説明

多層ボトル

【課題】低温耐衝撃性を改善するとともに耐熱性および高温充填時の透明性および滑り性の良好なプロピレン系の多層ボトルを提供する。
【解決手段】多層ボトル1は、ブロー成形により多層構造に形成される。2はキャップである。多層ボトル1の最外層を構成するプロピレン系樹脂には、スチレン含有量が12wt%以下のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーを1〜20wt%および2000ppm以下の有機滑剤を添加する。最内層を構成する熱可塑性樹脂も最外層を構成する樹脂と同一のものを用いることが好ましい。最外層を構成するプロピレン系樹脂とSEBSエラストマーの混合物からなる熱可塑性樹脂はマイナス30℃における引張弾性率(JIS K7113)が16000kg/cm好ましくは15000kg/cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性、透明性、表面光沢性、耐熱性とともに低温耐衝撃性に優れ、特に高温内容物の充填時の透明性および滑り性に優れた多層容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の包装用ボトルとして従来から多層構造を有するプラスチック製のものが用いられてきた。当該多層ボトルは内容物の保存性の観点より中間層として酸素バリア性の高いエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのバリア性樹脂を配置した多層構造として構成されまた、内容物および用途に応じて内外層に用いられる樹脂が選択される。例えば、軟質でスクイーズ性を必要とする場合には低密度ポリエチレンが用いられ、耐熱性および剛性を必要とする場合にはポリプロピレンが用いられる。
【0003】
ところが、一般にポリプロピレンは低温における耐衝撃性が低く、落下によるボトルの破損が生じやすい。このため、種々の方法により低温時の落下強度を向上させることが行なわれてきた。例えば、特許文献1には低温耐衝撃性を向上させるためにポリプロピレン樹脂に5〜20重量部の直鎖低密度ポリエチレンと2〜20重量部のオレフィン系の軟質エラストマーを配合した樹脂からなるブロー成形製のボトルが開示されている。ポリプロピレンに添加される上記直鎖状ポリエチレンまたはオレフィン系エラストマー等の軟質樹脂はその密度に依存して低温耐衝撃性を改善させることができるが、一方で容器の剛性と高温充填時の透明性が過度に低下し、容器表面が軟質となり傷つき易いという問題があった。
【0004】
このため、ポリプロピレンに添加する低温耐衝撃性および透明性の改質樹脂としてスチレン系エラストマーを用いることが提案されている。例えば、特許文献2または3にはプロピレンのホモポリマーまたはブロックコポリマーにスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加ポリマーを配合することにより透明性を低下させることなく、耐衝撃性を改善させた多層容器が開示されている。
【0005】
しかし、内容物としてタレ、ソース、ケチャップ、ドレッシングなどの液状または半液状の調味料が充填される用途にあっては、内容物は充填時に高温(例えば70℃)の状態にてボトルへ注入され、その後低温にて保存される。従来のスチレン系エラストマーを配合したものにあっては低温耐衝撃性が充分でなく、さらに高温充填により透明性および充填ライン上での滑り性が劣るものであった。
【特許文献1】特開昭61−98756号公報
【特許文献2】特開平5−270570号公報
【特許文献3】特開平11−290422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、低温耐衝撃性を改善するとともに耐熱性および高温充填時の透明性および滑り性の良好な多層ボトルを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行ったところ、多層ボトルの最外層を構成する熱可塑性樹脂をプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーとスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBSエラストマー)とのブレンド樹脂とし、かつスチレン含有量が12wt%好ましくは10wt%以下のSEBSエラストマーを用い、さらに最外層を構成する熱可塑性樹脂に対して2000ppm以下の有機滑剤が添加ることにより低温耐衝撃性および高温充填時の透明性および滑り性の良好なボトルが得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記1)〜5)記載の構成からなる低温耐衝撃性および透明性に優れたブロー成形製の多層ボトルを提供するものである。
1)スチレン含有量が12wt%以下のSEBSエラストマーを1〜20wt%含有したプロピレン系樹脂により最外層を構成する。これにより、低温耐衝撃性および透明性に優れたボトルを得ることができる。
2)SEBSエラストマーとしてスチレン含有量が10wt%以下のものを用いる。これにより低温耐衝撃性および透明性を向上させることができる。
3)常温時および高温充填時のボトル胴部の透明性が60%以上の全光線透過率であることを特徴とする。
4)最外層には前記熱可塑性樹脂に対して2000ppm以下の有機滑剤が添加されている。これにより、高温内容物の充填ラインにおいても透明性を維持しつつ、滑り性がよくボトル同士の接触によるブロッキングおよび傷つきを防止することができる。
5)ボトルに充填される内容物が高温充填される液状または半液状の食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればポリプロピレン系樹脂からなる内外層を有する多層ボトルにおいて、低温耐衝撃性を向上させるとともに、高温充填時における透明性および滑り性に優れ、傷つきにくく、光沢性、耐熱性、剛性についてもバランスのとれたものを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る多層ボトル1は、低温耐衝撃性を有し、するボトルはブロー成形により多層構造に形成される。2はキャップである。最外層を構成する熱可塑性樹脂は80〜99wt%のポリプロピレン系樹脂と1〜20wt%好ましくは8〜15wt%のSEBSエラストマーとの混合材料からなる。さらに、最内層を構成する熱可塑性樹脂も最外層を構成する樹脂と同一のものを用いることが好ましい。プロピレン系樹脂は、プロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーが用いられる。プロピレン系樹脂には1000〜3000ppmの酸化防止剤が添加されているとともに、2000ppm以下の有機滑剤が添加される。有機滑剤としては脂肪酸アマイド系のものが好適に用いられる。SEBSエラストマーは、スチレン含有量が12wt%好ましくは10wt%以下のスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーが用いられる。最外層を構成するプロピレン系樹脂とSEBSエラストマーの混合物からなる熱可塑性樹脂はマイナス30℃における引張弾性率(JIS K7113)が16000kg/cm好ましくは15000kg/cm以下である。
【0011】
SEBSエラストマーとしてスチレン含有量が低いものを用いることで低温における耐衝撃性を向上させるとともに、高温および常温における透明性を高くすることができる。つまり、SEBSエラストマーのスチレン含有量が12wt%を超える場合には低温における耐衝撃性が低下し、高温時と常温時の透明性を同時に達成することができないものとなる。また、耐衝撃性を改善するためにエラストマーまたは低密度の軟質樹脂等を添加した場合、特にライン上のボトル同士の接触によりボトル表面に傷がつき光沢性または透明性が低下しやすく、ライン上での詰まる原因となる。そこで滑り性を改善するため滑剤を添加することが考えられるが、滑り性を向上させるため滑剤の添加量を上げると透明性の低下およびブリードの原因となるため好ましくない。そこで、プロピレン系樹脂に添加されるSEBSエラストマーのスチレン含有量が12wt%以下でかつ、有機滑剤の配合量を2000ppm以下とすることで低温時の耐衝撃性と高温時の透明性および滑り性が優れた多層ボトルを得ることができる。
【0012】
また、酸素バリア性を有する中間層には30℃−60%RHにおける酸素透過率が10(cc・20μm/m・day・atm)以下、好ましくは1.0(cc・20μm/m・day・atm)以下の熱可塑性樹脂で、融点が180℃以上であり、好ましくは185℃以上、さらに好ましくは190℃以上のものが好適に用いられる。前記酸素バリア性を有する樹脂としてはエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)が好適であり、一般にエチレン含有量が60mol%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化度90%以上にケン化したものが用いられる。
【0013】
またさらに、最外層および最内層と酸素バリア性の中間層との間には適宜、接着剤層または再生樹脂層を設けることができる。接着性樹脂としては、カルボキシル基を有するオレフィン系共重合体が好適に用いられ、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が特に適している。
【実施例】
【0014】
各実施例の多層構造体からなる多層ボトルを形成し、この多層ボトルの性能を、以下の測定法及び基準により評価した。多層ボトルはブロー成形により形成された容量500mlのものであり、胴部における総膜厚が400〜600μmで、以下の層構成とした。
3種5層構造:外層側より、最外層/接着層/中間層/接着層/最内層
各層の膜厚比率は最外層42%、接着層1.5%、中間層4%、最内層50%であった。
【0015】
[実施例1]
上記層構成からなるブロー成形製の多層ボトルを形成した。外層および内層を構成する樹脂としてプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマー90wt%にスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー10wt%を配合した熱可塑性樹脂を用いた。スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーはスチレン含有量が10wt%のものを用いた。また、内外層を構成する熱可塑性樹脂には滑剤として公知の脂肪酸アマイド系滑剤を1000ppmを添加した。さらに、中間層を構成する樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた。エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレン含有量32mol%、ケン化度99%の日本合成化学株式会社製ソアノールDC3212Bを用いた。また、接着層を構成する樹脂として変性ポリオレフィン樹脂を用いた。変性ポリオレフィン樹脂は三菱化学株式会社製モディックP512Vを用いた。ラインでの滑り性も良好で、ライン上でボトルの詰まりが発生することなく傷つきによる透明性または光沢性の低下も見られなかった。
【0016】
[実施例2]
上記層構成からなるブロー成形製の多層ボトルを形成した。外層および内層を構成する樹脂としてプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマー95wt%にスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー5wt%を配合した熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例1と同様とした。
【0017】
[実施例3]
上記層構成からなるブロー成形製の多層ボトルを形成した。各層を構成する樹脂として、内外層を構成する樹脂をプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーに配合するスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーをスチレン含有量が12wt%のものとした以外は実施例1と同様とした。スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーはスチレン含有量が12wt%のものを用いた。
【0018】
[実施例4]
上記層構成からなるブロー成形製の多層ボトルを形成した。外層および内層を構成する樹脂としてプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマー95wt%にスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー5wt%を配合した熱可塑性樹脂を用いた以外は実施例3と同様とした。
【0019】
[実施例5]
上記層構成からなるブロー成形製の多層ボトルを形成した。内外層を構成する熱可塑性樹脂には滑剤として実施例1で用いた公知の脂肪酸アマイド系滑剤を500ppmを添加した以外は実施例1と同様とした。ラインでの滑り性が悪く、ライン上でボトルの詰まりが発生した。また、傷つきによる透明性および光沢性の低下が見られた。
【0020】
[比較例1]
各層を構成する樹脂として、内外層を構成する樹脂をプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマーに配合するスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーをスチレン含有量が18wt%のものとした以外は実施例1と同様とした。スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマーはスチレン含有量が18wt%のものを用いた。
【0021】
[比較例2]
外層および内層を構成する樹脂としてプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマー90wt%にエチレンプロピレンラバー(EPR)10wt%を配合した熱可塑性樹脂を用い、内外層を構成する熱可塑性樹脂には滑剤として実施例1で用いた公知の脂肪酸アマイド系滑剤を500ppmを添加した以外は実施例1と同様とした。
【0022】
[比較例3]
外層および内層を構成する樹脂としてプロピレン・α−オレフィンランダムコポリマー90wt%にメタロセン系触媒を用いて重合された直鎖状超低密度エチレン・α−オレフィン共重合体10wt%を配合した熱可塑性樹脂を用い、内外層を構成する熱可塑性樹脂には滑剤として実施例1で用いた公知の脂肪酸アマイド系滑剤を500ppmを添加した以外は実施例1と同様とした。
【0023】
[評価方法]
1)低温耐衝撃性
上記ブロー成形により形成した各多層ボトルに水を約500cc充填し、マイナス5℃で保存したものを1.5mの高さからコンクリート面に10回落下させて破損した本数を確認した。表1には各多層ボトル10本中の破損した本数を示す。破損した本数が0のものを優、2本までを良、4本までを可、5本以上を不可として評価した。
2)透明性(全光線透過率)
上記ブロー成形により形成した各多層ボトルの胴部より切り出した試験片をJIS K7361−1に準拠して全光線透過率を測定した。ボトル胴部より切り出した試験片には厚みのばらつきがあり比較のため各厚みでの全光線透過率を500μm換算した数値を表1に示す。全光線透過率が60%以上のものを良、60%未満のものを不可として評価した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜3においては、落下させたボトルはいずれも2本までであり、優または良の評価であり、透明性についても常温および高温ともに60%以上の値となり良の評価であった。
実施例4においては、落下させたボトルの4本が破損して可の評価であり、透明性は高温時において良の評価であったが、常温においては50%で不可の評価であり、常温時および高温時において同時に透明性を満たすことはできなかった。
実施例5においては、実施例1と同様に低温耐衝撃性は優、透明性は良の評価であったが、滑り性が悪く、ラインにおいてボトルの詰まりが発生した。また、ラインにおいて充填工程、包装工程などを経るなかでボトル同士の衝突による傷が発生し、透明性および光沢性の低下が見られた。
比較例1においては、低温耐衝撃性が良の評価であり、また常温時の透明性が劣る評価となった。さらに比較例2および3においては、低温耐衝撃性の評価が不可であり、透明性については高温時に白濁が生じて透明性が劣る評価となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多層ボトルを示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 多層ボトル
2 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形により形成される多層ボトルにおいて、最外層を構成する熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂80〜99wt%に対しスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBSエラストマー)が1〜20wt%含有されており、かつ前記SEBSエラストマーのスチレン含有量が12wt%以下であることを特徴とする多層ボトル。
【請求項2】
前記SEBSエラストマーのスチレン含有量が10wt%以下であることを特徴とする請求項1記載の多層ボトル。
【請求項3】
前記多層ボトルは透明性を有し、常温時および高温内容物充填時のボトル胴部の全光線透過率(JIS K7361−1)が60%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の多層ボトル。
【請求項4】
最外層には前記熱可塑性樹脂に対して2000ppm以下の有機滑剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載の多層ボトル。
【請求項5】
内容物として液状または半液状の食品が充填されることを特徴とする請求項1記載の多層ボトル。

【図1】
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【公開番号】特開2008−279662(P2008−279662A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126129(P2007−126129)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】