム塩、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸水素アンモニウム塩、ハロゲン酸アルカリ金属塩、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、糖質及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0009】
溶剤透過性密閉容器(V)の一部又は全部は、濾紙、不織布、織布、編布、多孔質焼結体、多孔質プラスチック成型体及び網からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されていることが好ましい。
【0010】
工程(1)〜(3)を5〜100℃で行うことが好ましい。
【0011】
上記の方法で製造された多孔質ポリマーは、生体組織足場材として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、溶剤透過性容器(V)を使用するため、従来の方法のように凍結溶出する必要がなく、また溶出面積が広いというメリットがある。
したがって、本発明の製造方法は、従来の方法に比較して、より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}、多孔質ポリマーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
細孔形成剤(PG)は、一般的に、ポロゲン(porogen)と呼ばれ、細孔形成剤(PG)を含む混合体から、細孔形成剤(PG)を、溶出、蒸発又は昇華等によって取り除くことにより、細孔形成剤(PG)が存在した箇所に細孔を形成するものである。
【0014】
細孔形成剤(PG)としては、一般的に、ポロゲンとして使用できるものであれば制限なく使用できるが、溶出により取り除くことができるものが好ましい。
【0015】
細孔形成剤(PG)としては、ハロゲン化アルカリ金属塩{塩化ナトリウム、塩化カリウム及びヨウ化カリウム等}、ハロゲン化アルカリ土類金属塩{塩化マグネシウム及び塩化カルシウム等}、ハロゲン化アンモニウム塩{塩化アンモニウム及び臭化アンモニウム等}、水酸化アルカリ金属{水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等}、水酸化アルカリ土類金属{水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウム等}、硝酸アルカリ金属塩{硝酸リチウム及び硝酸ナトリウム等}、硝酸アルカリ土類金属塩{硝酸マグネシウム及び硝酸カルシウム等}、硝酸アンモニウム塩、硫酸アルカリ金属塩{硫酸カリウム及び硫酸ナトリウム等}、硫酸アルカリ土類金属塩{硫酸マグネシウム及び硫酸カルシウム等}、硫酸アンモニウム塩{硫酸アンモニウム及び硫酸水素アンモニウム}、りん酸アルカリ金属塩{りん酸カリウム、りん酸水素二ナトリウム及びりん酸ナトリウム等}、りん酸アンモニウム塩{りん酸アンモニウム及びりん酸水素二アンモニウム等}、炭酸アルカリ金属塩{炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等}、炭酸アンモニウム塩、炭酸水素アルカリ金属塩{炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウム等}、炭酸水素アンモニウム塩、ハロゲン酸アルカリ金属塩{塩素酸カリウム及び塩素酸ナトリウム等}、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩{次亜塩素酸カリウム及び次亜臭素酸ナトリウム等}、糖質{単糖類(ブドウ糖及び果糖等)、二糖類(砂糖、麦芽糖及び乳糖等)及び多糖類(でんぷん及びオリゴ糖等)等}及びワックス{融点40〜80℃;ハゼロウ、ウルシロウ、カルナバロウ、サトウキビロウ、パームロウ、蜜蝋(ビーズワックス)、鯨蝋、マッコウクジラ油、ツチクジラ油、イボタロウ、羊毛蝋、モンタンワックス、パラフィンワックス及び合成ワックス等}からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる。
【0016】
これらの細孔形成剤(PG)のうち、ハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩、硫酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩、糖質及びワックスが好ましく、さらに好ましくはハロゲン化アルカリ金属塩及び糖質、特に好ましくは塩化ナトリウム、砂糖及びでんぷんである。
【0017】
細孔形成剤(PG)の形状は目的とする多孔質ポリマーの孔の形によって適宜決定され、球状、紡錘状、円柱状、円錐状、多角柱状、多角錐状、立方体、直方体、繊維状及び網目状が含まれる。これらのうち、立方体、直方体及び球状が好ましい。形状の異なる細孔形成剤(PG)を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
細孔形成剤(PG)の大きさは目的とする多孔質ポリマーの孔の大きさによって適宜決定され、たとえば、体積0.001〜8cmのものが含まれる。これらのうち、0.001〜3.75cmが好ましく、さらに好ましくは0.001〜1cm、特に好ましくは0.009〜0.512cmである。大きさの異なる細孔形成剤(PG)を組み合わせて使用してもよい{大きいものと小さいものとを組み合わせることにより孔比率が高くすることができる。}。
【0019】
溶剤(Sv1)は、細孔形成剤(PG)を溶解せず、ポリマー(P)を溶解する溶剤であれば通常の溶剤が使用でき、テトラヒドロフラン、ピリジン、1,4−ジオキサン、メタノール、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N,−ジメチルメタンアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる。
これらの溶剤(Sv1)のうち、テトラヒドロフラン、アセトン及び1,4-ジオキサンが好ましい。
【0020】
ポリマー(P)としては、多孔質としたいポリマーであって、溶剤(Sv1)に溶解し得るものであれば制限がないが、生分解性ポリマーが好ましく、さらに好ましくはポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA:単量体モル比40/60〜98/2)、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン及びポリヒドロキシ酪酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0021】
ポリマー(P)の重量平均分子量は、5000〜200万が好ましく、さらに好ましくは5000〜50万、特に好ましくは10000〜20万である。
なお、重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを基準物質としてゲルパーミエションクロマトグラフィーにより測定される。
【0022】
ポリマー(P)の濃度(重量%)は、溶剤(Sv1)の重量に基づいて、0.01〜50が好ましく、さらに好ましくは1〜30、特に好ましくは5〜20である。この範囲であると、さらにより簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}、多孔質ポリマーを得ることができる。
【0023】
溶解温度(℃)は、ポリマー(P)を溶解できれば制限がないが、より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}溶解させるために、0〜150が好ましく、さらに好ましくは5〜100、特に好ましくは10〜90、最も好ましくは20〜80である。
なお、溶解させるための装置としては、通常の攪拌混合装置等が使用できる。
【0024】
ポリマー溶液(PS)の粘度(mPa・s)は、1〜5万が好ましく、さらに好ましくは20〜2万、特に好ましくは100〜5000である。この範囲であると、さらにより簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}、多孔質ポリマーを得ることができる。なお、粘度は、JIS K7117−1:1999{25℃}に準拠して測定される{たとえば、ブルックフィールド型回転粘度計HBDV−III、ブルックフィールド社製}。
【0025】
スラリー(SL)は、(1)ポリマー溶液(PS)に細孔形成剤(PG)を加えて分散させてもよいし、(2)細孔形成剤(PG)にポリマー溶液(PS)を加えて分散させてもよい。後者(2)の場合、溶剤透過性密閉容器(V)に細孔形成剤(PG)を加えて{必要により、溶剤透過性密閉容器(V)に振動を与えてもよく、また、加熱したり、溶剤(Sv2)を加えたりして、細孔形成剤(PG)同士を融着させてもよい。}、そこに、ポリマー溶液(PS)を加えてもよい。
【0026】
細孔形成剤(PG)とポリマー(P)との体積比(PG/P)は100/1〜1/100が好ましく、さらに好ましくは50/1〜1/1、特に好ましくは50/1〜5/1である。この体積比が5/1以下であると、得られる多孔質ポリマーに含まれる孔が独立孔となりやすく、一方、5/1より大きいと連続孔となりやすい。
【0027】
工程(2)での温度(℃)は特に制限はないが、工程(3)と同じ温度とすることが好ましい。なお、分散させるための装置としては、通常の攪拌混合装置等が使用できる。
【0028】
溶剤透過性密閉容器(V)は、溶剤(Sv1)、溶剤(Sv2)及び細孔形成剤(PG)の溶剤(Sv2)溶液を自由に透過できる材料で、容器の一部又は全部を構成した容器であって、スラリー(SL)を入れた後、密閉することができる容器である。
【0029】
溶剤(Sv1)、溶剤(Sv2)及び細孔形成剤(PG)の溶剤(Sv2)溶液を自由に透過できる材料としては、濾紙、不織布、織布、編布、多孔質焼結体、多孔質プラスチック成型体及び網からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる。これらのうち、加工性等の観点から、濾紙及び不織布が好ましい。また、これらの材質は溶剤(Sv1)及び溶剤(Sv2)に溶解、膨潤及び腐食されず、ポリマー(P)及び細孔形成剤(PG)に影響を与えないものであれば制限がない(たとえば、紙、木、プラスチック、金属、ガラス及びセラミックスを含む。)。また、溶剤透過性密閉容器(V)の大きさ及び形に制限はなく、製造量等によって適宜決定される。
【0030】
溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解できる溶剤(Sv2)としては、ポリマー(P)を溶解せず、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解する溶剤であれば通常の溶剤が使用でき、水、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン及び石油エーテルから選ばれる少なくとも1種が含まれる。これらの溶剤(Sv2)のうち、水が好ましい。
【0031】
溶剤(Sv2)の使用量(体積%)は、溶剤(Sv1)の体積に基づいて、100以上が好ましく、さらに好ましくは500以上、特に好ましくは1000以上である。この範囲であると、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を十分に除去できる。
【0032】
溶剤(Sv2)は一度に使用してもよいが、より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}溶解させるために、複数回{たとえば、2〜10回}に分けて使用することが好ましく、さらに好ましくは連続的に一部分を置換しながら使用することである。
【0033】
連続的に一部分を置換しながら使用する場合、たとえば、図1のような装置{円柱容器の下部から液体を排出できるように配管したもの}を用い、溶剤投入口(1)から溶剤(Sv2)を加え、排出口(2)から、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解した溶剤(Sv2)の溶液を排出してもよい。
【0034】
浸漬温度(℃)は、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶剤(Sv2)に溶出(移行)できれば制限がないが、より簡便に{短時間に、少ないエネルギーで}溶解させるために、0〜150が好ましく、さらに好ましくは5〜100、特に好ましくは10〜90、最も好ましくは20〜80である。浸漬温度は、変化させてもよい{たとえば、低い温度から浸漬を開始し、徐々に温度を上げていく方法等。}。なお、浸漬前に、スラリー(SL)を凍結させる必要はない{凍結させると、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)の溶出の速度が著しく低下する。}
【0035】
溶剤透過性密閉容器(V){スラリー(SL)を含む。}を溶剤(Sv2)の中に浸漬している間、溶剤透過性密閉容器(V)を揺動させてもよく、また、溶剤(Sv2)を揺動又は攪拌してもよい。
【0036】
スラリー(SL)から、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶剤(Sv2)に溶出させた後、多孔質ポリマーは、溶剤透過性密閉容器(V)と共に、溶剤(Sv2)から引き上げて、液切りする液切り工程(4)を含むことが好ましい。溶剤透過性密閉容器(V)を吊り下げて、重力のみによって液切りしてもよいし、遠心分離器を用いて液切りをしてもよいし、これらを組み合わせて液切りしてもよい。
【0037】
液切り工程(4)の後、乾燥工程(5)を含むことが好ましい。多孔質ポリマーは、溶剤透過性密閉容器(V)から取り出してから乾燥してもよいし、溶剤透過性密閉容器(V)と共に乾燥してから、溶剤透過性密閉容器(V)から取り出してもよい。
乾燥は、加熱してもよいし、冷却(凍結)してもよいし、加熱しなくてもよく、また、通風してもよいし、通風しなくてもよく、また、減圧してもよいし、減圧しなくてもよい。
これらのうち、加熱−通風、加熱−減圧、又は冷却(凍結)−減圧の組合せた乾燥が好ましく、さらに好ましくは加熱−減圧、又は冷却(凍結)−減圧の組合せた乾燥、特に好ましくは冷却(凍結)−減圧{凍結乾燥}である。
【0038】
多孔質ポリマーは、乾燥前及び乾燥後のいずれにおいても、溶剤透過性密閉容器(V)に密着している場合が多い。このため、多孔質ポリマーは、溶剤透過性密閉容器(V)と多孔質ポリマーとの界面付近をカットして取り出してもよい。
【0039】
乾燥された多孔質ポリマーは、適宜、用途によって、カッティングして形状を整えたり、滅菌処理したりできる。
【0040】
本発明の製造方法で製造された多孔質ポリマーは、生体組織足場材として適している。すなわち、患者から採取した細胞を培養・増殖させ、これを生体組織足場材に播種し、培養して、目的の細胞ハイブリット構造を調製した後、患者の体内に移植するための生体組織足場材として、適している。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
100mlガラスフラスコ内で、ポリマー(p1){ポリ乳酸、株式会社ビーエムジー、重量平均分子量20万}4gを溶剤(sv11){1,4−ジオキサン}36gに、約80℃で溶解して、10重量%のポリマー溶液(ps1)を得た。ついで、このポリマー溶液(ps1)40gを300mlプラスチックビーカーに移し、細孔形成剤(pg1){砂糖、立方体極細砂糖、重量平均粒子径600μm、株式会社鴻商店}100gを加え、均一混合して、スラリー(sl1)を得た。
【0042】
スラリー(sl1)を溶剤透過性密閉容器(v1){ソックスレー抽出用円筒濾紙、ワットマン社製}に流し入れ、均一になるように(空隙がないように)振動を加えた後、溶剤透過性密閉容器(v1)の上部開口部を折り曲げて密封した。
【0043】
密封した溶剤透過性密閉容器(v1)を、30℃の溶剤(sv21){蒸留水、自動蒸留水製造装置(アクエリアスGS−200:アドバンテック東洋株式会社)で製造した}2000gに浸漬して、24時間放置した。
【0044】
24時間後、溶剤(sv21)から、溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を引き上げた後、30℃の新たな溶剤(sv21)1000gに入れ、10分間、超音波洗浄を行った。さらに、新たな溶剤(sv21)を用いて、超音波洗浄を2回行った後、水切りした溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を切り開いて、湿潤した多孔質ポリマーを取り出し、10mm×10mm×10mmの立方体に切断した。立方体を送風定温乾燥機(DRX620DA、アドバンテック東洋株式会社)内で、乾燥(60℃、12時間)させて、多孔質ポリマー(1)を得た。多孔質ポリマー(1)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0045】
なお、多孔度は、多孔質ポリマー(1)の重量(w)を測定し、次式から算出した(以下、同様にして求めた)。
【0046】

(多孔度)=(1000×(w)/(ρ1))×100/1000
【0047】
ただし、(ρ1)は、ポリマー(p1){ポリ乳酸}の密度であり、1.25の値を用いた。
【0048】
<実施例2>
「溶剤透過性密閉容器(v1)」を「溶剤透過性密閉容器(v2)」に変更し、下記のようにして密閉したこと、及び「細孔形成剤(pg1)」を「細孔形成剤(pg2){砂糖、立方体極細砂糖、重量平均粒子径1.5mm、株式会社鴻商店}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、多孔質ポリマー(2)を得た。多孔質ポリマー(2)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0049】
「溶剤透過性密閉容器(v2)」は、濾紙{No.2濾紙、アドバンテック東洋株式会社}製の直径8cm、高さ1.2cmの円柱管(3){ステープラーで直方体の濾紙の両端を止めた。}の両開口部に直径9cmの円形濾紙(4)が配され、さらにその外側に目開き2mmの円形金網(5)が配され、この円形金網(5)の外側2本づつの棒材(6)(7){1.2cm×1.2cm×9cmの木材製}がそれぞれ平行となるように配され、円柱を挟んで相対峙する2本の棒材{棒材(6)と棒材(7)と}を輪ゴム(8)で止めることによって密閉される容器である{図2}。
【0050】
スラリーは、円形濾紙(4)、円形金網(5)及び棒材(7)を配した円柱管(3){一つの開口部を持つ。}に入れた後、もう一方の開口部を円形濾紙(4)及び円形金網(5)で密閉して、棒材(6)と棒材(7)とを輪ゴム(8)で止めることによって密閉した。
【0051】
<実施例3>
「溶剤透過性密閉容器(v1)」を「溶剤透過性密閉容器(v2)」に変更し、上記のようにして密閉したこと、「細孔形成剤(pg1)」を「細孔形成剤(pg3){砂糖、立方体極細砂糖、重量平均粒子径300μm、株式会社鴻商店}」に変更したこと、及び「ポリマー(p1)」をポリマー(p2){RESOMER LT706、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社製の乳酸/トリメチレンカーボネート共重合体(68〜72モル/32〜28モル)、「RESOMER」は、ベ−リンガ− インゲルハイム コマンデイト ゲゼルシヤフトの登録商標である。}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、多孔質ポリマー(3)を得た。多孔質ポリマー(3)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。ただし、ポリマー(p2)の密度(ρ2)は、1.25の値を用いた。
【0052】
<実施例4>
「溶剤透過性密閉容器(v1)」を「溶剤透過性密閉容器(v2)」に変更し、上記のようにして密閉したこと、及び「ポリマー(p1)」を、ポリマー(p3){RESOMER LC703S、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社製の乳酸/ε−カプロラクトン共重合体(67〜73モル/33〜27モル)}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして、多孔質ポリマー(4)を得た。多孔質ポリマー(4)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。ただし、ポリマー(p3)の密度(ρ3)は、1.25の値を用いた。
【0053】
<実施例5>
ポリマー(p1)4gを、溶剤(sv12){ジオキサン/ピリジン(50体積%/50体積%}36gに、約60℃で溶解して、ポリマー溶液(ps2)を得た。
【0054】
溶剤透過性密閉容器(v2)に、細孔形成剤(pg4){特許文献1の実施例1と同様にして得た融点53〜57℃のパラフィン粒子、重量平均粒子径600μm}100gを入れ、ポリマー溶液(ps2)40gを入れてスラリー(sl1)を調製した後、溶剤透過性密閉容器(v2)を上記のようにして密閉した。
【0055】
2リットルガラスビーカーに溶剤(sv22){ヘキサン}2リットルを入れた後、溶剤透過性密閉容器(v2){スラリー(sl2)を含む}を浸漬させて、4時間おきに溶剤(sv22)の全量を入れ替えた{40℃恒温室内で行った。}。
【0056】
24時間後、溶剤(sv22)から、溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を引き上げた後、30℃の新たな溶剤(sv22)1000リットルに入れ、10分間、超音波洗浄を行った。さらに、新たな溶剤(sv22)を用いて、超音波洗浄を2回行った後、溶剤切りした溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を切り開いて、湿潤した多孔質ポリマーを取り出し、10mm×10mm×10mmの立方体に切断した。立方体を送風定温乾燥機(DRX620DA、アドバンテック東洋株式会社)内で、乾燥(60℃、12時間)させて、多孔質ポリマー(5)を得た。多孔質ポリマー(5)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0057】
<実施例6>
ポリマー(p1)4gを、溶剤(sv13){ピリジン}36gに、約60℃で溶解して、ポリマー溶液(ps3)を得た。
【0058】
溶剤透過性密閉容器(v2)に、細孔形成剤(pg4)100gを入れ、ポリマー溶液(ps2)40gを入れてスラリー(sl1)を調製した後、溶剤透過性密閉容器(v2)を上記のようにして密閉した。
【0059】
2リットルガラスビーカーに溶剤(sv22){ヘキサン}2リットルを入れた後、溶剤透過性密閉容器(v2){スラリー(sl2)を含む}を浸漬させて、4時間おきに溶剤(sv22)の全量を入れ替えた{40℃恒温室内で行った。}。
【0060】
24時間後、溶剤(sv22)から、溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を引き上げた後、30℃の新たな溶剤(sv22)1000リットルに入れ、10分間、超音波洗浄を行った。さらに、新たな溶剤(sv22)を用いて、超音波洗浄を2回行った後、溶剤切りした溶剤透過性密閉容器(v1){多孔質ポリマーを含む}を切り開いて、湿潤した多孔質ポリマーを取り出し、10mm×10mm×10mmの立方体に切断した。立方体を送風定温乾燥機(DRX620DA、アドバンテック東洋株式会社)内で、乾燥(60℃、12時間)させて、多孔質ポリマー(6)を得た。多孔質ポリマー(6)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0061】
<実施例7>
「溶剤透過性密閉容器(v1)」を「溶剤透過性密閉容器(v2)」に変更し、上記のようにして密閉したこと、及び「密封した溶剤透過性密閉容器(v1)を、30℃の溶剤(sv21){蒸留水}2000gに浸漬して、24時間放置した。」を下記のように変更したこと以外、実施例1と同様にして、多孔質ポリマー(7)を得た。多孔質ポリマー(7)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0062】
ピペット洗浄器{円柱容器の下部から液体を排出できるように配管したもの、株式会社サンプラテック製;図1}を溶剤(sv23){水道水}を満たした後、密封した溶剤透過性密閉容器(v1){スラリーを含む}を浸漬させて、ピペット洗浄器の溶剤投入口(1)から溶剤(sv23)を100ml/分の流量で流入させると共に、排出口(2)から、溶剤(sv11)及び細孔形成剤(pg1)を溶解した溶剤(sv23)の溶液を排出した{排出される溶液の温度は28℃であった。}。
【0063】
<比較例1>−特許文献1の実施例2−
ポリテトラフルオロエチレン製容器{直径8cm、深さ1.2cmの窪みを持つ。}に、細孔形成剤(pg1)100gを入れ、実施例1と同様にして得たポリマー溶液(ps1)40gを入れた後、−20℃の冷凍庫に入れた。
【0064】
2リットルガラスビーカーに溶剤(sv21){蒸留水}2リットルを入れた後、ポリテトラフルオロエチレン製容器{スラリーを含む}を浸漬させて、12時間おきに溶剤(sv21)の全量を入れ替えた{10℃冷蔵庫内で行った。}。
【0065】
24時間後、溶剤(sv21)から、ポリエチレンフルオロエチレン製容器{多孔質ポリマーを含む}を引き上げた後、ポリエチレンフルオロエチレン製容器から、多孔質ポリマーを取り出し、濾紙で、溶剤(sv21)等を拭き取った。引き続いて、多孔質ポリマーを168時間、減圧乾燥{−10℃、67Pa}して、比較用の多孔質ポリマー(H1)を得た。多孔質ポリマー(H1)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0066】
<比較例2>−特許文献1の実施例4−
ポリテトラフルオロエチレン製容器{直径8cm、深さ1.2cmの窪みを持つ。}に、細孔形成剤(pg4)100gを入れ、実施例1と同様にして得たポリマー溶液(ps1)40gを入れた後、−70℃の冷凍庫に入れた。
【0067】
2リットルガラスビーカーに溶剤(sv22){ヘキサン}2リットルを入れた後、ポリテトラフルオロエチレン製容器{スラリーを含む}を浸漬させて、12時間おきに溶剤(sv22)の全量を入れ替えた{−18℃冷凍庫内で行った。}。
【0068】
24時間後、溶剤(sv22)から、ポリテトラフルオロエチレン製容器{多孔質ポリマーを含む}を引き上げた後、ポリエチレンフルオロエチレン製容器から、多孔質ポリマーを取り出し、濾紙で、溶剤(sv22)等を拭き取った。引き続いて、多孔質ポリマーを168時間、減圧乾燥{−10℃、27Pa}して、比較用の多孔質ポリマー(H2)を得た。多孔質ポリマー(H2)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0069】
<比較例3>−特許文献1の実施例1−
ポリマー(p1)4gを、溶剤(sv13){ピリジン}36gに、約60℃で溶解して、ポリマー溶液(ps3)を得た。
【0070】
ポリテトラフルオロエチレン製容器{直径8cm、深さ1.2cmの窪みを持つ。}に、細孔形成剤(pg4)100gを入れ、ポリマー溶液(ps3)40gを入れた後、7日間かけて、ピリジンを減圧留去{−10℃、27Pa}した。引き続き、ポリテトラフルオロエチレン製容器から、内容物{ポリマー(p1)及び細孔形成剤(pg3)からなるディスク状複合体}を取り出した。
【0071】
2リットルガラスビーカーに溶剤(sv22){ヘキサン}2リットルを入れた後、内容物{ディスク状複合体}を浸漬させて、12時間おきに溶剤(sv22)の全量を入れ替えた{−18℃冷凍庫内で行った。}。
【0072】
24時間後、溶剤(sv22)から、多孔質ポリマーを引き上げた後、濾紙で、溶剤(sv22)等を拭き取った。引き続いて、多孔質ポリマーを168時間、減圧乾燥{−10℃、67Pa}して、比較用の多孔質ポリマー(H3)を得た。多孔質ポリマー(H2)の多孔度(空隙率)は96体積%であった。
【0073】
実施例1〜7及び比較例1〜3において、工程(1)、工程(2)及び工程(3)に要した時間及び電気エネルギー{用いた装置の定格電力から概算を算出した。}を表1に示した。
【0074】
【表1】




【0075】
実施例1〜7のように、本発明の製造方法は、比較例の方法に比較して、より短時間に、より少ないエネルギーで効率よく多孔質ポリマーを得ることができた。しかも、得られた多孔質ポリマーの多孔度は、比較例で得たものと同等以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例で用いたピペット洗浄器を模式的に示した斜視図である。
【図2】実施例で用いた溶剤透過性密閉容器について、模式的に分解して示した斜視図である{4本輪ゴムのうち、3本を省略してある。}。
【符号の説明】
【0077】
1 溶剤投入口
2 排出口
3 円柱管
4 円形濾紙
5 円形金網
6 棒材
7 棒材
8 輪ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔形成剤(PG)を溶解しない溶剤(Sv1)に、ポリマー(P)を溶解させてポリマー溶液(PS)を得る工程(1)、
ポリマー溶液(PS)に細孔形成剤(PG)を分散させてスラリー(SL)を得る工程(2)、
スラリー(SL)を溶剤透過性密閉容器(V)に入れ、これを、ポリマー(P)を溶解せず溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶解する溶剤(Sv2)の中に浸漬して、溶剤(Sv1)及び細孔形成剤(PG)を溶剤(Sv2)に溶出させて多孔質ポリマーを得る工程(3)を含むことを特徴とする多孔質ポリマーの製造方法。
【請求項2】
ポリマー(P)が、生分解性ポリマーである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリマー(P)が、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン及びポリヒドロキシ酪酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
溶剤(Sv1)が、テトラヒドロフラン、ピリジン、ジオキサン、メタノール、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N,−ジメチルメタンアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びジメチルホルムアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶剤(Sv2)が、水、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ヘキサン及び石油エーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細孔形成剤(PG)が、ハロゲン化アルカリ金属塩、ハロゲン化アルカリ土類金属塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属、硝酸アルカリ金属塩、硝酸アルカリ土類金属塩、硝酸アンモニウム塩、硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩、硫酸アンモニウム塩、りん酸アルカリ金属塩、りん酸アンモニウム塩、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アンモニウム塩、炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸水素アンモニウム塩、ハロゲン酸アルカリ金属塩、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、糖質及びワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
溶剤透過性密閉容器(V)の一部又は全部が、濾紙、不織布、織布、編布、多孔質焼結体、多孔質プラスチック成型体及び網からなる群より選ばれる少なくとも1種で形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(1)〜(3)を5〜100℃で行う請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で製造された多孔質ポリマーを用いた生体組織足場材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−209188(P2009−209188A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50881(P2008−50881)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】