説明

多相流における異相スラグの検出方法および多相流における異相スラグの検出システム

【課題】 多相流における異相スラグの存在を確実に検出する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】 本発明に係る検出方法および検出システムは、オリフィス板8を備えた質量流量計を用いて、多相流の質量流量に対応した出力信号を例えば歪みゲージ24から出力するプロセスと、信号処理装置32によって、前記出力信号の信号波形の変化率を求めるプロセスと、前記出力信号の信号波形を、前記多相流にスラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な出力信号の信号波形として予め定めておいた正則な信号波形と比較して、前記出力信号の信号波形が、前記正則な信号波形における変化率に対して所定の許容範囲を逸脱した大きな変化率を有している場合には、そのとき前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発することを決定するプロセスとを、実行するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蒸気システムにおける飽和蒸気のような多相流中に存在する虞のある凝縮液滴や凝縮飛沫のような異相スラグを検出する方法、およびその検出方法を実行するための検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば種々の工業的プロセスにおいて、熱媒体として蒸気を用いることは、広く一般に行われている。その多くのプロセスや加熱システム等においては、第1の相として蒸気を含むと共に第2の相として凝縮液を含む2相の飽和蒸気を利用している。
【0003】
蒸気システムにおける熱損失は、蒸気を凝縮(または凝結)させて凝縮液滴や凝結飛沫を生じせしめる原因となる。それらの凝縮液は、一般に、蒸気が流される管路の内壁の表面に沿って発生することとなる。それらの凝縮液滴や凝縮飛沫は、融合して凝縮液膜となり、蒸気全体の流れに押し流されるようにして、管路の内壁を伝って下流側へと流されて行く。そして、その凝縮液膜は、窪んだ部分に溜ったり、管路の途中に停留したりする。そして、そこから蒸気全体の流れによって吹き飛ばされるようにしてその流れに乗り、その蒸気の流れにおけるいわゆる異相スラグ(以下、単にスラグとも表記する)として、管路の下流側へと流されて行く。スラグは、管路に沿って流されて行くうちに、各種のバルブや接続部分や流量計などのような各種構成要素と衝突し、それによって管路内で運動量を失って、いわゆる「ウォータハンマー現象」や「水撃現象」と呼ばれる不都合な現象の発生要因ともなり得る。蒸気システムは一般に、飽和蒸気の流れに適応するように設計されているのであって、凝縮液滴などに起因した高エネルギの衝撃に耐えることができるものであるとは限らず、多くの場合、耐えられない虞がある。
それゆえ、飽和蒸気の流れにおけるスラグの存在は、蒸気システムに対して損害を与える要因となり得るものであり、従って予期せぬ不都合な事態を引き起こす虞のあるものである。
【0004】
蒸気システムにおける蒸気流量をモニタリングするために、可変オリフィス式流量計のような可変流量計、オリフィス式流量計、ターゲット式流量計などのような種々の方式の流量計を用いることが知られている。例えば、可変流量計の一例としては、EP0593164号明細書(欧州特許明細書)に開示されたものがある。その可変流量計では、オリフィス板の開口内に配置されたプラグに対して蒸気の流れによって与えられた力を検出し、それに基づいて、そのときのオリフィス板を通る流れの流量を算出し、その流量に対応した振幅や振動数を有する信号を出力する(特許文献1)。
【0005】
多相流においては、その流れにおける小さな変動によって上記のような流量計から出力される信号のノイズが発生する虞があることが知られている。また、飽和蒸気のような多相流の流量に関する出力信号におけるノイズの多寡は、その流れを構成している各相の比率に対応して変化することが知られている。
【0006】
US5031466号明細書(米国特許明細書)には、飽和蒸気における気相としての純粋蒸気の流れの変動の度合いによって定義される飽和蒸気の品質を計測する方法が開示されている。より具体的には、飽和蒸気の流れの測定は、その計測対象の流れが通過するオリフィスの前後における圧力差に基づいて測定されるが、その流れに特定の時間内(例えば30秒など)で生じる圧力変動に対応して検出される圧力信号の変動に基づいて、そのときの飽和蒸気の品質を計測することができる。その飽和蒸気の品質は、圧力信号の変動の度合いに反比例して定まる。また、そのオリフィスが設けられた計測対象のシステムに対して適合するように予め定めておいた補正テーブルに基づいた補正を、測定された圧力信号の変動の情報に対して施すことによって、その飽和蒸気の品質についての、より正確な(いわゆる「確からしさ」のより高い)計測が可能となる(特許文献2)。
【0007】
US200502297号明細書(米国特許明細書)には、測定された信号に含まれているノイズの特徴を、多相流における1つの相または各相についての典型的な測定結果に基づくなどして予め設定しておいた信号の特徴に関するテーブルと比較する、という方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP0593164号明細書(欧州特許明細書)
【特許文献2】US5031466号明細書(米国特許明細書)
【特許文献2】US200502297号明細書(米国特許明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来の方法は、多相流における特定の相の比率を求めるために、出力信号における全体的な信号波形ではなく、その出力信号において変動する振幅または周波数の値のみを基本的に用いている。しかしながら、多相流におけるスラグの存在は、その流れが通過する管路における一定点から観測される、その流れの相を、急激に変化させることとなる。その急激な変化は、出力信号におけるダイレクトかつ顕著に急峻なスパイク歪みとして観測される。従って、US200502297号明細書およびUS5031466号明細書によって提案されている方法は、多相流におけるスラグの確実な検出には不適格である。なぜなら、出力信号における個々のスパイク歪みは一般に、それを含んでいる出力信号からフィルタリングによって除去されるか、もしくは多数の変動と一緒になって検出されることが多いので、それらの中にスラグの存在に対応した信号波形が紛れてしまって、その信号波形を正確に検出することは困難だからである。その結果、上記のような従来提案されている方法では、蒸気システムに損害を与える虞のあるスラグを検出することが極めて困難あるいは不可能であるという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、例えば蒸気システムに損害を与える虞のあるスラグのような、多相流における異相スラグを確実に検出することを可能とする、多相流における異相スラグの検出方法および多相流における異相スラグの検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、管路内を流れる多相流に含まれている複数の相のうちの1つの相からなるスラグの存在を検出する、多相流における異相スラグの検出方法および多相流における異相スラグの検出システムであって、質量流量計を用いて、前記多相流の質量流量に対応した出力信号を出力するプロセスと、前記出力信号の信号波形の変化率を求めるプロセスと、前記出力信号の信号波形を、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な出力信号の信号波形として予め定めておいた正則な信号波形と比較して、前記出力信号の信号波形が、前記正則な信号波形における変化率に対して所定の許容範囲を逸脱した変化率を有している場合には、そのとき前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発することを決定するプロセスとを含む検出プロセスを実行することを特徴とする、多相流における異相スラグの検出方法および多相流における異相スラグの検出システムが提供される。
上記のスラグは、多相流を構成している複数の相のうちの主たる相よりも軽いまたは重い相からなるスラグつまりいわゆる異相スラグである。
上記の多相流における異相スラグの検出方法または検出システムにおいて、前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発するものと決定される場合の前記出力信号の信号波形が、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される最大の変化率を超えた変化率を有するパルス状の立ち上がりを有するものとすることは、望ましい一態様である。
また、前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発するものと決定される場合の前記出力信号の信号波形が、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される最大の変化率を超えた変化率を有するパルス状の立ち下がりを有するものであるようにすることは、望ましい一態様である。

また、前記出力信号の信号波形における前記パルス状の立ち下がりが終焉する終端点の値が、当該立ち下がりを含む前記パルス状の波形よりも以前の前記多相流の平均流量の値未満であるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記質量流量計が、可変流量計であるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記質量流量計が、ターゲット流量計であるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記出力信号が、前記質量流量計における前記多相流によって与えられる機械的歪み変位および/または機械的反作用力(反動力)に対応した信号的情報を担持して出力されるものであるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記質量流量計が、オリフィス板を用いたオリフィス方式の流量計であり、前記出力信号が、当該オリフィス板の前後での前記多相流の圧力変化に対応した信号的情報を担持して出力されるものであるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記多相流が、飽和蒸気流であり、かつ前記スラグが、当該飽和蒸気流における凝縮水を含んだものであるようにすることは、望ましい一態様である。
また、前記質量流量計が、オリフィス方式の可変流量計であって、オリフィス板と、当該オリフィス板に設けられている開口に対して所定の隙間を有し、かつ前記多相流の流体力に対応して当該流れの前後方向に位置移動可能に配置されたプラグと、当該プラグの位置移動に伴う機械的な力を受けて当該力に対応して歪みを生じる圧力プレートと、当該圧力プレートの歪み量に対応した出力信号を出力する歪みゲージとを備えたものであるようにすることは、望ましい一態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸気システムに損害を与える虞のあるスラグのような、多相流における異相スラグを確実に検出することが可能となり、その結果、蒸気システムのような多相流を用いたシステムにおける、異相スラグの存在に起因した損傷や各種の事故等の発生を、確実に抑制ないしは解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る、可変オリフィス式流量計を用いた、多相流における異相スラグの検出システムを示す図である。
【図2】管路内における異相スラグの挙動を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る、可変オリフィス式流量計を用いた、多相流における異相スラグの検出システムにおいて、多相流の圧力変動に対応して検出される出力信号の信号波形の典型的な一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る多相流における異相スラグの検出システムの一バリエーションとして、ターゲット流量計を用いた場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る、多相流における異相スラグの検出方法、および多相流における異相スラグの検出システムについて、図面を参照して説明する。
【0014】
本発明の実施の形態に係る、多相流における異相スラグの検出システムおよびそれによって実行される検出方法に用いられる可変流量計は、図1に示したように、管路2を含んでいる。その管路2は、流入部4と、流出部6とを有している。オリフィス板8は、管路2内に固定されていて、円形の開口10を有している。軸方向スライドが可能な、先頭部を裁断された円錐状のプラグ12が、その軸方向のスライドによって開口10の面積を可変に制限する部材として、円形の開口10の中心に対して同軸に設けられている。つまり、このプラグ12は、その中心部に軸14が相対的に滑動可能に貫通していて、その軸14に沿ってスライド可能に(流れの方向に沿ってオリフィス板8に対して相対的に、その前後方向に平行移動可能に)設定されている。その軸14は、管路2内に設けられている支持部材(図示省略)に機械的に接続されている。
【0015】
弦巻(コイル)状のバネ16が、管路2内における、プラグ12と圧力プレート18との間に、軸14と平行に延びるように配置されている。図1に示した流量計測システムは、軸14がその中央を貫通するように設けられたカプセル20を含んでいる。そのカプセル20は、外形が例えばシリンダのような環状もしくは輪状に形成されたものであり、密閉容器のような構造で、その内部には、所定の内部容積22が確保されている。そのカプセル20の1つの面は、圧力プレート18として機能するように設定されていて、バネ16と機械的に接することで、いわゆるダイヤフラムを構成している。複数の耐高温の歪みゲージ24が、ダイヤフラムである圧力プレート18における、バネ16に接する面とは反対側の面に取り付けられている。それらは、例えば補正済みの4つの歪みゲージ24とすることなどが可能である。カプセル20は、歪みゲージ24が高温環境下でも正則に機能することを担保できるような媒体によって満たされていることが望ましい。その媒体としては、例えば、不活性ガス、真空、空気、もしくは各種合成樹脂素材のようなプラスティックス素材などである。
【0016】
配線26は、歪みゲージ24から金属チューブ28を介して管路2の外側まで延びている。この配線26は、カプセル20内に充填されている媒体が外に漏れ出すことを防ぐために、金属チューブ28によって封止されている。この配線26は、歪みゲージ24を信号処理装置32に電気的に接続している。そしてその信号処理装置32は、記憶装置34に接続されていて、それら両者の間で情報の遣り取りを行うことができるようになっている。カプセル20の位置は、バネ16の動き(あるいはいわゆる付勢力)によってカプセル20に与えられる機械的な押圧力の反作用力を軸14で受け止めるための機械的な対遇的部材として設けられた止め具30の位置を、軸14におけるどこの位置にするかによって、適宜に選択することが可能である。
【0017】
先頭部を裁断したような錐状のプラグ12は、特に、管路2内における流れの流量に対してリニアな(いわゆる数学的に線形の)対応関係が得られるような構成とすることが望ましい。なぜなら、そのようにすることによって、可変流量計の計測装置として必要となる補正を、より簡易なものとすることができるからである。
【0018】
上記のような流量計が実際に用られる際には、多相流は、この管路2における流入部4から入り、この管路2内をオリフィス板8に到るまで、自由な流れとして流れて行く。而してオリフィス板8では、可変開口部である開口10は、その実質的な開口領域(開口面積)が、錐状のプラグ12によって規定されて、そのプラグ12の外周と開口10との間の領域に限定されている。従って、管路2内の多相流の流量に応じた流体力が、プラグ12における流れに対面する側から(つまり流入部4から流出部6へと向かう方向に)与えられることとなる。この流体力によって、プラグ12が軸14に沿ってスライドし、可変開口部である開口10の実質的な開口領域が拡大される。このプラグ12の動きに対して、バネ16が抗力として働き、その反作用として、バネ16は、ダイヤフラムである圧力プレート18に対して押圧力を与えて、その圧力プレート18に歪みを生じさせることとなる。そしてこのような動作が行われている時間中ずっと、カプセル20は予め設置された位置に静止したままの状態に保たれている。そして、圧力プレート18に生じた(負荷された)歪みは、そのカプセル20内に設けられている歪みゲージ24によって検出され、その歪みに対応した出力信号が出力される。その歪みに対応した出力信号(以下、単に出力信号とも表記する)は、金属チューブ28を通る配線26を介して、信号処理装置32へと送られる。その信号処理装置32は、記憶装置34との間で情報を送受可能となっているので、その信号処理装置32から、保存しておくべき出力信号を、記憶装置34へと送り込む。その出力信号は、管路2における流量に対して、最も望ましくは比例関係、もしくはそれ以外ではリニアな相関関係、あるいはそれらに類似した関数的な関係を備えたものとすることが可能である。相状態の安定的な流れの場合、プラグ12は、平衡な位置、つまり所定の安定した流体力が圧力プレート18に掛かっている(与えられている)状態のときの位置に到達している。蒸気システムにおける、飽和蒸気に異相スラグが発生していない、正則な流れが続いている状態のときには、出力信号は、ほぼ安定的に一定な状態に保たれるか、もしくは正常な範囲内での動作環境等に対応して極めて緩やかに変化するに過ぎない。しかし、流量における小さな変動が、出力信号のノイズの発生要因となる。そのノイズは、いわゆるノイズフィルタリングによって除去することが可能であり、そのようにしてノイズを除去された出力信号に基づいて、いわゆる平均流量を求めることが可能である。
【0019】
多相流である飽和蒸気流中に含まれる凝縮液滴のようなスラグの存在を検出する、本発明の実施の形態に係る方法は、信号処理装置32を用いて、出力信号を、スラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な信号波形として記憶装置34に予め保存しておいた信号波形と比較するプロセスを含んでいる。その信号波形は、さらに詳細には、所定の値よりも高い、時間的増加率または例えばそれ以前の平均流量に対する相対的な増加率(以下、これらを纏めて単に増加率とも表記する)を備えた立ち上がり部と、所定の値よりも高い、時間的低減率または例えばそれ以前の平均流量に対する相対的な低減率(以下、これらを纏めて単に低減率とも表記する)を備えた立ち下がり部とを含んだ信号波形である。その信号波形における立ち下がり部は、その立ち下がり部を含んだパルス状の信号波形よりも前に検出されていた平均流量よりもさらに低い値まで、立ち下がるという特質を有している。
【0020】
そのようなスラグの存在を検出するための、出力信号を予め定めておいた所定の正則な信号波形と比較する方法を、図2および図3を参照しつつ説明する。図2は、管路2内におけるオリフィス板8を通過する際のスラグの挙動の典型的な一例を、その位置の、時刻t1からt6までの、各時間間隔ごとでの時間的な推移として、模式的に示したものである。また、図3は、図2に示したような態様でスラグがオリフィス板8を通過する際に可変流量計から出力される、フィルタリングされていないノイズを含んだ信号波形(多数の点を結ぶ細線で描いてある)、およびフィルタリングされた滑らかな信号波形(尖点を含まない緩やかに連続した太線で描いてある)の、典型的な一例を示したものである。なお、図3においてt1、t2…t6に各々対応して描かれている縦線は、図2における各時刻t1、t2…t6にそれぞれ対応している。
【0021】
時刻t1から時刻t2までの時間中には、出力信号は、ノイズを除外すればほぼ一定であり、これは有害なスラグの存在のない正則な状態で飽和蒸気流が流れている場合の、その流れの平均流量を示している。信号処理装置32は、時刻t1における平均流量の値を、後のプロセスで検出される出力信号と比較するために、記憶装置34に送り、そこに保存させる。
【0022】
時刻t2から時刻t3までの時間中には、出力信号は、スラグの先端がプラグ12に到達したことに対応して、急激に増加する(つまり立ち上がる)。信号処理装置32は、その出力信号の増加率を、記憶装置34に保存されている予め定められた所定のレベルの値と比較する。そして、スラグがプラグ12を通過した際に検出されることが想定される所定のレベルの値よりも、そのとき現実に検出された出力信号の増加率の方が有意に高い場合には、そのとき凝縮液滴のような異相スラグが存在していることを示す警報または情報を、信号処理装置32が発する。その警報または情報の具体的な態様としては、例えば、流量計に添えて設けられた、警告灯または警音器のような警報装置、もしくは警報端子または警報信号出力端子のような警報情報出力器およびそれに接続されて警報を発するようにソフトウェア的に設定された情報処理装置や各種制御装置などを用いることが可能である。
【0023】
時刻t3から時刻t4までの時間中には、出力信号は、ほぼ一定に保たれているが、これはスラグの本体ほぼ全体が、オリフィス板8とプラグ12との間の実質的な開口領域を通過途中の状態にあることによるものである。この時間中には、より重い相であるスラグが、そのスラグの存在していない正則な状態の飽和蒸気の流れによって与えられる力よりも強い力を、プラグ12に与えている。これは、そのスラグを構成している水を主成分とする液体である凝縮液の比重の方が、気体である蒸気のそれよりも遥かに大きいことによる。その結果、そのスラグの通過時に検出(測定)される質量流量は、そのスラグの上流側および下流側のいずれの場合よりも顕著に大きなものとなる。時刻t3から時刻t4までの継続時間は、そのときのオリフィス板8とプラグ12との間の実質的な開口領域を通過するスラグの大きさおよび管路2に対する速度に対応して定まる。従って、この時刻t3から時刻t4までの時間中における、出力信号の振幅の立ち上がりから立下りまでの間の時間差は、スラグの大きさを特定するために利用することができる。
【0024】
時刻t4から時刻t5までの時間中には、オリフィス板8に対するスラグの通過が完了に近付いて行くので、それにつれて出力信号は急激に低減して行く。その急激な低減は、オリフィス板8に対するスラグの過過の完了と共に終焉する。そしてその後は、スラグの存在していない正則な飽和蒸気流の状態に戻る。信号処理装置32は、その時刻t4から時刻t5までの間の出力信号の低減率を、記憶装置34に保存されている予め定められた所定のレベルの値と比較する。その所定のレベルの低減率の値は、スラグがプラグ12を通過する際に検出されることが想定される低減率として、実験的または理論的に定めることができる。そして、その所定のレベルの値よりも、そのとき現実に検出された出力信号の低減率の方が有意に高い場合には、そのとき凝縮液滴のようなスラグが存在していることを記憶装置34に保存されている情報に基づいてさらに確証できるということを示す警報または情報を、信号処理装置32が発する。
【0025】
スラグの通過によって発生した急激な低減が終焉した直後の時刻であるt5からほぼ時刻t6までの間の出力信号は、そのスラグが到達する以前の平均流量よりも低い流量に対応したものとなる。このような流量の急激な立ち下がりの終焉の後に引き続いて生じる流量の低減は、スラグの追加後にその反動でプラグ12が平均流量に対応した位置よりも低い流量に対応した位置までリバウンドすることによるものである。
【0026】
信号処理装置32は、最低流量となる時刻t5における流量を、記憶装置34に保存されているスラグ到達以前の平均流量と比較する。そして、もしもその平均流量よりも出力信号の示す流量の方が、予め定めておいた所定の許容範囲を超えて低い値であった場合には、信号処理装置32は、そのとき凝縮液滴のようなスラグが存在していることがさらに確証できるものであることを示す警報または情報を発する。その所定の許容範囲は、その管路2内の構造等毎に対応してスラグの通過に起因して生じることが実験的または理論的に想定される範囲の値として、適宜に設定することが可能である。
【0027】
その急激な低減が終焉した後、出力信号は、時刻t5から時刻t6にかけて、緩やかな単調増加を継続し、やがて時刻t6では、典型的にはスラグの通過以前の平均流量に代表されるようなレベルにまで戻る。
【0028】
このように、本発明の実施の形態に係る異相スラグの検出システムおよび検出方法では、出力信号の信号波形における、特にスラグの通過の反動によって平均流量よりも低い流量にまで下がる急激な低減およびそれに先立つ急激な増加の全体像を、上記のように所定の正則な信号波形と比較することによって、スラグの存在を確実に検出することができる。あるいは、出力信号全体における個々の特徴的な信号波形を、それぞれに対応したスラグのない多相流に対応した正則な波形であることが想定される波形に対して比較することによっても、スラグの存在を確実に検出することができる。
【0029】
なお、上記の実施の形態では、多相流が飽和蒸気流である場合について説明したが、本発明は、それのみには限定されない。その他にも、飽和蒸気流以外の多相流における異相スラグの検出についても適用可能であることは勿論である。例えば、液体の流れにおける異相スラグとして空気またはその他のガスが存在しているか否かを検出することなどにも、本発明は適用可能である。
【0030】
また、蒸気システムにおけるスラグの存在は、種々の問題発生の原因となるものである。従って、そのようなスラグの存在を確実に検出して、その旨の警報(警告)を発することによって、そのシステムが改良や技術的検査等を施されるべきものであるということを、例えばそのシステムの管理者やオペレータに報知し、それを以てスラグの存在に起因した種々の問題の発生を未然に防ぐことができるという可能性も、本発明によれば期待できる。また、凝縮液滴のようなスラグの存在を、その発生の初期段階で確実に検出することができるということは、その初期段階からスラグに対する対策を施すことができるということであるから、そのようなスラグの存在に起因して蒸気システムにおける各種構成要素やプロセスに重大な損害が生じることを、未然に防ぐことができるという可能性なども、本発明によれば期待できる。
【0031】
図4は、上記の実施の形態についての一バリエーション的な態様として、オリフィス方式の可変流量計の代りに、ターゲット流量計を用いた場合の構成の一例を示したものである。図4に示した構成においては、管路2は流入部204と流出部206とを含んでいる。ターゲット208は、管路202内で、支持棒210によって機械的に支持されている。支持棒210は、管路202の壁に設けられた開口212を通って、その外部へと延びている。その管路202の壁から外部へと突出している支持棒210の終端は、ハウジング214によって機械的に支持されている。そして、例えばベローズ状、ダイヤフラム状、もしくは薄い壁からなる筒状、あるいは封止用の弾性材料からなるシール部材216が、支持棒210の周囲を取り巻くと共に開口212の周囲の管路202の外壁面上に密着するように設けられている。このシール部材216によって、管路202内の流れが開口212を通ってハウジング214へと侵出して来るのを阻止している。歪みゲージ218が、ハウジング214内の支持棒210の所定位置に取り付けられている。歪みゲージ218には、配線220の一端が接続されており、かつその他端は信号処理装置232に接続されている。そしてその信号処理装置232は、記憶装置234に接続されている。
【0032】
上記のような流量計が実際に用られる際には、多相流は、流入部204から管路202内に流入し、この管路202内をターゲット208に到るまで、自由な流れとして流れて行く。そしてその流れは、ターゲット208に到達すると、その表面においては衝突した後にその上下左右に回り込んで後方へと流れて行く。その際に、流れは、ターゲット208に対して流体力を与える。その流体力は、ターゲット208を機械的に支持している支持棒210を歪ませる。その支持棒210の歪み量は、ターゲット208に与えられた流体力に比例もしくはそれに類似した関数関係にある。よって、さらに、管路202内における多相流の流量に対して比例もしくはそれに類似した関数関係にある。そのような支持棒210の歪み量は、歪みゲージ218によって検出される。そしてその歪み量に対応した出力信号が、歪みゲージ218から配線220を介して信号処理装置232へと送出される。信号処理装置232は、記憶装置234との間で情報を送受可能となっているので、歪み量に対応した出力信号を、記憶装置34へと送り込む。その出力信号は、管路202における流量に対して一義的に定まる比例的関係または関数的関係を備えたものとすることが可能である。このようなターゲット流量計を用いた、本発明の実施の形態に係る一バリエーション的な態様においても、上記のオリフィス方式の可変流量計を用いた場合と同様に、予め定めておいた(または実測後に保存しておいた)所定の正則な出力信号の波形に対して歪み量に対応した出力信号を比較することによって、多相流における異相スラグの存在を確実に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
2 管路
4 流入部
6 流出部
8 オリフィス板
10 開口
12 プラグ
14 軸
16 バネ
18 圧力プレート
20 カプセル
22 内部容積
24 歪みゲージ
26 配線
28 金属チューブ
30 止め具
32 信号処理装置
34 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内を流れる多相流に含まれている複数の相のうちの1つの相からなるスラグの存在を検出する、多相流における異相スラグの検出方法であって、
質量流量計を用いて、前記多相流の質量流量に対応した出力信号を出力するプロセスと、
前記出力信号の信号波形の変化率を求めるプロセスと、
前記出力信号の信号波形を、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な出力信号の信号波形として予め定めておいた正則な信号波形と比較して、前記出力信号の信号波形が、前記正則な信号波形における変化率に対して所定の許容範囲を逸脱した大きな変化率を有している場合には、そのとき前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発することを決定するプロセスと
を含むことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発するものと決定される場合の前記出力信号の信号波形が、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される最大の変化率を超えた大きな変化率を有するパルス状の立ち上がりを有するものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発するものと決定される場合の前記出力信号の信号波形が、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される最大の変化率を超えた大きな変化率を有するパルス状の立ち下がりを有するものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項4】
請求項3記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記出力信号の信号波形における前記パルス状の立ち下がりが終焉する終端点の値が、当該立ち下がりを含む前記パルス状の波形よりも以前の前記多相流の平均流量の値未満である
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記質量流量計が、可変流量計である
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記質量流量計が、ターゲット流量計である
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記出力信号が、前記多相流によって前記質量流量計に与えられる流体力に対応して前記質量流量計に生じる機械的歪み変位および/または機械的反作用力(反動力)に対応した信号的情報を担持して出力されるものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記質量流量計が、オリフィス板を用いたオリフィス方式の流量計であり、前記出力信号が、当該オリフィス板の前後での前記多相流の圧力変化に対応した信号的情報を担持して出力されるものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記多相流が、飽和蒸気流であり、かつ前記スラグが、当該飽和蒸気流における凝縮水を含んだものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法において、
前記質量流量計が、可変オリフィス方式の可変流量計であって、オリフィス板と、当該オリフィス板に設けられている開口に対して所定の隙間を有し、かつ前記多相流の流体力に対応して当該流れの前後方向に位置移動可能に配置されたプラグと、当該プラグの位置移動に伴う機械的な力を受けて当該力に対応した機械的な歪みを生じる圧力プレートと、当該圧力プレートの歪み量に対応した出力信号を出力する歪みゲージとを備えたものである
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出方法。
【請求項11】
管路内を流れる多相流に含まれている複数の相のうちの1つの相からなるスラグの存在を検出する、多相流における異相スラグの検出システムであって、
請求項1ないし10のうちいずれか1つの項に記載の多相流における異相スラグの検出方法を実行する、多相流における異相スラグの検出システム。
【請求項12】
請求項11記載の多相流における異相スラグの検出システムにおいて、
前記多相流の質量流量に対応した出力信号を出力するプロセスを実行する質量流量計と、
前記質量流量計から出力された前記多相流の質量流量に対応した出力信号の信号波形の変化率を求めるプロセスと、前記出力信号の信号波形を、前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な出力信号の信号波形として予め定めておいた正則な信号波形と比較して、前記出力信号の信号波形が、前記正則な信号波形における変化率に対して所定の許容範囲を逸脱した変化率を有している場合には、そのとき前記多相流中に前記スラグが存在している旨の警報または情報を発することを決定するプロセスとを実行する信号処理装置と、
前記多相流に前記スラグが存在していない場合に検出されることが想定される正則な出力信号の信号波形として予め定めておいた正則な信号波形の情報を保存する記憶装置とを含む
ことを特徴とする多相流における異相スラグの検出システム

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99853(P2011−99853A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246487(P2010−246487)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(510232430)スピラックス‐サルコ リミテッド (4)
【Fターム(参考)】