説明

多成分対応レーザ式ガス分析計

【課題】複数のガスを測定する際に一台で複数のガスを同時に測定可能とした多成分対応レーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】波長走査駆動信号と高周波変調信号とを合成した駆動信号を電流駆動信号に変換して出力し、電流駆動信号に応じて発光して検出光を、n種のガス別に同一の光軸上で出射する発光部200と、測定対象ガス空間を伝播した検出光を受光して得た検出信号を、高周波変調信号の2倍周波数である参照信号を用いて検出信号を同期検波して2倍周波数成分の同期検波信号をn種のガス別に出力し、n種のガス別の同期検波信号を用いて所望の測定対象ガスの有無および/または所望の測定対象ガスの濃度を測定分析する受光部300と、を備える多成分対応レーザ式ガス分析計とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙道内の各種の測定対象ガスの有無や濃度を分析する多成分対応レーザ式ガス分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体状のガス分子には、それぞれ固有の光吸収スペクトルがあることが知られている。この点について図を参照しつつ説明する。例えば、図7は、ガス固有の光吸収スペクトルを説明する説明図であり、図7(a)はNH(アンモニア)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(b)はHCl(塩化水素)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(c)はHS(硫化水素)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(d)はCH(メタン)ガスの吸収スペクトラム例を示す図である。これら図7(a)〜(d)からも明らかなように、ガス別に光吸収スペクトルが相違している。
【0003】
このように光吸収スペクトルがガス別に異なる点を利用してガスを分析する装置としてレーザ式ガス分析計が知られている。
レーザ式ガス分析計は、レーザ光の特定波長の吸光量が測定対象ガスの濃度に比例することを利用した分析計であり、ガス濃度の測定方法としては、2波長差分方式と周波数変調方式とに大別される。このうち、本発明は周波数変調方式を用いたレーザ式ガス分析計に関するものである。
【0004】
まず、周波数変調方式を用いた従来のレーザ式ガス分析計の測定原理を説明する。
図8は、周波数変調方式の原理図を示しており、例えば特許文献1に記載されているものである。周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、中心周波数f、変調周波数fで半導体レーザの出射光を周波数変調し、測定対象ガスに照射する。ここで、周波数変調とは、半導体レーザに供給するドライブ電流の波形を正弦波状にすることである。
【0005】
半導体レーザは、図9(a),(b)の半導体レーザの発光波長の変化を示す図に示すようにドライブ電流や温度によって発光波長が変化するので、周波数変調を行うことにより、ドライブ電流の変調に伴って発光波長が変調されることになる。
【0006】
図8に示したように、ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、受光部では変調周波数fの2倍の周波数の信号(2倍周波数信号)が得られる。ここで、変調周波数fは任意の周波数でよいため、例えば、変調周波数fを数kHz程度に選ぶと、ディジタル信号処理装置(DSP)または汎用のプロセッサを用いて、2倍周波数信号の抽出等の高度な信号処理を行うことが可能になる。
また、受光部によりエンベロープ検波を行えば振幅変調による基本波を推定でき、この基本波の振幅と前記2倍周波数信号の振幅との比を位相同期させて検出することで、距離に関係なく測定対象ガス濃度に比例した信号を得ることができる。
【0007】
周波数変調方式で距離の影響をキャンセルするためには、半導体レーザ素子の出力を周波数変調すると同時に周波数fで振幅変調を行えばよいのであるが、半導体レーザ素子の出力に周波数変調を掛けると振幅変調も掛かるので、これが利用できる。
そして、受光部でエンベロープ検波を行うことで振幅変調による基本波を推定でき、この基本波の振幅と前記2倍周波数信号の振幅の比を位相同期させて取ることで、距離に関係なくガス濃度に比例した値を得ることができる。
【0008】
この周波数変調方式では、半導体レーザの種類の中でも、分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)を用いて、単一波長のレーザ光のみを出射し、ガス濃度を測定する場合が多い。
この場合、DFBレーザが発光するスペクトル線幅の方が測定対象ガスの吸収線幅よりも小さいため、DFBレーザの発光波長を測定対象ガスの吸光波長に合わせる必要が生じる。
その方法として、測定対象ガスと同じガス成分を予め封入した参照ガスセルを用いて、DFBレーザの発光波長を温度によって制御する方法が用いられている。
上述したような検出原理を用いた従来技術としては、例えば特許文献2に記載されたガス濃度測定装置がある。
【0009】
図10は、特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成を示している。
このガス濃度測定装置1は、主として、光源ユニット2、測定光集光部3、測定光増幅部4、受信信号検出部5、校正信号生成部6、基本波信号増幅器7Aと2倍波信号増幅器7Bとからなる参照信号増幅部7、信号微分検出器8Aと信号同期検出器8Bとからなる参照信号検出部8、波長安定化制御回路9、温度安定化PID回路10、電流安定化回路11、測定/校正切替部12、演算部13から構成されている。
【0010】
光源ユニット2は、前述の測定対象ガス特有の吸収線に合致した波長のレーザ光を発生するものであり、図11(a)に示すように、金属パッケージからなる箱型形状のケース本体26の内部に、半導体レーザモジュール21、参照ガスセル22、光検出器(受光部)23が収容されている。
半導体レーザモジュール21のケース21a内には、図11(b)に示すように、周波数変調されたレーザ光を両面から出射する半導体レーザ(レーザダイオード)24が配設されている。図11(a)に示す如く、ケース21aからはコネクタ25aを備えた光ケーブル25が延出されており、半導体レーザ24から出射される一方の光が光ケーブル25を介して図10の測定光集光部3から外部(測定対象ガスの雰囲気)に出射されるようになっている。
【0011】
ケース本体26の底面には、冷却用フィン27が取り付けられたペルチェ素子等の温度制御素子(図示せず)が配置されており、この温度制御素子により動作温度を一定温度に制御することで発振波長が制御される。
半導体レーザ24の前後両側の光軸上には、出射光を集光するための平坦面を持たない非球面レンズ29a,29bが配設されている。これらの非球面レンズ29a,29bを集光用レンズとして使用することにより、半導体レーザ24に光が反射して戻るのを防止することができる。
【0012】
半導体レーザ24の前後両側の光軸上で、非球面レンズ29a,29bの外側には光アイソレータ30a,30bが配設されている。これらの光アイソレータ30a,30bは、90°の偏波面の光のみを通す偏光子と45°の偏波面の光のみを通す検光子との間に配置された結晶に磁力を印加することで、結晶中を透過する光の偏波面を回転させて偏光子での反射光の通過を阻止し、半導体レーザ24に反射光が戻るのを防止している。
【0013】
半導体レーザ24の後側の光路上に配置された参照ガスセル22は、測定光発振波長の安定化や測定対象ガス濃度の校正用に用いられるもので、内部が空洞の金属胴22aの対向面に光を通過させる貫通穴が形成され、内部に参照ガスが封入された後、貫通穴がガラス窓22bによって封止されている。
参照ガスセル22は、内径の長さが予め決められており、封入される参照ガスは、測定対象ガスの測定場所の環境と概略等しい組成、圧力とされている。例えば測定場所の環境が空気であれば、参照ガスはエアバランス、すなわち空気と同じ組成であり、圧力も1気圧となっている。
【0014】
参照ガスセル22は、非球面レンズ29bの後側の後方出射光が入射しやすい位置に固定される。参照ガスセル22を通過したレーザ光は、その後側に配設された光検出器23によって受光検出される。
なお、上記参照ガスセル22は、半導体レーザ24への戻り光を低減するため、光が通過する両端面を斜め(例えば出射光軸に対して約6°)に形成するのが好ましい。
【0015】
前述した図10において、測定光集光部3は、半導体レーザ24からの光を外部に出射し、測定対象となるガス配管などから反射した測定光をレンズ31により集光すると共に、集光した光を光検出器32により検出して電気信号に変換する。
測定光増幅部4はプリアンプによって構成されており、前記光検出器32にて検出した光電流を電圧に変換し、増幅して出力する。また、測定光増幅部4では、測定/校正切替部12の後段の受信信号検出部5が検出する基本波位相敏感検波信号(f信号:以下、基本波信号と略称する)と2倍波位相敏感検波信号(2f信号:以下、2倍波信号と略称する)とがほぼ同じレベルになるように、基本波信号、2倍波信号のそれぞれについて最適増幅度が設定されている。
【0016】
受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が測定光増幅部4側に切り替えられているときに、測定光増幅部4により増幅された測定光信号を処理し、基本波信号(f信号)、2倍波信号(2f信号)、2f/f信号を検出する。また、この受信信号検出部5は、測定/校正切替部12が校正信号生成部6側に切り替えられているときに、校正信号生成部6からの信号を処理し、校正用基本波信号(rf信号)、校正用2倍波信号(r2f信号)、r2f/rf信号を検出する。
【0017】
上記構成において、従来では参照ガスセル22を用いて半導体レーザ24の発光波長を制御しており、光検出器32の出力からガス濃度を示す2f信号を抽出することで測定対象ガスの濃度を測定している
【0018】
この手法では、半導体レーザから出射した光をビームスプリッタなどで2方向に分岐するか、もしくは半導体レーザ素子は、素子の両端面から発光が可能なので、片側をガス濃度測定用に用い、もう一方を、ガスセルに光を入射するなど、同一の発光素子から出射した光を、ガスセルと測定対象のガスに入射できるように構成する。
このような構成にすることで、ガスセル側を透過した光で、例えば、2倍波と基本波の比が最大となる点に半導体レーザの発光波長を、半導体レーザがマウントされたペルチェ部の温度制御によって、波長が一定になるように制御する。
【0019】
【特許文献1】特開平7−151681号公報(段落[0005]、図4等)
【特許文献2】特開2001−235418号公報(段落[0012]〜[0024]、図2,図11等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、前述したごとくガスの吸収線幅よりもレーザの線幅のほうが小さいため、レーザの発光波長を測定対象ガスの吸光波長に合わせる必要がある。
そのためには、測定対象ガスと同じガスをあらかじめ封入した参照ガスセルが必要であるが、参照ガスセルへの封入が不可能または困難なガスについては、その濃度の検出が困難であるという問題がある。
【0021】
また、参照ガスセルを用いるために参照ガスセル自体のガス漏れも考慮しなくてはならず、測定対象ガスが腐食性ガスであるHCl等の場合、これと同じ参照ガスがガス漏れすると周囲の光学部品が劣化する。更に、振動の影響による軸ズレや参照ガスセルの破損の影響も考慮しなくてはならず、参照ガスセルを用いること自体が好ましくない。
また、参照ガスセルを用いてレーザの発光波長を特定波長に固定するとしても、PID制御等により温度調整を行って特定波長に固定する安定性が要求される。しかし、通常のDFBレーザ素子の発光波長は100pm/℃程度の温度依存性を持っているので、吸収線幅が40pm程度しかないアンモニアなどを検出するには1pm以下の波長安定性、つまり、0.01℃以下の温度安定化が必要となる。
【0022】
近年、例えば、リニアテクノロジー社や、マキシム社からPID制御用ICが提供されており、これらの温度調整安定性は0.001℃〜0.01℃となっているが、これはサーミスタが埋め込まれた部分であり、DFBレーザ素子に対するものではない。
温度分布等があれば波長は変動するため、半導体レーザ素子の発光波長を測定対象ガスの吸光波長に合わせて測定すること自体が問題であり、これらが長期的な安定性や測定精度を低下させる要因となっている。
更に、測定対象ガスと参照ガスセル内に封入されたガス成分とが同一でも、実際に測定するガスの吸収幅や波長は若干変動し、また、参照ガスセル温度と測定対象ガスの温度とが異なる場合は、吸光波長に完全に合わせることが困難である。
【0023】
以上まとめれば、従来技術では参照ガスセルを用いて測定対象ガスの吸光波長にレーザの発光波長を合致させる必要があり、その波長安定性が測定性能に影響する。
また、HClやHFなどの腐食性ガスの参照ガスセルを製作するためには、封入設備も高価となり、測定可能なガス成分が参照ガスセルの製作可否によって制約されるという問題もある。
レーザ式ガス分析計によってガス濃度を測定するには、前述のように吸光波長の一致した光を出射可能なレーザ素子が必要であると共に、この条件に合うレーザ素子が存在しても参照ガスセルが製作できなければ、分析計としての実現は不可能である。
更に、参照ガスセルからのガス漏れ対策をする必要があるなど、装置構成上も好ましくなかった。
【0024】
これらのような性能面の問題に加え、作業性でも問題があった。例えば、煙道や排ガス測定などで使用されるガス分析計は、排出される複数のガス濃度を同時に計測するように用いられるのが一般的である。従来技術では、複数のガス成分を計測するために、単成分計を複数台設置する必要があった。この理由としては、1つのLD素子で可変できる波長範囲が狭く、1成分もしくは特定の2成分程度した検出できない点が挙げられる。
【0025】
また、複数台のレーザ式ガス分析計を設置するため、設置面積や、設置工事・光軸調整費などが装置台数に比例し増加するため、システムの大型化、コストの増加などの問題があった。
【0026】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、測定対象ガスの吸光波長すなわちレーザ素子の発光波長を走査するための参照ガスセルを不要とし、装置を単純化してコストの低減を図ると共に、発光波長を特定波長に安定化させる必要をなくしてガス濃度を高精度に測定可能としたレーザ式ガス分析計であって、さらに複数のガスを測定する際に一台で複数のガスを同時に測定可能とした多成分対応レーザ式ガス分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
駆動電流の変化に応じて発光波長が変化するレーザ素子を用いてn種のガスを測定する多成分対応レーザ式ガス分析計において、
測定対象ガスの吸光波長を含む波長走査範囲を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とするための波長走査駆動信号と、発光波長を変調するための高周波変調信号と、を入力し、波長走査駆動信号と高周波変調信号とを合成した駆動信号を電流駆動信号に変換して出力する電流駆動部をn種のガス別にn個備えてなる電流駆動手段と、
電流駆動部から出力された電流駆動信号に応じて発光して検出光を出射する発光部をn種のガス別にn個備えてなる発光手段と、
この発光部の温度を安定化させる温度安定化部をn個の発光部別にn個備えてなる温度安定化手段と、
n個の発光部から出射したn本の検出光を同一の光軸上で合成して検出光を測定対象ガス空間へ出射させる光軸結合手段と、
測定対象ガス空間を伝播した検出光を集光して出射する集光手段と、
n種の検出光の全波長に対して感度を有し、集光した検出光の波長に応じた検出信号を出力する受光手段と、
高周波変調信号の2倍周波数である参照信号を用いて検出信号を同期検波して2倍周波数成分の同期検波信号を出力する同期検波部をn種のガス別にn個備えてなる同期検波手段と、
n種のガス別の同期検波信号を用いて所望の測定対象ガスの有無および/または所望の測定対象ガスの濃度を測定分析する分析手段と、
を備えることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項2に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1に記載の多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記電流駆動手段は、測定対象ガスの吸光波長を含む測定範囲を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とするための波長走査駆動信号を出力する波長走査駆動信号発生部と、発光波長を変調するための高周波変調信号を出力する高周波変調信号発生部と、波長走査駆動信号と高周波変調信号とを入力して合成により駆動信号を生成し、この駆動信号を電流駆動信号に変換して出力する電流制御部と、からなる電流駆動部をn種のガス別にn個備えてなる手段であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項3に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1または請求項2に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記温度安定化手段は、発光部の温度を検出する温度検出部と、温度検出部からの温度検出信号を受けて発光部を一定温度とする温度駆動信号を出力する温度制御部と、発光部の温度を調整する加熱冷却部と、からなる温度安定化部をn個の発光部別にn個備えてなる手段であることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項4に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記同期検波手段は、高周波変調信号の2倍周波数である参照信号を出力する参照信号発生部と、参照信号を用いて検出信号を同期検波して2倍周波数成分の同期検波信号を出力する同期検波部と、をn種のガス別にn個備えてなる手段であることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項5に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記波長走査駆動信号の波形は、オフセットを有し、かつ前記レーザ素子への供給電流を直線的に変化させて前記レーザ素子の発光波長を徐々に変化させる部分を有すると共に、一定周期で繰り返される波形であり、
前記オフセットは、前記レーザ素子のスレッショルド電流値以上の電流を前記レーザ素子に供給するような値であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項6に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記分析手段は、
前記同期検波信号の少なくとも一部を積分し、その積分値を測定対象ガスの濃度として検出することを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項7に係る発明の多成分対応レーザ式ガス分析計は、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記分析手段は、
前記同期検波信号のピーク値を測定対象ガスの濃度として検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
以上述べたような本発明によれば、参照ガスセルが不要になるため装置構成の単純化、低コスト化が可能であると共に、レーザ素子の発光波長を固定する必要が無いため検出感度が安定化し、測定精度が向上し、さらに、複数のガスを測定する際に一台で複数のガスを同時に測定可能とした多成分対応レーザ式ガス分析計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
続いて、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しつつ説明する。本発明はn成分のガスを分析する多成分対応レーザ式ガス分析計であるが、本形態では説明の具体化のため4成分のガスを測定するような多成分対応レーザ式ガス分析計について記載する。図1は本形態の多成分対応レーザ式ガス分析計の構成図である。図2は発光部の回路ブロック図である。図3は受光部の回路ブロック図である。図4は信号の特性図であり、図4(a)は波長走査駆動信号を示す図、図4(b)は第1高調波変調信号を示す図、図4(c)は第1発光部の出力波形を示す図、図4(d)は第1同期検波部の出力波形を示す図である。図5はフォトダイオードの波長感度を示す特性図である。図6は出力の写真であり、図6(a)はフォトダイオードから出力される検出信号を示す図、図6(b)は第1同期検波回からの第1同期検波信号を示す図である。
【0036】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1はこの実施形態の全体的な構成を示している。多成分対応レーザ式ガス分析計100は、大別して検出光を出射するユニットである発光部200と、検出光を受光するユニットである受光部300と、を備える。
【0037】
まず、発光部200について説明する。発光部200は、ガスの吸光特性に応じた光を後述のように変調した検出光として出射するユニットである。
発光部200の機械的構造は、図1に示すように、フランジ201、窓部202、調整用フランジ203、収納部204、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205d、光軸結合部206を備える。
【0038】
また、発光部200の回路構成は、図2に示すように、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205d、波長走査駆動信号発生部207、第1高周波変調信号発生部208a、第2高周波変調信号発生部208b、第3高周波変調信号発生部208c、第4高周波変調信号発生部208d、第1電流制御部209a、第2電流制御部209b、第3電流制御部209c、第4電流制御部209d、第1温度制御部210a、第2温度制御部210b、第3温度制御部210c、第4温度制御部210d、第1サーミスタ211a、第2サーミスタ211b、第3サーミスタ211c、第4サーミスタ211d、第1ペルチェ素子212a、第2ペルチェ素子212b、第3ペルチェ素子212c、第4ペルチェ素子212dを備える。
【0039】
受光部300は、ガスの吸光特性により吸収された検出光を受光し、ガス濃度を検出するユニットである。
また、受光部300の機械的構造は、図1に示すように、フランジ301、窓部302、調整用フランジ303、収納部304、集光レンズ305、センサ部306、信号処理回路307を備える。
また、受光部300の回路構成は、図3に示すように、センサ部306、信号処理回路307を備える。
【0040】
センサ部306は、詳しくは図3に示すように、フォトダイオード308、I/V変換部309を備える。
信号処理回路307は、詳しくは図3に示すように、第1参照信号発生部310a、第2参照信号発生部310b、第3参照信号発生部310c、第4参照信号発生部310d、第1同期検波部311a、第2同期検波部311b、第3同期検波部311c、第4同期検波部311d、第1フィルタ312a、第2フィルタ312b、第3フィルタ312c、第4フィルタ312dを備える。
多成分対応レーザ式ガス分析計100の発光部200と、受光部300と、はこのようなものである。
【0041】
次に発光部200の構成や動作の詳細について説明する。
フランジ201は、図1に示すように、測定したいガスが通流する煙道など配管の壁410に溶接などで固定される。フランジ201の内部には貫通孔が形成される。
窓部202は、光が透過する材料にて形成され、フランジ201の貫通孔を塞ぐように配置されてガス成分が漏れないようにしている。
光軸調整用の調整用フランジ203は、フランジ201と収納部204との間に介在して配置されており、フランジ201に対して発光部200の位置や角度等が調節可能なように収納部204を取り付ける。これにより壁410に対して発光部200は光軸調整可能に設置される。後述するが発光部200からの検出光が受光部300にて確実に受光されるように調整される。
【0042】
収納部204は、その内部に、図1で示すような、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205d、光軸結合部206を収納している。また、図2で示す回路構成のうち少なくとも第1サーミスタ211a、第2サーミスタ211b、第3サーミスタ211c、第4サーミスタ211d、第1ペルチェ素子212a、第2ペルチェ素子212b、第3ペルチェ素子212c、第4ペルチェ素子212dを収容している。
【0043】
なお、波長走査駆動信号発生部207、第1高周波変調信号発生部208a、第2高周波変調信号発生部208b、第3高周波変調信号発生部208c、第4高周波変調信号発生部208d、第1電流制御部209a、第2電流制御部209b、第3電流制御部209c、第4電流制御部209d、第1温度制御部210a、第2温度制御部210b、第3温度制御部210c、第4温度制御部210dについては収納部204内に収納しても良く、また、収納部204内からリード線を引き出して図示しない他の回路収納部内に収容しても良い。
【0044】
第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dは、本発明の4個の発光部に相当するものであり、これらにより発光手段を構成している。第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dは、例えばDFBレーザ(Distributed Feedback laser)、もしくはVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)と言われるレーザダイオード(以下LDとする)である。これらLDは、レーザ光波長がガスの吸光特性に一致する近赤外領域にて発光が可能であり、かつ、温度と注入電流により発光波長が変化することが一般的に知られている。なお、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dは、電流と温度により、発光波長を可変できるものであればよく、他の発光素子でも同様な動作ができればよい。測定するガス1成分につき1個の発光素子が必要であり、4個のLDを採用することで4成分を計測可能としている。
【0045】
例えば、図7のような吸収特性を有する4種類のガス種(a:NH,b:HCl、c:NS,d:CH)を測定する場合、4種類のガスの吸光特性を有する波長がいずれも1600nm〜2000nmの範囲であるため、1600nm〜2000nm程度のレーザ光波長を有する。なお、後述するが、第1電流制御部209aにより駆動制御された第1レーザ素子205aは第1検出光を出力する。同様に第2電流制御部209bにより駆動制御された第2レーザ素子205bは第2検出光を、第3電流制御部209cにより駆動制御された第3レーザ素子205cは第3検出光を、第4電流制御部209dにより駆動制御された第4レーザ素子205dは第4検出光をそれぞれ出力する。
【0046】
光軸結合部206は、本発明の光軸結合手段に相当するものであり、具体的にはプリズム型ミラーである。光軸結合部206は、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dから出射したレーザ光による第1,第2、第3、第4検出光を通過させると角度を変換しつつ同軸上に合成した検出光を出射する機能を有する。
【0047】
波長走査駆動信号発生部207は、ある測定対象ガスの吸光波長を含む測定範囲を走査するように第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dの発光波長を可変とするための波長走査駆動信号を出力する。ここで、波長走査駆動信号発生部207の出力する波長走査駆動信号とは、図4(a)に示すように、一定周期で繰り返されるほぼ台形波状の信号である。なお、波長走査駆動信号は4種類のガス種(a:NH,b:HCl、c:NS,d:CH)の測定に共通して用いられる。以下の説明ではNHを測定対象ガスとする測定を説明する。
【0048】
図4(a)において、吸光波長を走査する信号S2は、第1電流制御部209aを介して第1レーザ素子204aのLDに供給される電流の大きさを直線的に変えることにより、第1レーザ素子204aのLDの発光波長を徐々にずらしていく(図9(a)参照)というものであり、NH(アンモニア)ガスでは、0.2nm程度の線幅を走査可能とする部分である。
【0049】
また、S1は、吸光波長は走査しないが第1レーザ素子204aのLDを発光させておくオフセット部分であり、第1レーザ素子204aのLDの発光が安定するスレッショルド電流値以上の値にしておく。
更に、S3は駆動電流をほぼ0mAにした部分である。
このような波長走査駆動信号が波長走査駆動信号発生部207から出力される。
【0050】
第1高周波変調信号発生部208a、第2高周波変調信号発生部208b、第3高周波変調信号発生部208c、第4高周波変調信号発生部208dは、ガス濃度を検出する各々のレーザ素子の発光波長を変調する高周波変調信号を出力する。ここにそれぞれ異なる測定対象ガスの吸光波長を検出するために、第1高周波変調信号発生部208a、第2高周波変調信号発生部208b、第3高周波変調信号発生部208c、第4高周波変調信号発生部208dは、それぞれ10kHz,12.5kHz,15kHz,17.5kHz程度で波長幅を0.02nmとした正弦波である第1,第2,第3,第4高周波変調信号を出力する。なお、図4(b)では10kHzの正弦波である第1高周波変調信号のみ図示しているが、12.5kHz,15kHz,17.5kHzの正弦波は周波数のみ異なるものであり、図示を省略している。
【0051】
第1電流制御部209a、第2電流制御部209b、第3電流制御部209c、第4電流制御部209dは、LDを駆動する電流信号を出力する。
第1電流制御部209aは、波長走査駆動信号発生部207からの波長走査駆動信号と、第1高周波変調信号発生部208aからの第1高周波変調信号を重畳させて第1駆動信号を生成し、この第1駆動信号を電流に変換して第1電流駆動信号として出力する。第1レーザ素子205aは、第1電流駆動信号に駆動されてレーザ光による第1検出光を照射する。波長走査駆動信号発生部207、第1高周波変調信号発生部208a、第1電流制御部209aとで第1電流駆動部を構成する。
【0052】
第2電流制御部209bは、波長走査駆動信号発生部207からの波長走査駆動信号と、第2高周波変調信号発生部208bからの第2高周波変調信号を重畳させて第2駆動信号を生成し、この第2駆動信号を電流に変換して第2電流駆動信号として出力する。第2レーザ素子205bは、第2電流駆動信号に駆動されてレーザ光による第2検出光を照射する。波長走査駆動信号発生部207、第2高周波変調信号発生部208b、第2電流制御部209bとで第2電流駆動部を構成する。
【0053】
第3電流制御部209cは、波長走査駆動信号発生部207からの波長走査駆動信号と、第3高周波変調信号発生部208cからの第3高周波変調信号を重畳させて第3駆動信号を生成し、この第3駆動信号を電流に変換して第3電流駆動信号として出力する。第3レーザ素子205cは、第3電流駆動信号に駆動されてレーザ光による第3検出光を照射する。波長走査駆動信号発生部207、第3高周波変調信号発生部208c、第3電流制御部209cとで第3電流駆動部を構成する。
【0054】
第4電流制御部209dは、波長走査駆動信号発生部207からの波長走査駆動信号と、第4高周波変調信号発生部208dからの第4高周波変調信号を重畳させて第4駆動信号を生成し、この第4駆動信号を電流に変換して第4電流駆動信号として出力する。第4レーザ素子205dは、第4電流駆動信号に駆動されてレーザ光による第4検出光を照射する。波長走査駆動信号発生部207、第4高周波変調信号発生部208d、第4電流制御部209dとで第4電流駆動部を構成する。
これら第1,第2,第3,第4電流駆動部は、本発明の電流駆動手段の一具体例となっている。
【0055】
続いて、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dの温度調整に用いる構成について説明する。温度が変化すると図9(b)でも示したように第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dの発光する光の波長も変化するが、本発明では波長の制御は電流のみによるものとするため、温度を一定に制御するものである。
【0056】
第1温度制御部210a、第2温度制御部210b、第3温度制御部210c、第4温度制御部210dは、温度を制御する回路である。
第1サーミスタ211a、第2サーミスタ211b、第3サーミスタ211c、第4サーミスタ211dは、本発明の温度検出部の一具体例に相当するものであり、温度に応じて抵抗値が変化する機能を有し、抵抗の変化により温度の変化を検出できる温度検出素子である。
第1ペルチェ素子212a、第2ペルチェ素子212b、第3ペルチェ素子212c、第4ペルチェ素子212dは、本発明の加熱冷却部の一具体例に相当するものであり、吸熱により冷却するための温度調整素子である。
【0057】
第1温度制御部210aは、第1サーミスタ211a、第1ペルチェ素子212aが接続される。第1レーザ素子205aに近接して温度検出素子としての第1サーミスタ211aが配置され、また、この第1サーミスタ211aには第1ペルチェ素子212aが近接して配置されている。第1温度制御部210aは、第1サーミスタ211aの抵抗値が一定値になるようにPID制御等でよって第1ペルチェ素子212aを制御し、結果として第1レーザ素子205aの温度を安定化させて第1レーザ素子205aから出射する光波長は電流の変化のみによるようにする。第1温度制御部210aは、第1サーミスタ211a、第1ペルチェ素子212aで第1温度安定化部となり、第1レーザ素子205aの温度安定化を行う。
【0058】
第2温度制御部210bは、第2サーミスタ211b、第2ペルチェ素子212bが接続される。先の説明と同様に温度制御がなされる。第2温度制御部210bは、第2サーミスタ211b、第2ペルチェ素子212bで第2温度安定化部となり、第2レーザ素子205bの温度安定化を行う。
第3温度制御部210cは、第3サーミスタ211c、第3ペルチェ素子212cが接続される。先の説明と同様に温度制御がなされる。第3温度制御部210cは、第3サーミスタ211c、第3ペルチェ素子212cで第3温度安定化部となり、第3レーザ素子205cの温度安定化を行う。
第4温度制御部210dは、第4サーミスタ211d、第4ペルチェ素子212dが接続される。先の説明と同様に温度制御がなされる。第4温度制御部210dは、第4サーミスタ211d、第4ペルチェ素子212dで第4温度安定化部となり、第4レーザ素子205dの温度安定化を行う。
これら第1,第2,第3,第4温度安定化部は、本発明の温度安定化手段の一具体例となっている。
【0059】
続いて発光部200の一連の発光動作について説明する。まず、事前に温度校正が行われる。
第1温度制御部では以下のように調整が行われる。第1レーザ素子204aの温度を第1サーミスタ211aにより検出し、図4(a)に示した波長走査駆動信号のS2の中心部分で測定対象ガス(例えばNHガス)が測定できる(所定の吸光特性が得られる)ように、第1温度制御部210aにより第1ペルチェ素子212aの通電を制御して第1レーザ素子204aの温度を調整する。
第1温度安定化部について説明し、第2,第3,第4温度安定化部については同じであるものとして重複する説明を省略する。
【0060】
第1レーザ素子205aからの検出光は図4(c)で示すようになる。なお、図4(c)では、高周波変調信号の周波数を10kHz、波長走査駆動信号の周波数を50Hzとしてあり、λはオフセットに相当する波長、λ,λはNHガスの吸光波長に相当する走査範囲の上下限値を示している。第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dも周波数が異なる以外は同様の原理である。
【0061】
このような発光部では、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dがそれぞれ光を出射すると、光軸結合部206で4本の光線である第1,第2,第3,第4検出光である検出光が同じ光軸上を通過するように光軸結合する。光軸結合された光線である検出光は窓部202を通過して煙道内を照射する。壁410,420の内部の測定対象ガスが存在する空間を検出光が透過すると、この検出光は吸収を受けることとなる。
発光部200はこのようなものである。
【0062】
続いて受光部300について説明する。
フランジ301は測定したいガスが通流する煙道など配管の壁420に溶接などで固定される。フランジ301の内部には貫通孔が形成される。
窓部302は、光が透過する材料にて形成され、貫通孔を塞ぐことでガス成分が漏れないようにしている。
光軸調整用の調整用フランジ303は、フランジ301と収納部304との間に介在して配置されており、フランジ301に対して受光部300の位置や角度等が調節可能なように収納部304を取り付ける。これにより壁420に対して受光部300は光軸調整可能に設置される。受光部200と受光部300とは、発光部200からの検出光が受光部300で最大の受光光量になるように調整されている。
【0063】
収納部304はその内部に、図1で示すような、集光レンズ305、センサ部306、信号処理回路307を収納している。また、図3で示す回路構成のフォトダイオード308、I/V変換部309、第1参照信号発生部310a、第2参照信号発生部310b、第3参照信号発生部310c、第4参照信号発生部310d、第1同期検波部311a、第2同期検波部311b、第3同期検波部311c、第4同期検波部311d、第1フィルタ312a、第2フィルタ312b、第3フィルタ312c、第4フィルタ312dを備える。なお、信号処理回路307については収納部304内からリード線を引き出して図示しない他の回路収納部内に収容しても良い。
【0064】
フォトダイオード308は、第1レーザ素子205a、第2レーザ素子205b、第3レーザ素子205c、第4レーザ素子205dの全てのレーザ光線の発光波長に感度を持つ受光素子が使用される。例えば、図7のような吸収特性を有する4種類のガス種(a:NH,b:HCl、c:NS,d:CH)を測定する場合、それぞれのガスの吸光特性を有する波長が1600nm〜2000nmの範囲のため、フォトダイオード308は1600nm〜2000nmの波長感度を持つ図5のような特性を持つ素子を用いればよい。このような素子としては、例えば、浜松ホトニクスから販売されているG8372−01などがある。
I/V変換部309は、このセンサ部306からの電流信号による検出信号をI−V変換により電圧信号による検出信号に変換する。
【0065】
第1参照信号発生部310a、第2参照信号発生部310b、第3参照信号発生部310c、第4参照信号発生部310dは、参照用の信号を発生する機能を有している。
第1参照信号発生部310aは、第1高周波変調信号発生部208aの第1高周波変調信号の周波数fを2倍にした2f信号(2倍波信号)である第1参照信号を発生する。
第2参照信号発生部310bは、第2高周波変調信号発生部208bの第2高周波変調信号の周波数fを2倍にした2f信号(2倍波信号)である第2参照信号を発生する。
【0066】
第3参照信号発生部310cは、第3高周波変調信号発生部208cの第3高周波変調信号の周波数fを2倍にした2f信号(2倍波信号)である第3参照信号を発生する。
第4参照信号発生部310dは、第3高周波変調信号発生部208dの第4高周波変調信号の周波数fを2倍にした2f信号(2倍波信号)である第4参照信号を発生する。
【0067】
第1,第2,第3,第4高周波変調信号は、それぞれ10kHz,12.5kHz,15kHz,17.5kHz程度の正弦波・矩形波などの参照波であるため、第1,第2,第3,第4参照信号は第1,第2,第3,第4高周波変調信号の2倍周波数の参照波となり、それぞれ20kHz,25kHz,30kHz,35kHzとなる。
【0068】
第1同期検波部311a、第2同期検波部311b、第3同期検波部311c、第4同期検波部311dは、検出信号を同期検波することで同期検波信号を出力する機能を有している。
第1フィルタ312a、第2フィルタ312b、第3フィルタ312c、第4フィルタ312dは、同期検波信号からノイズ成分をフィルタリングする機能を有している。
【0069】
第1同期検波部311aは、I/V変換部309からの検出信号と、第1参照信号発生部310aからの第1参照信号とが入力されて、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが検出信号から抽出された第1同期検波信号が出力される。第1参照信号発生部310a、第1同期検波部311aで本発明の第1同期検波部を構成する。この検波信号は図4(d),図6の第1同期検波部311aからの出力波形となる。そして、第1フィルタ312aがこの検波信号に対してフィルタリングを行ってノイズが除去され、適宜増幅した上で、最終的な第1検波信号を出力する。
【0070】
第2同期検波部311bは、I/V変換部309からの検出信号と、第2参照信号発生部310bからの2f信号(2倍波信号)とが入力されて、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが検出信号から抽出された第2同期検波信号が出力される。第2参照信号発生部310b、第2同期検波部311bで第2同期検波部を構成する。そして、第2フィルタ312bがこの検波信号に対してフィルタリングを行ってノイズが除去され、適宜増幅した上で、最終的な第2検波信号を出力する。
【0071】
第3同期検波部311cは、I/V変換部309からの検出信号と、第3参照信号発生部310cからの2f信号(2倍波信号)とが入力されて、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが検出信号から抽出された第3同期検波信号が出力される。第3参照信号発生部310c、第3同期検波部311cで第3同期検波部を構成する。そして、第3フィルタ312cがこの検波信号に対してフィルタリングを行ってノイズが除去され、適宜増幅した上で、最終的な第3検波信号を出力する。
【0072】
第4同期検波部311dは、I/V変換部309からの検出信号と、第4参照信号発生部310dからの2f信号(2倍波信号)とが入力されて、出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが検出信号から抽出された第4検波信号が出力される。第4参照信号発生部310d、第4同期検波部311dで第4同期検波部を構成する。そして、第4フィルタ312dがこの検波信号に対してフィルタリングを行ってノイズが除去され、適宜増幅した上で、最終的な第4検波信号を出力する。
これら第1,第2,第3,第4同期検波部は、本発明の同期検波手段の一具体例となっている。
【0073】
信号処理回路307は本発明の分析手段に相当する分析部(図示せず)を内蔵しておりは、分析部は得られた第1,第2,第3,第4同期検波信号を用いて分析部(図示せず)がガス濃度を分析する。
【0074】
続いて受光部300の一連の受光動作について説明する。
測定ガスを透過した検出光は、窓部302を経て、集光レンズ305へ到達する。集光レンズ305により集光された光は、センサ部306のフォトダイオード308へ入射させる。検出光は同軸上でフォトダイオード308へ入射するのでフォトダイオード308は1個で受光できる。フォトダイオード308からの電流信号による検出信号はI/V変換部309により電圧信号による検出信号に変換されて第1同期検波部311a、第2同期検波部311b、第3同期検波部311c、第4同期検波部311dへ出力される。
【0075】
第1同期検波部311aは、第1参照信号発生部310aからの第1参照信号を用いて変換された検出信号を同期検波して変調信号の2倍周波数成分である第1同期検波信号を出力に得る。
【0076】
測定対象ガスによるレーザ光の吸収が無い場合は、図3の第1同期検波部311aによって2倍数信号による吸光特性が検出されないので、第1同期検波部311aの出力である第1同期検波信号はほぼ直線となる。この場合測定対象のガスがないと判定される。
一方、測定対象ガス、例えば、NHのガス成分のによる検出光の吸光がある場合は、第1同期検波部311aによって2倍周波数信号による第1同期検波信号(吸光特性)が検出される。その出力波形は図4(d),図6に示すようになる。
【0077】
同様に、第2同期検波部311b、第3同期検波部311c、第4同期検波部311dもそれぞれ2倍周波数成分である第2,第3,第4同期検波信号を出力に得る。
その後、第1フィルタ312a、第2フィルタ312b、第3フィルタ312c、第4フィルタ312dによりノイズ除去、信号増幅などを行う。
【0078】
信号処理回路307は、得られた第1検波信号を用いて計測処理部(図示せず)がガス濃度を分析する。この波形のピーク値が測定対象ガスの濃度に相当するため、ピーク振幅値を測定するか、あるいは波形の一部または全部を積分してその積分値から測定対象ガスの濃度を検出すればよい。
【0079】
このような吸光特性は、第2,第3,第4同期検波信号でも同様である。第1,第2,第3,第4同期検波信号は、それぞれ測定対象とするガスの吸光特性を表す。すなわち第1同期検波信号がNHの吸光特性を、第2同期検波信号がHClの吸光特性を、第3同期検波信号がNSの吸光特性を、第4同期検波信号がCHの吸光特性を表す。
多成分対応レーザ式ガス分析計100はこのようなものである。
【0080】
以上のように、吸光波長を検出する変調信号の周波数を測定するガス毎に変え、検出するガスの吸光波長に感度を持つ受光素子を用いることにより、複数台用いることなく一台で複数種類のガス濃度を測定することが可能となる。
【0081】
なお、本形態では単なる板状の窓部202,302を用いるものとして説明した。しかしながら窓部202,302に代えてコリメートレンズ(図示せず)を配置するようにしても良い。光軸結合部206から出射したレーザ光はコリメートレンズによって平行光にコリメートされ、フランジ201の中心を通って壁410,420の内部(煙道内部)へ入射される。平行光は、壁410,420の内部にある測定対象ガスを透過する際に吸収を受けることとなる。このような構成を採用しても良い。
【0082】
以上説明した本実施形態によれば、光源部によりレーザ素子の発光波長を所定範囲にわたって走査することにより、参照ガスセルを用いなくても測定対象ガスによる吸光波長を検出することができる。
従来技術では、測定対象ガスによる吸収を特定波長における受光信号の振幅のみから検出していたが、本実施形態では、吸収波形の全体を検出することでレーザ素子の発光波長を固定する必要が無くなり、検出感度が安定化して測定精度が向上するといった効果が得られる。
また、複数のガス濃度をを検出する場合でも、複数のレーザ素子は異なる変調周波数で動作させているので、各ガス濃度は、単体の受光装置により検出された信号から各々の変調波の2倍周波数成分を検出することにより測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の多成分対応レーザ式ガス分析計の構成図である。
【図2】発光部の回路ブロック図である。
【図3】受光部の回路ブロック図である。
【図4】信号の特性図であり、図4(a)は波長走査駆動信号を示す図、図4(b)は第1高調波変調信号を示す図、図4(c)は第1レーザ素子の出力波形を示す図、図4(d)は第1同期検波部の出力波形を示す図である。
【図5】フォトダイオードの波長感度を示す特性図である。
【図6】出力の写真であり、図6(a)はフォトダイオードから出力される検出信号を示す図、図6(b)は第1同期検波回からの第1同期検波信号を示す図である。
【図7】ガス固有の光吸収スペクトルを説明する説明図であり、図7(a)はNH(アンモニア)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(b)はHCl(塩化水素)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(c)はHS(硫化水素)ガスの吸収スペクトラム例を示す図、図7(d)はCH(メタン)ガスの吸収スペクトラム例を示す図である。
【図8】周波数変調方式の原理図である。
【図9】半導体レーザの発光波長の変化を示す図であり、図9(a)はドライブ電流による波長変化を示す図、図9(b)は温度による波長変化を示す図である。
【図10】特許文献2に記載されたガス濃度測定装置の全体的な構成を示す図である。
【図11】ガス濃度測定装置の主要部の構成図である。
【符号の説明】
【0084】
100:多成分対応レーザ式ガス分析計
200:発光部
201:フランジ
202:窓部
203:調整用フランジ
204:収納部
205a:第1レーザ素子
205b:第2レーザ素子
205c:第3レーザ素子
205d:第4レーザ素子
206:光軸結合部
207:波長走査駆動信号発生部
208a:第1高周波変調信号発生部
208b:第2高周波変調信号発生部
208c:第3高周波変調信号発生部
208d:第4高周波変調信号発生部
209a:第1電流制御部
209b:第2電流制御部
209c:第3電流制御部
209d:第4電流制御部
210a:第1温度制御部
210b:第2温度制御部
210c:第3温度制御部
210d:第4温度制御部
211a:第1サーミスタ
211b:第2サーミスタ
211c:第3サーミスタ
211d:第4サーミスタ
212a:第1ペルチェ素子
212b:第2ペルチェ素子
212c:第3ペルチェ素子
212d:第4ペルチェ素子
300:受光部
301:フランジ
302:調整用フランジ
303:収納部
304:窓部
305:集光レンズ
306:センサ部
307:信号処理回路
308:フォトダイオード
309:I/V変換部
310a:第1参照信号発生部
310b:第2参照信号発生部
310c:第3参照信号発生部
310d:第4参照信号発生部
311a:第1同期検波部
311b:第2同期検波部
311c:第3同期検波部
311d:第4同期検波部
312a:第1フィルタ
312b:第2フィルタ
312c:第3フィルタ
312d:第4フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電流の変化に応じて発光波長が変化するレーザ素子を用いてn種のガスを測定する多成分対応レーザ式ガス分析計において、
測定対象ガスの吸光波長を含む波長走査範囲を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とするための波長走査駆動信号と、発光波長を変調するための高周波変調信号と、を入力し、波長走査駆動信号と高周波変調信号とを合成した駆動信号を電流駆動信号に変換して出力する電流駆動部をn種のガス別にn個備えてなる電流駆動手段と、
電流駆動部から出力された電流駆動信号に応じて発光して検出光を出射する発光部をn種のガス別にn個備えてなる発光手段と、
この発光部の温度を安定化させる温度安定化部をn個の発光部別にn個備えてなる温度安定化手段と、
n個の発光部から出射したn本の検出光を同一の光軸上で合成して検出光を測定対象ガス空間へ出射させる光軸結合手段と、
測定対象ガス空間を伝播した検出光を集光して出射する集光手段と、
n種の検出光の全波長に対して感度を有し、集光した検出光の波長に応じた検出信号を出力する受光手段と、
高周波変調信号の2倍周波数である参照信号を用いて検出信号を同期検波して2倍周波数成分の同期検波信号を出力する同期検波部をn種のガス別にn個備えてなる同期検波手段と、
n種のガス別の同期検波信号を用いて所望の測定対象ガスの有無および/または所望の測定対象ガスの濃度を測定分析する分析手段と、
を備えることを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項2】
請求項1に記載の多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記電流駆動手段は、測定対象ガスの吸光波長を含む測定範囲を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とするための波長走査駆動信号を出力する波長走査駆動信号発生部と、発光波長を変調するための高周波変調信号を出力する高周波変調信号発生部と、波長走査駆動信号と高周波変調信号とを入力して合成により駆動信号を生成し、この駆動信号を電流駆動信号に変換して出力する電流制御部と、からなる電流駆動部をn種のガス別にn個備えてなる手段であることを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記温度安定化手段は、発光部の温度を検出する温度検出部と、温度検出部からの温度検出信号を受けて発光部を一定温度とする温度駆動信号を出力する温度制御部と、発光部の温度を調整する加熱冷却部と、からなる温度安定化部をn個の発光部別にn個備えてなる手段であることを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記同期検波手段は、高周波変調信号の2倍周波数である参照信号を出力する参照信号発生部と、参照信号を用いて検出信号を同期検波して2倍周波数成分の同期検波信号を出力する同期検波部と、をn種のガス別にn個備えてなる手段であることを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記波長走査駆動信号の波形は、オフセットを有し、かつ前記レーザ素子への供給電流を直線的に変化させて前記レーザ素子の発光波長を徐々に変化させる部分を有すると共に、一定周期で繰り返される波形であり、
前記オフセットは、前記レーザ素子のスレッショルド電流値以上の電流を前記レーザ素子に供給するような値であることを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記分析手段は、
前記同期検波信号の少なくとも一部を積分し、その積分値を測定対象ガスの濃度として検出することを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。
【請求項7】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載した多成分対応レーザ式ガス分析計において、
前記分析手段は、
前記同期検波信号のピーク値を測定対象ガスの濃度として検出することを特徴とする多成分対応レーザ式ガス分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−268064(P2008−268064A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112994(P2007−112994)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】