説明

多素子空間光変調器

【課題】画素の階調表示の可能な、磁気光学式の空間光変調器を提供する。
【解決手段】2次元配列された画素4に、隣り合う間隔dが1μm未満となるように配置された複数の光変調素子5と、一対の電極2,3とを備える多素子空間光変調器であって、画素4に供給された電流の大きさに応じて、すべての光変調素子5が磁化反転して明暗の表示を切り換えたり、一部の光変調素子5が磁化反転することにより明暗の中間表示を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を透過あるいは反射させた際に、磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調する多素子空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これを2次元アレイ状に配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術や記録技術等の分野で広く利用されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられているが、近年では、高速処理および画素の微細化の可能な磁気光学材料が用いられ、その磁気光学効果により変調する磁気光学式の空間光変調器が開発されている。特にスピン注入磁化反転素子を適用された画素によれば、数μm以下からさらに可視光波長サイズ(青色:400nm)の高精細と、論理的に数ps程度となる高速応答とを同時に可能とする空間光変調器となる(特許文献1)。
【0003】
磁気光学式の空間光変調器においては、選択された画素(光変調素子)の磁化方向とそれ以外の画素の磁化方向の違いにより、選択された画素を透過(または反射)した光とそれ以外の画素を透過(または反射)した光で、その光の回転角(旋光角)に差が生じるファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用している。このような旋光角の差をディスプレイ技術等に利用するためには、例えば、入射された偏光に対して選択されていない画素における旋光角だけ旋光した偏光のみ透過する偏光フィルタを、2次元アレイ状に配列された画素の出射側に配する。偏光フィルタにより、選択された画素からの出射偏光は遮られて黒く、それ以外の画素からの出射偏光は透過して白く表示されて、白/黒(明/暗)を画素毎に切り分けることができる(後記図3参照)。
【0004】
空間光変調器には、このような白/黒の2階調に限られず両者の中間も表示する階調表示の機能も求められている。しかしながら、前記の磁気光学式の空間光変調器における光変調素子は、明/暗の2パターンの切り換えのみを行うものである。したがって、このような光変調素子を用いる場合は、複数の光変調素子を一画素として構成してそれぞれの光変調素子の明/暗を個別に切り換えることで、一画素における階調表示が可能となる。しかし、このような構成においては、光変調素子毎に別々に電流を供給する電極(配線)が必要となるため、階調を増やすほど配線の数が多く必要となり微細化には適さない。
【0005】
そこで、本発明者らによって、一対の電極を接続した画素に、平面視形状の面積が等しく縦横比が異なるスピン注入磁化反転素子を複数備える空間光変調器が開示されている(特許文献1)。これは、スピン注入磁化反転素子の平面視形状の縦横比によって磁化反転に必要な電流の大きさが異なることを利用したもので、画素に供給する電流の大きさによって、画素内の磁化反転するスピン注入磁化反転素子の個数が異なるため、階調表示が可能となる。
【特許文献1】特開2008−64825号公報(段落0047〜0049、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された空間光変調器の画素の構成には、さらに改良する余地がある。すなわち、画素面積を有効に利用するために、開口率が高くなるようなスピン注入磁化反転素子の平面視形状および配置を容易に設計できる構成が望まれている。また、画素内の素子同士の間隔が短いと、それぞれの素子の磁気が互いに影響し合って一部の素子のみの磁化反転が起こり難くなる。そのため、間隔を十分に空ける必要があり、やはり開口率が低くなるのでさらなる改良が望まれている。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、高精細および高速応答の可能なスピン注入磁化反転素子を画素に適用すると共に、画素の開口率を向上させ、階調表示の可能な磁気光学式の空間光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、間隔を短く空けて配置されたスピン注入磁化反転素子同士で磁気が互いに影響し合う現象を利用することで、さらなる改良を行うことを見出した。すなわち、請求項1に係る多素子空間光変調器は、2次元配列された複数の画素を有する画素アレイと、この画素アレイから1つ以上の画素を選択して当該画素の階調を指定する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に当該画素選択手段が指定した階調に応じた大きさの電流を供給する電流供給手段と、を備える多素子空間光変調器であって、前記画素は、互いに隣り合う間隔が1μm未満となるように配置された複数の同一形状のスピン注入磁化反転素子と、これらのスピン注入磁化反転素子を並列に接続して共通の電流を供給する一対の電極と、を備えるものである。そして、前記スピン注入磁化反転素子は、所定の電流が供給されると磁化反転層の磁化が一方向またはその逆方向を示すものであると共に、入射した光の偏光方向を変化させて出射するものであり、前記画素内における前記複数のスピン注入磁化反転素子は、前記電流供給手段から供給された電流の大きさに応じて、それぞれの磁化反転層の磁化が、そのすべてが前記一方向となる状態と、そのすべてが前記逆方向となる状態と、そのすべての一部が前記一方向となりそれ以外が前記逆方向となる状態と、を示すことを特徴とする。
【0009】
かかる構成により、多素子空間光変調器は、画素が複数の同一形状の光変調素子(スピン注入磁化反転素子)を1μm未満の狭い間隔で配置されて備えることで、隣り合う光変調素子同士で磁気的な影響を与え合うため、ある大きさの電流を供給されると、それぞれの磁化反転層の磁化が異なる方向を安定して示すようになる。したがって、電流の大きさを変化させて供給することで、画素内のすべての光変調素子を磁化反転させたり、一部の光変調素子のみ磁化反転させることができる。画素に入射した偏光は、このような複数の光変調素子でその偏光の向きを変化させて出射するので、磁化反転した光変調素子の数により特定の偏光方向の出射偏光の光量が変化する。さらに、それぞれの光変調素子の形状は同じであるので平面視面積も等しく、一画素での出射偏光に明/暗とその間にある1つ以上の段階を等間隔で階調表示させることができる。
【0010】
さらに、請求項2に係る多素子空間光変調器は、請求項1に記載の多素子空間光変調器において、前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極とからなり、前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過させる材料で形成され、前記下部電極は、その下方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過させる材料で形成されることを特徴とする。
【0011】
このような一対の電極で複数のスピン注入磁化反転素子を上下から挟む構成により、画素のピッチを狭くでき、さらに上下の電極が光を透過することにより、入射光および出射光の光量の減衰が抑制された透過型の空間光変調器となる。
【0012】
また、請求項3に係る多素子空間光変調器は、請求項1に記載の多素子空間光変調器において、前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極とからなり、前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過させ、かつ、その上方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過させる材料で形成され、前記上方から照射された光を前記下部電極または前記スピン注入磁化反転素子で反射させて前記上方へ出射することを特徴とする。
【0013】
このような一対の電極で複数のスピン注入磁化反転素子を上下から挟む構成により、画素のピッチを狭くでき、さらに上の電極が光を透過して下の電極が光を反射することにより、入射光および出射光の光量の減衰が抑制された反射型の空間光変調器となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る多素子空間光変調器によれば、スピン注入磁化反転素子を適用することで、画素の高精細化かつ高速応答が可能となり、一対の配線で画素の階調表示を制御できるので、画素のいっそうの微細化が可能となり、同一形状のスピン注入磁化反転素子を配置するので、画素面積を有効に利用できて開口率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る多素子空間光変調器(以下、適宜、空間光変調器)の最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成を示す平面模式図である。なお、本明細書における平面(上面)は、空間光変調器の光の入射面である。また、平面視での縦横は、図1における方向を示す。図2は、本発明の一実施形態に係る画素の拡大断面図で、図1のA−A部分断面図である。図3は、空間光変調器の構成および光変調素子における磁化方向と透過光の旋光を説明するための画素の断面模式図である。なお、図3は、わかり易くするため、画素内の光変調素子を1個として示す。以下に、本発明に係る空間光変調器を構成する各要素について説明する。
【0017】
空間光変調器1は、図1に示すように、基板7(図2参照)上に2次元アレイ状に配列された複数の画素4からなる画素アレイ40と、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する駆動制御部10と、を備える。さらに、空間光変調器1は、図3に示すように、画素アレイ40(画素4)の上方には、画素アレイ40に向けて光を照射する光源93と、光源93から照射された光を画素アレイ40に入射する前に偏光とする入射偏光フィルタ91とを備え、下方には、画素アレイ40から出射した光から特定の偏光のみを透過する出射偏光フィルタ92と、出射偏光フィルタ92を透過した光を検出する検出器94とを備える。なお、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗およびその中間)を表示する手段を指す。
【0018】
図1に示すように、画素アレイ40は、平面視で行(横)方向に延設された複数のストライプ状の上部電極2と、同じくストライプ状で、平面視で上部電極2と直交するように列(縦)方向に延設された複数の下部電極3と、を備え、上部電極2と下部電極3との交点毎に1つの画素4を構成する。したがって、画素アレイ40において、行方向に配列された画素4,4,…が1つの上部電極2を共有し、列方向に配列された画素4,4,…が1つの下部電極3を共有する構造となっている。本実施形態では、画素アレイ40は、5行×5列の25個の画素4からなる構成で例示される。また、上部電極2と下部電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。
【0019】
図2に示すように、画素4は、当該画素4における一対の電極としての上部電極2と下部電極3と、これらの電極2,3に上下から挟まれた2個の光変調素子(スピン注入磁化反転素子)5,5を備える。なお、本実施形態では、画素4は2個の光変調素子5,5を備える構成で例示されるが、本発明に係る画素が備える光変調素子の数は2個以上であれば特に限定されない。そして、本明細書における光変調素子5,5とは、同じ画素4に備えられたすべての光変調素子5を指す。また、画素アレイ40における隙間(図2の空白部分)は絶縁部材6で埋められている。
【0020】
図1に示すように、駆動制御部10は、上部電極2を選択する上部電極選択部12と、下部電極3を選択する下部電極選択部13と、これらの電極選択部12,13を制御する画素選択部(画素選択手段)14と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)11と、を備える。これらはそれぞれ公知のものでよく、光変調素子5を動作させるために適正な電圧・電流を供給するものとする。
【0021】
上部電極選択部12は、上部電極2の特定の1つ以上を選択し、電源11から所定の電流を供給させる。下部電極選択部13は、下部電極3の特定の1つ以上を選択し、電源11から所定の電流を供給させる。画素選択部14は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、その選択に基づいて両電極選択部12,13を制御する。すなわち、選択した画素4に接続する上部電極2および下部電極3を両電極選択部12,13に選択させる。電源11は、選択した画素4に備えられる光変調素子5,5を動作させるために適正な電圧・電流を供給する。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の光変調素子5,5に所定の電流が供給されて後記の動作を行う。
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る空間光変調器の画素の構成の詳細を、図1、図2、および図3を参照して説明する。
【0023】
図1および図2に示すように、上部電極2,2,…は、光変調素子5,5の上方に配され、横方向に帯状に延設される。1つの上部電極2は、横1行に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5,5に電流を供給する。一方、下部電極3,3,…は、光変調素子5の下方に配され、縦方向に帯状に延設される。1つの下部電極3は、縦1列に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの光変調素子5,5に電流を供給する。これらの電極2,3は、それぞれ光変調素子5,5の入射光および出射光を遮らないように透明電極材料で構成されることが好ましい。
【0024】
透明電極材料としては、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide;IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide;ITO)、酸化スズ(SnO)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In)等の公知の材料が挙げられる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
【0025】
また、上部電極2および下部電極3において、それぞれ透明電極材料と光変調素子5との間に金属膜を設けることが好ましい。すなわち、図2に示すように、上部電極2および下部電極3は、透明電極材料からなる帯状の透明電極2a,3aと金属膜からなる下地層2b,3bとで構成されていることが好ましい。このように、透明電極2a,3aと光変調素子5との間にそれぞれ金属膜を介在することで、金属電極材料より抵抗が大きい透明電極材料においても、上部電極2−光変調素子5間および下部電極3−光変調素子5間の抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
【0026】
下地層2b,3bを構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等公知の方法により成膜される。そして、下地層2b,3bとなる金属膜は、それぞれその上の層となる膜と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。これは、下地層2b,3bとそれぞれの上の層との密着性をよくして抵抗を一層低減するためである。したがって、下部電極3においては、下地層3bと光変調素子5(磁化固定層51〜保護層54)、上部電極2においては、下地層2bと透明電極2a、それぞれを構成する膜を連続して成膜、積層することが好ましい。詳細は、画素4の製造方法において説明する。連続して成膜された膜は一緒に加工されるため、図2に示すように、上部電極2において下地層2bは透明電極2aと同じ平面視形状となり、下部電極3において下地層3bは光変調素子5と同じ平面視形状となる。下地層2b,3bのそれぞれの厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成できず、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地層2b,3bのそれぞれの好ましい厚さは1〜10nmである。
【0027】
下部電極3は、金属電極としてもよい(以下、下部電極3A(図示せず)と称する)。この場合、光変調素子5を透過した光が下部電極3Aの上面で反射して再び上部電極2から出射する、反射型の空間光変調器とすることができる。下部電極3Aは、例えば、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、その形状は、透明電極からなる下部電極3と同様に帯状である。そして、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等により前記形状に形成される。なお、このような下部電極3Aにおいては、下地層3bは不要である。
【0028】
基板7は、画素4(上部電極2、光変調素子5,5、下部電極3)を透過した光をその下方の検出器94に入射させるため、透明な材料からなり、例えば、SiO、Al、MgO等からなる。なお、反射型の空間光変調器とする場合は、透明である必要はないので、例えば表面を熱酸化したSi基板等も適用できる。絶縁部材6は、隣り合う上部電極2,2間、光変調素子5,5間(隣り合う画素4間におけるものを含む)、および下部電極3,3間(図2不図示)に配され、例えば、SiOやAl等からなる。
【0029】
光変調素子5は、図1および図2に示すように、平面視で上部電極2と下部電極3の直交する各部分すなわち画素4毎に、所定の個数(本実施例では2個)ずつが前記電極2,3に上下から挟まれて配置される。したがって、光変調素子5は、同じ画素4に備えられた複数個が、その上下の電極2,3を共通する一対の電極として並列に接続されている。光変調素子5の平面視形状は、本実施形態においては横方向に長い長方形であるが、これに限定されるものではなく、例えば正方形でもよい。また、1個の画素4につき2個の光変調素子5,5が前記長方形の短辺方向すなわち縦方向に並べて配されているが、これに限定されるものではない。例えば、1つの画素4に3個あるいは4個、さらに5個以上の光変調素子5を備えてもよく、一画素に備える光変調素子の数が多いほど、後記するように表示できる階調数も多くなる。また、光変調素子5を、前記長方形の長辺方向に並べてもよいし、(2×2)個等のマトリクス状に配置してもよい。ただし、後記の理由により、1つの画素4内では隣り合う光変調素子5,5同士の間隔dを1μm未満とする。
【0030】
光変調素子5は、スピン注入磁化反転素子であり、CPP−GMR素子、TMR素子等の公知の素子からなる。光変調素子5の構成は、図2に示すように、下部電極3の上に、磁化固定層51、中間層52、磁化反転層53、保護層54の順に積層されてなる。なお、透過型の空間光変調器とする場合は、磁化固定層51と磁化反転層53の位置を入れ替えてもよい。これら各層は、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法によりそれぞれ成膜されて、積層され、電子線リソグラフィ等により前記形状に加工される。
【0031】
磁化固定層51および磁化反転層53は強磁性体であり、共に面内磁気異方性を有するか、または共に垂直磁気異方性を有する。そして、磁化固定層51の磁化方向は固定されているのに対し、磁化反転層53の磁化方向は固定されておらず、スピン注入によって容易に回転(反転)させることができる。これら2層の間に設けられる中間層52は、光変調素子5がTMR素子であれば絶縁体、CPP−GMR素子であれば非磁性の導体で形成される。これら3層でスピン注入磁化反転素子として動作するが、その微細加工におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護層54が設けられる。
【0032】
磁化固定層51は、強磁性金属(FM)や磁性半導体からなり、その厚さは数〜数10nmである。光変調素子5がTMR素子であれば、強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、FM/PtMn、FM/Ru/FM/PtMn(シンセティックピン層、積層フェリ構造)のような多層膜、さらにIrMn等の磁化固着層を下層に設けたFM/IrMn、FM/Ru/FM/IrMnが挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1−xFe、ZnO:Cr1−xMn等のZnOを母体とするもの、III-V族化合物半導体を母体とするもの、TiOを母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。また、強磁性金属として、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金も挙げられるが、これらの材料を適用する場合は、その保磁力に対して、磁化反転層53の材料の保磁力が小さくなるようにする。なお、透過型の空間光変調器においては、磁化固定層51は、特に厚さが10nmを超える場合は透過率の高い材料で形成し、ZnO,TiOを母体とする磁性半導体が好ましい。
【0033】
中間層52は、磁化固定層51と磁化反転層53との間に設けられる。光変調素子5がTMR素子であれば、中間層52は、MgO、Al、HfOのような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.5〜1.5nmである。また、光変調素子5がCPP−GMR素子であれば、中間層52は、Cu,Au,Ptのような非磁性金属からなり、その厚さは6nm以下である。
【0034】
磁化反転層53は、強磁性金属や磁性半導体からなり、その厚さは数nm以下である。光変調素子5がTMR素子であれば、強磁性金属としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含むCoFe,CoFeB,NiFe等の合金、これらの材料の2種以上からなる積層膜、FM/Ru/FM(シンセティックフリー層、積層フェリ構造)が挙げられる。また、磁性半導体としては、ZnO:Mn、ZnO:Mn1−xFe、ZnO:Cr1−xMn等のZnOを母体とするもの、III-V族化合物半導体を母体とするもの、II−VI族化合物半導体を母体とするものが挙げられる。また、強磁性金属として、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、Sm,Eu,Gd,Tb等の希土類を含む合金、MnBiも挙げられるが、これらの材料を適用する場合は、その保磁力に対して、磁化固定層51の材料の保磁力が大きくなるようにする。
【0035】
保護層54は、光変調素子5の微細加工におけるダメージから磁化固定層51または磁化反転層53を保護するために設けられ、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層54の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成できず、一方、10nmを超えると入射偏光の光量を減衰させる。したがって、保護層54の好ましい厚さは1〜10nmである。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係る空間光変調器の画素(画素アレイ)の製造方法について、その一例を説明する。
まず、下部電極3を形成する。基板7の表面に、透明電極材料をスパッタリング法等により成膜し、フォトリソグラフィやリフトオフ等によりストライプ状に形成して透明電極3aとする。透明電極3a上には下地層3bを形成するが、前記したように、その上の層である光変調素子5を連続して成膜することが好ましい。そこで、先に、透明電極3a,3a間に絶縁部材6としてSiO等の絶縁膜を堆積させる。
【0037】
次に、透明電極3a(および絶縁部材6)の上面に、金属膜、磁化固定層51、中間層52、磁化反転層53、保護層54を、連続して成膜、積層する。これらの層を電子線リソグラフィ等により所望の形状に成形加工して、下地層3bおよび光変調素子5とする。光変調素子5の成形にマスクとして使用したレジストを残した状態で、絶縁膜を成膜して、光変調素子5,5間(隣り合う画素4間を含む)に堆積させ、レジストをその上の絶縁膜ごと除去して(リフトオフ)絶縁部材6とする。または、マスクのない状態で絶縁膜を成膜して、エッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing;化学機械研磨)等により光変調素子5の上の絶縁膜を除去してもよい。
【0038】
次に、上部電極2を形成する。光変調素子5および絶縁部材6の上面に、金属膜、透明電極材料を連続して成膜し、下部電極3と直交するストライプ状に形成して上部電極2とする。最後に、上部電極2,2間に絶縁部材6を堆積して、画素4(画素アレイ40)とする。
【0039】
次に、本発明の実施形態に係る空間光変調器の画素の動作を、図3、図4、および図5を参照して説明する。図4は光変調素子の磁化の回転を説明するための斜視図、図5は本発明の一実施形態に係る画素における光変調素子の磁化の回転を説明するための斜視図である。
【0040】
まず、磁気光学式の空間光変調器の動作を説明する。図3に示すように、光源93から照射された光(レーザー光等)は様々な偏光成分を含んでいるので、これを入射偏光フィルタ91に透過させて、1つの偏光成分の入射偏光とする。この入射偏光は所定の入射角で画素アレイ40(画素4)に入射する。入射偏光は、上部電極2を透過して光変調素子5に到達する。そして、光変調素子5を透過した偏光(出射偏光)は、さらに下部電極3および基板7を透過して出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、特定の偏光、ここでは図3(b)に示すように、入射偏光に対して角度θAP旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光は検出部94に入射される。検出部94は、スクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
【0041】
ここで、本発明の実施形態に係る空間光変調器の光変調素子における磁化方向と透過光の旋光について、図3および図4を参照して説明する。なお、図3〜5では保護層54は省略する。本実施形態の光変調素子5は、面内磁気異方性すなわち膜面方向の磁化を有するスピン注入磁化反転素子である。磁化固定層51は、すべての画素4(画素アレイ40)において磁化方向が同一に固定され、図3〜5では、磁化固定層51の磁化を右方向で示す。一方、磁化反転層53の磁化方向は膜面方向において回転可能である。
【0042】
スピン注入磁化反転素子である光変調素子5は、逆方向のスピンを持つ電子を注入することにより、すなわち電流を反対向きに供給することにより、磁化反転層53の磁化方向を反転(スピン注入磁化反転)させて、磁化固定層51の磁化方向と同じ方向(平行:Parallel)または180°異なる方向(反平行:Anti−Parallel)にする。図4(a)に示すように、上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にして、磁化反転層53側から磁化固定層51へ電流を供給すると、磁化反転層53の磁化は磁化固定層51の磁化方向と同じ方向に、すなわち光変調素子5の磁化は平行となる。この磁化が平行な光変調素子5に、図4(b)に示すように、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして、磁化固定層51側から磁化反転層53へ電流を供給すると、磁化反転層53の磁化が180°回転(反転)して磁化固定層51の磁化方向と逆方向に、すなわち光変調素子5の磁化は反平行となる。さらに、この磁化が反平行な光変調素子5に、再び磁化反転層53側から電流を供給すれば、図4(a)の磁化が平行な状態に戻る。このように、電流の供給する向きを切り換えることで、磁化反転層53の磁化方向を反転させることができる。また、光変調素子5の磁化が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流が供給されるまでは磁化が保持される。このように、スピン注入磁化反転素子において磁化は保持されるため、供給する電流は、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流を適用できる。
【0043】
図3、図4で右方向の磁化を有する層を透過した偏光が正方向に回転(旋光)すると定義し、磁化固定層51のファラデー効果による旋光角(ファラデー旋光角)をθFpin、同じく磁化反転層53のファラデー旋光角をθFfreeとする。前記の、磁化が平行、反平行の光変調素子5をそれぞれ透過した偏光の旋光角θ,θAPは、図3(a)、(b)に示すように、θ=θFfree+θFpin、θAP=−θFfree+θFpinとなる。このように、磁化反転層53の磁化方向が反転するとその旋光角も逆向きになるので、磁化反転層53の旋光角θFfreeの分だけ出射偏光に差が生じる。
【0044】
この出射偏光の差を(検出部94への)表示に利用するためには、例えば入射偏光に対して(−θFfree+θFpin)旋光した偏光のみ透過する偏光フィルタ(出射偏光フィルタ92)を光変調素子5の出射側に配すればよい。光変調素子5の磁化が平行であるときは、出射偏光が出射偏光フィルタ92で遮られるので、この光変調素子5は検出部94に暗く表示される。反対に、光変調素子5の磁化が反平行であるときは、出射偏光が出射偏光フィルタ92を透過するので、この光変調素子5は検出部94に明るく表示される。なお、光変調素子5が垂直磁気異方性を有する磁化固定層51および磁化反転層53を備える場合、磁化は垂直方向であり、磁化反転層53の磁化は上向き/下向きで反転するが、この場合も同様にファラデー効果を生じる。
【0045】
ここで、1個の光変調素子5を磁化反転させる電流の大きさを「|ISTS|」と定義する。すなわち、光変調素子5の磁化を平行から反平行へ移行させるときは、+ISTS、反対に、反平行から平行へ移行させるときは、−ISTSの電流を供給する。
【0046】
次に、同じ構造および形状の複数のスピン注入磁化反転素子に、同時に電流が供給されたときの磁化の挙動を説明する。図4(c)、(d)に示すように、一対の電極2,3に2個の光変調素子5,5を並列に接続する。光変調素子5,5のそれぞれの磁化固定層51,51の磁化は同じ方向に固定され、図4(a)、(b)と同じ右方向で示される。また、光変調素子5,5の一方の磁気が他方の光変調素子5に影響を及ぼすことがないと仮定する。図4(c)に示すような2個共に磁化が平行な状態の光変調素子5,5に、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして電流を次第に大きくしながら供給すると、電流の大きさが+2ISTSになった時点で、それぞれの磁化反転層53,53の磁化方向が同時に180°回転して、図4(d)に示すように光変調素子5,5の磁化は共に反平行になる。反対に、図4(d)の状態の光変調素子5,5に上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にして電流を次第に大きくしながら供給して電流が−2ISTSになると、図4(c)に示すように、光変調素子5,5は再び同時に磁化反転して磁化が平行になる。このように、互いに磁気的に影響しない複数の光変調素子5は、同じ条件で磁化反転するため、共通の電流を供給されると同時に磁化反転する。また、並列に接続されているため、光変調素子5の個数倍の電流を要する。すなわち、光変調素子5の面積(1個の面積×個数)当たりに換算した反転電流密度Jcは、並列に接続された光変調素子5の個数にかかわらず不変である。
【0047】
次に、同じ構造および形状の複数のスピン注入磁化反転素子を互いの間隔を近付けて配置し、同時に電流が供給されたときの磁化の挙動を説明する。図5に示すように、一対の電極2,3に2個の光変調素子5,5を並列に接続する。光変調素子5,5の間隔dが狭いこと以外は、前記の図4(c)、(d)と同様の配置で、それぞれの磁化固定層51,51の磁化方向も同じ右方向で固定される。図5(a)に示すような2個共に磁化が平行な状態の光変調素子5,5に、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして電流を次第に大きくしながら供給すると、電流の大きさが+Iになった時点で、光変調素子5,5の一方の(図の手前側の)磁化反転層53のみ磁化方向が180°回転して、図5(c)に示すように、この1個の光変調素子5は反平行に磁化反転する。このとき、もう1個の光変調素子5は磁化が平行のままである。そして、さらに電流を大きくして+I(|I|>|I|)になると、残りの1個の(図の奥側の)光変調素子5も反平行に磁化反転して、図5(b)に示すように光変調素子5,5の磁化は共に反平行になる。反対に、図5(b)の状態の光変調素子5,5に−Iの電流を供給すると、図5(c)に示すように1個の光変調素子5が平行に磁化反転し、さらに電流が−Iになると、残りの1個の光変調素子5も平行に磁化反転して、図5(a)に示すように光変調素子5,5の磁化は共に平行になる。
【0048】
このような、間隔を短く空けて配置された複数の光変調素子5,5において、それぞれの磁化反転層53,53は、磁化の回転可能な磁性体である。このように、近接する複数の磁性体は、外部磁界のない状態では、擬似的に一体の磁性体として磁気的に安定するために互いに異なる磁化方向を示して磁気エネルギーを小さくする。したがって、2個の光変調素子5,5の場合、図5(c)に示すように、1個の光変調素子5を磁化反転させる|ISTS|近傍の|I|の大きさの電流を供給されたとき、どちらか1個の光変調素子5の磁化反転層53が磁化反転して、もう1個の光変調素子5の磁化反転層53に対して反平行の磁化となって、磁化反転層53,53同士で磁気的に安定しようとする。ここで、|I|は、|ISTS|近傍であって2|ISTS|より小さく、光変調素子5の磁気異方性等により可変な値である。なお、光変調素子5はいずれも同じ条件で磁化反転するため、どの光変調素子5が優先的に磁化反転するかは不定であるが、配置等によって、磁気的に最も安定する状態となる。また、|I|の大きさの電流を直接供給すれば、図5(a)→図5(b)、または図5(b)→図5(a)のように、光変調素子5,5は同時に磁化反転する。また、光変調素子5,5は、この磁化方向に垂直な方向に並設されているが、この並び方向は特に限定しない。さらに、光変調素子5,5は垂直磁気異方性を有するスピン注入磁化反転素子であってもよく、この場合、磁化は上下方向となる。
【0049】
本実施形態の画素4は、図5に示すように2個の光変調素子5,5を間隔を短く空けて配置したものである。すなわち、一対の電極2,3で向きおよび大きさを制御した共通の電流を光変調素子5,5に供給することで、それぞれの光変調素子5の磁化反転層53の磁化方向を制御することができる。光変調素子5,5は、互いの間隔dが1μm以上になると互いの磁気の影響が小さくなって、図4(c)、(d)のように同時にのみ磁化反転するようになるため、光変調素子5,5の間隔dは1μm未満とする。
【0050】
図3を参照して説明したように、スピン注入磁化反転素子からなる光変調素子5は、1個で明/暗の2階調を表示できる。本実施形態では、光変調素子5の磁化が平行(P)で「暗」を、反平行(AP)で「明」をそれぞれ表示する。したがって、2個の光変調素子5,5を備える画素4は、図5(a)に示す「P,P」のとき「暗」、図5(b)に示す「AP,AP」のとき「明」、そして、図5(c)に示す「P,AP」のときは明/暗の中間である「50%明」を表示する。なお、2個の光変調素子5,5は形状が同じであるので、出射偏光の光量も等しく、図5(c)における手前側と奥側のどちらの光変調素子5の磁化が平行、反平行であっても、同等に表示される。したがって、最大で「一画素に備える光変調素子の個数+1」階調を表示できる。また、本発明における駆動制御部10(画素選択手段、電流供給手段)は、電流の供給/供給停止、電流の向きに加えて、電流の大きさを段階的に制御する。
【0051】
別の実施形態として、金属電極からなる下部電極3Aを備えた反射型の空間光変調器としてもよい(図示せず)。このとき、上方から入射した偏光は、光変調素子5を透過して下部電極3Aの表面で反射し、再び光変調素子5を透過して上方へ出射する。したがって、出射偏光フィルタ92および検出部94は画素アレイ40の上方に、入射偏光の光路を遮らない位置に配する。同様に、光源93および入射偏光フィルタ91も、出射偏光の光路を遮らない位置に配する。また、基板7は、出射偏光の光路ではないので透明な材料でなくてよい。この実施形態における旋光角は、偏光が光変調素子5内を往復するので、透過型の空間光変調器における旋光角の2倍となる。また、入射偏光を中間層52あるいは磁化固定層51の上面(界面)で反射させるように、これらの層を反射率の高い材料で形成してもよい。このような構成とする場合は、必ず磁化反転層53を上層側に配置する。
【実施例】
【0052】
本発明の効果を確認するために、本発明の実施形態に係る画素を作製して個々の光変調素子の磁化反転を、抵抗を測定することにより観察した。さらに、光変調素子の間隔を変化させて、その影響を観察した。
【0053】
2個の光変調素子を備える画素(図5参照)として、表1に示す構成の画素のサンプルを作製した。光変調素子は、その平面視形状が300nm×100nmの長方形で、短辺方向に間隔dを空けて並設した。光変調素子同士の間隔dは、実施例として300nm、比較例として1μmの2通りを作製した。さらに、従来例として同じ光変調素子を1個備える画素(図4(a)、(b)参照)を作成した。なお、抵抗の測定により評価するため、電極は上下共Cuで形成した。これらの従来例、実施例、比較例のサンプルを作製して、以下の評価を行った。
【0054】
【表1】

【0055】
作製した従来例、実施例、比較例のそれぞれの画素を、電極からパルス幅500μsのパルス電流を供給して、すべての光変調素子の磁化が反平行となる(初期状態)ようにした(図4(b)、図5(b)参照)。そして、磁化反転層側から下向きに、パルス電流を電流値|I|を次第に大きくしながら供給した。このとき両電極間に抵抗計を接続して抵抗の推移を観察し、光変調素子が磁化反転するときの電流値を測定し、光変調素子面積当たりの電流密度に換算した。スピン注入磁化反転の電流密度(反転電流密度)は、一定の分布幅を有することが知られているため、電流密度は各サンプルの120回の測定における平均値とし、抵抗との相関(I−R特性)のグラフを図6の上段に示す。また、図6の下段に反転電流密度の測定の分布を示す。
【0056】
スピン注入磁化反転素子は、磁化が平行なとき抵抗が小さく、反平行なとき抵抗が大きい。したがって、図6(a)に示すように1個の光変調素子のI−R特性は、磁化が反平行から平行に磁化反転したことで、1ステップで抵抗が小さく変化した。この、抵抗変化(磁化反転)したときの電流密度Jcは平均で−3.9×10A/cmであった。
【0057】
これに対して、並列に接続された2個の光変調素子のI−R特性は、図6(b)に示すように本発明の画素の構成を備える実施例では、抵抗が最大のとき(初期状態)から、抵抗が最小になるまでに、2ステップで抵抗が変化した。すなわち、1ステップ目で抵抗が前記の最大値−最小値のほぼ中間値に変化し、2ステップ目で最小値に変化した。これは、1ステップ目で1個の光変調素子のみが磁化反転して平行になり、2ステップ目でもう1個の光変調素子も磁化反転して2個共に磁化が平行になったことを示す。また、磁化反転したときの電流密度は、1個目(1ステップ目)の電流密度Jcが平均で−3.6×10A/cm、2個目(2ステップ目)の電流密度Jcが平均で−4.5×10A/cmであった。このように、1個目と2個目の光変調素子の磁化反転における電流値が異なることが明らかで、空間光変調器の画素として安定した中間階調を表示できるといえる。一方、図6(c)に示すように、光変調素子同士の間隔dが1μmの比較例については、1ステップで抵抗が最大値から最小値に変化した場合があり、また実施例と同様に2ステップで抵抗が変化した場合は、2回の抵抗変化それぞれにおける電流密度Jc,Jcが−3.7×10〜−3.9×10A/cmと狭い範囲に集中していた。これは、光変調素子同士の間隔が広いことで互いの磁気の影響が小さいことを示している。
【0058】
以上、本発明を実施するための最良の形態および実施例について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成を示す平面模式図である
【図2】本発明の一実施形態に係る画素の拡大断面図で、図1のA−A部分断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成および光変調素子における磁化方向と透過光の旋光を説明するための画素の断面模式図である。
【図4】光変調素子の磁化の回転を説明するための斜視図であって、(a)、(b)は1個の光変調素子、(c)、(d)は並列に接続された2個の光変調素子である。
【図5】本発明の一実施形態に係る画素における光変調素子の磁化の回転を説明するための斜視図である。
【図6】実施例の画素を駆動したときの、パルス電流の電流密度に対する画素の抵抗変化および反転電流密度の測定ばらつきの分布を示すグラフであって、(a)は1個の光変調素子を備える画素、(b)および(c)は2個の光変調素子を備える画素におけるグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 空間光変調器(多素子空間光変調器)
10 駆動制御部
11 電源(電流供給手段)
14 画素選択部(画素選択手段)
40 画素アレイ
4 画素
2 上部電極(電極)
3 下部電極(電極)
5 光変調素子(スピン注入磁化反転素子)
51 磁化固定層
52 中間層
53 磁化反転層
6 絶縁部材
7 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元配列された複数の画素を有する画素アレイと、この画素アレイから1つ以上の画素を選択して当該画素の階調を指定する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に当該画素選択手段が指定した階調に応じた大きさの電流を供給する電流供給手段と、を備える多素子空間光変調器であって、
前記画素は、互いに隣り合う間隔が1μm未満となるように配置された複数の同一形状のスピン注入磁化反転素子と、これらのスピン注入磁化反転素子を並列に接続して共通の電流を供給する一対の電極と、を備え、
前記スピン注入磁化反転素子は、所定の電流が供給されると磁化反転層の磁化が一方向またはその逆方向を示すものであると共に、入射した光の偏光方向を変化させて出射するものであり、
前記画素内における前記複数のスピン注入磁化反転素子は、前記電流供給手段から供給された電流の大きさに応じて、それぞれの磁化反転層の磁化が、そのすべてが前記一方向となる状態と、そのすべてが前記逆方向となる状態と、そのすべての一部が前記一方向となりそれ以外が前記逆方向となる状態と、を示すことを特徴とする多素子空間光変調器。
【請求項2】
前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極と、からなり、
前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過させる材料で形成され、
前記下部電極は、その下方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過させる材料で形成されることを特徴とする請求項1に記載の多素子空間光変調器。
【請求項3】
前記一対の電極は、前記複数のスピン注入磁化反転素子の上部に接続される上部電極と、当該複数のスピン注入磁化反転素子の下部に接続される下部電極と、からなり、
前記上部電極は、その上方から照射された光が前記複数のスピン注入磁化反転素子に入射するように前記光を透過させ、かつ、その上方へ前記複数のスピン注入磁化反転素子から出射された光が照射されるように前記光を透過させる材料で形成され、
前記上方から照射された光を前記下部電極または前記スピン注入磁化反転素子で反射させて前記上方へ出射することを特徴とする請求項1に記載の多素子空間光変調器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−271210(P2009−271210A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119930(P2008−119930)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電気電子技術者学会(IEEE;The Institute of Electrical and Electronics Engineers,Inc.)のホームページ(http://www.intermagconference.com/intermag2008/)において平成20年1月5日以降にインターネットにより利用可能となった「国際応用磁気学会議(IEEE International Magnetics Conference)2008要旨」において発表
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】