説明

多色発色レーザーマーキング用成形品、多色マーキング付き成形品及びレーザーマーキング方法

【課題】 表面にメッキ、塗装等により皮膜が形成された成形品の皮膜表面にレーザー光を照射した場合、皮膜における照射部が除去され、その除去部(除去空間)を通して更に照射された2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光によって、成形部に含まれた着色剤に由来する有彩色を含む2以上の異なる色調のマーキングが鮮明に形成される多色発色レーザーマーキング用成形品、マーキングされた成形品、及び、レーザーマーキング方法を提供する。
【解決手段】 本成形品は、重合体、有彩色着色剤、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質を含有する組成物Xを含む成形部と、この成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含有する組成物Yを含む膜部とを備え、上記組成物Xに含有される有彩色着色剤の含有量は、上記重合体を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、上記黒色物質の含有量は、0.01〜2質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色発色レーザーマーキング用成形品、多色マーキング付き成形品及びレーザーマーキング方法に関する。更に詳しくは、表面にメッキ、塗装等により皮膜が形成された成形品の皮膜表面にレーザー光を照射した場合、皮膜における照射部が除去され、その除去部(除去空間)を通して更に照射された2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光によって、成形部に含まれた着色剤に由来する有彩色を含む2以上の異なる色調のマーキングが鮮明に形成される多色発色レーザーマーキング用成形品、マーキングされた成形品、及び、レーザーマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の組成物からなる成形体の表面に、所望の色の文字、記号、図柄等のマーキングを付与する技術として、レーザーマーキング方法が知られている(特許文献1等)。近年、マーキングの色を多様化させて広い分野で利用するための熱可塑性樹脂組成物及びレーザーマーキング方法が開示されている(特許文献2)。
また、黒色又は暗色系の地色に隠蔽された着色剤に由来する有彩色のマーキングを付与するための熱可塑性樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−92657号公報
【特許文献2】特開平6−297828号公報
【特許文献3】特開平8−127175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、表面にメッキ、塗装等により皮膜が形成された成形品の皮膜表面にレーザー光を照射した場合、皮膜における照射部が除去され、その除去部(除去空間)を通して更に照射された2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光によって、成形部に含まれた着色剤に由来する有彩色を含む2以上の異なる色調のマーキングが鮮明に形成される多色発色レーザーマーキング用成形品、マーキングされた成形品、及び、レーザーマーキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成すべく、皮膜の構成材料、及び、レーザー光の照射による発色性について検討した結果、下記構成の多色発色レーザーマーキング用成形品において、2以上の異なる色調に鮮明にマーキングされることを見い出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下に示される。
1.重合体(A)と、有彩色着色剤(B)と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)とを含有する組成物〔X〕を含む成形部と、この成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含有する組成物〔Y〕を含む膜部とを備え、レーザー光を上記膜部の表面に照射することにより、膜部における照射部を除去し、その後、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部を通して、上記成形部の露出面に照射することにより2以上の異なる色調にマーキングされる多色発色レーザーマーキング用成形品であって、上記組成物〔X〕に含有される有彩色着色剤(B)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、上記黒色物質(C)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であることを特徴とする多色発色レーザーマーキング用成形品。
2.上記膜部の厚さが、0.1nm〜1mmの範囲にある上記1に記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
3.上記重合体(A)が、レーザー光の受光により発泡しやすい重合体を含む上記1又は2に記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
4.上記有彩色着色剤(B)の示差熱分析による発熱ピークが、360℃以上590℃以下の範囲である上記1乃至3のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
5.上記成形品の膜部の表面に、レーザー光を照射し、膜部における照射部を除去する工程と、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部を通して、上記成形品の成形部の露出面に照射する工程とを備え、成形部の露出面における照射部を、上記有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とする多色発色レーザーマーキング方法。
6.上記多色発色レーザーマーキング方法において、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射された多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面について、低エネルギーのレーザー光の照射部が、上記1乃至4のいずれかに記載の有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされ、且つ、高エネルギーのレーザー光の照射部が、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされる多色発色レーザーマーキング方法。
7.上記5又は6に記載の多色発色レーザーマーキング方法により、表面に2以上の異なる色調のマーキングが形成されていることを特徴とする多色マーキング付き成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多色発色レーザーマーキング用成形品は、重合体(A)と、有彩色着色剤(B)と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)とを、各々、所定量で含有する組成物〔X〕を含む成形部と、この成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含有する組成物〔Y〕を含む膜部とを備えるものであり、レーザー光を上記膜部の表面に照射することにより、膜部における照射部を除去し、その後、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部(除去空間)を通して、上記成形部の露出面に照射することにより2以上の異なる色調にマーキングされる。従って、表面にメッキ、塗装等により膜部が形成された成形品の表面にレーザー光を照射した場合、膜部における照射部が除去され、その除去部(除去空間)を通して更に照射された2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光によって、成形部に含まれた着色剤に由来する有彩色を含む2以上の異なる色調のマーキングを鮮明に形成することができる。具体的には、有彩色着色剤(B)に由来する色(着色剤そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、又は、変色により色調が異なる色)と、白色又は有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色とにマーキングをすることができる。
特に、膜部が金属等からなる膜、メタリック塗料等からなる膜等、表面がメタリック調である場合には、上記の色のマーキングがより鮮明である。
【0007】
膜部の厚さが0.1nm〜1mmの範囲にある場合には、鮮明なマーキングを発現すると共に成形品としての外観性に優れる。
上記重合体(A)が、レーザー光の受光により発泡しやすい重合体を含む場合には、マーキング部の発色をより鮮明なものとすることができる。
【0008】
本発明の多色発色レーザーマーキング方法は、上記多色発色レーザーマーキング用成形品の膜部の表面に、レーザー光を照射し、膜部における照射部を除去する工程と、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部(除去空間)を通して、多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面に照射する工程と、を備えることから、成形部の露出面の照射部における、有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調の各マーキングが鮮明となる。また、レーザー光の照射条件を変化させることにより、高精細なマーキングを形成することもできる。
【0009】
本発明の多色マーキング付き成形品は、上記多色発色レーザーマーキング方法により、(膜部側の)表面に2以上の異なる色調のマーキングが形成されていることから、その鮮明なマーキング及び色の多様化により広い分野における利用が可能となる。また、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされたマーキング部が発泡している場合には、そのマーキング部の発色が特に鮮明となる。更に、成形品に印刷等して得られた印字部に比べると、マーキング部の耐久性が格段に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
1.多色発色レーザーマーキング用成形品
本発明の多色発色レーザーマーキング用成形品は、重合体(A)と、有彩色着色剤(B)と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)とを含有する組成物〔X〕を含む成形部と、この成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含む組成物〔Y〕を含む膜部とを備え、レーザー光を上記膜部の表面に照射することにより、膜部における照射部を除去し、その後、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部(除去空間)を通して、上記成形部の露出面に照射することにより2以上の異なる色調にマーキングされるものであり、上記組成物〔X〕に含有される有彩色着色剤(B)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、上記黒色物質(C)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.01〜2質量部である。即ち、本発明の多色発色レーザーマーキング用成形品1は、図1に示すように、成形部11と、この成形部11の表面に配された膜部12とを備える。
【0011】
1−1.成形部
この成形部は、重合体(A)と、有彩色着色剤(B)と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)とを含有する組成物〔X〕を含む。
【0012】
この重合体(A)は、レーザー光の照射による多色発色を妨げるものでなければ、どのような重合体でもよい。従って、熱可塑性、熱硬化性、光(可視光線〜紫外線の他、電子線等も含む)硬化性、室温硬化性等の重合体を含むことが好ましい。これらは、樹脂、エラストマー、ポリマーアロイ、ゴム等のいずれでもよい。また、これらは、単独で用いても、これらに属さない他の重合体の併用も含め2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、上記「硬化性」の重合体は、硬化後に重合体となるオリゴマー等を含むものとする。
また、上記硬化性の重合体等の硬化の時期は、特に限定されず、成形部を製造した時点、本発明の成形品に対してレーザー光を照射した時点等とすることができる。尚、上記硬化性の重合体等は、有彩色着色剤(B)、黒色物質(C)等と混練する時点、及び、成形部を製造する時点で硬化していなくてもよい。この場合は、未硬化の重合体、オリゴマー等を示すこととする。
【0013】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;ゴム強化熱可塑性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ゴム強化熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)及びウレタン系樹脂が好ましい。尚、上記「ゴム強化熱可塑性樹脂」は、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られるゴム強化共重合樹脂、又は、このゴム強化共重合樹脂とビニル系単量体の(共)重合体との混合物からなるもの等である。
【0014】
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー;ジエン系エラストマー;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体等のスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ウレタン系エラストマー;塩ビ系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;フッ素ゴム系エラストマー等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリマーアロイとしては、PA/ゴム強化熱可塑性樹脂、PC/ゴム強化熱可塑性樹脂、PBT/ゴム強化熱可塑性樹脂、PC/PMMA等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、塩素化ポリエチレン、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
熱硬化性、光硬化性、室温硬化性等の硬化性重合体としては、アクリル系樹脂(エポキシ基を有するアクリル系重合体を含む)、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン系樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、これらの樹脂は、硬化剤等を含むものであってもよいし、自己架橋性の重合体のみからなるものであってもよい。
【0016】
また、上記重合体(A)として、レーザー光の受光により発泡しやすい重合体を含む場合には、レーザー光の照射による多色発色がより鮮明となる。従って、上記重合体(A)は、この重合体(A)のみからなる試験片に対し、出力31A、周波数5.5kHz、波長1,064nmのレーザー光を照射した場合に、照射部の断面に発泡状態が電子顕微鏡により観察される重合体であることが好ましい。
従って、上記重合体(A)としては、上記例示した重合体のうち、(1)単量体成分としてメタクリル酸メチルを用いたゴム強化熱可塑性樹脂、(2)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メタクリル酸メチル単量体単位を30質量%以上含む共重合体等のアクリル系樹脂、(3)ポリアセタール樹脂、(4)ポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0017】
本発明において好ましいゴム強化熱可塑性樹脂は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、このゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物等において、ゴム強化共重合樹脂(A1)又は混合物中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位量が、ゴム質重合体(a)以外の成分中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であるものである。この範囲から外れると、鮮明なマーキングを容易に得ることができない場合がある。
上述の通り、ゴム強化共重合樹脂(A1)及びビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)の形成のために、(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましいことから、ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステルを含むビニル系単量体(b1)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、このゴム強化共重合樹脂(A1)とビニル系単量体(b2)の(共)重合体(A2)との混合物からなるゴム強化共重合樹脂が特に好ましい。尚、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を重合すると、通常、ビニル系単量体(b1)がゴム質重合体にグラフト重合しているグラフト重合体成分と、グラフトしていないビニル系単量体(b1)の(共)重合体成分との混合物等が得られる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記化合物のうち、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0019】
上記ゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体等の重合体;これら重合体の水素化物;ブチルゴム;エチレン・α−オレフィン共重合体;エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体;シリコーン系ゴム;アクリル系ゴム等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いられるビニル系単量体(b1)は、(メタ)アクリル酸エステル以外に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物等を含んでもよい。また、必要に応じて、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物を用いてもよい。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記(共)重合体(A2)の形成に用いられるビニル系単量体(b2)としては、上記(メタ)アクリル酸エステル;芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;マレイミド系化合物;エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、上述のビニル系単量体(b1)及びビニル系単量体(b2)は、同一の単量体を同量で又は異なる量で用いてもよいし、異なる種類の単量体を用いてもよい。
【0021】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、メチル−α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン等の塩素化スチレン;モノブロモスチレン、ジブロモスチレン等の臭素化スチレン;モノフルオロスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。
【0022】
マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、α,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、マレイミド系化合物単位の上記重合体(A)への導入は、無水マレイン酸を共重合してからイミド化する等してもよい。
【0023】
官能基を有するビニル系化合物としては、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、N,N−ジメチルアミノメチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノメチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いられるビニル系単量体(b1)、又は、上記(共)重合体(A2)の形成に用いられるビニル系単量体(b2)の使用量(単位はいずれも質量%)は、いずれも以下の通りである。
(1)芳香族ビニル化合物を用いる場合、ビニル系単量体の全量に対する使用量の下限は、好ましくは5、更に好ましくは10、特に好ましくは20であり、同上限は、好ましくは100、更に好ましくは80である。
(2)シアン化ビニル化合物を用いる場合、ビニル系単量体の全量に対する使用量の下限は、好ましくは1、更に好ましくは3、特に好ましくは5であり、同上限は、好ましくは50、更に好ましくは40、特に好ましくは35である。
(3)(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、ビニル系単量体の全量に対する使用量の下限は、好ましくは1、更に好ましくは5であり、同上限は、好ましくは100、更に好ましくは95であり、特に好ましくは90である。
(4)マレイミド系化合物を用いる場合、ビニル系単量体の全量に対する使用量の下限は、好ましくは1、更に好ましくは5であり、同上限は、好ましくは70、更に好ましくは60であり、特に好ましくは55である。
(5)官能基を有するビニル系化合物を用いる場合、ビニル系単量体の全量に対する使用量の下限は、好ましくは0.1、更に好ましくは0.5、特に好ましくは1であり、同上限は、好ましくは30、更に好ましくは25である。
ビニル系単量体の使用量が上述の範囲内にあると、用いる単量体の効果が十分に発揮されるので好ましい。
【0025】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を、乳化重合、溶液重合、塊状重合等による方法で製造することができる。これらのうち、乳化重合が好ましい。
乳化重合により製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
上記ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b1)を乳化重合させる際の、ビニル系単量体(b1)の使用方法は、通常、以下の通りであるが、ゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b1)を重合させる際のビニル系単量体(b1)の使用方法は、この使用方法に限定されない。尚、反応系において、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b1)を全量一括して添加してもよいし、分割又は連続添加してもよい。また、ゴム質重合体(a)の全量又は一部を、重合の途中で添加してもよい。
【0026】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等で代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等で代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系、あるいは過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、上記重合開始剤は、反応系に一括又は連続的に添加することができる。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0027】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対して、通常、0.05〜2.0質量%である。
【0028】
乳化重合の場合に使用する乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、高級脂肪族カルボン酸塩、ロジン酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対して、通常、0.3〜5.0質量%である。
【0029】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、硫酸、塩酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
溶液重合、塊状重合による製造方法は、公知の方法を適用することができる。
【0030】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)に含まれるグラフト重合体のグラフト率は、好ましくは10〜200%、更に好ましくは15〜150%、特に好ましくは20〜100%である。上記グラフト重合体のグラフト率が10%未満では、組成物〔X〕を用いて得られる成形部の外観不良、衝撃強度の低下を招くことがある。また、200%を超えると、加工性が劣る。
ここで、グラフト率とは、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラム中のゴム成分をxグラム、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラムをアセトン(但し、ゴム質重合体としてアクリル系ゴムを用いたものは、アセトニトリルを使用する)に溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、次式により求められる値である。
グラフト率(%)={(y−x)/x}×100
尚、上記グラフト率(%)は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)を製造するときの、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を変化させることにより、容易に制御することができる。
【0031】
上記(共)重合体(A2)は、例えば、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等により得ることができる。
上記(共)重合体(A2)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.0dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度〔η〕が上記範囲内であると、成形加工性及び成形部における耐衝撃性の物性バランスに優れる。尚、極限粘度〔η〕は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)と同様、製造方法の調整により制御することができる。
【0032】
上記ゴム強化熱可塑性樹脂のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜0.8dl/g、より好ましくは0.15〜0.7dl/gである。極限粘度〔η〕が上記範囲内であると、成形加工性及び成形部における耐衝撃性の物性バランスに優れる。
【0033】
上記ゴム強化熱可塑性樹脂は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ゴム強化熱可塑性樹脂の好ましい態様の例を以下(1)〜(4)に示す。
(1)ゴム質重合体の存在下、メタクリル酸メチルを含む単量体を重合して得られたゴム強化共重合樹脂。
(2)上述の(1)と、メタクリル酸メチルを含む単量体を重合して得られた(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。
(3)上述の(1)と、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む単量体を重合して得られた(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。
(4)ゴム質重合体の存在下、メタクリル酸メチルを用いず、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物とを含む単量体を重合して得られたゴム強化共重合樹脂と、メタクリル酸メチルを含む単量体を重合して得られた(共)重合体とを組み合わせたゴム強化熱可塑性樹脂。
【0034】
上記重合体(A)が、ゴム強化熱可塑性樹脂を主として含むことで、本発明の成形品として耐衝撃性により優れたものとすることができる。上記重合体(A)が、上記ゴム強化熱可塑性樹脂を含む場合、重合体(A)中のゴム質重合体(a)の含有量(単位はいずれも質量%)の下限は、好ましくは0.5、更に好ましくは1、特に好ましくは3、最も好ましくは5、同上限は、好ましくは60、更に好ましくは40、特に好ましくは35である。ゴム質重合体(a)の含有量が少なすぎると、成形品の耐衝撃性が劣る傾向にあり、多すぎると、硬度、剛性が劣る傾向にある。
【0035】
上記ゴム強化熱可塑性樹脂は、重合体(A)としてそのまま用いてもよいし、他の重合体と組み合わせて用いてもよい。他の重合体としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂;アクリル系樹脂(エポキシ基を有するアクリル系重合体を含む)、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これら他の重合体は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また、本発明において好ましいアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体から形成された(共)重合体であるが、この(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記ゴム強化熱可塑性樹脂の形成に用いた(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。他の単量体としては、芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;マレイミド系化合物;エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物等が挙げられる。
従って、上記アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチルを含む単量体を用いて得られた樹脂が特に好ましく、メタクリル酸メチル単量体単位を30質量%以上含む(共)重合体、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が好ましい。
【0037】
また、本発明において好ましいポリアセタール樹脂としては、オキシメチレン基(−CHO−)を主な構成単位とする高分子化合物であれば特に限定されない。このポリアセタール樹脂は、ポリオキシメチレンホモポリマー、オキシメチレン基以外に他の構成単位を含有するコポリマー(ブロックコポリマーを含む)及びターポリマーのいずれであってもよい。また、分子構造は、線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよい。更に、上記ポリアセタール樹脂は、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有してもよい。
上記ポリアセタール樹脂は、構造あるいは分子量の異なるものを、それぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
また、本発明において好ましいポリアミド樹脂は、主鎖に酸アミド結合(−CO−NH−)を有する高分子化合物であれば特に限定されない。このポリアミド樹脂は、通常、環構造のラクタム又はアミノ酸の重合、あるいは、ジカルボン酸及びジアミンの縮重合により製造される。従って、このポリアミド樹脂は、ホモポリアミド、コポリアミド等として用いることができる。単独で重合可能な単量体としては、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、ピペリドン等が挙げられる。
また、ジカルボン酸及びジアミンを縮重合させる場合のジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、テレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0039】
上記ポリアミド樹脂としては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I等が挙げられる。
尚、ポリアミド樹脂の末端は、カルボン酸、アミン等で封止されていてもよい。カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン等が挙げられる。
上記ポリアミド樹脂は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記ポリウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合(−NH−COO−)を有する高分子化合物であれば特に限定されない。このポリウレタン樹脂は、通常、ジオール及びジイソシアネートを反応させること等により得られる。
ジオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
尚、ジオール及びジイソシアネートの反応の際には、鎖伸長剤を用いてもよい。
【0041】
尚、上述のように、本発明に係る重合体(A)として、熱可塑性重合体及び熱硬化性重合体を併用することができるが、その場合の熱可塑性重合体の含有量100質量部に対する熱硬化性重合体の含有量の下限は、好ましくは0.01質量部、更に好ましくは0.05質量部、特に好ましくは0.1質量部であり、同上限は、好ましくは20質量部、更に好ましくは10質量部、特に好ましくは5質量部である。熱硬化性重合体の含有量を上記とすることにより、マーキング部が変色(退色を含む)することがなく鮮明な発色が長期間維持され、マーキング部の形状がより安定となりやすい。尚、熱可塑性重合体及び熱硬化性重合体を併用する場合、本発明の組成物において、この熱硬化性重合体は、連結状態であってもよいし、粒子状等の小片物として分散状態で含まれてもよい。組成物及び成形品においても同様である。
【0042】
次に、上記組成物〔X〕に含有される有彩色着色剤(B)は、黒色及び白色以外であれば、赤色系、黄色系、青色系、紫色系、緑色系等どんな色の着色剤であってもよい。即ち、顔料でもよいし、染料でもよい。好ましいものは、示差熱分析により、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有するものである。好ましい温度は380℃以上585℃以下であり、より好ましくは400℃以上585℃以下である。発熱ピークを示す温度が低すぎると、低エネルギーのレーザー光を照射した場合に有彩色のマーキングが不良となる傾向にある。一方、温度が高すぎると、高エネルギーのレーザー光を照射した場合に白色又はこの有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色のマーキングが不良となる傾向にある。尚、示差熱分析による測定条件は実施例に記載の通りである。
【0043】
上記有彩色着色剤(B)は、発熱ピークを示す温度が上記好ましい温度範囲にあれば、2種以上の有彩色着色剤を組み合わせて用いることもできる。
発熱ピークを示す温度が上記範囲にある有彩色着色剤としては、フタロシアニン骨格を有する顔料又は染料(青〜緑色)、ジケトピロロピロール骨格を有する顔料又は染料(橙〜赤色)、ジオキサジン骨格を有する顔料又は染料(紫色)、キナクリドン骨格を有する顔料又は染料(橙〜紫色)、キノフタロン骨格を有する顔料又は染料(黄〜赤色)、アンスラキノン骨格を有する顔料又は染料(黄〜青色)、ペリレン骨格を有する顔料又は染料(赤〜紫色)、ペリノン骨格を有する顔料又は染料(橙〜赤色)、金属錯体骨格を有する顔料又は染料(黄〜紫色)、インダンスロン系顔料(青〜緑色)、トリアリルカルボニウム系顔料(青色)、モノアゾ系顔料(黄〜緑色)、ジスアゾ系顔料(黄〜緑色)、イソインドリノン系顔料(黄〜紫色)、チオインジゴ系顔料(赤〜紫色)、アンスラピリドン系染料(黄色)等が挙げられる。尚、括弧内に着色剤の色を記載したが、一例である。
上記のうち、好ましい有彩色着色剤は、フタロシアニン骨格、ジケトピロロピロール骨格、ジオキサジン骨格、キナクリドン骨格、キノフタロン骨格、アンスラキノン骨格、ペリレン骨格、金属錯体骨格等から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する着色剤であり、以下に具体的に例示する。
【0044】
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

〔式中、Mは、配位金属原子又は2つの水素原子であり、R〜R16は、各々、独立して任意の官能基である。〕
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤は、顔料又は染料である。
上記一般式(I)において、Mは、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)又は2つの水素原子であることが好ましく、銅(Cu)、アルミニウム(Al)又は亜鉛(Zn)が更に好ましく、銅(Cu)又はアルミニウム(Al)が特に好ましい。尚、Mが金属の場合、ハロゲン原子、OH等の配位子を有してもよい。
また、上記一般式(I)において、R〜R16は、無置換の水素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;スルホン酸アミド基(−SONHR)、−SO・NH等の置換基(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)が好ましく、R〜R16のうちの複数の隣接するRが連結して芳香環を形成した基も好ましい。特に好ましくは、無置換の水素原子又はスルホン酸アミド基である。
【0045】
(P2932)
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤として、好ましい具体的な構造を以下の(1)〜(6)に列挙する。このうち、(1)、(3)及び(4)が特に好ましい。
(1)上記一般式(I)におけるMがCuであり、且つ、R〜R16が無置換の水素原子である銅フタロシアニン顔料。
【化2】

上記銅フタロシアニン顔料の結晶はα型であっても、β型であってもよい。β型銅フタロシアニン顔料の平均二次粒子径は、一般的に、20μmを超え30μm以下であるが、本発明においては、その上限が好ましくは20μm、より好ましくは10μmであり、下限が1μmである。尚、平均二次粒子径は、レーザー散乱法粒径分布測定装置等により確認することができる。
(2)上記一般式(I)におけるMがCuであり、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子であるハロゲン含有銅フタロシアニン顔料。尚、ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子が好ましい。
(3)上記一般式(I)におけるMがCuであり、R〜R16のうちの4〜8個、好ましくは4個が、上記スルホン酸アミド基又は−SO・NH、好ましくはスルホン酸アミドである溶剤可溶型銅フタロシアニン染料。特に好ましい溶剤可溶型銅フタロシアニン染料の構造を、下記一般式(II)に示す。
【化3】

〔式中、各Rは、各々、独立して炭素数1〜20のアルキル基である。〕
上記一般式(II)において、各Rは、各々、独立して炭素数4〜8のアルキル基であることが特に好ましい。
(4)上記一般式(I)におけるMがAlであり、且つ、R〜R16が無置換の水素原子であるアルミニウムフタロシアニン顔料。Alは、配位子として−OH又は−Clを有しているものが好ましく、−OHを有しているものが更に好ましい。特に好ましいアルミニウムフタロシアニン顔料の構造を、以下に示す。
【化4】

(5)上記一般式(I)におけるMがSnであり、且つ、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子であるスズフタロシアニン顔料。
(6)上記一般式(I)におけるMがZnであり、且つ、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である亜鉛フタロシアニン顔料。
この亜鉛フタロシアニン顔料の構造を、下記一般式(III)に示す。
【化5】

〔式中、R〜R16は、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
亜鉛フタロシアニン顔料としては、上記一般式(III)におけるR〜R16がすべて水素原子である亜鉛フタロシアニン顔料が特に好ましい。
【0046】
上記ジケトピロロピロール骨格を有する有彩色着色剤としては、下記一般式(IV)で表される化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化6】

〔式中、Ar及びAr’は、各々、独立して置換基を有してもよい芳香族環である。〕
Ar及びAr’を構成する芳香族環は、芳香族性を有すれば、どのような環でもよいが、通常、5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる芳香環であり、O、S、N等のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アンスラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、イミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、チアゾール環、ジベンゾチオフェン環等が挙げられ、これらのうち、6員環が好ましく、6員環の単環が更に好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
上記芳香族環は置換基を有している方が好ましく、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アミノ基、−NHCOR’、−COR’及び−COOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)が挙げられ、このうち、ハロゲン原子、特に塩素原子が好ましい。
【0047】
上記ジオキサジン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化7】

この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物であることが好ましい。置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(V)で表される。
【化8】

〔式中、R17〜R22は、各々、独立して、ハロゲン原子、−NHCOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基である。〕
上記ジオキサジン骨格を有する有彩色着色剤としては、上記一般式(V)において、置換基R17及びR18を有することが特に好ましい。R17及びR18は、ハロゲン原子又は−NHCOR’が好ましく、−NHCOR’が更に好ましい。また、R19〜R22は、ハロゲン原子、−NHCOR’、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基等が好ましく、炭素数1〜12のアルコキシル基又は−NHCOR’が更に好ましい。
【0048】
上記キナクリドン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化9】

この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(VI)で表される。
【化10】

上記一般式(VI)において、置換基は、R23〜R26の位置に結合していることが好ましい。好ましい置換基としては、ハロゲン原子又は炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。
【0049】
上記キノフタロン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、顔料又は染料である。
【化11】

この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(VII)で表される。
【化12】

〔式中、R27〜R30は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は環構造を含む基であり、R31は、無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜12のヘテロアリールオキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数5〜12のアリールチオ基又は炭素数1〜12のヘテロアリールチオ基であり、R32は、無置換の水素原子又はヒドロキシル基であり、R33〜R36は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−COOR’又は−CONR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。尚、R28及びR29、R31及びR32、R33及びR34、R34及びR35、並びに、R35及びR36は、各々、互いに連結して環を形成してもよい。〕
【0050】
上記一般式(VII)において、R27〜R30が環構造を含む基である場合、下記一般式(VIII)で表される置換基が挙げられる。
【化13】

〔式中、X〜Xは、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
【0051】
上記一般式(VII)におけるR27が、上記一般式(VIII)で表される置換基である場合の着色剤の構造を、下記に一般式(IX)として示す。
【化14】

〔式中、R28〜R36は、前記と同様であり、X〜Xは、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
上記一般式(IX)で表される、キノフタロン骨格を有する有彩色着色剤としては、R28〜R30が無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、R31及びR32が無置換の水素原子であり、且つ、R33〜R36がハロゲン原子である化合物が好ましい。
より好ましい着色剤は、R28及びR29が無置換の水素原子又はハロゲン原子であり、R30〜R32が無置換の水素原子であり、R33〜R36がハロゲン原子であり、且つ、X〜Xがハロゲン原子である化合物である。この着色剤は、通常、顔料である。
特に好ましい着色剤は、R28及びR29が無置換の水素原子であり、R30〜R32が無置換の水素原子であり、R33〜R36がハロゲン原子(X〜X12)であり、且つ、X〜Xがハロゲン原子である化合物である。
【化15】

〔式中、X〜X12は、各々、独立してハロゲン原子である。〕
【0052】
尚、上記一般式(VII)において、R27及びR30が無置換の水素原子であり、R28及びR29がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基である化合物(下記一般式(XI)参照)は、通常、染料である。
【化16】

〔式中、R28及びR29は、各々、独立してハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、R31は、無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜12のヘテロアリールオキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数5〜12のアリールチオ基又は炭素数1〜12のヘテロアリールチオ基であり、R32は、無置換の水素原子又はヒドロキシル基であり、R33〜R36は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−COOR’、−CONR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。尚、R28及びR29、R31及びR32、R33及びR34、R34及びR35、並びに、R35及びR36は、各々、互いに連結して環を形成してもよい。〕
【0053】
上記アンスラキノン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられる。この着色剤は、下記骨格を1つのみ含む化合物であってもよいし、2つ以上を含む化合物であってもよい。
【化17】

この骨格を含む着色剤としては、下記一般式(XII)で表される化合物、上記骨格を複数含む化合物、及び、アミノ基を有する化合物が好ましく、2つのアンスラキノン骨格及び2つのアミノ基を有する化合物が特に好ましい。
【化18】

〔式中、R37〜R44は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−NHR’、−NR’、−OR’、−SR’、−COOR’又は−NHCOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。〕
上記一般式(XII)で表される化合物は、通常、黄〜青色の染料である。
【0054】
また、2つのアンスラキノン骨格及び2つのアミノ基を有する化合物としては、下記一般式(XIII)及び構造式(XIV)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、通常、青色の顔料である。
【化19】

〔式中、R45及びR46は、各々、独立して無置換の水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、炭素数2〜13のアルキルカルボニル基、炭素数6〜13のアリールカルボニル基又は炭素数2〜13のヘテロアリールカルボニル基である。〕
【化20】

尚、構造式(XIV)で表される化合物は、芳香族環に結合する水素原子がハロゲン原子等に置換されていてもよい。
【0055】
上記ペリレン骨格を有する有彩色着色剤としては、例えば、下記一般式(XV)で表される化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化21】

〔式中、R47及びR48は、各々、独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−COR’又は−COOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。〕
上記一般式(XXI)で表される、ペリレン骨格を有する有彩色着色剤としては、R47及びR48が炭素数1〜12のアルキル基である着色剤が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基である着色剤が更に好ましい。
【0056】
上記金属錯体骨格を有する有彩色着色剤としては、例えば、有機色素骨格に金属イオンが配位した化合物等が挙げられる。この有機色素骨格としては、アゾ基を有するもの、アゾメチン基を有するもの等があり、アゾ基あるいはアゾメチン基のオルト位又はペリ位にヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基等を有してもよい。金属イオンとしては、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛等のイオンが挙げられる。
【0057】
上記組成物〔X〕に含まれる有彩色着色剤(B)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、好ましくは0.002〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.8質量部である。この有彩色着色剤(B)の含有量が多すぎると、高エネルギー、例えば、532nm等の短波長のレーザー光の照射による白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色に発色したマーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、低エネルギー、例えば、1,064nm等の長波長のレーザー光の照射により上記有彩色着色剤(B)に由来する色に発色したマーキングが得られない場合がある。
【0058】
次に、上記組成物〔X〕に含有される黒色物質(C)としては、レーザー光の受光により消滅する又は変色するものであれば特に限定されない。即ち、レーザー光のエネルギーによりそれ自身が消滅する、変色する等して、組成物〔X〕を用いて得られた成形品におけるレーザー光の照射部の色が、この黒色物質以外の物質の色の影響の強く現れた色となるものであれば、どのような黒色物質でもよい。
上記黒色物質(C)としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル100質量部及び黒色物質0.1質量部のみからなる黒色試験片に対し、出力31A、周波数5.5kHz、波長1,064nmのレーザー光を照射した場合に、照射部が白色又は黒色以外の色に変色するものが好ましい。
【0059】
上記黒色物質(C)は、無機物質でも有機物質でもよく、顔料でも染料でもよく、更に、本発明の優れた効果を損なわなければ、これらに含まれない化合物や鉱物等を含んでいてもよい。上記黒色物質(C)としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄等の無機顔料、黒鉛、活性炭等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄が好ましく、特に、カーボンブラックを主成分とするものが好ましい。
【0060】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。上述のカーボンブラックの平均粒径の下限は、好ましくは0.1nm、更に好ましくは1nm、特に好ましくは5nm、最も好ましくは10nmであり、上限は、好ましくは1,000nm、更に好ましくは500nm、特に好ましくは100nm、最も好ましくは80nmである。また、上述のカーボンブラックの窒素吸着比表面積の下限は、好ましくは1m/g、更に好ましくは5m/g、特に好ましくは10m/g、最も好ましくは20m/gであり、上限は、好ましくは10,000m/g、更に好ましくは5,000m/g、特に好ましくは2,000m/g、最も好ましくは1,500m/gである。
チタンブラックは、一般に、二酸化チタンを還元して得られるものである。上述のチタンブラックの平均粒径の下限は、好ましくは0.01μm、更に好ましくは0.05μm、特に好ましくは0.1μmであり、上限は、好ましくは2μm、更に好ましくは1.5μm、特に好ましくは1.0μm、最も好ましくは0.8μmである。
また、黒色酸化鉄は、一般に、Fe又はFeO・Feで表される鉄の酸化物である。上述の黒色酸化鉄の平均粒径の下限は、好ましくは0.01μm、更に好ましくは0.05μm、特に好ましくは0.1μm、最も好ましくは0.3μmであり、上限は、好ましくは2μm、更に好ましくは1.5μm、特に好ましくは1.0μm、最も好ましくは0.8μmである。
【0061】
上記組成物〔X〕に含まれる黒色物質(C)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であり、好ましくは0.03〜1質量部、より好ましくは0.05〜0.8質量部である。この黒色物質(C)の含有量が多すぎると、レーザー光の照射により上記有彩色着色剤(B)に由来する色が鮮明でなく、黒ずんだ色となる場合があり、一方、少なすぎると、上記有彩色着色剤(B)に由来する色、白色、及び、上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のいずれをも得られない場合がある。
【0062】
上記組成物〔X〕は、上記の重合体(A)、有彩色着色剤(B)及び黒色物質(C)を所定量ずつ含有するものであるが、この組み合わせによる組成物〔X〕あるいは成形部の地色は、黒色又は暗色系の色を呈する。本発明においては、これらの色の明度を調節するため、高エネルギーのレーザー光の照射部において白色を発色させた場合の白色度を向上させるため等の目的で、白色物質等の白色系物質を更に含有させることができる。
上記白色系物質としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
上記白色系物質の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmである。
【0064】
上記白色系物質の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは0.001〜1質量部であり、より好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは0.001〜0.1質量部である。この白色系物質の含有量が多すぎると、コントラストの良好なマーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、成形部の地色の自由度が制限される場合がある。
【0065】
上記組成物〔X〕は、目的、用途に応じて、帯電防止剤、難燃剤、耐候剤、充填材、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、可塑剤、滑剤、親水性付与剤、加飾剤、淡色系着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0066】
帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤及び高分子型帯電防止剤が挙げられる。また、これらは、イオン伝導型でもよいし、電子伝導型でもよい。
低分子型帯電防止剤としては、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド及びその誘導体;コーテッドシリカ、リン酸塩、リン酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記帯電防止剤の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは0.5〜10質量部である。
【0067】
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等を用いることができる。
上記有機系難燃剤としては、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、ブロム化ポリスチレン樹脂、ブロム化架橋ポリスチレン樹脂、ブロム化ビスフェノールシアヌレート樹脂、ブロム化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー、ブロム化アルキルトリアジン化合物等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トキヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素と窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
上記無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系、モリブデン系、スズ酸亜鉛、グアニジン塩、シリコーン系、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記難燃剤の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。
【0069】
尚、上記組成物〔X〕に難燃剤を配合する場合には、難燃助剤を併用することが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
耐候剤としては、有機リン系化合物、有機硫黄系化合物、ヒドロキシル基を含有する有機化合物等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記耐候剤の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0071】
充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウムウィスカ−、ウォラストナイト、更にはステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の無機系繊維状充填材;有機系繊維状充填材;シリカ、石英粉末、ガラスビ−ズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレ−、硅藻土等の硅酸塩、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム等の硫酸塩、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素等からなる粒子状充填材;タルク、マイカ、ガラスフレ−ク、金属箔等の板状充填材等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの充填材は、補強材として用いることもできる。
上記充填材の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは0.5〜30質量部である。
【0072】
抗菌剤としては、銀系ゼオライト、銀・亜鉛系ゼオライト等のゼオライト系抗菌剤、錯体化銀・シリカゲル等のシリカゲル系抗菌剤、ガラス系抗菌剤、リン酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、銀・ケイ酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩系抗菌剤、チタン含有抗菌剤、セラミック系抗菌剤、ウィスカー系抗菌剤等の無機系抗菌剤、ホルムアルデヒド放出剤、ハロゲン化芳香族化合物、ロードプロパルギル誘導体、チオシアナト化合物、イソチアゾリノン誘導体、トリハロメチルチオ化合物、第四アンモニウム塩、ビグアニド化合物、アルデヒド類、フェノール類、ベンズイミダゾール誘導体、ピリジンオキシド、カルバニリド、ジフェニルエーテル、カルボン酸、有機金属化合物等の有機系抗菌剤、無機・有機ハイブリッド抗菌剤、天然抗菌剤のいずれをも用いることができる。
上記抗菌剤の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜10質量部である。
【0073】
加飾剤としては、メタリック顔料等が挙げられる。上記加飾剤の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0074】
上記成形部とする際には、まず、各原料成分を、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等に投入し、混練りすることによって組成物〔X〕を調製し、その後、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、フィルム押出、シート押出、真空成形、発泡成形、ブロー成形等によって所定形状を有する成形部とすることができる。尚、上記混練に際しては、各成分を混練装置に一括添加してもよいし、多段添加してもよい。得られた成形部は、黒色物質(C)を含有するため、上記のように、通常、黒色又は暗色系の地色を呈する。
【0075】
上記成形部の形状は、目的、用途等に応じたものとすることができ、通常、平面、曲面、網目、凹凸等から選ばれる部位を有する形状である。尚、レーザーマーキングされる表面は、平面、曲面、角部を有する凹凸面等であることが好ましい。
【0076】
1−2.膜部
この膜部は、上記成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含有する組成物〔Y〕を主成分とするものである。尚、この組成物〔Y〕は、複数成分を含んでもよいし、単一成分のみからなるものであってもよい。上記複数成分とは、有機材料又は無機材料を各々2種以上用いる場合、並びに、有機材料及び無機材料を組み合わせて用いる場合をいう。尚、上記膜部は、上記成形部の全表面にあってよいし、一部の表面にあってもよい。また、上記膜部の数は特に限定されない。
【0077】
上記有機材料としては特に限定されず、低分子の有機化合物、高分子重合体等を1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、これらの有機材料は、例えば、表面改質等に用いられる表面処理剤(撥水剤、帯電防止剤、防曇剤、防かび剤、潤滑剤等)、結合剤等として用いられる高分子重合体等をそれぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
上記無機材料としては特に限定されず、金属、合金、金属元素の酸化物、窒化物、硫化物、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、クロム、亜鉛、金、銀、パラジウム、インジウム、ルテニウム、鉄、白金、シリコン等が挙げられる。
合金としては、銅・ニッケル合金、銅・スズ合金、銅・亜鉛合金、鉄・ニッケル合金、クロム・ニッケル合金、ニッケル・コバルト合金、ニッケル・コバルト・リン合金、スズ・コバルト合金、アルミニウム・亜鉛合金、アルミニウム・銅合金、アルミニウム・マンガン合金、アルミニウム・シリコン合金、アルニミウム・マグネシウム合金、アルニミウム・シリコン・マグネシウム合金、アルニミウム・亜鉛・マグネシウム合金等が挙げられる。
【0079】
上記組成物〔Y〕は、上記組成物〔X〕の説明において例示した、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、耐候剤、充填材、滑剤、抗菌剤、親水性付与剤、加飾剤等の添加剤を含んでもよい。
上記組成物〔Y〕を用いて、膜部を形成する際には、上記組成物〔Y〕を成形部表面の所定の位置に対して、塗装(塗工、印刷、吹き付け等)、転写、メッキ、気相処理(蒸着、イオンプレーティング、スパッタ、プラズマ処理等)等より選択される。尚、上記膜部は、組成物〔Y〕を主成分とするものであれば、1層のみであってよいし、同一組成の2層以上で構成されてもよいし、異なる組成で積層されたものであってもよい。
【0080】
本発明においては、膜部の地色が、メタリック調である場合には、文字、記号、図柄等の多色マーキングが映えるため、上記膜部が、金属、合金等のメッキや気相処理;金属粒子、金属光沢を有する無機化合物粒子等を含むメタリック塗料等の塗装により形成されたものが好ましい。
【0081】
上記膜部の厚さは、好ましくは0.1nm〜1mmであり、より好ましくは0.5nm〜500μm、更に好ましくは1nm〜100μmである。この厚さが大きすぎると、レーザー光の照射によるマーキングができない場合がある。
【0082】
本発明の成形品は、黒色又は暗色系の色の成形部と、この成形部の表面に配された膜部とを備えるが、膜部の表面の色(地色)は、膜部の構成材料に依存する。従って、目的、用途等により膜部の構成材料を選択することにより、広い用途への展開が可能である。
【0083】
2.多色発色レーザーマーキング方法
本発明の多色発色レーザーマーキング方法は、上記成形品の膜部の表面に、レーザー光を照射し、膜部における照射部を除去する工程(以下、「工程(I)」ともいう。)と、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部を通して、上記成形品の成形部の露出面に照射する工程(以下、「工程(II)」ともいう。)とを備え、成形部の露出面における照射部を、上記有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とする。
一般的に、レーザー光の「エネルギー」は、レーザー光の照射条件に依存する。具体的には、照射するレーザー光の種類、波長、パルス幅、周波数、出力の他、照射時間、照射面積、光源から成形品までの距離と角度、照射方法等を変えることにより、2以上のレーザー光を照射する際の「異なるエネルギーを有する」レーザー光とすることができる。具体的には、波長の異なるレーザー光を用いる場合のみならず、同一波長のレーザー光を用い、照射時間等の他の照射条件が異なる場合も、異なるエネルギーとすることができる。また、照射条件を同一として、1回照射の場合、及び、2回以上照射の場合において、被照射物に対するエネルギーは異なり、この場合、照射時間の長い後者の方が「高いエネルギー」となる。
【0084】
工程(I)において、膜部の表面にレーザー光を照射することにより、膜部における照射部を除去する。このときのレーザー光の照射方法は、膜部を構成する材料によって選択され、特に限定されない。レーザー光を1回だけ照射して、膜部を除去してよいし、複数回の照射により段階的に除去してもよい。
【0085】
また、レーザー光の照射条件(レーザー光の種類、波長、パルス幅、周波数、出力、照射時間、照射面積、光源から成形品までの距離及び角度、照射方法等)は特に限定されない。
照射するレーザー光の種類は特に限定されず、100〜2,000nmの範囲の波長を有するレーザーを発することができるものであれば、気体、固体、半導体、色素、エキシマー及び自由電子のいずれでもよい。
気体レーザーとしては、ヘリウム・ネオンレーザー、希ガスイオンレーザー、ヘリウム・カドミウムレーザー、金属蒸気レーザー、炭酸ガスレーザー等が挙げられる。
固体レーザーとしては、ルビーレーザー、ネオジウムレーザー、波長可変固体レーザー等が挙げられる。
半導体レーザーとしては、無機でも有機でもよい。無機の半導体レーザーとしては、GaAs/GaAlAs系、InGaAs系、InP系等が挙げられる。
また、Nd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLF等の半導体レーザー励起固体レーザーを用いることもできる。
上記例示したレーザーは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般的なレーザーマーキング用装置は、レーザー発振器、レーザー変調器、ハンドリングユニット、コントローラー等を備える。
【0086】
レーザー光の波長は、膜部を構成する材料によって選択すればよく、好ましくは、1,064nm及び532nmである。また、照射方法も、スキャン方式及び/又はマスク方式とすることができる。レーザー発振器から発振したレーザー光は、レーザー変調器によりパルス変調され、成形品、特に、膜部の表面に照射され、照射部が除去される。尚、本発明において、例えば、1,064nm、532nmのようにレーザー光の「波長」を示す数字は、いずれも中心波長を意味し、通常、±3%の誤差を含むものとする。
【0087】
次に、工程(II)において、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、除去部(除去空間)を通して多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面に照射する。この工程(II)により、成形部の露出面における照射部、即ち、各レーザー光の照射部が有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調にマーキングされる。このレーザーマーキングによる色は、有彩色着色剤(B)に由来する色と、好ましくは、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色とを含む。尚、有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調にマーキングするために、各レーザー光の照射は、成形部の露出面に対して行い、上記工程(I)によって形成された1箇所の露出面内の異なる位置に対してであってよく、また、上記工程(I)によって形成された2箇所以上の露出面に対してであってもよい。
【0088】
この工程(II)においても、レーザー光の照射条件等は特に限定されないが、異なるエネルギーを有するレーザー光とする方法は、レーザー光の照射条件を変化させる等上記の通りであり、簡便な方法は、異なる波長のレーザー光を適用することである。
上記成形部の露出面に対し、λ及びλという2つの異なる波長のレーザー光を異なる位置に照射した場合(但し、λとする。)、波長λの(低エネルギーの)レーザー光の照射により上記有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキングを、そして、波長λの(高エネルギーの)レーザー光の照射により白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを得ることができる。
上記λ及びλは特に限定されないが、通常、100〜2,000nmの範囲にある。また、これらの差|λ−λ|は、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは200〜1,500nmである。
従って、異なる波長のレーザー光を発するレーザーを選択し、例えば、2つの異なる波長のレーザー光を成形部の異なる位置に照射した場合に、低エネルギーの、例えば、長波長のレーザー光の照射により上記有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキングを、そして、高エネルギーの、例えば、短波長のレーザー光の照射により白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを得ることができる。
上記長波長のレーザー光の波長は、好ましくは1,064nmであり、上記短波長のレーザー光の波長は、好ましくは532nmである。
尚、本発明においては、上記有彩色着色剤(B)が360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有する場合に、特に、波長1,064nmのレーザー光を照射した場合に上記有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキングを、波長532nmのレーザー光を照射した場合に白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを、いずれも鮮明に形成することができる。
【0089】
異なる波長のレーザー光を照射してマーキングを形成する際には、1波長ずつ行ってもよいし、2以上の全波長を同時に行ってもよい。異なる波長を有するレーザー光の照射は、複数の装置を用いてもよいし、1台の装置から異なる波長を有するレーザー光を照射してもよい。尚、2波長のレーザー光によりマーキング可能な装置としては、例えば、ロフィン・バーゼル社製レーザーマーキングシステム「RSM50D型」、「RSM30D型」等を用いることができる。
【0090】
尚、この工程(II)におけるレーザー光の照射は、上記工程(I)から連続的に行ってもよい。即ち、あるエネルギーのレーザー光を、膜部の表面に照射し、膜部における照射部を除去した後、そのまま、除去部を通して成形部の露出面に達せしめることによって、発色させることができる。この場合は、レーザー光の照射が連続的であるため、通常、膜部の除去及び発色が一瞬のうちに行われる。この方法は、照射するレーザー光のエネルギーと、膜部の組成及び厚さ、成形部の組成等との関係から、所望の色の発色条件を選択することで、短時間でレーザーマーキングを行うことができ、好ましい。従って、上記工程(I)及び(II)を連続的に行うことにより、有彩色着色剤(B)に由来する色を発色させる条件と、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色を発色させる条件とを選択することにより、所望の色の数の回数だけ(異なるエネルギーを有する)レーザー光を照射するのみで、多色発色したマーキングを形成することができる。
【0091】
上記成形部に、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、上記成形部に含まれる構成成分のうち、有彩色着色剤(B)を含有しない成分からなる組成物に、波長1,064nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、から算出されるΔE1を、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2〜0とすることができる。このΔE1は、小さい方がより白色度が高い。
また、上記成形部に、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色系マーキング部のLab値と、上記成形部に、波長1,064nmのレーザー光を照射して得られる有彩色のマーキング部のLab値と、から算出されるΔE2を、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4〜50とすることができる。このΔE2は、大きいほど色調差が明瞭である。
尚、ΔE1及びΔE2は、下記方法により求めることができる。
【0092】
ΔE1は、上記成形部に対し、波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部と、上記有彩色着色剤(B)を含まない配合で成形した試験片に対して波長1,064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部との間で、各Lab値(L;明度、a;赤色度、b;黄色度)を測定し、下記式に従い、算出する。Labの測定装置は、Gretag Macbeth社製、「Color−Eye 7000A」等を用いることができる。
ΔE1=√{(L−L+(a−a+(b−b
上記式において、L、a及びbは、波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値であり、L、a及びbは、上記有彩色着色剤(B)を含まない配合で成形した試験片に対して波長1,064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値である。
また、ΔE2は、上記試験片に対して波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部、及び、同じ試験片の異なる位置に対して波長1,064nmmのレーザー光を照射した際に形成された有彩色マーキング部の各Lab値を測定し(後者をL、a及びbとする。)、下記式に従い、算出することができる。
ΔE2=√{(L−L+(a−a+(b−b
【0093】
上記工程(I)及び(II)を備えた好ましいレーザーマーキング方法としては、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射された上記多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面に達した低エネルギーのレーザー光の照射部が、上記有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされ、且つ、高エネルギーのレーザー光の照射部が、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされる方法である。
【0094】
この方法を、図2により説明する。
まず、成形部11と、この成形部11の表面に配された膜部12とを備える成形品の、膜部12の表面に対し、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射する(図2の〔a〕)。レーザー光の照射は同時に行ってよいし、別々に行ってもよい。これらのレーザー光の照射により、膜部における各照射部が除去され、除去部(除去空間)2が形成されると同時に、成形部が露出する(図2の〔b〕)。この露出面は、通常、成形部の地色を呈している。
その後、上記各レーザー光は、各除去部2を通って、成形部11の露出面に照射され(図2の〔c〕)、高エネルギーのレーザー光の照射部は、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色にマーキング(図2における4)され、低エネルギーのレーザー光の照射部は、上記有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキング(図2における3)される(図2の〔d〕)。
【0095】
このように、異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することによって、所望の色のマーキングを形成することができる。尚、レーザー光のエネルギーは、上記のように、通常、波長に依存するが、同じ波長のレーザー光を用い、照射条件(時間、パルス出力、パルス幅等)を変化させて照射する方法等によって、異なるエネルギーを有する又は与えるものとし、異なる色調のマーキングを形成することもでき、レーザー光の照射条件を変化させることにより、高精細なマーキングを形成することもできる。また、上記のように、レーザー光を連続的に照射することにより、図2における〔a〕から、一瞬のうちに〔d〕とすることもできる。
【0096】
また、上記工程(II)におけるレーザー光の照射を、上記工程(I)によって形成された1箇所の露出面内の異なる位置に対して行う場合には、例えば、図3に示す多色マーキングを形成することができる。
【0097】
尚、黒色物質(C)としてカーボンブラックを含む成形品に対し、レーザー光が照射されると、照射部に存在するカーボンブラックがレーザー光を吸収し、気化する現象が知られている。カーボンブラックが消滅すると、照射部における黒色又は暗色の度合いが小さくなる、あるいは、ほぼ無色となる。従って、上記成形部の露出面に有色の着色剤が存在すると、レーザー光が照射された箇所は、その着色剤に由来する色、あるいは、着色剤の分解、飛散等によって白色又はその着色剤に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされる。
レーザー光の波長が異なると、レーザー光のエネルギーも異なることが一般的であるため、より低いエネルギーにおいてカーボンブラックを気化させ、上記有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキングを、より高いエネルギーにおいて白色又はその有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを形成することができる。
【0098】
ここで、エネルギーが異なる2種のレーザー光を照射する際に、それらのエネルギーをそれぞれE1及びE2とし、E1<E2であり、且つ、E1がカーボンブラックを気化させる程度のエネルギーであるものとする。
異なる2種のエネルギーを有するレーザー光を成形品の表面に照射すると、エネルギーE1のレーザー光が照射された部分は、レーザー光の熱変換によりカーボンブラックが気化するのみであるため、有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされ、また、エネルギーE2のレーザー光が照射された部分は、カーボンブラックを気化し、更に、その有彩色着色剤(B)の一部又は全部を分解、飛散等させることによって、もとの有彩色着色剤(B)の色と異なる色、例えば、白色、その有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色、又は、変色してその有彩色着色剤(B)と全く異なる色にマーキングされると考えられる。
【0099】
また、黒色物質(C)としてチタンブラックが含まれる成形品に、レーザー光が照射されると、成形品の照射部に存在するチタンブラックが白色の二酸化チタンに変化し、照射部における黒色の度合いが小さくなる、あるいは無色となる。
更に、上記黒色物質(C)として黒色酸化鉄が含まれる成形品に、レーザー光が照射されると、成形品の照射部に存在する黒色酸化鉄が、赤みがかった白色に変色し、照射部における黒色の度合いが小さくなる、あるいは無色となる。
従って、上記黒色物質(C)としてチタンブラック、黒色酸化鉄等が含まれる成形品に、更に有色の着色剤が含まれている場合、カーボンブラックを用いた場合と同様のマーキングをすることができる。異なる2種のエネルギーを有するレーザー光を照射した場合も、カーボンブラックの場合と同様であり、異なる色調のレーザーマーキングを形成することができる。
【0100】
尚、上記のように、レーザー光の照射部は、レーザー光のエネルギーによって、発色する色が異なるが、レーザー光のエネルギーが、黒色物質(C)を消滅又は変色させる程度のエネルギーから、それより高いエネルギーの間においては、有彩色着色剤(B)に由来する発色に濃淡をつけることができる。即ち、上記エネルギー範囲では、レーザー光の侵入深さにより、有彩色着色剤(B)の反応(分解等)の進行の程度が変わることにより、濃淡が形成される。
【0101】
また、マーキング部における「白色」は、成形部を構成する重合体(A)そのものの色であることが多いが、その種類によって、あるいは、発泡した場合には、その程度によって、白色度の高い白色が得られる場合がある。
従って、上記成形部の露出面において形成された白色マーキングの白色度は、JIS K7105等により評価することができる。この白色度は、色の白さの度合いを意味し、ある一定光量の光を対象物に照射したときの反射率により評価される。反射率は、ハンター白色度計等により測定することができる。ここで、反射率は、照射する光の種類(波長等)によって異なり、ハンター白色度計の場合は、光の3原色である青色光で測定を行う。本発明に係わる組成物〔X〕及びこれを含む成形部において得られた白色マーキングの白色度(%)は、酸化マグネシウムの反射光に対する強度の割合で表すことができる。人間の視覚による白さと白色度計による白色度とは必ずしも一致しないこともあるが、本発明に係わる組成物〔X〕及びこれを含む成形部において得られた白色マーキングは、白色度が低くても人間の目に白く見えればよい。しかしながら、白色度の目安としては、好ましくは55〜100%、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%である。
【0102】
上記のように、上記有彩色着色剤(B)は、2種以上を組み合わせて用いることができるため、上記成形部が、異なる色調の有彩色着色剤(B)を複数含有する場合、異なる波長のレーザー光がそれぞれ照射されると、膜部が除去された後、それぞれ異なる色調のマーキングと、白色又は有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキングとを形成することもできる。このように、複数の有彩色着色剤(B)を用いた場合、例えば、赤色着色剤と青色着色剤とを用いた場合は、照射するレーザー光のエネルギー(E1、E2及びE3を用い、E1<E2<E3とする。)によって、次のような態様を得ることができる。エネルギーE1のレーザー光により、黒色(又は暗色)がなくなって赤色と青色の混合色である紫色のマーキングが形成され、エネルギーE2のレーザー光により一方の有彩色着色剤(B)、例えば赤色着色剤のみが分解、飛散等して主として青色着色剤に由来する色にマーキングされる。更に、エネルギーE3のレーザー光により、青色着色剤が分解、飛散等して白色又は上記有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色にマーキングが形成される。
【0103】
上記有彩色着色剤(B)が、360℃以上590℃以下という所定の温度範囲に発熱ピークを有する場合には、カーボンブラック等の黒色物質(C)との共存下においてレーザー光が照射されると、上記のような波長(1,064nm、532nm等)を有するレーザー光のパルスエネルギーに依存して、反応(分解等)し、上記のような態様による、異なる色調のマーキングが鮮明に形成される。
【0104】
尚、本発明においては、エネルギーを有するレーザー光を上記多色発色レーザーマーキング用成形品の膜部の表面に照射して、大面積の膜部のみを除去し、その後、除去部(除去空間)を通して多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面に、低エネルギー(e)のレーザー光を照射して、照射部を上記有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングし、次いで、照射部の内部に、上記エネルギー(e)以上のエネルギーを有するレーザー光を照射して、照射部を白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色にマーキングすることもできる(図3参照)。
即ち、まず、成形品表面の大面積に、レーザー光を照射し、膜部のみを除去する。このときのレーザー光のエネルギーは、後に照射するレーザー光のエネルギー(e)よりも大きくても、同じでも、小さくてもよい。また、このときの成形部の露出面は、膜部が存在しないため、膜部を構成した成分に由来する色ではなく、成形部自身に由来する、黒色又は暗色系の色である。そして、成形部の露出面を形成した後、低エネルギーのレーザー光を照射することにより、有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキング部を形成する。一方、高エネルギーのレーザー光を照射することにより、白色又は有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキング部を形成する。
【0105】
また、上記要領で大面積の膜部のみを除去した後、成形部の露出面の全面に、低エネルギー(e)のレーザー光を照射して、照射部を上記有彩色着色剤(B)に由来する色のマーキング部を形成し、次いで、このマーキング部の中に、更に、レーザー光を照射することにより、その照射部を、白色又は有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色のマーキング部とすることができる(図4参照)。尚、この2回目に照射するレーザー光のエネルギーは、1回目に照射した上記エネルギー(e)と同じであってよいし、異なってもよく、特に限定されない。
【0106】
本発明のレーザーマーキング方法において、レーザー光が成形品に照射されると、その発色部は、重合体(A)の種類、黒色物質(C)の種類等によって、凸部となったり、凹部となったり、あるいはそのままであったりする。特に、重合体(A)が、レーザー光の受光により発泡しやすい樹脂を含む場合には、凸部となる場合がある。凹部となる場合もある。
また、レーザー光の照射によって、それ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)は、レーザー光の熱を吸収した後、瞬時に上記挙動を示すが、例えば、チタンブラック等は、レーザー光の熱により変色した際、蓄熱を伴うことがある。これによって、レーザー光の照射部が上記形状を有することとなる。
【0107】
凸部を形成した場合の、高さは、成形部の表面から見た場合、通常、1〜200μmであり、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜80μmである。また、凹部を形成した場合の、深さは、通常、1〜200μmであり、好ましくは1〜100μmである。各長さは、レーザー光の照射条件を変化させることにより調節することができる。
【0108】
尚、重合体(A)が熱硬化性重合体を含む態様において、レーザー光が照射され、硬化された際には、その熱硬化性重合体の大きさ(体積)が変化し硬化する場合、及び、大きさの変化率が小さいまま硬化する場合がある。
前者の例としては、レーザー光の照射によって、瞬時に溶解し、もとの大きさから変形する、例えば、大きくなることがある。この場合には、マーキング部の強度がより向上し、特に、マーキング部が凸部である場合には、より耐久性に優れる。このような効果を示す熱硬化性重合体は、粒状であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。
【0109】
従って、重合体(A)として、レーザー光の受光により発泡しやすい樹脂と、熱硬化性重合体とを含む成形品に対してレーザー光を照射した場合であっても、発泡部の周辺部(壁等)に熱硬化性重合体に由来する成分が存在するため、補強材としての効果が発揮されることとなり、マーキング部全体として、特に強度における耐久性がより向上する。また、熱硬化性重合体の種類、含有割合等によっては、発泡により形成された空隙に、熱硬化性重合体に由来する成分が存在することがある。レーザー光の照射条件を調節し、発泡部をより小さくし、その空隙に熱硬化性重合体に由来する成分が入り込むような態様では、特に優れた発色性及び耐衝撃性を得ることができる。
【0110】
3.多色マーキング付き成形品
本発明の多色マーキング付き成形品は、上記の本発明の多色発色レーザーマーキング方法により、(膜部側の)表面に2以上の異なる色調のマーキングが形成されていることを特徴とする。マーキングの色は、上記有彩色着色剤(B)そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、又は、変色により色調が異なる色、あるいは、白色又はその着色剤に由来する色の濃度が低下した色等である。
【0111】
本発明の多色マーキング付き成形品は、図2の〔d〕、図3、図4等に示す構造のマーキング部の1種以上を備えるものとすることができる。
図2の〔d〕の態様の多色マーキング付き成形品5は、成形部11と、この成形部11の表面に配された膜部12と、膜部が存在しない除去空間2a及び2bと、除去空間2aの底部であり且つ成形部11の露出面が有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされたマーキング部3(以下、「有彩色マーキング部3」ともいう。)と、除去空間2bの底部であり且つ成形部11の露出面が白色又はその着色剤に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされたマーキング部4(以下、「白色マーキング部4」ともいう。)とを備える。
【0112】
図3の態様の多色マーキング付き成形品5は、成形部11と、この成形部11の表面に配された膜部12と、膜部が存在しない除去空間2と、除去空間2の底部であり且つ成形部11の露出面に形成された、有彩色マーキング部3及び白色マーキング部4とを同時に備える。尚、図3において除去空間2の底部であり且つ有彩色マーキング部3及び白色マーキング部4が存在しない露出面は、通常、成形部11の地色を呈している。
【0113】
また、図4の態様の多色マーキング付き成形品5は、成形部11と、この成形部11の表面に配された膜部12と、膜部が存在しない除去空間2と、除去空間2の底部であり且つ成形部11の露出面に形成された、有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされた有彩色マーキング部3と、この有彩色マーキング部3の内部に形成された白色マーキング部4とを備える。
【0114】
マーキング部について、より低エネルギーのレーザー光(例えば、波長1,064nmのレーザー光)によるマーキング部は、黒色物質(C)が消滅(気化等)又は変色(白色化等)しており、有彩色着色剤(B)がそのまま残っている。更に、より高エネルギーのレーザー光(例えば、波長532nmのレーザー光)によるマーキング部は、白色又はその有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色を呈しており、この部分において、黒色物質(C)は消滅(気化等)又は変色(白色化等)しており、その有彩色着色剤(B)は一部残存しているかもしれないが、ほとんど存在していない。上記有彩色着色剤(B)は、レーザー光により分解、飛散等したためである。
尚、上記多色マーキング付き成形品を構成する重合体の種類によっては、成形部におけるレーザー光照射部が発泡している場合がある。特に、ポリアセタール樹脂、単量体成分としてメタクリル酸メチルを用いたスチレン系樹脂、単量体成分としてメタクリル酸メチルを用いたゴム強化熱可塑性樹脂等を用いた場合にはレーザー光照射部が発泡しやすい。レーザー光照射部が発泡部となると、レーザー光照射時の有彩色着色剤(B)の挙動によっては、レーザー光照射部(発泡部)とその周辺の未照射部との屈折率差が大きくなり、マーキングがより鮮明となることがある。特に、より高いエネルギーによって有彩色着色剤(B)が分解、飛散等することにより、白色又はその着色剤に由来する色の濃度が低下した色となった場合には、レーザー光照射部(発泡部)とその周辺の未照射部との屈折率差が大きいために、より鮮明なマーキングが形成された多色マーキング付き成形品とすることができる。
【0115】
本発明の多色マーキング付き成形品は、マーキング面を含む膜部の表面に、保護層を備えてもよい。この保護層を構成する材料は、膜部における傷付きを抑制するため、膜部が金属、合金等からなる場合に、腐食等を防止するため等、目的、用途に応じて選択すればよく、特に限定されないが、鮮明なマーキングを保持するため、透明性を有する材料であることが好ましい。上記保護層を備えることにより、マーキング部の保護等の目的以外に、成形品の表面の平滑性を向上させることもできる。尚、上記保護層の形成方法は特に限定されない。
【実施例】
【0116】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。また、実施例中の「%」及び「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0117】
1.成形部の製造
下記の原料成分を用い、表1に記載の配合処方に従って、含有される有彩色着色剤の種類別に5種の組成物を調製した。即ち、各原料成分をミキサーにより5分間混合した後、50mmφ押出機でシリンダー設定温度180〜220℃で溶融混練押出し、ペレット(組成物)を得た。その後、得られたペレットを十分に乾燥し、射出成形機(型名「EC−60」、東芝機械社製)により、「成形部」として、縦80mm、横55mm及び厚さ2.5mmの板状成形体(X−1)〜(X−5)を製造した。また、有彩色着色剤を含有しない配合による板状成形体(X−6)も製造した。
【0118】
1−1.重合体(A)
この重合体(A)として、以下の方法により得たゴム強化熱可塑性樹脂を用いた。即ち、還流冷却機、温度計及び撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、初期重合成分としてポリブタジエンゴムラテックスを固形分換算で40部、イオン交換水65部、ロジン酸石鹸0.35部、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を投入し、その後、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第1鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.4部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始し、1時間重合を行った。その後、インクレメント成分としてイオン交換水45部、ロジン酸石鹸0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を2時間かけて連続的に添加し、更に1時間かけて重合反応を完結させ、共重合体ラテックスを得た。この共重合体ラテックスに硫酸を加えて重合体成分を凝固させ、水洗、乾燥してゴム強化共重合樹脂(A1)を得た。
一方、還流冷却器、温度計及び撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水250部、ロジン酸カリウム3.0部、スチレン40部、アクリロニトリル15部、メタクリル酸メチル45部及びt−ドデシルメルカプタン0.1部を投入し、その後、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.05部、硫酸第1鉄7水和物0.002部及びナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.1部をイオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いで、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を加えて重合を開始し、約1時間重合させて反応を完結した。得られた共重合体ラテックスに硫酸を加えて重合体成分を凝固させ、水洗、乾燥して重合体(A2)を得た。
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)40%と、重合体(A2)60%とを混合し、50mmφ押出機を用い、シリンダー設定温度180〜220℃で溶融混練押出してゴム強化熱可塑性樹脂をペレットとして得た。
【0119】
1−2.有彩色着色剤(B)
以下に示す着色剤を用いた。尚、示差熱分析により測定された発熱ピーク温度を併記した。測定装置は、セイコー電子社製「TG−DTA320型(横型炉)」である。約3mgの試料をアルミニウム製の直径5mm×高さ2.5mmの皿型容器に均一に密に充填し、昇温速度を10℃/分として、空気中、流速200ml/分で測定した。尚、測定装置における温度の較正は、インジウム及びスズを用いて行った。また、重量の較正は、室温下、分銅を用いて行い、更に、シュウ酸カルシウムを用いて行った。発熱ピーク温度は、昇温曲線におけるピークトップにより決定した。
(1)着色剤(B1)
下記の構造を有するジオキサジン系顔料(紫色)を用いた。発熱ピーク温度は402℃である。
【化22】

(2)着色剤(B2)
下記の構造を有するジケトピロロピロール系顔料(赤色)を用いた。発熱ピーク温度は550℃である。
【化23】

(3)着色剤(B3)
下記の構造を有するアルミニウムフタロシアニン顔料(緑色)を用いた。発熱ピーク温度は581℃である。
【化24】

(4)着色剤(B4)
下記の構造を有するペリノン系染料(赤色)を用いた。発熱ピーク温度はなかった。
【化25】

(5)着色剤(B5)
下記の構造を有するアンスラキノン系染料(青色)を用いた。発熱ピーク温度はなかった。
【化26】

【0120】
1−3.黒色物質(C)
三菱化学社製カーボンブラック「三菱カーボン#45」(商品名)を用いた。
【0121】
【表1】

【0122】
2.多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及びその評価
実施例1
板状成形体(X−1)の表面に、膜厚10nmのCrメッキ膜を形成し、多色発色レーザーマーキング用成形品を得た。その後、ロフィン・バーゼル社製ダイオード励起型レーザーマーカー(型式「RSM30D」)を用い、1,064nmの波長のレーザー光を、表2に記載の条件にて、1回照射してメッキ膜を除去し、同じ位置にもう一度照射した。また、532nmの波長のレーザー光を、メッキ膜が除去された別の位置に照射した。各照射部の色を観察し、その結果を表2に併記した。表2において、実施例1の「10nm」は、Crメッキ膜の厚さを意味する。以下も同様である。
【0123】
実施例2
板状成形体(X−2)の表面に、膜厚10nmのAg蒸着膜層を形成した以外は、上記実施例1と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0124】
実施例3
板状成形体(X−3)の表面に、武蔵ホルト社製[N−31(シルバーM)」の塗料を塗布し、膜厚30nmの皮膜層をスプレー塗装法により形成した以外は、上記実施例1と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0125】
比較例1
実施例1で用いた板状成形体(X−1)に代えて板状成形体(X−4)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0126】
比較例2
実施例2で用いた板状成形体(X−2)に代えて板状成形体(X−5)を用いた以外は、上記実施例2と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0127】
比較例3
実施例3で用いた板状成形体(X−3)に代えて板状成形体(X−5)を用いた以外は、上記実施例3と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0128】
比較例4
実施例1で用いた板状成形体(X−1)に代えて板状成形体(X−6)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして多色発色レーザーマーキング用成形品の製造及び評価を行った。その結果を表2に併記した。
【0129】
【表2】

【0130】
表2より、比較例4は、成形部に黒色物質を含有しない例であり、レーザー光の照射により表面蒸着部が剥がれるのみで、発色しなかった。比較例1〜3は、成形部に含有される着色剤が示差熱分析により発熱ピークを有さないため、レーザー光を照射しても、各着色剤に由来する色しか得られなかった。
一方、実施例1及び2は、膜部が金属成分からなるものであり、レーザー光の照射と同時に膜部が除去され、レーザー光の波長が1,064nmであるときに、成形部に含有される有彩色着色剤に由来する色のマーキングが、532nmであるときに、白色のマーキングが、それぞれ、鮮明に得られた。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の多色発色レーザーマーキング用成形品は、重合体等を含む成形部の表面に配された膜部を有するため、膜部がメッキ等により形成された場合には、成形品の外観は、膜部の構成材料によるメタリック調(金属光沢等)を有する。このような成形品の膜部に対してレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調(有彩色及び白色等)のマーキングを鮮明に形成することができる。従って、スイッチ類、コネクター類、ステッカー・ロゴ類、キートップ、キーボード、パイプ類、カード類等に好適である。また、プリンタ、ファクシミリ、電話機、携帯電話等のハウジング、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品、各種容器、電線等の被覆材、プリント配線板あるいはそれに搭載される電子部品等の精密部品、自動車の内装部品、看板、標識等の外装材等の成形品に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の多色発色レーザーマーキング用成形品の説明断面図である。
【図2】本発明の多色発色レーザーマーキング方法の説明図であり、〔d〕は、本発明の多色マーキング付き成形品の一例を示す説明断面図である。
【図3】本発明の多色マーキング付き成形品の他の一例を示す説明断面図である。
【図4】本発明の多色マーキング付き成形品の他の一例を示す説明断面図である。
【符号の説明】
【0133】
1;多色発色レーザーマーキング用成形品、11;成形部、12;膜部、2,2a及び2b;除去部(除去空間)、3;有彩色マーキング部、4;白色マーキング部、5;多色マーキング付き成形品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、有彩色着色剤(B)と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(C)とを含有する組成物〔X〕を含む成形部と、該成形部の表面に配され且つ有機材料及び/又は無機材料を含有する組成物〔Y〕を含む膜部とを備え、レーザー光を上記膜部の表面に照射することにより、該膜部における照射部を除去し、その後、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、該除去部を通して、上記成形部の露出面に照射することにより2以上の異なる色調にマーキングされる多色発色レーザーマーキング用成形品であって、
上記組成物〔X〕に含有される有彩色着色剤(B)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、
上記黒色物質(C)の含有量は、上記重合体(A)を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であることを特徴とする多色発色レーザーマーキング用成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の膜部の厚さが、0.1nm〜1mmの範囲にある請求項1に記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の重合体(A)が、レーザー光の受光により発泡しやすい重合体を含む請求項1又は2に記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の有彩色着色剤(B)の示差熱分析による発熱ピークが、360℃以上590℃以下の範囲である請求項1乃至3のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用成形品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用成形品について、該成形品の膜部の表面に、レーザー光を照射し、膜部における照射部を除去する工程と、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、該除去部を通して、該成形品の成形部の露出面に照射する工程とを備え、該成形部の該露出面における照射部を、請求項1乃至4のいずれかに記載の有彩色着色剤(B)に由来する色を含む2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とする多色発色レーザーマーキング方法。
【請求項6】
請求項5に記載の多色発色レーザーマーキング方法において、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を照射された多色発色レーザーマーキング用成形品の成形部の露出面について、低エネルギーのレーザー光の照射部が、請求項1乃至4のいずれかに記載の有彩色着色剤(B)に由来する色にマーキングされ、且つ、高エネルギーのレーザー光の照射部が、白色又は上記有彩色着色剤(B)に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされる多色発色レーザーマーキング方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の多色発色レーザーマーキング方法により、表面に2以上の異なる色調のマーキングが形成されていることを特徴とする多色マーキング付き成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82304(P2006−82304A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267601(P2004−267601)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】