説明

多結晶ダイヤモンドエレメント

PCDインサートの一実施形態は、接触面において超硬合金基板に接合されたPCDエレメントの一実施形態を備える。PCDエレメントは、間の間隙を画定する内部ダイヤモンド表面を有する。PCDエレメントは、加工表面と、加工表面に隣接する低融点領域であって、大気圧下で約1300℃未満、又は大気圧下で約1200℃未満の融点を有する低融点金属材料で間隙が少なくとも部分的に充填された低融点領域とをさらに備える。PCDエレメントは、中間領域を含み、中間領域の間隙は、少なくとも部分的にダイヤモンド用触媒材料で充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンド(PCD)エレメントに関し、具体的には、これに限定されないが、採鉱、トンネル掘削、建設、並びに石油及びガス産業において、舗装、岩石構造等を処理若しくは削り取る、又は地殻を穿孔するために使用することができるような、ピック及び回転ドリルビット等の攻撃ツール及びカッターにおける使用に好適なPCDエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
地殻の穿孔に使用されるドリルビット用のカッターインサートは、超硬合金基板に接合された多結晶ダイヤモンド(PCD)の層を備えることができる。そのようなカッターインサートは、多結晶ダイヤモンドコンパクト(PDC)と呼ぶことができる。
【0003】
PCDは、超砥粒材料とも呼ばれる超硬質材料の一例であり、ダイヤモンド粒間の間隙を画定する骨格量を形成する、実質的に内部成長したダイヤモンド粒の塊を含む。PCD材料は、少なくとも約80体積%のダイヤモンドを含み、ダイヤモンド粒の凝集塊を、焼結助剤の存在下で、約5GPaを超える超高圧及び少なくとも約1200℃の温度に供することにより作製することができる。
【0004】
PCDに好適な焼結助剤は、ダイヤモンド用触媒材料と呼ぶこともできる。ダイヤモンド用触媒材料は、ダイヤモンドがグラファイトよりも熱力学的に安定である圧力及び温度条件下で、ダイヤモンド粒の直接的な内部成長を促進することができる材料として理解される。いくつかのダイヤモンド用触媒材料は、周囲圧力下においては、特に高温でダイヤモンドからグラファイトへの変換を促進し得る。ダイヤモンド用触媒材料の例は、コバルト、鉄、ニッケル、及びこれらのいずれかを含むある種の合金である。PCDは、PCD用コバルト触媒材料源を提供し得るコバルト焼結炭化タングステン基板上に形成することができる。PCDの間隙は、少なくとも部分的に、結合剤又は充填材料とも呼ぶことができる材料で充填されてもよい。特に、間隙は、ダイヤモンド用触媒材料で完全に又は部分的に充填されてもよい。
【0005】
PCDを備える部品は、硬質又は研磨性材料、例えば岩石、金属、セラミック、複合材及び木材含有材料等を切断、機械加工、掘削又は削り取るための広範なツールにおいて使用される。例えば、PCD体は、一般に、石油及びガス採掘産業において地殻を穿孔するために使用されるドリルビットへのカッターインサートとして使用される。また、PCD体は、自動車製造産業において使用され得るような、金属含有体の機械加工及びフライス加工にも使用される。これらの用途の多くにおいて、岩石構造、加工物又は高エネルギー体を処理する際に、PCD材料の温度が上昇する。
【0006】
PCDは、極めて硬質及び耐摩耗性であり、そのため最も過酷で高い生産性が求められる機械加工及び掘削条件のいくつかにおいて、好ましいツール用材料である。充填材料としてダイヤモンド用触媒材料を含有するPCDの欠点は、約400℃超での比較的低い熱安定性であり得る。触媒材料は、PCDコンパクトの製造及び使用において発生し得るような高温、具体的には約750℃を超える温度でPCDの分解を促進し得る。
【0007】
米国特許出願公開第2007/0079994号明細書は、ダイヤモンド接合体表面より下の距離に延在する熱安定領域を備えるダイヤモンド接合体を含む熱安定ダイヤモンド接合コンパクトを開示している。熱安定領域は、互いに接合されたダイヤモンド結晶のマトリックス第1相と、マトリックス第1相内に介在する第2相とを備える材料微細構造を有する。第2相は、高圧/高温(HPHT)条件下で1種又は複数の溶浸材料とダイヤモンド結晶との間で形成される、1種又は複数の反応生成物を含む。溶浸材料又は置換材料は、Si、Cu、Sn、Zn、Ag、Au、Ti、Cd、Al、Mg、Ga、Geの元素のうちの1種又は複数を含んでもよく、これらはまた、溶媒触媒が別の材料との反応により不活性化されている、従来の溶媒触媒材料(遷移金属)を含有する化合物中に使用されてもよい。
【0008】
米国特許出願公開第2008/0230280号明細書は、表面から離れて位置し、置換材料を含む第1の領域を備えるPCD構造を開示している。置換材料は、第1の領域におけるダイヤモンド結晶間の間隙領域に配置された非触媒材料であってもよい。非触媒材料は、約1200℃未満の融点を有することができ、低融点金属材料、及び/又は、銅等の周期表の第IB族からの元素を含み得る元素を含む合金から選択され得る。さらに、置換材料は、炭素の溶解度が無視できる、又は該溶解度を示さないのが望ましい。
【0009】
向上した熱安定性を有する多結晶ダイヤモンド(PCD)エレメントを提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、向上した熱安定性を有するPCDエレメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、内部ダイヤモンド表面を有する多結晶ダイヤモンド(PCD)エレメントであって、その内部ダイヤモンド表面は、それらの間の間隙を画定し、PCDエレメントは、加工表面と、加工表面に隣接する低融点領域であって、大気圧下で約1300℃未満、又は大気圧下で約1200℃未満の融点を有する低融点金属材料で間隙が少なくとも部分的に充填された低融点領域と、低融点領域により画定される境界から約5ミクロンから約600ミクロンの距離に延在する中間領域とを備え、中間領域の間隙は、少なくとも部分的にダイヤモンド用触媒材料で充填されている、上記多結晶ダイヤモンドエレメントを提供する。
【0012】
一実施形態において、PCDエレメントは、接触面において基板に接合され、PCDエレメントの中間領域は、低融点領域及び接触面により画定される境界から延在する。いくつかの実施形態において、中間領域は、境界から最大約400ミクロン、最大約200ミクロン、最大約100ミクロン、最大約50ミクロン、最大約10ミクロン、又はさらに最大約5ミクロンの距離に延在する。いくつかの実施形態において、中間領域は、境界から少なくとも約5ミクロン、少なくとも約10ミクロン、少なくとも約50ミクロン、少なくとも約100ミクロン、又はさらに少なくとも約200ミクロンの距離に延在する。
【0013】
本発明の一実施形態において、中間領域の間隙は、焼結助剤又はダイヤモンド用触媒材料、例えばコバルトで少なくとも50%充填されている。
【0014】
いくつかの実施形態において、低融点領域は、加工表面からPCDエレメント内へ、最大約1000ミクロン、最大約500ミクロン、又は最大約100ミクロンの深さに延在する。いくつかの実施形態において、低融点領域は、加工表面からPCDエレメント内へ、少なくとも約5ミクロン、少なくとも約10ミクロン、少なくとも約50ミクロン、少なくとも約100ミクロン、又はさらに少なくとも約200ミクロンの深さに延在する。
【0015】
一実施形態において、低融点領域は、階層又は層の形態である。いくつかの実施形態において、低融点領域は、加工表面から少なくとも約40ミクロン、少なくとも約100ミクロン、又はさらに少なくとも約200ミクロンの深さに延在する層又は階層の形態である。
【0016】
本発明の一実施形態において、低融点領域内の間隙は、低融点金属材料で少なくとも50パーセント、少なくとも約70パーセント、少なくとも約80パーセント、又は少なくとも約90パーセント充填されている。
【0017】
本発明の一実施形態において、低融点金属材料は、大気圧下で1100℃未満の融点を有する。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、低融点金属材料は、大気圧下で約600℃を超える、又は約700℃を超える融点を有する。
【0019】
本発明の実施形態は、数百℃の温度でPCDエレメントがツールキャリアにろう付けされる際に、低融点金属材料が実質的に溶融しないという利点を有する。
【0020】
本発明の一実施形態において、低融点金属材料は、大気圧下で約1000℃未満で反応して安定な炭化物を形成することができない。
【0021】
本発明の実施形態は、低融点金属材料がダイヤモンドと反応して炭化物を形成しないという利点を有する。炭化物粒の形成は、製造中の低融点金属材料の溶浸速度を抑制することが可能で、また、新たな相及び化合物の形成とともに生じる体積変化に起因して、間隙内に望ましくない応力を形成し得る。低融点金属材料とPCDのダイヤモンドとの間の反応の反応生成物として炭化物が形成されることで、必然的に周囲のダイヤモンドの一部が反応の犠牲となることが余儀なくされ、これは微細構造の完全性を低下させ得る。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、低融点金属材料は、元素形態のAg、Mg、Cu若しくはPb又はこれらの元素のいずれかを含む合金であり、いくつかの実施形態において、低融点金属材料は、元素形態のAg若しくはCu又はこれらの元素のいずれかを含む合金である。一実施形態において、低融点金属材料は、実質的に耐酸化性であるという特性を有する。
【0023】
本発明の実施形態は、強度を実質的に低下させずに、向上した熱安定性を有するという利点を有する。
【0024】
本発明の一実施形態において、PCDエレメントは、接触面においてコバルト焼結炭化タングステン基板等の超硬合金基板に接合され、一実施形態において、PCDエレメントは、PCD及び硬質金属の熱膨張率の中間の熱膨張率を有する接合層を介して硬質金属基板に接合される。一実施形態において、接合層は、ダイヤモンド粒及び金属炭化物を含み、ダイヤモンド粒は互いに実質的に接合していない。一実施形態において、PCDエレメントは、加工表面から離れた中間領域を備え、その間隙は、ダイヤモンド用触媒材料で少なくとも50%充填され、中間領域は接触面に隣接し、低融点領域はその接触面から離れている。
【0025】
本発明の第2の態様は、本発明によるPCDエレメントの一実施形態を備えるツール用インサートを提供する。
【0026】
本発明の第3の態様は、本発明によるインサートの一実施形態を備えるツールを提供する。
【0027】
いくつかの実施形態において、ツールは、硬質又は研磨性の加工物又はその他の物体、例えば岩石、コンクリート、アスファルト、金属又は硬質複合材料等の、機械加工、掘削、穿孔、切断又はその他の様式での成形若しくは削り取りに好適である。いくつかの実施形態において、ツールは、石油及びガス採掘、並びに採鉱産業において使用され得るような、地殻の穿孔、岩石の掘削又は岩石の削り取りにおける使用のためのドリルビットであり、一実施形態において、ツールは、石油及びガス産業での地殻の穿孔及び岩石の掘削における使用のための回転ドラッグビットである。
【0028】
本発明の第4の態様は、PCDエレメントを作製するための方法であって、PCD体の間隙内に焼結助剤を含むPCD体を提供するステップと、多結晶ダイヤモンドエレメントの一部から焼結助剤の少なくとも一部を除去して加工表面に隣接する多孔質領域を形成するステップと、大気圧下で約1300℃未満、又は大気圧下で約1200℃未満の融点を有する低融点金属材料を、多孔質領域の少なくとも一部に溶浸又は浸透させるステップとを含む、上記方法を提供する。
【0029】
一実施形態において、焼結助剤の実質的に全てが、PCDエレメントから除去される。
【0030】
本発明の方法の一実施形態は、多孔質領域の一部内の細孔を低融点金属材料で充填するのを防止又は回避するステップを含む。
【0031】
本発明の方法の一実施形態は、コバルト等のダイヤモンド用触媒材料を含む材料を、低融点金属材料で充填されていない多孔質領域の一部に溶浸させるステップを含む。
【0032】
本発明の一実施形態において、ダイヤモンド用触媒材料を含む材料を溶浸させる前に、十分な量又は所定量の低融点金属材料を多孔質領域内に導入させるように、制御温度サイクルが使用される。
【0033】
ここで、図面を参照しながら、制限されない実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】PCDエレメントの一実施形態の概略的な縦断面図である。
【図2】図1に示す実施形態の領域の概略的な拡大断面図である。
【図3A】PCDコンパクト又はインサートを製造するための方法の一実施形態において使用される部品の、概略的な斜視図である。
【図3B】PCDコンパクト又はインサートの一実施形態の概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
全ての図面において、同じ参照番号は、別段の指定がない限り同じ特徴を指す。
【0036】
本明細書において使用される場合、インサート又はエレメントの「加工表面」は、使用中に加工される加工物又は物体と接触し得る、インサート又はエレメントの任意の部分である。加工表面の任意の部分もまた加工表面であることが理解される。
【0037】
本明細書において使用される場合、「低融点金属材料」という用語は、高い電気伝導性、熱伝導性及び破壊靱性を含む金属の特徴的な特性を有する、元素又は合金形態の金属を意味する。この用語は、金属の炭化物、酸化物、窒化物、炭窒化物、及び他のセラミック又は金属特性を有さない中間低融点金属材料等の金属化合物を除く。
【0038】
本明細書において使用される場合、ダイヤモンド用触媒材料は、ダイヤモンドがグラファイトよりも熱力学的に安定である圧力及び温度条件下で、ダイヤモンド粒の沈殿、成長及び/又は焼結を促進することができる材料である。ダイヤモンド用触媒材料の例は、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン及びこれらの元素のいずれかを含むある種の合金である。いくつかのダイヤモンド用触媒材料は、周囲圧力下においては、特に高温でダイヤモンドからグラファイトへの変換を促進し得る。
【0039】
図1及び図2を参照すると、PCDインサート200の一実施形態は、接触面116において超硬合金基板220に接合されたPCDエレメント100の一実施形態を備える。PCDエレメント100の実施形態は、内部ダイヤモンド表面102を有し、内部ダイヤモンド表面102は、それらの間の間隙104を画定する。PCDエレメント100は、加工表面114と、加工表面114に隣接する低融点領域111であって、大気圧下で約1300℃未満、又は大気圧下で約1200℃未満の融点を有する低融点金属材料で間隙104が少なくとも部分的に充填された低融点領域111とをさらに備える。中間領域112は、境界116から約5ミクロンから約600ミクロンの距離に延在し、中間領域112の間隙104は、少なくとも部分的にダイヤモンド用触媒材料で充填されている。この実施形態において、境界は接触面である(両方とも参照番号116で示されている)。
【0040】
用途の種類に依存して、広範な形状及びサイズのPCDインサートを作製することができることが、当業者には理解される。このインサートは、インサートが高温に供され得る用途、したがって高温安定性が重要である用途において特に有利である。特に好ましい用途は、石油及びガス産業において岩石の掘削及び地殻の穿孔に使用される、回転ドリルビット用のインサートとしての用途である。
【0041】
図3Aを参照すると、PCDエレメントを作製するための方法の一実施形態は、当技術分野において周知の超高圧高温(HPHT)法を用いて製造されたPCDインサート300を提供するステップを含む。インサート300は、超硬合金硬質金属基板320に一体的に接合されたPCDエレメント310を備える。PCDエレメント310の微視的な間隙(図示せず)は、実質的にコバルト触媒材料で充填されている。PCDエレメント310の少なくとも一部がインサート300から分離されてPCD体311を形成する。PCDエレメント310を分離する1つの手法は、基板320を研削することである。PCD体311は、間隙から触媒材料を除去するために処理され、多孔質で熱安定性のPCDエレメント312が生成される。次いで、多孔質PCDエレメント312の片側を第2の超硬合金基板340に接触させ、反対側を低融点金属材料源330に接触させる。源330は、薄い箔若しくはディスク、又は粉末の形態であってもよい。基板340は、炭化タングステン粒及びコバルト金属結合剤を含み、金属結合剤は、ダイヤモンド粒の成長及び焼結を促進するための触媒材料として作用することができる。このように基板340と箔又はディスク330との間に「挟持」された多孔質PCDエレメント312は、約5GPaを超える超高圧下、低融点金属材料を溶融する、及び基板340のコバルト金属結合剤を溶融するのに十分高い温度で処理され、結果的にその一部が多孔質PCDエレメント312内に溶浸する。温度サイクルは、コバルト金属結合材料が溶融して多孔質PCDエレメント312内に溶浸する前に、十分な量又は所定量の低融点金属材料を多孔質PCDエレメント312内に導入させるように制御することができる。この処理の後、得られたインサートを取り出し、最終的な寸法及び許容差まで処理して、超硬合金基板220に接合されたPCDエレメント100を備える、図3Bに示される完成されたPCDインサート200の一実施形態を生成する。
【0042】
一実施形態において、PCD体は、一対の対向する表面の間で少なくとも約1.5mm又は少なくとも約1.8mmの厚さを有し、その対の一方は低融点金属材料源と接触し、対の他方はダイヤモンド用触媒材料源と接触している。
【0043】
本発明の方法の一実施形態は、低融点金属材料源を、低融点金属材料の融点から触媒材料の融点までの範囲内の温度まで加熱するステップと、低融点金属材料の溶浸又は浸透が完了するのに十分な期間、温度をこの範囲内に維持するステップとを含む。一実施形態において、次いで温度は、触媒材料の導入が完了するための期間、触媒材料の融点を超える温度まで上昇される。
【0044】
方法の一実施形態は、多孔質PCD体の1つの表面を銀の源と接触させるステップと、PCD体の別の表面をコバルトの源と接触させてアセンブリを形成するステップと、アセンブリを少なくとも約5.5GPaの圧力に供するステップと、その圧力下での銀の融点を超えその圧力下でのコバルトの融点を下回る範囲内の温度までアセンブリを加熱するステップと、少なくとも約2分間又は少なくとも約3分間、この範囲内に温度を維持するステップと、次いで温度をこの圧力下でのコバルトの融点を超える温度まで上昇させるステップとを含む。
【0045】
方法の一実施形態は、多孔質PCD体の1つの表面を銅の源と接触させるステップと、PCD体の別の表面をコバルトの源と接触させてアセンブリを形成するステップと、アセンブリを少なくとも約5.5GPaの圧力に供するステップと、その圧力下での銅の融点を超えその圧力下でのコバルトの融点を下回る範囲内の温度までアセンブリを加熱するステップと、少なくとも約1分間又は少なくとも約2分間、この範囲内に温度を維持するステップと、次いで温度をこの圧力下でのコバルトの融点を超える温度まで上昇させるステップとを含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、期間は、最長約15分、又はさらに最長約10分である。
【0047】
焼結PCD体は、超高圧炉内で、ダイヤモンド用触媒材料の存在下、少なくとも約5.5GPaの圧力及び少なくとも約1300℃の温度でダイヤモンド粒同士を焼結することにより生成することができる。触媒材料は、従来の遷移金属系ダイヤモンド触媒材料、例えばコバルト、鉄若しくはニッケル、又はこれらのある種の合金を含むことができる。次いで、焼結PCD体は、例えば、酸浸出又は当技術分野において知られている別の同様の処理を使用してPCD体又は所望の領域から結合剤触媒材料の大部分を除去することで、全体又は少なくともその一領域を熱安定化することができる。
【0048】
PCD体311内に存在する触媒材料は、電解腐食、蒸発技術、酸浸出(例えば、フッ化水素酸、硝酸若しくはこれらの混合物を含有する溶液への含浸によるもの)等の当技術分野において知られた様々な方法のいずれかにより、又は国際特許公開第2007/042920号パンフレットに開示されるように塩素ガスを用いて、又は別の方法(例えば南アフリカ特許第2006/00378号に開示されるもの等)により除去することができる。
【0049】
方法の一実施形態において、図3A中のPCDインサート300と同様のPCDインサートが提供される。PCDエレメントの加工表面に隣接する領域は、当技術分野において知られている方法により、触媒材料が実質的に消失している。低融点金属材料が、多孔質領域の細孔内に導入される。導入方法のパラメータは、多孔質領域部分内の空隙を維持するように制御され得る。次いで触媒材料を、マスキング又は不動態化された領域の残りの細孔内に溶浸させる。これは、触媒材料源を、PCDエレメントの加工表面に接触させ、PCDインサート及び源を、PCDのHPHT焼結に使用される種類のカプセルとして組み立て、このアセンブリを、触媒材料が融解してダイヤモンドがグラファイトよりも熱力学的に安定である超高圧高温に供することにより行うことができる。いくつかの実施形態において、圧力は、少なくとも約5.5GPa、少なくとも約6GPa又は少なくとも約6.5GPaである。一実施形態において、圧力は、約6.8GPaである。
【0050】
本発明による低融点金属材料は、ダイヤモンドに対して実質的に不活性であり、周囲圧力下でその溶解又は分解を実質的に促進しない。低融点金属材料は、PCDエレメント内の熱伝導性充填剤として機能する。いかなる具体的な仮説にも束縛されることを望まないが、低融点金属材料は、使用中に生じ得る高温、すなわち最高約1100℃の温度でダイヤモンドを分解しないと考えられる。低融点金属材料が固相にある温度では、間隙内のその存在は、PCDの強度を向上させ得る。さらに、低融点金属材料の高い熱伝導率は、浸出後のPCDと比較して、多結晶ダイヤモンドエレメントの熱安定性をさらに向上させ得る。低融点金属材料が溶融相にあるか又はそれに近い温度では、低融点金属材料が熱膨張又は溶融した際に間隙から漏出することにより、PCD内の応力の蓄積が防止され得る。その融点近辺の固体材料は一般に降伏強さが大きく低減され、それにより熱膨張率の不整合に起因して生じ得る微小応力の蓄積が低減される。金属の溶融又は軟化は、高温での多結晶ダイヤモンドエレメントの動きを潤滑にする追加的な利点を有し得る。低融点金属材料の低融点は、製造中、多結晶ダイヤモンドエレメント内に溶浸するために必要な温度が比較的低いことを意味する。本発明の方法のいくつかの実施形態において、溶浸の速度及び程度は、非常に高い温度を使用する必要なく、温度を制御することでその粘度を制御することによって、容易に制御することができる。
【実施例】
【0051】
ここで、以下の限定されない実施例を参照しながら、単なる一例として本発明を説明する。
【0052】
(例1)
石油及びガス採掘用の回転ドラッグビットにおける使用のための、約16mmの直径を有するPCDインサートを、出発部品として使用した。インサートは実質的に円筒状の形態であり、Co焼結WC硬質金属基板に一体的に接合されたPCD層を備えていた。PCD層は厚さ約2.3mmであり、ダイヤモンド粒径分布は多峰性型であり、約20ミクロン未満の平均粒径を有する焼結ダイヤモンド粒と、Coで充填されたダイヤモンド粒間の間隙と、PCDの焼結ステップ中に硬質金属基板から供給された触媒金属とを含んでいた。硬質金属基板の実質的に全てを機械加工によりPCD層から除去し、PCDディスクを生成した。次いで、フッ化水素酸及び硝酸の混合物に数日間含浸することにより実質的に全てのCoを除去し、分離した多孔質PCDディスクを得た。存在し得るいかなる残留有機不純物も除去する(すなわち「脱ガス」する)ために、PCDディスクを真空下で熱処理した。
【0053】
次いで多孔質PCDディスクに、片側からコバルトを、反対側から銅を再溶浸させると同時に、ディスクを第2のCo焼結WC基板に再接合した。この再溶浸ステップは、ダイヤモンドが熱力学的に安定な約5GPaを超える超高圧下、及びCoが超高圧下で溶融する約1400℃の温度で行った。このステップを行うために予成形アセンブリを調製したが、この予成形アセンブリは、円筒形基板の平坦表面上に設置された多孔質PCDディスクと、多孔質PCDディスクの上に設置された銅薄膜とを備えていた。銅膜は厚さ0.5mm未満であり、アセトン浴中で超音波洗浄されたものである。
【0054】
このように銅箔と基板との間に「挟持」されたPCDディスクを備えるアセンブリを、当技術分野において周知のように、耐熱金属ジャケット内に設置し、次にこれをセラミック製支持体内に設置し、続いてこれを別の金属容器内に密封した。予成形アセンブリを超高圧炉用のカプセルとして組み立て、超高圧高温に供した。目標圧力に達したら、長時間にわたって温度を周囲温度から最大レベルまで上昇させた。
【0055】
再溶浸ステップ後、インサートを超高圧装置から取り外し、容器及びジャケットを取り外した。次いでインサートを軸面に沿って2つの部分にスライスし、2つの断面を形成した。これらの表面の1つを研磨してSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて分析すると、PCDが基板に良好に接合されていること、及びPCD内の間隙の実質的に全てが銅、コバルト、又は銅及びコバルトの組合せにより充填されていることが判明した。銅は、平坦加工表面から約1.7mmの深さまで溶浸しており、平坦加工表面から約1.3mmの深さの領域は、実質的にコバルトを含んでいなかった。基板から約0.2mm以内のPCD間隙は、主にコバルトで充填されていたが、いくらかの銅が観察された。
【0056】
第2の試験インサートを上記のように作製して磨耗試験に供したが、この試験は、当業者には理解されるように好適に調製されたインサートを使用して、垂直タレットフライス加工装置上に装着した花崗岩ブロックを機械加工することを含んでいた。PCD層は、優れた耐摩耗性及び熱安定性を示した。
【0057】
(例2)
例1と同じプロセスを使用して再溶浸したインサートを作製したが、唯一の違いとして、銅箔の代わりに銀箔を使用した。また、例1のようにインサートを分析及び試験した。
【0058】
銀は、平坦加工表面から約2.2mmの深さまで、銅よりも深くPCD内に溶浸した。これは、銀の融点がより低いこと、またその結果銀は銅よりも早い段階で溶融し、したがってコバルトが溶融して反対方向から溶浸し始める前に多孔質PCDに溶浸する時間がより長いという事実に起因すると考えられる。
【0059】
(例3)
例2に記載のプロセスを使用して、多孔質PCDディスクを調製することができ、また超高圧下での処理の前に細孔に銀を導入することができる。これは、多孔質PCDディスクをグラファイト槽内に設置し、その上に銀膜を配置することにより行うことができるが、銀膜は、アセトン浴内で超音波洗浄されたものである。次いで槽を炉内に設置し、その内容物を真空下で銀の融点を超える温度まで、すなわち約1000℃まで加熱して銀箔を溶融させ、PCDディスクに溶浸させることができる。
【0060】
(例4)
例2に記載のプロセスを使用して、多孔質PCDディスクを調製することができ、また、スパッタリングによりPCDディスクの平坦表面上に極薄い銀膜を堆積させ、次いでそれを溶融させることにより、超高圧下での処理の前に細孔に銀を導入することができる。堆積させる銀の質量は、細孔の10%が銀で充填されるのにちょうど十分であるように、またその結果、その厚さの約10%の深さ、すなわち平坦表面から約230ミクロンの深さまでPCDに溶浸し、残りの細孔は実質的に空洞のままとするのにちょうど十分である銀を提供するように計算することができる。この質量は、約12.5ミリグラムとなり得る。膜厚は、PCD表面にわたり可能な限り均一となるべきである。
【0061】
次いで、銀被覆PCDを、被覆された表面がグラファイト槽の底から離れた状態で(すなわち頂面上にある状態で)グラファイト槽内に設置し、槽を炉内に設置することができる。槽及びその内容物を真空下で銀の融点を超える温度まで、すなわち約1000℃まで加熱し、銀被覆を溶融させPCDディスクに溶浸させることができる。
【0062】
(例5)
自立した完全浸出PCDディスクを、例1に記載のものと同様のプロセスに従い生成した。少なくとも2つの異なるピークに分離し得る粒径分布を有するダイヤモンド粉末を、コバルト焼結炭化タングステン基板上に設置し、このアセンブリを耐熱金属ジャケット内に封入し、少なくとも約5.5GPaの超高圧及び少なくとも約1500℃の温度に供して、基板に接合されたPCD層内にダイヤモンド粉末を焼結させた。焼結後、炭化物ベースをラッピングすることによりPCDディスクを基板から分離し、当技術分野において周知のように、酸溶液中での浸出によりコバルトの実質的に全てをPCDの間隙から除去して、略ディスク形態の多孔質PCD体を形成した。
【0063】
銅ディスクを多孔質PCD体の一方の端部上に設置し、コバルト焼結炭化タングステン基板をPCD体の反対側の端部上に設置し、このアセンブリを耐熱金属ジャケット内に封入した。多孔質PCD体は、このように基板と銅ディスクとの間に挟持された。銅ディスクは、約0.25mmの厚さ、及びPCD体の直径と実質的に同じ直径を有していた。銅ディスクの質量は約420mgであったが、これはPCD体の体積の約10パーセント未満に等しく、また浸出プロセス中に形成される空隙全体を充填するのに必要な体積を上回ると考えられるレベルであった。
【0064】
HPHT焼結に関する技術分野において知られている様式でアセンブリをさらに閉じ込め、約1410℃の温度及び約5.2GPaの圧力での第2の高圧熱サイクルに供した。銅及びコバルトを含有し、基盤に接合されたPCD層を備えるPCDインサートを回収し、最終的な仕様まで機械加工し、PCDカッターインサートを形成した。
【0065】
PDCカッターインサートをフライス加工試験に供したが、この試験は花崗岩加工物の高回転速度切断を含み、非常に熱的に過酷な試験であると考えられる。その結果は、銅の再溶浸プロセスを施さなかった対照PCDカッターインサートの熱安定性を超える、劇的な熱安定性の改善を示している。
【0066】
(例6)
例5に記載の方法を用いてさらなる材料を作製したが、ただし銅ディスクを520mgの銀粉末で置き換えた。この場合も、質量は、完全浸出ディスクの約10体積%に対応するように選択した。第2の高圧熱サイクルに選択された条件は、例5において使用された条件と同一であった。この材料の性能結果は、非再溶浸PCDの熱安定性を超える熱安定性の改善を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部ダイヤモンド表面を有する多結晶ダイヤモンド(PCD)エレメントであって、前記内部ダイヤモンド表面がそれらの間の間隙を画定し、前記PCDエレメントは、加工表面と、その加工表面に隣接する低融点領域であって、大気圧下で約1300℃未満の融点を有する低融点金属材料で前記間隙が少なくとも部分的に充填された低融点領域と、前記低融点領域により画定される境界から約5ミクロンから約600ミクロンの距離に延在する中間領域とを備え、前記中間領域の間隙は、少なくとも部分的にダイヤモンド用触媒材料で充填されている、前記多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項2】
中間領域が、境界から最大約400ミクロンの距離に延在する、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項3】
中間領域が、境界から少なくとも約5ミクロンの距離に延在する、請求項1又は2に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項4】
中間領域の間隙が、焼結助剤又はダイヤモンド用触媒材料で少なくとも50%充填されている、請求項1から3までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項5】
低融点領域が、加工表面からPCDエレメント内へ、最大約1000ミクロンの深さに延在する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項6】
低融点領域が、加工表面からPCDエレメント内へ、少なくとも約5ミクロンの深さに延在する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項7】
低融点領域が、階層又は層の形態である、請求項1から6までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項8】
低融点領域内の間隙が、低融点金属材料で少なくとも50%充填されている、請求項1から7までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項9】
低融点金属材料が、大気圧下で1100℃未満の融点を有する、請求項1から8までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項10】
低融点金属材料が、大気圧下で600℃を超える融点を有する、請求項1から9までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項11】
低融点金属材料が、大気圧下で1000℃未満で反応して安定な炭化物を形成することができない、請求項1から10までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項12】
低融点金属材料が、元素形態のAg、Mg、Cu若しくはPb又はこれらの元素のいずれかを含む合金である、請求項1から11までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項13】
低融点金属材料が、元素形態のAg若しくはCu又はこれらの元素のいずれかを含む合金である、請求項1から12までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメント。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンドエレメントを備えるツール用インサート。
【請求項15】
請求項14に記載のインサートを備えるツール。
【請求項16】
多結晶ダイヤモンド(PCD)エレメントを作製するための方法であって、PCD体の間隙内に焼結助剤を含むPCD体を提供するステップと、多結晶ダイヤモンドエレメントの一部から焼結助剤の少なくとも一部を除去して加工表面に隣接する多孔質領域を形成するステップと、大気圧下で1300℃未満の低融点を有する低融点金属材料を、多孔質領域の少なくとも一部に溶浸又は浸透させるステップとを含む、上記方法。
【請求項17】
焼結助剤の実質的に全てが多結晶ダイヤモンドエレメントから除去される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2012−519776(P2012−519776A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552569(P2011−552569)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050977
【国際公開番号】WO2010/100630
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(507142155)エレメント シックス (プロダクション)(プロプライエタリィ) リミテッド (44)
【Fターム(参考)】