説明

多層足場

本発明は、全般的には生分解性および/または生体吸収性の繊維製品、さらに詳細には医療用途において有用性を有する製品および方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれている、2007年1月25日に出願した「Multilayer Scaffold」という表題の英国出願第0801405.2号および2007年2月15日に出願した「Multilayer Scaffold」という表題の英国特許出願第0802767.4号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、全般的には生分解性および/または生体吸収性(bioresorbable)の繊維性物品、さらに詳細には医療用途において有用性を有する製品および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は、身体で最大の器官であり、外表面全体を覆い、全体重の約8%を形成する1。皮膚は、図1に例示されているように、表皮、真皮および皮下(皮下脂肪層)の3つの一次層からなる。
【0004】
表皮は、血管を含有せず、最深層の細胞は、真皮の上層に及ぶ毛細血管からの拡散により栄養を得ている。表皮を構成する主な細胞型は、ケラチン生成細胞であり、メラニン細胞およびランゲルハンス細胞も存在する。真皮は、水を通さず、感染に対する障壁として働く。
【0005】
真皮は、結合組織からなり、体を圧力および張力から守る、表皮の下の皮膚層である。真皮は、基底膜により表皮にしっかりと結合されている。また、真皮は、触覚および温覚(the sense of touch and heat)を与える多くの神経終末を覆っている。真皮は、毛包、汗腺、皮脂腺、アポクリ腺、リンパ管および血管を含有する。真皮内の血管は、それ自体の細胞ならびに表皮の基底層に対して栄養を与え、老廃物を除去する。
【0006】
多くの患者は、事故、病気または手術による皮膚の喪失後、医学的注意が必要となる。例えば、皮膚癌は、全層皮膚部分の切除が必要となり得る。小さな癌病巣の多くは、切除後に縫合されるが、大きな病巣は、この方式では治療できない場合が多い。大きな皮膚癌は、皮膚科医または形成外科医に回される場合が多い。これらの場合、形成外科医に好ましい方法は、皮弁または分層皮膚移植を用いた修復である。この比較的高価な方法により、質の高い修復が得られるが、他の身体部位にさらなる罹患が起こる。高齢患者または合併する医学的状態を有する患者(例えば、ヘビースモーカー、糖尿病患者)は、移植法または皮弁法の後、合併症を患う場合がある。これらの患者は、治癒不良に苦しむ場合もあり、その結果、度重なる臨床医の診察および治療回数の増加に至る。
【0007】
移植または皮弁の選択肢は、皮膚科医が必ずしも利用できるわけではなく、皮膚科医は、縫合により創傷を閉じるか、二次治癒に委ねるか、または形成外科医に委ねるかのいずれかしか試みることができない。切除部分が大きすぎる場合、縫合は不可能となり得、皮膚がより張っているか、瘢痕がより問題となる身体部分(例えば顔)ではこの大きさの上限が低くなる。二次治癒するように創傷を開いたままにしておくと、感染を招き、瘢痕化する恐れがある。形成外科医への照会により、全体的な治療費が増加し、上で考察した潜在的な問題に至り得る。
【0008】
皮膚科医が、移植または皮弁を必要とせずに、形成外科医並みの修復を提供することを可能にする既成の再生医療用具は、大きな利点となろう。このような用具は、患者自身の細胞が損傷範囲内で移動および増殖することを可能にし、標準的な非外科的介入と比較して、より迅速に合併症がより少ない新しい組織を形成することにより治癒を補助する足場材料を含むであろう。
【0009】
開放創に至る多くの他の医学的方法または状態は、本発明の使用から恩恵を得ることができる。これらとしては、それだけに限定されないが、モース手術、他の軟部組織腫瘍の修復、美顔整形手術、歯周病手術(periodontology)および瘢痕修正手術(scar revision surgery)が挙げられる。
【0010】
既存の生体吸収性足場技術は、慢性および急性の創傷治癒を促進することが知られている。かなりの数のこれらの技術は、動物組織または植物組織から抽出されるコラーゲン、シルク、アルギネート、キトサンおよびヒアルロネートなどの比較的純粋な天然ポリマーの生物学的特性を利用する。これらの例としては、Nanomatrix Inc.製のコラーゲンマトリックスおよびNanopeutics s.r.oにより使用される変性セルロースが挙げられる。
【0011】
他の技術は、複数の天然高分子を含有する、処理された細胞外マトリックス(脱細胞化(decellularised))材料に基づくものである。1つのこのような例としては、無細胞ブタ小腸粘膜下層からなる、生物学的に誘導される細胞外マトリックス系創傷用製品である、Oasis(登録商標)(Healthpoint Limited)がある(これは、I型コラーゲン、グリコサミノグリカンおよびいくつかの増殖因子を含有する)。別の例としては、脱細胞化された動物またはヒトの組織に由来するTissue Regenix Limitedにより開発中の同種/異種無細胞足場技術がある。
【0012】
病原体の伝染、免疫反応、不十分な機械的性質および生分解性に対する制御程度の低さに由来する潜在的危険性により、天然ポリマー由来の材料の使用についての懸念が存在する2
【0013】
足場材料の代替物としては、熱傷を治療するために販売されている、乳酸、εカプロラクトンおよびトリメチレンカーボネートの凍結乾燥コポリマーである、Suprathel(登録商標)(PolyMedics Innovations)などの生体吸収性膜が挙げられる。Suprathel(登録商標)は、潜在的に生体吸収性であるが、創傷が治癒した後創傷部位から除去されることが意図されており、したがって生体吸収性足場として作用しない。
【0014】
先行技術の足場は、特定の皮膚層の修復を対象とする。例えば、MySkin(商標)(CellTran Limited)は、非生体吸収性シリコーンシート上にケラチン生成細胞層を含む培養自己表皮代替物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国仮出願第0801405.2号
【特許文献2】英国仮出願第0802767.4号
【特許文献3】国際公開第07/132186号
【0016】
【非特許文献1】Chong E.J et al (2007) “Evaluation of electrospun PCL/gelatine nanofibrous scaffold for wound healing and layered dermal reconstruction.” Acta Biomaterialia 3, 321 to 330
【非特許文献2】Ma, PX (2004) “Scaffolds for tissue fabrication”, Materials Today, 2004, 30 to 40
【非特許文献3】Desmouliere A et al (2005) “Tissue repair, contraction and the myofibroblast” Wound Rep Regen 13 (1) 7 to 12
【非特許文献4】Werner, S et al (2007) “Keratinocyte-fibroblast interactions in wound healing” J Invest Dermatol 127 (5) 998 to 1008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、皮膚は、複雑な多層器官であり、多数の臨床例において、全層創傷は、修復および/または再生を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、適切な細胞集団が存在し、したがって皮膚の生理学的構造を再生できる構造を有するように設計された、部分層創傷または全層創傷で使用するための生体吸収性合成足場を開発した。足場の異なる成分層は、異なる細胞型と異なる方法で相互作用し、単層足場材料と比較して細胞増殖をさらに誘導するように最適化される。細胞が足場内部で増殖すると、ナノ/ミクロ繊維が身体に徐々に再吸収される。
【0019】
本発明の態様によれば、少なくとも2種の繊維材料を含む生体吸収性合成足場であって、第1の繊維材料が約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含み、第2の繊維材料が約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含む足場が提供される。
【0020】
本発明の実施形態において、第1の繊維材料は、約1μmから50μmの間、または約1μmから25μmの間、または約3μmから10μmの間、またはより特に約4μmから9μmの間の直径を有する孔を含む。
【0021】
本発明の実施形態において、第2の繊維材料は、約50nmから5μmの間、または約100nmから20μmの間、または約100nmから10μmの間、または約1μmから10μmの間、または約0.1μmから3.5μmの間、またはより特に約0.2μmから2.5μmの間の直径を有する孔を含む。
【0022】
本明細書に記載の孔径は、キャピラリーフローポロメトリー(capillary flow porometry)で測定できる。キャピラリーフローポロメトリーは、試料の孔径の範囲を得るために、その最も収縮した部分で貫通孔(through-pore)の直径を測定する。孔径は、いくつかの方法で表すことができる。例えば:
「最大検出孔径」とは、キャピラリーフローポロメーターが試料中に検出できる最大孔径である;
「最大孔径分布での直径」とは、分布のピークでの孔径(すなわち、モード孔径(modal pore size))を示す;
「平均流孔径」とは、平均孔径を示す。
【0023】
足場は、ヒトの軟部組織細胞、例えばその修復のために創傷にコロニー形成する必要がある細胞の移動および増殖を支持するように設計されている。足場の異なる成分層は、異なる細胞型と異なる方法で相互作用し、単層足場材料と比較して細胞増殖をさらに誘導するように最適化される。
【0024】
本発明の実施形態において、第1および第2の繊維材料は、足場内で実質的に平面な層として提供される。特に、これらの平面層は、互いに隣接している。このような実施形態において、足場が、一緒に結合している、材料の異なる層で構成されている場合、積層体とみなすことができる。
【0025】
本発明の実施形態において、足場は、第1の繊維材料が、第2の繊維材料の下に配置されるように創傷内で配向される。この配向は、線維芽細胞が、第1の繊維材料にコロニー形成し、ケラチン生成細胞が第2の繊維材料にコロニー形成し、それにより真皮および表皮各々を生成することを促す。
【0026】
線維芽細胞は、新しい真皮組織の形成において重要な細胞である。それは、皮膚の真皮層の主細胞型であり、細胞外マトリックス成分(すなわち、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、増殖因子およびサイトカイン)の生成に関与する。無傷の皮膚において、線維芽細胞は、比較的不活発であり、細胞外マトリックス成分のゆるやかなターンオーバーに関与する。しかし、創傷治癒過程中、線維芽細胞は、筋線維芽細胞に分化し、機械力の発達に関与し、したがって組織収縮、ならびに肉芽組織の土台を形成し、創傷面積を満たす新しい細胞外マトリックスの沈着による創傷閉鎖に寄与する。筋線維芽細胞は、修復が解決すると通常死滅し、創傷のリモデリング過程の完了時に線維芽細胞に再び置き換えられる3
【0027】
本発明の実施形態において、第1の層は、皮膚線維芽細胞の移動および増殖を支持するために最適化された構造を有する。これにより、皮膚の真皮層の再生が可能となる。
【0028】
ケラチン生成細胞は、皮膚の上層である表皮を形成する。表皮は、重層上皮として示され、それ自体は、真皮の基底膜に隣接する基底層から皮膚の外表面の角質層(stratum corneum or cornified layer)までの、ケラチン生成細胞のいくつかの明確に定義された層から成る。皮膚の外表面の角質層は、皮膚にバリア機能をもたらすための最終分化過程が完了し、最終的に死細胞としてはがれ落ちるケラチン生成細胞からなる。対照的に、基底ケラチン生成細胞は、分化過程の開始時の細胞であり、重要な移動性、増殖性および合成性を有する。それらは、新たに修復された真皮にわたって制御された移動に関与し、創傷を閉鎖(または再上皮化)し、バリア機能を回復する細胞型である。ケラチン生成細胞は、もとは単一の基底細胞から生じるコロニーを形成し、これらのコロニーが一緒になると、そこから細胞のシートを形成する。このシートの最先端の細胞は、創傷の縁から移動して創傷閉鎖を完了し、その後最終分化により層状構造が形成される。線維芽細胞とケラチン生成細胞との間の相互作用は、細胞外マトリックスの形成およびケラチン生成細胞の増殖を促進し調節するために重要である4
【0029】
本発明の実施形態において、第2の層は、その表面にわたってヒトケラチン生成細胞の移動および増殖を支持するために最適化された構造を有する。これにより、皮膚の表皮層の再生が可能となる。
【0030】
足場は、不織布であってよい。
【0031】
本発明の実施形態において、第1および/または第2の層は、ランダムに配向された繊維を含む。
【0032】
本発明の実施形態において、第1および/または第2の層は、配向された繊維を含む。例えば、繊維は、実質的に同じ方向に配向できる。
【0033】
本発明の実施形態において、第1および/または第2の層は、ミクロ繊維および/またはナノ繊維を含む。
【0034】
本発明の実施形態において、第1の繊維層の繊維は、約1.2μmから4.0μm、特に1.6μmから3.4μm、より特に2.0μmから2.8μmの直径を有する。
【0035】
本発明の実施形態において、第2の繊維層の繊維は、約50nmから1.6μm、特に0.1μmから1.2μm、より特に0.2μmから0.8μmの直径を有する。
【0036】
足場層は、生体適合性のある任意の適切な合成材料から作られており、すなわちそれは、生体の細胞、組織または体液と接触したとき、副作用、例えば免疫学的反応および/または拒絶などを誘発しない。本発明の実施形態において、適切な合成繊維としては、それだけに限らないが、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテルエステル)、ポリアルキレン、オキサレート、ポリアミド、チロシン由来ポリカーボネート、ポリアミドエステル、アミノ基含有ポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリホスファゼンおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0037】
また、合成材料の使用により、動物源またはヒト源由来の材料と関連し得る疾病伝播の潜在的危険性が回避され、このような材料の使用に対する潜在的な倫理的および宗教的障壁も回避される。
【0038】
第1および第2の層で使用する合成材料が、生分解性/生体吸収性であることが特に有利である。すなわち、繊維が、生理環境内で一時的に分解/再吸収され、再吸収中に生成された加水分解産物が、通常の生化学的経路で排泄される。創傷治癒が完了した後侵略的で痛みを伴う足場除去の必要性がなくなるため、足場が完全に再吸収されることが特に有利である。
【0039】
第1および第2の層は、同じ速度または異なる速度で再吸収されるように設計できる。
【0040】
適切な合成生分解性/生体吸収性ポリマーの例としては、例えばそれだけに限らないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグルコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(TMC)およびポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0041】
足場のいずれか1層の繊維は、同じ材料であってよい。
【0042】
あるいは、いずれか1層の繊維は、異なる材料であってよい。
【0043】
足場の第1および第2の層の繊維は、同じ材料であってよい。
【0044】
第1および第2の層の繊維は、異なる材料であってよい。
【0045】
第1および第2の層の厚さは、創傷の深さに応じて変化し得る。例えば、第1および第2の層は、同じ厚さであってよい。あるいは、第1の層は、特に全層創傷において第2の層よりも実質的に厚くてよい。
【0046】
足場は、少なくとも1つの追加層を含むことができる。この少なくとも1つの追加層は、線維芽細胞もしくはケラチン生成細胞、または創傷治癒に関与する任意の他の細胞型のための最適化された細胞構造を有することができる。
【0047】
本発明の実施形態において、足場の追加層を、第1の層、場合により第2の層の吸収後に創傷床に追加できる。これは、より深い創傷の修復を可能にするため、特に有利である。
【0048】
あるいは、追加層は、(i)規定の長さの時間、または(ii)真皮および/もしくは表皮の規定量の再生の後のいずれかで、創傷床に配置できる。
【0049】
足場の層の少なくとも1つは、創傷治癒を促進できる活性剤をさらに含むことができる。例えば、傷痕の消散を改善し、傷痕の形成を防止する薬剤、例えばインシュリン、ビタミンB、ヒアルロン酸、マイトマイシンC、TGFβ、サイトカインまたはコルチコステロイドなどの増殖因子、がある。これらの薬剤は、繊維に付着するか、繊維内に含浸するなど、繊維と結合できる。
【0050】
本発明の実施形態において、足場の第1および/または第2の層の繊維は、エレクトロスピニングされる。エレクトロスピニング技術は、1930年代初頭に、産業用または家庭用の不織布製品を製造するために最初に導入された。近年では、該技術は、組織工学で使用するためのポリマー繊維の足場を形成するために利用されている。該技術は、天然または合成のポリマー溶液を毛細血管に強制的に通し、先端にポリマー溶液の滴を形成させ、先端と回収標的との間に大きな電位差を与えることを伴う。電界が液滴の表面張力に打ち勝つと、ポリマー溶液の噴流が開始され、回収標的に向かって加速される。噴流が空気中を移動するにつれ、溶媒が蒸発し、不織布ポリマー布が標的上に形成される。あるいは、噴流を冷却することにより、固体ポリマー繊維になる場合、ポリマーを溶融物の形態でエレクトロスピニングしてもよい。平均繊維径が、マイクロメーターまたはナノメーター規模であるこのような繊維布は、組織工学用途で使用するための複雑な三次元の足場を製造するために使用されてきた。
【0051】
第1および第2の層を、別々にエレクトロスピニングし、次いで互いに接触させてもよい。例えば、第1および第2の層の表面を一緒に結合させて、足場を形成することができる。結合は、例えば熱処理、溶媒結合または接着剤の使用により実現できる。
【0052】
あるいは、層の内の1つが、基材となってもよく、その上で他の層がエレクトロスピニングされる。
【0053】
あるいは、第1および第2の層を、単一の単位としてエレクトロスピニングしてもよく、形成後の変形により、異なる孔構造を有する層になる。この変形は、物理的手段または化学的手段に基づくものであってよく、例えば熱または溶媒を用いた選択的処理を挙げることができる。
【0054】
以下のエレクトロスピニングパラメーターのいずれかに変更を加えることができ、それにより異なる構造を有する足場になるであろうことは、エレクトロスピニングの当業者には知られていよう:
・エレクトロスピニングポリマー溶液濃度
・エレクトロスピニング溶媒
・エレクトロスピニング電圧
・エレクトロスピニング持続時間
・繊維コレクターの種類、形状または構造材料
・円筒状コレクターの直径、回転速度または長さ
・針の横断距離、横断回数または横断速度
・針の直径、長さ、断面形状または構造材料
・針の本数または針の配置
・針からコレクターまでの分離距離
・高圧構造
・添加剤(例えば塩)による溶媒導電性
・繊維コレクターを覆うために使用する基材(非剥離紙(no release paper)の使用を含む)
・環境大気組成、環境大気圧、環境大気温度または環境大気湿度
・溶媒が完全またはほぼ完全に繊維から蒸発し、繊維がコレクターに衝突する際に一緒に結合しないことを確実にするための、層の1つまたは複数に対する上記条件のいずれかの変更
・溶媒には、実質的に蒸発するのに十分な時間が与えられず、それによりコレクター上で他の繊維と部分的に結合し、高度に相互結合した多孔質メッシュを形成する部分的に溶媒和された繊維になることを確実にするための、層の1つまたは複数に対する上記条件のいずれかの変更
・繊維が、足場の強度および構造保持力を改善するために、足場の繊維性を実質的に変えずにコレクター上の他の繊維と一緒に結合することを可能にするのに十分な溶媒を保持する、中間体の状態に対する上記条件のいずれかの変更。
【0055】
本発明の第2の態様によれば、真皮および表皮の再生を促進する方法であって、
(i)約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含む第1の繊維材料を創傷内に配置する工程であり、前記第1の繊維材料が、皮膚線維芽細胞によりコロニー形成することができ、それにより真皮の再生を促進する工程と、
(ii)第2の繊維材料を第1の繊維材料の上に配置する工程であり、第2の繊維材料が、約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含み、第2の繊維材料が、ケラチン生成細胞によりコロニー形成することができ、それにより真皮の再生を促進する工程と
を含む。
【0056】
本発明の実施形態において、第1の繊維材料は、線維芽細胞によるコロニー形成を促進することにより真皮の修復および再生を促進するために、創傷床に配置される。所定の期間後および/または所定の程度の創傷修復後、第2の繊維材料は、その上面にわたってケラチン生成細胞の移動を促進することにより表皮の修復および再生を促進するために、第1の繊維材料の上に配置できる。
【0057】
本発明の実施形態において、第1の繊維材料および第2の繊維材料は、単一の単位として創傷内に配置される。
【0058】
本発明の代替実施形態において、第1の繊維材料および第2の繊維材料は別々に創傷内に配置される。例えば、第1の繊維材料は、所定の期間および/または所定の程度の真皮再生が実現されるまで創傷内に配置される。この後、1種または複数の追加の第1の繊維材料を創傷内に配置してもよく、または第2の繊維材料を創傷内に配置してもよい。
【0059】
本発明の第3の態様によれば、約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含む第1の繊維材料、および約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含む第2の繊維材料を含むキットが提供される。
【0060】
繊維材料は、創傷治癒を促進するために創傷床に一緒または別々のいずれかで挿入できる。
【0061】
本発明の実施形態において、第1の繊維材料は、皮膚線維芽細胞の移動および増殖を支持するために最適化された構造を有する。これは、皮膚の真皮層の再生を可能にする。
【0062】
本発明の実施形態において、第2の繊維材料は、その表面にわたってヒトケラチン生成細胞の移動および増殖を支持するために最適化された構造を有する。これは、皮膚の表皮層の再生を可能にする。
【0063】
本発明の実施形態において、第1の繊維材料は、線維芽細胞によるコロニー形成を促進することにより真皮の修復および再生を促進するために、創傷床に配置される。所定の期間後および/または所定の程度の真皮修復が実現された後、第2の繊維材料は、その上面にわたってケラチン生成細胞の移動を促進することにより表皮の修復および再生を促進するために、第1の繊維材料の上に配置できる。
【0064】
本発明の実施形態において、キットは、少なくとも2種の第1の繊維材料を含む。第1の繊維材料を異なる大きさで供給することにより、特に様々な異なる厚さで供給することにより、個々の創傷に合わせて第1の繊維材料を使用することが可能となる。例えば、比較的薄い第1の繊維材料は、浅い創傷で使用できる一方で、比較的厚い第1の繊維材料は、より深い創傷で使用できる。第1の繊維材料の追加層は、創傷修復の進行中に創傷床に追加でき、それにより、真皮層を徐々に構築できる。
【0065】
本発明の実施形態において、キットは、少なくとも2種の第2の繊維材料を含む。第2の繊維材料を異なる大きさで供給することにより、特に様々な異なる厚さで供給することにより、個々の創傷に合わせて第2の繊維材料を使用することが可能となる。
【0066】
本発明の実施形態において、キットは、第1および第2の繊維材料を一緒に結合するために使用する接着剤をさらに含む。
【0067】
該方法は、全層創傷の再生に特に有利である。
【0068】
開放創に至る多数の医学的方法または状態は、本発明の使用から恩恵を得ることができる。これらとしては、それだけに限らないが、モース手術、他の軟部組織腫瘍の修復、美顔整形手術、歯周病手術および瘢痕修正手術が挙げられる。
【0069】
該方法は、ヒトおよびヒト以外の動物を治療するために使用できる。
【0070】
本発明のさらなる態様にしたがって、添付の実施例および図面を参照しながら本明細書に記載されている創傷修復の足場、キットまたは方法が提供される。
【0071】
参考文献
1. Chong E.J et al (2007) “Evaluation of electrospun PCL/gelatine nanofibrous scaffold for wound healing and layered dermal reconstruction.” Acta Biomaterialia 3, 321 to 330
2. Ma, PX (2004) “Scaffolds for tissue fabrication”, Materials Today, 2004, 30 to 40
3. Desmouliere A et al (2005) “Tissue repair, contraction and the myofibroblast” Wound Rep Regen 13 (1) 7 to 12
4. Werner, S et al (2007) “Keratinocyte-fibroblast interactions in wound healing” J Invest Dermatol 127 (5) 998 to 1008
【0072】
本発明について、添付の実施例および図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】皮膚の構造図である。
【図2】エレクトロスピンニング法の図である。
【図3】実施例1で調製した繊維性PGA足場の走査型電子顕微鏡画像である。スケールバーは、5μmの長さに対応している。
【図4】実施例2で調製した繊維性PGA足場の走査型電子顕微鏡画像である。スケールバーは、5μmの長さに対応している。
【図5】実施例3で調製した繊維性PGA足場の走査型電子顕微鏡画像である。スケールバーは、10μmの長さに対応している。
【図6】実施例4で調製した繊維性二重層PGA足場の端部の走査型電子顕微鏡画像である。スケールバーは、50μmの長さに対応している。
【図7】移動アッセイ法の図(スケールせず)である。ケラチン生成細胞の画像は、例示目的のためのみであり、このような細胞の実際の増殖挙動を特定することは意図されていない。
【図8】24時間のインキュベーション後の実施例1で調製した足場上のNHEK細胞である。左側の画像は、光条件下でのクリスタルバイオレット染色を示しており、右側の画像は、蛍光条件下で同じ視野内でのDAPI染色を示している。画像は、20倍率で取得された。
【図9】24時間のインキュベーション後の実施例3で調製した足場上のDAPI染色NHEK細胞である。画像は、20倍率にて蛍光条件下で取得された。
【図10】96時間のインキュベーション後の実施例1で調製した足場上のDAPI染色NHEK細胞である。画像は、20倍率にて蛍光条件下で取得された。足場の端部は、画像の左上角に視認できる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0074】
[実施例1]
不織布単層足場を、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-オール(ヘキサフルオロイソプロパノール、HFIP)中のポリ(グリコール酸)(PGA)の溶液をエレクトロスピニングすることにより調製した。
【0075】
溶液の調製
PURAC Biomaterialsから供給されたPGA(概算重量平均分子量130000)を、Rondol Linear 18一軸スクリュー押出機を用いて260〜274℃で溶融押し出しし、次いで5〜10℃にて水中ですぐに失活させた。この押し出したPGAを使用して、Apollo Scientific Ltdから供給された分光光度等級のHFIP中の7w/w%溶液(約0.35Pa.sの溶液粘度に対応)を調製した。この溶液を、溶解するまで21℃で終夜回転した。エレクトロスピニングする前に、HFIP中のPGA溶液を10.0μmのWhatman Polydisc HDフィルター(ポリプロピレンフィルター、直径50mm)を介して濾過し、20mLのシリンジ(ポリプロピレン、潤滑剤不使用、内径20.0mm)に直接入れた。得られたポリマー溶液は、視認できる微粒子を含んでいなかった。
【0076】
ポリマー溶液の導電性を高めるために、マイクロピペットを使用して、25w/w%の水性塩化ナトリウム(NaCl)を濾過したポリマー溶液を含有するシリンジに加え、シリンジ中のPGAの乾燥重量(PGA溶液密度を1.6gL-1と想定)に対してNaCl濃度を1.0w/w%にした。15分間勢いよく振とうした後、微細な塩沈殿物が溶液全体に形成された。シリンジは、最後に勢いよく振とうする前にさらに15分間放置させ、次いでエレクトロスピニング実験のために使用した。この溶液を用いた最終実験の後、微細な塩沈殿物は、溶液全体に依然として十分に分散されていた。0.06mLmin-1(針1本当たり0.03mLmin-1)で出てくるように設定したKD Scientific KDS200シリンジポンプ(図1、アイテム1)に配置された、溶液が充填されたシリンジからすべての気泡を除去した。
【0077】
エレクトロスピニング
シリンジ出口を、HFIP耐性軟質プラスチック管に接続し、次いでそれを2本の管に分けた。これらの管は、モーター(図2、アイテム6)により横断させることが可能である、針アーム(図2、アイテム2)で支持された2本の先端が平らな21ゲージのスチール針(図2、アイテム3)につながっていた。針を、接地された直径50mm、長さ200mmのスチールマンドレル(図2、アイテム4)の回転軸(図2、アイテム7)に対して垂直に配向し、針の先端からマンドレルまでの分離距離(図2、アイテム5)を150mmに設定した。針を、18.5秒ごとに1横断の速度で、全長200mmのマンドレルに沿って横断するように設定した(横断は、横断距離の長さに沿った単一の前進運動または後進運動として定義される)。
【0078】
マンドレルを、1枚の非粘着性剥離紙(両面接着テープを用いて所定の位置に固定)で完全に覆い、モーター(図2、アイテム8)により50rpmで回転させた。Glassman High Voltage Inc. EL50R0.8高電圧発生器(図2、アイテム9)により針(図2、アイテム3)に電圧11.0kVを送った。
【0079】
次いで、エレクトロスピニングした繊維を、針先に送達したPGA溶液から形成し、紙で覆われたマンドレル上に収集して不織布足場材料を形成した。エレクトロスピニングは、21±1℃で行われた。60分後、電圧発生器の電源を切り、足場をマンドレルから除去した。次いで、足場を、室温にて真空オーブン内で終夜乾燥し、任意の残留HFIPを除去した。
【0080】
足場の厚さの測定
作製した単一の足場層の厚さを、Mitutoyo Absolute Digimaticデジタルキャリパーを用いてその長さに沿って(すなわち、マンドレルの回転軸に平行)いくつかの地点で測定した。
【0081】
走査電子顕微鏡法(SEM)
足場試料を、いずれかの端部に2つの小片の両面接着剤を用いて12mmのアルミニウムSEMスタブに付着させ、中心帯は接着剤なしで残した。試料を、足場の上面が視認できるように付着させた(すなわち、表面には実験が終わる頃に付着)。次いで、試料を金/パラジウム合金で、約30nmの推定深さにスパッタ被覆した。次いで、被覆した試料を、FEI Quanta 3.1.1ソフトウェアとともに電圧5.0kVおよびスポット直径2.5nmを用いて高圧モードでFEI-Quanta Inspect SEMで撮像した。12,000倍率で取得したSEM画像例を図3に示す。
【0082】
平均繊維径の計算
エレクトロスピニングした各繊維足場の試料1つに対して、適切な倍率の3枚のSEM画像を記録および印刷し、これらを用いて平均繊維径を計算した。各画像に対して、ランダムに選択した直線に沿った、最初の20本の明確に視認できる繊維の直径を、定規を用いて測定した。3枚の画像から総計60の測定値を使用して、平均繊維径および標準偏差を計算した。
【0083】
孔径の決定
円形試料(直径26mm)を、テンプレートおよび外科用メスを用いて、足場の厚さが均一な部分から切断した。これらの試料に対して、PMI Capillary Flow Porometer CFP-1100-AEXLを用いてキャピラリーフローポロメトリー分析を行った。使用した湿潤液は、Galwic(表面張力15.9dyn.cm-1)であり、使用した試験方法は、8psiまたは12psiの最大圧力を用いたドライアップ/ウェットアップ(Dry Up/Wet Up)であった。
【0084】
結果
厚さ=中心60%の足場長さに沿って100〜120μm
平均繊維径=0.44μm±0.20μm
最大検出孔径=1.98μm
平均流孔径(平均孔径)=1.11μm
最大孔径分布での直径=0.93μm
【0085】
[実施例2]
HFIP中のPGAの8w/w%溶液を調製し使用して、実施例1に記載されているのと同じ一般的方法を用いて不織布単層足場材料を調製した。このHFIP中のPGAの濃度は、約0.55Pa.sの溶液粘度に対応している。図4は、10000倍率で取得した足場のSEM画像を示している。
【0086】
結果
厚さ=中心65%の足場長さに沿って120〜140μm
平均繊維径=0.51μm±0.12μm
最大検出孔径=2.29μm
平均流孔径(平均孔径)=1.15μm
最大孔径分布での直径=0.94μm
【0087】
[実施例3]
HFIP中のPGAの9w/w%溶液を調製し使用して、実施例1に記載されているのと同じ一般的方法を用いて不織布単層足場材料を調製したが、水性塩化ナトリウムは、HFIP中のPGA溶液に加えなかった。HFIP中のPGAの濃度は、約0.85Pa.sの溶液粘度に対応している。さらに、エレクトロスピニング持続時間を68分に増加した。図5は、6000倍率で取得した足場のSEM画像を示している。
【0088】
結果
厚さ=中心70%の足場長さに沿って100〜110μm
平均繊維径=0.81μm±0.38μm
最大検出孔径=3.44μm
平均流孔径(平均孔径)=1.87μm
最大孔径分布での直径=1.58μm
【0089】
[実施例4]
異なる構造の2層を含む不織布の二重層足場を、各々1.7Pa.sおよび0.55Pa.sの溶液粘度に対応するHFIP中のPGAの11w/w%溶液および8w/w%溶液を用いて調製した。
【0090】
第1の層を、実施例1に記載されているのと同じ一般的方法を用いて11w/w%溶液を用いて調製したが、水性塩化ナトリウムは、HFIP中のPGA溶液に加えなかった。さらに、エレクトロスピニング持続時間を33分に減少させ、マンドレル直径を150mmに増加させた(ただし針からマンドレルまでの距離を150mmで維持した)。
【0091】
第2の層を、実施例1に記載されているのと同じ一般的方法を用いて8w/w%溶液を用いて調製したが、水性塩化ナトリウムは、HFIP中のPGA溶液に加えなかった。この層を、事前に室温にて真空オーブン内で終夜乾燥させた第1の層上に直接エレクトロスピニングした。この層のエレクトロスピニング持続時間は、43分であった。
【0092】
結果
第1の層
厚さ=中心75%の足場長さに沿って60〜70μm
平均繊維径=2.58μm±0.44μm
【0093】
第2の層
厚さ=中心60%の足場長さに沿って120〜130μm
平均繊維径=0.68μm±0.37μm
【0094】
図6は、1500倍率で取得した最後の二重層足場の端部のSEM画像を示している。
【0095】
[実施例5]
ケラチン生成細胞の移動および増殖を支持する第2の繊維材料層の能力を示すために、実施例1〜3で調製した足場上でのヒトケラチン生成細胞のインビトロ移動挙動を評価した。これらの足場を、2つの陽性対照:Thermanoxカバースリップ(Nunc GmbHから供給);および実施例1に記載されているのと同じ一般的方法(ただし、HFID中のPGAの11w/w%を使用)を用いて調製した、より大きな平均繊維径2.46μm(S.D.0.50μm)を有する100〜110μmの厚さのエレクトロスピニングしたPGA足場と比較した。エレクトロスピニングしたPGA足場は、国際公開第07/132186号(Smith and Nephew)に記載されているものと同様に、線維芽細胞の移動および増殖を支持することが示された。
【0096】
移動アッセイ
足場および対照を、Samco SB-25液圧プレスを用いて直径13mmのディスクに切断し、Minucellクリップ(部品番号1300、Minucell and Minutissue Vertriebs, GmbH)に配置し、Amersham UVクロスリンカーを用いて紫外線下で20分滅菌した。正常なヒトケラチン生成細胞(NHEK、Promocell GmbHから供給)を、1ディスク当たり100000細胞の密度で、ケラチン生成細胞増殖培地(KGM-2; Promocell GmbH)100μl中のディスク上に播種し、空気95%およびCO25%の混合物中で37℃にて1時間接着させた。1時間後、ディスクを、滅菌リン酸緩衝液(PBS)に浸し、付着しなかった全細胞を除去し、KGM-2培地2mlを含有する24ウェルプレートのウェルに配置した。得られたディスクを、空気95%およびCO25%の混合物中で37℃にて24時間インキュベートした。
【0097】
24時間後、Minucellクリップを除去した。ディスクの最初の1組を、KGM-2培地を含有するプレートに戻し、さらに72時間インキュベートした。次の1組をPBSで2回洗浄し、よく冷えたメタノール中に10分間固定した。次いで、メタノールを除去し、ディスクをPBSでさらに2回洗浄した。クリスタルバイオレット染色液0.5ml(PBS中0.1 %; Sigma-Aldrich Ltdから供給)を各ディスクに加えた。次いで、プレートをホイルで包んで染色液の光退色を防止し、室温で最低3時間インキュベートした。総インキュベーション時間96時間後、ディスクの最初の1組を、同一の方法を用いて染色した。
【0098】
図6に示す図式はこの手順を例示している。
【0099】
分析
ケラチン生成細胞が1つの平面上でコロニーとして移動するため、移動は、細胞数を定量するのではなく視覚的に評価された。インキュベーション後、ディスクをPBSで2回洗浄し、4',6-ジアミジノ-2-フェニリンドール(DAPI; Vector Laboratories Ltdから供給)を含有するマウンティング培地を用いてガラススライド上に載置した。次いで、スライドをLeica DMLB蛍光顕微鏡を用いて視覚化した。
【0100】
Table 1(表1)は、24時間および96時間の時点での足場および対照上のケラチン生成細胞の移動の観察記録を示している。「明瞭な内端」は、細胞が、白色(内部)Minucellクリップの端部まで、利用できる足場表面にわたって移動し、細胞の内円を形成したことを示している。「外端の細胞」は、細胞が、この内円から離れ、足場の外周に向かって移動し、足場の外端に部分的に到達したことを示している。「外端1周の細胞」は、細胞が内端から移動し、足場の外端全体で視認できた(すなわち、足場表面全体を覆っていた)ことを示している。
【0101】
移動は、全足場およびThermanoxカバースリップで行われたが、ケラチン生成細胞の最適な移動は、最小の繊維径(実施例1[7 w/w %]および実施例2[8 w/w %])を有する足場上で行われたことは明らかである。
【0102】
【表1】

【0103】
図8は、24時間のインキュベーション後の実施例1で調製した足場上のNHEK細胞を示している。2枚の画像は、クリスタルバイオレット染色細胞(左側)を示すために光条件下で、およびDAPI染色細胞(右側)を示すために蛍光条件下で視覚化された同じ視野である。これらの画像は、クリスタルバイオレットが、バックグラウンドの足場ではなく細胞を染色していることを示している。インキュベーション中に被覆されないで残った部分の境界端は、各画像の中心の下に明確に視認できる。
【0104】
図9は、24時間のインキュベーション後の実施例3で調製した足場上のNHEK細胞の典型例を示している。細胞は、DAPIを用いて染色され、蛍光条件下で視覚化された。インキュベーション中に被覆されないで残った部分の境界端は、画像の左下角から右上角まで及んでいるのが明確に視認できる。この部分までの明瞭な端部は、細胞が足場に付着し、それが利用できる部分を満たしているが、Minucellクリップで覆われた足場部分にはまだ浸透できていないことを示している。96時間のインキュベーション後、足場を染色し、蛍光顕微鏡で視覚化した。分解の予備兆候が、対照足場で観察された。いくつか切断された繊維が視認でき、それらはクリスタルバイオレット染色液およびDAPI染色液を吸収し始めていた。しかし、これは、ケラチン生成細胞を足場材料と区別する能力に影響を与えることはなかった。
【0105】
図10は、96時間のインキュベーション後の実施例1で調製した足場上のNHEK細胞の典型例を示している。細胞は、左上角に視認できる足場端部まで移動した。細胞は、足場端部一帯で視認できる。同じ結果が、実施例2で調製した足場で得られた。
【0106】
96時間のインキュベーション後の対照足場上のNHEK細胞は、足場端部一帯で視認できず、より少ない数で存在していた。実施例3で調製した足場は、対照足場と同様に挙動した。
【0107】
これらの実施例から引き出される結果としては、以下がある:
・NHEK細胞は、エレクトロスピニングした足場すべてに接着し、24時間のインキュベーション後足場表面上に視認できる。
・NHEK細胞は、96時間のインキュベーション内で全足場の端部に移動する。
・実施例1および2で調製した2つの足場は、NHEK細胞の移動を、ケラチン生成細胞シートの移動端で覆われた距離により明示された足場対照よりも良好に支持した。これは、異なる構造(実施例1および2は、より小さい平均繊維径および孔径を有していた)によるものである。
・実施例3で調製した足場は、実施例1および2と比較してより大きい平均繊維径および孔径を有していたため、足場対照と同じ態様で挙動した。
【0108】
本発明の例示的実施形態の前述の説明は、例示の目的のためのみに示され、説明は、包括的であることを意図するものではなく、または開示した正確な形態に本発明を限定することを意図するものでもない。多くの変更および変形が、上記の教示に照らして可能である。実施形態は、本発明の原理およびその実際の適用を説明し、それにより他の当業者が企図される特定の使用に適した本発明および様々な実施形態を利用できるようにするために選択され記載された。代替実施形態は、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明が関係する当業者には明らかとなろう。
【符号の説明】
【0109】
1 シリンジポンプ
2 針アーム
3 スチール針
4 スチールマンドレル
5 針の先端からマンドレルまでの分離距離
6 モーター
7 回転軸
8 モーター
9高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の繊維材料を含む生体吸収性合成足場であって、第1の繊維材料が約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含み、第2の繊維材料が約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含む、足場。
【請求項2】
第1の繊維材料および第2の繊維材料が、異なる組成から成る、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
少なくとも2種の繊維材料が足場内で層を形成する、請求項1または2に記載の足場。
【請求項4】
前記層が実質的に平面である、請求項3に記載の足場。
【請求項5】
前記層が互いに隣接している、請求項3または4に記載の足場。
【請求項6】
前記足場が、第2の繊維材料層に結合した第1の繊維材料層を含む積層体であり、前記第1および第2の材料が、異なる組成から成る、請求項2から5のいずれか一項に記載の足場。
【請求項7】
前記繊維材料が不織布である、請求項1から6のいずれか一項に記載の足場。
【請求項8】
第1の繊維材料および第2の繊維材料の少なくとも1つがエレクトロスピニングされている、請求項1から7のいずれか一項に記載の足場。
【請求項9】
真皮および表皮の再生を促進する方法であって、
(i)約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含む第1の繊維材料を創傷内に配置する工程であり、第1の繊維材料が、皮膚線維芽細胞によりコロニー形成することができ、それにより真皮の修復/再生を促進する工程と、
(ii)第2の繊維材料を前記第1の繊維材料の上に配置する工程であり、第2の繊維材料が、約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含み、第2の繊維材料が、ケラチン生成細胞によりコロニー形成することができ、それにより真皮の修復/再生を促進する工程と
を含む方法。
【請求項10】
第1の繊維材料が、第2の繊維材料の下に配置されるような態様で、創傷内に配置される足場の一部を第1の繊維材料および第2の繊維材料が形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1の繊維材料および第2の繊維材料が、異なる組成から成る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも2種の繊維材料が足場内で層を形成する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記層が実質的に平面である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記層が互いに隣接している、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記足場が、第2の繊維材料層に結合した第1の繊維材料層を含む積層体であり、第1および第2の材料が、異なる組成から成る、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
繊維材料が不織布である、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
第1の繊維材料および第2の繊維材料の少なくとも1つがエレクトロスピニングされている、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも第1の繊維材料および第2の繊維材料が、同時または連続のいずれかで創傷内に配置される別々の製品として提供され、第2の繊維材料が第1の繊維製品の上に配置される、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
第3の繊維材料が、足場の第1の繊維材料上、または第1の繊維製品上の位置で創傷床内に配置される、請求項9または18に記載の方法。
【請求項20】
第3の繊維材料が、(i)規定の長さの時間、または(ii)真皮および/もしくは表皮の規定量の再生、または(iii)足場または第1の繊維製品および/もしくは第2の繊維製品の規定の分解のいずれかの後で創傷床に配置される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
約1μmから100μmの間の直径を有する孔を含む第1の繊維材料、および約50nmから20μmの間の直径を有する孔を含む第2の繊維材料を備えるキット。
【請求項22】
添付の実施例および図面を参照して実質的に本明細書に記載されている足場、方法またはキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−509786(P2011−509786A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543558(P2010−543558)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000165
【国際公開番号】WO2009/093023
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(391018787)スミス アンド ネフュー ピーエルシー (79)
【氏名又は名称原語表記】SMITH & NEPHEW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】