説明

多層チューブ

【課題】可塑剤を配合せずに、柔軟性に富む多層チューブを提供する。
【解決手段】厚み方向において複数の層で構成された中空チューブであって、前記複数の層が、外側から、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層と、接着性ポリアミドで構成された中間層と、接着性フッ素樹脂で構成された内層とを含み、更に必要に応じて、外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマーと、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー又は高分子型帯電防止剤とで構成された最外層を有する多層チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤のブリーディング(析出)の問題がない多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの塗装ラインにおいては、当初、可塑剤入りナイロンチューブ(PA11又はPA12)が用いられていたが、塗料がチューブ内面へ付着し易く、チューブ内の可塑剤が流体(塗料や溶剤)に溶出することによる、塗料自体の変質や、チューブ硬化や細化現象が発生することによるチューブの耐久性(寿命)にも問題が発生していた。
【0003】
前記問題の解決のため、チューブ内面が平滑性に優れ塗料が付着し難く、かつ、耐薬品性(特に耐溶剤性)に優れた単層テフロンチューブ(フッ素樹脂チューブ)が使用されるようになった。
【0004】
しかしながら、テフロンチューブは前記の点において優れた特性を有するものの、可塑剤入りナイロンチューブに比較すると、柔軟性、耐屈曲疲労特性、耐摩耗性において著しく劣ることから、塗装用ロボット等の可動部や摺動部等の配管に使用されると、チューブに短期間でヒビや亀裂が発生し、チューブ断裂トラブルに繋がり易く、単層テフロンチューブの可動部への使用は殆ど不可能で、配管が固定された部分等の動きの少ない条件下での使用に限られてきている。
【0005】
前記問題を解決するために、可塑剤入りナイロン樹脂とフッ素樹脂を組み合わせた、2層又は3層構成のチューブが開発され、現在、自動車ボディの塗料用チューブとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、可塑剤入りナイロン樹脂を用いたチューブは、経時変化による可塑剤のブリーディング(析出)が問題となっている。特に自動車ボディの塗装ライン環境は、溶剤雰囲気濃度が高く、可塑剤のブリーディングも促進され易い傾向となる。また、溶剤等を常時取り扱う環境下にあるため、作業ミスやトラブル発生時に、溶剤そのものが飛散することが多く、外層のナイロンに溶剤自体が直接接触や付着することにより、溶剤の浸透による可塑剤のブリーディング(析出)もより加速され、チューブ硬化や細化現象も早まり、前述した単層テフロンチューブと同様のトラブルに繋がる。
【0007】
一方、可塑剤入りナイロン樹脂の可塑剤を省略すると、可塑剤が配合されていないため、前記テフロンチューブ(フッ素樹脂チューブ)と同等の硬度となり、柔軟性が極端に低下することから、目的の塗装用ロボット等の可動部や摺動部への配管自体が不可能となり、前記可塑剤のブリーディングしたチューブと同様に単層テフロンチューブと同様のトラブルに繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−315362号公報(請求項1、段落0021、0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、可塑剤を配合せずに、柔軟性に富む多層チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)厚み方向において複数の層で構成された中空チューブであって、前記複数の層が、外側から、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層と、接着性ポリアミドで構成された中間層と、接着性フッ素樹脂で構成された内層とを含む多層チューブ。
(2)熱可塑性ポリアミドエラストマーが、ポリアミド成分によって構成されたハードセグメントとポリアルキレンエーテルグリコール成分によって構成されたソフトセグメントからなるポリアミド系ブロック共重合体である前記(1)に記載の多層チューブ。
(3)外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマー及び熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーで構成された最外層を有する前記(1)又は(2)に記載の多層チューブ。
(4)熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーが、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーである前記(3)に記載の多層チューブ。
(5)最外層の外側表面が梨地状に形成されている前記(3)又は(4)に記載の多層チューブ。
(6)外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマー及び高分子型帯電防止剤で構成された最外層を有する前記(1)又は(2)に記載の多層チューブ。
(7)可塑剤を含まない前記(1)〜(6)のいずれかに記載の多層チューブ。
(8)塗装用塗料配管チューブ、飲料輸送チューブ、液体状食品輸送チューブ、薬液輸送チューブ又はクリーンルーム内配管チューブである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の多層チューブ。
【0011】
なお、本明細書では、「樹脂」、「エラストマー」、「重合体・ポリマー(例えばポリアミド)」という語は、これら単独の意味の他、添加剤などを含む組成物の意味としても用いることがある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多層チューブは、内層、中間層及び外層等に使用される樹脂原料の全てに可塑剤が配合されていないクリーン性の高い製品となっており、従来のチューブにおいて問題となった可塑剤が原因となるトラブルを解消できる。本発明の多層チューブは、可塑剤を含まないクリーンな特性があることから、塗装用の流体(塗料や溶剤)に使用される配管用チューブの他、環境汚染を引き起こさないチューブ、例えば、食品関連の流体用チューブ、クリーンルーム内配管チューブ(流体:クリーンエア、冷媒、溶剤等)、或いはインク、油等の輸送用チューブとしても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は内層、中間層及び外層からなる3層チューブを示す。
【図2】図2は内層、中間層、外層及び最外層からなる4層チューブを示す。
【図3】図3は多層チューブの製造装置を示す。
【図4】図4は表面滑り性試験の概略を示す。
【図5】図5は水接触角度の測定方法の概略を示す。
【図6】図6は全面浸漬後のチューブ単体引張特性試験の概略を示す。
【図7】図7は最小曲げ半径測定試験の概略を示す。
【図8】図8は柔軟性試験の概略を示す。
【図9】図9は真空容器法によるヘリウム漏れ量測定試験装置を示す。
【図10】図10は実施例2の4層チューブ及び比較例1の2層チューブのチューブ長さとヘリウム漏れ量(継手のヘリウム漏れ量を含む)の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多層チューブは、厚み方向において複数の層で構成された中空チューブである。更に、この複数の層は、外側から、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層と、接着性ポリアミドで構成された中間層と、接着性フッ素樹脂で構成された内層とを含む。本発明の多層チューブは、外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマーと、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー又は高分子型帯電防止剤とで構成された最外層を有していてもよい。
【0015】
[内層]
内層は、接着性フッ素樹脂で構成されている。
【0016】
本発明における接着性フッ素樹脂とは、融点が150〜250℃であって、変性オレフィン樹脂の一種であるレクスパールRA3150(日本ポリエチレン社製)とフッ素樹脂とを、4×10〜5×10Paの試料圧で、240℃で、10分間プレスして、積層シートを作製し、幅2.5cm、長さ25cmに切断して採取したサンプルを、JIS Z0237に準じた方法にて、剥離速度5mm/min、温度23℃で、180度剥離強度の測定を行った時の180度剥離強度が4N/cm以上であるフッ素樹脂をいう。
【0017】
また、本発明における接着性フッ素樹脂のIRスペクトルは、1780〜1880cm−1の間に吸収ピークを有している。好ましくは、接着性フッ素樹脂のIRスペクトルは、1790〜1800cm−1の間及び1845〜1855cm−1の間に、無水マレイン酸基等の無水物に起因する吸収ピークを有し、あるいは、1800〜1815cm−1の間に末端カーボネート基に起因する吸収ピークを有し、あるいは、1790〜1800cm−1の間、1845〜1855cm−1の間及び1800〜1815cm−1の間に、無水マレイン酸基等の無水物及び末端カーボネート基の混合物に起因する吸収ピークを有している。
【0018】
更に好ましくは、接着性フッ素樹脂のIRスペクトルは、1790〜1800cm−1の間及び1845〜1855cm−1の間に、無水マレイン酸基等の無水物に起因する吸収ピークを有し、あるいは、1800〜1815cm−1の間に末端カーボネート基に起因する吸収ピークを有している。
【0019】
また、主鎖のCH基に起因する2881cm−1付近における吸収ピークの高さに対する、無水マレイン酸基等の無水物に起因する1790〜1800cm−1の間の吸収ピークの高さの比は、0.5〜1.5、好ましくは0.7〜1.2、更に好ましくは0.8〜1.0である。
【0020】
また、主鎖のCH基に起因する2881cm−1付近における吸収ピークの高さに対する、末端カーボネート基に起因する1800〜1815cm−1の間の吸収ピークの高さの比は、1.0〜2.0、好ましくは1.2〜1.8、更に好ましくは1.5〜1.7である。
【0021】
このような接着強度を有するフッ素樹脂として、例えば、テトラフルオロエチレン単位を有するホモポリマーやコポリマーであって、末端あるいは側鎖に、カーボネート基、カルボン酸ハライド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有する樹脂が挙げられる。前記融点と接着強度を発現するのであれば、複数の樹脂を混合してもよい。市販品で前記のような接着強度を有するフッ素樹脂としては、例えば、ネオフロンEFEP(ダイキン工業社製)、フルオンLM−ETFE AH2000(旭硝子社製)が挙げられる。
【0022】
フッ素樹脂は耐薬品性(耐有機溶剤性)が優秀であり、吸水率も低いため、保護材として最適である。
【0023】
内層の厚みは、例えば、0.01〜1.0mm、好ましくは0.01〜0.5mm、更に好ましくは0.02〜0.3mm程度である。
【0024】
[中間層]
中間層は、接着性ポリアミドで構成されている。
【0025】
本発明における接着性ポリアミドとは、主にETFE系の接着性フッ素樹脂と強力に接着する特性を有したものをいう。接着性ポリアミドとしては、例えば無可塑タイプポリアミド11(PA11)、無可塑タイプポリアミド12(PA12)、ポリアミドポリアミド6/12(PA6/12)、可塑剤配合ポリアミド11、可塑剤配合ポリアミド12が挙げられ、硬度、フッ素樹脂との接着力、及び外層の熱可塑性エラストマーとの相溶性(接着性)の点から、無可塑タイプポリアミド11、無可塑タイプポリアミド12が好ましい。更に、耐屈曲疲労特性において劣る内層のフッ素樹脂の欠点を補うためには、耐屈曲疲労特性において、無可塑タイプポリアミド12の約6倍の耐久性を有する無可塑タイプポリアミド11が好ましい。前記の好ましい接着性ポリアミド11としては、例えば、無可塑タイプポリアミド11であるアルケマ社製RilsanTM B、RilsanTM Gが市販されており、当該市販品を用いることができる。
【0026】
接着性ポリアミド11で構成される中間層を用いることにより、熱可塑性ポリアミド11エラストマーで構成された外層と接着性フッ素樹脂で構成された内層とを強く接着することが可能になる。また、中間層と外層は、いずれも主成分がポリアミド11であり、結晶構造も三斜晶の単位格子となっていることから、相互間で相溶及び融着し易く、高い接着性が得られ、可動や振動等の動きの激しい部分における剥離等の問題も生じない。
【0027】
中間層の厚みは、例えば、0.01〜0.5mm、好ましくは0.01〜0.25mm、更に好ましくは0.01〜0.15mm程度である。
【0028】
[外層]
外層は、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成されている。
【0029】
前記熱可塑性ポリアミドエラストマーとしては、ポリアミド成分によって構成されたハードセグメントとポリアルキレンエーテルグリコール成分によって構成されたソフトセグメントからなるポリアミド系ブロック共重合体が挙げられる。ハードセグメントのポリアミド成分は、(1)ラクタム、(2)ω−アミノ脂肪族カルボン酸、(3)脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸又は(4)脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸よりなる群から選択され、具体的には、ε−カプロラクタム等のラクタム、11−アミノウンデカン酸(PA11)、12−アミノドデカン酸(PA12)等のω−アミノ脂肪族カルボン酸、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン等の脂肪族ジアミン、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸を例示することができる。また、前記ポリアミド系ブロック共重合体のソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルグリコールは、例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,2−プロピレングリコール等が挙げられる。
【0030】
ポリアミド系ブロック共重合体の融点はポリアミド成分によって構成されるハードセグメントとポリアルキレンエーテルグリコール成分によって構成されるソフトセグメントの種類と比率によって決められるが、通常は、130〜190℃の範囲のものが使用される。ポリアミド系ブロック共重合体としては、例えばアルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)が市販されており、当該市販品を用いることができる。
【0031】
熱可塑性ポリアミドエラストマーを外層の構成成分にすることにより、内層のフッ素樹脂や接着層に使用されている接着性無可塑タイプポリアミド樹脂の硬度が高くフレキシブル性がない欠点を補い、飛躍的な柔軟性と弾性(復元性)がチューブとして得られる。また、柔軟性の実現に関しては、所謂低分子型の可塑剤を配合していないエラストマータイプのため、可塑剤のブリーディングによるチューブの細化や硬化によるトラブルの発生もなく、柔軟性或いはその他の特性も維持可能となる。
【0032】
チューブとしての機械特性、硬度、復元性、透明性、成形性、及び柔軟性等の性能を選択する場合には、熱可塑性ポリアミドエラストマーの各グレードの諸物性から選ぶことが可能であり、例えば、熱可塑性ポリアミドエラストマーの硬度としては、ショアD26〜ショアD71の範囲から選択することが可能であるが、チューブの種々の性能や成形特性等のバランスを考慮すると、ショアD32〜ショアD68程度の硬度のグレードの選択が好ましい。
【0033】
外層の厚みは、例えば、0.2〜6.0mm、好ましくは0.3〜5.0mm、更に好ましくは0.4〜4mm程度である。
【0034】
[最外層]
本発明の多層チューブにおいて、必要に応じて設けられる最外層は、熱可塑性ポリアミドエラストマーと、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー又は高分子型帯電防止剤とで構成されている。
【0035】
プラスチックチューブは、一般的にチューブ内表面の平滑性が高く、鏡面仕上げされた状態のようにツルツルであると、接触する流体(液体や気体)に対し滑り易く、物質が付着し難く、摩擦抵抗が低くなる傾向となるが、チューブ外表面が同様に平滑性が高く、鏡面仕上げされた状態にあると、却ってチューブ同士が膠着し合う(粘り付き合う)現象が発生し、チューブ同士の滑り性が悪くなる傾向となる。
【0036】
尚、この膠着状態になる傾向は、同じチューブ同士ばかりではなく、他の樹脂や金属等のシステム構成物質に対しても発生し易くなり、表面が平滑であることに起因する接触面積の増加が要因となり、摩擦係数や摩擦抵抗の増加を招き、チューブの耐摩耗性の低下を惹き起す結果も招いている。
【0037】
したがって、塗装用ロボット内等で、流体(液体や気体)の配管用に使用される複数の配管チューブについては、他の構成物(同材質のチューブ同士や、他材質のチューブ、電線等のケーブル類、及びチューブガイド・フレキホース等)と接触する部位が存在し、その部位に屈曲、伸縮、捩れ及び摩擦等が発生する場合は、チューブ内表面は圧力損失や物質の滞留を防止するため、平滑性(ツルツル)が求められるが、チューブ外表面は逆に平滑性を抑えた適度な粗さ(梨地等)に仕上げられた、接触面積及び接触抵抗の少ないチューブの方が有効性において優れていることになる。
【0038】
しかしながら、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層がチューブ外表面となる3層チューブにおいては、チューブ内表面を平滑(ツルツル)に保持したまま、チューブ外表面を梨地状に形成することは困難である。
【0039】
前記3層チューブの前記外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマーと、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーで構成された最外層を設けることにより、チューブ外表面を梨地状に形成することが可能になる。
【0040】
最外層に用いる熱可塑性ポリアミドエラストマーとしては、外層に用いる熱可塑性ポリアミドエラストマーと同様のものを用いることができる。
【0041】
前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、ポリエステルを主成分とする熱可塑性エラストマーであれば特に制限はないが、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成誘導体とジオールから形成されるポリエステルからなるハードセグメントと、主としてポリエーテルから形成されるソフトセグメントとのブロック共重合体が挙げられる。
【0042】
前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬度(JIS K7215に準拠)は好ましくは45〜75D、更に好ましくは50〜65Dであり、曲げ弾性率(ASTM D790に準拠)は、好ましくは90〜600MPa、更に好ましくは150〜400MPaである。
【0043】
また、前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは単独でも、必要な特性を得ることを目的として、2種以上の硬度のものを配合させてもよい。
【0044】
前記ブロック共重合体のハードセグメントに用いられる芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成誘導体としては、例えばテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4´−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成誘導体、好ましくはテレフタル酸及び又はテレフタル酸ジメチルが挙げられる。
【0045】
前記ブロック共重合体のハードセグメントに用いられるジオールとしては、例えば分子量300以下のエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4´−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4´−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4´−ジヒドロキシ−p−クォーターフェニルなどの芳香族ジオール、好ましくは1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0046】
前記ブロック共重合体のソフトセグメントに用いられるポリエーテル(ポリオキシアルキレン類)としては、例えば数平均分子量300から6000程度のポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドプロピレンオキシド共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドテトラヒドロフラン共重合体、好ましくはポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが挙げられる。
【0047】
前記ブロック共重合体の製造方法は特に限定されるものではなく公知の方法で製造することができ、例えば、ジカルボン酸又はジカルボン酸アルコールジエステルとグリコールをエステル反応又はエステル交換反応させハードセグメントを作成し、ポリオキシアルキレングリコールを添加してエステル交換反応させソフトセグメントを共重合させる方法;ハードセグメントとソフトセグメントを付加反応させる方法、鎖連結剤で結合させる方法又はそれぞれの反応生成物を溶融混合させる方法などが挙げられる。
【0048】
前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーが好ましい。
【0049】
前記の好ましい熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、ハードセグメントが次式(I):
[−COCCO−O(CHO−]
(式中、−COCCO−はテレフタロイル基を表す。)
で示され、ソフトセグメントが次式(II):
[−COCCO−O{(CHO}−]
(式中、−COCCO−はテレフタロイル基を表す。)
で示される。
【0050】
前記の好ましい熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、例えばハイトレルTMシリーズ(東レ・デュポン社製)が市販されており、当該市販品を用いることができる。
【0051】
例えば、ハイトレルTM6377は、ショアD硬度(JIS K7215に準拠)63、曲げ弾性率(ASTM D790に準拠)353MPaであり、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとして好適に用いることができる。
【0052】
最外層における熱可塑性ポリアミドエラストマーと熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとの割合(質量比)は、成形時のチューブ外表面の適度な粗さ(梨地)を得ることが可能であり、かつ熱可塑性ポリアミドエラストマーの透明性及び柔軟性等の特性の維持の点で、熱可塑性ポリアミドエラストマーの配合率を高くする必要があり、95/5〜60/40であることが好ましく、90/10〜70/30であることが更に好ましい。
【0053】
配合された熱可塑性ポリアミドエラストマーと熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、互いにエーテル系エラストマー同士が溶融し合っているため、成形上の機能面及び品質面の問題は生じない。
【0054】
また、本発明の多層チューブの最外層を熱可塑性ポリアミドエラストマーと高分子型帯電防止剤で構成すると、特に、2液硬化型塗料用配管チューブとして最適である。すなわち、2液硬化型塗料の洗浄に使用する溶剤は特殊なものであるため、静電気が発生し易いことから、前記のような多層チューブが効果的である。
【0055】
前記高分子型帯電防止剤は、高分子量(例えば、数平均分子量1000以上)の帯電防止剤であればよく、特に制限されないが、通常、オレフィン系ブロック及び/又はポリアミド系ブロックと、親水性ブロックとのブロック共重合体である。なかでも、本発明では、前記熱可塑性ポリアミドエラストマーとの相溶性などの点から、ポリアミド系ブロックとポリエーテルブロックとのブロック共重合体からなり、両者に高分子型帯電防止剤が配合されたマスターバッチタイプが好ましい。このようなブロックポリマーは、例えば特表2003−508622号公報に記載されており、例えばアルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)MV1074、MV2080、MH1657、MH2030が市販されており、当該市販品を用いることができる。
【0056】
高分子型帯電防止剤の添加量は、最外層の体積固有抵抗が1×10〜1×1012Ω・cm程度の範囲になるように適宜選択できる。例えば、熱可塑性ポリアミドエラストマーと高分子型帯電防止剤との割合(質量比)は、例えば、熱可塑性ポリアミドエラストマー/高分子型帯電防止剤=100/1〜100/100程度の範囲から選択でき、例えば、100/5〜100/50、好ましくは100/10〜100/45、更に好ましくは100/15〜100/40程度である。
【0057】
前記最外層の体積固有抵抗は、例えば、1×10〜1×1012Ω・cm、好ましくは1×10〜1×1010Ω・cm、更に好ましくは5×10〜5×10Ω・cm程度である。
【0058】
最外層を構成する配合物の調製方法としては、特に限定されず、慣用の混合又は混練方法を用いることができる。例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ヘンシェルミキサー、オープンロール、ニ一ダーなどの混練機又は混合機を用いて、各種成分を加熱溶融状態で混練する方法が挙げられる。
【0059】
最外層の厚みは、用途に応じて選択すればよいが、例えば、0.01〜2mm、好ましくは0.01〜1mm、更に好ましくは0.01〜0.5mm程度である。
【0060】
本発明の多層チューブの外層又は最外層を構成するエラストマーは、本発明の目的を損なわない限り、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤)、着色剤(顔料及びマスターバッチ等)等の添加剤を含有してもよいが、これらの添加剤の合計配合量は、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0061】
[多層チューブ]
本発明の多層チューブは、少なくとも、外側から、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層、接着性ポリアミドで構成された中間層、及び接着性フッ素樹脂で構成された内層を含む複数の層構造であればよいが、用途に応じて、外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマーと、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー又は高分子型帯電防止剤とで構成された最外層を設けた四層構造が好ましい。
【0062】
本発明の多層チューブは、外径及び内径は、特に限定されず、用途に応じて選択できるが、例えば、自動車ボディの塗料用チューブとして利用する場合、外径は2〜20mm(特に3〜16mm)程度であり、内径は1.0〜15mm(特に2〜13mm)程度である。外径と内径との差(チューブの厚み)が大きすぎると、透明性が低下するため、外径と内径との差は1〜8mm(特に1〜6mm)程度である。尚、静電塗装機等に用いられるチューブは絶縁破壊電圧等の高い絶縁特性が必要となるため、チューブ肉厚を厚くする必要があるが、チューブの柔軟性及び透明性保持の観点から、外層に使用される熱可塑性ポリアミドエラストマーは、エラストマー成分が多く柔軟性及び透明性に優れた低硬度のグレード、特にショアD32〜ショアD42を選択することが好ましい。
【0063】
本発明の多層チューブは、慣用の方法、例えば、前記外層と、前記中間層と、前記内層と必要に応じて、前記最外層とを複層押出成形(共押出成形)することにより得ることができる。
【0064】
本発明の多層チューブに用いる原料には、可塑剤が配合されていないため、経時による、チューブ硬化や細化或いは硬化や脆化によるクレージングが発生せず、柔軟性等の物性及び性能も変化しない。
【0065】
本発明の多層チューブの成形においては、図3に示す複層同時押出成形機(共押出成形機)が必要となるが、表1に示す原料構成(1,2,3号機が熱可塑性ポリアミドエラストマー、4号機が接着性無可塑ナイロン、5号機が接着性フッ素樹脂)で成形すると、1,2,3号機に配されているポリアミドエラストマーの融点が低い理由により、シリンダーからアダプター部の温度を高温にすることが不可能となり、チューブ内面の平滑性(優れた面粗度を保つ)を向上させるためには、出口側のダイ付近の温度を上昇させる必要がある。したがって、チューブ表面を梨地成形させるために必要なダイ付近を低温にすることができず、高温状態のまま真空冷却水槽に導かれるため、チューブ表面樹脂の結晶化が遅れ、表面自体も平滑(ツルツル)なチューブが形成されてしまう。
【0066】
前記対策のため採用された原料構成が表2に示す構成であり、1号機に熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを20%配合している。主成分の熱可塑性ポリアミドエラストマー(アルケマ社製ペバックスTM55R53)の融点は167℃であるのに対し、加えられた熱可塑性エーテルエステルエラストマー(東レ・デュポン社製ハイトレルTM6377)の融点は217℃と高く、1号機内のシリンダーからアダプターへ到る温度勾配を高く設定できる。熱可塑性エラストマーの分解温度は、250℃であることから、表2の成形温度で成形しても、熱分解等のトラブルは発生せず、表2中のダイ付近での成形温度条件まで低温にすることが可能となり、チューブはより低温の状態で真空冷却槽に導かれるため、チューブ表面の結晶化が速まり表面の梨地成形が可能となる。
【0067】
尚、前記成形上の利点に加え、熱可塑性ポリアミドエラストマーと熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの間では、両者のソフトセグメントが同じエーテル系エラストマーであることから相溶性及び結合性においては全く問題はないが、ハードセグメントは、ポリアミドとポリブチレンフタレートで異質であることから、チューブ表面には適度なざらつき(梨地)が得られることも効果的であるといえる。
【実施例】
【0068】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で使用した成分の詳細と、実施例で得られた多層チューブの性能評価の測定方法とを以下に示す。なお、実施例中の「部」及び「%」は、特にことわりのない限り、質量基準である。
【0069】
[成分の内容]
内層(接着性フッ素樹脂):
ダイキン工業社製ネオフロンEFEP RP−5000
中間層(接着性ポリアミド):
アルケマ社製RilsanTM G KNO
外層(熱可塑性ポリアミドエラストマー):
アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53
最外層1(熱可塑性ポリアミドエラストマー+熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー):
熱可塑性ポリアミドエラストマー(アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53):80質量部
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(東レ・デュポン社製ハイトレルTM6377):20質量部
最外層2(熱可塑性ポリアミドエラストマー+高分子型帯電防止剤):
熱可塑性ポリアミドエラストマー(アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53):80質量部
高分子型帯電防止剤(アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)MV2080):20質量部
最外層3(熱可塑性ポリアミドエラストマー+高分子型帯電防止剤):
熱可塑性ポリアミドエラストマー(アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53):85質量部
高分子型帯電防止剤(アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)MV2080):15質量部
【0070】
[最外層1を構成する配合物の製造例]
二軸押出機(口径46mm、L/D=46)を使用して、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(80質量部)及び東レ・デュポン社製ハイトレルTM6377(20質量部)を230℃で溶融混練し、ペレット状の配合物を得た。
【0071】
[最外層2を構成する配合物の製造例]
二軸押出機(口径46mm、L/D=46)を使用して、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(80質量部)及びアルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)MV2080(20質量部)を180℃で溶融混練し、ペレット状の配合物を得た。
【0072】
[最外層3を構成する配合物の製造例]
二軸押出機(口径46mm、L/D=46)を使用して、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(85質量部)及びアルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)MV2080(15質量部)を180℃で溶融混練し、ペレット状の配合物を得た。
【0073】
(実施例1)3層チューブの製造
内層として、ダイキン工業社製ネオフロンEFEP RP−5000(接着性フッ素樹脂)を用い、中間層として、アルケマ社製RilsanTM G KNO(接着性ポリアミド)を用い、外層として、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(熱可塑性ポリアミドエラストマー)を用い、図3に示す製造装置で、表1に示す成形条件にしたがって、図1に示す構造の3層チューブを成形した。前記3層チューブは、(外径×内径)が(4mm×2.5mm)、(6mm×4mm)、(8mm×6mm)、(10mm×8mm)の4種類製造した。
【0074】
【表1】

【0075】
(実施例2)4層チューブの製造
内層として、ダイキン工業社製ネオフロンEFEP RP−5000(接着性フッ素樹脂)を用い、中間層として、アルケマ社製RilsanTM G KNO(接着性ポリアミド)を用い、外層として、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(熱可塑性ポリアミドエラストマー)を用い、最外層として、前記の最外層1を構成する配合物の製造例で調製した配合物を用い、図3に示す製造装置で、表2に示す成形条件にしたがって、図2に示す構造を有し、外側表面が梨地状に形成されている4層チューブを成形した。前記4層チューブは、(外径×内径)が(4mm×2.5mm)、(6mm×4mm)、(8mm×6mm)、(10mm×8mm)の4種類製造した。
【0076】
【表2】

【0077】
(実施例3)帯電防止型4層チューブの製造
内層として、ダイキン工業社製ネオフロンEFEP RP−5000(接着性フッ素樹脂)を用い、中間層として、アルケマ社製RilsanTM G KNO(接着性ポリアミド)を用い、外層として、アルケマ社製ペバックスTM(PebaxTM)55R53(熱可塑性ポリアミドエラストマー)を用い、最外層として、前記の最外層2を構成する配合物の製造例で調製した配合物を用い、実施例2と同様にして、最外層に帯電防止層を有する4層チューブを成形した。前記4層チューブは、(外径×内径)が(4mm×2mm)、(4mm×2.5mm)、(6mm×4mm)、(8mm×6mm)、(10mm×8mm)の5種類製造した。
【0078】
(実施例4)帯電防止型4層チューブの製造
前記「最外層2を構成する配合物の製造例で調製した配合物」を前記の最外層3を構成する配合物の製造例で調製した配合物を用いる以外は実施例3と同様にして、(外径×内径)が(4mm×2mm)、(4mm×2.5mm)、(6mm×4mm)、(8mm×6mm)、(10mm×8mm)の5種類の4層チューブを製造した。
【0079】
(比較例1)
内層として、ダイキン工業社製ネオフロンEFEP RP−5000(接着性フッ素樹脂)を用い、外層として、ダイセル・エポニック社製ダイアミドZL1105(接着性可塑剤入りナイロン樹脂(ポリアミド12))を用い、(外径×内径)が(6mm×4mm)、(10mm×8mm)の2種類の2層チューブを成形した。
【0080】
(試験例1)表面滑り性試験
図4に示すように、上下2本の供試チューブを中心に、6本の供試チューブで束ね、結束バンドを使用して、チューブ全体が動かない程度で固定した。このとき、結束バンドにより束ねた外側の供試チューブ6本が変形するのを防ぐため、芯棒を挿入しておいた。これを引張試験機に取付け60mm/分の速度で引張り、中心の供試チューブが外側6本のチューブ束から離脱するのに要した力を測定した。(数値が低いほど、摩擦抵抗が少なく滑り性能が良)
外径6mm、内径4mmのチューブについての試験結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
チューブの表面を梨地仕上げした実施例2の4層チューブは、中心供試チューブの離脱力が、実施例1の3層チューブに比較して60%以上減少し、梨地仕上げにより摩擦抵抗が低減され、滑り性能の向上効果が確認された。比較例1の2層チューブに関しては、可塑剤が配合されていることから、表面の梨地仕上げ成形も困難であるが、可塑剤自体がチューブ表面に析出するため、梨地仕上げの効果もないと考えられる。
【0083】
(試験例2)チューブ内面の水接触角度確認試験(液体の非付着性能確認)
1.試験目的
本発明の多層チューブの内層と外層の間には、内層のフッ素樹脂と外層の熱可塑性ポリアミドエラストマーの接着を強固にするために、中間層として接着性ポリアミド(可塑剤無配合)が配されているが、接着強度の向上に加え、内層のフッ素樹脂のチューブ内面平滑性能に対しても効果的であると考えられる。
【0084】
すなわち、比較例1の2層チューブのように、「フッ素樹脂+可塑剤入りナイロン樹脂2層チューブ」の構成においては、両者間の硬度、及び樹脂成形温度に開きがあることから、内層のフッ素樹脂が外層のナイロン樹脂との接合面の影響を受け易い傾向があるが、本発明の多層チューブのように中間層として接着性ポリアミドが配されていると、両者間の硬度、及び樹脂成形温度の差は少なくなり、内層のフッ素樹脂は接着性ポリアミドとの接合面の影響を受け難くなると考えられる。
【0085】
チューブ内面の平滑性は、面粗度の測定においても確認は可能であるが、実際に塗料等の液体を流すことを考慮した場合には、「液体の非付着性能(はじき性)」確認が、実使用に沿った判定となる。
【0086】
「液体の非付着性能(はじき性、逆の意味でぬれ性)」は、水をサンプル面に滴下し、その接触角度を測定することで判定可能となるため、「水接触角度確認試験」を実施した。
【0087】
2.供試チューブ
(1)実施例2の4層チューブ(外径10mm×内径8)[表面梨地]
(2)比較例1の2層チューブ(外径10mm×内径8)
【0088】
3.試験方法
軸方向に1/2にカットした供試チューブの内面に蒸留水を滴下し、図5に示す角度θをデジタルマイクロスコープによって測定し、2θを接触角とした(θ/2法)。
【0089】
標準的な水接触角度の確認試験は、樹脂材料自体の表面平滑性(液体の非付着性能)の性能確認を目的として行われるため、供試サンプルは樹脂材料のプレート(平面状)が用いられるが、リング状に成形されたチューブを加熱及びプレス成形してサンプルプレートを形成させると、サンプルチューブ自体の内面粗さ等の表面平滑性が変化して、実質的な「液体の非付着性能(はじき性)」が判定できなくなる。
【0090】
したがって、本試験に用いた「チューブサイズ:外径10mm×内径8mm」程度の大きさであれば、相対的な評価としての水接触角度の確認判定は可能となるため、実際のチューブを使用して試験を実施した。
【0091】
4.測定結果
各供試チューブについて接触角度を測定した結果(n=3)を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
5.測定結果考察
測定結果から明らかな通り、実施例2の4層チューブの方が、比較例1の2層チューブよりも、水接触角度が大きく、水の表面張力に優れ、結果として、「液体の非付着性能(はじき性)」において優れていることが確認された(逆の意味合いから表現すると、実施例2の4層チューブよりも比較例1の2層チューブの方がぬれ易く、液が残存し易い)。
【0094】
また、実施例2の4層チューブの外周は[表面梨地]仕上げ(表面滑り性能向上効果)が施されているが、梨地成形によるチューブ内面への影響も発生せず、チューブ内面平滑性の品質も維持されていることが確認された。
【0095】
(試験例3)保証耐圧力確認用クリープ特性試験
実施例2の4層チューブの外層及び最外層に使用されている樹脂は、PA11エラストマーが主成分となっているが、本PA11エラストマーは、ハードセグメントがPA11(ナイロン11)樹脂であり、ソフトセグメントがポリエーテルエラストマーからなる「ポリエーテルブロックポリアミド共重合体」で構成されている。
【0096】
したがって、ハードセグメントであるPA11をゴム弾性を有したソフトセグメントのエラストマーが鎖状に繋いでいる構造のため、通常の可塑剤入りナイロンよりも外的な圧力(チューブに加えられる内圧)を加えられても、内部応力による歪量は少なく、圧力開放後の復元性においても優れた特性を有していると判断される。その裏付けとして、実施例2の4層チューブとほぼ同レヴェルの特性(柔軟性、硬度、強度等)を有する比較例1の2層チューブとの比較のため、「保証耐圧力確認用クリープ特性試験」を実施した。
【0097】
2.供試チューブ
(1)実施例2の4層チューブ(外径6mm×内径4)[表面梨地]
(2)比較例1の2層チューブ(外径6mm×内径4)
【0098】
3.試験方法
保証耐圧力は、チューブの最高使用圧力(定格圧力)の1.5倍の圧力であり、チューブに瞬間的に或いは短時間、本圧力が加わって一時的にチューブ外径が膨張しても、圧力が開放(排圧)された後は、元のチューブ外径に復元可能な圧力を指す。
【0099】
(1)チューブに、2.4MPa(最高使用圧力1.6MPaの1.5倍)の内圧を加え、5分間保持した後、チューブの外径寸法を測定した。その後、内圧を開放し、開放直後のチューブ外径寸法を測定した。
本試験は、単一のチューブサンプルを使用して計6回(合計加圧時間:30分間)実施し、最終6回目の加圧開放後、10分間経過時のチューブ外径寸法も測定した。
【0100】
(2)チューブに、2.4MPa(最高使用圧力1.6MPaの1.5倍)の内圧を加え、30分間保持した後、チューブの外径寸法を測定した。その後、内圧を開放し、開放直後及び加圧開放後10分間経過時のチューブ外径寸法を測定した。
【0101】
4.試験結果(n=3の平均値)
結果を表5に示す。
【0102】
【表5】

【0103】
5.試験結果考察
第4項の試験結果より、(1)の試験仕様の断続的な加圧・排気試験、及び(2)の試験仕様の継続的加圧試験の両者において、実施例2の4層チューブの方が比較例1の2層チューブよりも、内圧が加えられた時の膨張率(歪量)が小さく、加圧開放後の復元性においても優れていることが確認された。
【0104】
本試験結果より、予期せぬトラブル等により、誤って最高使用圧力以上の内圧が、瞬間的に或いは短時間チューブに加えられても、実施例2の4層チューブのように外層がPA11エラストマーで構成されたチューブにおいては、より安全性が高いことが確認された。
【0105】
(試験例4)塗料用溶剤全面浸漬試験
1.試験目的
実施例2の4層チューブは、主に塗装用の塗料を流体として使用することを目的として開発されたが、塗料の洗浄用として塗料用溶剤も流体として使用される。
【0106】
溶剤に対しては、特にチューブ内層のフッ素樹脂の耐性が必要となるが、外層表面のナイロンエラストマーについても、溶剤雰囲気中に曝露され、時には溶剤そのものが飛散しチューブ外層表面に直接付着することによる溶剤の浸透の恐れも考慮が必要となる。
【0107】
前記に対する対応として、塗装ラインで使用されている主要な溶剤類(3種類)に対する耐性を確認するため、比較例1の2層チューブと併せ、塗料用溶剤全面浸漬試験を実施した。
【0108】
2.供試チューブ及び試験用溶剤
2−1.供試チューブ
(1)実施例2の4層チューブ(外径6mm×内径4)[表面梨地]
(2)比較例1の2層チューブ(外径6mm×内径4)
【0109】
2−2.試験用溶剤
A:水性塗料用洗浄液「NK−01C水性溶剤用シンナー」洗浄原液:水=12:88に希釈(重量比)
B:クリア塗料用洗浄液「PT−R(40)シンナー」希釈なし
C:2液塗料等洗浄液「PRTR成形用洗浄用シンナー」希釈なし
【0110】
3.試験方法
A,B,Cの各試験用溶剤中に供試チューブ全体を室温で1週間浸漬後チューブを取出し、室温下で乾燥した。その後、チューブの外内径寸法、重量を測定し、チューブ単体引張特性試験を行って、浸漬の影響によるチューブの変化を確認した。(浸漬試験前との比較)n=3
【0111】
(チューブ単体引張特性試験の内容)
図6に示すように、自由長100mmの供試チューブを引張試験機に取り付け、200mm/分の速度で引張試験を行った。
【0112】
(引張特性試験確認内容)
100%モジュラス(100%MD)、引張破断強度、引張破断伸率。
【0113】
4.試験結果
全面浸漬後のチューブの外内径及び重量の変化を表6に示す。
【0114】
【表6】

【0115】
全面浸漬後のチューブ単体引張特性試験(室温26℃)の結果を表7に示す。
【0116】
【表7】

【0117】
5.試験結果考察
(試験用溶剤Aに対する耐性)
実施例2の4層チューブは、寸法・重量に関しては大きな変化はなく、引張特性においても問題はないと判断された。
【0118】
比較例1の2層チューブ寸法・重量に関しては殆ど変化はなかったが、引張破断伸率の低下が著しく、溶剤によりチューブの硬化が発生したものと判断された。
【0119】
(試験用溶剤Bに対する耐性)
実施例2の4層チューブは、寸法・重量に関しては、溶剤吸収による若干の膨潤が確認され、引張特性においても100%MD、破断強度が低下し、チューブの軟化傾向が確認されたが使用上問題となる程度ではなかった。
【0120】
比較例1の2層チューブは、チューブの外内径の収縮が大きく、重量の変化率(低下率)も大きかった。引張特性においても100%MDが大きく上昇し、破断伸率の低下も大きいため、著しいチューブの硬化が確認された。
【0121】
(試験用溶剤Cに対する耐性)
実施例2の4層チューブは、寸法・重量に関しては、溶剤吸収による若干の膨潤が確認され、引張特性においても、100%MD、破断強度が低下し、チューブの軟化傾向が確認されたが、使用上問題となる程度ではなかった。
【0122】
比較例1の2層チューブは、試験用溶剤Bの試験結果とほぼ同様であり、著しいチューブの細化と効果現象が確認された。
【0123】
前記の結果より、実施例2の4層チューブの外層に使用されているPA11エラストマーは、試験用溶剤B及びCに対し、若干吸収し膨潤する傾向が確認されたが、実際の使用条件上(溶剤雰囲気中での暴露や稀に発生する溶剤の飛散による付着)においては、全く問題ない程度と判断できた。実施例2の4層チューブに比べ、比較例1の2層チューブは、いずれの試験溶剤においても、チューブの硬化が確認され、特に試験用溶剤B,Cに対しては、著しいチューブ硬化と細化が発生した。前記2種の溶剤は、所謂油性塗料用の洗浄剤であることから、ナイロン層に配合されている可塑剤(油分)をブリードさせる現象が発生したと判断される。したがって、実使用条件(溶剤雰囲気及び飛散)においても可塑剤ブリーディングを促進させるファクターとなり、使用可能期間(寿命)短縮のリスクがある。
【0124】
(試験例5)チューブ内面面粗度・最小曲げ半径・柔軟性の比較試験
1.試験目的
本発明の多層チューブは、可塑剤を使用しないクリーンなチューブであることを主目的としているが、クリーン性のみではなく、チューブ内面面粗度の向上や柔軟性の維持に対する優位性が得られることを検証するため、チューブ内面面粗度測定、最小曲げ半径、及び柔軟性試験を、実施例2の4層チューブと比較例1の2層チューブとを比較して行った。
【0125】
可塑剤入りナイロンは、経時変化による可塑剤のブリーディングにより、徐々にチューブが硬化することから、生産後の経過時間(期間)により柔軟性も変化し、インデックスとなる数値が得られないため、生産後の経過時間が少ないものを用い、初期特性確認試験とした。
【0126】
2.供試チューブ
(1)実施例2の4層チューブ(外径6mm×内径4)[表面梨地]
(2)比較例1の2層チューブ(外径6mm×内径4)
【0127】
3.試験の内容及び結果
(1)チューブ内面面粗度測定試験:チューブ内径側表面の縦方向(流体流れ方向)に沿って、精密粗さ形状測定器(サーフコム)を用いて、縦方向のチューブ内面の面粗度を測定した。(評価長さ:0.8mm)
結果を表8に示す。
【0128】
【表8】

【0129】
(2)最小曲げ半径測定試験:図7に示すように、チューブを環状にした後、徐々に曲げていき、曲げ頂点の変形率(偏平率)が10%になった時の、環状内径の直径(R)を読み取り、その1/2を最小曲げ半径とする。
【0130】
結果を表9に示す。
【0131】
【表9】

【0132】
(3)柔軟性試験:図8に示すように、柔軟性試験機に供試チューブをセットし、チューブが折れるまで変形させ、各曲げ半径毎に曲げ応力を測定した。チューブ長さは180mmとした。(n=3)
結果を表10に示す。
【0133】
【表10】

【0134】
4.試験結果考察
試験結果より、実施例2の4層チューブは、チューブ内面面粗度、最小曲げ半径及び柔軟性の全てにおいて、比較例1の2層チューブよりも優れていることが確認された。
【0135】
また、本試験結果に関しては、実施例2の4層チューブに使用されているPA11エラストマーは、可塑剤入りナイロンのように、生産後の経過時間(期間)によるデータの変化(硬度等)を考慮する必要はなく、常に一定の性能が得られる点においても大きな優位性があると判断される。
【0136】
(試験例6)高真空環境下ヘリウム漏れ量測定試験(ガスバリア性能確認)
1.試験目的
塗装配管に使用されるチューブには、洗浄用溶剤を流体として使用するため、溶剤が気化するとチューブを透過して外部にリークする可能性があり、安全面や環境に対しては、ある程度のガスバリア性能が必要 となる。チューブの外部環境を高真空に保った状態で、実施例2の4層チューブと比較例1の2層チューブのヘリウム漏れ量測定試験を実施した。
【0137】
2.供試チューブ等
(1)実施例2の4層チューブ(外径6mm×内径4)[表面梨地]
(2)比較例1の2層チューブ(外径6mm×内径4)
(3)継手:SUS製内径シールタイプ締め付け継手(高真空用)
【0138】
3.試験方法
図9に真空容器法によるヘリウム漏れ量測定試験装置を示す。
【0139】
各供試体のヘリウム漏れ量を測定する前にコック1、2を「閉」にし、供試体を真空チャンバーに設置した状態でチャンバー内を真空にし、バックグラウンドを測定しておいた。コック1を「開」にし、供試体内を真空引きした後、コック1を「閉」にし、コック2を「開」にして供試体内にヘリウムガスを加圧(0.1MPa)した。次に、チャンバー内を真空にし、ヘリウム漏れ量を測定した。ヘリウム漏れ量の測定はヘリウム漏れ量が安定した値とする。(計測時間:約60分間)
【0140】
4.試験結果
実施例2の4層チューブ及び比較例1の2層チューブのチューブ長さとヘリウム漏れ量(継手のヘリウム漏れ量を含む)の関係を図10に示す。
【0141】
5.試験結果考察
試験結果より、実施例2の4層チューブは比較例1の2層チューブに比較して、僅かではあるがガスバリア性能が優れていた。
【0142】
但し、長期間の使用を考慮すると、比較例1の2層チューブに使用されている可塑剤入りナイロンは、低分子の可塑剤のブリードアウトにより、当然ながらガスバリア性能が低下すると考えられ、可塑剤のないPA11エラストマータイプの実施例2の4層チューブの方が、性能維持という観点から優位性は高いと判断される。
【0143】
(試験例7)帯電防止型4層チューブの最外層の帯電防止性能
実施例1の3層チューブの外層、実施例3及び4の帯電防止型4層チューブの最外層を構成する配合物のそれぞれの表面固有抵抗及び体積固有抵抗を表11に示す。
試験方法:IEC 60093 試験規格
試験用サンプルプレート:□100mm×厚さ2mm射出成形プレート
【0144】
【表11】

【0145】
実施例3及び4の帯電防止型4層チューブに使用されている帯電防止グレード原料は、射出成形プレートによる抵抗値の測定検証において、表面固有抵抗及び体積固有抵抗も低く、十分な帯電防止性能を有し、静電気の発生はないと考えられる。
【符号の説明】
【0146】
1 内層(接着性フッ素樹脂層)
2 中間層(接着性ポリアミド層)
3 外層(熱可塑性ポリアミドエラストマー層)
4 最外層(熱可塑性ポリアミドエラストマー及び(熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー又は高分子型帯電防止剤)からなる層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向において複数の層で構成された中空チューブであって、前記複数の層が、外側から、熱可塑性ポリアミドエラストマーで構成された外層と、接着性ポリアミドで構成された中間層と、接着性フッ素樹脂で構成された内層とを含む多層チューブ。
【請求項2】
熱可塑性ポリアミドエラストマーが、ポリアミド成分によって構成されたハードセグメントとポリアルキレンエーテルグリコール成分によって構成されたソフトセグメントからなるポリアミド系ブロック共重合体である請求項1記載の多層チューブ。
【請求項3】
外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマー及び熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーで構成された最外層を有する請求項1又は2記載の多層チューブ。
【請求項4】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーが、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーである請求項3記載の多層チューブ。
【請求項5】
最外層の外側表面が梨地状に形成されている請求項3又は4記載の多層チューブ。
【請求項6】
外層の外側に、熱可塑性ポリアミドエラストマー及び高分子型帯電防止剤で構成された最外層を有する請求項1又は2記載の多層チューブ。
【請求項7】
可塑剤を含まない請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層チューブ。
【請求項8】
塗装用塗料配管チューブ、飲料輸送チューブ、液体状食品輸送チューブ、薬液輸送チューブ又はクリーンルーム内配管チューブである請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−240513(P2011−240513A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112149(P2010−112149)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(593075418)株式会社アオイ (17)
【Fターム(参考)】