説明

多機能保水材およびそれを用いた多機能保水性舗装体

【課題】
従来の保水材やそれを用いた舗装体は、保水性が低く長時間保水が持続しない他、保水性という単一機能のみであったが、都市部の大気環境改善や快適性と安全確保といった多面的課題に対応するために、高い保水性の他に調湿機能やイオン吸着・交換機能等を併せ持つ多機能の保水材と多機能保水性舗装体を提供する。
【解決手段】
ポゾラン物質とカルシウムイオンとをあらかじめ水熱反応させることによって生成せしめたケイ酸カルシウム水和物を加熱脱水処理することで得られたナノレベルの細孔を多く持つ多孔質かつ多機能の粉粒体を主材とする保水材を得るとともに、これにセメント系無機硬化材と水を加えて注入材を調整して開粒度の舗装材に担持せしめることにより、極めて高い吸水率による高保水性と自律的調湿機能による快適性、イオンの吸着交換機能による凍結抑制と大気汚染物質吸着性等を併せ持つ、多機能保水材およびそれを用いた多機能舗装体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゼオライトのような水熱反応に優れたポゾラン物質と、セメント・石灰等のカルシウムイオンとの水熱反応で生成せしめたケイ酸カルシウム水和物を、加熱脱水処理することで得られた保水性・調湿性・イオン吸着・交換能等の多様な機能を高いレベルで併せ持つ多機能保水材、およびこれを開気孔の多孔質舗装材中に無機質硬化材によって担持せしめた多機能保水性舗装体に関するものであり、快適かつ安全な都市大気・交通環境の提供を、省資源かつ省エネルギーで可能とする道路舗装技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本の気候は、夏期の高温多湿や冬季の低温乾燥あるいは低温多湿等、季節や場所によって極めて温湿度環境変化が激しい特徴がある。また近年の人為的環境汚染は生活環境や地球環境に様々な問題を生じている。とりわけ都市部においては夏期のヒートアイランド現象に起因する熱環境の変化が、局所的異常気象の一因になるなど大きな課題となっている。また、冬季の道路凍結による交通障害や転倒事故対策は交通安全確保において益々重要度を増している。さらには、交通量の激しい都市道路沿線住民は排気ガスによる大気汚染によって健康・生命の危険に脅かされており、道路交通システムを含めた都市環境の改善は、快適で安全な環境の確保の観点から極めて重要な社会的課題であり、行政や事業者、生活者等各方面に対して早急な対策が求められている。
【0003】
しかし従来の道路舗装体の殆どは、密粒度アスファルトコンクリートに代表されるたわみ性舗装やセメントコンクリートを用いた剛性舗装となっているが、いずれも緻密体であり保水性を発揮し得ないので、都市部大気の熱環境改善には打ち水するしかなく、その効果も限定的であった。
【0004】
また、冬季の交通安全確保といった観点からは、道路の凍結抑制・防止は重要課題であり、塩化カルシウム等の凍結防止剤を大量に散布する対策を講じているが、経済面の問題はもとより、大量の薬剤散布による塩害の発生も問題となっている。
【0005】
さらに都市住民の健康被害の原因となっている大気汚染物質によるオキシダント発生への対策については、地中浄化や光触媒による浄化の取り組みが試験的にされている現況にあるが、送風や施設設置に多額のコストがかかることが大きな課題である。
【0006】
これらのことから対策として、舗装体に保水性や凍結抑制機能の付与をする舗装技術が開発され、手法として開粒度アスファルトコンクリートのように骨材の粒度分布を非連続的にし、骨材を結合するためのアスファルトやセメント材料を、強度的な面で必要最小限使用することでポーラスな構造を持つ舗装材として、その空隙に保水材や機能材からなる注入材を充填させる方法の保水性舗装が提案されている。
【0007】
例えば、夏期のヒートアイランド現象の緩和のみを目的とした保水性舗装体として、特許文献1にあるように半たわみ性舗装技術を応用し、保水材には有機繊維粉末を使用し、これにセメントと水を加えて調整したスラリーを多孔質舗装材の間隙に充填させる方法がある。また凍結抑制機能も併せ持つ手段としては特許文献2では、保水材として天然無機鉱物粉体や吸水性樹脂等と凍結抑制効果のある塩類を混入した保水性・凍結抑制舗装体が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1の方法は、保水容量が少なく潜熱効果による舗装表面温度低下機能の発現が短時間であり、乾燥・凍結、天水による破損や強度低下、性能劣化等が著しく、しかも保水性機能が活用される期間は一年の一時期に限定されていること等が課題である。また特許文献2にある吸水性樹脂の混入場合は吸水膨潤の性能劣化も甚だしく、加えて舗装体中の凍結抑制機能物質である塩類のイオン担持能力がほとんど無いので雨水で流失しやすく、効果が持続しないといった課題がある。
【0009】
さらに、特許文献3に見られるように、舗装体表面にゴムチップを担持させることで、走行車両によって生じる弾性変形によって表層の凍結氷を砕くという低騒音対策と凍結抑制機能を併せ持つ舗装等も提案されているが、交通量が少ない場合は凍結抑制効果が殆ど無いに等しい。
【0010】
このようにいずれの方法も未だヒートアイランド現象や路面凍結、大気汚染等の抑制等、課題解決の効果的手段とはなっていないことから、快適で安全な道路とその周辺環境を創生するために、多面的課題に対応できるコストパフォーマンスに優れた高機能かつ多機能の保水性舗装体が求められている。
【0011】
本発明は従来の夏期や冬季の一時期のみならず、年間を通じての都市部の大気環境改善や凍結抑制機能等、多面的機能を有する保水性舗装体を提供するものであり、その保水性能は既存の保水性舗装や凍結抑制舗装の性能を遥かに凌駕するとともに、新たな機能として大気の湿度に応じて水分を吸放湿する調湿機能、車両の排気ガス等に起因するNOx等の大気汚染物質の吸着機能をも併せ持つ等、高機能かつ多機能の保水性舗装体を提供するものである。
【特許文献1】特開2005−68636号公報
【特許文献2】特開2005−97957号公報
【特許文献3】特許第3190581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ヒートアイランド現象のような夏期における都市部の熱環境改善を、水の潜熱効果を用いた舗装技術で対応しようとする場合、最も重要なことは如何にして水分担持容量を多くし、また水分の放出時間を長くするかということにある。
【0013】
水分担持容量を多くするには舗装体の骨材間隙による空隙率を多くすることが効果的であるが、舗装体強度と耐久性の観点から限度があり、開粒度アスファルトコンクリートによって形成される空隙量が限界であることから、保水材そのものの空隙率を高くすることが具体的技術課題の一つとなる。
【0014】
しかし特許文献1に開示されている技術は、あらかじめ凍結抑制用塩化物系粉末を、セメント100重量部に対して、最大吸水率が5から80%もしくは100%程度の珪藻土のような天然鉱物や製紙スラッジ焼却灰等の保水材を5から80重量部配合されたセメント組成物からなる保水性注入材に配合し、これに水と若干の混和剤を加えて調整されたセメントミルクを、開粒度アスファルトコンクリートに注入せしめた舗装体が提案されているが、保水機能を発現する舗装体中の空隙は、セメントと天然鉱物やスラッジ焼却灰粒子の中のケイ酸成分との水和反応が進展し、セメントミルク注入時の間隙は当初は多くてもやがて生成した水和物で埋められて行くために、空隙は硬化後の年月とともに大幅に減少し、保水率の低い舗装体となることが問題であった。
【0015】
また、潜熱効果の持続時間を長くするには細孔容量を大きくするに加えて小さな細孔径を有することが重要であるが、既存技術やこれまでの提案では、細かくてもミクロンレベルの有機繊維粉末や無機鉱物粉末粒子を用いるので、その隙間によって形成される空隙に保水力は依存し、その容量が少なくしかも水分の蒸発による潜熱効果発現時間も短いといった課題がある。
【0016】
さらに既存技術の凍結防止・抑制技術は、塩化カルシウムのような塩類を散布することで結晶の融解熱とイオンによる氷点降下作用を利用しているが、薬剤散布は気象や時間、路面状況等を考慮して随時行なうことが求められ、莫大な経費とマンパワーを要するに加え、塩害によるコンクリートの劣化や周辺環境への負荷が大きな課題となっており、緻密な舗装体や特許文献1記載の方法では塩類の担持力が小さく、雨水による流失を防止出来ないことから、長時間の機能発現は不可能で塩害も低減出来ない。
【0017】
加えて、大気汚染物質による光化学スモッグの発生による大気環境汚染の抑制には、酸化チタン光触媒技術を応用した改善策も提唱されているが、光や紫外線が届かない部分は当然機能を発現しないし、反応速度も遅いことが知られている。またその他の方法として、汚染物質を含む大気を人工的に設置した土壌中に送風機で送ることで浄化する提案もあるが、いずれもコストが問題であり、低廉で効果的な技術開発が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の保水材は、高い保水性を発現せしめる手段として、反応性の良いポゾラン物質単独あるいは混合物を、セメントや石灰のようなカルシウム系原料と水熱反応させることにより、多孔質構造のケイ酸カルシウム水和物を生成させた後、それを800℃以下で加熱脱水処理することによってナノレベルの細孔を多く有する粉粒体組織を得るものである。
【0019】
つまり、あらかじめ水熱反応させることによって結晶構造中にナノレベルの細孔が多いケイ酸カルシウム水和物を生成させ、次にこれを乾燥・焼成処理によって粒子間・結晶間・結晶内の水分子を取り除いた脱水ケイ酸カルシウム水和物とすることによって得られた、多機能かつ高保水性の粉粒体を主材とすることに特徴がある。
【0020】
また、これを担持させるため、セメント類と水を加えて調整された注入材を舗装材に注入して図1記載の舗装体とすることにより、従来の問題である保水性の向上に加え、微細空隙の減少原因となっている、雨水や塵に含まれるケイ酸分や混入された砂分等と、担持用硬化材であるセメント類との経時的ポゾラン反応の進展をも防止可能となり、多量に形成せしめた微細な空隙を長期間確保するという、従来の保水性舗装体の課題解決ができるのである。
【0021】
さらに、保水材中のナノレベルの細孔によって、毛管凝縮作用による自律的調湿機能や、高いイオン吸着・交換機能という新たな機能をも舗装体に付与することから、これを開気孔の舗装材に注入すれば、長期に亘って快適な温湿度環境をもたらす高保水性の多機能舗装体となる。
【0022】
凍結抑制についての既存技術としては、可溶性陽イオンや分子による水の氷点降下作用を利用した化学的方法があり、本発明においては、凍結防止剤の散布による凍結抑制効果を持続させるための手段として、保水材の持つ高いイオン交換・吸着作用によって化学的担持力を高めることによって効果をより持続せしめ、凍結防止剤の散布量や回数の低減ができる。
【0023】
また、NOxに代表される大気汚染物質の吸着については、本発明の保水材である脱水ケイ酸カルシウム水和物の細孔に毛管凝縮されている水分子が、NOが酸化されて生じたNO2を吸着し、結晶層間または遊離のカルシウムイオンと反応し、硝酸カルシウムとして固定せしめるものであり、生成した硝酸カルシウムは、冬季の際は再びイオン化して凍結抑制効果を高める。
【0024】
加えて、保水材原料の一部もしくは注入材の一部にフライアッシュやケイ酸質植物灰等を用いることにより、フライアッシュ中の未燃分や灰中の炭素の化学吸着力も利用され、排ガス中のNOのように大気中に排出された汚染物質中の疎水性化合物の吸着も可能となり、廃棄物利用と資源の循環にも寄与する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、舗装体が保水材の主成分である脱水ケイ酸カルシウム水和物の細孔特性によって高い保水機能を発現し、ヒートアイランド現象の抑制機能を長時間発揮する効果と、珪藻土で知られているような自律的調湿機能の発現等によって、歩行者にも快適な温湿度環境が提供できる効果が可能となる。
【0026】
また保水材の高い陽イオン担持力と吸着力によって、凍結防止剤を強力に担持するとともに、自ら大気汚染物質を水溶性カルシウム塩として吸着固定するので、従来は凍結防止効果の悪かった舗装の傾斜部にも有効で、凍結防止剤の散布量や回数を大幅に削減出来るので経済的な凍結抑制舗装を提供でき、加えて大気汚染物質である窒素酸化物や硫黄酸化物をも吸収出来ることから、道路や都市空間に安全な環境を提供することが可能となる。
【0027】
また、産業廃棄物であるフライアッシュ活用はもとより、再生コンクリート廃材などのセメント系廃材の多くはケイ酸カルシウム水和物を含有していることから、原料もしくは補助剤として使用することにより、廃コンクリートからの骨材再処理過程において発生する微粉廃棄物もリサイクルすることが可能となり、循環型社会の構築にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
保水材の主材は、カルシウム源として普通ポルトランドセメント、ポゾラン物質として反応性の高いゼオライト質凝灰岩を用いて、酸化カルシウムと二酸化珪素のモル比をほぼトバモライト組成となるように配合し、オートクレーブを用いて、水和反応による生成ケイ酸カルシウム水和物の鉱物組成がC-S-Hや結晶度の低いトバモライトとなるように設定した水熱処理を行った後、結晶構造が壊れてウォラストナイトを生成しない温度域である800℃以下の乾燥・焼成脱水処理によって製造することが望ましい。
【0029】
保水材には、フライアッシュやセメント廃材等を原料もしくは増量材として使用し、保水材の保水性能である吸水率を既存保水材の限界値である吸水率100%以上となるように調整することが望ましい。
【0030】
注入材を調整するにあたり、保水材を注入後硬化させるための硬化材は、普通ポルトランドセメントや他の水硬性無機材でも良いが交通解放時間を早める為には、超速硬セメントを用いることが良く、水を加えてスラリーを注入可能な粘性に調整することが必要となるが、この場合減水材の使用はイオン交換・吸着能を低下させるので使用しないことが望ましい。
【0031】
注入材を注入しやすいスラリーに調整するために、やむなく粒材を使用して比重や粘性調整する場合には、ポゾラン反応を生じないか、長期的に性能劣化を招かない粒材として、石灰石やコンクリート再生砂材または、凝灰岩のような保水性の高い多孔質粒材等を合わせて用いることも良い。
【0032】
注入材を保持する舗装材は、開粒度アスファルトコンクリート、ポーラスコンクリート等が望ましいが、骨材として木材チップやプラスチック、その他の無機質材料等を用いることもできる。
【実施例1】
【0033】
主材となる保水材を製造し性能を調べるため、微粉砕したゼオライト質凝灰岩と、それと化学組成がほとんど同様であるフライアッシュを使用して以下の配合物を180℃で4時間保持する水熱条件で普通ポルトランドセメントと反応させた後、300℃で加熱脱水処理したものの物性・性能の測定を行った。
【0034】
水熱反応試料の番号と配合割合
No.1 ポルトランドセメント 100重量部
ゼオライト質凝灰岩 100重量部
水 80重量部
No.2 ポルトランドセメント 100重量部
フライアッシュ 100重量部
水 80重量部
【0035】
それらについてX線回折分析による鉱物組成の同定をした結果、水熱反応生成物の殆どがケイ酸カルシウム水和物であり、生成鉱物の多くはC−S−Hと低結晶度のトバモライトからなるものであった。
【0036】
保水材としての機能を発現させるためには、硬化体を脱水処理する必要があるので、No.1試料の熱分析(TG-DTA)を行った結果、40℃から160℃付近までは急激に脱水による減量を示すがそれ以降は緩やかに減量し、ケイ酸カルシウム水和物が全ての結晶水を失ってβ−ウォラストナイトに変化するといわれる温度である800℃まで緩やかに減量することが確認されたことから、加熱脱水処理温度は800℃以下が良いことが判った。また、加熱脱水による重量減は300℃以降は特に緩やかであったので、試験では脱水処理条件を300℃で5時間保持することとし、この条件で脱水処理した後、最大粒径2mm以下に粉砕して試験用保水材を製造した。
【0037】
ついで、保水材の保水力(吸水率)と自律的調湿機能を調べるために、JIS法にもとづき吸水率の測定と調湿試験(デシケーター法による)を実施した結果、表1に示したとおり乾燥・焼成温度が高いほど吸水率は高く、No.1の保水力は市販保水材より遥かに高く、相対湿度43%から69%の範囲での吸湿量と放湿量の和を調湿力とすると、いずれも市販の調湿タイル以上の性能であった。
【0038】
【表1】

【0039】
また、本発明の保水材の特徴であり、高い凍結抑制機能を発揮するために必要なイオン交換・吸着機能について確認するために、陽イオン交換容量の測定を行った結果、No.1は60meq/100g(単位は100gあたりのミリグラム当量)、No.2は52meq/100gであり、土壌改良材としての認定基準である50meq/100gを超え、天然ゼオライト並の陽イオン保持力があることを確認した。
【実施例2】
【0040】
最適な注入材の硬化体の物性と保水性を確認することを目的として、No.1の保水材と超速硬セメントと水を施工上最適な粘性のスラリーとなるように配合調整した後、強度試験用型枠に流し込み成型した硬化体について、曲げ強度と吸水率を測定した結果、1週養生後の曲げ強度は0.8N/mmを示し、保水力を表す値である吸水率は、従来品の49%を遥かに上回る112%であり、極めて高い保水力が得られることを確認した。
【実施例3】
【0041】
舗装体の凍結抑制効果や保水による舗装表面温度上昇抑制効果等を確認するための試験体を作成することを目的として、実際の舗装材である開粒度アスファルトコンクリートに前記実施例2の注入材を注入した300mm×300mm×50
mmの舗装体と、比較用試験体として同じサイズの一般的舗装体である密粒度アスファルトコンクリートの舗装体を作成した。
【実施例4】
【0042】
舗装体の最大保水量についての比較実験として、実施例3で作成した舗装体について、24時間吸水重量と乾燥重量とを測定し、1平方メートル値の最大保水量を算出した結果、密粒度アスファルトコンクリートが0.7kg/ m2であるのに対して従来技術で作成した保水性舗装体は4.7kg/m2、本発明舗装体ではそれらを大きく上回る5.8kg/m2 であった。
【実施例5】
【0043】
本発明舗装体の保水機能を確認するために、実施例3で作成した試験体を24時間飽水させ、温度30%湿度40%に設定した人工試験室内の天秤上に容器ごと設置し、日射量を1平方メートルあたり460ワット照射し、舗装体表面温度と減量を測定した結果、放水による減量は図2に示したように長時間にわたって継続するとともに50時間後の減量は通常の密粒度アスファルトコンクリートはもとより、従来技術の保水性舗装体(図中表記の比較例)の2倍近い保水量を示した。
【0044】
また、舗装体の表面温度上昇抑制効果についても図3に示したように、従来の舗装体表面温度は3時間程度で54℃に達するのに対して、本発明舗装体は10時間以上抑制効果が継続し、50時間後の舗装体表面温度も従来の保水性舗装体よりも低く、44℃までしか上昇しなかった。
【実施例6】
【0045】
本発明による舗装体の、イオン吸着・交換能による凍結防止剤担持機能と舗装表面凍結抑制効果を確認するため、冬季の北陸地方の代表的気象条件として、人工気象室中で低温はマイナス2℃から4℃での凍結条件と8℃での融解、さらにその間に時間雨量4mmの雨が降るといった条件を設定し、凍結防止剤である塩化カルシウム水溶液に24時間浸した後の舗装体について、各条件下でのすべり抵抗(BPN値)を測定した結果、表2に示したように密粒度アスファルトコンクリートは低温保持後の降雨によって凍結防止剤は洗い流されるが、本発明による舗装体は降雨後もイオンの担持効果によって舗装体は凍結せず、通常安全とされるBPN値40以上の滑り抵抗値であることが確認された。
【0046】
【表2】

【実施例7】
【0047】
表1記載のNo.1試料の300℃脱水処理物について、調湿能力を確認するために、水蒸気吸着等温線を測定した結果である図4から、一般的な珪藻土の3倍以上の調湿力であり、ナノレベルの細孔が多いことに起因する特徴である、中湿度域に保つための吸放湿力に優れていることが確認され、これを舗装体に担持せしめれば快適とされる湿度に自律的に保つ調湿機能を発揮する優れた舗装体が得られることが証明できた。
【実施例8】
【0048】
その他のカルシウム原料として生石灰を水和させて得られた消石灰と、ポゾラン物質としてケイ酸質植物灰を用いて、カルシウムとケイ酸のモル比がトバモライト組成になるように配合して180℃4時間の水熱処理を行い、反応生成物質のX線分析、熱分析を行った後、これを300℃で脱水処理して得られた保水材の物性測定をした。
【0049】
その結果、水熱処理反応生成物はケイ酸カルシウム水和物が殆どであり、結晶性鉱物はC-S-Hとトバモライトであり、300℃での脱水処理後も鉱物組成に変化はなく、表3に記載の通り実施例1におけるNo.1試料と同様で高い保水性と調湿力であることが確認できた。
【0050】
【表3】

【実施例9】
【0051】
開粒度舗装体に注入される注入材が、硬化後も高い保水性を発揮するための配合条件を確認する目的で、増量材として、フライアッシュ、ケイ酸質植物灰、火山灰の固結物であるゼオライト質凝灰岩粉砕物、発泡火山ガラス等の粉体や粒材を配合した保水材に、消石灰と水を加えて一定の粘性となるように調整し、硬化後の吸水率を測定した結果、実施例1で作成した脱水ケイ酸カルシウムをほぼ40%以上配合すれば、吸水率100%以上の保水機能を持つ硬化体が得られることが確認できた。
【0052】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】多機能舗装体の構造模式図
【図2】密粒度アスファルトコンクリートおよび本発明の舗装体の放湿過程における舗装体重量の変化
【図3】密粒度アスファルトコンクリートおよび本発明の舗装体の放湿過程における表面温度の変化
【図4】本発明による保水材の水蒸気吸着等温線
【符号の説明】
【0054】
1 骨材
2 接着剤(アスファルト)
3 保水材
4 保水材を担持する硬化体




【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水ケイ酸カルシウム水和物を主成分とすることを特徴とする舗装用保水材。
【請求項2】
請求項1記載の保水材が、無機質硬化材によって開粒度の舗装材中に担持されていることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項3】
ポルトランドセメント、生石灰、消石灰あるいはこれらの2以上の混合物からなる群から選択される少なくとも1つの石灰系原料と、ゼオライト質凝灰岩、ケイ酸質植物灰、フライアッシュ、火山灰あるいはこれらの2以上の混合物からなる群から選択される少なくとも1つのポゾラン原料との配合物を、水熱反応させて得られたケイ酸カルシウム水和物を、40℃〜800℃で加熱脱水して得られた脱水ケイ酸カルシウム水和物を主成分とすることを特徴とする保水材。
【請求項4】
吸水率100%以上の前記脱水ケイ酸カルシウム水和物と、フライアッシュ、粉末状のセメント系廃材、ゼオライト、天然の砂あるいは人造の砂からなる群から選択される少なくとも1つの増量材とを配合して吸水率が100%以上となるよう調整されていることを特徴とする請求項3に記載の保水材。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の保水材が、ポルトランドセメント、超速硬性のセメント、石膏、消石灰あるいはこれらの2以上の混合物からなる群から選択される硬化材に水を配合して得られたスラリーと混合されて、開粒度アスファルトコンクリート又はポーラスコンクリートの空隙に充填されていることを特徴とする保水性舗装体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248656(P2008−248656A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94366(P2007−94366)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(000232508)日本道路株式会社 (48)
【出願人】(506100897)日広開発株式会社 (3)
【Fターム(参考)】