説明

多官能性モノマーおよびこれを含んでなる光硬化性組成物

【課題】光重合性が高く、光照射により高重合率に達する架橋システムを実現する多官能性モノマーを与えることを目的とし、さらに耐薬品性に優れ、重合時の体積収縮が低減された架橋皮膜を与える多官能性モノマーとこれを用いた光硬化性組成物を得ること。
【解決手段】分子内に、重合性二重結合基が結合した1,3,4−チアジアゾール基を2個以上有する一般式Iで示される多官能性モノマーを使用する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,4−チアジアゾール基を有する新規な多官能性モノマーに関し、またこれを利用した光硬化性組成物に関する。用途としては、印刷版、インキ、塗料、接着剤、表面処理剤、光学レンズ材料、光ファイバーコーティング、三次元造形、ホログラフィー記録材料、プリント配線板やIC等の電子材料に利用可能な多官能性モノマーおよびこれを含んでなる光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシアクリレート樹脂やポリエステルアクリレート樹脂あるいはウレタンアクリレート樹脂と称される多官能性アクリレートモノマーもしくは多官能性メタクリレートモノマーは、光硬化性、耐熱性、耐薬品性などの優れた諸特性を示すことから、印刷版、インキ、塗料、接着剤、表面処理剤、光学レンズ材料、光ファイバーコーティング、三次元造形、ホログラフィー記録材料、プリント配線板やIC等の電子材料様々な用途に使用されている。
【0003】
上記のような多官能性(メタ)アクリレートモノマーは重合時に体積収縮を行うことが知られており、印刷版、接着剤、コーティング剤、電子材料用途など寸法精度や正確な位置精度等を要求される用途では問題が生じることがあった。こうした体積収縮を低減する試みは種々なされているが、例えば特開2001−114850号公報(特許文献1)には、多官能性アクリレートモノマーを用いて、これにホルムアルデヒド等価体と単官能アクリル酸エステル誘導体を塩基性触媒の存在下に反応させて得られる多官能性アクリレート誘導体を用いることで、重合による体積収縮の程度を低減できることを開示している。
【0004】
上記のような重合による体積収縮の問題に加えて、重合が進行するに従い系の粘度が上昇し、多官能性(メタ)アクリレートモノマーの拡散が抑えられるようになると重合が進行しなくなるため、系内に未反応の多官能性(メタ)アクリレートモノマーが残存する場合があり、これによる力学的強度の低下や耐薬品性の低下および経時によるブリードアウトなどの種々の問題が発生することがあった。
【0005】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーの最終到達重合率を高めたり、重合速度もしくは硬化速度を高めるには、系中に低分子もしくは低粘度の化合物を添加することも行われるが、特に光硬化性組成物の場合、系の粘度が低下するに従って組成物の経時安定性が損なわれ、長期の保存において光硬化性が低下したり、あるいは暗所での重合が進行し、硬化が進行して使用できなくなる問題があった。
【0006】
特開2003−292535号公報(特許文献2)には、アクリレートモノマーではなくスチレン誘導体として、特にチアジアゾール基等を有するモノマーが良好な光重合性を示すことが開示されている。これによるとチアジアゾール基を介してスチレン誘導体基と、他方にはアルキル基、アルキレンオキシ基等の非重合性置換基が結合した単官能性モノマーについて光重合性が高く、高感度である光硬化性組成物が与えられることが開示されているが、先の多官能性(メタ)アクリレートモノマーと比較すると後者では架橋体が生成するのに対し、前者では架橋体が形成されないために耐薬品性や機械的強度の点において見劣りする場合があった。
【0007】
特開平2−53783号公報(特許文献3)および特開2001−290271号公報(特許文献4)にはチアジアゾール基を介して2個のビニルベンジル基やアクリロイル基が結合した化合物の例が記載されている。これらは対称性の高い化合物であり常温で固体であるために結晶性が高く、単独では光重合性に極めて乏しいという欠点があった。また他の共重合モノマーと混合して用いる場合であっても、相溶性に乏しく相分離してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−114850号公報
【特許文献2】特開2003−292535号公報
【特許文献3】特開平2−53783号公報
【特許文献4】特開2001−290271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光重合性が高く、光照射により高重合率に達する架橋システムを実現する多官能性モノマーを与えることを目的とし、さらに耐薬品性に優れ、重合時の体積収縮が低減された架橋皮膜を与える多官能性モノマーとこれを用いた光硬化性組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、下記一般式Iで示される分子内に、重合性二重結合基が結合した1,3,4−チアジアゾール基を2個以上有する多官能性モノマーを用いることで解決される。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式IにおいてRは水素原子またはメチル基を表し、連結基Lは、アリーレン基、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、−C(=O)−、−CH−、−CH(−)−,−CH(OH)−および−CHO−基から選ばれる基、あるいはこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。Rは水酸基、−OC(=O)Rおよび−OC(=O)NHRから選ばれる基を表す。RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、シクロアルキル基およびアシルオキシ基から選ばれる基、あるいはこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。Zは炭素数が3以上のアルキレン基、アルキレンオキシ基およびアリーレン基から選ばれる基、あるいは下記から選ばれる任意の基を3個以上組み合わせて得られる基を表す。nは2以上の整数を表す。
【0013】
【化2】

【発明の効果】
【0014】
光重合性が高く、光照射により高重合率に達する架橋システムを実現する多官能性モノマーを与えられ、さらに重合時の体積収縮が低減された架橋皮膜を与える多官能性モノマーとこれを用いた光硬化性組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記一般式Iで示される多官能性モノマーについて詳細に説明を行う。一般式Iで示される多官能性モノマーの構造単位として重合に寄与する部分(CH=C(R)−L−)の好ましい例を下記化学式で例示する。
【0016】
【化3】

【0017】
上記化学式から選ばれる任意の重合性基が一般式Iで示される構造式中の1,3,4−チアジアゾール基に結合した一方の硫黄原子に結合する。他方のチアジアゾール基に結合している硫黄原子はアルキレンオキシ基を介して基Zに結合している。このアルキレンオキシ基に置換している基Rについては好ましい例が存在する。最も好ましいRの例は水酸基である。この場合には、原料として基Zに2個以上のエポキシ基が結合した多官能性エポキシ化合物を原料に用いて、最初に下記スキームIで得られる化合物を合成した後、これを用いて後述する一般式IIで表される多官能性エポキシ化合物との間でスキームIIに示すような反応で一般式Iの多官能性モノマーが合成される。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
あるいは、下記スキームIIIに示すように、基Zに2個以上のエポキシ基が結合した多官能性エポキシ化合物(一般式II)を原料に用いて、これと2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの間の反応で下記スキームIIIの化合物を合成した後に、スキームIVに示す反応で目的とする一般式Iの多官能性モノマーを合成しても良い。
【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
上記何れの合成方法に従っても目的とする一般式Iの多官能性モノマーが合成できるが、両者で共通するのは下記一般式IIで示される多官能性エポキシ化合物を原料に使用する点である。
【0024】
【化8】

【0025】
上記一般式IIにおけるZおよびnは一般式Iにおける各々Zおよびnと同一である。
【0026】
上記一般式IIで示される多官能性エポキシ化合物はその構造から対称性の低い構造であり、骨格中にフレキシビリティを与えるオキシメチレン基が存在することから常温で液体であることが特徴である。従って、一般式IIで示される多官能性エポキシ化合物を出発原料に使用して目的とする一般式Iの多官能性モノマーの合成を行うため、本発明の一般式Iの多官能性モノマーは常温で液体であることが特徴である。常温で液体であることから、これを単独で用いて後述する光硬化性組成物を作製した場合に、極めて高い光重合反応性を示し、高い重合率に達することが特徴である。さらには、重合に寄与する部分である基(CH=C(R)−L−)がチアジアゾール基に直結しており、おそらくは系内でこうしたチアジアゾール基同士が分子レベルで会合もしくは凝集構造をとるために速い重合速度と高い重合率を達成するのではないかと考えられる。これらの点に関しては、後述する実施例において具体的に例示するとともに、特開2003−292535号公報(特許文献2)にも詳しく述べられている。
【0027】
上記一般式IIで示される多官能性エポキシ化合物としては市販される種々のエポキシ化合物を用いることができる。市販品の例として、ナガセケムテックス株式会社から入手可能なデナコールEXシリーズなどを好ましく使用することができる。好ましい化合物の例として下記化学式で示される多官能性エポキシ化合物が使用できる。
【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
本発明の一般式Iで表される多官能性モノマーを合成するためには一般式IIの多官能性エポキシ化合物とチアジアゾール基に結合したメルカプト基との間で付加反応を行う必要がある。この場合の反応条件として最も好ましいのは、溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類を使用し、また、反応温度に関しては、10℃から75℃までの温度で反応を行うことが好ましく、これ以下の温度では反応の進行が遅く、またこの範囲を超えて高温で反応を行うと、副反応が生じ、目的とする化合物の収率が低下するため好ましくない。
【0033】
反応溶媒として上記のようなアルコール類を使用した場合、アルコール中に含まれる水分量は質量比で50質量%以下であることが好ましく、これ以上水分が含まれる場合にはエポキシ基の加水分解が生じる場合があり、さらに、原料に用いるメルカプト基の結合したチアジアゾール誘導体が十分に溶解しないため反応が満足に進行しない場合があるため好ましくない。反応が完結した後、反応系を冷却することで生成物は反応系から分離して粘稠な液体状に沈降する。これを分離することで純度の高い中間体もしくは目的とする一般式Iの化合物を高い収率で回収することができるため好ましい。反応条件の詳細は後述する合成例の中で説明を行う。
【0034】
前記スキームIIもしくはスキームIVで得られ
る化合物は本発明の一般式Iの多官能性モノマーとしてそのまま使用することも好ましく行われるが、構造式中に存在する水酸基をさらに修飾することでより反応性を高めたり、各種溶媒への溶解性を高めたりすることができる。先に示した一般式Iにおける置換基Rの具体例として下記化学式で示される例が挙げられる。
【0035】
【化13】

【0036】
上記のような基を導入するには、前記スキームIIもしくはスキームIVで得られる化合物の構造式中に存在する水酸基をさらに対応する酸無水物、酸クロライド、あるいはイソシアネート誘導体と反応させることで、後述する合成例に示すようにして合成することができる。
【0037】
本発明で得られる一般式Iの多官能性モノマーの好ましい例を以下に挙げる。好ましい例の最初のケースとしてスチレン誘導体の場合を挙げることができる。
【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
【化17】

【0042】
【化18】

【0043】
【化19】

【0044】
上記のような例示化合物を合成し、さらに各種酸無水物、酸クロライド、イソシアネート化合物などを加えて反応を行うことで下記に例示するように、スチレン誘導体基に加えてアクリロイル基、メタクリロイル基などが併せて結合した一般式Iの多官能性モノマーを合成することができる。これらは分子内に重合性二重結合基が高い密度で存在することから、架橋効率が高く後述する光硬化性組成物において極めて有効な多官能性モノマーとなりうるため好ましい。
【0045】
【化20】

【0046】
【化21】

【0047】
上記に例示する様々な化合物は前述した多官能性エポキシ化合物を原料に使用して、前述した何れのスキームに従っても容易に合成することができる。後述する合成例においてより具体的な合成方法を詳細に説明する。
【0048】
一般式Iの多官能性モノマーの別の好ましい例として、下記で示す様々な構造のメタクリル酸エステル誘導体を挙げることができる。
【0049】
【化22】

【0050】
【化23】

【0051】
【化24】

【0052】
【化25】

【0053】
【化26】

【0054】
【化27】

【0055】
【化28】

【0056】
【化29】

【0057】
一般式Iの多官能性モノマーの別の好ましい例として、下記で示す様々な構造のアクリル酸エステル誘導体を挙げることができる。
【0058】
【化30】

【0059】
【化31】

【0060】
【化32】

【0061】
【化33】

【0062】
【化34】

【0063】
【化35】

【0064】
一般式Iの多官能性モノマーのさらに別の好ましい例として、下記で示す様々な構造の酢酸ビニル誘導体を挙げることができる。
【0065】
【化36】

【0066】
【化37】

【0067】
【化38】

【0068】
【化39】

【0069】
【化40】

【0070】
【化41】

【0071】
本発明で得られる一般式Iの多官能性モノマーを使用して光硬化性組成物を形成するためには、該多官能性モノマーと併せて光重合開始剤を含有することが好ましい。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いることができる。
【0072】
本発明に用いることのできる光重合開始剤の例としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、および(j)有機ホウ素化合物等が挙げられる。
【0073】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、P.77〜P.177に記載のベンゾフェノン骨格、あるいはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げることができる。
【0074】
(b)芳香族オニウム塩の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩は、特公昭52−14277号公報、特公昭52−14278号公報、特公昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げることができる。
【0075】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を一個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0076】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールの例としては、特公昭45−37377号公報、特公昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0077】
(e)ケトオキシムエステルの例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0078】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0079】
(g)活性エステル化合物の例としては、特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号公報、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0080】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。具体的なチタノセン化合物としては、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イル等を挙げることができる。
【0081】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号明細書、米国特許第3,987,037号明細書、米国特許第4,189,323号明細書、特開昭61−151644号公報、特開昭63−298339号公報、特開平4−69661号公報、特開平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号公報、特開昭55−77742号公報、特開昭60−138539号公報、特開昭61−143748号公報、特開平4−362644号公報、特開平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0082】
(j)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号公報、特開平9−106242号公報、特開平9−188685号公報、特開平9−188686号公報、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号公報、特開平6−175564号公報、特開平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物および有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号公報、特開平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号公報、特開平7−128785号公報、特開平7−140589号公報、特開平7−292014号公報、特開平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号公報、特開平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0083】
上記光重合開始剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。特に、(i)トリハロアルキル置換化合物と(j)有機ホウ素塩化合物を組み合わせて用いた場合には、感度が大幅に向上するために好ましい。
【0084】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。さらに好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いることである。
【0085】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式IIIで表される。
【0086】
【化42】

【0087】
式中、R、R、RおよびRは各々同じであっても異なっていても良く、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R、R、RおよびRの内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0088】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオンおよびカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。
【0089】
本発明において光重合開始剤として好ましく用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式IIIで表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0090】
【化43】

【0091】
【化44】

【0092】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化および高い耐薬品性が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、あるいは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0093】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0094】
【化45】

【0095】
【化46】

【0096】
上記のような種々の光重合開始剤を多官能性モノマーである本発明の一般式Iの化合物とともに用いる場合には両者の割合には好ましい範囲が存在する。多官能性モノマーあるいはこれとともに下記に示すこれ以外の各種モノマーと混合して使用する場合には、全てのモノマーの総量100質量部に対して、光重合開始剤の好ましい使用量は0.5質量部から50質量部の範囲である。
【0097】
本発明の一般式Iの多官能性モノマーは単独で使用しても良いが、あるいはこれとともに公知の各種モノマーと併用して用いることも可能である。併用して用いるモノマーは特に反応性希釈剤として機能し、光硬化性組成物としての粘度を低下させることから光硬化速度を高めたり、反応率を高める上で効果がある場合がある。反応性希釈剤として用いることのできるモノマーとしては、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルあるいはアルキルアリールエステル類、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、あるいは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、あるいは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、あるいは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、あるいは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、あるいはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート、あるいは多官能性モノマーとして、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、あるいは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等各種モノマーを適宜反応性希釈剤として本発明に関わる多官能性モノマーとともに使用することができる。
【0098】
本発明の一般式Iの多官能性モノマーを、これとともに上記の反応性希釈剤としての各種モノマーと併用して用いる場合には、両者の総和を100質量%とした場合に、本発明の多官能性モノマーは20質量%以上の割合で含まれていることが必要であり、これ以下の割合では、本発明の効果が認められない場合がある。
【0099】
本発明に関わる光硬化性組成物中には各種ポリマー中に分散した状態でも使用することが可能であり、任意のポリマーをバインダーとして使用することも好ましく行うことができる。用いることのできるバインダーとしてのポリマーの例を挙げると、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩ビ樹脂、ポリカーボネート樹脂等の種々の疎水性樹脂や、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルメチルセルロース等セルロース誘導体、各種変性でんぷんその他の水溶性ポリマーを加えて使用することも可能である。
【0100】
光硬化性組成物を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的でアゾ染料、シアニン色素、酸化チタン、カーボンブラックやフタロシアニン系顔料などの種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で炭酸カルシウム、シリカなど無機物微粒子あるいはポリスチレンビーズ、ポリシロキサンビーズなどの有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0101】
光硬化性組成物中には、さらに長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、公知の各種フェノール化合物、ハイドロキノン類、ニトロソフェニルヒドロキシルアミン等が好ましく使用できる。
【実施例】
【0102】
(実施例1)多官能性モノマーTD−1の合成例(スキームI/IIのルートによる)
特開2001−290271号公報に記載される方法により2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールと4−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル株式会社製CMS−14)から、チアジアゾール基にメルカプト基とスチレン誘導体基を併せて有する下記化合物M−1を合成した。
【0103】
【化47】

【0104】
水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、上記M−1を133グラム秤取し、メタノール500グラムを加えて攪拌した。トリエチルアミンを5グラム加え、次いで水浴の温度を60℃に上昇し、懸濁した溶液に1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(E−1)(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−212;エポキシ当量151)75グラムを少しずつ滴下した。滴下終了後、反応溶液をさらに65℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、メタノールにより洗浄を行った後、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた粘稠液体である生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析の結果、TD−1の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は71%であった。
【0105】
(実施例2)多官能性モノマーTD−1の合成例(スキームIII/IVのルートによる)
水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを155グラム秤取り、メタノール500グラムを加えて攪拌した。水浴の温度を60℃に上昇し、懸濁した溶液に1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(E−1)(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−212;エポキシ当量151)151グラムを内温の上昇が急激に起こらないよう注意しながら少しずつ滴下した。滴下終了後、均一に溶解した溶液をさらに60℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行った。氷冷後分離した液体をデカンテーションにより回収し、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析の結果、S−1の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は82%であった。
【0106】
【化48】

【0107】
1リッターのフラスコ内に上記で得た化合物S−1を133グラム(0.25モル)投入した。エタノール400グラムおよび2−ジメチルアミノエタノール44.5グラム(0.5モル)を加えて溶解し、4−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル株式会社製CMS−14)76.3グラム(0.5モル)を加えて40℃の水浴上で5時間加熱攪拌を行った。その後、反応混合物を氷冷し、析出した粘稠液体をデカンテーションで分離した。氷冷メタノールで数回洗浄を行い、真空乾燥機内で乾燥させ、淡黄色粘稠液体を得た。プロトンNMRによる構造解析の結果から目的とする多官能性モノマーTD−1の生成を確認した。収率は82%であった。実施例1および2で合成したTD−1の純度はほぼ同等であった。
【0108】
(実施例3)多官能性モノマーTD−7の合成例(スキームIII/IVのルートによる)
実施例2においてE−1に換えてE−7(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−821;エポキシ当量185)を1エポキシ当量(185グラム)用いた以外は同様にして反応を行った。反応終了後、氷冷し、沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行い、分離した液体をデカンテーションにより回収して真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。収量290グラムで生成物を回収した。生成物は、プロトンNMRによる構造解析でほぼS−7の構造に間違いない結果を得たが、これ以外に、以下のようにして高速液体クロマトグラフィーを使用して解析を行った。即ち、東ソー株式会社製有機溶媒系SECカラムTSKgel MultiporeHXL−Mカラム3本を連結したカラムを用いてTHFを移動相としてGPC解析を行った。出発原料であるE−7はこのGPC測定による解析では単一物質ではなく、エチレンオキシ基の繰り返し数等の異なる複数の同族化合物の混合物であることが分かった。反応生成物のGPC測定において、使用した示差屈折率計検出器および紫外可視分光光度計検出器(290nmの波長を使用することで生成物組成中のチアジアゾール基の存在を選択的に検出した)の両方において得られた溶出曲線は完全に一致しており、未反応の原料であるE−7の残存は認められず、平均分子量は出発原料より約300程度増加していることから代表構造としてS−7の構造の化合物が得られていることを確認した。
【0109】
【化49】

【0110】
1リッターのフラスコ内に上記で得た化合物を150グラム(0.25モル)投入した。エタノール400グラムおよび2−ジメチルアミノエタノール44.5グラム(0.5モル)を加えて溶解し、4−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル株式会社製CMS−14)76.3グラム(0.5モル)を加えて40℃の水浴上で5時間加熱攪拌を行った。その後、反応混合物を氷冷し、析出した粘稠液体をデカンテーションで分離した。氷冷メタノールで数回洗浄を行い、真空乾燥機内で乾燥させ、淡黄色液体を得た。プロトンNMRによる構造解析の結果から目的とする多官能性モノマーTD−7の生成を確認した。収率は76%であった。
【0111】
(実施例4)多官能性モノマーTD−20の合成例(スキームI/IIのルートによる)
実施例1で合成した化合物M−1を使用して以下のように合成を行った。水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、上記M−1を133グラム秤取し、メタノール500グラムを加えて攪拌した。トリエチルアミンを5グラム加え、次いで水浴の温度を60℃に上昇し、懸濁した溶液に多官能性エポキシ化合物(E−20)(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521;エポキシ当量183)92グラムをエタノール100グラムに溶解した溶液を少しずつ滴下した。滴下終了後、反応溶液をさらに65℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した粘稠な淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行い、氷冷後分離した粘稠液体をデカンテーションにより回収し、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析の結果、TD−20の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は75%であった。さらに出発物質であるEX−521と生成物の両方について、東ソー株式会社製有機溶媒系SECカラムTSKgel MultiporeHXL−Mカラム3本を連結したカラムを用いてTHFを移動相としてGPC解析を行った。出発原料であるEX−521(E−20)はこのGPC測定による解析では単一物質ではなく、分子量、構造等の異なる複数の同族化合物の混合物であることが分かった。反応生成物のGPC測定において、使用した示差屈折率計検出器および紫外可視分光光度計検出器(290nmの波長を使用することで生成物組成中のチアジアゾール基の存在を選択的に検出した)の両方において得られた溶出曲線は完全に一致しており、未反応の原料であるE−20の残存は認められず、平均分子量は出発原料より約700程度増加して約2300である結果となり、これより代表構造としてTD−20の構造の化合物が得られていることを確認した。
【0112】
さらに実施例4と同様にして、多官能性モノマーTD−2〜TD−19およびTD−21の合成を行い、同様にして構造解析を行った結果、それぞれの化合物が収率良く得られることを見出した。
【0113】
(実施例5)多官能性モノマーTD−22の合成例
実施例4で合成した多官能性モノマーTD−20を用いて、これにアクリル酸クロライドを反応させることで多官能性モノマーTD−22を合成した。即ち、TD−20を23グラム秤取り、テトラヒドロフラン100mlに溶解した。氷冷しながら無水ピリジンを7グラム添加し、滴下漏斗からアクリル酸クロライド8グラムを徐々に滴下した。滴下後、反応系を室温において1昼夜攪拌を行った後、全体を1リッターの水中に移し、析出した粘稠な油状物を酢酸エチル300mlを加えて抽出した。分液漏斗で酢酸エチルの層を回収し、水で2回洗浄を行った後、無水硫酸ナトリウムを加えて1昼夜放置した。その後、濾過、エバポレートを行い、淡黄色油状物を得た。先のGPC解析と同様に解析を行い、生成物は平均分子量2800であった。赤外分光(IR)測定によりエステル基の存在による1760cm−1付近の顕著な吸収と、プロトンNMR測定におけるアクリロイル基の存在による5.8〜6.4ppmの領域における3本のピークの存在から多官能性モノマーTD−22が生成していることを確認した。
【0114】
(実施例6)多官能性モノマーTD−25の合成例
多官能性エポキシ化合物(E−19)(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−512;エポキシ当量168)84グラムをエタノール100グラムに溶解した溶液を使用した以外は実施例4と同様にして化合物TD−19を合成した。得られた化合物TD−19を17.5グラム秤取り、酢酸エチル100mlに溶解した。これに2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズAOI)を10グラム添加し、触媒としてジラウリン酸ジブチル錫を1滴加え、40℃の水浴上で4時間攪拌を行った。その後、溶媒をエバポレートし、残渣をメタノールで数回洗浄した後、真空乾燥器内で1昼夜乾燥を行った。生成物をGPC解析した結果、平均分子量約2500であり、NMRおよびIR解析から目的とする多官能性モノマーTD−25が得られていることを確認した。
【0115】
(実施例7)多官能性モノマーMA−7の合成例(スキームI/IIのルートによる)
1リッターのフラスコ内に2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを150グラム(1モル)投入した。メタノール400グラムを加えて攪拌を行い、水浴上に移した。懸濁した溶液中にグリシジルメタクリレート142グラム(1モル)を徐々に添加することで内温が上昇し、約15分間をかけて滴下を終了した。内温は室温から上昇して滴下終了時には55℃付近まで上昇した。その後水浴の温度を上昇させ、反応混合物の温度を65℃まで上昇させると均一に溶解した溶液を得た。この状態で1時間攪拌を行った後、室温まで冷却し、さらに氷冷することで結晶が析出した。グラスフィルター上で吸引濾過を行い、水/メタノール(1/1)混合溶媒で数回洗浄を行い、乾燥させた。プロトンNMRによる構造解析の結果、下記化合物M−2が得られていることを確認した。
【0116】
【化50】

【0117】
水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、上記M−2を146グラム(0.5モル)秤取し、メタノール500グラムを加えて溶解した。水浴の温度を60℃に上昇し、溶液にE−7(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−821;エポキシ当量185)を0.5エポキシ当量(92.5グラム)少しずつ滴下した。滴下終了後、反応溶液をさらに65℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行い、氷冷後分離した液体をデカンテーションにより回収し、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析および先と同様なGPC解析、IR解析の結果、MA−7の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は76%であった。
【0118】
さらに実施例7と同様にして、MA−7以外の多官能性モノマーMA−1〜MA−21の合成を行い、同様にして構造解析を行った結果、それぞれの化合物が収率良く得られることを見出した。
【0119】
(実施例8)多官能性モノマーBA−7の合成例(スキームI/IIのルートによる)
1リッターのフラスコ内に2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを150グラム(1モル)投入した。メタノール400グラムを加えて攪拌を行い、50℃に調節した水浴上に移した。懸濁した溶液中に4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成株式会社製4HBAGE)200グラム(1モル)を約15分間をかけて徐々に滴下した。内温は僅かに上昇して滴下終了時には55℃付近まで上昇した。その後水浴の温度を上昇させ、反応混合物の温度を65℃まで上昇させて均一に溶解した溶液を得た。この状態で1時間攪拌を行った後、室温まで冷却し、さらに氷冷することで粘稠な液体が析出した。デカンテーションによる分離を行い、水/メタノール(1/1)混合溶媒で数回洗浄を行い、乾燥させた。プロトンNMRによる構造解析の結果、下記化合物M−3が得られていることを確認した。
【0120】
【化51】

【0121】
水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、上記M−3を175グラム(0.5モル)秤取し、メタノール400グラムを加えて溶解した。水浴の温度を60℃に上昇し、溶液にE−7(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−821;エポキシ当量185)を0.5エポキシ当量(92.5グラム)少しずつ滴下した。滴下終了後、反応溶液をさらに65℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行い、氷冷後分離した液体をデカンテーションにより回収し、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析および先と同様なGPC解析、IR解析の結果、BA−7の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は80%であった。
【0122】
さらに実施例8と同様にして、BA−7以外の多官能性モノマーBA−1〜BA−21の合成を行い、同様にして構造解析を行った結果、それぞれの化合物が収率良く得られることを見出した。
【0123】
(実施例9)多官能性モノマーVA−7の合成例(スキームI/IIのルートによる)
1リッターのフラスコ内に2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを300グラム(1モル)投入した。氷冷しながらメタノール450グラムを加え、攪拌を行いながらジメチルアミノエタノール198グラムを徐々に加え溶解した。50℃に調節した水浴上に移し、溶液中にクロロ酢酸ビニル(東京化成工業株式会社製)241グラム(1モル)を約15分間かけて徐々に滴下した。その後水浴の温度を上昇させ、反応混合物の温度を65℃まで上昇させて3時間攪拌を行った後、蒸留水100グラムを加えて室温まで冷却し、さらに氷冷することで無色結晶が析出した。濾過による分離を行い、水で数回洗浄を行い、乾燥させた。ジイソプロピルエーテル/ヘキサン混合溶媒から再結晶を行い、プロトンNMRによる構造解析の結果、下記化合物M−4が得られていることを確認した。
【0124】
【化52】

【0125】
水浴上で、攪拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた1リッターフラスコ内に、上記M−4を167グラム(0.5モル)秤取し、メタノール400グラムを加えて溶解した。水浴の温度を60℃に上昇し、溶液にE−7(ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−821;エポキシ当量185)を0.5エポキシ当量(92.5グラム)少しずつ滴下した。滴下終了後、反応溶液をさらに65℃において3時間攪拌を行い、その後氷冷して放置した。沈降した淡黄色液体である生成物をデカンテーションにより分離し、再度メタノールを加えて攪拌を行い、氷冷後分離した液体をデカンテーションにより回収し、真空乾燥機内で1昼夜乾燥を行った。得られた生成物を重水素化クロロフォルムに溶解しプロトンNMRによる構造解析および先と同様なGPC解析、IR解析の結果、VA−7の化学式で表される化合物であることを確認した。収率は80%であった。
【0126】
さらに実施例9と同様にして、VA−7以外の多官能性モノマーVA−1〜VA−21の合成を行い、同様にして構造解析を行った結果、それぞれの化合物が収率良く得られることを見出した。
【0127】
(比較合成例1)比較化合物R−1の合成例
本発明の比較に使用するため、下記構造の比較化合物R−1を以下のようにして合成した。即ち、1リッターのフラスコ内に2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールを75グラム(0.5モル)投入した。メタノール450グラムを加え、氷冷しながら攪拌下ジメチルアミノエタノール89グラム(1モル)を徐々に加え溶解した。40℃に調節した水浴上に移し、溶液中に4−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル株式会社製CMS−14)152.6グラム(1モル)を約15分間かけて徐々に滴下した。その後水浴の温度を上昇させ、反応混合物の温度を65℃まで上昇させて3時間攪拌を行った後、室温まで冷却し、析出した固体を濾過により回収した。メタノールにより洗浄を行った後、真空乾燥器内で乾燥を行い目的とする比較化合物R−1を得た。
【0128】
【化53】

【0129】
(実施例10〜28)光硬化性組成物の実施例と比較例1〜10
上記の実施例で得られた本発明の多官能性モノマーとしてTD−7、20、22、25、MA−7、20、BA−7、20およびVA−7、20を使用して、それぞれ表1の配合で混合して光硬化性組成物(実施例10〜28)を作製した。また、比較として下記構造の化合物2種(ナガセケムテックス株式会社製デナコールアクリレートDM−851およびDA−314)と上記の比較合成例1で合成したR−1を用いて、同じく表1中に示す配合で同様に比較光硬化性組成物(比較例1〜10)を作製した。表1において、反応性希釈剤を用いる場合にはIBAと表記したアクリル酸イソボルニルエステル(東京化成工業株式会社製)を使用した。光重合開始剤としては、表中に示すT−6およびT−6とBC−2の混合物を表中に示す質量部で使用した。表中の配合で各化合物を混合し、溶剤として1,4−ジオキサン(DOXと略記)を表中の配合で加えて溶解した溶液を光硬化性組成物溶液として厚みが200μmのポリエステルフィルム上にドクターバーを使用して乾燥皮膜の厚みが20μmになるように塗布し、ドライヤーを使用して光硬化性組成物である乾燥皮膜をポリエステルフィルム上に形成した。
【0130】
【化54】

【0131】
【化55】

【0132】
【表1】

【0133】
上記のようにして形成したポリエステルフィルム上の光硬化性組成物に対して、紫外線照射を行い、光硬化を行った。紫外線照射はウシオ電機株式会社製超高圧水銀ランプ搭載露光装置スポットキュアSP−Vを使用して、照射光量が200mW/cmになるように調整して10秒間光照射を行った。
【0134】
光照射による光硬化性組成物中の化合物の重合率は、特開2003−292535号公報(特許文献2)に記載される方法に従って赤外分光光度計(FT−IR)を使用して炭素−炭素二重結合による990cm−1または780cm−1付近の吸収を光硬化前後で測定することで求めた。
【0135】
耐薬品性の評価は、光硬化後の試料表面をアセトンで湿らせた布を用いて20回強く擦りつけ、全く変化が認められなかった場合を◎とし、皮膜が僅かに変質するか、部分的に傷が入った場合を○とし、皮膜は残存しているが明白なダメージが認められる場合を△とし、皮膜が完全に除去された場合を×とした。
【0136】
体積収縮率の測定は光硬化前後の試料の断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を使用して試料厚みの測定を行い、硬化前後の断面写真における皮膜厚みの変化から求めた。試料厚みは部分的に異なるため厚み変化が明確に認められた場合について計算を行い、5%もしくは10%程度の数値を目安として算出した。厚み変化が認められない場合は0%とした。
【0137】
このようにして得られた結果を表2にまとめた。
【0138】
【表2】

【0139】
本発明の多官能性モノマーを含有する光硬化性組成物は高い重合率を示し、優れた耐薬品性および低い体積収縮率を示すことが明らかとなった。比較として用いたR−1は比較例9では結晶化したため光重合性を示さず、また比較例10では共重合モノマーIBAとの相溶性が低く相分離したため均質な膜が形成されなかった。比較例1〜8では何れも耐薬品性が低く体積収縮率においても相対的に大きな値を示したことから好ましくない結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明で得られる多官能性モノマーは1,3,4−チアジアゾール誘導体であり、高屈折率用プラスチックスの原料モノマー、金属表面処理剤、潤滑油添加剤の原料、感光性組成物の原料、医薬および農薬の原料およびそれらの中間体として利用可能である。また本発明の光硬化性組成物は、印刷版、インキ、塗料、接着剤、表面処理剤、光学レンズ材料、光ファイバーコーティング、三次元造形、ホログラフィー記録材料、プリント配線板やIC等の電子材料に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、重合性二重結合基が結合した1,3,4−チアジアゾール基を2個以上有する一般式Iで示される多官能性モノマー。
【化1】

(一般式IにおいてRは水素原子またはメチル基を表し、連結基Lは、アリーレン基、−C(=O)O−、−CONH−、−OC(=O)−、−C(=O)−、−CH−、−CH(−)−、−CH(OH)−および−CHO−基から選ばれる基、あるいはこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。Rは水酸基、−OC(=O)Rおよび−OC(=O)NHRから選ばれる基を表す。RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、シクロアルキル基およびアシルオキシ基から選ばれる基、あるいはこれらの任意の組み合わせからなる基を表す。Zは炭素数が3以上のアルキレン基、アルキレンオキシ基およびアリーレン基から選ばれる基、あるいは下記から選ばれる任意の基を3個以上組み合わせて得られる基を表す。nは2以上の整数を表す。)
【化2】

【請求項2】
前記請求項1に記載の多官能性モノマーとともに光重合開始剤を併せて含む光硬化性組成物。

【公開番号】特開2011−52133(P2011−52133A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202948(P2009−202948)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】