説明

多孔質担体及びその製造方法並びに触媒体

【課題】担持された触媒成分を効率的に暖機し、早期に活性化することができる触媒担体用の多孔質担体及びその製造方法、並びにその多孔質担体を用いた触媒体を提供すること。
【解決手段】触媒体1は、多孔質担体5に触媒成分41を担持してなる。多孔質担体5は、多数の細孔20を有する多孔質基材2を備えている。多孔質基材2の少なくとも表面200近傍の細孔20内には、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子3が分散されている。熱抵抗粒子3は、多孔質基材2の表面200からの深さが20μmの領域内に分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の内燃機関における排ガス浄化用触媒体の担体として用いられる多孔質担体及びその製造方法、並びにその多孔質担体を用いた触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒体としては、例えば貴金属等の触媒成分を担体(触媒担体)に担持させたものがある。
この触媒体としては、例えば多数のセルを有するハニカム構造のセラミック担体(モノリス担体)を基材として用い、そのセラミック担体のセル内に触媒成分を含む触媒層を形成したものがある(特許文献1参照)。
【0003】
上記触媒体を自動車等の内燃機関の排気管に設置して使用する場合には、セラミック担体のセル内に流入させる排ガスの熱や触媒層に含まれる触媒成分の反応熱を利用することによって、触媒成分を暖機する。そして、触媒成分を活性化する温度(活性温度)まで昇温させ、排ガスの浄化を行う。
【0004】
【特許文献1】特開2005−34778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の触媒体には、次のような問題点がある。すなわち、セラミック担体に流入させる排ガスの熱や触媒成分の反応熱は、すべてが触媒成分の暖機に利用されるわけではなく、一部の熱はセラミック担体の内部へと伝達・拡散されてしまう。そのため、触媒成分の暖機を効率よく行うことができず、触媒成分が活性温度に達するまで時間を要していた。特に内燃機関の始動直後においては、触媒成分の早期活性化が求められるため、触媒成分の暖機効率の向上が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、担持された触媒成分を効率よく暖機し、早期に活性化することができる触媒担体用の多孔質担体及びその製造方法、並びにその多孔質担体を用いた触媒体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、多数の細孔を有する多孔質基材を備えた触媒担体用の多孔質担体であって、
該多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内には、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子が分散されていることを特徴とする多孔質担体にある(請求項1)。
【0008】
本発明の多孔質担体は、触媒成分を担持する触媒担体として用いられるものであり、多数の細孔を有する上記多孔質基材を備えている。そして、該多孔質基材の少なくとも表面近傍の細孔内には、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子が分散されている。すなわち、上記多孔質基材内部における表面近傍には、上記細孔内に包含された上記熱抵抗粒子の層が形成されている。そのため、上記多孔質担体は、該多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって抑制することができる。
【0009】
これにより、上記多孔質担体を例えば自動車等の内燃機関における排ガス浄化用触媒体の触媒担体として適用した場合には、上記多孔質担体に流入させる排ガスや上記多孔質担体に担持された触媒成分の反応熱により得られる熱が上記多孔質担体の内部へと伝達・拡散されることを、上記熱抵抗粒子によって抑制することができる。そして、上記の熱を上記多孔質担体の表面等に担持された触媒成分の暖機に効率よく利用することができる。その結果、触媒成分を早期に活性化することができ、特に内燃機関の始動直後における排ガス浄化性能を向上させることができる。
【0010】
このように、本発明によれば、担持された触媒成分を効率的に暖機し、早期に活性化することができる触媒担体用の多孔質担体を提供することができる。
【0011】
第2の発明は、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子を溶媒に均一分散混合した熱抵抗粒子含有スラリーを作製するスラリー作製工程と、
多数の細孔を有する多孔質基材を上記熱抵抗粒子含有スラリー中に浸漬させ、上記多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内に上記熱抵抗粒子含有スラリーを浸入させる浸漬工程と、
上記細孔内に上記熱抵抗粒子含有スラリーを浸入させた上記多孔質基材を焼成し、触媒担体用の多孔質担体を得る焼成工程とを有することを特徴とする多孔質担体の製造方法にある(請求項8)。
【0012】
本発明の製造方法において、上記浸漬工程では、上記多孔質基材を熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子を含有する上記熱抵抗粒子含有スラリー中に浸漬させる。そして、上記多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内に上記熱抵抗粒子含有スラリーを浸入させる。その後、上記焼成工程を行う。これにより、得られる多孔質担体は、上記多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内に上記熱抵抗粒子が分散されたものとなり、上記第1の発明と同様の作用効果を有する。
【0013】
このように、本発明の製造方法によれば、担持された触媒成分を効率よく暖機し、早期に活性化することができる触媒担体用の多孔質担体を得ることができる。
【0014】
第3の発明は、上記第1の発明の多孔質担体に触媒成分を担持してなることを特徴とする触媒体にある(請求項15)。
【0015】
本発明の触媒体は、上記第1の発明の多孔質担体を触媒担体として用い、その多孔質担体に触媒成分を担持してなるものである。そのため、上記触媒体を例えば自動車等の内燃機関における排ガス浄化用触媒体として適用した場合には、上記多孔質担体に担持された触媒成分を効率的に暖機し、早期に活性化することができる。そして、特に内燃機関の始動直後における排ガス浄化性能を向上させることができる。
【0016】
このように、本発明によれば、担持された触媒成分を効率よく暖機し、早期に活性化することができる触媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記第1の発明において、上記熱抵抗粒子の熱伝導率が30W/m・Kを超える場合には、上記多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって抑制するという効果を充分に得ることができないおそれがある。
したがって、上記熱抵抗粒子の熱伝導率は、10W/m・K以下であることがより好ましい。
なお、上記熱抵抗粒子の熱伝導率は、定常熱流計法等を用いた定常法、または熱線法、プローブ法、レーザーフラッシュ法等を用いた非定常法により測定することができる。
【0018】
また、上記熱抵抗粒子は、少なくとも上記多孔質基材の表面からの深さが20μmの領域内に分散されていることが好ましい(請求項2)。
上記熱抵抗粒子が少なくとも上記多孔質基材の表面からの深さが20μmの領域内に分散されていない場合には、上記多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって充分に抑制することができないおそれがある。
【0019】
上記第2の発明において、上記浸漬工程では、上記熱抵抗粒子含有スラリーを少なくとも上記多孔質基材の表面から深さ20μmの領域内に浸入させることが好ましい(請求項9)。
上記熱抵抗粒子含有スラリーが少なくとも上記多孔質基材の表面からの深さが20μmの領域内に浸入していない場合には、得られる上記多孔質担体は、該多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって充分に抑制することができないものとなるおそれがある。
【0020】
上記第1及び第2の発明において、上記熱抵抗粒子は、上記多孔質基材の上記細孔内に包含されている。そのため、上記熱抵抗粒子の粒径は、包含される上記多孔質基材の上記細孔の径よりも小さい。例えば、上記熱抵抗粒子の平均粒径は、30〜80nmであることが好ましい(請求項3、10)。
上記熱抵抗粒子の平均粒径が30nm未満の場合には、上記多孔質基材の上記細孔内に上記熱抵抗粒子が密に充填され、耐熱衝撃性等の上記多孔質基材の機能が低下するおそれがある。一方、80nmを超える場合には、上記多孔質基材の上記細孔内に上記熱抵抗粒子を包含することが困難となるおそれがある。
なお、上記熱抵抗粒子の粒径は、一般的に用いられる平均粒径であり、一次粒子径であっても、一次粒子が凝集した二次粒子径であってもよい。
【0021】
また、上記多孔質基材の平均細孔径は、例えば約1〜2μmとすることが好ましい。
この場合には、上記多孔質基材の上記細孔内に上記熱抵抗粒子を容易に包含することができる。
【0022】
また、上記熱抵抗粒子は、上記多孔質基材の細孔容積に対する占有率が1/5〜3/4であることが好ましい。
この場合には、上記多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって充分に抑制することができる。
なお、上記多孔質基材の細孔容積とは、上記多孔質基材に存在する上記細孔の合計容積である。また、上記熱抵抗粒子の占有率は、上記細孔の合計容積に対して上記細孔内に分散されている上記熱抵抗粒子が占める割合である。
【0023】
また、上記多孔質基材の細孔容積は、例えば、全自動ガス吸着量測定装置:AUTOSORB−1(ユアサアイオニクス株式会社製)等を用いることにより測定できる。
また、上記多孔質基材の細孔容積に対する上記熱抵抗粒子の占有率は、上記多孔質基材のみと熱抵抗粒子を導入した上記多孔質担体とについて、それぞれ全自動ガス吸着量測定装置を用いて細孔容積を測定し、上記多孔質担体の細孔容積と上記多孔質基材の細孔容積との比によって計算することができる。
【0024】
また、上記熱抵抗粒子は、上記多孔質担体の使用温度よりも高い融点を有することが好ましい。例えば、上記多孔質担体を自動車等の内燃機関における排ガス浄化用触媒体の触媒担体として適用する場合、最高1000℃付近の高温下で使用される。そのため、上記熱抵抗粒子の融点は、1000℃以上であることが好ましい(請求項4、11)。
上記熱抵抗粒子の融点が1000℃未満の場合には、使用途中で上記熱抵抗粒子が溶融し、担持されている上記触媒成分の滑落、埋没、シンタリング等の現象を引き起こすおそれがある。
【0025】
また、上記熱抵抗粒子は、TiO2、MnO2、SiO2、ThO2及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることが好ましい(請求項5、12)。
この場合には、上記多孔質担体の外部から内部への熱の伝達・拡散を上記熱抵抗粒子によって充分に抑制することができる。
特に、SiO2を選択した場合には、上記多孔質担体の表面に直接担持された触媒成分との密着性を向上させることができる。そのため、高温下での長時間の使用において、触媒成分の凝集等による触媒劣化、つまりシンタリングを抑制することができる。その結果、触媒成分の活性を高い状態で持続することが可能となり、高温下における耐久性を向上させることができる。
なお、各材料の熱伝導率(W/m・K)は、TiO2:約3.94、MnO2:約7.82、SiO2:約3.06、ThO2:約4.7である。また、いずれの材料も融点は1000℃以上である。
【0026】
また、上記多孔質基材は、コージェライトセラミックスよりなることが好ましい(請求項6、13)。
この場合には、上記多孔質基材を備えた上記多孔質担体は、熱膨張係数が低く、耐熱衝撃性に優れたものとなる。また、高温下での使用においても、優れた耐久性を有する。そのため、上記多孔質担体を排ガス浄化用触媒体の触媒担体として適用することにより、その性能を充分に発揮することができる。
【0027】
また、上記多孔質基材は、ハニカム構造体よりなることが好ましい(請求項7、14)。
ここで、ハニカム構造体とは、例えばハニカム(蜂の巣)状のセル壁と該セル壁に囲まれた多数のセルとを有する構造のものである。この場合には、上記多孔質基材を備えた上記多孔質担体は、より大きな比表面積を確保することができ、上記多孔質担体に流入する排ガスと担持されている上記触媒成分との接触機会を増やすことができる。これにより、排ガスを効果的に浄化することができる。
なお、上記ハニカム構造体の形状は、種々の形状を採用することができ、例えば円筒形状等とすることができる。また、上記セルの断面形状も、種々の形状を採用することができ、例えば三角形、四角形、六角形等とすることができる。
【0028】
上記第3の発明において、上記多孔質担体の表面には、上記触媒成分が直接担持されている構成とすることができる(請求項16)。
この場合には、上記多孔質担体における排ガスが通過する面積をより大きく確保することができる。そのため、上記多孔質担体に上記触媒成分を担持することによる圧力損失の増加を抑制することができる。これにより、例えば自動車等の内燃機関の出力を向上させることができる。
【0029】
また、上記多孔質担体の表面には、その表面を覆うように上記触媒成分と該触媒成分を担持させる触媒担持体とを有する触媒層が形成されている構成とすることができる(請求項17)。
この場合には、比表面積の大きな上記触媒担持体を用いれば、上記多孔質担体に流入する排ガスと上記触媒担持体に担持されている上記触媒成分との接触機会を増やすことができる。これにより、排ガスを効果的に浄化することができる。
【0030】
また、上記多孔質基材内部における表面近傍には、上述したとおり、上記細孔内に包含された上記熱抵抗粒子の層が形成されている。
したがって、上記多孔質担体の表面に上記触媒成分を直接担持させる場合には、上記触媒成分が上記多孔質基材の表面近傍の上記細孔内に入り込み、反応に寄与しない上記触媒層がほとんど形成されなくなる。そのため、上記多孔質担体の表面に上記触媒成分を効率的に配置することができる。これにより、上記触媒成分の反応利用効率を高めることができ、それに伴って該触媒成分の使用量を低減することができる。
【0031】
同様に、上記多孔質担体の表面を覆うように上記触媒成分を含む上記触媒層を形成する場合には、上記触媒層が上記多孔質基材の表面近傍の上記細孔内に入り込んで形成されることがほとんどなくなる。そのため、上記多孔質担体の表面に上記触媒層を効率的に形成することができる。これにより、上記触媒層の厚みを小さくすることができ、それに伴って該触媒層に含まれる上記触媒成分の使用量を低減することができる。さらに、上記多孔質担体に流入させる排ガスの通過抵抗(圧力損失)を低減することもできる。
【0032】
また、上記触媒担持体は、CeO2、ZrO2、Al23、MgO、Y23、Ni23及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることが好ましい(請求項18)。
この場合には、上記触媒担持体の比表面積が大きくなるため、上記多孔質担体に流入する排ガスと上記触媒担持体に担持されている上記触媒成分との接触機会を増やすことができる。これにより、排ガスを効果的に浄化することができる。
【0033】
また、上記触媒成分は、貴金属触媒として、Pt、Rh、Pd、Pu、Ir及びOsから選ばれる1種又は2種以上の元素を含むことが好ましい(請求項19)。例えば、上記の貴金属を含む酸化物や複合酸化物等でもよい。
この場合には、排ガス中の有害成分を有効に浄化することができる。
【0034】
また、上記貴金属触媒の平均粒径は、10nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。
この場合には、上記触媒成分の貴金属触媒の比表面積をより大きく確保することができ、活性点を増やすことができる。
【0035】
また、上記触媒成分は、上記貴金属触媒における助触媒として、酸素吸蔵放出能を有するCeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO及びこれらの組成物から選ばれる1種の粒子又は2種以上の固溶体粒子を含むことが好ましい(請求項20)。
この場合には、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスのような酸化雰囲気と還元雰囲気とを繰り返す変動条件下においても、その雰囲気を調整し、排ガスの浄化を効率よく行うことができる。
【0036】
また、上記助触媒の平均粒径は、3〜50nmであることが好ましく、3〜10nmであることがより好ましい。
この場合には、上記触媒成分の助触媒の比表面積をより大きく確保することができ、活性点を増やすことができる。
【0037】
また、上記触媒成分は、上記貴金属触媒の粒子と上記助触媒の粒子とがそれぞれ単独で存在していてもよいし、互いに密着した状態で存在していてもよい。例えば、上記助触媒の粒子の表面に上記貴金属触媒の粒子が担持されている構成とすることができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる多孔質担体及びその製造方法、並びにその多孔質担体を用いた触媒体について、図を用いて説明する。
本例の触媒体1は、図1〜図3に示すごとく、自動車のエンジンから排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒体として用いられるものであり、触媒担体としての多孔質担体5に触媒成分41が担持されている。
以下、これを詳説する。
【0039】
図1、図2(a)に示すごとく、多孔質担体5は、四角形格子状のセル壁21とセル壁21に囲まれた多数のセル22とを有する円筒形状のハニカム構造体である多孔質基材2によって構成されている。本例の多孔質基材2は、コージェライトセラミックスよりなる。
【0040】
また、図2(b)、図3に示すごとく、多孔質基材2は、多数の細孔20を有しており、その平均細孔径は1〜2μmである。
また、図2(b)に示すごとく、多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内には、熱抵抗粒子3が分散されている。すなわち、多孔質基材2内部における表面200近傍には、細孔20内に包含された熱抵抗粒子3の層が形成されている。熱抵抗粒子3は、多孔質基材2の表面200からの深さが20μmの領域内に分散されている。本例の熱抵抗粒子3は、熱伝導率が約3.06W/m・K、融点が1200℃のシリカ(SiO2)粒子であり、その平均粒径は50nmである。
【0041】
なお、図2(b)及び図3は、多孔質基材2の表面200周辺を模式的に表した図であり(後述の図4(b)も同様)、図3は、多孔質基材2のみを表している。図2(b)では、多孔質基材2の表面200近傍に熱抵抗粒子3の層が形成されているが、熱抵抗粒子3は、実際にはナノサイズの粒子で存在している。
【0042】
また、図2(a)、(b)に示すごとく、多孔質担体5の表面500には、触媒成分41と触媒成分41を担持させる触媒担持体42とを有する触媒層4が形成されている。
触媒担持体42は、図2(b)に示すごとく、多孔質担体5の表面500を覆うように形成されている。触媒担持体42の表面420には凹凸があり、その凹凸に触媒成分41が物理吸着により担持されている。本例の触媒担持体42は、γ−Al23よりなる。
【0043】
また、触媒成分41は、図2(b)に示すごとく、貴金属触媒411と助触媒412とからなり、互いに密着した状態で存在している。本例では、助触媒412の粒子の表面に貴金属触媒411の粒子が担持された状態で存在している。また、本例の貴金属触媒411は、貴金属であるPtであり、その平均粒径は10nmである。また、助触媒412は、酸素吸蔵放出能を有するCeO2/ZrO2固溶体であり、その平均粒径は20nmである。
【0044】
次に、本例の触媒体1の製造方法について説明する。
まず、平均粒径50nmのシリカ粒子を溶媒としての水に均一分散させたシリカ粒子含有スラリー(日産化学工業製、スノーテックスOL)と水とを1:1で混合し、希釈した。そして、図3の多孔質基材2を上記シリカ粒子含有スラリー中に浸漬させ、多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内に上記シリカ粒子含有スラリーを浸入させた。その後、多孔質基材2を熱風発生器により150℃で乾燥させ、1050℃で1時間焼成した。
【0045】
以上により、多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内にシリカ粒子(熱抵抗粒子3)が分散された多孔質担体5を得た。
本例では、多孔質基材2として、4mil、400メッシュ、外径30mm、長さ50mmのミニピースを用いた。そして、この多孔質基材2に対して、熱抵抗粒子3を約0.2g導入した。
【0046】
なお、多孔質基材2の細孔容積に対する熱抵抗粒子3の占有率は、70%であった。また、この占有率は、多孔質基材2のみと熱抵抗粒子3を導入した多孔質担体5とについて、それぞれ全自動ガス吸着量測定装置:AUTOSORB−1(ユアサアイオニクス株式会社製)を用いて細孔容積を測定し、多孔質担体5の細孔容積と多孔質基材2の細孔容積との比によって求めた。
【0047】
次いで、多孔質担体5をアルミナゾル分散溶液中に浸漬させ、多孔質基材2にアルミナ担持体をコートした。その後、多孔質担体5を熱風発生器により150度で乾燥させ、500℃で2時間焼成した。これにより、多孔質担体5の表面500を覆うようにアルミナよりなる触媒担持体42を形成した。
【0048】
次いで、溶媒としての水1000ml中にCe/Zr複合酸化物を25g添加して溶解させ、Ce/Zr複合酸化物含有スラリーを得た。そして、このCe/Zr複合酸化物含有スラリーに対して、超音波発生器(ソノリアクター)により超音波(25kHz)を照射しながら30分間撹拌した。これにより、Ce/Zr複合酸化物をナノオーダーに微細化すると共に分散させた。
【0049】
次いで、上記Ce/Zr複合酸化物含有スラリーに貴金属原料としてPtCl2を0.1g添加し、超音波を照射しながら撹拌した。さらに、PtCl2におけるPtへの還元助剤としてアルカノールアミンを約10ml添加し、超音波を照射しながら30分間撹拌した。これにより、PtCl2を還元し、貴金属触媒としてのPt粒子が助触媒としてのCe/Zr複合酸化物粒子上に密着した触媒成分を含む混合溶液を得た。
【0050】
次いで、上記混合溶液に対して遠心分離機による洗浄を行った。これにより、触媒成分の前駆体としての固形物を得た。そして、硝酸及び水を加え、pHを約1.0〜2.0に調整し、触媒成分分散溶液を得た。
次いで、得られた上記触媒成分分散溶液に対して超音波を照射することにより、触媒成分をナノオーダーに微細化すると共に分散させた。
【0051】
次いで、多孔質担体5を上記触媒成分分散溶液中に浸漬させ、多孔質担体5に上記触媒成分分散溶液をコートした。その後、多孔質担体5を熱風発生器により150℃で乾燥させ、500℃で2時間焼成した。これにより、触媒担持体42の表面420に触媒成分41を担持させた。
以上により、多孔質担体5の表面500を覆うように触媒層4が形成された触媒体1を得た。
【0052】
次に、本例の多孔質基材2及びそれを用いた触媒体1における作用効果について説明する。
本例の多孔質担体5は、多数の細孔20を有する多孔質基材2を備えている。そして、多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内には、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子3が分散されている。すなわち、多孔質基材2内部における表面200近傍には、細孔20内に包含された熱抵抗粒子3の層が形成されている。そのため、多孔質基材2の外部から内部への熱の伝達・拡散を熱抵抗粒子3によって抑制することができる。
【0053】
これにより、触媒担体としての多孔質担体5に触媒成分41を担持してなる排ガス浄化用触媒体である触媒体1は、多孔質担体5に流入させる排ガスや多孔質担体5に担持された触媒成分41の反応熱により得られる熱が多孔質担体5の内部へと伝達・拡散されることを、熱抵抗粒子3によって抑制することができる。そして、上記の熱を多孔質担体5の外部(本例では、触媒層4の触媒担持体41)に担持された触媒成分41の暖機に効率よく利用することができる。その結果、触媒成分41を早期に活性化することができ、特にエンジンの始動直後における排ガス浄化性能を向上させることができる。
【0054】
また、本例では、上述したとおり、多孔質基材2内部における表面200近傍には、細孔20内に包含された熱抵抗粒子3の層が形成されている。したがって、本例のように、多孔質担体5の表面500上に触媒成分41を含む触媒層41を形成する場合には、触媒層41が多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内に入り込み、反応に寄与しない触媒層4がほとんど形成されなくなる。そのため、多孔質担体の表面500に触媒層41を必要最小量で効率的に形成することができる。これにより、触媒層41の厚みを小さくすることができ、それに伴って触媒層41に含まれる触媒成分41の使用量を低減することができる。さらに、多孔質担体5に流入させる排ガスの通過抵抗(圧力損失)を低減することもできる。
【0055】
このように、本例によれば、担持された触媒成分41を効率的に暖機し、早期に活性化することができる触媒担体用の多孔質担体5及びそれを用いた触媒体1を提供することができる。
【0056】
なお、本例では、触媒成分41は、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とが互いに密着した状態で存在しているが、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とがそれぞれ単独で存在していてもよい。つまり、触媒担持体42の表面420に、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とがそれぞれ単独で存在している構成とすることもできる。
【0057】
(実施例2)
本例は、触媒体1の構成を変更した例である。
本例の触媒体1においては、図4(a)、(b)に示すごとく、多孔質担体5の表面500上に、触媒成分41が直接担持されている。触媒成分41は、貴金属触媒411と助触媒412とからなり、互いに密着した状態で存在している。本例では、助触媒412の粒子の表面に貴金属触媒411の粒子が担持された状態で存在している。
その他は、実施例1と同様の構成を有する。
【0058】
この場合には、多孔質担体5における排ガスが通過する面積をより大きく確保することができる。そのため、多孔質担体5に触媒成分41を担持することによる圧力損失の増加を抑制することができる。これにより、自動車のエンジンの出力を向上させることができる。
【0059】
また、多孔質基材2内部における表面200近傍には、細孔20内に包含された熱抵抗粒子3の層が形成されている。したがって、本例のように、多孔質担体の表面500上に触媒成分41を直接担持させる場合には、触媒成分41が多孔質基材2の表面200近傍の細孔20内に入り込み、反応に寄与しない触媒成分41がほとんどなくなる。そのため、多孔質担体5の表面500に触媒成分41を必要最小量で効率的に配置することができる。これにより、触媒成分41の反応利用効率を高めることができ、それに伴って触媒成分41の使用量を低減することができる。
その他は、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0060】
なお、本例においても、触媒成分41は、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とが互いに密着した状態で存在しているが、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とがそれぞれ単独で存在していてもよい。つまり、多孔質担体5の表面500上に、貴金属触媒411の粒子と助触媒412の粒子とがそれぞれ単独で存在している構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1における、触媒体を示す説明図。
【図2】実施例1における、(a)触媒体の径方向断面を示す説明図、(b)図2(a)のA部を示す説明図。
【図3】実施例1における、多孔質基材の表面近傍を示す説明図。
【図4】実施例2における、(a)触媒体の径方向断面を示す説明図、(b)図2(a)のB部を示す説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 触媒体
2 多孔質基材
20 細孔
200 表面(多孔質基材の表面)
21 セル壁
22 セル
3 熱抵抗粒子
4 触媒層
41 触媒成分
411 貴金属触媒
412 助触媒
42 触媒担持体
420 表面(触媒担持体の表面)
5 多孔質担体
500 表面(多孔質担体の表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の細孔を有する多孔質基材を備えた触媒担体用の多孔質担体であって、
該多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内には、熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子が分散されていることを特徴とする多孔質担体。
【請求項2】
請求項1において、上記熱抵抗粒子は、少なくとも上記多孔質基材の表面からの深さが20μmの領域内に分散されていることを特徴とする多孔質担体。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記熱抵抗粒子の平均粒径は、30〜80nmであることを特徴とする多孔質担体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記熱抵抗粒子の融点は、1000℃以上であることを特徴とする多孔質担体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記熱抵抗粒子は、TiO2、MnO2、SiO2、ThO2及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする多孔質担体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記多孔質基材は、コージェライトセラミックスよりなることを特徴とする多孔質担体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、上記多孔質基材は、ハニカム構造体よりなることを特徴とする多孔質担体。
【請求項8】
熱伝導率が30W/m・K以下の熱抵抗粒子を溶媒に均一分散混合した熱抵抗粒子含有スラリーを作製するスラリー作製工程と、
多数の細孔を有する多孔質基材を上記熱抵抗粒子含有スラリー中に浸漬させ、上記多孔質基材の少なくとも表面近傍の上記細孔内に上記熱抵抗粒子含有スラリーを浸入させる浸漬工程と、
上記細孔内に上記熱抵抗粒子含有スラリーを浸入させた上記多孔質基材を焼成し、触媒担体用の多孔質担体を得る焼成工程とを有することを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記含浸工程では、上記熱抵抗粒子含有スラリーを少なくとも上記多孔質基材の表面から深さ20μmの領域内に浸入させることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、上記熱抵抗粒子の平均粒径は、30〜80nmであることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項において、上記熱抵抗粒子の融点は、1000℃以上であることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項において、上記熱抵抗粒子は、TiO2、MnO2、SiO2、ThO2及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項において、上記多孔質基材は、コージェライトセラミックスよりなることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項において、上記多孔質基材は、ハニカム構造体よりなることを特徴とする多孔質担体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の多孔質担体に触媒成分を担持してなることを特徴とする触媒体。
【請求項16】
請求項15において、上記多孔質担体の表面には、上記触媒成分が直接担持されていることを特徴とする触媒体。
【請求項17】
請求項15において、上記多孔質担体の表面には、その表面を覆うように上記触媒成分と該触媒成分を担持させる触媒担持体とを有する触媒層が形成されていることを特徴とする触媒体。
【請求項18】
請求項17において、上記触媒担持体は、CeO2、ZrO2、Al23、MgO、Y23、Ni23及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする触媒体。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか1項において、上記触媒成分は、貴金属触媒として、Pt、Rh、Pd、Pu、Ir及びOsから選ばれる1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする触媒体。
【請求項20】
請求項19において、上記触媒成分は、上記貴金属触媒における助触媒として、酸素吸蔵放出能を有するCeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO及びこれらの組成物から選ばれる1種の粒子又は2種以上の固溶体粒子を含むことを特徴とする触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−45569(P2009−45569A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214771(P2007−214771)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】