説明

多層食品の製造方法

【課題】第1層〜第3層の少なくとも3層からなる容器入り多層食品を製造する際に、各層をスピーディに、かつきれいな界面を形成するように積層する技術を提供する。
【解決手段】第2層(L2)の原料として、ペクチンを含み、かつ酸性である原料を用い、第1層(L1)及び/又は第3層(L3)の原料として、カルシウムを含む原料を用い、前記第2層(L2)の原料を、第1層(L1)の上に積層した後、直ちに、前記第3層(L3)の原料を、第2層(L2)の上に積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層食品の製造方法、及び多層食品に関する。
【背景技術】
【0002】
カップ入りのチルドデザートに代表される多層食品は、きれいに分かれた層が視覚的に楽しく、また色々な味を楽しむことができるため、人気がある。中でも、食感の異なる複数の層を積層した多層食品は、口の中で同時に色々な食感を楽しむことができることもあり、人気が高い。
【0003】
従来、このような多層食品は、きれいな層を形成するために手作りされるのが一般的であった。しかしながら、最近では、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの販売を狙って、このような多層食品が工業的に生産されている。
多層食品を工業的に生産しようとする場合には、外観のきれいさや味の良好さに加え、生産効率を挙げることが課題となる。そのため、外観のきれいさと生産スピードを両立することを目的として、種々の技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1や2には、多層デザートの製造方法が記載され、各層の原料に粘度や比重差をつけることによって、複数の層を連続的に充填した場合でも、各層の界面を形成することができることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、カッパカラギナン及びカリウム含有物を含むゲル状組成物をゲル化点より少し高い温度(28〜35℃)まで冷却し、続いてホイップクリームを常温で充填する多層デザートの製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、別個に調製した複数の原料液を混合してなるゲル化食品を下層に充填し、上層に他の食品を充填した容器入りの多層食品を製造する方法であって、前記複数の原料液の一の液にゲル化剤を含有させ、他の液に前記ゲル化剤のゲル化を触発させる成分を含有させて別個に調製し、調製した混合液を前記混合後5秒以内に容器に充填し、固化し、固化した混合液の上に前記他の食品を充填し、多層食品を形成することを特徴とする多層食品の製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、下層部となるゲル化性溶液や流動食品を充填後、上層部となるゲル化性溶液や流動食品を脈流させながら多孔ノズル又は複数のノズルを用いて容器に積層することを特徴とする多層食品の製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献6には、水可溶性カラギナン及び気泡性素材を含有することを特徴とする泡状食品からなる層と、ネイティブジェランガムを含有することを特徴とする食品からなる層からなる多層デザートであって、ネイティブジェランガムを含有する食品からなる層がゲル化するのを待つことなく、水可溶性カラギナン及び気泡性素材を含有する泡状食品の層を充填できることを特徴とする多層デザートの製造方法が記載されている。
【0009】
特許文献7には、容器に先行充填した液状ベースの上面に液状トッピングを後続充填し、その後に液状ベースをゲル化して、該ゲル化ベースと液状トッピング間にこれらの混濁層の発生を回避するゲル化食品の製造方法であって、上記液状トッピングの上記後続充填を、面内に多数の下方突出ノズルを配置した充填ノズルを用い、該充填ノズルに供給した液状トッピングを断続的に加圧充填して、該液状トッピングを幾分沈み込んで極く僅かの間に液状ベース上に浮上させるように上記液状ベースの上面に対して粒状に断続滴下して
行うことを特徴とする容器入りゲル化食品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4417184号公報
【特許文献2】特開2003−33144号公報
【特許文献3】特開2004−254573号公報
【特許文献4】特許第3779070号公報
【特許文献5】特許第4022558号公報
【特許文献6】特開2004−236542号公報
【特許文献7】特許第4246188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1又は2に記載される方法は、比重に差をつけるために甘味料や油脂の配合量が制限されるという問題があった。
【0012】
特許文献3に記載される方法は、下層の原料液をゲル化点より僅かに高い温度に維持した状態で充填しなければならず、原料液の厳密な温度管理が必要であり、労力を要するという問題があった。
【0013】
特許文献4に記載される方法は、下層部の原料液を2種類調製する必要がある点で、多少労力を要する場合があった。
【0014】
特許文献5、7に記載される方法は、原料の供給のために特殊な装置等を必要とするという問題があった。
【0015】
特許文献6に記載される方法は、ネイティブジェランガムを含む下層の充填温度が50〜60℃程度の時点で、上層の泡状食品を下層の上に積層するものであったため、下層の温度影響で泡状食品が溶融し、上層と下層の界面がきれいに形成されない、泡状食品の良好な食感が損なわれるなどの問題があった。
【0016】
なお、ゲル状食品、ゲル状食品又は粘稠状食品、泡状食品がこの順で積層された容器入り多層食品が、工業的に製造された例は報告されていない。
【0017】
本発明は、容器入り多層食品を製造する際に、各層をスピーディに、かつきれいな界面を形成するように積層する技術を提供することを課題とする。
また、本発明は、このような方法により製造されうる新規な多層食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための第1の本発明は、第1層、第2層及び第3層がこの順で容器内に積層されている、容器入り多層食品の製造方法であって、第2層の原料は、ペクチンを含み、かつ酸性であり、第1層及び/又は第3層の原料は、カルシウムを含み、前記第2層の原料を、第1層の上に積層した後、直ちに、前記第3層の原料を、第2層の上に積層する工程を含む、容器入り多層食品の製造方法である。
本発明の製造方法により、各層の原料を充填すると、第1層及び/又は第3層のカルシウムが、ペクチンを含む第2層に移行し、ペクチンとカルシウムイオンとが結合することにより、第2層が固化し、各層の界面が安定し、きれいな多層構造ができる。すなわち、第1層への第2層の原料の積層、或いは、第2層への第3層の原料の積層をもって、第2
層の固化を開始することができるので、第2層の原料の積層から第3層の原料の積層にかけての工程をスピーディに行うことができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、第1層がゲル状食品からなり、第2層がゲル状食品又は粘稠状食品からなり、第3層が泡状食品からなる。
このような多層食品に本発明の製造方法を適用することにより、第2層と第3層の界面を、特にきれいに形成することができ、見た目にも食感にも優れた多層食品を製造することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記第2層の原料は、積層時に、温度が0〜30℃であり、かつ粘度が200〜2000mPa・sである。
このような形態とすることにより、第2層の原料の充填をスピーディに行うことができ、また、第3層の原料の充填を、第2層と第3層の界面の崩れを抑制しながら行うことができる。また、第2層と接する第1層や第3層が温度による変性、変形等の影響を受けにくい。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記第3層の原料は、オーバーランが90〜170%である。
このような形態とすることにより、第2層の上に第3層の原料を積層する場合に、第2層の表面の崩れを十分に抑制することができ、第2層と第3層の界面をきれいに形成することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記ペクチンは、ローメトキシルペクチンである。
このような形態とすることにより、第2層の原料の充填がよりし易くなり、また、第2層の上に第3層の原料を積層した際に、第2層の原料が、第1層及び/又は第3層の原料からのカルシウムの移行によって素早く固化し、各層の界面がより早く安定する。
【0023】
第3層が泡状食品である場合の好ましい形態では、前記第3層の原料を積層する工程は、前記第1層及び第2層を積層した容器と、前記第3層の原料を前記第2層の表面に供給する供給口とを、相対的に回転させながら、前記第3層の原料を前記供給口から前記第2層の表面に供給する工程を含む。
このような工程を含むことで、第3層の原料の積層を、第2層の表面の崩れを低減しながらよりきれいに、よりスピーディに行うことができる。
【0024】
この形態において、前記第3層の原料を供給する工程では、2つ以上の供給口を、前記容器の回転中心から離間した位置に、該回転中心に対して略対称に配置する。
2つ以上の供給口をこのように配置することにより、第3層の原料の積層をきれいに、スピーディに行うことができ、また、第2層と第3層の界面を、よりきれいに形成することができる。
【0025】
また、本発明の好ましい形態では、第3層は、乳製品からなる。
該形態においては、第2層は、カラギーナンを含有しないことが好ましい。
これは、酸性の第2層にカラギーナンを含有すると、第3層を第2層の上に積層した場合に、第3層中の乳タンパク質が第2層に含有されるカラギーナンと反応して第2層と第3層の界面付近に凝集するおそれがあるためである。
【0026】
また、本発明の好ましい形態では、第2層の原料におけるペクチンの含有量が、0.3〜1.2質量%である。
これにより、第2層の原料を適切な粘度でスピーディに積層できると同時に、第3層の積層時に、第2層との界面が崩れにくくなる。さらに、各層の積層後に、カルシウムが第
1層及び/又は第3層から第2層へ移行したときに、各層の界面が安定しつつ、かつ丁度よいとろみを有するソースタイプのゲル状食品又は粘稠状食品となる。
【0027】
上記課題を解決する第2の本発明は、第1層、第2層及び第3層がこの順で容器内に積層されている、容器入り多層食品であって、第2層は、ペクチン及びカルシウムを含み、かつ酸性であり、第1層及び/又は第3層は、カルシウムを含む、容器入り多層食品である。
本発明の多層食品においては、酸性の第2層が、ペクチンとカルシウムの存在により、ゲル状又は粘稠性となっているため、第1層と第2層の界面、又は第2層と第3層の界面が安定し、きれいな多層構造となっている。
【0028】
本発明の好ましい形態では、第1層がゲル状食品からなり、第2層がゲル状食品又は粘稠状食品からなり、第3層が泡状食品からなる。
このような形態とすることにより、各層の界面がより安定しており、また複数の食感を楽しめるなど、見た目にも食感にも優れた多層食品となる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記ペクチンは、ローメトキシルペクチンである。
このような形態とすることにより、各層の界面が安定でありながら、第2層の食感も適度な硬さのゲル状食品又は粘稠状食品となる。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記第2層におけるペクチンの含有量は、0.3〜1.2質量%である。
この形態では、各層の界面が安定しつつ、第2層は、丁度よいとろみを有するソースタイプのゲル状食品又は粘稠状食品となる。
【0031】
また、本発明の好ましい形態では、第3層は、乳製品からなる。
該形態においては、第2層は、カラギーナンを含有しないことが好ましい。
これは、酸性の第2層にカラギーナンを含有すると、第3層中の乳タンパク質が第2層に含有されるカラギーナンと反応して第2層と第3層の界面付近に凝集するおそれがあるためである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の製造方法により、容器入り多層食品を製造することにより、各層の界面をきれいに形成することができ、見た目に優れた容器入り多層食品を製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、第2層の原料を容器に充填した後、直ちに第3層の原料を積層するので、容器入り多層食品の生産スピードを上げることができる。
本発明の多層食品は、各層の界面が安定しており、見た目に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の製造方法により製造される多層食品の一形態の概略正面図である。
【図2】本発明の製造方法の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を、実施形態を示しながら説明する。
【0035】
<本発明の製造方法>
本発明において「多層食品」とは、複数の組成の異なる食品が層を成している食品をいう。本発明における多層食品は、第1層、第2層、第3層の少なくとも3つの層を有していればよく、もちろん他の層を有していてもよい。なお、他の層を有する場合は、第1層より下層とすることが好ましい。
【0036】
第1層、第2層、第3層の厚みの比は、特に限定されるものではないが、第1層≧第2層であって、かつ第2層≦第3層であることが好ましい。これにより、後述する第1層及び/又は第3層からのカルシウムの第2層への移行によって、短い時間で第2層の固化を進めることができ、各層の界面を安定させることが可能となる。
多層食品を収容する容器としては、透明なカップ型のプラスチック容器など、容器外から複数の層の界面を見ることができる容器が挙げられる。容器の容量は、通常1回で食することができる程度の食品を収容できる容量である。
【0037】
第1層を構成する食品は、好ましくはゲル状食品である。例えばプリン、ゼリーなどが挙げられる。
第2層を構成する食品は、好ましくはゲル状食品又は粘稠状食品である。例えばプリン、ゼリー、ソース、ジャム、シロップ、クリームなどが挙げられる。
第3層を構成する食品は、好ましくは泡状食品である。泡状食品とは、内部に空気を抱きこんだ食品であり、例えばホイップクリーム、ムースなどが挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法により製造される容器入り多層食品の一形態の概略正面図を図1に示す。図1に示す容器入り多層食品は、容器Mに、プリンからなる第1層(L1)、とろみのあるフルーツソースからなる第2層(L2)、ホイップクリームからなる第3層(L3)がこの順で積層されている。
【0039】
以下、本発明の製造方法の工程について説明する。
〔第2層の原料の積層〕
本発明の製造方法は、容器に充填された第1層の上に第2層の原料を積層する工程を含む。
第2層の原料は、ペクチンを含む。ペクチンとしては、ローメトキシルペクチンが好ましい。ローメトキシルペクチンは、エステル化度が約40%以下(メトキシル基含有率で言えば、約7%以下)のペクチンをいう。ローメトキシルペクチンを用いることで、良好な第2層の原料の流動性を実現でき、第2層の積層を容易に行うことができる。
【0040】
第2層の原料におけるペクチンの含有量は、好ましくは0.3〜1.2質量%、さらに好ましくは0.4〜1.0質量%、より好ましくは0.5〜0.8質量%である。ペクチンの含有量をこのような範囲とすることによって、第2層の原料が適切な粘度となるため、該原料をスピーディに積層できると同時に、後述する第3層の原料の第2層の上への積層時に、第3層の原料の供給圧力によって界面が崩れることを防ぐことができる。
【0041】
また、第2層の原料は、酸性である。pHは3.5〜4.5が好ましい。これは、ペクチンは酸性条件下で固化するためである。
pHを調節するためには、通常食品に用いられる酸及び/又はpH調整剤を加えればよい。また、ベリー系やシトラス系等のフルーツをベースとして第2層の原料を調製することも好ましい。
【0042】
第2層の原料は、その積層時の温度が、0〜30℃、好ましくは0〜25℃、さらに好ましくは5〜20℃、より好ましくは5〜15℃である。温度の上限を上記値とすることにより、第1層の表面の一部が溶融すること、後述する第3層の原料の積層後に、第3層の一部が溶融することを防ぎ、各層の界面をきれいに形成することを可能とする。温度の下限値は、原料の取り扱いの観点から設定した目安である。
【0043】
第2層の原料は、その積層時の粘度が200〜2000mPa・s、好ましくは400〜1800mPa・s、さらに好ましくは650〜1400mPa・s、特に好ましくは
800〜1000mPa・sである。すなわち、上述した温度の範囲の何れかにおいて、粘度が上記の範囲であればよい。粘度の下限を上記値とすることにより、後述する第3層の原料を第2層の表面に供給する際に、第3層の一部が第2層と混じり合うことを防ぎ、第2層と第3層の界面をきれいに形成することができる。また、粘度の上限を上記値とすることにより、第2層の原料の積層を、充填ノズルの詰まりなどを引き起こすことなくスムーズに行うことができる。また、粘度の上限を上記値とすることにより、第2層の原料の供給を開始してから、該原料が第1層の上に均一に広がるまでの時間を短くすることができ、スピーディに、均一な厚みの第2層を形成することができる。
【0044】
第2層の原料の粘度は、上記のペクチンの種類や量に加え、他の増粘剤の種類や量により調節することができる。第2層に用いることができる他の増粘剤としては、寒天、ゼラチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ジェランガム、グァーガム、タマリンドシードガム、タラガム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられ、好ましくはローカストビーンガム、グァーガム、タラガム、タマリンドシードガム、アラビアガムが挙げられる。
ペクチンと他の増粘剤を組み合わせて用いる場合には、ペクチンを全増粘剤に対して、好ましくは30〜90質量%、更に好ましくは40〜70質量%程度とすることが挙げられる。
【0045】
なお、後述する第3層が乳製品である場合には、第2層の原料はカラギーナンを含有しないことが好ましい。
これは、酸性の第2層にカラギーナンを含有すると、第3層の原料を第2層の上に積層した場合に、第3層中の乳タンパク質が第2層に含有されるカラギーナンと反応して第2層と第3層の界面付近に凝集するおそれがあるためである。
すなわち、特許文献3に記載される方法を、第2層がフルーツベースの酸性の食品、第3層がホイップクリーム(生クリーム)である多層食品の製造に適用しようとすると、第2層と第3層の界面付近でホイップクリーム中の乳タンパク質がカラギーナンと反応し、凝集し、食感や風味を損なうという問題が起こり得る。本発明の好ましい形態では、増粘剤としてカラギーナンを用いないため、乳タンパク質の凝集を引き起こすことがない。
【0046】
本発明の好ましい形態では、カルシウムを含む第1層の上に、第2層の原料を積層する。
このような形態とすることで、第2層の原料の第1層の上への積層後に、第1層に含まれるカルシウムが第2層に移行し、酸性条件下でペクチンがカルシウムイオンを介して結合することにより、第2層が固化し、第1層と第2層の界面が安定する。第1層と第2層の界面が安定することにより、容器入り多層食品をスプーンなどを用いて食する場合に、第2層が第1層の表面で滑るなどして多層構造が容易に崩れてしまうことを、極力防ぐことが可能となる。
本明細書において「固化」とは、完全なゲルになることのみならず、一部がゲルとなって粘度が上昇することも含む。
また、第1層の上への第2層の原料の積層後に、第2層の固化が始まることで、後述する第3層の原料の積層の間にも、第2層が固化していくことになるので、第2層の積層後、直ちに第3層を積層した場合でも、第3層の原料の供給圧力による第2層の表面の崩れを抑制し、第2層と第3層のきれいな界面を形成しやすくなる。
【0047】
第1層の原料におけるカルシウムの含有量は、第2層の原料の積層後、第1層のカルシウムが第2層に移行して第1層と第2層の界面を安定させることができる範囲であればよい。カルシウムの含有量は、好ましくは10〜200mg/100g、さらに好ましくは30〜150mg/100gである。また、カルシウムの含有量は、ペクチンに対し、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは2〜20質量%である。
【0048】
なお、第1層の原料の容器への充填方法としては、従来の方法を用いることができ、特に制限されない。例えば、第1層の原料を、ゲル化温度以上に加温した状態で容器内に供給し、その後、冷却してゲル化させる方法を用いることもできるし、特許文献4に記載されるように、第1層を形成するための複数の原料液、すなわちゲル化剤を含有する原料液と、該ゲル化剤を触発させる成分を含有する原料液を用意し、これを連続的に容器に充填させることによりゲル化させる方法を用いることもできる。第1層を冷却してゲル化させる場合には、例えば、5〜20℃程度の雰囲気で冷却すればよい。
なお、第1層の原料をゲル化させる際には、第1層の表面が少なくともゲル化した時点で、第2層の原料の積層を開始することができる。
【0049】
〔第3層の原料の積層〕
本発明の製造方法は、第2層の原料を積層した後に、直ちに、第3層の原料を第2層の上に積層する工程を含む。
ここで、「直ちに」とは、通常の食品の工業的な生産において、連続的に工程を行うことを意味する。例えば、第2層の原料の積層の完了から好ましくは20秒程度以内、さらに好ましくは5秒程度以内に第3層の原料の積層を開始する。
【0050】
第3層の原料は、好ましくはカルシウムを含む。第3層の原料として、例えば、乳製品が好ましく挙げられる。
第3層がカルシウムを含むことにより、第3層の原料の第2層の上への積層後に、第3層に含まれるカルシウムが第2層に移行し、酸性条件下でペクチンがカルシウムイオンを介して結合することにより、第2層が固化し、第2層と第3層の界面が安定する。
また、上述したように、第2層の固化は、第1層と第2層の界面の安定にも寄与する。
【0051】
第3層の原料におけるカルシウムの含有量は、第3層の原料の積層後、第2層に移行して第2層と第3層の界面を安定させることができる範囲であればよい。前記カルシウムの含有量は、好ましくは10〜200mg/100g、さらに好ましくは30〜150mg/100gである。また、カルシウムの含有量は、ペクチンに対し、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは2〜20質量%である。
【0052】
但し、上述した第1層がカルシウムを含まない場合には、第3層の原料はカルシウムを含む必要があり、上述した第1層がカルシウムを含む場合には、第3層の原料は、必ずしもカルシウムを含まなくてもよい。すなわち、第1層の原料及び第3層の原料の少なくとも一方がカルシウムを含んでいればよいということになる。
好ましい形態では、第1層の原料及び第3層の原料が何れもカルシウムを含む。このような形態では、第1層と第3層の両方から第2層へカルシウムが移行し、より素早く第2層が固化し、短時間に界面を安定させることが可能となる。
【0053】
第3層の原料は、これを積層する時のオーバーランが90〜170%、好ましくは90〜150%、さらに好ましくは100〜130%であることが好ましい。オーバーランとは、組成物に抱き込まれた空気の、組成物に対する容積比率をいい、泡立ち度合いを示す値である。この算出方法は、実施例に詳述する。
【0054】
また、第3層の原料は、これを積層する時のペネトロ値が、好ましくは230〜330、さらに好ましくは240〜320、より好ましくは260〜300である。ペネトロ値とは、所定の条件下で特定の円錐型コーンを組成物に落下、貫入させたときの円錐型コーンの貫入距離(mm)を10倍した値(単位なし)であり、組成物の硬度を示す値である。本明細書にいうペネトロ値は、実施例に記載する方法により測定した値で定義され、その測定方法は、実施例に詳述する。
【0055】
また、第3層が泡状食品である場合に、第3層の原料は、泡状食品を安定させるための増粘剤及び/又はゲル化剤を含むことも好ましい。これにより、泡状食品のオーバーランが長時間(保存期間)に渡って保持される。増粘剤及び/又はゲル化剤としては、寒天、ゼラチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチンなどが挙げられる。
第3層の原料に増粘剤及び/又はゲル化剤を含有させる方法としては、まず、第3層の原料の一部、例えば油脂原料を泡立てた後に、これに増粘剤水溶液を混合するという方法をとることが好ましい。これにより、泡立てを充分に行うことができる。
【0056】
第3層が泡状食品である場合の好ましい形態では、前記第3層の原料を積層する工程は、前記第1層及び第2層を積層した容器と、前記第3層の原料を前記第2層の表面に供給する供給口とを、相対的に回転させながら、前記第3層の原料を前記供給口から前記第2層の表面に供給する工程を含む。
【0057】
この形態では、容器と供給口とを相対的に回転させれば足りるので、実際に回転するのは容器であっても、供給口を備える充填ノズルであってもよい。製造装置全体の簡素化を図る観点からは、容器のみを回転させる構成とするのが望ましい。一方、充填ノズルのみを回転させる場合には、充填ノズルを高速回転させる程(生産スピードを上げようとする程)、遠心力の影響を受けて、供給口から吐出される原料が変形したり飛び散り易くなったりし、第2層と第3層の界面もきれいに仕上がらなくなるおそれがある。また、充填ノズルと容器の両方を相対回転させることで、きれいな界面の形成と生産性の向上を図ることがより容易になる。
【0058】
さらに好ましい形態では、2つ以上の供給口を、容器の回転中心から容器の径方向(水平方向)に離間した位置に、該回転中心に対して略対称に配置する。
2つ以上の供給口をこのように配置することで、第3層の原料の供給によって第2層の表面が受ける圧力が、容器の回転中心に対して略対称となるため、第3層の原料の供給により第2層の表面が何れかの方向に偏ることを防ぐことが可能となる。
【0059】
供給口の口径は、供給口の数、及び容器の開口の大きさ(直径)を考慮して決めることができる。通常は、全ての供給口の口径の合計が、容器の開口の大きさの4〜9割程度、好ましくは4〜7割程度、更に好ましくは4〜6割程度となるような口径とすることができる。
また、供給口の形状は任意であるが、例えば、花型であることが好ましい。このような形状の供給口を用いることにより、第3層の表面が外観上美麗となる。
【0060】
また、容器の回転角は、第3層が第2層の表面を概ね覆うことができる範囲に設定することができ、供給口の数、供給口の口径、容器の開口の大きさを考慮して決めることができる。例えば、供給口の数が2つであり、供給口の口径と容器の開口の大きさが上記関係にある場合には、容器の回転角は、好ましくは270〜500°、さらに好ましくは270〜450°、より好ましくは300〜480°、特に好ましくは360〜450°とすることが挙げられる。
なお、上述したように、容器と充填ノズルの両方を相対的に回転させる場合には、容器と充填ノズルのそれぞれの回転角は、上記容器の回転角の半分程度とすることができる。
このような範囲とすることで、第3層の原料の供給口からの供給圧力が、第2層の表面に対して均一にかかり、第2層と第3層の界面をよりきれいに形成することが可能となる。
第3層の原料の積層時の温度は、好ましくは5〜20℃程度、更に好ましくは7〜15℃程度である。
【0061】
第3層の原料を積層する工程は、生産性の観点から、概ね5秒以内、好ましくは3秒以内、更に好ましくは2秒以内で完了することが好ましい。また、第2層の原料の積層から第3層の原料の積層の一連の工程は、生産性の観点から、概ね60秒以内、好ましくは30秒以内、更に好ましくは20秒以内で完了することが好ましい。
本発明の製造方法によれば、このようなスピードで第2層の積層から第3層の積層を行っても、充分にきれいな第2層と第3層の界面を形成することが可能である。
【0062】
各層を構成する原料は、上記で説明した以外のものについては、通常の食品に用いられる任意の成分を含むことができる。
【0063】
また、多層食品を構成する全ての層の充填、積層が完了した後、冷却、容器の密封等、通常多層食品を製造する際に行う工程を適宜行うことにより、製品が完成する。
【0064】
次に、本発明の製造方法を、装置を用いて実施する場合の一形態を、図2を参照しながら説明する。なお、本実施形態においては、多層食品はチルドデザートであり、第1層はプリン、第2層はフルーツソース、第3層はホイップクリームからなる。
まず、プリンL1が充填されたカップM(図2(a))が、搬送装置(図示しない)により、充填機の充填ノズル10の下方に搬送される。この時点で、プリンL1の少なくとも表面はゲル化した状態となっている。続いて、充填ノズル10よりカップM内のプリンL1の上にフルーツソースL2が充填(積層)される(図2(b))。フルーツソースL2の充填に要する時間は、2秒程度である。
【0065】
フルーツソースL2が充填(積層)されたカップMは、搬送装置により、充填機の充填ノズル20の下方に搬送される。続いて、カップMは、中心軸回りに2秒以内で約400°回転し(矢印Z)、カップMが回転している間に、ホイップクリームL3が充填ノズル20から供給口21、21を介してカップM内のフルーツソースL2の表面に向けて供給される(図2(c))。
カップMの回転が停止すると同時に、充填ノズル20からのホイップクリームL3の供給を停止し、ホイップクリームL3の充填(積層)が完了する。
【0066】
本発明の製造方法は、下層及び上層の食品を積層する際に、一方にペクチンを配合し、一方にカルシウムを配合することにより、下層に上層を積層しながら、ペクチンを含む層を固化して、層を形成するという概念に基づくものである。この概念は、本発明で説明した少なくとも3層を有する多層食品のみならず、2層からなる多層食品にも応用できる。
【0067】
<本発明の多層食品>
本発明の多層食品は、第1層、第2層及び第3層がこの順で容器内に積層されている、容器入り多層食品である(図1参照)。好ましい形態では、第1層がゲル状食品からなり、第2層がゲル状食品又は粘稠状食品からなり、第3層が泡状食品からなる。各層を構成する食品の例は、上述したとおりである。
【0068】
第2層は、ペクチンを含み、酸性である。ペクチンの好ましい種類や含有量、好ましいpHについては、第2層の原料について説明したとおりである。
また、第2層は、カルシウムを含む。これにより、カルシウムとペクチンが反応し、固化している状態となっている。
また、第2層が粘稠状食品である場合には、第2層の粘度は、例えば10℃(チルド条件)で、好ましくは2000mPa・s以上、好ましくは3000mPa・s以上である。
その他、第2層の成分等の好ましい態様については、第2層の原料について説明したと
おりである。
【0069】
第1層及び第3層の少なくとも一方は、カルシウムを含む。なお、カルシウムを含む第1層及び/又は第3層と第2層との界面付近における、各層のカルシウム濃度は、同等となっている。これは、第1層及び/又は第3層からのカルシウムが第2層に移行して、きれいな界面が形成されているためである。
【0070】
また、第3層のオーバーランは好ましくは90〜170%、さらに好ましくは90〜150%、より好ましくは100〜130%である。また、第3層のペネトロ値は、好ましくは230〜330、さらに好ましくは240〜320、より好ましくは260〜300である。オーバーラン及びペネトロ値の算出方法、測定方法については、実施例に詳述する。
【0071】
その他、各層に含まれる成分などの好ましい形態は、本発明の製造方法の項で説明したとおりである。
本発明の多層食品は、酸性の第2層がペクチン及びカルシウムの存在により適度に固化しているため、各層の界面が安定し、きれいな界面が形成されている。
【0072】
本発明の多層食品として、具体的には、図1に示すような、カップM内に、プリンからなる第1層(L1)、フルーツソースからなる第2層(L2)、ホイップクリームからなる第3層(L3)が積層された多層食品が挙げられる。これらの層は、各層の界面がきれいであり、しかも何れも食感が異なり、また、酸味のある第2層が、コクのある第1層と第3層の間に挟まれているので、味のバランスにも優れている。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を、試験例を示しながら説明する。
【0074】
<物性の測定方法>
まず、試験例で測定した物性の測定方法について説明する。
【0075】
(1)粘度
B型粘度計(No. 3ローター又はNo.4ローター)(東機産業株式会社製)を使用して、60rpmの回転数で測定した。
【0076】
(2)オーバーラン
空気を含む泡状試料の体積、及び空気を含まない泡状試料の原料液の体積から、泡状組成物の空気の体積を求め、原料液の体積に対する空気の体積を求めた。
【0077】
(3)ペネトロ値
底面直径24mm、高さ33.5mm、12gの円錐型コーンを、ペネトロメーター(中村医科理化器械店製)を用い、JIS K−2350に準拠して試料に浸入させ、浸入深さ(mm)×10の値(単位なし)を求めた。
【0078】
<試験例1>
試験例1では、第3層(ムース部)の、第2層(ソース部)の表面への積層時の、オーバーラン及びペネトロ値が、第2層と第3層の界面に与える影響を試験した。
【0079】
本発明の多層食品の製造に用いる各原料液を、下記の通り調製した。
第1層−プリン部の原料の調製
表1に示す配合で原料を混合溶解した。これをUHT殺菌機(プレート式:森永乳業社
製)にて125℃で15秒の殺菌を行い、冷却装置で80℃まで冷却後、ホモジナイザーで8Mpaの条件で均質化し、タンクへ入れ、10℃以下に冷却した。
【0080】
【表1】

【0081】
第2層−ソース部の原料の調製
表2に示す配合で原料を混合溶解した。これをUHT殺菌機(チューブラ式:森永乳業社製)にて120℃で2秒の殺菌を行い、冷却部で30℃に冷却してタンクへ入れ、10℃以下に冷却した。10℃での粘度は1000mPa・sであった。ソース部のpHは、4.0程度であった。
【0082】
【表2】

【0083】
第3層−ムース部の原料の調製
油脂原料液は、表3に示す配合で原料を混合溶解し、70℃に加温した。続いてこれを
、UHT殺菌機(プレート式;森永乳業社製)で、132℃で2秒間保持する条件で殺菌し、冷却装置で80℃まで冷却後、ホモジナイザーで1段目4.0MPa、2段目1.0MPaの条件で均質化し、さらに冷却装置で5℃に冷却した後、5℃、12時間のエージングを行った。
安定剤水溶液は表4〜6に示す配合でA〜Cの3種類を調製した。各表に示す原料を混合溶解した後、UHT殺菌機(プレート式;森永乳業社製)で130℃で2秒間保持する条件で殺菌を行い、45℃に冷却してタンクに保存した。
油脂原料液を5℃で連続ホイッパー(森永乳業社製)を用いてホイップした。その後、ホイップした油脂原料液と安定剤水溶液とをスタティックミキサーにて混合した。種々のオーバーラン及びペネトロ値を有する油脂原料液と、安定剤水溶液とを、種々の混合比で混合することにより、種々のオーバーランを有するムース部の原料を製造した。ムース部の原料の組成とオーバーランを、表7に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
【表7】

【0089】
上記で調製した各原料を用いて、下記の方法により、多層食品を製造した。
第1層−プリン部の充填
上記で調製した第1層の原料を90℃に加温した後、60℃まで冷却した。冷却した原
料68gを、充填機(HAMBA社製)を用いて、透明プラスチックカップ(商品名:PPカップ;大日本印刷社製;容積 約190mm3;開口の直径 約88mm;高さ 約65mm)に充填した。その後、連続式冷却機(HAMBA社製)で中心温度が20℃になるまで冷却し、ゲル化した。プリン部の高さ(厚み)は、約24mmであった。
【0090】
続いて、以下の第2層と第3層の積層を行った。
第2層−ソース部の積層
上記で製造した第2層の原料20gを、カップに充填された、その表面がゲル化したプリンの上に充填機(HAMBA社製)にて充填(積層)した。積層時の第2層の原料の粘度は900mPa・sであった。ソース部の高さ(厚み)は、約6mmであった。
【0091】
第3層−ムース部の積層
第2層の積層完了後、2秒以内に、上記で製造した第3層の原料22gを第2層の上に積層した。第3層の原料の積層は、容器の開口の中心を回転中心として、容器を360°回転させながら、2つの花型の供給口を有する充填ノズルを備える充填機(HAMBA社製)にて、第3層の原料を第2層の表面に供給することにより行った。第3層の積層時の温度は15℃であった。
第2層の積層開始から、第3層の積層完了までに要した時間は約20秒であった。
【0092】
全ての層の容器内への充填が完了した後、10℃以下で12時間冷却して製品を得た。
【0093】
得られた製品の第3層の積層状態、及び各層の界面を観察することにより、各製品を評価した。
評価結果を、表8に示す。
【0094】
【表8】

【0095】
No.3、5、6、8の製品は、第3層のムース部が第2層のソース部の表面全体に広がっており、第2層と第3層の界面もくっきりときれいであった。また、第2層の厚みも略均一であった。
No.2の製品は、第3層のムース部が第2層のソース部の表面全体に広がっており、第2層と第3層の界面もくっきりときれいであった。しかしながら、第3層の供給圧力により第2層がやや押し退けられる傾向が見られ、第2層のソース部の厚みがやや不均一で
あった。
No.4の製品は、第3層のムース部が第2層のソース部の表面全体に広がっていたが、第2層と第3層の界面が部分的にやや乱れていた。
No.1の製品は、第3層のムース部が第2層のソース部の表面全体に広がりきらなかった。また、第3層の供給圧力により第2層が押し退けられる傾向が見られ、第2層の厚みが不均一であった。
No.7、9、10の製品は、第3層のムース部が第2層のソース部の表面全体に広がっていたが、やや第2層と第3層の界面が乱れていた。
なお、第1層と第2層の界面は、何れの製品においてもきれいであった。
【0096】
以上の結果より、第3層の原料の積層時のオーバーランが90〜170%である場合、又はペネトロ値が230〜330である場合に、良好な品質の製品(ムース部がソース部の表面に広がり、横から見た時のソース部とムース部の界面がきれいである)が得られることが判った。
さらに、第3層の原料の積層時のオーバーランが100〜130%である場合、又はペネトロ値が280〜300である場合に、優れた品質の製品(ムース部がソース部の表面に広がり、横から見た時のソース部とムース部の界面がきれいであり、且つソース部の厚みが均一である)が得られることが判った。
【0097】
<試験例2>
試験例2では、第2層(ソース部)の積層時の粘度が、第2層と第3層の界面に与える影響を試験した。
第1層のプリン部の原料、第3層のムース部の原料は、試験例1のNo.3の製品の原料と同じものを用いた。
第2層のソース部は、表9に示す配合に従って、各種粘度の原料a〜eを調製した。ソース部のpHは、何れも約4.0であった。
【0098】
【表9】

【0099】
各層の容器内への充填は、試験例1と同様に行った。第2層のソース部として、表9に示す原料a〜eを用いて製造した製品を、それぞれNo.11〜15とした。
【0100】
得られた製品の第3層の積層状態、及び第2層と第3層の界面を観察することにより、
各製品を評価した。
評価結果を、表10に示す。
【0101】
【表10】

【0102】
No.12〜14の製品は、第2層と第3層の界面がくっきりときれいであった。また、第2層のソース部の厚みも略均一であった。
No.11の製品は、第2層と第3層の界面が部分的にやや乱れていた。
No.15の製品は、第2層のソース部が第1層の表面に均一に広がりきらない部分があり、第2層のソース部の厚みがやや不均一であった。
なお、第1層と第2層の界面は、何れの製品においてもきれいであった。
【0103】
以上の結果より、第2層の原料の積層時の粘度が200〜2000mP・sである場合に、良好な品質の製品(横から見た時のソース部とムース部の界面が概ねきれいである)が得られることが判った。
さらに、前記粘度が650〜1400mP・sである場合に、優れた品質の製品(横から見た時のソース部とムース部の界面がきれいであり、且つソース部の厚みが均一である)が得られることが判った。
【0104】
<試験例3>
試験例3では、第3層の充填方法が、第2層と第3層の界面のきれいさに与える影響を試験した。
試験例1のNo.3の製品と同じ原料を用い、第3層の原料を供給する際の充填ノズル、及び容器の回転角を種々変えて、第3層の積層を行った。第3層の積層時間は、何れも2秒とした。
(1)供給口の影響
表11に示す、供給口の数及び形状が異なる4種類の充填ノズルを用いて第3層の原料を第2層の表面に供給し、製品を製造した。容器の回転角は、360°とした。製造した製品をそれぞれNo.16〜19とした。
【0105】
【表11】

【0106】
得られた製品の第3層の積層状態、及び第2層と第3層の界面を観察することにより、各製品を評価した。評価結果を下記に示す。
No.16の製品は、第3層が第2層の表面全体を充分に覆うことができず、界面が充分にきれいに形成されなかった。No.17〜19の製品は、第3層が第2層の表面全体を充分に覆い、極めてきれいな界面が形成された。
以上の結果より、供給口は2つ以上であることが好ましいことが判った。
供給口を1つとする場合でも、回転角を大きくすれば、第2層と第3層の界面をきれいに形成することができる場合があると考えられる。
なお、第1層と第2層の界面は、何れの製品においてもきれいであった。
【0107】
(2)回転角の影響
下記種々の回転角で容器を回転しながら第3層の原料を第2層の表面に供給し、製品を製造した。充填ノズルは、No.17の製品に用いた花型(口径15mm)の供給口を2つ有するものを用いた。製造した製品をそれぞれNo.20〜24とした。
No.20 回転角180°
No.21 回転角270°
No.22 回転角360°
No.23 回転角450°
No.24 回転角540°
【0108】
得られた製品の第3層の積層状態、及び第2層と第3層の界面を観察することにより、製品を評価した。
No.20の製品は、第3層が第2層の表面全体を充分に覆うことができず、界面がやや乱れる傾向にあった。No.21の製品は、第3層が第2層の表面全体を僅かに覆うことができず、界面のきれいさにやや欠けていた。No.22、23の製品は、第3層が第2層の表面全体を充分に覆い、界面が極めてきれいに形成されていた。No.24の製品は、第2層が容器の開口の中心側に寄る傾向にあり、第3層の外観、第2層と第3層の界面のきれいさにやや欠けていた。
以上の結果より、供給口が2つの充填ノズルを用いる場合の容器の回転角は、好ましくは270〜450°、より好ましくは360〜450°であることが判った。
供給口を2つより多くした場合は、これより小さい回転角を採用できると考えられる。
なお、第1層と第2層の界面は、何れの製品においてもきれいであった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、多層を形成するチルドデザートの製造に利用できる。
【符号の説明】
【0110】
M ・・・ カップ
L1 ・・・ 第1層
L2 ・・・ 第2層
L3 ・・・ 第3層
10 ・・・ 充填ノズル
20 ・・・ 充填ノズル
21 ・・・ 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層、第2層及び第3層がこの順で容器内に積層されている、容器入り多層食品の製造方法であって、
第2層の原料は、ペクチンを含み、かつ酸性であり、
第1層及び/又は第3層の原料は、カルシウムを含み、
前記第2層の原料を、第1層の上に積層した後、直ちに、
前記第3層の原料を、第2層の上に積層する工程を含む、容器入り多層食品の製造方法。
【請求項2】
第1層がゲル状食品からなり、第2層がゲル状食品又は粘稠状食品からなり、第3層が泡状食品からなる、請求項1に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項3】
前記第2層の原料は、積層時に、温度が0〜30℃であり、かつ粘度が200〜2000mPa・sである、請求項1又は2に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項4】
前記第3層の原料は、オーバーランが90〜170%である、請求項1〜3の何れか一項に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項5】
前記ペクチンが、ローメトキシルペクチンである、請求項1〜4の何れか一項に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項6】
前記第3層の原料を積層する工程は、前記第1層及び第2層を積層した容器と、前記第3層の原料を前記第2層の表面に供給する供給口とを、相対的に回転させながら、前記第3層の原料を前記供給口から前記第2層の表面に供給する工程を含む、請求項2〜5の何れか一項に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項7】
前記第3層の原料を供給する工程では、2つ以上の供給口を、前記容器の回転中心から離間した位置に、該回転中心に対して略対称に配置する、請求項6に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項8】
第3層が乳製品からなる、請求項1〜7の何れか一項に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項9】
第2層の原料におけるペクチンの含有量が、0.3〜1.2質量%である、請求項1〜8の何れか一項に記載の容器入り多層食品の製造方法。
【請求項10】
第1層、第2層及び第3層がこの順で容器内に積層されている、容器入り多層食品であって、
第2層は、ペクチン及びカルシウムを含み、かつ酸性であり、
第1層及び/又は第3層は、カルシウムを含む、容器入り多層食品。
【請求項11】
第1層がゲル状食品からなり、第2層がゲル状食品又は粘稠状食品からなり、第3層が泡状食品からなる、請求項10に記載の容器入り多層食品。
【請求項12】
前記ペクチンが、ローメトキシルペクチンである、請求項10又は11に記載の容器入り多層食品。
【請求項13】
前記第2層におけるペクチンの含有量が、0.3〜1.2質量%である、請求項10〜12の何れか一項に記載の容器入り多層食品。
【請求項14】
前記第3層が乳製品からなる、請求項10〜13の何れか一項に記載の容器入り多層食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−5466(P2012−5466A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146663(P2010−146663)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】