説明

多発性硬化症(MS)の治療における神経細胞及び乏突起膠細胞を保護するためのERα又はERβに対して顕著な親和性を持たない或る種のフェニルナフチル化合物の使用

本発明は、多発性硬化症を治療するための、α又はβタイプのエストロゲン受容体(ER)に親和性を示さない、或る種のSERM様フェニルナフチル化合物の新規な使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症の治療法に関する。特に、本発明は、式Iの化合物及び構造的に関連する化合物、並びにそれらの異性体、ラセミ体、エナンチオマー、それらの塩及びそれらを含有する医薬による多発性硬化症患者の神経細胞及び/又は乏突起膠細胞の保護に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、CNS(中枢神経系)ミエリンの脱落、乏突起膠細胞死及び軸索破壊を起こす自己免疫疾患の一つであり、重篤な機能障害を引き起こす。MSは、男性よりも2〜3倍高い発生率で女性に起こり(Duquette, et al., 1992. Can. J. Neurol. Sci. 19: 466-71)、エストロゲンは妊娠第二及び第三の3ヶ月期の間疾病重症度を軽減させるが(Confavreux et al., 1998. N Eng J Med 339: 285-291)、MSの臨床症状は分娩後に悪化することが報告されている(Evron et al., 1984. Am. J. Reprod. Immunol. 5: 109-113; Mertin and Rumjanek 1985. J. Neurol Sci. 68: 15-24; Grossman, 1989. J. Steroid Biochem. 34: 241-245; Confavreux et al., 1998. N. Engl. J. Med. 339: 285-291)。エストリオールによる治療はガドリニウム増強病変及びMRI体積を減少させる(Voskuhl and Palaszynski, 2001. Neuroscientist. 7(3): 258-270; Sicotte et al., 2002. Ann Neurol. 52: 421-428)。更にエストロゲンは、げっ歯類のEAE(実験的アレルギー性脳脊髄炎)において、免疫応答の変化、臨床症状の改善及びミエリン形成の増強をもたらす(Curry and Heim 1966. Nature 81: 1263-1272; Kim et al., 1999. Neurology. 52: 1230-1238; Ito et al., 2002. Clin Immunol. 102(3): 275-282)。エストロゲンは、細胞毒誘導の細胞死から乏突起膠細胞を保護することが報告されており(Takao et al., 2004. J Neurochem. 89: 660-673)、17β−エストラジオール(E2)は多数の乏突起膠細胞の精密な相互接続過程を加速させることが報告されている(Zhang et al., 2004. J Neurochem 89: 674-684)。
【0003】
エストロゲンは、細胞生存、軸索萌芽、再生反応、シナプス伝達及びニューロン新生の増強によって、変性疾患及び傷害に応答して直接的に保護する役割を果たすという証拠が増加している。CNSにおいてエストロゲン合成の増加及び障害部位におけるエストロゲン受容体発現の増強があり(Garcia-Segura et al., 2001. Prog. in Neurobiol. 63: 29-60)、エストロゲン介在の細胞保護は、β−アミロイドの細胞毒性、興奮毒性及び酸化的ストレスを含む神経変性の多くのインビトロモデルで示されている(Behl et al., 1995. Biochem. Biophys. Res. Commun. 216,473-482; Goodman et al., 1996. J. Neurochem. 66: 1836-1844; Green et al., 1997. J. Neurosci. 17: 511-515; Behl et al., 1999. Trends Pharmacol. Sci. 20: 441-444)。最近の臨床研究では、エストロゲン補充療法もまた、アルツハイマー病及び統合失調症の危険性を軽減させ発症及び進行を遅延させることができることを示唆している(概説として、Garcia-Segura et al., 2001. Prog. in Neurobiol. 63: 29-60参照)。E2は、血液脳関門を通過する脂溶性ホルモンであり、覚醒、注意、心的状態及び認知を助成して脳システムを保持する(Lee and McEwan, 2001. Annu. Rev. Pharmacol. & Toxicol. 41: 569-591)。更に、天然のエストロゲン及びタモキシフェンのような合成の選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)は、両者共に虚血性脳梗塞によって生じる神経損傷を軽減し、更にE2又はラロキシフェンのどちらかは、1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン誘導の毒性に対してニューロンを保護する(Callier, et al., 2001. Synapse 41: 131-138; Dhandapani and Brann, 2003. Endocrine 21: 59-66)。
【0004】
エストロゲンの神経保護効果は、bcl−2発現の調節、cAMP及び分裂促進因子活性化キナーゼ情報伝達経路の活性化、細胞内カルシウム恒常性の調節、抗酸化剤活性の強化及び/又はホルモン制御の転写因子として作用し得る、エストロゲン受容体(ER)の活性化を通して仲介される(Mangelsdorf, et al., 1995. Cell 83: 835-839; Katzenellenbogen, et al., 1996. Mol. Endocrinol. 10: 119-131; Singer et al., 1996. Neurosci. Lett. 212: 13-16; Singer et al., 1998. Neuroreport 9: 2565-2568; Singer et al., 1999. Neurosci. Lett. 212: 13-16; Weaver et al., 1997. . Brain Res. 761: 338-341; Watters and Dorsa, 1998. J. Neurosci. 18: 6672-6680; Singh et al., 1999. J. Neurosci. 19: 1179-1188; Alkayed et al., 2001. J. Neurosci. 21: 7543-7550; Garcia-Segura et al., 2001. Prog. in Neurobiol. 63: 29-60)。特性が明らかにされた2つのエストロゲン受容体のERα及びERβは、核内転写因子として機能するクラスIホルモン受容体ファミリーに属する。ERα及びERβ(mRNA又はタンパク質の形態)は、末梢神経系のミエリン形成細胞であるシュワン細胞、並びにCNSの神経細胞である星状細胞及び乏突起膠細胞を含む神経系細胞型で発現する(Miranda and Toran-Allerand, 1992; Santagati, et al., 1994; Kuiper, et al., 1996; Mosselman, et al., 1996; Thi et al. 1998; Platania, et al., 2003)。CNSのミエリン形成細胞でありMSで失われる乏突起膠細胞において、ERαは核内に存在すると報告されているのに対し、ERβは細胞質性で、生体内免疫反応性であり、細胞質及びミエリン鞘中に容易に検出できる(Zhang et al., 2004. J Neurochem 89: 674-684)。最近、Arvanitisらは、分離したCNSミエリン、脊髄及び脳切片のミエリン鞘、並びに乏突起膠細胞の原形質膜のERβに類似したERを報告している(Arvanitis at al., 2004. J Neurosci Res. 75: 603-613)。
【0005】
ERβのリガンドである小分子又は古典的なERα以外の部位でエストロゲン効果を選択的に模倣する化合物を用いることによって、MSにおけるエストロゲンの有益な効果を模倣及び/又は増強させることは、小分子がERαが介在するエストロゲンの厄介な「ホルモン性の」作用を持たないという点において、MSの治療に有利になると思われる。これら他のER部位には、最近確認された、神経細胞に存在が確認されており発生学的に調節されているER−X(Toran-Allerand 2004. Endocrinology 145:1069-1074)、又は細胞表面情報伝達を遺伝子転写と統合させる種々の経路をエストロゲンに始動させる、GPR30が含まれる(Kanda and Watanabe 2003. J Invest Derm 121: 771-780)。
【0006】
これらの化合物は同様に、シャルコー・マリー・ツース病、ペリツェウス・メルツバッハー病、脳脊髄炎、視神経脊髄炎、副腎白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群及び脊髄損傷、神経障害並びに神経損傷を含めたミエリン形成グリア細胞(乏突起膠細胞又はシュワン細胞)が損傷を受ける疾患を含めた他の脱髄疾患の治療又は予防に使うことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主題は、多発性硬化症を治療するための、α又はβタイプのエストロゲン受容体(ER)に親和性を示さない或る種のSERM様フェニルナフチル化合物の新規な使用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
広義には、本発明の治療に使用する化合物は、一般式(I):
【化1】

(ここで、nは0又は1であり;R1は1〜4個の炭素原子を含むアルキル基又は水素原子を表し;R2は1〜4個の炭素原子を含むアルキル基又は水素原子を表し;R3は水素原子、ハロゲン原子、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基、RA及びRBが同一若しくは異なり、そして水素原子若しくは1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を示す−NRAB基、NO2、5若しくは6員の環状基若しくは複素環基、又は1〜4個の炭素原子を含むアルコキシ基を表し;R4は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、最大で4個の炭素原子を含むアルキル、アルケニル若しくはアルキニル基、アルキルが1〜4個の炭素原子を含むアルコキシ若しくはアルキルチオ基、又はRA及びRBが炭素原子である−NRAB基である)
を有し、又はそれらの異性体、ラセミ体及びエナンチオマー、並びに薬学的に許容される該化合物の塩である。
【0009】
1、R2、R3、R4、RA及びRBが1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基を表す場合、それはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又は第三級ブチル基である。R3及びR4がハロゲン原子である場合、それはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。好ましくは、それは塩素である。R4が最大で4個の炭素原子を含有するアルケニル基である場合、好ましくは、それはビニル又はプロペニル基である。R4が最大で4個の炭素原子を含むアルキニル基である場合、好ましくは、それはエチニル又はプロピニル基である。R3又はR4が1〜4個の炭素原子を含有するアルキルオキシ基を表す場合、好ましくは、それはメトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ又はブチルオキシ基である。R4が1〜4個の炭素原子を含有するアルキルチオ基である場合、好ましくは、それはメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ又はブチルチオ基である。R4が、RA及びRBは同一又は異なりそして水素原子又は1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基を示すNRAB基である場合、好ましくは、R4はアミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ又はメチルエチルアミノ基である。
【0010】
当然ながら、特に式(I)の化合物がアミノ官能基を含む場合、本発明は式(I)の化合物の塩の使用に及ぶ。それらは、例えば、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸及びメタン−及びエタンスルホン酸のようなアルカンスルホン酸、並びにベンゼン及びパラトルエンスルホン酸のようなアレーンスルホン酸及びアリールカルボン酸、によって形成される塩である。
【0011】
それらは、また、例えば、ナトリウム若しくはカリウムアルコラートのような誘導体、又はナトリウム若しくはカリウムフェノラートのような誘導体を得るため、塩基又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属の作用下で形成される塩である。
【0012】
本発明の好ましい実施態様は、上で定義した式(I)の化合物のような化合物であって、
5−[4−(2−ジエチルアミノ−エトキシ)−フェニル]−6−(4−ヒドロキシ−フェニル)−ナフタレン−2−オール:
【化2】

6−(4−ヒドロキシ−フェニル)−5−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−ベンジル]−ナフタレン−2−オール・塩酸塩:
【化3】

5,6−ビス−(4−ヒドロキシ−フェニル)−ナフタレン−2−オール:
【化4】

1,5−ジクロロ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール:
【化5】

4−(6−ヒドロキシメチル−ナフタレン−2−イル)−フェノール:
【化6】

3−(4−メトキシフェニル)−1−ナフタレノール:
【化7】

5−クロロ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール:
【化8】

5−ブロモ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール:
【化9】

6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール:
【化10】

から成る群から選択される化合物の使用である。
【0013】
1つ又はそれ以上の不斉中心を含有する式(I)の化合物は、異性体の形態を有し;それらの異性体及び混合物は本発明の一部を形成する。それらの化合物のラセミ体及びエナンチオマーもまた、本発明の一部を形成する。
【0014】
本発明の方法に用いられる式Iの化合物は、例えば、米国特許第6,147,119号に開示されているような、該技術分野で公知の合成方法によって製造することができる。
【0015】
本発明で使われる用語は、本明細書で定義された意味を有する。
a)「薬学的に許容される塩」は、本発明の化合物で作ることが可能な酸付加塩又は塩基付加塩の何れをも意味する。
【0016】
「薬学的に許容される酸付加塩」は、式Iで示される塩基性化合物の、非毒性の有機酸又は無機酸の付加塩である。好適な塩を形成する無機酸の具体例として、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸、並びに第二リン酸ナトリウム及び硫酸水素カリウムなどの酸金属塩が挙げられる。好適な塩を形成する有機酸の具体例として、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸が挙げられる。その様な酸の実例として、例えば、酢酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、サリチル酸、2−フェノキシ安息香酸、p−トルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸、並びに2−ヒドロキシエタンスルホン酸などのスルホン酸類がある。一酸塩又は二酸塩の何れでも形成させることができ、それらの塩は水和物の形態又は実質的に無水物の何れの形態でも存在し得る。一般的には、これらの化合物の酸付加塩は、遊離塩基の形態と比較して、水及び種々の親水性有機溶媒に対する溶解性が高く、概してより高い融点を示す。
【0017】
「薬学的に許容される塩基付加塩」は、式Iで示される化合物の、非毒性の有機塩基又は無機塩基の付加塩を意味する。その例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム又は水酸化バリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア、並びにメチルアミン、トリメチルアミン及びピコリンのような脂肪族、脂環式又は芳香族アミンがある。エステルが加水分解されないように適切な塩の選択が重要となる。適切な塩の選択基準は、当業者には知られている。
【0018】
b)「患者」とは、例えば、ラット、マウス、イヌ、ネコ、モルモット及びヒトのような霊長類などの温血動物を意味する。
【0019】
c)「治療する」又は「治療すること」とは、症状を緩和させること、一時的に若しくは恒久的にのいずれかで症状の原因を除去すること、又は特定した障害若しくは状態の発症及び進展を予防若しくは遅らせることを含むが、しかしこれらに限定されない、いずれの処置をも意味する。
【0020】
d)「治療的有効量」とは、特定の障害又は状態を治療する上で効果的な化合物の量を意味する。
【0021】
e)「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物、即ち患者に投与できる剤形の形成を可能にするために本発明の化合物と混合する、非毒性の溶媒、分散剤、賦形剤、補助剤又は他の物質である。その様な担体の一例は、通常、非経口投与に使われる薬学的に許容されるオイルである。
【0022】
f)「立体異性体」とは、空間的に原子の配向性だけが異なる個々の分子の全ての異性体を指す一般用語である。それには、鏡像異性体(エナンチオマー)、幾何(シス/トランス)異性体、及び互いに鏡像関係でない2つ以上の不斉中心を持つ化合物の異性体が含まれる。
【0023】
上記の状態に罹患した患者の治療において、式(I)の化合物は、化合物の治療的有効量を生物的な利用を可能にするいかなる形態、又は経口的、舌下的、口腔的、皮下的、筋肉内的、静脈内的、経皮的、鼻腔内的、直腸的、局所的などを含むいかなる方法でも投与することができる。製剤技術の当業者は、治療しようとする状態又は障害のために選択された化合物の固有の性質、病期、患者の状態及び他の関連する状況に応じて、適正な形態及び投与方法を決定することができる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Co. (1990)を参照。この文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、カシェ剤、チューインガム剤などの形態で経口的に投与することができ、1つ又はそれ以上の以下の補助剤:微結晶セルロース、トラガントゴム又はゼラチンなどの結合剤;澱粉又は乳糖などの賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、コーンスターチなどのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はステロテックス(Sterotex)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;及びショ糖又はサッカリンなどの甘味料が加えられ、又はペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香料などの着香料を含むことができる。投薬単位形態がカプセルの場合、上記の種類の物質の他にポリエチレングリコール又は脂肪油のような液状担体を含んでも良い。他の投薬単位形態では、投薬単位の物理的形態を修飾する、例えば被覆剤のような他の種々の物質を含んでも良い。従って、錠剤又は丸剤は、糖、シェラック又はその他腸溶性の被覆剤でコーティングしてもよい。シロップは、本化合物の他に、甘味料としてのショ糖及び或る種の保存剤、染料及び着色剤並びに着香料を含んでも良い。
【0025】
本発明の式Iの化合物は、また、局所的に投与することができ、その場合、担体は、好適には、溶液、軟膏又はゲル基剤が含んで良い。基剤には、例えば、1つ又はそれ以上のワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、水及びアルコールのような稀釈剤、並びに乳化剤及び安定剤が含んで良い。
【0026】
液剤又は懸濁剤は、同様に、1つ又はそれ以上の以下の補助剤:注射用水、食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒のような滅菌稀釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩のような緩衝剤、及び塩化ナトリウム又はブドウ糖のような等張性を調整する薬剤を含んでもよい。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器又は反復投与バイアルに封入することができる。
【0027】
式Iの化合物が治療的作用の能力を示す用量範囲は、特定の化合物、状態の重症度、患者、製剤、患者が罹っている潜在的な他の疾患の状態、及び同時に患者に投与される他の薬物によって変化し得る。一般に、式Iの化合物は、約0.001mg/kg患者体重/日から約100mg/kg患者体重/日の間の用量で治療的活性を示す。
【0028】
本明細書で考察した全ての刊行物及び特許の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0029】
神経保護作用アッセイ
ヒト神経芽細胞腫細胞株由来の細胞、SK−N−SH細胞を、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸及び炭酸水素ナトリウムを含むEMEM(Earleの塩類を含むEagleの最小必須培地)中で、ポリ−D−リジンをコーティングしたCoster Biocoat 96-wellプレートに、ウェル当たり50,000細胞を塗布した。細胞は、5%CO2下、37℃のインキュベーターで1晩増殖させた。次の日、培地を除去し、新鮮な培地と置き換えた。細胞をSERMで1時間前処理し、SIN−1(3−モルホリノシドノンイミン、ペルオキシ亜硝酸を生成)を最終濃度が2mM又は10mMになるように添加した。24時間後、培地を除去し、Promega cytotox 96 kit (カタログ番号:G1780)を用いてLDH(乳酸脱水素酵素)活性をアッセイした。結果は、SIN−1の毒性に対するパーセント保護として計算した。
【0030】
FRK1/2のウェスタンブロッティング
SK−N−SH細胞を、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸及び炭酸水素ナトリウムを含む2mLのEMEM中で、6ウェルのポリスチレン培養プレートに、ウェル当たり2×106細胞を塗布した。細胞を、5%CO2下、37℃のインキュベーターで1晩増殖させた。
【0031】
次の日、200μLの培地を除去し、最大で最終濃度の10倍にした化合物を含む培地200μLを細胞に投与した。適切な時間インキュベートした後、培地を吸引除去し、細胞を冷したPBSで2回洗浄した。次に細胞を、プロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤を含む100μLのRIPAバッファーで溶解させた。
【0032】
ウェスタンブロッティングのために、20μgのタンパク質を、β−メルカプトエタノールを含むLaemmliサンプルバッファー中95℃で変性させ、次に4〜20%勾配Tris・グリシン・SDSゲル上にロードし、70ボルトで完結するまで電気泳動した。タンパク質をニトロセルロース膜に移し、適切な抗体を用いてホスホ−ERK1/2及び全ERK1/2を調べた。バンドはECLウェスタンブロッティング化学発光基質を使って検出した。ホスホ−ERKのELISAには、Assay Designs社のELISAキットを使用した。
【0033】
Bcl−2ルシフェラーゼ
SK−N−MC Bcl−2(neo)クローン218を、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、炭酸水素ナトリウム及び200μg/mLのG418を含むフェノールレッド不含EMEM中で、Packard Viewプレートに、ウェル当たり25,000細胞を塗布した。細胞を、5%CO2下、37℃のインキュベーターで1晩増殖させた。
【0034】
2日目に、培地を除去し、ITSサプリメント(BD Biosciences # 35 4352)を含む無血清EMEMに置き換えた。培地を3日及び4日目に再度交換し;4日目に、最終液量が100μL中で、細胞に化合物を投与した。投与後24時間に、100μLのSteadyGlo (Promega # E2510)を添加し、Packard Topcount液体シンチレーション・カウンターでル
シフェラーゼを測定した。
【0035】
乏突起膠細胞毒性アッセイ
初代ラット乏突起膠細胞前駆細胞は、産後2〜3日齢ラット(Sprague Dawley)の大脳から得た。髄膜を除去し、組織を機械的に解離させた。細胞をT75フラスコを塗布し、DMEM+10%FBSで培養した。
【0036】
富化したOLPを、星状細胞の単層から機械的に分離して集め、細胞分裂促進因子であるPDGF−AA(10ng/mL)及びFGF−2(10ng/mL)を補足した無血清培地(SFM)に拡張した。
【0037】
成熟乏突起膠細胞にするために、塗布後24時間の前駆細胞をIGF−1(10ng/mL)を補足したSFMに切り替え、実験的アッセイの前に、細胞をこの条件で7日間増殖させた。
【0038】
細胞を、ウェル当たり10,000個で96ウェル・プレートに塗布した。培地を新鮮な培地に交換し、細胞を化合物で1時間前処理した。毒素を、次のような最終濃度になるように添加した:
Sin−1: 10mM;
ピロガロール: 500μM;
C2セラミド: 100μM;
カンプトテシン: 10μM。
【0039】
24時間後、培地を除去し、Promega cytotox 96 kit (カタログ番号:G1780)を用いてLDH(乳酸脱水素酵素)活性をアッセイした。結果は、毒素誘導の毒性に対するパーセント保護として計算した。
【0040】
SIN−1(3−モルホリノ−シドノンイミン、ペルオキシ亜硝酸を生成)、C2セラミド、カンプトテシン、スタウロスポリン、SNAP(S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン、酸化窒素を生成)及びピロガロール(スーパーオキシド・アニオンを生成)のような毒性薬剤で起こる細胞死に対して、これらの化合物の神経保護作用の有効性を評価した。インビトロで評価した標的細胞は、ヒト神経芽細胞腫の細胞株(SK−N−SH、SH−SY5Y)、並びにげっ歯類乏突起膠細胞前駆細胞の初代培養及び対応するその成熟細胞である。これらの化合物による保護を、17−β−エストラジオール及びタモキシフェンと比較した(下の表1を参照)。この神経保護作用のメカニズムは、古典的な核(ゲノム)のERα又はβを用い、MAPK p40/p42(ERK1/2)のリン酸化に対する役割を評価することにより検討した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(ここで、nは0又は1であり;R1は1〜4個の炭素原子を含むアルキル基又は水素原子を表し;R2は1〜4個の炭素原子を含むアルキル基又は水素原子を表し;R3は水素原子、ハロゲン原子、1〜4個の炭素原子を含むアルキル基、RA及びRBが同一若しくは異なり、そして水素原子若しくは1〜4個の炭素原子を含むアルキル基を表す−NRAB基、NO2、5若しくは6員の環状基若しくは複素環基、又は1〜4個の炭素原子を含むアルコキシ基を表し;R4は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、最大で4個の炭素原子を含むアルキル、アルケニル若しくはアルキニル基、アルキルが1〜4個の炭素原子を含むアルコキシ若しくはアルキルチオ基、又はRA及びRBが炭素原子である−NRAB基である)
の化合物、又は構造的にそれに関係する化合物、その異性体、ラセミ体及びエナンチオマー、並びに薬学的に許容される該化合物の塩の治療的有効量を、多発性硬化症の患者に投与することを含む、神経細胞又は乏突起膠細胞を保護することによる多発性硬化症患者の治療方法。
【請求項2】
化合物が、
5−[4−(2−ジエチルアミノ−エトキシ)−フェニル]−6−(4−ヒドロキシ−フェニル)−ナフタレン−2−オール;
6−(4−ヒドロキシ−フェニル)−5−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−ベンジル]−ナフタレン−2−オール・塩酸塩;
5,6−ビス−(4−ヒドロキシ−フェニル)−ナフタレン−2−オール;
5−クロロ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール;
5−ブロモ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール;
1,5−ジクロロ−6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール;
6−(4−ヒドロキシフェニル)−2−ナフタレノール;
4−(6−ヒドロキシメチル−ナフタレン−2−イル)−フェノール;及び
3−(4−メトキシフェニル)−1−ナフタレノール;
から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量が日毎で投与され、そして約0.001から約100mg/kg患者体重/日の範囲である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−526742(P2008−526742A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549423(P2007−549423)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/045294
【国際公開番号】WO2006/073714
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(500137976)アベンティス・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテツド (76)
【Fターム(参考)】