説明

多層の膜電極接合体の製造方法及び積層型電池

【課題】正極板及び負極板を容易に精度よく積層できる多層の膜電極接合体の製造方法及び積層型電池を提供する。
【解決手段】本発明は、多層の膜電極接合体1の製造方法であって、正極板2及び負極板7の一の板面又は他の板面のいずれか又は双方に電解液を塗工し固体化又はゲル化して電解質膜を形成する工程と、複数の正極板2を積層して該正極板2の一端部13を接合する正極板積層体5を形成する工程と、複数の負極板7を積層し該負極板7の一端部21を接合する負極板積層体10を形成する工程と、正極板積層体5の一の正極板2をめくった後に、負極板積層体10の一の負極板7をめくり電解質膜を介在させた状態で正極板2上に積層する工程と、負極板積層体10の一の負極板7をめくった後に、正極板積層体5の一の正極板2をめくり電解質膜を介在させた状態で負極板7上に積層する工程とを交互に行う正負極板積層工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等に用いられる多層の膜電極接合体の製造方法及び積層型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極活物質が正極集電体に塗工された正極板と、負極活物質が負極集電体に塗工された負極板とを、これらの間にセパレータを介装させて積層し、これら正極板、セパレータ及び負極板を積層させた該積層体を電解液と共にケース内に密封するとともに、積層体の正極板と負極板のそれぞれに接続された電極端子をケースから突出させて概略構成されたものであり、前記積層体の製造方法としては、従来より下記特許文献1に開示された方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された積層体の製造方法は、ロール状に巻回された不織布等の電気絶縁性のシートからなるセパレータを、積層ステージ上でつづら折りになるようにジグザグに折り畳むとともに、折り畳むたび毎に正極板及び負極板を該セパレータ上に交互に配置して挟み込むというものである。
また、上記方法により製造された積層体は、電解液と共に可撓性のあるシート状外装体等のケースに封止してリチウムイオン二次電池とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−102871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の積層体の製造方法によれば、正極板及び負極板を1枚ずつ保持し積層ステージ上に移動して該ステージ上でセパレータを挟み込みながら積層しているだけで、正極板、負極板及びセパレータが互いに連結しておらず固定されていない。したがって、積層時に正極板、セパレータ及び負極板を正確に位置決めしなければならず、また、正確に位置決めしても、正極板、セパレータ及び負極板が位置ずれして積層不良となることがあり、該積層体の製造効率が悪いという問題があった。
【0006】
また、正極板及び負極板を保持、移動する機構及びセパレータを移動及び積層するための機構が大掛かりとなるため、装置が大型化して装置のスペース効率が悪くなるという問題があった。
【0007】
また、前記積層体によりリチウムイオン二次電池を製造する場合には、ケース内に電解液が充填されるため、電解液として用いられる有機溶媒の液漏れに伴う充放電サイクル寿命の低下の可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みて、正極板、電解質膜及び負極板を精度よく位置決めして効率よく積層できるとともに、製造装置をコンパクトにすることができ、また電解液の液漏れが生じ難い多層の膜電極接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、正極板と負極板との間に電解質膜を介装させつつこれら正極板と負極板とを交互に積層して形成される多層の膜電極接合体の製造方法であって、前記正極板及び前記負極板の一の板面又は他の板面のいずれか一方又は双方に電解液を塗工し固体化又はゲル化して電解質膜を形成する工程と、複数の前記正極板を積層するとともに、これら複数の正極板の一端部を接合して閉じ、他端部を開放端とする正極板積層体を形成する工程と、複数の前記負極板を積層するとともに、これら複数の負極板の一端部を接合して閉じ、他端部を開放端とする負極板積層体を形成する工程と、前記正極板積層体の一の前記正極板をめくった後に、前記負極板積層体の一の前記負極板をめくり電解質膜を介在させた状態で前記正極板上に前記負極板を積層する工程と、前記負極板積層体の一の前記負極板をめくった後に、前記正極板積層体の一の前記正極板をめくり電解質膜を介在させた状態で前記負極板上に前記正極板を積層する工程とを交互に行う正負極板積層工程とを有することを特徴とする。
本発明では、複数の正極板がその一端部において接合されており、複数の負極板もその一端部において接合されているため、正極板及び負極板の積層時に位置ずれし難い。また、正極板と負極板とを固体又はゲル状の電解質膜を挟みつつ積層するにあたっても、電解質膜は、予め正極板及び負極板の少なくとも一方の片面又は両面に積層固定されているため、積層を重ねても積層された正極板、電解質膜及び負極板が位置ずれし難い。更に、正極板及び負極板がそれぞれ一端部において接合されているため、積層を重ねるに応じて互いに堅固に噛み合って、積層された正極板、電解質膜及び負極板が位置ずれし難い。また更に、積層して接合された正極板積層体の正極板と負極板積層体の負極板とを交互に積層するものであるため、多層の接合体の製造装置をコンパクトにし易い。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の多層の膜電極接合体の製造方法であって、前記電解質膜を形成する工程の後に、前記正極板積層体が形成され又は前記負極板積層体が形成されることを特徴とする。
本発明では、正極板又は負極板に電解質膜を形成した後に、正極板積層体が形成され又は負極板積層体が形成されるため、正負極板積層工程をより一層効率的に行うことができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の多層の膜電極接合体の製造方法であって、前記正極板又は負極板のいずれか一方又は双方の前記一端部は、正極活物質層又は負極活物質層が形成されていない接合代とされていることを特徴とする。
本発明では、正極板又は負極板のいずれか一方又は双方の一端部が、正極活物質層又は負極活物質層が形成されていない接合代とされているため、接合代間で導通が確保されることにより、抵抗溶接や導電性ペーストによる接着などの容易な溶接方法を採用することができるとともに、一端部同士を確実に接合することができる。
【0012】
請求項4の発明は、積層型電池に関する発明であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法により製造された多層の膜電極接合体を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明では、多層の膜電極接合体が位置ずれしにくい製造方法とされているため、積層型電池の積層状態が良好となる。また、固体又はゲル状の電解質膜を用いた多層の膜電極接合体が積層型電池に用いられるため、積層型電池の液漏れが発生しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る多層の膜電極接合体の製造方法によれば、上記した解決手段によって以下の効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、正極板及び負極板がそれぞれ一端部において接合されているため、正極板と負極板とを固体又はゲル状の電解質膜を挟みつつ積層するにあたって位置ずれし難く、かつ積層を重ねるに応じて互いに堅固に噛み合って、積層された正極板、電解質膜及び負極板が位置ずれし難い。したがって、多層の膜電極接合体を簡便に製造することができるとともに、製造効率が高いという効果を奏する。また、積層して接合された正極板積層体の正極板と負極板積層体の負極板とを交互に積層するものであるため、多層の接合体の製造装置をコンパクトにし易いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】は、本発明の一実施形態として示した製造方法を用いて製造された多層の膜電極接合体を示した斜視図である。
【図2】は、本発明の一実施形態として示した製造方法を用いて製造された多層の膜電極接合体の構成部材を示した図であり、(a)は正極板の平面図、(b)負極板の平面図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態として示した多層の膜電極接合体の製造方法の製造工程の一部を示した模式図である。
【図4】は、本発明の一実施形態として示したリチウムイオン電池を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の製造方法により製造された多層の膜電極接合体を示した斜視図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態の製造方法の対象となる多層の膜電極接合体1は、電解液が塗工されて固体又はゲル状の電解質膜(本図においては不図示)が形成された複数の正極板2,2・・を積層し、これら複数の正極板2,2・・の一端部を接合した該接合部3から端子用タブ4を突出させた正極板積層体5と、電解液が塗工されて電解質膜(本図においては不図示)が形成された複数の負極板7,7・・を積層し、これら複数の負極板7,7・・の一端部を接合した該接合部8から端子用タブ9を突出させた負極板積層体10とを交互に積層して形成されたものである。
【0017】
図2(a)に示すように、正極板2は、例えば略長方形に形成されたアルミニウム箔からなる正極集電体11に、短手方向の一端部13を残して両面に正極活物質層を形成したものである。短手方向の一端部13は、正極板2,2・・同士を接合する際の接合代となる部分であり、それ以外は電極塗工部14となっている。
【0018】
正極活物質層は、例えば正極活物質と、導電助剤、バインダーとなる結着剤を溶媒に分散させてなる正極用スラリーにより構成されたものであり、正極集電体11の電極塗工部14の両面に塗布されている。
【0019】
正極活物質としては、例えば一般式LiMxOy(ただし、Mは金属であり、x及びyは金属Mと酸素Oの組成比である)で表される金属酸リチウム化合物が用いられている。具体的には、金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が用いられている。
導電助剤としてはアセチレンブラック等が用いられ、結着剤としてはポリフッ化ビニリデン等が用いられている。
【0020】
図1に示すように、この正極板2は、正極活物質層が形成されていない一端部13を同方向に向けて複数積層されている。正極板2の一端部13は、導通が確保され、例えば抵抗溶接や超音波溶接、テープによる貼着等の方法によって厚さ方向に接合される接合部3を形成しており、一端部13以外の端部は正極板2が互いに分離した開放端15を形成している。
正極板2の端子用タブ4は、正極板2の一端部13を一体化した接合部3に接合されて外方に突出するように設けられたものであり、例えばアルミニウム等により形成されているが、正極活物質層が形成されていない接合部3を端子用タブ4として兼用させたものであってもよい。
【0021】
図2(b)に示すように、負極板7は、例えば略長方形に形成された銅(Cu)からなる負極集電体20に、短手方向の一端部21を残して両面に負極活物質層を形成したものである。短手方向の一端部21は、負極板7,7・・同士を接合する際の接合代となる部分であり、それ以外は電極塗工部22となっている。
【0022】
負極活物質層は、例えば炭素粉末や黒鉛粉末等からなる炭素材料と、ポリフッ化ビニリデンのような結着剤とを溶媒に分散させてなる負極用スラリーにより構成されたものであり、負極集電体20の電極塗工部22の両面に塗布されている。
【0023】
図1に示すように、この負極板7は、負極活物質層が形成されていない一端部21を同方向に向けて複数積層されている。負極板7の前記一端部21は、導通が確保され、例えば抵抗溶接や超音波溶接、テープによる貼着等の方法によって厚さ方向に接合される接合部8を形成しており、一端部21以外の端部は負極板7が互いに分離した開放端23を形成している。
負極板7の端子用タブ9は、一端部21を一体化した接合部8に、更に接合されて外方に突出するように設けられたものであり、例えばニッケル等により形成されているが、負極活物質層が形成されていない接合部8を端子用タブ9として兼用させたものであってもよい。
【0024】
電解質膜6は、正極板2及び負極板7の少なくとも一方の板面に電解液を塗工し固体化又はゲル化させたものである。この電解質膜6は、正極板2及び負極板7の両板面に設けられていることがより好ましい。
【0025】
電解液は、例えば、高分子マトリックス及び非水電解質液(すなわち、非水溶媒及び電解質塩)からなり、ゲル化されて表面に粘着性を生じるものである。又は、電解液は、高分子マトリックス及び非水溶媒からなり、固体電解質となるものである。いずれの電解液であっても、該電解液が正極板2又は負極板7に塗工された際に粘着性を有するものが用いられる。また、電解液は、正極板2又は負極板7の板面から分離しない自立膜を形成するものであることが好ましい。
【0026】
高分子マトリックスとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド等のアルキレンエーテルをはじめ、ポリエステル、ポリアミン、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン等が用いられる。
【0027】
非水溶媒は、γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物、ジメチルホルムアミド等のアミド化合物等、単独または2種類以上を混合して調製される。
【0028】
また、電解液を固体電解質膜にする場合には、アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル化合物:ジメチルホルムアミド等のアミド系化合物を単独または2種類以上を混合して調製される。
電解質塩としては、特に限定されないが六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩等が使用できる。
【0029】
次に、多層の膜電極接合体1の本実施形態の製造方法について図2,図3を用いて説明する。この多層の膜電極接合体1の製造方法は、図2に示すように、(I)正極板2及び負極板7それぞれの一の板面又は他の板面のいずれか又は双方に電解液を塗工し、固体化又はゲル化して電解質膜6を形成する工程と、(II)図3(a)に示すように、複数の正極板2,2・・を積層するとともに、これら複数の正極板2,2の一端部13を抵抗溶接等により接合して閉じ、他端部を開放端15とする正極板積層体5を形成する工程と、(III)図3(b)に示すように、複数の負極板7,7・・を積層するとともに、これら複数の負極板7,7・・の一端部21を接合して閉じ、他端部を開放端23とする負極板積層体10を形成する工程と、(IV)図3(c)に示すように、正極板積層体5の一の正極板2をめくった後に、負極板積層体10の一の負極板7をめくり電解質膜6を介在させた状態で正極板2上に負極板7を積層する工程と、負極板積層体10の一の負極板7をめくった後に、正極板積層体5の一の正極板2をめくり電解質膜6を介在させた状態で負極板7上に正極板2を積層する工程とを交互に行う正負極板積層工程とを備えている。
【0030】
(I)電解質膜を形成する工程
正極板2及び負極板7に電解質膜6を形成する工程においては、まず予め正極板2及び負極板7を形成しておく。
正極板2の形成においては、アルミニウム箔等を用いて正極集電体11とし、該正極集電体11に図2(a)に示すような接合部3と電極塗工部14とを設定する。そして、電極塗工部14の両面に正極用スラリーを塗布し、乾燥させて正極集電体11上に正極活物質層を設けロール状にした正極シートを作製しておく。この正極シートを延出し、所定の寸法で順次切断または打ち抜きし、図2(a)に示す正極板2を得る。なお、正極用スラリーの塗布後は、必要に応じてプレスを行ってもよい。
そして、この正極板2の片面又は両面の板面に、電解液を塗布し、冷却して図3(a)に示す固体又はゲル状の電解質膜6を形成する。
又は、ゲル状の電解質膜6は、正極シートを作製した時点、すなわち電極塗工部14の両面に正極用スラリーを塗布し、乾燥させて正極活物質層とした後に同正極シート上に形成しておいてもよく、このように正極シート状にゲル状の電解質膜6を形成しておいたものをロール状にしておき、所定の大きさに切り出して正極板2を作製してもよい。
【0031】
負極板7の形成においては、銅箔等を用いて、負極集電体20とし、該負極集電体20に図2(b)に示すような接合部8と電極塗工部22とを設定する。そして、電極塗工部22の両面に負極用スラリーを塗布し、乾燥させて負極集電体20上に負極活物質層を設けロール状にした負極シートを作製しておく。この負極シートを延出し、所定の寸法で順次切断又は打ち抜きし、図2(b)に示す負極板7を得る。なお、負極用スラリーの塗布後は、必要に応じてプレスを行ってもよい。
そして、この負極板7の片面又は両面の板面に、電解液を塗布し、冷却して図3(b)に示す固体又はゲル状の電解質膜6を形成する。
ゲル状の電解質膜6は、負極シートを作製した時点、すなわち電極塗工部22の両面に負極用スラリーを塗布し、乾燥させて負極活物質層とした後に同負極シート上に形成しておいてもよく、このように負極シート状にゲル状の電解質膜6を形成しておいたものをロール状にしておき、所定の大きさに切り出して負極板7を作製してもよい。
【0032】
なお、正極板2及び負極板7は、電解液を塗工する前に、乾燥炉等で十分に水分を飛ばして乾燥し、電解液の塗工を良好に行えるようにしておく。
【0033】
(II)正極板積層体を形成する工程
図3(a)に示すように、正極板積層体5を形成するに際しては、上記電解質膜6が板面に形成された正極板2を、接合部3が一方向を向くようにして複数積層し、これら複数の正極板2,2・・の一端部13,13・・を抵抗溶接,導電性ペーストによる接着,超音波溶接,導電性の粘着剤を塗布した金属テープ等の導電性テープによる貼着等の方法により接合して正極板積層体5を得る。なお、電解質膜6が正極板2の一方の板面に形成されている場合には、この一方の板面を一方向に向けて正極板2同士の間に電解質膜6が必ず介装されるように積層する。正極板積層体5において一体となるよう接合された接合部3には、例えばアルミニウム等よりなる端子用タブ4を溶接により接合し、正極板2の外方に向けて突出させるか、正極活物質層が形成されていない接合部3を端子用タブ4と兼用させる。
【0034】
(III)負極板積層体を形成する工程
負極板積層体10は、正極板積層体5と略同様の方法で作製される。
すなわち、図3(b)に示すように、上記の電解質膜6が形成された負極板7を、接合部8が一方向を向くようにして複数積層し、これら複数の負極板7,7・・の一端部21,21・・を抵抗溶接,導電性ペーストによる接着,超音波溶接,導電性テープによる貼着等の方法により接合して負極板積層体10を得る。なお、電解質膜6が負極板7の一方の板面に形成されている場合には、この一方の板面を一方向に向けて負極板7同士の間に電解質膜6が必ず介装されるように積層する。負極板積層体10において、一体となるよう接合された接合部8には、例えばニッケル等よりなる端子用タブ9を溶接により接合し、負極板7の外方に向けて突出させるか、負極活物質層が形成されていない接合部8を端子用タブ9と兼用させる。
この負極板積層体10の負極板7は、正極板積層体5の正極板2の積層よりも一枚多く積層されている。
【0035】
(IV)正負極板積層工程
正負極板積層工程においては、正極板積層体5及び負極板積層体10のそれぞれの接合部3,8を平行に対向させて、図3(c)に示すように、これら接合部3,8をそれぞれ軸として正極板2,2・・及び負極板7,7・・を反転させる。
そして、負極板積層体10の負極板7,7・・同士が電解質膜6により融着している場合には、該負極板積層体10を加熱して電解質膜6を僅かに溶融させ、電解質膜6によって互いに融着した負極板積層体10の負極板7,7・・同士を分離して負極板積層体10の最上部に位置する負極板7を捲り反転させて接合部3,8間に配置し、次いで、正極板積層体5の最上部に位置する正極板2をめくって電解質膜6を介装させるようにして正極板2を積層する。この際、上記と同様に、正極板積層体5の正極板2,2・・同士が電解質膜6により融着している場合には、正極板積層体5を加熱して電解質膜6によって互いに融着した正極板2,2・・を分離しておく。
また、正極板2と負極板7とは、それぞれの電極塗工部14,22すなわち正極活物質層と負極活物質層同士が互いに対向して重なり合うように積層する。
同様にして、正極板2の電極塗工部14に電解質膜6を介装させた状態で負極板7を積層する。
【0036】
このように、正極板2,電解質膜6,負極板7,電解質膜6,正極板2・・と電解質膜6を介装させながら正極板2と負極板7とを交互に積層していくことによって、多層の膜電極接合体1を得る。この場合、負極板積層体10には、正極板積層体5の正極板2の枚数よりも1枚多く負極板7が積層されているため、多層の膜電極接合体1の最外層に位置する電極板は、負極板7,7となる。
このようにして多層の膜電極接合体1を形成することにより、最外層に正極板2を位置させることにより生じ得るリチウムの樹枝状析出物(デンドライト)の発生を防止してショート等の不具合を引き起こすおそれを回避することができる。なお、左記デンドライトの発生は、多層の膜電極接合体1の最外層に正極板2が位置し、かつ正極板2の外方を向く(すなわち負極板7に対向していない)板面に正極活物質層が形成されている場合であるので、多層の膜電極接合体1の正極板2と負極板7の双方の枚数を調整せず正極板2を最外層に位置させる場合であっても、該最外層に位置する正極板2の外方を向く板面に正極活物質層を形成しないことによっても、デンドライトの発生を防止してショート等の不具合を引き起こすおそれを回避することができる。
上記のようにして多層の膜電極接合体1を作製した場合には、一端部13が接合されて連結固定された複数の正極板2,2・・と、一端部21が接合されて連結固定された複数の負極板7,7・・とを用いて積層しているため、積層時に正極板2及び負極板7が位置ずれし難く、また相互に挟み込んだ状態となるため、積層を重ねるにしたがって各正極板2及び負極板7が動き難くなり、交互に積層された正極板2及び負極板7の積層体自身が堅固に位置決めされた状態となる。
【0037】
上記の方法で得られた多層の膜電極接合体1は、図4に示すように、正極板積層体5の接合部3と負極板積層体10の接合部8との双方に接続された端子用タブ4,9を外方に突出させた状態で、例えばラミネートフィルム25等のケースで包装し、外周を封止してリチウムイオン二次電池A等の積層型電池となる。
【0038】
以上のように、本発明の多層の膜電極接合体1の製造方法によれば、一端部13が接合されて連結固定された複数の正極板2,2と、一端部21が接合されて連結固定された複数の負極板7,7・・とを用いて積層するため、正極板2と負極板7の積層過程において位置ずれを生じ難く、積層を精度よく、簡単かつ効率的に行うことができるという効果が得られる。
【0039】
また、積層を重ねるにしたがって相互に挟み込む状態となるため正極板2及び負極板7が一層動き難くなり、積層された多層の膜電極接合体1が位置ずれし難くなる。したがって、積層状態が良好な多層の膜電極接合体1を効率よく製造することができるという効果が得られる。
【0040】
また、正極板2、電解質膜6及び負極板7の積層において、正極板2と負極板7との位置決めは、それぞれの接合部3,8を対向させるだけでよく、かつ、正極板2及び負極板7に予め電解質膜6が形成されているため正極板積層体5の正極板2及び負極板積層体10の負極板7をめくって重ねていくだけのシンプルな方法で積層が行われる。したがって、多層の膜電極接合体1の製造を精度よく簡便にすることができるとともに、製造効率を高めることができるという効果を奏する。
【0041】
また、正極板積層体5及び負極板積層体10を形成する工程と、正負極板積層体を形成する工程とを分離して、作業を単純化させることができるため、作業効率を一層高められるという効果が得られる。
【0042】
また、複雑な位置決め機構及び正極板及び負極板を保持及び移動させる機構が不用となり、多層の膜電極接合体1の製造装置をコンパクトにすることができ、設備のスペース効率を上げることができるという効果が得られる。
【0043】
また、上記の作用及び効果を奏する多層の膜電極接合体1をリチウムイオン二次電池26等の積層型電池に適用することにより、積層状態が良好で液漏れせず、かつ製造費用を抑えた好適な積層型電池を製造することができるという効果が得られる。
【0044】
また更に、上記実施形態においては、正極板積層体5と負極板積層体10の各接合部3,8を平行にして対向させた位置関係で正極板2と負極板7とを積層しているが、この位置関係に限定されるものではなく、正極板2と負極板7とを積層して電極塗工部1314,22同士を重ね合わせることができるのであれば、例えば直交する方向など、接合部3と接合部8との間で角度を持たせた配置関係にして正極板2と負極板7とを交互に積層してもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、ゲル状の電解質膜6は、正負極板積層工程の前に正極板2及び負極板7の板面に形成されているが、この方法に限定されるものではなく、正負極板積層工程において、すなわち正極板積層体5の正極板2と負極板積層体10の負極板7とを交互に積層する際に、積層された正極板2及び負極板7の上面に電解液を塗布し乾燥させて形成してもよい。かかる方法の場合には、電解液として速やかにゲル化するものを採用するのが望ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 多層の膜電極接合体
2 正極板
3 接合部
5 正極板積層体
6 電解質膜
7 負極板
8 接合部
10 負極板積層体
13 一端部(接合代)
14 電極塗工部
15 開放端
21 一端部(接合代)
22 電極塗工部
23 開放端
A リチウムイオン二次電池(積層型電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板との間に電解質膜を介装させつつこれら正極板と負極板とを交互に積層して形成される多層の膜電極接合体の製造方法であって、
前記正極板及び前記負極板の一の板面又は他の板面のいずれか一方又は双方に電解液を塗工し固体化又はゲル化して電解質膜を形成する工程と、
複数の前記正極板を積層するとともに、これら複数の正極板の一端部を接合して閉じ、他端部を開放端とする正極板積層体を形成する工程と、
複数の前記負極板を積層するとともに、これら複数の負極板の一端部を接合して閉じ、他端部を開放端とする負極板積層体を形成する工程と、
前記正極板積層体の一の前記正極板をめくった後に、前記負極板積層体の一の前記負極板をめくり電解質膜を介在させた状態で前記正極板上に前記負極板を積層する工程と、前記負極板積層体の一の前記負極板をめくった後に、前記正極板積層体の一の前記正極板をめくり電解質膜を介在させた状態で前記負極板上に前記正極板を積層する工程とを交互に行う正負極板積層工程とを有することを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多層の膜電極接合体の製造方法であって、
前記電解質膜を形成する工程の後に、前記正極板積層体が形成され又は前記負極板積層体が形成されることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層の膜電極接合体の製造方法であって、
前記正極板又は負極板のいずれか又は双方の前記一端部は、正極活物質層又は負極活物質層が形成されていない接合代とされていることを特徴とする多層の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の多層の膜電極接合体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする積層型電池。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−190567(P2012−190567A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50881(P2011−50881)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】