説明

多段伸縮シリンダ

【課題】クレーンのブーム等の伸縮に用いられる多段伸縮シリンダであり、シリンダ重量の軽減を図って吊り上げ能力を向上させる。
【解決手段】最低位のシリンダ1のシリンダチューブ5から最高位のシリンダ3のピストンロッド13まで、高位のシリンダのピストンロッドを低位のシリンダのピストンロッドにヘッド側油室とロッド側油室を確保して摺動可能に収容した多段伸縮シリンダにおいて、低位のピストンロッドのヘッド側油室に通ずるヘッド側油路とロッド側油室に通ずるロッド側油路とを独立させて高位のピストンロッドに形成したヘッド側油路とロッド側油路に伸縮可能に連続させる構成を最高位のシリンダ3のピストンロッド13まで形成し、各ヘッド側油路14,16と各ロッド側油路15,17、19を端部ブロック20にそれぞれ独立して形成された端部通路に連絡する一方、ヘッド側の端部通路は別々に、ロッド側の端部通路は連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等の伸縮ブームに使用して好適な多段伸縮シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物を移動させるには伸縮シリンダによることがある。このうち、下記特許文献1及び2に見られるように、低位のシリンダの中に高位のシリンダを伸縮可能に収容した構成を何段かに重ねた多段伸縮(テレスコピック)シリンダは、伸長長さに対して縮短長さが短くなるという特徴を有しており、縮短時にコンパクトさが要求されるクレーン等に多く用いられている。この種の多段伸縮シリンダでは、ヘッド側油室とロッド側油室にそれぞれ油路を各シリンダのチューブ又はピストンロッド等に形成し、これを方向切替弁を介して油圧ポンプと油圧タンクに接続している。
【0003】
この油路の形成には、各シリンダの油路を直列(シリーズ)に設ける場合と、並列(パラレル)に設ける場合とがある。上記した特許文献1に記載された発明は後者の例であるが、これによると、各シリンダに供給される圧油の圧力を均等に保ち、また、各シリンダに圧油を個々に給排できる利点があるが、その一方で、給排ポートが増えて煩わしい外部配管を多く必要とするし、この外部配管やそれに挿設される方向切替弁といった制御機器はシリンダの段数が増すほど多くなる。
【0004】
これを改善するのは特許文献2に見られる発明であるが、本発明では、伸長側のヘッド側油室は並列であるが、縮短側のロッド側油室は直列にしてすべてのシリンダのロッド側油室を経て一つの給排ポートに連絡している。したがって、外部配管や制御弁の数は少なくてすむが、圧油の圧力は各ロッド側油室を経るごとに低下する。さらに、油室とそれに基づく油路の形成が複雑になる。
【0005】
具体的には、高位のシリンダの油路は低位のシリンダの油路の外周側に形成さぜるを得ないし、圧油は各ロッド側油室を順次通らなければならないから、必要なストロークを確保する上で中間のシリンダのピストンロッド(チューブ)を二重にしている。この点で、ピストンロッドの径を太くしなければならないことに加えてチューブの重量が重くなり、例えば、クレーンのブーム伸縮等に使用した場合には、クレーンの吊り上げ能力の低下につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−089700号公報
【特許文献2】特開2000−087913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、各シリンダの油室を並列に形成してその長所を享受するものであるが、このうちのロッド側油室を最高位のピストンロッドの端に固定的に設けた端部ブロック内で連通させて単独の給排ポートに連絡し、外部配管の煩わしさを排すとともに、シリンダ重量の軽減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、最低位のシリンダのシリンダチューブから最高位のシリンダのピストンロッドまで、高位のシリンダのピストンロッドを低位のシリンダのピストンロッドにヘッド側油室とロッド側油室を確保して摺動可能に収容した多段伸縮シリンダにおいて、低位のピストンロッドのヘッド側油室に通ずるヘッド側油路とロッド側油室に通ずるロッド側油路とを独立させて高位のピストンロッドに形成したヘッド側油路とロッド側油路に伸縮可能に連続させる構成を最高位のシリンダのピストンロッドまで形成し、各ヘッド側油路と各ロッド側油路を最高位のシリンダの基端部に連設して固定部材に固定される端部ブロックに突入させるとともに、各ヘッド側油路と各ロッド側油路を端部ブロックにそれぞれ独立して形成された端部通路に連絡する一方、ヘッド側の端部通路は各々専用の給排ポートに連絡し、ロッド側の端部通路は端部ブロック内で連通させて単独の給排ポートに連絡したことを特徴とする多段伸縮シリンダを提供したものである。
【0009】
また、本発明は、以上の多段伸縮シリンダにおいて、請求項2に記載した、端部ブロック内で連通するのはヘッド側の端部通路であり、ロッド側の端部通路は各々独立させてそれぞれ専用の給排ポートに連絡する構成、請求項3に記載した、端部ブロックに突入される各油路を中心側のものほど端側に延ばし、各油路の端から端部通路を径方向に形成するとともに、連通すべき各ロッド側油路を各ヘッド側油路とは別の位相にして連絡孔で連通した構成、請求項4に記載した、低位のシリンダのヘッド側油路の外周側に当該シリンダのロッド側油路を同芯にリング状に形成する構成を最高位から最低位のシリンダまで順次外周側に構築した構成を提供する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、ピストンロッドが伸長する方向では、各シリンダのヘッド側油室に圧油を個々に供給でき、各ピストンロッドを別々に伸長できる。この点で、大きな推力が要求され、しかも、微妙な伸長量を必要とするクレーン等のシリンダでは有用なものとなる。さらに、各油室は並列に形成されているから、各油室に供給される圧油の圧力は同じであり、各油路を直列に形成した場合に起こる圧力低下もない。さらに、端部ブロック内で連通させたので、ピストンロッド(チューブ)を二重にする必要がなく、クレーンのブーム伸縮用に使用した場合、クレーンの吊り上げ能力の低下につながらない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】多段伸縮シリンダの伸長状態の一部断面図である。
【図2】多段伸縮シリンダの縮短状態の一部断面図である。
【図3】中間シリンダの断面図である。
【図4】最高位のシリンダの断面図である。
【図5】図1のA−A断面図である。
【図6】図1のB−B断面図である。
【図7】図1のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係る多段伸縮シリンダの伸長状態を示す一部断面図、図2は縮短状態の一部断面図、図3は中間シリンダの断面図、図4は最高位のシリンダの断面図、図5は図1のA−A断面図、図6はB−B断面図であるが、この多段伸縮シリンダは低位(図1等の左側)から高位(図1等の右側)まで何段かに伸縮可能に収容されているものである。ここでは、簡単のために、最低位のシリンダ1、中間シリンダ2及び最高位のシリンダ3の三段構成のものについて説明する。このうち、最低位のシリンダ1は、ヘッド側端部4とこれに続くシリンダチューブ5のみで構成されている。
【0013】
中間シリンダ2は、ピストンヘッド6に続くピストンロッド7を有しており、ピストンヘッド6は最低位のシリンダ1のシリンダのチューブ5にヘッド側油室8とロッド側油室9を確保して摺動可能に収容されている。ピストンロッド7は内部が空間になっており、この中に最高位のシリンダ3のピストッヘッド10がヘッド側油室11とロッド側油室12を確保して摺動可能に収容されている。なお、ピストッヘッド10に続くピストンロッド13は中間シリンダ2のピストンロッド7から突出している。
【0014】
これにおいて、中間シリンダ2のヘッド側油室8は、圧油の給排のために外部まで導かなければならないから、中間シリンダ2のピストンヘッド6及びピストンロッド7の中心に軸方向に孔を形成し、これをヘッド側油路14としてピストッロッド7の端まで延ばしている。一方、ロッド側油室9に通ずるロッド側油路15は、ロッド側油室9に通じてピストンヘッド6に形成された孔を経て軸方向に中間シリンダ2のヘッド側油路14の外周側のピストンロッド7に形成し、同じくピストンロッド7の端まで延ばしている。この場合、ロッド側油路15はヘッド側油路14の外周側に形成されている。
【0015】
最高位のシリンダ3も同様であり、そのピストンロッド13は中間シリンダ2のピストンロッド7から突出している。このピストンロッド13にも中間シリンダ2のヘッド側油路14とロッド側油路15に連続するヘッド油路16とロッド側油路17が形成されており、最高位のシリンダ3のピストッロッド13の端まで延ばしている。この場合、最高位のシリンダ3は中間シリンダ2に対して伸縮するから、それぞれのヘッド側油路14、16とロッド側油路15、17は互いに伸縮可能に連続している。また、ロッド側油路17はヘッド側油路16の外周側に形成されている。
【0016】
最高位のシリンダ3にも、そのヘッド側油室11に続くヘッド側油路18とロッド側油室12に続くロッド側油路19が形成されており、ピストンロッド13の端まで延ばしている。この場合も、ロッド側油路19はヘッド側油路18の外周側に形成され、かつ、ヘッド側油路18は中間シリンダ2のロッド側油路17の更に外周側に形成されることになる。つまり、高位側のシリンダの油路を低位側のシリンダの油路の外周側に形成するのである。このような構成によると、最高位のシリンダ3のピストンロッド13に多くの油路を形成することになり(本例では四本)、その径も太くせざるを得ない。そこで、中間シリンダ2や最高位のシリンダ3のピストンロッド7、13の径を効率的に小さくするために、以上の各シリンダのヘッド側油路16、18とロッド側油路17、19はすべて同芯に形成している。
【0017】
次に、最高位のシリンダ3の基端部に端部ブロック20を設け、これにロッド側通路17,19とヘッド側通路16、18を突入させている。そして、中心側にある油路ほど端近くまで延ばし、その端から第一〜第四端部通路21〜24を立ち上げ、その開口部を給排ポートとしている。こうすると、第一〜第四端部通路21〜24を加工が容易な同一位相形成しても他の通路を横切らないからである。本発明では、ロッド側油路17、19に続く第二及び第四端部通路22、24を端部ブロック20内で連通して一つの給排ポートにまとめているのである。この場合、すべての端部通路21〜24を同じ位相にすると、連通すべき第二端部通路22と第四端部通路24は間に存在するヘッド側油路に16に続く第三端部通路23を横切ることになる。
【0018】
そこで、第7図に示す図1のC−C断面図のように、第二及び第四端部通路22、24は第一及び第三端部通路21、23とは別の位相にし、第二及び第四端部通路22、24を連絡する連通孔25を形成して互いを連通し、第二及び第四端部通路22、24の給排ポートのいずれかに栓26をして一つの給排ポートにまとめている。この場合、連通孔25は油路に平行な方向に穴あけし、端部側の不要の部分を同じく栓27で蓋をしている。なお、本例の端部ブロック20は断面が方形をしているが、これに限るものではない。
【0019】
ところで、以上において、最高位のシリンダ3の端部ブロック20は固定されており、低位側のシリンダが伸縮することになる。この点で、端部ブロック20に接続される配管は固定的に設けることができ、複雑な伸縮機構や強度的に劣る可撓機構を必要としない。さらに、上記の構成をとると、各シリンダのピストンロッドは径の太いものになり、必然的にロッド側油室の受圧面積が小さいものになる。したがって、縮短側の力は弱くなるが、クレーン等のシリンダでは縮短時には伸長時ほど力を要しないのが通常であるので支障はない。
【0020】
一方、図示は省略するが、端部ブロック20内で連通するのはヘッド側油路16、18に通ずる第一端部通路21と第三端部通路23とし、ロッド側油路17、19に通ずる第二端部通路22と第四端部通路24は各々独立させてそれぞれ専用の給排ポートに連絡してもよい。こうすると、上記したロッド側油路17、19の連通による効果をヘッド側油路17、18に転換できる。
【0021】
以上は、本発明の基本的な形態であるが、本発明は、この他に種々の形態をとる。例えば、ヘッド油路、ロッド側油路ともにそれぞれの端部通路を連通させ、これを二つの給排ポートに各々連絡してもよい。これによると、外部配管や制御弁の数が更に少なくできる利点がある。
【0022】
加えて、シリンダの積重数は三段に限るものではなく、それを超えることもある。例えば、四段構成にするには、最低位のシリンダのチューブ(ピストッロッド)にヘッドを形成してこれを更に低位のシリンダを設けてそのチューブにヘッド側油室とロッド側油室を確保して摺動可能に収容すればよい。そして、それぞれのヘッド側油室とロッド側油室に通ずる油路を他の各ピストンロッドに形成した油路と伸縮可能に連続させて最高位のシリンダの端部ブロックまで延ばせばよい(給排ポートの数も増える)。この場合でも、各ロッド側油路を端部ブロック内で連通させて一つの給排ポートにまとめるのは上記と同じである。さらに、五段以上でも同様な構成をとればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 最低位のシリンダ
2 中間シリンダ
3 最高位のシリンダ
4 ヘッド側端部
5 最低位のシリンダのシリンダチューブ。
6 中間シリンダのピストン
7 中間シリンダのピストンロッド
8 最低位のシリンダのヘッド側油室
9 最低位のシリンダのロッド側油室
10 最高位のシリンダのピストン
11 中間シリンダのヘッド側油室
12 中間シリンダのロッド側油室
13 最高位のシリンダのピストンロッド
14 中間シリンダのヘッド側油路
15 中間シリンダのロッド側油路
16 最高位のシリンダのヘッド側油路
17 最高位のシリンダのロッド側油路
18 最高位のシリンダのヘッド側油路
19 最高位のシリンダのロッド側油路
20 端部ブロック
21 第一端部通路
22 第二端部通路
23 第三端部通路
24 第四端部通路
25 連通孔
26 栓
27 栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最低位のシリンダのシリンダチューブから最高位のシリンダのピストンロッドまで、高位のシリンダのピストンロッドを低位のシリンダのピストンロッドにヘッド側油室とロッド側油室を確保して摺動可能に収容した多段伸縮シリンダにおいて、低位のピストンロッドのヘッド側油室に通ずるヘッド側油路とロッド側油室に通ずるロッド側油路とを独立させて高位のピストンロッドに形成したヘッド側油路とロッド側油路に伸縮可能に連続させる構成を最高位のシリンダのピストンロッドまで形成し、各ヘッド側油路と各ロッド側油路を最高位のシリンダの基端部に連設して固定部材に固定される端部ブロックに突入させるとともに、各ヘッド側油路と各ロッド側油路を端部ブロックにそれぞれ独立して形成された端部通路に連絡する一方、ヘッド側の端部通路は各々専用の給排ポートに連絡し、ロッド側の端部通路は端部ブロック内で連通させて単独の給排ポートに連絡したことを特徴とする多段伸縮シリンダ。
【請求項2】
端部ブロック内で連通するのはヘッド側の端部通路であり、ロッド側の端部通路は各々独立させてそれぞれ専用の給排ポートに連絡する請求項1の多段伸縮シリンダ。
【請求項3】
端部ブロックに突入される各油路を中心側のものほど端側に延ばし、各油路の端から端部通路を径方向に形成するとともに、連通すべき各ロッド側油路を各ヘッド側油路とは別の位相にして連絡孔で連通した請求項1又は2の多段伸縮シリンダ。
【請求項4】
低位のシリンダのヘッド側油路の外周側に当該シリンダのロッド側油路を同芯にリング状に形成する構成を最高位から最低位のシリンダまで順次外周側に構築した請求項1〜3いずれかの多段伸縮シリンダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67911(P2012−67911A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159685(P2011−159685)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【出願人】(394005720)ユアサ工機株式会社 (5)
【Fターム(参考)】