説明

多層構造の偏光板、および該偏光板を含む防眩製品および液晶ディスプレイ用の偏光板

【課題】 延伸方向に対して垂直方向の応力への耐性を向上させた偏光フィルム及び偏光板を提供する。
【解決手段】 偏光フィルムからなる偏光層を2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んで接着した積層体を含む多層構造の偏光板において、前記偏光層が重量平均分子量150000〜500000のポリビニルアルコール類のフィルムを染色及び延伸されて製造されるように本発明の多層構造の偏光板を製造する。この多層構造の偏光板を用いて、本発明の防眩製品および液晶ディスプレイ用の偏光板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防眩特性を有するサングラスやゴーグル、または液晶ディスプレイ等に使用される多層構造の偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板には、方解石等の複屈折性を持つ天然鉱物を利用するもの、樹脂フィルムを一方向に延伸しつつ、ヨウ素または2色性染料を吸着もしくは含浸させて偏光性を付与するもの、などが知られている。後者では、さらにその偏光性の樹脂フィルム(偏光層)を他の透明樹脂の保護層で挟み込んで多層構造とすることで、二次加工に適し、安価、軽量な偏光板とすることが多い。この製法において偏光層に用いる樹脂として最も好適とされるのはポリビニルアルコール(PVA)である。また、保護層に用いる樹脂として最も好適とされるのはポリカーボネートである。
【0003】
このような多層構造の偏光板をサングラス等に用いる場合、その製造工程で曲げ、玉摺り、穴あけ、ネジ締め等の工程を経る。その際、偏光層には曲げ、圧縮、引っ張り、ねじれ、温度や湿度の変化による不均一な変形などの応力が加わる。それらの中で特に問題となるのは偏光フィルムの延伸方向に対して垂直な方向への引っ張り応力である。この応力に対する耐性が低いと偏光フィルムは延伸方向に沿って裂けて、製品歩留まりの低下に繋がる。また、サングラスに用いる場合、その形態によってはフレームやネジ締め部分からの応力を常に受け続けるため、使用中に亀裂を生じることがある。
【0004】
このように延伸されたPVAフィルムを使った偏光層が延伸方向に沿って裂けやすい事は認識されており、その対策も提案されている。具体的には、偏光フィルムを透明プラスチックで挟んで積層した後、温度60〜80℃かつ相対湿度80〜98%の雰囲気下で一定時間の高温加湿処理を行うものである(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−119216号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の対策でも十分とは言えず、ある程度の確率で亀裂が生じていた。このため、高強度であり、かつ、長期にわたって亀裂が生じない偏光層が求められていた。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、延伸方向に対して垂直方向の応力への耐性を向上させた多層構造の偏光板、および該偏光板を含む防眩製品および液晶ディスプレイ用の偏光板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために偏光層に用いる偏光フィルムの分子量について鋭意研究を進めたところ、特定の分子量を有する偏光フィルムが高強度であり、かつ、長期にわたって亀裂が生じないことを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
本発明は、下記の多層構造の偏光板、該偏光板を含む防眩製品、および液晶ディスプレイ用の偏光板を提供する。
[1]
偏光フィルムからなる偏光層を2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んで接着した積層体を含む多層構造の偏光板において、前記偏光層が重量平均分子量150000〜500000のポリビニルアルコール類のフィルムを染色及び延伸して製造されることを特徴とする多層構造の偏光版。
[2]
前記透明なプラスチック材料がポリカーボネートであることを特徴とする[1]に記載の多層構造の偏光板。
[3]
前記ポリビニルアルコールのフィルムが、染色後に3から5倍に延伸されることを特徴とする[1]または[2]に記載の多層構造の偏光板。
[4]
前記透明なプラスチック材料と偏光フィルムを、ポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ポリウレタン樹脂で接着することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の多層構造の偏光板。
[5]
[1]〜[4]のいずれかに記載の多層構造の偏光板を用いて製造された防眩製品。
[6]
サングラスまたはゴーグルである[5]に記載の防眩製品。
[7]
[1]〜[4]のいずれかに記載の多層構造の偏光板を用いて製造された液晶ディスプレイ用の偏光板。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる多層構造の偏光板を使用することによりサングラスやゴーグル等の製造時の歩留まりの向上、レンズの曲率や形状、意匠の自由度の向上及び最終製品の耐候性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、偏光層となる偏光フィルムを2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んで接着した積層体を含む多層構造の偏光板に関する。
【0011】
偏光フィルムの基材になる樹脂としては、ポリビニルアルコール類が用いられる。このポリビニルアルコール類としては、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体または類縁体であるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ(エチレン‐酢酸ビニル)共重合体ケン化物等が好ましく、特にPVAが好ましい。この基材を一方向に延伸させつつ、ヨウ素または2色性染料を含浸もしくは吸着させ、偏光性を付与する。
【0012】
PVAフィルムとしては、重量平均分子量が150000から500000のものが用いられる。なかでも、分子量150000から300000のものが、フィルムの強度と延伸性の両立の点から好ましい。
【0013】
PVAフィルムの延伸倍率は(2)〜(8)倍であり、延伸後の強度の点から3〜5倍が好ましい。
【0014】
本発明において偏光層を挟み込むために使用される透明なプラスチック材料には、ポリカーボネート系樹脂、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられるが、機械的強度の特性からポリカーボネート系樹脂が好ましい。
【0015】
前記ポリカーボネート樹脂としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジハロゲノフェニル)アルカンで代表されるビスフェノール化合物から周知の方法で製造された重合体が用いられ、その重合体骨格に脂肪酸ジオールに由来する構造単位が含まれるエステル結合を持つ構造単位が含まれても良い。好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂である。
【0016】
前記ポリカーボネート樹脂の分子量については、特に制限はないが、賦型性や機械的強度の観点から、好ましくは粘度平均分子量で17000〜40000であり、より好ましくは20000〜30000である。
【0017】
前記透明なプラスチック材料の厚さは、20μm〜2mmであり、特に、曲面加工をする場合は、50μm〜1mmであることが好ましい。
【0018】
本発明における偏光層と透明プラスチックフィルムを貼り合わせるために使用される合成系接着剤としては、アクリル系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコ−ン系材料等が挙げられる。特に、透明なプラスチック材料として好ましいポリカーボネートとの接着性から、ウレタン樹脂系材料であるポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づき、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<実施例1>
(a)PVAの分子量測定
ポリオキシエチレン(POE、分子量の互いに異なる5種)を基準物質、水を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で、PVAについて測定を行い、得られた溶出時間と強度の関係から平均分子量を計算した。その際、まず、2つの粘度式(POE−水系は [η]=0.0125M0.78(J.Polym.Sci., 32,517(1958))、PVA−水系は [η]=0.0453M0.64(Kobunshi Kagaku, 17,191(1960))、(ここで[η]は極限粘度、Mは分子量)より、POEの分子量MPOEからPVAの分子量MPVAへの変換式 MPVA=0.456MPOE1.0854 を導いて、PVA基準の校正曲線(溶出時間とPVAの分子量との関係式)を作成した。その校正曲線を用いて、PVAの各溶出時間における分子量と強度(分率)との関係を計算し、さらに平均分子量を計算した。ただし、その計算の際に、PVAの可塑剤として添加されているグリセリンのピークを含めなかった。
【0021】
(b)偏光フィルムの製造
PVAフィルム(クラレ株式会社製、商品名VF−PS#7500、PVA基準の重量平均分子量163000(POE基準では同116000))を35℃の水に浸漬させてフィルムに含まれるグリセリンを除去した。次いでスミライトレッド4B−P(C.I.28160)0.35g/L、クリソフェニン(C.I.24895)0.18g/L、スミライトスプラブルーG(C.I.34200)1.33g/L及び無水硫酸ナトリウム5g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させ、この染色時とその後で一方向に4倍延伸させた。この染色フィルムを酢酸ニッケル2.5g/Lおよびホウ酸6.0g/Lを含む35℃の水溶液に3分間浸漬させた。そのフィルムを緊張状態が保持された状態のまま室温下で3分間おいた後90℃で2分間、110℃で2分間加熱処理し、偏光フィルムを得た。
【0022】
(c)透明なプラスチック材料
厚さ700μmのポリカーボネートフィルム(三菱瓦斯化学株式会社製)を透明プラスチック材料として用いた。
【0023】
(d)接着剤
ポリプロピレングリコール(分子量900)100重量部に対し、ジフェニルメタン‐4,4‐ジイソシアネート25重量部、溶媒として酢酸エチル600重量部使用して接着剤組成物を調製した。
【0024】
(e)本発明の多層構造の偏光板の作製
(b)で得た偏光フィルムの片面に接着剤をコーターを用いて塗布し、110℃で5分間乾燥させた後、(c)のポリカーボネートフィルムをラミネーターを用いて積層した。次いで偏光フィルムの反対面にも接着剤層を形成した後、ポリカーボネートフィルムを積層した。次に室温で24時間以上、40℃で24時間、さらに70℃で48時間乾燥させて、多層構造の偏光板を得た。
【0025】
(f)強度試験
得られた偏光板を真空乾燥機に入れ、120℃、3時間で十分に乾燥させ、ドリルを使って直径2mmの孔をあけた。光学顕微鏡を使って孔の周囲を観察し、偏光フィルム層に微細な亀裂が発生したものを選別し、試験サンプルとした。サンプルの孔にネジを通して一定のトルクで締め付け、これを120℃で4時間以上真空下で乾燥させ、微細な亀裂が成長して目視可能な亀裂となる割合を調べた。その結果、80サンプル中5サンプル(6%)で亀裂の成長が見られた。
【0026】
<比較例1>
実施例1で使用したものよりも分子量が低いグレードのPVAフィルム(クラレ株式会社製、商品名VF−P#7500、PVA基準の重量平均分子量113000(POE基準では同84000))を使用した以外は実施例1の(b)と同様に処理して偏光フィルムを得た。続けて実施例1の(c)〜(e)と同様に処理して偏光板を得た。実施例1の(f)と同様の方法でこの偏光板の強度試験を行ったところ、40サンプル中7サンプル(18%)で亀裂の成長が見られた。
【0027】
<実施例2>
厚さ300μmのポリカーボネートフィルム(三菱瓦斯化学株式会社製)を透明プラスチック材料として用いた以外は実施例1の(b)〜(e)と同様にして積層体を製造した。
製造した積層体試料を直径82mmの円形に打ち抜き、真空成形機にて8R(球面半径65mm)に曲げ加工し、直径75mmの円形に再度打ち抜き、インジェクション試験用試料とした。この試料の凹部側から溶融したポリカーボネート樹脂を射出成形してレンズ形状とした。10サンプル作製し目視で観察したが偏光層に亀裂は見られなかった。
【0028】
<比較例2>
厚さ300μmのポリカーボネートフィルム(三菱瓦斯化学株式会社製)を透明プラスチック材料として用いた以外は比較例1と同様にして多層構造の偏光板を作製し、実施例2と同様にレンズを作製したところ、10サンプル中6サンプル(60%)で偏光層に亀裂が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の多層構造の偏光板はサングラス、ゴーグル等の防眩性材料や液晶ディスプレイ等に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で用いたPVAの分子量分布(PVA基準に換算したもの、強度は規格化)を表す図である。
【図2】比較例1で用いたPVAの分子量分布(PVA基準に換算したもの、強度は規格化)を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムからなる偏光層を2枚の透明なプラスチック材料で挟み込んで接着した積層体を含む多層構造の偏光板において、前記偏光層が重量平均分子量150000〜500000のポリビニルアルコール類のフィルムを染色及び延伸して製造されることを特徴とする多層構造の偏光板。
【請求項2】
前記透明なプラスチック材料がポリカーボネートであることを特徴とする請求項1に記載の多層構造の偏光板。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールのフィルムが、染色後に3から5倍に延伸されることを特徴とする請求項1または2に記載の多層構造の偏光板。
【請求項4】
前記透明なプラスチック材料と偏光フィルムを、ポリウレタンプレポリマーと硬化剤からなる2液型の熱硬化性ポリウレタン樹脂で接着することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層構造の偏光板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層構造の偏光板を用いて製造された防眩製品。
【請求項6】
サングラスまたはゴーグルである請求項5に記載の防眩製品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層構造の偏光板を用いて製造された液晶ディスプレイ用の偏光板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−262104(P2008−262104A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106002(P2007−106002)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(597003516)MGCフィルシート株式会社 (33)
【Fターム(参考)】