説明

多目的生体材料組成物

本発明は、多目的生体材料に関係する。本発明の好ましい一実施様態は、一般に、KHPO、金属酸化物(即ちMgO)、カルシウム含有化合物、糖、及び水を含む。例示的なカルシウム含有化合物には、第3リン酸カルシウムが含まれるが、これに限定されない。この本発明の組成物は、優れた接着特性に加え、驚くべき且つ有意な骨増殖能を示した。この組成物は、骨セメント剤として移植器具の骨接触表面に適用され得る。この材料は、直接骨欠損部に適用されて骨充填剤、あるいは骨移植物として作用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体材料組成物に関係する。より具体的には、本発明は、骨充填剤、骨接着剤、骨セメント剤、並びに骨移植片として有用な、多目的、リン酸ベースの生体材料に関係する。本発明は、特に骨、靭帯、並びに他の軟組織のための生体接着剤として有用であり、驚くべき骨増殖効果を有する。この本発明の結合剤組成物には、多様なその他の用途がある。
【背景技術】
【0002】
骨折、関節の擦り減り、並びに靭帯裂傷のような、スポーツ並びに年齢に関連した損傷数の増加によって、整形外科的損傷を治療することができる生体材料の要求性が高くなった。これに応えて、企業は、様々なものを骨に接着させる骨セメント剤、並びに骨折および他の骨欠陥を治療することができる骨充填剤を開発している。しかし、既存の吸収性生体材料は、靭帯のような軟組織の骨への再接着を補い、新たな骨形成を促進するには不適切である。
【0003】
大半の既存の生体材料は、リン酸カルシウムあるいはポリメチルメタクリレート(polymethylmthacrylate)(「PMMA」)のような比較的不活性な硬化高分子から作られている。
【0004】
Rampらに発行された特許文献1は、整形外科手順に有用なPMMAベースの骨セメント組成物を記載している。残念なことに、PMMAベースの生体材料は、硬化の過程で相当量の熱を周囲の骨に放出し、細胞死を引き起こす。生じる材料は整骨(setting)の過程で収縮し、骨折に対する乏しい耐性を有する。また、PMMA生体材料は生体吸収速度が遅く、且つ毒性単量体を血流中に放出するため生体適合性が低い。PMMAベースの材料が新規骨形成を有意に促進する証拠は、いずれもほとんど存在しない。
【0005】
近年、リン酸カルシウムベースの組成物が多数、生体材料として開発されている。例えば、Leeらに発行された特許文献2は、骨充填剤並びにセメント剤として有用な、注入用リン酸カルシウムベースの合成物を記載している。この開示されている材料は、生体再吸着性であり、骨組織の修復並びに成長促進に加え、ねじ、プレート並びに他の固定器具の接着に役立つよう設計されている。Leeの組成物は整骨の間に膨張せず、靭帯のような軟組織の骨への接着にはあまり適さない。Leeが発明した組成物は、新規骨形成を有意に促進するとは考えられていない。
【0006】
多くの既存のリン酸カルシウムベースの充填剤並びにセメント剤は、Pに対してCaのモル比が高く、このためこれらの再吸収性は低い。さらに、最近のFDAによる発表は、脊椎の圧迫骨折の治療に既存のリン酸カルシウムベースの骨充填剤を使用することによる重篤な合併症を警告している(FDA Public Health Web Notification, ”Complications Related to the Use of Cement and Bone Void Fillers in Treating Compression Fractures of the Spine, “ 2002年10月31日初回発行、2004年5月27日改訂。)一般的には、現在のリン酸カルシウムセメント剤には、首尾よい生物性接着特性が欠けている。
【0007】
従来技術の生物用組成物あるいは生物用高分子は、混合物の化学接着という側面とは別に、骨並びに既存の構造物への接着を増進するための手段を提供している。従って、混合物が硬化できるまで、しばしば留め具(ねじあるいはかすがい等)が生理学的構造を保持するのに利用される。これらの留め具は生物分解性を持たないことが多く、術後の合併症を導き得る。術後の合併症を減らすための吸収性固定具が少数開発されており、これらとしてはポリカプロラクトン並びに多様なリン酸カルシウムガラス強化材料が挙げられる。しかしながら、これらの材料は、最初の適用後、力学的強度の急速な低下を呈する。
【0008】
様々な材料が骨移植材料として開発されている。骨の刺激に対する従来のアプローチには、同種移植並びに自己移植手順、ならびに様々なセラミック並びに高分子ベースの骨移植材料が含まれる。最近の進展には、骨形態形成タンパク質(BMP)のような組換え成長因子を利用して骨形成を促進することが挙げられる。
【0009】
既存の市販されている生体材料は骨の欠陥を充填する、および/または移植物を骨に接着させることができるが、現在利用可能な材料で、間隙および破損を埋めることができ、且つ軟組織を骨に再接着させることが可能な生物性接着剤を提供するものはない。さらに、成長因子を使用せずに、接着性かつ骨増殖性骨移植物として使用することができる生体材料は、知られているとしても、ごく僅かである。
【0010】
骨充填剤(骨移植物)および/または生物性接着剤として使用することができる妥当な生物用組成物に対する必要性が存在している。接着剤は、コストを最小限にし、生物適合性を改善するために、典型的なカルシウム含有部分を取り込むべきである。この接着剤は、温度、pH、並びに湿度等生理学的条件下でその作用能を維持し、最終的には「整骨」すべきである。この材料は、身体に吸収されるべきであり、さらに、いかなる有害な副作用もなく患者自身の骨によって置換されるべきである。また、この接着剤は、空隙充填能及び骨折修復能の双方に加えて、構造支持が得られるよう、骨、移植物、並びに腱に適用可能であるべきである。最後に、この生体接着剤は、生体内の適所にて、構造物を化学的且つ力学的に固定する手段を付与すべきである。
【0011】
本発明者は、従来技術の組成物の欠点を克服する生体材料の開発に何年も費やしてきている。本発明者に発行された特許文献3は、このような多目的生体接着剤を教示する。
【特許文献1】米国特許第5,968,999号明細書
【特許文献2】米国特許第6,331,312号明細書
【特許文献3】米国特許第6,533,821号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
多目的骨移植物、充填剤、接着剤、結合剤、留め剤、並びにセメント剤として使用するための骨増殖性(好ましくは、骨誘導性(osteoinductive))である、改良された多目的生体材料に対する必要性もまた存在する。この生体材料は、約50℃未満での制御された発熱反応を有することができ、取り扱いが容易で、作業時間に制限がなく、かつ注射器を使用して容易に注入することができるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(本発明の開示)
本発明は、生体接着剤、骨並びに歯セメント剤、骨充填剤、骨留め剤、並びに骨移植物として使用するのに理想的な、多目的生体材料を記載する。この多目的生体接着剤は一般に、KHPO(「MKP」)、金属酸化物(即ちMgO)、カルシウム含有化合物、糖(あるいは糖誘導体/代用物質)、及び水を含む。この本発明の糖含有生体接着剤は有意な骨増殖効果を示しており、最初に骨誘導性を示した。
【0014】
この組成物は、骨セメント剤として移植器具の骨接触表面に適用される場合がある。この材料は、直接骨欠損部に適用されて骨充填剤、あるいは骨移植物として作用する場合がある。あるいは、この組成物は、ねじあるいはプレート等様々な固定器具と併用される場合がある。このマトリックスに薬学的活性剤を添加した場合、この材料は送達系として働くことができる。都合の良いことに、本発明の材料は、ねじあるいは非吸収性の固定器具を用いる必要なく、軟組織(即ち靭帯)を骨に接着させる生物吸収性生体接着剤として使用することができる。好ましい実施様態の特徴は、この材料の接着性、生物吸収性、並びに骨増殖性を増強するために糖を使用することである。
【0015】
本発明は、インサイチュでの修復、及び身体部分の互いの接着、あるいは隣接する構造体との接着に影響する生体接着剤を提供する。本発明の特徴は、この接着剤を短時間(即ち約15〜25分未満)に生理学的な温度及びpHで「整骨」することができ、さらに、レーザーの補助で非常に短時間(即ち、約15秒以下)の内に整骨できる点である。本発明の他の特徴は、この生体材料が生体内で膨張することである。本発明の処方物の利点は、骨欠損部の充填と構造支持の提供とを同時に行う能力である。一つの利点は、整骨あるいは硬化の過程におけるこの接着剤の膨張性によって、接着剤と身体部分、あるいは身体部分と、人工材料並びに生体材料のような隣接構造物との間に、さらなる機械的接触が供与される点である。
【0016】
また、本発明は、骨形成のための台座となる骨置換物/移植物を提供する。この材料の利点は、接触させた構造物に対する拒絶反応も有害反応もなく、身体によって徐々に吸収される点である。一実施様態の有意な利点は骨誘導性であり、成長因子を使用せずに、この材料に明白な骨誘導性がある点である。
【0017】
概略を述べると、本発明の他の実施様態は、物体を骨に接着させるための手段、前記接着手段を増強する手段、及びこの生体接着剤の生体内分解を促進するための手段を含む生体接着剤を提供する。本発明の利点は、軟組織(即ち靭帯並びに腱)を骨に接着させる能力を含めた、より優れた接着特性である。
【0018】
本発明の一実施例の特徴は、軟組織の骨への再接着を促進する能力にある。好ましくは、本発明の生体材料は、ねじもプレートも他の固定器具も必要とすることなく、軟組織を骨に再接着させるために使用される。
【0019】
また、生体内にて構造物を骨表面に固定するための方法が提供され、この方法は、外科的に発生させた切開により骨表面に接近する工程、同時にリン酸含有生体接着剤を構造物および/または骨表面に塗布する工程、この切開を閉じる工程、並びにこの接着剤を膨張させる工程を包含する。
【0020】
記載される多目的生体材料は骨増殖性であり、かつ驚くべきことに骨誘導性である。この生体材料は、約50℃未満で制御された発熱反応を有し得、取り扱いが容易で、、作業時間に制限がなく、かつ注射器を使用して容易に注入することができる。
【0021】
また、記載される発明は有用な多目的組成物である。この本発明の組成物は様々な様式において使用することができ、これにはコーティング剤、難燃剤、一般的な結合マトリックス、セメント剤、並びに難溶剤(refractory)が含まれるが、これらに限定されない。この組成物は優れた耐火性及び耐炎性、強力な圧縮強度、及び優れた接着性を有する。
【0022】
(定義)
「骨伝導性(osteoconductive)」は、生存可能な骨成長並びに治癒のための足場として作用する材料の能力である。
【0023】
「骨誘導性」は、未成熟骨細胞(あるいは結合組織)を刺激あるいは誘導して骨に成長、成熟、及び分化させ、健康な骨を形成する能力を指す。
【0024】
「生物適合性」は、受容者に望ましくない有意な応答を何も誘発しない材料をいう。
【0025】
「生体再吸収性」は、身体での過程を通じて生体内で再吸収される材料の能力として定義される。再吸収された材料は、受容者の身体で使用され得るか、または排出され得る。
【0026】
「調製された細胞」は、生細胞の任意の調製物として定義され、これには組織、細胞株、形質転換細胞、並びに宿主細胞が含まれるが、これらに限定されない。細胞は自己由来のものであることが好ましいが、異種、同種異系、並びに同系のものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(本発明を実施するための最良の様式)
本発明は、インサイチュ(即ち生体内)にて、生物構造物を互いに接着させる、並びに人工構造物に接着させるための生体材料を提供する。また、この生体材料は、骨、靭帯、腱、並びに隣接する構造物の修復を促進する。また、外科治療のための骨置換物を提供する。本発明の処方物は、多様な温度、pH範囲、湿度レベル、並びに圧力で使用可能である。しかし、この処方物は、全ての生理学的な温度、pH範囲、並びに流体濃度で利用されるよう設計されている。この混合物は、典型的には、整骨の前に注射可能であり、整骨後は、中性pHを呈する。これは、ある期間に渡って宿主によって吸収される。
【0028】
この混合物は、金属留め具並びに他の非生体吸収性材料の使用が積極的に避けられる状況(形成手術等)において特に有用である。また、この材料は、術後(例えば、頭蓋手術後)にある程度の伸張あるいは膨張が期待される場合に有用である。これは骨形成のための良好な台座である。またこの材料は、繋ぎ留め具あるいは移植材料として使用することができる。
【0029】
一般に、この生体接着剤は、KHPO、金属酸化物、糖、及びカルシウム含有化合物を含む水和混合物に由来する。例示的な処方物には、以下が含まれる。
【0030】
(処方I
リン酸カリウム(即ちKHPO) 61%
MgO(焼成) 31%
Ca10(PO(OH) 4%
スクロースC122211(粉末) 4%
全ての値は重量パーセント
最大で処方物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0031】
(処方II
KHPO 54%
MgO(焼成) 33%
カルシウム含有化合物 9%
(この場合カルシウム化合物は Ca10(PO(OH)
スクロースC122211(粉末) 4%
全ての値は重量パーセント
最大で処方物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0032】
(処方III
KHPO 44%
MgO(焼成) 44%
カルシウム含有化合物 8%
(この場合カルシウム化合物はCa10(PO(OH)あるいはCaSiO
スクロースC122211(粉末) 4%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、36〜38重量パーセントの間であることが好ましい。
【0033】
(処方IV
KHPO 45%
MgO(焼成) 45%
カルシウム含有化合物 9%
(この場合カルシウム化合物は Ca10(PO(OH)、CaSiOあるいはこれらの組み合わせ)
スクロースC122211(粉末) 1%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0034】
(処方V)
KHPO 45%
MgO(焼成) 45%
Ca10(PO(OH) 8%
スクロース 2%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0035】
(処方VI)
KHPO 61%
MgO(焼成) 32%
Ca10(PO(OH) 4%
デキストロース 1.5%
α−Ca(PO 1.5%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0036】
(処方VII)
KHPO 50%
MgO(焼成) 35%
Ca10(PO(OH) 7%
β−Ca(PO 3%
デキストロース 5
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0037】
(処方VIII)
KHPO 61%
金属酸化物 32%
(この場合この金属酸化物はMgO、Ca、FeO、あるいはこれらの組み合わせ)
Ca10(PO(OH) 6%
糖 1%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0038】
(処方IX)
KHPO 54%
リン酸 4%
金属酸化物 32%
(この場合この金属酸化物はMgO、ZrO、FeO、あるいはこれらの組み合わせ)
Ca10(PO(OH) 7%
スクロース 3%
全ての値は重量パーセント
最大で組成物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0039】
(処方X)
KHPO 45%
MgO(焼成) 45%
Ca10(PO(OH) 10%
最大で処方物の約40重量パーセントまで水を加えるが、22〜25重量パーセントの間であることが好ましい。
【0040】
上記処方及び重量パーセントは最も好ましい割合であるが、一連の乾燥成分も用いることができる。例えば、リン酸塩(即ち、MKP)に関する適切な範囲は、一般に20〜70重量パーセントの間であり、約40〜65重量パーセントの間であることが好ましい。場合によっては、約40〜50重量パーセントの間の範囲でリン酸塩を使用することが好ましい場合があり、他の場合では、約50から65の範囲で使用することが好ましい場合がある。
【0041】
金属酸化物(即ちMgO)に関する適切な範囲は、一般に約10〜60の間の重量パーセントであり、10〜50の間であることが好ましく、30〜50の間であることがより好ましい。場合によっては、約35から50の間の重量パーセントで使用することが好ましい場合がある。
【0042】
カルシウム含有化合物は、様々な重量パーセントで加えることができる。カルシウム含有化合物は、約1〜15重量パーセントで添加することが好ましいが、より高い割合を採用することもできる。
【0043】
糖(および/または他の炭水化物含有物質)は、一般に0.5から20の間の重量パーセントで存在し、乾燥組成物の約0.5〜10重量パーセントであることが好ましい。
【0044】
水(あるいは他の水溶液)は、幅広い範囲の重量パーセントで加えることができ、一般に約15〜40の間の重量パーセントである。
【0045】
一部の実施様態に関して(即ち、処方III)、約37重量パーセントで水を加えると、非常に扱いやすく、且つ優れた接着性を有し、注射器によって容易に注入できるクリーム状生地の材料ができることが見出された。
【0046】
これらは例示的な重量パーセントであること、並びに、この範囲は、様々な充填剤、等価物、並びに他の成分を添加するのに伴って、あるいは他の理由のために変わる場合があることに注意を払うことが重要である。
【0047】
本発明の顕著な特徴は、MKP(MKP等価物、組み合わせ、および/または代用物質)と金属酸化物との割合である。好ましい実施様態では、MKPとMgOとの重量パーセント比は、約4:1から0.5:1の間であり、約2:1と1:1の間であることがより好ましい。このような好ましい実施様態において、未反応のマグネシウムが、少なくとも部分的に、この生体接着剤の生体内膨張特性に寄与すると、本発明者は推測している。
【0048】
詳細を述べると、金属酸化物(即ち酸化マグネシウム)が生体組織内あるいはその周囲にて水及び血清と反応し、Mg(OH)及びマグネシウム塩が生じる。一般に、この材料の一実施様態は、水分のある状態での硬化の間、体積の0.15から0.20パーセントまで膨張することが見出されている。この材料の膨張は、この材料の接着特性を増進させていると考えられる。例えば、開示される材料は効果的に靭帯のような軟組織を骨に接着させ、この材料の膨張によって力学的強度による接着性を増大することが示されている。
【0049】
MgOは好ましい金属酸化物(金属水酸化物あるいは他の等価物)であるが、他の酸化物および水酸化物の粉末を、MgOの代わりに、あるいはMgOに追加して利用することができ、これにはFeO、Al(OH)、Fe、Fe、ZrO、並びにZr(OH)、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛、酸化カルシウム並びに水酸化カルシウム、並びにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
MKPは好ましいが、一部の用途のためにはMKPを他の成分に置き換える(あるいはMKPに加える)場合がある。これらにはリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、第1リン酸アンモニウム、並びに第2リン酸アンモニウムのようなリン酸塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
(カルシウム含有化合物)
カルシウム含有化合物は本発明に必須である。なぜなら、この生体材料の生体適合性及び生体吸収性を増進するからである。このカルシウム化合物は、様々な生体適合性カルシウム含有化合物から選択することができ、これにはリン酸3カルシウムが含まれるが、これに限定されない。適切なリン酸3カルシウムには、α−Ca(PO、β− Ca(PO、並びにCa10(PO(OH)が含まれる。
【0052】
一般に、適切なカルシウム含有化合物には、リン酸3カルシウム、2相性(biphasic)リン酸カルシウム、リン酸4カルシウム、非結晶性リン酸カルシウム(「ACP」)、CaSiO、オキシアパタイト(「OXA」)、難結晶性アパタイト(「PCA」)、リン酸8カルシウム、リン酸2カルシウム、リン酸2カルシウム2水和物、メタリン酸カルシウム、メタリン酸7カルシウム、ピロリン酸カルシウム、並びにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
好ましいカルシウム含有化合物には、リン酸3カルシウム、ACP、リン酸2カルシウム、リン酸2カルシウム2水和物、並びにこれらの組み合わせが含まれる。
【0054】
α−Ca(PO、β−Ca(PO、並びにCa10(PO(OH)、これらの等価物および組み合わせが最も好ましい。好ましいリン酸3カルシウムは、Astaris(St.Louis,MO)によって製造されている、製薬等級あるいは食品等級のリン酸3カルシウムである。
【0055】
カルシウム含有化合物は、この生体接着剤の生体適合性及び生体吸収性を増進する。しかし、カルシウム含有化合物の生体吸収性並びに生体適合性の程度にはばらつきがある。種々のリン酸3カルシウム化合物の中でさえ、一部の特性にはばらつきがある。
【0056】
様々なカルシウム含有化合物を組み合わせて、この材料の生体適合特性並びに生体吸収特性を操作することが有利である場合がある。例えば、Ca10(PO(OH)(「HA」)は生理学的条件下で安定しており、比較的吸収されにくい傾向を有するが、一方β− Ca(POは、より容易に吸収される。この2つを組み合わせて(即ち2相性リン酸カルシウム)、HAとβ− Ca(PO、との中間のいずれかの特性を有する混合物を形成することができる。多数のカルシウム含有化合物の組み合わせが想定され得る。
【0057】
(糖、糖置換体、甘味料、炭水化物、および等価物)
好ましい実施様態の特徴ある側面は、少なくとも1つの糖あるいは糖様物質をこの生体材料の基質に取り込んでいることである。糖含有生体材料が有意な骨増殖能を有し、さらにその接着能が強化されることを本発明者は発見した。スクロースのような糖は他の糖類並びに糖関連化合物に置き換えられ得るか、または他の糖類並びに糖関連化合物がこれに補充され得ることが考えられる。
【0058】
適切な糖あるいは糖関連化合物には、糖、糖誘導体(即ち糖アルコール、天然並びに人工甘味料(即ちアセスルファム−k、アリテーム、アスパルテーム、シクラメート、ネオヘスペリジン、サッカリン、スクラロース、並びにタウマチン)、糖酸、アミノ糖、糖高分子グリコサミノグリカン、糖脂質、糖高分子、サッカロースのような糖置換体(即ち、Splenda(登録商標)、McNeil Nutritionals LLC, Ft. Washington, PA)、コーンシロップ、蜂蜜、澱粉、並びに他の炭水化物含有物質が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
例示的な糖には、スクロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、デキストロース、マンノース、アラビノース、ペントース、ヘキソースが含まれるが、これらに限定されない。この糖添加物は多糖であることが好ましく、より好ましくはスクロースのような二糖類である。
【0060】
一つの好ましい添加物は、澱粉のような流動化剤と組み合わされた糖である。例示的な一添加物は、約97重量パーセントのスクロースと3重量パーセントの澱粉である。
【0061】
他の成分のように、糖化合物は様々な形態であり得、これには乾燥形態(即ち顆粒、粉末等)、水様形態、ペースト、ゲルが含まれるが、これらに限定されない。粉末にされた形態の使用が好ましいことが判明する場合がある。
【0062】
本発明者は、本発明の糖含有生体材料が、驚くべき良好な接着性を有することを示している。実際に、本発明の組成物は、当該分野の材料の現状よりも優れていた(以下に議論されている、実施例IおよびIIIを参照のこと)。この糖は、このセメント剤の物体への物理的(且つ恐らくは化学的)接着性を向上させると考えられる。この改善された糖含有リン酸塩セメント剤の接着性は靭帯並びに腱のような軟組織の骨への接着に特によく適し、ねじおよびピンのような侵入型の非吸収性器具を必要としない。非吸収性器具を使用しないことによって術後の合併症が減少し、好ましくは修復部位周辺の骨の成長を促進する。
【0063】
驚くべきこと且つ予期せぬことに、糖含有組成物は新たな骨形成を著しく高めることが発見された。この組成物の糖および他の成分が、新たな骨形成のために理想的に近い条件を提供すると考えられる。実施例IIで示す、驚くべき且つ予測しなかった試験結果は、この主張を支持する。
【0064】
(骨移植材料)
一実施様態において本発明の組成物は、骨置換物並びに骨形成のための台座を提供する。この置換物の利点は、拒絶も接触した構造物に対する反応もなく、これが身体によって徐々に吸収されることである。本発明の組成物のさらなる利点は、これの有意な骨増殖特性にある。実際に、研究において、本発明の組成物は、この組成物が骨誘導性であり得ることが考えられるほどの驚くべき程度にまで骨形成を強化し、この骨形成誘導能は成長因子を使用しない多目的生体材料に関しては全く予測されておらず、また先例がない。またこの生体材料は、大小の孔を有していると考えられる。
【0065】
(さらなる実施様態)
本明細書で開示される処方物は、さらなる充填剤、添加物、並びに補充材料(supplementary material)を取り込み得る。この補充材料は、期待する使用法に応じて様々な量且つ様々な物理形態でこの生体材料に加えられる場合がある。この補充材料を使用して、この生体材料を様々に変えることができる。
【0066】
補充材料、添加剤、並びに充填剤は、生体適合性および/または生体再吸収性を有することが好ましい。場合によっては、この材料に骨伝導性および/または骨形成誘導能もあることが所望される場合がある。適切な生体適合性補充材料には、生理活性ガラス組成物、硫酸カルシウム、珊瑚物質(coralline)、ポリアティック(polyatic)重合体、ペプチド、脂肪酸、コラーゲン、グリコーゲン、キチン、セルロース、澱粉、ケラチン、核酸、グルコースアミン、コンドロイチン、並びに変性骨基質および/または脱塩骨基質が含まれるが、これらに限定されない。他の適切な補充材料は、Leeに発行された米国特許第6,331,312号並びにConstanzに発行された米国特許第6,719,992号にて開示されており、参考としてその全体が本明細書に援用される。
【0067】
本発明の他の実施様態では、この生体材料は、生体内にあるこの材料の画像化を可能にするX線撮影(radiographic)材料を含有する。適切なX線撮影材料には酸化バリウム並びにチタンが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
本明細書で記載される生体材料は、時間経過に伴って身体に再吸収されることが可能であり、骨の再形成を促進する間の合併症を減少させる生体再吸収性移植物並びに器具を作製するのに理想的であることを示し得る。またこの生体材料は、様々な移植物の部品を被覆するのに使用することができる。
【0069】
さらなる実施様態では、本発明の生体材料は、この組成物の整骨時間を調節するための整骨遅延剤あるいは促進剤を含有する。整骨調節剤は、生体適合性であることが好ましい。適切な遅延剤には、塩化ナトリウム、フルオロケイ酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ホウ酸塩、ホウ酸、ホウ酸エステル、並びにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0070】
好ましい遅延剤組成物は、0.5:1から1:0.5の間の重量パーセント比の糖(スクロース)及びホウ酸を含み、約1:1の比であることが好ましい。この整骨遅延剤は、乾燥結合剤基質の5重量パーセント未満で加えられることが好ましい。
【0071】
また、開示する生体材料は、様々な程度の有孔率で調製される場合がある。様々な手段を介して有孔率の調節を達成することができ、これには乾燥反応物の粒子サイズの調節、並びに化学的腐食並びに物理的腐食並びに浸出が含まれる。好ましい実施様態では、1〜20重量パーセント、好ましくは約1〜5重量パーセントの曝気剤を加えることによってこの生体材料の有孔率を上昇させる。適切な曝気剤には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム、重曹、ベーキングパウダー、並びにこれらの組み合わせ等の炭酸塩並びに重炭酸塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
生物学的に活性な化合物(即ち抗体、成長因子、細胞等)をこの生体材料に取り込むことによって、この生体材料を送達系として使用する場合がある。有孔生体接着剤は、このような送達系の効果を増進する。
【0073】
薬剤をこの生体材料に取り入れる場合に、陽イオン抗生物質、特にアミノグリコシド並びに一部のペプチド抗生物質が最も所望される場合がある。適切なアミノグリコシドには、アミカシン、ブチロシン、ジデオキシカナマイシン、フォーチミシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、リビドマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、リボスタマイシン、サガミシン、セルドマイシン(seldomycin)並びにこれのエピマー、シソマイシン、ソルビスチン(sorbistin)、スペクチノマイシン、並びにトブラマイシンが含まれるが、これらに限定されない。硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩のような無機塩類を使用することが好ましい場合があり、硫酸塩が最も好ましい。生体材料において抗生物質並びに成長因子を使用することについてのさらなる情報は、Wenzに発行された米国特許第6,485,754号に見出され得、参考として、その全体が本明細書に援用される。成長因子には、形質転換増殖因子TGF−βのような増殖因子が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
また、開示する生体材料組成物は、様々な生細胞あるいは細胞株ともに播種される場合がある。任意の公知の細胞を採取、維持、並びに調製するための方法が採用される場合がある。Constanzに発行された米国特許第6,719,993号、Pughに発行された同第6,585,992号、並びにLeeに発行された同第6,544,290号を参照のこと。
【0075】
本発明の一実施様態は、硬組織の増殖、並びに恐らくは軟組織の増殖のための足場として非常に有用であることが示されている。加えて、組織産生細胞並びに組織分解細胞をこの組成物に加える場合があり、これには骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、軟骨産生細胞、並びに幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。このような細胞を単離並びに培養する方法は、当該分野で公知の。
【0076】
本発明の組成物は、乾燥形態の材料(MKP、金属酸化物、カルシウム含有化合物等)、活性化溶液(水あるいは他の水溶液)、任意の医療機具(即ち、注射器、ナイフ等)、移植物、あるいは本発明の組成物を使用する手術の過程で必要とされる他の薬剤を含む整形外科キット内に組み入れることができる。材料と活性化溶液は、所定の最適な比率で存在することが好ましい。このような整形外科キットの他の実施様態も想定され得る。この生体材料及び他のキット構成部分は、当該分野で公知の手法によって滅菌されることが好ましい。
【0077】
(物質の調製)
金属酸化物の粉末は、本発明の混合物において注目される成分である。随意で、この酸化物は、焼成処置を受ける。所望される最終特性並びに整骨時間に依存して、焼成時間及び温度は経験的に決定される。しかし、焼成温度は一般に、1300℃まで、数時間までが典型的である。
【0078】
焼成後、この酸化物粉末を、MKP、カルシウム含有化合物、及び糖と混合する。様々な粉末の大きさを揃え(sizing)、且つ均一にするための一方法は、震動摩砕を介するものである。他の均質化方法では、粒子を微細な大きさに粉砕するリボンミキサーを利用する。乾燥化合物は本明細書で開示されるが、この生体材料成分の内のいくつかの水性バージョン(あるいは他の形態物。即ち、ゲル等。)も利用することができる。一般に、製薬等級の化合物を利用する。当該分野で公知の滅菌法を用いて、様々な成分の滅菌が必要とされ得る。
【0079】
全ての構成成分が均質な乾燥混合物に含まれる均質化の後、生じるスラリーの約40重量パーセントまで、水(あるいは他の水溶液)を徐々に加えるが、水の量は様々な粘度の生体材料が形成されるよう調整することができる。このスラリーを、条件に応じて1〜10分間混合する。手動による混合並びに電気による混合を含め、当該分野にて利用されている様々な技法によってこの混合を達成することができる。詳細は、本発明の発明者に発行された米国特許第6,533,821号を参照のこと。
【0080】
この生体材料は、注入可能な形態、ペースト形態、プリン状(puddy)形態、並びに他の形態に作製することができる。このスラリーは使用者側で作製される。この材料の粘度は、乾燥混合物に様々な量の水を加えることによって、操作することができる。水含量を上昇させると一般に流動性が上昇し、水含量を減らすとこのスラリーの粘性が高くなる傾向にある。この材料は無数の形態に調製することができる。
【0081】
生体材料構成成分の温度を変えることによって、作業時間を延長させる、あるいは短縮させることができる。高い温度の構成成分は、より低温の成分よりも迅速に反応並びに整骨する傾向にある。それゆえ、水(あるいは他の反応物)の温度を調節するのは、作業時間を調節するための有効な方法であり得る。
【0082】
結合は、主に、この接着剤と骨との間で発生する。しかし、この接着剤は、自身にも、あるいは軟組織にも結合する。本発明者は、水の替わりにリン酸を使用することによって、この材料の結合強度が増進することを見出した。スラリーの最終pHが患者にとって有害とならない限り、あるいは治癒に対して禁忌とならない限り、リン酸のモル濃度を変えることができる。一般に、pHが6から8の間のスラリーが適切であるが、所望する結果に応じて、他のスラリーpHが採用される場合がある。
【0083】
(接着)
この生体材料の様々な構造物への接着は、多数の方法で達成することができ、これには注入、噴霧、並びに他の適用方法が含まれるが、これらに限定されない。接着手段は、所望する用途並びに接着剤の形態に従って変動し得る。例示的な一方法は、本発明の発明者の米国特許出願第6,533,821号に記載されており、参考として、その全体が本明細書に援用される。
【実施例】
【0084】
(実施例I)
従来技術の骨充填剤(NORIAN(登録商標)Skeletal Repair System, Paoli, PA)の接着特性及び、54% MKP、33%酸化マグネシウム、9%Ca10(PO(OH)、及び4%スクロース混合物(97%の糖及び3%の澱粉である糖混合物)の重量パーセントを有する本発明の生体接着剤の好ましい一実施様態の接着特性を比較する実験。
【0085】
この研究の目的は、臨床的に等価なモデルを使用して、本発明の注入可能なMgO‐MKP‐糖ベースの処方物の、骨対骨、並びに腱対骨に関する接着特性の有無を判定することであった。前十字靭帯修復及び大腿骨骨折のイヌ死体モデルを使用して、生体力学的研究を行った。組織接着は、機械的引き抜き試験及び3点屈曲試験を用いて定量した。8匹の中型犬から大腿骨及びアキレス腱を含む16の膝関節を採取し、試験のための3つの組織構築物を調製した。
【0086】
ACLモデル:A)骨対骨。骨‐膝蓋靭帯移植片を切断し、膝蓋骨を大腿骨のACL跡(footprint)の直径7mmの骨トンネル内に圧入して、ヒトACLの再建を模倣した。靭帯の末端は、引き抜き力学的試験のための固定部として働いた。B)腱対骨。ACL跡から始まり、側面脛側骨皮質で終わる直径7mmの脛側骨トンネルを通してアキレス腱移植片を置き、ヒトACLの再建を模倣した。これらの修復を増進するための留めねじあるいは縫合材は使用しなかった。処置グループは、1)圧入(コントロール;n=16)、2)カルシウムベースの注入可能処方物(n=8)(陰性ペーストコントロール)(Norian(登録商標) Skeletal Repair System− Synthes, Paoli, PA)、3)MgO−MKP−糖ベースの生体接着剤、である。グループ2並びに3については、四肢を対にした。製品を調製して、骨トンネル内の骨あるいは腱移植片の周囲の骨欠損部に注入し、一晩硬化させた。移植片は、破壊ピーク負荷に対する引っ張りを1mm/secで力学的に試験した。
【0087】
骨折モデル:大腿骨骨幹の中央骨幹内にて、1cmの長さの斜め骨切りを行い、1)血塊(新鮮な凝固したウマ血液)、2)シアノアクリレート接着剤(Ross Super Glue Gel− Ross Product, Columbus, OH)、3)カルシウムベース注入用処方物(Norian(登録商標) Skeletal Repair System−Synthes, Paoli, PA)、4)MGO−MKP−糖ベースの注入用処方物の4つの材料が骨折を整復して保持することを試験した。加えて、4つの無傷大腿骨の破損を試験した。グループ3及び4を、1対の脚にて試験した。グループ3及び4において、このペースト製品を適用する30分前、並びに30分後に、グループ1及び2を、1対の脚にて試験した。最初に試験した製品は、擦ると簡単に剥がれた。注入用ペースト並びにシアノアクリレートは、骨折した骨の末端におおまかに塗布して硬化するまで15分間共に一定を保ち、一晩硬化させた。血塊は試験の直前に適用した。破損ピーク負荷に関して、0.1mm/secの変位制御の下での3点屈曲で大腿骨を試験した。剛性並びに破損に対する圧力は、破損の骨面積をキャリパーで推定した後に、負荷変形曲線の直線部分の傾きから算出した。試験の前に崩壊した骨折部位は0 Nで破損と記録した。
【0088】
ACLモデルのデータは、カルシウム対マグネシウム処方物、及び圧着対処方物に関して、スチューデントのペアt検定で解析した。骨折モデルのデータは、治療グループに関する1因子分散分析で解析した。有意度をp<0.05に設定した。
【0089】
結果:膝蓋骨とアキレス腱の両方に関して、ACLモデルでは、カルシウムベースの処方物とMgO−MKP−糖ベースの処方物の両方とも、トンネル内の圧着(摩擦)よりも有意に大きな引き抜き力を有していた(p<0.004)。MgO−MKP−糖ベースの処方物は、最も大きな接着特性を有しており、骨(2.5倍;p<0.0)と腱(3.3倍;p<0.0)の双方に関して、カルシウムベースの処方物よりも有意に大きかった(表1)。
【0090】
骨折モデルでは、血塊並びにカルシウムベースの処方物は、全ての試料において全く接着性がなかった(破損までの負荷0 N)。血塊は大腿骨の両端を同等に保持することができなかった。カルシウムベースの製品は、大腿骨の両端を同格に保持したが、試験の前に分離が発生した。MgO−MKP−糖ベースの処方物並びにシアノアクリレートは、有意に大きな負荷(p<0.0001)で破損し、シアノアクリレートはMgO−MKP−糖ベースの処方物(37.7 N)よりも有意に大きな負荷(127 N;p<0.01)で破損した。無傷大腿骨ははるかに大きな負荷で破損し、いずれの骨接着剤も元の骨強度の10%未満しか達成しなかった。
【0091】
(表1 ACLモデル‐破損までのピーク平均(+/− SEM)引っ張り負荷(N))
【0092】
【表1】

(表2 可能性のある骨接着剤で修復した大腿骨骨切断術における破損までの平均(+/− SEM)生物力学特性)
【0093】
【表2】

骨トンネルからの骨並びに腱引き抜きにおいて、ペースト処方物は、セメント特性(即ち硬化充填剤)に起因してある程度の接着性を提供した。しかし、このMgO−MKP−糖ベースの処方物は、骨において、1000 Nを超える付加的かつかなりの接着特性を有しており、これは、生体内でこの構築物が受ける力を超えるはずである。大腿骨骨折再構築では、このMgO−MKP−糖ベースの処方物は骨接着性を提供したが、本発明者らの非生物分解性陽性コントロールの接着剤ほど強くはなかった。修復された構築物の強度は、依然として、無傷大腿骨強度の<10%であったが、断片封じ込め及び骨伝動性を提供する場合がある。
【0094】
ACL再構築において、生物分解性MgO−MKP−糖ベースの注入用処方物は、有意な増大となるのに十分な、あるいは恐らくは独立して使用するのに十分な程度、骨トンネル内にて骨及び腱に接着した。骨両端の接着は、粉砕骨折修復において骨折破片を含有するのに十分である場合があり、予測されるように骨伝導性並びに生物分解特性が骨折治癒を補完しているのであれば、有用であり得る。
【0095】
(実施例2 骨増殖能結果:処方物II)
動物:
種/品種: ウマ/雑種
試験開始時の齢: 順化開始時で、最も年少で3歳、最も年長で20歳
試験開始時の体重: 順化開始時で、約800〜1200 kg
性別: 去勢ウマ、雌ウマ
動物の識別: 個体の首カラー、耳あるいは端綱のタグ
前処置: ワクチン接種:東部脳炎、西部脳炎、インフルエンザ、西ナイルウイルス、及び破傷風。Ohio State Finley Research農場に到着後に、駆虫。動物は、それまでに化合物に暴露されていない。
【0096】
研究場所の概要
本研究は、Ohio State University Alice Finley Memorial農場(Finley農場)及びVeterinary Teaching Hospital(VTH)にて実施される。評価は、Veterinary Teaching病院にて行われる。この施設の動物飼育設備、実験支持区域、記録保持、並びに予測される法令遵守事項は、このプロトコールの要件に合致するのに十分である。
【0097】
管理:
一頭当たりの飼育面積:研究が続く間、動物は箱型ストールに収容される
給餌給水方法:1日2回、干草と穀類を与える。水は無制限に与える
畜舎:Finely農場あるいはVTHの、寝藁をしいた箱型ストール
環境調節:Finely農場の箱型ストールは温度調節がされていない家畜小屋の中にある。VTHの箱型ストールはビルの中にあり、温度調節されている。
給餌:1日1頭当たり約3ポンドの穀物。干草は、1日2回、約15ポンド与え、必要であればこれより増やす。
水:水は毎日確認し、必要であれば洗浄処置する。
【0098】
(設計)
実験的研究;入れ子ペア法;各ウマは同一個体内対照とする。ウマ、四肢、並びに中央あるいは側生副木骨を、制御されたブロック計画(controlled block design)に割り当てた。ウマ8頭、両側MtII及びMtIV骨折(24の副管骨)。1個の中央副管骨と1個の側生副管骨(MtIIとMtIV)を、MgO−MKP−糖注入用処方物で治療する(n=16)。反対側の副管骨には、カルシウムベースの注入用処方物を注入するか(比較処置)、あるいは注入をしない(未処置コントロール)。表3の結果は8個の脚から成る4つのグループである。:1)未処置自然治癒(コントロール)。2)カルシウムベースの非接着性注入用製品(比較処置)、3)マグネシウムベースの接着性注入用試験製品。
【0099】
(表3 中足骨(副管骨)の治療グループへの割り当て(1グループにつきn=8))
【0100】
【表3】

(手順)
試験対象:ウマ(3〜20歳)は、理学的検査に関して健康であって完全な血球数であり、中足骨の触診異常あるいはX線画像上で異常のない健全な状態でなければならない。
【0101】
盲検化:副管骨および脚の割り当ては記録される。全てのX線画像、qCT、生物力学的試験、及び組織形態学は、盲検化された様式でコードされた試料を用いて行われる。
【0102】
骨折モデル‐骨折(Mt(副管骨)II並びにMt(副管骨)IV)は、0日目に一般的な麻酔法の下で行われる。ウマは麻酔の30分前に、プロカインペニシリン(22,000ユニット/kg)を筋肉内に、ゲンタマイシン(6.6 mg/kg)を静脈経由で投与される。ウマは、キシラジンHCl(1 mg/kg)で鎮静処置し、ケタミン(2 mg/kg)で誘発して背側臥位にてイソフルラン及び酸素で効果を維持する。副管骨は、これらの骨欠損部に関する部位の皮膚直下にある。感染予防処置の後、副管骨の平滑で触知可能な面の上部に小さな2cmの切開を行い、これは触知可能な足根中足関節から15cm離れている。湾曲スパチュラを副管骨の下部に置き、窒素駆動振動骨鋸を使用して、三角形の断片(90°、1.5cmアーム)を含有する3個の骨折片を作製する。この骨鋸で1mm幅の骨を除去する。切開部を生理食塩水で大まかに洗い流して骨くずを除去し、乾燥させる。圧力あるいは高周波焼灼によって骨表面の出血を停止させる。割り当てに従って、骨三角片を元の欠損部内に戻す。注入用ペースト処置が割り当てられた骨の場合、製造者の推奨に従ってこれを混合し、約0.5 mlを切断した骨表面に置き、三角片を元に戻して接着する。この断片を30分間圧着させて硬化を確保するか、または血塊をコントロール試料にする。切開部の層縫合を行うこととなり、滅菌包帯を使用して馬を回復させる。滅菌包帯処置は2週間続ける。
【0103】
材料の調製:使用する直前に、表3の順にBone Solutions製品(MgO−MKP−糖ベース)並びにBone Source製品(カルシウムベース)を金属スパチュラで混合し、金属スパチュラで骨折の間隙に塗布した。双方の製品とも混合して2分後に塗布し、骨折床(fracture bad)に十分な量の材料を適切に置くのに必要な量を再塗布した。
【0104】
(結果の評価)
臨床的評価‐この手順あるいは治療に対する任意の反応の臨床的兆候に関して、ウマを毎日モニタリングする。直腸温度(T)、心拍数(HR)、及び呼吸数(RR)が、術後並びに注入後1週間毎日、さらにその後8週目の研究の終了まで週に1度記録される。
【0105】
疼痛‐ウマは、ストールにいる間、身体的パラメータ(T、HR、RR)、跛行スコア(0〜5)を評価することによって、疼痛に関してモニタリングする。
【0106】
腫張‐スコア(0〜4;0=腫脹なし、並びに1=最小、2=軽度、3=中程度、並びに4=著しい腫脹)によって、手術部位の腫脹を評価する。手術部位の排膿は、排膿の特長(色、粘度)の排膿スコア(0〜4;0=排膿なし、1=排膿で汚れた包帯表面が0〜25%、2=排膿で汚れた包帯表面が26〜50%、3=排膿で汚れた包帯表面が51〜75%、4=排膿で汚れた包帯表面が76〜100%)によって評価される。
【0107】
歩行評価‐1、1、3、4、5、6、7、並びに8週目に、各後肢に関して、歩行時の跛行を0〜5にスコアづけする。(0=跛行なし、1=最小の跛行、2=軽度の跛行、3=中程度の跛行、4=著しい跛行(足の一部のみを置く。)、5=体重付加しない跛行)。
【0108】
安楽死‐7週目で、500 mgのキシラジンHCl IVで麻酔した後に、AAEPのガイドライン内で、ペントバルビタール溶液を過剰投与することによってウマを安楽死させ、遠位肢を採取する。
【0109】
骨折治癒(骨接着及び結合)−
X線画像‐骨折及び注入の前、及び終了までの7週間の間に1週間おきに、斜位X線撮影を行う。X線画像は骨折断片の移動(0=なし、1=最小、2=中程度、3=著しい)、骨増殖性(0=なし、1=最小、2=中程度、3=著しい)、骨再建(0=なし、1=最小、2=中程度、3=著しい)、並びに骨折閉鎖(0=なし、1=最小、2=中程度、3=著しい)に関してスコアづけされる。骨折性仮骨の幅及び長さを計測し、すべてのフィルムに含まれるX線画像測定基準を使用して較正される。
【0110】
定量的コンピュータ断層写真(qCT)‐遠位肢の中足骨を、骨折治癒の過程に伴う軟組織の異常に関して、1cm間隔で選別する。骨欠損部位へ少なくとも1cmの近位並びに遠位まで、1mmの断層面を得る。続いて、Mt IV及びMtIIを採取し、軟組織を洗浄除去する。さらに、Mt IV及びMtIIを、仮骨の頂部から底部まで、1mmの断層横断面にて走査して石灰化した仮骨の面積、密度、及び無機物含量(面積×密度)を決定する。密度測定のために、リン酸カリウム標準を使用することによって、X線減衰の差異に関して各断層面を標準化する。標準化を行った後、目的のリン酸カリウム領域(ROI)を、灰密度(mg/mm3)に転換する計算を行った。骨の断層横断面画像をもとに、治癒した骨折部位にて、骨面積(骨の量)、治癒している骨折部位における骨密度、並びに仮骨における骨密度に関して、ROIの追跡解析を行う。副管骨は、qCTの直後に力学的試験を行う。
【0111】
力学的試験‐中足骨II及びIVの末端をグリップ内に固定し、水圧サーボ物質試験系を用いて、3点屈曲(1.5mm/sec)における破損を準静止的に試験する。骨をジグ内に正しく置き、左右両側に関して適切な屈曲を確保する。負荷/変形データを収集して、破損までの最大負荷を算出する。
【0112】
組織学‐力学的試験の後、副管骨を脱灰せずにPMMA内に包埋し、縦軸正面で切り出し(10μm)(EXACKT system, OSU)、マッソントリクロームで染色し、仮骨の組成、成熟度、皮質の連続性、並びに骨折架橋に関して評価する。欠損部内の軟骨、線維組織、並びに骨等、組織の型の評価を留意する注目される。
【0113】
データ解析‐得られた結果の変数全てに関して、記述統計学を作成する。ペアt検定を用いて、客観的データに関して、治癒に対するMgO−MKP−糖ベース(Mgベース)注入用ペースト処置の効果を、カルシウムベースの処置あるいは処置なしと比較して評価する。スコアづけしたデータは、中央値及び範囲として表され、マンホイットニーのU検定によって分析される。p<0.05で差異が有意であるとみなされる。
【0114】
(知見及び結論)
実験設計:8頭全てのウマが、表3にある割り当てのように、この7週間の治療研究を完了した。全てのウマは、選抜基準に合致した。特徴を表4に列挙する。全てのウマは外科手術を受けて三角形型中足骨骨折を生じさせ、割り当てた治療の適用を受けた。骨片を元の動物の欠損部に30分間圧着させると、材料は手術縫合部で硬化したようであった。
【0115】
(表4 本研究で使用したウマの特徴)
【0116】
【表4】

(結果の評価)
(臨床的評価)
疼痛及び歩行‐プロトコールのように、跛行スコアによって評価したように、術後の任意の時点において、ウマは跛行しなかった(中央値0、範囲0)。身体的検査のパラメータは、この研究を通じて正常範囲内に留まっていた。
【0117】
切開腫脹と排膿‐4つの処置グループ間で術後の腫脹に差異はなく、且つ、任意の時点において切開部の排膿はなかった。1ヶ所の手術部位のみが、この研究の終了時に触診可能な硬さを有したが、非疼痛性で約2cmの腫脹であった。これらのデータは、Mg材料とCa材料は臨床的に生体適合性があり、且つ臨床的に非刺激性であると解釈される。臨床的に明白な組織あるいは骨の増殖は発生せず、よって、増殖は過剰なものではなかった。
【0118】

X線撮影‐手術の前及び本研究が終了するまで1週間おきに、プロトコールのようにX線写真を撮影した。骨折間隙、材料の存在、骨形成、骨再成形、並びに骨の治癒に関してX線画像を評価した。骨片の移動を、骨片の頂端から骨片床の頂端までの直線距離(mm)として評価した。MgO−MKP−糖治療は、治療をしない場合と手術直後(0週目)にCa治療をした場合のいずれの場合よりも、有意に(p<0.05)元の骨片床のより近くに骨片を固定した。Mg治療、あるいはCa治療において、MtIIでは第4週まで、MtIVでは第2週まで骨片の移動は起こらなかった。全ての時点において、移動した骨片は、MgO−MKP−糖治療では、治療しなかったものと比較してより少なく、これは4週間までの間、統計的に有意であった(グラフ並びにデータに関しては付属書を参照のこと)。仮骨形成(治癒している骨片での骨の増殖)は、X線画像から、骨片の周囲で形成された新たな骨の幅及び高さを最大部位にて測定し、これらの個数を掛け合わせて新規の骨の面積を算出することによって推定した。MtII及びMtIVの双方において、MgO−MKP−糖治療(Mg治療)では、Ca治療及び治療なしよりも、新規骨仮骨が有意に大きかった。有意な骨形成は4週間までに発生し、7週間を通じて続いた。
【0119】
ある時点、特に初期の時点での一部のウマのX線画像を基にして、元の骨と骨片との間の間隙にて放射線不透過性材料を同定することができた。(付属書を参照のこと。)第4週まで、製品はCa製品と等しい頻度並びに量であることに留意し、その後表れた材料は全般により少なかったが(スコアがより小さい)、Mgグループではより多く、第7週ではMgO−MKP−糖グループのみで表れた。
【0120】
骨片並びに元の骨周辺での骨の再形成は、MgO−MKP−糖治療では、治療なしあるいはCa処置グループよりも有意に大きかった。
【0121】
骨片並びに元の骨周辺での骨治癒は、MgO−MKP−糖治療でより大きく、これは全ての週において治療なしと比較して、並びに第4、6、並びに7週ではCa処置と比較して有意であった(p<0.05)。
【0122】
安楽死と骨採取‐プロトコールに概説されているように、ウマは術後7週目に安楽死させた。中足骨及び遠位肢を切断、標識し、プラスチック内に保存して冷凍した。
【0123】
(定量的コンピュータ断層撮影)
治癒の7週間後に、無傷肢及び中足骨(ウマ1頭につき4つ)を走査した(Picker P Helical CT, Philips Medical Systems for North America, Bothell, WA)。無傷肢は、1cm幅で横断面にて走査し、各断層面を周囲軟組織の異栄養性無機質化に関して主観的に評価した。提靭帯、腱あるいは周囲の皮膚を含めて、異常な無機質化は見られなかった。中足骨は、内側から外側まで、且つ仮骨の少なくとも1cm上部から仮骨の1cm下部が含まれるよう、矢状断面における1mm幅の断層面にて走査した。骨片に関係する中足骨の中央部断層面の走査画像を選択し、間隙、骨片、及び仮骨について目的の領域を追跡した。間隙、骨片、並びに仮骨に関して目的の領域については、組織の密度及び領域の大きさに関して測定値を記録した。次に、同時に収集した各断層面のファントム算出値を用いて、リン酸カリウム密度から灰密度へ、密度測定値を変換した。骨片と元の骨との間隙内の密度に関して、MgO−MKP−糖処置では治療なしと比較した場合、より大きいという傾向(p<0.08)があった。Mg処置とCa処置を比較すると、間隙の密度には差異がなかった(p<0.13)。X線画像からのスコアデータと合わせると、これは、7週目に材料が存在することを反映しているようである(付属書の生データ並びに作表したデータを参照のこと)。グループ間で骨片の密度あるいは大きさに有意な差異はなかった。治療なしと比較したMg治療(p<0.01)、及びCa治療と比較したMg治療(p<0.02)では、治癒している骨片周囲の仮骨の量が有意に多かった。これらのデータは、より大きな仮骨というX線画像の測定を支持した。まとめると、これらのデータは、材料による骨片の破壊がなく、形成された骨の密度に異常がなく、且つMg処置によって骨片部位での骨形成が有意に増大することを示している。このモデル及び動物種にて見られるこの骨増殖効果は、Mg製品に対する骨誘導性応答である。最も純度の高い製品及び標準的な骨誘導モデルを使用するさらなる調査によって、この知見は確認される。
【0124】
力学的試験‐3点屈曲にて骨を破損させ、破損までのピーク負荷(N)及び横断面の径(mm)に関して測定値を記録した。破損までのピーク圧力(N/mm2)のための計算を行った。いかなるグループ間でも、この力学的試験結果において有意な差異はなかった。治癒したMtIVの大きさ及び強度は、MtIIよりも有意に大きかった(データに関しては付属書を参照のこと)。
【0125】
組織学‐骨を横断切片にしてqCT検査面を模倣し、骨片および周囲の骨を横断切片で見えるようにした。8個のMg処置Mt IV骨の内の6つ、並びに8つのMg処置Mt II骨の内の3つで、材料染色は非常に明白であった。8個のCa処置Mt IV骨の内4つで、材料は非常に明白であった。試料の組織学的評価によって、骨片並びに材料に隣接する組織の種類が線維状組織および/または骨であることが示された。この隣接する組織の内部に炎症性細胞はなかった。肉芽腫性反応(巨細胞の流入)はなかった。骨は材料に直接隣接することが示された。この組織学的データは、以下の結論を支持する。Mg材料は吸収されず、7週間、この部位に接着したままである。多数の試料において、Ca材料は7週間までにこの部位から吸収されるかあるいは移動した。Ca材料及びMg材料の双方とも生体適合能があり、炎症反応を刺激しなかった。身体はこれらの材料を隔離(wall off)しなかった。骨あるいは線維状組織、予測される治癒組織の種類は豊富であって、影響なく材料の近傍に存在していた。
【0126】
(付属書I‐調剤投与)
全ての動物は、Bone Source並びにBone Solutions製品を与えられる。製品を置く直前にスパチュラを使用して混合し、骨の全表面を覆うよう骨欠損部内に置く。骨片を最低5分間、正しい位置内に保持し、皮膚縫合前の最低30分間硬化させる。出血は、ペーストを塗布する前、あるいは骨片を元に戻す前(未処置コントロール)に、骨表面上にて抑制する。
【0127】
(付属書II‐身体的検査)
試験対象:
1. 身体的検査様式に関して正常(跛行を含む)。1未満のスコアでゆっくり走る。
2. 双方の中足骨の触診は、受容可能である。
3. 基準を満たすCBC及び化学プロフィール。
4. 基準を満たす双方の中足骨のX線画像。
【0128】
身体的検査は、適切に経験をつんだ獣医師によって行われ、これには、直腸温度、毛細血管再充填時間を含む舌及び歯肉炎の評価、心拍数、呼吸数、胸部及びGI聴診、並びに各動物の全般的身体状態の検査が含まれる。
【0129】
(付属書III‐臨床病理学)
血液学、血清化学は、OSU臨床病理学研究室にて標準的に行われる。
【0130】
血液学的検査、血清化学及び血漿薬剤暴露のために、血液サンプルを採取する。血液採取のために、2種類の滅菌真空試験管を使用する。試験管の大きさは、必要とされるサンプル量に適している。血液学のためにEDTA抗凝血剤を入れた試験管を使用し、血清採取のためには抗凝血剤を入れない試験管を使用し、血漿薬剤暴露のためにはEDTAを入れた試験管を使用する。抗凝血剤を入れた試験管は全て、充填した後、緩やかに倒置させる。
【0131】
(実施例III‐スチールねじの骨内への接着‐処方II)
生物分解性リン酸1カリウム、酸化マグネシウム(Mg)、リン酸3カルシウム、糖注入用処方物は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、リン酸カルシウム(Ca)と比較して、あるいは骨セメントを使用しない場合と比較して、ねじ引き抜きトルク及び表面接着を増大させる。
【0132】
骨セメントは骨空充填剤として役立ち、移植物等構造物を骨へセメント接着させることができる。骨空隙内に関節移植物を固定する、骨上にプレート並びにねじを封泥する並びにねじ引き抜き力を増強するために、骨セメントを使用する。これらの用途において移植物の固定化(security)を増進する作用の機構には、骨空隙内での硬化並びに表面接触面積の増大が含まれる。現在入手可能なセメント(生物分解性あるいは非生物分解性)で、移植物を骨に接着させると言われているものはないが、この特性によって、さらに、骨内での移植物の固定化を増進し、微細な動きが減少すると考えられる。MgO−MKP−糖処方物は、骨対骨、並びに腱対骨に関する接着特性を示し、よって、移植物の骨への接着性を提供し得る。本研究の具体的な目的は、MgO−MKP−糖(Mgベース)骨セメントが、Caベースの市販品並びにPMMAと比較して、ステンレス鋼ねじへの接着特性を有しているか否かを判定することであった。移植物の固定化は、ピーク引き抜きトルクとして定量した。材料の分布並びに移植物への結合は、高細密X線画像並びに非脱灰組織学で評価した。骨‐材料‐移植物結合性を示すために引き抜きトルクを選択した。なぜなら、移植物の固定が失われる際は、材料あるいは骨の破損よりもむしろ界面破損が起こるからである。
【0133】
方法:8頭の中型イヌから16対の橈骨を採取した。遠位骨幹にて頭側から尾側まで等間隔にドリルで4つの穴を開けた。骨をジグ内に固定化し、表面に対して直角に、2.5mmのドリル刃先で穴を開け、穴の長さをデプスゲージで測定した。手でこの穴に雌ねじを切り、Gp1−コントロール、材料なし;Gp2−Caベース生物分解性骨充填剤・セメント剤(Bone Scource; Stryker Inc., Kalamazoo, MI);Gp3−PMMA(SimplexTMP, Stryker Inc., Kalamazoo, MI);並びにGp4−Mgベース生物分解性骨充填剤/セメント剤(Bone Solutions, Dallas, TX)の割り当てで、0.706 Nmトルク(Qdriver2 Torque Screwdeiver, Snap−on Inc., Kenosha, WI)に適切な長さの316Lステンレス鋼皮質骨ねじ(Synthes, Paoli, Pa)で充填した。材料を調製し、割り当てた穴(近位から遠位まで穴の位置を調節するために穴を交互にした(rotate))に充填するために使用した。迅速に続けてねじを置き、96時間材料を硬化させた。各ねじに関する引き抜きトルク(Nm)を試験し、ねじを逆回転させる間、トルクレンチに繋げたTorque Sensor/Load Cell Disply(Transducer Techniques Inc, Temecula, CA)を使用して測定した。ピーク値を記録した(Nm)。橈骨をデジタルX線撮影し、各穴の周囲のセメント化した面積を電子ペン(Osirix Medical Imaging Software)を用いて測定して記録した。ねじを再挿入し、骨を穴のいずれかの側で平板に切断し、脱灰せずに頭側尾側へ切片とし(Exackt System, Zimmer, Warsaw, IND)、マッソントリクローム染色で染色した。組織学的切片は、界面間隙、骨/ねじ/材料の接触、及び材料の顕微鏡的外見に関して定性的に評価した。
【0134】
結果:Mgベース製品(Bone Solutions)の引き抜きトルク(平均97.5±17.7 Nm)は、コントロール、Caベース製品、並びにPMMAと比較して有意に(p<0.001)大きかった。PMMAの引き抜きトルクはCaベースの製品と比較して有意に(p<0.05)大きかった(図1)。ねじ周囲のセメント面積は、全ての材料において同定可能であったが、Mgベース製品並びにPMMAでは、Caベース製品並びにコントロールよりも有意に大きく(p<0.001)(表5)、非常に明白であった。
【0135】
(表5 イヌ橈骨に付けたねじ周囲に存在するセメントの平均(±SEM)面積(ピクセルの2乗))
【0136】
【表5】

組織学的には、Caベース製品は粒状で密度が高く、均質でその界面に間隙があった。PMMAは微細な粒状で均質であり、界面では接触していた。Mgベース製品は粒状、均質でなく、ねじ及び骨と直接接触していた。この材料は界面で密に充填されていた。
【0137】
考察:Caベースセメント剤は、界面で分離するために、ねじに対して、より大きな引き抜きトルクを提供しなかった。PMMAは周囲の骨に拡散してねじとの界面における緊密な結合を提供し、Caベースのセメント剤あるいはコントロールよりも大きな引き抜きトルクを提供したが、これは生物分解性を持たない。Mgベースのセメント剤は周囲の骨に拡散してねじ界面における緊密な結合を提供し、最も大きな引き抜きトルクを提供し、且つ生物分解性である。移植物に対する優れた接着性の機構には、ねじ並びに骨の表面に対する膨張及び圧縮が含まれるようである。
【0138】
結論:生物分解性マグネシウム注入用セメント剤は、骨内でステンレス鋼の移植物を固定するのに優れていた。
【0139】
【化1】

本発明の基本的な概念を記載してきたが、先述の詳細な開示内容は例示のみのために提供することが意図されていて制限を与えないことは、当該分野の技術者には明白であろう。様々な変更、改良、並びに変法が示唆されることが意図されており、これらは本発明の範囲並びに本質の範疇にある。加えて、列挙した要素順序あるいは進行順序、もしくは数字、文字、あるいは他の名称の使用は、故に、請求項にて特定されている場合を除いて、請求される工程を任意の順序に制限することを意図していない。従って、本発明は以下の請求項及びこれに等価なものによってのみ制限される。
【0140】
この出願書にて引用した全ての刊行物及び特許文書は、全ての目的に関して、各刊行物あるいは特許文書を個別に表示するのと同程度に、参考のためその全文を援用する。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】図1は、本発明のMgO−MKP−糖ベース製品(Bone Solutions)がコントロール、Caベースの製品、並びにPMMAよりも有意に(p<0.001)大きな引き抜きトルク(平均97.5±17.7 Nm)を有することを示した、引き抜きトルク結果のグラフである。PMMAの引き抜きトルクはCaベースの製品よりも有意に(p<0.05)大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨増殖性生体材料組成物であって、該生体材料組成物は、
リン酸またはリン酸塩;
金属酸化物;
カルシウム含有化合物;ならびに
糖様化合物であって、該糖様化合物は、糖類、糖誘導体、糖代用物質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、糖様化合物、
を含有する、生体材料組成物。
【請求項2】
水をさらに含有する、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項3】
前記リン酸と前記金属酸化物との間の重量比が、約2:1と1との間である、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項4】
前記リン酸塩が、KHPOである、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項5】
前記組成物が、骨誘導性である、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項6】
前記カルシウム含有化合物が、Ca10(PO(OH)である、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項7】
前記カルシウム含有化合物が、α−Ca(PO、β−Ca(PO、Ca10(PO(OH)、リン酸四カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、二相性リン酸カルシウム、結晶性が乏しいアパタイト、オキシアパタイト、リン酸八カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、メタリン酸カルシウム、メタリン酸七カルシウム、ピロリン酸カルシウム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項8】
前記糖様化合物が、糖類、糖アルコール、糖酸、アミノ糖、糖ポリマー、グリコサミノグリカン、糖脂質、糖置換体およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項9】
前記糖様化合物が、スクロースである、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項10】
前記リン酸またはリン酸塩が、約40重量%と65重量%との間で存在し;前記金属酸化物が、約30重量%と50重量%との間で存在し;前記カルシウム含有化合物が、約1重量%と15重量%との間で存在し;そして前記糖様化合物が、0.5重量%と20重量%との間で存在する、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項11】
前記リン酸またはリン酸塩が、約20重量%と70重量%との間で存在し;前記金属酸化物が、約10重量%と50重量%との間で存在し;前記カルシウム含有化合物が、約1重量%と15重量%との間で存在し;そして前記糖様化合物が、0.5重量%と20重量%との間で存在する、請求項1に記載の生体材料組成物。
【請求項12】
骨増殖性生体材料組成物であって、該生体材料組成物は、KHPO、金属酸化物、リン酸三カルシウム、および糖様化合物を含有し、該糖様化合物は、糖類、糖誘導体、糖代用物質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、生体材料組成物。
【請求項13】
KHPOと前記金属酸化物との間の重量比が、約2:1と1との間である、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項14】
前記金属酸化物が、MgOである、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項15】
前記組成物が、骨誘導性である、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項16】
前記リン酸三カルシウムが、Ca10(PO(OH)である、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項17】
前記糖様化合物が、スクロースである、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項18】
前記糖様化合物が、糖である、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項19】
前記糖様化合物が、多糖類である、請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項20】
KHPO塩が、約20重量%と70重量%との間で存在し;
前記金属酸化物が、約10重量%と50重量%との間で存在し;
前記リン酸三カルシウムが、約1重量%と15重量%との間で存在し;そして
前記糖様化合物が、0.5重量%と20重量%との間で存在する、
請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項21】
KHPO塩が、約40重量%と65重量%との間で存在し;
前記金属酸化物が、約30重量%と50重量%との間で存在し;
前記リン酸三カルシウムが、約1重量%と15重量%との間で存在し;そして
前記糖様化合物が、0.5重量%と20重量%との間で存在する、
請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項22】
前記KHPO塩が、約40重量%と50重量%との間で存在し;
前記金属酸化物が、約35重量%と50重量%との間で存在し;
前記リン酸三カルシウムが、約1重量%と15重量%との間で存在し;そして
前記糖様化合物が、0.5重量%と10重量%との間で存在する、
請求項12に記載の生体材料組成物。
【請求項23】
骨増殖性生体材料組成物であって、該骨増殖性生体材料組成物は、乾燥相と水相とからなり;
該乾燥相は、KHPO、金属酸化物、リン酸三カルシウム、および糖からなる、
骨増殖性生体材料組成物。
【請求項24】
前記水相が、水である、請求項23に記載の骨増殖性生体材料組成物。
【請求項25】
硬組織の増殖を促進するための方法であって、該方法は、
a.リン酸塩ベースの生体材料を組織欠損部または硬組織欠損部に塗布する工程であって、該生体材料は:
リン酸またはリン酸塩;
金属酸化物;
カルシウム含有化合物;ならびに
糖様化合物であって、該糖様化合物は、糖類、糖誘導体、糖代用物質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、糖様化合物、
を含有する、工程、
を包含する、方法。
【請求項26】
前記生体材料に、水または他の水溶液を添加および混合する工程をさらに包含する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記硬組織が、骨である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記生体材料が、請求項11に記載の組成物と水溶液との混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記生体材料が、請求項12に記載の組成物と水溶液との混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記生体材料が、請求項21に記載の組成物と水溶液との混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記生体材料が、請求項23に記載の組成物の混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記生体材料が、骨誘導性である、請求項25に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−513161(P2008−513161A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532675(P2007−532675)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/034035
【国際公開番号】WO2006/034420
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(507090203)
【Fターム(参考)】