説明

多層フィルムの製造方法

【課題】 従来、得られたポリイミドフィルムに関して銅箔密着強度が所望の値を発現するか知るためには、銅箔を熱ラミネートし、得られた金属張積層板をパターン加工して銅箔密着強度を測定する必要があったため、得られたフィルムが特性を発現しているか判明するのに時間を要するという課題があった。本発明の課題は、多層フィルムの効率的な製造方法を提供することである。
【解決手段】 熱可塑性ポリイミド樹脂層及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層を含む多層フィルムの製造方法であって、あらかじめ、多層フィルムを製造し、それらの屈折率及び銅箔との接着強度を測定することによって、屈折率管理範囲を決定し、実際の多層フィルムを製造する際に、多層フィルムの屈折率を測定し、その屈折率の値が、前記屈折率管理範囲となるように、多層フィルムの焼成条件を調整することを特徴とする多層フィルムの製造方法により、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリイミド樹脂層及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層を含む多層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、高機能化、小型化が急速に進んでおり、これに伴って電子機器に用いられる電子部品に対しても小型化、軽量化の要請が高まっている。上記要請を受け、半導体素子パッケージ方法やそれらを実装する配線板にも、より高密度、高機能、かつ高性能なものが求められるようになっている。
【0003】
フレキシブルプリント配線板(以下、FPCともいう)は、一般に、柔軟性を有する薄い絶縁性フィルムを基板(ベースフィルム)とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔が加熱・圧着することにより貼りあわされた金属張積層板に回路パターンを形成し、その表面にカバー層を施した構成を有している。かかる絶縁性フィルム、接着層、および金属箔の三層からなるフレキシブルプリント配線板(三層FPC)では、従来から、絶縁性フィルムとしてポリイミドフィルム等が広く用いられている。この理由は、ポリイミドが優れた耐熱性、電気特性などを有しているためである。また、接着層としては、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている。
【0004】
しかしながら、上述のような高密度、高機能、かつ高性能なFPCを得るためには、その材料として用いられる上記の絶縁接着剤や絶縁性フィルムについても高性能化を図り、それらを用いることが必要となっている。具体的には、上記接着層等は高い耐熱性および機械強度を有し、さらに加工性、接着性、低吸湿性、電気特性、寸法安定性にも優れることが求められている。
【0005】
これに対し、従来、接着層として用いられていたエポキシ樹脂やアクリル樹脂といった熱硬化性樹脂は、比較的低温での接着が可能であるため低温加工性に優れ、さらに経済性の観点からも優れるものの、例えば、耐熱性等に代表されるその他の特性については不十分であるのが現状である。
【0006】
上記問題を解決するために、接着層にもポリイミド材料を用いた二層FPCが提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、この接着層にポリイミド材料を用いる方法で得られるFPCは厳密には三層であるともいえるが、2つのポリイミド層を一体と見なして二層FPCとするものである。この二層FPCは、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を接着層に使用した三層FPCに比べて耐熱性、電気特性、寸法安定性に優れており、今後の要求特性に応えることができる材料として注目されている。通常、ポリイミドフィルムは最高600℃までの温度にて段階的に焼成することが好ましい。最高焼成温度が低い場合には、イミド化率が完全でない場合があり充分に焼成することが必要となる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
一方、ポリイミドフィルムは焼成条件が適切でない場合に問題が生じることがある。例えば、焼成温度が高すぎたり焼成時間が長すぎるとフィルムの熱劣化が起こるという問題がある。逆に、焼成温度が低すぎたり焼成時間が短すぎると所定の効果が発現しないことがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−180682号公報
【特許文献2】特願2006−536349号公報
【特許文献3】特開2007−296734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二層FPCはポリイミドフィルムの表面に金属箔を張り合わされて作製されることから、銅張積層板を作製する際は、銅箔とポリイミドフィルムとの密着強度が重要な特性の一つとなる。
【0010】
得られたポリイミドフィルムに関して銅箔密着強度が所望の値を発現するか知るためには、銅箔を熱ラミネートし、得られた金属張積層板をパターン加工して銅箔密着強度を測定する必要があるため得られたフィルムが特性を発現しているか判明するのに時間を要する。本発明はその課題を解決し、多層フィルムの効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の新規な製造方法によって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、熱可塑性ポリイミド樹脂層及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層を含む多層フィルムの製造方法であって、あらかじめ、多層フィルムを製造し、それらの屈折率及び銅箔との接着強度を測定することによって、屈折率管理範囲を決定し、実際の多層フィルムを製造する際に、多層フィルムの屈折率を測定し、その屈折率の値が、前記屈折率管理範囲となるように、多層フィルムの焼成条件を調整することを特徴とする多層フィルムの製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記屈折率は、光学多層膜厚計と接触厚み計とを利用して算出されることを特徴とする。
【0014】
好ましい実施態様は、多層フィルムが、非熱可塑性ポリイミド樹脂層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂層を配した構造であることを特徴とする。
【0015】
好ましい実施態様は、前記多層フィルムを製膜する方法が、塗工法であることを特徴とする。
【0016】
好ましい実施態様は、前記多層フィルムを製膜する方法が、共押出法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、あらかじめ、多層フィルムの屈折率及び銅箔との接着強度を測定することによって、屈折率管理範囲を決定し、実際の多層フィルムを製造する際にはその屈折率の値が屈折率管理範囲となるように、多層フィルムの焼成条件を調整することで、従来の銅箔密着強度測定等の特性評価時間を省けることから、多層フィルムを生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0019】
本発明に係る多層フィルムの製造方法は、熱可塑性ポリイミド樹脂層及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層を含む多層フィルムの製造方法であって、あらかじめ、多層フィルムを製造し、それらの屈折率及び銅箔との接着強度を測定することによって、屈折率管理範囲を決定し、実際の多層フィルムを製造する際に、多層フィルムの屈折率を測定し、その屈折率の値が、前記屈折率管理範囲となるように、多層フィルムの焼成条件を調整することを特徴としている。
【0020】
多層フィルムは焼成度合によって銅箔接着強度が低下したり、多層フィルムそのものの機械強度が低下するという問題がある。生産機台の炉内雰囲気温度を調整しても、給排気のバランスなどでフィルムにかかる実温が変動することから、雰囲気温度の調整から同じ焼成状態を再現することは難しい。従来は生産中に得られた多層フィルムに銅箔を熱ラミネートし、得られた銅張積層板をパターン加工し、銅箔密着強度を測定して焼成度合を判断してきた。銅箔密着強度の結果が得られるまでに複数の加工工程があり、焼成度合の合否判定に時間とコストを要する。本発明者らは、鋭意検討した結果、熱ラミネートせずとも特性が発現しているか把握できる手法を見出した。本発明によれば得られたフィルムの特性が発現しているかどうかを極めて短時間で判断でき、時間とコストを削減した生産効率の高い多層フィルムの製造を実現できる。
【0021】
また、本発明においては、屈折率の測定方法は特に限定されないが、好ましい一例としては、多層膜厚計と接触膜厚計を利用することが挙げられる。これらの利用で、多層フィルムの屈折率を算出し、得られた屈折率から焼成度合の合否判定が可能となる。予め、様々な焼成条件における銅箔密着強度と屈折率の相関関係を調査し、所望の特性を発現する多層フィルムの屈折率を把握しておくことで短時間での焼成度合の合否判定が可能となる。その結果を製造工程にフィードバックすることにより、焼成度合を確認しながらも、生産効率の高い多層フィルムの製造が可能となる。また、焼成度合を定量的に把握することが可能となり、焼成度合の把握及びコントロールの精度が増す。更に、フィルム幅方向の焼成度合の差異を検知できることから、幅方向に焼成度合が均一なフィルムを提供することが可能となる。
【0022】
本発明における「多層フィルム」は、一部の層がポリイミド樹脂を用いて形成されていても、全ての層がポリイミド樹脂を用いて形成されていても良い。前記ポリイミド樹脂を含有する層以外としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、フッ素系樹脂などの公知の材料から形成されていても良い。中でも、耐熱性のみならず電気特性等の物性にも優れている点から、各層がポリイミド樹脂を用いて形成されることが好ましい。
【0023】
本発明に係る多層フィルムは、本発明の効果をより有効に発揮する観点から、少なくとも1層の非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層(非熱可塑性ポリイミド樹脂層)および熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層(熱可塑性ポリイミド樹脂層)を含む多層フィルムである。更には、多層フィルムを二層FPC用接着フィルムとして用いる観点から、非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を配した構造を有する多層フィルムであることが好ましい。
【0024】
<ポリイミド樹脂>
前記非熱可塑性ポリイミド樹脂とは、フィルムの状態で450℃、1分間加熱を行い、シワが入ったり伸びたりせず、形状を保持しているポリイミド、若しくは実質的にガラス転移温度を有しないポリイミドをいう。なお、ガラス転移温度は動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。また、「実質的にガラス転移温度を有しない」とは、ガラス転移状態になる前に熱分解が開始するものをいう。
【0025】
一般にポリイミドフィルムは、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に好適な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0026】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法、
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法、
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法、
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法、
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0027】
本発明におけるポリイミド樹脂を含有する多層フィルムの製造方法において、上記のいかなる重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いても良く、重合方法は特に限定されるのもではない。
【0028】
本発明において、後述する剛直構造を有するジアミン成分を用いて前記プレポリマーを得る重合方法を用いることも好ましい。当該方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向にある。上記方法においてプレポリマー調製時に用いる剛直構造を有するジアミンと酸二無水物のモル比は100:70〜100:99もしくは70:100〜99:100、さらには100:75〜100:90もしくは75:100〜90:100が好ましい。この比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、逆に上記範囲を上回ると線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸びが小さくなるなどの弊害が生じることがある。
【0029】
前記非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を形成するための非熱可塑性ポリイミド樹脂の製造に適当なテトラカルボン酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの誘導物を含み、これらを単独または任意の割合で混合した混合物を好ましく用いることができる。
【0030】
これら酸二無水物の中で、特にはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0031】
また、これら酸二無水物の中で3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合の好ましい使用量は、全酸二無水物全量に対して、60mol%以下、好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合、その使用量がこの範囲を上回ると非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層のガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になる場合がある。
【0032】
また、ピロメリット酸二無水物を用いる場合、好ましい使用量は、全酸二無水物量に対して40〜100mol%、更に好ましくは45〜100mol%、特に好ましくは50〜100mol%である。ピロメリット酸二無水物をこの範囲で用いることにより、ガラス転移温度および熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる傾向がある。
【0033】
前記非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を形成するための非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸組成物において使用し得る適当なジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの誘導物などが挙げられる。
【0034】
ジアミン成分として、剛直構造を有するジアミンと柔構造を有するアミンを併用することもでき、その場合の好ましい使用比率はモル比で80/20〜20/80、さらには70/30〜30/70、特には60/40〜30/70である。剛構造のジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると得られるフィルムの引張伸びが小さくなる傾向にあり、またこの範囲を下回るとガラス転移温度が低くなりすぎたり、熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になるなどの弊害を伴う場合がある。
【0035】
本発明において、剛直構造を有するジアミンとは、以下の一般式(1)で表されるものをいう。
【0036】
【化1】

【0037】
なお、式中のRは、以下の一般式群(1)
【0038】
【化2】

【0039】
で表される2価の芳香族基からなる群から選択される基であり、式中のRは同一または異なってもよく、H、CH、OH、CF、SO、COOH、CO-NH、Cl、Br、F及びOCHからなる群より選択される何れかの1つの基である。
【0040】
また、柔構造を有するジアミンとは、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基などの柔構造を有するジアミンであり、好ましくは、下記一般式(2)で表されるものである。
【0041】
【化3】

【0042】
なお、式中のRは、以下の一般式群(2)
【0043】
【化4】

【0044】
で表される2価の有機基からなる群から選択される基であり、式中のRは同一または異なってもよく、H、CH、OH、CF、SO、COOH、CO-NH、Cl、Br、F及びOCHからなる群より選択される1つの基である。
【0045】
本発明において用いられる前記非熱可塑性ポリイミド樹脂は、上記の範囲の中で所望の特性を有するように適宜芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの種類、配合比を決定して用いることにより得ることができる。
【0046】
ポリイミド前駆体である前記ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが好適であり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられうる。
【0047】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的で、フィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0048】
フィラーの数平均粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には数平均粒子径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると摺動性等の改質効果が現れにくくなり、逆にこの範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド樹脂100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる摺動性等の改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。
【0049】
フィラーの添加方法としては、例えば、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法、
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法、
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法、
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくてすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0050】
本発明において、多層フィルムに含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に用いられる熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えば、金属箔との有意な接着力や好適な線膨張係数など、所望の特性が発現される限り、熱可塑性ポリイミド樹脂の含有量、分子構造等は特に限定されるものではない。熱可塑性ポリイミドとは、一般的にDSC(示差走査熱量測定)で、ガラス転移温度を有するポリイミドをいう。本発明での熱可塑性ポリイミドは、前記ガラス転移温度が、150℃〜350℃であるものをいう。
【0051】
有意な接着力や好適な線膨張係数などの所望の特性の発現のためには、実質的には熱可塑性ポリイミド樹脂を熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層中に50重量%以上、更には80重量%以上含有することが好ましい。更に、非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層の両面に配される熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂は、接着シートとなりうる多層フィルム全体での線膨張係数のバランスや、製造工程を簡略化する等の観点から、同種であることが好ましい。
【0052】
熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を好適に用いることができる。
【0053】
本明細書において、熱可塑性ポリイミドとは、ガラス転移温度を有し、且つ圧縮モード(プローブ径3mmφ、荷重5g)の熱機械分析装置(TMA)において、10〜400℃(昇温速度:10℃/min)の温度範囲で永久圧縮変形を起こすものをいう。また、既存の装置でラミネートが可能であり、且つ得られる金属張積層板の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明にかかる熱可塑性ポリイミドは、150〜300℃の範囲にガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう)を有していることが好ましい。なお、Tgは、動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値によりもとめることができる。
【0054】
前記熱可塑性ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸からの転化反応により得ることができる。当該ポリアミド酸の製造方法としては、前記非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に用いられる非熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体と同様、公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0055】
本発明に用いられる熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸についても、特に限定されるわけではなく、公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。ポリアミド酸溶液の製造に関しても、前記で例示した原料および前記製造条件等を適宜選択して同様に用いることができる。
【0056】
なお、熱可塑性ポリイミドは、使用する酸二無水物成分およびジアミン成分等の原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に剛直構造のジアミン使用比率が大きくなるとガラス転移温度が高くなる及び/又は熱時の貯蔵弾性率が大きくなり接着性・加工性が低くなる場合がある。例えば、前記剛直構造のジアミンの使用比率は、ジアミン全量に対して、好ましくは40mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。なお、本明細書において、「剛直構造を有するジアミン」とは、2つのNH2基の間の主鎖に屈曲性のない剛直な構造を有するジアミンをいう。
【0057】
好ましい熱可塑性ポリイミド樹脂の具体例としては、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等の酸二無水物とアミノフェノキシ基を有するジアミン、例えば4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、を重合反応せしめたものなどが挙げられる。
【0058】
さらに、上記熱可塑性ポリイミド樹脂には、すべり性を制御する目的で、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラー、さらにはその他樹脂を添加しても良い。
【0059】
<多層フィルムの製造>
本発明における多層フィルムを製膜する方法については特に限定されるものではなく、公知の方法を適用できるが、例えば、三層構造の多層フィルムを製造する場合、コア層となる非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に、熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を片面毎に、若しくは両面同時に形成する方法、さらには予め熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層をシート状に成形し、これを上記コア層となる非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層の表面に貼り合わせる方法等が挙げられる。あるいは、コア層となる非熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層と熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層を共押出することにより、実質的に一工程で多層フィルムを製膜する方法であってもよい。
【0060】
また、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂を含有する層に熱可塑性ポリイミド樹脂を用いる場合には、熱可塑性ポリイミド樹脂またはこれを含む樹脂組成物を有機溶媒に溶解または分散して得られる樹脂溶液を非熱可塑ポリイミド樹脂を含有する層の表面に塗布してもよいが、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を調製して、これを非熱可塑ポリイミド樹脂を含有する層の表面に塗布し、次いでイミド化してもよい。このときのポリアミド酸の合成やポリアミド酸のイミド化の条件等については特に限定されるものではないが、従来公知の原料や条件等を用いることができる(例えば、後述する実施例参照)。また、前記ポリアミド酸溶液には、用途に応じて、例えば、カップリング剤などを含んでいてもよい。
【0061】
中でも、生産性の観点から、(A)一層以上のポリイミド樹脂を含む層からなるフィルムの表面に、ポリイミド前駆体溶液またはポリイミド樹脂を含有する溶液を塗工し、加熱・乾燥により製膜する方法(塗工法)や、(B)二種以上のポリイミド前駆体溶液を共押出により支持体上に流延・塗布して複数層を形成し、加熱・乾燥により製膜する方法(共押出法)、を好適に用いることができる。
【0062】
<屈折率管理範囲の決定>
本発明における多層フィルムの屈折率の算出については特に限定されるものではなく、公知の方法を適用できる。本実験では、製膜設備とは別工程で屈折率の算出を行った。製膜設備中(オンライン)ではなく、オフラインにて光学多層膜厚計(横河電機製光学反射式多層膜厚計)と接触厚み計(ハイデンハイン社製接触式厚み計)を使用して屈折率を算出した。多層フィルム一水準につき5ポイント測定し、その平均値を多層フィルムの代表値とした。多層膜厚計で検出された全層の光学膜厚みを接触厚み計で測定した全層の実厚みで除算することで全層の屈折率とした。また、製膜前の前実験として様々な焼成条件、具体的には焼成後の多層フィルムに溶剤揮発成分が残っている程度から多層フィルムが熱劣化する程度までの焼成条件における銅箔密着強度と屈折率の相関関係を調査し、所望の密着強度を発現する多層フィルムの屈折率管理範囲を決定しておいた。
【0063】
<屈折率に基づいた焼成条件の変更>
実際の多層フィルムを製造する際、製造中の多層フィルムの屈折率が、予め設定した屈折率管理範囲に入るように焼成条件を適宜変更した。
【0064】
本発明における具体的な焼成条件を変更する場合を例に挙げて説明する。使用する熱源は熱風オーブン、遠赤オーブン等、公知のものであれば良く、熱源の種類や炉長は特に限定されない。
【0065】
屈折率での焼成度合判定が過焼成であった場合、雰囲気温度ダウン、有効炉長短縮、製膜ラインスピードアップ等の手段を用いることができる。屈折率での焼成度合判定が焼成不足であった場合、雰囲気温度アップ、有効炉長延長、製膜ラインスピードダウン等の手段を用いることができる。ラインスピードを変更する手段は、発熱体の温度を一定に保てる利点があるが、フィルム厚みを制御するために吐出量調整が必要となり、膜厚制御の観点から、雰囲気温度コントロール、有効炉長コントロールが好ましい。また、ラボオーブンのように連続焼成ではなく、バッチ毎に焼成する場合は雰囲気温度コントロールが好ましい。
【0066】
<多層フィルムの用途>
本発明により得られる多層フィルムは、例えば、金属箔を熱圧着により貼り合わせることにより、金属張積層板を形成することができる。多層フィルムと金属箔の貼り合わせ方法としては、例えば、単板プレスによるバッチ処理、熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)装置による連続処理が挙げられるが、生産性、維持費も含めた設備コストの点から、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を使用した方法が好ましい。ここでいう「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
次に、本発明に係る接着フィルムの製造方法を実施例により詳しく説明する。
【0068】
(合成例1:熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)151kgに、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を16.7kgを融解した後、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を22.5kg徐々に添加し、窒素雰囲気かで2時間撹拌させて溶解させた。1.0kgのBPDAを10kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が1300poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、熱可塑性ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液を得た。
【0069】
(合成例2:非熱可塑ポリイミドの前駆体のポリアミド酸の合成)
10℃に冷却したN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)239kgに4,4'−オキシジアニリン(ODA)6.9kg、p−フェニレンジアミン(PDA)6.2kg、2,2−ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)9.4kgを溶解した後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)10.4kgを添加し、窒素雰囲気下で1時間撹拝して溶解させた。ここに、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)20.3kgを添加し、窒素雰囲気下で1時間撹拝させて溶解させた。別途調製しておいたPMDAのDMF溶液(PMDA:DMF=0.9kg:7.0kg)を上記反応液に徐々に添加し、粘度が3000ポイズ程度に達したところで添加を止めた。1時間撹拝を行って固形分濃度18重量%、23℃での回転粘度が3200ポイズの、非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
(前実験1)
合成例2で得られた非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液に、以下の化学脱水剤及び触媒を含有せしめた。
1.化学脱水剤:無水酢酸を非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して2.0モル
2.触媒:イソキノリンを非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸のアミド酸ユニット1モルに対して0.3モル
次いで、リップ幅650mmのマルチマニホールド式の3層共押出多層ダイから、外層が合成例1で得られた熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液、内層が非熱可塑性ポリイミド溶液の前駆体であるポリアミド酸溶液となる順番で形成された多層膜を連続的に押出して、当該Tダイスの下20mmを走行しているステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。次いで、この多層膜を130℃×100秒で加熱することで、自己支持性のゲル膜に転化せしめた。当該ゲル膜には、層間剥離は観察されず、外観良好な形状のゲル膜であった。さらに、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がして40cm四方の金属枠に固定し、ラボオーブンにて200℃×180秒で乾燥・イミド化させ、接着フィルムとなる多層フィルムを得た。このポリイミド多層フィルムの屈折率を算出したところ、1.850であった。
【0071】
得られたポリイミド多層フィルムの両面に18μmの圧延銅箔(BHY−22B−T;日鉱金属製)、さらにその両側に保護材料(125μmのピロメリット酸二無水物と4,4’−オキシジアニリンからなる非熱可塑性ポリイミドフィルム)を配して、熱ロールラミネート機を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.0m/分の条件で連続的に熱ラミネートを行い、フレキシブル金属張積層板を作製した。得られたフレキシブル金属配線板には残溶媒による膨れが発生しており、外見不良であった。
【0072】
(前実験2)
前実験1において、多層フィルムを250℃で180秒間乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムとフレキシブル金属張積層板を作製した。その結果、屈折率は1.855であり、銅箔密着強度は10N/cmであり密着強度十分であった。
【0073】
(前実験3)
実験1において、多層フィルムを300℃で180秒間乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムとフレキシブル金属張積層板を作製した。その結果、屈折率は1.860であり、銅箔密着強度は11N/cmであり密着強度不足であった。
【0074】
(前実験4)
実験1において、多層フィルムを400℃で180秒間乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムとフレキシブル金属張積層板を作製した。その結果、屈折率は1.870であり、銅箔密着強度は11N/cmであり密着強度不足であった。
【0075】
(前実験5)
実験1において、多層フィルムを450℃で180秒間乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムとフレキシブル金属張積層板を作製した。その結果、屈折率は1.88であり、銅箔密着強度は6N/cmであり密着強度不足であった。
【0076】
(前実験6)
実験1において、多層フィルムを500℃で180秒間乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムとフレキシブル金属張積層板を作製した。その結果、屈折率は1.89であり、銅箔密着強度は3N/cmであり密着強度不足であった。
前実験1〜前実験6の結果を鑑み、外観良好且つ銅箔密着強度な銅張積層板に加工できる多層フィルムの屈折率として、1.855〜1.870を管理範囲とした。
【0077】
(実施例1)
前実験1において、エンドレスベルトから自己支持性のゲル膜を引き剥がし、そのゲル膜を連続焼成可能なテンターのテンタ-クリップに固定し、最高雰囲気温度が250℃となるように温調した炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は前実験1と同様にして多層フィルムを作製した。多層フィルムの一部を切出し、オフライン工程にて屈折率を求めた。その結果、屈折率は1.850であった。屈折率1.855〜1.870という管理範囲から外れているため、最高雰囲気温度が300℃となるように温調し、ゲルフィルムを炉内を通過させた。その結果、屈折率は1.855であった。屈折率が管理範囲に入ったため、焼成度合良好と判断し、製膜を続けた。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔密着強度を測定したところ、11N/cmであり、十分な密着強度を有した。
【0078】
(実施例2)
実施例1において、最高雰囲気温度が350℃となるように温調した炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。その結果、屈折率は1.86であった。屈折率が管理範囲に入ったため、焼成度合良好と判断し、製膜を続けた。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔密着強度を測定したところ、11N/cmであり、十分な密着強度を有した。
【0079】
(実施例3)
実施例1において、最高雰囲気温度が400℃となるように温調した炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。その結果、屈折率は1.865であった。屈折率が管理範囲に入ったため、焼成度合良好と判断し、製膜を続けた。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔密着強度を測定したところ、12N/cmであり、十分な密着強度を有した。
【0080】
(実施例4)
実施例1において、最高雰囲気温度が450℃となるように温調した炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。その結果、屈折率は1.870であった。屈折率が管理範囲に入ったため、焼成度合良好と判断し、製膜を続けた。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔密着強度を測定したところ、10N/cmであり、十分な密着強度を有した。
【0081】
(比較例1)
実施例1において、屈折率の結果をフィードバックせずに(最高雰囲気温度が300℃となるように温度調整せずに)、最高雰囲気温度250℃のまま炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。その結果、屈折率は1.850であった。屈折率は管理範囲に入らなかった。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔をラミネートしたところ、得られたフレキシブル金属配線板には残溶媒による膨れが発生しており、外見不良であった。
【0082】
(比較例2)
実施例1において、最高雰囲気温度が500℃となるように温調した炉内を通過させて乾燥・イミド化を行うことを除き、他は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。その結果、屈折率は1.880であった。屈折率は管理範囲に入らなかったが、結果をフィードバックせずに(低温側へ温度調整せずに)製膜を続けた。
製膜終了後、確認のために前実験1と同様の手法で銅箔密着強度を測定したところ、5N/cmであり、密着強度が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリイミド樹脂層及び非熱可塑性ポリイミド樹脂層を含む多層フィルムの製造方法であって、
あらかじめ、多層フィルムを製造し、それらの屈折率及び銅箔との接着強度を測定することによって、屈折率管理範囲を決定し、
実際の多層フィルムを製造する際に、多層フィルムの屈折率を測定し、その屈折率の値が、前記屈折率管理範囲となるように、多層フィルムの焼成条件を調整することを特徴とする多層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記屈折率は、光学多層膜厚計と接触厚み計とを利用して算出されることを特徴とする請求項1に記載の接着フィルムの製造方法。
【請求項3】
多層フィルムが、非熱可塑性ポリイミド樹脂層の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂層を配した構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記多層フィルムを製膜する方法が、塗工法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記多層フィルムを製膜する方法が、共押出法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−96491(P2012−96491A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247767(P2010−247767)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】