説明

多結晶シリコンの精製方法

【課題】亜鉛還元法により四塩化珪素から多結晶シリコンを製造する際に、塩化亜鉛を安定して再生しながら、太陽電池品質の多結晶シリコンを製造する方法の提供。
【解決手段】粗金属シリコンを塩化した四塩化珪素を蒸留して不純物を分離した精製四塩化珪素に、金属亜鉛を接触させて還元し、塩化亜鉛と高純度金属シリコンを生成する多結晶シリコンの精製方法において、(1)生成した前記塩化亜鉛に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、水酸化亜鉛及び塩化ナトリウム水溶液を得る湿式反応工程、(2)前記(1)の工程で得た塩化ナトリウム水溶液を電気分解して陽極表面から発生する塩素ガスと、陰極表面から発生する水素ガスと、残置の水酸化ナトリウム水溶液とに分離する電解工程、(3)前記(2)の工程の陰極から発生した水素ガスを用いて、前記(1)の工程で得られた水酸化亜鉛を還元して金属亜鉛を生成する還元工程を有する多結晶シリコンの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池の材料として用いられる多結晶シリコンを亜鉛還元法により精製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池の需要が高まるに伴い、その原料である金属多結晶シリコンの供給の増加が求められてきている。一般に、太陽電池の原料に用いる金属多結晶シリコンは、半導体製造に必要な超高純度シリコンを製造する際に生じた規格外品やスクラップを利用して製造されているため、生産技術の向上に伴う規格外品発生量の減少や半導体市場の動向に影響されることが大きく、その供給が安定的とはいえなかった。
【0003】
さらに、太陽電池用途の多結晶シリコンには、半導体用途のシリコンのように超高純度な品質である必要がないために、高コストで手間のかかる製造方法を用いて過剰スペックな品質の多結晶シリコンを太陽電池用途だけのために製造することは非効率である。
そのため、低価格で入手の容易な粗金属シリコンから直接、太陽電池用シリコン用途の高純度多結晶シリコンを安価かつ大量に製造するプロセスを模索する動きが広がってきていた。
【0004】
その太陽電池用途程度の品質の多結晶シリコンを製造する方法としては、従来から多くの製造方法が知られているが、特許文献1に記載されるような亜鉛還元法と称せられる方法を通常、用いられている。
この亜鉛還元法は、不純物の多い粗金属シリコンを塩素と反応させ、四塩化珪素を生成させた後に、これを蒸留操作によって精留して不純物を分離し、その後還元剤として亜鉛を添加して四塩化珪素を還元し、高純度な金属シリコンを得る方法である。
【0005】
亜鉛還元法は、得られる高純度シリコンの品位や製造コストが太陽電池用としてのシリコンの製造に最適な方法と考えられている。また亜鉛還元法は、四塩化珪素が還元されて生成する際に副生物として塩化亜鉛が生じるため、この塩化亜鉛を熔融塩電解によって亜鉛と塩素ガスに分離し、これらの亜鉛及び塩素ガスはそれぞれ上流工程に送って再利用することができるなどプロセスをクローズド化した状態で操業することができ、効率かつ環境的に優れたプロセスでもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−92130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、亜鉛還元の反応を行う装置から排出されるガス中には、主成分である生成した塩化亜鉛のガスの他に、微粉状に生成したシリコンも混入する傾向があり、生成した塩化亜鉛ガスを捕集し、冷却して凝縮させて回収した塩化亜鉛をそのまま熔融塩電解することは難しかった。これは塩化亜鉛の熔融塩にシリコンが混入すると、電極反応の電流効率を著しく低下させるためであり、混入するシリコンの濃度が高すぎると熔融塩電解自体が不可能となる場合もあった。
熔融塩電解で塩化亜鉛から金属亜鉛と塩素ガスとを分離する反応が進まないと、粗金属シリコンの塩化反応と精製後の四塩化珪素を金属シリコンと塩化亜鉛に分ける還元反応とを円滑に行うことが出来ず、プロセスが停止してしまう恐れがある。
【0008】
このため生成した塩化亜鉛を熔融塩電解する前に、予め蒸留したり、溶融ろ過を用いるなどしてシリコンなどを取り除く処理を行うこともあった。しかし、プロセスが複雑、あるいは廃棄物の発生が増加するなどの課題があり、亜鉛還元法によるシリコンの精製プロセスを実操業することは容易でなかった。
【0009】
このような状況の中で、本発明は亜鉛還元法によって四塩化珪素から多結晶シリコンを製造する際に、塩化亜鉛を安定して再生しながら、太陽電池品質の多結晶シリコンを製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の発明は、粗金属シリコンを塩化処理した四塩化珪素を蒸留により不純物を分離した精製四塩化珪素に、亜鉛を接触させて還元し、塩化亜鉛と高純度金属シリコンを生成する多結晶シリコンの精製方法において、以下の(1)〜(3)の工程を有することを特徴とする多結晶シリコンの精製方法である。
(1)生成した前記塩化亜鉛に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、水酸化亜鉛及び塩化ナトリウム水溶液を得る湿式反応工程。
(2)前記(1)の工程で得た塩化ナトリウム水溶液を電気分解して陽極表面から発生する塩素ガスと、陰極表面から発生する水素ガスと、残置の水酸化ナトリウム水溶液とに分離する電解工程。
(3)前記(2)の工程の陰極から発生した水素ガスを用いて、前記(1)の工程で得られた水酸化亜鉛を還元して金属亜鉛を生成する還元工程。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明の(2)の工程で得られた水酸化ナトリウム水溶液が、(1)の工程の水酸化ナトリウム水溶液として用いられる多結晶シリコンの精製方法である。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1の発明の(3)の工程で得られた塩素ガスが、減圧処理により混在する酸素を分離して液化塩素となり、前記液化塩素は、前記粗金属シリコンから四塩化珪素への塩化に用いられることを特徴とする多結晶シリコンの精製方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以下に示す工業上顕著な効果を奏するものである。
1.塩化亜鉛からの亜鉛と塩素の分離が安定し、亜鉛還元プロセスの操業を安定化する。
2.投入した金属亜鉛や塩素ガスはもとより使用するアルカリなどの精製プロセスの生成物を循環して使用するために、多結晶シリコンを製造するコストが低減する。
3.塩化亜鉛から不純物を分離する蒸留や溶融ろ過が不要であるために、設備を簡素化でき、かつ廃棄物発生量の低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明におけるクローズドサイクルを示す概略フロー図である。
【図2】本発明の製造工程フロー図である。
【図3】実施例で用いた亜鉛還元試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、副生した塩化亜鉛を熔融塩電解に代わって水溶液電解した際に、分離、精製された金属亜鉛、水酸化ナトリウム、塩素ガスの各々について、亜鉛還元法によるシリコン精製工程の多結晶シリコンの精製方法を詳細に鋭意検討を重ねた結果、直接、電気分解せずに、中間化合物として水酸化亜鉛および塩化ナトリウム水溶液を生成させることで、各工程で生成されるガスおよび液の再利用がかない、且つ製造プロセスのクローズドサイクル化が達成出来ることを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
本発明は、以下に示す骨子により構成されるものである。
粗金属シリコンを塩化処理して四塩化珪素に変えた後、その四塩化珪素を蒸留して不純物を分離した精製四塩化珪素と、金属亜鉛とを接触させて四塩化珪素を還元してシリコンを生成する精製方法において、
1.四塩化珪素を還元した際に副生する塩化亜鉛を、水酸化ナトリウムを用いて湿式反応処理を行ない、濾過分離することにより水酸化亜鉛および塩化ナトリウム水溶液を生成する。
【0017】
2.1により生成した塩化ナトリウム水溶液を、イオン交換膜を用いた電解採取により、塩素ガスと水素ガス、並びに水酸化ナトリウム水溶液とに分離し、塩素ガスは粗金属シリコンの塩化処理に用い、水酸化ナトリウム水溶液は、塩化亜鉛の湿式反応処理に用いる。
【0018】
3.塩化ナトリウム水溶液を電解採取する際に発生する水素ガスを用いて水酸化亜鉛を還元焙焼して亜鉛と水蒸気とし、この亜鉛をシリコンを生成するための四塩化珪素の還元反応に用いる。
【0019】
すなわち直接、副生した塩化亜鉛を熔融塩電解あるいは湿式電解採取した際に生じる電着不良等の問題点に鑑み、直接電気分解せずに、水酸化ナトリウムによる湿式反応処理を介し、その際、生成する塩化ナトリウム水溶液に対しては、一般に行なわれている食塩のイオン交換膜による電気分解法を適用して塩素、水素、水酸化ナトリウム水溶液を分離回収する一方、塩化亜鉛を水酸化ナトリウム水溶液を用いて湿式反応処理した際に、固体で回収される水酸化亜鉛を塩化ナトリウム水溶液の電気分解で生成された水素を用いて還元する、副生塩化亜鉛の効率的な処理方法を含むものである。
【0020】
通常、太陽電池用途の多結晶シリコンの製造においては、所定の光電変換効率を発揮する性能を具備する事が前提となるため、太陽電池用に供される多結晶シリコンには6〜7N相当の純度を確保することが求められる。本発明は、このような高純度を達成するため、四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法を基盤としている。
【0021】
本発明の高純度多結晶シリコンの製造方法の概略フロー図を図1、その製造工程フロー図を図2に示すが、大きく以下の5工程から構成されている。
(a)四塩化珪素の亜鉛還元工程
(1)塩化亜鉛の水酸化ナトリウム水溶液による湿式反応工程
(2)塩化ナトリウム水溶液の電気分解工程
(3)水酸化亜鉛の還元反応工程
(b)粗金属シリコンの塩化精製工程
【0022】
上記工程全体は、図1に示すようにクローズドサイクルが構成されている。なお、(a)の工程:SiClの亜鉛還元工程並びに(b)の工程:粗金属シリコンの塩化精製工程については、従来から行なわれているものであり、本発明で新たに設けた(1)から(3)の工程について、その具体的内容を説明する。
【0023】
(1)の工程:塩化亜鉛の水酸化ナトリウムによる湿式反応工程
回収した塩化亜鉛に水を添加して、レパルプ洗浄を行なうことによりシリコンの微粒子の固形物を分離し、その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、亜鉛は水酸化亜鉛の形態で沈殿させ、ろ過分離し、液は塩化ナトリウム水溶液として回収する。この工程における反応式を下記化1に示す。
【0024】
【化1】

【0025】
(2)の工程:塩化ナトリウム水溶液の電気分解工程
塩化ナトリウムについては、イオン交換膜電解法を利用した電解を行なうことにより、下記化2に示すように陽極から塩素、陰極から水素を発生させると共に、水酸化ナトリウム水溶液を回収する。
【0026】
【化2】

【0027】
本発明においてイオン交換膜電解法による湿式電気分解(食塩電解)は、現在一般に広く行われている技術であり、副資材の不要な簡便な構成の製造方法として各業界分野でよく用いられている技術であるが、このイオン交換膜電解法を適用する塩化ナトリウム水溶液の品質条件としては、通常食塩電解装置における液中のSiO濃度の受け入れ可能濃度を5ppm以下に、受け入れ塩化ナトリウムの濃度を300g/L付近であることが望ましい。
【0028】
(3)の工程:水酸化亜鉛の還元反応工程
塩化亜鉛の水酸化ナトリウムによる湿式反応で生成された水酸化亜鉛は、低温加熱で分解し、酸化亜鉛になる。この酸化亜鉛は、水素気流中で高温に加熱することにより還元されて亜鉛を回収する(下記化3参照)。回収された亜鉛については(a)の工程における四塩化珪素の亜鉛還元に使用される。
【0029】
【化3】

【0030】
以下、図2の多結晶シリコンの製造工程フロー図に沿って、本発明の流れを説明する。
〔粗金属シリコンの塩化・精製:(b)の工程〕
先ず、太陽電池用の多結晶シリコンを精製するために、粗金属シリコンを塩化し、精留操作によって他に微量存在する不純物の塩化物と、四塩化珪素との沸点温度の差を利用して不純物を除去し、高純度に精製された四塩化珪素を液体で回収する。
【0031】
〔亜鉛による四塩化珪素の還元:(a)の工程〕
次に、この四塩化珪素を気化させてガスとして供給し、金属亜鉛を蒸気とし、約1000℃の温度状態で、四塩化珪素のガスと接触させることにより亜鉛還元反応を行い、高純度の多結晶シリコンを生成、回収するもので、その反応時に副生物として塩化亜鉛が生成される。
【0032】
〔塩化亜鉛の水酸化ナトリウム水溶液による湿式反応:(1)の工程〕
亜鉛還元反応で副生された塩化亜鉛は、水に溶解されて、含まれている固形のシリコン残渣等を抜き取るためにレパルプ洗浄した後、その残渣類を取り除いた水溶液に対して水酸化ナトリウムを添加して反応させ、十分に攪拌した上で濾過を行なった。残渣が水酸化亜鉛、濾過された液は塩化ナトリウム水溶液である。
【0033】
〔塩化ナトリウム水溶液のイオン交換膜電気分解:(2)の工程〕
この塩化ナトリウムの水溶液は、廃棄せずにイオン交換膜電解法による湿式電気分解を行い、塩素ガス、水酸化ナトリウム水溶液、水素ガスに分離される。
得られた塩素ガスは上流工程である塩化処理工程((b)の工程)に戻して再利用をはかり、水酸化ナトリウム水溶液は、同じく上流工程である湿式処理工程((1)の工程)に戻して再利用を図ることでプロセスのリサイクル性を高める。
なお、本発明における(2)の工程に利用される塩化ナトリウム水溶液の品質は、SiO濃度が2ppm以下のものが容易に安定的に得られ、一方、塩化ナトリウムの濃度についても、元の塩化亜鉛の水への溶解の際に予め調整しておけば、上記受け入れ塩化ナトリウム濃度を含む広範囲の濃度に調整が可能である。
【0034】
〔水酸化亜鉛の還元反応:(3)の工程〕
(1)の工程である湿式反応工程で沈殿物として回収された水酸化亜鉛は、約200℃で加熱すると分解して水蒸気が除去され、酸化亜鉛として回収される。
この酸化亜鉛を、(2)の工程において塩化ナトリウムの電解により分離回収された水素ガスを導入した炉内に装入し、水素ガス雰囲気中で1300℃にて加熱、還元を行なった。還元によって生成した亜鉛蒸気は、熔融鉛の液滴を亜鉛蒸気に噴霧し1300℃から700℃への急冷凝縮により熔融鉛中に亜鉛を熔解させて、その再酸化を防ぎ、さらなる冷却による温度低下に伴う鉛中に溶け込む亜鉛濃度の差を利用する方法などにより、金属亜鉛と金属鉛とに分離する。
【0035】
分離された金属鉛は、再度亜鉛蒸気回収に繰返し利用され、一方金属亜鉛は、蒸留精製して亜鉛中の鉛を除去する処理を行うことで4Nレベルの高純度金属亜鉛として回収する。その回収された金属亜鉛は、上流工程である(a)の工程における四塩化珪素の還元剤として繰り返しての再利用を行うものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、図面を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
まず太陽電池用シリコンを精製するために、図2に示す製造工程フロー図に従い原料となるシリカを炭素と共に熱処理炉に混合装入して加熱し、シリコン純度が98〜99%まで粗精製された粗金属シリコンを作製した。この作製した粗金属シリコンと塩素ガスを反応させて四塩化珪素を生成した。次に、その四塩化珪素を、精留操作によって不純物と四塩化珪素との沸点温度の差を利用して精製し、精製四塩化珪素とした。
【実施例1】
【0037】
次に、実施例1として図3の亜鉛還元法試験装置を用いて、この精製四塩化珪素の蒸気と亜鉛の蒸気を、内部が約1000℃の温度に保たれたセラミック電気管状炉1の石英製炉芯管2の中で接触させ、亜鉛還元反応を起こさせ、目的の純度を持つ多結晶シリコンを生成させた。生成した多結晶シリコンは、炉芯管2内部にて樹枝状に析出しているものを含め炉内壁の各部に析出した物を個々に回収した。また、副生される塩化亜鉛は回収槽10にトラップされた。以下に、この回収された塩化亜鉛のリサイクル処理を示す。
【0038】
図3において、1はセラミック電気管状炉、2は石英製炉芯管(透明石英管)、3はK熱電対、4はハニカム、5は恒温槽、6は温度計、7は四塩化珪素蒸気発生部を囲うフード、7aは蒸気部排気ドラフト、8はガス流量計、9はArガス配管、10は塩化亜鉛の回収槽(トラップ瓶)、11は配管、12は回収槽からの排気ライン、13は塩素成分の脱水および脱酸素部(吸収瓶)、14は塩化亜鉛の回収槽を囲うフード、20は加熱されるユニチューブ、21は3方弁である。
【0039】
実施例1では、図3の管状炉1の炉芯管内に設置された透明石英管2内に金属亜鉛(固形亜鉛)5.2gを装入、加熱して亜鉛蒸気とした後、純度6Nの液体四塩化珪素7.5mLを58℃の恒温槽5で気化させた四塩化珪素ガスを、亜鉛蒸気が満たされた透明石英管2内に供給して、1000℃の温度に保った状態で金属亜鉛と接触させて亜鉛還元反応を行い、高純度の多結晶シリコンを生成、回収し、同時に塩化亜鉛を副生物として回収した。
この副生された塩化亜鉛中のシリコン(SiOも含む)の混入量は4ppmであった。次に、塩化亜鉛を純水を用いてレパルプ洗浄してシリコン並びに不純物の除去を行った塩化亜鉛10.2gを、図2の製造工程の概略フロー図に沿って処理を行い、4.7gの金属亜鉛が得られた。
【0040】
その詳細は、塩化亜鉛10.2gから、(1)の工程において水酸化亜鉛7.1gと、塩化ナトリウム水溶液が生成され、塩化ナトリウム水溶液の陽イオン交換膜電気分解処理により、塩素ガス、水素ガス、水酸化ナトリウム水溶液が得られた。この水素ガスは(3)の工程において用いられ、水酸化亜鉛を還元して金属亜鉛4.7gと水を生成した。水酸化ナトリウム水溶液は、(1)の工程において塩化亜鉛を湿式処理する際に添加する水酸化ナトリウムとしてリサイクルした。また、塩素ガスは、(b)の工程である粗金属シリコンの塩化・精製に用いることができる。
【0041】
この生成した金属亜鉛の量と、投入した金属亜鉛の量を比較して金属亜鉛の回収率を求め、その省資源性を評価して、表1に記した。表中の投入金属亜鉛量については、未反応亜鉛分を差し引いて記載した。
なお、省資源性の評価は、回収した物品の内、再利用できるものが多いほど省資源性に優れているとした。
【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
実施例1と同様に、太陽電池用多結晶シリコンを精製するために、まず、原料となるシリカを炭素と共に熱処理炉に混合装入して加熱し、シリコン純度が98〜99%まで粗精製された粗金属シリコンを作製した。作製した粗金属シリコンと塩素ガスとを反応させて四塩化珪素を生成した。
【0044】
次いで、精製四塩化珪素を得た後に、図3に示す亜鉛還元法試験装置を用いて、実施例1と同様に精製四塩化珪素の蒸気と亜鉛蒸気とを石英製炉芯管2の中で反応させて亜鉛還元反応を起こし、所定純度の太陽電池用多結晶シリコンを生成させ、炉芯管2内部にて樹枝状に析出しているものを含め炉内壁の各部に析出した物を個々に回収した。また、副生される塩化亜鉛は回収槽10にトラップされたもの、炉内から外部への排気管を通って回収槽に至る配管内部、および回収槽以降の排気ラインの内壁から回収した。以下に、この回収された塩化亜鉛のリサイクル処理を示す。
【0045】
実施例2では、図3の管状炉1の炉芯管内に設置された透明石英管2内に金属亜鉛(固形亜鉛)19.4gを装入、加熱して亜鉛蒸気とした後、純度6Nの液体四塩化珪素28.0mLを58℃の恒温槽5で気化させた四塩化珪素ガスを、亜鉛蒸気が満たされた透明石英管2内に供給して、1000℃の温度に保った状態で金属亜鉛と接触させて亜鉛還元反応を行い、高純度の多結晶シリコンを生成、回収し、同時に塩化亜鉛を副生物として回収した。
この副生された塩化亜鉛中のシリコン(SiOも含む)の混入量は80ppmであった。次に、この塩化亜鉛をシリコンの混入量が5ppm以下になるまでレパルプ洗浄を施してシリコン並びに不純物の除去を行った塩化亜鉛37.2gを、図2の製造工程の概略フロー図に沿って処理を行い、17.0gの金属亜鉛が得られた。
【0046】
その詳細は、塩化亜鉛37.2gから、(1)の工程において水酸化亜鉛25.8gと、塩化ナトリウム水溶液が生成され、その塩化ナトリウム水溶液の陽イオン交換膜電気分解処理により、塩素ガス、水素ガス、水酸化ナトリウム水溶液が得られた。水素ガスは(3)の工程において用いられ、水酸化亜鉛を還元して金属亜鉛17.0gと水を生成した。
この生成した金属亜鉛の量と、投入した金属亜鉛の量を比較して金属亜鉛の回収率を求め、その省資源性を評価して、表1に記した。
【0047】
(従来例)
実施例1と同様の製造方法により、金属シリコンから精製四塩化シリコンを得た後に亜鉛還元反応をおこさせ、目的の純度を持つ太陽電池用シリコンを精製した。
【0048】
副生した塩化亜鉛は、塩化亜鉛の回収槽および回収槽以外の箇所から回収されたすべての塩化亜鉛を用いて、熔融塩電解処理により金属亜鉛を精製し、投入金属亜鉛に対する回収率を実施例1と同様に評価して、併せて表1に記した。
このときの塩化亜鉛に含まれるシリコン(SiOも含む)は、90ppmであった。
【符号の説明】
【0049】
1 セラミック電気管状炉
2 石英製炉芯管
3 K熱電対
4 ハニカム
5 恒温槽
6 温度計
7 四塩化シリコン蒸気発生部を囲うフード
8 ガス流量計
9 Arガス配管
10 塩化亜鉛の回収槽(トラップ瓶)
11 配管
12 回収槽からの排気ライン
13 塩素成分の脱水および脱酸素部(吸収瓶)
14 塩化亜鉛の回収槽を囲うフード
20 加熱されるユニチューブ
21 3方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗金属シリコンを塩化処理した四塩化珪素を蒸留して不純物を分離した精製四塩化珪素に、亜鉛を接触させて還元し、塩化亜鉛と高純度金属シリコンを生成する多結晶シリコンの精製方法において、以下の(1)〜(3)の工程を有することを特徴とする多結晶シリコンの精製方法。
(1)生成した前記塩化亜鉛に水酸化ナトリウム水溶液を添加し、水酸化亜鉛及び塩化ナトリウム水溶液を得る湿式反応工程。
(2)前記(1)の工程で得た塩化ナトリウム水溶液を電気分解して陽極表面から発生する塩素ガスと、陰極表面から発生する水素ガスと、残置の水酸化ナトリウム水溶液とに分離する電解工程。
(3)前記(2)の工程の陰極から発生した水素ガスを用いて、前記(1)の工程で得られた水酸化亜鉛を還元して金属亜鉛を生成する還元工程。
【請求項2】
前記(2)の工程で得た水酸化ナトリウム水溶液が、前記(1)の工程の水酸化ナトリウム水溶液として用いられることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンの精製方法。
【請求項3】
前記(3)の工程で得られた塩素ガスが、減圧処理により混在する酸素を分離して液化塩素となり、前記液化塩素は、前記粗金属シリコンから四塩化珪素への塩化に用いられることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178586(P2011−178586A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42615(P2010−42615)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】