多繊毛上皮細胞における繊毛の機能不全に関連する疾患を治療するためのマイクロRNAの使用
本発明は、脊椎動物被験体、特に哺乳類、好ましくはヒトにおける繊毛上皮組織の再生および/または分化能を評価する方法、および多繊毛上皮細胞の機能不全に関連する疾患の治療におけるマイクロRNAの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、脊椎動物、特に哺乳類、特にヒトにおける、機能的毛様体形成をもたらす繊毛上皮の再生および分化の分野、および該上皮の再生および分化のプロセスにおけるマイクロRNAの関与、ならびに該マイクロRNAによって変調される遺伝子に関する。
【0002】
本発明はより詳しくは、多繊毛上皮細胞の繊毛の機能不全に関連する疾患、特に、気道上皮の再生および/または分化に欠陥がある慢性呼吸器系疾患などの、非機能的毛様体形成から生じる障害の治療におけるマイクロRNAの使用に関する。
【0003】
上皮の先端面を覆う繊毛細胞は、気道洗浄、胚移植または脳脊髄液循環などの種々の生理学的プロセスに不可欠である。不完全な毛様体形成は、多様な疾患の直接的原因であるか、または多様な疾患に関連する。
【0004】
毛様体形成プロセスには、繊毛細胞の属性の獲得(フェーズ1)で始まる一連の事象が含まれる。この第一段階は、Notchとdelta−like 1(DLL1)などのそのリガンドの間の相互作用を介してNotchシグナル伝達系による2つの隣接する細胞間の一方を阻害することからなる。DLL1リガンドを発現する細胞は繊毛細胞の前駆細胞となると同時に、隣接する細胞におけるNotchの活性化がこれらの細胞の繊毛細胞前駆細胞への変換を妨げる。本発明者らは、繊毛細胞の前駆細胞がmiR−449ファミリーのマイクロRNAと転写因子FOXJ1を発現することを示した。フェーズ2では、このmiR−449が細胞分裂を阻害し、分化を誘導する。繊毛細胞の前駆細胞において中心小体の増殖が始まり、この増殖に続いて基底小体の、細胞の頂端極への係留が起こるが、この段階の後に、適宜、軸糸の組み立ておよび繊毛合成が起こる。
【0005】
上皮は内部媒体と外部環境の間のバリア機能を果たす。気道は、粘液を分泌し、繊毛で覆われた基底細胞(各繊毛細胞は何百という繊毛を持つ)からなる高度に分化した多列上皮で被覆されている。上皮表面に存在するこれらの多数の繊毛の協調した運動が、粘液繊毛クリアランスと呼ばれるプロセスの際、粘液によって運ばれた老廃物の除去を可能とする。これに関して、繊毛は第一線気道感染に対する防御プロセスにおいて重要な役割を果たす(Puchelle et al. Proc Am Thorac Soc (2006) 3, 726-733)。
【0006】
気道上皮が病原性微生物、アレルゲン、毒性分子などによって引き起こされる環境ストレスに恒久的に曝されると、組織病変が生じる。これらの病変の後、気道上皮再生の生理学的プロセスが働き始める。このプロセスは、成功すれば、病変を修復し、呼吸器系組織の健全性を回復させ、病変は、分化して再び機能的となった組織に置き換わる。
【0007】
この再生にはいくつかの段階が含まれる:
1)創傷床を埋めるために上皮細胞が増殖かつ/または遊走する、
2)これらの第一段階の後に、密着結合の形成および頂端極と基底極の間の膜タンパク(チャネル、イオン輸送体など)の特定の差示的対応を特徴とする細胞の極性化の段階の活性化が起こる(Puchelle et al. 2006; Hajj, R. et al. J Pathol (2007) 211, 340-350)、
3)繊毛細胞の表面における繊毛の形成(毛様体形成)と粘液の合成および分泌を担う分泌細胞の存在をもたらす最終分化段階。
【0008】
このようにして、多列粘液繊毛上皮が病変に取って代わり、元の組織と同じ特性を有する機能的繊毛組織が再構成される。
【0009】
考え合わせると、これらの生物学的現象はシグナル伝達機構および特定の遺伝子発現プロフィールに関連がある。気道上皮の分化および毛様体形成に関連づけられている、ある種の既知の作用因子としては、Foxj1転写因子が最もよく議論されている(Yu, X. et al. (2008) Nat Genet 40, 1445-1453)。Foxj1は毛様体形成の最終段階で働き、軸糸形成の際に、基底小体(小オルガネラ繊毛の基底部の形成に不可欠な中心小体に近接した構造組織)の、頂端膜への係留に役割を果たす(Gomperts, B.N. et al. (2004) J Cell Sci 117, 1329-1337 (2004))。
【0010】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息または原発性繊毛ジスキネジア(PCD)、炎症および慢性感染などのある種の慢性呼吸器系疾患は、呼吸器系組織の破壊をもたらす(Marshall, W.F. (2008) J Cell Biol 180, 17-21)。まだ十分に理解されていない理由で、これらの疾患は上皮の再生および分化の欠陥に関連づけられている。これらの欠陥は、組織の異常な再構成、繊維症および不可逆的機能喪失をもたらす(Marshall, W.F., 2008)。これらの種々の疾患の治療的処置はまだ無く、呼吸器系組織の進行的破壊に様々な程度の有効性で対抗するための対症療法が利用できるに過ぎない。これに関して、機能的繊毛の形成(毛様体形成)をもたらす機構を解明することは、明確な治療利益を持った大きな挑戦と言える。
【0011】
細胞の分化は、特定の遺伝子の発現を司る転写および翻訳の精密な時間的および空間的調節を含む。これらの事象は種々の分子的および機械的シグナルによって制御される。従って、分化および毛様体形成の基礎にある生理学的機構を理解することは、より特異的かつより効果的な治療アプローチの開発の不可欠な前段階である。
【0012】
1993年に発見された、調節特性を有する約22塩基の小さな非コードRNAであるマイクロRNA(miRNAs)は、生存、アポトーシス、増殖、ホメオスタシスまたは分化などの細胞現象の調節に重要な役割を果たす(Lu, Y. et al. (2007) Dev Biol 310, 442-453)。
【0013】
それらの作用機序は、miRNAの数塩基と標的mRNAの非コード3’部分との複合体の形成を含む。この相互作用は、標的mRNAの脱安定化および/またはタンパク質合成の阻害を誘導するとされている。miRNAとその標的の間の認識は、主としてmiRNAの5’部分に位置する約7塩基の配列(以下、認識配列またはシード)によって制御される。よって、各miRNAは、広範な個々のmRNAの安定性を調節する能力を有すると考えられる。
【0014】
これまでに、ヒトにおいて750を超えるmiRNAが同定され、それらが30%を超える転写物を調節すると言われている。従って、これらのmiRNAによる調節は遺伝子発現の主要な調節であると思われるが、その影響はこれまでは過小評価されていた(Berezikov, E. et al. (2005) Cell 120, 21-24; Xie, X. et al. (2005) Nature 434, 338-345)。
【0015】
miRNAは核において長い前駆体の形態で転写される。それらは核内で最初の成熟を受けて、より小さなヘアピン構造を有するmiRNAの前駆体(pre−miRNA)を生じる。この前駆体は核から細胞質へと輸送され、そこで最終的な成熟を受ける。そのループは酵素Dicerによって分解されて2本の一本鎖miRNA(5p鎖と3p鎖)を生じ、いわゆる成熟鎖が、標的mRNAの非コード3’部分と相互作用する多タンパク質複合体(RISC複合体:RNA induced silencing複合体)によって処理され、一方、いわゆる「スター(star)」相補鎖は分解を受ける。miRNA miR−xy、miR−xy−zまたはlet−7xの相補鎖はそれぞれmiR−xy*、miR−xy−z*またはlet−7x*と呼ばれる。
【0016】
最近の研究では、マウスにおいて分化および形態形成機構、特に、胚発生および表皮の上皮細胞前駆体の増殖(Lena, A.M. et al. (2008) Cell Death Differ 15, 1187-1195; Yi, R. et al. (2008) Nature 452, 225-229)または肺発達(Lu, Y. et al. (2007) Dev Biol 310, 442-453 (2007); Harris, K.S. et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103, 2208-2213; Lu, Y. et al. (2008) Proc Am Thorac Soc 5, 300-304)におけるマイクロRNAの重要性が実証された。より正確には、Lena et al.は、マウスにおいて肺の形態形成におけるmiR−17−92遺伝子座のmiRNAの関与を実証した。マウスにおける肺の形態形成中にmiRNAが関与するという証拠はあるものの、それらの厳密な役割、そしてそれらの作用機序はまだ検討されていない。
【0017】
最後に、いくつかの研究が、癌、心肥大、糖尿病またはある種のウイルス感染などの疾患におけるある種のmiRNAの特定の役割を示唆している(Triboulet, R. et al. (2007) Science 315, 1579-1582; Calin, G.A. & Croce, C.M. (2006) Nat Rev Cancer 6, 857-866; Grassmann, R. & Jeang, K.T. (2008) Biochim Biophys Acta 1779, 706-711; Latronico, M.V., (2008) Physiol Genomics 34, 239-242; Poy, M.N. et al. (2004) Nature 432, 226-230)。
【0018】
これまでに、脊椎動物において、気道上皮などの繊毛上皮の再生および分化、ならびに毛様体形成の制御におけるmiRNAの役割または関与を実証した研究はない。
【発明の概要】
【0019】
よって、本発明者らは、脊椎動物における上皮組織の毛様体形成の制御、特に、粘液繊毛表面上皮におけるヒト気道上皮細胞の再生および分化におけるある種のmiRNAの関与を始めて実証した。
【0020】
より詳しくは、本発明者らは、miRNAのハイスループットシーケンシング、miRNAバイオチップ、ならびに定量的RT−PCRを組み合わせた種々の実験アプローチを用い、ヒト気道上皮の、また、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の胚の繊毛表皮細胞の種々の分化段階に特異的に関与するmiRNA、すなわち、1)増殖段階、2)細胞の極性化、および3)最終分化および毛様体形成の特異的miRNAの特徴を同定した。
【0021】
本発明者らはまた、このようにして同定されたmiRNAの、特にDLL1 Notchリガンドの抑制を介した上皮組織の毛様体形成の制御における役割を確認した。
【0022】
このように本発明者らは、ヒト気道上皮組織の再生および毛様体形成において示されたマイクロRNAの役割が、脊椎動物のいずれの多繊毛上皮組織の毛様体形成の機構にも外挿可能であることを示した。
【0023】
このようにして、再生および分化中の健康な気道上皮組織では、63のmiRNAが発現または抑制され、かつ/または有意な量で存在することが実証された(表III、IV、VおよびVI参照)。健康個体に比べて病的個体では1以上のmiRNAの発現に変化が見られることは1以上の遺伝子の発現の調節の欠陥の指標となり、従って、この変化は、過少発現のmiRNAもしくはmiRNAを投与することによって、かつ/または過剰発現するmiRNAまたはmiRNA群の阻害剤(antagomir)を投与することによって補うことができる。
【0024】
よって、本発明は、被験体の繊毛上皮組織の再生および分化能、従って機能的毛様体形成をもたらす能力を評価するための適用を見出し、本発明はまた該被験体の気道上皮組織の再生および/または分化能の評価を可能とし、本発明による方法はまたin vitroおよびin vivo診断の分野で特に興味深い。よって、本発明は、脊椎動物、特に哺乳類被験体、好ましくはヒトにおいて、繊毛上皮組織の機能的毛様体形成をもたらす能力を評価する方法であって、
(i)該被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の繊毛上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、1以上の他の被験体の健康な繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(このプロフィールは下記表IのmiRNAの一部または全部を含んでなる);
(iv)該被験体によるその発現レベルが該他の被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわち発現レベルのいずれか1つが他の発現レベルの少なくとも2倍に相当する、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定されたプロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、表Iの発現プロフィールにおける同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍異なる発現レベルを有する場合に、該被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力の欠陥が証明される工程
を含んでなることを特徴とする方法に関する。この発現レベルをlog2で表すと(表Iのように)、これは、log2で表される供試被験体の発現レベルが1以上の他の健康な被験体における発現プロフィールに比べて少なくとも1単位異なる場合に、少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、繊毛上皮組織の再生および/または分化能、ならびに毛様体形成能の欠陥が見られるということを意味する。
【0025】
本発明による方法の適用は、本発明者らが繊毛上皮組織の再生および/または分化能に関する診断を確立したいと考える被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィール、ならびに1以上の健康な、すなわち、繊毛上皮組織の分化および/もしくは再生ならびに毛様体形成の障害を持たないとして選択された被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールの確定を必要とする。
【0026】
そのもう1つの目的によれば、本発明は、哺乳類被験体、好ましくはヒトの気道上皮組織の再生および/または分化能ならびに機能的毛様体形成をもたらす能力を評価する方法であって、
(i)該被験体の気道上皮組織のmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の気道上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、1以上の他の被験体の該健康な気道上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(このプロフィールは下記表IのmiRNAの一部または全部を含んでなる);
(iv)該被験体によるその発現レベルが該他の被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわち発現レベルのいずれか1つが他の発現レベルの少なくとも2倍に相当する、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定されたプロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、表Iの発現プロフィールにおける同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍異なる発現レベルを有する場合に、該被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、気道上皮組織の再生および/または分化能の欠陥が証明される工程
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【発明の具体的説明】
【0027】
定義
「被験体」とは、脊椎動物個体、特に哺乳類、好ましくはヒトを意味する。好ましくは、本発明者らが繊毛上皮組織の、機能的毛様体形成をもたらす能力に関して診断を確立したいと考える被験体であり、より具体的には、気道上皮組織の再生および/または分化能を診断する対象、ならびに同じ種に属す健康な1個体の被験体または複数の被験体であり得る。
【0028】
本発明に関して、「繊毛」および「多繊毛」は区別無く用いられ、目的とする上皮組織が、それらの細胞にいくつかの繊毛を有する場合と理解される。
【0029】
ある組織におけるmiRNAの発現プロフィールとは、選択された値に相当するかまたはそれを超える発現レベルを有する全てのmiRNAを意味する。
【0030】
細胞または組織におけるmiRNAの発現レベルは、その細胞または組織に存在するmiRNAを測定することによって決定される。
【0031】
miRNAの発現レベルは、当業者に既知のいずれの技術によって測定してもよく、本発明者らは特に、RNA抽出工程後の、miRNAのハイスループットシーケンシング、NASBA(nucleic acid strand based amplification)、プライマー伸長、またはmiRNAのハイブリダイゼーションを可能とするDNAチップによるシーケンシングを挙げる。
【0032】
miRNAの発現レベルは、以下のようなものなどの種々の手段によって表すことができる。
【0033】
*log2で表される発現レベル強度。この値は、細胞または組織に存在するmiRNAの量を表す。発現プロフィールの確定のためには、log2で表される発現レベル強度が3以上であるmiRNAを使用することが好ましい。
【0034】
この発現レベル強度は、発現したmiRNAを測定するために用いられる技術に応じた異なる手段によって計算することができる。
【0035】
Agilent型(下記に示される例を参照)のチップ上の蛍光を測定する場合には、発現レベルの測定値は蛍光強度に相当し、次にそれからlog2を計算する。ハイスループットシーケンシングの場合には、発現レベル強度は、miRNAの配列が決定される回数を示し、この数値を配列の総数に対してノーマライズした後にそのlog2を計算する。
【0036】
*細胞または組織で発現されるmiRNAの総量に対する同じ細胞または同じ組織中のあるmiRNAの発現パーセンテージを表す存在度。この場合、その存在度が0.1%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であるmiRNAが確保される。
【0037】
好ましくは、発現レベルを特徴付ける値はlog2で表される。
【0038】
下記の表Iは、発現レベルが健康ヒト気道上皮組織のmiRNAの発現レベル強度としてlog2で表される発現プロフィールを示す。
【表1】
【0039】
本発明による方法は、本発明者らがその組織の機能的毛様体形成を制御する能力、特に再生および/または分化能に関する診断の確立を望む被験体の繊毛上皮組織、特に呼吸器系のマイクロRNAの発現プロフィールを、特定の分化段階において確定された1以上の被験体の健康な繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィール(このようなプロフィールは表IVで確認することができる)と比較することからなる付加的工程を備えることができる。
【0040】
よって、本発明は、繊毛上皮組織の繊毛の機能不全に関連する障害の予防および/または治療に用いるための、配列番号1〜6、8〜52、157〜162および201の配列のhsa−miR−100、hsa−miR−106b、hsa−miR−125a−5p、hsa−miR−130a、hsa−miR−140−3p、hsa−miR−141、hsa−miR−151−5p、hsa−miR−15a、hsa−miR−16、hsa−miR−17、hsa−miR−181a、hsa−miR−191、hsa−miR−193b、hsa−miR−1975、hsa−miR−200a、hsa−miR−200b、hsa−miR−200c、hsa−miR−203、hsa−miR−205、hsa−miR−21、hsa−miR−210、hsa−miR−22、hsa−miR−224、hsa−miR−23a、hsa−miR−23b、hsa−miR−25、hsa−miR−26a、hsa−miR−26b、hsa−miR−27b、hsa−miR−29a、hsa−miR−29c、hsa−miR−30b、hsa−miR−30c、hsa−miR−30d、hsa−miR−30e、hsa−miR−31、hsa−miR−34a、hsa−miR−34b、hsa−miR−34c−5p、hsa−miR−365、hsa−miR−374a、hsa−miR−378、hsa−miR−425、hsa−miR−429、hsa−miR−449a、hsa−miR−449b、hsa−miR−449c、hsa−miR−574−3p、hsa−miR−92b、hsa−miR−939、hsa−miR−96、hsa−miR−99a、hsa−let−7a、hsa−let−7b、hsa−let−7c、hsa−let−7e、hsa−let−7fおよびhsa−let−7g、配列番号53〜58、60〜104、163〜168および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、または場合により化学的に修飾されていてもよい相補的配列鎖、ならびに配列番号105〜110、112〜156、169〜174、193〜200および203の配列のそれらの前駆体(下表I参照)から選択される、本発明による方法によって同定された少なくとも1つのmiRNAに関する。
【0041】
繊毛上皮組織とは、その細胞がそれらの先端面に繊毛を有する組織を意味し、哺乳類では、それは特に気道上皮または卵管および子宮内膜の上皮、脳の脈絡膜叢および上衣細胞の上皮、ならびに雄性の精子、精巣網および精管の上皮である。
【0042】
ある第一の一本鎖核酸断片の相補的配列鎖は、その配列が該第一の断片の配列と相補的であり、該第一断片と対合することができる、一本鎖核酸断片を意味する。
【0043】
本発明に関して、化学的に修飾された相補的配列鎖も使用可能であり、すなわち、それらの配列は、それらの細胞内および細胞外安定性を向上させ、かつ、酸性または塩基性条件での、ならびにヌクレアーゼの作用下での加水分解感受性を小さくするために化学的修飾された1以上の塩基を含んでなり、考えられる修飾としては、特に、T. M. Ranaの総説(Nature Reviews, 2007, Vol. 8: 23-36)で干渉RNA(siRNA)として挙げられ、または国際出願WO2007/021896に記載されているものがあり、特に、相補的配列鎖は、2’−デオキシ、2’−デオキシ−2’−フルオロ、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル(2’−O−MOE)、2’−O−アミノプロピル(2’−OAP)、2’−O−ジメチルアミノエチル(2’−O−DMAOE)、2’−O−ジメチルアミノプロピル(2’−O−DMAP)、2’−O−ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’−O−DMAEOE)または2’−O−N−メチルアセトアミド(2’−O−NMA)塩基などの、2’で修飾されたヌクレオチドから選択される化学的に修飾されたヌクレオチドを含んでなり得る。
【0044】
表II−本発明によるmiRNA、ならびにそれらのヌクレオチド配列、それらの相補鎖のヌクレオチド配列およびそれらの前駆体のヌクレオチド配列の参照
【表2】
【0045】
従って、本発明によるmiRNAは、いわゆる原発性繊毛病、すなわち、繊毛の機能不全に直接関連する疾患の予防および/または治療に対して特に注目され、これらの原発性繊毛病は特に、
原発性繊毛ジスキネジアまたはカルタゲナー症候群;
内臓逆位;
雄性不妊症(精子の運動)および雌性不妊症(例えば、子宮外妊娠);
アルストレム症候群;
バルデー・ビードル症候群;
メッケル・グルーバー症候群;
多発性嚢胞腎;
網膜変性;
シーニア・ローケン症候群
である。
【0046】
本発明によるmiRNAはまた、いわゆる続発性繊毛病、すなわち、
膵臓線維症;
慢性閉塞性肺疾患(COPD);
喘息;
細気管支炎;
ウイルス起源の呼吸器系感染
などの繊毛機能の欠陥に関連する疾患の予防および/または治療に対して注目される。
【0047】
従って、本発明による使用は、より詳しくは、気道上皮の再生および/または分化の障害を含む病態の予防および/または治療に適用が見出せ、これらの病態としては、特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息、原発性繊毛ジスキネジア、気道の慢性炎症および感染ならびに呼吸不全などの慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患がある。
【0048】
慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患(例えば、COPD、膵臓線維症、喘息、PCD、アレルギー性鼻炎など)は、主要な公衆衛生問題であり、工業国における死因の第4位であり、罹患率が急速に増加していることから、これらの疾患の治療により良くねらいを定めることができるように、それらの原因および機構をより良く理解する必要に迫られている。
【0049】
喘息は、小児では最も多い慢性呼吸器系疾患であり(5〜20%)、入院の主な原因の1つとなっている。呼吸器系アレルギーの急増および工業汚染の増加が、一般集団における喘息の原因の大きな増加の原因となっている(O van Schayck, et al. IPAG DIAGNOSIS & MANAGEMENT HANDBOOK. Chronic Airways Diseases. A Guide for Primary Care Physicians. 1-34, 2005)。
【0050】
COPDは、罹患率と高い死亡率に関連する一群の呼吸器系疾患である。COPDは吸入された有害粒子(煙草が最も代表的である)によって引き起こされ、呼吸器系組織を弱らせる炎症および慢性感染をもたらす。喫煙者の約15%が一生のうちにCOPDを発症する可能性がある。世界保健機関は、世界で11億人近くの喫煙者が存在し、COPD罹患率は世界の集団の0.8〜6%であると推計している。研究では、2020年にはCOPDは世界の死因の第3位になると推測されている。これらの疾患の原因および機構はまだ知られていない部分が大きいが、おそらく他の因子(遺伝的、後成的)もCOPDの発症に影響を及ぼしている可能性がある(O van Schayck, et al. 2005)。
【0051】
膵臓線維症は、外分泌腺、従って、様々な器官(肺、膵臓、肝臓、汗腺、腸)のあらゆる分泌上皮組織を侵す、白色人種集団において最も多い遺伝病である(2500人に1人)。上皮におけるイオン輸送の欠陥が、特に炎症および慢性呼吸器系感染の一因である粘膜の肥厚をもたらし、不可逆的組織が生じ、重篤な呼吸不全が生じる。この疾患を治癒させる治療法は無いが、科学的および医学的知識の進展が、患者の平均余命を1960年代の3年から現在の約45年に引き延ばしたという対症療法の確立を可能とした。
【0052】
原発性繊毛ジスキネジア(PCD)は、粘液繊毛クリアランスの欠陥、炎症および慢性感染ならびに不可逆的組織破壊をもたらす気道上皮の繊毛運動の欠陥を引き起こす、まれな常染色体劣性遺伝疾患である(15000人に1人)。
【0053】
気道上皮の再生および/または分化の障害を含む疾患の治療の展望を持つこれらのmiRNAの重要性が、これらのmiRNAが、気道上皮の再生および/または分化に関与することが知られている遺伝子を調節するという事実によって確認される(実施例III参照)。
【0054】
本発明に関して、毛様体形成過程で繊毛上皮組織内に有意な量で存在するmiRNA(好ましくは、その存在度は総miRNAの少なくとも1%である、表III参照)を使用することが好ましい。従って、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−31*(配列番号89)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−210(配列番号22)およびhsa−miR−130a(配列番号4)、配列番号55〜57、63、65〜67、71〜74、77、78、83、84、90〜92、95、98、100、101、104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、115、117〜119、123〜126、129、130、135、136、141〜144、147、151〜153、156および203のそれらの前駆体から選択される少なくとも1つのmiRNAを使用することが好ましい。
【0055】
これらのmiRNAのうち、その発現が誘導されるものは、その発現が抑制されるものと区別することができ(表IV)、健康個体のmiRNA発現プロフィールに匹敵するmiRNA発現プロフィールを再生するためには、繊毛上皮組織の毛様体形成、特に、気道上皮組織の再生および分化の過程でその発現が誘導される1以上のmiRNA、および/またはその発現が抑制される1以上のmiRNAを使用することが有利であると思われる。従って、本発明の有利な変形形態によれば、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、および配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体、および/またはhsa−miR−205、hsa−miR−31、hsa−miR−21、hsa−miR−17、hsa−miR−29a、hsa−miR−193b、hsa−miR−31*、hsa−miR−210、hsa−miR−130aから選択されるmiRNAの少なくとも1つの「スター」相補鎖(これらの「スター」相補鎖は、hsa−miR−205*(配列番号72)、hsa−miR−31およびhsa−miR−31*(配列番号37および89)、hsa−miR−21*(配列番号73)、hsa−miR−17*(配列番号63)、hsa−miR−29a*(配列番号83)、hsa−miR−193b*(配列番号66)、hsa−miR−210*(配列番号74)、hsa−miR−130a*(配列番号56)である)、ならびに配列番号108、115、118、124〜126、135および141の配列のそれらの前駆体から選択される少なくとも1つのmiRNAが本発明に従って使用される。
【0056】
その発現が繊毛上皮組織の毛様体形成、特に、気道上皮組織の再生および/または分化の過程で変調される前記miRNAのうち、その発現が誘導されるもの、すなわち、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、ならびに配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体が、本発明に従って好ましく用いられる。
【0057】
本発明はまた、上皮組織の毛様体形成過程、または気道上皮組織の再生および/または分化過程でその発現が誘導される少なくとも1つのmiRNAを発現する発現ベクターの使用に関する。真核細胞においてRNAを発現することができ、かつ、それにmiRNAの発現カセットがクローニングされるいずれの発現ベクターも本発明において使用可能である。
【0058】
本発明はまた、miRNAの領域2〜7、すなわち、miRNAの2番〜7番のヌクレオチド、またはmiRNAの領域3〜8、すなわち、miRNAの3番〜8番のヌクレオチドに位置する認識配列GGCAGUG(配列番号175)を有するmiRNAの使用に関し、それらは特にmiRNAs hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)およびhsa−miR−449c(配列番号201)である。
【0059】
本発明はまた、miRNAの領域2〜7または領域3〜7に位置する認識配列AAUCACU(配列番号176)を有するmiRNAの使用に関し、それは特にmiRNA hsa−miR−34b(配列番号39)である。
【0060】
本発明はさらに、miRNAの領域2〜7または領域3〜7に位置する認識配列AUCACUA(配列番号177)を有するmiRNAの使用に関し、それは特にmiRNA hsa−miR−34c−3p(配列番号40)である。
【0061】
本発明は最後に、医薬品として用いるための、配列番号3〜5、8、9、11〜15、17、19、20、23〜26、28〜32、35〜37、39〜44、46〜52および201の配列のmiRNA、場合により化学的に修飾されていてもよい、配列番号55〜57、60、61、63〜67、69、71、72、75〜78、80〜84、87〜89、91〜96、98〜104および202の配列のそれらの相補鎖またはmiRNA阻害剤(antagomir)、ならびに配列番号107〜109、112、113、115〜119、121、123、124、127〜130、132〜136、139〜141、143〜148、150〜156、194、195、197および203の配列のそれらの前駆体から選択される上記の少なくとも1つのmiRNAの使用に関する。
【0062】
上記の構成の他、本発明はさらに、本発明の実施例ならびに添付図面に示される、下記の説明から明らかとなる他の構成も含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ヘマトキシリンおよびエオジンで染色した細胞の形態を明らかにする、共焦電子顕微鏡に観察されたヒト気道上皮細胞の初代培養物の顕微鏡写真を示す。また、これらの細胞を、上皮分化マーカーの発現を調べるために免疫標識した(繊毛細胞に対してはチューブリン−β4(図1E〜F)、粘液分泌細胞に対してはムチンMUC5AC(図1G〜H)、および基底細胞に対してはサイトケラチン13(図1I〜J))。分化の状態を評価した。
【図2A】異なる3人の患者におけるヒト気道上皮の種々の分化段階の少なくとも1つにおいて最も強い発現を有する26のmiRNAを示す累積ヒストグラムを表す:ALI−D0(D0、増殖)、ALI−D7(D7、増殖および極性化)、ALI−FC(FC、毛様体形成開始)、ALI−WD(WD、完全に分化した上皮)。
【図2B】異なる3人の患者におけるヒト気道上皮の種々の分化段階の少なくとも1つにおいて最も強い発現を有し、かつ、有意に変調される22のmiRNAを示す累積ヒストグラムを表す:ALI−D0(D0、増殖)、ALI−D7(D7、増殖および極性化)、ALI−FC(FC、毛様体形成の開始)、ALI−WD(WD、完全に分化した上皮)。
【図3】統計学的に表され(A>8、P<0.05)、少なくとも1つの細胞培養条件において変調される(1<M<−1)miRNAの発現強度の変動を細胞培養の分化状態の関数として示すAgilent(登録商標)miRNAチップによって得られる階層的クラスターを示す(黒い四角ほど、miRNAの発現が少ない)。
【図4】ハイスループットシーケンシング(HTS)およびmiRNAチップ(Agilent(商標))において得られた結果の間の相関を示すグラフである。
【図5】図に示されているように各分化段階で供試した各miRNAの5p鎖の定量的PCRによって観察された変動のヒストグラムを示す。結果は異なる3人のドナーの平均を示す。
【図6】毛様体形成中に調節されるマイクロRNAを示す2つのグラフを合わせたものである。図aおよびcは、未分化HAEC細胞(繊毛を持たない、段階ALI−D0)(図a)および胚段階E11.5(原腸胚)前および段階E26(尾芽胚)後のアフリカツメガエル胚の表皮外植体(図c)における、総マイクロRNAに対するパーセンテージとしてのマイクロRNAの存在度を示す。図bおよびdは、同じデータを繰り返したものであり、miRNAの定量的存在度を示す。
【図7】繊毛細胞におけるmiR−449の特異的局在を可視化するための顕微鏡写真を表す。これらの試験は、21日目のHAEC細胞培養物(段階ALI−D21)(顕微鏡写真a、b、c)、ヒト気管支組織(顕微鏡写真e、f、g)または尾芽胚段階のアフリカツメガエル胚(顕微鏡写真h、i、j、k、l)の凍結切片に対して、miR−449(顕微鏡写真a、e、f、h、i、j、l)またはmiR−31(顕微鏡写真b)に向けられたジゴキシゲニン標識LNAプローブと陰性対照としてのランダムプローブ(「スクランブル」)(顕微鏡写真c、g、i)を用いたin situハイブリダイゼーションにより行った。アフリカツメガエル胚の繊毛細胞は、アセチル化チューブリンに対する原発性抗体で免疫組織標識することによって同定した。miR−449に対するLNAプローブは繊毛円筒細胞を標識する(顕微鏡写真a、e、h)。これに対して、miR−31に対するプローブは基底細胞を優先的に標識した(顕微鏡写真b)。粘液分泌細胞は抗ムチン抗体MUC5ACで標識された(パネルeに矢印で示す)。図dは、ヒト気道上皮組織の基底細胞および繊毛円筒細胞におけるmiR−449、miR−31およびmiR−34の発現レベルを示す。
【図8】錐体細胞(繊毛+分泌)と基底細胞の間で有意に調節されるマイクロRNAのマッピングを示す(ヒートマップ)。円柱の上に位置する5つのマイクロRNAは錐体細胞(繊毛+分泌)に特異的であり、これより下は、miRNAの外観が薄くなるほど、基底細胞に対する特異性が高くなる。
【図9】図で示された2×2比較のそれぞれに関する、2つの分化段階の比のlog2(横座標)と統計的有意性の値(縦座標)の間の関係を示すグラフである。有意に過剰発現される遺伝子が濃い灰色で示され(グラフの右手側)、有意に抑制される遺伝子が中間の灰色で示される(グラフの左手側)。
【図10】図に示されるように、検討した培養条件のそれぞれにおける、カベオリン−1mRNAの発現強度のlog2を示すヒストグラムである。
【図11】ルシフェラーゼリポーター遺伝子がCav−1および対照(PSICHECK)のmRNAの非コード3’部分と融合される場合の、ルシフェラーゼ活性に関して選択された各miRNAの効果(対照ベクターPSICHECKで得られた最大効果の%で表す)を示すヒストグラムである。データは陰性対照miRNAで得られた結果に対してノーマライズしたものである。
【図12】mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34cに共通の認識配列(「シード」)の配列を含む遺伝子の富化を示すグラフを合わせたものである。分析した遺伝子の数(約25000)を横座標に示し、これらの遺伝子はそれらの抑制または発現レベルに従って分布し、すなわち、遺伝子は、最大抑制から最大誘導まで左から右に示される。縦座標は、富化レベルの統計値をlog10で表したものである(縦座標に示されるエンリッチメントスコアは、van Dongen S et al. Nat Methods. 2008 Dec; 5(12): 1023-5により記載されている超幾何二項累積モデルに従って計算したP値のlog10の絶対値に相当する)。HAEC細胞にトランスフェクトされたmiRNAが各グラフに示される。
【図13】IPAソフトウエアを用いた、本発明によるmiRNAの発現によって変調された遺伝子に関する生物学的機能および疾患の同定結果を示す。
【図14】miR−449の発現の抑制による毛様体形成の阻害を示す。 (a,b)HEAC細胞をそれらの再生中(一般に21日間)、抗miR−449阻害剤(antagomirs)または対照阻害剤(antagomir)(20nM)で数回処理する。繊毛細胞のパーセンテージは、核の数に対するチューブリン−β4陽性細胞の数の比率として定義した(20視野/1フィルターおよび3フィルター/1ドナー)。顕微鏡写真(a)は、対照阻害剤(antagomir)(Antago−Neg)または抗miR−449阻害剤(antagomir)(Antago−449)で処理したHAEC細胞に典型的な免疫標識を示す。ヒストグラムは、各実験条件に対して1視野当たりの繊毛細胞のパーセンテージを示す(n=6、***、P<0.001、スチューデントのt検定)。顕微鏡写真(b)は、抗miR−449阻害剤(antagomir)はmiR449aおよびmiR−449bの発現を抑制するが、miR−21の発現には効果がないことを示す(n=6、ns=有意でない、**、P<0.01、***、P<0.001、スチューデントのt検定)。 アフリカツメガエルでの試験:30ngの対照モルホリノオリゴヌクレオチド(MO)(顕微鏡写真c、d、h)またはMO miR−449a/b/c(各10ng)と2.5ngの蛍光リシン−デキストラン(FLDx、橙色/褐色、顕微鏡写真cおよびf)または注射された細胞を追跡するための500pgのTD−tomato−CAAX mRNA(顕微鏡写真g、i)を含んでなる混合物を、卵割期のアフリカツメガエル胚の表皮に注射する。 顕微鏡写真eおよびfでは、in situハイブリダイゼーション技術を用い、チューブリン−αで標識することによる繊毛細胞前駆体の検出が可能である。 顕微鏡写真f:miR−449枯渇領域(上)は、注射されなかった領域(下)に比べて多いチューブリン−α陽性細胞を示す。顕微鏡写真hおよびiは、抗アセチル化チューブリン抗体を用いた、オタマジャクシ段階の胚における繊毛の検出を示す。画像は尾ひれの領域で得る。MO miR−449とmRNA TD−tomato−CAAXを同時注射した細胞では繊毛は検出されない。グラフgは、対照外植体(225細胞、8テール)およびMO miR−449で改変されたもの(242細胞、8テール、p=0.036、Kruskall−Wallis検定)において、繊毛を発達させる注射細胞(赤色蛍光TD−tomato陽性)のパーセンテージを示す。
【図15】miR−449の抑制による繊毛細胞の分化の誘導を示す。MO抗miR−449または対照MOとFLDxの混合物を、卵割期の胚の表皮に注射する。これらの胚を初期神経胚段階で固定した後、チューブリン−α、Tex15およびFoxj1のリボプローブとのin situハイブリダイゼーションを行い、その後、免疫標識してFLDx(蛍光リシン−デキストラン)の存在を確認する。次に、これらの胚を、注射領域における繊毛細胞前駆体の密度をより良く可視化するために切片にする。これら3つのマーカーに関して、miR−449の発現の抑制は、繊毛細胞前駆体の増加をもたらした。
【図16】この図の4つのセクションは、ウェブサイトhttp://www.broadinstitute.org/gsea/doc/GSEAUserGuideFrame.html.で説明されているように、遺伝子の富化の結果を示す。GSEAはエンリッチメントスコア(ES)を計算するが、このスコアは、ある遺伝子リスト内で遺伝子が過剰発現される程度を表す。正のESは、遺伝子集団の左での遺伝子富化を示し(過剰発現遺伝子に相当する)、負のESは、遺伝子集団の右での遺伝子富化を示す(下方調節遺伝子に相当する)。各セクションでは、パネルの上の部分が、左に示されている遺伝子集団のエンリッチメントスコアのグラフである。パネルの中央の部分は、リストにおいて遺伝子集団のメンバーが明らかな場合に示す(「細胞周期」または「毛様体形成」)。パネルの下の部分は、遺伝子発現と細胞表現型の間の相関を尺度化するメトリックスケジューリングの値を示し、正の値は第一の表現型(miR−449の分化または過剰発現)との相関を示し、負の値は第二の表現型(分化していない、または対照)との相関を示す。これらの実験データは総て、Base Gene Expression Omnibusに受託番号GSE22147で保存される。
【図17】miR−449が細胞周期およびNotch経路を標的とすることを示すという結果を表す。 細胞周期:グラフ(a)は、Areg、Ccnb1、Ccne2、Cdc25aのmRNAの非コード3’部分と融合されたルシフェラーゼリポーター遺伝子の活性の、miR−449a/bおよびmiR−34a/c5−pによる変調を示す。 Notchシグナル伝達経路:グラフ(c)は、DLL1およびNotch 1のmRNAの非コード3’部分と融合されたルシフェラーゼリポーター遺伝子の活性の、miR−449a/bおよびmiR−34a/c5−pによる変調を示す。 実験は総て、少なくとも2回、3反復で行った。値はウミシイタケルシフェラーゼの内部対照に対してノーマライズした。エラーバーは標準偏差を示す。 グラフ(b)は、miR−449およびmiR−34による、細胞周期のG1期での遮断を示す。 グラフ(d)は、HAEC細胞の毛様体形成に対する、DAPT(10μM)によるNotch経路の阻害効果を示す。 顕微鏡写真(e)および(f)は、表皮にMO抗miR−449および蛍光リシン−デキストラン(FLDx)の混合物の注射を施した卵割期の胚を示す。in situハイブリダイゼーションによる染色は、miR−449を欠いた表皮におけるDLL1の持続的発現を示す。 パネル(g)は、表皮に対照MO、MO抗miR−449およびMO DII1またはmRNA DLL1の注射を施した卵割期の胚を示す。繊毛は抗アセチル化チューブリン抗体(赤色)で染色された。各条件につき、FLDx陽性(緑色)の少なくとも200細胞(6〜8テール)が繊毛を持つ(P<0.03)。DII1のmRNAの注射は、繊毛細胞前駆体の数を増加させるが、毛様体形成を抑制することに着目すべきである。DII1発現の減衰は毛様体形成を誘導する。
【実施例】
【0064】
I−生物学的細胞モデルの作製
I−A.ヒト気道上皮細胞
これらの試験は、鼻中隔形成術、鼻甲介切除術またはポリープ切除術下の患者から採取した鼻甲介またはポリープから単離された健康なヒト気道上皮細胞の初代培養物で行った。次に、分化を誘導する目的で、これらの細胞をIV型コラーゲンで覆われた多孔質支持体(Transwell(商標)クリア、ポリエステル、0.4μm、Costar)上の、気液界面(ALI)で培養した(Puchelle, E et al., 2006)。気道上皮の形態的および生理学的特徴は詳細に記載されている(Puchelle, E et al., 2006)。
【0065】
I−A.1.材料および方法
患者および組織サンプル
鼻腔閉塞のための鼻甲介切除術もしくはポリープ切除術または鼻中隔形成術を受ける予定であった3人の患者から下鼻甲介または鼻ポリープを採取した(Dr. Castillo, ORL Department, Pasteur Hospital, Nice, France)。喘息、膵臓線維症またはアレルギーを有する患者は試験から除外した。これらの手順は総て、ニース・ソフィア・アンティポリス大学の倫理委員会によって認可されたものである。
【0066】
健康なヒト気道上皮細胞(HAEC)の単離および培養
鼻粘膜に由来する健康なHAECの初代培養は、従前の研究から適合させた方法によって行った(Wu et al., 1985; Marcet et al., 2007; LeSimple et al., 2007)。切除後、すぐに組織を、HEPES(25mM、Invitrogen)、100U/mlペニシリン(Gibco、Invitrogen)、100mg/mlストレプトマイシン(Gibco, Invitrogen)、100mg/mlの硫酸ゲンタマイシン(Gibco, Invitrogen)および2.5mg/mlのアムホテリシンB(Gibco, Invitrogen)を含有する平衡塩溶液(HBSS(Ca2+/Mg2+不含)Invitrogen)に浸漬する。HBSS−HEPES−抗生物質媒体で3回洗浄した後、組織を0.1%のプロナーゼ(Sigma)で4℃にて一晩消化する。次に、組織を消化媒体から注意深く取り出し、鼻粘膜表面の気道上皮細胞を、10%のウシ胎児血清(FCS)を含有するHBSS−HEPES−抗生物質媒体を用いて穏やかに攪拌することによって間質から解離させた。この細胞懸濁液を4℃にて10分、150gで遠心分離し、細胞ペレットを10%FCS−HBSS−HEPES−抗生物質に再懸濁させ、再び遠心分離する。その後、この第二の細胞ペレットを10%FCS−抗生物質−ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen)の媒体に、細胞凝集塊を解離させるためにニードル(0.8mm)および10mlシリンジを用いて再懸濁させる。次に、これらの細胞をIV型コラーゲン(Sigma)で被覆された透過性多孔質支持体(Transwell(商標), Costar, Sigma)上に播種し(104/cm2)、加湿雰囲気中、37℃、5%CO2でインキュベートする。翌日、培養培地を、以下のホルモン添加剤および他の増殖因子:インスリン、アポトランスフェリン、上皮細胞増殖因子(EGF)、エピネフリン、ヒドロキシコルチゾン、3,30,5−トリヨードチロニン、内皮細胞成長添加剤、レチノイン酸(低濃度、約10nM)、アムホテリシンB(2.5mg/ml)、ストレプトマイシン(100mg/ml)、ペニシリン(100U/ml)、硫酸ゲンタマイシン(50mg/ml)およびL−グルタミン(2mM)を含有するBEBM培地(Lonza)を用いて再構成した増殖培地(BEGM)に置き換える。
【0067】
気道上皮細胞単層は一般に培養7日後にコンフルエンスに達する。次に、細胞が気液界面にくるように上面の培地を取り出し、基底外側培地を分化培地、すなわち、この時には気道上皮を、粘液繊毛分化を誘導するためにレチノイン酸を約300nMの高濃度で加えること以外は上記と同じ添加剤を含有する1:1比のBEBM/DMEMに置き換える。次に、この実験を、経上皮抵抗が500ohm/cm2を超える分化した培養物に対して行う。
【0068】
免疫組織化学標識ならびに共焦および電子顕微鏡
気液界面で増殖させた気道細胞培養物からの膜の切片をアセトンまたはメタノール中で固定する(10分、−20℃)。PBSですすいだ後、非特異的部位をPBS−BSA3%でブロックし、その後、一次抗体を、用いる抗体によって室温にて1時間〜4℃で16時間、PBS−BSA−1%でインキュベートする。すすいだ後、結合した二次抗体を、PBS−BSA1%に溶解させ、室温で1時間インキュベートする。すすいだ後、核をDAPIで標識し、ハリスヘマトキシリンで対比染色する。すすいだ後、これらのスライドを取り付け、共焦顕微鏡で観察する。2つのマウス抗体を含む二重連続標識の場合、一次抗体の空き部位をブロックする工程を、抗マウス抗Fab(H+L)抗体を用いて室温で30分間行う。
【0069】
電子顕微鏡の場合には、細胞を、1.6%のグルタルアルデヒドを含有する0.1Mリン酸一ナトリウムバッファーで固定する。
【0070】
気道上皮細胞の選別
鼻ポリープの間質を解離した後、上皮細胞(約20.106)をPBS−BSA−EDTA中で30分間インキュベートし、その後、標識抗体CD151−PEおよび抗TF(組織因子)−FITCとともに4℃で20分間インキュベートする(Hajj, R. et al., Stem Cells 25, 139-148 (2007)参照)。2回洗浄した後、細胞をPBS−EDTAにとり、完全性が変化した細胞を標識するためにDAPIとともにインキュベートする。
【0071】
細胞選別は、青、赤および紫の3つのレーザーを備えたFACSAriaソーター(BD Biosciences)で行った。死細胞、凝集塊および二重細胞は排除した。二重陽性の基底細胞集団(CD151+/FT+)および陰性の円筒細胞集団(繊毛細胞および粘液分泌細胞を含む)(CD151−/FT−)を選択し、5000イベント/秒(周波数30MHz)の速度で選別した。その後、選別された細胞の純度および属性を細胞計数および免疫細胞化学によって確認した。
【0072】
I−A.2.ヘマトキシリンおよびエオジンで標識された細胞の形態観察
上皮分化マーカー(繊毛細胞のチューブリン−β4(図1E〜F)、粘液分泌細胞のムチンMUC5AC(図1G〜H)および基底細胞のサイトケラチン13(図1I〜J))の発現を調べるために免疫標識を行った。
【0073】
分化の状態は共焦および電子顕微鏡によって評価した。分化の4つの重要な段階を検討することにした。
(1)気液界面の確立の1日目(ALI−D0)に、細胞は増殖し、層状の扁平上皮を生成する。
(2)気液界面5〜7日後(ALI−D7)、細胞の極性化が始まる。
(3)気液界面約14日後、細胞は多列上皮を形成し、細胞表面に最初の繊毛が見られ(ALI−FC)、同時に細胞の伸長が見られ、毛様体形成の開始を示す(図1C)。
(4)気液界面約21日後(ALI−WD)、気道上皮は、大部分の細胞が円筒状で繊毛を有する完全な分化段階である多列となり、下層をなす基底細胞層ならびに粘液分泌細胞を伴う(図1D)。
【0074】
培養3〜4週間後、表面気道上皮の3つの細胞タイプ(すなわち、基底(図1I〜J)、分泌細胞(図1G〜H)および繊毛細胞(図1E〜F)の形態学的基準および特異的分化マーカーが見て取れる。
【0075】
II−毛様体形成中に選択された細胞におけるmiRNAの発現の測定
ハイスループットシーケンシングの技術は、複雑な混合物中のある特定のmiRNAの存在度を確定することを可能とする。
【0076】
ある試験条件内でのmiRNAの特異的配列の数に基づき、総てのmiRNA内での該miRNAの存在度を評価することができる。
【0077】
II−1.材料および方法
アフリカツメガエル胚の繊毛表皮細胞
Hayes et al. (Dev Biol 312 (1), 115 (2007))に記載されているようなアフリカツメガエル胚の繊毛表皮を粘液繊毛上皮モデルとして用いる。
【0078】
全RNAの抽出および品質管理
気液界面で培養した4つの分化段階:ALI−D0(0日目)、ALI−D7(7日目)、ALI−FC(約14日目の、最初の繊毛出現の際)およびALI−WD(約21日目の、完全に分化したもの)のHAECから全RNAを抽出した。細胞を、トリゾール(商標)(Invitrogen)を含む試薬中で溶解させる。小RNAおよびマイクロRNAを含む全RNAをQiagen RNEasyカラム(Qiagen)にて、供給者の説明書に従って精製する。
【0079】
まず、全RNAサンプルの純度および濃度を、Nanodrop分光光度計を用いて評価する。260/280(分光光度計で測定されたサンプルの260および280nmにおける吸光度の値の比)および260/230(分光光度計で測定されたサンプルの260および230nmにおける吸光度の値の比)比は、1.5〜2の間であればRNA純度を表し、それらは様々であり、2に近い値を持たなければならない。
【0080】
アフリカツメガエル胚細胞の全RNAは、Qiagen RNeasyキット(Qiagen)を用いて精製した。
【0081】
次に、これらのRNAをRNAナノチップ(Agilent Technologie, France)にロードし、それらの品質(RNAの完全性および分解レベル)を、Bioanalyzer System (Agilent Technologies, France)を用いて分析した。
【0082】
マイクロRNAのハイスループットシーケンシング
小RNAおよびマイクロRNAを含む全RNAを上記のように単離する。この手順は、Applied Biosystems Ligase-Enhanced Genome Detection technology (LEGenD(商標))に基づき、SOLiD(商標)Small RNA Expressionキット(Applied Biosystems, France)に基づく。この方法を用いれば、サンプルの小RNAを二本鎖DNAのライブラリーに変換することができ、それは新世代ハイスループットシーケンシングとしてApplied Biosystems SOLiD(商標)Systemにより開発されたものである。
【0083】
マイクロRNAのハイスループットシーケンシングは、供給者の推奨に従って行った。要するに、小RNAを含む全RNAを小RNAの5’末端をシーケンシングするためのマトリックスを作製するためにはアダプターミックスAと、または3’末端のシーケンシングのためにはアダプターミックスBとハイブリダイズさせ(65℃で10分、次いで、16℃で5分)、連結させた(サーモサイクラーにて16℃で2〜16時間)。次に、これらのサンプルを逆転写させて(42℃で30分)相補的DNA(cDNA)を合成する。この小RNAのライブラリーをPCRにより増幅し、ポリアクリルアミドゲル上で泳動させた後、増幅された小RNAをそれらのサイズ(供給者の説明書によれば約105〜150塩基長)に応じて切り出し、ゲルから抽出し、溶出させ、ヌクレアーゼフリー水に再懸濁させる。その後、核酸の濃度を測定し、ノーマライズした後にシーケンシングのためのサンプル調製を行う。
【0084】
ハイスループットシーケンシングからのデータの統計分析
統計分析は、Bioconductor(商標)(Peter Dalgaard, Statistics and computing, Introductory statistics with R. Springer, 2002; R. Gentleman, V.J. Carey, W. Huber, R.A. Irizarry, S. Dudoit. Statistics for biology and health. Bioinformatics and computational biology solutions using R and bioconductor. Springer, 2005)のソフトウエアRを用いて行う。
【0085】
シーケンシングを行った各マイクロRNAについて、そのマイクロRNAの5p鎖および3p鎖の配列数を106配列に対してノーマライズし、各マイクロRNAの発現の存在度%に変換した。次に、ソフトウエアRを用い、これらのデータを線形モデルおよび経験的ベイズの手法に従ってノーマライズした。次の分析のために、少なくとも1つの培養条件において発現率(または存在度)%が全マイクロRNAの1%より高く、|Log2比|が0.5未満で、補正後のP値が0.05未満マイクロRNAだけを保持した。
【0086】
マイクロRNAチップ(Agilent Technologies)によるマイクロRNAomeの分析
マイクロRNAのハイスループットシーケンシングと並行して、マイクロRNAの発現レパートリー(マイクロRNAome)を、Agilent(商標)マイクロRNAチップ技術を用いて調べる。このために、以前と同じ患者からのRNAサンプルを用い、Agilent(商標)miRNAチップ(866のヒトmiRNAおよび89のヒトウイルスmiRNA、すなわち、Sanger miRBase v.12.0, Agilent Technologies, Franceに収められ参照できる全てのヒトmiRNAを含むヒトmiRNAマイクロアレイv2)上で、「miRNA標識およびハイブリダイゼーション」キットを供給者(Agilent Technologies)の説明書に従って標識し、ハイブリダイズさせた。
【0087】
DNAチップ(Affymetrix(商標))によるトランスクリプトームの分析
トランスクリプトームの分析のため、上記のように、全RNAを精製し、それらの品質を確認する。
【0088】
次に、GeneChip(商標)Human Gene 1.0 ST Array (Affymetrix(商標))で分析を行う。このチップ上には、28869の各遺伝子が、その遺伝子の全長にわたる約26のプローブによって表される。「完全転写物(WT)センス標的標識および対照試薬、流体工学および走査装置および基本分析ソフトウエア」を用いて、全RNAを標識し、ハイブリダイズさせる。
【0089】
DNAチップ(Affymetrix(商標))によって得られたトランスクリプトームデータの分析
データ分析は、statistical consortium Rによって開発されたソフトウエアR Bioconductorを用いて行う。次に、これらのデータを、チップ分析の際に得られる情報の大規模分析および保存のために開発された情報システムMedianteインターフェース(Le Brigand and Barbry, 2007)の手段によって可視化する。
【0090】
Affymetrix(商標)チップの場合、データは、バックグラウンドノイズの補正、ノーマライゼーション工程およびプローブのレベルのレポートを実行するRMA(Robust Multi-Chip Average)アルゴリズムを用いて分析する。この方法は、特に低い値の発現に高い精度を示し、他の多くの既知の方法よりも高い特異性および感受性を示す(Irizarry et al., 2003)。これらのデータを、R Bioconductorソフトウエアを用い、線形モデルおよび経験的ベイズの手法に従ってノーマライズする。実験的レプリカに対するそれらの統計的有意性の関数としてlog2で表した定量的遺伝子調節レベルを示すために、Volcanoプロットの形態のグラフを用いる(図7)。
【0091】
in situハイブリダイゼーション
4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences)中で固定した後、ALI−D21段階の細胞培養物またはヒト気道組織の凍結切片をアセチル化し、脱イオン化ホルムアミド50%、0.3M NaCl、20mM Tris−HCl pH 8.0、5mM EDTA、10mM NaPO4 pH8.0、10%デキストラン硫酸、1×デンハート溶液および0.5mg/mlの酵母RNA中、ジゴキシゲニン標的マイクロRNA(Exiquon, Woburn, MA)で標識した0.3ng/μlのLNAプローブとともに55℃で一晩インキュベートする。
【0092】
これらのプローブの配列は、
miR−449の場合:ccagctaacaatacactgcc(配列番号204)
miR−31の場合:agctatgccagcatcttgcct(配列番号205)
陰性対照マイクロRNA(「スクランブル」)の場合:gtgtaacacgtctatacgccca(配列番号206)
である。
【0093】
プローブは、BCIP/NBT基質(DakoCytomation)上でシグナル増幅キット「Tyramide Signal Aplificatin Plus DNP AP System」(Perkin Elmer)を用い、抗ジゴキシゲニン抗体(Roche)を結合させたペルオキシダーゼとともに一連のインキュベーションを行うことによって検出した。
【0094】
次に、一部のスライドを抗MUC5ACマウス抗体に曝し、「LSAB2 System-HRP」キット(Dako)で検出した。切片をエオジン/サフラン色素「Nuclear Fast Red」で対比染色し、オイキット封入剤(Electron Microscopy Sciences)を用いて封入した。
【0095】
アフリカツメガエルにおいて、Marchal, L et al. (Proc Natl Acad Sci USA 106 (41), 17437 (2009))により記載されているように、NASCO雌から得た卵を試験管内受精し、培養し、注入する。DII1およびセントリン−2−GFPのcRNAを、「Ambion mMessage Machine」キットを用いて作製する。膜結合ベクターTd−tomato−CAAX(Chenbei Changによる寄贈)をAseIで線状化し、cRNAを、Sp6ポリメラーゼを用いて合成する。蛍光リシン−デキストラン(FLDx、2.5ng/細胞)を、生きた胚を標識するためのモルホリノ(MO)オリゴヌクレオチドとともに同時注入し、胚におけるMOの分布をモニタリングするために抗フルオレセイン免疫検出を行う。注入は総て二反復で行う。
【0096】
モノジゴキシゲニン(Exiqon)で標識された抗miR−449a LNAプローブをin situハイブリダイゼーションに用い、ハイブリダイゼーションはKloosterman et al. (Nat Methods 3 (1), 27 (2006))によって記載されているように行った。チューブリン−α、DII1、Tex15およびFoxj1のアンチセンスリボゾームプローブは、チューブリン−αおよびDII1の場合にはDeblandre et al. (Development 126 (21), 4715 (1999))、Tex15の場合にはHayes et al. (Dev Biol 312 (1), 115 (2007))、Foxj1の場合にはPohl et al. (Dev Genes Evol 214 (4), 200 (2004))によって記載されているように作製した。
【0097】
II−2.選択された細胞におけるmiRNAの発現
II−2.A.HAEC細胞
このように、本発明者らは、現在知られている総てのヒトmiRNA(約750)に関して、まず、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)技術によって115のmiRNAが分化中に、8を超える強度値(シーケンシングを行ったmiRNA数をノーマライズしたもののLog2に相当する)で発現されることを見出した。
【0098】
シーケンシング技術を用い、シーケンシグを行った各miRNAの存在度%を決定することができる。このように本発明者らは、驚くことに、26のmiRNAがヒト気道上皮の種々の分化段階に、1%を超える存在度で存在することを確認することができた(図および下記の表IIIAに示される)。
【0099】
同定されたこれら26のmiRNAは、それらだけでヒト気道上皮で発現される全miRNAの80%程度をカバーし、この量は、気道上皮組織の再生および/または分化プロセスにそれらが関与していることを示す。
【0100】
これら26のmiRNAのさらに詳細な分析では、22のmiRNAがヒト気道上皮の4つの分化段階の少なくとも1つで有意に調節され、これは全miRNAの約70%に相当し、13のmiRNAが過剰発現され、9つのmiRNAが抑制されることを示す(図2Bおよび下記の表IV参照)。
【0101】
変調値(2つの分化段階における、log2で表される発現レベル強度の比としても表される)は、各列の上に示される2つの分化段階における、log2で表される発現強度レベル間の差として計算される。
【0102】
表IIIA.ヒト気道上皮で有意に発現され、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)によって同定した場合に少なくとも1つの分化段階で1%を超える存在度を有するmiRNA
【表3】
【0103】
表IV.気道上皮の分化中に有意に発現および変調され、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)によって同定した場合に1%を超える存在度を有するmiRNA
【表4】
【0104】
その後、本発明者らは、Agilent miRNAチップを用い、ヒト気道上皮のmiRNAの発現レパートリーを調べ、ハイスループットシーケンシングにおいて得られた結果をAgilent(商標)市販miRNAチップで得られる結果と比較した。この技術を用い、48のmiRNAが4つの分化のうち少なくとも1つにおいて有意に発現および変調されることを見出した(発現レベル強度のlog2>8;1<log2(比)<−1および補正後のP値<0.05)(図3および表V参照)。
【0105】
表V.Agilent(商標)miRNAチップにより同定した場合の、気道上皮の分化中に有意に発現および変調されるmiRNA
【表5】
【0106】
miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)またはAgilent(商標)miRNAチップにおいて少なくとも1つの細胞培養条件で有意に変調および発現されることが分かったmiRNAを比較すると、これら2つの技術で得られた結果の間には相関係数r=0.9106という強い相関が見られる(図4参照)。
【0107】
まとめると、少なくとも1つの培養条件におけるHTSでは26のmiRNAが検出および選択され(発現存在度が1%を超える)、Agilent(商標)miRNAチップでは48のmiRNAが検出および選択された(log2で表される発現レベル強度が8を超える)。この2つの技術によって得られた共通のmiRNAを計算に入れると、61の異なるmiRNAが少なくとも1つの上皮分化条件で有意に発現したことになる(60は表VIに示され、これにhsa−miR−1975(表III参照)を加えなければならない)。
【0108】
HTSにおいて、有意に調節され、十分な存在度であると確認された22のmiRNAは、Agilent(商標)miRNAチップでも、様々な有意性および様々な強度レベルで変調されることが分かる。
【0109】
上記のように、miRNAは、ヘアピン構造を有する前駆体の形態で合成され、その後、酵素Dicerによって最終的な成熟を受けて2本の小さな一本鎖RNA(5pおよび3p)を生じ、この成熟型と呼ばれる2本のうち1本の鎖がRISC複合体と相互作用してその変調機能を発揮し、スターと呼ばれる他方の相補鎖(mir−xy*で表される)は分解される。従って、本発明者らは、様々な技術(miRNAチップ、シーケンシング、PCR)を用いて、各miRNAの2鎖を体系的に評価した。本発明者らは、選択されたmiRNAのいくつかで、これらの2鎖(5pおよび3p)が変調されることを観察したが、ある選択されたmiRNAでは、2鎖のうち一方だけが多く発現されること分かった。
【0110】
表VI.Agilent(商標)miRNAチップおよびHTS間での、変調および発現されたmiRNAの比較
【表6】
【0111】
mir−449a、mir−449b、mir−449b*、mir−34a、mir−34b(3p)、mir−34b*(5p)、mir−34c(5p)が分化中に有意に変調され、従って、気道上皮分化の開始の誘導および維持に関与すると分かることを述べておくべきであろう。
【0112】
これらの5つのmiRNA:mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b、mir−34cは、分化中、より詳しくは毛様体形成の開始時に強く誘導されることが分かる。ひと度、誘導されれば、それらの発現は、完全に分化した上皮を含め、分化中、高く安定なままである。上皮のmiRNAの完全に分化したレパートリーはこれら5つのmiRNAの顕著な存在度を特徴とし、これら5つのmiRNAはこの組織で発現される全miRNAの総数の20%近くに相当する。しかしながら、mir−34aに関しては、他の4つのmiRNAよりも低い強度で誘導され、比較的早い、ALI−D7段階で見られる。
【0113】
興味深いことに、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34bおよびmir−34cの各miRNAの5p鎖は、それらの認識配列のレベルで配列相同性を有し、このことは、それらがある特定の転写物を共通に標的とすることを示唆する。
【0114】
本発明者らがこれらの5つのmiRNAに力を集中させたのはそのためである。これらのmiRNAならびにmir−31(気道上皮の分化中に抑制されることが分かっている)の調節レベルを第三のアプローチとしての定量的PCRによって確認した(図5参照)。
【0115】
気道上皮の分化中に過剰発現されるこれら5つのmiRNAは、2つに異なるmiRNAファミリー、mir−449およびmir−34に属す。さらにmir−449aとmir−449bのゲノム位置は同じであり、両者とも、ヒト第5染色体にあるcdc20b遺伝子の2番目のイントロンのレベルに位置する(5q11.2、chr5:54456388−54504760)。mir−34ファミリーは、第1染色体の遺伝子間領域に位置するmir−34aから構成されるが、miRNA mir−34bおよびmir−34cは同じクラスターに属し、両者とも第11染色体の遺伝子間領域に位置する。mir−34ファミリーは、p53シグナル伝達経路と機能的に関連づけられている。
【0116】
II−2.B.アフリカツメガエル胚の繊毛表皮細胞
このモデルに関して得られた結果を下表IIIBおよび図6(HAEC細胞に関する結果も表す)に示す。
【0117】
これらの試験は、ここでもまた、マイクロRNAファミリーmiR−449、より詳しくは、miR−449aが、毛様体形成中に断然最も強く誘導されるマイクロRNAとなっていることを示す。
【0118】
表IIIB アフリカツメガエル胚表皮の、非繊毛細胞に比べて繊毛細胞で有意に発現されたmiRNA
【表7】
【0119】
II−2.C.考察
miR−449は、増殖中のHAEC細胞におけるマイクロRNAの全配列の0.01%未満に相当するが、これらのmiR−449は、分化したHAEC細胞で発現されるマイクロRNAの8%超に相当する(図6のグラフaおよびb参照)。さらに、アフリカツメガエル細胞中のmiR−449aは分化中に有意に増え、表皮外植体の繊毛細胞中の全マイクロRNA配列の最大39%を占める(図6のグラフc〜d参照)。
【0120】
上記で指摘したように、miR−449およびmiR−34は、マイクロRNAの1つの同じスーパーファミリーに属す。興味深いことに、この2つのモデルにおいて、毛様体形成中にmiR−34ファミリーのメンバーの発現も、miR−449の程度よりも低いながら、誘導されたことを述べておく(図6のaおよびb参照)。
【0121】
miR−449ファミリーは脊椎動物において保存されていると思われ、Cdc20b(ヒトおよびカエルにおいてmiR−449クラスターが位置する)の相同遺伝子座を調べたところ、完全にまたは部分的に配列決定された脊椎動物ゲノムの総てにmiR−449が存在することが明らかになった。
【0122】
分化したHAEC細胞およびアフリカツメガエル表皮の繊毛細胞は、基底細胞、粘液分泌細胞および多繊毛細胞を含む異なる細胞種の混合物からなる。
【0123】
HAEC初代培養物(図7の顕微鏡写真aおよびc参照)およびヒト気管支組織(図7の顕微鏡写真eおよびg参照)に対するin situハイブリダイゼーションにより、miR−449は多繊毛円筒細胞では発現されるが、基底細胞(図7の顕微鏡写真a参照)またはmuc5AC陽性分泌細胞(図7の顕微鏡写真e参照)では発現されないことが明らかになった。
【0124】
これらの結果を、ヒト気道の上皮に由来する、円筒細胞を富化した画分(主として多繊毛細胞およびいくらかの粘液分泌細胞から構成される)および基底細胞を富化した画分に対するハイスループットシーケンシング試験によって確認した。
【0125】
図7のグラフdは繊毛細胞画分におけるmiR−449の富化を示すが、観察されるmiR−34の発現はより均質で、両タイプの細胞に見られた。
【0126】
最後に、アフリカツメガエル胚の細胞に対するin situハイブリダイゼーションにより、miR−449の発現は繊毛細胞に限られることが明らかになった。これらの細胞はアセチル化チューブリンによる標識に対して陽性である(図7の顕微鏡写真hおよびl参照)。
【0127】
これらの結果は総て、脊椎動物の多繊毛細胞で最も存在度の高いマイクロRNAはmiR−449であることを示す。
【0128】
III−選択されたmiRNAの特異的標的の決定
III−1.各miRNAの特異的細胞種の同定
天然の気道上皮と同様に、これらの試験で用いたin vitro分化モデルは、基底細胞、繊毛細胞および粘液分泌細胞からなる。各細胞種に特異的なmiRNAのレパートリーを同定するために、本発明者らは、特異的マーカーの手段によるフローサイトメトリーによる細胞選別を用いた(Hajj, R. et al. 2007)。この技術を用い、成体気道前駆体細胞(先験的に基底細胞に相当する)(このような細胞はテトラスパニンCD151と組織因子に対して二重陽性を呈する)を、これらの同じマーカーに対して陰性を呈する錐体細胞(すなわち、繊毛細胞および粘液分泌細胞)から単離、選択および選別した。これらは3人の異なるドナーから得られたポリープまたは鼻甲介から精製されたものであった。
【0129】
全RNAを抽出した後、miRNAの発現プロフィールを、Agilent(商標)市販チップの手段またはハイスループットシーケンシング(HTS)によって確定した。これら2つの試験アプローチにより、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b、mir−34b*(mir−34b−5p)、mir−34cおよびmir−34c*(mir−34c−3p)を含む、選択されたいくつかのmiRNAに関して、上皮繊毛細胞におけるそれらの特異的発現が確認される。さらに、この細胞選別試験は、培養細胞(例えばmir−31、mir−31*、mir−205、mir−130a、mir−193b)において呈されるmiRNAは基底細胞に対して特異性が高いことを示すことができる(図8および表VII)。本発明者らは、このように初めて、miRNAの発現レパートリーを分化中の気道上皮の異なる細胞種に特異的に帰すものである。
【0130】
表VII.HTSおよびAgilent(商標)チップにより同定された基底細胞または錐体細胞(繊毛+分泌)の特異的miRNA
【表8】
【0131】
III−2.選択されたmiRNAの標的mRNAの同定
miRNA生物学における大きな試みは、それらが調節する標的mRNAを実験的に同定および特性決定可能にすることである。この目標を持って、in silicoアプローチ(標的を予測するためのバイオインフォマティックソフトウエア)を実験アプローチ(トランスクリプトームチップ、miRNAならびにルシフェラーゼと融合させた対象遺伝子の3’−UTR部分を含むリポーターベクターの異所発現)に組み合わせた。補足実験として、免疫細胞化学、ビデオ顕微鏡および生化学的アプローチを用いた。
【0132】
標的を予測するためのいくつかのアルゴリズムが提案されている。それらは一般に、i)miRNAとmiRNAの5’領域における標的mRNAの3’UTR(認識配列)との間の相補性;ii)標的mRNAの3’UTRにおけるこの配列の系統発生的保存、に基づく。
【0133】
これらの対象miRNAによって潜在的に調節される標的遺伝子を決定するために、本発明者らは、発現チップ(Affymetrix, human HuGene 1.0 ST microarrays)によるmRNAのプロファイリングを確立した。分析したサンプルは、分化中のmiRNAの測定に用いたものと同じである。補足的アプローチは、選択されたmiRNAの発現レベルをトランスフェクションにより操作した後の、気道上皮細胞のトランスクリプトームの評価からなった。標的遺伝子は、バイオインフォマティックエイド(Mediante, Ingenuity Pathway(商標))の手段により、上皮の再生および分化に関して選択した。従って、本発明者らは、従前に同定したmiRNAとヒト気道上皮の再生および分化に関連づけられているある数の転写物との間の機能的リンクを確立することができた。得られた結果は、500〜1000の転写物が分化に関連していることを示す(図9参照)。
【0134】
ALI−FCとALI−WDとの間ではいくつかの遺伝子の発現だけが異なり、これは、ひと度、毛様体形成が誘導されたところで、RNAの発現の安定性を示す。
【0135】
III−3.miRNA mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34bおよびmir−34cの5p鎖に共通の予測標的遺伝子のin silico同定
認識配列レベルで配列相同性を有する5つの選択されたmiRNA mir−449a、mir−449bおよびmir−34a、mir−34b−5p(mir−34b*)およびmir−34c−5pの各5p鎖に関して、Mediante network interface (www.microarray.fr)からアクセス可能な予測バイオインフォマティックツール(すなわち、TargetScan, mirbase target, picTar and Microcible 2to8)を用い、予測された標的遺伝子を取得した。本発明者らは、まず、目的とする5つのmiRNAに共通の予測された標的遺伝子を選択し、上記で詳説した方法論によって確認した。個々に取得した各miRNAに対する3500近くの予測標的のうち、1229の標的が、選択された5つのmiRNAに共通である。次に、この1229の予測標的を、分化中に、より詳しくは、完全に分化した状態と最初の未分化増殖段階の間(ALI−WDとALI−D0(n=3ドナー))に有意に抑制されたもの(約1000、P<0.05)と比較した。このように、結果は、気道上皮の再生に重要な役割を果たす可能性のある、選択された5つのmiRNAに共通の62の遺伝子を示す(表VIII参照)。これらの遺伝子の中でも、特に、カベオリン−1が見出される。これらの結果は、カベオリン−1が分化中、強く阻害されることを示す(図8参照)。
【0136】
表VIII.気道上皮の分化中に阻害されることが分かった、選択されたマイクロRNAの予測標的遺伝子のリスト
【表9】
【0137】
この対象標的遺伝子のリストに、本発明者らは、miR−31および/またはmiR−130aのバイオインフォマティクスによって予測された標的である遺伝子Rfx2、Rfx3、FoxJ1およびSTATHを加えることができる。
【0138】
IV−選択されたmiRNAの標的としてのカベオリン−1の検証
カベオリン−1(Cav−1)は、カベオラと呼ばれる原形質膜の小さな陥入の形成に不可欠な22kDaの膜タンパク質である。Cav−1遺伝子は接着細胞(内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞)で発現される。
【0139】
より詳しくは、カベオリンは基底細胞および繊毛上皮細胞の膜表面に存在することが示されており、これらの細胞種における重要な役割を示唆している(Krasteva, G. et al. (2006) Respir Res 7, 108)。カベオリン−1の発現の喪失は、上皮の増殖および分化の欠陥をもたらす可能性がある(Yang, G. et al. (2008) Exp Mol Pathol 84, 131-140)。
【0140】
さらに、カベオリンは、呼吸器系疾患に対する種々の形態の感受性に関連づけられている。例えば、カベオラは多様な受容体を含み、Cav−1は細胞表面に存在するトランスフォーミング増殖因子(TGF)−βの受容体の数の減少に関連づけられている。初期の研究では、TGF−β経路の妨害による、いくつかの呼吸器系疾患におけるカベオリン−1欠乏の関与の可能性が強調された(Le Saux, C.J. et al. (2008) J Biol Chem 283, 5760-5768)。
【0141】
さらに、いくつかの微生物が細胞に感染するために選択的にカベオラを利用することが示されている(Norkin, L.C. et al. (2001) Exp Cell Res 266, 229-238)。これらのカベオラは気道上皮の繊毛細胞の基底外側表面に位置するので、上皮病変が存在する場合には、病原体のエンドサイトーシスに特に関与する可能性がある(Krasteva, G. et al., 2006)。実際に、アデノウイルスは、それらの病原能を発揮するために、上皮または体とジャンクションの完全性を低下させて繊毛細胞の側底膜に接近する必要がある(Walters, R.W. et al. (1999) J Biol Chem 274, 10219-10226)。最後に、基底細胞は感染により弱いと思われる(Pickles, R.J. et al. (1996) Hum Gene Ther 7, 921-931 (1996)。このことと一致して、カベオラの数は繊毛細胞よりも基底細胞に多いことが示されている(Krasteva, G. et al., 2006)。
【0142】
IV−1.試験の原理
MicroCibleアルゴリズムを用いた。このアルゴリズムは、Cav−1転写物おいて、mir−34a/34c−5p、mir−449a/bに対する3つの異なる固定部位に対して、miR−34b−5pに対する7つの異なる固定部位を同定する。本発明者らは、Cav−1の全3’−UTR部分がルシフェラーゼコード配列の下流に挿入されたリポーター遺伝子の発現ベクターを構築した。次に、HEK293T細胞をこのベクターおよび選択された5つの各miRNA(mir34a/b−5p/c−5p/449a/b)でコトランスフェクトし、それぞれ陰性対照miRNAの場合と比較した。
【0143】
IV−2.材料および方法
3’−UTR発現ベクターおよびルシフェラーゼ活性の測定
カベオリンの非コード部分(3’−UTR)の完全配列(配列番号178)をPCRによって増幅した後、psiCheck2ベクター(Promega)のXhoIおよびNotI部位にクローニングする。
【0144】
目的とする合成マイクロRNA(miR−34a、miR−34b*、miR−34c−5pおよび陰性対照miR(miR−Neg1))は、Ambion社(Applied Biosystems)により合成された。白色96穴プレートにて、トランスフェクション剤としてリポフェクトアミン2000(Invitrogen)を用い、HEK293T細胞(1穴当たり20000細胞)に対し、100ngのプラスミドベクターpsiCheck2および5nmolの合成miRNAでリバーストランスフェクションを行った。トランスフェクション48時間後、およびホタルルシフェラーゼの活性を、Dual Gloルシフェラーゼアッセイシステムキット(Promega)を用いて評価し、照度計(Luminoskan Ascent, Thermolab system)に手段によって測定した。
【0145】
シグナル伝達経路の同定
目的とする遺伝子と他の官能基との間の相互作用のネットワークを同定するために、ソフトウエアIngenuity Pathway Analysis (IPA) (Ingenuity Systems, Mountain View, USA)を用いた。1を超える比を有する遺伝子を選択した。このように、生物学的機能および疾患と本発明者らの試験結果を関連づけることができる。
【0146】
IV−3.結果
本発明者らは、ルシフェラーゼ遺伝子をカベオリン−1の非コード3’部分と融合させた場合、mir−34b−5pがルシフェラーゼ遺伝子の発現を有意に阻害したことを示した(P<0.01)。これらの結果は、本発明者らが見出した分化中にはカベオリン−1が強く阻害されることと合わせると、Cav−1は気道上皮の分化プロセスに関与するmir−34b*(mir−34b−5p)の特異的標的であることを示唆する(図11)。
【0147】
おそらく抑制性のカベオリン−1以外のmiRNA、mir−449a、mir−449b、mir−34aおよびmir−34b*は、1以上の他の遺伝子の調節において働くと思われる。
【0148】
同じ原理に従い、カベオリンを用いて行った試験は、目的とする他の標的遺伝子を用いた場合にも再現された。すなわち、以下の遺伝子:AREG(配列番号179)、AURKA(配列番号180)、CAPN13(配列番号181)、CCNB1(配列番号182)、CCNE2(配列番号183)、CDC6(配列番号184)、CDC25A(配列番号185)、CENPK(配列番号186)、CEP55(配列番号187)、CDC20B(配列番号188)、E2F7(配列番号189)、FOXM1(配列番号190)、STATH(配列番号191)およびTOP2A(配列番号192)の3’−UTR配列をクローニングした。
【0149】
表IX−選択されたmiRNAの少なくとも1つによって検証された標的遺伝子のリスト
【表10】
【0150】
標的をその発現がmiRNAによって阻害されるかどうか検証する。
【0151】
V−DNAチップ(Affymetrix(商標))による、目的とするmiRNA:mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5pの標的の同定
目的とするmiRNAの発現によって特異的に変調される遺伝子を決定するために、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34c−5pの各miRNAを未分化気道上皮細胞(HAEC)の初代培養物にトランスフェクトし、トランスフェクション48時間後に、トランスクリプトームチップ(Affymetrix(商標))によって、特異的に変調される遺伝子を調べた。
【0152】
mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5pは同じ「シード」(配列2〜7)を共有することから、それらは共通の標的と相互作用することができる。このようにして、これらのmiRNAによって有意に変調されるものとして95の共通遺伝子が得られた。
【0153】
従来、miRNAは、その標的mRNAに対して直接それらの発現を抑制する働きをすると仮定されている。図12は、これらの各miRNAの48時間のトランスフェクションに応答した、目的とするこれらのmiRNAの認識配列の相補的領域を含む標的遺伝子の富化を示す。本発明者らは、95の変調遺伝子に関して、41の遺伝子が有意に抑制されることを観察した(表X参照)。
【0154】
これらの41の抑制遺伝子のうち18の遺伝子が、選択された5つのmiRNA(表XI参照)に共通であり、かつ、前記miRNAによるその調節が気道上皮の分化において、および呼吸器系疾患(膵臓線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、原発性繊毛ジスキネジアなど)に対する治療戦略の実施において重要な役割を果たし得る予測標識である(in silico分析による)。
【0155】
表IX:HAECでの目的とする各miRNAのトランスフェクション後における、miRNA mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5p、mir−449aおよびmir−449bに共通な41の抑制遺伝子
【表11】
【0156】
表XI.mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34c−5pに共通であり、かつ、HAECにおいて選択された各miRNAのトランスフェクション後に抑制される予測標的
【表12】
【0157】
Ingenuity Pathway Analysisソフトウエア(IPA)(Ingenuity Systems, Mountain View, USA)を用いたバイオインフォマティック分析により、これらの遺伝子間の相互作用のネットワークを特定し、生物学的機能および疾患と試験結果とを関連づけることが可能になった(図13参照)。
【0158】
選択されたmiRNAの発現によって調節される経路は、細胞周期調節のための主要経路である。
【0159】
VI− 毛様体形成に対するmiR−449発現抑制の機能的効果に関する検討
次に、毛様体形成に対するmiR−449発現減衰の効果を検討した。
【0160】
VI−A.材料および方法
HAEC細胞
6つの独立したHAEC細胞培養物を、miR−449に対するオリゴヌクレオチドでトランスフェクトし、コレステロール分子に結合させ、再生期間中の毛様体形成を評価した。
【0161】
これらの試験では、3’において2’−O−メチル結合によってコレステロール分子と結合させた、配列:5’-ascscsagcuaacaauacacugcscsa-Chol-3’(配列番号207)(ホスホロチオエート結合は下付き文字sで示す)を有するmiR−449aのアンチセンスオリゴヌクレオチド(antagomir)(Eurogentec (Seraing, Belgium)に従って得たもの)を用いる。
【0162】
このantagomirはヒト(Homo sapiens)のmiR−449a(完全一致)およびmiR−449b(ミスマッチを含む)を標的とする。
【0163】
用いる陰性対照は、Eurogentecからの、配列:5’-csasuscgucgaucguagcgscsa-Chol-3’(配列番号208)のClear−miR(tm)である。
【0164】
antagomir(100μM)をウシ胎児血清(FCS)中、室温で30分間プレインキュベートする。次に、分化培地中のantagomir−FCS混合物(20μMのantagomir)を初代HAEC細胞の上面に加える。37℃で2時間後、この混合物を引き上げて気液界面を再び作る。
【0165】
トランスフェクションは、対照細胞が完全な分化に達するまで(通常、21日後)、5日ごとに新たに調製したantagomirで更新する。
【0166】
アフリカツメガエル
miR−449に対するモルホリノ(MO)オリゴヌクレオチド(GeneTools, LLC, Philomath, Oregon, USA)は以下の配列を有する。
MO−449a:5’-ACCAGCTAACATTACACTGCCT-3’(配列番号209)
MO−449b:5’-GCCAGCTAAAACTACACTGCCT-3’(配列番号210)
MO−449c:5’-ACAGCCAGCTAGCAAGTGCACTGCC-3’(配列番号211)および
対照MO:5’-TGCACGTTTCAATACAGACCGT-3’(配列番号212)
【0167】
用いる抗DLL1 MOはMorichika et al. (Dev Growth Differ 52 (2), 235 (2010))によって記載されているものである。
【0168】
VI−B.結果および考察
そのantagomirによって無効とされるmiR−449は、ALI−D21段階の繊毛HAEC細胞の数に有意な減少をもたらし(毛様体形成阻害の平均値2.3±0.3、n=6、P<0.001)(図14参照)、並行してmiR−449発現にも同程度の減少をもたらす(図14、顕微鏡写真b)。
【0169】
MiR−449はまた、アフリカツメガエル胚の細胞において、成熟miR−449を標的とするモルホリノオリゴヌクレオチドの混合物の表皮注射によって無効とされた。miR−449が無効となると、尾芽胚の胚発生段階およびオタマジャクシ(n=112)においてアセチル化チューブリン染色によって明らかにされるように、多毛様体形成が阻害される(図14、顕微鏡写真c〜i参照)。
【0170】
多毛様体形成には、(i)細胞周期の明確な終了、それに続く(ii)新たに合成された中心小体に由来する何百もの基底小体の増殖を特徴とする中心小体形成(centriologenesis);(iii)基底小体の頂端膜への遊走(頂端膜で基底小体は微小管の組織化の中心として働き、および可動性の軸糸の組み立てを可能とする)が必要である。
【0171】
検討した2つのモデルでは、チューブリン陽性細胞(繊毛の染色)とセントリン−2陽性細胞(基底小体の染色)との比はmiR−449の発現抑制によっては影響を受けず、このことはmiR−449が中心小体の形成前に働くことを示唆する。
【0172】
アフリカツメガエル表皮におけるmiR−449の無効化は多毛様体形成を抑制するが、α−チューブリン、Tex15および転写因子Foxj1を含む繊毛細胞マーカーのmRNAの発現は抑制しなかったことに注目するのは興味深い(図15参照)。これらのデータは、miR−449は最終分化に必要であるが、多繊毛細胞の特性化には必要でないことを示唆し、従って、脊椎動物における毛様体形成の主要調節因子としてのmiR−449の役割を確実なものとなる。
【0173】
VII−miR−449標的に対するmiR−449のトランスフェクションの効果
毛様体形成に対するmiR−449の影響を評価するためには、miR−449の標的が最終分化中、およびmiR−449のトランスフェクション後に阻害されたかどうかを確認することが望ましいと思われた。
【0174】
VII−A.材料および方法
フローサイトメトリーによる細胞周期の分析
肺腺癌のA549細胞の細胞周期を血清欠乏の一晩の培養によって同調させた後、マイクロRNAでトランスフェクトし、次に、これらの細胞を、L−グルタミンおよび10%FCSを添加したDMEM中で30%コンフルエントまで培養する。これらの細胞を48時間後に回収し、80%エタノールで固定し、RNアーゼA(50μg/ml)を含有する0.1mlのヨウ化プロピジウム溶液で染色する(37℃、30分)。
【0175】
データをFACScaliburフローサイトメーター(Becton-Dickinson)で読み取る。G1期、S期およびG2+M期の細胞のパーセンテージを、Pro Cellquestソフトウエアで計算した。
【0176】
プラスミドの構築およびルシフェラーゼ活性の測定
Areg、Ccnb1、Ccne2、Cdc25a、DII1およびNotch1の非翻訳3’領域の完全配列または部分配列を増幅し、psiCheck2ベクター(Promega)にクローニングした。
【0177】
このようにして得られたpsiCheckベクターの構築物を、HEK293T細胞に、合成マイクロRNAまたは陰性対照(Ambion, Applied System)とともにコトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性は、Pottier et al. (PLoS One 4 (8), e6718 (2009))により記載されているように測定する。
【0178】
VII−B.結果
miR−449の標的を、(i)HAEC細胞の4つの再生段階(ALI−D0、ALI−D7、ALI−D14、ALI−D21)における発現プロフィール、(ii)miR−449でトランスフェクトされた増殖中のHAEC細胞を用いた場合の発現プロフィールの分析によって定義した。Gene Set Enrichment Analysis (GSEA) (Edgar et al. Nucleic Acids Res 30 (1), 207 (2002))によって特異的に発現されたmRNAの機能的注釈により、G2/M期と関連し、かつ、毛様体形成と関連する遺伝子の有意な増加が明らかである(図16参照)。
【0179】
miR−449によって変調される転写物を、マイクロRNAの標的を予測するためのツール(http://www.microarray.fr:8080/merge/index)を用いて分析すると、このマイクロRNAの可能性のあるいくつかの標的が特定され、これをルシフェラーゼ試験で検証した(図17、顕微鏡写真a、c)。
【0180】
検証されたmiR−449a/bの標的の第一群は、アンフィレグリン(Areg)、サイクリンB1(Ccnb1)、サイクリンE2(Ccne2)および細胞周期の調節に関与するタンパク質をコードする細胞分裂周期25ホモログA(Cdc25A)を含んでなる。実際、miR−449のトランスフェクションは、Feng, M. et al. (Cell Cycle 9 (2), 213 (2010))、 Lize et al. (Cell Death Differ (2009), Noonan et al. (Oncogene 28 (14), 1714 (2009))およびYang, X. et al. (Genes Dev 23 (20), 2388 (2009))により報告されているように、細胞周期のG1期での停止をもたらし(図17b)、これは中心小体形成の誘導前の重要な段階である。
【0181】
検証されたmiR−449の標的の第二群は、Notch1およびNotchリガンドであるDLL1から構成される(図17c)。興味深いことに、HAEC細胞の再生中にNotchシグナル伝達経路をγ−セクレターゼアンタゴニスト(DCT、10μM)で遮断すると、毛様体形成が有意に増強され(図17d)、これはTsao et al. (Development 136 (13), 2297 (2009))の総説と一致する。
【0182】
これらの結果は、アフリカツメガエル表皮の繊毛細胞の前駆体がまさにそれらの分化時にNotchのリガンドDII1を一時的に発現するという所見、およびDII1の発現がこれらの前駆細胞におけるmiR−449の蓄積と並行して、経時的に急速に低下するという所見と矛盾がない(図17e)。
【0183】
この所見から予測できるように、DII1の内因的発現は、MOmiR−449で改変された胚の繊毛細胞の前駆体において高く維持され(図17eおよびf)、このことはmiR−449がDII1の発現を抑制することを示唆する。
【0184】
VIII−毛様体形成に対する持続的DII1活性の効果
次に、毛様体形成に対する持続的DII1活性の結果を評価した。
【0185】
miR−449に対する結合部位を欠いたDII1の合成RNAを注射すると、(1)繊毛細胞の過度な分化、(2)これらの細胞の大多数における不完全な毛様体形成(miR−449が欠乏した胚において見られたものと同じ表現型)が生じる(図17g)。
【0186】
Notchシグナル伝達の側方阻害は、多繊毛細胞の特徴を抑制することが知られている。DII1の過剰発現後に見られる繊毛細胞の分化の増進は、Deblandre et al. (Development 126 (21), 4715 (1999))により報告されているように、おそらくはNotch活性の阻害によって引き起こされる。
【0187】
並行して、モルホリノオリゴヌクレオチドによる内因性DII1の発現抑制は、繊毛細胞の過度な分化をもたらした(図17g)。よって、miR−449は、DII1の発現を抑制することによって多毛様体形成を誘発することができる。このモデルの裏付けとして、miR−449発現の減衰によって引き起こされる不完全な多毛様体形成は、miR−449の標的であるDII1の阻害によって効果的に回復される(図17g)。
【0188】
従って、これらの結果は、DII1発現の抑制はmiR−449の作用機序の中枢にあることを示す。
【発明の背景】
【0001】
本発明は、脊椎動物、特に哺乳類、特にヒトにおける、機能的毛様体形成をもたらす繊毛上皮の再生および分化の分野、および該上皮の再生および分化のプロセスにおけるマイクロRNAの関与、ならびに該マイクロRNAによって変調される遺伝子に関する。
【0002】
本発明はより詳しくは、多繊毛上皮細胞の繊毛の機能不全に関連する疾患、特に、気道上皮の再生および/または分化に欠陥がある慢性呼吸器系疾患などの、非機能的毛様体形成から生じる障害の治療におけるマイクロRNAの使用に関する。
【0003】
上皮の先端面を覆う繊毛細胞は、気道洗浄、胚移植または脳脊髄液循環などの種々の生理学的プロセスに不可欠である。不完全な毛様体形成は、多様な疾患の直接的原因であるか、または多様な疾患に関連する。
【0004】
毛様体形成プロセスには、繊毛細胞の属性の獲得(フェーズ1)で始まる一連の事象が含まれる。この第一段階は、Notchとdelta−like 1(DLL1)などのそのリガンドの間の相互作用を介してNotchシグナル伝達系による2つの隣接する細胞間の一方を阻害することからなる。DLL1リガンドを発現する細胞は繊毛細胞の前駆細胞となると同時に、隣接する細胞におけるNotchの活性化がこれらの細胞の繊毛細胞前駆細胞への変換を妨げる。本発明者らは、繊毛細胞の前駆細胞がmiR−449ファミリーのマイクロRNAと転写因子FOXJ1を発現することを示した。フェーズ2では、このmiR−449が細胞分裂を阻害し、分化を誘導する。繊毛細胞の前駆細胞において中心小体の増殖が始まり、この増殖に続いて基底小体の、細胞の頂端極への係留が起こるが、この段階の後に、適宜、軸糸の組み立ておよび繊毛合成が起こる。
【0005】
上皮は内部媒体と外部環境の間のバリア機能を果たす。気道は、粘液を分泌し、繊毛で覆われた基底細胞(各繊毛細胞は何百という繊毛を持つ)からなる高度に分化した多列上皮で被覆されている。上皮表面に存在するこれらの多数の繊毛の協調した運動が、粘液繊毛クリアランスと呼ばれるプロセスの際、粘液によって運ばれた老廃物の除去を可能とする。これに関して、繊毛は第一線気道感染に対する防御プロセスにおいて重要な役割を果たす(Puchelle et al. Proc Am Thorac Soc (2006) 3, 726-733)。
【0006】
気道上皮が病原性微生物、アレルゲン、毒性分子などによって引き起こされる環境ストレスに恒久的に曝されると、組織病変が生じる。これらの病変の後、気道上皮再生の生理学的プロセスが働き始める。このプロセスは、成功すれば、病変を修復し、呼吸器系組織の健全性を回復させ、病変は、分化して再び機能的となった組織に置き換わる。
【0007】
この再生にはいくつかの段階が含まれる:
1)創傷床を埋めるために上皮細胞が増殖かつ/または遊走する、
2)これらの第一段階の後に、密着結合の形成および頂端極と基底極の間の膜タンパク(チャネル、イオン輸送体など)の特定の差示的対応を特徴とする細胞の極性化の段階の活性化が起こる(Puchelle et al. 2006; Hajj, R. et al. J Pathol (2007) 211, 340-350)、
3)繊毛細胞の表面における繊毛の形成(毛様体形成)と粘液の合成および分泌を担う分泌細胞の存在をもたらす最終分化段階。
【0008】
このようにして、多列粘液繊毛上皮が病変に取って代わり、元の組織と同じ特性を有する機能的繊毛組織が再構成される。
【0009】
考え合わせると、これらの生物学的現象はシグナル伝達機構および特定の遺伝子発現プロフィールに関連がある。気道上皮の分化および毛様体形成に関連づけられている、ある種の既知の作用因子としては、Foxj1転写因子が最もよく議論されている(Yu, X. et al. (2008) Nat Genet 40, 1445-1453)。Foxj1は毛様体形成の最終段階で働き、軸糸形成の際に、基底小体(小オルガネラ繊毛の基底部の形成に不可欠な中心小体に近接した構造組織)の、頂端膜への係留に役割を果たす(Gomperts, B.N. et al. (2004) J Cell Sci 117, 1329-1337 (2004))。
【0010】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息または原発性繊毛ジスキネジア(PCD)、炎症および慢性感染などのある種の慢性呼吸器系疾患は、呼吸器系組織の破壊をもたらす(Marshall, W.F. (2008) J Cell Biol 180, 17-21)。まだ十分に理解されていない理由で、これらの疾患は上皮の再生および分化の欠陥に関連づけられている。これらの欠陥は、組織の異常な再構成、繊維症および不可逆的機能喪失をもたらす(Marshall, W.F., 2008)。これらの種々の疾患の治療的処置はまだ無く、呼吸器系組織の進行的破壊に様々な程度の有効性で対抗するための対症療法が利用できるに過ぎない。これに関して、機能的繊毛の形成(毛様体形成)をもたらす機構を解明することは、明確な治療利益を持った大きな挑戦と言える。
【0011】
細胞の分化は、特定の遺伝子の発現を司る転写および翻訳の精密な時間的および空間的調節を含む。これらの事象は種々の分子的および機械的シグナルによって制御される。従って、分化および毛様体形成の基礎にある生理学的機構を理解することは、より特異的かつより効果的な治療アプローチの開発の不可欠な前段階である。
【0012】
1993年に発見された、調節特性を有する約22塩基の小さな非コードRNAであるマイクロRNA(miRNAs)は、生存、アポトーシス、増殖、ホメオスタシスまたは分化などの細胞現象の調節に重要な役割を果たす(Lu, Y. et al. (2007) Dev Biol 310, 442-453)。
【0013】
それらの作用機序は、miRNAの数塩基と標的mRNAの非コード3’部分との複合体の形成を含む。この相互作用は、標的mRNAの脱安定化および/またはタンパク質合成の阻害を誘導するとされている。miRNAとその標的の間の認識は、主としてmiRNAの5’部分に位置する約7塩基の配列(以下、認識配列またはシード)によって制御される。よって、各miRNAは、広範な個々のmRNAの安定性を調節する能力を有すると考えられる。
【0014】
これまでに、ヒトにおいて750を超えるmiRNAが同定され、それらが30%を超える転写物を調節すると言われている。従って、これらのmiRNAによる調節は遺伝子発現の主要な調節であると思われるが、その影響はこれまでは過小評価されていた(Berezikov, E. et al. (2005) Cell 120, 21-24; Xie, X. et al. (2005) Nature 434, 338-345)。
【0015】
miRNAは核において長い前駆体の形態で転写される。それらは核内で最初の成熟を受けて、より小さなヘアピン構造を有するmiRNAの前駆体(pre−miRNA)を生じる。この前駆体は核から細胞質へと輸送され、そこで最終的な成熟を受ける。そのループは酵素Dicerによって分解されて2本の一本鎖miRNA(5p鎖と3p鎖)を生じ、いわゆる成熟鎖が、標的mRNAの非コード3’部分と相互作用する多タンパク質複合体(RISC複合体:RNA induced silencing複合体)によって処理され、一方、いわゆる「スター(star)」相補鎖は分解を受ける。miRNA miR−xy、miR−xy−zまたはlet−7xの相補鎖はそれぞれmiR−xy*、miR−xy−z*またはlet−7x*と呼ばれる。
【0016】
最近の研究では、マウスにおいて分化および形態形成機構、特に、胚発生および表皮の上皮細胞前駆体の増殖(Lena, A.M. et al. (2008) Cell Death Differ 15, 1187-1195; Yi, R. et al. (2008) Nature 452, 225-229)または肺発達(Lu, Y. et al. (2007) Dev Biol 310, 442-453 (2007); Harris, K.S. et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103, 2208-2213; Lu, Y. et al. (2008) Proc Am Thorac Soc 5, 300-304)におけるマイクロRNAの重要性が実証された。より正確には、Lena et al.は、マウスにおいて肺の形態形成におけるmiR−17−92遺伝子座のmiRNAの関与を実証した。マウスにおける肺の形態形成中にmiRNAが関与するという証拠はあるものの、それらの厳密な役割、そしてそれらの作用機序はまだ検討されていない。
【0017】
最後に、いくつかの研究が、癌、心肥大、糖尿病またはある種のウイルス感染などの疾患におけるある種のmiRNAの特定の役割を示唆している(Triboulet, R. et al. (2007) Science 315, 1579-1582; Calin, G.A. & Croce, C.M. (2006) Nat Rev Cancer 6, 857-866; Grassmann, R. & Jeang, K.T. (2008) Biochim Biophys Acta 1779, 706-711; Latronico, M.V., (2008) Physiol Genomics 34, 239-242; Poy, M.N. et al. (2004) Nature 432, 226-230)。
【0018】
これまでに、脊椎動物において、気道上皮などの繊毛上皮の再生および分化、ならびに毛様体形成の制御におけるmiRNAの役割または関与を実証した研究はない。
【発明の概要】
【0019】
よって、本発明者らは、脊椎動物における上皮組織の毛様体形成の制御、特に、粘液繊毛表面上皮におけるヒト気道上皮細胞の再生および分化におけるある種のmiRNAの関与を始めて実証した。
【0020】
より詳しくは、本発明者らは、miRNAのハイスループットシーケンシング、miRNAバイオチップ、ならびに定量的RT−PCRを組み合わせた種々の実験アプローチを用い、ヒト気道上皮の、また、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の胚の繊毛表皮細胞の種々の分化段階に特異的に関与するmiRNA、すなわち、1)増殖段階、2)細胞の極性化、および3)最終分化および毛様体形成の特異的miRNAの特徴を同定した。
【0021】
本発明者らはまた、このようにして同定されたmiRNAの、特にDLL1 Notchリガンドの抑制を介した上皮組織の毛様体形成の制御における役割を確認した。
【0022】
このように本発明者らは、ヒト気道上皮組織の再生および毛様体形成において示されたマイクロRNAの役割が、脊椎動物のいずれの多繊毛上皮組織の毛様体形成の機構にも外挿可能であることを示した。
【0023】
このようにして、再生および分化中の健康な気道上皮組織では、63のmiRNAが発現または抑制され、かつ/または有意な量で存在することが実証された(表III、IV、VおよびVI参照)。健康個体に比べて病的個体では1以上のmiRNAの発現に変化が見られることは1以上の遺伝子の発現の調節の欠陥の指標となり、従って、この変化は、過少発現のmiRNAもしくはmiRNAを投与することによって、かつ/または過剰発現するmiRNAまたはmiRNA群の阻害剤(antagomir)を投与することによって補うことができる。
【0024】
よって、本発明は、被験体の繊毛上皮組織の再生および分化能、従って機能的毛様体形成をもたらす能力を評価するための適用を見出し、本発明はまた該被験体の気道上皮組織の再生および/または分化能の評価を可能とし、本発明による方法はまたin vitroおよびin vivo診断の分野で特に興味深い。よって、本発明は、脊椎動物、特に哺乳類被験体、好ましくはヒトにおいて、繊毛上皮組織の機能的毛様体形成をもたらす能力を評価する方法であって、
(i)該被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の繊毛上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、1以上の他の被験体の健康な繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(このプロフィールは下記表IのmiRNAの一部または全部を含んでなる);
(iv)該被験体によるその発現レベルが該他の被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわち発現レベルのいずれか1つが他の発現レベルの少なくとも2倍に相当する、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定されたプロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、表Iの発現プロフィールにおける同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍異なる発現レベルを有する場合に、該被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力の欠陥が証明される工程
を含んでなることを特徴とする方法に関する。この発現レベルをlog2で表すと(表Iのように)、これは、log2で表される供試被験体の発現レベルが1以上の他の健康な被験体における発現プロフィールに比べて少なくとも1単位異なる場合に、少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、繊毛上皮組織の再生および/または分化能、ならびに毛様体形成能の欠陥が見られるということを意味する。
【0025】
本発明による方法の適用は、本発明者らが繊毛上皮組織の再生および/または分化能に関する診断を確立したいと考える被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィール、ならびに1以上の健康な、すなわち、繊毛上皮組織の分化および/もしくは再生ならびに毛様体形成の障害を持たないとして選択された被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールの確定を必要とする。
【0026】
そのもう1つの目的によれば、本発明は、哺乳類被験体、好ましくはヒトの気道上皮組織の再生および/または分化能ならびに機能的毛様体形成をもたらす能力を評価する方法であって、
(i)該被験体の気道上皮組織のmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の気道上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、1以上の他の被験体の該健康な気道上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(このプロフィールは下記表IのmiRNAの一部または全部を含んでなる);
(iv)該被験体によるその発現レベルが該他の被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわち発現レベルのいずれか1つが他の発現レベルの少なくとも2倍に相当する、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定されたプロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、表Iの発現プロフィールにおける同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍異なる発現レベルを有する場合に、該被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した、気道上皮組織の再生および/または分化能の欠陥が証明される工程
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【発明の具体的説明】
【0027】
定義
「被験体」とは、脊椎動物個体、特に哺乳類、好ましくはヒトを意味する。好ましくは、本発明者らが繊毛上皮組織の、機能的毛様体形成をもたらす能力に関して診断を確立したいと考える被験体であり、より具体的には、気道上皮組織の再生および/または分化能を診断する対象、ならびに同じ種に属す健康な1個体の被験体または複数の被験体であり得る。
【0028】
本発明に関して、「繊毛」および「多繊毛」は区別無く用いられ、目的とする上皮組織が、それらの細胞にいくつかの繊毛を有する場合と理解される。
【0029】
ある組織におけるmiRNAの発現プロフィールとは、選択された値に相当するかまたはそれを超える発現レベルを有する全てのmiRNAを意味する。
【0030】
細胞または組織におけるmiRNAの発現レベルは、その細胞または組織に存在するmiRNAを測定することによって決定される。
【0031】
miRNAの発現レベルは、当業者に既知のいずれの技術によって測定してもよく、本発明者らは特に、RNA抽出工程後の、miRNAのハイスループットシーケンシング、NASBA(nucleic acid strand based amplification)、プライマー伸長、またはmiRNAのハイブリダイゼーションを可能とするDNAチップによるシーケンシングを挙げる。
【0032】
miRNAの発現レベルは、以下のようなものなどの種々の手段によって表すことができる。
【0033】
*log2で表される発現レベル強度。この値は、細胞または組織に存在するmiRNAの量を表す。発現プロフィールの確定のためには、log2で表される発現レベル強度が3以上であるmiRNAを使用することが好ましい。
【0034】
この発現レベル強度は、発現したmiRNAを測定するために用いられる技術に応じた異なる手段によって計算することができる。
【0035】
Agilent型(下記に示される例を参照)のチップ上の蛍光を測定する場合には、発現レベルの測定値は蛍光強度に相当し、次にそれからlog2を計算する。ハイスループットシーケンシングの場合には、発現レベル強度は、miRNAの配列が決定される回数を示し、この数値を配列の総数に対してノーマライズした後にそのlog2を計算する。
【0036】
*細胞または組織で発現されるmiRNAの総量に対する同じ細胞または同じ組織中のあるmiRNAの発現パーセンテージを表す存在度。この場合、その存在度が0.1%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上であるmiRNAが確保される。
【0037】
好ましくは、発現レベルを特徴付ける値はlog2で表される。
【0038】
下記の表Iは、発現レベルが健康ヒト気道上皮組織のmiRNAの発現レベル強度としてlog2で表される発現プロフィールを示す。
【表1】
【0039】
本発明による方法は、本発明者らがその組織の機能的毛様体形成を制御する能力、特に再生および/または分化能に関する診断の確立を望む被験体の繊毛上皮組織、特に呼吸器系のマイクロRNAの発現プロフィールを、特定の分化段階において確定された1以上の被験体の健康な繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィール(このようなプロフィールは表IVで確認することができる)と比較することからなる付加的工程を備えることができる。
【0040】
よって、本発明は、繊毛上皮組織の繊毛の機能不全に関連する障害の予防および/または治療に用いるための、配列番号1〜6、8〜52、157〜162および201の配列のhsa−miR−100、hsa−miR−106b、hsa−miR−125a−5p、hsa−miR−130a、hsa−miR−140−3p、hsa−miR−141、hsa−miR−151−5p、hsa−miR−15a、hsa−miR−16、hsa−miR−17、hsa−miR−181a、hsa−miR−191、hsa−miR−193b、hsa−miR−1975、hsa−miR−200a、hsa−miR−200b、hsa−miR−200c、hsa−miR−203、hsa−miR−205、hsa−miR−21、hsa−miR−210、hsa−miR−22、hsa−miR−224、hsa−miR−23a、hsa−miR−23b、hsa−miR−25、hsa−miR−26a、hsa−miR−26b、hsa−miR−27b、hsa−miR−29a、hsa−miR−29c、hsa−miR−30b、hsa−miR−30c、hsa−miR−30d、hsa−miR−30e、hsa−miR−31、hsa−miR−34a、hsa−miR−34b、hsa−miR−34c−5p、hsa−miR−365、hsa−miR−374a、hsa−miR−378、hsa−miR−425、hsa−miR−429、hsa−miR−449a、hsa−miR−449b、hsa−miR−449c、hsa−miR−574−3p、hsa−miR−92b、hsa−miR−939、hsa−miR−96、hsa−miR−99a、hsa−let−7a、hsa−let−7b、hsa−let−7c、hsa−let−7e、hsa−let−7fおよびhsa−let−7g、配列番号53〜58、60〜104、163〜168および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、または場合により化学的に修飾されていてもよい相補的配列鎖、ならびに配列番号105〜110、112〜156、169〜174、193〜200および203の配列のそれらの前駆体(下表I参照)から選択される、本発明による方法によって同定された少なくとも1つのmiRNAに関する。
【0041】
繊毛上皮組織とは、その細胞がそれらの先端面に繊毛を有する組織を意味し、哺乳類では、それは特に気道上皮または卵管および子宮内膜の上皮、脳の脈絡膜叢および上衣細胞の上皮、ならびに雄性の精子、精巣網および精管の上皮である。
【0042】
ある第一の一本鎖核酸断片の相補的配列鎖は、その配列が該第一の断片の配列と相補的であり、該第一断片と対合することができる、一本鎖核酸断片を意味する。
【0043】
本発明に関して、化学的に修飾された相補的配列鎖も使用可能であり、すなわち、それらの配列は、それらの細胞内および細胞外安定性を向上させ、かつ、酸性または塩基性条件での、ならびにヌクレアーゼの作用下での加水分解感受性を小さくするために化学的修飾された1以上の塩基を含んでなり、考えられる修飾としては、特に、T. M. Ranaの総説(Nature Reviews, 2007, Vol. 8: 23-36)で干渉RNA(siRNA)として挙げられ、または国際出願WO2007/021896に記載されているものがあり、特に、相補的配列鎖は、2’−デオキシ、2’−デオキシ−2’−フルオロ、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル(2’−O−MOE)、2’−O−アミノプロピル(2’−OAP)、2’−O−ジメチルアミノエチル(2’−O−DMAOE)、2’−O−ジメチルアミノプロピル(2’−O−DMAP)、2’−O−ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’−O−DMAEOE)または2’−O−N−メチルアセトアミド(2’−O−NMA)塩基などの、2’で修飾されたヌクレオチドから選択される化学的に修飾されたヌクレオチドを含んでなり得る。
【0044】
表II−本発明によるmiRNA、ならびにそれらのヌクレオチド配列、それらの相補鎖のヌクレオチド配列およびそれらの前駆体のヌクレオチド配列の参照
【表2】
【0045】
従って、本発明によるmiRNAは、いわゆる原発性繊毛病、すなわち、繊毛の機能不全に直接関連する疾患の予防および/または治療に対して特に注目され、これらの原発性繊毛病は特に、
原発性繊毛ジスキネジアまたはカルタゲナー症候群;
内臓逆位;
雄性不妊症(精子の運動)および雌性不妊症(例えば、子宮外妊娠);
アルストレム症候群;
バルデー・ビードル症候群;
メッケル・グルーバー症候群;
多発性嚢胞腎;
網膜変性;
シーニア・ローケン症候群
である。
【0046】
本発明によるmiRNAはまた、いわゆる続発性繊毛病、すなわち、
膵臓線維症;
慢性閉塞性肺疾患(COPD);
喘息;
細気管支炎;
ウイルス起源の呼吸器系感染
などの繊毛機能の欠陥に関連する疾患の予防および/または治療に対して注目される。
【0047】
従って、本発明による使用は、より詳しくは、気道上皮の再生および/または分化の障害を含む病態の予防および/または治療に適用が見出せ、これらの病態としては、特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息、原発性繊毛ジスキネジア、気道の慢性炎症および感染ならびに呼吸不全などの慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患がある。
【0048】
慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患(例えば、COPD、膵臓線維症、喘息、PCD、アレルギー性鼻炎など)は、主要な公衆衛生問題であり、工業国における死因の第4位であり、罹患率が急速に増加していることから、これらの疾患の治療により良くねらいを定めることができるように、それらの原因および機構をより良く理解する必要に迫られている。
【0049】
喘息は、小児では最も多い慢性呼吸器系疾患であり(5〜20%)、入院の主な原因の1つとなっている。呼吸器系アレルギーの急増および工業汚染の増加が、一般集団における喘息の原因の大きな増加の原因となっている(O van Schayck, et al. IPAG DIAGNOSIS & MANAGEMENT HANDBOOK. Chronic Airways Diseases. A Guide for Primary Care Physicians. 1-34, 2005)。
【0050】
COPDは、罹患率と高い死亡率に関連する一群の呼吸器系疾患である。COPDは吸入された有害粒子(煙草が最も代表的である)によって引き起こされ、呼吸器系組織を弱らせる炎症および慢性感染をもたらす。喫煙者の約15%が一生のうちにCOPDを発症する可能性がある。世界保健機関は、世界で11億人近くの喫煙者が存在し、COPD罹患率は世界の集団の0.8〜6%であると推計している。研究では、2020年にはCOPDは世界の死因の第3位になると推測されている。これらの疾患の原因および機構はまだ知られていない部分が大きいが、おそらく他の因子(遺伝的、後成的)もCOPDの発症に影響を及ぼしている可能性がある(O van Schayck, et al. 2005)。
【0051】
膵臓線維症は、外分泌腺、従って、様々な器官(肺、膵臓、肝臓、汗腺、腸)のあらゆる分泌上皮組織を侵す、白色人種集団において最も多い遺伝病である(2500人に1人)。上皮におけるイオン輸送の欠陥が、特に炎症および慢性呼吸器系感染の一因である粘膜の肥厚をもたらし、不可逆的組織が生じ、重篤な呼吸不全が生じる。この疾患を治癒させる治療法は無いが、科学的および医学的知識の進展が、患者の平均余命を1960年代の3年から現在の約45年に引き延ばしたという対症療法の確立を可能とした。
【0052】
原発性繊毛ジスキネジア(PCD)は、粘液繊毛クリアランスの欠陥、炎症および慢性感染ならびに不可逆的組織破壊をもたらす気道上皮の繊毛運動の欠陥を引き起こす、まれな常染色体劣性遺伝疾患である(15000人に1人)。
【0053】
気道上皮の再生および/または分化の障害を含む疾患の治療の展望を持つこれらのmiRNAの重要性が、これらのmiRNAが、気道上皮の再生および/または分化に関与することが知られている遺伝子を調節するという事実によって確認される(実施例III参照)。
【0054】
本発明に関して、毛様体形成過程で繊毛上皮組織内に有意な量で存在するmiRNA(好ましくは、その存在度は総miRNAの少なくとも1%である、表III参照)を使用することが好ましい。従って、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−31*(配列番号89)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−210(配列番号22)およびhsa−miR−130a(配列番号4)、配列番号55〜57、63、65〜67、71〜74、77、78、83、84、90〜92、95、98、100、101、104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、115、117〜119、123〜126、129、130、135、136、141〜144、147、151〜153、156および203のそれらの前駆体から選択される少なくとも1つのmiRNAを使用することが好ましい。
【0055】
これらのmiRNAのうち、その発現が誘導されるものは、その発現が抑制されるものと区別することができ(表IV)、健康個体のmiRNA発現プロフィールに匹敵するmiRNA発現プロフィールを再生するためには、繊毛上皮組織の毛様体形成、特に、気道上皮組織の再生および分化の過程でその発現が誘導される1以上のmiRNA、および/またはその発現が抑制される1以上のmiRNAを使用することが有利であると思われる。従って、本発明の有利な変形形態によれば、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、および配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体、および/またはhsa−miR−205、hsa−miR−31、hsa−miR−21、hsa−miR−17、hsa−miR−29a、hsa−miR−193b、hsa−miR−31*、hsa−miR−210、hsa−miR−130aから選択されるmiRNAの少なくとも1つの「スター」相補鎖(これらの「スター」相補鎖は、hsa−miR−205*(配列番号72)、hsa−miR−31およびhsa−miR−31*(配列番号37および89)、hsa−miR−21*(配列番号73)、hsa−miR−17*(配列番号63)、hsa−miR−29a*(配列番号83)、hsa−miR−193b*(配列番号66)、hsa−miR−210*(配列番号74)、hsa−miR−130a*(配列番号56)である)、ならびに配列番号108、115、118、124〜126、135および141の配列のそれらの前駆体から選択される少なくとも1つのmiRNAが本発明に従って使用される。
【0056】
その発現が繊毛上皮組織の毛様体形成、特に、気道上皮組織の再生および/または分化の過程で変調される前記miRNAのうち、その発現が誘導されるもの、すなわち、hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、ならびに配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体が、本発明に従って好ましく用いられる。
【0057】
本発明はまた、上皮組織の毛様体形成過程、または気道上皮組織の再生および/または分化過程でその発現が誘導される少なくとも1つのmiRNAを発現する発現ベクターの使用に関する。真核細胞においてRNAを発現することができ、かつ、それにmiRNAの発現カセットがクローニングされるいずれの発現ベクターも本発明において使用可能である。
【0058】
本発明はまた、miRNAの領域2〜7、すなわち、miRNAの2番〜7番のヌクレオチド、またはmiRNAの領域3〜8、すなわち、miRNAの3番〜8番のヌクレオチドに位置する認識配列GGCAGUG(配列番号175)を有するmiRNAの使用に関し、それらは特にmiRNAs hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)およびhsa−miR−449c(配列番号201)である。
【0059】
本発明はまた、miRNAの領域2〜7または領域3〜7に位置する認識配列AAUCACU(配列番号176)を有するmiRNAの使用に関し、それは特にmiRNA hsa−miR−34b(配列番号39)である。
【0060】
本発明はさらに、miRNAの領域2〜7または領域3〜7に位置する認識配列AUCACUA(配列番号177)を有するmiRNAの使用に関し、それは特にmiRNA hsa−miR−34c−3p(配列番号40)である。
【0061】
本発明は最後に、医薬品として用いるための、配列番号3〜5、8、9、11〜15、17、19、20、23〜26、28〜32、35〜37、39〜44、46〜52および201の配列のmiRNA、場合により化学的に修飾されていてもよい、配列番号55〜57、60、61、63〜67、69、71、72、75〜78、80〜84、87〜89、91〜96、98〜104および202の配列のそれらの相補鎖またはmiRNA阻害剤(antagomir)、ならびに配列番号107〜109、112、113、115〜119、121、123、124、127〜130、132〜136、139〜141、143〜148、150〜156、194、195、197および203の配列のそれらの前駆体から選択される上記の少なくとも1つのmiRNAの使用に関する。
【0062】
上記の構成の他、本発明はさらに、本発明の実施例ならびに添付図面に示される、下記の説明から明らかとなる他の構成も含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ヘマトキシリンおよびエオジンで染色した細胞の形態を明らかにする、共焦電子顕微鏡に観察されたヒト気道上皮細胞の初代培養物の顕微鏡写真を示す。また、これらの細胞を、上皮分化マーカーの発現を調べるために免疫標識した(繊毛細胞に対してはチューブリン−β4(図1E〜F)、粘液分泌細胞に対してはムチンMUC5AC(図1G〜H)、および基底細胞に対してはサイトケラチン13(図1I〜J))。分化の状態を評価した。
【図2A】異なる3人の患者におけるヒト気道上皮の種々の分化段階の少なくとも1つにおいて最も強い発現を有する26のmiRNAを示す累積ヒストグラムを表す:ALI−D0(D0、増殖)、ALI−D7(D7、増殖および極性化)、ALI−FC(FC、毛様体形成開始)、ALI−WD(WD、完全に分化した上皮)。
【図2B】異なる3人の患者におけるヒト気道上皮の種々の分化段階の少なくとも1つにおいて最も強い発現を有し、かつ、有意に変調される22のmiRNAを示す累積ヒストグラムを表す:ALI−D0(D0、増殖)、ALI−D7(D7、増殖および極性化)、ALI−FC(FC、毛様体形成の開始)、ALI−WD(WD、完全に分化した上皮)。
【図3】統計学的に表され(A>8、P<0.05)、少なくとも1つの細胞培養条件において変調される(1<M<−1)miRNAの発現強度の変動を細胞培養の分化状態の関数として示すAgilent(登録商標)miRNAチップによって得られる階層的クラスターを示す(黒い四角ほど、miRNAの発現が少ない)。
【図4】ハイスループットシーケンシング(HTS)およびmiRNAチップ(Agilent(商標))において得られた結果の間の相関を示すグラフである。
【図5】図に示されているように各分化段階で供試した各miRNAの5p鎖の定量的PCRによって観察された変動のヒストグラムを示す。結果は異なる3人のドナーの平均を示す。
【図6】毛様体形成中に調節されるマイクロRNAを示す2つのグラフを合わせたものである。図aおよびcは、未分化HAEC細胞(繊毛を持たない、段階ALI−D0)(図a)および胚段階E11.5(原腸胚)前および段階E26(尾芽胚)後のアフリカツメガエル胚の表皮外植体(図c)における、総マイクロRNAに対するパーセンテージとしてのマイクロRNAの存在度を示す。図bおよびdは、同じデータを繰り返したものであり、miRNAの定量的存在度を示す。
【図7】繊毛細胞におけるmiR−449の特異的局在を可視化するための顕微鏡写真を表す。これらの試験は、21日目のHAEC細胞培養物(段階ALI−D21)(顕微鏡写真a、b、c)、ヒト気管支組織(顕微鏡写真e、f、g)または尾芽胚段階のアフリカツメガエル胚(顕微鏡写真h、i、j、k、l)の凍結切片に対して、miR−449(顕微鏡写真a、e、f、h、i、j、l)またはmiR−31(顕微鏡写真b)に向けられたジゴキシゲニン標識LNAプローブと陰性対照としてのランダムプローブ(「スクランブル」)(顕微鏡写真c、g、i)を用いたin situハイブリダイゼーションにより行った。アフリカツメガエル胚の繊毛細胞は、アセチル化チューブリンに対する原発性抗体で免疫組織標識することによって同定した。miR−449に対するLNAプローブは繊毛円筒細胞を標識する(顕微鏡写真a、e、h)。これに対して、miR−31に対するプローブは基底細胞を優先的に標識した(顕微鏡写真b)。粘液分泌細胞は抗ムチン抗体MUC5ACで標識された(パネルeに矢印で示す)。図dは、ヒト気道上皮組織の基底細胞および繊毛円筒細胞におけるmiR−449、miR−31およびmiR−34の発現レベルを示す。
【図8】錐体細胞(繊毛+分泌)と基底細胞の間で有意に調節されるマイクロRNAのマッピングを示す(ヒートマップ)。円柱の上に位置する5つのマイクロRNAは錐体細胞(繊毛+分泌)に特異的であり、これより下は、miRNAの外観が薄くなるほど、基底細胞に対する特異性が高くなる。
【図9】図で示された2×2比較のそれぞれに関する、2つの分化段階の比のlog2(横座標)と統計的有意性の値(縦座標)の間の関係を示すグラフである。有意に過剰発現される遺伝子が濃い灰色で示され(グラフの右手側)、有意に抑制される遺伝子が中間の灰色で示される(グラフの左手側)。
【図10】図に示されるように、検討した培養条件のそれぞれにおける、カベオリン−1mRNAの発現強度のlog2を示すヒストグラムである。
【図11】ルシフェラーゼリポーター遺伝子がCav−1および対照(PSICHECK)のmRNAの非コード3’部分と融合される場合の、ルシフェラーゼ活性に関して選択された各miRNAの効果(対照ベクターPSICHECKで得られた最大効果の%で表す)を示すヒストグラムである。データは陰性対照miRNAで得られた結果に対してノーマライズしたものである。
【図12】mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34cに共通の認識配列(「シード」)の配列を含む遺伝子の富化を示すグラフを合わせたものである。分析した遺伝子の数(約25000)を横座標に示し、これらの遺伝子はそれらの抑制または発現レベルに従って分布し、すなわち、遺伝子は、最大抑制から最大誘導まで左から右に示される。縦座標は、富化レベルの統計値をlog10で表したものである(縦座標に示されるエンリッチメントスコアは、van Dongen S et al. Nat Methods. 2008 Dec; 5(12): 1023-5により記載されている超幾何二項累積モデルに従って計算したP値のlog10の絶対値に相当する)。HAEC細胞にトランスフェクトされたmiRNAが各グラフに示される。
【図13】IPAソフトウエアを用いた、本発明によるmiRNAの発現によって変調された遺伝子に関する生物学的機能および疾患の同定結果を示す。
【図14】miR−449の発現の抑制による毛様体形成の阻害を示す。 (a,b)HEAC細胞をそれらの再生中(一般に21日間)、抗miR−449阻害剤(antagomirs)または対照阻害剤(antagomir)(20nM)で数回処理する。繊毛細胞のパーセンテージは、核の数に対するチューブリン−β4陽性細胞の数の比率として定義した(20視野/1フィルターおよび3フィルター/1ドナー)。顕微鏡写真(a)は、対照阻害剤(antagomir)(Antago−Neg)または抗miR−449阻害剤(antagomir)(Antago−449)で処理したHAEC細胞に典型的な免疫標識を示す。ヒストグラムは、各実験条件に対して1視野当たりの繊毛細胞のパーセンテージを示す(n=6、***、P<0.001、スチューデントのt検定)。顕微鏡写真(b)は、抗miR−449阻害剤(antagomir)はmiR449aおよびmiR−449bの発現を抑制するが、miR−21の発現には効果がないことを示す(n=6、ns=有意でない、**、P<0.01、***、P<0.001、スチューデントのt検定)。 アフリカツメガエルでの試験:30ngの対照モルホリノオリゴヌクレオチド(MO)(顕微鏡写真c、d、h)またはMO miR−449a/b/c(各10ng)と2.5ngの蛍光リシン−デキストラン(FLDx、橙色/褐色、顕微鏡写真cおよびf)または注射された細胞を追跡するための500pgのTD−tomato−CAAX mRNA(顕微鏡写真g、i)を含んでなる混合物を、卵割期のアフリカツメガエル胚の表皮に注射する。 顕微鏡写真eおよびfでは、in situハイブリダイゼーション技術を用い、チューブリン−αで標識することによる繊毛細胞前駆体の検出が可能である。 顕微鏡写真f:miR−449枯渇領域(上)は、注射されなかった領域(下)に比べて多いチューブリン−α陽性細胞を示す。顕微鏡写真hおよびiは、抗アセチル化チューブリン抗体を用いた、オタマジャクシ段階の胚における繊毛の検出を示す。画像は尾ひれの領域で得る。MO miR−449とmRNA TD−tomato−CAAXを同時注射した細胞では繊毛は検出されない。グラフgは、対照外植体(225細胞、8テール)およびMO miR−449で改変されたもの(242細胞、8テール、p=0.036、Kruskall−Wallis検定)において、繊毛を発達させる注射細胞(赤色蛍光TD−tomato陽性)のパーセンテージを示す。
【図15】miR−449の抑制による繊毛細胞の分化の誘導を示す。MO抗miR−449または対照MOとFLDxの混合物を、卵割期の胚の表皮に注射する。これらの胚を初期神経胚段階で固定した後、チューブリン−α、Tex15およびFoxj1のリボプローブとのin situハイブリダイゼーションを行い、その後、免疫標識してFLDx(蛍光リシン−デキストラン)の存在を確認する。次に、これらの胚を、注射領域における繊毛細胞前駆体の密度をより良く可視化するために切片にする。これら3つのマーカーに関して、miR−449の発現の抑制は、繊毛細胞前駆体の増加をもたらした。
【図16】この図の4つのセクションは、ウェブサイトhttp://www.broadinstitute.org/gsea/doc/GSEAUserGuideFrame.html.で説明されているように、遺伝子の富化の結果を示す。GSEAはエンリッチメントスコア(ES)を計算するが、このスコアは、ある遺伝子リスト内で遺伝子が過剰発現される程度を表す。正のESは、遺伝子集団の左での遺伝子富化を示し(過剰発現遺伝子に相当する)、負のESは、遺伝子集団の右での遺伝子富化を示す(下方調節遺伝子に相当する)。各セクションでは、パネルの上の部分が、左に示されている遺伝子集団のエンリッチメントスコアのグラフである。パネルの中央の部分は、リストにおいて遺伝子集団のメンバーが明らかな場合に示す(「細胞周期」または「毛様体形成」)。パネルの下の部分は、遺伝子発現と細胞表現型の間の相関を尺度化するメトリックスケジューリングの値を示し、正の値は第一の表現型(miR−449の分化または過剰発現)との相関を示し、負の値は第二の表現型(分化していない、または対照)との相関を示す。これらの実験データは総て、Base Gene Expression Omnibusに受託番号GSE22147で保存される。
【図17】miR−449が細胞周期およびNotch経路を標的とすることを示すという結果を表す。 細胞周期:グラフ(a)は、Areg、Ccnb1、Ccne2、Cdc25aのmRNAの非コード3’部分と融合されたルシフェラーゼリポーター遺伝子の活性の、miR−449a/bおよびmiR−34a/c5−pによる変調を示す。 Notchシグナル伝達経路:グラフ(c)は、DLL1およびNotch 1のmRNAの非コード3’部分と融合されたルシフェラーゼリポーター遺伝子の活性の、miR−449a/bおよびmiR−34a/c5−pによる変調を示す。 実験は総て、少なくとも2回、3反復で行った。値はウミシイタケルシフェラーゼの内部対照に対してノーマライズした。エラーバーは標準偏差を示す。 グラフ(b)は、miR−449およびmiR−34による、細胞周期のG1期での遮断を示す。 グラフ(d)は、HAEC細胞の毛様体形成に対する、DAPT(10μM)によるNotch経路の阻害効果を示す。 顕微鏡写真(e)および(f)は、表皮にMO抗miR−449および蛍光リシン−デキストラン(FLDx)の混合物の注射を施した卵割期の胚を示す。in situハイブリダイゼーションによる染色は、miR−449を欠いた表皮におけるDLL1の持続的発現を示す。 パネル(g)は、表皮に対照MO、MO抗miR−449およびMO DII1またはmRNA DLL1の注射を施した卵割期の胚を示す。繊毛は抗アセチル化チューブリン抗体(赤色)で染色された。各条件につき、FLDx陽性(緑色)の少なくとも200細胞(6〜8テール)が繊毛を持つ(P<0.03)。DII1のmRNAの注射は、繊毛細胞前駆体の数を増加させるが、毛様体形成を抑制することに着目すべきである。DII1発現の減衰は毛様体形成を誘導する。
【実施例】
【0064】
I−生物学的細胞モデルの作製
I−A.ヒト気道上皮細胞
これらの試験は、鼻中隔形成術、鼻甲介切除術またはポリープ切除術下の患者から採取した鼻甲介またはポリープから単離された健康なヒト気道上皮細胞の初代培養物で行った。次に、分化を誘導する目的で、これらの細胞をIV型コラーゲンで覆われた多孔質支持体(Transwell(商標)クリア、ポリエステル、0.4μm、Costar)上の、気液界面(ALI)で培養した(Puchelle, E et al., 2006)。気道上皮の形態的および生理学的特徴は詳細に記載されている(Puchelle, E et al., 2006)。
【0065】
I−A.1.材料および方法
患者および組織サンプル
鼻腔閉塞のための鼻甲介切除術もしくはポリープ切除術または鼻中隔形成術を受ける予定であった3人の患者から下鼻甲介または鼻ポリープを採取した(Dr. Castillo, ORL Department, Pasteur Hospital, Nice, France)。喘息、膵臓線維症またはアレルギーを有する患者は試験から除外した。これらの手順は総て、ニース・ソフィア・アンティポリス大学の倫理委員会によって認可されたものである。
【0066】
健康なヒト気道上皮細胞(HAEC)の単離および培養
鼻粘膜に由来する健康なHAECの初代培養は、従前の研究から適合させた方法によって行った(Wu et al., 1985; Marcet et al., 2007; LeSimple et al., 2007)。切除後、すぐに組織を、HEPES(25mM、Invitrogen)、100U/mlペニシリン(Gibco、Invitrogen)、100mg/mlストレプトマイシン(Gibco, Invitrogen)、100mg/mlの硫酸ゲンタマイシン(Gibco, Invitrogen)および2.5mg/mlのアムホテリシンB(Gibco, Invitrogen)を含有する平衡塩溶液(HBSS(Ca2+/Mg2+不含)Invitrogen)に浸漬する。HBSS−HEPES−抗生物質媒体で3回洗浄した後、組織を0.1%のプロナーゼ(Sigma)で4℃にて一晩消化する。次に、組織を消化媒体から注意深く取り出し、鼻粘膜表面の気道上皮細胞を、10%のウシ胎児血清(FCS)を含有するHBSS−HEPES−抗生物質媒体を用いて穏やかに攪拌することによって間質から解離させた。この細胞懸濁液を4℃にて10分、150gで遠心分離し、細胞ペレットを10%FCS−HBSS−HEPES−抗生物質に再懸濁させ、再び遠心分離する。その後、この第二の細胞ペレットを10%FCS−抗生物質−ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen)の媒体に、細胞凝集塊を解離させるためにニードル(0.8mm)および10mlシリンジを用いて再懸濁させる。次に、これらの細胞をIV型コラーゲン(Sigma)で被覆された透過性多孔質支持体(Transwell(商標), Costar, Sigma)上に播種し(104/cm2)、加湿雰囲気中、37℃、5%CO2でインキュベートする。翌日、培養培地を、以下のホルモン添加剤および他の増殖因子:インスリン、アポトランスフェリン、上皮細胞増殖因子(EGF)、エピネフリン、ヒドロキシコルチゾン、3,30,5−トリヨードチロニン、内皮細胞成長添加剤、レチノイン酸(低濃度、約10nM)、アムホテリシンB(2.5mg/ml)、ストレプトマイシン(100mg/ml)、ペニシリン(100U/ml)、硫酸ゲンタマイシン(50mg/ml)およびL−グルタミン(2mM)を含有するBEBM培地(Lonza)を用いて再構成した増殖培地(BEGM)に置き換える。
【0067】
気道上皮細胞単層は一般に培養7日後にコンフルエンスに達する。次に、細胞が気液界面にくるように上面の培地を取り出し、基底外側培地を分化培地、すなわち、この時には気道上皮を、粘液繊毛分化を誘導するためにレチノイン酸を約300nMの高濃度で加えること以外は上記と同じ添加剤を含有する1:1比のBEBM/DMEMに置き換える。次に、この実験を、経上皮抵抗が500ohm/cm2を超える分化した培養物に対して行う。
【0068】
免疫組織化学標識ならびに共焦および電子顕微鏡
気液界面で増殖させた気道細胞培養物からの膜の切片をアセトンまたはメタノール中で固定する(10分、−20℃)。PBSですすいだ後、非特異的部位をPBS−BSA3%でブロックし、その後、一次抗体を、用いる抗体によって室温にて1時間〜4℃で16時間、PBS−BSA−1%でインキュベートする。すすいだ後、結合した二次抗体を、PBS−BSA1%に溶解させ、室温で1時間インキュベートする。すすいだ後、核をDAPIで標識し、ハリスヘマトキシリンで対比染色する。すすいだ後、これらのスライドを取り付け、共焦顕微鏡で観察する。2つのマウス抗体を含む二重連続標識の場合、一次抗体の空き部位をブロックする工程を、抗マウス抗Fab(H+L)抗体を用いて室温で30分間行う。
【0069】
電子顕微鏡の場合には、細胞を、1.6%のグルタルアルデヒドを含有する0.1Mリン酸一ナトリウムバッファーで固定する。
【0070】
気道上皮細胞の選別
鼻ポリープの間質を解離した後、上皮細胞(約20.106)をPBS−BSA−EDTA中で30分間インキュベートし、その後、標識抗体CD151−PEおよび抗TF(組織因子)−FITCとともに4℃で20分間インキュベートする(Hajj, R. et al., Stem Cells 25, 139-148 (2007)参照)。2回洗浄した後、細胞をPBS−EDTAにとり、完全性が変化した細胞を標識するためにDAPIとともにインキュベートする。
【0071】
細胞選別は、青、赤および紫の3つのレーザーを備えたFACSAriaソーター(BD Biosciences)で行った。死細胞、凝集塊および二重細胞は排除した。二重陽性の基底細胞集団(CD151+/FT+)および陰性の円筒細胞集団(繊毛細胞および粘液分泌細胞を含む)(CD151−/FT−)を選択し、5000イベント/秒(周波数30MHz)の速度で選別した。その後、選別された細胞の純度および属性を細胞計数および免疫細胞化学によって確認した。
【0072】
I−A.2.ヘマトキシリンおよびエオジンで標識された細胞の形態観察
上皮分化マーカー(繊毛細胞のチューブリン−β4(図1E〜F)、粘液分泌細胞のムチンMUC5AC(図1G〜H)および基底細胞のサイトケラチン13(図1I〜J))の発現を調べるために免疫標識を行った。
【0073】
分化の状態は共焦および電子顕微鏡によって評価した。分化の4つの重要な段階を検討することにした。
(1)気液界面の確立の1日目(ALI−D0)に、細胞は増殖し、層状の扁平上皮を生成する。
(2)気液界面5〜7日後(ALI−D7)、細胞の極性化が始まる。
(3)気液界面約14日後、細胞は多列上皮を形成し、細胞表面に最初の繊毛が見られ(ALI−FC)、同時に細胞の伸長が見られ、毛様体形成の開始を示す(図1C)。
(4)気液界面約21日後(ALI−WD)、気道上皮は、大部分の細胞が円筒状で繊毛を有する完全な分化段階である多列となり、下層をなす基底細胞層ならびに粘液分泌細胞を伴う(図1D)。
【0074】
培養3〜4週間後、表面気道上皮の3つの細胞タイプ(すなわち、基底(図1I〜J)、分泌細胞(図1G〜H)および繊毛細胞(図1E〜F)の形態学的基準および特異的分化マーカーが見て取れる。
【0075】
II−毛様体形成中に選択された細胞におけるmiRNAの発現の測定
ハイスループットシーケンシングの技術は、複雑な混合物中のある特定のmiRNAの存在度を確定することを可能とする。
【0076】
ある試験条件内でのmiRNAの特異的配列の数に基づき、総てのmiRNA内での該miRNAの存在度を評価することができる。
【0077】
II−1.材料および方法
アフリカツメガエル胚の繊毛表皮細胞
Hayes et al. (Dev Biol 312 (1), 115 (2007))に記載されているようなアフリカツメガエル胚の繊毛表皮を粘液繊毛上皮モデルとして用いる。
【0078】
全RNAの抽出および品質管理
気液界面で培養した4つの分化段階:ALI−D0(0日目)、ALI−D7(7日目)、ALI−FC(約14日目の、最初の繊毛出現の際)およびALI−WD(約21日目の、完全に分化したもの)のHAECから全RNAを抽出した。細胞を、トリゾール(商標)(Invitrogen)を含む試薬中で溶解させる。小RNAおよびマイクロRNAを含む全RNAをQiagen RNEasyカラム(Qiagen)にて、供給者の説明書に従って精製する。
【0079】
まず、全RNAサンプルの純度および濃度を、Nanodrop分光光度計を用いて評価する。260/280(分光光度計で測定されたサンプルの260および280nmにおける吸光度の値の比)および260/230(分光光度計で測定されたサンプルの260および230nmにおける吸光度の値の比)比は、1.5〜2の間であればRNA純度を表し、それらは様々であり、2に近い値を持たなければならない。
【0080】
アフリカツメガエル胚細胞の全RNAは、Qiagen RNeasyキット(Qiagen)を用いて精製した。
【0081】
次に、これらのRNAをRNAナノチップ(Agilent Technologie, France)にロードし、それらの品質(RNAの完全性および分解レベル)を、Bioanalyzer System (Agilent Technologies, France)を用いて分析した。
【0082】
マイクロRNAのハイスループットシーケンシング
小RNAおよびマイクロRNAを含む全RNAを上記のように単離する。この手順は、Applied Biosystems Ligase-Enhanced Genome Detection technology (LEGenD(商標))に基づき、SOLiD(商標)Small RNA Expressionキット(Applied Biosystems, France)に基づく。この方法を用いれば、サンプルの小RNAを二本鎖DNAのライブラリーに変換することができ、それは新世代ハイスループットシーケンシングとしてApplied Biosystems SOLiD(商標)Systemにより開発されたものである。
【0083】
マイクロRNAのハイスループットシーケンシングは、供給者の推奨に従って行った。要するに、小RNAを含む全RNAを小RNAの5’末端をシーケンシングするためのマトリックスを作製するためにはアダプターミックスAと、または3’末端のシーケンシングのためにはアダプターミックスBとハイブリダイズさせ(65℃で10分、次いで、16℃で5分)、連結させた(サーモサイクラーにて16℃で2〜16時間)。次に、これらのサンプルを逆転写させて(42℃で30分)相補的DNA(cDNA)を合成する。この小RNAのライブラリーをPCRにより増幅し、ポリアクリルアミドゲル上で泳動させた後、増幅された小RNAをそれらのサイズ(供給者の説明書によれば約105〜150塩基長)に応じて切り出し、ゲルから抽出し、溶出させ、ヌクレアーゼフリー水に再懸濁させる。その後、核酸の濃度を測定し、ノーマライズした後にシーケンシングのためのサンプル調製を行う。
【0084】
ハイスループットシーケンシングからのデータの統計分析
統計分析は、Bioconductor(商標)(Peter Dalgaard, Statistics and computing, Introductory statistics with R. Springer, 2002; R. Gentleman, V.J. Carey, W. Huber, R.A. Irizarry, S. Dudoit. Statistics for biology and health. Bioinformatics and computational biology solutions using R and bioconductor. Springer, 2005)のソフトウエアRを用いて行う。
【0085】
シーケンシングを行った各マイクロRNAについて、そのマイクロRNAの5p鎖および3p鎖の配列数を106配列に対してノーマライズし、各マイクロRNAの発現の存在度%に変換した。次に、ソフトウエアRを用い、これらのデータを線形モデルおよび経験的ベイズの手法に従ってノーマライズした。次の分析のために、少なくとも1つの培養条件において発現率(または存在度)%が全マイクロRNAの1%より高く、|Log2比|が0.5未満で、補正後のP値が0.05未満マイクロRNAだけを保持した。
【0086】
マイクロRNAチップ(Agilent Technologies)によるマイクロRNAomeの分析
マイクロRNAのハイスループットシーケンシングと並行して、マイクロRNAの発現レパートリー(マイクロRNAome)を、Agilent(商標)マイクロRNAチップ技術を用いて調べる。このために、以前と同じ患者からのRNAサンプルを用い、Agilent(商標)miRNAチップ(866のヒトmiRNAおよび89のヒトウイルスmiRNA、すなわち、Sanger miRBase v.12.0, Agilent Technologies, Franceに収められ参照できる全てのヒトmiRNAを含むヒトmiRNAマイクロアレイv2)上で、「miRNA標識およびハイブリダイゼーション」キットを供給者(Agilent Technologies)の説明書に従って標識し、ハイブリダイズさせた。
【0087】
DNAチップ(Affymetrix(商標))によるトランスクリプトームの分析
トランスクリプトームの分析のため、上記のように、全RNAを精製し、それらの品質を確認する。
【0088】
次に、GeneChip(商標)Human Gene 1.0 ST Array (Affymetrix(商標))で分析を行う。このチップ上には、28869の各遺伝子が、その遺伝子の全長にわたる約26のプローブによって表される。「完全転写物(WT)センス標的標識および対照試薬、流体工学および走査装置および基本分析ソフトウエア」を用いて、全RNAを標識し、ハイブリダイズさせる。
【0089】
DNAチップ(Affymetrix(商標))によって得られたトランスクリプトームデータの分析
データ分析は、statistical consortium Rによって開発されたソフトウエアR Bioconductorを用いて行う。次に、これらのデータを、チップ分析の際に得られる情報の大規模分析および保存のために開発された情報システムMedianteインターフェース(Le Brigand and Barbry, 2007)の手段によって可視化する。
【0090】
Affymetrix(商標)チップの場合、データは、バックグラウンドノイズの補正、ノーマライゼーション工程およびプローブのレベルのレポートを実行するRMA(Robust Multi-Chip Average)アルゴリズムを用いて分析する。この方法は、特に低い値の発現に高い精度を示し、他の多くの既知の方法よりも高い特異性および感受性を示す(Irizarry et al., 2003)。これらのデータを、R Bioconductorソフトウエアを用い、線形モデルおよび経験的ベイズの手法に従ってノーマライズする。実験的レプリカに対するそれらの統計的有意性の関数としてlog2で表した定量的遺伝子調節レベルを示すために、Volcanoプロットの形態のグラフを用いる(図7)。
【0091】
in situハイブリダイゼーション
4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences)中で固定した後、ALI−D21段階の細胞培養物またはヒト気道組織の凍結切片をアセチル化し、脱イオン化ホルムアミド50%、0.3M NaCl、20mM Tris−HCl pH 8.0、5mM EDTA、10mM NaPO4 pH8.0、10%デキストラン硫酸、1×デンハート溶液および0.5mg/mlの酵母RNA中、ジゴキシゲニン標的マイクロRNA(Exiquon, Woburn, MA)で標識した0.3ng/μlのLNAプローブとともに55℃で一晩インキュベートする。
【0092】
これらのプローブの配列は、
miR−449の場合:ccagctaacaatacactgcc(配列番号204)
miR−31の場合:agctatgccagcatcttgcct(配列番号205)
陰性対照マイクロRNA(「スクランブル」)の場合:gtgtaacacgtctatacgccca(配列番号206)
である。
【0093】
プローブは、BCIP/NBT基質(DakoCytomation)上でシグナル増幅キット「Tyramide Signal Aplificatin Plus DNP AP System」(Perkin Elmer)を用い、抗ジゴキシゲニン抗体(Roche)を結合させたペルオキシダーゼとともに一連のインキュベーションを行うことによって検出した。
【0094】
次に、一部のスライドを抗MUC5ACマウス抗体に曝し、「LSAB2 System-HRP」キット(Dako)で検出した。切片をエオジン/サフラン色素「Nuclear Fast Red」で対比染色し、オイキット封入剤(Electron Microscopy Sciences)を用いて封入した。
【0095】
アフリカツメガエルにおいて、Marchal, L et al. (Proc Natl Acad Sci USA 106 (41), 17437 (2009))により記載されているように、NASCO雌から得た卵を試験管内受精し、培養し、注入する。DII1およびセントリン−2−GFPのcRNAを、「Ambion mMessage Machine」キットを用いて作製する。膜結合ベクターTd−tomato−CAAX(Chenbei Changによる寄贈)をAseIで線状化し、cRNAを、Sp6ポリメラーゼを用いて合成する。蛍光リシン−デキストラン(FLDx、2.5ng/細胞)を、生きた胚を標識するためのモルホリノ(MO)オリゴヌクレオチドとともに同時注入し、胚におけるMOの分布をモニタリングするために抗フルオレセイン免疫検出を行う。注入は総て二反復で行う。
【0096】
モノジゴキシゲニン(Exiqon)で標識された抗miR−449a LNAプローブをin situハイブリダイゼーションに用い、ハイブリダイゼーションはKloosterman et al. (Nat Methods 3 (1), 27 (2006))によって記載されているように行った。チューブリン−α、DII1、Tex15およびFoxj1のアンチセンスリボゾームプローブは、チューブリン−αおよびDII1の場合にはDeblandre et al. (Development 126 (21), 4715 (1999))、Tex15の場合にはHayes et al. (Dev Biol 312 (1), 115 (2007))、Foxj1の場合にはPohl et al. (Dev Genes Evol 214 (4), 200 (2004))によって記載されているように作製した。
【0097】
II−2.選択された細胞におけるmiRNAの発現
II−2.A.HAEC細胞
このように、本発明者らは、現在知られている総てのヒトmiRNA(約750)に関して、まず、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)技術によって115のmiRNAが分化中に、8を超える強度値(シーケンシングを行ったmiRNA数をノーマライズしたもののLog2に相当する)で発現されることを見出した。
【0098】
シーケンシング技術を用い、シーケンシグを行った各miRNAの存在度%を決定することができる。このように本発明者らは、驚くことに、26のmiRNAがヒト気道上皮の種々の分化段階に、1%を超える存在度で存在することを確認することができた(図および下記の表IIIAに示される)。
【0099】
同定されたこれら26のmiRNAは、それらだけでヒト気道上皮で発現される全miRNAの80%程度をカバーし、この量は、気道上皮組織の再生および/または分化プロセスにそれらが関与していることを示す。
【0100】
これら26のmiRNAのさらに詳細な分析では、22のmiRNAがヒト気道上皮の4つの分化段階の少なくとも1つで有意に調節され、これは全miRNAの約70%に相当し、13のmiRNAが過剰発現され、9つのmiRNAが抑制されることを示す(図2Bおよび下記の表IV参照)。
【0101】
変調値(2つの分化段階における、log2で表される発現レベル強度の比としても表される)は、各列の上に示される2つの分化段階における、log2で表される発現強度レベル間の差として計算される。
【0102】
表IIIA.ヒト気道上皮で有意に発現され、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)によって同定した場合に少なくとも1つの分化段階で1%を超える存在度を有するmiRNA
【表3】
【0103】
表IV.気道上皮の分化中に有意に発現および変調され、miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)によって同定した場合に1%を超える存在度を有するmiRNA
【表4】
【0104】
その後、本発明者らは、Agilent miRNAチップを用い、ヒト気道上皮のmiRNAの発現レパートリーを調べ、ハイスループットシーケンシングにおいて得られた結果をAgilent(商標)市販miRNAチップで得られる結果と比較した。この技術を用い、48のmiRNAが4つの分化のうち少なくとも1つにおいて有意に発現および変調されることを見出した(発現レベル強度のlog2>8;1<log2(比)<−1および補正後のP値<0.05)(図3および表V参照)。
【0105】
表V.Agilent(商標)miRNAチップにより同定した場合の、気道上皮の分化中に有意に発現および変調されるmiRNA
【表5】
【0106】
miRNAのハイスループットシーケンシング(HTS)またはAgilent(商標)miRNAチップにおいて少なくとも1つの細胞培養条件で有意に変調および発現されることが分かったmiRNAを比較すると、これら2つの技術で得られた結果の間には相関係数r=0.9106という強い相関が見られる(図4参照)。
【0107】
まとめると、少なくとも1つの培養条件におけるHTSでは26のmiRNAが検出および選択され(発現存在度が1%を超える)、Agilent(商標)miRNAチップでは48のmiRNAが検出および選択された(log2で表される発現レベル強度が8を超える)。この2つの技術によって得られた共通のmiRNAを計算に入れると、61の異なるmiRNAが少なくとも1つの上皮分化条件で有意に発現したことになる(60は表VIに示され、これにhsa−miR−1975(表III参照)を加えなければならない)。
【0108】
HTSにおいて、有意に調節され、十分な存在度であると確認された22のmiRNAは、Agilent(商標)miRNAチップでも、様々な有意性および様々な強度レベルで変調されることが分かる。
【0109】
上記のように、miRNAは、ヘアピン構造を有する前駆体の形態で合成され、その後、酵素Dicerによって最終的な成熟を受けて2本の小さな一本鎖RNA(5pおよび3p)を生じ、この成熟型と呼ばれる2本のうち1本の鎖がRISC複合体と相互作用してその変調機能を発揮し、スターと呼ばれる他方の相補鎖(mir−xy*で表される)は分解される。従って、本発明者らは、様々な技術(miRNAチップ、シーケンシング、PCR)を用いて、各miRNAの2鎖を体系的に評価した。本発明者らは、選択されたmiRNAのいくつかで、これらの2鎖(5pおよび3p)が変調されることを観察したが、ある選択されたmiRNAでは、2鎖のうち一方だけが多く発現されること分かった。
【0110】
表VI.Agilent(商標)miRNAチップおよびHTS間での、変調および発現されたmiRNAの比較
【表6】
【0111】
mir−449a、mir−449b、mir−449b*、mir−34a、mir−34b(3p)、mir−34b*(5p)、mir−34c(5p)が分化中に有意に変調され、従って、気道上皮分化の開始の誘導および維持に関与すると分かることを述べておくべきであろう。
【0112】
これらの5つのmiRNA:mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b、mir−34cは、分化中、より詳しくは毛様体形成の開始時に強く誘導されることが分かる。ひと度、誘導されれば、それらの発現は、完全に分化した上皮を含め、分化中、高く安定なままである。上皮のmiRNAの完全に分化したレパートリーはこれら5つのmiRNAの顕著な存在度を特徴とし、これら5つのmiRNAはこの組織で発現される全miRNAの総数の20%近くに相当する。しかしながら、mir−34aに関しては、他の4つのmiRNAよりも低い強度で誘導され、比較的早い、ALI−D7段階で見られる。
【0113】
興味深いことに、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34bおよびmir−34cの各miRNAの5p鎖は、それらの認識配列のレベルで配列相同性を有し、このことは、それらがある特定の転写物を共通に標的とすることを示唆する。
【0114】
本発明者らがこれらの5つのmiRNAに力を集中させたのはそのためである。これらのmiRNAならびにmir−31(気道上皮の分化中に抑制されることが分かっている)の調節レベルを第三のアプローチとしての定量的PCRによって確認した(図5参照)。
【0115】
気道上皮の分化中に過剰発現されるこれら5つのmiRNAは、2つに異なるmiRNAファミリー、mir−449およびmir−34に属す。さらにmir−449aとmir−449bのゲノム位置は同じであり、両者とも、ヒト第5染色体にあるcdc20b遺伝子の2番目のイントロンのレベルに位置する(5q11.2、chr5:54456388−54504760)。mir−34ファミリーは、第1染色体の遺伝子間領域に位置するmir−34aから構成されるが、miRNA mir−34bおよびmir−34cは同じクラスターに属し、両者とも第11染色体の遺伝子間領域に位置する。mir−34ファミリーは、p53シグナル伝達経路と機能的に関連づけられている。
【0116】
II−2.B.アフリカツメガエル胚の繊毛表皮細胞
このモデルに関して得られた結果を下表IIIBおよび図6(HAEC細胞に関する結果も表す)に示す。
【0117】
これらの試験は、ここでもまた、マイクロRNAファミリーmiR−449、より詳しくは、miR−449aが、毛様体形成中に断然最も強く誘導されるマイクロRNAとなっていることを示す。
【0118】
表IIIB アフリカツメガエル胚表皮の、非繊毛細胞に比べて繊毛細胞で有意に発現されたmiRNA
【表7】
【0119】
II−2.C.考察
miR−449は、増殖中のHAEC細胞におけるマイクロRNAの全配列の0.01%未満に相当するが、これらのmiR−449は、分化したHAEC細胞で発現されるマイクロRNAの8%超に相当する(図6のグラフaおよびb参照)。さらに、アフリカツメガエル細胞中のmiR−449aは分化中に有意に増え、表皮外植体の繊毛細胞中の全マイクロRNA配列の最大39%を占める(図6のグラフc〜d参照)。
【0120】
上記で指摘したように、miR−449およびmiR−34は、マイクロRNAの1つの同じスーパーファミリーに属す。興味深いことに、この2つのモデルにおいて、毛様体形成中にmiR−34ファミリーのメンバーの発現も、miR−449の程度よりも低いながら、誘導されたことを述べておく(図6のaおよびb参照)。
【0121】
miR−449ファミリーは脊椎動物において保存されていると思われ、Cdc20b(ヒトおよびカエルにおいてmiR−449クラスターが位置する)の相同遺伝子座を調べたところ、完全にまたは部分的に配列決定された脊椎動物ゲノムの総てにmiR−449が存在することが明らかになった。
【0122】
分化したHAEC細胞およびアフリカツメガエル表皮の繊毛細胞は、基底細胞、粘液分泌細胞および多繊毛細胞を含む異なる細胞種の混合物からなる。
【0123】
HAEC初代培養物(図7の顕微鏡写真aおよびc参照)およびヒト気管支組織(図7の顕微鏡写真eおよびg参照)に対するin situハイブリダイゼーションにより、miR−449は多繊毛円筒細胞では発現されるが、基底細胞(図7の顕微鏡写真a参照)またはmuc5AC陽性分泌細胞(図7の顕微鏡写真e参照)では発現されないことが明らかになった。
【0124】
これらの結果を、ヒト気道の上皮に由来する、円筒細胞を富化した画分(主として多繊毛細胞およびいくらかの粘液分泌細胞から構成される)および基底細胞を富化した画分に対するハイスループットシーケンシング試験によって確認した。
【0125】
図7のグラフdは繊毛細胞画分におけるmiR−449の富化を示すが、観察されるmiR−34の発現はより均質で、両タイプの細胞に見られた。
【0126】
最後に、アフリカツメガエル胚の細胞に対するin situハイブリダイゼーションにより、miR−449の発現は繊毛細胞に限られることが明らかになった。これらの細胞はアセチル化チューブリンによる標識に対して陽性である(図7の顕微鏡写真hおよびl参照)。
【0127】
これらの結果は総て、脊椎動物の多繊毛細胞で最も存在度の高いマイクロRNAはmiR−449であることを示す。
【0128】
III−選択されたmiRNAの特異的標的の決定
III−1.各miRNAの特異的細胞種の同定
天然の気道上皮と同様に、これらの試験で用いたin vitro分化モデルは、基底細胞、繊毛細胞および粘液分泌細胞からなる。各細胞種に特異的なmiRNAのレパートリーを同定するために、本発明者らは、特異的マーカーの手段によるフローサイトメトリーによる細胞選別を用いた(Hajj, R. et al. 2007)。この技術を用い、成体気道前駆体細胞(先験的に基底細胞に相当する)(このような細胞はテトラスパニンCD151と組織因子に対して二重陽性を呈する)を、これらの同じマーカーに対して陰性を呈する錐体細胞(すなわち、繊毛細胞および粘液分泌細胞)から単離、選択および選別した。これらは3人の異なるドナーから得られたポリープまたは鼻甲介から精製されたものであった。
【0129】
全RNAを抽出した後、miRNAの発現プロフィールを、Agilent(商標)市販チップの手段またはハイスループットシーケンシング(HTS)によって確定した。これら2つの試験アプローチにより、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b、mir−34b*(mir−34b−5p)、mir−34cおよびmir−34c*(mir−34c−3p)を含む、選択されたいくつかのmiRNAに関して、上皮繊毛細胞におけるそれらの特異的発現が確認される。さらに、この細胞選別試験は、培養細胞(例えばmir−31、mir−31*、mir−205、mir−130a、mir−193b)において呈されるmiRNAは基底細胞に対して特異性が高いことを示すことができる(図8および表VII)。本発明者らは、このように初めて、miRNAの発現レパートリーを分化中の気道上皮の異なる細胞種に特異的に帰すものである。
【0130】
表VII.HTSおよびAgilent(商標)チップにより同定された基底細胞または錐体細胞(繊毛+分泌)の特異的miRNA
【表8】
【0131】
III−2.選択されたmiRNAの標的mRNAの同定
miRNA生物学における大きな試みは、それらが調節する標的mRNAを実験的に同定および特性決定可能にすることである。この目標を持って、in silicoアプローチ(標的を予測するためのバイオインフォマティックソフトウエア)を実験アプローチ(トランスクリプトームチップ、miRNAならびにルシフェラーゼと融合させた対象遺伝子の3’−UTR部分を含むリポーターベクターの異所発現)に組み合わせた。補足実験として、免疫細胞化学、ビデオ顕微鏡および生化学的アプローチを用いた。
【0132】
標的を予測するためのいくつかのアルゴリズムが提案されている。それらは一般に、i)miRNAとmiRNAの5’領域における標的mRNAの3’UTR(認識配列)との間の相補性;ii)標的mRNAの3’UTRにおけるこの配列の系統発生的保存、に基づく。
【0133】
これらの対象miRNAによって潜在的に調節される標的遺伝子を決定するために、本発明者らは、発現チップ(Affymetrix, human HuGene 1.0 ST microarrays)によるmRNAのプロファイリングを確立した。分析したサンプルは、分化中のmiRNAの測定に用いたものと同じである。補足的アプローチは、選択されたmiRNAの発現レベルをトランスフェクションにより操作した後の、気道上皮細胞のトランスクリプトームの評価からなった。標的遺伝子は、バイオインフォマティックエイド(Mediante, Ingenuity Pathway(商標))の手段により、上皮の再生および分化に関して選択した。従って、本発明者らは、従前に同定したmiRNAとヒト気道上皮の再生および分化に関連づけられているある数の転写物との間の機能的リンクを確立することができた。得られた結果は、500〜1000の転写物が分化に関連していることを示す(図9参照)。
【0134】
ALI−FCとALI−WDとの間ではいくつかの遺伝子の発現だけが異なり、これは、ひと度、毛様体形成が誘導されたところで、RNAの発現の安定性を示す。
【0135】
III−3.miRNA mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34bおよびmir−34cの5p鎖に共通の予測標的遺伝子のin silico同定
認識配列レベルで配列相同性を有する5つの選択されたmiRNA mir−449a、mir−449bおよびmir−34a、mir−34b−5p(mir−34b*)およびmir−34c−5pの各5p鎖に関して、Mediante network interface (www.microarray.fr)からアクセス可能な予測バイオインフォマティックツール(すなわち、TargetScan, mirbase target, picTar and Microcible 2to8)を用い、予測された標的遺伝子を取得した。本発明者らは、まず、目的とする5つのmiRNAに共通の予測された標的遺伝子を選択し、上記で詳説した方法論によって確認した。個々に取得した各miRNAに対する3500近くの予測標的のうち、1229の標的が、選択された5つのmiRNAに共通である。次に、この1229の予測標的を、分化中に、より詳しくは、完全に分化した状態と最初の未分化増殖段階の間(ALI−WDとALI−D0(n=3ドナー))に有意に抑制されたもの(約1000、P<0.05)と比較した。このように、結果は、気道上皮の再生に重要な役割を果たす可能性のある、選択された5つのmiRNAに共通の62の遺伝子を示す(表VIII参照)。これらの遺伝子の中でも、特に、カベオリン−1が見出される。これらの結果は、カベオリン−1が分化中、強く阻害されることを示す(図8参照)。
【0136】
表VIII.気道上皮の分化中に阻害されることが分かった、選択されたマイクロRNAの予測標的遺伝子のリスト
【表9】
【0137】
この対象標的遺伝子のリストに、本発明者らは、miR−31および/またはmiR−130aのバイオインフォマティクスによって予測された標的である遺伝子Rfx2、Rfx3、FoxJ1およびSTATHを加えることができる。
【0138】
IV−選択されたmiRNAの標的としてのカベオリン−1の検証
カベオリン−1(Cav−1)は、カベオラと呼ばれる原形質膜の小さな陥入の形成に不可欠な22kDaの膜タンパク質である。Cav−1遺伝子は接着細胞(内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞)で発現される。
【0139】
より詳しくは、カベオリンは基底細胞および繊毛上皮細胞の膜表面に存在することが示されており、これらの細胞種における重要な役割を示唆している(Krasteva, G. et al. (2006) Respir Res 7, 108)。カベオリン−1の発現の喪失は、上皮の増殖および分化の欠陥をもたらす可能性がある(Yang, G. et al. (2008) Exp Mol Pathol 84, 131-140)。
【0140】
さらに、カベオリンは、呼吸器系疾患に対する種々の形態の感受性に関連づけられている。例えば、カベオラは多様な受容体を含み、Cav−1は細胞表面に存在するトランスフォーミング増殖因子(TGF)−βの受容体の数の減少に関連づけられている。初期の研究では、TGF−β経路の妨害による、いくつかの呼吸器系疾患におけるカベオリン−1欠乏の関与の可能性が強調された(Le Saux, C.J. et al. (2008) J Biol Chem 283, 5760-5768)。
【0141】
さらに、いくつかの微生物が細胞に感染するために選択的にカベオラを利用することが示されている(Norkin, L.C. et al. (2001) Exp Cell Res 266, 229-238)。これらのカベオラは気道上皮の繊毛細胞の基底外側表面に位置するので、上皮病変が存在する場合には、病原体のエンドサイトーシスに特に関与する可能性がある(Krasteva, G. et al., 2006)。実際に、アデノウイルスは、それらの病原能を発揮するために、上皮または体とジャンクションの完全性を低下させて繊毛細胞の側底膜に接近する必要がある(Walters, R.W. et al. (1999) J Biol Chem 274, 10219-10226)。最後に、基底細胞は感染により弱いと思われる(Pickles, R.J. et al. (1996) Hum Gene Ther 7, 921-931 (1996)。このことと一致して、カベオラの数は繊毛細胞よりも基底細胞に多いことが示されている(Krasteva, G. et al., 2006)。
【0142】
IV−1.試験の原理
MicroCibleアルゴリズムを用いた。このアルゴリズムは、Cav−1転写物おいて、mir−34a/34c−5p、mir−449a/bに対する3つの異なる固定部位に対して、miR−34b−5pに対する7つの異なる固定部位を同定する。本発明者らは、Cav−1の全3’−UTR部分がルシフェラーゼコード配列の下流に挿入されたリポーター遺伝子の発現ベクターを構築した。次に、HEK293T細胞をこのベクターおよび選択された5つの各miRNA(mir34a/b−5p/c−5p/449a/b)でコトランスフェクトし、それぞれ陰性対照miRNAの場合と比較した。
【0143】
IV−2.材料および方法
3’−UTR発現ベクターおよびルシフェラーゼ活性の測定
カベオリンの非コード部分(3’−UTR)の完全配列(配列番号178)をPCRによって増幅した後、psiCheck2ベクター(Promega)のXhoIおよびNotI部位にクローニングする。
【0144】
目的とする合成マイクロRNA(miR−34a、miR−34b*、miR−34c−5pおよび陰性対照miR(miR−Neg1))は、Ambion社(Applied Biosystems)により合成された。白色96穴プレートにて、トランスフェクション剤としてリポフェクトアミン2000(Invitrogen)を用い、HEK293T細胞(1穴当たり20000細胞)に対し、100ngのプラスミドベクターpsiCheck2および5nmolの合成miRNAでリバーストランスフェクションを行った。トランスフェクション48時間後、およびホタルルシフェラーゼの活性を、Dual Gloルシフェラーゼアッセイシステムキット(Promega)を用いて評価し、照度計(Luminoskan Ascent, Thermolab system)に手段によって測定した。
【0145】
シグナル伝達経路の同定
目的とする遺伝子と他の官能基との間の相互作用のネットワークを同定するために、ソフトウエアIngenuity Pathway Analysis (IPA) (Ingenuity Systems, Mountain View, USA)を用いた。1を超える比を有する遺伝子を選択した。このように、生物学的機能および疾患と本発明者らの試験結果を関連づけることができる。
【0146】
IV−3.結果
本発明者らは、ルシフェラーゼ遺伝子をカベオリン−1の非コード3’部分と融合させた場合、mir−34b−5pがルシフェラーゼ遺伝子の発現を有意に阻害したことを示した(P<0.01)。これらの結果は、本発明者らが見出した分化中にはカベオリン−1が強く阻害されることと合わせると、Cav−1は気道上皮の分化プロセスに関与するmir−34b*(mir−34b−5p)の特異的標的であることを示唆する(図11)。
【0147】
おそらく抑制性のカベオリン−1以外のmiRNA、mir−449a、mir−449b、mir−34aおよびmir−34b*は、1以上の他の遺伝子の調節において働くと思われる。
【0148】
同じ原理に従い、カベオリンを用いて行った試験は、目的とする他の標的遺伝子を用いた場合にも再現された。すなわち、以下の遺伝子:AREG(配列番号179)、AURKA(配列番号180)、CAPN13(配列番号181)、CCNB1(配列番号182)、CCNE2(配列番号183)、CDC6(配列番号184)、CDC25A(配列番号185)、CENPK(配列番号186)、CEP55(配列番号187)、CDC20B(配列番号188)、E2F7(配列番号189)、FOXM1(配列番号190)、STATH(配列番号191)およびTOP2A(配列番号192)の3’−UTR配列をクローニングした。
【0149】
表IX−選択されたmiRNAの少なくとも1つによって検証された標的遺伝子のリスト
【表10】
【0150】
標的をその発現がmiRNAによって阻害されるかどうか検証する。
【0151】
V−DNAチップ(Affymetrix(商標))による、目的とするmiRNA:mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5pの標的の同定
目的とするmiRNAの発現によって特異的に変調される遺伝子を決定するために、mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34c−5pの各miRNAを未分化気道上皮細胞(HAEC)の初代培養物にトランスフェクトし、トランスフェクション48時間後に、トランスクリプトームチップ(Affymetrix(商標))によって、特異的に変調される遺伝子を調べた。
【0152】
mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5pは同じ「シード」(配列2〜7)を共有することから、それらは共通の標的と相互作用することができる。このようにして、これらのmiRNAによって有意に変調されるものとして95の共通遺伝子が得られた。
【0153】
従来、miRNAは、その標的mRNAに対して直接それらの発現を抑制する働きをすると仮定されている。図12は、これらの各miRNAの48時間のトランスフェクションに応答した、目的とするこれらのmiRNAの認識配列の相補的領域を含む標的遺伝子の富化を示す。本発明者らは、95の変調遺伝子に関して、41の遺伝子が有意に抑制されることを観察した(表X参照)。
【0154】
これらの41の抑制遺伝子のうち18の遺伝子が、選択された5つのmiRNA(表XI参照)に共通であり、かつ、前記miRNAによるその調節が気道上皮の分化において、および呼吸器系疾患(膵臓線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、原発性繊毛ジスキネジアなど)に対する治療戦略の実施において重要な役割を果たし得る予測標識である(in silico分析による)。
【0155】
表IX:HAECでの目的とする各miRNAのトランスフェクション後における、miRNA mir−34a、mir−34b*、mir−34c−5p、mir−449aおよびmir−449bに共通な41の抑制遺伝子
【表11】
【0156】
表XI.mir−449a、mir−449b、mir−34a、mir−34b*およびmir−34c−5pに共通であり、かつ、HAECにおいて選択された各miRNAのトランスフェクション後に抑制される予測標的
【表12】
【0157】
Ingenuity Pathway Analysisソフトウエア(IPA)(Ingenuity Systems, Mountain View, USA)を用いたバイオインフォマティック分析により、これらの遺伝子間の相互作用のネットワークを特定し、生物学的機能および疾患と試験結果とを関連づけることが可能になった(図13参照)。
【0158】
選択されたmiRNAの発現によって調節される経路は、細胞周期調節のための主要経路である。
【0159】
VI− 毛様体形成に対するmiR−449発現抑制の機能的効果に関する検討
次に、毛様体形成に対するmiR−449発現減衰の効果を検討した。
【0160】
VI−A.材料および方法
HAEC細胞
6つの独立したHAEC細胞培養物を、miR−449に対するオリゴヌクレオチドでトランスフェクトし、コレステロール分子に結合させ、再生期間中の毛様体形成を評価した。
【0161】
これらの試験では、3’において2’−O−メチル結合によってコレステロール分子と結合させた、配列:5’-ascscsagcuaacaauacacugcscsa-Chol-3’(配列番号207)(ホスホロチオエート結合は下付き文字sで示す)を有するmiR−449aのアンチセンスオリゴヌクレオチド(antagomir)(Eurogentec (Seraing, Belgium)に従って得たもの)を用いる。
【0162】
このantagomirはヒト(Homo sapiens)のmiR−449a(完全一致)およびmiR−449b(ミスマッチを含む)を標的とする。
【0163】
用いる陰性対照は、Eurogentecからの、配列:5’-csasuscgucgaucguagcgscsa-Chol-3’(配列番号208)のClear−miR(tm)である。
【0164】
antagomir(100μM)をウシ胎児血清(FCS)中、室温で30分間プレインキュベートする。次に、分化培地中のantagomir−FCS混合物(20μMのantagomir)を初代HAEC細胞の上面に加える。37℃で2時間後、この混合物を引き上げて気液界面を再び作る。
【0165】
トランスフェクションは、対照細胞が完全な分化に達するまで(通常、21日後)、5日ごとに新たに調製したantagomirで更新する。
【0166】
アフリカツメガエル
miR−449に対するモルホリノ(MO)オリゴヌクレオチド(GeneTools, LLC, Philomath, Oregon, USA)は以下の配列を有する。
MO−449a:5’-ACCAGCTAACATTACACTGCCT-3’(配列番号209)
MO−449b:5’-GCCAGCTAAAACTACACTGCCT-3’(配列番号210)
MO−449c:5’-ACAGCCAGCTAGCAAGTGCACTGCC-3’(配列番号211)および
対照MO:5’-TGCACGTTTCAATACAGACCGT-3’(配列番号212)
【0167】
用いる抗DLL1 MOはMorichika et al. (Dev Growth Differ 52 (2), 235 (2010))によって記載されているものである。
【0168】
VI−B.結果および考察
そのantagomirによって無効とされるmiR−449は、ALI−D21段階の繊毛HAEC細胞の数に有意な減少をもたらし(毛様体形成阻害の平均値2.3±0.3、n=6、P<0.001)(図14参照)、並行してmiR−449発現にも同程度の減少をもたらす(図14、顕微鏡写真b)。
【0169】
MiR−449はまた、アフリカツメガエル胚の細胞において、成熟miR−449を標的とするモルホリノオリゴヌクレオチドの混合物の表皮注射によって無効とされた。miR−449が無効となると、尾芽胚の胚発生段階およびオタマジャクシ(n=112)においてアセチル化チューブリン染色によって明らかにされるように、多毛様体形成が阻害される(図14、顕微鏡写真c〜i参照)。
【0170】
多毛様体形成には、(i)細胞周期の明確な終了、それに続く(ii)新たに合成された中心小体に由来する何百もの基底小体の増殖を特徴とする中心小体形成(centriologenesis);(iii)基底小体の頂端膜への遊走(頂端膜で基底小体は微小管の組織化の中心として働き、および可動性の軸糸の組み立てを可能とする)が必要である。
【0171】
検討した2つのモデルでは、チューブリン陽性細胞(繊毛の染色)とセントリン−2陽性細胞(基底小体の染色)との比はmiR−449の発現抑制によっては影響を受けず、このことはmiR−449が中心小体の形成前に働くことを示唆する。
【0172】
アフリカツメガエル表皮におけるmiR−449の無効化は多毛様体形成を抑制するが、α−チューブリン、Tex15および転写因子Foxj1を含む繊毛細胞マーカーのmRNAの発現は抑制しなかったことに注目するのは興味深い(図15参照)。これらのデータは、miR−449は最終分化に必要であるが、多繊毛細胞の特性化には必要でないことを示唆し、従って、脊椎動物における毛様体形成の主要調節因子としてのmiR−449の役割を確実なものとなる。
【0173】
VII−miR−449標的に対するmiR−449のトランスフェクションの効果
毛様体形成に対するmiR−449の影響を評価するためには、miR−449の標的が最終分化中、およびmiR−449のトランスフェクション後に阻害されたかどうかを確認することが望ましいと思われた。
【0174】
VII−A.材料および方法
フローサイトメトリーによる細胞周期の分析
肺腺癌のA549細胞の細胞周期を血清欠乏の一晩の培養によって同調させた後、マイクロRNAでトランスフェクトし、次に、これらの細胞を、L−グルタミンおよび10%FCSを添加したDMEM中で30%コンフルエントまで培養する。これらの細胞を48時間後に回収し、80%エタノールで固定し、RNアーゼA(50μg/ml)を含有する0.1mlのヨウ化プロピジウム溶液で染色する(37℃、30分)。
【0175】
データをFACScaliburフローサイトメーター(Becton-Dickinson)で読み取る。G1期、S期およびG2+M期の細胞のパーセンテージを、Pro Cellquestソフトウエアで計算した。
【0176】
プラスミドの構築およびルシフェラーゼ活性の測定
Areg、Ccnb1、Ccne2、Cdc25a、DII1およびNotch1の非翻訳3’領域の完全配列または部分配列を増幅し、psiCheck2ベクター(Promega)にクローニングした。
【0177】
このようにして得られたpsiCheckベクターの構築物を、HEK293T細胞に、合成マイクロRNAまたは陰性対照(Ambion, Applied System)とともにコトランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性は、Pottier et al. (PLoS One 4 (8), e6718 (2009))により記載されているように測定する。
【0178】
VII−B.結果
miR−449の標的を、(i)HAEC細胞の4つの再生段階(ALI−D0、ALI−D7、ALI−D14、ALI−D21)における発現プロフィール、(ii)miR−449でトランスフェクトされた増殖中のHAEC細胞を用いた場合の発現プロフィールの分析によって定義した。Gene Set Enrichment Analysis (GSEA) (Edgar et al. Nucleic Acids Res 30 (1), 207 (2002))によって特異的に発現されたmRNAの機能的注釈により、G2/M期と関連し、かつ、毛様体形成と関連する遺伝子の有意な増加が明らかである(図16参照)。
【0179】
miR−449によって変調される転写物を、マイクロRNAの標的を予測するためのツール(http://www.microarray.fr:8080/merge/index)を用いて分析すると、このマイクロRNAの可能性のあるいくつかの標的が特定され、これをルシフェラーゼ試験で検証した(図17、顕微鏡写真a、c)。
【0180】
検証されたmiR−449a/bの標的の第一群は、アンフィレグリン(Areg)、サイクリンB1(Ccnb1)、サイクリンE2(Ccne2)および細胞周期の調節に関与するタンパク質をコードする細胞分裂周期25ホモログA(Cdc25A)を含んでなる。実際、miR−449のトランスフェクションは、Feng, M. et al. (Cell Cycle 9 (2), 213 (2010))、 Lize et al. (Cell Death Differ (2009), Noonan et al. (Oncogene 28 (14), 1714 (2009))およびYang, X. et al. (Genes Dev 23 (20), 2388 (2009))により報告されているように、細胞周期のG1期での停止をもたらし(図17b)、これは中心小体形成の誘導前の重要な段階である。
【0181】
検証されたmiR−449の標的の第二群は、Notch1およびNotchリガンドであるDLL1から構成される(図17c)。興味深いことに、HAEC細胞の再生中にNotchシグナル伝達経路をγ−セクレターゼアンタゴニスト(DCT、10μM)で遮断すると、毛様体形成が有意に増強され(図17d)、これはTsao et al. (Development 136 (13), 2297 (2009))の総説と一致する。
【0182】
これらの結果は、アフリカツメガエル表皮の繊毛細胞の前駆体がまさにそれらの分化時にNotchのリガンドDII1を一時的に発現するという所見、およびDII1の発現がこれらの前駆細胞におけるmiR−449の蓄積と並行して、経時的に急速に低下するという所見と矛盾がない(図17e)。
【0183】
この所見から予測できるように、DII1の内因的発現は、MOmiR−449で改変された胚の繊毛細胞の前駆体において高く維持され(図17eおよびf)、このことはmiR−449がDII1の発現を抑制することを示唆する。
【0184】
VIII−毛様体形成に対する持続的DII1活性の効果
次に、毛様体形成に対する持続的DII1活性の結果を評価した。
【0185】
miR−449に対する結合部位を欠いたDII1の合成RNAを注射すると、(1)繊毛細胞の過度な分化、(2)これらの細胞の大多数における不完全な毛様体形成(miR−449が欠乏した胚において見られたものと同じ表現型)が生じる(図17g)。
【0186】
Notchシグナル伝達の側方阻害は、多繊毛細胞の特徴を抑制することが知られている。DII1の過剰発現後に見られる繊毛細胞の分化の増進は、Deblandre et al. (Development 126 (21), 4715 (1999))により報告されているように、おそらくはNotch活性の阻害によって引き起こされる。
【0187】
並行して、モルホリノオリゴヌクレオチドによる内因性DII1の発現抑制は、繊毛細胞の過度な分化をもたらした(図17g)。よって、miR−449は、DII1の発現を抑制することによって多毛様体形成を誘発することができる。このモデルの裏付けとして、miR−449発現の減衰によって引き起こされる不完全な多毛様体形成は、miR−449の標的であるDII1の阻害によって効果的に回復される(図17g)。
【0188】
従って、これらの結果は、DII1発現の抑制はmiR−449の作用機序の中枢にあることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物被験体の繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力をin vitroで診断する方法であって、
(i)該被験体の繊毛上皮組織の細胞によるmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の該繊毛上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、下表Iで示される1以上の他の健康被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(ここで、この発現レベルは発現強度のレベルとしてlog2で表す);
【表1】
(iv)該被験体によるその発現レベルが、該他の健康被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわちlog2で少なくとも1単位異なる、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定された該プロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、該他の健康被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわちlog2で少なくとも1単位異なる発現レベルを有する場合、該第一の被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力の欠陥が証明される工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
繊毛上皮組織の繊毛の機能不全に関連する障害の予防および/または治療に用いるための配列番号1〜6、8〜52、157〜162および201の配列のhsa−miR−100、hsa−miR−106b、hsa−miR−125a−5p、hsa−miR−130a、hsa−miR−140−3p、hsa−miR−141、hsa−miR−151−5p、hsa−miR−15a、hsa−miR−16、hsa−miR−17、hsa−miR−181a、hsa−miR−191、hsa−miR−193b、hsa−miR−1975、hsa−miR−200a、hsa−miR−200b、hsa−miR−200c、hsa−miR−203、hsa−miR−205、hsa−miR−21、hsa−miR−210、hsa−miR−22、hsa−miR−224、hsa−miR−23a、hsa−miR−23b、hsa−miR−25、hsa−miR−26a、hsa−miR−26b、hsa−miR−27b、hsa−miR−29a、hsa−miR−29c、hsa−miR−30b、hsa−miR−30c、hsa−miR−30d、hsa−miR−30e、hsa−miR−31、hsa−miR−34a、hsa−miR−34b、hsa−miR−34c−5p、hsa−miR−365、hsa−miR−374a、hsa−miR−378、hsa−miR−425、hsa−miR−429、hsa−miR−449a、hsa−miR−449b、hsa−miR−449c、hsa−miR−574−3p、hsa−miR−92b、hsa−miR−939、hsa−miR−96、hsa−miR−99a、hsa−let−7a、hsa−let−7b、hsa−let−7c、hsa−let−7e、hsa−let−7fおよびhsa−let−7g(下記表B参照)、配列番号53〜58、60〜104、163〜168および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、または場合により化学的に修飾されていてもよい相補的配列鎖、ならびに配列番号105〜110、112〜156、169〜174、193〜200および203の配列のそれらの前駆体から選択される、請求項1に記載の方法によって同定されたmiRNA。
【請求項3】
原発性繊毛ジスキネジアまたはカルタゲナー症候群などの原発性繊毛病;内臓逆位;雄性および雌性不妊症;アルストレム症候群;バルデー・ビードル症候群;メッケル・グルーバー症候群;多発性嚢胞腎;網膜変性;シーニア・ローケン症候群;または、膵臓線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、細気管支炎およびウイルス起源の呼吸器系感染などの続発性繊毛病の予防および/または治療に用いるための請求項2に記載のmiRNA。
【請求項4】
気道上皮の再生および/または分化の障害を含む病態の予防および/または治療のための、請求項2または3に記載のmiRNA。
【請求項5】
前記病態が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息、原発性繊毛ジスキネジア、気道の慢性炎症および感染ならびに呼吸不全などの慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患を含んでなる群から選択される、請求項4に記載のmiRNA。
【請求項6】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−31*(配列番号89)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−210(配列番号22)およびhsa−miR−130a(配列番号4)、配列番号55〜57、63、65〜67、71〜74、77、78、83、84、90〜92、95、98、100、101、104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、115、117〜119、123〜126、129、130、135、136、141〜144、147、151〜153、156および203のそれらの前駆体を含んでなる群から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項7】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、および配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体、および/またはhsa−miR−205、hsa−miR−31、hsa−miR−21、hsa−miR−17、hsa−miR−29a、hsa−miR−193b、hsa−miR−31*、hsa−miR−210、hsa−miR−130aから選択される場合により化学的に修飾されていてもよいmiRNAの少なくとも1つの「スター」相補鎖であるhsa−miR−205*(配列番号72)、hsa−miR−31およびhsa−miR−31*(配列番号37および89)、hsa−miR−21*(配列番号73)、hsa−miR−17*(配列番号63)、hsa−miR−29a*(配列番号83)、hsa−miR−193b*(配列番号66)、hsa−miR−210*(配列番号74)、hsa−miR−130a*(配列番号56)、ならびに配列番号108、115、118、124〜126、135および141の配列のそれらの前駆体を含んでなる群から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項8】
領域2〜7または領域3〜8に、GGCAGUGA(配列番号175)、AAUCACU(配列番号176)およびAUCACUA(配列番号177)を含んでなる群から選択される認識配列を有する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項9】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、およびhsa−miR−449c(配列番号201)を含んでなる群から選択される、請求項8に記載のmiRNA。
【請求項10】
医薬品として用いるための、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−130a(配列番号4)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−151−5p(配列番号8)、hsa−miR−15a(配列番号9)、hsa−miR−16(配列番号10)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−181a(配列番号12)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−200b(配列番号17)、hsa−miR−203p(配列番号19)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−22(配列番号23)、hsa−miR−224(配列番号24)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−25(配列番号27)、hsa−miR−26a(配列番号28)、hsa−miR−26b(配列番号29)、hsa−miR−27b(配列番号30)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−30b(配列番号33)、hsa−miR−30c(配列番号34)、hsa−miR−30d(配列番号35)、hsa−miR−30e(配列番号36)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−365(配列番号41)、hsa−miR−374a(配列番号42)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−425(配列番号44)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−939(配列番号50)、hsa−miR−96(配列番号51)、およびhsa−miR−99a(配列番号52)、配列番号55〜57、60、61、63〜67、69、71、72、75〜78、80〜84、87〜89、91〜96、98〜104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、112、113、115〜119、121、123、124、127〜130、132〜136、139〜141、143〜148、150〜156、194、195、197および203のそれらの前駆体を含んでなる群から選択されるmiRNA。
【請求項1】
脊椎動物被験体の繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力をin vitroで診断する方法であって、
(i)該被験体の繊毛上皮組織の細胞によるmiRNAの発現レベルを定量的に測定する工程;
(ii)該被験体の該繊毛上皮組織のmiRNA発現プロフィールを確定する工程;
(iii)該被験体のmiRNAの発現プロフィールを、下表Iで示される1以上の他の健康被験体の繊毛上皮組織のmiRNAの発現プロフィールと比較する工程(ここで、この発現レベルは発現強度のレベルとしてlog2で表す);
【表1】
(iv)該被験体によるその発現レベルが、該他の健康被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわちlog2で少なくとも1単位異なる、少なくとも1つのmiRNAを同定する工程;および
(v)工程(ii)で確定された該プロフィールの少なくとも1つのmiRNAが、該他の健康被験体による同じmiRNAの発現レベルに対して少なくとも2倍、すなわちlog2で少なくとも1単位異なる発現レベルを有する場合、該第一の被験体の少なくとも1つのmiRNAの発現異常と関係した繊毛上皮組織の機能的毛様体形成を遂行する能力の欠陥が証明される工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
繊毛上皮組織の繊毛の機能不全に関連する障害の予防および/または治療に用いるための配列番号1〜6、8〜52、157〜162および201の配列のhsa−miR−100、hsa−miR−106b、hsa−miR−125a−5p、hsa−miR−130a、hsa−miR−140−3p、hsa−miR−141、hsa−miR−151−5p、hsa−miR−15a、hsa−miR−16、hsa−miR−17、hsa−miR−181a、hsa−miR−191、hsa−miR−193b、hsa−miR−1975、hsa−miR−200a、hsa−miR−200b、hsa−miR−200c、hsa−miR−203、hsa−miR−205、hsa−miR−21、hsa−miR−210、hsa−miR−22、hsa−miR−224、hsa−miR−23a、hsa−miR−23b、hsa−miR−25、hsa−miR−26a、hsa−miR−26b、hsa−miR−27b、hsa−miR−29a、hsa−miR−29c、hsa−miR−30b、hsa−miR−30c、hsa−miR−30d、hsa−miR−30e、hsa−miR−31、hsa−miR−34a、hsa−miR−34b、hsa−miR−34c−5p、hsa−miR−365、hsa−miR−374a、hsa−miR−378、hsa−miR−425、hsa−miR−429、hsa−miR−449a、hsa−miR−449b、hsa−miR−449c、hsa−miR−574−3p、hsa−miR−92b、hsa−miR−939、hsa−miR−96、hsa−miR−99a、hsa−let−7a、hsa−let−7b、hsa−let−7c、hsa−let−7e、hsa−let−7fおよびhsa−let−7g(下記表B参照)、配列番号53〜58、60〜104、163〜168および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、または場合により化学的に修飾されていてもよい相補的配列鎖、ならびに配列番号105〜110、112〜156、169〜174、193〜200および203の配列のそれらの前駆体から選択される、請求項1に記載の方法によって同定されたmiRNA。
【請求項3】
原発性繊毛ジスキネジアまたはカルタゲナー症候群などの原発性繊毛病;内臓逆位;雄性および雌性不妊症;アルストレム症候群;バルデー・ビードル症候群;メッケル・グルーバー症候群;多発性嚢胞腎;網膜変性;シーニア・ローケン症候群;または、膵臓線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、細気管支炎およびウイルス起源の呼吸器系感染などの続発性繊毛病の予防および/または治療に用いるための請求項2に記載のmiRNA。
【請求項4】
気道上皮の再生および/または分化の障害を含む病態の予防および/または治療のための、請求項2または3に記載のmiRNA。
【請求項5】
前記病態が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、膵臓線維症、喘息、原発性繊毛ジスキネジア、気道の慢性炎症および感染ならびに呼吸不全などの慢性および/または遺伝性呼吸器系疾患を含んでなる群から選択される、請求項4に記載のmiRNA。
【請求項6】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−31*(配列番号89)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−210(配列番号22)およびhsa−miR−130a(配列番号4)、配列番号55〜57、63、65〜67、71〜74、77、78、83、84、90〜92、95、98、100、101、104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、115、117〜119、123〜126、129、130、135、136、141〜144、147、151〜153、156および203のそれらの前駆体を含んでなる群から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項7】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449b*(配列番号99)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−99a(配列番号52)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−203(配列番号19)、および配列番号107、117、119、123、130、142〜144、147、150、151、153、156および203の配列のそれらの前駆体、および/またはhsa−miR−205、hsa−miR−31、hsa−miR−21、hsa−miR−17、hsa−miR−29a、hsa−miR−193b、hsa−miR−31*、hsa−miR−210、hsa−miR−130aから選択される場合により化学的に修飾されていてもよいmiRNAの少なくとも1つの「スター」相補鎖であるhsa−miR−205*(配列番号72)、hsa−miR−31およびhsa−miR−31*(配列番号37および89)、hsa−miR−21*(配列番号73)、hsa−miR−17*(配列番号63)、hsa−miR−29a*(配列番号83)、hsa−miR−193b*(配列番号66)、hsa−miR−210*(配列番号74)、hsa−miR−130a*(配列番号56)、ならびに配列番号108、115、118、124〜126、135および141の配列のそれらの前駆体を含んでなる群から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項8】
領域2〜7または領域3〜8に、GGCAGUGA(配列番号175)、AAUCACU(配列番号176)およびAUCACUA(配列番号177)を含んでなる群から選択される認識配列を有する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のmiRNA。
【請求項9】
hsa−miR−34a(配列番号38)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、およびhsa−miR−449c(配列番号201)を含んでなる群から選択される、請求項8に記載のmiRNA。
【請求項10】
医薬品として用いるための、hsa−miR−125a−5p(配列番号3)、hsa−miR−130a(配列番号4)、hsa−miR−140−3p(配列番号5)、hsa−miR−151−5p(配列番号8)、hsa−miR−15a(配列番号9)、hsa−miR−16(配列番号10)、hsa−miR−17(配列番号11)、hsa−miR−181a(配列番号12)、hsa−miR−191(配列番号13)、hsa−miR−193b(配列番号14)、hsa−miR−1975(配列番号15)、hsa−miR−200b(配列番号17)、hsa−miR−203p(配列番号19)、hsa−miR−205(配列番号20)、hsa−miR−21(配列番号21)、hsa−miR−22(配列番号23)、hsa−miR−224(配列番号24)、hsa−miR−23a(配列番号25)、hsa−miR−23b(配列番号26)、hsa−miR−25(配列番号27)、hsa−miR−26a(配列番号28)、hsa−miR−26b(配列番号29)、hsa−miR−27b(配列番号30)、hsa−miR−29a(配列番号31)、hsa−miR−29c(配列番号32)、hsa−miR−30b(配列番号33)、hsa−miR−30c(配列番号34)、hsa−miR−30d(配列番号35)、hsa−miR−30e(配列番号36)、hsa−miR−31(配列番号37)、hsa−miR−34b(配列番号39)、hsa−miR−34c−5p(配列番号40)、hsa−miR−365(配列番号41)、hsa−miR−374a(配列番号42)、hsa−miR−378(配列番号43)、hsa−miR−425(配列番号44)、hsa−miR−449a(配列番号46)、hsa−miR−449b(配列番号47)、hsa−miR−449c(配列番号201)、hsa−miR−574−3p(配列番号48)、hsa−miR−92b(配列番号49)、hsa−miR−939(配列番号50)、hsa−miR−96(配列番号51)、およびhsa−miR−99a(配列番号52)、配列番号55〜57、60、61、63〜67、69、71、72、75〜78、80〜84、87〜89、91〜96、98〜104および202の配列のそれらの「スター」相補鎖、場合により化学的に修飾されていてもよいそれらの相補的配列鎖、ならびに配列番号107〜109、112、113、115〜119、121、123、124、127〜130、132〜136、139〜141、143〜148、150〜156、194、195、197および203のそれらの前駆体を含んでなる群から選択されるmiRNA。
【図1】
【図3】
【図4】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図4】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2013−500034(P2013−500034A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522201(P2012−522201)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000539
【国際公開番号】WO2011/015720
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000539
【国際公開番号】WO2011/015720
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】
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