説明

多方向入力装置

【課題】傾動操作およびセンタープッシュ操作が可能で小型化も容易な多方向入力装置を提供すること。
【解決手段】基台1の上面側の第1の主面1aにはセンタープッシュ操作用の接点対11,12が配設されると共に導電性の反転ばね3が搭載され、下面側の第2の主面1bには傾動操作用の複数組の接点対13,14が周方向に分散して配設されている。反転ばね3のドーム形状部3a上には押圧ノブ8を介して操作部材9が傾動可能に支持されている。また、第2の主面1bに対向して感圧導電ゴム5が配置されていると共に、操作部材9の牽引部9cと駆動部材7のフック部7cとが連結部材10を介して連結されている。傾動操作時に操作部材9の径方向一端側が下動すると他端側に存する牽引部9cが上動してフック部7cを牽引するため、このフック部7cの近傍で駆動部材7の弾性板部7bが弾性変形して加圧部7eが下方から感圧導電ゴム5を局部的に加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器のリモコンや携帯電話機などに使用して好適な多方向入力装置に係り、特に、感圧導電ゴムを圧縮させてアナログ信号を出力させる傾動操作と反転ばねを反転させてオン信号を出力させるセンタープッシュ操作とが行える多方向入力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の多方向入力装置として、基台(ウェハ)の内底面の外周部に傾動操作用の接点対を周方向に4組分散して配設し、各接点対と操作部材(キートップ)との間にそれぞれ感圧導電ゴムを介在させると共に、基台の該内底面の中央部にセンタープッシュ操作用の接点対(中央固定接点および共通固定接点)と導電性の反転ばねとを配設した構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる従来の多方向入力装置では、傾動操作された操作部材がその操作方向で感圧導電ゴムを加圧して圧縮すると、圧縮量に応じて内部抵抗が変化する感圧導電ゴムが所定の接点対に圧接することにより、これら接点対を構成する固定接点どうしの導通状態が感圧導電ゴムの圧縮量に応じて変化する。これにより、操作部材の傾動操作方向を検出できるのみならず、傾動角度に応じたアナログ信号を出力させることができるため、例えばスクロール画面やカーソル等の移動速度をアナログ的に無段階調整できるようになる。また、かかる従来の多方向入力装置では、反転ばね上に搭載された操作レバーが操作部材の中央部を貫通して上方に延びており、反転ばねは共通固定接点と常時接触して中央固定接点と接離可能に対向しているため、操作レバーを下方へ押し込むセンタープッシュ操作を行って反転ばねを反転(座屈変形)させると、この反転ばねを介して中央固定接点と共通固定接点とが導通されてオン信号を出力させることができ、かつ反転ばねの反転に伴うクリック感が得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−278695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来例のように、基台の内底面に傾動操作用の複数組の接点対とセンタープッシュ操作用の接点対および反転ばねを配設している多方向入力装置では、これら複数の接点対を構成する固定接点群を所要の間隔を存して配設し、かつ反転ばねとして長寿命な大きさのものを使用するために、基台の内底面に広い面積が必要である。それゆえ、基台が大径化してしまい、入力装置の小型化が図りにくいという問題があった。
【0005】
また、特許文献1には記載されていないが、傾動操作の途中で反転ばねを反転させてクリック感が得られるようにしておけば、傾動操作が確実に行えたか否かをクリック感の有無によって確認することが可能となって便利である。しかしながら、かかる従来例では、傾動操作時に操作部材を押し込む力点付近で感圧導電ゴムが圧縮されていくので、傾動操作の途中で反転ばねが反転しても、操作部材に加わる感圧導電ゴムの反力によってクリック感が弱められてしまい、よって明瞭なクリック感を感得することは困難であると思われる。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、傾動操作とセンタープッシュ操作が可能で小型化も容易な多方向入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の多方向入力装置は、センタープッシュ操作時に駆動されて反転動作する導電性の反転ばねと、傾動可能に支持された操作部材と、前記反転ばねが搭載される第1の主面に該反転ばねを介して導通可能な第1の接点対を配設すると共に、前記第1の主面と反対側の第2の主面に複数組の第2の接点対を周方向に分散配設した基台と、前記第2の接点対に対向して配置された感圧導電ゴムと、傾動操作された前記操作部材に駆動されて前記感圧導電ゴムを前記第2の主面に向けて加圧する駆動部材と、を備えた構成にした。
【0008】
このように構成された多方向入力装置では、センタープッシュ操作用の第1の接点対と傾動操作用の複数組の第2の接点対とが基台の相異なる主面(第1および第2の主面)に分散して配設されているため、基台を大径化しなくても第1および第2の接点対を無理なく配設できて入力装置の小型化が図りやすくなる。また、傾動操作用の接点対と反転ばねとが干渉する虞がないため、反転ばねとして長寿命な大きさのものを無理なく使用することができて信頼性が高まる。
【0009】
上記の構成において、操作部材は反転ばねの反力に抗して傾動操作され、該操作部材を所定角度傾動させることによって該反転ばねが反転するようにしてあることが好ましい。こうすることによって、傾動操作の途中で反転ばねが反転するときに、操作部材の傾動支点付近に感圧導電ゴムの反力を加えることができるので、反転動作によって生起されるクリック感がさほど弱くならず、明瞭なクリック感を感得できることになる。その結果、傾動操作が確実に行えたか否かをクリック感の有無によって容易に確認できる使い勝手の良い多方向入力装置が得られる。
【0010】
また、上記の構成において、感圧導電ゴムはその全周に亘って基台の第2の主面と対向する環状に形成されていることが好ましく、このようにすると、複数の感圧導電ゴムを周方向に分散して配設する場合に比べて、部品点数を削減できて組立性も向上する。
【0011】
また、上記の構成において、駆動部材が、操作部材に牽引されるフック部と、感圧導電ゴムを加圧する加圧部と、基台に取着される取付部とが形成された金属板からなり、フック部が牽引されるときに、該フック部と取付部との間で駆動部材が弾性変形するようにしてあると、取付部を利用して駆動部材を基台の所定位置に取り付けることが容易になると共に、前記操作部材の傾動操作時に駆動部材の弾性変形を利用して加圧部で感圧導電ゴムを大きく圧縮させることが容易になるため好ましい。この場合において、駆動部材が、複数のフック部と複数の加圧部と複数の取付部とがそれぞれ周方向に分散されている略環状の1枚の金属板からなると、部品点数を削減できて組立性も向上するため好ましい。また、感圧導電ゴムと対向する環状に形成された平板部材を備え、この平板部材を駆動部材のうち加圧部を含む領域と感圧導電ゴムとの間に介在させておけば、駆動部材の弾性変形によって加圧部に撓みが生じた場合にも、平板部材によって感圧導電ゴムの所望領域に略均等な加圧力を付与できるため、信頼性が高まる。
【0012】
また、上記の構成において、操作部材の外周部と駆動部材の外周部とを上下動可能に連結する環状の連結部材を備え、傾動操作された操作部材が連結部材を介して駆動部材を牽引するようにしてあると、傾動操作時に操作部材の径方向一端側で連結部材の下動が規制された後に、この操作部材の一端側をさらに下動させて他端側で駆動部材をさらに牽引することができるため、薄型でありながら感圧導電ゴムを大きく圧縮させることができる多方向入力装置が得られる。ただし、薄型化が強く要望されていない場合には、連結部材を省略して操作部材が駆動部材を直接牽引する構成にしてもよい。
【0013】
また、上記の構成において、鍔部を有して反転ばね上に搭載された押圧ノブを備え、操作部材の中央部に開設された開口の周縁部を該鍔部に係合させることによって、該操作部材が押圧ノブを介して反転ばねに支持されていると、押圧ノブを押下するセンタープッシュ操作時に誤って操作部材を傾動操作してしまう可能性が低くなるため、誤操作を防止しやすくなる。ただし、操作部材の中央部に突設した押圧突起を押下してセンタープッシュ操作を行うようにしてもよい。
【0014】
また、上記の構成において、第2の主面に配設されて第2の接点対を構成する一方の固定接点が接地用の共通固定接点であり、かつ他方の固定接点を該共通固定接点に対して第1の主面側へずらした位置に配設することによって、この他方の固定接点と非操作時の感圧導電ゴムとの間にクリアランスを確保しておけば、操作部材をある程度傾動させない限り第2の接点対が感圧導電ゴムによって導通されることはなくなるため、操作部材に軽く手が触れただけで不所望なアナログ信号が出力されてしまう虞がなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多方向入力装置は、センタープッシュ操作用の第1の接点対と傾動操作用の複数組の第2の接点対が基台の相異なる主面に配設されているため、基台を大径化しなくても第1および第2の接点対を無理なく配設できて入力装置の小型化が図りやすくなると共に、反転ばねとして長寿命な大きさのものを無理なく使用することができて信頼性が高まる。また、操作部材を所定角度傾動させることによって反転ばねが反転してクリック感が生起されるようにしておけば、傾動操作の途中で反転ばねが反転するときに操作部材の傾動支点付近に感圧導電ゴムの反力を加えることができるため、明瞭なクリック感を生起させることができて使い勝手の良い多方向入力装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態例に係る多方向入力装置の上面図である。
【図2】該入力装置の下面図である。
【図3】該入力装置の側面図である。
【図4】該入力装置の各構成部品を斜め上方から見た分解斜視図である。
【図5】該入力装置の各構成部品を斜め下方から見た分解斜視図である。
【図6】該入力装置の非操作時の断面図である。
【図7】該入力装置の傾動操作時の断面図である。
【図8】該入力装置のセンタープッシュ操作時の断面図である。
【図9】該入力装置で用いた基台の上面図である。
【図10】該基台の下面図である。
【図11】該基台の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態例を図1〜図11を参照しつつ説明する。これらの図に示す多方向入力装置は、上面側の第1の主面1aと下面側の第2の主面1bにそれぞれ接点パターンが配設されている基台(ウェハ)1と、この基台1を抱持して図示せぬ配線基板上に載置固定される板金製の枠体2と、基台1の第1の主面1aに対向して配置された導電性の反転ばね3と、この反転ばね3の外周部上に貼着されて第1の主面1aを封止している封止テープ4と、基台1の第2の主面1bに対向して配置された環状の感圧導電ゴム5と、この感圧導電ゴム5の下面に対向して配置された環状の平板部材6と、基台1に取り付けられて感圧導電ゴム5を第2の主面1bに向けて加圧可能な駆動部材7と、反転ばね3のドーム形状部3a上に搭載された押圧ノブ8と、この押圧ノブ8を介して反転ばね3に傾動可能に支持された操作部材9と、この操作部材9の外周部と駆動部材7の外周部とを連結している環状の連結部材10とによって主に構成されている。この多方向入力装置は、操作部材9を等間隔な4方向(または8方向)へ傾動させて傾動操作方向および傾動角度に応じたアナログ信号を出力させるという傾動操作と、押圧ノブ8を押下してオン信号を出力させるというセンタープッシュ操作とが行えるようになっている。
【0018】
基台1は平面視八角形状に形成されており、図2に示すように、枠体2に設けられた複数のかしめ片2aが基台1の外壁部にかしめつけられている。また、図4,5と図9,10に示すように、基台1の外壁部の等間隔な4個所には切欠き部1dが設けられている。基台1の下面側には、中央部に角柱状の支柱部1eが突設されていると共に、この支柱部1eの各側面に沿って係合溝1cが設けられている。基台1の上面側の第1の主面1aには、センタープッシュ操作用の接点対である中央固定接点11と共通固定接点12とが配設されており、中央固定接点11から導出された端子21と接地用の共通固定接点12から導出されたアース端子22は、基台1の相異なる外壁部に配設されている。また、基台1の第2の主面1bには、周方向に沿って等間隔な4個所にそれぞれ、傾動操作用の接点対である周縁固定接点13および共通固定接点14が配設されている。共通固定接点14は基台1の内部でセンタープッシュ操作用の共通固定接点12と導通されている接地用であり、各周縁固定接点13から個別に導出された計4個の端子23は基台1の相異なる外壁部に配設されている。なお、この基台1は、外壁部と支柱部1eとによって図示せぬ配線基板上に安定した姿勢で搭載され、該配線基板上に設けられている接続ランド群に端子21〜23が半田付けされるようになっている。
【0019】
基台1の第1の主面1aには共通固定接点12上に反転ばね3の外周縁部が搭載され、この反転ばね3のドーム形状部3aが中央固定接点11の上方に配置される。つまり、導電性の反転ばね3が、共通固定接点12と常時導通されて中央固定接点11と接離可能に対向するように第1の主面1a上に組み込まれる。また、第1の主面1aの外周部の複数個所には封止テープ4を持ち上げるための突起1fが突設されており、これら突起1fの外側で封止テープ4は枠体2と第1の主面1aとの間に挟着されている(図6参照)。一方、基台1の第2の主面1bにおいて、傾動操作用の各接点対は、1個の共通固定接点14とその両側に近接して位置する2個の周縁固定接点13とからなる。そして、操作部材9が傾動操作されるのに伴い、駆動部材7によって局部的に加圧される感圧導電ゴム5が対をなす所定の周縁固定接点13および共通固定接点14に圧接して両固定接点13,14どうしを導通させるようになっている。ただし、図10と図11に示すように、周縁固定接点13は共通固定接点14に対して第1の主面1a側へずらした位置(つまり第2の主面1b上で一段低い位置)に配設してあり、こうすることによって周縁固定接点13と非操作時の感圧導電ゴム5との間にクリアランスを確保している。なお、傾動操作用の各接点対が周縁固定接点13を2個有する理由は、駆動部材7の加圧位置に若干のばらつきがあっても、感圧導電ゴム5がいずれかの周縁固定接点13と確実に圧接できるようにするためである。
【0020】
感圧導電ゴム5は、基台1の第2の主面1bと平板部材6との間に介在している環状の弾性板状体である。この感圧導電ゴム5は、基台1の支柱部1eに外挿されて傾動操作用の各接点対(周縁固定接点13および共通固定接点14)に圧接可能に対向している。感圧導電ゴム5にはカーボン等の導電粉が充填されているため、その内部抵抗は圧縮量に応じて変化する。すなわち、感圧導電ゴム5を加圧して局部的に圧縮させると、この圧縮部分で内部抵抗が小さくなり、さらに圧縮させると内部抵抗はより小さくなる。
【0021】
平板部材6は、ステンレス板等の板厚が薄くて所要の剛性を有する環状体である。この平板部材6は感圧導電ゴム5とほぼ重なり合う環状に形成されているが、平板部材6のうち感圧導電ゴム5を介して傾動操作用の各接点対と対向する部分は若干幅広になっている(図4,5参照)。
【0022】
駆動部材7はセンタ孔7aを有する略環状の金属板であり、基台1の支柱部1eはセンタ孔7aに遊挿される。この駆動部材7には、四隅に位置する弾性板部7bと、各弾性板部7bの径方向外側および内側に折曲形成されたフック部7cおよび取付部7dと、弾性板部7bどうしを繋ぐ連結桟である加圧部7eとが設けられている。フック部7cは連結部材10を介して操作部材9に牽引される部位であり、取付部7dは基台1の係合溝1cに取着されて位置規制される部位である。そして、フック部7cが操作部材9に牽引されると、フック部7cとその径方向内側に存する取付部7dとの間で弾性板部7bが弾性変形し、それに伴い弾性板部7bに隣接する加圧部7eが平板部材6を介して感圧導電ゴム5を加圧するようになっている。
【0023】
押圧ノブ8は反転ばね3のドーム形状部3a上に搭載されており、その鍔部8aの上動が操作部材9によって規制されているため、下方から反転ばね3に弾性付勢された状態で押圧ノブ8は安定的に支持されている。この押圧ノブ8は操作部材9のセンタ孔9aを貫通して上方へ若干突出しているため、センタープッシュ操作時には押圧ノブ8を所定ストローク押下することによってドーム形状部3aを反転(座屈変形)させることができ、その結果、クリック感が生起された直後にドーム形状部3aが中央固定接点11に当接するようになっている。
【0024】
操作部材9は、押圧ノブ8が挿入されるセンタ孔9aを有する平板状の天板部9bと、天板部9bの四隅から下方へ突設された牽引部9cとによって構成されている。この操作部材9は、各牽引部9cが連結部材10を介して駆動部材7の対応するフック部7cに連結されていると共に、センタ孔9aの周縁部が鍔部8aを介して下方から反転ばね3に弾性付勢されている。そのため、操作部材9は押圧ノブ8を介して反転ばね3上に安定的に支持されており、これら操作部材9と押圧ノブ8は一体的に傾動可能かつ上下動可能である。そして、操作部材9の天板部9bの径方向一端側を押し込んで傾動させると、天板部9bは、押し込まれた側が基台1の第1の主面1aに近接して径方向他端側が第1の主面1aから離隔する(持ち上がる)ため、この持ち上がった側に存する牽引部9cが連結部材10を介して駆動部材7のフック部7cを牽引するようになっている。また、こうして操作部材9を傾動させるのに伴って反転ばね3のドーム形状部3aが押し撓められていくため、操作部材9を所定角度傾動させることによってドーム形状部3aが反転してクリック感が生起されるようになっている。
【0025】
連結部材10は操作部材9よりもひと回り大きな環状体であり、操作部材9の各牽引部9cと対応する4個所にそれぞれ第1連結部10aおよび第2連結部10bを有する。第1連結部10aは上端側で内方へ突設されており、第2連結部10bは下端側で外方へ突設されている。そして、第1連結部10aが操作部材9の牽引部9cに掛止されていると共に、第2連結部10bが駆動部材7のフック部7cに掛止されているため、操作部材9の各牽引部9cと駆動部材7の各フック部7cが連結部材10を介して上下動可能に連結されている。なお、第1および第2連結部10a,10bによって連結されている各牽引部9cと各フック部7cとは基台1の各切欠き部1dに配置されており、この切欠き部1d内で牽引部9cと第1および第2連結部10a,10bとが下動できるようになっている。その際、第1および第2連結部10a,10bは牽引部9cに連動して下動するが、第2連結部10bの下動が規制された後に牽引部9cを第1連結部10aに対してさらに所定量下動させることができる。
【0026】
次に、このように構成された多方向入力装置の動作について説明する。図6に示すように、非操作時には、反転ばね3のドーム形状部3aが押圧ノブ8を上方へ弾性付勢して鍔部8aを操作部材9に押し付けているため、押圧ノブ8や操作部材9はガタのない水平姿勢に保持されている。このとき、感圧導電ゴム5と各周縁固定接点13との間には前記クリアランスが存するため、周縁固定接点13と共通固定接点14とは導通されておらず、かつ、ドーム形状部3aが中央固定接点11から離隔しているため、中央固定接点11と共通固定接点12とは導通されていない。
【0027】
かかる非操作状態でユーザが操作部材9の天板部9bの任意個所を反転ばね3の反力に抗して押し込んで傾動させると、操作部材9はまず、押し込まれた側とは径方向逆側に存する牽引部9c付近を傾動支点として反転ばね3を押し撓めながら傾動していくが、反転ばね3のドーム形状部3aが反転すると押圧ノブ8の下端が傾動支点となるため、操作部材9は径方向一端側の牽引部9cが下動するだけでなく他端側の牽引部9cが上動していく。それゆえ、上動する牽引部9cが連結部材10を介して駆動部材7の対応するフック部7cを牽引し、それに伴いフック部7cに隣接する弾性板部7bが弾性変形して、弾性板部7bに隣接する加圧部7eが平板部材6を介して上方の感圧導電ゴム5を局部的に加圧していく(図7参照)。その結果、操作部材9を押し込んだ位置に応じて規定される所定の接点対(周縁固定接点13および共通固定接点14)に感圧導電ゴム5が圧接して、これら両固定接点13,14どうしを導通させると共に、天板部9bの傾動角度を大きくするほど感圧導電ゴム5の圧縮量が増大して内部抵抗が低下していくため、この圧縮量に応じたアナログ信号が出力される。それゆえ、このアナログ信号に基づいて、操作部材9の傾動操作方向と傾動角度とを検出することができる。また、操作部材9が傾動操作されると、押圧ノブ8も傾動して反転ばね3のドーム形状部3aが押し撓められるため、操作部材9を所定角度傾動させた時点でドーム形状部3aが反転してクリック感が生起される。したがって、傾動操作が確実に行われたか否かをクリック感の有無によって確認することができる。
【0028】
なお、ユーザが任意の牽引部9c付近で天板部9bを押し込んだ場合には、牽引部9cと180度離れて位置する牽引部9cの上動によって弾性変形する弾性板部7bの両側で、2つの加圧部7eがそれぞれ感圧導電ゴム5を加圧するため、所定の2組の接点対からそれぞれアナログ信号が出力される。しかるに、ユーザが2つの牽引部9cの間で天板部9bを押し込んだ場合には、これら両牽引部9cと線対象な位置にある残り2つの牽引部9cの上動によって弾性変形する2つの弾性板部7bの間で、1つの加圧部7eが感圧導電ゴム5を加圧するため、所定の1組の接点対からアナログ信号が出力される。したがって、この多方向入力装置は、傾動操作方向を4方向に設定することもできるし、8方向に設定することもできる。
【0029】
また、傾動操作時に反転ばね3のドーム形状部3aが反転すると中央固定接点11に接触してセンタープッシュ操作用のオン信号も出力されるが、このオン信号が検出された時点ですでに傾動操作用のアナログ信号が出力されているため、図示せぬ外部の判定回路によってセンタープッシュ操作用のオン信号は無効と判定(キャンセル)されるようになっている。つまり、この多方向入力装置は、傾動操作用接点機構のオフ状態が確認されたときだけ、センタープッシュ操作用接点機構のオンオフ切換えが行えるように設定されている。
【0030】
また、この多方向入力装置では、操作部材9の牽引部9cと駆動部材7のフック部7cとが連結部材10を介して連結されているため、傾動操作時に操作部材9の径方向一端側で連結部材10の下動が規制された後に、操作部材9の一端側をさらに下動させて他端側で駆動部材7をさらに牽引することができる。それゆえ、この多方向入力装置は、薄型でありながら感圧導電ゴム5を大きく圧縮させることができ、変化量の大きいアナログ信号が得られるようになっている。ただし、薄型化が強く要望されていない場合には、連結部材10を省略して操作部材9が駆動部材7を直接牽引する構成にしてもよい。
【0031】
また、この多方向入力装置では、駆動部材7の加圧部7eを含む領域と感圧導電ゴム5との間にステンレス板等からなる平板部材6を介在させている。これにより、駆動部材7の弾性板部7bの弾性変形によって加圧部7eに撓みが生じた場合にも、平板部材6によって感圧導電ゴム5の所望領域に略均等な加圧力を付与することができるため、信頼性が高まる。
【0032】
なお、こうして傾動操作した後に操作力が取り除かれると、反転していたドーム形状部3aが押圧ノブ8を押し上げながら元の形状に戻るため、押圧ノブ8および操作部材9は元の水平姿勢に戻って図6に示す状態に自動復帰する。その結果、操作部材9の牽引部9cに持ち上げられていた駆動部材7のフック部7cが下動して、感圧導電ゴム5に対する加圧部7eの加圧力が失われるため、感圧導電ゴム5の圧縮部分が元の厚みに戻ると共に周縁固定接点13から離隔し、傾動操作用のアナログ信号は遮断される。
【0033】
また、非操作状態でユーザが押圧ノブ8を所定ストローク押下すると、図8に示すように、センタープッシュ操作を行うことができる。かかるセンタープッシュ操作時には、ユーザに押し込まれて下動する押圧ノブ8が反転ばね3のドーム形状部3aを反転させるため、クリック感が生起されると共に、ドーム形状部3aが中央固定接点11に当接し、反転ばね3を介して中央固定接点11と共通固定接点12とが導通されたことによるオン信号が出力される。なお、押圧ノブ8が下動すると操作部材9や連結部材10も追動して下動するが、駆動部材7が感圧導電ゴム5を下から加圧することはないので、傾動操作用のアナログ信号が誤検出されることはない。したがって、傾動操作用接点機構はオフ状態に保たれており、前述した判定回路はセンタープッシュ操作用のオン信号を有効と判定する。つまり、ユーザは押圧ノブ8をセンタープッシュ操作することによって所定の入力操作を行うことができ、かつ、そのセンタープッシュ操作が確実に行われたか否かをクリック感の有無によって確認することができる。
【0034】
なお、こうしてセンタープッシュ操作した後に操作力が取り除かれると、反転していたドーム形状部3aが押圧ノブ8を押し上げながら元の形状に戻るため、押圧ノブ8および操作部材9は元の高さ位置まで上動して図6に示す状態に自動復帰する。その結果、中央固定接点11と共通固定接点12との導通が解除されて、センタープッシュ操作用のオン信号は遮断される。
【0035】
以上説明したように本実施形態例に係る多方向入力装置は、センタープッシュ操作用の接点対(中央固定接点11および共通固定接点12)を基台1の上面側の第1の主面1aに配設し、かつ傾動操作用の接点対(周縁固定接点13および共通固定接点14)を基台1の下面側の第2の主面1bに配設しているため、基台1を大径化しなくても、これら両接点対を無理なく配設できて入力装置の小型化が図りやすくなっている。また、一方の第1の主面1aに配設された反転ばね3と他方の第2の主面1bに配設された傾動操作用の接点対とが干渉する虞がないため、反転ばね10として長寿命な大きさのものを無理なく使用することができて信頼性が高まっている。
【0036】
しかも、この多方向入力装置は、操作部材9が反転ばね3の反力に抗して傾動操作され、操作部材9を所定角度傾動させると反転ばね3が反転するようになっており、反転ばね3の反転時には操作部材9の傾動支点(上動した牽引部9c)付近に感圧導電ゴム5の反力を加えることができるので、反転動作によって生起されるクリック感がさほど弱くならず、明瞭なクリック感を感得できるようになっている。つまり、傾動操作時に明瞭なクリック感を生起させることができるため、傾動操作が確実に行えたか否かをクリック感の有無によって容易に確認できる使い勝手の良い多方向入力装置が実現されている。
【0037】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、感圧導電ゴム5がその全周に亘って基台1の第2の主面1bと対向する環状に形成されているため、部品点数を削減できて組立性も良好である。ただし、複数の感圧導電ゴムを周方向に分散して配設するという構成にしてもよい。
【0038】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、駆動部材7が弾性板部7bとフック部7cと取付部7dと加圧部7eとを有する金属板からなり、傾動操作時にフック部7cが操作部材9に牽引されると共に、このフック部7cと取付部7dとの間で弾性板部7bが弾性変形するようにしてあるため、取付部7dを利用して駆動部材7を基台1の所定位置に取り付けることが容易であると共に、傾動操作時に弾性板部7bの弾性変形を利用して加圧部7eで感圧導電ゴム5を大きく圧縮させることが容易である。しかも、この駆動部材7は、複数の弾性板部7bやフック部7c、取付部7d、加圧部7e等をそれぞれ周方向に分散して設けた略環状な1枚の金属板からなるため、部品点数を削減できて組立性も良好である。
【0039】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、基台1の第2の主面1bにおいて傾動操作用の接点対を構成する周縁固定接点13を共通固定接点14に対して第1の主面1a側へずらした位置に配設することによって、この周縁固定接点13と非操作時の感圧導電ゴム5との間にクリアランスを確保しているため、操作部材9をある程度傾動させない限り両固定接点13,14どうしが感圧導電ゴム5によって導通されないようになっている。それゆえ、操作部材9に軽く手が触れただけで不所望なアナログ信号が出力されてしまう虞がなく、この点でも使い勝手が向上している。
【0040】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、操作部材9のセンタ孔9aの周縁部を押圧ノブ8の鍔部8aに係合させることによって、操作部材9が押圧ノブ8を介して反転ばね3に支持されるという構成にしてあるため、押圧ノブ8を押下するセンタープッシュ操作時に誤って操作部材9を傾動操作してしまう可能性が低く、誤操作が防止しやすくなっている。ただし、操作部材9の中央部に突設した押圧突起を押下してセンタープッシュ操作を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 基台
1a 第1の主面
1b 第2主面
1c 係合溝
1d 切欠き部
2 枠体
3 反転ばね
3a ドーム形状部
4 封止テープ
5 感圧導電ゴム
6 平板部材
7 駆動部材
7b 弾性板部
7c フック部
7d 取付部
7e 加圧部
8 押圧ノブ
8a 鍔部
9 操作部材
9a センタ孔(開口)
9c 牽引部
10 連結部材
10a 第1連結部
10b 第2連結部
11 中央固定接点(第1の接点対)
12 共通固定接点(第1の接点対)
13 周縁固定接点(第2の接点対)
14 共通固定接点(第2の接点対)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタープッシュ操作時に駆動されて反転動作する導電性の反転ばねと、傾動可能に支持された操作部材と、前記反転ばねが搭載される第1の主面に該反転ばねを介して導通可能な第1の接点対を配設すると共に、前記第1の主面と反対側の第2の主面に複数組の第2の接点対を周方向に分散配設した基台と、前記第2の接点対に対向して配置された感圧導電ゴムと、傾動操作された前記操作部材に駆動されて前記感圧導電ゴムを前記第2の主面に向けて加圧する駆動部材と、を備えたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記操作部材は前記反転ばねの反力に抗して傾動操作され、前記操作部材を所定角度傾動させることによって前記反転ばねが反転するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項3】
請求項1または2の記載において、前記感圧導電ゴムはその全周に亘って前記第2の主面と対向する環状に形成されていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記駆動部材が、前記操作部材に牽引されるフック部と、前記感圧導電ゴムを加圧する加圧部と、前記基台に取着される取付部とが形成された金属板からなり、前記フック部が牽引されるときに、該フック部と前記取付部との間で前記駆動部材が弾性変形するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項5】
請求項4の記載において、前記駆動部材が、複数の前記フック部と複数の前記加圧部と複数の前記取付部とがそれぞれ周方向に分散されている略環状の1枚の金属板からなることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項6】
請求項5の記載において、前記感圧導電ゴムと対向する環状に形成された平板部材を備え、この平板部材を前記駆動部材のうち前記加圧部を含む領域と前記感圧導電ゴムとの間に介在させたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の記載において、前記操作部材の外周部と前記駆動部材の外周部とを上下動可能に連結する環状の連結部材を備え、傾動操作された前記操作部材が前記連結部材を介して前記駆動部材を牽引するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の記載において、鍔部を有して前記反転ばね上に搭載された押圧ノブを備え、前記操作部材の中央部に開設された開口の周縁部を前記鍔部に係合させることによって、前記操作部材が前記押圧ノブを介して前記反転ばねに支持されていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項の記載において、前記第2の接点対を構成する一方の固定接点が接地用の共通固定接点であり、かつ他方の固定接点を前記共通固定接点に対して前記第1の主面側へずらした位置に配設することによって、この他方の固定接点と非操作時の前記感圧導電ゴムとの間にクリアランスを確保したことを特徴とする多方向入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−277928(P2010−277928A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131062(P2009−131062)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】