説明

多孔質炭素シートの製造方法

【課題】多孔質炭素シートの圧縮変形率と局所的に押した際の表面の圧縮残留歪みを適切に制御できる多孔質炭素シートの製造方法を提供する。
【解決手段】フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙2の表面に、エポキシ樹脂組成物1を塗工し、加熱加圧処理した後、炭素化処理する多孔質炭素シートの製造方法で達成される。燃料電池のガス拡散体の材料として多孔質炭素シートに求められる特性、具体的には、圧縮変形率が高いこと、両表面の圧縮残留歪みが小さいこと、導電性が高いこと、機械的特性が高いことを全て同時に満足する多孔質炭素シートを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として好ましく用いられる多孔質炭素シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は固体高分子電解質膜、触媒、ガス拡散体、セパレーターよりなるセルを複数枚積層した燃料電池スタックとして用いられる。自動車などの高い出力が要求される用途においては、2 0 0 〜 4 0 0 個のセルをスタックして用いられるため、各構成素材の厚みが設計した厚みと異なるとスタック全体として大きなずれが生じることから、各構成素材には高い厚さ精度が求められる。固体高分子型燃料電池のガス拡散体は一般にシール材と呼ばれる一定厚さの素材で周りを囲み、スタック時にシール材と同等の厚さまで圧縮させることにより厚みをコントロールしている。したがって、ガス拡散体にはシール材と同等の厚みになるように圧縮変形率が高いこと( すなわち圧縮変形能に優れること) が求められる。この他にも、ガス拡散体には導電性やハンドリングのために機械的特性が求められる。
【0003】
上記のような特性が必要とされる固体高分子型燃料電池のガス拡散体の材料として、炭素短繊維を樹脂炭化物で結着してなる多孔質炭素シートを用いたものが知られている。
特許文献1には上記多孔質炭素シートは圧縮工程において2枚の熱硬化性樹脂組成物を含む前駆体繊維シートを厚み方向に対称になるように積層し、抄紙時に短網板に接していた面を外側に向けることで熱硬化性樹脂組成物の比較的多い層が表面に向いているため、比較的圧縮変形率が高くなっていることが記載されている。
特許文献2には、嵩密度の低い前駆体シートを嵩密度の高い前駆体シートの間に挟んで圧縮することで表面に熱硬化性樹脂の多い層が得られるため、比較的圧縮変形率が高くなっていることが記載されている。
しかし、熱硬化性樹脂組成物量を変えることで嵩密度の勾配を付けているが、加熱加圧処理のとき、熱硬化性樹脂の軟化による層間移動が起こるため樹脂分布の制御が難しいという問題があった。
【特許文献1】特開2006―40885号公報
【特許文献2】特開2007―176750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多孔質炭素シートの圧縮変形率と局所的に押した際の表面の圧縮残留歪みを適切に制御できる多孔質炭素シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
(1)フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の表面に、エポキシ樹脂組成物を塗工し、加熱加圧処理して両樹脂組成物を硬化した後、炭素化処理する多孔質炭素シートの製造方法。
(2)フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙として、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙を2枚積層した積層体を用いる、(1)の多孔質炭素シートの製造方法。
(3)フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙として、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙をフェノール樹脂組成物の含浸量の多い面を外面にして2枚積層した積層体を用いる、(2)の多孔質炭素シートの製造方法。
(4)フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙に替えて、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙と炭素短繊維紙とフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙とを、その順で積層してなる積層体を用いる(1)の多孔質炭素シートの製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかの多孔質炭素シートの製造方法で製造される多孔質炭素シート。
【発明の効果】
【0006】
多孔質炭素シートの圧縮変形率と局所的に押した際の表面の圧縮残留歪みを適切に制御できる多孔質炭素シートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の多孔質炭素シートの製造方法は、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の表面に、エポキシ樹脂組成物を塗工し、加熱加圧処理して両樹脂組成物を硬化した後、炭素化処理することを特徴とするものである。
【0008】
[炭素短繊維紙]
本発明に用いることのできる炭素短繊維紙としては、液体の媒体中に炭素繊維を分散させて抄造する湿式法、又は空気中に炭素繊維を分散させて降り積もらせる乾式法により製造した炭素短繊維紙を適用できるが、中でも湿式法により製造した炭素短繊維紙の方が繊維の分散性が良好なため好ましい。
【0009】
前記炭素短繊維紙に含まれる炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれの炭素繊維であっても良いが、機械的強度が比較的高いポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル系炭素繊維のみからなることが好ましい。
【0010】
ここでいうポリアクリロニトリル系炭素繊維とは、原料としてアクリロニトリルを主成分とするポリマーを用いて製造されるものである。具体的には、アクリロニトリル系繊維を紡糸する製糸工程、200〜400℃の空気雰囲気中で該繊維を加熱焼成して酸化繊維に転換する耐炎化工程、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中でさらに300〜2500℃に加熱して炭化する炭化工程を経て得られる炭素繊維である。前記炭素繊維は、複合材料強化繊維として好適に使用できるものである。そのため、他の炭素繊維に比べて強度が強く、機械的強度の強い炭素短繊維紙を形成することができる。
【0011】
前記ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、電極基材の機械特性維持の観点から炭素短繊維紙中に50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましい。
【0012】
炭素繊維の平均繊維長は、基材の強度や均一な分散性の観点から、2〜18mmにすることが好ましく、2〜10mmとすることがより好ましく、3〜6mmとするのがさらに好ましい。繊維長が2mm未満であると繊維同士の絡み合いが少なくなり、基材の強度が弱くなる場合がある。また、18mmを超えると、繊維の分散媒体中への分散性が低下し、分散斑のある炭素短繊維紙となる場合がある。
【0013】
本発明の炭素短繊維紙は、バインダーとして有機高分子化合物を含んでもよい。
有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化樹脂の他、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロースなどを用いることができる。また、その形態としては、パルプ状物や短繊維が適している。
【0014】
ここでいうパルプ状物とは、繊維状の幹から直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造で、このパルプ状物を用いた炭素短繊維紙は効率よく繊維同士が絡み合い、薄い炭素短繊維紙であってもその取り扱い性に優れている特徴を有している。
【0015】
また、短繊維とは繊維糸又は繊維のトウを所定の長さにカットして得られるものである。前記短繊維の長さは、バインダーとしての結着性や分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
【0016】
特に、有機高分子化合物としてはポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリ酢酸ビニルのパルプ状物若しくは短繊維が好ましい。
【0017】
これらの有機高分子化合物は抄紙工程での結着力に優れるため、炭素繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。これらは単一成分で用いても良いし、2種類以上用いることもできる。また、これら有機高分子化合物は電極基材を製造する最終段階の炭素化過程で大部分が分解・揮発し、空孔を形成する。この空孔の存在により、水及びガスの透過性が向上するため好ましい。
【0018】
炭素短繊維紙における有機高分子化合物の含有率は、5〜60質量%の範囲にあるのが好ましい。より好ましくは10〜50質量%の範囲である。炭素短繊維紙に後述する熱硬化性樹脂を含浸し、焼成して得られる電極基材の電気抵抗を低くするためには、有機高分子化合物の含有量は少ない方がよく、含有率は60質量%以下が好ましい。炭素短繊維紙の強度及び形状を保つという観点から、含有率は5質量%以上が好ましい。
【0019】
炭素短繊維紙の目付は機械強度とガス透過性を両立させるという点から10〜70g/m2であることが好ましく、さらに好ましくは15〜60g/m2である。
【0020】
本発明において、常温で粘着性、或いは流動性を示し、かつ炭素化後も導電性物質として残存するフェノール樹脂組成物を用いることが必要である。
【0021】
前記フェノール樹脂組成物としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を用いることができる。また、レゾールタイプの流動性フェノール樹脂に公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできる。この場合は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプのものが好ましい。
【0022】
フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシレノール等が用いられる。アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。これらはフェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
【0023】
フェノール樹脂組成物は、その種類や炭素短繊維紙への含浸量により、最終的に電極基材に炭化物として残る割合が異なる。電極基材を100質量%とした時、炭素繊維分を除いたフェノール樹脂組成物由来の炭化物の含有量は、電極基材中の炭素繊維の結着の観点から10質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは20質量%以上である。またフェノール樹脂組成物量が多い場合はプレス時の収縮量が大きくなり皺がよりやすいこと、そして電極基材柔軟性発現の観点から、フェノール樹脂組成物由来の炭化物含有量は50質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは40質量%以下である。
【0024】
前記フェノール樹脂組成物の前記炭素短繊維紙への含浸方法としては、特段の制限はないが、コーターを用いて炭素短繊維紙表面に樹脂を均一にコートする方法、しぼり装置を用いるディップ・ニップ法、もしくは炭素短繊維紙と樹脂フィルムを重ねて、樹脂を炭素短繊維紙に転写する方法などが連続的に樹脂を含浸することができ、生産性及び長尺物も製造できるという点で好ましい。
【0025】
本発明において、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の表面に、エポキシ樹脂組成物を塗工することが必須である。
エポキシ樹脂組成物は、取り扱い性、炭化収率が低く硬化のコントロールがし易い。炭化収率は、30%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、25%以下である。炭化収率が低い樹脂組成物を使用することでガス拡散体に必要なガスの透過性を確保することができる。また、エポキシ樹脂組成物のみが硬化する温度で一度加熱加圧処理してやれば、フェノール樹脂組成物を硬化させるときは加熱処理のみで良いことから、従来より短時間で薄膜化することが可能となる。
【0026】
エポキシ樹脂組成物の目付は2〜70g/mが好ましく20〜50g/mが特に好ましい。この範囲内であると圧縮変形率が高いこと、両表面の圧縮残留歪みが小さいこと、導電性が高いこと、機械的特性が高いことさらに周辺部材の損傷防止を全て同時に満足するといった点で好ましい。加熱加圧したとき、フェノール樹脂組成物が炭素短繊維よりもエポキシ樹脂組成物との相溶性が高いことからエポキシ樹脂組成物がある炭素短繊維紙表面にフェノール樹脂組成物が移動して多孔質炭素シートの圧縮変形率と局所的に押した際の表面の圧縮残留歪みを適切に制御できる構造が形成される。
【0027】
積層方法としては、加熱加圧処理において、積層した炭素短繊維紙を接着させる必要があるため、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙を2 枚以上積層することが好ましい。
この場合、フェノール樹脂組成物を含浸していない炭素短繊維紙をフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の間に積層してもよい。
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙は、フェノール樹脂組成物の含浸量が多い面を外面にした方が圧縮変形率が高いことと両表面の圧縮残留歪みが小さいことが同時に満足できるといった点で好ましい。
離型紙を用いる場合は、下の離型紙、炭素短繊維紙積層体、上の離型紙の順に積層する方法や炭素短繊維紙積層体を離型紙で同時に挟み込む方法が挙げられる。
加熱加圧処理に供するために、加熱加圧で硬化および接着後の炭素短繊維紙の両表面のかさ密度が内部のかさ密度より高くなるように炭素短繊維紙の積層方向、および/ または、積層順序を設定する必要がある。
【0028】
[加熱加圧処理]
加熱加圧処理において使用する加熱プレス装置としては、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱ダブルベルトプレス装置(以下、ダブルベルト装置とする)、あるいは連続式加熱ロールプレス装置(以下、ロールプレス装置とする)が好ましい。
【0029】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の表面に、エポキシ樹脂組成物を塗工し、離型紙の間に挟んで、ベルトによりダブルベルト装置内に搬送される。押さえロールにより離型紙と炭素短繊維紙を重ね合わせた後、熱風発生装置内で熱風により、また予熱ロールにより予熱処理が行われる。加熱加圧処理前に前記炭素短繊維紙を予熱処理することが好ましい。加熱加圧処理前に炭素短繊維紙に予熱を加えることでエポキシ樹脂組成物を一旦軟化させ、炭素短繊維紙に良くなじませることができる。その上で加熱加圧処理を行うことで、炭素繊維同士の結着が効果的に行われ、機械特性に優れ、ハンドリング性の高い多孔質炭素シートを製造することができる。予熱処理において採用される加熱手段は加熱ロールなどの伝熱加熱、加熱領域を設けた対流加熱、遠赤外線等の放射加熱のいずれかあるいはそれらの組み合わせでも良いが、熱ロス低減の観点から加熱ロール等を使用した伝熱加熱であることが好ましい。
【0030】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙にエポキシ樹脂組成物を均一かつ平滑に転写させるために離型紙を用いてもよい。具体的には、耐熱温度が200℃以上であり、引っ張り強度が50N/cm以上で樹脂組成物が硬化した状態で容易に取り除くことができるものであることが好ましい。エポキシ樹脂組成物を離型紙に塗工する方法としては、特段の制限はないが、ドクターブレードにより一定の隙間よ一定量の樹脂を塗工する方法や、キスコーターのロール間隔により樹脂塗工量を制御する方法やリバースロールコーターのような装置を用いる方法が挙げられる。クリアランスができ、生産性及び長尺物も製造できるという点でキスコーターやリバースロールコーターを用いる方法が好ましい。
【0031】
熱風発生装置内の熱風の温度としては、100℃以上、250℃以下が好ましい。また、予熱ロールの温度としては、150℃以上、300℃以下が好ましい。
前記予熱処理後、プレスロールにより、加熱加圧を行う。プレスロールの温度としては、樹脂組成物の硬化を進める観点から、200℃以上、400℃以下が好ましい。
【0032】
また、プレスロールの線圧としては、所望の多孔質炭素シートの厚みになるように調整すれば良いが、多孔質炭素シートの機械特性向上のために炭素繊維同士の結着を進める観点から、1×10N/m以上、1×10N/m以下で加圧することが好ましい。
【0033】
前記得られた樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を巻取り機により巻き取る。離型紙を用いた場合は、樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体から離型紙取り除く。樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を巻き取る巻き取り機とは別の巻取り機により巻き取る方法が挙げられる。
また、樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を一度巻取り機により巻き取っているが、巻き取らずに、そのまま連続的に後述する炭素化工程を行ってもよい。
【0034】
[炭素化処理]
本発明において、前記加熱加圧処理後、樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を焼成する。前記焼成は、不活性雰囲気に保たれた加熱炉内に樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を導き、その加熱炉内を連続的に走行させながら行う。最終的に得られる電極基材の機械特性や導電性の観点から、前記焼成は、最高温度が600℃以上、好ましくは700℃以上で熱処理する工程(予備炭素化工程)と、最高温度が1500℃以上、好ましくは1600℃以上で熱処理する工程(炭素化工程)とから構成されることが好ましい。
【0035】
前記予備炭素化処理の昇温速度は、40〜300℃/minが好ましい。また、炭素化処理の昇温速度は、50〜400℃/minが好ましい。
予備炭素化処理で40℃/min未満あるいは炭素化処理で50℃/min未満の昇温速度の場合は、生産性が著しく低いため、好ましくない。また、予備炭素化処理工程で300℃/minを超える昇温速度あるいは炭素化工程で400℃/minを超える昇温速度の場合は、導電性や機械特性が低下するため好ましくない。
昇温速度が遅すぎる場合、多孔質炭素シートの生産性が低下する。早すぎる場合には、樹脂組成物の急激な炭化収縮により樹脂炭化物にひび割れが生じたり、多孔質炭素シートにシワが生じたりする。
【0036】
図1は、積層体を示す例である。例えば、図の積層順序により加熱加圧処理して一体化する。
図2は本発明の多孔質炭素シートの製造方法の加熱加圧処理の一態様を示す概略図である。5が、例えば図1に示される積層したフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙であり、これをホットプレス6 により、上熱板7 と下熱板8 間で圧縮して一体化する。この時、4 : スペーサーで厚みを規制することも好ましい。
【0037】
本発明において、多孔質炭素シートとしては、炭素短繊維がシート面内において顕著な配向を持たず概ね無作為な方向に存在しており、炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されているものが好ましい。
【0038】
多孔質炭素シートにおいて、かさ密度を小さくするために単位体積内の樹脂炭化物量を低下させると、樹脂炭化物量の低下により炭素繊維の樹脂炭化物による結着点が減少するため、加圧して圧縮した際の変形量が大きくなる。また、かさ密度を小さくするために、単位体積内の炭素短繊維量を低下させると、炭素短繊維同士の接点が減少することから加圧して圧縮した際の変形量が大きくなる。しかしながら、かさ密度を小さくすることによって、樹脂炭化物による結着点の減少や炭素短繊維同士の接点が減少することから加圧して圧縮した箇所に破壊が起こり永久歪みが大きくなってしまう。本発明において、圧縮箇所の破壊に伴う永久歪みに対応する特性として先に測定法を示した圧縮残留歪みを指標とした。
【0039】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは、該シートの加圧時の圧縮変形率を1 6 〜 3 0 % 、両表面の圧縮残留歪みが3 〜 1 0 μ m の範囲に制御することにより、従来全てを同時に満足することが困難であった燃料電池のガス拡散体として多孔質炭素シートに求められる特性、圧縮変形率が大きいこと、表面の圧縮残留歪みが小さいこと、導電性が高いこと、機械的強度が高いことを全て同時に満足する。
【0040】
加圧時の圧縮変形率が1 6 % 未満であると、固体高分子型燃料電池のガス拡散体として用いたときに、ある一定厚さに設計したシール材の厚さまで圧縮されず、スタックとして全体の大きさに大きなズレが発生したり、ガスシールのためのシール材より厚くなることから十分なシール性を得られず電池としての性能が低下するため好ましくない。圧縮変形率が3 0 % より大きいと、圧縮残留歪みが大きくなってしまったり、機械的強度が低くハンドリング性に問題が出るため好ましくない。
【0041】
前記シートの圧縮変形率は1 6 〜 2 5 % の範囲内に有ることが好ましく、1 6〜 2 0 %の範囲内にあることがさらに好ましい。
両表面の圧縮残留歪みが1 0 μ m よりも大きいと固体高分子型燃料電池のガス拡散体として用いたときに、セパレーターに設けた溝に大きく落ち込んでガス流路を塞ぎ電池としての性能を低下させてしまうため好ましくない。本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは多孔質な材料であり、両表面の圧縮残留歪みを低減できたとしても3 μ m が限界である。
前記シートの両表面の圧縮残留歪みは、3 〜 7 μ m がより好ましく、3 〜 5 μ m がさらに好ましい。
【0042】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは、好適な圧縮変形率と圧縮残留歪みを持つために表面と内部の構造が異なることが好ましい。すなわち、上記のように該多孔質炭素シートの表面のかさ密度を高くすることにより、表面の圧縮残留歪みを低減することで固体高分子型燃料電池のガス拡散体として用いたときのスタック時にガス拡散体がセパレーターに設けた溝に落ち込んでガス流路を塞ぐことによる電池性能低下を防ぐことができる。そして、内部のかさ密度を低くすることにより、該多孔質炭素シート全体の圧縮変形率を大きくし、ガス拡散体としてシール材の厚みまで圧縮されずにスタックとしての大きなズレを防止することができるため好ましい。
【0043】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは表面から5 0 μ m までのかさ密度が0 . 4 0 〜 0 . 6 0 g/ c m 3 の範囲内にあることが好ましく、0 . 4 5 〜 0 . 5 5 g / c m 3 の範囲内にあることがより好ましい。かさ密度が0 . 4 0 g / c m 3 未満であると、多孔質炭素シートの機械的強度、具体的には曲げ強度が低くなり、ハンドリングしにくくなるため好ましくない。また、かさ密度が0 . 6 0 g / c m 3 を越えると、固体高分子型燃料電池のガス拡散体として用い、燃料電池を高い出力密度で運転した場合に精製水の水詰まりによる電池性能低下を引き起こすことがあるため好ましくない。
【0044】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートの表面から5 0 μ m までの厚さのかさ密度D A 、厚み方向中央部2 0 μ m の領域のかさ密度D B としたときに2< D A / D B < 6 であることが好ましく、2 < D A / D B < 4 であることがより好ましく、2 < D A / D B < 2.5 であることがさらに好ましい。D A / D B が6 を越えると厚み方向中央部2 0 μ m の領域のかさ密度であるD B が小さくなりすぎてしまい、導電性の低下を引き起こすため好ましくない。また、本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートはD A が厚み方向中央部2 0 μ m の領域のかさ密度DB より高いことが好ましいことからD A / D B が1 未満となることは無い。
【0045】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは厚さ方向の電気抵抗値が1 〜 8 Ω c m の範囲内にあることが好ましい。電気抵抗値が8 Ω c m 以下であると、燃料電池としたときのガス拡散体自体の抵抗によるオーム損による電池性能低下を抑制することができる。厚さ方向の電気抵抗値が小さいほどオーム損を低減できるが、カーボンペーパー、炭素繊維織物、炭素繊維不織布の形態をとる限り1 Ω c m 程度が限界となる。
【0046】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは曲げ強度が1 0 〜 1 0 0 M P a であることが好ましく、15 〜 8 0 M P a であることがより好ましく、2 0 〜 6 0 M P a であることがさらに好ましい。曲げ強度が1 0 M P a 未満であると、該多孔質炭素シート搬送時や取り扱い時に割れたり欠けたりするためハンドリング性に問題が生じ好ましくない。また、曲げ強度が1 00 M P a 以上であると、該多孔質炭素シートの剛性が高くなりすぎてしまい、ロール状で取り扱う場合は大きな径の紙管にしか巻くことが出来なくなってしまい、非常に大スペースを必要とするため扱いにくく好ましくない。
【0047】
一般的に、多孔質炭素シートを基材としたガス拡散体は、それらを、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜に接合することで膜− 電極接合体を構成している。また、その膜− 電極接合体の両側にシール材を介して反応に必要なガス流路となる溝を設けたセパレーターで挟んだ物を複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成している。したがって、ガス拡散体がセパレーターに接する面はそれぞれ片面だけであり、上述の溝への落ち込みを防ぐためには片側表面の圧縮残留歪みが小さければ良い。しかしながら、一方の面のかさ密度が高く、他方の面のかさ密度が低い多孔質炭素シートは両表面のかさ密度が異なることから、後述する製造工程の炭化工程において、両表面の収縮率の違いから反りが発生しやすいという問題があるため好ましくない。また、同様の理由で該多孔質炭素シートは厚さ方向の真中を中心として対称構造を取らないと、そりが発生しやすい。
【0048】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートは厚さが1 2 0 〜 4 0 0 μ m の範囲内にあることが好ましく、1 3 0 〜 3 0 0 μ m の範囲内にあることがより好ましく、1 4 0 〜 2 2 0 μ m の範囲内にあることがさらに好ましい。厚さが1 2 0 μ m 未満では、十分な機械的強度が得られないため好ましくない。また、厚さが4 0 0 μ m を越えると、多孔質炭素シートの柔軟性が大きく低下し、後述するロールへの巻き取りが難しくなる。
【0049】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートの少なくとも一部は上記の炭素短繊維紙の形態であることが好ましい。すなわち、分散している炭素短繊維と樹脂炭化物を含み、該炭素短繊維の少なくとも一部は、前記樹脂炭化物で結着されてなる構造であることが好ましい。該炭素短繊維紙は、多孔質炭素シートの製造方法の加熱加圧処理において、複数枚積層されて圧縮し、接着することになるため、フェノール樹脂組成物を含むことが望ましく、炭化工程後も樹脂炭化物となって炭素繊維を結着することが好ましい。
【0050】
多孔質炭素シートに関する各種特性値の測定方法は、次の通りである。
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートの加圧時の圧縮変形率と両表面の圧縮残留歪みは、測定子の断面が直径5 m m の円形であるマイクロメーターを用いて、該シートの厚さ方向に0 . 3 3 M P aの面圧を付与したときの厚さをd 1 とし、その後該シートの厚さ方向に1 . 6 M P a の面圧付与および開放を2 回繰り返してから0 . 3 3 M P a の面圧を付与したときの厚さをd2 とし、その1 . 6 M P a の面圧を付与したときの厚さをd 3 として、次の(I)、(II) 式より求めることが出来る。測定回数は3 回とし、その平均値から算出する。圧縮残留歪みは多孔質炭素シートの両表面それぞれから測定を行う。
圧縮残留歪み= d 1 − d 2 (I) 式
圧縮変形率= ( d 2 − d 3 ) / d 2 (II) 式
【0051】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートの電気抵抗の測定は、金メッキしたステンレスブロックに電流用と電圧用の端子を設けたものを2 個用意する。金メッキステンレスブロック2 個の間に2 0 mm × 2 5 m m に切った多孔質炭素板を挟みサンプルに1 M P a の圧力がかかるよう加圧する。このとき電圧用端子はサンプルを挟んだ面の近くに、電流用端子はサンプルを挟んだ面の反対側の面の近くに来るようにする。電流用端子間に1 A を流し、電圧用端子間で電圧V ( V ) を測定して次の(III) 式により抵抗値を算出する。
電気抵抗( m Ω ・c m 2 ) = V × 2 × 2 . 5 × 1 0 0 0 (III) 式
【0052】
本発明の製造方法で得られる多孔質炭素シートの曲げ強さはJ I S K 6 9 1 1 に準拠した3 点曲げ試験で測定する。ただし、試験片の幅( W ) は1 5 m m 、支点間距離( L v ) は1 5 m m とする。また、支点と加圧くさびのR は3 m m 、荷重速度は2 m m /m i n とする。測定回数は5 回とし、その平均値から算出する。
【0053】
多孔質炭素シートの厚さは、上述のマイクロメーターを用いて、該シートの厚さ方向に0 . 1 5 M P a の面圧を付与して測定する。測定点は1 . 5 c m 間隔の格子状で測定回数は2 0 回以上とし、その平均値を厚さとする。
【0054】
多孔質炭素シートの目付( 単位面積当たりの重さ) は、1 0 c m × 1 0 c m 角の
多孔質炭素シートの重さを1 0 回測定し、その平均値から算出する。
多孔質炭素シートのかさ密度D T は、上述した多孔質炭素シートの厚さと目付から算出する。
両表面から5 0 μ m までのかさ密度D A 、厚み方向中央部2 0 μ m の領域のかさ密度DB の測定方法は、まず厚さT T 、かさ密度D T の多孔質炭素シートの両表面から一定厚さT A ( 5 0 〜 6 0 μ m ) ずつ削りとり、削り取った残りの多孔質炭素シートの厚さ、目付より厚み方向中央部2 0 μ m の領域のかさ密度D B を算出する。これらより、次の(IV)式によりD A を算出する。
両表面のかさ密度D A ( g / c m 3 ) =
( T T D T − ( T T − 2 T A ) D B ) / 2 T A (IV) 式
【実施例】
【0055】
(実施例1)
平均繊維長3mmにカットしたポリアクリロニトリル系炭素繊維(商品名:「パイロフィル TR50S」、三菱レイヨン株式会社製(平均単繊維径:7μm))、ポリビニルアルコール(PVA)短繊維(商品名:「VBP105−1」、クラレ株式会社製(繊維長3mm))を用意した。
炭素繊維を水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの1 0 重量% 水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素短繊維の目付が約20 g / m の長尺の炭素短繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素短繊維紙100 重量部に対して2 0重量部に相当する。
【0056】
次に、フェノール樹脂組成物(商品名:「フェノライトJ−325」、DIC(株)社製)のメタノール溶液(フェノール樹脂:23質量%)を用意した。炭素短繊維紙にフェノール樹脂組成物を連続的に含浸し、炭素短繊維紙100重量部に対しフェノール樹脂組成物150重量部付着させた。その後、9 0 ℃ で3 分間乾燥することによりフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙を得てロール状に巻き取った。
【0057】
プレス機に熱板7 , 8 が互いに平行となるようセットした。熱板8 上にスペーサー9 をフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の横に2 枚配置した。この際熱板の有効加圧長L P は1 2 0 0 m m で、スペーサーの長さL S は1 2 0 0 m m とした。フェノール樹脂を含浸した炭素短繊維紙の幅W P は6 0 0 m m で、スペーサーの幅は1 0 0 m m とした。フェノール樹脂組成物を含浸した2枚の炭素短繊維紙を含浸量の多い面が外面になるように重ねた後、40g/m2のエポキシ樹脂組成物(商品名:「#830」、三菱レイヨン(株)社製)で片面を塗工した2枚の離型紙(商品名:「WBE90R」、リンテック(株)社製)でフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙積層体側に塗工面が向かうように挟み込み、熱板温度160℃ 、面圧0 . 8 M P a で、プレスの開閉を繰り返しながら6 0 0 m m の幅の炭素短繊維紙積層体と離型紙を共に間欠的に搬送しつつ、同じ箇所がのべ6 分間加熱加圧されるよう処理した。この際、熱板の有効加圧長L P は1 2 0 0 m m で、間欠的に搬送する際の前駆体繊維シートの送り量L F を1 0 0 m m とした。すなわち、3 0 秒の加熱加圧、型開き、炭素短繊維紙積層体と離型紙の送り( 1 0 0 mm ) 、を繰り返すことによって処理を行い、離型紙を取り除いて、6 0 0 m m の幅で樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体をロール状に巻き取った。
【0058】
加熱加圧処理をした上記樹脂硬化した炭素短繊維紙の積層体を、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2 ,0 0 0 ℃ の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約5 0 0 ℃ / 分( 6 50 ℃ までは4 0 0 ℃ / 分、6 5 0 ℃ を超える温度では5 5 0 ℃ / 分) の昇温速度で焼成し、ロール状に巻き取った。得られた多孔質炭素シートの長さは1 0 0 m であった。得られた多孔質炭素シートの評価結果を以下の表1に示す。
【0059】
(実施例2)
塗工したエポキシ樹脂組成物の目付を57g/m2にした以外は、実施例1と同様の方法で多孔質炭素シートを得た。得られた多孔質炭素シートの評価結果を以下の表1に示す。
【0060】
(比較例1)
平均繊維長3mmにカットしたポリアクリロニトリル系炭素繊維(商品名:「パイロフィル TR50S」、三菱レイヨン株式会社製(平均単繊維径:7μm))、ポリビニルアルコール(PVA)短繊維(商品名:「VBP105−1」、クラレ株式会社製(繊維長3mm))を用意した。炭素繊維を水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの1 0 重量% 水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素短繊維の目付が約1 3 g / m 2 の長尺の炭素短繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素短繊維紙1 0 0 重量部に対して2 0重量部に相当する。
【0061】
次に、フェノール樹脂組成物商品名:「フェノライトJ−325」、DIC(株)社製)のメタノール溶液を用意した。炭素短繊維紙に連続的に含浸し、炭素短繊維紙100重量部に対しフェノール樹脂組成物90重量部付着させた。その後、9 0 ℃ で3 分間乾燥することによりかさ密度の低い炭素短繊維紙を得てロール状に巻き取った。また、炭素短繊維紙1 0 0 重量部に対してフェノール樹脂組成物が2 0 0重量部になるように含浸したかさ密度の高い炭素短繊維紙についてもロール状に巻き取った。
【0062】
前記かさ密度の低い炭素短繊維紙1 枚を前記かさ密度の高い炭素短繊維紙2 枚で挟み込み、さらに炭素短繊維紙の積層体をエポキシ樹脂組成物が塗工されていない離型紙で挟んだ。また、熱板温度を180℃とした以外は、実施例1と同様の方法で加熱加圧処理を行い、6 0 0 m m の幅でロール状に巻き取った。加熱加圧処理をした上記炭素短繊維紙を、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2 ,0 0 0 ℃ の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約5 0 0 ℃ / 分( 6 50 ℃ までは4 0 0 ℃ / 分、6 5 0 ℃ を超える温度では5 5 0 ℃ / 分) の昇温速度で焼成し、ロール状に巻き取った。得られた多孔質炭素シートの長さは1 0 0 m であった。得られた多孔質炭素シート基材の評価結果を以下の表1に示す。
【0063】
(比較例2 )
抄造における炭素短繊維の目付が2 0 g / m 2 の炭素短繊維紙1 0 0 重量部に対してフェノール樹脂組成物が9 0 重量部になるように含浸した炭素短繊維紙をかさ密度の低い炭素短繊維紙とした以外は実施例1 と同様にして多孔質炭素シートを得た。得られた多孔質炭素シート基材の評価結果を以下の表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
上記実施例1の多孔質炭素シートは、両表面のかさ密度が内部のかさ密度よりも高くなるように圧縮工程で積層されて製造されているため、圧縮変形率が16 〜 3 0 %、両表面の圧縮残留歪みが3 〜 1 0 μ m の適切な範囲に制御されている。したがって、実施例1 および2 の多孔質炭素シートは、圧縮変形率、両表面の圧縮残留歪みに優れ、厚さ方向の電気抵抗、曲げ強度いずれの評価結果においても十分な値を示しており、燃料電池のガス拡散体の材料として多孔質炭素シートに求められる特性を全て同時に満足している。
【0066】
一方、比較例1および2 は嵩密度が異なる炭素短繊維紙を積層し加熱加圧処理して製造されているが、熱硬化性樹脂が加熱により樹脂の多い層から少ない層に移動するため、表層と中央部で樹脂量に大きな差が見られない。そのため、圧縮変形率が低くなってしまう。
【0067】
以上のように、本発明の多孔質炭素シートの製造方法によれば、燃料電池のガス拡散体の材料として多孔質炭素シートに求められる特性、具体的には、圧縮変形率が高いこと、両表面の圧縮残留歪みが小さいこと、導電性が高いこと、機械的特性が高いことを全て同時に満足する多孔質炭素シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明における積層体を示す例である。
【図2】本発明の多孔質炭素シートの製造工程の加熱加圧工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
1: 塗工したエポキシ樹脂組成物
2: フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙
3:炭素短繊維紙
4 : スペーサー
5 : エポキシ樹脂組成物を塗工した炭素短繊維紙積層体
6 : ホットプレス
7 : 上熱板
8 : 下熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙の表面に、エポキシ樹脂組成物を塗工し、加熱加圧処理して両樹脂組成物を硬化した後、炭素化処理する多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項2】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙として、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙を2枚積層した積層体を用いる、請求項1記載の多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項3】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙として、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙をフェノール樹脂組成物の含浸量の多い面を外面にして2枚積層した積層体を用いる、請求項2記載の多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項4】
フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙に替えて、フェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙と炭素短繊維紙とフェノール樹脂組成物を含浸した炭素短繊維紙とを、その順で積層してなる積層体を用いる請求項1記載の多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質炭素シートの製造方法で製造される多孔質炭素シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280437(P2009−280437A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133500(P2008−133500)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】