説明

多層延伸高分子管状フィルムの製造方法

【課題】MD、TDSRがそれぞれ2.5から4.5の延伸に対し安定した延伸性が得られ、高透明で高HSK、高HSFと均一性の良い、平滑な表面のLLDPEベースの多層2軸延伸フィルムが得られる製造方法と装置の提供。
【解決手段】夫々機能性を有し、延伸性のある数種の高分子樹脂と重合法がスラリー法と溶液法である、D0.92±0.01とMI1.1±0.1のLLDPEとで多層構造を構成し、且つ該LLDPE100部に対し、そのAM成分に適当な分岐を有し、MWDの狭い、直鎖性の高いSSCにより重合された、D0.90±0.01、MI1.0±0.1のエチレン系重合体10から60部を混合使用し、ウエルドマーク対応の良いダイを使用する製造方法と装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ポリエチレン(以下、PEと略す)チューブラーの同時2軸延伸フィルムに係る多層延伸高分子管状フィルムの製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、殆どの熱可塑性高分子を加熱混錬、管状で押出し、製膜し、再加熱後同時2軸延伸して、チューブラー状延伸フィルムを製造することは長年にわたって実施されてきているが、ある種のものは製造できないか、良質のものが得られていない。そのひとつにPEがある。PEの中でも従来品の物性の弱点を改良した直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEという)の延伸フィルムの需要は大きいと思われ、その製造については多くの提案がなされて来ている。本発明はその需要の内で高透明で高熱収縮性(以下、高HSKと略す)に係るものである。
【0003】
従来、熱収縮フィルムとしてはポリ塩化ビニル(以下、PVCと略す)、ポリプロピレン(以下、PPと略す)、PE等が知られている。PVC熱収縮フィルムは100℃前後の低い温度で良い収縮を発現するが可塑剤等の添加剤の安全性、焼却時塩化水素発生等の公害性に難がある。PP熱収縮フィルムは2軸延伸物でHSKは良好だが収縮適温が100−140℃と高温のため被包装物に対する温度影響の制限がある上、ヒートシール強度(以下、HSSと略す)が被包装物によっては満足されない。
【0004】
PEインフレーションフィルムのようなエチレン系重合体熱収縮フィルムは、安価、ヒートシール強度大の特徴から収縮包装用途に広く使われている。しかしフィルム強度が小さく、伸度が大きく、融点(以下mpと略す)付近での高熱収縮温度幅が狭い上、収縮応力が小さい為、被包装物への密着性が不足等の欠陥がある。その対策としてフィルムを電離性放射線照射し架橋させ、加熱延伸したり、放射線照射処理した樹脂をベースに製膜延伸する方法もあるが、コストアップ、HSS不良、再生使用不可、透明性不良等が弱点である。
【0005】
PEの利点の安価の上、ヒートシール性、耐衝撃性が重量のある被包装物包装に最適であことを生かす為に、mp以下15℃でも高HSK及び透明性を得る為の2軸延伸条件について多くの提案がされて来た。
【0006】
特許文献1ではSG0.91−0.93g/cm(25℃)の低密度ポリエチレン(以下、LDPEと略す)、LLDPEで、炭素数3−12のαオレフィンを重合比25%以内の共重合体、とりわけ炭素数4−6で15%以内の共重合体で、mp以下15℃における伸度300%時の引張強度が15Kg/cmの物を材料とし、延伸予熱、延伸開始点、最高温度点、膨張終了点、延伸終了点の各位置毎に決めた温度条件下で縦方向(以下、MDと略す)、延伸倍率(以下、延伸倍率SRと略す)MDSR約3、横方向(以下、TDと略す)TDSR約3の延伸を行い、目標物性値が得られると提案されているがその温度の正確な維持確保が非常に困難であった。
【0007】
また、特許文献2では延伸温度、延伸速度、延伸倍率の制限を提案しているが材料面での適応条件がない為、実効は出来ない。
【0008】
さらに、特許文献3ではLLDPE+変性ポリオレフィン+エチレン系重合体の混合物を材料としている提案であるが変性ポリオレフィンはLDPE,LLDPE,エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン−プロピレン共重合体等と不飽和カルボン酸等とのグラフト共重合体で、ベース100に対し50−60、更にエチレン系重合体としてエチレン−酢酸ビニル共重合体,PE一般,エチレンアイオノマーが17−40加えるとの提案であるがコスト的に問題と思われる。
【0009】
特許文献4では特定エチレン共重合体のDSCによる融解曲線でmpより10℃低い温度以下の吸熱面積が全吸熱面積の55%以上のものを使用すれば延伸倍率4×4で90℃での面積収縮率20%以上、厚みムラ20%以下のHSKフィルムが得られるとのことであるが延伸性との関連について不明である。
【0010】
特許文献5では特許文献4をベースに特定D密度(以下、Dと略す)、流動係数(以下、M1と略す)のエチレン・ブテン−1共重合体外のHSK改良を提案しているが前述の如く延伸性の関連が不明である。
【0011】
特許文献6では特許文献1,特許文献4の提案に対し、Dの異なる中間層と内外層より構成される多層構造にすることで厚みムラ、低温収縮性、透明性、耐ブロッキング性の改良を図るものであるが材料混合、積層等工程が複雑になる。
【0012】
特許文献7では特定の3種類のD.MIの異なるLLDPE(A),(B),(C)を見出された関係式基づき、夫々の重量%(W1),(W2),(W3)で混合した材料を用いると特許文献3,特許文献5,特許文献8,特許文献9の提案に対してLLDPEの延伸適性温度範囲が拡大し、長時間安定延伸が可能となり、延伸斑のない、均一厚みの熱収縮フィルムが得られるとしているが具体的な収縮性の言及はない。さらに、前記特許文献をベースに多層化による改良も提案されているが前述の如く材料混合、積層等工程が複雑となる。
【0013】
特許文献10ではLLDPEの組成を特定することを目的の延伸性、フィルム物性を得るための条件とする提案がなされているが低分子側の低減、削除についての言及はない。
【0014】
以上種々の過去の提案の内、その主要なものを例示したが本発明の要旨とする夫々機能性を有し、延伸性のある数種の高分子樹脂と重合法がスラリー法と溶液法である、D0.92±0.01MI1.2±0.01のLLDPEとで多層構造を構成し、且つ該LLDPEの非晶成分(以下、AM成分と略す)に、適当な分岐を有し、MWDの狭い、直鎖性の高いシングルサイト触媒(以下、SSCと略す)により重合されたD0.90±0.01、MI1.0±0.1のエチレン系重合体をLLDPE100部に対し10から60部を混合使用、MDSR、TDSRがそれぞれ2.5から4.5の延伸に対し安定した延伸性が得られ、高透明で高HSKと厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られる製造方法と装置について満足される提案は見当たらなかった。
【0015】
つぎに、本発明の要旨の説明としてチューブラー延伸性判断基準、延伸時の材料側における変化及び延伸破断要因について考察する。
【0016】
チューブラー延伸の延伸性の良否の判定基準Xを、以下(1)〜(6)に延伸状態の差異で表す。
【0017】
(1)延伸前、予熱で加熱を均一にする為、チューブ内に圧入し、延伸原反直径の柱状を形成する段階でその内圧だけで局部的に膨張したり更には直ぐバブル破断にいたる。
【0018】
(2)延伸が開始出来ても延伸開始点直後で円周方向にバブル破断が発生する。
【0019】
(3)延伸が開始出来、膨張が始まり、バブルが形成出来た時点でバブル破断が発生する。
【0020】
(4)延伸が開始出来、バブルが形成出来、バブルが持続出来ても同一円周上で延伸が一定せず、その為厚みが不同でバブル全体が振れ、予熱、延伸加熱が不均一となり、延伸部でバブル破断が発生する。
【0021】
(5)バブル形成が連続出来、バブル形状も安定していても、得られる延伸フィルムの厚みムラが許容範囲に入っていない。
【0022】
(6)バブル形成が安定し、得られた延伸フィルムの厚みムラも含め物性が許容範囲にある。
【0023】
さらに、延伸時の材料側における変化Yについて説明する。
【0024】
分子、結晶、ラメラ(薄層)の規則正しい配向、配列を得る手段の一つの延伸では、延伸応力を加えた時の被延伸物内部の変化として(1)非晶領域の延伸、(2)結晶,ラメラの回転、(3)結晶,ラメラ間の滑り、(4)ラメラ内での結晶面における滑り、(5)ラメラを構成する折り畳み構造の解きほぐしが、段階的か同時的に短時間の間に発生し、分子、結晶、ラメラの配向、配列に至ると考えられている(非特許文献1)。
【0025】
なお、延伸阻害の要因Zとしては以下のことが考えられる。
【0026】
(1)分子鎖が短く、分子構造的にお互いの絡みが少なく、延伸応力に対し塑性変形も、分子配列も出来ない全体が低分子又は絡みにくい分子構造の樹脂。
【0027】
(2)全体の延伸温度より低い温度で溶融低粘度化する成分を含有している樹脂。
【0028】
(3)押出時に分子切断し低分子成分が生成したり、延伸時に周囲の高分子と乖離、空隙を発生、その空隙が破断要因となる可塑変形の出来ない架橋物を生成する、流動性の悪い高分子成分を含有している樹脂又は滞留劣化で前記分子切断、架橋を発生する材料投入からダイ出口までの構造,機構。
【0029】
(4)延伸条件幅の狭い高温延伸、高圧延伸条件をとらざるを得ない極端に結晶化度の大きい原反又はその樹脂。
【0030】
(5)延伸時に周囲の高分子と乖離、空隙を発生、その空隙が破断要因となる異物を含有する樹脂又は異物が混入する環境。
【0031】
(6)延伸時に破断発生要因となる延伸原反中の空隙となる揮発分を含有する樹脂又は原反中の空隙になる気体を混入させる樹脂押出系。
【0032】
(7)原反製膜時の結晶化度差、延伸予熱・延伸時のフィルム温度差から同一円周上の粘度、強度差を生起、バブルの安定を損なう原反厚みムラ。特にPEのように分子の絡み合いが少なく、適性延伸幅の狭い場合は原反厚みムラは安定延伸にとって重要な因子となる。
【0033】
(8)延伸間始点で延伸原反の同一円周上、許容範囲の同一温度にならない加熱方法。
【0034】
ポリエチレンが2軸延伸がし難く、厚みムラの小さい、強度−収縮率等の物性が均質なフィルムが得難い原因は分子量が低く、分子鎖が短く分子鎖同±の絡み合いが少ないことである(特許文献1)。従って延伸の為には或る程度以上の分子量の存在が必須であると考えられる。
【0035】
融点−5℃より高い温度では鎖状低密度ポリエチレン樹脂特有のDSC曲線による複数ピークを持つことからも推察されるように、LLDPEが一部解け掛かり延伸配向を起こすことが出来ず、見かけ上延伸出来ても延伸斑がひどく、又透明性も損なわれてしまうが、延伸の安定性を得る為には低分子側に制限が必要であることを示唆している(特許文献1)。
【0036】
一般にPEの二軸延伸が困難とされる理由の一つとして延伸帯域でのフィルムの抗張力が弱い為、安定しだ延伸が出来なかった(特許文献1)のは超低分子成分の混入を示唆する。単にD0.92,MI1.2付近のLLDPEを延伸しようとしても、前記判定基準Xの(1)の現象になる場合が多い。
【特許文献1】特開昭56−28826号公報
【特許文献2】特開昭58−90924号公報
【特許文献3】特開昭59−215828号公報
【特許文献4】特開昭62−201229号公報
【特許文献5】特開昭63−10639号公報
【特許文献6】特開平1−304938号公報
【特許文献7】特開2001−26684号公報
【特許文献8】特開平3−220250号公報
【特許文献9】特開平8−90737号公報
【特許文献10】特開2004−238543号公報
【非特許文献1】“高分子フィルムの二軸延伸技術と機能化へのアプローチ”講演会テキスト 1983.10.28−29於総評会館開催 京都工芸繊維大学 繊維学部 松本喜代一
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
要するに、本発明で得られるHSKフィルムは従来の製造方法では得られ難い、高いHSK、高透明性、高HSS、高酸素遮断性、耐ピンホール性を有する多層フィルムであり、且つ厚みムラの少ない、多層フィルムに有り勝ちなフィルム表面の(縮緬)皺の少ないまたカールのないか少ないものである。
【0038】
酸素遮断性はポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール(以下、EVOHと略す)、ポリアクリルニトリル、ポリビニデンクロライド、ポリアミド6(以下、PA6と略す)、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)等で層を構成させることで得られることは知られているが、過去LLDPEベースで上記の特性を付与出来る高分子樹脂とで構成された多層フィルムが2.5から4.5倍のMD,TD延伸倍率で、安定した延伸性で、厚みムラの少ないか、さらに多層フィルムに有り勝ちなフィルム表面の(縮緬)皺の無いか少ない、またカールの無いものが得られたことはなかった。
【0039】
本発明は叙上の点に着目して成されたもので、LLDPEベースでMD,TDSRが夫々2.5から4.5の延伸に対して安定した延伸性が得られ、高透明で高HSKと厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られる製造方法と装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
内圧を延伸応力とするチューブラー状2軸延伸について、延伸工程で上記の必要とされる要因に付き鋭意検討した結果、以下の技術知見を得た。
【0041】
得られた該技術知見を列記すれば、以下の通りである。
【0042】
1.多層2軸延伸フィルムの主材料としてLLDPEは既に提案されている密度、MIの物であっても最低延伸温度で完全に融解し低粘度溶融物となり、他の成分の配向を阻害する低分子成分(オリゴマー;有限個−10−100個のモノマーが結合した比較的分子量が低い重合体、等)を排除する為には重合法としてスラリー法、溶液法が不可欠であること見出した。
【0043】
2.AM成分は広い温度範囲で絡み摩擦を有し、他の成分の回転、ラメラ間の滑り、ラメラ内の結晶面における滑り、ラメラを構成する折り畳み構造の解きほぐしに必要な力に耐えられる組織強度を自らの配向によって作り出す必要があり、その為にはAM成分として、適当な分岐があり、分子量分布の狭い、直鎖性の高いSSCにより重合された物が必須であることを見出した。
【0044】
3.原反厚み偏差は原反製膜時の結晶化度差、延伸予熱・延伸時のフィルム温度差から同一円周上の粘度、強度差を生起、バブルの安定を損なう。特にPEのように絡み合いのすくなく、適性延伸幅の狭い場合は原反厚み偏差は安定延伸にとって重要な因子となる。そのためにはサーキュラーダイにおけるウエルドマーク対応の良い単層用ダイ特許第3568524号公報、と二層用ダイ特許第4050771号公報を改良した多層ダイを採用することで大幅に延伸安定性、得られる2軸延伸フィルム物性を改善出来ることを知見した。
【0045】
数多くの従来技術の知見を下に検討,分析など組み合わせ、材料、装置、条件を考案して実施したところ、夫々機能性を有し、延伸性のある数種の高分子樹脂と重合法がスラリー法と溶液法である、LLDPE100部に対し、該LLDPEのAM成分に、適当な分岐を有し、MWDの狭い、直鎖性の高い、SSCにより重合されたD0.90±0.01、MI1.0±0.1付近のエチレン系重合体の10から60部を混合使用、更にウエルドマーク対応の良いダイを使用したところ、MD、TDSRがそれぞれ2.5から4.5の延伸に対し安定した延伸性が得られ、高透明で高HSKと厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムの製造が可能となった。そして、LLDPEのDが0.91以下では、前記判定基準Xの(3)以下になる。又0.93以上では、前記延伸阻害の要因Zの(3)(4)をもたらす。又MIに関してはD同様1.2以上では、前記判定基準Xの(3)以下になる。1.0以下では、前記延伸阻害の要因Zの(3)(4)をもたらす。AM部のLLDPEはD0.89以下では、前記延伸時の材料側における変化Yの分子、結晶、ラメラの配向、配列への効果が低下し、MI0.9以下では、前記延伸阻害の要因Zの(3)(4)をもらすことを確証した。
【0046】
LLDPEベースで上記の特性を付与出来る樹脂とで構成された多層フィルムが2.5から4.5倍のMD,TD延伸倍率で、安定した延伸性で、厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない表面状態で得られたことはなかった理由は、基本的にはLLDPEの2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性不良であり、その延伸不良に対しての改良として本発明では超低分子の減少、削除を提案しており、具体的な実現可能な提案としてLLDPEの製造方法の内、前記の説明でも詳述している延伸時に延伸温度より低い温度で溶融低粘度化する超低分子のような成分を排除することの出来る重合方法を提案し、具体的にはスラリー法と溶液法を提案し、提案どおり超低分子成分排除の確認出来る物でその効果を確認した。上記主旨を満足出来る他の重合方法を排除するものではない。この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において延伸状態での前記判定基準Xの(1)(2)はなくなることを確認した。
【0047】
該LLDPEベースの2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性不良改良はチューブラー同時2軸延伸においては更に延伸状態の前記判定基準Xの(3)(4)の改良が必要である。延伸状態の前記判定基準Xの(3)(4)の改良を延伸時の材料側における変化として考えると、(1)非晶領域の延伸、(2)結晶,ラメラの回転、(3)結晶,ラメラ間の滑り、(4)ラメラ内での結晶面における滑り、(5)ラメラを構成する折り畳み構造の解きほぐしの内、(1)のAM成分が以降の段階に延伸工程が進んでいくために必要な力に耐えられる組織強度を自らの配向によって作り出す必要があり、その為にはAM成分として、適当な分岐があり、分子量分布の狭い、直鎖性の高いSSCによる物が必要であることを見出した。この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において延伸状態での前記判定基準Xの(3)(4)はなくなることを確認した。
【0048】
該LLDPEベースの2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性改良以外に得られた該多層延伸フィルム物性としての高透明性、高HSKや更には縮緬皺が無いか少ないもの又はカールがあるか少ないものを得る為には延伸原反の厚みムラが少なくとも±5%以下であることが必須である。カールの減少、削減の為にアニーリングを実施すると面積収綿率が少なくとも10%程度低下するので、真空包装用のように面積収縮率50%以上が必要とされる場合は延伸直後の面積収縮率は60%以上が必要となる。アニーリング手段はボーイング現象(逐次延伸法においてテンターに入る前にフィルム面上に直線を描いたものがテンターを出てきたときに曲線に変化する現象)を避ける為にはチューブ状アニーリングが望ましい。高透明性、高HSK、高剛性のように分子配向効果にその根源がある物性改良以外に、多層構造、特に非対称の組み合わせにより、延伸前後の各層を構成する材料物性差(D差等歪)に起因する前述の縮緬皺又はカール発生の改良の歪緩和として該各層の内、接着層に柔軟性を持たせたり、接着力を落とす等の方法があるが剛性低下や層間剥離等欠陥を生起するので全般的には採用できない。その他の方法として可能な限りの低温延伸,延伸速度拡大や延伸倍率増大は効果があるが、延伸原反の厚みムラが±5%以下でないとPEのように絡み合いのすくなく、適性延伸幅の狭い場合、安定延伸が出来ないだけでなく、低倍率下で上記の皺、カール等の物性改善効果をもたらす分子配向にならない。その為には使用するサーキュラーダイの厚みムラ調整機構の性能が満足されるものであることが必要である。
【0049】
一般に延伸原反製造に用いられるサーキュラーダイは、スパイダーマークの避けられないスパイダーダイや、大幅な厚みムラの出易いストレートダイではなく、スパイラルダイである。スパイラルダイに流入した樹脂流を多分割化し、分割数のスパイラル溝内を移動する溶融樹脂流(スパイラルフロー)とダイシリンダー内壁に沿って移動する溶融樹脂流(ランドフロー)は、量的に一定のバランスを保ってダイリップヘ移動し、スパイラル溝終端部以降で分割スパイラルフローが合流する。一般的にLLDPEは溶融張力が小さく、溶融時の応力緩和が速く、歪が残留しにくいが、前述の如く延伸用は出来るだけ絡みの多い分子量、分子構造等が望まれるので残存歪が大きく、合流時点で均一、均質化出来ずウエルドマーク(節目状態)が発生、流動方向に垂直な溜り部等の整流機構通過後も厚み調整のしにくい厚みムラとなる。この対策としてスパイラルフローに対し溶融樹脂に接する回転リングの溶融樹脂との接触表面でフローと異なる方向に力を加え、ウエルドマークの発生を抑える事を見出し、既に本出願人が開発した特許第3598524号及び特許第4050771号として提案したが、本発明ではこれの活用改良を図り、それにより得られた多層ダイを採用、延伸状態の前記判定基準Xの(6)及び得られた該多層延伸フィルム物性としての高透明性、高HSKや更には縮緬皺の少ないもの、カールが無いか少ないものが得られた。
【0050】
一般的にLLDPEは2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性は不良であり、その延伸不良に対しての改良として、基本的に超低分子の減少,削除を提案しており、具体的な実現可能な提案としてLLDPEの製造方法の内、延伸時に延伸温度より低い温度で溶融低粘度化する超低分子のような成分を排除することの出来る重合方法を提案している。具体的にはスラリー法と溶液法を提案している。勿論上記趣旨を満足出来る他の重合方法を排除するものではない。この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において延伸状態での前記判定基準Xの(1)(2)はなくなることを確認した。
【0051】
該LLDPEベースの2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性不良改良は、チューブラー同時二軸延伸においては、更に延伸状態の前記判定基準Xの(3)(4)の改良が必要である。そして、AM成分として適当な分岐があり、分子量分布の狭い、直鎖性の高いSSCによる物が必要であることを見出し、この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において延伸状態での前記判定基準Xの(3)(4)はなくなることを確認した。
【0052】
延伸原反製造に用いられるサーキュラーダイの多分割されたスパイラル溝終端部での合流で発生するウエルドマークによる厚みムラ減少の為、スパイラルフローに対しフローと異なる方向に力を加える回転リングを内在したダイを採用することにより延伸状態の前記判定基準Xの(5)が改善され、厚みムラの改良と共に高透明性、高HSKや高HSF更には縮緬皺の少ない多層2軸延伸フィルムが得られた。
【0053】
以上を要約して示せば以下の通りである。
【0054】
(1)夫々機能性を有し、延伸性のある数種の高分子樹脂と、重合法がスラリー法と溶液法である、密度0.92±0.01と流動係数1.1±0.1の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とにより、多数の樹脂を多段のダイブロックに順次とそれぞれのダイブロックの回転部材とスパイラル溝との間でサーキュラーダイとしてウエルドマーク対応の多層構造の原反として押出成形し、ついでこの多層構造の樹脂を、縦方向,横方向の延伸倍率が、それぞれ2.5から4.5に延伸させ、さらにチューブアニーリング処理を行わせて、安定した延伸性が得られ、高透明で高熱収縮性と厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【0055】
(2)前記(1)記載のLLDPEの非晶成分に適当な分岐を有し、分子量分布の狭い、直鎖性の高いシングルサイト触媒により重合された、密度0.90±0.01、流動係数1.0±0.1のエチレン系重合体を、LLDPE100部に対し10から60部を混合使用、縦方向,横方向の延伸倍率がそれぞれ2.5から4.5の延伸に対し安定した延伸性が得られ、高透明で高熱収縮性と厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【0056】
(3)前記(1)記載の高分子樹脂には、酸素遮断性のポリビニルアルコール,エチレン・ビニルアルコール(EVOH),ポリアクリルニトリル,ポリビニリデンクロライド,ポリアミド6,ポリエチレンテレフタレート(PET)の1または2以上であることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【0057】
(4)多層押出成形装置,延伸装置およびチューブアニーリング装置より構成され、前記多層押出成形装置は、2以上の異なる溶融原材料投入口を有する2以上の多層ダイの各ダイブロックを、中央の管状軸に挿通縦設し、それぞれの原料投入口より溶融樹脂を上方より管状軸の外周に沿って内層部一以上の中間層及び外層部の多層管状の高分子材料の原反を成形可能とし、次段の延伸装置により二軸延伸すると共に、チューブアニーリング処理装置により熱処理を施して成ることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0058】
一般的にLLDPEは2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性は不良であり、その延伸不良に対しての改良として超低分子の減少、削除を提案しており、具体的な実現可能な提案としてLLDPEの製造方法の内、延伸時に延伸温度より低い温度で溶融低粘度化する超低分子のような成分を排除することの出来る重合方法を提案している。具体的にはスラリー法と溶液法を提案している。勿論上記主旨を満足出来る他の重合方法を排除するものではない。この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において、延伸状態での前記判定基準Xの(1)(2)はなくなることを確認した。
【0059】
該LLDPEベースの2.5から4.5倍の延伸倍率での延伸性不良改良はチューブラー同時二軸延伸においては、更に延伸状態の前記判定基準Xの(3)(4)の改良が必要である。そして、AM成分として適当な分岐があり、分子量分布の狭い、直鎖性の高いSSCによる物が必要であることを見出し、この改良要素によりチューブラー同時2軸延伸において延伸状態での前記判定基準Xの(3)(4)はなくなることを確認した。
【0060】
延伸原反製造に用いられるサーキュラーダイの多分割されたスパイラル溝終端部での合流で発生するウエルドマークによる厚みムラ減少の為、本発明においてスパイラルフローに対し、フローと異なる方向に力を加える回転リングを内在したダイを採用することにより、延伸状態の前記判定基準Xの(5)が改善され、厚みムラの改良と共に高透明性、高HSKや高HSF更には縮緬皺の少ない多層2軸延伸フィルムが得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
本発明を実施するための最良の形態を詳しく説明する。
【0062】
以下に、本発明の望ましい形態を説明する。
【0063】
始めに、本発明に用いられる装置の一形態を図面と共に説明する。
【0064】
Iは多層延伸高分子管状フィルムの原反押出成形装置、IIは前記原反押出成形装置Iに続く次段の延伸装置、IIIは前記延伸装置IIに続くチューブアニーリング装置を夫々示す。
【0065】
まず最初に、原反押出成形装置Iについて詳細に説明する。
【0066】
1は押出機、2は原料投入用のホッパー、Aは多層環状ダイを示し、前記ホッパー2は4種類の原料を用いるため、4種類のホッパー2−1,2−2,2−3,2−4を備え、かつ4種類の原料の溶融樹脂を、多層ダイAへ送給する押出機1−1,1−2,1−3,1−4を備える。なお、図示では5層の多層延伸高分子管状フィルムの原反押出成形装置であるが、2層は同一の原料樹脂を用いているので、押出機1は4個で構成してある。
【0067】
図2および図3に基づいて、多層ダイAについて詳細に示す。
【0068】
3は、多層ダイAの中央に配設される管状軸、a1,,a,a,aは、前記管状軸3に順次と挿通配設されるダイブロックであって、管状軸3に挿通固定される最内部のブロック管4で保持される。なお、最上部のブロック管4は管状軸3に密接配置されるが、他の連設されるブロック管4は、管状軸3の外周5との間に成形用の環状部6を介して順次配設される。
【0069】
,7,7,7,7は、いずれも各ダイブロックa1,,a,a,aのそれぞれの溶融樹脂の流入口を示し、各ブロック管4に設けられる環状路8を経て、各ブロック管4の内周流路9に供給されるようになっている。
【0070】
10は、軸11で各ダイブロックa1,,a,a,aのブロック管4で駆動回転されるピニオン、12はこのピニオン10との噛合従動する回転歯車で、前記内周流路9の外周位置で回転し、内周流路9を通過する溶融樹脂の外周と摺接して混練作用を行わせている。しかも、回転部材の回転歯車12の内周対向側のブロック管4の外周面にはスパイラル溝13が設けられている。その結果、内周流路9を流通する溶融樹脂は、スパイラル溝13に沿って流通する過程で回転歯車12の回転作用を受けて、内外部分から内部にかけて十分なサーキュラーダイとしてのウエルドマーク対応の混練攪拌作用を受ける。
【0071】
14は、各ダイブロックa1,,a,a,aの下部において、前記スパライル溝13と回転歯車12との間で形成される溶融樹脂流路15の環状部6に通ずる傾斜路である。
【0072】
したがって、各ダイブロックa1,,a,a,aの環状部6が連続して全体の溶融樹脂の多層管成形路Pが形成されるものである。
【0073】
16は、各ダイブロックa1,,a,a,aのピニオン10の設置箇所の上下に設けた漏洩樹脂の排出流路である。
【0074】
17は冷却装置を示し、前記多層ダイAで押出成形された5層構成の管状原反フィルムFを成形すると共に、ニップロール18を経て次段の延伸装置IIに送給される。
【0075】
この延伸装置IIに送給される管状原反フィルムFは、第1ニップロール19より下方の予熱部20で、必要温度に加熱させ乍ら延伸部21の延伸開始点22より2軸方向への延伸が行われ、冷却部23を経て第2ニップロール24手前のガイド板により折畳まれ、第2ニップロール24を経て2軸延伸された延伸管状フィルムFとして最終段のチューブアニーリング装置IIIに送給される。
【0076】
このチューブアニーリング装置IIIは、第1ニップロール25より加熱部26、冷却部27、第2ニップロール28を経て最終の多層延伸高分子管状フィルムFを成形できる。
【0077】
なお、延伸装置IIおよびチューブアニーリング装置IIIは既存の構成の装置を使用できることは勿論である。
【0078】
以下、本発明に係る上述の多層PEチューブラー同時2軸延伸フィルム製造の実施の形態をさらに詳細に説明する。
【0079】
図1は、前述した通り本発明に係る多層PEチューブラー同時2軸延伸フィルム製造ラインの全体を示す説明図である。
【0080】
概略の構成としては、吸湿性の高い樹脂に対し、除湿乾燥機を設けた原料樹脂投入用ホッパーと、前記延伸阻害の要因Zの(3),(5),(6)に記載したような延伸阻害要素がない、それぞれの樹脂の混練に適したデザインのスクリューを内在する押出機1で、限定され調合された特定のD,MIのLLDPE用、酸素遮断を目的とした延伸性の良い樹脂用,酸素遮断性と耐ピンホール性,酸素遮断性と光沢性等を目的とした延伸性の良い高分子樹脂用,各樹脂層間を接着する為の樹脂用等必要台数設ける。
【0081】
そして、前記延伸阻害の要因Zの(7)に記載したような延伸阻害要因を作らないように、各樹脂を積層、円筒状に押し出すウエルドマーク対応の、スパイラル溝13に基づくスパイラルフローに対し、フローと異なる方向に力を加える回転躯体(例えば、回転歯車12)を内在したスパイラルダイを備え、該ダイより押し出された円筒状溶融多層樹脂を、前記延伸阻害の要因Zの(4)に記載したような延伸阻害要素にならないように該円筒状溶融樹脂の外面を所定温度の冷却水による接触冷却とか、厚みの大きい場合、製造速度が大きい場合は該円筒状溶融樹脂の内側を循環冷媒で温順されたインサイドマンドレルに接触、非接触で冷却させ、冷却成形,延伸原反を製造する冷却装置を備える。
【0082】
さらに延伸内圧を保持し、MD延伸倍率を構成出来るようにその回転速度を調整できる延伸装置前後のニップロールと、前記延伸阻害の要因Zの(8)に記載したような延伸阻害要因にならない予熱と延伸加熱、冷却各温度を作り出せる温調ゾーンで構成されている該延伸原反を同時2軸延伸する延伸装置IIを経て、チューブアニーリング装置IIIを通して最終製品が得られる。
【0083】
本発明の用途は長期保存性を要する角ばった物、重量物、美観を有する物等の包装が特に適している。
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。具体的な原料を含め、詳細な事項について後述する実施例に示した。測定項目は下記の方法に拠った。
【0085】
1.熱収縮率
縦横10cm正方形に切り取ったフィルムを所定温度の熱媒浴中に10秒間浸漬し、次式により算出した。
(10−A)/10×100% 但しAは浸漬後の1辺の長さ(単位cm)
面積収縮率
(100−A×B)% 但しA,Bは所定温度の熱媒浴中に浸漬後のフィルムの縦(A),横(B)夫々の長さ(単位cm)
【0086】
2.密度D
密度勾配管法による。
【0087】
3.融点
厚み約0.2mm、縦横2mm角の試料を微量融点測定器(島津製作所製 型式2544)に入れ、昇温速度2℃/minで加熱、試料の透明性が急変する温度。
【0088】
4.流動係数MI
ASTM−D1238に準ずる。
【0089】
5.フィルム表面温度
放射温度計(ミノルタIR−004)で凡その温度を測定するが、正確なフィルム表面温度は接触式温度計(理化工業製 デジタルサーモメーター・K熱電対)で測定する。
【0090】
6.厚みムラ
接触型電子マイクロメーター(安立電気(株)製K206C型)で円周方向に測定した最大値(Tmax)、最小値(Tmin)、平均値(T)を用い 厚みムラ=±(Tmax−Tmin)/2T%
【実施例1】
【0091】
つぎに、具体的な原料樹脂を示した本発明の一実施例を詳細に説明する。
【0092】
実施例の一つとして内容物の長期保存性、耐突刺し性、ヒートシール性、収縮性、収縮応力、透明性に優れたEVOHを芯層とし、接着層を介して内層がLLDPE、外層がPA6よりなる延伸性、厚み精度の良い4種5層の収縮性2軸延伸フィルムの製造方法と製造装置について説明する。
【0093】
即ち、押出成形装置Iにおいて、内層用の原料LLDPEは、ホッパー2−1より押出機1−1を介して多層ダイAの最上位の第1段目のダイブロックaの溶融樹脂の流入口7に供給される。
【0094】
また、芯層用の原料EVOHはホッパー2−3より押出機1−3を介して多層ダイAの第3段目のダイブロックaの溶融樹脂の流入口7に供給される。
【0095】
つぎに、外層用の原料PA6は、ホッパー2−4より押出機1−4を介して多層ダイAの第5段目の最終段のダイブロックaの溶融樹脂の流入口7に供給される。
【0096】
そして、前記内層と外層の中間の芯層とのそれぞれの間に介在される接着層の原料は、ホッパー2−2より押出機1−2を経て途中で2分され、一方はダイブロックaの流入口7より供給され、他方はダイブロックaの流入口7に供給されるものである。
【0097】
斯くして、多層ダイ成形装置I上において、管状軸3の上部より順次と縦設される5段のダイブロックa1,,a,a,aより供給される溶融樹脂が、内層のLLDPE,接着剤層,芯層のEVOH,接着剤層および外層のPA6が多段に積層された管状原反フィルムFとして得られる。
【0098】
以下に、それぞれの各層の原料樹脂押出条件などについて詳述する。
【0099】
[原料]
(1)内層用:
ヒートシール性が良く透明性の良いLLDPEの内、全体の延伸温度付近で溶融し分子、結晶配向を阻害するオリゴマー等の極低分子部分を排除する溶液法、スラリー法等により重合されたLLDPEであって、分子、結晶配向に必要な抵抗を発生する絡みとなる分子量、分子量分布、分岐を有するD0.92 MI1.2 mp123℃のLLDPE及び低延伸温度部で絡み摩擦を有し、他の成分の回転、ラメラ間の滑り、ラメラ内の結晶面における滑り、ラメラを構成する折り畳み構造の解きほぐしに必要な力に耐えられる組織強度を自らの配向によって作り出せる適当な分岐があり、分子量分布の狭い直鎖性の高いメタロセン触媒のようなSSCを用いた、同じく溶媒法,スラリー法により重合されたD0.9 MI 1 mp99℃のLLDPEを上記LLDPE100部に対し、10〜60部を混合機により混合後使用した。なお、密度Dと流動係数MIは、0.92±0.01および1.1±0.1の範囲内であることが好ましい。
【0100】
(2)外層用:
耐突刺し性、防気体透過性の為に用いるPA6として延伸性の良いD1.14、相対粘度4.4(98%HSO)mp195℃の物を水分0.10wt%以下になるように120℃8Hr除湿乾燥後使用した。
【0101】
(3)芯層用:
防気体透過性の為に用いるEVOHとして延伸性の良いD1.16、MI2.0、mp181℃、エチレンmol比32%の物を使用した。
【0102】
(4)接着層用:
延伸後の内外層、芯層との接着力の良いD0.91 MI2.3 mp120℃の変成LLDPEを用いた。
【0103】
[押出条件]
押出時に前述の如く未溶解、過剰混練による架橋物、低分子分解物が発生しないようなスクリュー形状が必要であり、以下のものを使用した。
【0104】

【0105】
ついで、延伸装置IIおよびチューブアニーリング装置IIIについては、以下の条件の下に行った。
【0106】
[延伸条件]
前記延伸阻害の要因Zの(8)に前述した延伸開始点の安定維持の為に延伸原反の同一円周上、同一温度にすることが必要であるが、本発明では環状赤外線ヒーターを採用した。
【0107】

【0108】
[アニーリング条件]
チューブ状アニーリング50℃ 5秒
上述の製造方法では、縦,横方向の延伸倍率(SR)が2.5〜4.5において、4種5層2軸延伸フィルムが安定して製造されることを同時に確認した。該4種5層2軸延伸フィルムの25μと50μの厚みムラと面積収縮率は、以下の如くであり、延伸原反の厚みムラは±5%以下を達成、面積収縮率もアニーリング後50%以上を達成した。また延伸フィルムは高透明で、縮緬皺もなく、カールも軽微であった。
【0109】

【実施例2】
【0110】
他の実施例として内容物の長期保存性、ヒートシール性、収縮性、収縮応力、透明性、表面光沢性に優れたEVOHを芯層とし、接着層を介して内層がLLDPE、外層がPETよりなる延伸性、厚み精度の良い4種5層の収縮性2軸延伸フィルムの製造方法と製造装置について行った。
【0111】
以下に、それぞれの各層の原料,押出条件などについて示す。
【0112】
[原料]
(1)内層用:
実施例1と同じ物を用いた。
【0113】
(2)外層用:
表面光沢性の為に用いるPETとして延伸性の良いD1.40 極限粘度0.765mp 255℃の物を水分50ppm以下になるように160℃5Hr除湿乾燥後使用した。
【0114】
(3)芯層用:
実施例1と同じ物を用いた。
【0115】
(4)接着層用:
実施例1と同じ物を用いた。
【0116】
[押出条件]
押出時に前述の如く未溶解、過剰混練による架橋物、低分子分解物が発生しないようなスクリュー形状が必要であり以下のものを使用した。
【0117】

【0118】
ついで、延伸装置IIおよびチューブアニーリング装置IIIについては以下の通り行った。
【0119】
[延伸条件]
実施例1と同様とした。
【0120】

【0121】
[アニーリング条件]
チューブ状アニーリング50℃ 5秒
以上の条件下で、縦,横方向の延伸倍率(SR)が2.5〜4.5において、該4種5層2軸延伸フィルムが安定して製造されることを同時に確認した。該4種5層2軸延伸フィルムの25μと50μの厚み偏差と面積収縮率は以下の如くであり、延伸原反の厚みムラは±5%以下を達成、面積収縮率もアニーリング後50%以上を達成した。延伸フィルムは高透明、高表面光沢で、縮緬皺もなくカールも軽微であった。
【0122】

【0123】
なお、上記実施例1および2において、高分子樹脂としては、酸素遮断性のポリビニルアルコール,エチレン・ビニルアルコール(EVOH),ポリアクリルニトリル,ポリビニリデンクロライド,ポリアミド6,ポリエチレンテレフタレート(PET)の1または2以上用いて実施できることも確証した。
【0124】
[比較例1]
気相法により重合された、実施例1,実施例2に使用したと同様のD、MIのLLDPEを同様や製膜、延伸条件で使用したところ、前記判定基準Xで説明した延伸性の判定基準の(1)(2)段階しか得られなかった。
【0125】
[比較例2]
実施例1,実施例2に使用したAM成分を除いた場合は、前記判定基準Xで説明した延伸性の判定基準の(4)段階しか得られなかった。
【0126】
[比較例3]
実施例1,実施例2で使用されたLLDPEを通常のスパイラルダイを使用し、以下の変更を実施し、前記判定基準Xの(4),(5)段階までは得られたが満足される厚みムラ、面積収縮率は得られなかった。
【0127】

【0128】
以上、比較例との対比から分かるように本発明によれば、本発明に基づく多層延伸高分子フィルムは、2軸延伸効果としての強度,剛性,透明向上に加え、各層を構成する(材料の組み合わせ方は基本的に制限はない)LLDPEにより低温ヒートシール性、低温衝撃強度、透明性が得られ、EVOHにより高気体透過遮断性−長期保存性,防錆性に優れると共に、PA6により気体透過遮断性,耐ピンポール性が強化され、さらにPETにより気体透過遮断性,高光沢,透明性が付与される。そして、偏肉の少ない、各層間の接着性の良い、カール,縮緬皺の少ないか、ない、表面平滑性のある低温高収縮性フィルムが提供できる。したがって、特に長期低温保存性を要する重畳物、角ばった物や美観を要する収縮包装に適する。
【0129】
さらに、本発明によれば、等方向収縮性の為に必要なチューブラー延伸法で、低延伸倍率3×3付近で、延伸性は良くないEVOHを構成層とし、連続延伸性が得られるLLDPEの内容(超低分子カット可能な重合方式の選択と非晶部分にメタロセン触媒を用いた高分子量を用いる)を初めて見出したことと各層間の接着性の良い縮緬皺の少ないか、ない、低温高収縮性のフィルムを得る為の条件として、分子配向効果の得やすい、低温,高速,高倍率延伸の為に偏肉の良いウエルドマーク対応のダイを採用したことにより、カールの少ないか、ない、表面平滑性の良いフィルムを得る為に低温,短時間アニーリングを行うと、少なくても10%程度最終収縮率低下となるので、延伸時、それを勘案しての収縮率が目標とすることができる利点がある。
【0130】
又、超低分子カットが出来ないと延伸温度で液状化する為、結晶部分,非晶部分の分子配向を阻害するのみならず、延伸前円柱状態を保持しながらの延伸予熱段階で円柱状態を保持する為の内圧にも耐えられず、局部破断に至る場合が生じるが、非晶部分は連続延伸性を発現する為、結晶部分が分子配向するまでの間、自らが配向し、配向効果として構造強度を向上させ、結晶部の分子配向に必要な延伸応力に耐えることが必要であり、その為には分子の絡まりが大きい高分子量であり、超低分子がないものが必要とされる。しかし本発明のように、低延伸倍率での均一厚みの延伸物を必要とする時は非晶部分の延伸性は必須条件である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明に係る多層延伸高分子管状フィルム装置の全体の概略説明図
【図2】図1に示す製造装置の原板押出成形装置を構成する多層ダイを5層とした縦断説明図で、ハッチングを省略して示してある。
【図3】図2の要部を、中央を切欠して拡大した縦断面図
【符号の説明】
【0132】
I 原反押出成形装置(多層ダイ成形装置)
II 延伸装置
III チューブアニーリング装置
A 多層環状ダイ(多層ダイ)
1,,a,a,a ダイブロック
F 多層延伸高分子管状フィルム
管状原反フィルム
延伸管状フィルム
P 多層管成形路
1 押出機
1−1,1−2,1−3,1−4 押出機
2 ホッパー
2−1,2−2,2−3,2−4 ホッパー
3 管状軸
4 ブロック管
5 外周
6 環状部
,7,7,7,7 溶融樹脂の流入口
8 環状路
9 内周流路
10 ピニオン
11 軸
12 回転歯車
13 スパイラル溝
14 傾斜路
15 溶融樹脂流路
16 排出流路
17 冷却装置
18 ニップロール
19,25 第1ニップロール
20 予熱部
21 延伸部
22 延伸開始点
23 冷却部
24,28 第2ニップロール
26 加熱部
27 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々機能性を有し、延伸性のある数種の高分子樹脂と、重合法がスラリー法と溶液法である、密度0.92±0.01と流動係数1.1±0.1の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とにより、多数の樹脂を多段のダイブロックに順次とそれぞれのダイブロックの回転部材とスパイラル溝との間でサーキュラーダイとしてウエルドマーク対応の多層構造の原反として押出成形し、ついでこの多層構造の樹脂を、縦方向,横方向の延伸倍率が、それぞれ2.5から4.5に延伸させ、さらにチューブアニーリング処理を行わせて、安定した延伸性が得られ、高透明で高熱収縮性と厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のLLDPEの非晶成分に適当な分岐を有し、分子量分布の狭い、直鎖性の高いシングルサイト触媒により重合された、密度0.90±0.01、流動係数1.0±0.1のエチレン系重合体を、LLDPE100部に対し10から60部を混合使用、縦方向,横方向の延伸倍率がそれぞれ2.5から4.5の延伸に対し安定した延伸性が得られ、高透明で高熱収縮性と厚みムラの小さい、縮緬皺のないか少ない、カールが無いか少ない多層2軸延伸フィルムが得られることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の高分子樹脂には、酸素遮断性のポリビニルアルコール,エチレン・ビニルアルコール(EVOH),ポリアクリルニトリル,ポリビニリデンクロライド,ポリアミド6,ポリエチレンテレフタレート(PET)の1または2以上であることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造方法。
【請求項4】
多層押出成形装置,延伸装置およびチューブアニーリング装置より構成され、前記多層押出成形装置は、2以上の異なる溶融原材料投入口を有する2以上の多層ダイの各ダイブロックを、中央の管状軸に挿通縦設し、それぞれの原料投入口より溶融樹脂を上方より管状軸の外周に沿って内層部一以上の中間層及び外層部の多層管状の高分子材料の原反を成形可能とし、次段の延伸装置により二軸延伸すると共に、チューブアニーリング処理装置により熱処理を施して成ることを特徴とする多層延伸高分子管状フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−214487(P2009−214487A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62475(P2008−62475)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【特許番号】特許第4267678号(P4267678)
【特許公報発行日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(503169884)株式会社山口製作所 (4)
【Fターム(参考)】