説明

多糖質微粒子及び多糖質微粒子の製造方法

【課題】培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で調製することができる多糖質微粒子であって、応用範囲が広く、生体適合性にも優れた新たな多糖質微粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 多糖質高分子化合物が、フェノール性水酸基を介して架橋されてなる多糖質微粒子であって、平均粒子径が0.01〜5,000μmである多糖質微粒子を得る。その調製のために、官能基としてフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、前記フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。また、官能基としてアミノ基を有するアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、ポリフェノール類化合物と、前記ポリフェノール類化合物のフェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、医薬、医療、農薬の分野で有用な多糖質微粒子及び多糖質微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多糖質微粒子の化粧品、医薬、医療、農薬の分野での利用が検討されている。
【0003】
多糖質微粒子に関する技術については、例えば、下記特許文献1に、芯物質と、腸溶性のアニオン性セルロース誘導体と、カチオン性高分子架橋剤とを含んでなるマイクロカプセルであって、カチオン性高分子架橋剤がキトサンであるマイクロカプセルの発明が開示されている。そして、得られたマイクロカプセルは、薬品、食品として使用した際の毒性が無く、人工胃液(日本薬局方第1液)には溶解せず、人工腸液(日本薬局方第2液)に崩壊してpH依存溶解性が見られ、マイクロカプセルの基剤によっては芯物質の放出時間も調整できることからコントロールリリース基剤としても有用であることが記載されている。
【0004】
また、近年、医療分野では、ガンや糖尿病などの各種疾患に有効な成分を産生する細胞を包括する細胞包括カプセルを治療に利用することが試みられている。
【0005】
そのような細胞包括カプセルに関する技術については、例えば、下記特許文献2には、約900ダルトンから約3,000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)コーティングを有する複数のカプセル状構造物と、上記カプセル状構造物でカプセル化された複数の細胞とを含み、少なくとも約100,000cells/mlの細胞密度を有する細胞治療用組成物の発明が開示されている。そして、得られた細胞治療用組成物を患者に移植しても、患者(生体)の炎症・免疫防御機構による破壊からカプセルで包んだ細胞が保護され、長期間の抗炎症治療または免疫抑制治療を施す必要がないので、ヒトおよび動物の種々の異なる病気や不具合、例えば糖尿病の治療のために有用であることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−70881号公報
【特許文献2】特表2006−503080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のカプセル化の技術は、ポリカチオンコロイド溶液とポリアニオンコロイド溶液との電気的相互作用を利用するカプセル化法、いわゆるコンプレックスコアセルベーション法によるものであるので、カプセル化材料がその方法に適するものに限られ他の材料への応用が制限されるという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の細胞包括カプセル化の技術は、アクリル酸化したPEGを、重合開始剤の存在下にアルゴンレーザーを照射して光重合するものであるので、誤照射などによってカプセル化しようとする細胞の損傷してしまう可能性があり、又は予期せぬストレス応答を誘引してしまう可能性もあった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で調製することができる多糖質微粒子であって、応用範囲が広く、生体適合性にも優れた新たな多糖質微粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、多糖質高分子化合物を、フェノール性水酸基の存在下に、そのフェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と作用させることで、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な環境下に微粒子を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の多糖質微粒子は、多糖質高分子化合物が、フェノール性水酸基を介して架橋されてなることを特徴とする多糖質微粒子であって、平均粒子径が0.01〜5,000μmであることを特徴とする。
【0011】
本発明の多糖質微粒子によれば、その構成の起源としてフェノール性水酸基が用いられるので、該フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて高分子ネットワーク構造が形成され、その内部に物質を包接できる。また、平均粒子径が0.01〜5,000μmである多糖質微粒子であるので、応用範囲が広く、生体適合性にも優れている。
【0012】
本発明の多糖質微粒子においては、前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境に曝されることにより、前記多糖質高分子化合物が架橋されてなるものであることが好ましい。これよれば、前記多糖質高分子化合物が該化学的環境に曝されることにより、前記フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて高分子ネットワーク構造が形成される。例えば、ヒドロキシフェニル基同士の自己架橋形成やヒドロキシフェニル基とアミノ基の架橋形成による高分子ネットワーク構造が形成される。
【0013】
本発明の多糖質微粒子においては、前記多糖質高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサンであることが好ましい。これによれば、更に応用範囲が広く、生体適合性に優れた多糖質微粒子とすることができる。
【0014】
また、前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境が、前記多糖質高分子化合物に、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼから選ばれた少なくとも1種を作用させる反応系であることが好ましい。これによれば、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で、前記フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて高分子ネットワーク構造が形成される。
【0015】
本発明の多糖質微粒子の好ましい態様においては、前記多糖質微粒子は、培養細胞が生きた状態で封入されている。これによれば、ガンや糖尿病などの各種疾患に有効な成分を産生する細胞を包括する細胞包括カプセルとして用いることができる。また、医薬、医療分野の基礎的細胞研究のためにも有用である。
【0016】
一方、本発明の多糖質微粒子の製造方法は、官能基としてフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、前記フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする。また、本発明の多糖質微粒子の製造方法は、官能基としてアミノ基を有するアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、ポリフェノール類化合物と、前記ポリフェノール類化合物のフェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする。
【0017】
本発明の多糖質微粒子の製造方法によれば、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で、前記フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて高分子ネットワーク構造が形成され、前記平均粒子径が0.01〜5,000μmの多糖質微粒子を調製することができる。
【0018】
本発明の多糖質微粒子の製造方法においては、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物の該フェノール性水酸基及び/又は前記ポリフェノール類化合物の該フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素が、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。これによれば、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で、前記フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて高分子ネットワーク構造が形成される。
【0019】
本発明の多糖質微粒子の製造方法において、その好ましい態様においては、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってペルオキシダーゼ又はカタラーゼを添加したものと、過酸化水素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。また、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってチロシナーゼを添加したものと、酸素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項6又は7に記載の多糖質微粒子の製造方法。更にまた、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってラッカーゼを添加したものと、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。
【0020】
本発明の多糖質微粒子の製造方法において、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物は、フェノール基含有カルボキシメチルセルロース、フェノール基含有アルギン酸、フェノール基含有ヒアルロン酸、フェノール基含ポリグルタミン酸、又はフェノール基含有キトサンであることが好ましい。また、前記アミノ基含有多糖質高分子化合物は、脱アセチル化キチン又はキトサンであることが好ましい。
【0021】
本発明の多糖質微粒子の製造方法において、その別の好ましい態様においては、前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってペルオキシダーゼ又はカタラーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、過酸化水素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。また、前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってチロシナーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、酸素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。更にまた、前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってラッカーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる。
【0022】
本発明の多糖質微粒子の製造方法において、前記アミノ基含有多糖質高分子化合物は、脱アセチル化キチン又はキトサンであることが好ましい。
【0023】
本発明の多糖質微粒子の製造方法においては、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液、又は前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液として、該フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物と該アミノ基含有多糖質高分子化合物とを溶解及び/又は分散した水性溶液を用いることができる。これによれば、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物、及び前記アミノ基含有多糖質高分子化合物とを多糖質微粒子の構成材料として併用することができる。
【0024】
また、本発明の多糖質微粒子の製造方法において、更に別の好ましい態様においては、前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物及び/又はアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液に生きた培養細胞を分散させ、培養細胞が生きた状態で封入された微粒子を得ることができる。これによれば、医薬、医療の分野に応用される上記細胞包括カプセルを、簡便に、且つ効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、培養細胞の生存に影響を与えないほど温和な条件で調製することができ、応用範囲が広く、生体適合性にも優れた新たな多糖質微粒子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において「多糖質高分子化合物」とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース等のペントース、ヘキソース糖類等を構成糖とする多糖類を意味し、天然物から得られたものであってもよく、その化学的修飾物であってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。例えば、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、キチン、脱アセチル化キチン、キトサン、アガロース、アガロペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、プルラン、イヌリン、マンナン、キシラン、アラビナン、ペントザン、ペクチン酸、プロツベリン酸、キチン、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガム、ジェランゴムなどを好ましく例示することができ、好ましくはセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、キチン、脱アセチル化キチン、キトサンであり、より好ましくは、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、脱アセチル化キチン、キトサンである。
【0027】
本発明において、「フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物」とは、官能基としてフェノール性水酸基を有する上記多糖質高分子化合物であり、以下のようなものを好ましく例示することができる。
【0028】
すなわち、本発明において、「フェノール基含有カルボキシメチルセルロース」とは、カルボキシメチルセルロースのカルボキシル基に官能基としてフェノール性水酸基を有する化合物を導入してなる化合物である。
【0029】
例えば、カルボキシメチルセルロースのカルボキシル基とチラミンのアミノ基とを3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(EDC:1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride )を用いて縮合させることで得られる。具体的にその合成反応の一例を模式的に表すと、例えば下記の模式図のように表すことができる。
【0030】
【化1】

【0031】
すなわち、カルボキシメチルセルロースとチラミンの混合溶液に、上記EDC、N-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を加え、室温で24時間反応させた後、48時間精製水中で透析して未反応物を除く。その後、凍結乾燥を行い、フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを得ることができる。
【0032】
本発明において、「フェノール基含有アルギン酸」とは、アルギン酸のカルボキシル基に官能基としてフェノール性水酸基を有する化合物を導入してなる化合物である。その合成については、上記フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを得る場合と同様に考えることができる。
【0033】
すなわち、アルギン酸のカルボキシル基とチラミンのアミノ基とを3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(EDC:1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride )を用いて縮合させることで得られる。例えば、アルギン酸とチラミンの混合溶液に上記EDC、N-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を加え、室温で24時間反応させた後、48時間精製水中で透析して未反応物を除く。その後、凍結乾燥を行い、フェノール基含有アルギン酸を得ることができる。
【0034】
本発明において、「フェノール基含有ヒアルロン酸ナトリウム」とは、ヒアルロン酸のカルボキシル基に官能基としてフェノール性水酸基を有する化合物を導入してなる化合物である。その合成については、上記フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを得る場合と同様に考えることができる。
【0035】
すなわち、ヒアルロン酸のカルボキシル基とチラミンのアミノ基とを3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(EDC:1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride )を用いて縮合させることで得られる。例えば、ヒアルロン酸とチラミンの混合溶液に上記EDC、N-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を加え、室温で24時間反応させた後、48時間精製水中で透析して未反応物を除く。その後、凍結乾燥を行い、フェノール基含有アルギン酸を得ることができる。
【0036】
本発明において、「フェノール基含有ポリグルタミン酸」とは、ポリグルタミン酸のカルボキシル基に官能基としてフェノール性水酸基を有する化合物を導入してなる化合物である。その合成については、上記フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを得る場合と同様に考えることができる。
【0037】
すなわち、ポリグルタミン酸のカルボキシル基とチラミンのアミノ基とを3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(EDC:1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride )を用いて縮合させることで得られる。例えば、ポリグルタミン酸とチラミンの混合溶液に上記EDC、N-ヒドロキシこはく酸イミド(NHS)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を加え、室温で24時間反応させた後、48時間精製水中で透析して未反応物を除く。その後、凍結乾燥を行い、フェノール基含有アルギン酸を得ることができる。
【0038】
本発明において、「フェノール基含有キトサン」とは、脱アセチル化キチン類又はキトサン類のグルコサミン単位の2位のアミノ基の少なくとも一部に、官能基としてフェノール性水酸基を導入してなるものである。
【0039】
上記脱アセチル化キチン類又はキトサン類は、キチン(N−アセチル−D−グルコサミンがβ−1,4結合した多糖)類のグルコサミン単位の2位のアセトアミド基が脱アセチル化されている多糖類であり、主にエビやカニなどの甲殻類の甲羅に含まれるキチン質から公知の手段で得ることができる。
【0040】
上記脱アセチル化キチン類又はキトサン類の起源等については、特に制限はなく、常法によって調製されたもの、もしくは市販されているものを用いることができるが、脱アセチル化度が50%以下であると、キチンの特性を有し溶解性の面で取り扱いづらく汎用性に欠けるので好ましくない。
【0041】
上記脱アセチル化キチン類又はキトサン類へのフェノール性水酸基の導入手段には特に制限はないが、−NH基対−COOH基を架橋するための架橋剤、又は−NH基対−SH基を架橋するための架橋剤等を用いることによって効率よく導入することができる。すなわち、官能基としてフェノール性水酸基を有する化合物であって、更に−COOH基又は−SH基を有する化合物を、架橋剤とともに上記−NH基を有する脱アセチル化キチン類又はキトサン類に反応させる。その反応の一例を模式的に表すと、例えば下記の模式図のように表すことができる。
【0042】
【化2】

【0043】
具体的には、前記フェノール性水酸基を有する化合物としては、チロシン、4−ヒドロキシフェニル酢酸、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸、2‐アミノ‐3‐ヒドロキシフェニルプロピオン酸、及びホモゲンチジン酸等が挙げられる。また、前記架橋剤としては、−NH基対−COOH基を架橋するための架橋剤として、1,1−カルボニルジイミダゾール、ジシクロヘキシルカルボジイミドおよび3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩等、−NH基対−SH基を架橋するための架橋剤として、N-Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate (SPDP)、N-(8-Maleimidocapryloxy)sulfosuccinimide、N-(6-Maleimidocaproyloxy)sulfosuccinimide等が挙げられる。
【0044】
以下、フェノール基含有キトサンについての、上記架橋反応の好ましい態様を挙げる。
【0045】
まず所望の脱アセチル化度のキトサンを、ギ酸または酢酸のような希有機酸溶液に溶解する。これにこれに3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸を添加し、3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩を加えて、4〜30℃で、1〜48時間程度攪拌する。次いで、蒸留水を用いて透析し、未反応の架橋剤などを除去した後、凍結真空乾燥してフェノール基導入キトサンを得る。
【0046】
フェノール基含有キトサンの上記フェノール性水酸基の導入率が、上記グルコサミン単位数100に対して、該フェノール性水酸基数0.01〜20の割合であることが好ましい。その割合が、0.01以下であると架橋形成能が低く、20以上であると溶解性が低くなるので、いずれも好ましくない。
【0047】
なお、上記「フェノール性水酸基の導入率」とは、フェノール性水酸基に起因する吸収波長(例えば275nm)における吸光度を測定することで算出される、上記グルコサミン単位数100に対するフェノール性水酸基数の相対値を意味する。
【0048】
上記フェノール性水酸基の導入率は、上記架橋反応の反応時間、反応温度、各反応成分の濃度を変えることによって制御することができる。例えば、反応時間を短くし、又は反応温度を下げ、又は各反応成分の濃度を低くすることで導入率を低く抑えることができる。一方、反応時間を長くし、又は反応温度を上げ、又は各反応成分の濃度を高くすることで、高い効率で導入することができる。また、前述の架橋剤の至適pH条件下で反応を行わせることで、導入率を向上させることができる。
【0049】
本発明の多糖質微粒子は、上記多糖質高分子化合物が、フェノール性水酸基を介して架橋されてなるものであって、平均粒子径が0.01〜5,000μmであることを特徴とする。また、そのより好ましい平均粒子径は、10〜500μmである。
【0050】
本発明の多糖質微粒子は、上記多糖質高分子化合物を、フェノール性水酸基の存在下に、そのフェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境に曝すことにより得ることができる。その際、上記のフェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物のように、多糖質高分子化合物にフェノール性水酸基が導入されていていることにより該化学的環境にフェノール性水酸基が存在していてもよく、ポリフェノール類化合物のようなフェノール性水酸基を有する化合物を別に添加することにより該化学的環境にフェノール性水酸基が存在していてもよく、その両方であってもよい。
【0051】
上記ポリフェノール類化合物としては、カテキン類化合物、アントシアニン類化合物、ルチン、並びに、赤キャベツ色素(シアニジンアシルグリコシド類化合物)、ベニバナ黄色素(カーサマスイエロー:サフロミンA、サフロミンB)、カーサマスレッド(カーサミン)、シソ色素(Perilla colour:シソニン、マロニルシソニン)、アカダイコン色素(Red radish colour:ペラルゴニジンアシルグリコシド類化合物)、ムラサキイモ色素(Purple sweet potato colour:シアニジンアシルグルコシド類化合物、ペオニジンアシルグルコシド類化合物)、エルダーベリー色素(Elderberry colour:シアニジングリコシド類化合物)等の天然色素を好ましく例示することができる。
【0052】
また、ゼラチン等のポリペプチド類化合物は、その分子内にチロシン残基等のフェノール基を複数個含有してなるものが多く、本願発明においては、これらの化合物を上記ポリフェノール類化合物として用いることもできる。
【0053】
本発明において、「フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境」とは、フェノール性水酸基が有する架橋形成能が発揮されて化学的結合が形成されるのに必要かつ十分な化学的環境を意味する。その結合の態様としては、水酸基が活性化されてキノンが生成し、これが他のキノンやその他の官能基と結合したものが挙げられ、以下の構造式に表すようなものが例示できる。
【0054】
【化3】

【0055】
また、上記化学的環境において、遊離のアミノ基が存在する場合には、その結合の態様としては、例えば、以下の模式図に表すようなものが挙げられる。
【0056】
【化4】


【0057】
フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境としては、その一例として、上記官能基としてフェノール性水酸基を有する多糖質高分子化合物に、ペルオキシダーゼ又はカタラーゼ、及び過酸化水素を作用させる反応系が挙げられる。その場合、ペルオキシダーゼの起源については特に限定されないが、西洋ワサビ由来のもの等を好ましく用いることができる。また、カタラーゼは、ヒト由来のもの等を好ましく用いることができる。
【0058】
また、前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境の他の一例として、前記機能性キトサン誘導体にチロシナーゼ及び酸素を作用させる反応系が挙げられる。その場合、チロシナーゼは、マッシュルーム由来のもの等を好ましく用いることができる。
【0059】
また、前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境の更に他の一例として、前記機能性キトサン誘導体にラッカーゼを作用させる反応系が挙げられる。その場合、ラッカーゼは、ウルシ由来のもの等を好ましく用いることができる。
【0060】
一方、本発明の多糖質微粒子の製造方法は、官能基としてフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、前記フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする。また、本発明の多糖質微粒子の製造方法は、官能基としてアミノ基を有するアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、ポリフェノール類化合物と、前記ポリフェノール類化合物のフェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする。
【0061】
上記エマルションを形成する手段に特に制限はないが、攪拌によるほか、膜乳化装置、同心円管をもちいるエマルション作製装置等の装置を用いることができる。なお、エマルション形成の安定化のためには、溶液に大豆由来レシチン等の界面活性剤を添加して用いることが好ましい。
【0062】
本発明の好ましい態様においては、上記多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液に生きた培養細胞を分散させておくことで、培養細胞が生きた状態で封入された微粒子を得ることができる。
【0063】
上記培養細胞は、通常の実験、研究、工業的目的に使用される環境で培養できる細胞であればよく、特に制限されない。
【0064】
本発明の多糖質微粒子は、ドラッグデリバリー用の薬剤封入材料等として有用である。また、本発明の多糖質微粒子を用いて、培養細胞が封入された微粒子は、例えば、抗体などの有用タンパク質を生産する細胞を生きた状態で封入して、その有用タンパク質を生体外で生産させる技術などに有用である。更に、インスリン分泌細胞を封入した後、生体に移植して糖尿病の治療を行う技術や、抗ガンプロドラック代謝酵素発現細胞を封入した後、腫瘍近傍に移植してのガン治療を行う技術などにも有用である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0066】
<製造例1>
フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを以下のようにして調製した。
【0067】
平均分子量60,000のカルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学株式会社製)を、1.0%(w/v)の濃度で、50mMのMES緩衝液(pH6.0)に溶解し、その溶液に0.7(w/v)でチラミン塩酸塩(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を溶解させた。その後、0.4 %(w/v)の濃度で3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(ペプチド研究所)と0.05%(w/v)の濃度でヒドロキシこはく酸イミド(和光純薬工業株式会社製)また0.3%(w/v)で1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物を添加し、25℃で24時間反応させた。その後、蒸留水で透析することにより未反応の架橋剤等を除去し、フェノール基含有カルボキシメチルセルロースを得た。
【0068】
得られたフェノール基含有カルボキシメチルセルロースを、紫外・可視分光法で分析したところ、カルボキシメチルセルロースの構成単位糖100個当りに24個のフェノール基が導入されていた。なお、チラミン塩酸塩、3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩、ヒドロキシこはく酸イミドおよび1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物の添加量の操作や反応時間を操作することによって、フェノール基の導入量を制御可能であった。
【0069】
<製造例2>
フェノール基含有アルギン酸を以下のようにして調製した。
【0070】
平均分子量70,000のアルギン酸(Kimica I-1G、Kimica)を、1.0 %(w/v)の濃度で、0.1M MES緩衝液(pH6.0)に溶解し、その溶液に1.0 %(w/v)の濃度で3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(ペプチド研究所)と0.86%(w/v)の濃度でヒドロキシこはく酸イミド(和光純薬工業株式会社製)を添加した。そして、25℃で、1時間反応させた。その後、チラミン塩酸塩(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)を11.3%(w/v)となるように添加し、さらに25℃で20時間反応させた。その後、蒸留水で透析することにより未反応の架橋剤等を除去し、フェノール基含有アルギン酸を得た。
【0071】
得られたフェノール基含有アルギン酸を、紫外・可視分光法で分析したところ、アルギン酸の構成単位糖100個当りに2.5個のフェノール基が導入されていた。なお、 チラミン塩酸塩、3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩ペプチド研究所製)、ヒドロキシこはく酸イミド(和光純薬工業株式会社製)の添加量を操作することによって、フェノール基の導入量を制御可能であった。
【0072】
<製造例3>
フェノール基含有キトサンを以下のようにして調製した。
【0073】
脱アセチル化度80%以上、粘度10cps以上、80メッシュパスのキトサン(脱アセチル化キチン)(商品名「キトサンLL」、焼津水産化学工業株式会社製)を、3‐(p‐ヒドロキシフェニル)プロピオン酸を0.5%(w/v)の濃度で溶解する蒸留水に1.0%(w/v)の濃度で溶解し、水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを6.0に調整した後、3−(3−ジメチルアミノプロピル)−1−エチルカルボジイミド・塩酸塩(ペプチド研究所製)、ヒドロキシこはく酸イミド(和光純薬工業株式会社製)をそれぞれ、0.43%(w/v)および0.36%(w/v)の濃度で溶解し、25℃、pH6.0で24時間反応させて、キトサンのグルコサミン単位の2位のアミノ基にフェノール基を導入した。なお、水溶性カルボジイミド(EDC)および3−(p‐ヒドロキシフェニル)プロピオン酸の添加量を操作することによって、フェノール基の導入量を制御可能であった。
【0074】
<実施例1>
フェノール基含有カルボキシメチルセルロースが架橋されてなる多糖質微粒子を以下のようにして調製した。
【0075】
大豆由来レシチン(3wt%、和光純薬製)を添加した1Lの流動パラフィンに5mlの30%過酸化水素水を添加し、4時間攪拌した。遠心分離によって、油層と水層を分離し、その油層を、以下に過酸化水素飽和−流動パラフィンとして使用した。
【0076】
製造例1で得られたフェノール基含有カルボキシメチルセルロースを、最終濃度4.0質量%となるようにKrebs Ringer Hepes 緩衝液(pH7.4)に溶解した。その溶液に、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase、HRP)(和光純薬工業株式会社製)を最終濃度5(units/ml)となるように添加した。これを、以下にペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有カルボキシメチルセルロース溶液として使用した。
【0077】
同心円二重管の外筒から上記過酸化水素飽和−流動パラフィンを送液し、その同一方向に内筒から上記ペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有カルボキシメチルセルロース溶液を送液し、直径約150‐200マイクロメートルの液滴が分散したエマルション液を作製した。
【0078】
10分間放置後、得られたエマルション液35mlとKrebs Ringer Hepes緩衝液5mlと混合し、遠心分離器にかけた結果、水層に直径約150‐200マイクロメートルの微粒子が形成していることが確認された。
【0079】
<試験例1>
上記実施例1の微粒子の調製工程において、そのペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有カルボキシメチルセルロース溶液に、ネコ腎由来細胞(CRFK細胞)を、1.5×10cells/mlの細胞数濃度で懸濁して用いたところ、1つの微粒子当りに約1〜10細胞個の割合で微粒子中に細胞が封入された(図1の顕微鏡写真参照)。また、セルラーゼを用いてカプセルを分解した後、トリパンブルー法により生きている細胞の割合を測定したところ、得られた微粒子中の細胞は80%以上が生存していた。
【0080】
<比較例1>
フェノール基を有しないカルボキシメチルセルロースを用いた以外は、実施例1と同様にして、微粒子の調製を試みた。しかしながら微粒子は形成しなかった。
【0081】
<実施例2>
フェノール基含有アルギン酸が架橋されてなる多糖質微粒子を以下のようにして調製した。
【0082】
大豆由来レシチン(3wt%、和光純薬製)を添加した1Lの流動パラフィンに5mlの30%過酸化水素水を添加し、4時間攪拌した。遠心分離によって、油層と水層を分離し、その油層を、以下に過酸化水素飽和−流動パラフィンとして使用した。
【0083】
製造例2で得られたフェノール基含有アルギン酸を、最終濃度1.5質量%となるように二価の金属イオンを含まないKrebs Ringer Hepes 緩衝液(pH7.4)に溶解した。その溶液に、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(和光純薬工業株式会社製)を最終濃度1.6(units/ml)となるように添加した。これを、以下にペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有アルギン酸溶液として使用した。
【0084】
同心円二重管の外筒から上記過酸化水素飽和−流動パラフィンを送液し、その同一方向に内筒から上記ペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有アルギン酸溶液を送液し、直径約150‐200マイクロメートルの液滴が分散したエマルション液を作製した。
【0085】
10分間放置後、得られたエマルション液35mlとKrebs Ringer Hepes緩衝液5mlと混合し、遠心分離器にかけた結果、水層に直径約150‐200マイクロメートルの微粒子が形成していることが確認された。
【0086】
<試験例2>
上記実施例2の微粒子の調製工程において、そのペルオキシダーゼ添加―フェノール基含有アルギン酸溶液に、ネコ腎由来細胞(CRFK細胞)を、1.5×10cells/mlの細胞数濃度で懸濁して用いたところ、1つの微粒子当りに約1〜10細胞個の割合で微粒子中に細胞が封入された(図2の顕微鏡写真参照)。また、アルギン酸リアーゼを用いてカプセルを分解した後、トリパンブルー法により生きている細胞の割合を測定したところ、得られた微粒子中の細胞の90%以上が生存していた。
【0087】
更に、その微粒子を10vol%の牛胎児血清を含むDulbecco‘s Modified Eagles培養液中で液体培養したところ、1ヶ月以上にわたり微粒子は破壊されることなく、微粒子内に封入された細胞は生存していた。
【0088】
<比較例2>
フェノール基を有しないアルギン酸を用いた以外は、実施例2と同様にして、微粒子の調製を試みた。しかしながら微粒子は生成しなかった。
【0089】
<実施例3>
キトサンと赤キャベツ色素とが架橋されてなる多糖質微粒子を以下のようにして調製した。
【0090】
大豆由来レシチン(3wt%、和光純薬製)を添加した1Lの流動パラフィンに5mlの30%過酸化水素水を添加し、4時間攪拌した。遠心分離によって、油層と水層を分離し、その油層を、以下に過酸化水素飽和−流動パラフィンとして使用した。
【0091】
1vol%−酢酸水溶液に、脱アセチル化度90%以上、粘度10cps以上、100メッシュパスのキトサン(脱アセチル化キチン)(商品名「キトサンPL−90」、焼津水産化学工業株式会社製)を、最終濃度4.0質量%となるように溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpH5.8に調整した。その溶液に西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(和光純薬工業株式会社製)を、最終濃度5(units/ml)となるように添加した。これを、以下にペルオキシダーゼ添加−キトサン溶液として使用した。
【0092】
上記ペルオキシダーゼ添加−キトサン溶液に、10質量%となるように精製水に溶解した赤キャベツ色素溶液を、体積比1(色素):9(キトサン)で混合した。その混合液1mlを上記過酸化水素飽和−流動パラフィン20mlに添加し、マグネティックスターラーで攪拌してエマルション液を得た。そのエマルション液20mlに、10mlのヘキサンを混合し、遠心分離器にかけ微粒子を沈殿させた結果、直径約10‐300マイクロメートルの微粒子が形成していることが確認された(図3の顕微鏡写真参照)
<実施例4>
キトサンとゼラチンとが架橋されてなる多糖質微粒子を以下のようにして調製した。
【0093】
大豆由来レシチン(3wt%、和光純薬工業株式会社製)を添加した1Lの流動パラフィンに5mlの30%過酸化水素水を添加し、4時間攪拌した。遠心分離によって、油層と水層を分離し、その油層を、以下に過酸化水素飽和−流動パラフィンとして使用した。
【0094】
1vol%−酢酸水溶液に、脱アセチル化度90%以上、粘度10cps以上、100メッシュパスのキトサン(脱アセチル化キチン)(商品名「キトサンPL−90」、焼津水産化学工業株式会社製)を、最終濃度2.0質量%となるように溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpH5.8に調整した。その溶液に、10質量%となるように精製水に溶解したゼラチン溶液を、体積比1(キトサン):1(ゼラチン)で混合し、更に、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(和光純薬工業株式会社製)を、最終濃度5(units/ml)となるように添加した。これを、以下にペルオキシダーゼ添加−ゼラチン添加―フェノール基含有キトサン溶液として使用した。
【0095】
上記過酸化水素飽和−流動パラフィン20mlに、上記ペルオキシダーゼ添加−ゼラチン添加―フェノール基含有キトサン溶液を約1ml添加し、マグネティックスターラーで攪拌してエマルション液を得た。そのエマルション液20mlに、10mlのヘキサンを混合し、遠心分離器にかけて微粒子を沈殿させた結果、直径約10‐300マイクロメートルの微粒子が形成していることが確認された(図4の顕微鏡写真参照)。
【0096】
この微粒子は、ゼラチンを用いることによって、ゼラチンの構造中に含まれるヒドロキシフェニル基がキトサンの遊離アミノ基との間に架橋を形成し、この両者が化学的に結合した高分子ネットワーク構造が形成されたものであることが考えられた。
【0097】
<実施例5>
キトサンと赤キャベツ色素とが架橋されてなる多糖質微粒子を以下のようにして調製した。
【0098】
1vol%−酢酸水溶液に、脱アセチル化度90%以上、粘度10cps以上、100メッシュパスのキトサン(脱アセチル化キチン)(商品名「キトサンPL−90」、焼津水産化学工業株式会社製)を、最終濃度3.0質量%となるように溶解し、1N水酸化ナトリウムを用いてpH5.8に調整した。その溶液に赤キャベツ色素を際終濃度が1 質量%となるように溶解させ、更に西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(商品名、及び購入元をおねがいします。)を、最終濃度15(units/ml)となるように添加した。
【0099】
上記のようにして得られた溶液を、膜乳化装置(細孔径19.9 mm、押し出し速度0.3 ml/min)(製品名等があればおねがいします)を用いて、大豆由来レシチンを3.0%溶解させた流動パラフィン中に分散させた。そして、得られたW/Oエマルション液に、過酸化水素を溶解させた、大豆由来レシチン(3wt%、和光純薬製)を含む流動パラフィン(過酸化水素:流動パラフィン=1:10、室温で1晩攪拌)を1:1の割合で混合し20分間静置した。これを減圧下(常圧より0.1Mpa以下)に、48時間攪拌して乾燥させた。これに、ヘキサンを加え洗浄、微粒子を回収後、液体窒素で凍結させ凍結真空乾燥した。
【0100】
図5には、得られた微粒子の走査顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)を用いて撮影した写真を示す。
【0101】
この微粒子は、赤キャベツ色素を用いることによって、赤キャベツ色素のシアニジンアシルグリコシド類化合物の構造中に含まれるヒドロキシフェニル基がキトサンの遊離アミノ基との間に架橋を形成し、この両者が化学的に結合した高分子ネットワーク構造が形成されたものであることが考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】ネコ腎由来細胞を封入したカルボキシメチルセルロース含有−多糖質微粒子の顕微鏡写真である。
【図2】ネコ腎由来細胞を封入したアルギン酸含有−多糖質微粒子の顕微鏡写真である。
【図3】キトサン含有−多糖質微粒子の顕微鏡写真である。
【図4】キトサンとゼラチンとが架橋されてなる多糖質微粒子の顕微鏡写真である。
【図5】キトサンと赤キャベツ色素とが架橋されてなる多糖質微粒子の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖質高分子化合物が、フェノール性水酸基を介して架橋されてなることを特徴とする多糖質微粒子であって、平均粒子径が0.01〜5,000μmであることを特徴とする多糖質微粒子。
【請求項2】
前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境に曝されることにより、前記多糖質高分子化合物が架橋されてなるものである請求項1に記載の多糖質微粒子。
【請求項3】
前記多糖質高分子化合物が、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、脱アセチル化キチン又はキトサンである請求項1又は2に記載の多糖質微粒子。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基が酸化されるのに有効な化学的環境が、前記多糖質高分子化合物に、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼから選ばれた少なくとも1種を作用させる反応系である請求項3に記載の多糖質微粒子。
【請求項5】
更に、培養細胞が生きた状態で封入された請求項1〜4のいずれか1つに記載の多糖質微粒子。
【請求項6】
官能基としてフェノール性水酸基を有するフェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、前記フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする多糖質微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物の該フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素が、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼから選ばれた少なくとも1種である請求項6に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってペルオキシダーゼ又はカタラーゼを添加したものと、過酸化水素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項6又は7に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってチロシナーゼを添加したものと、酸素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項6又は7に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってラッカーゼを添加したものと、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項6又は7に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物が、フェノール基含有カルボキシメチルセルロース、フェノール基含有アルギン酸、フェノール基含有ヒアルロン酸、フェノール基含ポリグルタミン酸、又はフェノール基含有キトサンである請求項6〜10のいずれか1つに記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項12】
官能基としてアミノ基を有するアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液と、ポリフェノール類化合物と、前記ポリフェノール類化合物のフェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成することを特徴とする多糖質微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記ポリフェノール類化合物の該フェノール性水酸基を酸化する能力のある酵素が、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、チロシナーゼ、及びラッカーゼから選ばれた少なくとも1種である請求項12に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってペルオキシダーゼ又はカタラーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、過酸化水素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項12又は13に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってチロシナーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、酸素を飽和させた流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項12又は13に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項16】
前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液であってラッカーゼを添加したものと、前記ポリフェノール類化合物と、流動パラフィンとを混合しエマルジョンを形成させる請求項12又は13に記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項17】
前記アミノ基含有多糖質高分子化合物が、脱アセチル化キチン又はキトサンである請求項12〜16のいずれか1つに記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項18】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液、又は前記アミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液として、該フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物と該アミノ基含有多糖質高分子化合物とを溶解及び/又は分散した水性溶液を用いる請求項6〜17のいずれか1つに記載の多糖質微粒子の製造方法。
【請求項19】
前記フェノール性水酸基含有多糖質高分子化合物及び/又はアミノ基含有多糖質高分子化合物を溶解及び/又は分散した水性溶液に生きた培養細胞を分散させ、培養細胞が生きた状態で封入された微粒子を得る請求項6〜18のいずれか1つに記載の多糖質微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−174510(P2008−174510A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10863(P2007−10863)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】