説明

多層芳香族ポリイミドフィルム

【課題】製膜時及び加工時の走行性、レーザーによる穴あけ等の加工性、フィラーの添加量減少による低コスト化を実現した多層芳香族ポリイミドフィルムを提供することにある。
【解決手段】芳香族ポリイミドフィルムを3層以上積層した多層芳香族ポリイミドフィルムであり、最外層がフィラーを含有していることを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルム、およびテトラカルボン酸二無水物とジアミンを極性有機溶媒中で反応させてポリアミド酸を製造し、これをイミド化した後、フィルムに成形するに際し、粒子径が0.07〜2.0μmの範囲内にあり、かつ平均粒子径が1.0μm以下である無機粒子を上記極性有機溶媒と同じ極性有機溶媒に分散させたスラリーをポリアミド酸溶液に添加し、得られたポリイミドフィルムを3層以上の積層フィルムの最外層として積層することを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行性に優れ且加工性に優れた多層芳香族ポリイミドフィルムに関し、さらに詳しくは製膜時及び加工時の走行性、レーザーによる穴あけ等の加工性、フィラーの添加量減少による低コスト化を実現した多層芳香族ポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性および機械強度などにおいて優れた特性を有することが知られており、電線の電気絶縁材料、断熱材、フレキシブルプリント配線基板(FPC)のベースフィルム、ICのテープオートメイティッドボンディング(TAB)用のキャリアテープフィルム、およびICのリードフレーム固定用テープなどに広く利用されている。これらのうち、特にFPC、TAB用キャリアテープおよびリード固定用テープなどの用途においては通常、種々の接着剤を介してポリイミドフィルムと銅箔とが接着されて用いられている。また、レーザーによるスルーホールを作成する際の加工性も重要である。
【0003】
ポリイミドがこれらの用途に用いられる際重要な実用特性はフィルムの滑り性(易滑性)である。様々なフィルム加工工程において、フィルム支持体(たとえばロール)とフィルムとの易滑性、またフィルム同志の易滑性が確保されることにより、各工程における操作性、取り扱い性を向上させ、更にはフィルム上にシワ等の不良個所の発生が回避できる。また一方、ポリイミドの主用途であるフレキシブルプリント配線板用途においては、通常、種々の接着剤を介して銅箔と接着されているが、ポリイミドは、その化学構造及び耐薬品(溶剤)安定性により銅箔との接着性が不十分な場合が多く、現状ではポリイミドに表面処理(アルカリ処理、コロナ処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理等)を施し、接着されている。また最近の電子部品のファインピッチ化において特にFPCの検査において従来は目視による線幅、異物等の検査が主流であったが自動光学検査システム(AOI)が導入されるようになってからは、無機粉体を混入する従来処方で製造された耐熱性フィルムでは、走行性に関して十分満足した物が得られていたがAOIにおいては、無機粉体が大きすぎて最近のFPC等の狭ピッチ化に伴い該粒子が異物と判断され自動査検査システムの大きな障害になっている。
【0004】
従来のポリイミドフィルムにおける易滑化技術では、不活性無機化合物(例えばアルカリ土類金属のオルトリン酸塩、第2リン酸カルシウム無水物、ピロリン酸カルシウム、シリカ、タルク)をポリアミック酸に添加する方法(特許文献1参照)、更には微細粒子によってフィルム表面に微細な突起を形成後、プラズマ処理を施す方法(特許文献2参照)が知られている。しかしこれらに示される粒子は粒子径が大きく、自動光学検査システムには適応しないという問題がある。またポリイミド表層に平均粒子径が0.01〜100μmである無機質粒子が各粒子の一部をそれぞれ埋設させて保持されていて、一部露出した前記無機質粒子からなる多数の突起が該フィルムの表面層に1×10〜5×10個/mm2存在させる方法(特許文献3参照)が知られている。この方法は、積極的に表面に無機粒子を露出させ、フィルム表面の摩擦係数を低減させることにより、易滑性効果を効果的に得る物であるが無機質粒子が一部露出しているため接面する他のフィルム表面にすり傷が発生し外観不良をきたすといった問題を抱えている。
【0005】
また、レーザーによるスルーホールを作成する際、フィラーに起因する穴開け不良の問題も同時に抱えており、更には高価なフィラーは高コストになるため実用性に欠けると言う問題を有していた。
【特許文献1】特開昭62−68852号公報
【特許文献2】特開2000−191810号公報
【特許文献3】特開平5−25295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの市場要求に対して鋭意研究の結果、走行性(易滑性)、接着性、スルーホール作成時の加工性、及び自動光学検査システム(AOI)を同時に工業的に満足させること、更には高価なフィラーを最外層にのみ添加しフィラー使用量を削減し同時に低コスト化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目標を達成するために、本発明の多層芳香族ポリイミドフィルムは、
(1)芳香族ポリイミドフィルムを3層以上積層した多層芳香族ポリイミドフィルムであり、最外層がフィラーを含有していることを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルムであって、最外層に含有されるフィラーが無機粒子であり、その粒子径が0.07 〜 2.0μ m で且つ平均粒子径が1.0μm以下であり、最外層の表面には該無機粒子による微細な突起が形成されていることを特徴とし、
(2)最外層に含まれるフィラー量が0.1〜0.9重量%であること、
(3)最外層厚みが1〜50μmで、多層フィルム全体の厚みが5〜175μmであることが好ましい。
【0008】
また本発明の多層芳香族ポリイミドフィルムの製造方法は
(1)テトラカルボン酸二無水物とジアミンを極性有機溶媒中で反応させてポリアミド酸を製造し、これをイミド化した後、フィルムに成形するに際し、粒子径が0.07〜2.0μmの範囲内にあり、かつ平均粒子径が1.0μm以下である無機粒子を上記極性有機溶媒と同じ極性有機溶媒に分散させたスラリーをポリアミド酸溶液に添加し、得られたポリイミドフィルムを3層以上の積層フィルムの最外層として積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリイミドフィルムは、フィラーを最外層のみに添加することによって、フィラーの含有量がフィルム全体で減少し、走行性を損なうことなく、スルーホールの加工性、高価な無機粒子を使用した際のコストが低下すること、接着性が向上することから、微細な配線を形成するフレキシブルプリント配線基板(FPC)やチップオンフィルム(COF)などの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリイミドフィルムを得るに際しての前駆体であるポリアミド酸について説明する。
【0012】
本発明においては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分または、この両者を主成分とする化学物資を有機溶媒中で付加重合させることによってワニス状ポリアミック酸を得る。
【0013】
上記芳香族ジアミン成分の具体例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンチジン、パラキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンチジン、1,4−ビス(3−メチル−5アミノフェニル)ベンゼンおよびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。この中でフィルムの引っ張り弾性率を高くする効果のあるパラフェニレンジアミン、ベンジジン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミンの量を調整し、最終的に得られるポリイミドフィルムの引っ張り弾性率が4.0GPa以上にすることが、ファインピッチ基板用として好ましい。
【0014】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物成分の具体例としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸およびこれらのアミド形成性誘導体などの酸無水物が挙げられる。
【0015】
使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0016】
重合方法は公知のいずれの方法で行ってもよく、例えば
(1)先に芳香族ジアミン成分全量を溶媒中に入れ、その後芳香族テトラカルボン酸類成分を芳香族ジアミン成分全量と当量になるよう加えて重合する方法。
(2)先に芳香族テトラカルボン酸類成分全量を溶媒中に入れ、その後芳香族ジアミン成分を芳香族テトラカルボン酸類成分と等量になるよう加えて重合する方法。
(3)一方の芳香族ジアミン化合物を溶媒中に入れた後、反応成分に対して芳香族テトラカルボン酸類化合物が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方の芳香族ジアミン化合物を添加し、続いて芳香族テトラカルボン酸類化合物を全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ等量になるよう添加して重合する方法。
(4)芳香族テトラカルボン酸類化合物を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方の芳香族ジアミン化合物が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、芳香族テトラカルボン酸類化合物を添加し、続いてもう一方の芳香族ジアミン化合物を全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ等量になるよう添加して重合する方法。
(5)溶媒中で一方の芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸類をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミド酸溶液(A)を調整し、別の溶媒中でもう一方の芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸類をどちらかが過剰になるよう反応させポリアミド酸溶液(B)を調整する。こうして得られた各ポリアミド酸溶液(A)と(B)を混合し、重合を完結する方法。この時ポリアミド酸溶液(A)を調整するに際し芳香族ジアミン成分が過剰の場合、ポリアミド酸溶液(B)では芳香族テトラカルボン酸成分を過剰に、またポリアミド酸溶液(A)で芳香族テトラカルボン酸成分が過剰の場合、ポリアミド酸溶液(B)では芳香族ジアミン成分を過剰にし、ポリアミド酸溶液(A)と(B)を混ぜ合わせこれら反応に使用される全芳香族ジアミン成分と全芳香族テトラカルボン酸類成分とがほぼ等量になるよう調整する。
【0017】
なお、重合方法はこれらに限定されることはなく、その他公知の方法を用いてもよい。
【0018】
こうして得られるポリアミック酸溶液は、固形分を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%を含有しており、またその粘度はブルックフィールド粘度計による測定値で10〜2000Pa・s、好ましくは、100〜1000Pa・sのものが、安定した送液のために好ましく使用される。また、有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0019】
本発明のフィルム表面上に突起を形成させるために添加される粒子は、前記のポリイミドフィルム製造工程で接触する全ての化学物質に対して不溶である必要がある。本発明において使用可能なフィラーとしては、無機粒子、有機粒子が挙げられるが中でも無機粒子が好ましい。無機粒子としては、SiO(シリカ)、TiO、CaHPO、Ca7、等を好適に挙げることができる。中でもゾル・ゲル法で湿式粉砕法で製造したシリカが、ワニス状ポリアミド酸溶液中で安定し、かつ物理的に安定し、ポリイミドの諸物性に影響を与えないので好ましい。
【0020】
さらに、微細シリカ粉は、N,N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキサイド、nーメチルピロリドン等の極性溶媒に均一に極性溶媒に分散させたシリカスラリーとして使用することで凝集を防止するため好ましい。このスラリーは、粒子径が非常に小さいため沈降速度が遅く安定している。また、たとえ沈降しても再攪拌する事で容易に再分散可能である。
【0021】
本発明においては、無機粒子の粒子径が0.07〜2.0μmの範囲内にあること、かつ平均粒子径が1.0μm以下であり、そうすることによりポリイミドフィルムの自動光学検査システムでの検査が問題なく適応できる。またフィルムの機械物性等の低下を発生させずに使用可能である。逆にこれらの範囲より平均粒子径が下回るとフィルムへの充分な易滑性が得られなく、上回ると自動検査システムで該粒子が異物と判断され障害を来すので好ましくない。また本発明における最外層の厚みは通常のフィルムの厚さは5〜50μmであるため、この粒子径範囲での粒子が表面に露出することはない。また、最外層のみに無機粒子を添加する為、スルーホール作成の加工性が低下することも無い。
【0022】
無機粒子はフィルム樹脂重量当たり0.1〜0.9重量%が好ましく、0.3〜0.7重量%の割合で含まれていることがより好ましい。0.1重量%以下であるとフィルム表面の突起数も不足することによってフィルムへの充分な易滑性が得られず、搬送性が悪化し、ロールに巻いた時のフィルム巻姿も悪化するので好ましくない。また0.9重量%以上であるとフィルムの易滑性は良化するものの、粒子の異常凝集による粗大突起が増加し、これが結果的に自動検査システムで異物と判断され障害を来すので好ましくない。
【0023】
無機粒子による表面突起により、フィルム表面積も拡大し、十分に粗面化されアンカー効果が見られ接着性も損なうこともなくなる。
【0024】
無機粒子の粒度分布においては狭い分布であること、つまり類似の大きさの粒子が全粒子に占める割合が高い方が良い。
【0025】
次に、本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
【0026】
ポリイミドフィルムを製膜する方法としては、ポリアミック酸溶液をフィルム状にキャストし熱的に脱環化脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法、およびポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作成しこれを加熱脱溶媒することによりポリイミドフィルムを得る方法が挙げられるが、後者の方が得られるポリイミドフィルムの熱膨張係数を低く抑えることができるので好ましい。
【0027】
化学的に脱環化させる方法においては、まず上記ポリアミック酸溶液を調製する。
【0028】
上記ポリアミック酸溶液は、環化触媒(イミド化触媒)、脱水剤およびゲル化遅延剤などを含有することができる。
【0029】
本発明で使用される環化触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、β−ピコリンなどの複素環第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種類のアミンを使用するのが好ましい。
【0030】
本発明で使用される脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられるが、無水酢酸および/または無水安息香酸が好ましい。
【0031】
ポリアミック酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法としては、環化触媒および脱水剤を含有せしめたポリアミック酸溶液をスリット付き多層口金から支持体上に流延してフィルム状に成形し、支持体上でイミド化を一部進行させて自己支持性を有するゲルフィルムとした後、支持体より剥離し、加熱乾燥/イミド化し、熱処理を行う。
【0032】
上記ポリアミック酸溶液は、スリット状多層口金を通ってフィルム状に成型され、加熱された支持体上に流延され、支持体上で熱閉環反応をし、自己支持性を有するゲルフィルムとなって支持体から剥離される。
【0033】
上記支持体とは、金属製の回転ドラムやエンドレスベルトであり、その温度は液体または気体の熱媒、および/または電気ヒーターなどの輻射熱により制御される。
【0034】
上記ゲルフィルムは、支持体からの受熱および/または熱風や電気ヒータ−などの熱源からの受熱により30〜200℃、好ましくは40〜150℃に加熱されて閉環反応し、遊離した有機溶媒などの揮発分を乾燥させることにより自己支持性を有するようになり、支持体から剥離される。
【0035】
上記支持体から剥離されたゲルフィルムは、通常回転ロールにより走行速度を規制しながら走行方向に延伸される。延伸は、140℃以下の温度で1.05〜1.9倍、好ましくは1.1〜1.6倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍の倍率で実施される。走行方向に延伸されたゲルフィルムは、テンター装置に導入され、テンタークリップに幅方向両端部を把持されて、テンタークリップと共に走行しながら、幅方法へ延伸される。上記の乾燥ゾーンで乾燥したフィルムは、熱風、赤外ヒーターなどで15秒から10分加熱される。次いで、熱風および/または電気ヒーターなどにより、250〜500の温度で15秒から20分熱処理を行う。走行方向への延伸倍率と幅方向への延伸倍率を調整しながら得られるポリイミドフィルムのフィルム厚みを5〜175μmに調整するのが好ましい。この範囲より厚くても薄くなっても、製膜性は著しく低下するので好ましくない。
【0036】
フィラー、好ましくは無機粒子を含有させる方法としては、ポリイミドの製造に使用される有機溶媒と同じ極性溶媒にフィラーを分散させたスラリーをポリイミド製造工程中のポリアミド酸溶液に添加した後、脱環化脱溶媒させて無機粒子入りポリイミドフィルムを得ることができる。
【0037】
無機粒子入り芳香族ポリイミドフィルムを最外層に積層させて多層芳香族ポリイミドフィルムを製造する方法としては、多層口金を使用して支持体に流延する方法、フィルム上にさらにポリアミック酸を塗布する方法などが知られている。
【0038】
本発明において、「最外層」とは積層フィルムの最も外側に存在する層を言う。本発明では3層以上であるから、3段に層を重ねた場合、1段目と3段目がいずれも最外層である。したがって、3層以上の積層フィルムの最外層は2層存在する。
【実施例】
【0039】
(1)フィルム厚
Mitutoyo製ライトマチック(Series318 )を使用して測定した。
【0040】
(2)摩擦係数(静摩擦係数)
フィルムの処理面同士を重ね合わせ、JIS K−7125(1999)に基づき測定した。すなわち、スベリ係数測定装置Slip Tester(株式会社テクノニーズ製)を使用し、フィルム処理面同士を重ね合わせて、その上に200gのおもりを載せ、フィルムの一方を固定、もう一方を100mm/分で引っ張り、摩擦係数を測定した。
【0041】
(3)自動光学検査(AOI)
日本オルボテック(株)製のSK−75を使用してベースフィルムを検査した。異物と微粒子の区別の付く場合を「○」評価、一方異物と微粒子の大きさが類似していて、両者の区別が付かない場合を「×」とした。
【0042】
(4)無機粒子の評価
堀場製作所のレーザ回析/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用い、極性溶媒に分散させた試料を測定、解析した結果から粒子径範囲、平均粒子径、粒子径0.15〜0.60μmの範囲を読み取った。
【0043】
[実施例1]
溶媒としてN ,N−ジメチルアセトアミドを用い、この溶媒中でピロメリット酸二無水物と4 ,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ完全に反応させ、ワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0044】
次に、粒径分布が0.07〜2.0μmで且つ平均径0.50μmのシリカのN,N−ジメチルアセトアミドスラリーを前記ワニス状ポリアミド酸溶液に、樹脂重量当たりシリカ粒子が0.15重量%になるように添加し、十分攪拌、分散させたシリカ入りワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0045】
このシリカ入りワニス状ポリアミック酸を最外層にし、中心層にはシリカを入れていないワニス状ポリアミック酸を用い、3層口金を持つ連続製膜装置を用いて、これらのポリアミック酸をポリイミドに転化すると同時に乾燥固化し、3層からなるポリイミドフィルムとした。得られたフィルムの厚みは75μmであった。また、中心層の厚みは25μm、最外層(2層)の厚みはそれぞれ25μmで、トータル50μmであった。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で中心層の厚みが50μm、全最外層の厚みが25μmである以外は実施例1と同様にして実験を行い75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0047】
[実施例3]
実施例1 と同様の方法で、最外層のシリカ添加量を0.3 重量% に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例1と同一の方法で75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0048】
[実施例4]
N,N−ジメチルアセトアミド中で、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ完全に反応させてワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0049】
次に、粒径分布が0.07 〜 2.0μmで且つ平均径0.50μmのシリカのN, N−ジメチルアセトアミドスラリーを前記ワニス状ポリアミド酸溶液に、樹脂重量当たりシリカ粒子が0.3重量%になるように添加し、十分攪拌、分散させたシリカ入りワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0050】
このシリカ入りワニス状ポリアミック酸を最外層にし、中心層にはシリカを入れていないワニス状ポリアミック酸を用い、3層口金を持つ連続製膜装置を用いて、これらのポリアミック酸をポリイミドに転化すると同時に乾燥固化し、3層からなるポリイミドフィルムとした。得られたフィルムの厚みは37.5μmであった。また、中心層の厚みは12.5μm、最外層の厚みは12.5μmであった。
【0051】
[実施例5]
実施例4と同様の方法で、最外層のシリカ添加量を0.6重量% に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例4と同一の方法で、37.5μmのポリイミドフィルムを得た。
【0052】
[実施例6]
実施例4と同様の方法で、最外層のシリカ添加量を0.9重量% に変更し、十分攪拌、分散させた後、実施例4と同一の方法で、37.5μmのポリイミドフィルムを得た。
【0053】
[比較例1]
N,N−ジメチルアセトアミド中で、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ完全に反応させてワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0054】
次に、粒径分布が0.07〜2.0μmで且つ平均径0.50μmのシリカのN,N−ジメチルアセトアミドスラリーを前記ワニス状ポリアミド酸溶液に、樹脂重量当たりシリカ粒子が0.15重量%になるように添加し、十分攪拌、分散させたシリカ入りワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0055】
このシリカ入りワニス状ポリアミック酸を連続製膜装置を用いて、ポリイミドに転化すると同時に乾燥固化し、ポリイミドフィルムとした。得られたフィルムの厚みは75μmであった。
【0056】
[比較例2]
比較例1 と同様の方法で、シリカ添加量を0.3重量% に変更し、十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法で、75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0057】
[比較例3]
比較例1 と同様の方法で、シリカ添加量を0.6重量% に変更し、十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法で、75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0058】
[比較例4]
N , N − ジメチルアセトアミド中で、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとをほぼ完全に反応させてワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0059】
次に、粒径分布が0.07 〜 2.0μmで且つ平均径1.50μmのシリカのN,N−ジメチルアセトアミドスラリーを前記ワニス状ポリアミド酸溶液に、樹脂重量当たりシリカ粒子が0.3重量%になるように添加し、十分攪拌、分散させたシリカ入りワニス状ポリアミック酸溶液を得た。
【0060】
このシリカ入りワニス状ポリアミック酸を最外層にし、中心層にはシリカを入れていないワニス状ポリアミック酸を用い、3層口金を持つ連続製膜装置を用いて、これらのポリアミック酸をポリイミドに転化すると同時に乾燥固化し、3層からなるポリイミドフィルムとした。得られたフィルムの厚みは75μmであった。また、中心層の厚みは25μm、2枚の最外層の厚みは合わせて50μmであった。
[比較例5]
【0061】
比較例4と同様の方法で、シリカの粒径分布が0.07 〜 2.5μmで且つ平均径2.0μmに変更し、十分攪拌、分散させた後、比較例1と同一の方法で、75μmのポリイミドフィルムを得た。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のポリイミドフィルムは、フィラーを最外層のみに添加することによって、フィラーの含有量がフィルム全体で減少し、走行性を損なうことなく、スルーホールの加工性、高価な無機粒子を使用した際のコストが低下すること、接着性が向上することから、微細な配線を形成するフレキシブルプリント配線基板(FPC)やチップオンフィルム(COF)などの用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリイミドフィルムを3層以上積層した多層芳香族ポリイミドフィルムであり、最外層がフィラーを含有していることを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルムであって、最外層に含有されるフィラーが無機粒子であり、その粒子径が0.07 〜 2.0μmで且つ平均粒子径が1.0μm以下であり、最外層の表面には該無機粒子による微細な突起が形成されていることを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項2】
最外層に含まれるフィラー量が0.1〜0.9重量%である請求項1記載の多層芳香族ポリイミドフィルム。
のポリイミドフィルム。
【請求項3】
最外層厚みが1〜50μmで、多層フィルム全体の厚みが5〜175μmであることを特徴とする請求項1〜2いずれか記載の多層芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンを極性有機溶媒中で反応させてポリアミド酸を製造し、これをイミド化した後、フィルムに成形するに際し、粒子径が0.07〜2.0μmの範囲内にあり、かつ平均粒子径が1.0μm以下である無機粒子を上記極性有機溶媒と同じ極性有機溶媒に分散させたスラリーをポリアミド酸溶液に添加し、得られたポリイミドフィルムを3層以上の積層フィルムの最外層として積層することを特徴とする多層芳香族ポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−214424(P2009−214424A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60708(P2008−60708)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】