説明

多能性関連後成的因子

ESET/SETDB1ポリペプチド、またはその相同体の発現または活性を、細胞内で調節することを含む、細胞の多能性の表現型を制御するための方法を提供する。さらに、多能性細胞、そのような細胞の培養物、および細胞においてESET/SETDB1ポリペプチドを、単独で、または他の多能性因子と組み合わせて発現することを含む、体細胞を多能性の表現型に再プログラムするための方法を提供する。また、多能性の修飾因子を識別するための方法およびガンまたはガン幹細胞を処置することにおいてそれらの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および細胞核を、多能性状態を採択するために再プログラムすることに関係する細胞性因子、ならびにその多能性状態を維持する因子に関する。本発明はまた、インビトロ、およびインビボで多能性関連因子の後成的な活性を調節する薬剤の識別に関する。
【背景技術】
【0002】
体細胞は、典型的に、より一層特殊化してないものから、より一層特殊化したか、または傾倒した状態のものにまで進展する分化経路に沿って発達する。より一層特殊化していない体細胞は、いくつかの異なる細胞のタイプを生じさせる前駆幹細胞としての働きをする能力を示すことができる。所定の幹細胞が、そのための先祖(前駆細胞)として働くことができるこれらの異なる細胞の量は典型的に、その幹細胞の‘潜在力’と称される。多能性幹細胞は、非常に多くの異なる区別された細胞タイプのための先祖としての働きをすることができる。細胞が体におけるすべての細胞に分化することができるならば、それは全能性であると考えられる。それが大部分の細胞タイプに分化することができるならば、それは多能性である。胚性幹(ES)細胞は、それらが自己再生が可能であり、そして胚体外組織(すなわち、栄養外胚葉)を例外として、哺乳類において大部分の細胞タイプを生み出すことができ、通常、多能性と呼ばれている。多数の多能性細胞タイプは、ES細胞に加えて、胚性ガン腫(EC)細胞、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、エピブラスト(胚盤葉上層)幹細胞(EpiSCs)、胚性生殖(embryonic germ、EG)細胞および始原生殖細胞(PGCs)を含め、知られている。
【0003】
ホメオドメインを含む転写因子Oct4(POU5F1)およびNanogは、ES細胞アイデンティティの必須のレギュレーター(制御因子)として同定されており、このようにして、多能性の持続(メンテナンス、maintainance)において重要であると考えられる〔Nichols et al.(ニコルズら)、Cell(セル)(1998)95:379-391、およびChambers(チェンバーズ)ら、Cell(2003)113:643-655〕。幹細胞生物学の鍵となる挑戦のうちの1つは、作用の機構を識別するものであり、それによってこれらの多能性関連の転写因子は多能性の細胞の後成的な状態を制御(コントロール)する。実際には、それは、それが多能性になることができるかどうかを最終的に決定する所定の細胞のエピゲノムであり、そしてその結果として、体細胞核を、多能性の細胞核に再プログラムする試みは、これらの細胞のエピゲノムをES様細胞のものにまで修飾することができる因子の存在に依存する。大規模な後成的な再プログラミングは哺乳類の生殖細胞および初期胚において起こる。生殖系列および初期胚における後成的な再プログラミングは従って、生殖細胞および胚性幹細胞の多能性を維持するために重大である。この再プログラミングは、ゲノムDNAおよびまたクロマチンを形成するように一緒に相互作用するDNAと関連したタンパク質の多数の双方の制御性の広範囲にわたる化学修飾に関与する。これらの変化は、順に、細胞の表現型を決定する遺伝子の発現を調整する。
【0004】
多能性幹細胞は、再生医学のような分野において大きな価値があり、そこではそれらは変性疾患、細胞療法、精神的外傷の処置において、および概して衰弱した器官の置き換えにおいて用いることができる細胞および組織用の先祖として役目を果たすことができる。多能性幹細胞はまた、それらがインビトロにおいてヒトの組織タイプの供給源を提供することができるように、薬物のスクリーニング(選別)アッセイにおける価値があり、それによって広範囲な動物試験についての必要性が取り消される。ES細胞のような多能性幹細胞はまた、トランスジェニック(遺伝子移入)動物の生産へのキーでもある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. Nature (2007) 448: 313-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒトにおいて、重要な論争がヒトのES細胞の使用の周辺にあり、最近まで、それは初期ヒト胚から得られることができるだけであった。ヒトの多能性細胞の代替源を捜したいという願望は、これらの細胞を‘再プログラムする’ために、キーとなる多能性決定因子(Oct4を含む)が分化型の体細胞内に異所性に発現されるように、研究者を導く〔Okita(オキタ)K、Ichisaka(イチサカ)T、Yamanaka(ヤマナカ)S.、Nature(ネイチャー)(2007)448:313-7)。これらの実験は、一群の多能性関連の遺伝子の異所性発現が、明らかな細胞性再プログラミングを導くという基本的な原則を証明するが、しかし、これらの因子がそれらの再プログラム効果を発揮することによる実際のメカニズムが未知のままである。明確に、治療法がこれらの前進に基づくことであるならば、多能性の状態が成し遂げられ、および制御される細胞性のメカニズムについて理解されるべきより一層多くの必要性がある。
【0007】
幹細胞が広範囲な自己再生すること、および先祖に分化することの双方の複合能力を保有するので、それらは多くのガンの起源のための潜在的候補でもある〔Beachy(ビーチー)ら、Nature(2004)432:324-31〕。幹細胞は、長い寿命をもつことができ、そこではそれらは悪性への傾向を増やすことができる遺伝子変異および後成的な修飾を獲得する。幹細胞が、繁殖および分化の競合する利益の間でとてもきれいにバランスが保たれるニッチを占有するので、小さいが、深い後成的な変化がバランスをガン幹細胞の表現型の方へ傾けることができると仮定される。なぜおよびどのように後成的な修飾が調整されるかの認識は、ガンの検出および処置、および特にガン幹細胞の処理の理解に絶対不可欠である。実際に、治療するのが難しい再発性および侵襲性の強いガンの場合に存在する因子の1種は、腫瘍があまり、またはまったく慣習的な治療に反応しないガン幹細胞を含むかもしれないということであると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
概略。本発明は、一つには多能性転写(制御)因子Oct4および後成的な修飾性酵素ESET/SETDB1の間の相互作用の特徴描写に基づく。したがって、本発明の第1の見地は、ESET/SETDB1ポリペプチド、またはその相同体の発現または活性を細胞内で調節(モジュレート、修飾)することを含む、細胞の多能性(pluripotent、多分化能)の表現型を制御するための方法を提供する。ESET/SETDB1ポリペプチドの活性は典型的に、細胞をESET/SETDB1の触媒活性を調節する化合物または分子にさらすことによって調節される。そのような化合物または分子は、次の、小分子、アプタマー、ポリペプチド、およびオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリアミン、s-アデノシルメチオニンの類似体(アナログ)、s-アデノシルメチオニンの置換された形態、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド類似体、または抗体またはそのフラグメント(断片)から選ぶことができる。随意に、化合物または分子はESET/SETDB1触媒活性のインヒビター(抑制剤)であり、それによって多能性の細胞の分化が促進される。あるいはまた、化合物または分子は、ESET/SETDB1触媒活性をアゴナイズ(刺激)するか、または促進(プロモート)し、それによって分化を抑制し、および多能性の表現型の自身再生を促進する。
【0009】
本発明の1種の具体化において、ESET/SETDB1をコード化するポリヌクレオチド配列を、細胞中に導入し、および異種性(非相同)発現ベクターを介して発現する。適切には、異種性発現ベクターは、エピソーム(遺伝子副体)性(episomal)ベクターである。異種性発現ベクターは、プロモーター配列に動作可能に連結されるESET/SETDB1ポリペプチドをコード化する核酸配列を含むことができる。細胞での発現のための特定の必要条件に従い、プロモーター配列は誘導可能なプロモーターまたは構成的に活性なプロモーターを含むことができる。随意に、プロモーター配列は多能性関連の転写因子(たとえば、Oct4またはnanog)を結合することが可能な少なくとも1種の配列要素を含むことができる。
【0010】
本発明のさらに特定の具体化において、異種性発現ベクターは、相同組換えを介して細胞のゲノム中に統合される。この具体化において、発現ベクターは、ESET/SETDB1核酸配列に動作可能に連結されるプロモーター配列を含むことができる。あるいはまた、発現ベクターはプロモーター配列を欠いてよく、そしてインビボ(生体内)でESET/SETDB1発現を惹起するために宿主細胞ゲノム中への統合の部位の近くに、またはその部位で位置付けられる内在性プロモーターの存在に頼ることができる。
【0011】
さらに特定の具体化において、本発明は細胞を、次の、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはアンチセンスポリヌクレオチドから選ばれる化合物にさらすことによって、細胞におけるESET/SETDB1ポリペプチドの発現の修飾を提供する。適切には、化合物には1種またはそれよりも多くの配列番号3-9から選ばれるshRNAが包含される。
【0012】
細胞内でのESET/SETDB1活性の発現またはアゴナイゼーション(agonisation)を提供する本発明の上述の具体化は随意に、細胞をより一層多くの多能性の表現型に再プログラムすることを誘導する目的のためのものでありうる。あるいはまた、その目的はたとえば、多能性の幹細胞の培養物の範囲内で、多能性の細胞の分化を妨げ、および/または多能性の表現型の伝播(普及)を促進することであることができる。
【0013】
本発明の第2の見地は、ESET/SETDB1ポリペプチド、またはその相同体または派生体(derivative、誘導体)をコード化する異種性発現ベクターが包含される哺乳類の細胞を提供する。本発明の具体化において、異種性発現ベクターは、相同組換えを介して細胞のゲノム中に統合する。本発明の別の具体化においては、異種性発現ベクターは、エピソームとして(episomally)維持される。随意には、細胞は次の、体細胞、多分化能(multipotent)幹細胞、単分化能(unipotent)幹細胞、ガン細胞、ガン細胞系細胞、および多能性細胞から選ばれる。細胞はそれが直接ヒト胚から得られた細胞でないという条件で、適切にヒト細胞であることができる。本発明の特定の具体化において、異種性発現ベクターは、プロモーターをESET/SETDB1ポリペプチドをコード化する核酸配列と有効な組み合わせにおいて含む。随意に、細胞は、たとえば、凍結乾燥されたか、またはガラス化された組成物のような、組成物またはキットの形態であることができる。本発明はまた、前記の方法によって得られる多能性の哺乳類幹細胞の培養物および多能性の幹細胞を維持するのに適する培養基(培地)を含む培養容器を提供する。
【0014】
第3の見地では、本発明は、核を、1種またはそれよりも多くの多能性関連の転写因子と組み合わせて含む体細胞において、ESET/SETDB1ポリペプチド、またはその相同体を発現させることを含む、体細胞核を再プログラムするための方法を提供する。随意に、多能性関連の転写因子は、Oct3、Oct4、nanog、sox2、c-mycおよびklf4(ときとして、‘ヤマナカ因子’と呼ばれる)またはDppa3/4のような更なる因子からなる群の1種またはそれよりも多くから選ばれる。体細胞核は、次の、多分化能幹細胞、単分化能幹細胞、生殖細胞および最終分化細胞(terminally differentiated cell、高分化型細胞)から適切に得られる。細胞は、適切にヒト細胞であることができる。本発明の特定の具体化において、方法はさらに、細胞を、MEK/ERKシグナル経路(情報伝達系)のインヒビターにさらすことを含む。
【0015】
本発明の第4の見地は、部位特異的DNA結合活性をもつ少なくとも第1のドメイン、およびタンパク質リジンメチル基転移酵素活性をもつ少なくとも第2のドメインを含む、分離されたポリペプチド複合体を提供し、そこで、第1のドメインは多能性関連の転写因子のDNA結合性ドメインを含み、および第2のドメインはヒストンH3のテイル(尾部)領域に位置付けられるリジン残基をメチル化することが可能である。本発明の特定の具体化において、多能性関連の転写因子は、次の、Oct3、Oct4、nanog、sox2、c-mycおよびklf4からなる群の1種より選ばれる。随意に、第2のドメインのタンパク質リジンメチル基転移酵素活性は、ヒストンH3(H3K4)のリジン4であるリジン残基の方へ指向される。本発明の1種の具体化において、ESET/SETDB1またはその相同分子種(オルソログ)または相同体のタンパク質リジンメチル基転移酵素活性は利用される。そのように、第2のドメインはヒストン3リジン9トリメチル化(H3K9me3)を媒介することが可能な、相当するか、またはESET/SETDB1によって触媒作用を及ぼされたものと同一なタンパク質リジンメチル基転移酵素活性を含むことができる。
【0016】
本発明の第5の見地は、候補としての多能性調節性の化合物のライブラリーを、ESET/SETDB1ポリペプチドにさらすこと、何らかの候補としての多能性調節性の化合物がESET/SETDB1ポリペプチドに結合するか、またはその活性を抑制するかどうかを識別すこと、および多能性の修飾因子(モジュレーター)としてESET/SETDB1ポリペプチドに結合するか、またはその活性を抑制する何らかの候補としての多能性調節性の化合物を識別することを含む、多能性の修飾因子を識別するための方法を提供する。適切には、化合物または分子は次の、小分子、アプタマー、ポリペプチド、およびオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリアミン、s-アデノシルメチオニンの類似体、s-アデノシルメチオニンの置換された形態、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド類似体、または抗体またはそのフラグメントから選ばれる。随意には、化合物または分子はESET/SETDB1触媒活性のインヒビターであるか、または化合物または分子は、ESET/SETDB1触媒活性をアゴナイズするか、または促進するかのいずれかである。
【0017】
本発明の第6の見地は、多能性のガン幹細胞の処置において使用するための、ESET/SETDB1活性または発現のインヒビターを提供する。随意に、ガン幹細胞は、肺または胸部(乳)ガン幹細胞から選ばれる。本発明の1種の具体化において、インヒビターは次の、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはアンチセンスポリヌクレオチドから選ばれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明を、以下の図面において次のように例示する。
【図1】Esetが正常なES細胞表現型のために必要とされることを示す。 (A)ウエスタンブロットがEset shRNAトランスフェクションの後3日目(第1レーン)および4日目(第3レーン)でESETおよびH3K9me3のダウンレギュレーションを示す。チューブリンおよびH3K4me2は、負荷コントロール(loading controls)として役目を果たした。(B)Eset shRNAおよび空ベクターをトランスフェクションしたES細胞のピューロマイシン選定の6日後のアルカリホスファターゼ染色。 (C) FACS分別されたEsetノックダウン細胞およびベクターコントロール細胞の、ES培養基で4日後の形態学。スケールバーは50μmを表わす。
【図2】トランスフェクションの後5日目にEsetノックダウン細胞での遺伝子発現の相対的なレベルを示す。エラーバーは3つの技術的な反復のs.d.である。
【図3】TS媒体での培養の4日後に、(上部)ベクターコントロールおよび(底部)EsetノックダウンES細胞の3つの異なるウェルからの5つの代表的なコロニーのイメージを示す。Cdx2陽性の細胞は赤色でラベルをつける。核は青色でラベルをつける。スケールバーは100μmである。
【図4a】(a)ES細胞におけるCdx2およびOct4プロモーター上でのH3K9me3のChIP分析を示す。ChIPプライマーのC1からC10は、Cdx2プロモーター上でのH3K9me3を検出するのに用いられるChIPプライマーに言及する。Oct4プロモーターのプライマーO1およびO2は陰性コントロールとして用いる。
【図4b】(b)H3K9me3のキャリアーChIPはFACS分別されたEsetノックダウンES細胞上で実行された。293T細胞をキャリヤーとして加えた。
【図4c】(c)グラフは、Cdx2プロモーターおよびEsetノックダウン細胞における主なサテライト上のH3K9me3の相対的なレベルを、それらのそれぞれの入力に対して正常化した後にベクターコントロール細胞に比較して示す。エラーバーは、2つの独立した実験のs.d.である。
【図5】Oct4でのESETの免疫共沈降を示す。示される発現ベクターは293T細胞においてトランスフェクションされ、そしてFlag(フラッグ)タグ付けされたOct4タンパク質を免疫沈降した。免疫沈降剤(Immunoprecipitant)(IP)および上清は、抗(アンチ)HA(ESET、上部パネル)および抗Flag(Oct4、底部パネル)抗体でウェスタンブロット(WB)を受けさせた。HAは赤血球凝集素である。
【図6】(a) ES細胞可溶化物を、抗HA、抗ESET〔Abcam(アブカム)およびSanta Cruz(サンタクルス)〕、抗SUMO-1、抗PMLおよび抗Oct4抗体を使って免疫沈降し、そして示された抗体を用いて免疫ブロットさせた(WB)。(b) ES細胞可溶化物を、NEM、SUMO(スモー)イソペプチダーゼインヒビターの存在または不存在において示された抗体で免疫沈降した。
【図7】(a)H3K9me3のキャリヤChIPが示された日にテトラサイクリン(Tc)で処置されたZhbtc4 ES細胞上で実行されたことを示し。(b)グラフはCdx2プロモーター、およびTcで処置したZhbtc4 ES細胞の主なサテライト上でのH3K9me3の相対的なレベルを、それらのそれぞれの入力に対して正常化した後に未処置の細胞と比較して示す。エラーバーは2つの独立した実験のs.d.である。(c)ウェスタンブロットはZhbtc4のES細胞のTc処置の2日目に、Oct4の欠乏によるESETのダウンレギュレーションを示す。
【図8a】(上部)mES細胞および(底部)mEpiSCの免疫染色を示し、双方はOct4(緑色)によってマークされ、ESET(赤色)がmEpiSCでなくmES細胞においてPML核(内)小体(黄色)で共存する(co-localized)ことを示す。フィーダー細胞(支持細胞)(矢印の頭部)は、PML核小体と重なる激しいESET病巣を示す。スケールバーは10μmである。
【図8b】図8aと同様である。
【図8c】図8aと同様である。
【図9A】ネズミESET(“Query(クエリー)”)およびそのヒトオルソログSETDB1(“Subject(サブジェクト)”)のアミノ酸配列を示す。
【図9B】図9Aのつづきである。
【図10】ヒト扁平上皮肺ガンにおけるSETDB1のためのGEO発現データのヒストグラムを示す。
【図11】正常な乳腺上皮と比較したヒトの乳ガン細胞系におけるSETDB1についてのGEO発現データのヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な記載。この中で引用するすべての参考文献は、参照することによってそれらの全体を組み込む。他に規定しない限り、ここで使われるすべての技術的、および科学的な用語は、この発明が属する技術の通常の知識を有する者によって普通に理解されるのと同じ意味をもつ。標準的な分子生物学的技術がこの発明を遂行する際に用いられることが理解されるであろう。そのような技術は説明されており、たとえば、Sambrook(サンブロック)J. ら、Molecular Cloning: a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY(分子クローニング:研究所マニュアル、コールドスプリングハーバー・プレス、コールドスプリングハーバー、NY)にある。
【0020】
ネズミESET(SETドメインによるERG関連タンパク質;NM_018877(配列番号1および2、それぞれcDNAおよびポリペプチド)、および2つの代わりにスプライシングされたアイソフォームにおいて存在することが知られているそのヒトオルソログSETDB1〔SETドメインの分岐された1(bifurcated 1)〕(アイソフォーム1:NM_001145415.1(配列番号3および4);アイソフォーム2:NM_012432(配列番号5および6)は、ヒストン3リジン9トリメチル化(H3K9me3)を媒介することによってユークロマチン(真正染色質)上の抑止的なマークに触媒作用を及ぼすヒストンメチル基転移酵素である。全長ESETタンパク質は、チューダードメイン(tudor domain)、メチルCpG結合ドメインおよびその触媒活性に関与する分岐されたSETドメインを含む。Eset-ヌル胚(null embryos)は、内部細胞塊(ICM)の不完全な増殖を伴うペリ(周囲の、peri)-着床ステージで死滅する。しかし、開発の初めでのESETの正確な役割は未知のままであった。以下に詳細に記述する実験では、多能性状態のメンテナンスにおけるESETの役割を決定し、そして驚くべきことに、ESETが直接Oct4のような多能性関連の転写因子と相互作用することが見出された。誤解を避けるため、本発明は、哺乳類細胞で多能性を調整し、そして転写因子Oct4によって部分的に少なくともコーディネートされるH3K9me3活性に関して、互換的に用語ESET/SETDB1を利用する。ここに用いるように、“SETDB1”はネズミESETのヒトオルソログに言及し、およびすべてのアイソフォーム、オリゴマーおよびSETDB1〔例は、SETDB1のスモー化(SUMOylated)の形態〕の翻訳後に修飾された変形を含むタンパク質の変形体を含む。
【0021】
H3K9をメチル化するESETの触媒能力は、国際公開第03/048352号で記述される。しかし、多能性状態を調整するか、または多能性関連の転写因子、たとえばOct4のようなもので複合体を形成するためのESETメチル基転移酵素活性の能力は、以前には確認されていない。
【0022】
本発明はまた、多能性のES細胞が栄養外胚葉系列に分化するのを防ぐ重要な後成的なサイレンシングメカニズムを識別する。これは、ES細胞のすべての細胞タイプの体への分化が可能で、そしてまだ栄養外胚葉細胞を形成する限られた能力を有することができるという事実にもかかわらない。しかしながらESET/SETDB1によって媒介されるこのユニークな後成的なメカニズムは、ネズミEpiSCで存在するようには見えず、それは栄養外胚葉細胞に分化するそれらの不均等な性向の主な原因である。とりわけ、ヒトES細胞は、ネズミEpiSC、の多くの特徴、たとえば、栄養外胚葉細胞に分化するその傾向を共有する。このように、本発明によって識別されるメカニズムは、マウスおよびヒトのES細胞の間の基本的な違い、特に後成的な状態の相関関係、および栄養外胚葉系列の分化への傾倒の若干を明らかにすることへの重要な意味合いがある。より一層重要なことに、ESET/SETDB1は、Oct4のように、卵母細胞における母性遺伝のタンパク質であり、およびCdx2の抑止により、移植前進展の間に内部の細胞塊(ICM)および栄養外胚葉系列における多能性の細胞の確立のために重要である。このことは、ESETおよびOct4変異体胚盤胞の双方においてICMの高度に類似した欠如と一致する。
【0023】
本発明は、多能性をコントロールするために知られている転写因子と直接関係し、そして鍵となる生物学的メカニズムを表すことがあり、それを通して多能性状態が調整される後成的な活性のはっきりした証明を提供する。
【0024】
本発明についての有用性の別の関連したエリアはガン治療にある。すべてのガンとまではいかないがほとんどは後成的な変化を被り、腫瘍抑制(サプレッサー)遺伝子のダウンレギュレーション(下方制御)およびサイレンシング、およびガン遺伝子のアップレギュレーション(上方制御)を有意に含む。腫瘍抑制遺伝子の再活性化は、ガン遺伝子のダウンレギュレーションを行うことができるように、ガンの表現型を改善(寛解)することができる。それゆえに、生体内で遺伝子発現および細胞運命決定をコントロールする方法は、ガン療法への非常に有望な手段である。本発明では、SETDB1発現のかなり高いレベルが、ヒト扁平上皮肺ガンおよび胸部ガン腫瘍から採取される組織生検において見られる(図10および11を参照)。しかし、ESET/SETDB1発現は、多能性について必要とされることがここに示されるならば、それが全体的な腫瘍の範囲内でガン幹細胞の亜集団(サブポピュレーション)においてより一層高度に発現されうると想定される。この理由から、ESET/SETDB1は全体として多くのガンにおいて高度に発現されるように見えないかもしれないが、まだ腫瘍の範囲内でガン幹細胞のサブセットにおける細胞の自己再生を維持することにおいて重要な役割を演ずることができた。
【0025】
用語‘ガン’はここでは、新生物の範囲内に位置付けられ、または新生物に関係する特性を伴う組織または細胞を意味するのに用いる。新生物は典型的には、それらを正常な組織および正常な細胞と区別する特徴を備える。そのような特徴の中には、制限されないが、ある程度の退形成、細胞形態学における変化、形状の不規則性、減少した細胞接着性、転移する能力、血管形成の上昇したレベル、増加した細胞侵襲性、細胞アポトーシスの減少したレベルおよび概して増加した細胞悪性度が含まれる。‘ガン’にふさわしく、およびしばしばそれと同義の用語には、肉腫、癌腫、腫瘍、上皮腫、白血病、リンパ腫、ポリープ、形質転換、新生物および同様のものが含まれる。
【0026】
用語‘再プログラミング’は、ここで用いるように、多能性/幹細胞性の因子の再活性化および/または特定の分化因子のサイレンシングを招く、細胞の核内での後成的な修飾を変えるステップに言及し、そしてこのようにして、多能性の状態の誘導が媒介される。再プログラミングは、細胞運命の傾倒において、このようにして、全体の、および特に核としての細胞の分化状態の縮小を容易にする。本質的には、再プログラミングは多能性の幹細胞、たとえば、誘導された多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、エピブラスト(胚盤葉上層)幹細胞(EpiSC)または始原生殖細胞(PGC)のようなものに特有の遺伝子発現、後成的な、および機能的な状態の特性に、体細胞の分化したか、または傾倒した核を戻すことからなる。体細胞の核を再プログラムすることは、体細胞核の移行(SCNT)のような手法において好ましい第1のステップであるが、また他の手法でも興味深く、そこでは細胞分化状態の制御、-すなわち、潜在力が-重要である。目下のところ、多能性の状態を構成するものが何かの決定的な定義は不明であることができる。それゆえに、本発明は、部分的に再プログラムしただけであったか、または多能性の一定の遺伝マーカーを発現することができるが、まだ本当に多能性の細胞の適当な形態学を、たとえば細胞においてESET/SETDB1を発現させることによって採択しなければならないいかもしれない細胞における多能性(pluripotencyin)のより一層大きなレベルを成し遂げるための方法を提供する。
【0027】
本発明でのESET/SETDB1配列の派生体および相同体は、他の種および変異体で、それはそれにもかかわらず機能的な同等性の高いレベル-すなわち、多能性関連の転写因子と相互作用し、およびそれによって生体内で基質(サブストレート)タンパク質およびポリペプチドの後成的な修飾が発効される能力を見せるものからの配列のオルソログを含むと考えられる。典型的に、ESET/SETDB1の派生体、相同体およびオルソログは、実質類似した配列同一性(アイデンティティ)を見せ-実際には、ESETおよびSETDB1は、93%の配列同一性を示す(図8を参照)。実質類似した配列同一性によって、配列類似性のレベルがおよそ50%、60%、70%、80%、90%、95%からおよそ99%までの同一性であることが意味される。パーセントの配列同一性は、慣習的な方法を用いて決定することができる〔Henikoff(ヘニコフ)およびHenikoffのProc. Natl. Acad. Sci. USA{米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)}1992;89:10915、およびAltschul(アルチュール)ら、Nucleic Acids Res.(ヌクレイック・アシッズ・リサーチ)1997;25:3389-3402〕。あるいはまた、本発明でのポリペプチドの相同体は、高いか、中間であるか、または低いストリンジェンシー(厳しさ)の条件下で、ここに記述される配列とハイブリダイスする能力を証明することが可能なそれらの配列であることができる。
【0028】
用語‘発現ベクター’は線状か、または環状のいずれでものDNA分子を現わすのに用いられ、その中に、適切なサイズの別のDNA配列の断片を統合することができる。そのようなDNA断片(群)は、遺伝子で、たとえば、ESETまたはSETDB1のような、DNA配列の断片によってコード化されるものの転写を提供する追加のセグメント(区域)を含むことができる。追加のセグメントには、制限されないが、次の、プロモーター、転写ターミネーター(転写終結因子)、エンハンサー、内部リボソーム進入部位、非翻訳領域、ポリアデニル化信号、選択可能なマーカー、複製の起点およびそのような同様なものが含まれる。発現ベクターは、プラスミド、コスミド、ウイルスベクターおよび酵母人工染色体から誘導されることが多く、ベクターは、いくつか(5または6つくらい)の供給源からのDNA配列を含む組換え分子であることが多い。本発明での発現ベクターは、エピソームによって維持されることができ、または宿主細胞のゲノム中に統合されうる。ランダムまたは非標的化の統合のために適するベクターには、レンチウイルスまたはレトロウイルスの発現ベクターが含まれる〔Ye(イエ)ら、Methods Mol Biol.(メソッヅ・イン・モレキュラー・バイオロジー)(2008)430:243-53;Brambrink(ブラムブリンク)ら、Cell Stem Cell.(セル・ステム・セル)、2008年2月7日;2(2):151-9〕。宿主細胞のゲノムへの標的化された統合を成し遂げる発現ベクターはまた、相同組換えアプローチを介して用いることもできる。
【0029】
用語‘動作可能に連結された’は、DNA配列に、たとえば、発現ベクターにおいて適用されるとき、配列がそれらの意図された目的、すなわち、配列が終結信号に関する限り、連結されたコード配列を通して進行する転写の惹起を可能にするプロモーター配列を達成するために、それらが協同的に機能するように、配列が手配されることを示す。
【0030】
用語‘分離された’は、ポリペプチドまたはポリペプチドの複合体に適用されるとき、起源のその自然の生物から除去されたポリペプチドである。適切には、分離されたポリペプチドは、由来生物のプロテオームを原産とする他のポリペプチドを実質含まない。分離されたポリペプチドは、少なくとも95%純粋で、より一層好ましくは99%よりも高く純粋であるのが最も好まれる。この前後関係では、用語‘分離された’は、同じポリペプチドを代わりの物理的形状で含むことを意図し、それにはそれが、自然の形態、変性した形態、二量体/多量体の、グリコシル化された、または結晶化されたものにおいて、あるいは誘導体化された形態においてにかかわらずである。ここで用いられる‘複合体’への参照は、第1および第2のポリペプチドドメインが単一のポリペプチド鎖の範囲内で含まれる場合、また第1および第2のドメインが、互いに非共有結合的に関係する別々のポリペプチド鎖の範囲内で含まれる場合、ならびに翻訳後共有結合が関係する機能単位中へ別々のドメインを連結するために形成される場合の例を含む。
【0031】
ESET/SETDB1のインヒビターとして本発明において役に立つ特定の小さな核酸分子は、短い干渉性RNA(siRNAs)として知られる二重鎖RNAの短いストレッチである。これらの干渉性RNA(RNAi)技術は、生体内で遺伝子機能の選択的な不活性化を可能にする。本発明では、RNAiは細胞でのESET/SETDB1発現のノックダウンに用いることができる。このプロセスでは、二重鎖mRNAは、RNAiの21-23のヌクレオチドの長いストレッチを招くダイサーRNaseによって認められ、および開裂される。これらのRNAisはRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)によって組み込まれ、そしてほどかれる。単一のアンチセンス鎖は次いで、RISCを、mRNAのエンドヌクレアーゼ的切断がもたらされる相補的な配列を含むmRNAへ導く〔Elbashir(エルバシュアー)ら、(2001)ネイチャー411;494-498)。それゆえに、この技術は自己再生の多能性の表現型の抑制が望ましいとき、細胞におけるESET/SETDB1 mRNAの標的化および分解のための手段を提供する。ESET/SETDB1の発現で標的化されたRNAiのための特定の有用性はガンの処置(治療)において見出すことができ、そこで治療がガン幹細胞の前駆体の処置を目的とする。
【0032】
RNAiでの使用に適し、そして特異的にSETDB1を標的とする商業上入手可能な小分子(短い)ヘアピンRNAs(shRNAs)は、以下に明示する〔Sigma(シグマ)、Poole(プール)、Dorset(ドーセット)、UK(英国)〕。
【0033】
【表1】

【0034】
ESET/SETDB1、ESET/SETDB1-Oct4またはESET/SETDB1-Nanogの複合体との結合のための分子およびタンパク質のスクリーニングは、オートメーション化したハイスループット(高処理)のスクリーニング手法を介して実行することができる。それゆえに、本発明はESET/SETDB1および標的分子の間の陽性結合相互作用の検出を介してESET/SETDB1相互作用性分子を識別するための方法を提供する。さらなるスクリーニングステップは、識別された陽性結合性相互作用が薬理学的に重要かどうか、-すなわち標的分子がESET/SETDB1の生物学的活性または機能を緩和することができるかどうかを定めるのに用いることができる。活性のモデレーション(緩和、適度)には、ESET/SETDB1分子の活性を抑制すること、またはアゴナイズすることを含むことができる。活性の抑制は、競合的または非競合的な抑制を通してでよい。陽性の緩和性効果を有する分子が識別される場合、分子は‘ヒット’として分類され、そして次いで潜在的候補の薬物として評価することができる。追加の因子はこの時にか、または吸収、分布、代謝および排出(ADME)のような、たとえば、分子の生物学的利用能および毒性のプロファイルの前に考慮に入れることができる。潜在的な薬物分子が薬理学的必要条件を満たす場合、それは薬学的に適合性であるとみなされる。適した組成物は、この技術で知られる標準的な手法に従って試験管内(インビトロ)で、および生体内で活性を試験するために調剤することができる。
【0035】
本発明に従い、標的細胞および細胞タイプにおいて、多能性の状態を修飾することにおける特定の用途として、アッセイ(分析評価)をESET/SETDB1活性のモジュレーターを識別するために候補の化合物のハイスループットスクリーニングを容易にするように発達させることができる。1種のそのような模範的なアッセイでは、マルチウェルプレートのウェル群を、適切な固定される基質、たとえば、ビオチン-ストレプトアビジン連結を介して固定化されるアセンブル(集合)された組換えヌクレオソームまたはヒストンペプチド(好ましくは、ESET/SETDB1のためのH3K9を含む標的ペプチドが含まれる)のようなものが被覆される。各々のウェルに対して、ESET/SETDB1、S-アデノシルメチオニンのコファクターおよび候補のモジュレーター分子のライブラリーの1種を含む反応溶液を加える。候補のモジュレーター分子がESET/SETDB1のインヒビターとしての働きをする場合、次いでヒストンH3(ヌクレオソーム基質の範囲内で含まれる)の上の、またはH3ペプチドの上のアミノ酸残基のメチル化を、減少させるか、または防止することができる。ヒストンH3/ペプチドでのリジン残基のメチル化状態の決定は、ヒストンH3(すなわちH3K9me3)においてメチル化された標的リジン残基に対して特異的に結合する抗体の使用によって定めることができる。抗体は、ELISA-タイプのアッセイを形成するように、色生成反応にリンクさせることができる。このようにして、色反応を示すマルチウェルのプレートのウェル群は、ESET/SETDB1の抑制が起こらなかった反応に対応するが、ところが、未着色のウェルで存在する候補化合物はESET/SETDB1活性の候補インヒビターとして識別される。
【0036】
代わりの候補分子スクリーンを考案することができ、それは、リポーター遺伝子構築物のプロモーター領域に位置付けられるヌクレオソームの範囲内で含まれるヒストン基質におけるアミノ酸(amino aid)残基のメチル化状態を伴うリポーター遺伝子発現の相関関係に向けられる。リポーター遺伝子発現は、ESET/SETDB1によって触媒作用を及ぼされるメチル化が遺伝子発現を惹起するか、または抑止するかどうかによって、スイッチをオンまたはオフすることができる。候補モジュレーター化合物の存在においてリポーターのアッセイを実行することは、モジュレーターがESET/SETDB1活性に対するアゴニストの、またはアンタゴニストの効果を見せるかどうかの決定を可能にする。
本発明を、以下の非制限的な例においてさらに説明する。
【実施例】
【0037】
例1
【0038】
マウスES細胞を、低分子ヘアピンRNA(shRNA)配列が発現されるベクターによりESETをノックダウンするためにトランスフェクションした。ベクターはまた、EGFPおよびピューロマイシン耐性選択マーカーを含んだ。方法論は以下の通りであった。低分子ヘアピンRNA(shRNA)を、pSuper.puroベクター〔Oligoengine(オリゴエンジン社)のBgIIIおよびHindIII部位中にクローン化した。shRNAのための配列は以下の通りである。
5’GATCCCCGATGTGAGTGGATATATCGTTCAAGAGACGATATATCCACTCACATCTTTTTA3’(配列番号12)および
5’AGCTTAAAAAGATGTGAGTGGATATATCGTCTCTTGAACGATATATCCACTCACATCGGG3’(配列番号13)。
【0039】
shRNA-pIRES-EGFPの構築のために、NotIおよびHincIIで消化したshRNA挿入物を有するか、または有さないpSuper.puroを、NruIおよびNotIで消化したpIRES-EGFP〔Clontech(クロンテク)〕に連結した。トランスフェクションのために、6ウェルのディッシュ(皿)の上で夜通し平板培養した0.5×106個のES細胞を、リポフェクタミン試薬〔Invitrogen(インビトロゲン)〕を用いるプラスミドの1μgでトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞はトランスフェクションの24時間後に1μg/mlのピューロマイシン(シグマ)で選び、そして集密度に達するとすぐに、等しい比率で継代培養した。
【0040】
遺伝子発現のノックダウンは、ウェスタンブロッティングを用いて確認した(図1A)。細胞溶解物を、50mMトリスpH 8.0、150mMのNaCl、1%のNP-40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウムおよび0.1%のSDSからなる冷えたRIPA緩衝剤(バッファ)を用いて抽出し、そして氷上で30分間、プロテアーゼインヒビター(ロシュ)を加え、次いで13kのrpmで遠心分離を続けた。上清を収集し、そしてタンパク質濃度をブラッドフォードアッセイ(シグマ)によって測定した。合計タンパク質(20-30μg)を、トリス-グリシンSDSポリアクリルアミドゲルによって分離して、Hybond(ハイボンド)-P PVDF〔Amersham(アマシャム)〕膜に移した。用いる主要な抗体は、ESET〔Upstate(アップステート)〕、α-チューブリン(シグマ)、H3K9me3(アップステート)、H3K4me2(アブカム)およびOct-3(BD)であった。ポリアクリルアミドゲル上のタンパク質は、インペリアルプロテインステイン(Imperial Protein Stain)〔Pierce(ピアス)〕を用い、染色によって視覚化した。
【0041】
ES細胞数の一般的な視覚化は、シグマ(プール、ドーセット)からの標準的な試薬およびプロトコルを用いたアルカリホスファターゼ染色によって取得した。ピューロマイシン選択の6日間後に、アルカリホスファターゼ活性によって判断されるように、ES細胞の数は減少した(図1 B)。
【0042】
さらにノックダウン細胞の形態を研究するために、トランスフェクションした細胞を、EGFP発現の24時間のポストトランスフェクションおよびそれからのES細胞媒体においての2日間の培養に基づいてFACS分別した。基本的に、細胞を20%のウシ胎仔血清(GIBCO)、2mMのL-グルタミン(GIBCO)、0.1mMのMEM非必須アミノ酸(GIBCO)、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)、1mMのピルビン酸ナトリウム(シグマ)、0.12%の重炭酸ナトリウム溶液(シグマ)、50μMの2-メルカプトエタノール(GIBCO)および0.15mMの各々のヌクレオシドで、アデノシン、シチジン、グアノシンおよびウリジンを含むもの、および0.05mMのチミジン(シグマ)および2000U/mlの白血病抑制因子〔Chemicon(ケミコン)〕からなるもので補足された(supplememented)、L-グルタミン(DMEM/F12)(GIBCO)を伴わないダルベッコ改変イーグル培地/F12栄養混合物において、ゼラチン被覆した培養皿の上でフィーダーなしに培養した。
【0043】
ノックダウン細胞の形態は、空ベクターでトランスフェクションしたES細胞と明らかに異なり、ESETが自己再生、そして正常な多能性の表現型のメンテナンスにとって重要なことを示唆した(図1C)。
例2
【0044】
量的なリアルタイムのRT-PCRを、コントロールおよびESETノックダウン細胞においていくつかの候補の転写物のRNAレベルを評価するのに用いた。細胞をFACS分別なしで収集し、そしてRNAを、Rneasy Mini Kit(アールエヌイージー・ミニ・キット)〔Qiagen(キアゲン)〕を利用して調製し、そしてcDNAをSuperscriptTM〔スーパースクリプト(商品名)〕III逆転写酵素(インビトロゲン)を用い、RNAの1μgから合成した。内因性mRNAのレベルを、ABI Prism(プリズム)7000リアルタイムPCR機械〔Applied Biosystem(アプライド・バイオシステム)〕を用いてSYBR Green(グリーン)の検出に基づくリアルタイムPCRによって測定した。20μlの合計容量での各々の反応物は、10回希釈された1μlのcDNA、1μMの順方向および逆方向のプライマーおよび1×QuantiTect(クアンティ・テクト)SYBR Green Master Mix(グリーン・マスター・ミックス)試薬(キアゲン)を含んだ。各々のプライマーのための検量線を、転写物の相対的な定量化を決定するために、同じサンプルプレートにおいて実行した。リアルタイムPCRは3部構成で行われ、そしてGAPDH、ハウスキーピング遺伝子を用いて正常化した。データを次いで、1.0として規定したベクターコントロールに対して正常化した。
【0045】
図2において示すように、ESETのダウンレギュレーションを、多能性マーカー遺伝子(Oct4、NanogおよびSox2)のダウンレギュレーションおよび分化マーカー(Cdx2、Hand1、Dlx3、Ets2、Fgf5およびGata6)のアップレギュレーションによって付随させた。ESETダウンレギュレーションの後のCdx2、Hand1、Dlx3およびEts2のような栄養外胚葉マーカーのアップレギュレーションは、ES細胞が分化を経るとき、これらの遺伝子が正常に誘導されないので、特に興味深い。これは、ESETが特に栄養外胚葉特異的遺伝子の発現を抑止することによって多能性を維持するために重要であることを示す。
【0046】
より一層大きな深さで栄養外胚葉の様子を探索するために、ESETのshRNAまたは空ベクターのいずれかでトランスフェクションしたES細胞を、ポストトランスフェクション3日目でFACS分別され、そしてそれから栄養外胚葉細胞の開発の助けになる媒体において培養した〔TS媒体-Takeda(タケダ)、1998に記述されている〕。TS媒体での4日後、Cdx2陽性の細胞を、ESETノックダウンコロニーの少なくとも50%において観察し、一方で空ベクターを用いてトランスフェクションした細胞において同じ遺伝子の発現はほとんど存在しなかった(図3)。
例3
【0047】
ES細胞についてのESET欠乏はCdx2のアップレギュレーションを導いた。ESETの触媒機能はヒストンH3K9(H3K9me3)のトリメチル化であり、そして従ってESETのダウンレギュレーションがCdx2プロモーターでH3K9me3の減少したレベルを招くことがあると仮定された。クロマチン免疫沈降(ChIP)は、ESET発現が中断したとき、Cdx2プロモーターでのこの後成的な修飾の正常なレベルおよび任意の変化を評価するのに用いた。
【0048】
クロマチン免疫沈降を、若干の修飾を伴う発表されたプロトコルに従って実行した〔Lee(リー)ら、2006b〕。手短には、細胞を、10分間新鮮な11%のホルムアルデヒド溶液の1/10容量でクロスリンク(架橋)させ、そして2.5Mのグリシンの1/20の容量でクエンチ(急冷)した。細胞を平均500bpまで超音波で破壊し、そして100μlのDynabeads(ダイナビーズ)M-280 Sheep Anti-Rabbit(シープ抗-ラビット)とともにプレインキュベーション(夜通し)した抗体で、夜通し免疫沈降させた。DNAの分離(単離)のために、100ulの10%のChelex(キレックス)(w/v)を、洗浄したビーズに加え、渦撹拌(ボルテックス)し、そして10分間沸騰させた〔Nelson(ネルソン)ら、2006〕。室温に冷却後、プロテイナーゼKの100μg/mlを加え、そして振とうさせながら、ビーズを55℃で30分間インキュベーションした。ビーズは別の10分間沸騰させ、遠心分離し、そして上清を収集した。キレックス/ビーズ画分を、水の別の100μlで渦撹拌し、遠心分離し、そして収集した上清を最初の上清と組み合わせる。DNAのおよそ2から3μlまでを、レッドTaq(シグマ)によるPCR増幅のための鋳型として用いた。キャリヤーChIPのために、3×107の293T細胞を、3日(2日間のピューロマイシンでの選択)の間、ESET-shRNAまたは空ベクターのいずれかでトランスフェクションした1×106のFACS分別された、GFP陽性のES細胞に加えた。
【0049】
図4Aは、正常なES細胞において、H3K9me3マークがOct4プロモーターでなく、Cdx2プロモーターで見出されることを示す(ES細胞において抑止され、そして活性である、それぞれで、これらの遺伝子の発現と一致する)。図4Bは、ESET欠乏細胞において、Cdx2プロモーターでのH3K9me3が減ることを実証する。2つの独立したESETノックダウン実験からのデータは、50%-60%のCdx2プロモーターでのH3K9me3の平均的ダウンレギュレーションを明らかにし、図4Cにおいて示される。
【0050】
集合的に、これらの結果は、ESET媒介H3K9me3が多能性細胞においてCdx2発現を抑止することを実証する。
例4
【0051】
ESETおよびOct4の欠乏は類似した影響、すなわち栄養外胚葉細胞の運命への傾倒をもち、そしてCdx2はまたOct4の転写抑止標的でもある。ESETおよびOct4が協同するかもしれないという仮説を検証するために、FLAG-Oct4およびHA-ESETのための発現ベクターを含む、二重の形質移入体(ダブルトランスフェクタント)のHEK-293T細胞を造り出した。コトランスフェクション実験のために、10cm2の皿の上で平板培養した3.5×106の293T細胞をリポフェクタミン試薬(インビトロゲン)を有する2つの構築物の9ugを含む18ugのDNAで夜通しトランスフェクションした。
【0052】
ESETおよびOct4の間の相互作用について試験するために、ダブルトランスフェクタントからのタンパク質を免疫沈降した。手短には、細胞を、48時間のトランスフェクション後に免疫沈降のために収穫した。10cm2の皿からの細胞を、2回、冷えたPBS中で洗浄し、そして1mlのPBS中にスクラップした。細胞ペレットを、免疫沈降バッファ(50mMトリスpH 8.0、150mMのNaClおよびロシュからのプロテアーゼインヒビターを加えられた1%のNP-40)の200μl中に再懸濁し、30分間時折タップしながら氷上でインキュベーションし、そして4℃で30分間13kのrpmで遠心分離した。上清の100μlをそれから、免疫沈降反応の終濃度が0.1%のNP-40であるように、900ul希釈バッファ(50mMトリスpH 8.0およびロシュからのプロテアーゼインヒビターを加えた150mMのNaCl)で希釈した。細胞溶解物を、4℃で1時間50%のプロテインA/G(アマシャム)スラリーの50μlで前もって澄ませた(pre-cleared)。細胞溶解物をそれから、4℃で20分間13kのrpmで遠心分離し、そして抗HA抗体(アブカムab9110)の1μlまたは抗Flag(フラッグ)(シグマF3165)の1μlを、夜通し4℃で上清の900μlとともにインキュベーションした。50mMのトリスpH 8.0、150mMのNaClおよび0.1%のNP-40を含むバッファにおける5回の洗浄が続く反応物に、50%のプロテインA/Gスラリーの50μlを1時間加えることによって沈殿を実行した。ビーズを50μlの2×のサンプルLaemlli(ラエムリ)バッファ〔Biorad(バイオラッド)で5分間沸騰させ、そして20μlをトリス-グリシンSDSポリアクリルアミドゲル上に負荷した。
【0053】
図5で示すように、HA-ESETをFLAG-Oct4とともに免疫共沈降した。これは、ESETが生体内で物理的に多能性関連の転写因子Oct4と相互作用することを示す。
例5
【0054】
例4のものと類似した実験を、ES細胞および内在性タンパク質を用いて実行した。これはまさに期待される180kDAのESETタンパク質とではないが、しかしより一層高い分子量のいくつかの他のESETタンパク質とのOct4の相互作用を実証した(図6A、最後のレーン)。
【0055】
これらの追加のESET候補の可能性がある供給源の徴候は、ES細胞でのESETの細胞内発現パターンに関するデータから導き出された。免疫染色は、ESETが図7で示すように、ユークロマチン(真正染色質)領域での点状病巣で見出され、そのパターンは前骨髄球性白血病(PML)の本体(bodies)と重複することが実証された。PML本体はしばしばタンパク質SUMO化の部位であり、それゆえに、上記段落に説明するように分離されたタンパク質を、SUMOを検出するために抗体で探査した。このことは、ES細胞において、ESETがいろいろなSUMO化された形態で存在することを確認した(図6A)。予期されたように、これらのバンドは、免疫沈降(immunoprecitation)がN-エチルマレイミド(NEM)、SUMOのアイソペプチダーゼのインヒビターが不存在な場合に実行されたとき、あまり顕著ではなかった(図6B)。
例6
【0056】
さらにOct4およびESETの機能的な相互作用をはっきりさせるために、2つのテトラサイクリン調整可能な(regulatable)Oct4対立遺伝子を含むZhbtc4のES細胞を用いた。図7A-7Cは、Oct4欠乏がCdx2プロモーターでの減少したH3K9me3および減少したESET発現を導くことを実証する。同じ実験は、Cdx2プロモーターでの変えられたH3K9me3レベルが、全ゲノムの影響(genome-wide effect)よりもむしろ、特異的であることを実証するために、主要なサテライト(付随)のDNA形態のキャリヤー物質上で実行された。
【0057】
ここに提供する他の例と組み合わせたこの実験は、ESETおよびOct4の間で形成された複合体が、発現のプロ分化(pro-differentiation)遺伝子、Cdx2の後成的なレギュレーション(調整)が可能であることを実証する。そのように、このことは標的遺伝子のOct4媒介発現調整および多能性の状態のメンテナンスのためにパラダイムを提示する。
【0058】
結論として、ES細胞の、特に栄養外胚葉細胞への分化を妨げることによって多能性を維持する重要な後成的なメカニズムが識別された。Cdx2の抑止に関与するOct4-ESET媒介されたH3K9me3の後成的な修飾は、Gata6を含めて、他の遺伝子に影響を及ぼすかもしれず、多能性の根拠を与える。Oct4およびESETの相乗的作用はまた、Oct4がCdx2の発現を調整するという以前に述べた観察を説明することもできた。Oct4のSUMO化の相互作用性モチーフ(SIM)は明らかに、ESETおよびOct4の相互作用を媒介することにおいて重要である。ESETが、Oct4に似て、卵母細胞での母性遺伝のタンパク質であるので、Oct4-ESETはまた、内部の細胞塊(ICM)において、少なくとも部分的にCdx2の抑止を通した多能性の細胞の確立のために重要でありうる。とりわけ、ESETまたはOct4の損失は、多能性のICMの損失をもたらす。ESET-Oct4の相互作用(そしてもしかすると、SUMO化ESET-Oct4も)は、全体としてICMの多能性の確立および多能性の表現型のメンテナンスのために重要である。
例7
【0059】
BLASTアルゴリズムを用い、ネズミESETタンパク質およびそのヒトオルソログ、SETDB1のアミノ酸配列を配列決定した。標準的なセッティングを用い、フィルターはオフであった。結果を図8に示す。2つのタンパク質は90%同一であり、そして93%相同性である。
例8
【0060】
GEO遺伝子発現データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)を、用語“setdb1ホモサピエンスガン”を用いて検索した。図10は、ヒトESETオルソログが、扁平上皮肺ガンにおいてアップレギュレーションされる強い傾向があることを実証する。その遺伝子はまた、正常な乳腺上皮と比較してヒト乳ガン細胞系においてアップレギュレーションされる(図11)。
【0061】
本発明の特定の具体化を詳細にここに開示したが、これは一例としての、および例示の目的のためだけになしたものである。前記の具体化は添付の、以下に続く請求の範囲の及ぶ範囲に関して制限することを意図しない。請求の範囲によって規定されるような発明の精神および範囲から離れることなく、種々の置換、変形、および修飾が本発明に対してなされるかもしれないことは、本発明者によって十分に考慮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ESET/SETDB1ポリペプチドまたはその相同体の発現または活性を、細胞内で調節することを含む、細胞の多能性の表現型を制御するための方法。
【請求項2】
ESET/SETDB1ポリペプチドの活性は、細胞を、ESET/SETDB1の触媒活性を調節する化合物または分子にさらすことによって調節される、請求項1の方法。
【請求項3】
化合物または分子は、小分子、アプタマー、ポリペプチド、およびオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリアミン、s-アデノシルメチオニンの類似体、s-アデノシルメチオニンの置換された形態、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド類似体、または抗体またはそのフラグメントから選ばれる、請求項2の方法。
【請求項4】
化合物または分子は、ESET/SETDB1触媒活性のインヒビターである、請求項2または3の方法。
【請求項5】
化合物または分子は、ESET/SETDB1触媒活性をアゴナイズするか、または促進する、請求項2または3の方法。
【請求項6】
ポリヌクレオチドをコード化するESET/SETDB1は、細胞中に導入され、および異種性発現ベクターを介して発現される、請求項1の方法。
【請求項7】
異種性発現ベクターはエピソーム性のベクターである、請求項6の方法。
【請求項8】
異種性発現ベクターは、プロモーター配列に動作可能に連結されるESET/SETDB1ポリペプチドをコード化する核酸配列を含む、請求項7の方法。
【請求項9】
プロモーター配列には、誘導可能なプロモーターが包含される、請求項8の方法。
【請求項10】
プロモーター配列には、構成的プロモーターが包含される、請求項8の方法。
【請求項11】
プロモーター配列は、多能性関連の転写因子を結合することが可能な少なくとも1種の配列要素を含む、請求項8〜10の方法。
【請求項12】
異種性発現ベクターは相同組換えを介して細胞のゲノム中に統合する、請求項6〜11の方法。
【請求項13】
目的は細胞の再プログラムをより一層多能性の表現型に誘導することである、請求項5〜12のいずれかの方法。
【請求項14】
目的は細胞の分化を妨げ、および多能性の表現型の伝播を促進することである、請求項5〜13のいずれかの方法。
【請求項15】
ESET/SETDB1ポリペプチドの発現は、細胞を次の、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはアンチセンスポリヌクレオチドから選ばれる化合物にさらすことによって調節される、請求項1の方法。
【請求項16】
化合物には、1またはそれよりも多くの配列番号7-13から選ばれるshRNAが包含される、請求項1の方法。
【請求項17】
ESET/SETDB1ポリペプチド、または相同体または派生体をコード化する異種性発現ベクターを含む、多能性の哺乳類細胞。
【請求項18】
異種性発現ベクターは相同組換えを介して細胞のゲノムに統合される、請求項17の細胞。
【請求項19】
異種性発現ベクターはエピソームとして維持される、請求項18の細胞。
【請求項20】
細胞は次の、体細胞、多分化能幹細胞、単分化能幹細胞、ガン細胞、ガン細胞系細胞、始原生殖細胞、およびヒト胚から得られなかった多能性細胞からなる群の1種から導き出される、請求項17〜19のいずれかの細胞。
【請求項21】
細胞は、ヒト胚から得られなかったという条件で、ヒト細胞である、請求項17〜20のいずれかの細胞。
【請求項22】
異種性発現ベクターは、ESET/SETDB1ポリペプチドをコード化する核酸配列との動作可能な組合せにおいてプロモーターを含む、請求項17〜21のいずれかの細胞。
【請求項23】
請求項17〜22のいずれかに従う多能性の哺乳類幹細胞の培養物、および多能性の幹細胞を維持するのに適する培養基を含む、培養容器。
【請求項24】
ESET/SETDB1ポリペプチド、またはその相同体が、核が1またはそれよりも多くの多能性関連の転写因子と組み合わせて含まれる体細胞において発現されることを含む、体細胞核を再プログラムするための方法。
【請求項25】
多能性関連の転写因子は、Oct3、Oct4、nanog、sox2、c-myc、Dppa3、Dppa4およびklf4からなる群の1またはそれよりも多くから選ばれる、請求項24の方法。
【請求項26】
体細胞核は次の、多分化能幹細胞、単分化能幹細胞、生殖細胞および最終分化細胞から選ばれる細胞から得られる、請求項24または25の方法。
【請求項27】
細胞はヒト細胞である、請求項24〜26のいずれかの方法。
【請求項28】
さらに細胞を、MEK/ERKシグナル経路のインヒビターにさらすことを含む、請求項24〜27のいずれかの方法。
【請求項29】
部位特異的DNA結合活性をもつ少なくとも第1のドメインおよびタンパク質リジンメチル基転移酵素活性をもつ少なくとも第2のドメインを含み、第1のドメインは多能性関連の転写因子のDNA結合性ドメインを含み、および第2のドメインはヒストンH3の尾部領域に位置付けられるリジン残基をメチル化することが可能である、分離されたポリペプチド複合体。
【請求項30】
多能性関連の転写因子は次の、Oct3、Oct4、nanog、sox2、c-mycおよびklf4からなる群の1種から選ばれる、請求項29の複合体。
【請求項31】
第1ドメインはOct4共通配列に結合することが可能な因子を含む、請求項29の複合体。
【請求項32】
リジン残基はヒストンH3(H3K4)のリジン4である、請求項29〜31の複合体。
【請求項33】
第2ドメインはESET/SETDB1またはその相同分子種または相同体のタンパク質リジンメチル基転移酵素活性を含む、請求項29〜31のいずれかの複合体。
【請求項34】
第2ドメインはヒストン3リジン9トリメチル化(H3K9me3)を媒介することが可能なタンパク質リジンメチル基転移酵素活性を含む、請求項29〜33のいずれかの複合体。
【請求項35】
候補多能性調節化合物のライブラリーを、ESET/SETDB1ポリペプチドにさらすこと、何らかの候補多能性調節化合物がESET/SETDB1ポリペプチドに結合するか、またはその活性を抑制するかどうかを識別すこと、および多能性の修飾因子としてESET/SETDB1ポリペプチドに結合するか、またはその活性を抑制する何らかの候補多能性調節化合物を識別することを含む、多能性の修飾因子を識別するための方法。
【請求項36】
化合物または分子は次の、小分子、アプタマー、ポリペプチド、およびオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリアミン、s-アデノシルメチオニンの類似体、s-アデノシルメチオニンの置換された形態、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド類似体、または抗体またはそのフラグメントから選ばれる、請求項35の方法。
【請求項37】
化合物または分子はESET/SETDB1触媒活性のインヒビターである、請求項35の方法。
【請求項38】
化合物または分子はESET/SETDB1触媒活性をアゴナイズするか、または促進する、請求項35の方法。
【請求項39】
多能性ガン幹細胞の処置における使用のためのESET/SETDB1の活性または発現のインヒビター。
【請求項40】
ガン幹細胞は肺または胸部(乳)のガン幹細胞から選ばれる、請求項39のインヒビター。
【請求項41】
インヒビターは次の、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはアンチセンスポリヌクレオチドから選ばれる、請求項39または40のインヒビター。
【請求項42】
インヒビターは配列番号7-13の一またはそれよりも多くから選ばれるshRNAを包含する、請求項41のインヒビター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−523558(P2011−523558A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512226(P2011−512226)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050628
【国際公開番号】WO2009/147445
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(501484851)ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
【Fターム(参考)】