説明

多層回路基板およびその製造方法

【課題】光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムから形成され、接着剤を用いることなく熱接着により形成できる多層回路基板を提供する。
【解決手段】多層回路基板10は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に導体回路12が形成された基板層11と、前記基板層11の回路形成面に対して、接着面13aを対向させて熱圧着されている接着性フィルム層13と、を少なくとも含む。
前記接着性フィルム層13は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムであり、この接着性フィルム層13の接着面13aは、ナノインデンテーション法によって測定された硬度0.01〜0.1GPaを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルム(以下、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する場合がある)から形成され、接着剤を用いることなく熱接着により形成できる多層回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に対する小型化、高機能化が求められている中、これらの要求を満たすために、回路基板を多層化した多層回路基板の需要が増大している。
【0003】
多層回路基板は、従来、ポリイミドフィルムに導体回路が形成された基板と、ポリイミドフィルムと接着剤層とで構成されたカバーレイフィルムとを貼り合わせて形成されたものが知られている。
【0004】
しかし、このような多層回路基板では、接着剤を用いているため耐熱性、特に耐はんだ性に劣る場合がある。また、このような多層回路基板では、接着剤に由来する溶剤が残存する場合があり、このような残存溶剤は、多層化後の回路基板において不具合を発生させ、回路基板の信頼性を低下させてしまう虞がある。そのため、接着剤を用いることなく多層回路基板を形成する技術が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2006−179609号公報)には、接着剤を用いることなく多層回路基板を形成するために、熱可塑性液晶ポリマー層の少なくとも一面に導電層が設けられてなる単位基板を重ね合わせて積層配線基板を製造する方法において、前記熱可塑性液晶ポリマー層の各々における少なくとも一方の面に対して、アルカリ混合溶液による薬液粗化処理またはプラズマ粗化処理を施し、前記処理の施された面を他の単位基板の面に重ねて2以上の層を有する積層板を形成し、前記積層板を加熱、加圧処理する積層配線基板の製造法が開示されている。
【0006】
特許文献1には、この製造方法によれば、配線基板を構成する各単位基板の表層に形成された回路に影響を与えず、その液晶ポリマー層の表面に緻密な粗化面を形成することができ、液晶ポリマー層同士の接着力に優れた配線基板を得ることができることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−179609号公報(請求項1および10、段落番号[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された配線基板では、接着性を高めることと、導電層を保護することは、いわばトレードオフの関係にあり、接着性を高めるための薬液粗化処理またはプラズマ粗化処理を行うと導電層が破壊してしまう虞がある。
【0009】
さらに、アルカリ混合溶液による薬液処理では、薬液処理された基板を洗浄する工程が必須であり、工程が煩雑になる。そればかりか、薬液に対する安全性を考慮した設備が必要であるとともに、製造に伴って排出された廃液を処理する設備もさらに必要となり、コスト面での負担も大きい。
【0010】
一方、プラズマ粗化処理では、廃液処理などの問題は生じないが、プラズマ処理を行うために多大な設備負担を必要とする。
【0011】
したがって、本発明の目的は、接着剤を用いることなく熱接着により形成できるとともに、導電層(または導体回路)を破壊することなく一体性を向上できる多層回路基板を提供することである。
本発明の別の目的は、耐はんだ性とともに、寸法安定性に優れる多層回路基板を提供することを提供することにある。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、廃液を無公害化するための設備や、プラズマ処理のための高価な設備を利用しなくとも、多層回路基板を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究したところ、
(i)従来、接着面を形成する場合、接着表面に凹凸形状を形成してアンカー効果により接着性を向上させるのが定法であったが、実は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムにおいては、フィルムの押出成形時に表面には硬いスキン層が発生してしまうため、熱圧着による接着性を向上させるためにフィルム表面の硬度を調整することが重要な役割を果たすこと、
(ii)成形物全体が有するマクロな硬度(例えば、ビッカース硬度など)を測定することは、フィルムのような薄膜における表層、すなわちスキン層のみの硬度を把握する上で適切ではなく、このような硬度は、ナノインデンテーション法により初めて正確に把握することができること、さらに
(iii)熱可塑性液晶ポリマーフィルムを特定の硬度に軟化処理するには、物理的研磨または紫外線照射が有効であり、このような軟化処理方法では、廃液を無公害化するための設備が不要であるだけでなく、プラズマ処理のようなコスト面の負担も低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、多層回路基板の製造方法であって、この製造方法は、
光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して熱可塑性液晶ポリマーフィルムを形成するフィルム形成工程と、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の表面に対して、物理的な研磨または紫外線照射を行うことにより、このフィルム表面が、ナノインデンテーション法によって測定された硬度0.01〜0.1GPaを有するように軟化させて、接着面を形成する軟化工程と、
前記接着面を、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に導体回路が形成された基板の回路形成面に対向させ、全体を熱圧着により接着させる熱圧着工程と、
を含む。
【0015】
前記製造方法では、軟化工程において、フィルム表面から0.01〜1μmの厚さを物理的研磨により除去して接着面を形成してもよく、185nmおよび254nmの波長の紫外線を同時に照射して接着面を形成してもよい。
【0016】
さらに、多層回路基板の製造方法においては、接着性ポリマー層の融点が高くとも接着性を向上することができるため、熱圧着の温度が、接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)より15℃低い温度以上であり、且つこの融点より15℃高い温度以下の範囲から選択されるとともに、さらに前記熱圧着の温度は、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)より20℃低い温度以上であり、且つこの融点より10℃高い温度以下の範囲を充足してもよい。
本発明の多層回路基板は、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に導体回路が形成された基板層と、
前記基板層の回路形成面に対して、接着面を対向させて熱圧着されている接着性フィルム層と、
を少なくとも含む多層回路基板であって、
前記接着性フィルム層が、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムであり、この接着性フィルム層の接着面が、ナノインデンテーション法によって測定された硬度0.01〜0.1GPaを有する。
【0017】
前記多層回路基板において、接着性フィルム層の接着面は、物理的研磨または紫外線照射により形成されていてもよい。また、接着性フィルム層の厚みは、10〜100μm程度であってもよい。このような接着性フィルム層は、カバーレイフィルムおよび/またはボンディングフィルムなどとして有効に用いることができる。
【0018】
接着性フィルム層の接着面が軟化しているため、接着性フィルム層と基板層の層間混合性が高まり、たとえ、接着性フィルム層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)と、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)とは、例えば、Ta≦Tb+5を満たしていてもよい。
【0019】
なお、本明細書において、接着性フィルム層の接着面における、ナノインデンテーション法による硬度とは、回路基板を形成するための熱圧着を行う前に接着性フィルム層表面が示す硬度を意味している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを基材として用い、特定の表面硬度を有する接着性フィルム層と、導体回路が形成された基板層とを組み合わせることにより、接着剤を用いることなく熱圧着により一体化させることができるとともに、導体回路を破壊することなく多層基板回路の一体性を向上することができる。
【0021】
また、特定の表面硬度を有する接着性フィルム層を用いることにより、接着性フィルム層として用いられる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの融点を従来より高めることが可能となり、基板層と接着性フィルム層とを形成するそれぞれの熱可塑性液晶ポリマーの融点を近づけることが可能となる。その結果、多層回路基板の一体性および熱管理性を向上することができる。
【0022】
さらに、本発明の多層回路基板の製造方法では、物理的研磨や紫外線照射により接着性フィルム表面を軟化させることができるので、従来接着性を高めるために必要であった薬液粗化処理またはプラズマ粗化処理が不要となり、廃液処理やプラズマ粗化処理のために必要であったコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付の図面に基づいて、本発明に係る多層配線回路基板の好適な一実施形態を説明する。なお、図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。また、添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を示す。図1(a)は、多層回路基板10を熱圧着によって製造する前の状態を示している。この図では、接着性フィルム層13,13の間に、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルム(以下、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称する場合がある)の両面に導体回路12,12が形成された基板層11が介在している。前記接着性フィルム層13,13は、導体回路の形成面に対向する接着面13a,13aをそれぞれ有しており、これらの接着面13a,13aは、所定の硬度を示すよう、予め軟化処理に付されている。このような積層状態の基板層11および接着性フィルム層13,13を熱圧着させることにより、図1(b)に示す多層回路基板10を得ることができる。
【0025】
図1(b)に示す多層回路基板10では、接着性フィルム層13,13の接着面13a,13aが熱圧着により溶融し、導体回路を接着性フィルム内部に埋め込むようにして、基板層11と接着性フィルム層13,13とが一体化している。ここで、接着性フィルム層13では、接着面13aのみに軟化処理を行っているため、軟化処理を行っていない他方の表面13bには、依然として高度に配向した表面スキン層が形成されている。そのため、接着性フィルム層13,13では、熱圧着により接着面13aを易接着性にする一方で、他方の非接着面13bは難接着性を保つことができるため、接着性フィルム層13,13は、多層回路基板のカバーレイフィルムとして有用である。
【0026】
図2は、本発明の第2実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を示す。図2(a)は多層回路基板20を熱圧着によって製造する前の状態を示している。この図では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に導体回路22,22が形成された基板層21と、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に導体回路24,24が形成された基板層23との間に、第1の接着性フィルム層25が介在し、さらに、第2の接着性フィルム層26,26の間に、基板層21と第1の接着性フィルム層25と基板層23とが、この順番で介在している。
【0027】
第1の接着性フィルム層25は、両方の面が接着面25a,25bであり、これらの接着面25a,25bは、基板層21と基板層23のそれぞれに形成された導体回路22と24に対して対向する。また、前記接着性フィルム層26,26は、その一方に接着面26a,26aをそれぞれ有しており、これらの接着面26a,26aは、基板層21と基板層23のそれぞれに形成された導体回路22と24に対して対向する。第1および第2の接着性フィルム層25,26に形成された接着面、すなわち接着面25a,25bと接着面26a,26aとは、所定の硬度を示すよう、予め軟化処理に付されている。このような積層状態の基板層21と基板層23および第1および第2の接着性フィルム層25,26とを熱圧着させることにより、図2(b)に示す多層回路基板20を得ることができる。
【0028】
図2(b)に示す多層回路基板20では、第1の接着性フィルム層25の接着面25a,25bおよび第2の接着性フィルム層26,26の接着面26a,26aが熱圧着により溶融し、それぞれの接着面において、導体回路を接着性フィルム内部に埋め込むようにして基板層21,23と一体化する。
【0029】
第1の接着性フィルム層25では、その両面25a,25bに対して軟化処理を行っているため、第1の接着性フィルム層を形成する液晶ポリマーフィルムには、高度に配向した表面スキン層が形成されておらず、このような接着性フィルム層25は、多層回路基板のボンディングフィルムとして有用である。
また、第2の接着性フィルム層26は、第1の実施形態で記載した接着性フィルム層13と同様に、多層回路基板のカバーレイフィルムとして有用である。
【0030】
また、さらに別の実施形態として、接着性フィルム層の非接着面に導体回路が設けられていている本発明の第3実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を図3に示す。図3(a)は多層回路基板30を熱圧着によって製造する前の状態を示している。この図では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面に導体回路32が形成された基板層31と、一方の面に接着面33aが形成されるとともに、他方の非接着面には導体回路34が形成されている第3の接着性フィルム層33と、一方に接着面35aを有し、他方の非接着面35bは表面改質も導体回路形成もなされていない第4の接着性フィルム層35とが、この順番で積層されている。
【0031】
第3の接着性フィルム層33の接着面33aは、基板層31に形成された導体回路32に対して対向する。また、前記第4の接着性フィルム層35の接着面35aは、第3の接着性フィルム層33に形成された導体回路34に対して対向する。第3および第4の接着性フィルム層33,35に形成された接着面、すなわち接着面33a,35aは、所定の硬度を示すよう、予め軟化処理に付されている。このような積層状態の基板層31と第3および第4の接着性フィルム層33,35とを熱圧着させることにより、図3(b)に示す多層回路基板30を得ることができる。
【0032】
図3(b)に示す多層回路基板30では、第3の接着性フィルム層33の接着面33aと第4の接着性フィルム層35の接着面35aが熱圧着により溶融し、それぞれの接着面において、導体回路を接着性フィルム内部に埋め込むようにして一体化する。
【0033】
すなわち、多層回路基板における基板層と接着性フィルム層とは、導体回路の形成面に応じてさまざまな積層状態であってもよく、基板層(基)と接着性フィルム層(接)との積層状態は、(基)/(接)/(基)、(基)/(接)/(基)/(接)/(基)、(基)/(接)/(接)、(基)/(接)/(接)/(接)などであってもよい。
【0034】
なお、図1〜3には示していないが、これらの多層回路基板では、熱圧着した後、必要に応じてレーザーによる加工、ドリルによる加工、化学エッチングなどの方法によって回路基板全体を貫くスルーホールを形成し、全層に亘る電気的接続を確保してもよい。
【0035】
以下、本発明の多層回路基板の各構成要素について、詳述する。
(基板層)
基板層は、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムから形成され、そのフィルムの少なくとも一方の面に、導体回路が形成されている。
光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、以下に記載する溶融成形できる液晶性ポリマーから形成され、このポリマーは、溶融成形できる液晶性ポリマーであれば特にその化学的構成については特に限定されるものではないが、例えば、サーモトロピック液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入されたサーモトロピック液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。
また溶融液晶ポリマーは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
【0036】
本発明に用いられる溶融液晶ポリマーの具体例としては、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、高分子液晶を形成するためには、種々の原料化合物の組合せには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0037】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【表1】

【0038】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【表2】

【0039】
(3)芳香族または脂肪族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【表3】

(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0040】
【表4】

【0041】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として表5および6に示す構造単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
これらの共重合体のうち、p―ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸を少なくとも繰り返し単位として含む重合体が好ましく、特に、(i)p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む重合体、(ii)6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む重合体、が最も好ましい実施形態である。
【0045】
例えば、溶融液晶ポリマーが、少なくともp−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸との繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(A)のp−ヒドロキシ安息香酸と、繰り返し単位(B)の6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸とのモル比(A)/(B)は、液晶ポリマー中、(A)/(B)=10/90〜90/10程度であるのが望ましく、より好ましくは、(A)/(B)=50/50〜85/15程度であってもよく、さらに好ましくは、(A)/(B)=60/40〜80/20程度であってもよい。
【0046】
また、溶融液晶ポリマーが、6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンからなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジオールと、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸との繰り返し単位を含む場合、液晶ポリマーにおける各繰り返し単位のモル比は、6−ヒドロシキ−2−ナフトエ酸の繰り返し単位(C):前記芳香族ジオール(D):前記芳香族ジカルボン酸(E)=30〜80:35〜10:35〜10程度であってもよく、より好ましくは、(C):(D):(E)=35〜75:32.5〜12.5:32.5〜12.5程度であってもよく、さらに好ましくは、(C):(D):(E)=40〜70:30〜15:30〜15程度であってもよい。
また、芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位と芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位とのモル比は、(D)/(E)=95/100〜100/95であることが好ましい。この範囲をはずれると、重合度が上がらず機械強度が低下する傾向がある。
【0047】
なお、本発明にいう溶融時における光学的異方性とは、例えば試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0048】
溶融液晶ポリマーとして好ましいものは、融点(以下、Mpと称す)が260〜360℃の範囲のものであり、さらに好ましくはMpが270〜350℃のものである。なお、Mpは示差走査熱量計(メトラー社DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0049】
前記溶融液晶ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。
【0050】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。任意の押出成形法がこの目的のために使用されるが、周知のTダイ法、インフレーション法等が工業的に有利である。特にインフレーション法では、フィルムの機械軸方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向との間における機械的性質および熱的性質のバランスのとれたフィルムを得ることができるので、より好適である。また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、MD方向とTD方向との間における機械的および熱的性質が実質的に均一な等方性であることが望ましく、これにより反りがほとんど無い多層回路基板が得られる。
【0051】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、必要に応じて、一旦金属箔と積層した後に加熱することにより、熱膨張係数を所定の範囲に制御してもよい。
例えば、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数は、15〜25(×10−6cm/cm/℃)程度であってもよく、16〜24(×10−6cm/cm/℃)程度であるのが好ましい。
【0052】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムの厚さは、特に制限はないが、基板層を構成するフィルムとして使用する場合、プリント配線板用途では、5mm以下であることが好ましく、0.1〜3mmの範囲内であることがより好ましい。また、フレキシブルプリント配線板用途では、500μm以下が好ましく、10〜250μmの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
このようにして得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、少なくとも一方の面に導体回路が形成されている。導体回路の形成は公知の方法に従って実施することができる。具体例を示せば、(a)熱可塑性液晶ポリマーフィルムと金属シートとを熱圧着により積層した後、エッチング処理等を施して、導体回路を形成する方法、(b)熱可塑性液晶ポリマーフィルムの表面にスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの気相法や湿式のメッキ法により導体層を形成し、導体回路とする方法などが挙げられる。(a)の方法による導体回路の形成に際して使用することのできる金属シートの材質としては、電気的接続に使用されるような金属が好適であり、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウムなどを挙げることができるが、中でも銅が好適である。金属シートの厚さは、1〜50μmの範囲内が好ましく、5〜20μmの範囲内がより好ましい。
【0054】
また、(b)の方法による導体回路の形成に際し、導体層を構成する素材としては、上記した金属を例示することができ、その中でも銅が好ましい。また、導体層の厚さは、特に制限されるものではないが、1〜50μmの範囲内であることが好ましく、5〜20μmの範囲内であることがより好ましい。
熱可塑性液晶ポリマーフィルムに形成される導体回路の厚さは、上記した金属シートや導体層の厚さに対応しており、1〜50μmの範囲内であることが好ましく、5〜20μmの範囲内であることがより好ましい。
【0055】
(接着性フィルム層)
接着性フィルム層は、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムから形成され、そのフィルムの少なくとも一方の面が接着面となり、基板層の回路形成面に対して接着する。そして、この接着面は、ナノインデンテーション法によって測定された所定の硬度を示す。なお、前記硬度の測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0056】
接着面の硬度は、基板層と接着性フィルム層とを良好に接着するため、0.01〜0.1GPaであることが必要であり、好ましくは0.015〜0.095GPa程度、より好ましくは0.02〜0.09GPa程度であってもよい。
【0057】
接着性フィルム層は、まず、前記基板層の項において記載したのと同様にして熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得る。この場合、熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、必要に応じて、一旦金属箔と積層した後に加熱することにより、熱膨張係数を所定の範囲に制御したものを用いてもよい。
【0058】
例えば、接着性フィルム層を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数は、15〜25(×10−6cm/cm/℃)程度であってもよく、16〜24(×10−6cm/cm/℃)程度であるのが好ましい。また、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数(α)と、接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数(α)とは、同程度であるのが好ましく、−5≦α−α≦5 (×10−6cm/cm/℃)であってもよく、好ましくは−3≦α−α≦3 (×10−6cm/cm/℃)であってもよい。
【0059】
さらに、得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの接着面が所定の硬度を示すよう、液晶ポリマーフィルムの表面改質を行う。前記表面改質を行う方法としては、液晶ポリマーフィルムの接着面を所定の硬度にできる限り特に限定されないが、通常は物理的研磨または紫外線照射により表面改質される。本発明では、溶液処理やプラズマ処理を用いることなく、表面改質を行うことが可能である。
【0060】
物理的な研磨方法としては、例えば、ブラシ研磨、ブラスト研磨、ベルト研磨、バレル研磨などが例示でき、これらの研磨により、液晶ポリマーフィルムの表層が除去される。
【0061】
より詳細には、ブラシ研磨では、研磨材入りの真鍮線、ナイロン線、鋼線などの線材のブラシを高速回転させ、液晶ポリマーフィルムの加工面に擦り付けて、液晶ポリマー表面を研磨することができる。
ブラスト研磨では、固体金属、鉱物性、植物性などの研磨剤を、液晶ポリマーフィルムの加工面に対して、圧縮空気と共に高速で吹き付けることにより液晶ポリマー表面を研磨することができる。
ベルト研磨では、研磨材のついたベルト(エンドレスベルトのサンドペーパー)を、液晶ポリマーフィルムの加工面に対して擦り付けることにより、液晶ポリマー表面を研磨することができる。
バレル研磨では、目的物と研磨材と水など研磨槽に混合して充填し、研磨槽に運動(回転、振動)を与え、槽内の目的物と研磨材とが擦れ合うことで液晶ポリマー表面を研磨することができる。
【0062】
このような研磨方法により液晶ポリマーフィルム表面に存在する硬いスキン層(特に表面スキン層)を除去するとともに、液晶ポリマーフィルム内部の比較的柔らかいコア層をむき出しにすることができ、熱圧着による接着性を向上することができる。
なお、物理的研磨では、フィルム表面から厚さ0.01〜1μm程度を除去するのが好ましく、より好ましくは0.1〜0.9μm程度の厚さで表層を除去してもよい。
【0063】
一方、紫外線照射によっても、液晶ポリマーフィルムに存在するスキン層が破壊されてフィルム表面の硬度を軟化することができるため、熱圧着による接着性を向上することができる。紫外線照射は、液晶ポリマーフィルム表面に対して所定の硬度を付与できる限り特に限定されないが、185nmおよび254nmの波長の紫外線を同時に照射することが好ましい。
【0064】
また、表層のみを速やかに破壊する観点から、照射面と光源との距離を縮め、高い照射エネルギーを短時間照射するのが好ましい。例えば、照射面と光源との距離は、0.3cm〜5cm程度、好ましくは0.4〜2cm程度であってもよい。また、照射面と光源との距離に応じて、処理時間は適宜設定できるが、例えば20秒〜5分程度、好ましくは30秒〜3分程度であってもよい。
【0065】
また、本発明で用いられる接着性フィルム層は、特定の硬度を有するように表面が軟化されているため、接着面が緻密に粗面化されている必要はなく、接着面の表面粗さ(Ra)は、例えば、0.1μm未満であってもよいし、0.35μmを超えてもよい。具体的には、接着面の表面粗さ(Ra)は、例えば、0.01μm以上0.1μm未満、好ましくは0.03μm以上0.08μm未満であってもよい。また、接着面の表面粗さ(Ra)は0.35μmを超えて1.0μm以下、好ましくは0.4μmを超えて0.9μm以下、さらに好ましくは0.41以上0.9μm以下)であってもよい。
【0066】
接着性フィルム層の厚みは、多層回路基板で用いられる積層位置に応じて適宜設定することができるが、例えば、10〜100μm程度であってもよく、好ましくは15〜90μm程度、さらに好ましくは20〜80μm程度であってもよい。
【0067】
また、接着性フィルム層の片面が回路基板と接着する場合(例えば、カバーレイフィルムなどとして用いられる場合)、接着性フィルム層の厚みは、導体回路の厚みの1.5倍〜5倍程度であってもよく、好ましくは導体回路の厚みの2倍〜4倍程度であってもよい。
また、接着性フィルム層の両面が回路基板と接着する場合(例えば、ボンディングフィルムなどとして用いられる場合)、接着性フィルム層の厚みは、導体回路の厚みの2.5倍〜5倍程度であってもよく、好ましくは導体回路の厚みの3倍〜4倍程度であってもよい。
【0068】
また、本発明では、接着性フィルム層の接着面が軟化しているため、熱圧着による接着性が向上している。そのため、接着性フィルム層の融点を高めても、基板層と良好に接着することが可能である。
【0069】
例えば、多層回路基板において、接着性フィルム層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)と、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)とは、
Ta≦Tb+5 (例えば、Tb−50≦Ta≦Tb+5)であってもよく、好ましくはTa≦Tb (例えば、Tb−15≦Ta≦Tb+3)であってもよく、さらに好ましくはTb−10≦Ta≦Tb+1であってもよい。
【0070】
接着性フィルム層を形成する熱可塑性液晶ポリマーと基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーとが、上記のような特定の融点を有する場合、多層回路基板としての一体性を向上できるだけでなく、多層回路基板が高温下に曝された場合であっても、低融点のポリマーフィルムの熱変形を防止することができる。
【0071】
さらに、熱圧着の温度は、接着性ポリマー層の融点に応じて、適宜設定することができ、例えば、熱圧着の際の温度は、接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)より15℃低い温度以上であり、且つこの融点より15℃高い温度以下の範囲から選択されてもよい。
【0072】
しかも、本発明では、接着性ポリマー層の表層を軟化させて接着性を向上させているため、接着性ポリマー層と基板層とを形成する熱可塑性液晶ポリマー間の融点が近くとも、両方を熱圧着により一体化することが可能である。例えば、このような場合、熱圧着の温度は、接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)より15℃低い温度以上であり、且つこの融点より15℃高い温度以下の範囲から選択されるとともに、さらに熱圧着の温度は、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)より20℃低い温度以上であり、且つこの融点より10℃高い温度以下の範囲を充足してもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0074】
(熱膨張係数)
熱膨張係数αとは、室温からフィルムの熱変形温度付近まで一定昇温速度で加熱したときの膨張率を温度差で割った係数であり、以下のように算出される。
まず、周知の熱機械分析装置を用い、短冊状に切断したフィルムの一端を固定し、もう一端に引張の荷重を付与し、一定昇温速度で加熱した時の膨張量を計測する。フィルムの引張の荷重方向の長さL(mm)、加熱時のフィルムの長さをL(mm)、温度をT(℃)とし、室温をT(℃)とすると、熱膨張係数αは以下の式で算出できる。
α=[(L−L)/(T−T)/L (×10−6cm/cm/℃)
なお、本発明ではL=20mm、T=150℃、T=25℃、引張荷重を1gとして採用した。
【0075】
(融点)
示差走査熱量計を用いて、フィルムの熱挙動を観察して得た。つまり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを10℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を10℃/分の速度で50℃まで急冷し、再び10℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を、融点として記録した。
【0076】
(ナノインデンテーション法による硬度)
後述する実施例で接着性フィルム層として用いられる軟化工程を経た熱可塑性液晶ポリマーフィルムから、試料断片(縦1cm×横1cm)を採取し、ナノインデンテーション法を用いて硬度を測定した。ナノインデンテーション法とは、原子間顕微鏡のダイヤモンド圧子を直接試料表面に押し込み、ナノメートルの精度で押し込み深さを測定し、荷重−変位曲線を求める方法である。原子間力顕微鏡として、日本電子製JSPM4200、ナノインデンテーション装置として、Hysitron社製TriboScope、ダイヤモンド圧子として、Hysitron社製 正三角錐(バーコビッチ型)圧子(142.3°)を用いて、設定最大負荷を400μNとして負荷速度80μN/s、荷重変位曲線を測定した。その際の、最大負荷を、圧子により押し込まれた窪みの接触投影面積で除したものを硬さ[GPa]とする。一つの試料につき、ランダムに18回測定を行ない、その平均値を用いてフィルム表面の硬度とした。
【0077】
(厚さ)
接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムについて、軟化工程に付される前後のフィルムの厚さを、(株)ミツトヨ製デジマチックインジケータを用いて測定した。測定は、軟化工程に付される前後のフィルムから試料断片(縦50cm×横50cm)を採取し、各試料について、ランダムに100点を測定し、その平均値を用いて、フィルムの厚さとした。
【0078】
(接着面の表面粗さ(Ra)の測定)
軟化工程後の液晶ポリマー表面の粗さRa(平均線から絶対値偏差の平均値)を、サーフテストSJ−400((株)ミツトヨ製)で5回測定し、その平均値を用いて、接着面の表面粗さとした。
【0079】
(層間接着力)
配線基板を10mmの短冊状に打ち抜き試験片とした。この試験片の接着界面を出したのち、常温にて90°方向に速度5cm/分で引き剥がし、日本電産シンポ(株)製、デジタルフォースゲージを用いて引き剥がし荷重を測定し、5cm分引き剥がした際の荷重の平均値を取った。ただし、測定開始時と終了時の測定値のブレに関しては、平均値を出す際に用いなかった。
【0080】
(耐ハンダ性)
配線基板を30×30mmにカットし試験片とした。この試験片を260℃のはんだ浴に1分間浸漬し、試験片の変形、発泡、ふくれについて目視で観察を行った。
【0081】
(寸法変化率)
IPC−TM−650 2.2.4に準じて測定した。
【0082】
(参考例1)
p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物(モル比:73/27)で、融点が280℃である熱可塑性液晶ポリマーを溶融押出して、縦と横の延伸比を制御しながらインフレーションフィルム成形法により膜厚50μm、融点が280℃のフィルムを得た。このフィルムに対し、金属箔として、厚さ18μmの銅箔(電解法による1/2オンス銅箔)を用いて、290℃で加熱圧着して金属箔/フィルム/金属箔の組合わせからなる積層体を同時に20枚得た。
【0083】
この積層体より銅箔を塩化第二鉄溶液で除去したフィルムをフィルムAとする。熱膨張係数を測定した結果、18×10−6cm/cm/℃であった。また、上記積層体について、100μm幅の回路を100本、200μmピッチを露光して、塩化第二鉄溶液中で露光部分以外の銅箔を除去し配線パターンを形成したものを回路基板Bとする。
【0084】
(参考例2)
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とヒドロキノンと2、6−ナフタレンジカルボン酸(モル比:60/20/20)の共重合物で、融点が325℃である熱可塑性液晶ポリマーを溶融押出して、縦と横の延伸比を制御しながらインフレーションフィルム成形法により膜厚50μm、融点が325℃のフィルムを得た。このフィルムに対し、金属箔として、厚さ18μmの銅箔(電解法による1/2オンス銅箔)を用いて、330℃で加熱圧着して金属箔/フィルム/金属箔の組合わせからなる積層体を同時に20枚得た。
【0085】
この積層体より銅箔を塩化第二鉄溶液で除去したフィルムをフィルムCとする。熱膨張係数を測定した結果、18×10−6cm/cm/℃であった。また、上記積層体について、100μm幅の回路を100本、200μmピッチを露光して、塩化第二鉄溶液中で露光部分以外の銅箔を除去し配線パターンを形成したものを回路基板Dとする。
【0086】
(実施例1)
フィルムAについて、ナイロン繊維にシリコンカーバイドの研磨材が付着した1000メッシュのバフロールを用いて、一方の表面を、回転数2000rpm、フィルムの搬送速度を1m/minで高速回転研磨を行なった。研磨前に49.7μmの膜厚であったフィルムAの表面が除去され、研磨後のフィルムの膜厚は49.2μmであった。また、研磨したフィルム表面のナノインデンテーション法による硬さは0.08Gpaであった。
研磨されたフィルム2枚を用い、それぞれの研磨面を回路基板Bの導体回路に接触させて、研磨フィルム/回路基板B/研磨フィルムの順で積層し、全体を精密プレスにて270℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0087】
(実施例2)
フィルムAについて、実施例1と同一のバフロールおよび研磨条件を行なって高速回転研磨を行なった。50.1μmの膜厚のフィルムAの表面が除去され、膜厚が49.5μmになった。また、フィルム表面の硬さを測定したところ0.06Gpaであった。
研磨されたフィルム2枚を用い、それぞれの研磨面を回路基板Dの導体回路に接触させて、研磨フィルム/回路基板D/研磨フィルムの順で積層し、全体を精密プレスにて270℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0088】
(実施例3)
フィルムCについて、実施例1と同一のバフロールおよび研磨条件を行なって高速回転研磨を行なった。49.8μmの膜厚のフィルムCの表面が除去され、膜厚が49.0μmになった。また、フィルム表面の硬さを測定したところ0.09Gpaであった。
研磨されたフィルム2枚を用い、それぞれの研磨面を回路基板Dの導体回路に接触させて、研磨フィルム/回路基板D/研磨フィルムの順で積層し、精密プレスにて315℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0089】
(実施例4)
フィルムAについて、センエンジニアリング株式会社 光表面処理装置を用いて、185nmと254nmの紫外線を照射する合成石英製ランプから、光源と照射面との間1cmの距離で1分間照射した。照射したフィルムの表面硬さは0.05Gpaであった。
照射されたフィルム2枚を用い、それぞれの照射面を回路基板Bの導体回路に接触させて、照射フィルム/回路基板B/照射フィルムの順で積層し、全体を精密プレスにて270℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0090】
(比較例1)
フィルムAについて、ナイロン繊維にシリコンカーバイドの研磨材が付着した2500メッシュのバフロールを用いて、回転数1000rpm、フィルムの搬送速度を1m/minで高速回転研磨を行なった。膜厚49.8μmのフィルムAの表面を光学顕微鏡で観察したところ研磨痕は見られたが、膜厚は49.8μmと変わらなかった。また、研磨を行なったフィルム表面の硬さを測定したところ0.53Gpaであった。
研磨されたフィルム2枚を用い、それぞれの研磨面を回路基板Bの導体回路に接触させて、研磨フィルム/回路基板B/研磨フィルムの順で積層し、全体を精密プレスにて270℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0091】
(比較例2)
フィルムAをそのまま用い、フィルムA2枚の中間に回路基板Bを積層し、全体を精密プレスにて270℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。なお、フィルムAのプレス前の表面の硬さを測定したところ0.60Gpaであった。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0092】
(比較例3)
フィルムCを2枚の中間に回路基板Dを積層し、精密プレスにて315℃、4.0MPaの圧力でプレスを行い多層配線基板を得た。また、フィルムCのプレス前の表面の硬さを測定したところ0.46Gpaであった。得られた多層配線基板の層間接着性、耐ハンダ性、寸法安定性を表7に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
表7に示すように、実施例1〜3では、物理的な研磨でフィルム表面が除去されたため、フィルム表面の硬度が軟化した。また、実施例4では、紫外線照射によりフィルム表面が軟化した。その結果、実施例1〜4では、多層回路基板内の層間接着力が高い値を示すだけでなく、熱圧着による接着をしても耐ハンダ性を向上することができた。さらに、これらの多層回路基板は、寸法安定性にも優れていた。特に、実施例1,3および4では、接着性フィルム層と基板層とを形成するフィルムの融点が同一であるにもかかわらず、高い層間接着力を示すとともに、耐ハンダ性および寸法安定性も優れていた。また、実施例1〜4では、フィルムの接着面は必ずしも緻密な凹凸を有していなかったが、多層回路基板内の層間接着力が高かった。
【0095】
一方、比較例1では、物理的な研磨をわずかしか行わなかったため、フィルム表面を軟化させることができなかった。また、フィルムをそのまま用いた比較例2および3においても、フィルム表面の硬度は高い値を示した。そして、得られた多層回路基板では、多層回路基板内の層間接着性に劣るだけでなく、耐ハンダ性および寸法安定性も十分ではなかった。
【0096】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を示す。(a)は、多層回路基板を熱圧着によって製造する前の状態を示し、(b)は、熱圧着後の多層回路基板を示す。
【図2】本発明の第2実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を示す。(a)は、多層回路基板を熱圧着によって製造する前の状態を示し、(b)は、熱圧着後の多層回路基板を示す。
【図3】本発明の第3実施形態に係る多層回路基板の製造工程の一例を示す。(a)は、多層回路基板を熱圧着によって製造する前の状態を示し、(b)は、熱圧着後の多層回路基板を示す。
【符号の説明】
【0098】
10,20,30…多層回路基板
11,21,23…基板層
12,22,24,32,34…導体回路
13…接着性フィルム層
13a25a,25b,26a,33a,35a…接着面
25…第1の接着性フィルム層(またはボンディングフィルム)
26…第2の接着性フィルム層(またはカバーレイフィルム)
33…第3の接着性フィルム層
35…第4の接着性フィルム層
35b…非接着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して熱可塑性液晶ポリマーフィルムを形成するフィルム形成工程と、
前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の表面に対して、物理的な研磨または紫外線照射を行うことにより、このフィルム表面が、ナノインデンテーション法によって測定された硬度0.01〜0.1GPaを有するように軟化させて、接着面を形成する軟化工程と、
前記接着面を、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に導体回路が形成された基板の回路形成面に対向させ、全体を熱圧着により接着させる熱圧着工程と、
を含む多層回路基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1の多層回路基板の製造方法において、軟化工程で、フィルム表面から0.01〜1μmの厚さを物理的研磨により除去して接着面を形成する製造方法。
【請求項3】
請求項1の多層回路基板の製造方法において、軟化工程で、185nmおよび254nmの波長の紫外線を同時に照射して接着面を形成する製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項の多層回路基板の製造方法において、熱圧着の温度が、接着性ポリマー層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)より15℃低い温度以上であり、且つこの融点(Ta)より15℃高い温度以下の範囲から選択されるとともに、さらに前記熱圧着の温度は、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)より20℃低い温度以上であり、且つこの融点(Tb)より10℃高い温度以下の範囲を充足する製造方法。
【請求項5】
光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に導体回路が形成された基板層と、
前記基板層の回路形成面に対して、接着面を対向させて熱圧着されている接着性フィルム層と、
を少なくとも含む多層回路基板であって、
前記接着性フィルム層が、光学的異方性の溶融相を形成する熱可塑性液晶ポリマーフィルムであり、この接着性フィルム層の接着面が、ナノインデンテーション法によって測定された硬度0.01〜0.1GPaを有する多層回路基板。
【請求項6】
請求項5の多層回路基板において、接着性フィルム層の接着面が、物理的研磨または紫外線照射により形成されている多層回路基板。
【請求項7】
請求項5または6の多層回路基板において、接着性フィルム層の厚みが、10〜100μmである多層回路基板。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項の多層回路基板において、接着性フィルム層が、カバーレイフィルムおよびボンディングフィルムからなる群から選択される少なくとも1種である多層回路基板。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか一項の多層回路基板において、接着性フィルム層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Ta:℃)と、基板層を形成する熱可塑性液晶ポリマーの融点(Tb:℃)とが
Ta≦Tb+5
を満たす多層回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−103269(P2010−103269A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272631(P2008−272631)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】