説明

多官能アクリレート

【課題】ガラス転移温度が高く、架橋密度が大きく、低屈折率の、フッ素ポリマーとの相溶性を有する多官能アクリレートを提供する。
【解決手段】フッ素原子を含んでいてもよいアクリロイル基を3個以上含み、かつ脂環式構造を含む多官能アクリレートである。脂環構造に対し、下記式の置換基で1以上置換された構造の多官能アクリレート。


(式中、Rはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基、XはH、Cl、F、CF3、またはアルキル基、qは1〜18の整数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロイル基を3個以上含む、脂環式構造を有する多官能アクリレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多官能アクリレートは、硬化剤として広く用いられている。例えば、活性エネルギー線硬化樹脂組成物の硬化剤として、(メタ)アクリロイル基と水酸基を分子内に有する化合物(例えば、特許文献1参照)や、光硬化性液状樹脂組成物の硬化剤として、多官能性モノマー(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、これらの化合物は、分子内にフッ素原子を有さず、含フッ素ポリマーとは相溶しないという問題があった。
【0003】
含フッ素ポリマーとの相溶性との向上の観点から、例えば、特許文献3や4には、硬化性組成物における硬化剤として、アクリロイル基およびフッ素原子を有する、脂環式構造を含む化合物が例示されている。これらの化合物は、特許文献3ではノルボルナン化合物、特許文献4ではフッ素含有率が40質量%以上である為に、フッ素系以外の材料との相溶性において、さらなる向上が求められる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−338628号公報
【特許文献2】特開2006−36825号公報
【特許文献3】国際公開第06/082845号パンフレット
【特許文献4】特開2005−325318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガラス転移温度が高く、かつ、架橋密度を大きくすることができる、フッ素ポリマーおよび非フッ素系材料との相溶性を有する低屈折率の多官能アクリレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、つぎの式(1)〜式(5)のいずれかで示されるフッ素原子を含んでいてもよいアクリロイル基を3個以上含み、かつ脂環式構造を含む多官能アクリレートに関する。
【0007】
式(1):
【化1】

式(2):
【化2】

式(3):
【化3】

式(4):
【化4】

式(5):
【化5】

(式中、A1、A2およびA3は、同じかまたは異なり、いずれも式(6):
【化6】

(式中、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基、XはH、Cl、F、CF3または炭素数1〜10のアルキル基、qは1〜18の整数)
で示されるアクリロイル基含有基;
1、X2およびX3は、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基(ただし、X1、X2およびX3は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい);
n1は、1〜6の整数;
n2およびm2は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数(ただし、n2およびm2は同時に0にはならない);
n3およびp3は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数、m3は0〜2の整数(ただし、n3とm3とp3は同時に0にはならない);
n4およびm4は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数(ただし、n4とm4は同時に0にはならない);
n5およびm5は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数(ただし、n5とm5は同時に0にはならない))。
【0008】
式(6)におけるRが、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、尿素結合、イミド結合および/またはウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基であることが好ましい。
【0009】
フッ素含有率が、5質量%以上40質量%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多官能アクリレートは、脂環式構造を含むため、ガラス転移温度が高く、アクリロイル基を3個以上含むため、架橋密度を大きくすることができる。また、フッ素原子を導入しているため、低屈折率を有し、フッ素ポリマーとの相溶性があがる。
【0011】
さらに、本発明の多官能アクリレートは、フッ素含有率が40質量%未満であるため、非フッ素系材料に対しても相溶性を有する。そのため、硬化性樹脂組成物における硬化剤として期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、フッ素原子を含んでいてもよいアクリロイル基を3個以上含み、かつ脂環式構造を含む多官能アクリレートに関する。
【0013】
多官能アクリレートの構造式としては、以下の式(1)〜式(5)があげられる。
式(1):
【化7】

式(2):
【化8】

式(3):
【化9】

式(4):
【化10】

式(5):
【化11】

式中、A1、A2およびA3は、同じかまたは異なり、いずれも式(6):
【化12】

である。
【0014】
ここで、式(6)中、qは1〜18の整数であり、1〜6の整数が好ましい。Xは、H、Cl、F、CF3であり、合成上および硬化物の耐熱性に優れる点からH、FまたはCH3が好ましく、特にフッ素含有率を高めるという点からH、Fが好ましい。
【0015】
また、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基であり、炭素数1〜20が好ましい。式中、Rがヘテロ原子を含んでいない場合は、例えば、式(R1):
【0016】
【化13】

式(R2):
【化14】

があげられる。また、ヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子としては酸素原子、チッ素原子、が好ましく、具体例としては、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、尿素結合、イミド結合および/またはウレタン結合を含んでいることが好ましい。
【0017】
具体的には、エステル結合を含む場合は、式(R3):
【化15】

があげられる。
【0018】
ウレタン結合を含む場合は、式(R4):
【化16】

式(R5):
【化17】

があげられる。
【0019】
そのほかの結合としては、例えば、式(R6):
【化18】

式(R7):
【化19】

式(R8):
【化20】

式(R9):
【化21】

があげられる。
【0020】
式(6)の具体例としては、式(6−1):
【化22】

式(6−2):
【化23】

式(6−3):
【化24】

があげられる。ここで、Xは前記式(6)と同様である。
【0021】
式(1):
【化25】

におけるX1としては、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基であり、H、F、CH3、CF3であることが好ましい。ただし、X1は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい。また、n1は、1〜6の整数であり、1〜3の整数が好ましく、2であることが好ましい。
【0022】
ここで、式(1)において、n1が1である場合、A1については、式(6)で表わされるqが3以上となる。また、n1が2である場合は、2個のA1のうち、少なくとも1個は式(6)で表わされるqが2以上となる。
【0023】
式(1)の具体例としては、式(1−1):
【化26】

式(1−2):
【化27】

式(1−3):
【化28】

式(1−4):
【化29】

(式中、X、X1およびn1は、それぞれ前記式(1)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である)
があげられる。
【0024】
式(1)において、n1が2である場合、A1の位置としては、例えば、式(1a):
【化30】

式(1b):
【化31】

式(1c):
【化32】

があげられるが、これらのなかで、合成が容易である点から式(1a)が好ましい。
【0025】
式(1)のA1の結合の位置が、式(1a)である場合の具体例としては、式(1a−1):
【化33】

式(1a−2):
【化34】

式(1a−3):
【化35】

があげられる。ここで、Xは、前記式(6)と同様である。
【0026】
式(2):
【化36】

におけるX1およびX2としては、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基であり、H、F、CH3、CF3であることが好ましい。
【0027】
ただし、X1およびX2は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい。
【0028】
n2およびm2は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数であり、1〜2の整数が好ましく、1であることが好ましい。ただし、n2およびm2は同時に0にはならない。
【0029】
ここで、式(2)において、n2およびm2のいずれか一方が0である場合、A1またはA2については式(6)で表わされるqが3以上となる。また、n2およびm2の合計が2である場合、A1、A2のいずれか1種については、式(6)で表わされるqが2以上となる。
【0030】
式(2)の具体的としては、式(2−1):
【化37】

式(2−2):
【化38】

式(2−3):
【化39】

があげられる。ここで、X1、X2、n2、m2は、前記式(2)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である。
【0031】
式(2)において、n2が1であり、かつm2が1である場合のA1およびA2の位置としては、例えば、式(2a):
【化40】

式(2b):
【化41】

があげられる。これらの中で、合成が容易である点から式(2a)が好ましい。また、A1およびA2は同じ構造であることが、合成が容易である点で好ましい。
【0032】
より具体的には、式(2a−1):
【化42】

式(2a−2):
【化43】

式(2a−3):
【化44】

があげられる。ここで、Xは前記式(6)と同様である。
【0033】
式(3):
【化45】

におけるX1、X2およびX3は、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基であり、H、F、CH3、CF3であることが好ましい。
【0034】
ただし、X1、X2およびX3は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい。n3およびp3は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数であり、1〜2の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。m3は0〜2の整数であり、1であることが好ましい。ただし、n3とm3とp3は同時に0にはならない。これらの中で、n3、m3およびp3がそれぞれ1であることが合成が容易である点で好ましい。
【0035】
ここで、式(3)において、n3、m3、p3のうち、いずれか2種が0である場合、A1、A2、A3のうちいずれか1種については、式(6)で表わされるqは3以上となり、n3、m3、p3のうち、いずれか1種が0である場合、A1、A2、A3のうちいずれか1種については、式(6)で表わされるqは2以上となる。
【0036】
また、A1、A2およびA3は同じ構造であることが、合成が容易である点で好ましい。
【0037】
式(3)の具体的としては、式(3−1):
【化46】

式(3−2):
【化47】

式(3−3):
【化48】

があげられる。
【0038】
ここで、X1、X2、X3、n3、m3およびp3は、前記式(3)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である。
【0039】
n3、m3およびp3がそれぞれ1である場合のA1、A2およびA3の位置としては、例えば、式(3a):
【化49】

式(3b):
【化50】

式(3c):
【化51】

があげられ、合成が容易である点から式(3b)が好ましい。また、A1、A2およびA3は同じ構造であることが好ましい。より具体的には、式(3a−1):
【化52】

式(3a−2):
【化53】

式(3a−3):
【化54】

があげられる。ここで、Xは、前記式(6)と同様である。
【0040】
式(4):
【化55】

におけるX1およびX2は、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基であり、H、F、CH3、CF3であることが好ましい。
【0041】
ただし、X1およびX2は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい。
【0042】
n4およびm4は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数であり、1〜2の整数が好ましく、それぞれが1であることが合成が容易である点でより好ましい。ただし、n4とm4は同時に0にはならない。
【0043】
ここで、式(4)において、n4およびm4のいずれか一方が0である場合、A1またはA2については式(6)で表わされるqが3以上となる。また、n4およびm4の合計が2である場合、A1、A2のいずれか1種については、式(6)で表わされるqが2以上となる。
【0044】
式(4)の具体的としては、式(4−1):
【化56】

式(4−2):
【0045】
【化57】

式(4−3):
【化58】

があげられる。
【0046】
ここで、X1、X2、X3、n4およびm4は、前記式(4)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である。
【0047】
式(4)において、n4およびm4がそれぞれ1である場合の、A1およびA2の位置としては、例えば、式(4a):
【化59】

式(4b):
【化60】

式(4c):
【化61】

があげられ、式(4a)が合成が容易である点で好ましい。また、A1およびA2は同じ構造であることが、合成が容易である点で好ましい。より具体的には、式(4a−1):
【化62】

式(4a−2):
【化63】

式(4a−3):
【化64】

があげられる。ここで、Xは、前記式(6)と同様である。
【0048】
式(5):
【化65】

におけるX1およびX2は、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基であり、H、F、CH3、CF3であることが好ましい。
【0049】
ただし、X1およびX2は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい。
【0050】
n5およびm5は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数であり、1〜2の整数が好ましく、1であることが合成が容易である点でより好ましい。
【0051】
ただし、n5とm5は同時に0にはならない。
【0052】
ここで、式(5)において、n5およびm5のいずれか一方が0である場合、A1またはA2については式(6)で表わされるqは3以上となる。また、n5およびm5の合計が2である場合、A1、A2のいずれか1種については、式(6)で表わされるqが2以上となる。
【0053】
式(5)の具体的としては、式(5−1):
【化66】

式(5−2):
【化67】

式(5−3):
【化68】

があげられる。
【0054】
ここで、X1、X2、n5およびm5は、前記式(5)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である。
【0055】
式(5)において、n5およびm5がそれぞれ1である場合の、A1およびA2の位置としては、例えば、式(5a):
【化69】

式(5b):
【化70】

式(5c):
【化71】

があげられ、式(5a)が合成が容易である点で好ましい。また、A1およびA2は同じ構造であることが好ましい。より具体的には、式(5a−1):
【化72】

式(5a−2):
【化73】

式(5a−3):
【化74】

があげられる。ここで、Xは、前記式(6)と同様である。
【0056】
前記多官能アクリレートのフッ素含有率は、低屈折率化の点から5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、多官能アクリレートのフッ素含有率は、非フッ素系材料との相溶性の点から40質量%未満が好ましく、35質量%未満がより好ましく、30質量%未満がさらに好ましい。
【0057】
本願発明の多官能アクリレートの製造方法について、式(1)を代表させて説明する。
【0058】
式(1)の多官能アクリレートは、式(1−I)を出発物質として製造される。
式(1−I):
【化75】

(式中、n1は、前記式(1)と同様であり、また、Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素である)
と、式(II):
【化76】

を反応させることにより、式(1−II)が得られる。
式(1−II):
【化77】

(式中、n1は、前記式(1)と同様である)
【0059】
また、式(1−II)と式(III):
【化78】

を反応させることにより、式(1−III)が得られる。
【0060】
式(1−III):
【化79】

(式中、n1は、前記式(1)と同様である)
【0061】
さらに、式(1−IV)と式(V):
【化80】

(式中、Xは、前記式(6)と同様である)
を反応させることにより、式(1−V)が得られる。
【0062】
式(1−V):
【化81】

(式中、n1は、前記式(1)と同様であり、Xは、前記式(6)と同様である)
【0063】
さらに、式(1−V)と(式VI)または(式VII)を溶媒(特に、非プロトン性溶媒、例えばケトン系またはエステル系溶媒)中で要すればジブチルスズジラウリレート等の触媒を用い、20℃〜70℃の条件下で反応させることにより式(1)が製造できる。
【0064】
前記の製造方法により得られる前駆体である式(1−V)と式(VI):
【化82】

とを反応させた場合、式(1−1)が製造される。
【0065】
また、式(1−V)と式(VII):
【化83】

とを反応させることにより、式(1−2)が製造される。
【0066】
さらに、式(1−V)と式(VIII):
【化84】

(式中、Xは前記式(6)と同様であり、Zは、H、F、Cl、Br、アルキル基である)
とを反応させることにより、式(1−3)が製造される。
【0067】
式(1−3)の製造方法(エステル化反応)の別の製造方法としては、以下の方法があげられる。
(i)アクリル酸メチルとメタノールより高沸点のアルコールの混合液よりメタノールを共沸させることによりエステル交換させる(エステル交換法)方法。エステル交換法としては、特開2005−15398号、特開2004−217575号および特開2002−358005号各公報に記載される方法を用いることができる。
(ii)前記式(1−V)とα,β−不飽和エステル誘導体とを酸触媒の存在下に直接付加反応させる(直接付加反応法)。直接付加反応法としては、特開2004−175740号公報に記載される方法を用いることができる。
(iii)リパーゼによる合成。リパーゼによる合成としては特開2003−70404号公報に記載される方法を用いることができる。また、反応条件としては、それぞれ、特開2003−40840号、特開2004−175740号、特開2005−15398号、特開2004−217575号、特開2002−358005号、特開2003−70404号各公報に記載された条件が採用できる。
【0068】
式(2)の多官能アクリレートは、式(2−I)を出発物質として製造される。
【0069】
式(2−I):
【化85】

(式中、X1、X2は、前記と同様である)
と、式(II):
【化86】

を反応させることにより、式(2−II)が得られる。
【0070】
式(2−II):
【化87】

(式中、n2、m2は、前記式(1)と同様である)
(式2−II)を公知の方法にて水素添加を行い式(2−III)が得られる。
【0071】
式(2−III):
【化88】

(式中、n2、m2は、前記式(1)と同様である)
【0072】
以降は式(1)と同様の反応により製造される。
【0073】
式(3)の多官能アクリレートは式(3−I)を出発物質として式(2)と同様の反応により製造される。
式(3−I):
【化89】

(式中、X1、X2、X3は、前記と同様である)
【0074】
式(4)の多官能アクリレートは式(4−I)を出発物質として式(2)と同様の反応により製造される。
式(4−I):
【化90】

(式中、X1、X2は、前記と同様である)
【0075】
式(5)の多官能アクリレートは式(5−I)を出発物質として式(2)と同様の反応により製造される。
式(5−I):
【化91】

(式中、X1、X2は、前記と同様である)
【0076】
なお、式(2)〜式(5)の製造については、前記式(1)の製造方法と同様の反応により製造することが可能である。
【実施例】
【0077】
つぎに実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
なお、本明細書における各種の物性および特性は、以下の方法で測定したものである。
重合体組成(1H−NMR、19F−NMR、IR)
NMR測定装置:BRUKER社製
1H−NMR測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
【0079】
実施例1
合成例1−1(式(1−IIIa):
【化92】

の合成)
温度計、冷却管、撹拌機を備えた5Lの四つ口フラスコに(式(1−IIa):
【化93】

)を1164.8g、エピクロルヒドリン5180g、NaOH(ペレット)235.2gを仕込み、4.5時間還流した後、さらにNaOH(粉末)4.67gを追加し、さらに2時間還流した。反反応終了後、ろ過を行い、減圧留去を行い、過剰のエピクロルヒドリンを除去した。CH3CCl2F(HCFC−141b)を1200mL加えて希釈し、モレキュラーシーブス115gを加えて2時間撹拌した。ろ過後、減圧留去を行い、HCFC−141bを減圧留去した。減圧蒸留を行い、式(1−IIIa)を得た(収量1383g)。
【0080】
合成例1−2(式(1−Va):
【化94】

の合成)
温度計、冷却管、撹拌機を備えた5Lの四つ口フラスコに式(1−IIIa)を81.6g、アクリル酸34.6g、トルエン120mL、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.1g、ジブチルヒドロキシトルエン0.05gを仕込み、溶解後トリメチルベンジルアンモニウムクロリド1.0gを加えた。100℃で16時間撹拌し、反応終了後、10%炭酸ナトリウム水溶液で1回、5%炭酸ナトリウム水溶液で1回、飽和食塩水で3回洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水乾燥し、ろ過後ヒドロキノンモノメチルエーテル0.1gを加え、減圧留去し、式(1−Va)を得た(収量71.0g)。
【0081】
合成例1−3(式(1a−1):
【化95】

の合成)
温度計、冷却管、撹拌機を備えた500mLの四つ口フラスコに式(1−Va)を30g、ジブチルスズジラウリレート43mg、メチルイソブチルケトン(MIBK)100gを加えた後、チッ素雰囲気下40℃で溶解した。その後、カレンズAOI(昭和電工株式会社製)12.6gを10分かけて滴下した。40℃で9時間撹拌し、反応を終了した。AOIの構造式を式に示す。
2C=C(CH3)COOCH2CH2NCO
【0082】
そののち、MIBKを減圧留去し、式(1a−1)を得た。(収量40.5g)
19F−NMR(CD3COCD3):δ −67.5(12F)
1H−NMR(CD3COCD3):δ 1.24−1.60(4H)、1.90−2.22(4H)、2,45−2.64(2H)、2.79−2.94(4H)、3.87−4.08(4H)、4.18−4.51(4H)、5.08−5.22(4H)、5.22−5.33(2H)、5.70−5.81(2H)、5.81−5.97(4H)、6.06−6.22(4H)、6.29−6.47(4H)
フッ素含有率:23.9%
(以下、この多官能アクリレートを「CHEp4UA」ともいう)
【0083】
実施例2(式:
【化96】

(以下、「CHEp6UA」ともいう)の合成)
温度計、冷却管、撹拌機を備えた500mLの四つ口フラスコに式(1−Va)を30g、ジブチルスズジラウリレート43mg、メチルイソブチルケトン(MIBK)100gを加えた後、チッ素雰囲気下40℃で溶解した。その後、カレンズBEI(昭和電工株式会社製)21.3gを10分かけて滴下した。40℃で24時間撹拌し、反応を終了した。BEIの構造式を式に示す。
【0084】
【化97】

【0085】
そののち、MIBKを減圧留去し、式(CHEp6UA)を得た。(収量50.3g)
19F−NMR(CD3COCD3):δ −67.5(12F)
1H−NMR(CD3COCD3):δ 1.20−1.34(4H)、1.41(6H)、1.83−2.12(4H)、2.33−2.55(2H)、3.62−4.01(4H)、4.12−4.52(8H)、4.95−5.15(4H)、5.15−5.27(2H)、5.52−5.63(2H)、5.71−5.89(6H)、5.95−6.17(6H)、6.21−6.60(6H)
フッ素含有率:19.8%
【0086】
実施例3(式:
【化98】

(以下、「CHEp4A」ともいう)の合成)
温度計、冷却管、撹拌機を備えた50mLの四つ口フラスコに式(1−Va)を10.1g加え、チッ素雰囲気下25℃でHCFC−141b 25mLに溶解し、トリエチルアミン6.6gを加えた。氷水で冷却しアクリル酸クロライド5.4gを滴下した。25℃で12時間撹拌した。塩酸でpHを2にし、分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、HCFC−141bを減圧留去した。アセトンに溶解し、不溶分をろ過した後、アセトンを減圧留去し、CHEp4Aを得た。(収量10.5g)
19F−NMR(CD3COCD3):δ −67.5(12F)
1H−NMR(CD3COCD3):δ 1.18−1.6(4H)、1.85−2.22(4H)、2.39−2.63(2H)、3.83−4.15(4H)、4.23−4.57(2H)、5.17−5.52(4H)、5.76−6.00(4H)、6.00−6.22(4H)、6.22−6.46(4H)
フッ素含有率29.2%
【0087】
合成例2−1(OH基を有する含フッ素アリルエーテルのホモポリマーの合成)
撹拌装置および温度計を備えた100mLのガラス製四ツ口フラスコに、パーフルオロ(1,1,9,9−テトラハイドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサノネノール)
【化99】

を20gと、[H−(CF2CF23−COO−]2の8.0質量%パーフロヘキサン溶液21.2gを入れ、充分にチッ素置換を行った後、チッ素気流下20℃で24時間撹拌を行ったところ、高粘度の固体が生成した。
【0088】
得られた固体をジエチルエーテルに溶解させたものをパーフロヘキサンに注ぎ、分離、真空乾燥させ、重合体17.6gを得た。
【0089】
この重合体を19F−NMR、1H−NMR分析、IR分析により分析したところ、上記含フッ素アリルエーテルの構造単位のみからなり側鎖末端にヒドロキシル基を有する含フッ素重合体であった。また、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒に用いるGPC分析により測定した数平均分子量は9000、重量平均分子量は22000であった。
【0090】
合成例2−2(α−フルオロアクリロイル基を有する含フッ素硬化性ポリマーの合成)
還流冷却器、温度計、撹拌装置、滴下漏斗を備えた200mLの四ツ口フラスコに、ジエチルエーテル80mL、合成例2−1で得たヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテルの単独重合体5.0gと、ピリジン1.0gを仕込み5℃以下に氷冷した。チッ素気流下、撹拌を行いながら、さらにα−フルオロアクリル酸フルオライド(CH2=CFCOF)の2.0gをジエチルエーテル20mLに溶解したものを約30分間かけて滴下した。滴下終了後、室温まで温度を上げさらに4.0時間撹拌を継続した。反応後のエーテル溶液を分液漏斗に入れ、水洗、2%塩酸水洗浄、5%NaCl水洗浄、さらに水洗を繰返したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ついでエーテル溶液を濾過により分離した。
【0091】
このエーテル溶液を19F−NMR分析により調べたところ、−OOCCF=CH2基含有含フッ素アリルエーテル/OH基含有含フッ素アリルエーテル=85/15(モル比)の共重合体であった。
【0092】
また、得られた共重合体をNaCl板に塗布し、室温にてキャスト膜としたものをIR分析したところ、炭素−炭素二重結合の吸収が1661cm-1に、C=O基の吸収が1770cm-1に観測された。
【0093】
得られたα−フルオロアクリロイル基を有する含フッ素硬化性ポリマー(エーテル溶液)にメチルイソブチルケトン(MIBK)を加えた後、エーテルをエバポレーターにより留去し、固形分濃度15.0質量%に調整した(この含フッ素ポリマー溶液を「AR1」と略す)。
【0094】
合成例3−1
【化100】

(2−フルオロ−5または6−ヒドロキシ−ノルボルナン−2−イル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(以下「NB1F2OH」ともいう)の合成
温度計、3方コックを付けた冷却管および滴下ロートを備えた500ml四つ口フラスコにチッ素ガスを充填し、水素化ホウ素ナトリウム9.3gとテトラヒドロフラン150mlを仕込み、氷浴で冷却した。(2−フルオロ−5−ノルボルネン−2−イル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール30gとテトラヒドロフラン30mlの混合液を滴下した後、三フッ化ホウ素―ジエチルエーテル錯体9mlを滴下し、その後、20℃で1時間撹拌した。水10ml、NaOH水溶液(濃度:3mol/l)75ml、30質量%過酸化水素水75mlを順に滴下した後、20℃で20時間撹拌した。塩酸でpHを3以下の酸性溶液にした後、有機層を分液した。有機層を食塩水で洗浄した後、テトラヒドロフランを減圧下留去した。残渣をジエチルエーテルと混合し、不溶物をろ過した。ろ液を硫酸ナトリウムで乾燥し、ジエチルエーテルを減圧下留去し、NB1F2OHを30g得た。
【0095】
合成例3−2(式:
【化101】

(以下、DMNB1FVIPともいう)の合成
温度計と3方コックおよび滴下ロートを備えた三つ口フラスコにNB1F2OHを27gとHCFC−141bを100ml仕込み、チッ素ガス雰囲気下氷浴中で冷却した。その後、トリエチルアミン30ml、メタクリロイルクロライド29gを順に滴下し、20℃で12時間撹拌した。塩酸でpHを2にし、食塩を入れ、分液した。有機層を食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。シリカゲルを用いて残渣をカラム分離(溶媒としてHCFC−141b)し、DMNB1FVIPを22g得た。
【0096】
実施例4〜9
表1にそれぞれ示すように、合成例2−2で得たAR1に実施例1(CHEp4UA)、2(CHEp6UA)、3(CHEp4A)で得た多官能アクリレート、および濃度20質量%の中空シリカゾルMIBK分散溶液(触媒化成工業(株)製のELECOM V8213、平均粒径55nm;屈折率1.30)を加え、充分に撹拌して組成物を得た。
【0097】
比較例1〜4
比較として表2に示す非フッ素系多官能アクリレート(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、合成例3−2で得たDMNB1FVIPおよび/または濃度20質量%の中空シリカゾルMIBK分散溶液(触媒化成工業(株)製のELECOM V8213、平均粒径55nm;屈折率1.30)を加え、充分に撹拌して組成物を得た。
【0098】
(組成物の相溶性)
実施例4〜9および比較例1〜でそれぞれ調製した組成物の相溶性を目視で調べた。
○:相溶する
×:相溶せず(沈殿物あり)
【0099】
(塗膜の調製)
実施例4〜9および比較例1〜4でそれぞれ調製した硬化性組成物をPETフィルム上にアプリケーターを用いて乾燥後の膜厚が約100nmとなるように塗布し、70℃で1分間乾燥した。
【0100】
(塗膜の相溶性)
実施例4〜9および比較例1〜4でそれぞれ調製した組成物で作成した塗膜の外観を目視で調べた。
○:透明でかつ均一である
×:不透明で白濁
【0101】
なお、表1および2において、各略号はつぎのものを示す。
AR1:合成例2−2で得られた硬化性含フッ素ポリマー
CHEp4UA:実施例1で得られた多官能アクリレート
CHEp6UA:実施例2で得られた多官能アクリレート
CHEp4A:実施例3で得られた多官能アクリレート
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
DMNB1FVIP:合成例3−2で得られた多官能アクリレート
PS1:濃度20質量%の中空シリカゾルMIBK分散溶液(触媒化成工業(株)製のELECOM V8213、平均粒径55nm;屈折率1.30)
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
つぎの式(1)〜式(5)のいずれかで示されるフッ素原子を含んでいてもよいアクリロイル基を3個以上含み、かつ脂環式構造を含む多官能アクリレート:
式(1):
【化1】

式(2):
【化2】

式(3):
【化3】

式(4):
【化4】

式(5):
【化5】

(式中、A1、A2およびA3は、同じかまたは異なり、いずれも式(6):
【化6】

(式中、Rはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基、XはH、Cl、F、CF3または炭素数1〜10のアルキル基、qは1〜18の整数)
で示されるアクリロイル基含有基;
1、X2およびX3は、同じかまたは異なり、いずれもH、ハロゲン原子または炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基(ただし、X1、X2およびX3は、存在しなくてもよいし、複数存在していてもよい);
n1は、1〜6の整数;
n2およびm2は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数(ただし、n2およびm2は同時に0にはならない);
n3およびp3は、同じかまたは異なり、いずれも0〜4の整数、m3は0〜2の整数(ただし、n3とm3とp3は同時に0にはならない);
n4およびm4は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数(ただし、n4とm4は同時に0にはならない);
n5およびm5は、同じかまたは異なり、いずれも0〜5の整数(ただし、n5とm5は同時に0にはならない))。
【請求項2】
式(6)におけるRが、エステル結合および/またはウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜50のq+1価の炭化水素基である請求項1記載の多官能アクリレート。
【請求項3】
フッ素含有率が、5質量%以上40質量%未満である請求項1または2記載の多官能アクリレート。

【公開番号】特開2009−167357(P2009−167357A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9702(P2008−9702)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】