説明

多孔質膜およびこれを用いた異方性導電膜

【課題】従来よりも生産性に優れ、かつ、異方性導電膜に用いた場合であっても、接着層との密着性に優れたポリアミドイミドからなる多孔質膜を提供すること。また、これを用いた異方性導電膜を提供すること。
【解決手段】ポリアミドイミドと、両親媒性物質と、疎水性および揮発性を有する有機溶媒とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより多孔質膜を形成するにあたり、ポリアミドイミドとして、酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むものを用いる。疎水性部位は、環式炭化水素基であることが好ましく、ポリアミドイミドにはポリエステルが共重合されていても良い。この多孔質膜の孔部内に導電性物質を充填し、膜の両面に接着層を被覆して異方性導電膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜およびこれを用いた異方性導電膜に関し、さらに詳しくは、ポリアミドイミドより形成された多孔質膜およびこれを用いた異方性導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な孔部を有する高分子製の多孔質膜が種々の用途に使用されている。例えば、電子部品関連などでは、膜厚方向に導電性を示し、かつ、膜面方向に絶縁性を示す異方性導電膜(Anisotropic Conductive Film:ACF)の基膜材料などに使用されている。
【0003】
多孔質膜の製法としては、例えば、所望の高分子を疎水性溶媒に溶解し、これを高湿度条件下でキャストする方法が近年注目されている(例えば、非特許文献1参照)。この方法によれば、高分子溶液表面に結露した水滴群が自己組織化的に規則配列し、この水滴を鋳型とすることにより、ハニカム状に配列した微細な孔部を有する多孔質膜を簡便に得ることができる。
【0004】
ところで、異方性導電膜などの電子部品に多孔質膜を適用する場合、一般に、耐熱性が要求されることが多い。耐熱性に優れた高分子としては、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが知られているが、これらは疎水性溶媒に不溶ないし難溶である。
【0005】
そのため、その原理的に、疎水性溶媒に可溶な高分子しか用いることができない上記多孔質膜の製法では、ポリイミド、ポリアミドイミドをそのまま用いることが難しい。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、上記多孔質膜の製法を利用してポリイミドからなる多孔質膜を得るにあたり、一旦、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸と脂質とのポリイオン性錯体溶液を調製し、これを経由してポリアミック酸からなる多孔質膜を作製した後、これをイミド化処理する手法を採用している。
【0007】
また、本件出願人は、以前、上記多孔質膜の製法を利用してポリアミドイミドからなる多孔質膜を得るにあたり、ポリアミドイミドをシロキサン変性することにより、疎水性溶媒に対する溶解性を付与する手法を採用した。そして、得られたシロキサン変性ポリアミドイミドよりなる多孔質膜の孔部に導電性物質を充填し、接着層を被覆してなる異方性導電膜を開発し、既に特許出願も行っている(特許文献2参照)。
【0008】
【非特許文献1】下村政嗣,「高分子材料の自己組織化によるナノ・メゾホール構造の形成と機能化」,機能材料,株式会社シーエムシー出版,2003年10月,vol.23,No.10,p.18−p.26
【特許文献1】特開2003−80538号
【特許文献2】PCT/JP2005/006584
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の手法に準じて、ポリアミドイミドからなる多孔質膜を製造しようとする場合、高分子溶液を調製する際に何度も溶媒置換を行ったり、得られた膜に対してイミド化処理を行ったりするなど、製造工程が多く煩雑であった。そのため、多孔質膜の生産性に劣るなどの問題があった。
【0010】
一方、シロキサン変性ポリアミドイミドを用いた場合、特許文献1に準じた手法に比較すれば、生産性に優れている。
【0011】
ところが、シロキサン変性ポリアミドイミドよりなる多孔質膜を用いて異方性導電膜を製造すると、以下のような問題が生じることが最近になって分かってきた。
【0012】
すなわち、上記の場合、ポリアミドイミドに対して導入できるシロキサン量に限界がある。そのため、疎水性溶媒に対する可溶性を高めるにも限界ある。さらに、疎水性溶媒に対する可溶性を一層高めようとして、シロキサン導入量を多くし過ぎると、多孔質膜と接着層との密着力が低下し、ふくれや剥離などが生じやすくなる。このように、この手法に頼り過ぎるのも難しい場合があることが判明した。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来よりも生産性に優れ、かつ、異方性導電膜に用いた場合であっても、接着層との密着性に優れたポリアミドイミドからなる多孔質膜を提供することにある。また、これを用いた異方性導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る多孔質膜は、酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むポリアミドイミドより形成されてなることを要旨とする。
【0015】
また、本発明に係る多孔質膜は、酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むポリアミドイミドと、両親媒性物質と、疎水性および揮発性を有する有機溶媒とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうることを要旨とする。
【0016】
ここで、上記疎水性部位は、環式炭化水素基であると良い。
【0017】
また、上記ポリアミドイミドには、ポリエステルが共重合されていると良い。
【0018】
また、上記多孔質膜は、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている孔形態を有していると良い。
【0019】
一方、本発明に係る異方性導電膜は、上記多孔質膜と、この多孔質膜の孔部内に充填された導電性物質と、多孔質膜の両面に被覆された接着層とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る多孔質膜を形成するポリアミドイミドは、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含んでいるので、疎水性溶媒に溶解する。
【0021】
そのため、本発明に係る多孔質膜は、自己組織化現象を利用した多孔質膜の製法を用いる際に、従来のように溶媒置換を行ったり、イミド化処理を行ったりするなどの工程を経る必要がない。そのため、従来よりも簡単かつ少ない工程で製造することができ、生産性に優れる。
【0022】
また、本発明に係る多孔質膜を異方性導電膜の基膜材料に用いた場合、シロキサン変性ポリアミドイミドより形成された多孔質膜を用いた場合に比較して、膜と接着層との密着性に優れる。そのため、ふくれや剥離などが生じ難い。
【0023】
この際、上記疎水性部位が環式炭化水素基である場合には、上記作用効果に優れる。また、上記ポリアミドイミドにポリエステルが共重合されている場合には、耐熱性が一層向上する。
【0024】
一方、本発明に係る異方性導電膜は、上記ポリアミドイミドより形成された多孔質膜を用いているので、生産性、膜と接着層との密着性に優れ、耐熱性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本実施形態に係る多孔質膜(以下、「本多孔質膜」ということがある。)、これを用いた本実施形態に係る異方性導電膜(以下、「本ACF」ということがある。)について詳細に説明する。
【0026】
1.本多孔質膜
本多孔質膜は、酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むポリアミドイミドより形成されている。
【0027】
上記ポリアミドイミドにおいて、酸成分としては、具体的には、例えば、酸無水物、多価カルボン酸、酸クロリドなどを例示することができ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0028】
酸無水物としては、具体的には、例えば、トリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、1,4ブタンジオールビスアンヒドロトリメリテート、ヘキサメチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリプロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなどのアルキレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’ビフェニルテトラカルボン酸無水物、4,4’オキシジフタル酸無水物などを例示することができ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0029】
多価カルボン酸としては、具体的には、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’ビフェニルジカルボン酸、4,4’ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’ベンゾフェノンジカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、3,3’,4,4’ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’ビフェニルテトラカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、フマル酸、ダイマー酸、スチルベンジカルボン酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸などを例示することができ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0030】
酸クロリドとしては、具体的には、例えば、上記多価カルボン酸の酸クロリドなどを例示することができ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0031】
これらのうち、酸成分としては、耐熱性、溶剤溶解性などの観点から、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸などを好適なものとして例示することができる。
【0032】
一方、上記ポリアミドイミドにおいて、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分は、主として、ポリアミドイミドに疎水性を付与し、疎水性溶媒に可溶化させるための成分として機能する。
【0033】
ここで、疎水性部位としては、具体的には、例えば、環式炭化水素基、とりわけ、耐熱性に優れる環式炭化水素基などを好適なものとして例示することができる。
【0034】
疎水性部位が環式炭化水素基である場合、環式炭化水素基を有するジイソシアネートは、脂環式炭化水素基を有するジイソシアネート、芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートの何れか一方であっても良いし、双方の組み合わせであっても良い。同様に、環式炭化水素基を有するジアミンは、脂環式炭化水素基を有するジアミン、芳香族炭化水素基を有するジアミンの何れか一方であっても良いし、双方の組み合わせであっても良い。
【0035】
好ましくは、疎水性溶媒に対する溶解性の観点から、脂環式炭化水素基を有するジイソシアネートまたは脂環式炭化水素基を有するジアミンをそれぞれ単独で用いる、あるいは、主に用いると良い。
【0036】
脂環式炭化水素基を有するジイソシアネートとしては、具体的には、例えば、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’ジイソシアネート、1,3ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0037】
芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートとしては、具体的には、例えば、2,4トリレンジイソシアネート、2,6トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’ジエチルジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、3,3’ジクロロジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、4,4’ジイソシアネート3,3’ジメチルビフェニル、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネートなどを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0038】
これらのうち、疎水性溶媒に対する溶解性、耐熱性などの観点から、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、2,4トリレンジイソシアネートなどを好適なものとして例示することができる。
【0039】
また、脂環式炭化水素基を有するジアミンとしては、具体的には、例えば、イソホロンジアミン、4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3シクロヘキサンビス(メチルアミン)などを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0040】
芳香族炭化水素基を有するジアミンとしては、具体的には、例えば、オルトクロロパラフェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’ジアミノジフェニルエーテル、3,4ジアミノジフェニルエーテル、4,4’ジアミノジフェニルメタン、3,4ジアミノジフェニルメタン、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,4’ジアミノジフェニルスルホン、4,4’ジアミノベンゾフェノン、3,4’ジアミノベンゾフェノン、2,2’ビス(アミノフェニル)プロパン、2,4トリレンジアミン、2,6トリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミンなどを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0041】
これらのうち、疎水性溶媒に対する溶解性、耐熱性などの観点から、イソホロンジアミン、4,4’ジアミノジフェニルメタン、2,4トリレンジアミンなどを好適なものとして例示することができる。
【0042】
また、耐熱性に悪影響を及ぼさない範囲内で、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートを含んでいても良い。具体的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸としては、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)などが挙げられ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0043】
上記ポリアミドイミドにおいて、酸成分の割合と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分の割合とは、特に限定されるものではない。もっとも、前者が過度に多く、後者が過度に少なくなると、疎水性溶媒に対する溶解性が低下し、自己組織化を利用した多孔質膜の製法を用いた場合に、優れた孔形態が得られ難くなるなどの傾向が見られる。一方、前者が過度に少なく、後者が過度に多くなると、多孔質膜の耐熱性が低下するなどの傾向が見られる。したがって、両者の割合の選択は、これらに留意すると良い。
【0044】
例えば、酸成分の割合は、好ましくは、20〜80モル%、より好ましくは30〜75モル%、最も好ましくは、40〜60モル%の範囲にあると良い。一方、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分の割合は、好ましくは、80〜20モル%、より好ましくは70〜25モル%、最も好ましくは、60〜40モル%の範囲にあると良い。
【0045】
これら範囲内にあれば、疎水性溶媒に対する可溶性、耐熱性などのバランスに優れるからである。
【0046】
また、上記ポリアミドイミドには、多孔質膜の耐熱性を向上させるなどの目的で、アミド結合、イミド結合より極性が低い重合体が共重合されていても良い。この場合、共重合は、ランダムであっても、ブロックであっても良く、特に限定されるものではない。なお、本願では、ポリアミドイミドに他の重合体が共重合されたものも、ポリアミドイミドの概念に含まれる。
【0047】
上記他の重合体としては、具体的には、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリアミド、ポリウレタンなどを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0048】
これらのうち、多孔質膜の耐熱性を向上させやすい観点から、ポリエステルなどを好適なものとして例示することができる。
【0049】
ポリエステルとしては、具体的には、例えば、ポリカプロラクトン、ジカルボン酸とジオールとから重合されたものなどを例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0050】
上記ジカルボン酸としては、具体的には、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6ナフタレンジカルボン酸、4,4’ビフェニルジカルボン酸、4,4’ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ベンゾフェノンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、ダイマー酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0051】
一方、上記ジオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、1,9ノナンジオール、1,10デカンジオール、1,2シクロヘキサンジメタノール、1,3シクロヘキサンジメタノール、1,4シクロヘキサンジメタノール、テトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのアルキレングリコールなどを例示することができ、これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0052】
ポリアミドイミドに他の重合体を任意で共重合させる場合、他の重合体の割合は、好ましくは、70重量%以下、より好ましくは、55重量%以下、最も好ましくは、30重量%以下であると良い。
【0053】
この場合、ポリアミドイミド中の酸成分の割合は、好ましくは、30〜98モル%、より好ましくは40〜95モル%、最も好ましくは、55〜85モル%の範囲にあると良い。一方、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分の割合は、好ましくは、70〜2モル%、より好ましくは60〜5モル%、最も好ましくは、45〜15モル%の範囲にあると良い。
【0054】
これら範囲内にあれば、疎水性溶媒に対する可溶性、耐熱性などのバランスに優れるからである。
【0055】
なお、他にも、上記ポリアミドイミド中に、疎水性溶媒に対する溶解性などを損なわない範囲内で、エポキシプレポリマー、硬化剤、増感剤などの添加剤が添加されていても良い。これらが添加されている場合には、膜の構造が崩れない条件で本多孔質膜を熱硬化、光硬化させることができるので、膜強度などを向上させることが可能となる。
【0056】
上記ポリアミドイミドの重合は、例えば、上記酸成分と、上記ジイソシアネート(ジアミン)成分とから、イソシアネート法または酸クロリド法などの方法を用い、任意に触媒を存在させ、アミド系溶剤などの極性溶剤中で行えば良い。なお、ポリアミドイミドに他の重合体を共重合させる場合には、溶液重合法、溶融重合法、これらを組み合わせた方法などを用いることができる。例えば、ポリアミドイミドを溶液重合した溶液に、予め溶融重合した他の重合体を加えて重合する方法などを例示することができる。
【0057】
本多孔質膜において、孔形態(孔部の立体的形状、孔部が膜厚方向に貫通するか否か、孔の配列など)、孔径の大きさ、膜厚などは特に限定されるものではなく、用途に合わせて適宜調節することができる。
【0058】
例えば、本多孔質膜を異方性導電膜の基膜材料として用いる場合、本多孔質膜の孔形態としては、膜厚方向に貫通する多数の孔部を有し、これら孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲された孔形態などを好適なものとして例示することができる。
【0059】
上記孔形態の一例につき、図を用いてより具体的に説明する。図1(a)に示すように、この多孔質膜10は、膜厚方向に貫通した多数の孔部12を有している。また、これら孔部12の内壁面14は、外側方向に向かって略球面状に湾曲されている。また、図1(b)に示すように、これら孔部12は、ハニカム状に配列されており、隣接する各孔部12同士は、隔壁16により離間されている。また、隔壁16は、隣接する各孔部12の内壁面14同士が最も隣接する付近に、肉厚の薄いくびれ部16aを有している。
【0060】
この場合、孔部の径および間隔については、被接続物(例えば、ICチップ、フレキシブルプリント配線板:FPCなど)が有する複数の導体(例えば、突起電極、配線パターンなど)の幅や間隔などを考慮して決定すれば良い。
【0061】
もっとも、膜面方向の絶縁性を確実なものとし、高い接続信頼性を得るなどの観点から、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものよりも小さく、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものよりも小さいことが望ましい。
【0062】
好ましくは、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものの1/2以下、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものの1/2以下とするのが良い。
【0063】
なお、図1(b)に示すように、孔部の径とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分の直径Rを測定して平均した値をいう。一方、孔部の間隔とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分と隣接する孔部の開口部分との間の距離Lを測定して平均した値をいう。また、上記直径Rおよび距離Lは、多孔質膜表面の電子顕微鏡写真、光学顕微鏡写真などにより測定することができる。
【0064】
また、膜厚については、異方性導電膜の機械的強度、耐電圧性などを考慮して決定すれば良い。一般的には、好ましい上限値として100μm、50μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、1μm、5μmなどを例示することができる。
【0065】
このようなハニカム構造を有し、上記ポリアミドイミドよりなる多孔質膜を製造するには、上記ポリアミドイミドと、両親媒性物質と、疎水性および揮発性を有する有機溶媒とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を高湿度雰囲気下に存在させる手法などによると良い。この手法を用いた場合、概ね以下の原理によって上記孔形態を有する多孔質膜が自発的に形成される。
【0066】
すなわち、支持基板上に、所定濃度、所定塗布厚でキャストされた高分子溶液は、有機溶媒が蒸発する際に潜熱を奪われる。そのため、温度が下がった高分子溶液の表面には、雰囲気中の水蒸気が凝結して形成された微小な水滴群が付着する。付着した水滴群は、潜熱によって高分子溶液内に生じた対流やキャピラリーフォースなどにより輸送、集積され、最終的には最密充填される。その後、水滴群が蒸発すると、水滴群を鋳型として、ハニカム状に配列された多数の孔部を有する多孔質膜が形成される。
【0067】
上記高分子溶液において、ポリアミドイミドは、上述したものが挙げられ、これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0068】
上記高分子溶液において、両親媒性物質とは、いわゆる、界面活性剤のことであり、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った化合物をいう。この両親媒性物質は、主として、高分子溶液の表面上に付着する水滴群を安定化させるなどの目的で添加される。
【0069】
このような両親媒性物質としては、具体的には、例えば、親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてラクトース基もしくはカルボキシル基を併せもつポリマー、または、ヘパリンやデキストラン硫酸などのアニオン性多糖と4級の長鎖アルキルアンモニウム塩とのポリイオン性錯体などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0070】
上記高分子溶液において、疎水性および揮発性を有する有機溶媒としては、具体的には、例えば、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン(MEK)、アセトンなどのケトン類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0071】
この際、上記高分子溶液に含まれるポリアミドイミドの濃度としては、好ましい上限値として50重量%、10重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、0.05重量%、0.1重量%などを例示することができる。
【0072】
また、上記高分子溶液に含まれる両親媒性物質の割合としては、上記ポリアミドイミドに対し、好ましい上限値として20重量%、10重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として0.01重量%、0.05重量%などを例示することができる。
【0073】
また、上記高分子溶液をキャストする支持基板の材料としては、具体的には、例えば、ガラス、金属、シリコンウェハーなどの無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などの高分子材料、水、流動パラフィンなどを例示することができる。
【0074】
また、上記高分子溶液を支持基板上にキャストする際の塗布厚としては、好ましい上限値として3500μm、2000μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値として50μm、150μmなどを例示することができる。
【0075】
また、上記高分子溶液をキャストした支持基板は、相対湿度50%〜95%の高湿度雰囲気下に存在させることが望ましい。相対湿度が50%未満では、結露が不十分となる傾向が見られ、95%を越えると、環境の制御が難しくなる傾向が見られるからである。
【0076】
この手法では、高湿度雰囲気中で高分子溶液を支持基板上にキャストしても良いし、予め高分子溶液をキャストした支持基板を高湿度雰囲気下に置いても良い。また、高湿度に加湿された気体を高分子溶液に吹きつけるなどしても良い。なお、上記雰囲気中の気体、吹きつけ用の気体は、特に限定されるものではない。これら気体としては、具体的には、例えば、空気、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス、これらの混合ガスなどを例示することができる。好適には、コスト的に有利な空気を用いると良い。
【0077】
また、有機溶媒の蒸発や、水滴群の蒸発を促進させるため、多孔質膜の形成中に、膜形成に影響を及ぼさない範囲内で加熱、乾燥などを行っても良い。
【0078】
また、このようにして得られた本多孔質膜を、さらに、ポリアミドイミドのガラス転移温度近傍まで加熱しても良い。
【0079】
上述した原理によれば、隣接する各孔部同士の間に位置する隔壁は、隣接する水滴同士の隙間に入り込んだ高分子溶液により形成される。そのため、水滴と水滴とが最も近接するくびれ部付近では、特に、隔壁が薄くなる傾向が見られる。
【0080】
ところが、膜形成後に、さらにポリアミドイミドのガラス転移温度近傍まで加熱した場合には、肉厚の薄いくびれ部がいち早く軟化・溶融し、くびれ部が太くなったり、くびれ部に存在することがある連通孔が潰されたりする。
【0081】
これにより、隣接する各孔部間の独立性が増大し、孔部の独立性に優れた多孔質膜とすることができる。そのため、これを例えば、異方性導電膜に用いた場合には、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性を向上させることができる。
【0082】
また、上記加熱にあたり、さらに、膜厚方向に任意に加圧を行っても良い。
【0083】
上述した原理によれば、高分子溶液の表面上に結露した水滴は、浮島状に密集する。そして、この浮島状に密集した水滴群が輸送、集積されると、水滴群同士がぶつかり合った境界近辺に、膜厚方向の段差ないし凹凸が生じやすい。ところが、膜形成後、さらに加熱・加圧を行った場合には、膜表面に生じた段差ないし凹凸が均一化される。
【0084】
これにより、表面の平滑性に優れた多孔質膜とすることができる。そのため、これを例えば、異方性導電膜に用いた場合には、孔部内に導電性物質を均一に充填させやすく、得られる異方性導電膜の膜厚方向の導通性を向上させることができる。
【0085】
2.本ACF
図2に例示するように、本ACF20は、上述した本多孔質膜10と、その孔部12内に充填された導電性物質22と、膜10の両面に被覆された接着層24とを備えている。
【0086】
ここで、上記導電性物質は、微小な孔部内へ均一に充填されやすく、膜厚方向の導通に優れるなどの観点から、導電性粒子の群より構成されていると良い。この場合、導電性粒子の平均径は、孔部の孔径などに応じて決定すれば良い。導電性粒子の平均径としては、概ね1μm程度以下を例示することができる。
【0087】
導電性粒子としては、具体的には、例えば、金属粒子、樹脂めっき粒子、カーボン粒子などを例示することができる。これらは、1種または2種以上混合されていても良い。
【0088】
これら導電性粒子のうちでは、金属粒子を好適に用いることができる。電気抵抗が小さく、また、粒子の小径化により、金属の融点が下がるので、低温で熱融着させやすいからである。
【0089】
金属粒子としては、具体的には、例えば、Ag粒子、Au粒子、Pt粒子、Ni粒子、Cu粒子、Pd粒子などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。これらの金属粒子は、電気導電性に優れるので、膜厚方向の導通を得やすい利点がある。これら金属粒子のうち、とりわけ、Ag粒子を好適に用いることができる。
【0090】
導電性粒子が、金属粒子や樹脂めっき粒子など、少なくとも粒子表面が金属からなる場合、孔部内に充填されたこれら粒子の群は、孔部内において、熱融着されて一体化されていると良い。粒子間の隙間が少なくなるとともに接触抵抗が小さくなり、膜厚方向の電気抵抗を小さくすることができるからである。また、加熱により、これら粒子間に存在する有機物質などが取り除かれるので、これによっても膜厚方向の電気抵抗を小さくすることができるからである。
【0091】
なお、本ACFでは、本多孔質膜が有する全ての孔部内に導電性物質が充填されていても良いし、孔部の一部に導電性物質が充填されていない箇所が部分的に存在していても良い。すなわち、被接続物が有する導体と対向する孔部のうち、少なくとも1つ以上の孔部内に導電性物質が充填されていれば良い。
【0092】
上記導電性物質を充填する手法は、導電性物質の種類や性状などを考慮して適宜選択することができる。
【0093】
具体的な導電性物質の充填手法としては、例えば、本多孔質膜を形成するポリアミドイミドが不溶な溶媒中に導電性物質を分散させた分散溶液を用い、(1)この分散溶液中に本多孔質膜を浸漬する方法、(2)本多孔質膜の表面に、上記分散溶液を滴下もしくは塗布する方法、(3)基板上に載置された本多孔質膜表面と一定距離離間させて他の基板を配置し、本多孔質膜と他の基板との隙間に、上記分散溶液を導入し、何れか一方の基板または両基板を膜面方向にスライド移動させる方法などを例示することができる。
【0094】
ここで、上記分散溶液において、溶媒としては、エタノールなどのアルコール系溶媒、水、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0095】
この際、親水性の溶媒を用いる場合には、本多孔質膜の表面に、予め親水処理を施しておくと良い。本多孔質膜と溶媒との濡れ性が改善され、孔部内に分散溶液を浸透させ易くなるので、孔部内に導電性物質が均一に充填され易くなるからである。
【0096】
親水処理としては、具体的には、例えば、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0097】
また、上記分散溶液において、導電性物質の含有量としては、好ましい上限値として30重量%、20重量%、10重量%、5重量%などを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、0.1重量%、0.5重量%、1重量%などを例示することができる。
【0098】
上記導電性物質の充填手法のうち、好ましくは、孔部内に選択的に導電性物質を充填することができるなどの観点から、(3)の手法を好適に用いることができる。以下、この手法について説明する。
【0099】
この充填手法によれば、基板を膜面方向にゆっくり移動させると、溶媒の表面張力により、本多孔質膜の表面では導電性物質が滑っていく。そして、孔部上を分散溶液の界面が通り越すときに、毛管現象による孔部内への分散溶液の浸透と、孔部内での溶媒の蒸発とが繰り返し行われ、孔部内に徐々に導電性物質が充填されていく。これにより、本多孔質膜の孔部内に選択的に導電性物質が充填される。
【0100】
この充填手法において、両基板は、平坦で平滑な面を有しておれば、特に限定されることなく用いることができる。基板の具体的な材質としては、ガラス、セラミックス、金属などの無機材料、ポリマーなどの有機材料、あるいは、これらを複合した複合材料などが挙げられる。
【0101】
また、本多孔質膜の表面と他の基板との間の距離は、隙間に導入される分散溶液の溶媒の表面張力により、分散溶液を保持できる範囲内にあれば良い。
【0102】
一般的には、両者の距離が過度に近すぎると、隙間に導入できる分散溶液の量が少なくなるので、孔部内に充填される導電性物質の量が少なくなる傾向が見られる。一方、両者の距離が過度に遠すぎると、本多孔質膜の表面と基板との間に分散溶液を保持できなくなり、基板をスライド移動させること自体が難くなる傾向が見られる。したがって、本多孔質膜の表面と基板との間の距離は、これらに留意して設定すれば良い。
【0103】
また、この充填手法を用いる場合、上述した分散溶液の溶媒としては、水を好適に用いることができる。表面張力が大きく、導電性物質を膜表面で移動させやすいなどの利点があるからである。
【0104】
また、両基板の移動速度は、基本的には、分散溶液の溶媒の種類、溶媒の表面張力、分散溶液の濃度などを考慮し、孔部内への分散溶液の浸透と孔部内での溶媒の蒸発とがバランス良く生じるように、適宜最適な速度を選択すれば良い。
【0105】
この際、上記移動速度が過度に速くなると、孔部内に充填される導電性物質の量が少なくなったり、導電性物質が不均一に充填される傾向が見られる。一方、上記移動速度が過度に遅くなると、分散溶液中の溶媒が蒸発し、分散溶液の濃度が高くなりすぎて、本多孔質膜の表面に導電性物質が付着する傾向が見られる。したがって、これらに留意して移動速度を選択すると良い。
【0106】
好ましくは、孔部内に導電性物質をより均一に充填できるなどの観点から、移動速度は等速であると良い。移動速度としては、具体的には、例えば、1〜15μm/secなどを例示することができる。
【0107】
また、この充填手法では、孔部内に充填される導電性物質の量などに影響がない範囲で、環境雰囲気の温度を高温にしたり、本多孔質膜を加熱したりするなどして、孔部内へ浸透した分散溶液の溶媒の蒸発を促進させても良い。これらを行った場合には、孔部内への導電性物質の充填が促進されるので、上記移動速度を速くすることができる。そのため、異方性導電膜の生産能力などを種々調節することが可能となる。
【0108】
このようにして孔部内に導電性物質が充填された本多孔質膜の両面には、接着層が被覆される。接着層形成材料としては、被接続物との接着性、絶縁性を有するものであれば、何れのものでもあっても用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグなどを例示することができる。
【0109】
接着層がプリプレグである場合には、被接続物が有する導体間の隙間部分に接着層が流動排除されやすく、また、被接続部との密着性も高まり、高い接続信頼性を確保しやすい。
【0110】
上記熱硬化性樹脂としては、被接続部との密着性に優れるなどの観点から、エポキシ系樹脂を好適に用いることができる。
【0111】
また、接着層の厚さは、被接続物が有する導体の高さ、導体の間隔などを考慮して適宜設定すれば良い。一般に、接着層の厚さが過度に薄すぎると、熱圧着後の機械的強度が低くなる傾向が見られる。一方、接着層の厚さが過度に厚すぎると、熱圧着時に接着層が流動排除されにくくなる傾向が見られる。したがって、接着層の厚さは、これらに留意して選択すると良い。
【0112】
接着層の厚さとしては、好ましい上限値として100μm、50μmなどを例示することができ、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、0.1μm、1μmなどを例示することができる。
【0113】
接着層を被覆する具体的な方法としては、コーターなどの公知の塗布手段を用いて接着層形成材料を塗布する方法や、予め作製しておいた膜状の接着層をラミネートする方法などが挙げられる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0115】
1.実施例に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製
(実施例1に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
酸成分としてトリメリット酸無水物76.6g、脂環式ジイソシアネート成分としてイソホロンジイソシアネート204.5g、触媒としてフッ化カリウム1gを、1,3ジメチル2イミダゾリジノン(極性溶媒)とともに、ポリマー濃度が50重量%となるように反応容器に仕込んだ後(溶媒はN−メチル−2−ピロリドン:NMP)、180℃に昇温して1時間反応させた。
【0116】
次いで、得られたポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量Mw=82000)を冷却しながらポリマー濃度が20重量%になるように希釈し、これを撹拌している水中に投入し沈澱させ乾燥した。
【0117】
これにより、トリメリット酸無水物30molと、イソホロンジイソシアネート70molとを重合成分として含むポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例1用のポリアミドイミドという。
【0118】
(実施例2に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物103.4g、イソホロンジイソシアネート177.7gとした以外は、実施例1用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物40molと、イソホロンジイソシアネート60molとを重合成分として含むポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例2用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=78000であった。
【0119】
(実施例3に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物131.0g、イソホロンジイソシアネート150.1gとした以外は、実施例1用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物50molと、イソホロンジイソシアネート50molとを重合成分として含むポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例3用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=80000であった。
【0120】
(実施例4に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物159.4g、イソホロンジイソシアネート121.7gとした以外は、実施例1用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物60molと、イソホロンジイソシアネート40molとを重合成分として含むポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例4用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=75000であった。
【0121】
(実施例5に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物203.4g、イソホロンジイソシアネート77.7gとした以外は、実施例1用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物60molと、イソホロンジイソシアネート40molとを重合成分として含むポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例5用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=72000であった。
【0122】
(実施例6に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
酸成分としてトリメリット酸無水物87.9g、脂環式ジイソシアネート成分としてイソホロンジイソシアネート117.1g、触媒としてフッ化カリウム1gを、1,3ジメチル2イミダゾリジノン(極性溶媒)とともに、ポリマー濃度が50重量%となるように反応容器に仕込んだ後(溶媒NMP)、180℃に昇温して1時間反応させた。
【0123】
さらに、ポリ−ε−カプロラクトン(重量平均分子量Mw=10000)133.3gを反応容器に加えて3時間反応を続けた。
【0124】
次いで、得られたポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量Mw=48000)を冷却しながらポリマー濃度が20重量%になるように希釈し、これを撹拌している水中に投入し沈澱させ乾燥した。
【0125】
これにより、トリメリット酸無水物53molと、イソホロンジイソシアネート47molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトン(ポリエステルの一種、以下省略)が33重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例6用のポリアミドイミドという。
【0126】
(実施例7に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物96.3g、イソホロンジイソシアネート51.5g、ポリ−ε−カプロラクトン133.3gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物68molと、イソホロンジイソシアネート32molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが54重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例7用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=53000であった。
【0127】
(実施例8に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物116.4g、イソホロンジイソシアネート99.9g、ポリ−ε−カプロラクトン64.8gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物57molと、イソホロンジイソシアネート43molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが28重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例8用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=48000であった。
【0128】
(実施例9に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物125.8g、イソホロンジイソシアネート43.2g、ポリ−ε−カプロラクトン112.0gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物77molと、イソホロンジイソシアネート23molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが47重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例9用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=45000であった。
【0129】
(実施例10に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物144.7g、イソホロンジイソシアネート82.7g、ポリ−ε−カプロラクトン53.8gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物67molと、イソホロンジイソシアネート33molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが24重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例10用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=56000であった。
【0130】
(実施例11に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物154.2g、イソホロンジイソシアネート35.4g、ポリ−ε−カプロラクトン91.5gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物83molと、イソホロンジイソシアネート17molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが39重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例11用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=52000であった。
【0131】
(実施例12に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物172.5g、イソホロンジイソシアネート65.9g、ポリ−ε−カプロラクトン42.7gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物75molと、イソホロンジイソシアネート25molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが19重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例12用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=58000であった。
【0132】
(実施例13に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物181.5g、イソホロンジイソシアネート27.7g、ポリ−ε−カプロラクトン71.8gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物88molと、イソホロンジイソシアネート12molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが24重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例13用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=47000であった。
【0133】
(実施例14に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物213.8g、イソホロンジイソシアネート40.7g、ポリ−ε−カプロラクトン26.6gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物86molと、イソホロンジイソシアネート14molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが12重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例14用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=46000であった。
【0134】
(実施例15に係る多孔質膜用のポリアミドイミドの作製)
トリメリット酸無水物220.5g、イソホロンジイソシアネート17.0g、ポリ−ε−カプロラクトン43.6gとした以外は、実施例6用のポリアミドイミドの製造と同様にして、トリメリット酸無水物94molと、イソホロンジイソシアネート6molとを重合成分として含むポリアミドイミドにポリカプロラクトンが20重量%共重合されたポリアミドイミドを得た。以下、これを実施例15用のポリアミドイミドという。なお、製造途中で得られたポリマー溶液のポリマーの重量平均分子量Mw=42000であった。
【0135】
2.比較例1に係る多孔質膜用のシロキサン変性ポリアミドイミドの作製
トリメリット酸無水物220.5g、ジフェニルメタン・ジイソシアネート17.0g、フッ化カリウム1gを、1,3ジメチル2イミダゾリジノン(極性溶媒)とともに、ポリマー濃度が50重量%となるように反応容器に仕込んだ後(溶媒NMP使用)、180℃に昇温して1時間反応させた。
【0136】
さらに、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン43.6gを反応容器に加えて3時間反応を続けた。
【0137】
次いで、得られたポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量Mw=32000)を冷却しながらポリマー濃度が20重量%になるように希釈し、これを撹拌している水中に投入し沈澱させ乾燥した。これにより、比較例1用のシロキサン変性ポリアミドイミドを得た。
【0138】
3.比較例2に係る多孔質膜用のポリイオン性錯体溶液の作製
3,4’−ジアミノジフェニルエーテル120.2g(0.6mol)、イソフタル酸74.7g(0.45mol)、ピリジン135g(1.71mol)、亜リン酸トリフェニル279g(0.9mol)、塩化リチウム15.3g(0.36mol)、塩化カルシウム44.1g(0.4mol)のN−メチル−2−ピロリドン5リットル混合溶液を100℃で4時間撹拌した。これを放冷後、重合体溶液をメタノール5リットル中に注入し、室温で1時間撹拌し、析出した固形物を濾別後、濾過物をメタノールを用いて洗浄し、乾燥した。
【0139】
次いで、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物656g(2.05mol)のN−メチル−2−ピロリドン5.4リットル溶液に、氷冷下、得られた固形物を添加した。添加後、窒素雰囲気下、氷冷下で1時間、室温で4時間反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
【0140】
このポリアミック酸溶液を酢酸エチルにゆっくりと投入し再沈殿させ、濾過、乾燥処理をしてポリアミック酸粉末を得た。このポリアミック酸100mgをpH8の水に熱をかけて溶解させた。
【0141】
一方、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド 200mgを200mLの水に超音波をかけて分散させた。上記の2液を混合し、温度を室温に戻して一晩撹拌した。この後クロロホルムを加え、分液漏斗でクロロホルム相を分取した。エバポレータでクロロホルムを濃縮し、アセトンで再沈した。遠心分離機で2600rpm,30分遠心分離し、溶媒を乾燥させた。これにより、ポリイオン性錯体溶液を得た。
【0142】
4.実施例および比較例に係る多孔質膜の作製
(実施例1〜15および比較例1に係る多孔質膜の作製)
実施例1用のポリアミドイミドをクロロホルムに0.2重量%の濃度で溶解した液に、両親媒性物質として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸の共重合体を上記ポリアミドイミドに対して10重量%添加し、高分子溶液を調製した。
【0143】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度70%の空気を2L/分の流量で連続的に吹き付けているシャーレ(φ90mm)に塗布膜厚1560μmでキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、ポリアミドイミドよりなる多孔質膜(膜厚4μm)が得られた。以下、これを実施例1に係る多孔質膜という。
【0144】
また、実施例2〜15用のポリアミドイミドを用いた以外は実施例1に係る多孔質膜の作製手順と同様にして、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、それぞれのポリアミドイミドよりなる多孔質膜(各膜厚4μm)を作製した。以下、これらを実施例2〜15に係る多孔質膜という。
【0145】
図3および図4に、得られた多孔質膜の例として、実施例3および実施例5に係る多孔質膜の電子顕微鏡写真を示す。
【0146】
また、比較例1用のシロキサン変性ポリアミドイミドを用いた以外は実施例1に係る多孔質膜の作製手順と同様にして、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、シロキサン変性ポリアミドイミドよりなる多孔質膜(膜厚4μm)を作製した。以下、これを比較例1に係る多孔質膜という。
【0147】
(比較例2に係る多孔質膜の作製)
上記作製したポリイオン性錯体溶液を希釈し、0.2重量%の濃度のクロロホルム溶液を調製した。この溶液を、相対湿度70%の空気を2L/分の流量で連続的に吹き付けているシャーレ(φ90mm)に塗布膜厚1560μmでキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、ポリイオン性錯体よりなる前駆体膜が得られた。この前駆体膜をベンゼン:無水酢酸:ピリジン=3:1:1の溶液中に一晩浸漬し、ポリイオン性錯体をイミド化処理をしてポリアミドイミドよりなる多孔質膜(膜厚4μm)を作製した。なお、脂質は、エタノールでリンスすることによって除去した。
【0148】
5.実施例および比較例に係る異方性導電膜の作製
実施例1に係る多孔質膜を、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体フィルム(以下、「FEPフィルム」という。)上に載置し、多孔質膜の表面に、UV照射器(セン特殊光源(株)製)を用いてUV光(258nm)を10分間照射し、膜表面を親水処理した。
【0149】
次いで、上記FEPフィルム上に固定された多孔質膜と一定距離隔ててガラス基板を配置し、この多孔質膜と他のガラス基板との隙間に、濃度3重量%のAg水分散溶液(日本ペイント製、「ファインスフィアSVW102」、平均粒径50nm)を注入し、多孔質膜と他のガラス基板との隙間にAg水分散溶液を表面張力により保持させた。
【0150】
次いで、ガラス基板を一定速度(5〜10μm/sec)でスライド移動させ、ガラス基板を引き離した。その結果、孔部内にAg粒子が選択的に充填された多孔質膜が得られた。なお、孔部内に充填されたAg粒子は、150℃で3分間加熱することにより熱融着させた。
【0151】
次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、「エピコート1001」)と、NBR(日本ゼオン製、「ニポール1072J」)と、イミダゾール硬化剤(四国化成製、「キュアゾールC11Z」)とを、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:NBR:イミダゾール硬化剤=40:50:5の重量割合で、固形分が30重量%となるようにMEK/THF=50/50の混合溶媒に溶解し、この液を60℃で10分間乾燥させて接着層を作製した。
【0152】
次いで、この接着層を、孔部内にAg粒子が選択的に充填された多孔質膜の表面に、23℃±2℃、1MPaの条件でラミネートした後、多孔質膜の裏面からFEPフィルムを剥離した。次いで、多孔質膜の裏面に、同様の条件で、接着層をラミネートした。これにより、実施例1に係る異方性導電膜を作製した。
【0153】
実施例2〜15に係る多孔質膜、比較例1〜2に係る多孔質膜を用いた以外は、実施例1に係る異方性導電膜の作製手順と同様にして、実施例2〜15に係る異方性導電膜、比較例1〜2に係る異方性導電膜を作製した。
【0154】
6.実施例および比較例に係る多孔質膜、異方性導電膜の評価
実施例および比較例に係る多孔質膜、異方性導電膜の評価は、以下のようにして行った。
【0155】
(多孔質膜を形成するポリマーの耐熱性)
各多孔質膜を形成するポリマーにつき、動的粘弾性測定装置((株)ユービーエム製「Rheogel−E4000F」)を用い、動的粘弾性測定(測定条件:歪み0.1%、周波数15Hz、温度−50℃〜300℃、昇温速度3℃/min)により、ポリマーのガラス転移温度Tgを測定した。ポリマーのガラス転移温度Tgが130℃以上のものを合格「○」と評価し、130℃未満のものを不合格「×」と評価した。また、合格「○」としたもののうち、ポリマーのガラス転移温度Tgが130℃以上〜150℃未満の範囲内であったものを「△」とした。
【0156】
(多孔質膜の孔部の状態)
各多孔質膜表面を光学顕微鏡にて3000倍の倍率で観察し、0.075mm×0.1mmの視野中に、孔崩れが5個未満であった場合を合格「○」と評価し、5個以上あった場合を不合格「×」と評価した。また、合格「○」としたもののうち、孔崩れが相対的に多く見られたものを「△」とした。
【0157】
(多孔質膜の形成工程数)
各多孔質膜の形成工程が相対的に少なく、実生産上許容範囲内であるものを合格「○」と評価し、形成工程が相対的に多く、実生産上許容範囲を越えるものを不合格「×」と評価した。
【0158】
(異方性導電膜の異方導電性)
各異方性導電膜につき、膜厚方向の導通性能および膜面方向の絶縁性能を評価することにより異方導電性の評価を行った。
【0159】
(1)膜厚方向の導通性能の評価
膜厚方向の導通性能の評価は、以下のように行った。すなわち、各異方性導電膜の一方面を、30μmピッチのくし型電極(隣り合う電極が、絶縁基材により互いに絶縁されて配置されているくし状の電極)にそれぞれ仮圧着した。次いで、各異方性導電膜の他方面側に銅板を置き、170℃で20秒間本圧着し、各試料Aを作製した。次いで、各試料Aの導通性能をテスター(AND社製、「AD5522」)で測定した。
【0160】
膜厚方向の抵抗が5Ω以下のものを合格「○」と評価し、5Ωを越えたものを不合格「×」として評価した。
【0161】
(2)膜面方向の絶縁性能の評価
膜面方向の絶縁性能の評価は、以下のように行った。すなわち、各異方性導電膜の一方面を、30μmピッチのくし型電極にそれぞれ仮圧着した。次いで、各異方性導電膜の他方面側にガラス板を置き、170℃で20秒間本圧着し、各試料Bを作製した。次いで、各試料Bの絶縁性能をテスターで測定した。
【0162】
膜面方向の抵抗が10Ω以上のものを合格「○」と評価し、10Ω未満のものを不合格「×」として評価した。また、合格「○」としたもののうち、膜面方向の抵抗が10〜10Ωの範囲内であったものを「△」とした。
【0163】
(異方性導電膜の外観)
各異方性導電膜につき、製造後、23℃±2℃の温度で24時間保存した後、外観を目視で観察した。この際、多孔質膜と接着層との間に、ふくれ・剥離が無かったものを合格「○」と評価し、ふくれ・剥離が見られたものを不合格「×」と評価した。
【0164】
以上の評価結果を表1〜2に示す。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
表1〜2によれば、本発明で規定するポリアミドイミドではなく、シロキサン変性ポリアミドイミドより形成された比較例1に係る多孔質膜を用いた比較例1に係る異方性導電膜は、シロキサン変性に起因して、多孔質膜と接着層との密着性に劣っていることが分かる。
【0168】
また、比較例2に係る多孔質膜は、上述した通り、実施例に係る多孔質膜と比較して、膜形成時に、水からクロロホルムに溶媒置換する工程や、前駆体膜を形成後、イミド化処理する工程を含んでおり、その製造工程数が非常に多く煩雑であった。そのため、比較例2に係る多孔質膜、これを用いた比較例2に係る異方性導電膜は、生産性に劣っていることが分かる。
【0169】
これらに対し、実施例に係る多孔質膜は、疎水性溶媒に可溶な特定のポリアミドイミドを用いているので、疎水性溶媒に可溶な他のポリマーと同様に、自己組織化現象を利用した膜製法を用いても問題なくハニカム構造が得られる。また、その製造工程数も、比較例2に比較して簡単でありかつ少なくて済む。そのため、実施例に係る多孔質膜は生産性に優れていることが分かる。
【0170】
また、実施例に係る多孔質膜は、特定のポリアミドイミドより形成されたものであるが、十分な耐熱性を有していることが分かる。
【0171】
また、実施例に係る多孔質膜を基膜に用いた実施例に係る異方性導電膜は、問題なく異方導電性を発現できることが分かる。さらに、シロキサン変性ポリアミドイミドより形成された比較例1に係る多孔質膜を基膜に用いた場合に比較して、多孔質膜と接着層との密着性に優れ、ふくれや剥離などが生じ難く、信頼性に優れていることが分かる。
【0172】
以上、実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0173】
例えば、上記実施形態、実施例では、多孔質膜の孔部が貫通孔である場合について詳細に例示したが、孔部は、非貫通孔であっても良く、用途に合わせて種々選択することができる。
【0174】
なお、非貫通孔を形成するには、上述した高分子溶液の塗布厚(キャスト量)を厚くする(多くする)、高分子溶液に含まれるポリアミドイミドの濃度を高くする、相対湿度を低くするなど、膜の形成条件を適宜調整することにより行えば良い。このうち、高分子溶液の塗布厚を厚くするのが最も効果的である。
【0175】
また、多孔質膜の用途として、異方性導電膜の基膜材料に用いる場合について例示したが、それ以外にも、この多孔質膜は、例えば、大面積・フレキシブル表示デバイス、ELパネルなどの面発光体・表示デバイス、記憶素子などの電子工学分野、フォトニック結晶や光導波路などの非線形光学材料、光エネルギー変換阻止などの光学および電子分野、各種触媒の支持体、マイクロリアクターなどの化学分野、DNAチップ、細胞培養基板などのバイオテクノロジー分野など、幅広い分野に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本実施形態に係る多孔質膜の構成を模式的に示した図であり、(a)が多孔質膜の断面図、(b)が多孔質膜の平面図である。
【図2】本実施形態に係る異方性導電膜の構成を模式的に示した図である。
【図3】実施例3に係る多孔質膜の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例5に係る多孔質膜の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0177】
10 多孔質膜
12 孔部
14 内壁面
16 隔壁
16a くびれ部
20 異方性導電膜(ACF)
22 導電性物質
24 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むポリアミドイミドより形成されてなることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
酸成分と、疎水性部位を有するジイソシアネート成分または疎水性部位を有するジアミン成分とを重合成分として含むポリアミドイミドと、両親媒性物質と、疎水性および揮発性を有する有機溶媒とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の雰囲気下に存在させることにより形成されうることを特徴とする多孔質膜。
【請求項3】
前記疎水性部位は、環式炭化水素基であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記ポリアミドイミドにポリエステルが共重合されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の多孔質膜。
【請求項5】
ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、前記孔部の内壁面は外側方向に湾曲されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の多孔質膜と、この多孔質膜の孔部内に充填された導電性物質と、多孔質膜の両面に被覆された接着層とを備えたことを特徴とする異方性導電膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16179(P2007−16179A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201025(P2005−201025)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】