説明

多層フィルム

【課題】ポリオレフィンフィルム、アルミニウム箔およびポリアミドの層が順次積層された多層フィルムにおいて、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムとがアンカーコート剤や接着剤等を全く塗布することなく直接貼り合わされており、かつ接着強度も十分であり、耐低温性にも優れた多層フィルムを提供する。
【解決手段】
非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)の一方の面にポリオレフィン系樹脂フィルム(A)を有し、他方の面にポリアミドの層(C)を有する多層フィルムであって、フィルム(A)が酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の結晶化度が60%となる温度をTmα60とし、上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度をTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であり、層(B)が層(A−1)の上に直接積層されているところの多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や日用品の収容、二次電池や電気二重層キャパシタの発電/蓄電要素の収容等に有用な多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
カレー等のレトルト食品、シャンプーや液体洗剤等の詰換用品、二次電池の発電要素などの内容物を収容するための包装材として、アルミニウム箔層の一方の側にポリオレフィンフィルムの層、他方の側にポリアミド層を有する複合多層フィルムが広く使用されている(例えば、特許文献1)。ポリオレフィンは熱接着性を有するので、ポリオレフィンフィルムが包装材の内側になるようにすることで、ヒートシールによる包装材の密封が可能である。また、ポリアミドは機械的強度に優れ、包装材の耐久性を高めることができる。
【0003】
しかし、ポリオレフィンフィルムとアルミニウム箔とは、従来、アンカーコート剤や接着剤を介して接着されている。そのため、上記アンカーコート剤や接着剤を侵すような、浸透性や溶解力の強い液体等を内容物とすることは出来なかった。
【0004】
また、従来の技術では、表面処理をしていないアルミニウム箔が使用されており、アルミニウムを侵すような液体等は、接着剤層には影響のないものであっても内容物とすることは出来なかった。
【0005】
さらに、近年、ハイブリッド自動車や電気自動車のバッテリーとしてリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタが盛んに検討されている。従来、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタは、その発電/蓄電要素を金属缶に封入して製品とされてきた。しかし、自動車には厳しい燃費基準が課せられており、各部品は軽量化が進められている。そこで、上記複合多層フィルムを二次電池等の外装材とすることは、自動車の軽量化の点で非常に有望な手法である。
【0006】
しかし、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの発電/蓄電要素において電解質として使用される有機溶剤には強い浸透性や溶解力があり、上記のアンカーコート剤や接着剤、アルミニウムを侵してしまう。そのため、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタに上記のような複合多層フィルムを使用すると信頼性に乏しいものにしかならなかった。
【0007】
これらの問題を解決する手法として、アルミニウム箔の表面をクロム酸系薬剤により処理する方法(クロメート処理)が広く知られている(例えば、特許文献2)。この処理によって形成される皮膜により、アルミニウム箔の耐食性が格段に向上するとともに、アンカーコート剤や接着剤等を全く使用せずにポリオレフィンフィルムと熱ラミネートにより貼合することが出来るようになる。しかし、この技術は、環境負荷物質であるクロムを使用するという重大な問題を伴う。
【0008】
クロムを使用しないアルミニウム表面処理として、ベーマイト処理(熱水処理)やリン酸塩処理などの非クロム系化成被膜処理が知られており、これらの表面処理もクロメート処理と同様の耐食性が得られる。しかし、ポリオレフィンフィルムと非クロム系化成被膜処理されたアルミニウム箔とをアンカーコート剤や接着剤等を使用しないで熱ラミネートにより貼合しようとすると、フィルム製造可能な温度範囲、すなわちポリオレフィンフィルムが加工機に融着することなくラミネートされ得る温度範囲では、充分な接着強度が得られない。
【0009】
さらに、上記複合多層フィルムを自動車バッテリー用のリチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタに適用しようとすると、高レベルの耐低温性が要求される。従来の技術では、耐熱性を重視して、ポリオレフィンフィルムとして結晶性ポリプロピレンが使用されており、耐低温性が不十分である。そこで、耐低温性を改良すべく、結晶性ポリプロピレンとしてブッロク共重合体を使用したり、ゴム等を配合したりすることが広く行われている。しかしこのような技術では、耐低温性改質材としてのゴムの「島」が結晶性ポリプロピレンの「海」に散在するモルフォロジーになるため、「島」からの液体の浸透が問題となる。リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタに使用される有機溶剤には強い浸透性や溶解力があるため、長期的に漏れてくる危険が高い。
【特許文献1】国際公開第99/40634号パンフレット
【特許文献2】特開2003−288865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、非クロム系化成被膜処理されたアルミニウム箔層の一方の側にポリオレフィンフィルムの層、他方の側にポリアミド層を有する多層フィルムにおいて、アルミニウム箔とポリオレフィンフィルムとが直接、すなわちアンカーコート剤や接着剤等を全く塗布することなく貼り合わされており、かつ接着強度および耐低温性に優れた多層フィルムを提供することを目的とする。
【0011】
本発明者は、ポリオレフィンフィルムが、酸変性ポリエチレン系樹脂(α)からなる熱ラミネート層と、上記樹脂(α)よりも結晶融解温度の高い特定のポリエチレン系樹脂(β)からなるヒートシール層とを含み、アルミニウム箔が非クロム系化成被膜処理されており、上記熱ラミネート層の上にアルミニウム箔が積層された多層フィルムは、ポリオレフィンフィルムとアルミニウム箔とを上記熱ラミネート層がアルミニウム箔と熱ラミネートするような高い温度で積層してもポリオレフィンフィルムが加工機に融着するようなトラブルを生じることなく貼り合わせることができ、かつ接着強度および耐低温性に優れていることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)の一方の面にポリオレフィン系樹脂フィルム(A)を有し、他方の面にポリアミドの層(C)を有する多層フィルムであって、フィルム(A)が酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の結晶化度が60%となる温度をTmα60とし、上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度をTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であり、層(B)が層(A−1)の上に直接積層されているところの多層フィルムである。
【0013】
また、本発明は、
1)ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)の片面に、非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)を積層する工程、および
2)上記層(B)の上にポリアミドの層(C)を積層する工程
を含み、ここで、フィルム(A)は酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の結晶化度が60%となる温度をTmα60とし、
上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度をTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であり、上記工程1)は、下記(1)を満たす温度(T)での熱ラミネートにより、層(A−1)の上に層(B)が積層されるように行なわれる、上記多層フィルムの製造法も提供する。
αのXc(T)<60% かつ βのXc(T)≧60% (1)
ここで、Xc(T)は温度Tでの結晶化度である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多層フィルムは、ポリオレフィン系樹脂の層と非クロム系化成被膜処理されたアルミニウムの層とがアンカーコート剤や接着剤等を塗布することなく充分な接着強度で直接貼り合わされており、かつ耐低温性に優れているので、浸透性や溶解性の強い液体や無処理アルミニウムを侵すような液体等の内容物の包装材として、また、アイスクリームなどの氷菓のように低温での保管を必要とする内容物の包装材として、また特に自動車バッテリー用のリチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタにおける外装材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の多層フィルムの一例を図1に示す。図1に示されるように、本発明の多層フィルムは、非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)の一方の面にポリオレフィン系樹脂フィルム(A)を有し、他方の面にポリアミドの層(C)を有する。層(C)の上にポリエステル系樹脂の層(D)をさらに有してもよい。フィルム(A)は、少なくとも2つの層、すなわち酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、層(A−1)は層(B)と接する位置にある。層(A−2)は、多層フィルムをフィルム(A)が内側になるように袋状にしたときに最内面になる位置にある。
【0016】
(A)ポリオレフィン系樹脂フィルム
ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)は、酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含む。
【0017】
上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)および上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)は、それらの結晶化度(Xc)が60%となる温度をそれぞれTmα60およびTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であるように選択される。好ましくは、上記樹脂(β)の結晶化度が70%となる温度をTmβ70 としたとき、Tmα60 <Tmβ70であるように選択され、より好ましくは、上記樹脂(β)の結晶化度が80%となる温度をTmβ80 としたとき、Tmα60 <Tmβ80 であるように選択される。Tmα60 ≧Tmβ60 であると、フィルム(A)の層(A−1)側を層(B)と熱ラミネートするときに、フィルム(A)が加工機に融着するなどのトラブルが生じる。
【0018】
上記Tmα60、Tmβ60等の温度は、対応する樹脂のDSC融解曲線から決定される値である。例えば、上記樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度Tmβ60は、樹脂(β)のDSC融解曲線における全融解エンタルピーに対する温度Tmβ60以上での融解エンタルピーの割合が60%であることを意味する。なお、本明細書において、DSC融解曲線は、特に断らない限り、TA Instruments(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社)のDSC Q1000型を使用し、試料を230℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる曲線である。
【0019】
層(A−1)を構成する酸変性ポリエチレン系樹脂(α)は、上記したように、Tmα60 < Tmβ60 を満たすように選択されるが、得られる多層フィルムの耐熱性の点から、好ましくはTmα60が100℃以上のものから選択され、より好ましくはTmα60が105℃以上、さらに好ましくは110℃以上である。層(A−1)は、フィルム(A)と後述する層(B)との熱ラミネートにおいて、層(B)と直接貼り合わされる層であるので、樹脂(α)は、Tmα60が低い方が熱ラミネート加工における温度を低くすることができる。しかし、多層フィルムを浸透性や溶解力の強い液体等の内容物の包装材として使用したり、また、レトルト処理などの熱処理に付すためには、Tmα60は高い方が良い。Tmα60の上限は、後述する層(A−2)を構成する結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の耐熱性の上限を考慮すると、好ましくは130℃であり、さらに好ましくは125℃である。
【0020】
酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の例としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン系樹脂が挙げられる。樹脂(α)は、ポリエチレン系樹脂が酸変性されていることにより、層(B)との接着強度を高めることができる。不飽和カルボン酸の例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が挙げられ、その誘導体の例としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等のエステルおよび無水物が挙げられる。上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル(VA)共重合体、エチレン−エチルアクリレート(EA)共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体などが挙げられる。酸変性ポリエチレン系樹脂(α)は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明の目的に反しない範囲において、酸変性されていないポリエチレン系樹脂を配合しても良い。なお、樹脂(α)が2以上の樹脂の組み合わせからなる混合物である場合のTmα60は、上記混合物のDSC融解曲線から決定される値である。
【0021】
酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の具体例としては、三井化学(株)製のアドマー(商品名)、日本ポリオレフィン(株)製のアドテックス(商品名)、クロンプトン社製のポリボンド(商品名)および住友化学(株)製のボンドファースト(商品名)が挙げられる。
【0022】
層(A−2)を構成する結晶性ポリエチレン系樹脂(β)は、上記したように、Tmα60 <Tmβ60、好ましくはTmα60 <Tmβ70、より好ましくはTmα60 <Tmβ80 を満たすように選択されるが、得られる多層フィルムの耐熱性の点から、Tmβ60が115℃以上であるのが好ましい。より好ましくはTmβ60が120℃以上であり、さらに好ましくは125℃以上である。Tmβ60の上限は特に制限されないが、ポリエチレン系樹脂であることから、実際的には135℃程度である。
【0023】
結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の例としては、例えば、エチレン単独重合体およびエチレンと少量のコモノマー(例えば、1-ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等)とのランダム共重合体が挙げられる。具体的には、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、メタロセン系触媒による超低密度〜高密度の直鎖状ポリエチレン、ブルックハルト触媒による超低密度〜高密度の長鎖分岐型ポリエチレン、直鎖状の超低密度〜高密度ポリエチレンなどが挙げられる。結晶性ポリエチレン系樹脂(β)は、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、樹脂(β)が2種類以上の組み合わせからなる混合物である場合のTmβ60等の温度は、上記混合物のDSC融解曲線から決定される値である。
【0024】
結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の市販例としては、プライムポリマー(株)製のエボリューSP4530およびハイゼックス3300F、日本ポリエチレン(株)製のノバテックHD HY560、宇部興産(株)製のUBEスーパーポリエチレンユメリット4040F等が挙げられる。
【0025】
上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)は熱接着性を有するので、得られる多層フィルムを層(A−2)が内側になるように袋状に加工する時、及び袋の開口部をヒートシールにより密封する時、良好に加工することができる。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)は、上記層(A−1)と層(A−2)の間に他のポリオレフィン系樹脂層を含み得る。上記他の層としては、吸水性や酸素吸収性等の機能を有する層等が挙げられる。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)は、酸変性ポリエチレン系樹脂(α)、結晶性ポリエチレン系樹脂(β)および所望により他の樹脂を、Tダイ法やインフレーション法による共押出などにより所望の厚さのフィルムに製膜することにより得ることができる。
【0028】
また、ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)は、ヒートシール性を損じない範囲において延伸されていてもよい。弱延伸をかけることにより結晶化度が高くなり、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの性能低下の原因となる水の透過速度を遅くすることが出来る。
【0029】
(B)非クロム系化成被膜処理されたアルミニウムの層
非クロム系化成被膜処理は、クロムを使用しないで行われる被膜処理であり、熱水処理(ベーマイト処理)および、クロムを含まない化学薬品、例えばリン酸亜鉛やリン酸マンガン等のリン酸塩および有機酸の金属塩(シュウ酸、酢酸などのカルボン酸の鉄塩、亜鉛塩、マンガン塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩、バナジウム塩、スカンジウム塩など)、を用いる被膜処理を包含する。本発明における層(B)は、無処理のアルミニウム箔を上記処理に付すことにより得ることができる。
【0030】
(C)ポリアミドの層
ポリアミドは機械的強度に優れ、この層を有することにより、得られる多層フィルムの耐久性を高めることができる。使用されるポリアミドは特に制限されず、例えばナイロン6 、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンナイロン612、ケブラー(Kevlar、デュポン社の商標)、ノーメックス(Nomex、デュポン社の商標)を包含する。
【0031】
ポリアミドの市販例としては、宇部興産(株)製のUBEナイロン(ナイロン6)、UBEナイロン66(ナイロン66)、UBESTA(ナイロン12)、東レ(株)製のアラミン(ナイロン6、66、610など)、東洋紡績(株)製の東洋紡ナイロン(ナイロン6、66、6Tなど)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のノバミッド(ナイロン6、66、12)、ユニチカ(株)製のユニチカナイロン6、ユニチカナイロン66、旭化成ケミカルズ(株)製のレオナ(ナイロン66)が挙げられる。
【0032】
機械的強度の点から、二軸延伸されたポリアミドフィルムが層(C)として特に好適に使用出来る。市販例としては、ユニチカ株式会社のエンブレム(商品名)および東レ株式会社のミクトロン(商品名)が挙げられる。
【0033】
(D)ポリエステル系樹脂の層
この層は、層(C)上に任意的に積層される保護層である。層(C)は良好な機械的強度を有するが、浸透性や溶解性の高い液体に対しては非常に脆い。上記(A)〜(C)からなる多層フィルムを層(C)が最外層となるように包装袋にし、その中にそのような浸透性や溶解性の高い液体等の内容物を入れ、袋口をヒートシールする際に、内容物がこぼれる可能性がある。したがって、層(C)の上にさらに層(D)を有すると有利である。
【0034】
層(D)を構成するポリエステル系樹脂は、特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)を包含する。
【0035】
ポリエステル系樹脂の市販例としては、東洋紡績(株)製のバイロペット(PETおよびPBT)、東レ株式会社製のトレコン(PBT)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のノバデュラン(PBT)、ユニチカ(株)のPET樹脂、および帝人化成(株)のPET樹脂、テオネックス(PEN)およびPBN樹脂が挙げられる。
【0036】
また、機械的強度および耐溶剤性の点から、二軸延伸されたポリエステルフィルムが層(D)として特に好適に使用出来る。市販例としては、東レ株式会社のルミラー(商品名)、東洋紡績株式会社の東洋紡エステルフィルム(商品名)およびユニチカ株式会社のエンブレット(商品名)が挙げられる。
【0037】
本発明の多層フィルムの製造は、
1)ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)の片面に、非クロム系化成被膜処理されたアルミニウムの層(B)を積層する工程、および
2)上記層(B)の上にポリアミドの層(C)を積層する工程
を含む。ここで、フィルム(A)は酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、工程1)は、下記(1)を満たす温度(T)での熱ラミネートにより、層(A−1)の上に層(B)が積層されるように行なわれる。
αのXc(T)<60% かつ βのXc(T)≧60% (1)
ここで、Xc(T)は温度Tでの結晶化度である。
【0038】
上記熱ラミネートは、上記(1)を満たす範囲の温度(熱ロール温度T)で、通常の方法により行なうことができる。好ましくは、αのXc(T)<50%、より好ましくは<40%であり、かつβのXc(T)≧70%、より好ましくは≧80%であるような温度で行われる。上記範囲より高い温度(βのXc(T)<60%となる温度範囲)では、ポリオレフィンフィルム(A)が熱ロールに融着してラミネートできない場合があり、上記範囲より低い温度(αのXc(T)≧60%となる温度範囲)では、フィルム(A)と層(B)との接着強度が不十分になる場合がある。
【0039】
工程2)は、上記工程1)で得られたフィルムの層(B)側とポリアミド層(C)とを、ドライラミネート法によって接着することにより行うことができる。接着剤としては、ポリオール系主剤とイソシアネート系硬化剤との通常の二液タイプのものを使用することができる。具体的には、三井化学ポリウレタン(株)製のタケラック(ポリオール系主剤)/タケネート(イソシアネート系硬化剤)二液タイプを挙げることが出来る。
【0040】
層(C)の上に層(D)をさらに有する多層フィルムは、上記工程2)で得られたフィルムの層(C)の上に層(D)を、上記工程2)と同様にドライラミネート法によって接着することにより得ることができる。接着剤は、上記工程2)の場合と同じものを使用することができる。
【0041】
こうして得られる本発明の多層フィルムは、ポリオレフィン系樹脂フィルムと非クロム系化成被膜処理されたアルミニウムの層とがアンカーコート剤や接着剤等を塗布することなくかつ充分な接着強度で貼り合わされているので、包装材、特に、浸透性や溶解性の強い液体や無処理アルミニウムを侵すような液体等の内容物の包装材として有用である。上記内容物は、例えば、カレー等のレトルト食品、シャンプーや液体洗剤等の詰替用品、工業用薬剤、溶液、溶剤等の使い切りパック用品、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの発電/蓄電要素等を包含する。また、本発明の多層フィルムは、耐低温性にも優れるので、アイスクリーム等の冷菓の包装材としても有用であり、また、自動車バッテリー用のリチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタの外装材として特に好適に適用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1〜4および比較例1〜3
(1)ポリオレフィンフィルム(A)の製造
表1に示す、層(A−1)のための酸変性ポリエチレン系樹脂(α)および層(A−2)のための結晶性ポリエチレン系樹脂(β)を使用し、マルチマニホールド型多層共押出Tダイを用いて、層(A−1)/層(A−2)厚み比1/3、全厚み60μmのフィルム(A)を製造した。なお、Tダイ出口樹脂温度240℃、引取速度10m/分とした。また、(A−1)層に、濡れ指数が55mN/m以上になるようにコロナ処理を付した。
【0044】
(2)アルミニウム箔のベーマイト処理
東洋アルミニウム株式会社製の無処理アルミニウム箔(スーパーホイル、JIS番号A−8079、厚さ40μm)を水槽に繰出して沸騰水に30分浸漬した後、浸漬部分を巻取る作業を繰返してベーマイト処理アルミニウム箔(B)を得た。
【0045】
(3)ポリオレフィンフィルム(A)とアルミニウム箔(B)との熱ラミネート
上記で得られたポリオレフィンフィルム(A)とベーマイト処理されたアルミニウム箔(B)を、トクデン株式会社の誘電発熱式ラミネーターJD−DWを用いて、ポリオレフィンフィルムの層(A−1)がアルミニウム箔と接するように熱ラミネートを行なった。熱ロールの温度は、表1に示す熱ラミネート作業温度に設定し、圧力は0.3MPa、引取速度は2m/分であった。
【0046】
(4)ポリアミドフィルム(C)のドライラミネート
上記熱ラミネートによって得られたフィルムのアルミニウム箔の上に、ユニチカ株式会社のナイロンフィルム(エンブレムONUM、厚さ15μm)を、接着剤として三井化学ポリウレタン株式会社のタケラックA−310/タケネートA−3(12/1質量比)の二液タイプを使用して、平野金属のテストラミネーターMODEL200によりドライラミネートした。ラミネート後、40℃×90時間の養生を行った。
【0047】
上記で得られたフィルムについて、下記の試験を行った。
【0048】
ポリオレフィンフィルムのヒートシール強度
上記(1)で得られたポリオレフィンフィルム(A)の層(A−2)同士を、フィルムのマシン方向がT字剥離試験の引張方向になるようにして、株式会社東洋精機製作所のHG−100型ヒートシール試験機を用いて、温度175℃、時間2秒、圧力0.2MPaの条件で融着した。次いで、T字剥離試験として株式会社東洋精機製作所製のAE−CT型引張試験機を使用し、引剥幅25mm、引剥速度100mm/分、引剥角度180°で、層(A−2)同士のヒートシール強度を測定した。
【0049】
熱ラミネート性−1
上記(3)で得られたフィルムのポリオレフィンフィルム(A)上に縦横共に3mm間隔で碁盤目状に10列×10行の切目を入れ、その上から粘着テープを貼り、直ちに粘着テープを剥した。粘着テープにフィルムが何ら付着することなく剥がれた場合を○、それ以外を×とした。
【0050】
熱ラミネート性−2
ポリオレフィンフィルム(A)とベーマイト処理したアルミニウム箔(B)とを、層(A−1)と層(B)が接するようにかつフィルムのマシン方向がT字剥離試験の引張方向になるようにして、株式会社東洋精機製作所のHG−100型ヒートシール試験機を用いて、表1に示される熱ラミネート作業温度で、時間2秒、圧力0.3MPaの条件で融着した。次いで、T字剥離試験として株式会社東洋精機製作所のAE−CT型引張試験機を使用し、引剥幅25mm、引剥速度100mm/分、引剥角度180°で、層(A−1)とアルミニウム箔との間のラミネート強度を測定した。
【0051】
耐電解液性
上記(4)で得られた多層フィルムを、凹部の寸法が縦70mm×横70mm×深さ4mmとなる金型とプレス機(ラミネートフイルム成形試験機、宝泉株式会社製)を使用し、ポリオレフィンフイルム(A)の側が凹になるように、加速圧力5MPs、加圧速度1s/100mmの条件で絞り加工した。別に、上記(4)で得られた多層フィルムを縦80mm×横80mmに裁断したものを用意し、これと、上記絞り加工した多層フィルムとを、それぞれのポリオレフィンフイルム(A)の層が対向するように重ね合わせ、任意の3辺を5mm幅で、175℃、1MPa、2秒の条件でヒートシールして袋状に加工した。エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートを1:1:1の体積比で混合し、これに六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶解した電解液(キシダ化学株式会社製)10mlを開口部から注入し、開口部を5mm幅で、175℃、1MPa、2秒の条件でヒートシールして試験片とした。これを、温度60℃、湿度90%に設定した環境試験機を用いて、100日間の促進劣化試験に付した。液漏れ等の異常が無い場合を○、何らかの異常が認められる場合を×とした。
【0052】
耐低温性−1
上記耐電解液性の試験において作製したものと同様の、有機溶剤を充填した袋を用意し、これを、−40℃の環境において24時間、状態調節した後、同環境において、1mの高さから、ステンレスのバットに、腹打ちの方向に袋を落下させる落下試験を100回行った。破袋および液漏れが起こらなかった場合を○、破袋または液漏れが認められた場合を×とした。
【0053】
耐低温性−2
上記耐低温性−1の試験において、腹打ちの方向に代えて袋を立たせる方向に落下させた以外は上記試験と同様にして、落下試験を100回行った。破袋および漏れが起こらなかった場合を○、破袋または液漏れが認められた場合を×とした。なお、本試験で使用した袋は、耐低温性−1の試験で使用したものとは別に用意したものである。
【0054】
耐熱性
上記耐電解液性の試験において作製したものと同様の、電解液を充填した袋を用意し、これを沸騰水中で30分間煮沸した。破袋および液漏れが起こらなかった場合を○、破袋または液漏れが認められた場合を×とした。
【0055】
使用した材料は以下の通りである。
NE065:三井化学(株)製のアドマーNE065(商品名)、無水マレイン酸変性ポリエチレン、Xc=60%となる温度:111℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点=123℃
NE827:三井化学(株)製のアドマーNE827(商品名)、無水マレイン酸変性ポリエチレン、Xc=60%となる温度:89℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点=124℃
XE070:三井化学(株)製のアドマーXE070(商品名)、無水マレイン酸変性ポリエチレン、Xc=60%となる温度:54℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点=84℃
SP4530:プライムポリマー(株)製のエボリューSP4530(商品名)、メタロセン系触媒による直鎖状高密度ポリエチレン、Xc=60%となる温度:126℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点:132℃、密度:942Kg/m
4040F:宇部興産(株)製のUBEスーパーポリエチレンユメリット4040F(商品名)、メタロセン系触媒による直鎖状中密度ポリエチレン、Xc=60%となる温度:117℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点:127℃、密度:938Kg/m
SP2520:プライムポリマー(株)製のエボリューSP2520(商品名)、メタロセン系触媒による直鎖状低密度ポリエチレン、Xc=60%となる温度:98℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点:121℃、密度:928Kg/m
KF271:日本ポリエチレン(株)製のカーネルKF271(商品名)、メタロセン系触媒による直鎖状低密度ポリエチレン、Xc=60%となる温度:90℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点:127℃、密度:913Kg/m
QE060:三井化学(株)製のアドマーQE060(商品名)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、Tmα=141℃、Xc=60%となる温度:126℃
F−704NP:プライムポリマー(株)製のF−704NP(商品名)、ホモポリプロピレン、Xc=60%となる温度:156℃、DSC融解曲線における最も高い温度側のピークトップ融点:161℃
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、実施例1〜4の本発明の多層フィルムは、充分なヒートシール強度を有すると共に、熱ラミネート性、耐溶剤性および耐低温性に優れる。
【0058】
一方、樹脂(α)と樹脂(β)とがTmα60 <Tmβ60 の関係を満たさない比較例1および2の多層フィルムは、層(A−1)を構成する樹脂(α)の結晶化度(Xc)が60%である温度(111℃)で熱ラミネートをおこなったところ、ポリオレフィンフィルム(A)が熱ロールに付着して剥がれなくなり、ラミネートすることができなかった。そこで、樹脂(β)の結晶化度が60%以上になるように熱ロールの温度を、表1に示すように、それぞれ98℃および90℃に下げて熱ラミネートを行ったところ、ラミネートすることはできたが、接着強度は充分でなく、耐溶剤性および耐低温性も充分でなかった。
【0059】
比較例3は、樹脂(α)および樹脂(β)として共にプロピレン系のものを使用した多層フィルムであり、耐低温性に劣る。
【0060】
比較例4
実施例1において、熱ラミネートの作業温度を表2に示す温度にした以外は実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示されるように、熱ラミネートを、式(1)を満たす温度よりも低い温度(105℃)で行ったところ、ラミネートすることはできたが、接着強度は充分でなく、耐溶剤性および耐低温性も充分でなかった。また、熱ラミネートを、式(1)を満たす温度よりも高い温度(130℃)で行ったところ、ポリオレフィンフィルム(A)が熱ロールに付着して剥がれなくなり、ラミネートすることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の多層フィルムの一例である。
【符号の説明】
【0064】
A ポリオレフィン系樹脂フィルム
B 非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層
C ポリアミドの層
D ポリエステル系樹脂の層
A−1 酸変性ポリエチレン系樹脂の層
A−2 結晶性ポリエチレン系樹脂の層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)の一方の面にポリオレフィン系樹脂フィルム(A)を有し、他方の面にポリアミドの層(C)を有する多層フィルムであって、フィルム(A)が酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の結晶化度が60%となる温度をTmα60とし、上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度をTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であり、層(B)が層(A−1)の上に直接積層されているところの多層フィルム。
【請求項2】
Tmβ60が115℃以上である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
Tmα60が100℃以上である、請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
層(C)の上にポリエステル系樹脂の層(D)を更に有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層フィルムからなる成形体。
【請求項6】
二次電池の外装材である、請求項5記載の成形体。
【請求項7】
電気二重層キャパシタの外装材である、請求項5記載の成形体。
【請求項8】
1)ポリオレフィン系樹脂フィルム(A)の片面に、非クロム系化成皮膜処理されたアルミニウムの層(B)を積層する工程、および
2)上記層(B)の上にポリアミドの層(C)を積層する工程
を含み、ここで、フィルム(A)は酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の層(A−1)および結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の層(A−2)を含み、上記酸変性ポリエチレン系樹脂(α)の結晶化度が60%となる温度をTmα60とし、上記結晶性ポリエチレン系樹脂(β)の結晶化度が60%となる温度をTmβ60としたとき、Tmα60 <Tmβ60 であり、上記工程1)は、下記(1)を満たす温度(T)での熱ラミネートにより、層(A−1)の上に層(B)が積層されるように行なわれる、請求項1記載の多層フィルムの製造法、
αのXc(T)<60% かつ βのXc(T)≧60% (1)
ここで、Xc(T)は温度Tでの結晶化度である。


【図1】
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【公開番号】特開2010−46863(P2010−46863A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211867(P2008−211867)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】