説明

多核マイクロカプセル型粉体

【課題】
保存性に優れ、使用前に接着成分と硬化剤を混ぜ合わせる必要がなく、圧着時に液だれすることのない二液混合型接着剤を用いた多核マイクロカプセル型粉体接着剤およびその製造法を提供する。
【解決手段】
多核マイクロカプセル型粉体接着剤は、芯物質として接着成分1を内包するマイクロカプセル3と、その接着成分と反応する硬化剤5とを含む多核マイクロカプセル7で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二液混合型接着剤が用いられている分野に幅広く応用が可能な多核マイクロカプセル型粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、二液混合型接着剤は家庭工作用、土木建築用、構造用などの接着剤 、建築用、自動車用、缶用、重防食用などの塗料、舗装材料、炭素繊維強化プラスチックなどの複合材料、エレクトロニクスにおける超LSIやLEDなどの封止用材料、電気機器における注型、含浸、粉体塗装絶縁材料などの接着用途に幅広く用いられている。しかし、二液混合型接着剤は主剤および硬化剤を単独で保存しなければならず、また液体であるがゆえに液だれなどを起こす可能性がありハンドリング性能に劣る。
【0003】
保存性を高めるために、特許文献1では、マイクロカプセル型硬化剤をエポキシ系樹脂に分散させ一液型接着剤のように扱っている。しかしながら、この方法では液体として扱うため、液だれなどを起こす可能性があり、ハンドリング性能の向上を見込めない。
【特許文献1】特開2000−80146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、二液混合型接着剤の主剤および硬化剤の単独での保存からくる保存性の低さ、液体であるがゆえのハンドリング性能の低さを同時に改善させることを目的とする多核マイクロカプセル型粉体およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための請求項1の発明は、芯物質として接着成分を内包するマイクロカプセルと、前記接着成分と反応する硬化剤とを含む多核マイクロカプセル型粉体接着剤である。
【0006】
同じく請求項2の発明は、請求項1に記載の多核マイクロカプセル型粉体接着剤であって、前記接着成分を内包するマイクロカプセルの壁物質がメラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれる樹脂、前記多核マイクロカプセルの壁物質がメタクリルレート系樹脂であることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1に記載の多核マイクロカプセル型粉体接着剤であって、前記接着成分がエポキシ系プレポリマーであって、前記硬化剤が脂肪族アミン、脂環族アミンおよび芳香族アミンから選ばれる硬化剤であることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1に記載の多核マイクロカプセル型粉体接着剤であって、前記接着成分を内包するマイクロカプセルの壁物質がメラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれ、前記マイクロカプセルと硬化剤を含む多核マイクロカプセルの壁物質がメタクリルレート系樹脂であることを特徴とする。
【0009】
また、前記課題を解決するための請求項5の発明は、接着成分を内核とするマイクロカプセルと、硬化剤とを液中乾燥法にてマイクロカプセル化した多核マイクロカプセル型粉体の製造方法である。
【0010】
同じく請求項6の発明は、請求項5に記載の多核マイクロカプセル型粉体の製造方法であって、前記接着成分を内核とするマイクロカプセルが界面重合法、in−situ重合法、スプレードライ法、コアセルベーション法から選ばれる方法で製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多核マイクロカプセル型粉体接着剤は、主剤および硬化剤を同時に内包している粉体なので、マイクロカプセルが破壊もしくは圧着することによって接着性能が発現するものである。例えば接着面に粉体を撒き並べ、その上に被接着面を合わせて加圧することでマイクロカプセルが破れて主剤および硬化剤が接触して硬化する。
【0012】
従来の二液混合型接着剤の場合、主剤および硬化剤を個別に保存しなければならないところを、その必要性がなくなるし、使用前に主剤および硬化剤を混合するといった作業も必要ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の多核マイクロカプセル型粉体接着剤の断面を示す拡大模式図が図1に示してある。同図に示すとおり、この多核マイクロカプセル型粉体接着剤は、直径が100〜200μm程度であり、芯物質として接着成分1を内包するマイクロカプセル3と、その接着成分と反応する硬化剤5とを含む多核マイクロカプセル7で構成されている。
【0014】
接着剤成分に使用されるエポキシ系プレポリマーとは、ビスフェノールAおよびエピクロロヒドリンから合成されるジグリシジルエーテルビスフェノールA、ビスフェノールFおよびエピクロロヒドリンから合成されるジグリシジルエーテルビスフェノールFなどが挙げられる。
【0015】
硬化剤は、分子中に活性水素が3個以上およびアミノ基が2個以上含まれるものが好ましい。この条件を満たす硬化剤として、トリス(2−アミノエチル)アミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N―アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0016】
接着成分を内包するマイクロカプセルおよび硬化剤を含むマイクロカプセルの壁物質はメタクリレート系樹脂に限定されるものではない。製造過程において液中乾燥法を用いるので、有機溶媒に可溶であれば適用可能である。前記の有機溶媒として四塩化炭素、トリクロロメタン、ジクロロメタン、クロロメタンなどが挙げられる。また適用可能な樹脂としてポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0017】
接着成分を内包するマイクロカプセルは、界面重合法、in−situ重合法、スプレードライ法、コアセルベーション法等の公知の技術を用いて作製することができる。マイクロカプセルの製造方法としては、カプセル壁膜の強度、及び緻密さを得るため、特にin−situ法が好ましい。in−situ重合法は、水中でエポキシ系プレポリマーを分散させ、粒径を調節した後、その水分散液中にメラミン等およびホルマリンから予め合成したpHをアルカリ条件に調整したプレポリマー水溶液を添加し、pHを酸性条件にした後、加熱攪拌することで重合反応させてカプセル壁膜を形成するものである。
【0018】
前記マイクロカプセルと硬化剤を含む多核マイクロカプセルは液中乾燥法を用いて作製される。該液中乾燥法の製造方法は、前記マイクロカプセルを硬化剤に分散させた懸濁液を、壁材料を溶解させた塩素系有機溶媒に分散、さらにこの懸濁液を水中に分散させ、攪拌しながら塩素系有機溶媒が完全に蒸発するまで熱をかけ続けることでマイクロカプセルを形成するものである。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
(1)ビスフェノールAとエピクロロヒドリンを用いた接着成分ビスフェノールAジグリシジルエーテルの調整:
ビスフェノールA 28.19gおよびエピクロロヒドリン 119.067gを還流冷却管およびメカニカルスターラーを装着した反応容器に入れ、70℃に昇温した後に、1時間かけて5M水酸化ナトリウム水溶液56mlおよび蒸留水50mlを滴下した。次に110℃に昇温して、1時間攪拌した。室温まで冷却後蒸留水で洗浄しながら、分液して粘性のある有機層を得た。この有機層の溶媒をエバポレーターで完全に蒸発させ黄色のビスフェノールAジグリシジルエーテルを得た。ビスフェノールAジグリシジルエーテルに少量のトリス(2−アミノエチル)アミンを加え、室温で6時間放置し硬化を確認した。
【0020】
(2)接着成分を内包したマイクロカプセルの調整:
蒸留水200gに対して、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2g、Poly(sodium 4−styrene sulfonate)2 g、ポリビニルアルコール0.2gの割合で溶解させ分散剤を作製した。蒸留水14.7g、メラミン11.8g、ホルマリン28.5gを混合して攪拌しながら90
℃に昇温した。昇温過程において、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH 9−10に調整した。得た無色透明液体をメラミン-ホルマリンプレポリマーとした。
【0021】
分散剤200gにビスフェノールAジグリシジルエーテル20gを分散させ、攪拌しながら粒径を調整し、ここにメラミン-ホルマリンプレポリマーを加えて65℃に昇温しながら、0.5M塩酸でpH5.6−6.0に調整した。2時間攪拌後、蒸留水で洗浄しながら濾過し、ブチルグリシジルエーテルで二度洗浄した。得たマイクロカプセルを乾燥させ、目開き75μmのふるいで粗大なマイクロカプセルを除去し、目的のマイクロカプセルを得た。
【0022】
(3)修復剤内包マイクロカプセルおよび硬化剤を内包した多核マイクロカプセルの調整:
ジクロロメタン70gにポリメチルメタクリレート7gを溶解させた。次に0.5
wt.% ポリビニルアルコール水溶液7gおよび硬化剤トリス(2−アミノエチル)アミン7gの混合溶液に修復剤内包マイクロカプセル0.4gを分散させた。この懸濁液をポリメチルメタクリレート溶解ジクロロメタンに分散させ、これを1wt.%ゼラチン水溶液500gに加え、50℃で2時間攪拌して目的のマイクロカプセルを得た。
【0023】
(比較例1)
硬化剤内包マイクロカプセルおよび接着成分を含む多核型マイクロカプセルの調整:(a)トリス(2−アミノエチル)アミン内包マイクロカプセルを壁材料にポリスチンを用いて作製した。しかしカプセル化せずに粗大な凝集体が得られた。
【0024】
(b)トリス(2−アミノエチル)アミン内包マイクロカプセルを壁材料にポリメチルメタクリレートを用いて作製した。このマイクロカプセルおよび接着成分ビスフェノールAジグリシジルエーテルを壁材料メラミン―ホルマリン樹脂でカプセル化した。しかしカプセル化せず白濁した粘性液体が得られた。
【0025】
(比較例2)
接着成分内包マイクロカプセルおよび硬化剤を含む多核マイクロカプセルの調整:
(a)ビスフェノールAジグリシジルエーテル内包マイクロカプセルを壁材料にメラミン―ホルマリン樹脂を用いて作製した。このマイクロカプセルおよび硬化剤トリス(2−アミノエチル)アミンを壁材料6,6−ナイロンおよびポリメチルメタクリレートでカプセル化した。しかしカプセル化せず破裂もしくは空のマイクロカプセルおよびナイロン膜が得られた。
【0026】
比較例1〜2で示されたように、これらの手法では多核マイクロカプセル型粉体は作製できず、実施例1の手法が多核マイクロカプセル粉体の作製に最適である。


【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は家庭工作用、土木建築用、構造用などの接着剤 、建築用、自動車用、缶用、重防食用などの塗料、舗装材料、炭素繊維強化プラスチックなどの複合材料、エレクトロニクスにおける超LSIやLEDなどの封止用材料、電気機器における注型、含浸、粉体塗装絶縁材料など二液混合型接着剤が使用されている分野に幅広く応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の多核マイクロカプセル型粉体接着剤の断面を示す拡大模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1は接着成分、3はマイクロカプセル、5は硬化剤、7は多核マイクロカプセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質として接着成分を内包するマイクロカプセルと、前記接着成分と反応する硬化剤とを含む多核マイクロカプセル型粉体接着剤。
【請求項2】
前記接着成分を内包するマイクロカプセルの壁物質がメラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれる樹脂、前記多核マイクロカプセルの壁物質がメタクリルレート系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の多核マイクロカプセル型粉体接着剤。
【請求項3】
前記接着成分がエポキシ系プレポリマーであって、前記硬化剤が脂肪族アミン、脂環族アミンおよび芳香族アミンから選ばれる硬化剤であることを特徴とする請求項1記載の多核マイクロカプセル型粉体接着剤。
【請求項4】
前記接着成分を内包するマイクロカプセルの壁物質がメラミン樹脂および尿素樹脂から選ばれ、前記マイクロカプセルと硬化剤を含む多核マイクロカプセルの壁物質がメタクリルレート系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の多核マイクロカプセル型粉体。
【請求項5】
接着成分を内核とするマイクロカプセルと、硬化剤とを液中乾燥法にてマイクロカプセル化した多核マイクロカプセル型粉体の製造方法。
【請求項6】
前記接着成分を内核とするマイクロカプセルが界面重合法、in−situ重合法、スプレードライ法、コアセルベーション法から選ばれる方法で製造されることを特徴とする請求項5に記載の多核マイクロカプセル型粉体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−292941(P2009−292941A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147844(P2008−147844)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】