説明

多方向入力装置

【課題】傾動操作時に誤作動する危険性が低く小型薄型化にも好適な多方向入力装置を提供すること。
【解決手段】基台1の内底面1aの外周部に固定接点11を配設し、内底面1aの上方に放射状に配置された複数の可動接点片5bを支持体4によって片持ち梁状に支持すると共に、各可動接点片5bを覆うように配置されて多方向へ傾動操作可能な蓋状の操作体6と、操作体6の上動への移動を規制する環状のフレーム部材7とを備えた多方向入力装置であって、操作体6の外周部の複数箇所にフレーム部材7によって上動が規制される被規制部6aを設けると共に、操作体6の被規制部6aよりも内周側の複数箇所に押圧部6bを設けて、傾動操作時に操作体6の径方向一端側で被規制部6aが傾動支点となり、径方向他端側で押圧部6bが下方に存する可動接点片5bの基端近傍を所定量押下することによって、この可動接点片5bの先端部が下方に存する固定接点11に接触するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器のリモコンや携帯電話機などに使用して好適な多方向入力装置に係り、特に、傾動操作によって可動接点を固定接点に接触させるようにした多方向入力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の多方向入力装置の従来例として、操作部材に保持された可動接点片を複数の固定接点と接離可能に対向させておき、操作部材の傾動操作に伴って下動する可動接点片を下方に存する固定接点に接触させてオン信号を出力させるように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる従来の多方向入力装置は、可動接点片の接触する固定接点が傾動操作方向に応じて異なるため、出力される信号に基づいて操作部材がどの方向へ傾動操作されたのかを判定することができる。
【特許文献1】特許3948882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前述した従来例のように操作部材と可動接点片とが一体的に傾動するように構成されている多方向入力装置では、操作部材の傾動操作によって所望の可動接点片が対応する固定接点に接触した後も、該可動接点片は操作部材のオーバーストロークに伴って若干撓むため、このオーバーストローク時に不所望箇所で可動接点片が固定接点に接触して誤作動する虞がある。なお、固定接点との接触部である可動接点片の先端部を操作部材の中心から径方向外側へ大きく離隔させておけば、傾動操作時に可動接点片の先端部を大きく下動させられるため、かかる不所望箇所での誤作動を起こしにくくすることができるが、こうすると装置全体が大型化してしまうという別の問題が発生する。
【0004】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、傾動操作時に誤作動する危険性が低く小型薄型化にも好適な多方向入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明の多方向入力装置は、内底面を露出させた絶縁性の基台と、前記内底面の外寄り領域に分散して配設された複数の固定接点と、前記内底面の上方に放射状に配置されて前記各固定接点に接離可能に対向する複数の可動接点片と、これら可動接点片を片持ち梁状に支持する支持体と、前記各可動接点片および前記支持体を覆うように配置されて前記基台上で多方向へ傾動操作可能な操作体と、前記基台に外装されて前記操作体の上動を規制する規制部材とを備え、前記操作体の外周部に前記規制部材に当接して上動が規制される被規制部を設けると共に、この操作体の前記被規制部よりも内周側の領域に前記各可動接点片を個別に押下するための複数の押圧部を設け、傾動操作時に前記操作体の径方向一端側で前記被規制部が傾動支点となり、かつ径方向他端側で前記押圧部が下方に存する前記可動接点片の基端近傍を押下するようになし、前記可動接点片が前記押圧部に所定量押下されることによって該可動接点片の先端部が下方に存する前記固定接点に接触するように構成した。
【0006】
このように構成された多方向入力装置では、操作体が傾動操作されたとき、その径方向一端側で上動しようとする被規制部が規制部材に規制されて傾動支点となり、かつ径方向他端側で下動する押圧部によって下方に存する可動接点片の基端近傍が押下されるため、この可動接点片の先端部を大きく下動させることができる。つまり、支持体に片持ち梁状に支持されている可動接点片は基端近傍の変位が先端部側で増幅されるので、傾動操作時の操作体が可動接点片の基端近傍を押し込めるように両者を分離して重ね合わせた構造を採用することによって、傾動操作時に所望箇所の可動接点片だけを大きく弾性変形させることができて誤作動を起こしにくくなる。また、可動接点片や支持体を覆うように操作体を配置し、この操作体をその径方向一端側を傾動支点として傾動させれば、傾動操作方向に応じたオン信号が得られるので、操作体や基台を大型化する必要がなく装置全体の小型薄型化が図りやすい。
【0007】
上記の構成において、複数の可動接点片の基端どうしを中央連結板で連結することにより、これら各可動接点片と中央連結板とが1枚の導電性金属板からなると共に、この中央連結板が支持体に固定されていると、各可動接点片を独立に弾性変形させることができるにも拘らず部品点数を大幅に削減できるため、組立性が向上して低コスト化が図りやすくなる。なお、中央連結板は両面接着テープ等によって支持体上に接着固定してもよいし、インサート成形によって合成樹脂製の支持体に中央連結板を埋設してもよい。
【0008】
また、上記の構成において、規制部材が基台の外周部に沿って配置された環状のフレーム部材であると共に、被規制部が操作体の外周縁の複数箇所からフレーム部材と重なり合う位置へフック状に延設されてあれば、装置の小型薄型化を阻害しないフレーム部材によって操作体の上動への移動が確実に規制できるため好ましい。この場合において、基台の外壁部に複数の被規制部が個別に配置される複数の切欠き部を設け、この切欠き部上にフレーム部材の一部を配置させれば、操作体やフレーム部材の外径寸法を基台と略同等に抑えることができるため小型化に有利であると共に、被規制部と切欠き部の側壁によって操作体の径方向への移動が確実に規制できる。また、操作体とフレーム部材がいずれも導電性金属板からなると共に、このフレーム部材にコモン端子を設け、操作体の傾動操作時に可動接点片を固定接点に接触させることによって該固定接点と該コモン端子とが導通されるようにしてあると、コモン端子やそのリードパターンを基台に設ける必要がなくなるため、基台の小型化が一層図りやすくなる。
【0009】
また、上記の構成において、基台の内底面と操作体の中央部との間に座屈変形時にクリック感を生起するクリック部材を介在させ、操作体がクリック部材の付勢力に抗して傾動操作されるようにしてあると、傾動操作が確実に行なわれことをクリック感によって明瞭に感得できると共に、傾動操作後にクリック部材が操作体を初期位置まで押し戻すことになって専用の復帰ばねを省略できる。この場合において、クリック部材が、基台の内底面に設けられた常閉固定接点上に搭載される導電性金属板からなる反転ばねであって、基台の内底面で反転ばねと接離可能に対向する領域に中央固定接点が設けられていると共に、操作体に反転ばねを押圧可能な中央押圧部が設けられており、操作体をプッシュ操作することによって中央押圧部が反転ばねを反転させて中央固定接点に接触させ、この中央固定接点と常閉固定接点とを導通させるようにしてあると、操作体を多方向へ傾動させて異なる可動接点片を対応する固定接点に接触させるという傾動操作に加えて、操作体をほとんど傾動させずに下動させて可動接点たる反転ばねを中央固定接点に接触させるというプッシュ操作が行なえるため、装置を大型化しなくても多機能化が実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多方向入力装置は、操作体が傾動操作されたとき、その径方向一端側で上動しようとする被規制部が規制部材に規制されて傾動支点となり、かつ径方向他端側で下動する押圧部によって下方に存する可動接点片の基端近傍が押下されるため、この可動接点片の先端部を大きく下動させることができる。つまり、傾動操作時に所望箇所の可動接点片だけを大きく弾性変形させることができるため、誤作動する危険性が低く高信頼性を期待できる。また、可動接点片等を覆うように配置される操作体を、その径方向一端側を傾動支点として傾動させれば傾動操作方向に応じたオン信号が得られるので、操作体や基台を大型化する必要がなく装置全体の小型薄型化が図りやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明の実施の形態を図面を参照して説明すると、図1は本発明の実施形態例に係る多方向入力装置の上面図、図2は該入力装置の側面図、図3は該入力装置の分解斜視図、図4は操作体を省略して該入力装置の内部構造を示す斜視図、図5は該入力装置の非操作時の断面図、図6は該入力装置の傾動操作時の断面図、図7は該入力装置のプッシュ操作時の断面図である。
【0012】
これらの図に示す多方向入力装置は、内底面1aを露出させた絶縁性で平面視八角形状の基台1と、この内底面1aに配設された各種の接点11〜13と、基台1の外方へ突設された各種の端子14〜16と、内底面1a上に載置されたドーム状の反転ばね2と、この反転ばね2上に固着された絶縁テープ3と、環状の台座部4aから放射状に突出する脚片4bを有し基台1上に載置された支持板4と、環状の中央連結板5aから放射状に突出する可動接点片5bを有し台座部4a上に載置された接点ばね部材5と、被規制部6aや押圧部6bや膨出部6c等を有し接点ばね部材5および支持体4を覆うように基台1上に配置された蓋状の操作体6と、基台1に外装されて操作体6の上動への移動を規制する環状のフレーム部材7とによって主に構成されている。そして、この多方向入力装置は、操作体6を等間隔な4方向(または8方向)へ傾動させて傾動方向に応じたオン信号を出力させるという傾動操作と、操作体6の中央部を真下へ押し込んでオン信号を出力させるというプッシュ操作とが行なえるようになっている。
【0013】
基台1の外周部には、支持体4の4片の脚片4bの各先端部を係止するための係止部1b(図4参照)が4箇所に分散して設けられている。また、図1や図5に示すように、基台1の外壁部には隣り合う係止部1bどうしの間にそれぞれ凹状の切欠き部1cが設けられており、これら4箇所の切欠き部1c内にそれぞれ、操作体6の外周縁部に設けられたフック状の被規制部6aが配置されている。
【0014】
接点11〜13は、傾動操作用接点機構の固定接点である8個の周縁固定接点11と、プッシュ操作用接点機構の固定接点である1個の中央固定接点12および2個の常閉固定接点13とからなる。端子14〜16は、傾動操作用の周縁固定接点11から導出された計4個の端子14と、プッシュ操作用の中央固定接点12から導出された1個の端子15と、プッシュ操作用の2個の常閉固定接点13から導出された1個の端子16とからなる。8個の周縁固定接点11は内底面1aの最外周部の等間隔な8箇所に突設されており、隣り合う2個1組の周縁固定接点11が基台1内で導通されて、これら両周縁固定接点11から1個の端子14が導出されている。また、中央固定接点12は内底面1aの中央部に位置し、2個の常閉固定接点13は中央固定接点12から離隔した2箇所に配設されて互いに導通されている。後述するように、これら常閉固定接点13上には反転ばね2が搭載される。なお、接点11〜13や端子14〜16はインサート成形によって基台1に一体化されている。また、端子14を共有する2個1組の周縁固定接点11を配設している理由は、操作体6の傾動操作方向に若干のばらつきがあっても各可動接点片5bを対応する周縁固定接点11に確実に接触させるためである。
【0015】
反転ばね2は弾性に富む導電性金属板を所定形状にフォーミングして形成されており、そのドーム形状部2aは弾性的な反転時(座屈変形時)にクリック感を生起する。反転ばね2の外周部は2個の常閉固定接点13上に搭載されているため該常閉固定接点13と常時導通されており、ドーム形状部2aが中央固定接点12と接離可能に対向している。したがって、反転ばね2はプッシュ操作用の可動接点として動作させることができる。また、反転ばね2のドーム形状部2aには、支持体4および接点ばね部材5の各センタ孔4c,5cを貫通する操作体6の膨出部6cが搭載されており、この膨出部6cは中央押圧部でありドーム形状部2aによって上方へ弾性付勢されている。その結果、図5に示すように、操作体6の各被規制部6aがフレーム部材7に当接して上動が規制されており、これにより操作体6の脱落やガタが防止されている。また、図6に示すように、操作体6を傾動操作したときには、傾動操作方向に応じて1箇所または2箇所の被規制部6aがフレーム部材7に当接して傾動支点となり、残余の被規制部6aは下動してフレーム部材7から離れるようになっている。なお、反転ばね2はドーム状で外周縁が連続するものに限らず、常閉固定接点13と接触し、クリック感を生起するものであれば、外周縁が不連続の形状のものであってもよい。
【0016】
絶縁テープ3は反転ばね2のドーム形状部2a上に接着等によって固定されている。この絶縁テープ3は操作体6の膨出部6cと反転ばね2とを電気的に絶縁させるためのものである。
【0017】
支持体4は、センタ孔4cを有する環状の台座部4aと、この台座部4aから等間隔な放射状に突出する4片の脚片4bとからなる。この支持体4は剛性に富むステンレス板等の板材をプレス抜きして所定形状にフォーミングしたものであり、台座部4aを反転ばね2の上方に配置して、各脚片4bを接点ばね部材5の隣り合う可動接点片5bどうしの間に延在させている(図4参照)。また、隣り合う脚片4b間すなわち可動接点片5bが位置する台座部4aの各辺部4dは直線状となっている。そして、この支持体4は、各脚片4bの先端部をそれぞれ基台1の相異なる係止部1bに係止させることによって、基台1上にガタつきなく載置されている。
【0018】
接点ばね部材5は、センタ孔5cを有する環状の中央連結板5aと、この中央連結板5aから等間隔な放射状に突出する4片の可動接点片5bとからなり、弾性舌片である各可動接点片5bの基端どうしが中央連結板5aによって連結されている。この接点ばね部材5は弾性に富む1枚の導電性金属板をプレス抜きして平板状に形成されており、中央連結板5aが図示せぬ両面接着テープを用いて支持体4の台座部4a上に接着されて各可動接点片5bが各辺部4dから外方に突出するため、各可動接点片5bが支持体4に片持ち梁状に支持されて弾性変形できるようになっている。また、可動接点片5bは先端部が2個1組の周縁固定接点11と接離可能に対向しており、各可動接点片5bの対向する周縁固定接点11はそれぞれ異なる。また、可動接点片5bの先端部は基端部より幅広となっており、その先端には幅方向に所定間隔を存して外方に突出する一対の突起5dが設けられている。
【0019】
操作体6は基台1の内底面1aと略同形な平面視八角形状の導電性金属板である。この操作体6の中央部には下方へ向けて膨出部6cが突設されている。膨出部6cは支持体4および接点ばね部材5の各センタ孔4c,5cに遊挿されて、絶縁テープ3を介して反転ばね2のドーム形状部2a上に搭載されており、このドーム形状部2aが操作体6を上方へ弾性付勢している。また、操作体6には外周縁の等間隔な4箇所からそれぞれ下方へ向かう下方部6a1とその下方部6a1の下端から外方へ向かう水平先端部6a2とから成るL字状の被規制部6aが延設されている。つまり、フック状(鉤状)の被規制部6aが延設されており、これら被規制部6aの下方部6a1(水平先端部6a2を除く部分)にフレーム部材7が外挿され、各被規制部6aはそれぞれ基台1の相異なる切欠き部1c内に配置されている。これにより、各被規制部6aは各切欠き部1cの側壁によって径方向への移動は規制されているため、操作体6の径方向への移動は規制されている。また、各被規制部6aの水平先端部6a2をフレーム部材7の各規制桟部7bの下方に位置させているが、非操作状態で各被規制部6aはフレーム部材7に当接しているため上動は規制されている(図5参照)。つまり、各被規制部6aをフレーム部材7で掛止可能な位置に配置させたうえで、この操作体6は反転ばね2を介して基台1上に傾動操作可能に支持されている。また、操作体6の各被規制部6aの位置に対応して接点ばね部材5の各可動接点片5bが位置し、各可動接点片5bの一対の突起5dが各被規制部6aの下方部6a1を挟むようになっている。これにより、接点ばね部材5の径方向への移動は一対の突起5dと各被規制部6aの下方部6a1とによって規制されている。さらに、操作体6には各被規制部6aの内周側にそれぞれ下方へ突出する押圧部6bが形成されており、これら押圧部6bによって下方に存する可動接点片5bの基端近傍が押下できるようになっている。
【0020】
操作体6の押圧部6bと下方の可動接点片5bとの間には、図5に示すように非操作状態で所要のクリアランスが確保されている。そして、操作体6をプッシュ操作することにより膨出部6cでドーム形状部2aを押下して該ドーム形状部2aを中央固定接点12に接触させることができるが、このとき、図7に示すように押圧部6bは可動接点片5bを押下しない。また、操作体6を傾動操作するときには図6に示すように、操作体6の径方向一端側で被規制部6aが傾動支点となり、径方向他端側で押圧部6bが下方の可動接点片5bの基端近傍を押下して支持体4の辺部4dを支点として撓み該可動接点片5bの先端部を下方の周縁固定接点11に接触させることができる。
【0021】
フレーム部材7は平面視八角形状の環状の導電性金属板からなり、操作体6を包囲するように基台1の外周部に沿って配置されている。フレーム部材7の複数箇所には脚部7aが突設されており、この多方向入力装置が実装される図示せぬ回路基板のランド部に各脚部7aが半田付けされるようになっている。ただし、これらランド部のうち1個は配線パターンに導通されているが、他はすべて電気的に孤立している。つまり、フレーム部材7は複数の脚部7aのうちの1個をコモン端子17aとして利用しており、このコモン端子17aが任意の周縁固定接点11と導通されるようにしてある。また、フレーム部材7には等間隔な4箇所に規制桟部7bが設けられており、各規制桟部7bがそれぞれ操作体6の相異なる被規制部6aの水平先端部6a2上に配置されるため、これら被規制部6aの上動が規制桟部7bによって規制されるようになっている。
【0022】
次に、このように構成された多方向入力装置の動作について説明する。図5に示すように、非操作時には、反転ばね2のドーム形状部2aが操作体6の膨出部6cを上方へ弾性付勢して各被規制部6aをフレーム部材7の各規制桟部7bに押し付けているため、操作体6はガタのない水平姿勢に保持されており、各押圧部6bは下方に存する可動接点片5bから離隔している。そのため、各可動接点片5bは下方に存する周縁固定接点11から離隔しており、ドーム形状部2aも中央固定接点12から離隔している。
【0023】
かかる非操作状態でユーザが任意の押圧部6bの近傍を押し込んで操作体6を傾動操作すると、図6に示すように、操作体6は押し込まれた押圧部6bに対して径方向逆側に位置する被規制部6aを傾動支点として傾動するため、この押圧部6bが下方に存する可動接点片5bの基端近傍を支持体4の端部である辺部4dを支点として押し下げていくと共に、センタ孔4c,5cに遊挿された膨出部6cが反転ばね2のドーム形状部2aを押し下げていく。押圧部6bに押下されて生じる可動接点片5bの下動量は先端側で増幅されるため、操作体6を所定角度傾動させた時点で、押圧部6bに押下されて弾性変形する可動接点片5bの先端部が下方に存する2個1組の周縁固定接点11の少なくともいずれかに接触し、両者5b,11が導通される。また、この状態で、導電性の操作体6は押圧部6bに当接している可動接点片5bと電気的に導通されていると共に、傾動支点となっている被規制部6aを介して導電性のフレーム部材7とも電気的に導通されているため、傾動方向において可動接点片5bの先端部が周縁固定接点11に接触した時点で、この周縁固定接点11の端子14とフレーム部材7のコモン端子17aとが導通される。これにより、操作体6の傾動操作方向に応じたオン信号を出力させることができるため、ユーザは傾動操作方向を適宜選択して種々の入力操作を行なうことができる。また、操作体6がオーバーストロークによってさらに傾動する過程で、ドーム形状部2aが反転(座屈変形)してクリック感が生起されるため、ユーザは傾動操作が確実に行なわれたことを明瞭に感得することができる。
【0024】
なお、ユーザが隣り合う押圧部6bどうしの中間位置を押し込んで操作体6を傾動させだ場合には、これら両押圧部6bによって2片の可動接点片5bが押下されてそれぞれ対応する周縁固定接点11に接触するため、出力される2種類のオン信号に基づいて傾動操作方向を判定することが可能となる。それゆえ、この多方向入力装置は、傾動操作方向を4方向に設定することもできるし8方向に設定することもできる。
【0025】
また、傾動操作時にドーム形状部2aが反転すると中央固定接点12に接触してプッシュ操作用のオン信号も出力されるが、このオン信号が検出された時点ですでに傾動操作用のオン信号が出力されているため、図示せぬ外部の判定回路によってプッシュ操作用のオン信号は無効と判定(キャンセル)されるようになっている。つまり、この多方向入力装置は、傾動操作用接点機構のオフ状態が確認されたときだけ、プッシュ操作用接点機構のオンオフ切換えが行なえるように設定されている。
【0026】
こうして操作体6を傾動操作した後、操作力が取り除かれると、座屈変形していたドーム形状部2aが膨出部6cを押し上げながら元の形状に戻るため、可動接点片5bを押下していた押圧部6bが元の高さ位置まで上昇して該可動接点片5bから離れ、それに伴って該可動接点片5bが自身の弾性で上昇して周縁固定接点11から離れる。その結果、接触していた可動接点片5bと周縁固定接点11との導通が解除されて傾動操作用のオン信号が遮断される。また、操作体6は傾動支点以外の被規制部6aがフレーム部材7の規制桟部7bに当接する高さ位置まで押し上げられると上動が規制されるため、図5に示す非操作状態に自動復帰する。
【0027】
また、非操作状態でユーザが操作体6の中央部を真下へ押し込んでプッシュ操作したときには、操作体6はほとんど傾動することなく下動するため、膨出部6cが反転ばね2のドーム形状部2aを押し下げていくのに伴い、押圧部6bと下方の可動接点片5bとの間隔は狭まっていく。そして、膨出部6cがドーム形状部2aを反転(座屈変形)させた時点でクリック感が生起されると共に、図7に示すようにドーム形状部2aが中央固定接点12に接触し、中央固定接点12と常閉固定接点13とが反転ばね2を介して導通されたことによるオン信号が出力される。ただし、かかるプッシュ操作時に操作体6の押圧部6bが下方の可動接点片5bを押し込むことはない。したがって、傾動操作用接点機構はオフ状態に保たれており、前述した判定回路はプッシュ操作用のオン信号を有効と判定する。つまり、ユーザは操作体6をプッシュ操作することによって所定の入力操作を行なうことができ、かつ、そのプッシュ操作が確実に行なわれたことをクリック感によって明瞭に感得することができる。
【0028】
こうして操作体6をプッシュ操作した後、その操作力が取り除かれると、座屈変形していたドーム形状部2aが膨出部6cを押し上げながら元の形状に戻るため、中央固定接点12と常閉固定接点13との導通が解除されてプッシュ操作用のオン信号が遮断される。また、操作体6は各被規制部6aがフレーム部材7の各規制桟部7bに当接する高さ位置まで押し上げられた時点で上動が規制されるため、図5に示す非操作状態に自動復帰する。
【0029】
以上説明したように、本実施形態例に係る多方向入力装置は、操作体6が傾動操作されたとき、その径方向一端側で被規制部6aが傾動支点となり、径方向他端側で下動する押圧部6bによって下方に存する可動接点片5bの基端近傍が押下されるため、この可動接点片5bの先端部を大きく下動させることができる。つまり、片持ち梁状に支持されている可動接点片5bは基端近傍の変位が先端部側で増幅されるので、傾動操作時に所望箇所の可動接点片5bだけを大きく弾性変形させることができて誤作動を起こしにくくなる。また、可動接点片5bや支持体4を覆うように配置される蓋状の操作体6を、その径方向一端側を傾動支点として傾動させれば傾動方向に応じたオン信号が得られるので、操作体6や基台1を大型化する必要がなく装置全体の小型薄型化が図りやすい。
【0030】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置は、各可動接点片5bの基端どうしを中央連結板5aが連結してなる1枚の接点ばね部材5を用いており、この中央連結板5aを支持体4が固定しているため、各可動接点片5bを独立に弾性変形させることができるのにも拘らず部品点数が大幅に削減されている。それゆえ、組立性が向上して低コスト化が図りやすい。
【0031】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置は、操作体6の外周縁の4箇所から被規制部6aをフック状に延設し、これら被規制部6aと重なり合うように環状のフレーム部材7を基台1に外装することによって、各被規制部6aの上動をフレーム部材7が規制しているため、装置の小型薄型化を阻害しないフレーム部材7によって操作体6の上動への移動が確実に規制できる。しかも、本実施形態例では、フック状の被規制部6aが基台1の切欠き部1c内に配置されているため、操作体6やフレーム部材7の外径寸法を基台1と略同等に抑えることができて小型化に有利であると共に、被規制部6aと切欠き部1cの側壁によって操作体6の径方向への移動が確実に規制できる。さらに、本実施形態例では、操作体6とフレーム部材7がいずれも導電性金属板からなると共に、フレーム部材7がコモン端子17aを有し、操作体6の傾動操作時に可動接点片5bを対応する周縁固定接点11に接触させることによって該周縁固定接点11とコモン端子17aとが導通されるようにしてある。そのため、コモン端子やそのリードパターンを基台1に設ける必要がなくなり、基台1の小型化が一層図りやすくなっている。
【0032】
また、本実施形態例に係る多方向入力装置では、導電性金属板からなる反転ばね2のドーム形状部2a上に操作体6の中央押圧部(膨出部6c)を搭載して、この反転ばね2の付勢力に抗して操作体6の傾動操作やプッシュ操作が行なわれるようにしてあるため、操作が確実に行なわれたことを反転ばね2の生起するクリック感によってユーザが明瞭に感得できるようになっている。そして、操作後には反転していたドーム形状部2aが自身の弾性で元の形状に戻るため、このドーム形状部2aによって操作体6は初期位置まで押し戻されることになり、それゆえ専用の復帰ばねは不要である。しかも、本実施形態例の場合、反転ばね2がプッシュ操作用の可動接点を兼ねており、この反転ばね2の収納スペースが支持体4と基台1の内底面1aとの間に無理なく確保されているため、多方向への傾動操作とプッシュ操作とが行なえる多機能な入力装置でありながら小型薄型化が容易に実現されている。
【0033】
ただし、プッシュ操作が不要な多方向入力装置であっても本発明は適用可能であり、その場合は、支持体4を基台1の内底面1aの中央部に立設したり、反転ばねの代わりにゴム等からなるクリック部材を用いることが可能となる。
【0034】
また、上記の実施形態例では、接点ばね部材5の中央連結板5aを両面接着テープを用いて支持体4の台座部4a上に接着固定しているが、合成樹脂製の支持体を使用しインサート成形によって該支持体に中央連結板5aを埋設することも可能である。その場合、支持体および接点ばね部材5を一体品として取り扱えるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態例に係る多方向入力装置の上面図である。
【図2】該入力装置の側面図である。
【図3】該入力装置の分解斜視図である。
【図4】操作体を省略して該入力装置の内部構造を示す斜視図である。
【図5】該入力装置の非操作時の断面図である。
【図6】該入力装置の傾動操作時の断面図である。
【図7】該入力装置のプッシュ操作時の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 基台
1a 内底面
1c 切欠き部
2 反転ばね
2a ドーム形状部
3 絶縁テープ
4 支持体
4a 台座部
4b 脚片
5 接点ばね部材
5a 中央連結板
5b 可動接点片
6 操作体
6a 被規制部
6b 押圧部
6c 膨出部(中央押圧部)
7 フレーム部材(規制部材)
7b 規制桟部
11 周縁固定接点(固定接点)
12 中央固定接点
13 常閉固定接点
14〜16 端子
17a コモン端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内底面を露出させた絶縁性の基台と、前記内底面の外寄り領域に分散して配設された複数の固定接点と、前記内底面の上方に放射状に配置されて前記各固定接点に接離可能に対向する複数の可動接点片と、これら可動接点片を片持ち梁状に支持する支持体と、前記各可動接点片および前記支持体を覆うように配置されて前記基台上で多方向へ傾動操作可能な操作体と、前記基台に外装されて前記操作体の上動を規制する規制部材とを備え、
前記操作体の外周部に前記規制部材に当接して上動が規制される被規制部を設けると共に、この操作体の前記被規制部よりも内周側の領域に前記各可動接点片を個別に押下するための複数の押圧部を設け、傾動操作時に前記操作体の径方向一端側で前記被規制部が傾動支点となり、かつ径方向他端側で前記押圧部が下方に存する前記可動接点片の基端近傍を押下するようになし、前記可動接点片が前記押圧部に所定量押下されることによって該可動接点片の先端部が下方に存する前記固定接点に接触するようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記各可動接点片の基端どうしを中央連結板で連結することにより、これら各可動接点片と中央連結板とが1枚の導電性金属板からなると共に、前記中央連結板が前記支持体に固定されていることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項3】
請求項1または2の記載において、前記規制部材が前記基台の外周部に沿って配置された環状のフレーム部材であると共に、前記被規制部が前記操作体の外周縁の複数箇所から前記フレーム部材と重なり合う位置へフック状に延設されたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記基台の外壁部に前記複数の被規制部が個別に配置される複数の切欠き部を設け、この切欠き部上に前記フレーム部材の一部を配置させたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項5】
請求項3または4の記載において、前記操作体と前記フレーム部材がいずれも導電性金属板からなると共に、このフレーム部材にコモン端子を設け、前記操作体の傾動操作時に前記可動接点片を前記固定接点に接触させることによって該固定接点と前記コモン端子とが導通されるようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の記載において、前記基台の内底面と前記操作体の中央部との間に座屈変形時にクリック感を生起するクリック部材を介在させ、前記操作体が前記クリック部材の付勢力に抗して傾動操作されるようにしたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項7】
請求項6の記載において、前記クリック部材が、前記基台の内底面に設けられた常閉固定接点上に搭載される導電性金属板からなる反転ばねであって、前記基台の内底面で前記反転ばねと接離可能に対向する領域に中央固定接点が設けられていると共に、前記操作体に前記反転ばねを押圧可能な中央押圧部が設けられており、前記操作体をプッシュ操作することによって前記中央押圧部が前記反転ばねを反転させて前記中央固定接点に接触させ、この中央固定接点と前記常閉固定接点とを導通させるようにしたことを特徴とする多方向入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−73434(P2010−73434A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238292(P2008−238292)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】