説明

多層制御放出性メチルフェニデートペレット

本発明は、別のタイプのペレットと組み合わせる必要のないタイプの制御放出性多層メチルフェニデートペレットに関する。それは、1日1回の投与で血漿中の治療的濃度を12時間維持することが可能で、1日を通しての反復投与が回避される。制御放出性多層ペレットは、不活性コアと、メチルフェニデート及び酸緩衝系を含有する第一の層と、保護層と、大部分のメチルフェニデートの持続放出を制御する機能を果たすエチルセルロースの層と、投与1時間以内の即時放出の役割を担う第二のメチルフェニデート層とを含む。第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比は1.40:1〜1.90:1である。多層ペレットは、加工中の浸食からそれを保護するための外部コーティングを有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1日1回の投与を可能にするタイプの多層制御放出性メチルフェニデートペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
メチルフェニデートはピペリジンの誘導体で、中枢神経系及び呼吸に対して刺激活性を有する。現在塩酸形で市販されているメチルフェニデートは、小児の注意欠陥多動性障害の治療に使用されている。
【0003】
メチルフェニデートは胃腸管で直ちに吸収され、効果は3〜6時間持続する。従って血漿中に治療的濃度を維持するためには、5〜10mgの用量を1日2又は3回投与することが必要となる。このことは、1日を通して投与を反復するため、特に学童には障害となる。
【0004】
過度の高用量は、メチルフェニデートの即時放出性のため副作用を起こしかねない。
【0005】
これらの1日数回投与タイプは、1日1回の投与で血漿中濃度を維持する20mgのメチルフェニデートの8時間制御放出形に取って代わられている。
【0006】
米国特許第6,344,215号は、ゼラチンカプセル形にした20mgのメチルフェニデートを投与することによって製剤の有効性を改良できることを開示している。これらのカプセルは合計14mgのメチルフェニデートを2種類の異なるペレットにして含有している。すなわち、6mgの有効成分を含有する即時放出群(30%)及びその他の持続放出群(70%)の2種類である。この方法は、即効作用と12時間にわたる持続効果の両方を達成し、1日1回投与を可能にしている。
【0007】
2種類の異なるペレットを含有するゼラチンカプセル製剤は、製造及び投与法を複雑にする。
【0008】
特許出願WO−A1−9903471は、2種類の異なるペレットを用いた製剤を明示的に開示しており、多層ペレット、すなわち持続放出用のメチルフェニデートを含有する最内層をアンモニウムメタクリレートポリマーの層で被覆し、この上に即時放出用のメチルフェニデートを含有する別の層を有する多層ペレットの代替物となり得る可能性を記載している。しかしながら、前記特許出願は多層ペレットの製造については明記していない。
【0009】
Padmanabhan著,Analytical Profiles of Drugs Substances,10:433−497(1981)に開示されているところによれば、メチルフェニデートは非酸性条件下で加水分解されて実質的に不活性なリタリン酸(ritalinic acid)を生ずる。従って、メチルフェニデートが5を超えるpHの腸内で放出されると、その治療的活性は、メチルフェニデートがその加水分解を起こす環境中にあるため、減退する。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,344,215号明細書
【特許文献2】国際公開第99/03471号パンフレット
【非特許文献1】Padmanabhan著,Analytical Profiles of Drugs Substances,10:433−497(1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、1日1回の投与を可能にする12時間の持続効果を有し、製造及び投与法が簡単で、非酸性環境中でより安定な、異なる形態の制御放出性メチルフェニデートが求められている。
【0012】
本発明の著者らは、別のタイプのペレットと組み合わせる必要がなく、1日1回の投与が可能で、製造及び投与法が簡単な、そして非酸性環境中にあっても良好な安定性を有するタイプの制御放出性多層メチルフェニデートペレットを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の目的
本発明の目的は、別のタイプのペレットと組み合わせる必要がなく、非酸性環境中でより安定なタイプの制御放出性多層メチルフェニデートペレットを提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、制御放出性多層メチルフェニデートペレットの製造法を提供することである。
【0015】
前述の多層ペレットを含有する剤形も本発明の目的の一部を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の制御放出性多層メチルフェニデートペレットは、
−不活性コアと、
−全メチルフェニデートの重量の65%〜75%、フィルム形成性物質、可塑剤及びpH値を4〜5に調整した酸緩衝系で構成される活性第一層と、
−保護層と、
−プラスチック化されたエチルセルロースの層と、そして
−全メチルフェニデートの重量の25%〜35%、フィルム形成性物質及び可塑剤を含む第二の活性層と
を含むことを特徴とする。そこで、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比は1.40:1〜1.90:1である。
【0017】
本発明の別の特徴に従って、メチルフェニデートの制御放出性多層ペレットは外部コーティングも有する。
【0018】
特に明記しない限り、本記載においてメチルフェニデートという用語は広い意味で使用され、例えば塩酸メチルフェニデートのようなその製薬学的塩も含む。
【0019】
本発明の多層ペレットを製造する場合、異なる濃度のフィルム形成性物質及び可塑化物質が使用される。本記載全体にわたる反復を避けるために、ここで本発明の目的を実施するのに使用できるフィルム形成性物質及び可塑化物質について定義する。
【0020】
フィルム形成性物質はフィルムを形成できる物質のことで、既存の基質上に新しい層を貼付するのに使用される。フィルム形成性物質は、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース又は上記の混合物から選ぶことができる。
【0021】
可塑剤は、高分子物質によって形成されるフィルムの機械的特性を改良するのに通常使用される物質である。
【0022】
可塑剤は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、中鎖トリグリセリド脂肪酸、樹脂酸、長鎖脂肪酸又はそれらの混合物の中から選ぶことができる。
【0023】
可塑剤の含有量は、フィルム形成性物質の重量の3%〜30%を構成しうるが、より典型的には10%〜25重量%である。
【0024】
フィルム形成性物質及び可塑化物質の両方からできている市販品を使用することもできる。前述の製品の一例は、COLORCON社によって市販されているOPADRY CLEARで、これはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール400及びポリエチレングリコール6000からできている。ヒドロキシプロピルメチルセルロースがフィルム形成性物質として、ポリエチレングリコールの混合物が可塑剤として働く。
【0025】
不活性コア
本発明の目的のメチルフェニデート制御放出性多層ペレットは不活性コアを有する。これがこの上に重ねられる異なる層の土台となる。
【0026】
不活性コアは、化学的及び製薬学的に不活性でメチルフェニデートと相互作用せず、その安定性にも影響を与えないコアを意味すると理解される。
【0027】
不活性コアは、当業者に公知の任意の材料、例えば、スクロース、デンプン、微結晶性セルロース、又はそれらの組合せから製造できる。好ましくは微結晶性セルロースが使用される。
【0028】
本発明を為すのに使用される不活性コアは、好ましくは700〜1000μmの直径を有する。
【0029】
微結晶性セルロースは粒子の粒度分布に従ってフラクション別に市販されている。例えば、PHARMATRANS SANAQ社から商品名CELLETSで市販されているものなどである。
【0030】
CELLETS 700は、700〜1000μmの直径を有する上記微結晶性粒子の一例で、さらに粒子の最低96%が本明細書の規格に適合している。
【0031】
第一の活性層
第一の活性層は、メチルフェニデートの一部、酸緩衝系、フィルム形成性物質及び可塑剤を含み、不活性コア上に付着される。
【0032】
第一の活性層中に存在するメチルフェニデートは、カプセル中に存在する全メチルフェニデートの重量の65〜75%、好ましくはおよそ70重量%を含む。
【0033】
不活性コア100gごとに、この第一の活性層に17〜21gの用量の塩酸メチルフェニデートが存在することになる。
【0034】
この第一の活性層中に存在する塩酸メチルフェニデートは、徐放性である。
【0035】
この層に配合される酸緩衝系は、非酸性環境中のメチルフェニデートを安定化させる。例えば、アルカリ性の腸液がカプセルに浸透してきた場合、メチルフェニデートが実質的に不活性な代謝産物であるリタリン酸に早期加水分解されるのを回避する。
【0036】
酸緩衝系は、例えば、有機酸と生理的に許容しうる有機塩基との組合せ又はアルカリ性のリン酸水素塩の混合物を含みうる。酸緩衝系は好ましくは、次に示す群:クエン酸とクエン酸塩の組合せ、クエン酸とグリシンの組合せ、グルタル酸とグリシンの組合せ、リン酸一ナトリウムとリン酸二ナトリウムの組合せ、リン酸一カリウムとリン酸二カリウムの組合せから選ばれるべきである。酸緩衝系の好適な混合物はクエン酸とグリシンから作られたものである。
【0037】
クエン酸は、その無水物形でも一水和物形でも使用できる。
【0038】
酸緩衝系成分の比率は、当業者に周知の処方及び/又は表によって、pH値4〜5に調整された酸緩衝系が達成されるように設計される。
【0039】
例えば、クエン酸とグリシンを含む酸緩衝系の具体例において、クエン酸一水和物とグリシンの重量比はおよそ1:2である。
【0040】
多層カプセルのこの第一活性層に配合される緩衝系の量は、有効成分、フィルム形成性物質及び可塑剤の水性混合物が4〜5のpH値を有するのに少なくとも十分な量である。
【0041】
クエン酸を含む酸緩衝系は、非酸性環境中のメチルフェニデートを安定化させるだけでなく、組成物中に存在しうる重金属の封鎖剤としても働くことができる。
【0042】
メチルフェニデートと酸緩衝系の層は、前述のようにフィルム形成性物質及び可塑化物質を用いて不活性コアに固定される。
【0043】
この層中に存在するフィルム形成性物質の量は、不活性コアの完全コーティングを得るのに必要な量である。一般的に、不活性コア100gごとに5〜7gのフィルム形成性物質を使用すれば十分である。
【0044】
使用される好適なフィルム形成性物質はヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0045】
フィルム形成性物質は、不活性コアへの接着性を改良し、不活性コアの完全かつ均一なコーティングを達成するために可塑剤と組み合わせる。
【0046】
好適な可塑剤はポリエチレングリコールである。理想的な可塑剤は、ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であろう。
【0047】
可塑剤と組み合わせたフィルム形成性物質の市販混合物、例えばOPADRY CLEARが使用できる。
【0048】
保護層
この保護層は、メチルフェニデートを、後で塗布される予定のエチルセルロース層によって発生するアルカリ性環境から隔離する。なぜならば、エチルセルロースは、通常アルカリ性の水性分散液として市販されているからである。
【0049】
メチルフェニデートを含有しない保護層は、第一のメチルフェニデート層の上に配置される。
【0050】
保護層はフィルム形成性物質及び可塑化物質でできている。
【0051】
この保護層中に存在するフィルム形成性物質及び可塑化物質の量は、第一の活性層を完全に被覆するのに必要な量である。一般的に、不活性コア100gごとに2〜3gの保護層が塗布されうる。
【0052】
好適なフィルム形成性物質はヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、可塑剤はポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物である。
【0053】
フィルム形成性物質及び可塑化物質の供給源として、前述のOPADRY CLEARという名の市販品がここでも使用できる。
【0054】
プラスチック化されたエチルセルロース層
プラスチック化されたエチルセルロースは、メチルフェニデートの放出を、その大部分が12時間かけて安定的に放出されるように調節する役割を果たす。
【0055】
第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比は1.40:1〜1.90:1、好ましくは1.50:1〜1.80:1である。
【0056】
エチルセルロース層は、フレキシブルなフィルムを形成し、下にある層の表面を均一に被覆できるようにプラスチック被覆される。
【0057】
プラスチック化されたエチルセルロース層は、可塑剤を加えたエチルセルロース分散液を塗布することによって得ることができる。又は市販のプラスチック化エチルセルロースの分散液も、既に可塑剤を含有しているので、使用できる。
【0058】
予備プラスチック化されたエチルセルロースの分散液を使用する場合、COLORCON社のSURELEASEと呼ばれる製品が使用できる。これは、プラスチック化エチルセルロースと中鎖トリグリセリド脂肪酸及びオレイン酸の無水アンモニア分散液(アルカリ性のpHを有する)を含む。この製品は、保護層にエチルセルロース層を付着させるのに、そのままでも水で希釈して使用してもよい。
【0059】
第二の活性層
第二のメチルフェニデート層は有効成分の割合の少ない方の層で、有効成分は即時すなわち投与1時間以内に放出されることになる。この層を、メチルフェニデートの安定的放出に役割を果たすエチルセルロースの層上に塗布する。
【0060】
この場合、エチルセルロース層と第二のメチルフェニデート層の間に保護層を塗布する必要はない。なぜならば、新しい層を組込んだ後にペレットが委ねられる乾燥工程によって、エチルセルロースの水性分散液中に存在する全てのアンモニアが除去されるからである。従って、いったん乾燥すると、エチルセルロース層はアルカリ性反応を起こさない。
【0061】
エチルセルロース層上に塗布された第二のメチルフェニデート層は、メチルフェニデート、フィルム形成性物質及び可塑剤を含む。
【0062】
前述のように、この第二の活性層中に存在するメチルフェニデートの含有量は、ペレット中に存在する全メチルフェニデートの重量の25〜35%、好ましくはおよそ30重量%を含む。
【0063】
この第二の活性層において不活性コア100gごとに7〜9gの塩酸メチルフェニデートが投与されることになる。
【0064】
フィルム形成性物質は、メチルフェニデートを下にあるエチルセルロース層に貼付するのに使用される。好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースであるが、それが形成 するフィルムの性質を改良するために可塑剤で改質されている。
【0065】
ポリエチレングリコールが好適な可塑剤である。さらに好ましくは、可塑剤はポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であろう。
【0066】
前述のように、市販品OPADRY CLEARも使用できる。
【0067】
一般的に、この層中のOPADRY CLEARの含有量は、不活性コア100gごとに2.5〜3.5g含むことができる。
【0068】
外部コーティング
発明された多層ペレットは、外部コーティングを施して、製造及び投与プロセス中の浸食からそれを保護するようにすることもできる。この外部コーティングは、フィルム形成性物質、顔料及び可塑剤から作ることができる。
【0069】
二酸化チタンが好適な顔料である。それを第二のメチルフェニデート層に、可塑剤と組み合わせたフィルム形成性物質によって接着する。その際、COLORCON社から市販されている製品OPADRY WHITEを使用するのが好適である。これは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール6000及び二酸化チタンからなる。
【0070】
本発明の目的である制御放出性多層メチルフェニデートペレットは、ペレットの使用を可能にする薬剤投与法の一部、例えば硬質ゼラチンカプセル又は錠剤を形成することができる。
【0071】
カプセルの場合、多層ペレットは、各カプセルに、メチルフェニデートの治療的濃度を血漿中に維持できるような確立された用量のメチルフェニデートを封入して投与される。
【0072】
塩酸メチルフェニデートの具体例において、カプセルは前記有効成分を10mg〜40mg、好ましくは20mg含有すればよい。
【0073】
本発明の一部は、多層持続放出性メチルフェニデートペレットの製造法も含む。該方法は、以下の工程を含む。すなわち、
−不活性コアを、全メチルフェニデートの重量の65%〜75%、フィルム形成性物質、可塑剤及びpH値を4〜5に調整した酸緩衝系で構成された水溶液を塗布することによって最初の活性層で被覆する工程と、
−保護層を塗布する工程と、
−プラスチック化されたエチルセルロースの層を、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が1.40:1〜1.90:1になるように加える工程と、そして
−次に、全メチルフェニデートの重量の25%〜35%、フィルム形成性物質及び可塑剤を含有する第二の活性層を加える工程
である。
【0074】
本発明による持続放出性多層メチルフェニデートペレットの製造法は、形成されたペレットに外部コーティングを施す工程も含む。
【0075】
多層ペレットを得る全工程は、Wurster Fluid Bed Systemのような装置で実施される。
【0076】
第一のメチルフェニデート層は、メチルフェニデート、フィルム形成性物質及び可塑化物質を含み、緩衝系でpH値を4〜5に調整した水溶液中の用量(dose)によって乾燥不活性コア上に塗布される。次いで、ペレットを乾燥させて、溶液を調製した際に含まれていた水分を蒸発させる。
【0077】
その後、フィルム形成性物質及び可塑化物質の水溶液を調製し、第一のメチルフェニデート層上に保護層を創製する。溶液を調製した場合、ペレットを乾燥させて、使用された水分を蒸発させる。
【0078】
その後、可塑剤を含むエチルセルロースの水性分散液を乾燥ペレットに塗布する。その際、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が1.40:1〜1.90:1になるようにする。次いで、ペレットを乾燥させ、水分と、エチルセルロースの水性アルカリ性分散液由来のアンモニアを蒸発させる。
【0079】
乾燥ペレットを、メチルフェニデート、フィルム形成性物質及び可塑化物質の水溶液を塗布することによって、第二の即時放出性活性層で被覆する。
【0080】
持続放出性メチルフェニデート組成物の製造法は、外部コーティング工程を含むこともできる。
【0081】
外部コーティングの塗布は、フィルム形成性物質、顔料、及び可塑剤の水性分散液の適用とその後の乾燥によって実施される。
【0082】
全ての層を塗布したら、ペレットを少なくとも2時間、50℃〜70℃の温度に保持して、エチルセルロース層の融合及びペレットの異なる層の合体硬化を補助する。こうすることにより、血漿中にメチルフェニデートの治療的濃度を維持するために必要な放出特性を妨げうるペレットの各層における時たまの欠陥が回避される。
【0083】
ペレットを硬質ゼラチンカプセルに測り取り、カプセルあたり約10mg〜40mg、好ましくは20mgの塩酸メチルフェニデートの量にすることができる。
【0084】
本発明の方法に従って製造されたペレットは、注意欠陥多動性障害、行動障害用の医薬品の製造、軽度うつ及びナルコレプシーの治療に使用できる。
【0085】
本発明の目的の多層ペレットは、即時放出用の一活性層と持続放出用の別の活性層を含むので、メチルフェニデートの制御放出に適しており、他のタイプのペレットと組み合わせる必要なく1日1回の投与で血漿中に治療的濃度のメチルフェニデートを維持できる。同様に、非酸性環境に直面した場合の有効成分の安定性は、投与12時間後までメチルフェニデートを持続放出する役割を果たす有効成分の層に配合された酸緩衝系を通じて確保される。
【実施例】
【0086】
以下の実施例は、当業者に、本発明の範囲に含まれる具体的ステージの詳細な説明を提供するために示される。
【0087】
実施例1〜4
制御放出性メチルフェニデートペレットの製造
1,800gの微結晶性セルロースペレット(CELLETS 700)をWurster型流動床系乾燥器に入れ、60℃で120分間加熱する。その後45℃に冷却する。
【0088】
第一のメチルフェニデート層を乾燥ペレットに塩酸メチルフェニデートの緩衝化溶液の塗布を用いて塗布する。該溶液は、2,125gの脱イオン水に次に示す成分、すなわち344gの塩酸メチルフェニデート、131.3gのOPADRY CLEARを溶解し、8.3gのクエン酸一水和物及び16.9gのグリシンを加えてpHを4〜5に調整することによって製造された。
【0089】
塩酸メチルフェニデートの緩衝化溶液は9g/分で供給される。吸気温度は65℃で、製品の温度は45℃に維持される。噴霧圧は15.9Paである。これらの条件は以後の塗布のいずれにおいても維持される。
【0090】
第一のメチルフェニデート層が乾燥したら、OPADRY CLEARの保護層を、925gの脱イオン水に溶解した46gのOPADRY CLEARを用いて塗布する。
【0091】
OPADRY CLEARの保護層の乾燥後、プラスチック化エチルセルロースの層を、1,126.4gのSURELEASEの水性分散液を用いて塗布する。これは、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比1.63:1に相当する。
【0092】
エチルセルロース層が乾燥したら、第二のメチルフェニデート層を、147.4gの塩酸メチルフェニデートと56.3gのOPADRY CLEARを1,105.8gの脱イオン水に溶解して予備調製した溶液を加えることによって塗布する。
【0093】
全ての層を塗布したら、ペレットを60℃の温度で2時間乾燥させる。
【0094】
製造されたペレットを各硬質ゼラチンカプセルあたり115mg測り取って、20mgの用量の塩酸メチルフェニデートを得る。他の用量の塩酸メチルフェニデートが所望であれば、カプセルあたりそれに対応する用量のペレットを測り取ればよい。
【0095】
本実施例に記載したのと同じ方法に従い、表1に示すように第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロースの重量比は異なるものを用いて、実施例2〜4の制御放出性メチルフェニデートを製造した。
【表1】

【0096】
多層ペレットのメチルフェニデート制御放出特性は、ヨーロッパ薬局方、第4版(2001)の194ページに記載されている固体剤形の溶出試験の指示に従って決定される。
【0097】
塩酸メチルフェニデートは、当業者が日常的に確立できる実験条件を通じて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分析技術によって決定される。
【0098】
実施例1〜4のメチルフェニデートに対応するメチルフェニデートの放出特性を、特定の時間に放出されたメチルフェニデートの重量%として表し、表2に示す。
【表2】

【0099】
本発明に対応する4つの実施例において、少なくとも12時間持続するメチルフェニデートの制御放出が達成されていることが分かる。
【0100】
本発明のペレットである実施例1のペレットは、硬質ゼラチンカプセルに入れて投与される。該カプセルはブリスターパックに包装される。これらを25℃で6ヶ月間保管し、その後メチルフェニデートの放出特性を再調査する。
【0101】
表3に、実施例1のペレットについてスタート時及び6ヶ月後に作成された放出特性を示す。放出特性は、ある時間に放出されたメチルフェニデートの重量%として表されている。
【表3】

【0102】
6ヶ月後のメチルフェニデート放出特性とスタート時のその放出特性間の類似係数は68%を超えており、二つの放出特性が類似していることを示している。
【0103】
6ヶ月間の安定後も、本発明の目的である多層ペレットは、血漿中の治療的濃度を12時間維持し、1日1回の投与に適切である。
【0104】
比較例1
実施例1〜4に記載の方法に従って、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が本発明の目的の範囲外の2.19である持続放出性メチルフェニデートペレットを製造する。表4に、これらのペレットのメチルフェニデート放出特性を示す。放出特性は、ある時間に放出されたメチルフェニデートの重量%として表されている。
【表4】

【0105】
分かるとおり、ペレット中に存在するメチルフェニデートは8時間後に全て放出されてしまい、これらのペレットが1日1回投与に適当でないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御放出性多層メチルフェニデートペレットであって、
不活性コアと、
全メチルフェニデートの重量の65%〜75%、フィルム形成性物質、可塑剤及びpH値を4〜5に調整した酸緩衝系を含む第一の活性層と、
保護層と、
プラスチック化されたエチルセルロースの層と、
全メチルフェニデートの重量の25%〜35%、フィルム形成性物質、及び可塑剤を含む第二の活性層と、
を有し、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が1.40:1〜1.90:1であることを特徴とする、制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項2】
外部コーティングも有することを特徴とする、請求項1に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項3】
第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が1.50:1〜1.80:1であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項4】
微結晶性セルロースの不活性コアを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項5】
不活性コアが700〜1000μmの直径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項6】
第一の活性層が、ペレット中に存在する全メチルフェニデートの70重量%を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項7】
第一の活性層において、フィルム形成性物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、可塑剤がポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項8】
酸緩衝系が、下記群:クエン酸とクエン酸塩の混合物、クエン酸とグリシンの混合物、グルタル酸とグリシンの混合物、リン酸一ナトリウムとリン酸二ナトリウムの混合物、リン酸一カリウムとリン酸二カリウムの混合物から選ばれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項9】
酸緩衝系がクエン酸とグリシンの混合物であることを特徴とする、請求項8に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項10】
保護層がフィルム形成性物質で作られていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項11】
フィルム形成性物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする、請求項10に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項12】
保護層が可塑剤も含有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項13】
可塑剤がポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であることを特徴とする、請求項12に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項14】
第二の活性層が、ペレット中に存在するメチルフェニデートの全重量の30重量%を含有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項15】
第二の活性層において、フィルム形成性物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、可塑剤がポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項16】
フィルム形成性物質、顔料及び可塑剤を含む外層で被覆されていることを特徴とする、請求項2〜15のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項17】
外層において、フィルム形成性物質がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、顔料が二酸化チタンであり、可塑剤がポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール6000の混合物であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレット。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の制御放出性多層メチルフェニデートペレットの製造法であって、
不活性コアを、全メチルフェニデートの重量の65%〜75%、フィルム形成性物質、可塑剤及びpH値を4〜5に調整した酸緩衝系を含む水溶液を塗布し、その後乾燥させることによって予備的活性層で被覆する工程と、
保護層を塗布する工程と、
プラスチック化されたエチルセルロースの層を、第一の活性層中に存在するメチルフェニデートとエチルセルロース間の重量比が1.40:1〜1.90:1になるように加える工程と、
次に、全メチルフェニデートの重量の25%〜35%、フィルム形成性物質及び可塑剤を含有する第二の活性層を加える工程と、
を含むことを特徴とする製造法。
【請求項19】
前記工程で形成されたペレットを外部コーティングで被覆する工程も含むことを特徴とする、請求項18に記載の製造法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の多層ペレットを含有することを特徴とする剤形。
【請求項21】
カプセルであることを特徴とする、請求項20に記載の剤形。
【請求項22】
10〜40mgの用量の塩酸メチルフェニデートを含有することを特徴とする、請求項20又は21に記載の剤形。
【請求項23】
20mgの用量の塩酸メチルフェニデートを含有することを特徴とする、請求項22に記載の剤形。

【公表番号】特表2008−501741(P2008−501741A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526245(P2007−526245)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005874
【国際公開番号】WO2005/120468
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506404016)
【Fターム(参考)】